環境システム最適化装置
【課題】 本発明は生活居住環境やエンターテイメント環境のように人体生理への影響を与える環境を、計測生理値に基づいて指定した理想生理状態に近づけるよう自動最適化設計を行う環境システム最適化装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 理想生理値入力部3と、誤差計算部4と、最適化部5とを、環境システム最適化装置に設けることを特徴とする。誤差計算部で求めた計測生理値と事前に与えられた理想生理値との差分値を最適化部への評価関数とすることで、人体生理状態を理想生理状態に近づけるよう、対象の環境システムを自動最適化することができる。
【解決手段】 理想生理値入力部3と、誤差計算部4と、最適化部5とを、環境システム最適化装置に設けることを特徴とする。誤差計算部で求めた計測生理値と事前に与えられた理想生理値との差分値を最適化部への評価関数とすることで、人体生理状態を理想生理状態に近づけるよう、対象の環境システムを自動最適化することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人体生理に影響を与える温熱、光、振動、視聴覚、その他の環境下の人間の生理特性を目的に応じた理想的な生理状態になるように温熱光環境システムや振動機器や視聴覚機器を制御する環境システム最適化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境システム最適化装置は、高齢化社会おける優しい住居環境を実現したり、アミューズメントパークでスリル感溢れる振動や音響・映像環境(AV環境)を実現したり、いろいろな分野で使われている。
【0003】
例えば、癒し効果が最大になるように映像と音響信号を人間に提示する環境システムを考えてみよう。音の変化、周波数特性、映像の変化速度、色変化、その他多くのAV信号の物理パラメータを変化させることで人間の生理反応が変化し、安らぎ状態になったり、ドキドキ状態になったり、緊張状態になったりする。そのような生理状態の中で、できるだけ安らぎの生理状態になるよう、物理パラメータを最適にすることが求められる。環境システム最適化装置はこのような設計のために、いろいろな分野で用いられている。
【0004】
以下図面を参照しながら、上記した従来の環境システム最適化装置の一例について説明する。
【0005】
図2は従来の環境システム最適化装置の構成図を示すものである。図2において、1は最適化対象の環境システムである。2は環境システム1の影響を受ける人間の生理を計測する生理計側部である。6は環境システム1の状態を制御するために設計者が制御値を入力する制御値入力部である。
【0006】
以上のように構成された従来の環境システム最適化装置について、以下その動作について説明する。
【0007】
まず、設計者が制御値入力部6から環境システム1の状態を変化させるための制御値を入力する。温熱環境システムや光環境システムでは、温度や照度や色を変化させるための制御値を入力することになるし、映像環境システムや音響環境システムでは、色や音量や周波数特性やコンテンツそのものであったりコンテンツの提示方法を変化させるための制御値であったりする。入力された制御によって環境システム1の出力が変化するので、その環境に影響される人間の生理反応も変化することになる。この生理データを生理計測部2で計測する。設計者はこの生理計測値を見て制御値入力部6から環境システム1の状態を変化させるための制御値を入力する。この一連の作業を、環境システム1に影響される人間が予め狙った生理状態になるまで繰り返す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記のような構成では、システム最適化の観点からはランダムサーチをしているのであり、環境下の人間の生理状態を実現すべき状態にするように環境システムを最適化するには非常に時間がかかる。あるいは、対象の人間の疲労等のため実現できないという問題点を有していた。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑み、自動的に環境システムを最適化して、求める生理状態を実現することを可能にする環境システム最適化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために本発明の環境システム最適化装置は、理想生理値入力部と、誤差計算部と、最適化部という構成を備えたものである。
【0011】
本発明は上記した構成によって、計測した人間の生理値と理想生理値との誤差を基に、人間の生理値を理想生理値に近づけるよう最適化部が環境システムを調整する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば理想生理値入力部と、誤差計算部と、最適化部とを設けることにより、人間の生理値を理想生理値として与えた生理状態に近づけることができるので、安らぎの環境を設計したり、ハラハラドキドキのアミューズメント環境を設計したりすることができる。
【実施例】
【0013】
