説明

環境対応型熱可塑性樹脂組成物

【課題】、植物由来樹脂である11−ナイロン樹脂とABS系樹脂からなる、環境負荷が低く、かつ強度および寸法安定性のバランスに優れる環境対応型熱可塑性樹脂組成物の提供。
【解決手段】11−ナイロン(A)10〜80重量部、重量平均粒子径0.15μm未満のゴム質重合体と芳香族ビニルおよび共重合可能な他の単量体からなるグラフト共重合体(B)10〜80重量部、重量平均粒子径0.15μm以上のゴム質重合体と芳香族ビニルおよび共重合可能な他の単量体からなるグラフト共重合体(C)10〜80重量部、不飽和カルボン酸0.5〜20重量%、芳香族ビニル50〜89.5重量%およびシアン化ビニル10〜49.5重量%を重合してなる変性共重合体(D)1〜40重量部および芳香族ビニル50〜90重量%およびシアン化ビニル10〜50重量%を重合してなる共重合体(E)0〜50重量部からなる環境対応型熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境対応型熱可塑性樹脂組成物に関するものである。詳しくは、植物由来樹脂である11−ナイロン樹脂とABS系樹脂からなる強度および寸法安定性のバランスに優れた環境対応型熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、成形性、耐熱性、機械的強度、耐薬品性、耐磨耗性に優れることから、機械部品、電気・電子部品および自動車部品等に広く使われているが、乾燥状態での耐衝撃強度の低下、吸湿による寸法変化や抗張力の低下等の問題点がある。また、代表的なポリアミド樹脂である6−ナイロンは特定の薬品に対して分子量低下を引き起こしやすいことが知られている。一方、代表的なゴム強化樹脂として、ABS樹脂やABS樹脂のゴム成分をエチレン−プロピレン系ゴムやアクリル系ゴムへ置換したAES樹脂およびAAS樹脂も自動車部品、電子・電気部品、自動車部品等に多用されており、耐衝撃性および寸法精度が優れるが、耐薬品性が相対的に劣る問題がある。
これらの問題を改良するためにポリアミド樹脂およびABS樹脂を溶融混合することが提案されているが、ポリアミド樹脂とABS樹脂の相溶性が悪く、成形品が層状剥離状態を示し、衝撃強度の低い材料しか得られないことが知られている。
そのため、ポリアミド樹脂とABS樹脂の相溶性を向上させるために、ポリアミドと反応性または親和性を有するカルボン酸等の官能基をABS系樹脂に導入することが提案されている(特開平1−158号、特開平10−158508号、特開2000−17170号)が、衝撃強度や寸法安定性が未だ不十分である。
さらに、近年、環境対応型の樹脂として、植物由来樹脂の一つである11−ナイロン樹脂が注目されているが、これまで11−ナイロン樹脂とABS系樹脂からなる樹脂アロイについての検討はなされていないのが現状である。
【特許文献1】特開平1−158号
【特許文献2】特開平10−158508号
【特許文献3】特開2000−17170号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、植物由来樹脂である11−ナイロン樹脂とABS系樹脂からなる、環境負荷が低く、かつ強度および寸法安定性のバランスに優れる環境対応型熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、11−ナイロン樹脂とABS系樹脂からなる樹脂アロイの改良について鋭意検討した結果、特定の粒子径を持つ2種類のグラフト重合体と特定の共重合体を配合してなる組成物とすることにより、強度および寸法安定性のバランスに優れる環境対応型熱可塑性樹脂組成物が得られることを見い出し、本発明に到達したものである。
すなわち本発明は、11−ナイロン樹脂(A)10〜80重量部、数平均粒子径が0.15μm未満であるゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単量体から構成されるグラフト共重合体(B)10〜80重量部、数平均粒子径が0.15μm以上であるゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単量体から構成されるグラフト共重合体(C)10〜80重量部、不飽和カルボン酸単量体0.5〜20重量%、芳香族ビニル系単量体50〜89.5重量%およびシアン化ビニル系単量体10〜49.5重量%を重合してなる不飽和カルボン酸変性共重合体(D)1〜40重量部および芳香族ビニル系単量体50〜90重量%およびシアン化ビニル系単量体10〜50重量%を重合してなる共重合体(E)0〜50重量部からなることを特徴とする環境対応型熱可塑性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、植物由来樹脂である11−ナイロン樹脂とABS系樹脂からなる、環境負荷が低く、かつ強度および寸法安定性のバランスに優れる環境対応型熱可塑性樹脂組成物が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の環境対応熱可塑性樹脂組成物につき詳細に説明する。
−11−ナイロン樹脂(A)−
本発明の環境対応型熱可塑性樹脂組成物を構成する11−ナイロン樹脂(A)とは、ひまし油から得られたリシノレイン酸エステルを熱分解してウンデレシン酸を製造、これを基にさらに工程を経て製造された11-アミノウンデカン酸を縮重合して得られるものであり、ひまし油を原料とした植物由来のポリマーである。このような11−ナイロン樹脂としては、例えばアルケマ株式会社製 Rilsan Bシリーズとして入手可能である。
【0007】
−グラフト共重合体(B)−
グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体としては、重量平均粒子径が0.15μm未満であり、ゴム質を示す重合体であれば特に限定はないが、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体等のジエン系(共)重合体、さらにはこれらジエン系(共)重合体の水素添加ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1−非共役ジエン共重合体、アクリルゴム等が挙げられる。
