説明

環境浄化材、環境浄化装置及び環境浄化方法

【課題】可視光領域の光によっても有効に光触媒作用を発揮し、かつ光触媒反応に貢献する光の利用効率を高めるとともにその反応速度を効果的に増大させることのできる環境浄化材を提供する。
【解決手段】この環境浄化材は、分散媒体としての流体2と、流体2に流動状態で分散、保持された光触媒粒子4と、流体2に流動状態で分散、保持された非線形光学粒子5と、流体2に流動状態で分散、保持された蓄光燐光粒子6と、を備えている。光源7からの光を蓄光燐光粒子6で蓄光、燐光し、この燐光を非線形光学粒子5が非線形光学効果により短波長化する。この短波長光が光触媒粒子4を活性化させる。可視光駆動化及び紫外光分散光源化を図りつつ、流体2として例えば汚染水を用いれば、高い浄化性能で浄化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境浄化材、環境浄化装置及び環境浄化方法に関し、詳しくは光触媒反応を利用して環境を浄化する環境浄化材並びにこの環境浄化材を用いた環境浄化装置及び環境浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒反応(酸化・還元反応)を利用して、例えば汚染水を浄化したり、あるいは悪臭ガスを分解したりして、環境を浄化することが行われている。
【0003】
酸化チタン(TiO)に代表される光触媒は、活性化のために紫外光領域の光を必要とする。すなわち、光触媒は、バンドギャップ以上のエネルギーをもつ紫外光が照射されることにより活性化されて、励起電子や励起正孔を生成する。励起電子は、物質を還元する力をもち、空気中の酸素と反応して、過酸化水素を作る(還元反応)。一方、励起正孔は、水と反応して、活性酸素の一種で酸化力に富むOHラジカルを生成する(酸化反応)。
【0004】
このような光触媒反応を利用して環境を浄化する環境浄化材として、例えば、車両用防塵脱臭用フィルタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に開示されたフィルタは、活性炭等よりなる吸着材がバインダーで保持されたポリプロピレン繊維等よりなる不織布と、この吸着材の外表面に担持された光触媒粒子と、この光触媒粒子と分離してその近傍に存在するように不織布に担持された蓄光材料粒子とを備えている。この蓄光材料粒子は、光触媒粒子を活性化させる波長領域、すなわち紫外光領域を含む光源(紫外線ランプ)からの光照射を受けることにより、その光を蓄えて発光するものである。なお、前記特許文献1には、この蓄光材料粒子の材料として、ZnSiO/Mn等の酸素系、ZnS/Cu等の硫化物系やアルミナ酸化物系の蓄光材料が例示されている。また、これらの蓄光材料は、蓄光材料に入射した光よりも波長の高い(エネルギー準位の低い)光を発光する。すなわち、蓄光材料における波長のピークは、励起波長よりも発光波長の方が高くなる。
【0006】
このフィルタでは、多数の光触媒粒子に対して蓄光材料粒子がランダムに存在するので、光源の光に対して影になる位置の光触媒粒子にも蓄光材料粒子からの光が当たるようになる。このため、光源からの光が当たらない位置にある光触媒粒子も活性化させることができ、浄化性能を向上させることが可能になる。
【0007】
しかしながら、このフィルタにおいて光触媒を活性化させるためには、紫外光領域の光を発する光源が必須となる。
【0008】
一方、太陽光やハロゲンランプ等の簡便な白色光源によっても光触媒作用を発揮する光触媒品も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
この特許文献2には、基材と、この基材上に形成された膜状の非線形光学材料層と、この非線形光学材料層の上に形成された膜状の光触媒材料層とからなり、光触媒材料が最上層となるように基板上に積層された薄膜構造をもつ光触媒品が開示されている。この非線形光学材料は、光が入射した際に2次又はそれ以上の非線形相互作用を生じるものであり、例えば波長500nm以上の光に対して第2次高調波発生を起こすことで、光触媒材料が活性化する波長域よりも長波長の光を光触媒材料が活性化する波長域の光に変換する。なお、特許文献2には、非線形光学材料として、ZnS、ニオブ酸リチウム(LiNbO)やタンタル酸リチウム(LiTaO)等が例示されている。
【0010】
また、前記特許文献2には、非線形光学材料よりなるコア(中核)部と、光触媒材料よりなりコア部を被覆するシェル(外殻)部とからなり、光触媒材料が最外層となるように積層、複合化されたコア−シェル構造をもつ光触媒品も開示されている。
【0011】
これらの光触媒品では、非線形光学材料の第2次高調波発生を利用することにより、例えば500nm以上の波長領域をもつ光を短波長化して、光触媒材料を活性化させることができる。
【0012】
しかしながら、前記特許文献2に開示された光触媒品では、光触媒材料が最上層又は最外層となるように膜状の光触媒材料層と非線形光学材料層とが接して積層されているので、光源からの光は光触媒材料層を透過しなければ非線形光学材料層に到達し得ない。このため、この光触媒品では、光源からの光が光触媒材料層で吸収される分だけ、光源からの光の利用効率が低下してしまうことを避けられない。
【0013】
また、本発明者は、反応場における光触媒粒子の濃度を増加させても、必ずしも反応速度の向上につながらないことを実験により確認している。これは、光触媒粒子自身による光反射が要因であると考えられる。そうすると、前記特許文献2に開示された光触媒品では、最上層又は最外層にある膜状の光触媒材料層で光反射が起こり、これによっても、光源からの光の利用効率が低下すると考えられる。そして、光源からの光が光触媒材料層で反射してしまえば、光触媒の反応速度を効率的に増大させることもできないと考えられる。
【0014】
さらに、前記特許文献2に開示された光触媒品では、光触媒材料と非線形光学材料とを複合化して積層するために、溶液化学的又は電気化学的手法による前処理工程が必須であり、その製造が面倒であるという問題もある。
【0015】
さらに、前記特許文献2に開示された光触媒品では、光触媒材料層と非線形光学材料層とが接しているので、接触面は各材料の役割を果たせないという問題もある。
【特許文献1】特開2001−286539号公報
【特許文献2】特開2005−288405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、可視光領域の光によっても有効に光触媒作用を発揮し、かつ光触媒反応に貢献する光の利用効率を高めるとともにその反応速度を効果的に増大させることのできる環境浄化材を提供することにある。
【0017】
また、本発明の他の目的は、このような環境浄化材を面倒な前処理工程を経ることなく提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