以下本発明の実施例の環境システム最適化装置について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(実施例1)
図1は本発明の第1の実施例における環境システム最適化装置の構成図である。図1において、3は設計したい環境での人間の理想生理状態を示す生理データを入力する理想生理入力部でキーボードやファイル読み込み装置などで構成される。4は生理値計測部2で得られる実際の人間の生理データと理想生理入力部3で入力された理想生理データとの差を計算する誤差計算部である。5は誤差計算部4の値を評価値として入力し環境システム1を制御する最適化部である。
【0015】
以上のように構成された環境システム最適化装置について、以下その動作を説明する。第1の実施例での環境システム1は安らぎの音楽を再生する環境システム、最適化部5では進化的計算を用いて最適化を行う実施例を取り上げる。
【0016】
環境システム1は、周波数特性、音圧レベル、テンポなどの物理的パラメータで音楽出力の特性を変化する。環境システム1の出力である音楽を聴いた人間の生理データを生理計測部2で計測する。一方、人間が安らいだ時の生理データを予め理想生理入力部3から入力する。このようなデータはよく知られているような脳波のアルファ波をはじめ、心拍数、血圧、ホルモン等、複数の指標で示すことができる。生理計測部2で計測した生理データと理想生理入力部3から入力した生理データとの差分を誤差計算部4で求める。誤差計算部4での差分が0に近づくよう、最適化部5の進化的計算が環境システム1の物理パラメータを自動的に変化させる。
【0017】
最適化部5の進化的計算は(北野宏明(編)「遺伝的アルゴリズム(1)(2)(3)(4)」産業図書(1993、1995、1997、2000)、米沢保雄「遺伝的アルゴリズム―進化理論の情報科学」森北出版(1993/11)、萩原将文「ニューロ・ファジィ・遺伝的アルゴリズム」産業図書(1994/09)、伊庭斉志「進化論的計算の方法」東京大学出版会(1999/02)、伊庭斉志「進化論的計算手法」オーム社 (2005/01))など多くの教科書でその動作が解説されている。代表的な遺伝的アルゴリズムを例に取れば、評価値を基によい解を選択し、交差して次世代の解候補を作成し、突然変異を起こさせて解の多様性を維持する、多点探索ベースの最適化手法である。したがって第1の実施例では、誤差計算部4の差分値を評価点と見なすことで、この差分を小さくするように環境システム1のパラメータを最適化することが可能になる。すなわち、環境システム1の影響下の人間が安らぐように、音楽の再生特性を自動的に変化させることができる。
【0018】
以上のように本実施例によれば、理想生理値入力部3と、誤差計算部4と、最適化部5とを設けることにより、人間の生理状態を理想生理値入力部で指定した生理状態に近づけるよう、最適化部5が環境システム1の特性を自動的に変化させることが可能になる。
【0019】
なお、第1の実施例において、環境システム1は音楽を再生するシステムとしたが、人間の生理状態に影響を及ぼすいかなる刺激生成システム、例えば、人工現実感環境、温熱光の生活環境、劇場やホームシアタのような映像音響環境などでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、生活居住環境やゲーム、アミューズメントパーク、劇場、ホームシアタなどのエンターテイメント環境など生体への影響を与える環境設計を行う際に、指定した理想生理状態に近づくような自動設計手段を与えるもので、産業上の利用効果には大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の環境システム最適化装置の構成図である。
【図2】従来の環境システム最適化装置の構成図である。
【符号の説明】
【0022】
1 環境システム
2 生理値計測部
3 理想生理値入力部
4 誤差計算部
5 最適化部
【技術分野】
【0001】
本発明は人体生理に影響を与える温熱、光、振動、視聴覚、その他の環境下の人間の生理特性を目的に応じた理想的な生理状態になるように温熱光環境システムや振動機器や視聴覚機器を制御する環境システム最適化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境システム最適化装置は、高齢化社会おける優しい住居環境を実現したり、アミューズメントパークでスリル感溢れる振動や音響・映像環境(AV環境)を実現したり、いろいろな分野で使われている。
【0003】
例えば、癒し効果が最大になるように映像と音響信号を人間に提示する環境システムを考えてみよう。音の変化、周波数特性、映像の変化速度、色変化、その他多くのAV信号の物理パラメータを変化させることで人間の生理反応が変化し、安らぎ状態になったり、ドキドキ状態になったり、緊張状態になったりする。そのような生理状態の中で、できるだけ安らぎの生理状態になるよう、物理パラメータを最適にすることが求められる。環境システム最適化装置はこのような設計のために、いろいろな分野で用いられている。
【0004】
