環境測定方法
【課題】 測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定できるようにする。
【解決手段】 金属薄膜として例えば前述の合金組成薄膜を作成し(S1)、種類の異なる腐食性ガス毎に、合金組成薄膜の曝露試験を実施し(S2)、薄膜全体の色画像の計時変化を撮影し(S3)、画像データをrgb色空間上に展開したときの曲線が交差しない合金組成候補を選定する(S4)。対象ガスの複合ガス試験を行い、相互影響がないことを確認する(S6)。決定した合金組成で、各腐食性ガス毎に、異なるガス濃度による試験を実施して、較正曲線を作成し、較正曲線上を移動する3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めた結果を示す濃度別の複数の移動距離データを保管する(S7)。濃度が未知の腐食性ガスの曝露下で、3刺激値が前述の較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と保管した濃度別の複数の移動距離データとに基づき、濃度が未知の腐食性ガスの濃度を算出する(S8)。
【解決手段】 金属薄膜として例えば前述の合金組成薄膜を作成し(S1)、種類の異なる腐食性ガス毎に、合金組成薄膜の曝露試験を実施し(S2)、薄膜全体の色画像の計時変化を撮影し(S3)、画像データをrgb色空間上に展開したときの曲線が交差しない合金組成候補を選定する(S4)。対象ガスの複合ガス試験を行い、相互影響がないことを確認する(S6)。決定した合金組成で、各腐食性ガス毎に、異なるガス濃度による試験を実施して、較正曲線を作成し、較正曲線上を移動する3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めた結果を示す濃度別の複数の移動距離データを保管する(S7)。濃度が未知の腐食性ガスの曝露下で、3刺激値が前述の較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と保管した濃度別の複数の移動距離データとに基づき、濃度が未知の腐食性ガスの濃度を算出する(S8)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境における特定ガスの濃度を測定する環境測定方法、環境測定装置、および環境測定素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・電気機器を設置する周囲環境に腐食性ガス、海塩粒子、塵埃等が多く存在すると、機器の劣化が予想外に早く進行し、納入後早々に腐食トラブルに見舞われることがある。このため、機器の設置前に設置環境が機器に与える影響を把握することを目的に環境評価を実施することが一般的である。また、納入後予期しなかった腐食トラブルが発生すると、原因調査や環境改善効果の把握のために環境評価を実施することが多い。
【0003】
例えば、電子・電気機器が設置されているような環境の腐食性ガス濃度はほとんどが1ppm以下と低濃度であるため、ガス検知管等で簡便に測定することはできず、以下のような方法が採用されている。
【0004】
従来から行われている環境評価方法として、対象とする環境の大気を採取し、これに含まれるガスを化学的に分析する方法と、環境中に特定の物質を一定期間曝露し、その変化を調べる方法とに大別される。後者の方法は、単一あるいは複数の金属板を曝露して、その重量変化を調べる方法が一般的に行われている。あるいは、ガスを吸着する薬剤を滲みこませたろ紙を曝露して、ガスと薬剤を反応させることで吸着させ、吸着量を化学的に調べる方法も行われている。また、近年では、特許文献1に示されるような、水晶発振動子上に成膜された物質の重量変化を振動数の変化から求める方法が提案されている。さらには、特許文献2には、2種類以上の金属薄膜を1枚の絶縁基板上に形成し、その透過光、反射光、及び電気抵抗の変化から環境評価を行う方法が開示されている。また、特許文献3に示されるような、金属試験片の腐食の色変化を、RGB各色の数値で複数環境レベルに分けた判定テーブルに基づき判定する方法が開示されている。この方法は、RGBの色毎に判定しているため、各色の環境レベルが異なると、各々の判定結果を平均して環境レベルを決定している。しかしながら、いずれの方法も、結果を得るまでに時間がかかる方法や、精度が高くない方法であり、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することができない。
【0005】
一方、特許文献4には、ガスの種類の応じて反応性が異なる2種類以上の金属を含み、かつ基板表面上の位置ごとに連続的または断続的に組成が異なり、組成と反応するガスの種類に応じて反応後の色調が異なる薄膜が基板表面に形成された環境測定素子が提案されている。また、特許文献5には、温度の変化を受け発色状態が変化する発色部材の色の3刺激値と温度との関係を3次元色空間内で表示し、発色範囲の全域に渡って色の3刺激値と温度とを1価関数的に対応させることによって、広い範囲に渡って温度を計測する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−99777号公報
【特許文献2】特開2003−294606号公報
【特許文献3】特許第3350578号公報
【特許文献4】特開2006−145390号公報
【特許文献5】特許第3376237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4は、ガスの種類などを特定するのに優れた技術であり、特許文献5は、対象物の温度などを測定するのに優れた技術であると言える。しかしながら、これらの技術を用いても、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することは容易なことではない。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することが可能な環境測定方法、環境測定装置、および環境測定素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による環境測定方法は、少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する第1の素子を濃度が既知の前記特定ガスに曝露させた状態で前記第1の素子の色の経時変化を撮像装置により撮影し前記第1の素子の色の3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線であって前記3次元色空間の中で自身が交差しない曲線を較正曲線とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データと、前記第1の素子と同じ組成を有する第2の素子を濃度が未知の前記特定ガスに曝露し、前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測して得られる観測結果とに基づき、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の他の態様による環境測定装置は、少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する第1の素子を特定ガスに曝露させた状態で撮像装置により撮影される前記第1の素子の色の3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線であって前記3次元色空間の中で自身が交差しない曲線を較正曲線とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データを記憶媒体に保管する記憶手段と、前記第1の素子と同じ組成を有する第2の素子を載置かつ交換可能にする保持部と、前記第2の素子に所定の光を当てる照明と、前記第2の素子の色の変化を撮影可能な撮像装置と、濃度が未知の特定ガスに前記第2の素子が曝露される状態で、前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と前記記憶手段の前記濃度別の複数の移動距離データとに基づき、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めるガス濃度演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の態様による環境測定素子は、特定ガスに曝露されて色が経時変化する金属薄膜を表面に備えた環境測定素子であって、前記金属薄膜は、前記特定ガスに曝露されて色が経時変化する際に当該色の経時変化が色の3刺激値を座標軸とする3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る環境測定装置の構成の一例を示すブロック図。
【図2】環境測定装置に使用される金属薄膜の一例を示す概念図。
【図3】薄膜の色変化に伴うrgb値の変化を示すグラフ。
【図4】薄膜の色変化に伴うrgb値の変化をrgbの3次元色空間上に展開した様子を示すグラフ。
【図5】キャリブレーションカーブとして使用できないカーブの一例を示す図。
【図6】キャリブレーションカーブとして使用できないカーブの別の例を示す図。
【図7】キャリブレーションカーブの許容誤差範囲を示す概念図。
【図8】ガラス基板上にCu60%−Ag20%−Sn20%を蒸着し、硫化水素ガス中で腐食させたときの色変化をrgb値に変換して示すグラフ。
【図9】図8の色変化をrgb色空間上に展開し直した様子を示すグラフ。
【図10】ガス濃度に依存して色変化の進行度合いが進む様子を示すグラフ。
【図11】ガス濃度と曝露時間とが線形関係(反比例関係)にあることを示すグラフ。
【図12】図9に示した各濃度毎の呈色変化(較正曲線)から、rgbの3次元色空間における曝露時間毎の移動距離(累積値)を求め、ガス濃度に応じて比較した様子を示す概念図。
【図13】測定対象のガス濃度を同定する方法を説明するためのグラフ。
【図14】較正曲線を増やすことで同定濃度の精度を高めることを説明するためのグラフ。
【図15】対象ガスの濃度変化(急激な濃度の増加など)を評価する方法を説明するためのグラフ。
【図16】較正曲線が1本の場合でも濃度が基準濃度以上になったかどうかの判定を行えることを説明するためのグラフ。
【図17】金属薄膜生成時に表面状態を一様にするのが難しいことを説明するための概念図。
【図18】データの許容範囲を狭めてその範囲内の画素のrgb値を較正曲線に重ねて示した様子を示すグラフ。
【図19】曝露時間に対する頻度分布を求め、平均値を計算することにより、選択領域の曝露時間を同定することを説明するためのグラフ。
【図20】同実施形態に係る環境測定方法の基本的な手順を示すフローチャート。
【図21】本発明の第2の実施形態に係る環境測定装置の構成の一例を示すブロック図。
【図22】本発明の第3の実施形態に係る同実施形態に係る環境測定素子の第1の例を示す概念図。
