説明

環境微生物検査用拭き取り器具

【課題】 塵等の固形物が容器本体内の希釈液中に混入した場合であっても、固形物を除去した検液を取り出すことができ、また、容器本体内の検液を取り出す検液取出口周囲に汚れや細菌が付着する危険性の無い環境微生物検査用拭き取り器具をえる。
【解決手段】 圧縮変形可能な胴部を有する筒状の容器本体3と、容器本体3の開口部4に着脱可能に装着される蓋体5と、蓋体5に基端部が固定或いは一体化され容器本体3内に挿入されるスティック部6と、スティック部6の先端に設けられて容器本体3の開口部4へ蓋体5を装着した状態で容器本体3内の希釈液2に浸漬される拭き取り用含浸体7とを備えてなり、容器本体3の底部9には、底部9から突出する小径筒状部により構成される検液取出口12を開口して設け、検液取出口12には菌を通過させるが塵等の固形物を通過させないフィルター14を配置しており、さらに検液取出口12には、検液取出口12を封止する栓14を着脱可能に装着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機関や食品製造所及び医薬品製造所などで使用される環境微生物検査用拭き取り器具に関する。
【背景技術】
【0002】
環境微生物検査には簡易な検査が開発されており、培養を主体とする従来法と、微生物による汚染度を判定できる試薬を使った方法などがある。
培養を主体とする従来法においては、一般的に拭き取り法(スワブ法とも呼ばれている。)によって、物体表面の付着菌を綿棒などで拭き取る操作が実施されている。例えば、機器、器具、作業台などの物体の表面を、リン酸緩衝液あるいは生理食塩水等の希釈液の一定量を含浸させた綿棒を用いて付着菌を拭き取る操作が実施されている。物体表面の付着菌を拭き取った綿棒を同一の溶液を収容した合成樹脂製の容器に入れ、激しく振り動かすか、または殺菌力を持たない程度の弱い超音波で振り動かす。このようにして得られた浸出液を検液として取り出し、この検液を培養した後、出現した細菌の集落を計測し、拭き取った面積の菌数を算出する。
【0003】
このような環境微生物検査に用いられる器具として、希釈液を収容する容器本体と、この容器本体の開口部に着脱可能に装着される蓋体と、この蓋体に固定された先端に綿球を備えた綿軸棒とを有し、蓋体には容器本体内外を連通し、容器本体内部の液を取り出し可能とする連通路が設けられ、かつ、この連通路の上端開口部を封止可能な上蓋を備えた環境微生物検査用拭き取り器具が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この環境微生物検査用拭き取り器具は、容器本体に収容された希釈液に浸漬されている綿球を用いて拭き取り操作を行った後、再度綿球を容器本体に収容することで、綿球に付着した細菌(検体)を希釈液中に回収し、その後、容器本体を逆さにして検液を蓋体に設けられている連通路から取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−344232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した環境微生物検査用拭き取り器具によれば、綿球で拭き取り操作を行った際に、塵等の固形物まで捕集してしまった場合、この塵等の固形物が希釈液中に混入してしまい、検液の取り出しや検査に支障をきたすといった問題がある。また、容器本体内から検液を取り出す開口部となる連通路が蓋体に設けられているが、この蓋体は先端に綿球を備えた綿軸棒を有しているため、物体表面の付着菌の拭き取り操作では必ず蓋体を把持して行われることから、把持した指を介して蓋体に汚れや細菌が付着する危険性がある。蓋体に汚れや細菌が付着すると、容器本体内から検液を取り出す際に、蓋体に設けられている開口部から滴下する検液が、蓋体に付着している汚れや細菌に触れて汚染され、検査結果の信頼性を損ねてしまうおそれがあることから、蓋体は検液を取り出す取り出し口を設ける箇所として好ましくないといった問題がある。
【0006】