一般に、非線形光学材料における非線形光学効果(短波長化)は、変換前の光が高強度かつコヒーレントである(位相が揃っている)ことの他に、非線形光学材料がセンチメートルオーダーの粗大単結晶であることが必要不可欠とされている。このため、ミクロンオーダーの非線形光学粒子を用いても、非線形光学効果は発現しないというのが従来の常識であった。詳しくは、非線形光学材料において非線形光学効果を発現させるためには、その非線形光学材料内で位相整合性を得るべくある程度の距離が必要であり、粒子状では位相整合性を得るための距離を確保できないと考えられていた。ところが、本発明者は、ミクロンオーダーの非線形光学粒子であっても可視光を紫外光化できることを実験で確認し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、請求項1に記載の環境浄化材は、流体又は固体よりなる分散媒体と、前記分散媒体に流動状態又は固定状態で分散、保持された光触媒粒子と、前記分散媒体に流動状態又は固定状態で分散、保持された非線形光学粒子と、前記分散媒体に流動状態又は固定状態で分散、保持された蓄光燐光粒子と、を備えていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項2に記載の環境浄化材は、請求項1に記載の環境浄化材において、前記非線形光学粒子がLiNbO及びLiTaOから選ばれる少なくとも1種よりなることを特徴とするものである。
【0021】
請求項3に記載の環境浄化材は、請求項1又は2に記載の環境浄化材において、前記蓄光燐光粒子がCaAl:Eu,Ndよりなることを特徴とするものである。
【0022】
請求項4に記載の環境浄化材は、浄化しようとする流体が流通可能な通孔を有する容器と、該容器内に三者が混合、分散した状態で充填された光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子と、を備えていることを特徴とするものである。
【0023】
請求項5に記載の環境浄化材は、請求項4に記載の環境浄化材において、前記非線形光学粒子がLiNbO及びLiTaOから選ばれる少なくとも1種よりなることを特徴とするものである。
【0024】
請求項6に記載の環境浄化材は、請求項4又は5に記載の環境浄化材において、前記蓄光燐光粒子がCaAl:Eu,Ndよりなることを特徴とするものである。
【0025】
請求項7に記載の環境浄化装置は、前記分散媒体として流体を用いて前記光触媒粒子の光触媒作用により該流体中の汚染物質を浄化する環境浄化装置であって、反応容器と、該反応容器内に入れられた請求項1乃至3のいずれか一つに記載の環境浄化材と、該反応容器内の前記流体を撹拌する撹拌手段と、前記蓄光燐光粒子に所定の光を照射する光源と、を備えていることを特徴とするものである。
【0026】
請求項8に記載の環境浄化方法は、前記分散媒体として流体を用いて前記光触媒粒子の光触媒作用により該流体中の汚染物質を浄化する環境浄化方法であって、反応容器内に請求項1乃至3のいずれか一つに記載の環境浄化材を入れ、前記流体を撹拌して前記光触媒粒子、前記非線形光学粒子及び前記蓄光燐光粒子を分散させながら、該蓄光燐光粒子に所定の光を照射することにより、該蓄光燐光粒子が蓄光、燐光した光を該非線形光学粒子で短波長光に変換するとともに、該短波長光で該光触媒粒子を活性化させることを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(1)請求項1乃至3に記載の環境浄化材は、分散媒体と、この分散媒体に分散、保持された光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子とを備えている。
【0028】
前記分散媒体は流体であっても固体であってもいずれでもよい。ただし、製造の容易性を考慮すれば、分散媒体は流体であることが好ましい。また、流体は液体でも気体でもかまわないが、分散媒体への光触媒粒子等の分散の容易性を考慮すれば、液体が好ましい。
【0029】
流体よりなる分散媒体とする場合は、この流体中に光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子が流動状態で分散、保持される。そして、この場合は、流体を保持するための容器と、容器内の流体を撹拌して流体中で光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子を流動状態で分散させるための撹拌手段とが必要である。
【0030】
また、流体よりなる分散媒体とする場合は、分散媒体としての流体自体を光触媒粒子の光触媒作用により浄化する構成とすることができる。すなわち、例えば汚染物質を含む流体(汚染水や汚染ガス等)を分散媒体として採用することができる。
【0031】
固体よりなる分散媒体とする場合は、この固体の表面に光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子が固定状態で分散、保持される。なお、この場合、光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子を固体の表面に必ずしも固着させなくてもよい。例えば、繊維状の分散媒体(例えば、透明なガラス繊維)に光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子を絡めた状態で保持させてもよい。
【0032】
また、固体よりなる分散媒体とする場合は、この環境浄化材で浄化しようとする流体、例えば汚染物質を含む流体(汚染水や汚染ガス等)が固体の表面に保持された光触媒粒子に接触可能となるような構成とすることができる。
【0033】
分散媒体として用いる流体又は固体の種類としては、系外の光源からの光、蓄光燐光粒子が発した燐光及び非線形光学粒子により短波長化された短波長光が透過させうるものであれば、特に限定されず、これらの光をある程度吸収するものであってもよい。ただし、光の利用効率を高めるとともに光触媒反応の反応速度を増大させる観点より、光源の光、燐光及び短波長光が高い透過率で透過するものであることが好ましい。
【0034】
流体よりなる分散媒体としては、例えば、水(光学的に不透明な汚染水を含む)、空気、燃焼排ガスなどを挙げることができる。固体よりなる分散媒体としては、例えば、ガラス繊維、フィルタ、壁・床材などを挙げることができる。
【0035】
固体よりなる分散媒体とする場合は、光触媒反応により分散媒体自身が分解されないものとする必要がある。したがって、固体よりなる分散媒体とする場合は、セラミックス等の無機物や金属よりなる分散媒体とすることが好ましい。
【0036】
また、固体よりなる分散媒体の形状や大きさは適宜設定可能である。ただし、光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の総量を増大させる上では、比表面積が高いことが好ましい。