【図23】同実施形態に係る環境測定素子の第2の例を示す概念図。
【図24】同実施形態に係る環境測定素子の第3の例を示す概念図。
【図25】同実施形態に係る環境測定素子の第4の例を示す概念図。
【図26】同実施形態に係る環境測定素子を用いて腐食性ガスの濃度測定を行う環境測定装置の構成の一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
最初に、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る環境測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0017】
図1に示される環境測定装置は、例えば携帯可能な端末として実現することができ、構成要素として、金属薄膜1と、CCDカメラ2と、データ作成部3,記憶部4,およびガス濃度演算部5を有する情報処理部6と、出力装置7とを備えている。そのほかに、図示はしないが、金属薄膜1に所定の光を当てる照明や、金属薄膜1を載置かつ交換可能にする保持部が備えられる。
【0018】
金属薄膜1は、基板上に蒸着された金属の薄膜であり、少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する傾向が位置毎に異なる素子である。例えば、2種類以上の腐食性ガスに適用することができ、腐食性ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類の金属を含み、かつ位置ごとに連続的または断続的に組成が異なっており、当該組成と反応する腐食性ガスの種類とに応じて反応後の色調が異なる合金組成傾斜薄膜を採用する。合金組成傾斜薄膜は、例えば図2に示されるように、ガラス基板上にCu−Ag−Sn組成傾斜薄膜が形成され、このCu−Ag−Sn組成傾斜薄膜は、その表面において、Cu含有率がx軸方向に変化し、Ag含有率がy軸方向に変化し、かつ、Sn含有率がz軸方向に変化するように構成される。
【0019】
このように、腐食により色変化が発生する金属として、金属板ではなく、金属薄膜を適用し、腐食性ガスと反応する平坦な基材表面に蒸着した金属薄膜が腐食することにより色の計時変化を観測できるようにする。金属薄膜組成は、後述する3刺激値の3次元色空間の中で色の3刺激値による較正曲線(キャリブレーションカーブ)が交わったり変化しなかったりするような組成では観測が困難となるため、較正曲線が最も大きくうねり、観測しやすいカーブを生じさせる組成を採用する。最適金属組成を実現するためには、前述したような合金組成傾斜薄膜を用いることが望ましい。合金組成傾斜薄膜は、前述の例のように3元系の組成傾斜薄膜の場合、3元素のあらゆる合金組成を1枚の基板上に形成できる。この基板を、腐食性ガス雰囲気に曝露し、各合金組成毎に、後述する3刺激値の3次元色空間で色変化を表すことにより、最適組成を簡便に選定することができる。このようにして採用した金属組成薄膜は、反応性が高い薄膜金属組成であるため、測定時間を短くする効果もある。
【0020】
また、金属薄膜1が曝露される腐食性ガスは、環境中に存在する主要な腐食性ガスであり、例えば、亜硫酸ガス、硫化水素ガス、塩素ガス、アンモニアガス、窒素酸化物ガスなどが挙げられる。ここでいう窒素酸化物ガスには、一酸化二窒素、酸化窒素、三酸化二窒素、二酸化窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素などが含まれる。
【0021】
なお、金属薄膜1の作製および使用にあたっては、前述の特許文献4に示される各種の技術を適用してもよい。
【0022】
CCDカメラ2は、金属薄膜1の各位置における色の経時変化をカラー画像として撮影することのできる撮像装置である。
【0023】
データ作成部3,記憶部4,およびガス濃度演算部5を有する情報処理部6は、例えばプログラムを実行するプロセッサやメモリを備えたコンピュータとして実現することができる。
【0024】
データ作成部3は、CCDカメラ2により撮影される金属薄膜1の色の3刺激値を算出する機能を備えるほか、3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡をそれぞれ求める機能や、当該軌跡に応じた曲線をそれぞれ作成する機能、金属薄膜1の各位置のうち、前記3次元色空間の中で曲線自身が交差しない所定の位置を選定し、金属薄膜1を濃度が既知である異なる濃度の特定ガスに別々に曝露させる試験を実施する機能や、当該試験において、前記選定した位置の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線を較正曲線(キャリブレーションカーブ)とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データを記憶媒体に保管する機能などを有する。また、このような較正曲線や関連する複数の移動距離データは、腐食性ガス毎に作成する。これにより、腐食性ガス毎に、該当する較正曲線や複数の移動距離データに基づいて、所望のガスの濃度を測定することができる。
【0025】
腐食性ガスによる金属の腐食反応における色変化は、低濃度の場合は変化速度が遅く、高濃度の場合は変化速度が速いが、色変化の傾向はほぼ同じである。したがって、前述したように濃度別に較正曲線に関する移動距離データを作成しておくことで、任意の曝露時間の任意のガス濃度の測定が可能となる。
【0026】
なお、本実施形態では、前記3次元色空間における色の3刺激値は、RGB表色系における3刺激値をR,G,Bとした場合、数式r=R/(R+G+B)、g=G/(R+G+B)、b=B/(R+G+B)から得られる値で表されるようにする。このように3刺激値にrgb値を採用すると、3刺激値にRGB値を採用した場合と比較して、色計測時の明度の違いを相殺しやすいという利点がある。勿論、RGB表色系や、L*a*b*表色系の他、HSI表色系や、XYZ表色系などを適用することは可能である。
【0027】
また、本実施形態では、前記3次元色空間における較正曲線は、前記色の3刺激値が移動する軌跡に基づき、一定の許容幅をもって管状に形成されるものとする。
【0028】
腐食性ガスによる金属の色変化は均一ではなく、同じ曝露条件で試験を行ってもその変色には、多少のばらつきがある。それは、金属のちょっとした表面粗さの違いや、酸化程度の違い、あるいは腐食性ガスの濃度のばらつき、流れのばらつき、温湿度のばらつきなどが原因で、腐食反応が全く同じ状態で進行しないためである。試験条件が一定となるように管理しても、金属面の変色が一色になるということはない。したがって、色変化で腐食レベルを判定する場合にはロバスト性をもたせた判定システムにする必要があり、そのためには前述のように較正曲線に許容幅(許容誤差範囲)をもたせることが望ましい。
【0029】
なお、3次元色空間における曲線の形成および使用にあたっては、前述の特許文献5に示される各種の技術を適用してもよい。
【0030】
記憶部4は、データ作成部3により作成された較正曲線のデータや濃度別の複数の移動距離データなどをデータベースとして保管する記憶媒体である。ここの保管されるデータベースは、ガス濃度演算部5により利用される。
【0031】
ガス濃度演算部5は、濃度が未知の特定ガスに金属薄膜1が曝露される状態で、前記選定した位置の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と、記憶部4に保管されている濃度別の複数の移動距離データとに基づき、濃度が未知の特定ガスの濃度を求める機能を有する。この場合、前記観測結果と前記濃度別の複数の移動距離データとの間で、同じ曝露時間における移動距離を比較して移動距離の比率を求め、当該比率に基づき、既知の複数の濃度から、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求める。
【0032】
なお、ガス濃度演算部5は、さらに以下のような各種の機能を備えている。
【0033】
すなわち、ガス濃度演算部5は、前記選定した位置の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離の変化を観測することにより、前記濃度が未知の特定ガスの濃度の計時変化を捉える機能を有する。また、データ作成部3は、前記観測結果と前記濃度別の複数の移動距離データの少なくとも1つとの間で、同じ曝露時間における移動距離を比較することにより、前記濃度が未知の特定ガスの濃度が基準値を超えるか否かを判定する機能を有する。さらに、前記濃度が未知の特定ガスの濃度が基準値を超えた場合に、警告を示すアラームを出力する機能も備えている。
【0034】
出力装置7は、情報を画面上に表示するディスプレイや、情報を印字出力するプリンタなどに相当するものであり、データ作成部3やガス濃度演算部5で処理が行われた結果や、記憶部4に保管されている情報を出力することができる。
【0035】
なお、上述の説明では合金組成傾斜薄膜を用いる例を示したが、本発明を実施するにあたって当該合金組成傾斜薄膜は必ずしも必要とされるものではない。後述するように、較正曲線の形成に最適な合金組成を選定し、選定した合金組成の薄膜をガラス基板上に蒸着した素子を用いて、特定ガスの濃度測定を行うようにしてもよい。その場合、前述のガス濃度演算部5は、例えば、データ作成部3により選定された金属薄膜上の位置の素子(第1の素子)の合金組成と同じ合金組成を有する別の素子(第2の素子)を用いて、特定ガスの濃度測定を行う。このとき、第2の素子は、前述の保持部に載置され、前述の照明により所定の光が当てられる。
【0036】
以下、濃度が未知のガスの濃度を測定する方法について、具体例を挙げて説明する。
【0037】
ここでは、硫化水素ガスを対象とし、硫化水素ガス中にCu−Ag−Snの3元系組成傾斜薄膜(3元素のあらゆる組成が1枚の基板上に形成した膜)を硫化水素ガス2ppmで腐食させ、色変化が最も顕著であったCu60%−Ag20%−Sn20%(以下、「Cu60Ag20Sn20」と略称する。)を計測金属組成として選定する。ガラス基板上に金属薄膜を蒸着し、硫化水素ガス2ppmで腐食させたときの色変化を、CCDカメラで撮影した画像ファイルを、RGB値に変換処理する。このRGB値から一定明度に正規化したrgb値を求める。rgb値は、それぞれ、r=R/(R+G+B)、g=G/(R+G+B)、b=B/(R+G+B)で算出される。
【0038】
ここで、薄膜の色変化に伴うrgb値の変化を図3に示す。図3からわかるように、rgb値は、曝露時間に応じて滑らかに変化している。ただし、このように曝露時間に対し、rgb値を二次元的に捉えた場合は、多価関数問題が生じる。たとえばb値に着目した場合は、b=35になる曝露時間は2時間と12時間近辺にあり、これらの多価問題を解決するには、複雑な場合分け等の処理が必要になってしまう。そこで、これらのデータを、曝露時間に対してそれぞれ補間して、rgbの3次元色空間上に展開したものを図4に示す。このように同じデータを3次元色空間上で捉えることで、硫化水素ガスに対するCu60Ag20Sn20組成の金属薄膜の色変化は、一つのつながりの滑らかなrgb特性を示す。
