説明

環境に関連した呼吸器疾患の自己監視方法およびシステム

呼吸器健康の継続的自己監視において使用される方法およびシステム、およびそれらとともに使用されるコンポーネント。本方法およびシステムおよびそれに関連するコンポーネントは、環境的データ、生理学的データ、および患者の背景データを得る継続的かつ控えめな監視を提供することによって呼吸器健康自己監視における治療の水準を向上させ、呼吸器健康保持反応を大量に生じることができる。いくつかの実施形態では、本方法およびシステムは、いたるところで利用可能な装置(例えば、携帯電話およびパーソナルデータアシスタント(PDA))を呼吸器健康状態自己監視に活用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬が使用される状況外での呼吸器の健康状態を監視することに関し、より詳細には、喘息および鼻炎などの環境に関連した呼吸器疾患の自己監視方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
喘息は、呼吸が抑えられる慢性的な病気である。喘息は人間の健康を著しく害し得、もっともひどい場合、命を脅かし得る。喘息患者はしばしば、塵、温度、および湿度などの環境状況が引き金となって、薬が使用される状況外で発作を起こす。自己監視システムは、病気を管理し、発作を防ぎ、発作の深刻な害を防ぐために、呼吸器の健康を監視する際に、喘息患者をアシストするために開発されてきた。
【0003】
現在の医療水準を反映する、喘息患者のための自己監視システムは、一般的健康自己監視プログラムを有するピークフローメータである。このシステムでは、患者がピークフローメータに息を吹き込み、上記メータは呼気流量などのデータを出力する。そして患者は、メータからコンピュータに上記データを手動で入力するか、または、上記データはコンピュータに自動的にアップロードされる。コンピュータ上で展開する一般的な呼吸器健康状態自己監視プログラムは、データを入力(apply)し、データを用いて患者に個々の呼吸器健康レベルを出力する。例えば、上記プログラムは、なんらかの措置を必要としないことを示す緑色、投薬が必要であることを示す黄色、そして患者がすぐに病院を訪れる必要がある場合を赤として、これらのうちの1つを出力する。
【0004】
残念なことに、上記の自己管理システムは、様々な側面から不十分である。第1に、上記システムは極めて散発的である。患者は、ピークフローメータに息を吹き込み、データが出力されてはじめて健康レベルを知るのだが、それは1日にほんの数回だけである。第2に、上記システムは患者に無理強いをするものである。患者はメータを自分の口に当て、データを生成するためにそこに息を吹き込まなくてはならない。さらに、いくつかの場合、患者はコンピュータにデータを手で入力しなければならず、時間がかかり、コンピュータのアクセスも必要となる。第3に、上記システムは、呼吸器健康状態の判断を、限られたデータに基づいて行わせる。ピークフローメータによって与えられるデータは、肺機能の総括的な評価を与えるものではなく、発作を引き起こす環境的状況についての情報を与えるものでもない。さらに、一般的な健康自己監視プログラムは、行動パターン、同時罹患率、薬剤、年齢、身長、体重、性別、人種、および遺伝的背景等、健康判定に関係し得る患者の背景データを考慮しない。結局、上記システムによって生み出される個別の出力レベルは、十分に詳細な情報を与えることができない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、基本的特徴において、呼吸器健康状態の自己監視方法およびシステムと、それらとともに使用するコンポーネントを与える。本方法とシステムおよびこれらの関係するコンポーネントは、環境的、生理学的、患者の背景的な情報を説明する一定かつ控えめな監視を実現することによって呼吸器健康状態自己監視における治療の水準を向上し、複雑で大量の呼吸器健康状態保持反応を生じることができる。いくつかの実施形態では、本方法およびシステムは、いたるところで利用可能な電気装置(例えば、携帯電話、パーソナルデータアシスタント(PDS))を呼吸器健康状態自己監視に活用する。
【0006】
本発明の一側面では、呼吸器健康状態自己監視方法は、患者から集めた生理学的データを受信する工程と、環境的データを受信する工程と、少なくとも部分的に上記生理学的データおよび上記環境的データに基づいて、上記患者についての呼吸器健康状態データを生成する工程とを有する。
【0007】
いくつかの実施形態では、上記生理学的データおよび上記環境的データは、一定の間隔で携帯電子装置にて受信されるデータを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、上記生理学的データは、携帯電子装置にて間欠的に受信されるデータをさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、行動パターン、同時罹患率データ、薬剤データ、年齢データ、身長データ、体重データ、性別データ、人種データ、および/または遺伝的背景データなどの上記呼吸器健康状態データは、少なくとも部分的に、静的に設定される患者の背景データに基づいてさらに生成される。
