説明

環境に優しいコーティング組成物

【課題】本発明の課題は、環境に優しい、新規な水性リン酸結合用溶液およびコーティング組成物を提供することにある。
【解決手段】2〜4.5の範囲のpHを有し、かつマグネシウムイオン供給源および亜鉛イオンおよびホウ酸イオンの供給源を含有する、水性リン酸結合用溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム酸塩およびモリブデン酸塩などの発癌性または毒性の金属を含有していないか、または少なくとも実質的に含有していない、鉄金属合金表面用の結合用溶液およびコーティング組成物により金属基体に腐食防止性を付与するための組成物および方法に関し、ならびに当該結合用溶液およびアルミニウムまたは同様の顔料を含有するコーティング組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄表面などの金属表面を腐食から防護するために使用するものとして、リン酸およびアルミニウム金属からなる組成物が周知である。このようなコーティング組成物では、薄片および(または)粉末などの粒状金属アルミニウムをリン酸結合用溶液と組み合わせてコーティング組成物を形成し、この組成物を次いで被処理金属表面に施用する。当該コーティングを基体に施用した後に、この基体を一般に500゜F(260℃)までの第一の温度に加熱し、当該コーティングを実質的に水不溶性にする。次いで、この被覆した表面は、一般に1000゜F(538℃)以上の第二の温度で硬化させて、最終的な保護コーティングを形成することができる。
【0003】
この被覆プロセスにおいて生起する問題点は、粒状アルミニウムをリン酸塩結合用溶液と組み合わせると、この酸性結合用溶液がアルミニウムと反応し得ることにある。この反応は非常に激しく、アルミニウム粉末を燃焼させるか、または爆発さえさせることができ、あるいはまたあまり激しくない場合でも、単純に金属アルミニウムの各種塩への変換が生じる。どちらの場合も、このような反応は適当な防護コーティングの生成を干渉する。
【0004】
1966年4月26日付けで発行されたアレン(Allen)による米国特許第3,248,251号には、溶解した金属クロム酸塩、ジクロム酸塩またはモリブデン酸塩およびリン酸塩を含有する水性酸性結合用溶液中の固形無機粒状材料(例えばアルミニウム)のスラリーから実質的になるコーティング組成物が記載されている。酸性結合用溶液にクロム酸塩またはモリブデン酸塩を添加すると、この溶液がアルミニウムに対して効果的に不動態化され、金属アルミニウムの酸化が抑制され、これにより当該酸性溶液とアルミニウムとの間の望ましくない化学反応を伴うことなく、粒状アルミニウムと結合用溶液とを組み合わせることができることが見出されている。これらの「アレン」コーティングを使用することによって、鉄金属合金表面を酸化および腐食から、特に高温における酸化および腐食から、防護する高品質のコーティングが成功裏に提供され、現在でも提供されている。
【0005】
しかしながら、クロム酸塩およびモリブデン酸塩を使用することによって、このようなコーティング組成物中のアルミニウムの反応性は効果的に減少されるが、クロム酸塩およびモリブデン酸塩の使用は、環境問題の観点から問題を提供する。クロム酸塩およびモリブデン酸塩は一般に、毒性物質であると考えられている。六価クロムは発癌性であると評価されている。モリブデンは有毒重金属として分類されている。従って、これらの塩の溶液の使用は回避することが望ましく、あるいはまた少なくともそれらの使用を減少させることが望ましい。この理由から、酸性リン酸塩結合用溶液とそこに添加された粒状アルミニウムとの間の反応性を制御するために、少量のクロム酸塩およびモリブデン酸塩を必要とするか、あるいはクロム酸塩およびモリブデン酸塩を必要としない、リン酸塩/アルミニウムコーティング組成物の開発が望まれている。当該コーティング組成物は、特に高温において、いわゆるアレン型コーティングとほぼ同様に、好ましくはより良好に、酸化性および腐食性の環境条件から鉄金属合金表面を防護すべきである。
【0006】