【0039】
rgbの3次元色空間に展開したこのカーブをキャリブレーションカーブとして腐食ガス濃度を測定する。腐食性ガスによる金属の腐食反応における色変化は、低濃度の場合は変化速度が遅く、高濃度の場合は変化速度が速いが、ほぼ同じ色変化をする。したがって、金属薄膜の色変化速度、すなわちキャリブレーションカーブの進展速度を捉えることで、ガス濃度を判定できる。
【0040】
この方法でガス濃度を判定するためには、rgbの3次元色空間に展開したカーブが交差していたり、変化しないものであったりすると、キャリブレーションカーブとして使うことができない。たとえば、硫化水素ガス2ppmにおける純銅薄膜と純銀薄膜の色変化を同様の方法でrgbの3次元色空間に展開した結果を、それぞれ、図5および図6に示す。いずれも、カーブが交差したり、同じ場所を通過したりしている。このようなカーブはキャリブレーションカーブとすることはできない。
【0041】
また、前述したように、金属の腐食反応による色変化は均一ではなく、同じ腐食条件で試験してもその変色には、多少のばらつきがある。それは、金属のちょっとした表面粗さの違いや、酸化程度の違い、あるいは腐食性ガスの濃度のばらつき、流れのばらつき、温湿度のばらつきなどが原因で、腐食反応が全く同じ状態で進行しないためである。したがって、腐食性ガス濃度を判定するキャリブレーションカーブには、色変化の許容誤差範囲を設けておく必要がある。許容誤差範囲は、異なるガス試験条件で、繰り返し評価を行って、決定する。許容誤差領域を超えた計測値は、判定不可能になる。
【0042】
キャリブレーションカーブの許容誤差範囲の概念図を、図7に示す。図7に示されるように、rgbの3次元色空間に形成されるキャリブレーションカーブ11は、一定の許容誤差範囲12を有する。この場合、許容誤差範囲12内のデータは、判定可能データ13として扱われ、一方、許容誤差範囲12内に無いデータは、判定不可データ14として扱われる。
【0043】
また、硫化水素ガスのほか、電気機器に影響を与える、亜硫酸ガス、塩素ガスについても、同様の方法で最適金属薄膜組成を選定し、予めキャリブレーションカーブを取得してデータベース化することで、各種ガスのガス濃度を判定することができる。混合ガスについても同様である。このように、測定した腐食性ガスの種類により曝露する計測薄膜組成を選定することで、複数ガスの濃度の測定が可能となる。
【0044】
続いて、濃度の同定法について例を挙げて説明する。
【0045】
図8は、ガラス基板上にCu60%−Ag20%−Sn20%(すなわち、「Cu60Ag20Sn20」)を蒸着し、硫化水素ガス中で腐食させたときの色変化をrgb値に変換して示したものである。この図8では、ガス濃度が0.1ppmの場合、0.7ppmの場合および1.5ppmの場合における色変化を示している。これらの色変化をrgb色空間上に展開し直したものを図9に示す。図9からわかるように、Cu60Ag20Sn20薄膜の色は、ガス濃度によらず、ほぼ同様な呈色変化を示し、曝露時間に応じて、銀色→紫色→濃い青色→青色→薄い青色に変化していくことが確かめられた。また、図10に示されるように、ガス濃度に依存して、この色変化の進行度合いが進むことがわかった。すなわち、ガス濃度が低い場合(0.1ppm)の場合は、色の変化がゆっくりであり、逆に濃い場合は、色の変化が早まることがわかった。例えば同じ青色に到達するにも0.1ppm濃度では3時間ほどかかるのに対し、1.5ppm濃度では1時間程度で到達する。
【0046】
ガス濃度と曝露時間の関係を更に明らかにするために、同一のサンプルデータに対し、異なるガス濃度で求められた呈色変化を用い、それぞれのガス濃度で所定の色に到達するまでの曝露時間を測定した結果を、図11に示す。図11に示されるとおり、ガス濃度と曝露時間とが線形関係(反比例関係)にあることがわかった。すなわち、これらの関係は、一定ガス濃度で得られた較正曲線を用いることで、曝露時間に応じた色変化から、ガス濃度を推定できることを意味している。
【0047】
図12は、図9に示した各濃度毎の呈色変化(較正曲線)から、rgbの3次元色空間における曝露時間毎の移動距離(累積値)を求め、ガス濃度に応じて比較したものである。図12に示されるように、ガス濃度に応じて移動距離が変化していることがわかる。ガス濃度が濃いほど較正曲線上の移動距離も大きい。従って測定対象のガス濃度は、計測対象ガス雰囲気下で一定時間腐食させた金属薄膜(試験片)の色の、色空間上における累積距離を求め、この値と既知のガス濃度で予め求めておいた較正曲線の累積距離との比較(按分計算)から、図13に示されるように同定できる。例えば上記試験片を対象のガスで1.5h腐食させた時の色のrgb色空間上の移動距離が8だったとする。一方0.1ppmのガスで1.5h腐食させた場合の較正曲線上の移動距離が2だったとする。同じく1.5ppmのガスで1.5h腐食させた場合の較正曲線上の移動距離が13だったとすると、測定対象のガス濃度は次式のように定めることができる。
【0048】
対象ガスの濃度=0.1ppm+(1.5−0.1)ppm/(13−2)×(8−2)=0.86ppm
この場合、既知のガス濃度による較正曲線は2本必要となるが、図14のように較正曲線を増やすことで、同定濃度の精度を高めることも可能である。
【0049】
また、計測対象ガス雰囲気下における試験片の呈色変化を時間を追って求め、3次元色色空間上における累積距離の変化を求めることで、対象ガスの濃度変化(急激な濃度の増加など)を図15のように評価することもできる。
【0050】
また、図16に示されるように、較正曲線が1本の場合でも、これを基準値以上の濃度が検出されたときのアラームを発するための閾値として利用することができる。曝露時間毎の色空間上での累積移動距離を求め、この値と対象ガスの呈色変化の色空間上での移動距離を調べることで、基準濃度以上になったかどうか、危険の有無の判定をするといった使い方ができる。
【0051】
さて、実際の色測定においてはCCDカメラが使われることが多いが、この場合、数10万〜数100万の画素(ピクセル)によって測定対象が捉えられることになる。仮に100万画素程度のカメラを使い、1200×900の画素で約20mm2の試験片を撮影したとする。その画像から照明斑の少ない3mm2程度の領域を選択したとしても画素数は180×135=24000にもなる。これらの各画素のrgb値を調べ、前述の較正曲線に重ねて示したものを、図17に示す。図17からわかるように、実際的には金属薄膜生成時に表面状態を一様にするのが難しいため、腐食の進行が微小領域で異なり、たとえ3mm2といった領域でも多くの色が出現してしまうことになる。そこで、本実施形態では、先に図7で示したようにデータの許容範囲を定めることで、呈色状況が良好な画素の色情報のみを使ってガス濃度を同定させる。データの許容範囲を狭めて(例えばバラつきの1%距離以内にし)、その範囲内の画素のrgb値を較正曲線に重ねて示したものを、図18に示す。そして、この許容範囲内のデータだけを用いて、図19に示されるように曝露時間に対する頻度分布を求め、平均値を計算することにより、選択領域の曝露時間を同定することができる。
【0052】
次に、図20を参照して、同実施形態に係る環境測定方法の基本的な手順について説明する。
【0053】
金属薄膜1として例えば前述の合金組成薄膜を作成する(ステップS1)。次に、種類の異なる腐食性ガス毎に、合金組成薄膜の曝露試験を実施し(ステップS2)、薄膜全体の色画像の計時変化をCCDカメラ2により撮影し(ステップS3)、データ作成部3により、画像データをrgb色空間上に展開したときの曲線が交差しない合金組成候補を選定する(ステップS4)。
【0054】
必要な全ての腐食性ガスについての処理が終了すると(ステップS5)、対象ガスの複合ガス試験を行い、相互影響がないことを確認し、もし相互影響がある場合には、前段で選定した別の合金組成候補を評価し、相互影響のない合金組成を決定する(ステップS6)。
【0055】
続いて、データ作成部3は、決定した合金組成で、各腐食性ガス毎に、異なるガス濃度による試験を実施して、較正曲線を作成する。また、較正曲線上を移動する3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めた結果を示す濃度別の複数の移動距離データを記憶部4に保管する(ステップS7)。
【0056】
このようにして実際の測定のための準備が整った後、ガス濃度演算部5は、濃度が未知の腐食性ガスの曝露下で、3刺激値が前述の較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と記憶部4に保管した濃度別の複数の移動距離データとに基づき、濃度が未知の腐食性ガスの濃度を算出する(ステップS8)。
【0057】
この第1の実施形態によれば、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することが可能となる。併せて、ガスの濃度の計時変化を捉えたり、ガスの濃度が基準値を超えるか否かを判定したりすることも可能となる。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0059】
なお、前述の第1の実施形態と共通する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、前述の第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0060】
図21は、本発明の第2の実施形態に係る環境測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0061】
図21に示される環境測定装置は、図1に示した各種の要素1〜7に加え、照明21、画像取得制御部22、回転機構付き保持部23、および遮光箱24をさらに備えている。上記画像取得制御部22は、例えば情報処理装置6内に設けられる。
【0062】
照明21は、金属薄膜1に対して撮影に適する所定の光を照射するものである。
【0063】
画像取得制御部22は、CCDカメラ2による撮影を自動化し、無人による画像データ収集を実現するものである。この画像取得制御部22は、照明21が金属薄膜1の撮影時のみ点灯するように制御する機能を有する。例えば、この画像取得制御部22は、金属薄膜1の任意の箇所の色の3刺激値を監視し、この3刺激値の全ての値あるいはいずれかの値が照明消灯時の値から一定量以上大きく変化した時に照明21が点灯して撮影が行われるように制御することができる。
【0064】
回転機構付き保持部23は、金属薄膜1を保持するものであり、照明21からの光が金属薄膜1の表面に反射してCCDカメラ2に入射することを避けるように金属薄膜1の表面を傾ける回転機構を有する。
【0065】