【0010】
いくつかの実施形態では、上記呼吸器健康状態データは、現在の生理学的データおよび環境的データを用いて生成される現在の健康データを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、上記呼吸器健康状態データは、履歴生理学的データおよび環境的データを用いて生成される健康傾向データを含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、上記呼吸器健康状態データは、履歴生理学的データおよび環境的データを用いて生成される健康相互相関データを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、上記方法は、携帯電子装置のユーザインターフェイスの呼吸器健康状態データを出力する工程をさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、上記呼吸器健康状態データに応じて呼吸器健康警告を出力する工程をさらに有する。いくつかの実施形態では、上記警告は、携帯電子装置のユーザインターフェイスにおいて出力される。いくつかの実施形態では、上記警告は、臨床医のコンピュータおよび/または家族のコンピュータにおいて出力される。
【0015】
いくつかの実施形態では、空調の起動または非起動、ヒーティング、換気システムの加湿など、上記呼吸器健康状態データに応じて環境制御システムを制御する工程をさらに有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、上記呼吸器健康状態データに応じて上記患者についての予測的モデルを生成する工程をさらに有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、上記生理学的データは、肺音データ、血中酸素飽和(SpO2)データ、および/または脈拍比データを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、上記環境的データは、浮遊微小粒子データ、温度データ、および/または相対湿度データを含む。
【0019】
本発明の他の側面では、ハンドセットであって、少なくとも1つのネットワークインターフェイスと、上記ネットワークインターフェイスと通信可能に接続されるプロセッサとを備え、上記ネットワークインターフェイスは、一定間隔で無線リンクを介して少なくとも1つの生理学的モニタから生理学的データを、少なくとも1つの環境的モニタから環境的データとを受信するように構成されており、上記プロセッサは、少なくとも部分的に上記生理学的データおよび上記環境的データに基づいて、上記少なくとも1つの生理学的モニタと動作可能に連結される患者についての呼吸器健康状態データを生成するように構成されている。
【0020】
いくつかの実施形態では、上記ネットワークインターフェイスは、無線リンクで生理的データおよび環境的データを受信する。
【0021】
本発明のさらに他の側面では、BAN(体領域ネットワーク(Body Area Network))であって、動作可能に患者と連結される少なくとも1つの生理学的モニタと、少なくとも1つの環境的モニタと、上記生理学的モニタおよび上記環境的モニタと通信可能に接続されるハンドセットとを備え、上記ハンドセットは、少なくとも部分的に、上記ハンドセットが一定間隔で上記生理学的モニタおよび上記環境的モニタから取得する生理学的データおよび環境的データに基づいて、患者についての呼吸器健康状態データを生成する。
【0022】
本発明のこれらおよび他の側面は、以下の詳細な説明を、以下に簡単に説明する図面を参照して読めば十分分かるであろう。もちろん、本発明は添付の請求項によって規定される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のいくつかの実施形態において呼吸器健康自己監視の円滑化に有効な通信システムを示す図である。
【図2】図1のBANをより詳細に示す図である。
【図3】図2のハンドセットをより詳細に示す図である。
【図4】本発明のいくつかの実施形態の呼吸器健康自己監視の円滑化に有効な図2のハンドセットの機能素子を示す図である。
【図5】本発明のいくつかの実施形態の呼吸器健康状態自己監視方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明のいくつかの実施形態の呼吸器健康自己監視の円滑化に有効な通信システムを示す。上記システムは、患者100のすぐ傍の体領域ネットワーク(BAN:Body Area Network)210内にハンドセット110を備える。ハンドセット110は、臨床医のコンピュータ130および家族のコンピュータ140と、通信ネットワーク120を介して遠隔で連結されている。また、ハンドセット110は、遠隔で通信ネットワーク120を介して、または、局所的に分離無線リンクを介して、環境制御システム150と通信可能に結合される。
【0025】