本発明の目的は、塵等の固形物が容器本体内の希釈液中に混入した場合であっても、固形物を除去した検液を取り出すことができ、また、容器本体内の検液を取り出す検液取出口周囲に汚れや細菌が付着する危険性の無い環境微生物検査用拭き取り器具を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、圧縮変形可能な胴部を有する筒状の容器本体と、該容器本体の開口部に着脱可能に装着される蓋体と、該蓋体に基端部が固定或いは一体化され前記容器本体内に挿入されるスティック部と、該スティック部の先端に設けられて前記容器本体の開口部へ蓋体を装着した状態で容器本体内の希釈液に浸漬される拭き取り用含浸体とを備えてなり、前記容器本体の底部には、底部から突出する小径筒状部により構成される検液取出口が開口して設けられ、該検液取出口には菌を通過させるが塵等の固形物を通過させないフィルターが配置されており、さらに前記検液取出口には、該検液取出口を封止する栓が着脱可能に装着されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、前記容器本体の底部には、前記検液取出口を覆う帽体が設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の、前記検液取出口に装着される栓は、前記帽体と一体に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の環境微生物検査用拭き取り器具によれば、容器本体の底部に、底部から突出する小径筒状部により構成される検液取出口が開口して設けられ、該検液取出口には菌を通過させるが塵等の固形物を通過させないフィルターが配置されているので、拭き取り用含浸体で拭き取り操作を行った際に、塵等の固形物まで捕集してしまい、この塵等の固形物が希釈液中に混入した場合であっても、容器本体内の検液を検液取出口から取り出す際に検液取出口に配置されたフィルターにより検液から塵等の固形物が除去され塵等の固形物が混入していない検液を得ることができる。
【0011】
また、容器本体内から検体を取り出す検液取出口が容器本体の底部に設けられており、物体表面の付着菌の拭き取り操作時における取り扱いに際し、容器本体の底部周囲に指等が触れるようなことが無いので、検液取出口の周囲へ汚れや細菌が付着する危険性が無い。
【0012】
請求項2に記載の環境微生物検査用拭き取り器具によれば、請求項1に記載の、容器本体の底部に、検液取出口を覆う帽体が設けられているので、検液取出口の周囲への汚れや細菌の付着を防止することができる。
【0013】
請求項3に記載の環境微生物検査用拭き取り器具によれば、請求項2に記載の、検液取出口に装着される栓は、帽体と一体に形成されているので、容器本体の底部から帽体を外すと検液取出口を封止している栓も検液取出口から外れることになり、容器本体内の検液を検液取出口から取り出す際に、検液取出口の周囲に指等が触れることなく検液取出口を開口することができることから、検液取出口の周囲への汚れや細菌の付着を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る環境微生物検査用拭き取り器具の実施の形態の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す環境微生物検査用拭き取り器具の縦断面図である。
【図3】図1に示す環境微生物検査用拭き取り器具における検液取り出し状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る環境微生物検査用拭き取り器具の実施の形態の一例について、図面を参照しながら説明する。図1は本例に係る環境微生物検査用拭き取り器具を示す斜視図、図2は図1の環境微生物検査用拭き取り器具の縦断面、図3は図1に示す環境微生物検査用拭き取り器具における検液取り出し状態を示す縦断面図である。
【0016】
本例の環境微生物検査用拭き取り器具は、圧縮変形可能な胴部1を有し内部に希釈液2を収容した筒状の容器本体3と、容器本体3の開口部4に着脱可能に装着される蓋体5と、蓋体5に基端部が固定或いは一体化され容器本体3内に挿入されるスティック部6と、スティック部6の先端に設けられて容器本体3の開口部4へ蓋体5を装着した状態で容器本体3内の希釈液2に浸漬される拭き取り用含浸体7とを備えている。
【0017】
前記圧縮変形可能な胴部1を有する筒状の容器本体3にあっては、本例では高密度ポリエチレンなどの軟質の合成樹脂で形成されている。さらに詳細には、本例の容器本体3は、胴部1を形成する筒体8の一方の開口側に蓋体5を装着する開口部4を形成し、他方の開口側を閉じて底部9を形成した構成となっている。そして、開口部4の外周には、蓋体5の内周面に形成された後述するところの雌ネジ部に螺合する雄ネジ部10が形成されている。
【0018】
本例では容器本体3の開口部4及び底部9の部位の間を構成する胴部1は、圧縮変形をより容易にするために、開口部4及び底部9の部位に比べ肉薄に形成されている。また、胴部1は、容器本体3を持ち易すくし、また容器本体3の転がりを防止するため断面多角形に形成されており、また、内部が透視できるように透明或いは半透明となっている。