最近の研究は、クロム酸塩およびモリブデン酸塩が付随する環境問題を克服するためになされている。1993年9月7日付けで発行されたステットソン(Stetson)等の米国特許第5,242,488号には、結合用溶液と粉末状アルミニウムとの反応を制御するために、クロム酸塩またはモリブデン酸塩のどちらかを必要としない鉄合金用のコーティング組成物が開示されている。この組成物は基本的に、結合用溶液およびアルミニウム粉末からなるスラリー混合物からなる。この結合用溶液は実質的に、水、リン酸(H3PO4)、および当該結合用溶液をアルミニウムに対して実質的に平衡にするのに充分な量のアルミニウムからなる。このステットソン特許のコーティング組成物の結合用溶液成分は、アルミニウムに対して実質的に平衡にするのに充分な量のアルミニウムを溶液中に含有させる、すなわち溶液中のアルミニウムの量を実質的に飽和点にすることを必要としており、従って引き続くアルミニウムの添加に対して実質的に不活性化されていることを必要としている。
【0007】
ステットソン特許には、水性リン酸混合物をアルミニウムにより平衡にする前に、または平衡にした後に、当該混合物を少なくとも部分的に中和させるために、基本成分ではないが、マグネシウムを好ましく使用できることが教示されている。このマグネシウム化合物は、MgOまたはMgCO3のどちらかである。この特許に示されている例ではいずれも、マグネシウムイオンが利用されている。
1994年1月18日付けで発行されたステットソン等に対するさらに最近の特許である米国特許第5,279,649号には、バナデートイオンを生成させるためにV25が添加されている以外は実質的に同一組成物であるが、当該アルミニウム平衡混合物にもう一種の抑制剤が添加されている組成物が記載されている。
【0008】
さらにまた、1994年1月18日付けでまた発行された米国特許第5,279,650号において、ステットソン等は、鉄酸化物(Fe23)粉末をまた含有する上記´649特許に記載のコーティングのシールコーティング組成物を開示している。これら3種のコーティング組成物はいずれも、クロムイオンおよびモリブデンイオンの使用を回避することを目的としており、結合用溶液をこれらの特許に記載のアルミニウムの追加添加に対して平衡化させることを要件としている。V25の添加は、OSHAの格別に有害な物質のリストに挙げられている毒性物質の添加を意味する。
【0009】
ステットソンは、この組成物が結合用溶液とアルミニウムとの間の反応性を制御すると説明しているが、この発明に関連する研究中に、ステットソンのスラリー組成物を調合した場合に、若干の反応が結合用溶液と粉末状アルミニウムとの間で依然として生起することが発見された。
従って、クロムおよびモリブデンを含有していないか、あるいはクロムおよびモリブデンの含有量が減少されており、2成分を組み合わせてコーティング組成物を形成した場合に、粒状アルミニウムとの反応が減少されており、かつまた毒性添加物を含有していない結合用溶液が望まれている。本発明はこの目的に寄与する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、クロム酸塩およびモリブデン酸塩などの発癌性または毒性の金属を含有している、鉄金属合金表面用結合用溶液およびコーティング組成物に付随する上記問題を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明により、結合用溶液およびアルミニウムなどの粒状金属粒子を含有する鉄合金コーティング組成物の形成に使用するための改良された結合用溶液が提供される。
本発明はまた、本発明による結合用溶液およびアルミニウムなどの粒状金属粒子を含有するコーティング組成物に関する。この粒状アルミニウムはいずれか適当な形態であることができ、粉末または薄片、あるいはまた粉末と薄片との組み合わせが包含される。
本発明はまた、本発明によるコーティング組成物を施用し、次いでこの被覆した合金基体を加熱することによって、当該コーティング組成物を硬化させ、腐食防止性表面を形成する、合金基体の防護方法を提供する。
本発明はまた、本発明の硬化したコーティング組成物により被覆した被覆金属部品を提供することにある。
【0012】
