説明

環境保全型ブロック

【課題】植生の回復、保全を図ることができる擁壁を簡単に構築できるとともに、河川に転落した人が容易に脱出できるようにした環境保全型ブロックを提供する。
【解決手段】左右の側面壁2,2と、両端側部3a,3b,4a,4bを左右の側面壁よりも左右方向に突出させて左右の側面壁の前後端にそれぞれ別れて配設されている前面壁3及び後面壁4と、左右の側面壁と前面壁と後面壁とにより囲まれる土砂充填空間5の底部を閉塞して配設された底面壁とを有するブロック体を構成し、該ブロック体の左右の側面壁の外側2箇所にそれぞれ上下及び1側を開口させて形成されているコンクリート充填空間7a,7bと、前面壁の一部を前面突出空間12を形成してなる前面突き出し部11と、底面壁に上下に貫通させて形成してなる水抜き孔と、左右両側部に流水に対してほぼ直角方向に形成した人が手を掛けてつかまるための避難用凹部14を設けて成る構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境保全型ブロックに関するものであり、特に、河川、海岸、湖沼等の護岸、あるいは、道路や公園の法面の擁壁等に使用される環境保全型ブロックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、河川、海岸、湖沼等の護岸・擁壁では、河川等が本来有している植生の回復、及び、保全を図る目的からコンクリート内部に土砂を充填できる構造のコンクリートブロックが用いられている。
【0003】
これらコンクリートブロックには、上下に貫通した空洞部を有するポット型のコンクリートブロック(例えば、特許文献1参照)や、ブロック下部に底板を有する緑化用のコンクリートブロック(例えば、特許文献2参照)、ブロック前面に植栽用の貫通孔を有するコンクリートブロック(例えば、特許文献3参照)等が知られている。これらのコンクリートブロックは、いずれもコンクリート内に胴込め土砂を蓄えることができる空間を有し、該空間内の土砂に植生を施すことができる構成になっている。
【特許文献1】実公昭4−2196号公報。
【特許文献2】実開平5−3356号公報。
【特許文献3】特開2002−294658号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、特許文献1,特許文献2,特許文献3に記載の発明は、いずれもコンクリート内に胴込め土砂を蓄えて植生を施すことができる繁茂可能な空間を有するものの、以下に述べるような問題点があった。
【0005】
特許文献1で知られるような上下に貫通した空洞部を有するポット型のコンクリートブロックは、空洞部が完全に上下に連続しているため、一部の土砂が流出すると、結果として全体の土砂の流出に繋がる。
【0006】
特許文献2で知られるようなブロック下部に底板を有する緑化用のコンクリートブロックは、底板を有するため、上記ポット型のコンクリートブロックに比べて一部の土砂流出が全体に繋がることはない。しかしながら、ブロック内の土砂は、底板の影響により各段で途切れてしまい、連続性が保たれない。また、法面前面部が大きく開いているため、該法面前面部から土砂が流出する可能性がある。
【0007】
特許文献3で知られるようなブロック前面に植栽用の貫通孔を有するコンクリートブロックは、貫通孔が法面に対して直角に設けられる。これは植物の種子の定着のしやすさという点では、あまり好ましくない。また、前面部からの土砂の流出の危険性を軽減する目的で、前面部に設けられた貫通孔はあまり大きな面積を有するものではないので、植生がしにくい。
【0008】
また、環境保全型ブロックを使用した急勾配の護岸・擁壁は、河川に立ち入った人が増水から避難する時にブロックを利用して護岸・擁壁を登ることが難しい。特に、集中豪雨や台風等で河川が増水した場合、中小河川では急激に水位が上昇することが多い。この水位の上昇は、河川内で活動していた人たちを取り残し、自力で避難することが困難な状況を作り出す。また、河川に転落する人や遊泳中に流される人もいる。こうした人たちが一時的に流水から身体を護り、河川から脱出できるようにすることが望まれるが、従来の環境保全ブロックでは流水から一時的に身体を護り、また、河川から容易に脱出できるようにした構造のものは存在していなかった。
