説明

環境水中の微量Seの簡易分析方法

【課題】上水、各種排水、地下水、河川水、土壌溶出水などの環境水中に含まれる微量Seを、簡便、迅速に高精度で定量できる環境水中の微量Seの簡易分析方法を提供する。
【解決手段】環境水を純水によって20倍以上に希釈する工程と、前記希釈後の環境水のpHを調整する工程と、前記pH調整後の環境水に2,3-ジアミノナフタレン(以下、DANと呼ぶ)を添加する工程と、前記DAN添加後の環境水を加温してDANのSe錯体を形成させる工程と、前記DANのSe錯体を有機溶媒で抽出する工程と、前記DANのSe錯体の抽出された有機溶媒中のSeを蛍光光度計を用いて標準添加法で定量する工程と、を有する環境水中の微量Seの簡易分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水、各種排水、地下水、河川水、土壌溶出水などの環境水中に含まれる微量Se(セレン)の簡易分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水などの上水、各種排水、地下水、河川水、土壌溶出水など環境水に対しては、人の健康に関わる水質基準に基づき、各種溶質元素の濃度が規定されている。
【0003】
Seもその一つであり、種々の方法、例えば、JIS K 0102に規定されている3,3-ジアミノベンジジン吸光光度法、水素化物発生原子吸光法および水素化物発生ICP発光分光分析法などや非特許文献1に記載されているボルタンメトリー法などの電気化学的測定法により、その定量が行われている。
【非特許文献1】T. Ishiyama and T. Tanaka; Anal. Chem.,68(1996)3789
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、3,3-ジアミノベンジジン吸光光度法は、比較的簡便な方法であるが、分析感度が低く、微量濃度の分析には不向きであり、水素化物発生原子吸光法や水素化物発生ICP発光分光分析法は、分析感度が高く、微量濃度の分析に適した方法であるが、ガス配管や排気ダクトなど大掛かりな付帯設備を必要とするばかりか、煩雑な試料の前処理操作も必要となる。また、ボルタンメトリー法は、簡便、迅速な分析方法であるが、極めて煩雑な作用電極表面のメンテナンスや測定前の試料調整が必要であるため、再現性に劣り、必ずしも高い分析精度が得られない。
【0005】
本発明は、上水、各種排水、地下水、河川水、土壌溶出水などの環境水中に含まれる微量Seを、簡便、迅速に高精度で定量できる環境水中の微量Seの簡易分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、環境水を純水によって20倍以上に希釈する工程と、前記希釈後の環境水のpHを調整する工程と、前記pH調整後の環境水に2,3-ジアミノナフタレン(以下、DANと呼ぶ)を添加する工程と、前記DAN添加後の環境水を加温してDANのSe錯体を形成させる工程と、前記DANのSe錯体を有機溶媒で抽出する工程と、前記DANのSe錯体の抽出された有機溶媒中のSeを、蛍光光度計を用いて、標準添加法で定量する工程と、を有する環境水中の微量Seの簡易分析方法により達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、上水、各種排水、地下水、河川水、土壌溶出水などの環境水中に含まれる微量Seを、簡便、迅速に高精度で定量できる。すなわち、煩雑な試料の前処理や大掛かり付帯設備が不要で、30分程度で高精度に微量Seを定量できる。また、全ての操作を1本の試験管内できるので、非常に簡便である、使用する試薬量が少ない、操作中のコンタミネーションや試料の減少もなくより高精度に測定できる、といったメリットもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の分析方法が対象としている上水、各種排水、地下水、河川水、土壌溶出水など環境水は、分析試料として、JIS K 0102法や環告46号法などに準拠して採取される。
【0009】
環境水は、上記方法により複数の試験管に採取し、それぞれの試験管に採取された環境水を純水で20倍以上に希釈する。これは、環境水中に共存する他の元素の影響を回避するためである。しかし、希釈率が大きすぎると、試料の量が多くなり操作が煩雑になったり、後に行われる蛍光光度測定の感度が低下するので、30〜50倍に希釈することが好ましい。
【0010】