ハンドセット110は、手で把持される携帯電子装置で、患者100に操作されるものである。ハンドセット110は、携帯電話、パーソナルデータアシスタント(PDA)、または、例えばBAN210における管理専用であって、手で把持する携帯電子装置である。
【0026】
臨床医のコンピュータ130は、患者100の治療を行う臨床医またはその代理人によって操作される演算装置である。臨床医のコンピュータ130は例えば、デスクトップコンピュータ、ノート型コンピュータ、携帯電話、またはPDAである。
【0027】
家族のコンピュータ140は、患者100の家族によって操作される演算装置である。家族のコンピュータ140は例えば、デスクトップコンピュータ、ノート型コンピュータ、携帯電話、またはPDAである。
【0028】
環境制御システム150は、患者100が存在する屋内環境を調節するように適応されたシステムである。環境制御システム150は例えば、空気調整、ヒーティング、加湿または換気システムである。
【0029】
通信ネットワーク120は、1つ以上の有線または無線LAN、WAN,WiMaxネットワーク、USBネットワーク、セルラーネットワーク、および/またはアドホックネットワークを有し得、それぞれは、スィッチ、ルーター、ブリッジ、ハブ、アクセスポイント、またはベースステーションなど、ハンドセット110を通信可能に臨床医のコンピュータ130、家族のコンピュータ140、および環境制御システム150に連結させるに有効な、1つ以上のデータ通信ノードを有する。いくつかの実施形態では、通信ネットワーク120はインターネットを利用する。
【0030】
図2はBAN210をより詳細に示す。BAN210は、患者100のすぐそばで作動する小領域ネットワークである。いくつかの実施形態ではBAN210は完全に、または部分的に有線であるが、BAN210は完全に無線のネットワークとして示される。BAN210は、動作可能なように患者100に連結される複数の生理学的モニタを含み、少なくとも1つの肺モニタ220および少なくとも1つの脈拍モニタ230を含む。BAN210はまた、複数の環境モニタを含み、少なくとも1つの浮遊微小粒子モニタ240および少なくとも1つの温度/湿度モニタ250を含む。モニタ220、230、240、250は、通信可能にハンドセット110と連結される。無線セグメントに接続される場合、モニタ220、230、240、250、およびハンドセット110は、Bluetooth,Infrared Data Association(IrDa)またはZigBee等の小域無線通信プロトコルを用いて通信を行う。有線セグメントによって接続される場合、モニタ220、230、240、250、およびハンドセット110は、Universal Serial Bus(USB)またはRecommended Standard232(RS-232)等の小域有線通信プロトコルを用いて通信を行う。環境モニタ240、250が患者100に連結されているのを示す一方、いくつかの実施形態では、1つ以上の環境モニタがハンドセット110に埋め込まれる、または、取り付けられてもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、肺の監視は、フォトスパイロメトリ(photospirometry)またはフォノニューモグラフィ(phonopneumography)を用いて行われる。これらの実施形態では、肺モニタ220は肺音のタイムドメイン波形を取得するコンタクトセンサまたは小マイクロフォンである。いくつかの実施形態では、肺音は、少なくとも4000Hzのサンプリング周波数において取得され、喘鳴音を表す低周波数ピークの検出を可能にする。他の実施形態では、肺の監視は、レスピラトリーインダクタンスプレチスモグラフィ(respiratory inductance plethysmography)(RIP)を用いて行われてもよい。
【0032】
脈拍モニタ230は、血中酸素飽和(SpO2)レベルおよび脈拍比を同時に測定する脈拍酸素濃度計である。いくつかの実施形態では、脈拍モニタ230は、患者100の手首または指に配置される。
【0033】
浮遊微小粒子モニタ240は、粒子密度(例えば、立方センチメートルあたりのミリグラム単位または立方センチメートルあたりの粒子の数)を測定するセンサである。いくつかの実施形態では、微小粒子モニタ240は、粒子サイズのいくつかの範囲についての粒子密度を測定する。他の実施形態では、粒子モニタ240は粒子サイズを勘案せずに全体の粒子密度を測定する。微小粒子モニタ240は粒子密度に比例して出力電圧を生成してもよい。例えば、空中に粒子がわずかしかない、または全くない場合、出力電圧は公称電圧(例えば、1ボルト)と略等しくてもよい。中程度の浮遊微小粒子がある場合、出力電圧は有意に公称電圧を上回ってもよい。浮遊微小粒子が高レベルにある場合、出力電圧は飽和電圧(例えば3ボルト)に近づいてもよい。出力電圧測定は、10ミリ秒ずつなどの一定間隔をおいてなされてもよい。
【0034】
温度/湿度モニタ250は、周辺温度および相対湿度を測定する。いくつかの実施形態では、分離温度モニタおよび湿度モニタが配置されてもよい。