【0009】
そこで、植生に適した環境を作り、河川等が本来有している植生の回復、及び、保全を図ることができる護岸を簡単に構築できるとともに、河川に転落した人が流水から一時的に身体を護り、また、河川から容易に脱出できるようにした環境保全型ブロックを提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、植生可能な擁壁を構成する環境保全型ブロックにおいて、左右の側面壁と、両端側部を該左右の側面壁よりも左右方向に大きく突出させて該左右の側面壁の前後端にそれぞれ別れて配設されている前面壁及び後面壁と、前記左右の側面壁と前記前面壁と前記後面壁とにより囲まれる土砂充填空間の底部を閉塞して配設された底面壁とを有するブロック体として構成されているとともに、該ブロック体に、該ブロック体の前記左右の側面壁の外側2箇所にそれぞれ上下及び1側を開口させて形成されているコンクリート充填空間と、前記前面壁の一部を下側から上側斜め前方に向かって平面視内向きコ字状に突出させて、前記土砂充填空間から連通している前面突出空間を形成してなる前面突き出し部と、前記底面壁に上下に貫通させて形成してなる1個若しくは複数個の水抜き孔と、上記前面壁の左右両側部のうちの少なくとも上流側に位置する側部に流水に対してほぼ直角方向に形成した人が手を掛けてつかまるための1個若しくは複数個の避難用凹部を設けた環境保全型ブロックを提供する。
【0011】
この構成によれば、このブロックが護岸・擁壁等に沿って適宜積み上げられたとき、前面突き出し部により作られている前面突出空間の上面開口部分が前面壁より前方に飛び出し、該前面突出空間に入れられた胴込め土砂の上部(上面開口部)に植物の種子等が定着しやすい水平面ができる。また、水位が上昇し護岸近くを水が流れるとき、前面突き出し部がブロックの表面流速を抑える。さらに、底壁面に1個もしくは複数個の貫通孔を設けることで、上下のブロック間における土砂の連続性が確保できる。加えて、左右の側面壁の外側2箇所に設けたコンクリート充填空間を上下、または/及び、左右で隣接し合う位置に積み上げられているブロック同士を互いに対峙させ、その後、該コンクリート充填空間内にコンクリートを充填すると、上下、または/及び、左右のブロック同士が互いに連結される。
【0012】
また、このブロックが適宜積み上げられて構築された護岸・擁壁は、前面壁の上流側に位置する側部に該避難用凹部を流水に対して直角方向に向けて設けているので、人が河川に転落したようなとき、転落した人は避難用凹部に手を掛けてブロックにつかまり、身体を支えて流水に飲み込まれることを防ぐことができる。
【0013】
請求項2記載の発明は、上記前面壁の左右両端側部にそれぞれ上記避難用凹部を設けた環境保全型ブロックを提供する。
【0014】
この構成によれば、人が河川に転落したようなとき、転落した人は前面壁の左右両端側部に設けられている避難用凹部にそれぞれ両手を掛けてブロックにしっかりとつかまり、身体を支えて身体が流水に飲み込まれることを防ぐことができる。また、避難用凹部は避難用の取手として使用できる他に、施工作業時に仮に据え付けたブロックの位置を微少量だけ動かすとき、作業者が該ブロックの左右両端側部の避難用凹部にそれぞれ両手を掛けて動かすことにより、該ブロックを簡単に動かすことができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、上記前面突き出し部の内面上部に、人が手を掛けて該前面突き出し部の上部につかまるための昇降用凹部を設けた環境保全型ブロックを提供する。
【0016】