本発明の結合用溶液は、当該結合用溶液と引き続いて組み合わせてコーティング組成物を形成する粒状アルミニウムに対する当該結合用溶液の反応性を減少させるための、クロムおよび(または)モリブデン以外の少なくとも1種のアニオンおよび少なくとも1種のカチオンの組み合わせおよびリン酸の水性溶液からなる。好ましくは、これらのイオンは亜鉛およびホウ酸イオンである。本発明の結合用溶液は、場合により溶液中にアルミニウムを含有することができる。この溶液中のアルミニウムの量は、飽和点に到達するのに要する量よりも少ない量である。すなわち、当該結合用溶液を添加されたアルミニウムに対して平衡にするのに要する量よりも少ない量である。換言すれば、このアルミニウムの量は、粉末状アルミニウムを引き続いて結合用溶液に混合して、コーティングスラリーを生成させた場合に、結合用溶液が実質的に不活性化されているように、結合用溶液を平衡にするのに必要な量として、ステットソンが教示している量よりも少ない量である。本発明の結合用溶液は、従来技術におけるように、平衡状態または飽和状態ではないにもかかわらず、本発明の結合用溶液は安定である、すなわち粒状アルミニウムに対して非反応性である。
【0013】
本発明の結合用組成物およびコーティング組成物は好ましくは、クロム、特に六価クロムおよびモリブデン酸塩ならびにニッケルまたはバナジウムなどの他の有毒金属を含有していないか、または実質的に含有していない。これらの組成物が1種または2種以上のこのような金属を含有している場合に、これらの金属は前記アレンの特許に記載されているような従来技術で存在させている量よりも少ない量で存在させることができる。本発明の組成物は、このような問題の多い金属を含有していないか、または実質的に含有していないにもかかわらず、コーティングの施用に適する期間、特に1時間以上の期間、好ましくは4時間以上あるいは8時間以上にわたり安定である。別様には、数日間安定であり、かつまた数週間にわたり液体形態を保有する。このコーティングは非常に満足すべきものであって、特に高温において、酸化および腐食に対する耐性の観点でアレンのコーティングの水準に一般に到達する。本発明のコーティングは、タービンコンプレッサー翼、ブレード類、羽類、ステイターなどに特に良好に適している。
【0014】
本発明の結合用溶液の1種または2種以上の各構成成分は、水中で、またはリン酸水溶液中で、低い溶解度または減少された溶解度を有することがあり、あるいはまた不混和性であることがあるが、本発明の結合用溶液は理想的には、全体的に水溶液であるべきである。しかしながら、若干の低溶解性または不混和性の成分をエマルジョンまたはその他の非溶液形態で存在させることもできる。従って、本発明に係わり、「水性結合用溶液」または「結合用溶液」の用語は、その成分の1種または2種以上が充分に溶解されていないこともあるが、乳化または分散されていることもある組成物あるいはまたその他の形態の組成物を包含するものとして使用されている。この定義は、本明細書に記載されている成分(1種または2種以上)および記載されていないその他の成分に適用されるものとする。
【0015】
最良の結合結果を得るためには、結合用溶液は約2.0〜約4.5、好ましくは約2.5〜約3.0、さらに好ましくは約2.7〜3.0の範囲のpHを有していなければならない。所望のpHを得るためには、追加量の酸または塩基を組成物に添加することができる。酸の添加によりpHを低下させる場合には、水溶性リン酸またはリン酸塩、例えばリン酸二水素マグネシウムなどを使用することができる。
本発明のコーティング組成物は結合用溶液および固形の粒状金属物質、一般にアルミニウム粉末からなる。アルミニウムの代わりに、またはアルミニウムに加えて、前記アレンの特許、およびアルミニウムまたはその他の金属粒子を記載している、以下で引用する特許に記載されているような別の金属粒子を使用することができる。これらの特許の記載は参照により本明細書中に組み入れる。
【0016】
本発明のコーティング組成物は溶液中に追加の金属を含有することができ、例えばもう一種のまたは追加のホウ酸および(または)亜鉛供給源であることができる顔料、例えばリン酸モリブデン酸亜鉛、リン酸亜鉛アルミニウム、リン酸亜鉛およびその他の部分的に可溶性(漏出性)の化合物、すなわち腐食抑制剤と称される化合物などを含有することができる。本発明のコーティング組成物は、コーティング業界で慣用のいずれかその他の成分を含有することができる。被覆された鉄製部品は、アレンおよびステットソンの特許に示されているものと同等の、またはより良好な非常に満足な性質を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明により、結合用溶液およびアルミニウムなどの粒状金属粒子を含有するコーティング組成物の製造に使用するための改善された結合用溶液が提供される。