【0035】
いくつかの実施形態では、他の生理学的および環境的モニタが配置され、喘息の発作についての他の代表的または原因となる前兆、例えば、ゴキブリの糞、殺虫剤、清浄剤、一酸化窒素、または心拍変化を検出してもよい。
【0036】
いくつかの実施形態では、1つのモニタが生理的また環境的データの両方を得るために用いられる。例えば、1つのモニタは、環境的データおよびSpO2レベルを取得してもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、動きモニタが配置され、患者100の動きの状態、例えば、患者100が動いているか、座っているか、眠っているか、立っているかを判定する。このような動きモニタは、加速を検出する加速度計と、検出した加速を患者100の動きの状態に還元する、対応するアルゴリズムとを有する。加速度計は生理学的または環境的モニタと一体であってもよく、または、別のユニットであってもよい。上記対応するアルゴリズムは動きモニタまたはハンドセット110と一体であってもよい。
【0038】
モニタ220、230、240、250は、一時的にそれらの各測定データを記憶するための各メモリを有する。
【0039】
肺モニタ220および脈拍モニタ230によって測定される生理学的データおよびダストモニタ240および温度/湿度モニタ250によって測定される環境的データは、絶えずハンドセット110によって取得される。いくつかの実施形態では、ハンドセット110は、ポーリングモニタ220、230、240、250によって、一定間隔で測定データを取得し、それらの各メモリから測定データを読み出す。モニタ220、230、240、250は、同じ周波数または異なる周波数でポーリング(poll)される。いくつかの実施形態では、ハンドセット110は、少なくとも1分に一回は各モニタをポーリング(poll)する。
【0040】
図3は、ハンドセット110をより詳細に示す。ハンドセット110は、出力を与え、入力を患者100から受信するように適応されたユーザインターフェイス310を有する。ユーザインターフェイス310は、液晶ディスプレイ(LCD)または発光ダイオード(LED)ディスプレイ等のディスプレイと、出力を与えるラウドスピーカと、キーパッドと、入力を受信するマイクロフォンとを有している。ハンドセット110はさらに、携帯電話または無線LANプロトコルのような無線通信プロトコルに基づいて通信ネットワーク120とデータの送受信を行うように適応された遠隔通信インターフェイス320を有する。ハンドセット110はさらに、BAN210とデータの送受信を行うように適応されているBAN通信インターフェイス330を有する。ハンドセット110はさらに、ハンドセットソフトウェア、設定、およびデータを記憶するように適応されたメモリ350を有する。いくつかの実施形態では、メモリ350は1つ以上のランダムアクセスメモリ(RAM)と、1つ以上のリードオンリーメモリ(ROM)を有している。ハンドセット110はさらに、素子310、320、330、350の間に通信可能に連結されるプロセッサ(CPU)340を有する。プロセッサ340は、メモリ350に記憶されているハンドセットソフトイウェア、参照ハンドセット設定、およびデータを実行し、ハンドセット110によってサポートされる様々な特徴および機能を実行するために素子310、320、330、350と相互運用するように適応されている。
【0041】
図4は、本発明のいくつかの実施形態における呼吸器健康状態自己監視の円滑化に有効なハンドセット110の機能的要素を示す。上記機能的要素はメモリ350に格納され、通信モジュール410、データ取得モジュール420、およびデータ分析モジュール440を有する。モジュール410、420、440は、患者の背景データ、生理学的データ、および環境的データを取得し、データ記憶部430でこのようなデータを記憶および検索し、このようなデータを操作し、患者100に対する呼吸器健康状態データを生成し、警告および環境制御メッセージを出力するために、プロセッサ340によって実行可能な命令を有するソフトウェアプログラムである。
【0042】
通信モジュール410は、ハンドセット110が通信ネットワーク120およびBAN210のそれぞれを介してデータの送受信を行えるようにする無線通信プロトコル機能を実現する際、遠隔通信インターフェイス320およびBAN通信インターフェイス330をサポートする。無線通信プロトコル機能は例えば、無線リンクの確立、無線リンクのティアーダウン、およびパケットのフォーマッティングを含む。BAN210が有線セグメントを有するとき、通信モジュール410はまた、優先通信プロトコル機能を実現する際にBAN通信インターフェイス330をサポートする。
【0043】