以下図面を参照しながら、上記した従来の環境システム最適化装置の一例について説明する。
【0005】
図2は従来の環境システム最適化装置の構成図を示すものである。図2において、1は最適化対象の環境システムである。2は環境システム1の影響を受ける人間の生理を計測する生理計側部である。6は環境システム1の状態を制御するために設計者が制御値を入力する制御値入力部である。
【0006】
以上のように構成された従来の環境システム最適化装置について、以下その動作について説明する。
【0007】
まず、設計者が制御値入力部6から環境システム1の状態を変化させるための制御値を入力する。温熱環境システムや光環境システムでは、温度や照度や色を変化させるための制御値を入力することになるし、映像環境システムや音響環境システムでは、色や音量や周波数特性やコンテンツそのものであったりコンテンツの提示方法を変化させるための制御値であったりする。入力された制御によって環境システム1の出力が変化するので、その環境に影響される人間の生理反応も変化することになる。この生理データを生理計測部2で計測する。設計者はこの生理計測値を見て制御値入力部6から環境システム1の状態を変化させるための制御値を入力する。この一連の作業を、環境システム1に影響される人間が予め狙った生理状態になるまで繰り返す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら上記のような構成では、システム最適化の観点からはランダムサーチをしているのであり、環境下の人間の生理状態を実現すべき状態にするように環境システムを最適化するには非常に時間がかかる。あるいは、対象の人間の疲労等のため実現できないという問題点を有していた。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑み、自動的に環境システムを最適化して、求める生理状態を実現することを可能にする環境システム最適化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題点を解決するために本発明の環境システム最適化装置は、理想生理値入力部と、誤差計算部と、最適化部という構成を備えたものである。
【0011】
本発明は上記した構成によって、計測した人間の生理値と理想生理値との誤差を基に、人間の生理値を理想生理値に近づけるよう最適化部が環境システムを調整する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば理想生理値入力部と、誤差計算部と、最適化部とを設けることにより、人間の生理値を理想生理値として与えた生理状態に近づけることができるので、安らぎの環境を設計したり、ハラハラドキドキのアミューズメント環境を設計したりすることができる。
【実施例】
【0013】
以下本発明の実施例の環境システム最適化装置について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(実施例1)
図1は本発明の第1の実施例における環境システム最適化装置の構成図である。図1において、3は設計したい環境での人間の理想生理状態を示す生理データを入力する理想生理入力部でキーボードやファイル読み込み装置などで構成される。4は生理値計測部2で得られる実際の人間の生理データと理想生理入力部3で入力された理想生理データとの差を計算する誤差計算部である。5は誤差計算部4の値を評価値として入力し環境システム1を制御する最適化部である。
【0015】
以上のように構成された環境システム最適化装置について、以下その動作を説明する。第1の実施例での環境システム1は安らぎの音楽を再生する環境システム、最適化部5では進化的計算を用いて最適化を行う実施例を取り上げる。
【0016】
環境システム1は、周波数特性、音圧レベル、テンポなどの物理的パラメータで音楽出力の特性を変化する。環境システム1の出力である音楽を聴いた人間の生理データを生理計測部2で計測する。一方、人間が安らいだ時の生理データを予め理想生理入力部3から入力する。このようなデータはよく知られているような脳波のアルファ波をはじめ、心拍数、血圧、ホルモン等、複数の指標で示すことができる。生理計測部2で計測した生理データと理想生理入力部3から入力した生理データとの差分を誤差計算部4で求める。誤差計算部4での差分が0に近づくよう、最適化部5の進化的計算が環境システム1の物理パラメータを自動的に変化させる。
【0017】
最適化部5の進化的計算は(北野宏明(編)「遺伝的アルゴリズム(1)(2)(3)(4)」産業図書(1993、1995、1997、2000)、米沢保雄「遺伝的アルゴリズム―進化理論の情報科学」森北出版(1993/11)、萩原将文「ニューロ・ファジィ・遺伝的アルゴリズム」産業図書(1994/09)、伊庭斉志「進化論的計算の方法」東京大学出版会(1999/02)、伊庭斉志「進化論的計算手法」オーム社 (2005/01))など多くの教科書でその動作が解説されている。代表的な遺伝的アルゴリズムを例に取れば、評価値を基によい解を選択し、交差して次世代の解候補を作成し、突然変異を起こさせて解の多様性を維持する、多点探索ベースの最適化手法である。したがって第1の実施例では、誤差計算部4の差分値を評価点と見なすことで、この差分を小さくするように環境システム1のパラメータを最適化することが可能になる。すなわち、環境システム1の影響下の人間が安らぐように、音楽の再生特性を自動的に変化させることができる。