遮光箱24は、必要に応じて設置されるものであり、金属薄膜1、CCDカメラ2、照明21、および回転機構付き保持部23を収納し、測定環境の光を遮ることができ且つ外気と同じガス雰囲気を保つことができるものである。この遮光箱24には、複数の通風口AやファンBが設けられる。
【0066】
一般に、環境測定をする場所に、撮影に適した照明が常にあるとは限らない。照明がない場合には、上記照明21を設ける。照明21は、常時点灯する必要はなく、金属薄膜1の色の経時変化を撮影する時だけに点灯すればよい。常時点灯すると、照明の寿命の問題や照明が発する熱の問題が生じるので、常時点灯は極力避ける。例えば、1時間間隔で撮影する場合は、撮影時刻に照明が点灯していればよいので、撮影時刻の前後1分点灯するように照明タイマーをセットする。この場合、常時点灯に比べ、点灯時間が60分の2で済むので、照明21の寿命は30倍になる。また、点灯時間が短いので、発熱を低減させることもできる。
【0067】
ここで、照明21の点灯時間を更に短縮させる方法を説明する。例えば、画像取得制御部22により、カメラ画像のある1点のRGB値を例えば1秒毎に取得する。このRGB値が、RGBの基準値より大きく変化した時に、照明21を点灯させて、金属薄膜1を撮影し、撮影後に照明21を消灯するように制御する。このようにすると、照明21の点灯時間を数秒に短縮することが可能となる。また、RGB値の取得間隔を短く設定しておくことで、照明21の点灯時間を可能な限り短くすることができる。RGBの基準値は、例えば照明消灯時のRGB値とし、RGBのすべての値、またはいずれかの値が例えば10%変動した時に照明21が点灯するようにする。なお、照明21を点灯させる適切なタイミングは照明の種類に依存するため、上記10%に限定されるものではない。また、上記制御では、照明21の点灯とCCDカメラ2の画像取得とが同期するため、双方の動作がずれることがないという利点もある。
【0068】
一方、金属薄膜1を保持する回転機構付き保持部23は、金属薄膜1の表面を傾けることができる回転機構を有している。すなわち、金属薄膜1の表面は鏡面なので、CCDカメラ2側においては、周囲に存在する物体や正面のCCDカメラ2自身を写し込んでしまったり、画像が光ってしまったりすることがあるが、そのような場合には、保持部23の回転機構によって金属薄膜1を少し傾斜させることにより、不要な物の写し込みや光の反射を避けることができる。例えば、ねじを緩めると保持部23全体が傾くような機構を採用する。これにより、金属薄膜1を光の影響が少ない状態に容易に配置することができる。
【0069】
また、測定環境の照明などの変動が大きい場合は、上記遮光箱11を設け、金属薄膜1の撮影をこの遮光箱11の内側で行うことが望ましい。遮光箱11内には、金属薄膜1、CCDカメラ2、照明21、および回転機構付き保持部23が収納される。一方、画像取得制御部22を含む情報処理部6は、遮光箱11の外側に置かれる。遮光箱11は、大気が自由に出入りできなければならないため、複数の通風口Aを有する。これらの通風口Aは、様々な設置環境で金属薄膜1に対する光の影響を低減できるように、開閉可能な開閉扉を備え、そのうちのいくつかの開閉扉が開にされた状態で環境測定を実施できるようになっている。また、遮光箱11には、ファンBを取り付けて、強制的に大気を箱内に導入・排気させるようにしてもよい。その場合、箱内の腐食性ガス濃度は測定環境と同じであるが、風速が大きくなるので、導入大気が直接金属薄膜1に当たると、金属薄膜と接触する腐食性ガスの絶対量が増え、腐食が早く進行する。そのため、導入大気が直接金属薄膜1に当たらないような遮風板を設けるか、予めファン導入大気速度と金属薄膜1の色の3刺激値が3次元色空間の中で移動する速度の関連について調べておき、腐食性ガス濃度判定の時に測定値を補正することが望ましい。
【0070】
なお、金属薄膜1の色画像の観測においては、前述の第1の実施形態でも述べた通り、CCDカメラ2で撮影した画像ファイルを、RGB値に変換処理し、このRGB値から一定明度に正規化したrgb値を求める。rgb値は、それぞれ、r=R/(R+G+B)、g=G/(R+G+B)、b=B/(R+G+B)で算出される。このように3刺激値にrgb値を採用すると、3刺激値にRGB値を採用した場合と比較して、色計測時の明度の違いを相殺しやすいという利点がある。なお、測定環境の照明変動が極端に大きくなければ、遮光箱11を使わなくてもよい。
【0071】
この第2の実施形態によれば、照明などのコストを抑えつつ、ガス濃度測定の精度をより一層向上させることが可能となる。
【0072】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0073】
この第3の実施形態では、前述の第1の実施形態もしくは第2の実施形態において較正曲線の形成に最適なものとして選定した金属組成と同じ金属組成を有する薄膜を備えた環境測定素子およびこの環境測定素子を用いて腐食性ガスの濃度測定を行う環境測定装置について説明する。
【0074】
最初に、図22〜図25を参照して、環境測定素子の具体例について説明する。
【0075】
図22〜図25に示される環境測定素子は、それぞれ、前述の較正曲線の形成に最適なものとして選定した金属組成と同じ金属組成を有する金属薄膜を備えている。すなわち、ここで使用する金属薄膜は、特定ガスに曝露されて色が経時変化する際に当該色の経時変化が色の3刺激値を座標軸とする3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有するものである。金属薄膜は、例えばガラス(又はアクリル)基板上に蒸着して形成される。また、この金属薄膜を2枚のガラス(又はアクリル)板の間に挟むように構成してもよい。
【0076】
図22は、本実施形態に係る環境測定素子の第1の例を示す概念図である。
【0077】
この環境測定素子は、その表面に特定ガスA検出用金属薄膜31を備えている。特定ガスA検出用金属薄膜31は、特定ガスA(例えば、亜硫酸ガス)に曝露された際の色の経時変化が3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有する。本例によれば、簡易な構成により、特定ガスAの濃度測定を行うことを可能とする環境測定素子を実現することができる。
【0078】
図23は、本実施形態に係る環境測定素子の第2の例を示す概念図である。
【0079】
この環境測定素子は、その表面に前述の特定ガスA検出用金属薄膜31を備えるほか、標準白色基板40を備えている。標準白色基板40は、色調補正用(ホワイトバランス用)の基板であり、撮影後の特定ガスA検出用金属薄膜31の色調を補正する際の(ホワイトバランスの調整を行う際の)基準となる白色を提供するものである。本例によれば、簡易な構成により、特定ガスAの濃度測定を行うことに加えて色調補正を行うことが可能な環境測定素子を実現することができる。標準白色基板40があるため、当該環境測定素子を用いてガス濃度測定を行うための環境測定装置が、前述の較正曲線等の作成の際に使用した環境測定装置と異なる色調感度を有する場合であっても、この標準白色基板40の色調を用いて特定ガスA検出用金属薄膜31の色調を補正することにより、特定ガスAの濃度測定を高精度に行うことができる。
【0080】
図24は、本実施形態に係る環境測定素子の第3の例を示す概念図である。
【0081】
この環境測定素子は、その表面に前述の特定ガスA検出用金属薄膜31、特定ガスB検出用金属薄膜32、特定ガスC検出用金属薄膜33、および特定ガスD検出用金属薄膜34を備えている。すなわち、金属薄膜31,32,33,34は、それぞれ種類の異なる特定ガスに曝露されて、異なる色の経時変化を示すものである。特定ガスB検出用金属薄膜32は、特定ガスB(例えば、硫化水素ガス)に曝露された際の色の経時変化が3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有する。特定ガスC検出用金属薄膜33は、特定ガスC(例えば、窒素酸化物ガス)に曝露された際の色の経時変化が3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有する。特定ガスD検出用金属薄膜34は、特定ガスD(例えば、塩素ガス)に曝露された際の色の経時変化が3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有する。本例によれば、簡易な構成により、4種類の特定ガスA,B,C,Dの濃度測定を同時に行うことを可能とする環境測定素子を実現することができる。
【0082】
図25は、本実施形態に係る環境測定素子の第4の例を示す概念図である。
【0083】
この環境測定素子は、その表面に前述の特定ガスA検出用金属薄膜31、特定ガスB検出用金属薄膜32、および特定ガスC検出用金属薄膜33を備えるほか、標準白色基板40を備えている。標準白色基板40は、撮影後の特定ガスA検出用金属薄膜31、特定ガスB検出用金属薄膜32、および特定ガスC検出用金属薄膜33の色調を補正する際の基準となる白色を提供するものである。本例によれば、簡易な構成により、3種類の特定ガスA,B,Cの濃度測定を同時に行うことに加えて色調補正を行うことが可能な環境測定素子を実現することができる。標準白色基板40があるため、当該環境測定素子を用いてガス濃度測定を行うための環境測定装置が、前述の較正曲線等の作成の際に使用した環境測定装置と異なる色調感度を有する場合であっても、この標準白色基板40の色調を用いて特定ガスA検出用金属薄膜31、特定ガスB検出用金属薄膜32、および特定ガスC検出用金属薄膜33の色調を補正することにより、特定ガスA,B,Cの濃度測定を高精度に行うことができる。
【0084】
図21〜図25に示した環境測定素子は、裏面に付着機構を備えていてもよい。付着機構の例としては、両面テープなどの粘着機構が挙げられる。このように構成すると、付着機構を介して環境測定素子を所望の測定場所に容易に取り付けることができ、また、取り外しも容易に行うことができる。なお、付着機構は、両面テープなどの粘着機構に限定されるものではない。
【0085】
また、図21〜図25に示した環境測定素子は、使用前においては、当該環境測定素子全体が大気から遮断されるように包装体に収納されていてもよい。包装体は、大気からの遮断を実現するものであれば、袋状のものであってもよいし、ラップ状のものであってもよい。なお、包装体は、これらの例に限定されるものではない。
【0086】
図26に、本実施形態に係る環境測定素子を用いて腐食性ガスの濃度測定を行う環境測定装置の構成の一例を示す。
【0087】
図26に示される環境測定装置は、環境測定素子101(例えば図21〜図25に示した環境測定素子のいずれか)を、濃度が未知の特定ガスに曝露させた状態で、環境測定素子101上の金属薄膜の色の経時変化をCCDカメラにて撮影する画像計測部200と、撮影される色の3刺激値が前述の3次元色空間の中で較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と濃度別の複数の移動距離データとから濃度が未知の特定ガスの濃度を求める情報処理部106と、出力装置107とを備えている。この場合の較正曲線および濃度別の複数の移動距離データは、環境測定素子101上の金属薄膜に対応する情報であり、前述の第1の実施形態もしくは第2の実施形態に示した手法により作成されたものである。