【0037】
前記光触媒粒子の種類としては所望の光触媒作用を発揮するものであれば特に限定されず、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化タングステン、酸化セリウムや酸化第二鉄等の金属酸化物を採用することができる。これらの中でも、酸化チタンが優れた光触媒機能を発揮することから好ましい。
【0038】
酸化チタンとしては、二酸化チタン(TiO)のほか、含水酸化チタン、水和酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸や水酸化チタン等が挙げられる。また、酸化チタンの結晶型についても特に制限するものではなく、ルチル型でもアナターゼ型でもいずれでもよい。
【0039】
前記非線形光学粒子の種類は、蓄光燐光粒子が発する燐光を非線形光学効果により光触媒粒子を活性化させうる短波長光に短波長化することができるものであれば特に限定されない。例えば、LiNbO、LiTaO、BaB、KHPOやZnGePを採用することができる。これらの中でも、LiNbOやLiTaOが好ましく、LiNbOが特に好ましい。
【0040】
また、非線形光学粒子は、単結晶の粉砕品であることが好ましい。単結晶は規則正しい結晶構造をもっており、非線形光学効果が増大する実験結果に基づく結論である。
【0041】
前記蓄光燐光粒子の種類は、所定の光源(可視光領域の光を含む光を発するもの)からの光を受けることで蓄光、燐光し、かつ、その燐光が非線形光学粒子で短波長化されることで光触媒粒子を活性化させることができるものであれば特に限定されない。例えば、CaAl:Eu,Nd、SrAl1425:Eu,DyやSrAl:Eu,Dyを採用することができる。これらの中でも、CaAl:Eu,Ndが好ましい。
【0042】
光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の粒径は、0.1〜100μmとすることが好ましく、5〜20μmとすることがより好ましい。これらの粒子が大きすぎると、各粒子において反応に寄与する比表面積が小さくなるので、紫外光分散光源化による光触媒反応の速度増大の効果が小さくなる。一方、これらの粒子が小さければ、各粒子において反応に寄与する比表面積が大きくなるので、紫外光分散光源化による光触媒反応の速度増大の効果が大きくなる。しかし、これらの粒子が小さすぎると、例えば、後処理で液体中に分散した粒子を分離、回収することが困難になる。
【0043】
また、光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の配合割合及び総量によって、光触媒反応の速度増大の効果が異なってくる。このため、光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の配合割合及び総量は、光触媒反応の速度増大の効果が大きくなるように、光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の種類、分散媒体や浄化対象物質等に応じて、適正に設定することが好ましい。
【0044】
請求項1乃至3に記載の環境浄化材では、系外の所定の光源(可視光領域の光を含む光を発するもの)から蓄光燐光粒子が光を受けることで、以下に示すように光触媒反応が起こる。すなわち、系外の光源から光を受けた蓄光燐光粒子は、その光を蓄光、燐光する。そして、この蓄光燐光粒子が発する燐光は非線形光学粒子の非線形光学効果により短波長化される。これにより、蓄光燐光粒子で蓄光、燐光されてから非線形光学粒子で短波長化された短波長光を光触媒粒子に当てることができる。このため、光触媒粒子の活性化に寄与し得ない例えば可視光領域の光を系外の光源から照射する場合であっても、光触媒粒子の活性化が可能となり、光触媒の可視光駆動化を実現できる。
【0045】
また、請求項1乃至3に記載の環境浄化材では、これらの光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の三者が分散媒体に分散した状態で保持されている。すなわち、反応場たる分散媒体中に光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の三者がランダムに分散しており、これら三者が相互に近接している。このため、系外の光源からの光を分散状態にある各蓄光燐光粒子で確実に蓄えて、この蓄光燐光粒子からの燐光を分散状態にある各非線形光学粒子で確実に短波長化し、この非線形光学粒子からの短波長光を分散状態にある各光触媒粒子に確実に当てて活性化させることができる。したがって、光源からの光の利用効率及び光触媒反応の反応速度を効果的に増大させることができ、光触媒に対する効率的な紫外光分散光源化を達成することが可能になる。
【0046】
さらに、前述のとおり、例えば膜状の光触媒層が最外層に存在する場合は、系外の光源からの光が膜状の光触媒層で反射してしまい、光の利用効率や光触媒反応の反応速度を効果的に増大させることができないと考えられる。この点、請求項1乃至3に記載の環境浄化材では、光触媒粒子が分散媒体中に分散していることから、光触媒粒子自身により光源の光が系外に反射してしまうことを抑えることができる。したがって、光源からの光の利用効率を高める上で有利となる。
【0047】
さらに、請求項1乃至3に記載の環境浄化材において、光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の三者を流体よりなる分散媒体中に流動状態で分散、保持させたり、あるいは固体よりなる繊維状等の分散媒体中に光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の三者を絡めた状態で保持させたりする場合は、これら三者を複合化して一体化させる必要がないので、面倒な前処理工程が不要となる。
【0048】
(2)請求項4乃至6に記載の環境浄化材は、容器と、該容器内に三者が混合、分散した状態で充填された光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子と、を備えている。
【0049】
前記容器は、この環境浄化材により浄化しようとする流体(液体や気体)が容器内の光触媒粒子と接触しうる構成となっている必要がある。すなわち、この容器は、この環境浄化材により浄化しようとする流体が流通可能な通孔を有するものである。
【0050】