この結合用溶液は、リン酸、1種または2種以上のマグネシウムイオン供給源および亜鉛イオン供給源およびまたホウ酸イオン供給源を含有する水性溶液である。もう1種のリン酸水性結合用溶液は、リン酸溶液に溶解されている1種または2種以上のマグネシウムイオン供給源およびアルミニウムイオン供給源を含有する。もう1種の結合用溶液は、マグネシウムイオン供給源に加えて、アルミニウムイオン供給源ならびに亜鉛イオン供給源およびホウ酸イオン供給源のどちらか一方または両方を含有する。
この結合用溶液のpHは、2〜4.5の範囲に調整すると好ましい。
【0018】
溶液中のアルミニウムイオンの量は、コーティング組成物のスラリーの形成に際して添加される、アルミニウムなどの金属粒子に対して、当該結合用溶液を実質的に平衡にするのに要するよりも不充分な量である。従って、結合用溶液中に溶解しているアルミニウムイオンの量は、容器内の未溶解アルミニウムを形成している量よりも少ない。このような未反応のまたは沈殿したアルミニウムまたはアルミニウム化合物は、アルミニウムイオンとリン酸との反応が完了にまで進行し、平衡に達成していることを示唆している。前記したように、アルミニウムイオンが本発明の結合用溶液中に存在する場合に、この量は、結合用溶液をアルミニウム粒子に対して中和するのには不充分な量である。
【0019】
本発明の結合用溶液は安定である、すなわち引き続いて添加されるアルミニウム粒子に対して無反応性または実質的に無反応性(不活性)である。以下に示す反応性に係わる試験に従った場合に、本発明のコーティング組成物は、当該結合用溶液にアルミニウム粒子を混合した場合に、少なくとも1時間までの期間、好ましくは4時間までの期間、さらに好ましくは8時間までの期間、理想的には8時間以上の期間にわたり、目に見える反応を示さないか、または実質的に示さない。
結合用溶液中のマグネシウムイオンは、リン酸中に溶解して金属イオンを生成し、水および(または)気体を発生するいずれか慣用の供給源、例えば炭酸マグネシウム、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムなどの形態の供給源から供給することができる。このマグネシウムとしては、マグネシウムを添加することもできる。酸化マグネシウムおよび(または)炭酸マグネシウムを添加することが好ましい。単独でまたは他の成分と組み合わせて添加されるマグネシウムの量は、他の化合物、例えば亜鉛および(または)ホウ酸塩を添加してもpHが2〜4.5の範囲内にあるように、pHを2〜4.5の所望の範囲内、あるいは幾分下または上にするのに充分な量である。
【0020】
適当なマグネシウムイオン供給源として働くことができる、その他の適当なマグネシウム化合物は、Handbook of Chemistry and Physics(以下「ハンドブック」と記す)、62版、CRC Press,Inc.、Boca Raton,Florida,Weast and Astle編集のChapter on Physical Constantsof Inorganic Compoundsに挙げられており、この記載を参照により本明細書に組み入れる。
結合用溶液中の亜鉛イオンはまた同様に、いずれか慣用の供給源、例えば金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸亜鉛、モリブデン酸/リン酸亜鉛などの形態を用いて供給することができる。適当な形態は、炭酸亜鉛またはリン酸亜鉛などの塩の形態である。同様に、オルトリン酸亜鉛を使用することもできる。その他の適当な亜鉛化合物は前記ハンドブックに挙げられている。
【0021】
結合用溶液中のホウ酸イオンは、いずれか可溶性のホウ酸塩の形態のいずれか慣用の供給源を用いて供給することができる。好適な形態は、ホウ酸および(または)ホウ酸亜鉛としてホウ酸イオン供給する態様である。その他の適当な亜鉛化合物は前記ハンドブックに挙げられている。
ホウ酸イオン、亜鉛イオンおよびマグネシウムイオンは、リン酸中に可溶性の形態で供給することが好ましい。
結合用溶液に供給される亜鉛イオンおよび(または)ホウ酸イオンの量は、2〜4.5の特定のpH範囲を維持するような量またはこのようなpHをもたらすような量であるべきである。
結合用溶液の固形成分の混合または添加の順序に制限はない。しかしながら、マグネシウムイオン供給源を先ず添加し、次いで亜鉛イオンおよび(または)ホウ酸イオン供給源のどちらか、あるいはアルミニウムイオン供給源を添加することが好ましい。
【0022】