【0088】
情報処理部106は、例えば、パーソナルコンピュータであってもよいし、あるいはサーバ装置であってもよい。この場合、画像計測部200と情報処理部106とは、無線もしくは有線の通信媒体を通じて接続され、画像計測部200において撮影された情報が、当該通信媒体を通じて情報処理部106へ送信されるようになっている。通信媒体の例としては、LANやUSBケーブルなどが挙げられる。情報処理部106は、画像計測部200との通信が可能な範囲内であれば、どこに設置されていてもよい。情報処理部106は、画像計測部200と分離させて設置できるため、情報処理部106の小型化を図ることが可能となる。
【0089】
また、情報処理部106は、画像計測部200に内蔵されていてもよい。この情報処理部106を例えばチップ形状のマイコン等として画像計測部200に内蔵させることにより、情報処理部106の小型化を図ることができ、コンパクトでハンディな環境測定装置を実現することが可能となる。
【0090】
画像計測部200は、照明121およびCCDカメラ102を有し、情報処理部106は、データ作成部103、記憶部104、およびガス濃度演算部105を有している。
【0091】
なお、図26中の照明121およびCCDカメラ102は、図21中の照明21およびCCDカメラ2と同等の機能を有するものである。同様に、図26中のデータ作成部103、記憶部104、およびガス濃度演算部105は、図21中のデータ作成部3、記憶部4、およびガス濃度演算部5と同等の機能を有するものである。また、図26中の出力装置107は、図21中の出力装置7と同等の機能を有するものである。但し、データ作成部103は、さらに、後述するように領域判定部301および色調補正部302を備えている。また、図26に示される環境測定装置は、図21中の画像取得制御部22、回転機構付き保持部23、遮光箱24と同等の機能を有する要素をさらに備えていてもよい。また、CCDカメラ102は、CCDセンサではなくCMOSセンサを搭載したカメラに代えてもよい。
【0092】
また、画像計測部200の環境測定素子101側には、遮光カバー201が備えられる。この遮光カバー201により、余計な光の入射を防ぎつつ、画像計測部200本体に備えられた照明の光だけを利用して、環境測定素子101上の金属薄膜等の色調を正しく観測することができるので、ガス濃度測定の精度を向上させることが可能となる。
【0093】
領域判定部301は、例えば記憶部4のデータベースに予め記憶されている情報もしくはCCDカメラ102により撮影される画像に示される色調の違いなどに基づいて、画像中の金属薄膜の領域や標準白色基板の領域の位置を判定する機能を有する。
【0094】
色調補正部302は、画像の色調補正(ホワイトバランスの調整)が必要とされる場合、例えば、ここで使用する環境測定装置が前述の較正曲線等の作成の際に使用した環境測定装置と異なる色調感度を有する場合などに使用される。この色調補正部302は、CCDカメラ102装置により撮影される金属薄膜の色調を、同CCDカメラ102により撮影される標準白色基板の色調を用いて補正し、前述の較正曲線に精度よく沿う色変化を観測できるようにする機能を有する。なお、この色調補正部302は、データ作成部103に設ける代わりに、例えばCCDカメラ102に設けるようにしてもよい。
【0095】
なお、濃度が未知のガスの濃度を測定する具体的な方法については、前述の第1の実施形態ですでに説明したため、ここではその説明を省略する。
【0096】
この第3の実施形態によれば、簡易な構成により、用途に合わせて1種類もしくは複数の種類の特定ガスの濃度測定を同時に行ったり、必要に応じて色調補正を行ったりすることを可能とする環境測定素子を提供することができる。また、そのような環境測定素子を用いて、濃度が未知の特定ガスの濃度測定を高精度に行うことができ、必要に応じて色調補正を行うことが可能な環境測定装置を提供することができる。
【0097】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1…金属薄膜、2…CCDカメラ、3…データ作成部、4…記憶部、5…ガス濃度演算部、6…情報処理部、7…出力装置、11…キャリブレーションカーブ、12…許容誤差範囲、13…判定可能データ、14…判定不可データ、21…照明、22…画像取得制御部、23…回転機構付き保持部、24…遮光箱、31…特定ガスA検出用金属薄膜、32…特定ガスB検出用金属薄膜、33…特定ガスC検出用金属薄膜、34…特定ガスD検出用金属薄膜、40…標準白色基板、101…環境測定素子、102…CCDカメラ、103…データ作成部、104…記憶部、105…ガス濃度演算部、106…情報処理部、107…出力装置、200…画像計測部、201…遮光カバー、301…領域判定部、302…色調補正部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境における特定ガスの濃度を測定する環境測定方法、環境測定装置、および環境測定素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・電気機器を設置する周囲環境に腐食性ガス、海塩粒子、塵埃等が多く存在すると、機器の劣化が予想外に早く進行し、納入後早々に腐食トラブルに見舞われることがある。このため、機器の設置前に設置環境が機器に与える影響を把握することを目的に環境評価を実施することが一般的である。また、納入後予期しなかった腐食トラブルが発生すると、原因調査や環境改善効果の把握のために環境評価を実施することが多い。
【0003】
例えば、電子・電気機器が設置されているような環境の腐食性ガス濃度はほとんどが1ppm以下と低濃度であるため、ガス検知管等で簡便に測定することはできず、以下のような方法が採用されている。
【0004】
従来から行われている環境評価方法として、対象とする環境の大気を採取し、これに含まれるガスを化学的に分析する方法と、環境中に特定の物質を一定期間曝露し、その変化を調べる方法とに大別される。後者の方法は、単一あるいは複数の金属板を曝露して、その重量変化を調べる方法が一般的に行われている。あるいは、ガスを吸着する薬剤を滲みこませたろ紙を曝露して、ガスと薬剤を反応させることで吸着させ、吸着量を化学的に調べる方法も行われている。また、近年では、特許文献1に示されるような、水晶発振動子上に成膜された物質の重量変化を振動数の変化から求める方法が提案されている。さらには、特許文献2には、2種類以上の金属薄膜を1枚の絶縁基板上に形成し、その透過光、反射光、及び電気抵抗の変化から環境評価を行う方法が開示されている。また、特許文献3に示されるような、金属試験片の腐食の色変化を、RGB各色の数値で複数環境レベルに分けた判定テーブルに基づき判定する方法が開示されている。この方法は、RGBの色毎に判定しているため、各色の環境レベルが異なると、各々の判定結果を平均して環境レベルを決定している。しかしながら、いずれの方法も、結果を得るまでに時間がかかる方法や、精度が高くない方法であり、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することができない。
【0005】
一方、特許文献4には、ガスの種類の応じて反応性が異なる2種類以上の金属を含み、かつ基板表面上の位置ごとに連続的または断続的に組成が異なり、組成と反応するガスの種類に応じて反応後の色調が異なる薄膜が基板表面に形成された環境測定素子が提案されている。また、特許文献5には、温度の変化を受け発色状態が変化する発色部材の色の3刺激値と温度との関係を3次元色空間内で表示し、発色範囲の全域に渡って色の3刺激値と温度とを1価関数的に対応させることによって、広い範囲に渡って温度を計測する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−99777号公報
【特許文献2】特開2003−294606号公報
【特許文献3】特許第3350578号公報
【特許文献4】特開2006−145390号公報
【特許文献5】特許第3376237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4は、ガスの種類などを特定するのに優れた技術であり、特許文献5は、対象物の温度などを測定するのに優れた技術であると言える。しかしながら、これらの技術を用いても、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することは容易なことではない。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することが可能な環境測定方法、環境測定装置、および環境測定素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による環境測定方法は、少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する第1の素子を濃度が既知の前記特定ガスに曝露させた状態で前記第1の素子の色の経時変化を撮像装置により撮影し前記第1の素子の色の3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線であって前記3次元色空間の中で自身が交差しない曲線を較正曲線とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データと、前記第1の素子と同じ組成を有する第2の素子を濃度が未知の前記特定ガスに曝露し、前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測して得られる観測結果とに基づき、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の他の態様による環境測定装置は、少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する第1の素子を特定ガスに曝露させた状態で撮像装置により撮影される前記第1の素子の色の3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線であって前記3次元色空間の中で自身が交差しない曲線を較正曲線とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データを記憶媒体に保管する記憶手段と、前記第1の素子と同じ組成を有する第2の素子を載置かつ交換可能にする保持部と、前記第2の素子に所定の光を当てる照明と、前記第2の素子の色の変化を撮影可能な撮像装置と、濃度が未知の特定ガスに前記第2の素子が曝露される状態で、前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と前記記憶手段の前記濃度別の複数の移動距離データとに基づき、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めるガス濃度演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他の態様による環境測定素子は、特定ガスに曝露されて色が経時変化する金属薄膜を表面に備えた環境測定素子であって、前記金属薄膜は、前記特定ガスに曝露されて色が経時変化する際に当該色の経時変化が色の3刺激値を座標軸とする3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る環境測定装置の構成の一例を示すブロック図。