データ取得モジュール420は、患者の背景データ、生理学的データ、および環境的データを取得し、取得したデータをデータ記憶部430に記憶させる。患者の背景データは、ユーザインターフェイス310側の患者100によって入力される、または、臨床医のコンピュータ130側の臨床医によって入力され、通信ネットワーク120を介して遠隔通信インターフェイス320側で受信される静的に設定される情報である。患者の背景データは、呼吸疾患の原因となり得る、または悪化させ得る環境的または生理学的条件に患者100がより影響を受けやすくする、またはより影響を受けにくくする、患者100に特有の情報である。患者の背景データは例えば、行動パターン(例えば、運動パターン、睡眠パターン)、同時罹患率(例えば、ストレスレベル、肺高血圧症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症)、薬剤、年齢、身長、体重、性別、人種、遺伝的背景、および健康であることの一般的感覚を含み得る。生理的および環境的データは、モニタ220,230,240,250からBAN通信インターフェイス330側で絶えず受信される情報である。データ取得モジュール420は、生理学的および環境的データを絶えず取得するためにハンドセット100において設定されるポーリング間隔で、モニタ220、230、240、250をポールしてもよい。肺モニタ220および脈拍モニタ230から取得される生理学的データは例えば、肺音データ、SpO2データ、および脈拍比データを含んでもよい。浮遊微小粒子モニタ240および温度/湿度モニタ250から取得される環境的データは例えば、粒子密度データ、周囲温度データ、および相対湿度データを含んでもよい。いくつかの実施形態では、生理学的および環境的データ測定および取得処理は、モニタ220、230、240、250およびデータ取得モジュール420において連続して行われ、患者100の呼吸器健康状態の現状が常に把握されていることを確実にするために、十分な周波数を用いて生理学的および環境的データを測定/取得する。
【0044】
いくつかの実施形態では、データ取得モジュール420はまた、静的設定を通して患者100側の散発生理学的データを取得する。例えば、患者100はユーザインターフェイス310において入力してもよく、または、臨床医は臨床医のコンピュータ130において入力し、ピークフローメータまたはスピロメータを用いて得られる肺の能力(例えば1秒間の努力呼気肺活量)を、不規則な間隔で通信ネットワーク120を介してハンドセット110に送信する。
【0045】
データ分析モジュール440は、必要に応じて取得した生理学的および環境的データを分析に適した形に変換する前処理機能を実行する。例えば、データ分析モジュール440は、肺モニタ220から取得した肺音データのタイムドメイン波形において、肺音を他の雑音(例えば心音、声)から分離し、喘息を表す低周波数ピークの存在を検出できるように、タイムドメイン波形を周波数ドメイン表現に変換するため第1フーリエ変換(FFT)を行う。
【0046】
データ分析モジュール440は、患者の背景データ、生理学的および環境的データを用いて呼吸器健康状態データを生成する。生成された呼吸器健康状態データは現在の健康データおよび健康の傾向のデータを有する。現在の健康のデータは、現在の喘息率、肺の異常音率、脈拍率、呼吸率、呼吸量、吸息持続時間、呼気持続時間、SpO2レベル、浮遊微小粒子レベル、周囲温度、および相対湿度等、患者100の現在の呼吸器健康状態を示す生理学的および環境的データを用いて生成される科学的パラメータの値を有する。データ分析モジュール440は、肺音について取得したタイムドメイン表現から、患者100の現在の呼吸率、吸息持続時間、および呼息持続時間を判定することができ、肺音の派生的周波数ドメイン表現から、現在の喘息および肺の異音を判定することができる。データ分析モジュール440は、粒子密度を示す取得した出力電圧測定から、全体的浮遊微小粒子密度を判定することができ、このような出力電圧測定から、特定の空気刺激物を識別することもできる。例えば、出力電圧パターンがいくつかの連続した公称出力をはるかに上回る電圧からなる場合、それは、タバコの煙等の強い、または濃い刺激物の存在を示す。一方、出力電圧パターンが、時折発生する出力電圧スパイクによって中断される公称出力電圧からなる場合、それは、散乱した花粉または塵等の弱い、または薄い刺激物の存在を示す。より一般的には、データ分析モジュール440は、浮遊微小粒子の存在、種類、密度、濃度またはサイズのうちの1つ以上を判定することができる。データ分析モジュール440はまた、科学的パラメータ値および患者の背景データを用いて患者の身近な現在の健康データを生成する。例えば、データ分析モジュール440は患者の背景データと、現在の喘息率、肺の異常音率、脈拍率、呼吸率、呼吸量、吸息持続時間、呼気持続時間、SpO2レベル、浮遊微小粒子レベル、周囲温度、および相対湿度のうちの1つ以上を、例えば1と5の間の呼吸器健康スコアとし得る。現在の呼吸器健康状態を、患者100に対する表示を行うための単純な数字のスコアへ絞り込むことによって、医学的知識に欠ける患者100はいつでも自分の呼吸器健康状態にアクセスすることができることが分かる。データ分析モジュール440は、現在の健康データを、データ記憶部430に保持されるデータ履歴に加える。
【0047】