前記容器の種類としては、系外の光源からの光を透過させうるものであれば、特に限定されず、これらの光をある程度吸収するものであってもよい。ただし、光の利用効率を高めるとともに光触媒反応の反応速度を増大させる観点より、光源の光が高い透過率で透過するものであることが好ましい。なお、光の系外散逸を防ぐため、光源は容器内側に配置し、容器の内側あるいは外側は鏡面とするなどが望ましい。また、前記容器は光触媒反応により分解されないものとする必要がある。したがって、前記容器としては、透明なガラス容器や耐分解性表面加工を施した透明樹脂容器などとすることが好ましい。なお、容器の形状や大きさは適宜設定可能である。
【0051】
そして、この容器内に光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の三者が混合、分散した状態で充填されている。これらの光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子としては、請求項1乃至4に記載の環境浄化材のものと同様の構成とすることができる。
【0052】
したがって、請求項4乃至6に記載の環境浄化材では、請求項1乃至3に記載の環境浄化材と同様、光触媒の可視光駆動化及び紫外光分散光源化を実現できるとともに、光源からの光の利用効率及び光触媒反応の反応速度を効果的に増大させることができる。よって、容器内を流通する流体を高い浄化性能で浄化することが可能となる。
【0053】
また、請求項4乃至6に記載の環境浄化材は、光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の三者を所定の容器内に充填させるという簡単な方法により製造することができ、これら三者を複合化して一体化させる面倒な製造工程が不要となる。
【0054】
(3)請求項7に記載の環境浄化装置は、請求項1乃至3に記載の環境浄化材における前記分散媒体として流体を用いて前記光触媒粒子の光触媒作用により該流体中の汚染物質を浄化するものである。
【0055】
この環境浄化装置は、反応容器と、この反応容器内に入れられた請求項1乃至3に記載の環境浄化材(前記分散媒体として流体を用いたもの)と、この反応容器内の前記流体を撹拌する撹拌手段と、前記蓄光燐光粒子に所定の光を照射する光源と、を備えている。
【0056】
前記反応容器の種類としては、請求項4乃至6に記載の環境浄化材における容器と同様、光源からの光を透過させうるものであれば、特に限定されず、これらの光をある程度吸収するものであってもよい。ただし、光の利用効率を高めるとともに光触媒反応の反応速度を増大させる観点より、光源の光が高い透過率で透過するものであることが好ましい。なお、光の系外散逸を防ぐため、光源は容器内側に配置し、容器の内側あるいは外側は鏡面とするなどが望ましい。また、前記容器は光触媒反応により分解されないものとする必要がある。したがって、前記反応容器としては、透明なガラス容器や耐分解性表面加工を施した透明樹脂容器などとすることが好ましい。なお、反応容器の形状や大きさは適宜設定可能である。
【0057】
前記撹拌手段としては、反応容器内の流体を撹拌して、流体中の光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子を流動、分散させうるものであれば特に限定されない。
【0058】
前記光源の種類としては、光源からの光を受けた蓄光燐光粒子がその光を蓄光、燐光し、この燐光を非線形光学粒子が短波長化し、その短波長光により光触媒粒子を活性化させることができるのであれば、特に限定されない。例えば、水銀ランプ、発光ダイオード、蛍光灯、ハロゲンランプ、太陽光などを光源として用いることができる。
【0059】
したがって、この環境浄化装置では、請求項1乃至3に記載の環境浄化材と同様、光触媒の可視光駆動化及び紫外光分散光源化を実現できるとともに、光源からの光の利用効率及び光触媒反応の反応速度を効果的に増大させることができる。よって、反応容器内に入れられた流体を高い浄化性能で浄化することが可能となる。
【0060】
また、この環境浄化装置は、光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の三者を所定の容器内で分散媒体としての流体中に分散、保持させるという簡単な方法により製造することができ、これら三者を複合化して一体化させる面倒な製造工程が不要となる。
【0061】
(4)請求項8に記載の環境浄化方法は、請求項1乃至3に記載の環境浄化材における前記分散媒体として流体を用いて前記光触媒粒子の光触媒作用により該流体中の汚染物質を浄化するものである。
【0062】
この環境浄化方法では、反応容器内に請求項1乃至3に記載の環境浄化材(前記分散媒体として流体を用いたもの)を入れ、前記流体を撹拌して前記光触媒粒子、前記非線形光学粒子及び前記蓄光燐光粒子を分散させながら、この蓄光燐光粒子に所定の光を照射する。これにより、蓄光燐光粒子が蓄光、燐光した光を非線形光学粒子で短波長光に変換するとともに、この短波長光で光触媒粒子を活性化させる。
【0063】
したがって、この環境浄化方法では、請求項1乃至3に記載の環境浄化材と同様、光触媒の可視光駆動化及び紫外光分散光源化を実現できるとともに、光源からの光の利用効率及び光触媒反応の反応速度を効果的に増大させることができる。よって、反応容器内に入れられた流体を高い浄化性能で浄化することが可能となる。
【0064】
以下、本発明に係る環境浄化材、環境浄化装置及び環境浄化方法を具現化した実施形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0065】
(実施形態1)
本実施形態は、請求項1乃至3に記載の環境浄化材、請求項7に記載の環境浄化装置又は請求項8に記載の環境浄化方法を具現化したものである。
【0066】
すなわち、図1に示される環境浄化装置(環境浄化材)は、反応容器1と、この反応容器1内に入れられた分散媒体としての液流体2と、反応容器1内の液流体2を撹拌する撹拌手段としてのエアーバブラー(酸素供給・撹拌手段)3と、反応容器1内の液流体2中で流動、分散される多数の光触媒粒子4と、反応容器1内の液流体2中で流動、分散される多数の非線形光学粒子5と、反応容器1内の液流体2中で流動、分散される多数の蓄光燐光粒子6と、この蓄光燐光粒子6に所定の光を照射する光源7と、を備えている。
【0067】
この環境浄化装置は、液流体2を反応容器1内で内部循環させる内部循環型で、単段バッチ式のものであり、また、光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6を反応容器1内の液流体2中において流動状態で分散、保持する流動層タイプのものである。
【0068】
反応容器1は透明なガラス製容器で、軸方向に沿って切った断面形状がU字状の円筒流路10を有しており、この円筒流路10内にエアーバブラー3が配設されている。また、反応容器1の中心部に光源7が配設されている。
【0069】