【図2】環境測定装置に使用される金属薄膜の一例を示す概念図。
【図3】薄膜の色変化に伴うrgb値の変化を示すグラフ。
【図4】薄膜の色変化に伴うrgb値の変化をrgbの3次元色空間上に展開した様子を示すグラフ。
【図5】キャリブレーションカーブとして使用できないカーブの一例を示す図。
【図6】キャリブレーションカーブとして使用できないカーブの別の例を示す図。
【図7】キャリブレーションカーブの許容誤差範囲を示す概念図。
【図8】ガラス基板上にCu60%−Ag20%−Sn20%を蒸着し、硫化水素ガス中で腐食させたときの色変化をrgb値に変換して示すグラフ。
【図9】図8の色変化をrgb色空間上に展開し直した様子を示すグラフ。
【図10】ガス濃度に依存して色変化の進行度合いが進む様子を示すグラフ。
【図11】ガス濃度と曝露時間とが線形関係(反比例関係)にあることを示すグラフ。
【図12】図9に示した各濃度毎の呈色変化(較正曲線)から、rgbの3次元色空間における曝露時間毎の移動距離(累積値)を求め、ガス濃度に応じて比較した様子を示す概念図。
【図13】測定対象のガス濃度を同定する方法を説明するためのグラフ。
【図14】較正曲線を増やすことで同定濃度の精度を高めることを説明するためのグラフ。
【図15】対象ガスの濃度変化(急激な濃度の増加など)を評価する方法を説明するためのグラフ。
【図16】較正曲線が1本の場合でも濃度が基準濃度以上になったかどうかの判定を行えることを説明するためのグラフ。
【図17】金属薄膜生成時に表面状態を一様にするのが難しいことを説明するための概念図。
【図18】データの許容範囲を狭めてその範囲内の画素のrgb値を較正曲線に重ねて示した様子を示すグラフ。
【図19】曝露時間に対する頻度分布を求め、平均値を計算することにより、選択領域の曝露時間を同定することを説明するためのグラフ。
【図20】同実施形態に係る環境測定方法の基本的な手順を示すフローチャート。
【図21】本発明の第2の実施形態に係る環境測定装置の構成の一例を示すブロック図。
【図22】本発明の第3の実施形態に係る同実施形態に係る環境測定素子の第1の例を示す概念図。
【図23】同実施形態に係る環境測定素子の第2の例を示す概念図。
【図24】同実施形態に係る環境測定素子の第3の例を示す概念図。
【図25】同実施形態に係る環境測定素子の第4の例を示す概念図。
【図26】同実施形態に係る環境測定素子を用いて腐食性ガスの濃度測定を行う環境測定装置の構成の一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
最初に、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る環境測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0017】
図1に示される環境測定装置は、例えば携帯可能な端末として実現することができ、構成要素として、金属薄膜1と、CCDカメラ2と、データ作成部3,記憶部4,およびガス濃度演算部5を有する情報処理部6と、出力装置7とを備えている。そのほかに、図示はしないが、金属薄膜1に所定の光を当てる照明や、金属薄膜1を載置かつ交換可能にする保持部が備えられる。
【0018】
金属薄膜1は、基板上に蒸着された金属の薄膜であり、少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する傾向が位置毎に異なる素子である。例えば、2種類以上の腐食性ガスに適用することができ、腐食性ガスの種類に応じて反応性が異なる3種類の金属を含み、かつ位置ごとに連続的または断続的に組成が異なっており、当該組成と反応する腐食性ガスの種類とに応じて反応後の色調が異なる合金組成傾斜薄膜を採用する。合金組成傾斜薄膜は、例えば図2に示されるように、ガラス基板上にCu−Ag−Sn組成傾斜薄膜が形成され、このCu−Ag−Sn組成傾斜薄膜は、その表面において、Cu含有率がx軸方向に変化し、Ag含有率がy軸方向に変化し、かつ、Sn含有率がz軸方向に変化するように構成される。
【0019】
このように、腐食により色変化が発生する金属として、金属板ではなく、金属薄膜を適用し、腐食性ガスと反応する平坦な基材表面に蒸着した金属薄膜が腐食することにより色の計時変化を観測できるようにする。金属薄膜組成は、後述する3刺激値の3次元色空間の中で色の3刺激値による較正曲線(キャリブレーションカーブ)が交わったり変化しなかったりするような組成では観測が困難となるため、較正曲線が最も大きくうねり、観測しやすいカーブを生じさせる組成を採用する。最適金属組成を実現するためには、前述したような合金組成傾斜薄膜を用いることが望ましい。合金組成傾斜薄膜は、前述の例のように3元系の組成傾斜薄膜の場合、3元素のあらゆる合金組成を1枚の基板上に形成できる。この基板を、腐食性ガス雰囲気に曝露し、各合金組成毎に、後述する3刺激値の3次元色空間で色変化を表すことにより、最適組成を簡便に選定することができる。このようにして採用した金属組成薄膜は、反応性が高い薄膜金属組成であるため、測定時間を短くする効果もある。
【0020】
また、金属薄膜1が曝露される腐食性ガスは、環境中に存在する主要な腐食性ガスであり、例えば、亜硫酸ガス、硫化水素ガス、塩素ガス、アンモニアガス、窒素酸化物ガスなどが挙げられる。ここでいう窒素酸化物ガスには、一酸化二窒素、酸化窒素、三酸化二窒素、二酸化窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素などが含まれる。
【0021】
なお、金属薄膜1の作製および使用にあたっては、前述の特許文献4に示される各種の技術を適用してもよい。
【0022】
CCDカメラ2は、金属薄膜1の各位置における色の経時変化をカラー画像として撮影することのできる撮像装置である。
【0023】
データ作成部3,記憶部4,およびガス濃度演算部5を有する情報処理部6は、例えばプログラムを実行するプロセッサやメモリを備えたコンピュータとして実現することができる。
【0024】
データ作成部3は、CCDカメラ2により撮影される金属薄膜1の色の3刺激値を算出する機能を備えるほか、3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡をそれぞれ求める機能や、当該軌跡に応じた曲線をそれぞれ作成する機能、金属薄膜1の各位置のうち、前記3次元色空間の中で曲線自身が交差しない所定の位置を選定し、金属薄膜1を濃度が既知である異なる濃度の特定ガスに別々に曝露させる試験を実施する機能や、当該試験において、前記選定した位置の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線を較正曲線(キャリブレーションカーブ)とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データを記憶媒体に保管する機能などを有する。また、このような較正曲線や関連する複数の移動距離データは、腐食性ガス毎に作成する。これにより、腐食性ガス毎に、該当する較正曲線や複数の移動距離データに基づいて、所望のガスの濃度を測定することができる。
【0025】
腐食性ガスによる金属の腐食反応における色変化は、低濃度の場合は変化速度が遅く、高濃度の場合は変化速度が速いが、色変化の傾向はほぼ同じである。したがって、前述したように濃度別に較正曲線に関する移動距離データを作成しておくことで、任意の曝露時間の任意のガス濃度の測定が可能となる。
【0026】
なお、本実施形態では、前記3次元色空間における色の3刺激値は、RGB表色系における3刺激値をR,G,Bとした場合、数式r=R/(R+G+B)、g=G/(R+G+B)、b=B/(R+G+B)から得られる値で表されるようにする。このように3刺激値にrgb値を採用すると、3刺激値にRGB値を採用した場合と比較して、色計測時の明度の違いを相殺しやすいという利点がある。勿論、RGB表色系や、L*a*b*表色系の他、HSI表色系や、XYZ表色系などを適用することは可能である。
【0027】
また、本実施形態では、前記3次元色空間における較正曲線は、前記色の3刺激値が移動する軌跡に基づき、一定の許容幅をもって管状に形成されるものとする。
【0028】
腐食性ガスによる金属の色変化は均一ではなく、同じ曝露条件で試験を行ってもその変色には、多少のばらつきがある。それは、金属のちょっとした表面粗さの違いや、酸化程度の違い、あるいは腐食性ガスの濃度のばらつき、流れのばらつき、温湿度のばらつきなどが原因で、腐食反応が全く同じ状態で進行しないためである。試験条件が一定となるように管理しても、金属面の変色が一色になるということはない。したがって、色変化で腐食レベルを判定する場合にはロバスト性をもたせた判定システムにする必要があり、そのためには前述のように較正曲線に許容幅(許容誤差範囲)をもたせることが望ましい。
【0029】
なお、3次元色空間における曲線の形成および使用にあたっては、前述の特許文献5に示される各種の技術を適用してもよい。
【0030】
記憶部4は、データ作成部3により作成された較正曲線のデータや濃度別の複数の移動距離データなどをデータベースとして保管する記憶媒体である。ここの保管されるデータベースは、ガス濃度演算部5により利用される。
【0031】
ガス濃度演算部5は、濃度が未知の特定ガスに金属薄膜1が曝露される状態で、前記選定した位置の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と、記憶部4に保管されている濃度別の複数の移動距離データとに基づき、濃度が未知の特定ガスの濃度を求める機能を有する。この場合、前記観測結果と前記濃度別の複数の移動距離データとの間で、同じ曝露時間における移動距離を比較して移動距離の比率を求め、当該比率に基づき、既知の複数の濃度から、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求める。
【0032】
なお、ガス濃度演算部5は、さらに以下のような各種の機能を備えている。
【0033】