生成された呼吸器健康状態データは、健康傾向データを含む。健康傾向データは、患者100が経験した呼吸器健康状態の傾向を示す。データ分析モジュール440は、各科学的パラメータについて、データ記憶部430に保持されている履歴データから傾向を判定する。上記傾向は上方または下方などのように基本的なものでもよいし、急激な加速、緩やかな加速、安定して緩やかな減速または急激な減速など、より複雑なものでもよい。
【0048】
さらに、データ分析モジュール440は、喘息の発作の発症の可能性を示唆する、異なる科学的パラメータの間の相互相関を判定してもよい。例えば、アレルギー抗原粒子における特定の濃度と、患者100の喘息発症との間の相関関係を検出してもよい。これらの相関関係は、患者100のために個々に調整され、今後のフィードバックのための基準となり得る、例えば、今後の警告や環境制御システムの起動などの予測的モデルを生成するために用いられる。自動復帰および移動平均処理は、観察されるデータをかたどり、予測的モデルを生成するために発動されてもよい。
【0049】
データ分析モジュール440は、ユーザインターフェイス310側の呼吸器健康状態データを出力し、また臨床医のコンピュータ130または家族のコンピュータ140の出力に対して通信ネットワーク120を介して呼吸器健康状態データを送信する。出力された呼吸器健康状態データは、現在の喘息率、肺の異常音率、脈拍率、呼吸率、呼吸量、吸息持続時間、呼気持続時間、SpO2レベル、浮遊微小粒子レベル、周囲温度、または相対湿度、および/または患者に身近な呼吸器健康スコア等の現在の健康データを含んでもよい。出力された呼吸器健康状態データはまた、現在の健康データの成分についての上下矢印等の健康傾向データを含んでもよい。
【0050】
データ分析モジュール440はまた、呼吸器健康状態データに応じて、呼吸器健康警告および環境制御メッセージを生成し、出力する。データ分析モジュール440は、設定された警告および/または制御閾値を上回る、または下回る呼吸器健康状態データに応じて、呼吸器健康警告および/または環境制御メッセージを生成する。警報/制御閾値は、個々の科学的パラメータ(例えば、現在の、または傾向としての喘息率、肺の異常音率、脈拍率、呼吸率、呼吸量、吸息持続時間、呼気持続時間、SpO2レベル、浮遊微小粒子レベル、周囲温度、および/または相対湿度)、科学的パラメータのグループまたは患者に身近な呼吸器健康スコアについて、現在の健康データまたは健康傾向データとの比較のために生成される。例えば、もし患者に身近な呼吸器健康スコアがあるポイントに落ちると(すなわち、1を最下として1から5のうちのあるスケールに落ちると)、データ分析モジュール440に可聴および/または視覚的呼吸器健康警報をユーザインターフェイス310を介して患者100に出力させ、また、臨床医のコンピュータ130および/または家族のコンピュータ140の出力に呼吸器健康警告を送信させる警報が誘発される。他の例として、環境制御システム150が換気システムである場合が挙げられるが、もし浮遊微小粒子密度が、設定されたレベルを上回ると、データ分析モジュール440に、環境制御メッセージを、システムを起動するように命令する環境制御システム150に対して送信させる制御を誘発してもよい。環境制御システム150はまた、患者の現在の状態に応じて自動的に、設定されたレベルを変化させることもできる。呼吸器健康警告は、警告の理由を示してもよいし(例えば、“患者Xの呼吸器健康スコアが低すぎる”)、特定の勧告を行ってもよい(例えば、“走るのを止めなさい”、“この環境から離れなさい”、“薬を飲みなさい”、“救急処置室へ行きなさい”)。警報/制御閾値は、ユーザインターフェイス310側の患者100による入力を通してハンドセット110において設定される、または臨床医によって離れたところで設定されてもよい。他の実施形態では、警報/制御閾値は、患者の背景データを、データ分析モジュール440側で有効な予測的モデルに応用することを通じてデータ分析モジュール440によって自動的に設定されてもよい。呼吸器健康警告に応じて、臨床医は、詳細な診断のために、現在の健康データおよび健康傾向データを臨床医のコンピュータ130にアップロードしてもよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、上記呼吸器健康警報/制御に加えて、またはその代わりに、呼吸器健康警報および環境制御メッセージは、呼吸器健康状態データを、患者の背景データ、現在の健康データ、および健康傾向データを用いて喘息の発作の可能性を絶えず算出するデータ分析モジュール440側で有効な予測的モデルに応用することを通じて生成されてもよい。算出される可能性が可能性閾値を上回る場合、呼吸器健康警告または環境制御メッセージが生成されてもよい。
【0052】