この環境浄化装置では、浄化しようとする液流体(汚染水等)2が反応容器1の円筒状流路10に入れられ、この液流体2中に光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6が所定の配合割合で混入されている。そして、エアーバブラー3で液体2を撹拌して触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6を分散させながら、光源7から蓄光燐光粒子5に所定の光を照射する。これにより、蓄光燐光粒子6が蓄光、燐光した光を非線形光学粒子5で短波長光に変換するとともに、この短波長光で光触媒粒子4を活性化させる。
【0070】
ここに、本実施形態では、光触媒粒子4としてTiO粒子を、非線形光学粒子5としてLiNbO粒子を、蓄光燐光粒子6としてCaAl:Eu,Nd粒子をそれぞれ用いた。また、このLiNbO粒子は、プレート状単結晶を乳鉢等を用いて粉砕したものである。また、これらのTiO粒子、LiNbO粒子及びCaAl:Eu,Nd粒子はいずれも乳鉢等により20μm以下に粉砕されたものであり、0.1μmを超える程度から20μmまでの粒度分布をもつものである。そして、本実施形態では、光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6の配合割合を1:1:1とした。
【0071】
この環境浄化装置は、液流体2として例えば汚染水を用いれば、汚染水の浄化に好適に利用することができる。
【0072】
(実施形態2)
図2に示される本実施形態に係る環境浄化装置(環境浄化材)は、実施形態1に係る環境浄化装置を2つ繋げたもので、液流体2を連続的に供給、排出する2段連続式のものである。なお、以下の説明では反応容器を2つ有する2段式のものについて説明するが、反応容器を3つ以上つなげる多段連続式も勿論可能である。
【0073】
すなわち、この環境浄化装置は、第1円筒流路10Aを有する第1反応容器1Aと、第2円筒流路10Bを有する第2反応容器1Bとを備えている。第1反応容器1Aの第1円筒流路10Aと第2反応容器1Bの第2円筒流路10Bとは連絡路11により連通されている。そして、第1反応容器1Aには流体供給口12が設けられ、第2反応容器1Bには流体排出口13が設けられている。なお、第1反応容器1Aの第1円筒流路10A内に第1エアーバブラー3Aが配設され、第1反応容器1Aの中心部に第1光源7Aが配設されている。また、第2反応容器1Bの第2円筒流路10B内に第2エアーバブラー3Bが配設され、第2反応容器1Bの中心部に第2光源7Bが配設されている。さらに、第1反応容器1Aの第1円筒流路10A及び第2反応容器1Bの第2円筒流路10B内には光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6が所定の配合割合で配置されている。
【0074】
この環境浄化装置では、第1エアーバブラー3A、第2エアーバブラー3B、第1光源7A及び第2光源7Bを作動させながら、第1反応容器1Aの流体供給口12から浄化前の液流体2を連続的に供給するとともに、浄化後の液流体2を第2反応容器1Bの流体排出口13から連続的に排出させることにより、液流体2を連続的に浄化することができる。
【0075】
この環境浄化装置は、前記実施形態1と同様、液流体2として例えば汚染水を用いれば、汚染水の浄化に好適に利用することができる。
【0076】
(実施形態3)
本実施形態は、請求項1乃至3に記載の環境浄化材、請求項7に記載の環境浄化装置又は請求項8に記載の環境浄化方法を具現化したものである。
【0077】
図3に示される環境浄化装置(環境浄化材)は、分散媒体に各粒子が包括的に保持された包括タイプのもので、また、処理流体が反応容器1内に連続的に供給される連続式のものである。すなわち、この環境浄化装置では、両端が閉鎖された円筒状の反応容器1内に分散媒体としてのガラス繊維8が絡められた集合体として入れられている。そして、このガラス繊維8に多数の光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6の三者が絡んだ状態で保持されている。
【0078】
また、反応容器1の一端には流体供給口(通孔)12が設けられ、反応容器1の他端には流体排出口(通孔)13が設けられている。なお。反応容器1の中心部に光源7が配設されている。本実施形態における光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6の構成(各粒子の種類、粒径、配合割合等)は前記実施形態1におけるものと同様である。
【0079】
この環境浄化装置では、光源7から蓄光燐光粒子5に所定の光を照射しながら、浄化しようとする流体(汚染水等の液体や汚染ガス等の気体)2を反応容器1内に連続的に流体供給口12から供給するとともに流体排出口13から排出させることで、流体2を連続的に浄化することができる。
【0080】
この環境浄化装置は、例えば水道水の蛇口に配設すれば、水道水の浄化用フィルタとして好適に利用することができる。また、非常用飲料水の製造にも利用が可能である。
【0081】
(実施形態4)
本実施形態は、請求項1乃至3に記載の環境浄化材、請求項7に記載の環境浄化装置又は請求項8に記載の環境浄化方法を具現化したものである。
【0082】
図4に示される環境浄化装置(環境浄化材)は、分散媒体に粒子が担持、固定された担持タイプのもので、また、処理流体が反応容器1内に連続的に供給される連続式のものである。すなわち、この環境浄化装置は、スタティックミキサーに本発明を適用したものであり、両端が閉鎖された円筒状の反応容器1内にスタティックミキサーが配設されている。そして、このスタティックミキサーの表面に図示しない光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の三者が混合、分散した状態で担持されている。この担持は、光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の混合物を焼結したり、あるいは無機バインダーにより接着したりすることにより行った。
【0083】
また、反応容器1の一端には図示しない流体供給口(通孔)が設けられ、反応容器1の他端には図示しない流体排出口(通孔)が設けられている。なお、反応容器1の中心部に光源7が配設されている。本実施形態における光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子の構成(各粒子の種類、粒径、配合割合等)は前記実施形態1におけるものと同様である。
【0084】
この環境浄化装置では、光源7から蓄光燐光粒子に所定の光を照射しながら、浄化しようとする流体(汚染水等の液体や汚染ガス等の気体)2を反応容器内に連続的に流体供給口から供給するとともに流体排出口から排出させることで、流体2を連続的に浄化することができる。
【0085】