この構成によれば、前面突き出し部の内面上部に昇降用凹部を設けているので、河川内で人が活動する場合、昇降用凹部に手を掛けて護岸を昇降できる。また、河川に転落し、かつ、流れが中間的な流速のようなとき、転落した人は避難用凹部と昇降用凹部、及び、数段下方の前面突き出し部を使用して護岸・擁壁を登り、河川から脱出することができる。
【0017】
請求項4記載の発明は、上記水抜き孔は、上記土砂充填空間側の入口を広く、上記底壁裏面側の出口に向かって幅が徐々に狭まる形状としてなる環境保全型ブロックを提供する。
【0018】
この構成によれば、土砂充填空間側の入口が広く、上記底壁裏面側の出口が徐々に狭まる形状としたことにより、土砂充填空間に入れられた土砂が下部ブロック側に流出しにくくなる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明は、ブロックが護岸・擁壁等に沿って適宜積み上げられたとき、前面壁より前方に飛び出している前面突出空間内に土砂の水平面ができ、この土砂の水平面が植物の種子等が定着しやすい環境を提供するので、さらに植生を繁茂にする環境が提供できる。また、前面突き出し部が、ブロックの表面流速を抑え、土砂の流出を抑える。しかも、上面に開口を有する構成にしているので、土砂の流出が少ない。さらに、底壁面に1個もしくは複数個の貫通孔を設けることで、上下のブロック間における土砂の連続性が確保でき、植生という点から見ても水の供給が連続的に行われ、よりよい生息環境を提供することができる。加えて、左右の側面壁の外側2箇所に設けたコンクリート充填空間内にコンクリートを充填して、上下、または/及び、左右のブロック同士を簡単、かつ、強固に連結して、強度の高い擁壁を構築することができるという利点がある。
【0020】
また、このブロックを適宜積み上げて構築した護岸は、河川に転落したようなとき、転落した人は該避難用凹部に手を掛けてブロックにつかまって身体を支え、身体が流水に飲み込まれることを防ぐことができるので、安全性が確保できる。
【0021】
請求項2記載の発明は、人が河川に転落したようなとき、転落した人は左右の避難用凹部にそれぞれ両手を掛けてつかまり、身体を支えて流水に飲み込まれることを防ぐことができるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、安全性がより一層確保できる。
【0022】
また、前面壁の左右両側にそれぞれ避難用凹部を設けているので、該避難用凹部が避難用の取手として使用できる他に、施工作業時に、作業者が仮に据え付けたブロックの左右両端側部に設けられている避難用凹部をそれぞれ手で持って動かし、ブロックの位置を簡単に微調整することができる。これにより、請求項1記載の発明の効果に加えて、作業性の向上も期待できる。
【0023】
請求項3記載の発明は、河川内で人が活動する場合、昇降用凹部に手を掛けて昇降できる。また、人が河川に転落し、かつ、流れが激流ではなく、中間的な流速のようなとき、転落した人は避難用凹部と昇降用凹部、及び、数段下方の前面突き出し部を使用して護岸を登り、河川から脱出することができるので、請求項1または2記載の発明の効果に加えて、河川からの脱出をより一層簡単にすることができるという利点がある。
【0024】
請求項4記載の発明は、土砂充填空間側の入口が広く、上記底壁裏面側の出口が徐々に狭まる形状としたことにより、土砂充填空間に入れられた土砂が下部ブロック側に流出しにくいので、請求項1,2または3記載の発明の効果に加えて、常に定量の土砂を確保し、植生の繁茂に寄与できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、植生に適した環境を作り、河川等が本来有している植生の回復、及び、保全を図ることができる擁壁を簡単に構築できるとともに、河川に転落した人が一時的に流水から身体を護り、また、河川から容易に脱出できる環境保全型ブロックを提供するという目的を達成するために、植生可能な擁壁を構成する環境保全型ブロックにおいて、左右の側面壁と、両端側部を該左右の側面壁