すなわち、ガス濃度演算部5は、前記選定した位置の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離の変化を観測することにより、前記濃度が未知の特定ガスの濃度の計時変化を捉える機能を有する。また、データ作成部3は、前記観測結果と前記濃度別の複数の移動距離データの少なくとも1つとの間で、同じ曝露時間における移動距離を比較することにより、前記濃度が未知の特定ガスの濃度が基準値を超えるか否かを判定する機能を有する。さらに、前記濃度が未知の特定ガスの濃度が基準値を超えた場合に、警告を示すアラームを出力する機能も備えている。
【0034】
出力装置7は、情報を画面上に表示するディスプレイや、情報を印字出力するプリンタなどに相当するものであり、データ作成部3やガス濃度演算部5で処理が行われた結果や、記憶部4に保管されている情報を出力することができる。
【0035】
なお、上述の説明では合金組成傾斜薄膜を用いる例を示したが、本発明を実施するにあたって当該合金組成傾斜薄膜は必ずしも必要とされるものではない。後述するように、較正曲線の形成に最適な合金組成を選定し、選定した合金組成の薄膜をガラス基板上に蒸着した素子を用いて、特定ガスの濃度測定を行うようにしてもよい。その場合、前述のガス濃度演算部5は、例えば、データ作成部3により選定された金属薄膜上の位置の素子(第1の素子)の合金組成と同じ合金組成を有する別の素子(第2の素子)を用いて、特定ガスの濃度測定を行う。このとき、第2の素子は、前述の保持部に載置され、前述の照明により所定の光が当てられる。
【0036】
以下、濃度が未知のガスの濃度を測定する方法について、具体例を挙げて説明する。
【0037】
ここでは、硫化水素ガスを対象とし、硫化水素ガス中にCu−Ag−Snの3元系組成傾斜薄膜(3元素のあらゆる組成が1枚の基板上に形成した膜)を硫化水素ガス2ppmで腐食させ、色変化が最も顕著であったCu60%−Ag20%−Sn20%(以下、「Cu60Ag20Sn20」と略称する。)を計測金属組成として選定する。ガラス基板上に金属薄膜を蒸着し、硫化水素ガス2ppmで腐食させたときの色変化を、CCDカメラで撮影した画像ファイルを、RGB値に変換処理する。このRGB値から一定明度に正規化したrgb値を求める。rgb値は、それぞれ、r=R/(R+G+B)、g=G/(R+G+B)、b=B/(R+G+B)で算出される。
【0038】
ここで、薄膜の色変化に伴うrgb値の変化を図3に示す。図3からわかるように、rgb値は、曝露時間に応じて滑らかに変化している。ただし、このように曝露時間に対し、rgb値を二次元的に捉えた場合は、多価関数問題が生じる。たとえばb値に着目した場合は、b=35になる曝露時間は2時間と12時間近辺にあり、これらの多価問題を解決するには、複雑な場合分け等の処理が必要になってしまう。そこで、これらのデータを、曝露時間に対してそれぞれ補間して、rgbの3次元色空間上に展開したものを図4に示す。このように同じデータを3次元色空間上で捉えることで、硫化水素ガスに対するCu60Ag20Sn20組成の金属薄膜の色変化は、一つのつながりの滑らかなrgb特性を示す。
【0039】
rgbの3次元色空間に展開したこのカーブをキャリブレーションカーブとして腐食ガス濃度を測定する。腐食性ガスによる金属の腐食反応における色変化は、低濃度の場合は変化速度が遅く、高濃度の場合は変化速度が速いが、ほぼ同じ色変化をする。したがって、金属薄膜の色変化速度、すなわちキャリブレーションカーブの進展速度を捉えることで、ガス濃度を判定できる。
【0040】
この方法でガス濃度を判定するためには、rgbの3次元色空間に展開したカーブが交差していたり、変化しないものであったりすると、キャリブレーションカーブとして使うことができない。たとえば、硫化水素ガス2ppmにおける純銅薄膜と純銀薄膜の色変化を同様の方法でrgbの3次元色空間に展開した結果を、それぞれ、図5および図6に示す。いずれも、カーブが交差したり、同じ場所を通過したりしている。このようなカーブはキャリブレーションカーブとすることはできない。
【0041】
また、前述したように、金属の腐食反応による色変化は均一ではなく、同じ腐食条件で試験してもその変色には、多少のばらつきがある。それは、金属のちょっとした表面粗さの違いや、酸化程度の違い、あるいは腐食性ガスの濃度のばらつき、流れのばらつき、温湿度のばらつきなどが原因で、腐食反応が全く同じ状態で進行しないためである。したがって、腐食性ガス濃度を判定するキャリブレーションカーブには、色変化の許容誤差範囲を設けておく必要がある。許容誤差範囲は、異なるガス試験条件で、繰り返し評価を行って、決定する。許容誤差領域を超えた計測値は、判定不可能になる。
【0042】
キャリブレーションカーブの許容誤差範囲の概念図を、図7に示す。図7に示されるように、rgbの3次元色空間に形成されるキャリブレーションカーブ11は、一定の許容誤差範囲12を有する。この場合、許容誤差範囲12内のデータは、判定可能データ13として扱われ、一方、許容誤差範囲12内に無いデータは、判定不可データ14として扱われる。
【0043】
また、硫化水素ガスのほか、電気機器に影響を与える、亜硫酸ガス、塩素ガスについても、同様の方法で最適金属薄膜組成を選定し、予めキャリブレーションカーブを取得してデータベース化することで、各種ガスのガス濃度を判定することができる。混合ガスについても同様である。このように、測定した腐食性ガスの種類により曝露する計測薄膜組成を選定することで、複数ガスの濃度の測定が可能となる。
【0044】
続いて、濃度の同定法について例を挙げて説明する。
【0045】
図8は、ガラス基板上にCu60%−Ag20%−Sn20%(すなわち、「Cu60Ag20Sn20」)を蒸着し、硫化水素ガス中で腐食させたときの色変化をrgb値に変換して示したものである。この図8では、ガス濃度が0.1ppmの場合、0.7ppmの場合および1.5ppmの場合における色変化を示している。これらの色変化をrgb色空間上に展開し直したものを図9に示す。図9からわかるように、Cu60Ag20Sn20薄膜の色は、ガス濃度によらず、ほぼ同様な呈色変化を示し、曝露時間に応じて、銀色→紫色→濃い青色→青色→薄い青色に変化していくことが確かめられた。また、図10に示されるように、ガス濃度に依存して、この色変化の進行度合いが進むことがわかった。すなわち、ガス濃度が低い場合(0.1ppm)の場合は、色の変化がゆっくりであり、逆に濃い場合は、色の変化が早まることがわかった。例えば同じ青色に到達するにも0.1ppm濃度では3時間ほどかかるのに対し、1.5ppm濃度では1時間程度で到達する。
【0046】
ガス濃度と曝露時間の関係を更に明らかにするために、同一のサンプルデータに対し、異なるガス濃度で求められた呈色変化を用い、それぞれのガス濃度で所定の色に到達するまでの曝露時間を測定した結果を、図11に示す。図11に示されるとおり、ガス濃度と曝露時間とが線形関係(反比例関係)にあることがわかった。すなわち、これらの関係は、一定ガス濃度で得られた較正曲線を用いることで、曝露時間に応じた色変化から、ガス濃度を推定できることを意味している。
【0047】
図12は、図9に示した各濃度毎の呈色変化(較正曲線)から、rgbの3次元色空間における曝露時間毎の移動距離(累積値)を求め、ガス濃度に応じて比較したものである。図12に示されるように、ガス濃度に応じて移動距離が変化していることがわかる。ガス濃度が濃いほど較正曲線上の移動距離も大きい。従って測定対象のガス濃度は、計測対象ガス雰囲気下で一定時間腐食させた金属薄膜(試験片)の色の、色空間上における累積距離を求め、この値と既知のガス濃度で予め求めておいた較正曲線の累積距離との比較(按分計算)から、図13に示されるように同定できる。例えば上記試験片を対象のガスで1.5h腐食させた時の色のrgb色空間上の移動距離が8だったとする。一方0.1ppmのガスで1.5h腐食させた場合の較正曲線上の移動距離が2だったとする。同じく1.5ppmのガスで1.5h腐食させた場合の較正曲線上の移動距離が13だったとすると、測定対象のガス濃度は次式のように定めることができる。
【0048】
対象ガスの濃度=0.1ppm+(1.5−0.1)ppm/(13−2)×(8−2)=0.86ppm
この場合、既知のガス濃度による較正曲線は2本必要となるが、図14のように較正曲線を増やすことで、同定濃度の精度を高めることも可能である。
【0049】
また、計測対象ガス雰囲気下における試験片の呈色変化を時間を追って求め、3次元色色空間上における累積距離の変化を求めることで、対象ガスの濃度変化(急激な濃度の増加など)を図15のように評価することもできる。
【0050】
また、図16に示されるように、較正曲線が1本の場合でも、これを基準値以上の濃度が検出されたときのアラームを発するための閾値として利用することができる。曝露時間毎の色空間上での累積移動距離を求め、この値と対象ガスの呈色変化の色空間上での移動距離を調べることで、基準濃度以上になったかどうか、危険の有無の判定をするといった使い方ができる。
【0051】
さて、実際の色測定においてはCCDカメラが使われることが多いが、この場合、数10万〜数100万の画素(ピクセル)によって測定対象が捉えられることになる。仮に100万画素程度のカメラを使い、1200×900の画素で約20mm2の試験片を撮影したとする。その画像から照明斑の少ない3mm2程度の領域を選択したとしても画素数は180×135=24000にもなる。これらの各画素のrgb値を調べ、前述の較正曲線に重ねて示したものを、図17に示す。図17からわかるように、実際的には金属薄膜生成時に表面状態を一様にするのが難しいため、腐食の進行が微小領域で異なり、たとえ3mm2といった領域でも多くの色が出現してしまうことになる。そこで、本実施形態では、先に図7で示したようにデータの許容範囲を定めることで、呈色状況が良好な画素の色情報のみを使ってガス濃度を同定させる。データの許容範囲を狭めて(例えばバラつきの1%距離以内にし)、その範囲内の画素のrgb値を較正曲線に重ねて示したものを、図18に示す。そして、この許容範囲内のデータだけを用いて、図19に示されるように曝露時間に対する頻度分布を求め、平均値を計算することにより、選択領域の曝露時間を同定することができる。
【0052】
次に、図20を参照して、同実施形態に係る環境測定方法の基本的な手順について説明する。
【0053】
金属薄膜1として例えば前述の合金組成薄膜を作成する(ステップS1)。次に、種類の異なる腐食性ガス毎に、合金組成薄膜の曝露試験を実施し(ステップS2)、薄膜全体の色画像の計時変化をCCDカメラ2により撮影し(ステップS3)、データ作成部3により、画像データをrgb色空間上に展開したときの曲線が交差しない合金組成候補を選定する(ステップS4)。
【0054】
必要な全ての腐食性ガスについての処理が終了すると(ステップS5)、対象ガスの複合ガス試験を行い、相互影響がないことを確認し、もし相互影響がある場合には、前段で選定した別の合金組成候補を評価し、相互影響のない合金組成を決定する(ステップS6)。
【0055】