これらのうち、特にポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、アクリルゴムが好ましい。
【0008】
グラフト共重合体(B)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、メチル−α−メチルスチレン、臭素化スチレン等が挙げられるが、特に、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0009】
また、共重合可能な他の単量体としては、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、不飽和酸単量体、マレイミド系単量体の群から選ばれた少なくとも1種の単量体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記のシアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等が挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、等が挙げられるが、特にメタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸フェニルが好ましい。不飽和酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられるが、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸が好ましい。マレイミド系単量体としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられるが、特にN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドが好ましい。
【0010】
グラフト共重合体(B)を構成する各成分の組成割合については特に制限はないが、ゴム質重合体1〜80重量部、芳香族ビニル系単量体10〜89重量部およびこれと共重合可能な他の単量体10〜89重量部(合計100重量部)であることが好ましく、特に共重合可能な他の単量体として、シアン化ビニル系単量体および/または(メタ)アクリル酸エステル系単量体を使用することが好ましい。
グラフト共重合体(B)の製造方法については特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合、乳化重合など通常の公知の方法が用いられる。
【0011】
−グラフト共重合体(C)−
本発明におけるグラフト重合体(C)に用いられるゴム状重合体は重量平均粒子径が0.15μm以上であり、ゴム質を示す重合体であれば特に限定はなく、グラフト重合体(B)で例示されたものと同一のものを使用することが可能であり、また、各種単量体についてもグラフト重合体(B)で例示されたものと同一のものを使用することが可能である。
さらに、グラフト共重合体(C)を構成する各成分の組成割合についても特に制限はないが、ゴム質重合体1〜80重量部、芳香族ビニル系単量体10〜89重量部およびこれと共重合可能な他の単量体10〜89重量部(合計100重量部)であることが好ましく、特に共重合可能な他の単量体として、シアン化ビニル系単量体および/または(メタ)アクリル酸エステル系単量体を使用することが好ましい。
なお、グラフト共重合体(C)の製造方法については特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合、乳化重合など通常の公知の方法が用いられるが、特に1)重量平均粒子径0.05〜0.15μm未満の小粒子ジエン系ゴムラテックスを重量平均粒子径0.15μm以上に凝集肥大化させたジエン系ゴムラテックスの存在下に芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単量体を乳化グラフト重合してなるグラフト共重合体、又は2)塊状重合法によって重合されたグラフト共重合体であることが望ましい。なお、グラフト共重合体(C)を構成するゴム状重合体の重量平均粒子径の上限には特に制限はないが、上記1)の場合には0.8μm、2)の場合には3μmである。
【0012】
本発明においては、上記特定の粒子径を有するグラフト重合体(B)およびグラフト重合体(C)を併用することが重要であり、どちらか一方のみでは強度および寸法安定性のバランスが低下するため好ましくない。
【0013】
−共重合体(D)−
本発明において用いられる不飽和カルボン酸変性共重合体(D)とは、不飽和カルボン酸単量体0.5〜20重量%、芳香族ビニル系単量体50〜89.5重量%およびシアン化ビニル系単量体10〜49.5重量%を重合してなる共重合体である。
共重合体(D)の還元粘度については特に制限はないが、0.2〜1.2dl/gであることが好ましい。
共重合体(D)を構成する不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にメタクリル酸が好ましい。
芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体としては、グラフト共重合体(B)の項で例示したものと同様のものを使用することができる。
また、芳香族ビニル系単量体の一部を他の共重合可能なビニル系単量体、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体等に置換してもよい。
【0014】