よりも左右方向に大きく突出させて該左右の側面壁の前後端にそれぞれ配設されている前面壁及び後面壁と、前記左右の側面壁と前記前面壁と前記後面壁とにより囲まれる土砂充填空間の底部を閉塞して配設された底面壁とを有するブロック体として構成されているとともに、該ブロック体に、該ブロック体の前記左右の側面壁の外側2箇所にそれぞれ上下及び1側を開口させて形成されているコンクリート充填空間と、前記前面壁の一部を下側から上側斜め前方に向かって平面視内向きコ字状に突出させて、前記土砂充填空間から連通している前面突出空間を形成してなる前面突き出し部と、前記底面壁に上下に貫通させて形成してなる1個若しくは複数個の水抜き孔と、上記前面壁の左右両側部のうちの少なくとも上流側に位置する側部に流水に対してほぼ直角方向に形成した人が手を掛けてつかまるための1個若しくは複数個の避難用凹部を設けたことにより実現した。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の環境保全型ブロックについて、好適な実施例をあげて説明する。図1〜図5は本発明の一実施の形態に係る環境保全型ブロック(以下、単に「ブロック」という)を示し、図1は正面側より見た該ブロックの斜視図、図2は該ブロックの正面図、図3は該ブロックの平面図、図4は該ブロックの側面図、図5は図2のA−A線断面に相当する該ブロックの断面図である。
【0027】
図1〜図5において、ブロック1は、コンクリート材による成形品であり、左右の側面壁2,2と、該左右の側面壁2,2の前側端部に直角に配設されている前面壁3と、該左右の側面壁2,2の後側端部に直角に配設されている後面壁4と、該左右の側面壁2,2と該前面壁3と該後面壁4とにより囲まれた土砂充填空間5の底部を閉塞している底面壁6とを一体に設けて、1つのブロック体として形成されている。
【0028】
また、前記前面壁3と前記後面壁4の左右幅は共に前記左右の側面壁2,2間の幅よりも十分大きく、そして、前面壁3及び後面壁4は、左右の側部3a,3b、4a,4bを該左右の側面壁2,2よりもそれぞれ左右方向外側に大きく突出させた状態にして設けられている。これにより、一方の側面壁2の外側には、該側面壁2と前面壁3の側部3aと後面壁4の側部4aで囲まれ、かつ、上下面と一側面がそれぞれ開口されて成るコンクリート充填空間7aが設けられている。また、他方の側面壁2の外側には、該側面壁2と前面壁3の側部3bと後面壁4の側部4bとで囲まれ、かつ、上下面と一側面がそれぞれ開口されて成るコンクリート充填空間7bが設けられている。
【0029】
さらに、前記後面壁4には、該後面壁4の上端より下端(底面壁6)側に向かって切欠された背面切欠部8が設けられ、前記左右の側面壁2,2のうち、一方の側面壁2には左右に貫通している吊り上げ用の側面孔9が設けられている。また、図3及び図5に示すように、前記底面壁6の略中央部には、上下方向に貫通して水抜き孔10が設けられている。該水抜き孔10は、平面視四角形の孔で、土砂充填空間5側の入口から底面壁6の裏面(下面)側出口に向かって幅が徐々に狭まる逆四角錐の形状をなしている。なお、水抜き孔10は、逆四角錐の他に、逆円錐形若しくは逆多角錐等であってもよく、その数も必要に応じて1個以上、複数個設けてもよい。
【0030】
また、前記前面壁3の上部には前面突き出し部11が設けられている。該前面突き出し部11は、該前面壁3の一部を下側から上側斜め前方に向かうように、該前面壁3の上下方向における途中の位置から該前面壁3よりも外側に突出させて平面視内向きコ字状に形成されている。そして、該突き出し部11は、該前面壁3の外側に突き出した上部に、上面が開口された上面開口部12aを有する空間で、かつ、前記土砂充填空間5と連通している前面突出空間12を形成している。該前面突出空間12は、ブロック1が上下方向に積み重ねられたときに、上面開口部12aが前面壁3から前方へ水平に突出した状態で配置される。なお、該前面突き出し部11の上下方向の間隔は、人が昇降し易いように例えば垂直距離で約447ミリ程度となるように形成してある。加えて、突き出し部11の内面上部には、図3,図5に示すように、左右方向(水流方向)に延びる溝状をした昇降用凹部13が設けられている。該昇降用凹部13は、前面突き出し部11の先端上部を人が手でつかんで掴まるときに、指を掛けるのに適した大きさ、及び、深さに設定されている。