図5は、本発明のいくつかの実施形態における呼吸器健康状態自己監視方法を示す。臨床医が入力したものはハンドセット110(505)にアップロードされ、患者が入力したものはハンドセット110(510)へアップロードされる。臨床医の入力と患者の入力は例えば、患者の背景データ、警報/制御閾値、および任意の補足生理学的データ(例えば、ピークフローメータを用いて得られる肺機能データ)を含む。そして、ハンドセット110は、BAN210を介して一定間隔(515)でモニター220,230,240,250から環境的および生理学的データを得て、得られた環境的および生理学的データを必要な程度にまで変換する。ハンドセット110は、得られた環境的および生理学的データ(520)を用いて現在の健康データを生成し、現在の健康データをデータ履歴(525)に加える。現在の健康データは例えば、現在の喘息率、肺の異常音率、脈拍率、呼吸率、呼吸量、吸息持続時間、呼気持続時間、SpO2レベル、浮遊微小粒子レベル、周囲温度、および相対湿度等の科学的パラメータ値を含み、患者に身近な呼吸器健康スコアを含む。ハンドセット110は、データ履歴(530)を用いて健康傾向データを生成する。健康傾向データは例えば、科学的パラメータ値と関連する上下の矢印を含む。ハンドセット110は、現在の健康データおよび健康傾向データ(535)を出力する。ハンドセット110は、呼吸器健康警報/制御チェック(540)を行い、呼吸器健康警告および環境制御メッセージを、それが示された場合(545)、出力/送信する。ハンドセット110はまた、臨床医の入力と患者の入力を、患者100の状態の変化に基づいて、絶えず更新することができる。
【0053】
ハンドセット110はまた、コンピュータシステムにおいて呼吸器健康状態自己監視方法を実行するために用いられるコンピュータプログラムを含んでもよい。この制御プログラムは、光ディスクまたは磁気ディスク等の記憶媒体に記憶される。
【0054】
内容データおよび、内容処理装置の機能を実現するコンピュータプログラムを含む記憶媒体は、CD-ROM(コンパクトディスクリードオンリーメモリ)、MO(光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、またはDVD(デジタル多用途ディスク)であり得る光ディスク、またはFD(フレキシブル・ディスク)またはハードディスクであり得る磁気ディスクに決して限定されない。このような記憶媒体の例としては、磁気テープやカセットテープ等のテープ、IC(集積回路)カードおよび光カードなどのカード記憶媒体、ROM、EPROM(消去可能プログラムROM)、EEPROM(電気的消去・書き込み可能プログラムROM)、およびフラッシュROMが挙げられる。それでもやはり、コンピュータシステムは、これらの記憶媒体から検索を行うための読み出し装置を有する必要がある。
【0055】
本発明の他の実施形態を以下に説明する。
【0056】
ハンドセットにおいて具体化されるコンピュータ上での実施のためのコンピュータプログラムであって、上記コンピュータは、
患者から集めた生理学的データを受信する工程と、
環境的データを受信する工程と、
少なくとも部分的に生理学的データおよび環境的データの基づいて患者についての呼吸器健康状態データを生成する工程とを実行する、コンピュータプログラム。
【0057】
上記コンピュータプログラムが記憶される、コンピュータ読み出し可能な記録媒体。
【0058】
本発明が、その精神と基本的な特定から離れずに他の特定の形態にて具現化され得ることは、当業者にとって理解できることであろう。例えば、いくつかの実施形態では、ハンドセットは、ノート型コンピュータのような、手で保持されない携帯電子装置などで置き換えが可能である。さらに、本発明は喘息の管理に関連して説明を行ってきたが、本発明は、例えば鼻炎等の他の病気に十分応用可能である。本説明はそれゆえ、全ての点において、例示的であって、限定的なものではないと考えられる。
【0059】
本説明はそれゆえ、全ての点において、例示的であって、限定的ではないと考えられる。本発明の範囲は添付の請求項によって示され、意味上生じる全ての変化と、それらの均等物の範囲は、ここに含まれる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器健康状態自己監視方法であって、
患者から集めた生理学的データを受信する工程と、
環境的データを受信する工程と、
少なくとも部分的に上記生理学的データおよび上記環境的データに基づいて、上記患者についての呼吸器健康状態データを生成する工程とを有することを特徴とする呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項2】
上記生理学的データおよび上記環境的データは、一定の間隔で携帯電子装置にて受信されるデータを含むことを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項3】
上記生理学的データは、携帯電子装置にて間欠的に受信されるデータをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項4】
上記呼吸器健康状態データは、少なくとも部分的に、静的に設定される患者の背景データに基づいてさらに生成されることを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項5】