【0019】
容器本体3の開口部4に着脱可能に装着される蓋体5にあっては、その内周面に開口部4の外周に形成された雄ネジ部10に螺合する雌ネジ部11が形成されている。また、蓋体5の天井部5aの内面にはその中心位置にスティック部6の基端部が挿入されて固定される筒状のスティック支持部5bが一体に突設されて構成されている。
【0020】
このスティック部6の先端に設けられいる拭き取り用含浸体7にあっては、収縮性があり且つ液体を含浸出来る素材であれば特に限定されず、綿や合成繊維等の繊維質、発泡ウレタン等の合成樹脂、またはこれらの組合せの材質からなり、その形状にあっては、綿球状、匙状、リング状、細かい凹凸のあるもの等、細菌を採取しやすい構造となっている。本例では、拭き取り用含浸体7は希釈液2により劣化が生じず、且つ耐摩耗性のある発泡ウレタンや発泡ポリエチレンなどのスポンジ状の発泡合成樹脂で構成されている。
【0021】
また、前記の容器本体3の底部9には、底部9から突出する小径筒状部により構成される検液取出口12が開口して設けられている。この検液取出口12には、菌を通過させるが塵等の固形物を通過させないフィルター13が配置されており、さらに検液取出口12には、検液取出口を封止する栓14が着脱可能に装着されている。フィルター13にあっては、菌を通過させるが塵等の固形物を通過させないものであれば、その材質や構造は特に限定されない。
【0022】
本例では、容器本体3の底部9は胴部1と別体に構成され、底部9は胴部1の底部側に装着された底蓋体15により構成されており、この底蓋体15の天井部15aに前記の検液取出口12が設けられている。
【0023】
詳細には、胴部1の底部側の外周には、底蓋体15の内周面に形成された後述するところの雌ネジ部に螺合する雄ネジ部16が形成されている。また、胴部1の底部側に装着される底蓋体15にあっては、その内周面に胴部1の底部側の外周に形成された雄ネジ部16に螺合する雌ネジ部17が形成されている。そして、底蓋体15の天井部15aには前記検液取出口12が外方へ突出して設けられている。
【0024】
さらに、底蓋体15には、底蓋体15の天井部15aに被せて検液取出口12を覆う帽体18が設けられている。帽体18はヒンジ19を介して底蓋体15に取り付けられており、本例では、帽体18は薄肉により形成されるヒンジ19を介して底蓋体15と一体に構成されている。
【0025】
また、本例では、検液取出口12を封止する栓14は帽体18と一体に形成され、帽体18の内面に突出して設けられており、帽体18を底蓋体15の天井部15aに被せたとき、帽体18の内面に設けた栓14が底蓋体15の天井部15aに設けられている検液取出口12に挿入されて検液取出口12を封止するようになっている。
さらに、本例では容器本体3の胴部1に、容器本体3から取り出す検液の分注量を示す目盛り20が表示されている。
【0026】
このように構成された環境微生物検査用拭き取り器具は、リン酸緩衝液あるいは生理食塩水等の希釈液2が収容された容器本体3内にスティック部6の先端側を挿入することにより拭き取り用含浸体7が希釈液2に浸漬される。そして、蓋体5を容器本体3の開口部4に螺合して装着することにより容器本体3の開口部4が封止される。この状態で、高圧蒸気や放射線などで滅菌し、かかる状態で、保管や搬送が行われる。
【0027】
検体採取現場では、容器本体3から蓋体5を外し、スティック部6の先端に設けられた拭き取り用含浸体7を容器本体3から取り出し、拭き取り用含浸体7で物体表面を拭き取って物体表面に付着している細菌を採取する。その際、容器本体3からスティック部6の先端に設けられた拭き取り用含浸体7を取り出すときに、容器本体3の胴部1を押し潰して縮径させ、ここを通る拭き取り用含浸体7を絞り、余分な希釈液2を除去することにより、拭き取り用含浸体7における希釈液2の含浸量を適量にすることができる。
【0028】
そして、拭き取り用含浸体7による拭き取りを行った後、再度拭き取り用含浸体7を容器本体3内に挿入して、蓋体5を容器本体3の開口部4に螺合して装着する。これにより細菌を採取した拭き取り用含浸体7は再び希釈液2に浸漬され、この状態で容器本体3を振ることにより拭き取り用含浸体7で採取された細菌が希釈液2中に回収されて検液を得ることができる。
【0029】