この環境浄化装置は、例えば燃焼排ガスのVOCs分解などに好適に利用することができる。
【0086】
(実施形態5)
本実施形態は、請求項4乃至6に記載の環境浄化材を具現化したものである。
【0087】
図5に示される環境浄化装置(環境浄化材)は、粒子が充填式に保持された充填層タイプのもので、また、処理流体が反応容器1内に連続的に供給される連続式のものである。すなわち、この環境浄化装置では、両端が閉鎖された円筒状の反応容器1内に光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6の三者が混合、分散した状態で充填、保持されている。
【0088】
また、反応容器1の一端には流体供給口(通孔)12が設けられ、反応容器1の他端には流体排出口(通孔)13が設けられている。なお、反応容器1の中心部に光源7が配設されている。本実施形態における光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6の構成(各粒子の種類、粒径、配合割合等)は前記実施形態1におけるものと同様である。
【0089】
この環境浄化装置では、光源7から蓄光燐光粒子5に所定の光を照射しながら、浄化しようとする流体(汚染水等の液体や汚染ガス等の気体)2を反応容器1内に連続的に流体供給口12から供給するとともに流体排出口13から排出させることで、流体2を連続的に浄化することができる。
【0090】
この環境浄化装置は、前記実施形態3と同様、例えば水道水の蛇口に配設すれば、水道水の浄化用フィルタとして好適に利用することができる。また、非常用飲料水の製造にも利用が可能である。
【実施例】
【0091】
本実施例では、前記実施形態1で説明した環境浄化装置(環境浄化材)を用いて、以下に示す効果確認試験を行った。
【0092】
(試験例1)
この試験では、前記実施形態1における流体2としてオレンジIIを用いた。この流体2としてのオレンジは、初期濃度が約110ppmのものを2000ミリリットル反応容器1内に入れた。
【0093】
光源7として、太陽光に近い波長領域の光を発する水銀ランプ(40W、東芝ライテック製の商品名「蛍光水銀ランプ」)を用いた。なお、この水銀ランプが発する光は、400nm近傍の光と、600nm近傍の光とが混在している。
【0094】
TiO粒子として、和光純薬製の商品名「酸化チタン(IV)ルチル型」(以下、和光純薬製のTiO粒子を「TiO(Wako)粒子」と称する)を用いた。LiNbO粒子として、和光純薬製の商品名「ニオブ酸リチウム(99.9995%−Nb)」と(以下、和光純薬製のLiNbO粒子を「LiNbO(Wako)粒子」と称する)と、単結晶をプレート状に切り出したLiNbO(山寿製の商品名「ニオブ酸リチウムウエハー」)を乳鉢等で粉砕して得られたもの(以下、山寿製のLiNbO粒子を「LiNbO(Yamaju)粒子と称する」)とを用いた。蓄光燐光粒子6として、CaAl:Eu,Nd粒子(根本特殊化学製の商品名「V300」)を用いた。これらのTiO粒子、LiNbO粒子及びCaAl:Eu,Nd粒子はいずれも乳鉢等により20μm以下に粉砕されたものであり、0.1μmを超える程度から20μmまでの粒度分布をもつものである。
【0095】
そして、反応容器1内の流体2中に光触媒粒子4としてのTiO粒子、非線形光学粒子5としてのLiNbO粒子及び蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子を所定の配合割合及び総量で混入した。
【0096】
すなわち、試料No.1では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gを入れた。試料No.2では、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gを入れた。試料No.3では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gと、非線形光学粒子5としてのLiNbO(Wako)粒子5gとを入れた。試料No.4では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた。試料No.5では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gと、非線形光学粒子5としてのLiNbO(Wako)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた。試料No.6では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gと、非線形光学粒子5としてのLiNbO(Yamaju)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた。
【0097】
そして、所定の経過時間毎に、オレンジIIの濃度を測定した、その結果を図6に示す。なお、図6の縦軸は、オレンジIIの測定濃度(C)を初期濃度(C)で正規化した正規化濃度(log[C/C])。また、図6の横軸は反応時間(分)である。このため、図6において、log[C/C]と反応時間との関係を示す直線の負の傾きが大きいほど、反応速度が大きいことになる。
【0098】
図6からわかるように、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gを入れた試料No.2では、ほとんど反応しなかった。
【0099】
光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gを入れた試料No.1では、若干反応した。これは、光源7として用いた水銀ランプの光に、光触媒粒子4を活性化させる紫外光領域の光が含まれていることの影響によるものである。
【0100】
光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gと、非線形光学粒子5としてのLiNbO(Wako)粒子5gとを入れた試料No.3では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gを入れた試料No.1と比較して、反応速度が若干増大した。これは、光源7からの光を受けた非線形光学粒子5が非線形光学効果によりその光を短波長化したことの影響によるものである。
【0101】
光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた試料No.4では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gを入れた試料No.1と比較して、反応速度が増大した。これは、光源7からの光を受けた蓄光燐光粒子6がその光を蓄光、燐光し、この燐光により光触媒粒子4が活性化したことの影響によるものである。