上記患者の背景データは、行動パターンデータ、同時罹患率データ、薬剤データ、年齢データ、身長データ、体重データ、性別データ、人種データ、および遺伝的背景データのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項4に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項6】
上記呼吸器健康状態データは、現在の生理学的データおよび環境的データを用いて生成される現在の健康データを含むことを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項7】
上記呼吸器健康状態データは、履歴生理学的データおよび環境的データを用いて生成される健康傾向データを含むことを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項8】
上記呼吸器健康状態データは、履歴生理学的データおよび環境的データを用いて生成される健康相互相関データを含むことを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項9】
上記呼吸器健康状態データに応じて呼吸器健康警告を出力する工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項10】
上記呼吸器健康状態データに応じて環境制御システムを制御する工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項11】
上記呼吸器健康状態データに応じて上記患者についての予測的モデルを生成する工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項12】
上記生理学的データは、肺音データ、血中酸素飽和(SpO2)データ、および脈拍比データのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項13】
上記環境的データは、浮遊微小粒子データ、温度データ、および相対湿度データのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項14】
上記環境的データは、浮遊微小粒子の存在、種類、および密度データのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の呼吸器健康状態自己監視方法。
【請求項15】
ハンドセットであって、
少なくとも1つのネットワークインターフェイスと、
上記ネットワークインターフェイスと通信可能に接続されるプロセッサとを備え、
上記ネットワークインターフェイスは、一定間隔で無線リンクを介して少なくとも1つの生理学的モニタから生理学的データを、少なくとも1つの環境的モニタから環境的データとを受信するように構成されており、
上記プロセッサは、少なくとも部分的に上記生理学的データおよび上記環境的データに基づいて、上記少なくとも1つの生理学的モニタと動作可能に連結される患者についての呼吸器健康状態データを生成するように構成されていることを特徴とするハンドセット。
【請求項16】
BAN(体領域ネットワーク(Body Area Network))であって、
動作可能に患者と連結される少なくとも1つの生理学的モニタと、
少なくとも1つの環境的モニタと、
上記生理学的モニタおよび上記環境的モニタと通信可能に接続されるハンドセットとを備え、
上記ハンドセットは、少なくとも部分的に、上記ハンドセットが一定間隔で上記生理学的モニタおよび上記環境的モニタから取得する生理学的データおよび環境的データに基づいて、患者についての呼吸器健康状態データを生成することを特徴とするBAN。
【請求項17】
上記呼吸器健康状態データは、少なくとも部分的に、上記ハンドセットにおいて静的に設定される患者の背景データに基づいてさらに生成される請求項16に記載のBAN。
【請求項18】
上記ハンドセットは、上記呼吸器健康状態データを当該ハンドセットのユーザインターフェイスに出力することを特徴とする請求項16に記載のBAN。
【請求項19】
上記ハンドセットは、上記呼吸器健康状態データに応じて、呼吸器健康警告を出力することを特徴とする請求項16に記載のBAN。
【請求項20】
上記ハンドセットは、上記呼吸器健康状態データに応じて、上記ハンドセットから環境制御メッセージを送信することを特徴とする請求項16に記載のBAN。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−540067(P2010−540067A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526484(P2010−526484)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【国際出願番号】PCT/JP2008/069826
【国際公開番号】WO2009/054549
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
2.ZIGBEE
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】