【0031】
前記前面壁3における左右の側部3a,3bの上下端には、それぞれ左右の側面から内側に向かって平面視外向きコ字状に形成された避難用凹部14,14が上下方向(縦方向)、すなわち流水に対してほぼ直角方向に向けて設けられている。該避難用凹部14,14は、図3に示すように、前面側の溝壁14a,14aの左右方向に向かう突出量を後面側の溝壁14bの左右方向に向かう突出量よりも小さく形成し、また、前面側の溝壁14a(以下、この部分を取手14aという)の厚みは人が手で適度につかめる厚みが確保されている。なお、取手14aの断面形状は、人が手で持ち易いように多角形若しくは実施例のように半円形状に形成されている。
【0032】
次に、図1〜図5に示したブロック1を使用して構築した護岸・擁壁50の一例を図6及び図7を用いて説明する。なお、図6は護岸・擁壁の側面断面図、図7は図6のB−B線断面に相当する護岸・擁壁の断面拡大図である。
【0033】
以上のように構成されているブロック1を使用して護岸・擁壁50を構築するに当たっては、まず、図6に示すように、構築位置に砕石等の突き固めにより所要範囲にわたって基礎工事51が施され、その上に図示しない適宜の型枠が立てられて基礎コンクリート52が打設形成される。
【0034】
次いで、前面壁3を外側、後面壁4を内側にし、また、土砂充填空間5の上面開口部12aを水平に保持して、1段目のブロック1を積み、法面53上に裏込め砕石54を詰める。このとき、図7に示すように、左右の隣り合うブロック1,1のコンクリート充填空間7a,7b同士を突き合わせ、さらに該コンクリート充填空間7a,7b内に胴込めコンクリート(図示せず)を流し込んで隣り合うブロック1,1同士を固定して補強する。なお、ブロック1,1のコンクリート充填空間7a,7bの突き合わせでは、取手(前面側の溝壁14a)の左右方向に向かう突出量が後面側の溝壁14bのそれぞれ左右方向に向かう突出量よりも小さく形成されているので、隣り合うブロック1,1の取手14a,14aの間に、人が避難用凹部14内に指先を差し込んで取手14aをつかむのに適した隙間σが作られる。
【0035】
続いて、図6に示すように、上面開口部12aが略水平に維持されているブロック1,1…の土砂充填空間5内と前面突出空間12内に現地発生の胴込め土砂56を詰め込んで上面開口部12aと水平に胴込め土砂56を内在させることで、1段目の護岸・擁壁50が構築される。
【0036】
また、1段目の護岸・擁壁50が形成されたら、1段目のブロック1の上側に、1段目のブロック1のコンクリート充填空間7a,7bと2段目のブロック1のコンクリート充填空間7a,7bを上下で一致させるとともに、土砂充填空間5の上面開口部12aを水平に保持して、2段目の隣り合う左右のブロック1,1のコンクリート充填空間7a,7b同士を突き合わせる。次いで、該コンクリート充填空間7a,7b内に胴込めコンクリート(図示せず)を流し込み、左右のブロック1,1間と上下のブロック1,1間を同時に固定して補強する。
【0037】
続いて、上面開口部12aが略水平に維持されている2段目のブロック1,1…の土砂充填空間5内と前面突出空間12内に現地発生の胴込め土砂56を詰め込んで上面開口部12aと水平に胴込め土砂56を内在させると、2段目の護岸・擁壁50が構築される。以下、同様にして、3段目、4段目…を構築して行き、所定段の構築を終えたら、天端に天端コンクリート57を打設すると終了し、図6に示す護岸・擁壁50が形成される。
【0038】