本発明に従い、本発明のコーティングスラリー組成物は、上記結合用溶液を金属粒子、好ましくは粉末形態のアルミニウム粒子と混合することによって形成される。結合用溶液が添加されるアルミニウムとの追加反応に対して実質的に不活性であることは格別のことである。本発明のコーティング組成物においては、少なくとも1時間、最良の組成物では8時間の長期間にわたり、添加されたアルミニウムとリン酸との間に目に見える反応は見られない。
本発明の結合用溶液は、粒状アルミニウムと組み合わせて、鉄金属合金基体用のコーティング組成物を形成するのに特に有用である。このようなコーティング組成物に使用するのに適する粒状アルミニウムは周知であり、特許刊行物に充分に記載されている。例えば、このような粒状アルミニウムは、モザー(Mosser)による米国特許第4,537,632号、モザー等による米国特許第4,544,408号、モザー等による米国特許第4,548,646号、モザー等による米国特許第4,617,056号、モザー等による米国特許第4,659,613号、モザー等による米国特許第4,863,516号(この特許は特に、微細アルミニウム粒子と組み合わされている非超薄型(non−leafing)アルミニウム薄片の使用に関するものである)、モザー等による米国特許第4,889,558号およびモザー等による米国特許第5,116,672号に記載されており、これらの記載の全部を引用してここに組み入れる。
【0023】
アルミニウム粒子を利用するクロム酸塩/リン酸塩ベースの組成物の大部分は、種々の大きさの微細なおよび(または)薄片状の粒子を使用して、相違する性質を有するコーティングを得ている。本発明の結合組成物およびコーティング組成物に関してもまた、これらが適当であることは勿論のことである。
本発明の組成物にアルミニウムが使用される場合に、このアルミニウムは2.5〜10μmESDの平均サイズの気体微細化した球形、4.5〜10μmESDの平均サイズの空気微細化した球形、薄片状アルミニウム、薄片状/微細形態混合物、およびアルミニウム合金であることができる。さらに大きい粒子およびさらに小さい粒子も使用することができる。
【0024】
本発明のコーティング組成物はまた、1種または2種以上の漏出性腐食抑制剤を含有することができる。このような漏出性腐食抑制剤は、モザー等による米国特許第5,116,672号に詳細に記載されており、参照により本明細書に組み入れる。漏出性顔料は、金属基体の腐食を抑制または防止できるものである。この漏出性顔料は好ましくは、環境的に許容される金属を含有する塩、例えばモリブデン酸塩、リン酸塩またはメタホウ酸塩、ならびにその組み合わせ、およびまた“Inorganic Primer Pigments”と題するスミス(Smith)による刊行物,Federation Series on Coatings Technologyにより挙げられており、この記載を参照により本明細書に組み入れる。本発明のコーティング組成物に使用するのに好適な漏出性腐食抑制剤は、モリブデン酸/リン酸亜鉛、リン酸亜鉛およびホウ酸亜鉛、カルシウム、バリウムおよびリン酸亜鉛アルミニウムである。
【0025】
本発明のコーティング組成物の目的に関連して、環境問題から、本組成物は漏出性顔料としてクロム酸塩の使用を避けることが好ましい。しかしながら、このようなクロム酸塩も、その使用が許容できる用途では、漏出性顔料として使用することができる。
本発明の組成物がその他の適応性の公知成分、例えば界面活性剤、湿潤剤および他の慣用の添加剤を含有できることは勿論のことである。
本発明のスラリーコーティング組成物は、慣用の方法により被覆する鉄金属合金表面に施用される。施用態様は前記引用特許に記載されており、この記載を参照により本明細書に組み入れる。一般に被覆する部分を脱脂し、研磨し、荒削りし、研磨剤を吹付け、本発明のコーティングをいずれか適当な手段、例えば噴霧、ブラシ塗布、浸漬、浸漬スピニングなどにより施用し、このコーティングの色が帯灰色に変わるまで乾燥させ、このコーティングを約650゜F(343℃)の温度で15分間またはそれ以上の時間硬化させ、所望によりより高い温度またはより低い温度で硬化させると望ましい。このスラリーは好ましくは、それぞれが約0.00125インチ(0.032μm)の厚さの2枚のコーティングとして施用し、所望により次いで、各コーティング間で約180゜F(82℃)で15〜30分間乾燥させ、次いで30〜60分間、650゜F(340℃)において硬化させる。