上記共重合体(C)の製造においては公知の乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法を採用することができる。また、不飽和カルボン酸単量体の添加方法についても特に制限はなく、他の単量体と混合して重合系へ添加する方法、水溶液として添加する方法等を採用することができる。
なお、共重合体(C)の還元粘度については、重合温度、単量体の添加方法、使用する開始剤および例えばt−ドデシルメルカプタン等の重合連鎖移動剤の種類および量により適宜調整することができる。
【0015】
本発明において用いられる共重合体(D)とは、芳香族ビニル系単量体50〜90重量%およびシアン化ビニル系単量体10〜50重量%重合してなる共重合体である。
共重合体(D)を構成する芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体としては、グラフト共重合体(B)の項で例示したものと同様のものを使用することができる。
また、本発明においては、上記共重合体(D)を構成する芳香族ビニル系単量体の一部をマレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、O−クロル−N−フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体等に置換してもよい。
なお、共重合体(D)の還元粘度については何ら限定はないが、0.3〜1.2dl/gの範囲であることが好ましい。
【0016】
上記共重合体(D)の製造においては、公知の乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法を採用することができる。
【0017】
本発明における11−ナイロン樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、グラフト重合体(C)、不飽和カルボン酸変性共重合体(D)および共重合体(E)の配合割合は、(A)10〜80重量部、(B)10〜80重量部、(C)10〜80重量部(D)1〜40重量部および(E)0〜50重量部〔但し(A)、(B)、(C)、(D)および(E)の合計を100重量部とする〕であり、この範囲外では本発明の目的とする組成物が得られないため好ましくない。
また、組成物の物性バランスの観点から、組成物全体に占めるゴム質重合体の含有量は5〜40重量%の範囲であることが好ましい。
【0018】
11−ナイロン樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、グラフト共重合体(C)不飽和カルボン酸変性共重合体(D)および共重合体(E)の混合順序ならびにその状態には何ら制限はなく、パウダー、ペレットなどの形態による、(A)、(B)、(C)、(D)および(E)成分の一括同時混合、特定の二成分を予備混合した後残る成分を混合する方法が例示される。これらの溶融混合に際してはバンバリーミキサー、ロール、押出機等を用いることができる。
なお、混合に際し、必要に応じてポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、6−ナイロン、66−ナイロン等の他のポリアミド、さらにポリ乳酸等の他の環境対応熱可塑性樹脂、さらには酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、離型剤、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維、金属フレーク等の公知の添加剤、補強材、充填材等を添加することができる。
【0019】
以下に本発明について詳細に説明する。尚、本発明はこれにより何ら制限を受けるものでは無い。また、部および%は何れも重量基準で示した。
【0020】
<11−ナイロン樹脂(A)>
A−1:アルケマ株式会社製 「Rilsan B BMN O」
A−2:アルケマ株式会社製 「Rilsan B BESN O」
<6−ナイロン樹脂>
A−i:ユニチカ株式会社製 「ユニチカナイロン6 A1030BRL」
【0021】
<参考例−1>
ジエン系ゴムラテックスの製造
耐圧容器に1,3−ブタジエン100部、t−ドデシルメルカプタン0.3部、過硫酸カリウム0.25部、ロジン酸ナトリウム2.5部、水酸化ナトリウム0.1部、純水170部を仕込み、80℃に昇温したのち重合を開始した。重合は10時間で終了させた。得られたジエン系ゴムラテックス(G−1)は、固形分37%、重量平均粒子径0.1μ、ゲル含有量90%であった。
なお、ゲル含有量は、ラテックスを乾燥させてフィルムを作製し、約1gを秤量した後、トルエンに23℃で48時間浸漬させた後、不溶分を100メッシュ金網で濾別・乾燥し、その重量%を測定した。
【0022】
<参考例−2>
凝集肥大化ジエン系ゴムラテックスの製造
耐圧容器に、参考例−1で得られたジエン系ゴムラテックス(G−1)270重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1部を添加して10分間攪拌混合した後、5%リン酸水溶液20部を10分間にわたり添加した。次いで10%水酸化カリウム水溶液10部を添加し、固形分34%、重量平均粒子径0.3μの凝集肥大化ジエン系ゴムラテックス(G−2)を得た。
【0023】
<グラフト共重合体(B)>
B−1:耐圧容器に、参考例−1で得られたジエン系ゴムラテックス(G−1)50部(固形分)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、過硫酸カリウム、0.3部を仕込み、70℃に昇温した後、スチレン35部およびアクリロニトリル15部からなる単量体混合物を5時間に亘って連続添加し、グラフト重合体ラテックスを得た。得られたラテックス100重量部(固形分)当たり酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤(住友化学工業社製:スミライザーBBM)1部およびトリスノニルフェニルホスファイト2部を添加した後、硫酸を用いて塩析・脱水・乾燥し、グラフト共重合体B−1を得た。