このように構築された護岸・擁壁50は、前面突き出し部11により形成された前面突出空間12に内在された胴込め土砂56が、前面壁3の外側に突き出している前面突出空間12の上面開口部12a内に露出される。したがって、該上面開口部12内に露出している胴込め土砂56上に現地本来の植生を繁茂させることができ、環境保全型の護岸・擁壁を実現することができる。なお、根入部には、植生の繁茂等は不要であるので、コンクリートのみの構造としてもよい。
【0039】
また、このように構築された護岸・擁壁50は、ブロック1が護岸に沿って適宜積み上げられたとき、前面壁3より前方に飛び出している前面突出空間12に内在された土砂の上面は水平に保たれるので、植物の種子等が定着しやすい環境を提供できる。さらに、水位が上昇した護岸近くを水が流れるとき、前面突き出し部11がブロック1上の表面流速を抑えて土砂の流出を防ぐので、植生をより一層繁茂にする環境が作られる。しかも、上面に開口を有する構成にしているので、土砂の流出が少なくて済む。さらに、底壁面6に1個もしくは複数個の水抜き孔(貫通孔)10を設けることで、上下のブロック間における土砂の連続性が確保でき、植生という点から見ても水の供給が連続的に行われることで、よりよい生息環境を提供することができる。加えて、左右の側面壁2,2の外側2箇所に設けたコンクリート充填空間7a,7b内にコンクリートを充填して、上下、及び、左右のブロック1,1,1間を互いに簡単、かつ、強固に連結することができるので、大きな強度を有する護岸・擁壁を構築することができる。
【0040】
また、人が河川に転落したようなとき、昇降用凹部13及び前面突き出し部11を使用して河川から脱出し、あるいは避難用凹部14を使用して身体を支え、身体が流水に飲み込まれるのを防ぐことができるもので、これを図9〜図11を用いて説明する。
【0041】
例えば、平時の水量において河川に転落した場合や増水時であっても流速がまだ遅いときは、図9に示すように、転落した人は昇降用凹部13と前面突き出し部11の上端部に手を掛けるとともに、該手を掛けた前面突き出し部11の数段下方の前面突き出し部13に足を掛けて護岸・擁壁50を登り、河川から脱出することができる。
【0042】
流水が激しくなると、昇降用凹部13は、流水方向に対して平行に設置しているため、昇降用凹部13に掛けた指が滑り、身体を支えることが難しくなり、図10に示すように、身体が流水に対して正面あるいは斜めに向く可能性が大きく、身体が受ける流水力が大きくなる。また、昇降用凹部13は、前面突き出し部11の内側に設けられているが、昇降するために前面突き出し部11に手を掛ければ十分にその機能を発揮するが、洪水時等の緊急の際は、人間の判断力も衰えるために昇降用凹部13の存在を見落とす場合も想定できる。
【0043】
そして、昇降用凹部13を見逃したような場合や、流水が激しくなり、昇降用凹部13を使用して河川からの脱出が難しいような場合、図11に示すように、転落者は緊急避難的に避難用凹部14に掴まることにより身体を支えることができ、身体が流水に飲み込まれることを防ぐことができる。また、人が避難用凹部14に手を掛けた場合、流水に対して身体が側面を向くため、正面に比べて受ける流水力は小さくなる。
【0044】
また、中間的な流速の場合は、避難用凹部14と昇降用凹部13を使用して護岸・擁壁50を登り、河川から脱出することもできる。
【0045】
しかも、本実施例のブロック1が適宜積み上げられて構築された護岸・擁壁50は、ブロック1の側部3a,3bに避難用凹部14を流水に対して直角方向に向けて設けているので、次のような効果も得られる。
(1)河川に転落したようなとき、該避難用凹部14に手を掛けても、流水による指の滑りがなく、しっかりと確実につかまって身体を支えることができる。
(2)人が避難用凹部に手を掛けた場合、例えば図11に示す状態となり、流水に対して身体が側面(流水方向と平行)を向くため、身体が正面を向いているのに比し受ける流水力が小さくなる。
(3)前面壁3に上面開口部12aを有しているため、河川内に入る人にとって視認し易く、自然と上面開口部に手を差し入れて掴むことができる。