【0026】
650゜F(343℃)において硬化させたコーティングは、導電性ではなく、従ってその下の基体材料に電気防食性を付与することはできない。しかしながら、このコーティングは、低圧においてガラスビーズ、研磨メジウムを用いてビーズ ピーニング(bead peening)または研磨することにより、あるいは電気防食性コーティングを生成させるための別の方法で機械的に冷間加工することによって、あるいはMIL−C−81751B明細書(参照により本明細書に組み入れる)に詳述されているような加熱により、導電性にすることができる。この方法で、このコーティングは、機械的処理または熱処理によって導電性にすることができ、これによってその下の鉄合金基体の電食に対する防護性および障壁防護性を生じさせることができる。所望により、第二のコーティングを施し、乾燥させ、硬化させ、次いで導電性にする処理を行った後に、このコーティングの表面を結合用溶液により封鎖して、当該コーティングにより付与される酸化および腐食に対する防護性をさらに増加させ、かつまた使用中におけるコーティング中のアルミニウムの消耗速度を減少させることができる。この結合用溶液は本発明の結合用溶液である必要はない。このシールコーティングは、前記スラリーコーティングと同一の時間および温度で、乾燥させ、硬化させる。
【0027】
前記したように、本発明の重要な目的はクロム酸塩、モリブデン酸塩およびその他の同様の毒性のまたは望ましくない金属を実質的に含有していない結合用組成物およびコーティング組成物を提供することにある。さらに規制が寛容な環境条件がクロム、モリブデン、ニッケルおよびその他の金属の使用を許容する状況では、結合用組成物および(または)コーティング組成物における、このような金属の使用は排除されるものではない。このような金属がクロムおよび(または)モリブデンである場合に、このクロムおよび(または)モリブデンの量は、金属アルミニウムとの反応に対して、リン酸溶液を不動態化または中和するのに必要な量よりも少ない量である。従来技術で教示されている、結合用溶液の不動態化に必要な量は一般に、最終コーティング組成物の少なくとも0.2重量%である。しかしながら、本明細書に記載されているように、さらに好ましいものとして、本発明の組成物はクロム酸イオンおよび(または)モリブデン酸イオンを実質的に含有していないか、またはほとんどあるいは全体的に含有していない組成物である。
【実施例】
【0028】
以下の例は、本発明を単に説明するものである。これらの例は制限しようとする意図を有するものではない。
例1
結合用溶液
下記の基本組成から出発して、被験結合用溶液を調製した:
脱イオン水 2300g
リン酸、85% 1326g
酸化マグネシウム 150g
炭酸マグネシウム 155g
水酸化アルミニウム 75g
この結合用溶液のpHは2.0であった。上記基本組成に、追加の成分を添加して被験溶液を調製した。各被験溶液を、アルミニウム粉末と組み合わせた場合における安定性に係わり試験した。
上記基本溶液100mlを、下記表Iに示されている化合物中に混合し、次いで5μmアルミニウム粉末80グラムと混合し、次いで反応させた。反応が目に見えるまでの時間(時間単位)を測定した。この試験の結果を表Iに示す。
【0029】
【表1】

【0030】
例2
下記の組成に従い、結合用組成物「A」を調製した:
脱イオン水 800g
リン酸、85% 388g
酸化亜鉛 17.5g
リン酸第二鉄 10.3g
炭酸マグネシウム 120g
ホウ酸 31g
下記の成分を混合することによって、アルミニウムコーティング組成物を得た:
結合用組成物「A」 200ml
脱イオン水 50ml
リン酸亜鉛アルミニウム 8g
(Heucophos ZPA)
アルミニウム粉末、空気微細化物、 120g
平均粒子サイズ:4.5μm
【0031】
この組成物を5分間混和し、次いで325メッシュのふるいにとおして分別した。このコーティングを、それぞれ650゜Fで硬化させた2枚のコーティングとして、AISI410ステンレス鋼パネルに施用した。この被覆したパネルを表IIに記載のとおりに試験し、アレンの′251の例7により被覆したパネルと比較し、均等な性能を有することが証明された。アレンの′251の例7は、MIL−C−81751B Type1,Class4の要件に適合するものである。この組成物は、24時間の期間にわたり、結合用溶液の顔料との反応性の徴候を示さなかった。この結合用組成物「A」は溶解したアルミニウムイオンを含有していない。