【0024】
<グラフト共重合体(C)>
C−1:ジエン系ゴムラテックス(G−2)を用いた以外はB−1と同様の方法によりグラフト共重合体C−1を得た。
【0025】
C−2:公知の塊状重合法により、グラフト共重合体中に分散するゴム状重合体としてポリブタジエン(重量平均粒子径0.45μm)10部、スチレン63部およびアクリロニトリル27部からなるグラフト共重合体を製造した。
【0026】
<不飽和カルボン酸変性共重合体(D)>
D−1:耐圧容器に、純水120部および過硫酸カリウム0.3部を仕込んだ後、攪拌下に65℃に昇温した。その後、スチレン67部、アクリロニトリル30部、メタクリル酸3部およびt−ドデシルメルカプタン1.5部からなる混合モノマー溶液およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部を含む乳化剤水溶液30部を各々5時間に亘って連続添加し、その後重合系を70℃に昇温し、3時間熟成して重合を完結した。その後、塩化カルシウムを用いて塩析・脱水・乾燥し、不飽和カルボン酸変性共重合体D−1を得た。得られた共重合体D−1の還元粘度は0.3であった。
D−2:スチレン60部、アクリロニトリル30部およびメタクリル酸10部に変更した以外はD−1と同様にして不飽和カルボン酸変性共重合体D−2を得た。得られた共重合体D−2の還元粘度は0.32であった。
【0027】
<共重合体(E)>
E−1:耐圧容器に、純水120部および過硫酸カリウム0.3部を仕込んだ後、攪拌下に65℃に昇温した。その後、スチレン70部、アクリロニトリル30部、およびt−ドデシルメルカプタン0.3部からなる混合モノマー溶液およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部を含む乳化剤水溶液30部を各々5時間に亘って連続添加し、その後重合系を70℃に昇温し、3時間熟成して重合を完結した。その後、塩化カルシウムを用いて塩析・脱水・乾燥し、共重合体E−1を得た。得られた共重合体E−1の還元粘度は0.6であった。
【0028】
〔実施例〕
表1に示す組成比率に基づき、上記の11−ナイロン樹脂(A)、グラフト共重合体(B)、グラフト共重合体(C)、不飽和カルボン酸変性共重合体(D)および共重合体(E)を2軸押出機(設定温度250℃)で一括混練し、各種組成物を得た。
【0029】
このようにして得られた各種組成物を、射出成形機(設定温度250℃、金型温度60℃)にて各種試験片を作成し、物性を評価した結果を表1に示す。なお、それぞれの評価方法を以下に示す。
【0030】
強度
ISO 179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きのシャルピー衝撃値を測定した。
単位:KJ/m2
曲げ弾性率
ISO 178に準拠し、4mm厚みで曲げ弾性率を測定した。
単位:MPa
寸法安定性
90mm×150mm×3mmtの寸法の平板作成用金型にて射出成形を実施し、得られた平板を成形後、23℃、50%RH恒温室内に24時間放置した後の長辺(150mm方向)の長さをL0とし、同平板を40℃、90%RHの条件下で200時間放置後の長さをL1とした場合、次式で表される値により評価を行った。
(L1−L0)/L0×100 (%)
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明の樹脂組成物は、植物由来樹脂である11−ナイロン樹脂とABS系樹脂からなる、環境負荷が低く、かつ強度および寸法安定性のバランスに優れる環境対応型熱可塑性樹脂組成物であり、車輌分野、家電分野、建材分野、サニタリー分野等に広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
11−ナイロン樹脂(A)10〜80重量部、重量平均粒子径が0.15μm未満であるゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単量体から構成されるグラフト共重合体(B)10〜80重量部、重量平均粒子径が0.15μm以上であるゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単量体から構成されるグラフト共重合体(C)10〜80重量部、不飽和カルボン酸単量体0.5〜20重量%、芳香族ビニル系単量体50〜89.5重量%およびシアン化ビニル系単量体10〜49.5重量%を重合してなる不飽和カルボン酸変性共重合体(D)1〜40重量部および芳香族ビニル系単量体50〜90重量%およびシアン化ビニル系単量体10〜50重量%を重合してなる共重合体(E)0〜50重量部からなることを特徴とする環境対応型熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
グラフト共重合体(C)が、重量平均粒子径0.05〜0.15μm未満の小粒子ジエン系ゴムラテックスを重量平均粒子径0.15μm以上に凝集肥大化させたジエン系ゴムラテックスの存在下に芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単量体を乳化グラフト重合してなるグラフト共重合体である請求項1記載の環境対応型熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
グラフト共重合体(C)が、塊状重合法によって重合されたグラフト共重合体である請求項1記載の環境対応型熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−214585(P2008−214585A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57665(P2007−57665)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】