【0018】
以上のように本実施例によれば、理想生理値入力部3と、誤差計算部4と、最適化部5とを設けることにより、人間の生理状態を理想生理値入力部で指定した生理状態に近づけるよう、最適化部5が環境システム1の特性を自動的に変化させることが可能になる。
【0019】
なお、第1の実施例において、環境システム1は音楽を再生するシステムとしたが、人間の生理状態に影響を及ぼすいかなる刺激生成システム、例えば、人工現実感環境、温熱光の生活環境、劇場やホームシアタのような映像音響環境などでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、生活居住環境やゲーム、アミューズメントパーク、劇場、ホームシアタなどのエンターテイメント環境など生体への影響を与える環境設計を行う際に、指定した理想生理状態に近づくような自動設計手段を与えるもので、産業上の利用効果には大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の環境システム最適化装置の構成図である。
【図2】従来の環境システム最適化装置の構成図である。
【符号の説明】
【0022】
1 環境システム
2 生理値計測部
3 理想生理値入力部
4 誤差計算部
5 最適化部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体生理に影響を与える感覚刺激を出力する環境システムと、前記環境システム出力を受けた人体の生理信号を計測する生理計測部と、制御すべき目安となる生理値を入力する理想生理値入力部と、前記生理計測部で得られた生理値と前記理想生理値入力部から得られた制御すべき目安となる生理値との違いを計算する誤差計算部と、前記誤差計算部で得られた誤差値を入力し前記環境システムの制御値を決定する最適化部とを備えたことを特徴とする環境システム最適化装置。
【請求項2】
最適化部が進化的計算技術を用いて環境システムを最適化することを特徴とする請求項1における環境システム最適化装置。
【請求項1】
人体生理に影響を与える感覚刺激を出力する環境システムと、前記環境システム出力を受けた人体の生理信号を計測する生理計測部と、制御すべき目安となる生理値を入力する理想生理値入力部と、前記生理計測部で得られた生理値と前記理想生理値入力部から得られた制御すべき目安となる生理値との違いを計算する誤差計算部と、前記誤差計算部で得られた誤差値を入力し前記環境システムの制御値を決定する最適化部とを備えたことを特徴とする環境システム最適化装置。
【請求項2】
最適化部が進化的計算技術を用いて環境システムを最適化することを特徴とする請求項1における環境システム最適化装置。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2006−338153(P2006−338153A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159635(P2005−159635)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年12月2日から3日 国立大学法人九州大学主催の「21世紀COEプログラム主催『人工環境デザイン国際シンポジウム』(International Symposium on Design of Artificial Environments)」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月31日 日本生理人類学会発行の「Journal of Physiological Anthropology and Applied Human Science VOL.24.No.1」に発表
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年12月2日から3日 国立大学法人九州大学主催の「21世紀COEプログラム主催『人工環境デザイン国際シンポジウム』(International Symposium on Design of Artificial Environments)」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月31日 日本生理人類学会発行の「Journal of Physiological Anthropology and Applied Human Science VOL.24.No.1」に発表
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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