このようにして得られた検液を容器本体3から取り出す場合、容器本体3の底部9を構成する底蓋体15の天井部15aから帽体18を外すとともに検液取出口12に挿入されている栓14を抜き取り、容器本体3の胴部1を押し潰して縮径させて、容器本体3内にある検液を検液取出口12から滴下させて取り出す。このとき、検液取出口12にはフィルター13が配置されているので、拭き取り用含浸体7による拭き取りにより塵等の固形物までもが希釈液中に混入した場合であっても、容器本体3内の検液を検液取出口12から取り出す際にフィルター13により検液から塵等の固形物が除去され塵等の固形物が混入していない検液が得られる。
【0030】
このようにして容器本体3から取り出された検液は、シャーレや試験管等の検査容器に所定量分注されるが、この際、本例では容器本体3の胴部に、容器本体3から取り出す検液の分注量を示す目盛り20が表示されているので、目盛り20を確認しながら滴下させることにより必要量の分注を確実に行うことができる。
【0031】
本例の環境微生物検査用拭き取り器具は上記のようにして使用されるが、容器本体3内から検体を取り出す検液取出口12は容器本体3の底部9に設けられているので、物体表面の付着菌の拭き取り操作時における取り扱いに際し、容器本体3の底部周囲に指等が触れるようなことが無く、検液取出口12の周囲へ汚れや細菌が付着する危険性が無い。特に本例では、容器本体3の底部9に検液取出口12を覆う帽体18が設けられているので、検液取出口12の周囲への汚れや細菌の付着を防止することができる。
【0032】
さらに、本例では検液取出口12に装着される栓14が帽体18と一体に形成されているので、容器本体3の底部9から帽体18を外すと検液取出口12を封止している栓14も検液取出口12から外れることになり、容器本体3内の検液を検液取出口12から取り出す際に、検液取出口12の周囲に指等が触れることなく検液取出口12を開口することができることから、検液取出口12の周囲への汚れや細菌の付着を確実に防止することができるとともに、検液取出口12からの栓14の取り外しを容易に行うことができる。
【0033】
また、本例では、容器本体3の底部9は胴部1と別体に構成され、底部9は胴部1の底部側に装着された底蓋体15により構成されており、この底蓋体15の天井部15aに前記の検液取出口12が設けられているので、容器本体3の底部9に検液取出口12を容易に設けることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 胴部
2 希釈液
3 容器本体
4 開口部
5 蓋体
5a 天井部
5b スティック支持部
6 スティック部
7 拭き取り用含浸体
8 筒体
9 底部
10 雄ネジ部
11 雌ネジ部
12 検液取出口
13 フィルター
14 栓
15 底蓋体
15a 天井部
16 雄ネジ部
17 雌ネジ部
18 帽体
19 ヒンジ
20 目盛り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮変形可能な胴部を有する筒状の容器本体と、該容器本体の開口部に着脱可能に装着される蓋体と、該蓋体に基端部が固定或いは一体化され前記容器本体内に挿入されるスティック部と、該スティック部の先端に設けられて前記容器本体の開口部へ蓋体を装着した状態で容器本体内の希釈液に浸漬される拭き取り用含浸体とを備えてなり、前記容器本体の底部には、底部から突出する小径筒状部により構成される検液取出口が開口して設けられ、該検液取出口には菌を通過させるが塵等の固形物を通過させないフィルターが配置されており、さらに前記検液取出口には、該検液取出口を封止する栓が着脱可能に装着されていることを特徴とする環境微生物検査用拭き取り器具。
【請求項2】
前記容器本体の底部には、前記検液取出口を覆う帽体が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の環境微生物検査用拭き取り器具。
【請求項3】
前記検液取出口に装着される栓は、前記帽体と一体に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の環境微生物検査用拭き取り器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−69778(P2011−69778A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222771(P2009−222771)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】