【0102】
光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gと、非線形光学粒子5としてのLiNbO(Wako)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた試料No.5では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた試料No.4と比べて、反応速度が大きく増大した。これは、光源7からの光を受けた蓄光燐光粒子6がその光を蓄光し、反応場に分散した後に燐光し、さらにこの蓄光燐光粒子6からの燐光を受けた非線形光学粒子5が非線形光学効果によりその光を短波長化したため、反応容器全体にて分解反応が進行した影響によるものである。
【0103】
また、非線形光学粒子5としてLiNbO(Yamaju)粒子を用いた試料No.6では、非線形光学粒子5としてLiNbO(Wako)粒子を用いた試料No.5と比べて、反応速度が大きく増大した。これは、LiNbO(Yamaju)粒子が単結晶由来のため、より効率的な非線形光学効果が得られた影響によるものと考えられる。
【0104】
以上の結果より、光触媒粒子4と、非線形光学粒子5と、蓄光燐光粒子6とを、5gずつの1:1:1の配合割合で混入することで、反応速度を大幅に増大できることが確認された。
【0105】
(試験例2)
この試験では、非線形光学粒子5として、LiNbO(Yamaju)粒子の代わりに、単結晶をプレート状に切り出したLiTaO(山寿製の商品名「タンタル酸リチウムウエハー」。)を乳鉢等で粉砕して得られたもの(以下、山寿製のLiTaO粒子を「LiTaO(Yamaju)粒子と称する」)を用いた。
【0106】
すなわち、この試験の試料No.7では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子5gと、非線形光学粒子5としてのLiTaO(Yamaju)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた。
【0107】
その他の条件は、前記実施例1と同様にして効果確認試験を行った。その結果を、前記実施例1における試料No.1及び4〜6の結果と併せて図7に示す。
【0108】
図7より、非線形光学粒子5としてLiTaO(Yamaju)粒子を用いた試料No.7では、非線形光学粒子5としてLiNbO(Wako)粒子を入れた前記試験No.5よりは反応速度が若干低いがほぼ同程度、反応速度が増大した。
【0109】
(試験例3)
この試験では、光触媒粒子4としてのTiO(Wako)粒子と、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子とを5gずつ一定量とし、非線形光学粒子5としてのLiNbO(Wako)粒子の量を種々変更して、反応容器1内の流体2中に混入する光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6の配合割合及び総量を種々変更した。
【0110】
すなわち、この試験の試料No.8では非線形光学粒子5の量を3gとし、試料No.9では非線形光学粒子5の量を7gと、試料No.10では非線形光学粒子5の量を10gとした。
【0111】
その他の条件は、前記実施例1と同様にして効果確認試験を行った。その結果を、前記実施例1における試料No.5の結果と併せて図8及び図9に示す。
【0112】
図8より、前記試料No.5及び試料No.8〜10の中では、光触媒粒子4と、非線形光学粒子5と、蓄光燐光粒子6とを5gずつ入れて、三者の配合比を1:1:1とした前記試料No.5の反応速度が最も増大した。
【0113】
また、図8より、光触媒粒子4と、蓄光燐光粒子6とを5gずつ入れるとともに、非線形光学粒子5を7g入れた試料No.9でも、前記試料No.5とほぼ同程度、反応速度が増大した。
【0114】
さらに、図9より、光触媒粒子4と、蓄光燐光粒子6とを5gずつ入れる場合は、非線形光学粒子5を4〜8g程度入れると、反応速度が効果的に増大することがわかる。
【0115】
したがって、この試験の結果からは、光触媒粒子4と、非線形光学粒子5と、蓄光燐光粒子6との配合比は、1:0.8:1〜1:1.6:1程度が好ましく、1:1:1〜1:1.4:1程度が特に好ましいことがわかる。
【0116】
(試験例4)
この試験では、光源7として、水銀ランプの代わりに、青色発光ダイオード(7.8W、発光領域:410〜550nm)を用いた。
【0117】
また、光触媒粒子4として、TiO(Wako)粒子の代わりに、石原産業製の商品名「ST01」のTiO粒子(以下、このTiO粒子を「TiO(ST01)粒子」と称する)を用いた。
【0118】
そして、この試験の試料No.11では、光触媒粒子4としてのTiO(ST01)粒子5gを入れた。試料No.12では、光触媒粒子4としてのTiO(ST01)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた。試料No.13では、光触媒粒子4としてのTiO(ST01)粒子5gと、非線形光学粒子5としてのLiNbO(Wako)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた。
【0119】
その他の条件は前記実施例1と同様にして、効果確認試験を行った。その結果を図10に示す。
【0120】
図10より、光触媒粒子4としてのTiO(ST01)粒子5gを入れた試料No.11では、反応が全く起こらない。これは、光源7として用いた青色発光ダイオードが、紫外光領域の光を含まないことによる。
【0121】
光源7として、発光領域が完全可視光のみである410〜550nmの青色発光ダイオードを用い、かつ、光触媒粒子4としてTiO(ST01)粒子を用いた場合でも、前記実施例1と同様、光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6の三者の混入により、反応速度が効果的に増大した。
【0122】
(試験例5)
この試験では、前記試験例4と同様、光源7として、水銀ランプの代わりに、青色発光ダイオード(7.8W、発光領域:410〜550nm)を用いた。
【0123】
また、光触媒粒子4として、前記試験例4と同様、TiO(Wako)粒子の代わりに、TiO(ST01)粒子を用いた。
【0124】
そして、この試験では、非線形光学粒子5として、LiTaO(Yamaju)粒子を用いた。
【0125】
すなわち、この試験の試料No.14では、光触媒粒子4としてのTiO(ST01)粒子5gと、非線形光学粒子5としてのLiTaO(Yamaju)粒子5gと、蓄光燐光粒子6としてのCaAl:Eu,Nd粒子5gとを入れた。
【0126】