【0032】
例3
下記の成分を記述順序で混合することによって、相違する結合用組成物「B」を調製した:
脱イオン水 759g
リン酸、85% 398g
酸化マグネシウム 50g
炭酸マグネシウム 51.6g
水酸化アルミニウム 乾燥ゲル 25g
生成する溶液のpHは2.9であった。
この組成物がアルミニウムイオンおよびイオン源に対して「平衡化」されていないことを証明するために、このバッチを半分に分け、水酸化アルミニウム5gをさらに添加した(水酸化アルミニウムとして40%の増加)。この追加の水酸化アルミニウムは容易に溶解し、3.2のpHを有する溶液を生成させた。結合用溶液「B」はアルミニウムに対して平衡にされていないが、この結合用溶液50mlにアルミニウム粉末40gを添加した場合にも、3時間の安定が得られた。
【0033】
例4
下記の組成に従い、結合用溶液「C」を調製した:
脱イオン水 830ml
リン酸、85% 287g
炭酸マグネシウム 100g
水酸化アルミニウム 乾燥ゲル 16g
リン酸第二鉄 8g
ホウ酸 31g
この組成物のpHは2.75であった。この組成物は溶解しているイオンのいずれに対しても平衡化されていなかった。
【0034】
下記のとおりに、コーティング組成物と混合した:
結合用組成物「C」 100ml
メゾン(Mazon)RI325 1ml
界面活性剤/腐食抑制剤
サーフィノール(Surfynol) 0.1ml
104界面活性剤
薄片状アルミニウム粉末、レイノルド 4.5g
(Reynolds)4−301
リン酸亜鉛、ヒューコホス 4g
(Heucophos)ZPA
アルミニウム粉末、空気微細化、 66.5g
平均粒子サイズ:4.5μm
【0035】
混合した後に、このコーティングは、8時間にわたり結合剤/顔料相互反応の徴候を示さなかった。このコーティングを、410ステンレス鋼パネルに施用し、650゜Fで硬化させた。このパネルに、「X」文字を刻み入れ、500時間にわたり、ASTM B117により5%塩スプレイ中に置いた。試験後に、この基体は表面または刻み文字部分のどちらにも、腐食の徴候を示さなかった。この組成物は、同一組成物に薄片状および粒子状のアルミニウムを使用する例である。
【0036】
例5
結合用組成物「B」100mlに、ホウ酸3gを添加した。生成する溶液は、3.0のpHを有していた。この溶液に、脱イオン水25ml、リン酸亜鉛アルミニウム4gおよびアルミニウム金属粉末60gを添加した場合に、8時間にわたり安定である組成物が得られた。この組成物からなる2枚のコーティングを被覆した410ステンレス鋼パネルを、表IIに記載の500時間塩噴霧試験で試験した。基体金属の腐食攻撃の徴候は見られなかった。
【0037】
例6
例1のコーティング組成物を調製したが、空気微細化アルミニウムの代わりに、不活性気体微細化球形アルミニウム粉末を使用した。被覆したパネルを表IIに記載の屈曲および腐食酸化試験で試験した。屈曲試験試料において、コーティングの損失は見出されなかった。腐食酸化試験における重量変化は、1mg/cm2よりも少なかった。この例は、空気微細化したアルミニウムの代わりに球形アルミニウム粉末を使用して、有用な組成物が得られることを示している。
【0038】
例7
発癌性で有毒な重金属を含有しておらず、あるいは別段の有毒成分を含有していないコーティング組成物を調製した。下記にその組成を示す:
結合用溶液
脱イオン水 830g
リン酸 244g
水酸化アルミニウム 乾燥ゲル 16g
リン酸第二鉄 8g
炭酸亜鉛 6g
炭酸マグネシウム 100g
ホウ酸 31g
【0039】
コーティング組成物
結合用溶液 100ml
メゾン(Mazon)RI325 1ml
アミンホウ酸塩腐食抑制剤
サーフィノール(Surfynol) 2Dr
104界面活性剤
薄片状アルミニウム粉末、レイノルド 2.5g
(Reynolds)4−301
リン酸亜鉛、腐食抑制性顔料、ナルジン 2g
(Nalzin)2
アルミニウム粉末、レイノルド1−201 66.5g
(空気微細化したアルミニウム粉末、
平均粒子サイズ:4.5μm)
【0040】
このコーティングを、それぞれ別個に硬化させた〔343℃(650゜F)〕2枚のコーティングとして、代表的403ステンレス鋼パネルに施用した。410ステンレス鋼パネルをまた、アレンの′251に従い製造されたクロム含有セルメテル(SermeTel)W、アルミニウム充填セラミックコーティングにより被覆した。これらの両方のコーティングをアルミナグリットにより研磨して、電気防食性コーティングを得た。実施された試験のリストおよびCr無含有コーティングおよびアレンの′251の例7によるそれらの結果を表IIに示す。