希釈後の試験管に、濃度既知のSe標準溶液を段階的に添加し、標準添加法用の試料を作成する。Se標準溶液の添加量は、Se量換算で5〜30ngの範囲が好ましく、少なくとも2段階、好ましくは10、20、30ngのように3段階に変えた試料を準備することが好ましい。
【0011】
また、これとは別に、環境水やSe標準溶液を含まず、同量の純水のみの入った試験管を、対照試料として準備する。この対照試料は、試薬ブランクとしてゼロ点補正に用いられる。
【0012】
Se標準溶液が段階的に添加された試験管および純水のみの試験管に、塩酸を加えてpH調整する。このとき、pHが1.0〜1.5となるようにすることが好ましい。
【0013】
pH調整された全ての試験管に、DANを一定量添加し、加温して、DANのSe錯体を形成させる。このとき、DANのSe錯体を形成するには、50℃で20分程度加温することが好ましい。
【0014】
DANのSe錯体を形成させた全ての試験管に、例えば、シクロヘキサンやトルエンなどの有機溶媒を3ml以上添加して、DANのSe錯体を溶媒抽出する。このとき、有機溶媒の添加量は、少なすぎると、濃縮率は高くなるが、蛍光光度の測定には有機溶媒を蛍光セルに満たす十分な量確保するのが困難なため、不都合になる。フローセル使用の蛍光光度計を用いる場合では、3ml程度あれば十分に計測できる。
【0015】
DANのSe錯体を抽出した有機溶媒は、試験管の上部に浮遊するので、それを蛍光光度計に注入して、例えば、シクロヘキサンを有機溶媒に用いた場合は、励起波長375nmで蛍光波長520nmを測定し、標準添加法により、すなわち段階的にSe量を添加したときのSe量と蛍光光度との関係から、分析対象の水中のSe量を求める。なお、励起波長や蛍光波長は、用いる有機溶媒により適宜選択される。
【実施例】
【0016】
土木材料用の4種類の無機物から環告46号法によって溶出水A、B、C、Dを、それぞれ3本の試験管に1本の試験管あたり1ml採取した。各溶出水の3本の試験管に、純水、Se標準溶液、塩酸を順次の添加し、全量が30ml、pHが1.0〜1.5、Se添加量が0、10、20ngの3種の試料を作成した。これとは別に、全量で30ml、pHが1.0〜1.5の純水と塩酸のみの入った試験管を、対照試料として、1本準備した。
【0017】
このように調整された全ての試験管に、0.1M塩酸で調整した0.2%DAN溶液を5ml添加後、50℃のアルミブロックバスで20分加熱し、DANのSe錯体を形成した。
【0018】
放冷後、シクロヘキサンを3ml添加して、DANのSe錯体を溶媒抽出した。
【0019】
浮上している有機溶媒を蛍光光度計に注入し、励起波長375nmで蛍光波長520nmの光度を測定し、標準添加法により、すなわち図1(a)、(b)、(c)、(d)に示すSe量と蛍光光度との関係を求め、直線が横軸を交差する点から、溶出水A、B、C、DのSe量を定量した。
【0020】
結果を、別途水素化物発生原子吸光法で求めたSe量とともに、表1に示す。
【0021】
本発明法で求めたSe量は、水素化物発生原子吸光法で求めたSe量とほぼ同一であり、また、分析時間も45分程度で短く、本発明法は、上水、各種排水、地下水、河川水、土壌溶出水などの環境水中に含まれる微量Seを簡便、迅速に高精度で定量できる方法であることがわかる。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明で用いた標準添加法による定量結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境水を、純水によって20倍以上に希釈する工程と、
前記希釈後の環境水のpHを、調整する工程と、
前記pH調整後の環境水に、2,3-ジアミノナフタレン(以下、DANと呼ぶ)を添加する工程と、
前記DAN添加後の環境水を、加温してDANのSe錯体を形成させる工程と、
前記DANのSe錯体を、有機溶媒で抽出する工程と、
前記DANのSe錯体の抽出された有機溶媒中のSeを、蛍光光度計を用いて、標準添加法で定量する工程と、
を有する環境水中の微量Seの簡易分析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−36689(P2009−36689A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202507(P2007−202507)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】