その他の条件は前記実施例1と同様にして、効果確認試験を行った。その結果を、前記試験例4の試料No.11及び12と併せて、図11に示す。
【0127】
図11より、光源7として、発光領域が410〜550nmの青色発光ダイオードを用い、光触媒粒子4としてTiO(ST01)粒子を用い、かつ、非線形光学粒子5としてLiTaO(Yamaju)粒子を用いた場合でも、前記実施例1と同様、光触媒粒子4、非線形光学粒子5及び蓄光燐光粒子6の三者の混入により、反応速度が効果的に増大した。
【0128】
(付記)
前記実施形態1〜5で説明した環境浄化材、環境浄化装置及び環境浄化方法は、例えば水の分解などのエネルギー変換・創製にも適用することができると考えられる。
【0129】
本明細書には、例えば以下に示す発明も開示されている。
(1)流体又は固体よりなる分散媒体と、
前記分散媒体に流動又は固定状態で分散、保持された光触媒粒子と、
前記分散媒体に流動又は固定状態で分散、保持された非線形光学粒子と、
前記分散媒体に流動又は固定状態で分散、保持された蓄光燐光粒子と、を備えていることを特徴とする流体処理材。
(2)処理しようとする流体が流通可能な通孔を有する容器と、該容器内に三者が混合、分散した状態で充填された光触媒粒子、非線形光学粒子及び蓄光燐光粒子と、を備えていることを特徴とする流体処理材。
(3)前記分散媒体として流体を用いて前記光触媒粒子の光触媒作用により該流体中の汚染物質を浄化する環境浄化装置であって、
反応容器と、該反応容器内に入れられた前記(1)に記載の流体処理材と、該反応容器内の前記流体を撹拌する撹拌手段と、前記蓄光燐光粒子に所定の光を照射する光源と、を備えていることを特徴とする流体処理装置。
(4)前記分散媒体として流体を用いて前記光触媒粒子の光触媒作用により該流体を処理する流体処理方法であって、
反応容器内に前記(1)に記載の流体処理材を入れ、前記流体を撹拌して前記光触媒粒子、前記非線形光学粒子及び前記蓄光燐光粒子を分散させながら、該蓄光燐光粒子に所定の光を照射することにより、該蓄光燐光粒子が蓄光、燐光した光を該非線形光学粒子で短波長光に変換するとともに、該短波長光で該光触媒粒子を活性化させることを特徴とする流体処理方法。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】実施形態1に係る環境浄化装置の全体構成を模式的に示す説明図である。
【図2】実施形態2に係る環境浄化装置の全体構成を模式的に示す説明図である。
【図3】実施形態3に係る環境浄化装置の全体構成を模式的に示す説明図である。
【図4】実施形態4に係る環境浄化装置の全体構成を模式的に示す説明図である。
【図5】実施形態5に係る環境浄化装置の全体構成を模式的に示す説明図である。
【図6】評価確認のための試験例1の評価結果を示す図である。
【図7】評価確認のための試験例2の評価結果を示す図である。
【図8】評価確認のための試験例3の評価結果を示す図である。
【図9】評価確認のための試験例3の評価結果を示す図である。
【図10】評価確認のための試験例4の評価結果を示す図である。
【図11】評価確認のための試験例5の評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0131】
1…反応容器 2…流体
3…エアーバブラー(撹拌手段) 4…光触媒粒子
5…非線形光学粒子 6…蓄光燐光粒子
7…光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体又は固体よりなる分散媒体と、
前記分散媒体に流動又は固定状態で分散、保持された光触媒粒子と、
前記分散媒体に流動又は固定状態で分散、保持された非線形光学粒子と、
前記分散媒体に流動又は固定状態で分散、保持された蓄光燐光粒子と、を備えていることを特徴とする環境浄化材。
【請求項2】
前記非線形光学粒子がLiNbO及びLiTaOから選ばれる少なくとも1種よりなる請求項1に記載の環境浄化材。
【請求項3】
前記蓄光燐光粒子がCaAlよりなる請求項1又は2に記載の環境浄化材。
【請求項4】
浄化しようとする流体が流通可能な通孔を有する容器と、該容器内に三者が混合、分散した状態で充填された光触媒粒子、非成形光学粒子及び蓄光燐光粒子と、を備えていることを特徴とする環境浄化材。
【請求項5】
前記非線形光学粒子がLiNbO及びLiTaOから選ばれる少なくとも1種よりなる請求項4に記載の環境浄化材。
【請求項6】
前記蓄光燐光粒子がCaAlよりなる請求項4又は5に記載の環境浄化材。
【請求項7】
前記分散媒体として流体を用いて前記光触媒粒子の光触媒作用により該流体中の汚染物質を浄化する環境浄化装置であって、
反応容器と、該反応容器内に入れられた請求項1乃至3のいずれか一つに記載の環境浄化材と、該反応容器内の前記流体を撹拌する撹拌手段と、前記蓄光燐光粒子に所定の光を照射する光源と、を備えていることを特徴とする環境浄化装置。
【請求項8】
前記分散媒体として流体を用いて前記光触媒粒子の光触媒作用により該流体中の汚染物質を浄化する環境浄化方法であって、
反応容器内に請求項1乃至3のいずれか一つに記載の環境浄化材を入れ、前記流体を撹拌して前記光触媒粒子、前記非線形光学粒子及び前記蓄光燐光粒子を分散させながら、該蓄光燐光粒子に所定の光を照射することにより、該蓄光燐光粒子が蓄光、燐光した光を該非線形光学粒子で短波長光に変換するとともに、該短波長光で該光触媒粒子を活性化させることを特徴とする環境浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−194622(P2008−194622A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32703(P2007−32703)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年8月16日社団法人化学工学会発行「化学工学会第38回秋季大会 研究発表講演要旨集(CD−ROM)」M225ページ〔刊行物等〕 平成18年11月22日関西大学、マトロステクノロジー株式会社発行「USPC5 FIFTH INTERNATIONAL CONFERENCE ON UNSTEADY−STATE PROCESSES IN CATALYSIS Proceedings(USPC5 第5回触媒における不安定状態過程についての国際会議予稿集)」P−39 187ページ〔刊行物等〕 平成18年11月22日開催 関西大学、マトロステクノロジー株式会社主催「USPC5 FIFTH INTERNATIONAL CONFERENCE ON UNSTEADY−STATE PROCESSES IN CATALYSIS(USPC5 第5回触媒における不安定状態過程についての国際会議」
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】