【0041】
【表2】

【0042】
例8(比較)
例1で使用した基本組成と比較する目的で、本発明に従うものではない、下記の組成物を用いて製造した:
脱イオン水 2300g
リン酸、85% 1018g
炭酸マグネシウム 354g
水酸化アルミニウム 74g
この組成物に対して、例1に記載の安定性試験を行い、0.5時間の反応までの時間が測定された。この例はステットソンの′488の組成物の好適範囲内に入る。この組成物は、低い安定性を有する。
【0043】
例9
コーティング組成物
下記の結合用溶液を製造し、次いでアルミニウム粉末を下記の割合で添加して、試料組成物を調製した:
結合用溶液
脱イオン水 850g
リン酸、85% 278g
炭酸マグネシウム 100g
水酸化アルミニウム 10g
炭酸亜鉛 9g
ホウ酸 20g
コーティング組成物
結合用溶液 150ml
アルミニウム粉末 80g
モリブデン酸/リン酸亜鉛 4g
界面活性剤(ソルビタンモノステアレート) 0.25ml
【0044】
被覆した軟鋼被験パネルを調製し、塩スプレイ中に置いた。漏出性腐食抑制剤(モリブデン酸/リン酸亜鉛)を含有していない以外は同一の組成物と比較した場合に、その表面の電気腐食の量は減少していた。
さらにまた、無超薄型の薄片状アルミニウム4gを添加した以外は同一の組成物を使用して、もう一つの試験を行った。この組成物は薄片状アルミニウムを含有していない組成物に比較して、改善された腐食耐性を示した。粒状アルミニウムと組み合わせて薄片状アルミニウムを使用することは、前記モザー等による米国特許第4,863,516号に記載されている。
【0045】
本発明のコーティング組成物は鋳鉄、軟鋼、低合金鋼、300系ステンレス鋼、ニッケルベース合金およびチタン合金を包含する鉄金属合金表面のいずれにも施用することができる。本発明のコーティング組成物はタービン コンプレッサー翼用に、例えばブレード、羽類、固定子、およびその他の部品用に特にデザインされている。このような部品は通常、下記の合金から製造されている:410ステンレス鋼(AMS5504);403ステンレス鋼;AM355(15.5Cr、4.5Ni、2.9Mo、0.85Mn、0.12C、0.09N、残部Fe);AM350(16.5Cr、4.5Ni、2.9Mo、0.85Mn、0.10C、0.10N、残部Fe);430ステンレス鋼(17.0%Cr);および17〜4pH(16.1〜16.5Cr、4.0〜4.1Ni、0.28〜0.3Ta/Cb、3.1〜4.0Cu、残部Fe)。
【0046】
本発明はまた、本発明のコーティング組成物により被覆されている部品を包含する。
本発明の本質を説明するために、本明細書に記載され、例示されている部品の詳細、材料および構造に係わる種々の変更は、前記特許請求の範囲に示されている本発明の原則および範囲内で当業者のなしうることであるものと理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜4.5の範囲のpHを有し、かつマグネシウムイオン供給源および亜鉛イオンおよびホウ酸イオンの供給源を含有する、水性リン酸結合用溶液。
【請求項2】
アルミニウムイオン、クロム酸塩、モリブデン酸塩及びバナジウムイオンを実質的に含有しない請求項1に記載の水性リン酸結合用溶液。
【請求項3】
請求項1に記載の結合用溶液およびアルミニウム粒子を含有し、アルミニウムとの反応に対して少なくとも1時間、室温で安定である、鉄金属合金表面用コーティング組成物。

【公開番号】特開2006−176887(P2006−176887A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71955(P2006−71955)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【分割の表示】特願平7−339339の分割
【原出願日】平成7年12月26日(1995.12.26)
【出願人】(596004347)サーマテック インターナショナル,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】