(4)避難用凹部14を前面壁3の両側部3a,3bに設けることにより、環境保全用ブロックの外観を損なうことなく護岸・擁壁を構築できる。
(5)避難用凹部14は避難用の取手としての機能が求められるが、ブロック1を据え付けた後に、例えば図12に示すように、該避難用凹部14を用いてブロック1の位置が微調整できる。
【0046】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施の形態に係る環境保全型ブロックの斜視図。
【図2】同上ブロックの正面図。
【図3】同上ブロックの平面図。
【図4】同上ブロックの側面図。
【図5】図2のA−A線に相当する同上ブロックの断面図。
【図6】本発明のブロックを使用して形成された護岸・擁壁の側断面図。
【図7】図6のB−B線断面に相当する護岸・擁壁の断面拡大図。
【図8】図6の護岸・擁壁における避難用凹部の使用状態の説明図。
【図9】図6の護岸・擁壁における昇降用凹部の使用説明図。
【図10】図6の護岸・擁壁における避難用凹部の使用説明図。
【図11】図6の護岸・擁壁における避難用凹部の使用説明図。
【図12】護岸工事で避難用凹部を使用するときの機能説明図。
【符号の説明】
【0048】
1 環境保全型ブロック
2 側面壁
3 前面壁
3a,3b 側部
4 後面壁
4a,4b 側部
5 土砂充填空間
6 底面壁
7a,7b コンクリート充填空間
8 背面切欠部
9 側面孔
10 水抜き孔
11 前面突き出し部
12 前面突出空間
12a 上面開口部
13 昇降用凹部
14 避難用凹部
14a 前面側の溝壁(取手)
14b 後面側の溝壁
50 護岸・擁壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植生可能な擁壁を構成する環境保全型ブロックにおいて、
左右の側面壁と、両端側部を該左右の側面壁よりも左右方向に大きく突出させて該左右の側面壁の前後端にそれぞれ別れて配設されている前面壁及び後面壁と、前記左右の側面壁と前記前面壁と前記後面壁とにより囲まれる土砂充填空間の底部を閉塞して配設された底面壁とを有するブロック体として構成されているとともに、
該ブロック体に、該ブロック体の前記左右の側面壁の外側2箇所にそれぞれ上下及び1側を開口させて形成されているコンクリート充填空間と、前記前面壁の一部を下側から上側斜め前方に向かって平面視内向きコ字状に突出させて、前記土砂充填空間から連通している前面突出空間を形成してなる前面突き出し部と、前記底面壁に上下に貫通させて形成してなる1個若しくは複数個の水抜き孔と、上記前面壁の左右両側部のうちの少なくとも上流側に位置する側部に流水に対してほぼ直角方向に形成した人が手を掛けてつかまるための1個若しくは複数個の避難用凹部を設けたことを特徴とする環境保全型ブロック。
【請求項2】
上記前面壁の左右両端側部にそれぞれ上記避難用凹部を設けたことを特徴とする請求項1記載の環境保全型ブロック。
【請求項3】
上記前面突き出し部の内面上部に、人が手を掛けて該前面突き出し部の上部につかまるための昇降用凹部を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の環境保全型ブロック。
【請求項4】
上記水抜き孔は、上記土砂充填空間側の入口を広く、上記底壁裏面側の出口に向かって幅が徐々に狭まる形状としてなることを特徴とする請求項1または2記載の環境保全型ブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−209623(P2010−209623A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58786(P2009−58786)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(594140993)
【Fターム(参考)】