続いて、データ作成部3は、決定した合金組成で、各腐食性ガス毎に、異なるガス濃度による試験を実施して、較正曲線を作成する。また、較正曲線上を移動する3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めた結果を示す濃度別の複数の移動距離データを記憶部4に保管する(ステップS7)。
【0056】
このようにして実際の測定のための準備が整った後、ガス濃度演算部5は、濃度が未知の腐食性ガスの曝露下で、3刺激値が前述の較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と記憶部4に保管した濃度別の複数の移動距離データとに基づき、濃度が未知の腐食性ガスの濃度を算出する(ステップS8)。
【0057】
この第1の実施形態によれば、測定対象となるガスの濃度を短時間で精度良く簡便に測定することが可能となる。併せて、ガスの濃度の計時変化を捉えたり、ガスの濃度が基準値を超えるか否かを判定したりすることも可能となる。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0059】
なお、前述の第1の実施形態と共通する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、前述の第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0060】
図21は、本発明の第2の実施形態に係る環境測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0061】
図21に示される環境測定装置は、図1に示した各種の要素1〜7に加え、照明21、画像取得制御部22、回転機構付き保持部23、および遮光箱24をさらに備えている。上記画像取得制御部22は、例えば情報処理装置6内に設けられる。
【0062】
照明21は、金属薄膜1に対して撮影に適する所定の光を照射するものである。
【0063】
画像取得制御部22は、CCDカメラ2による撮影を自動化し、無人による画像データ収集を実現するものである。この画像取得制御部22は、照明21が金属薄膜1の撮影時のみ点灯するように制御する機能を有する。例えば、この画像取得制御部22は、金属薄膜1の任意の箇所の色の3刺激値を監視し、この3刺激値の全ての値あるいはいずれかの値が照明消灯時の値から一定量以上大きく変化した時に照明21が点灯して撮影が行われるように制御することができる。
【0064】
回転機構付き保持部23は、金属薄膜1を保持するものであり、照明21からの光が金属薄膜1の表面に反射してCCDカメラ2に入射することを避けるように金属薄膜1の表面を傾ける回転機構を有する。
【0065】
遮光箱24は、必要に応じて設置されるものであり、金属薄膜1、CCDカメラ2、照明21、および回転機構付き保持部23を収納し、測定環境の光を遮ることができ且つ外気と同じガス雰囲気を保つことができるものである。この遮光箱24には、複数の通風口AやファンBが設けられる。
【0066】
一般に、環境測定をする場所に、撮影に適した照明が常にあるとは限らない。照明がない場合には、上記照明21を設ける。照明21は、常時点灯する必要はなく、金属薄膜1の色の経時変化を撮影する時だけに点灯すればよい。常時点灯すると、照明の寿命の問題や照明が発する熱の問題が生じるので、常時点灯は極力避ける。例えば、1時間間隔で撮影する場合は、撮影時刻に照明が点灯していればよいので、撮影時刻の前後1分点灯するように照明タイマーをセットする。この場合、常時点灯に比べ、点灯時間が60分の2で済むので、照明21の寿命は30倍になる。また、点灯時間が短いので、発熱を低減させることもできる。
【0067】
ここで、照明21の点灯時間を更に短縮させる方法を説明する。例えば、画像取得制御部22により、カメラ画像のある1点のRGB値を例えば1秒毎に取得する。このRGB値が、RGBの基準値より大きく変化した時に、照明21を点灯させて、金属薄膜1を撮影し、撮影後に照明21を消灯するように制御する。このようにすると、照明21の点灯時間を数秒に短縮することが可能となる。また、RGB値の取得間隔を短く設定しておくことで、照明21の点灯時間を可能な限り短くすることができる。RGBの基準値は、例えば照明消灯時のRGB値とし、RGBのすべての値、またはいずれかの値が例えば10%変動した時に照明21が点灯するようにする。なお、照明21を点灯させる適切なタイミングは照明の種類に依存するため、上記10%に限定されるものではない。また、上記制御では、照明21の点灯とCCDカメラ2の画像取得とが同期するため、双方の動作がずれることがないという利点もある。
【0068】
一方、金属薄膜1を保持する回転機構付き保持部23は、金属薄膜1の表面を傾けることができる回転機構を有している。すなわち、金属薄膜1の表面は鏡面なので、CCDカメラ2側においては、周囲に存在する物体や正面のCCDカメラ2自身を写し込んでしまったり、画像が光ってしまったりすることがあるが、そのような場合には、保持部23の回転機構によって金属薄膜1を少し傾斜させることにより、不要な物の写し込みや光の反射を避けることができる。例えば、ねじを緩めると保持部23全体が傾くような機構を採用する。これにより、金属薄膜1を光の影響が少ない状態に容易に配置することができる。
【0069】
また、測定環境の照明などの変動が大きい場合は、上記遮光箱11を設け、金属薄膜1の撮影をこの遮光箱11の内側で行うことが望ましい。遮光箱11内には、金属薄膜1、CCDカメラ2、照明21、および回転機構付き保持部23が収納される。一方、画像取得制御部22を含む情報処理部6は、遮光箱11の外側に置かれる。遮光箱11は、大気が自由に出入りできなければならないため、複数の通風口Aを有する。これらの通風口Aは、様々な設置環境で金属薄膜1に対する光の影響を低減できるように、開閉可能な開閉扉を備え、そのうちのいくつかの開閉扉が開にされた状態で環境測定を実施できるようになっている。また、遮光箱11には、ファンBを取り付けて、強制的に大気を箱内に導入・排気させるようにしてもよい。その場合、箱内の腐食性ガス濃度は測定環境と同じであるが、風速が大きくなるので、導入大気が直接金属薄膜1に当たると、金属薄膜と接触する腐食性ガスの絶対量が増え、腐食が早く進行する。そのため、導入大気が直接金属薄膜1に当たらないような遮風板を設けるか、予めファン導入大気速度と金属薄膜1の色の3刺激値が3次元色空間の中で移動する速度の関連について調べておき、腐食性ガス濃度判定の時に測定値を補正することが望ましい。
【0070】
なお、金属薄膜1の色画像の観測においては、前述の第1の実施形態でも述べた通り、CCDカメラ2で撮影した画像ファイルを、RGB値に変換処理し、このRGB値から一定明度に正規化したrgb値を求める。rgb値は、それぞれ、r=R/(R+G+B)、g=G/(R+G+B)、b=B/(R+G+B)で算出される。このように3刺激値にrgb値を採用すると、3刺激値にRGB値を採用した場合と比較して、色計測時の明度の違いを相殺しやすいという利点がある。なお、測定環境の照明変動が極端に大きくなければ、遮光箱11を使わなくてもよい。
【0071】
この第2の実施形態によれば、照明などのコストを抑えつつ、ガス濃度測定の精度をより一層向上させることが可能となる。
【0072】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0073】
この第3の実施形態では、前述の第1の実施形態もしくは第2の実施形態において較正曲線の形成に最適なものとして選定した金属組成と同じ金属組成を有する薄膜を備えた環境測定素子およびこの環境測定素子を用いて腐食性ガスの濃度測定を行う環境測定装置について説明する。
【0074】
最初に、図22〜図25を参照して、環境測定素子の具体例について説明する。
【0075】
図22〜図25に示される環境測定素子は、それぞれ、前述の較正曲線の形成に最適なものとして選定した金属組成と同じ金属組成を有する金属薄膜を備えている。すなわち、ここで使用する金属薄膜は、特定ガスに曝露されて色が経時変化する際に当該色の経時変化が色の3刺激値を座標軸とする3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有するものである。金属薄膜は、例えばガラス(又はアクリル)基板上に蒸着して形成される。また、この金属薄膜を2枚のガラス(又はアクリル)板の間に挟むように構成してもよい。
【0076】
図22は、本実施形態に係る環境測定素子の第1の例を示す概念図である。
【0077】
この環境測定素子は、その表面に特定ガスA検出用金属薄膜31を備えている。特定ガスA検出用金属薄膜31は、特定ガスA(例えば、亜硫酸ガス)に曝露された際の色の経時変化が3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有する。本例によれば、簡易な構成により、特定ガスAの濃度測定を行うことを可能とする環境測定素子を実現することができる。
【0078】
図23は、本実施形態に係る環境測定素子の第2の例を示す概念図である。
【0079】
この環境測定素子は、その表面に前述の特定ガスA検出用金属薄膜31を備えるほか、標準白色基板40を備えている。標準白色基板40は、色調補正用(ホワイトバランス用)の基板であり、撮影後の特定ガスA検出用金属薄膜31の色調を補正する際の(ホワイトバランスの調整を行う際の)基準となる白色を提供するものである。本例によれば、簡易な構成により、特定ガスAの濃度測定を行うことに加えて色調補正を行うことが可能な環境測定素子を実現することができる。標準白色基板40があるため、当該環境測定素子を用いてガス濃度測定を行うための環境測定装置が、前述の較正曲線等の作成の際に使用した環境測定装置と異なる色調感度を有する場合であっても、この標準白色基板40の色調を用いて特定ガスA検出用金属薄膜31の色調を補正することにより、特定ガスAの濃度測定を高精度に行うことができる。
【0080】
図24は、本実施形態に係る環境測定素子の第3の例を示す概念図である。
【0081】
この環境測定素子は、その表面に前述の特定ガスA検出用金属薄膜31、特定ガスB検出用金属薄膜32、特定ガスC検出用金属薄膜33、および特定ガスD検出用金属薄膜34を備えている。すなわち、金属薄膜31,32,33,34は、それぞれ種類の異なる特定ガスに曝露されて、異なる色の経時変化を示すものである。特定ガスB検出用金属薄膜32は、特定ガスB(例えば、硫化水素ガス)に曝露された際の色の経時変化が3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有する。特定ガスC検出用金属薄膜33は、特定ガスC(例えば、窒素酸化物ガス)に曝露された際の色の経時変化が3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有する。特定ガスD検出用金属薄膜34は、特定ガスD(例えば、塩素ガス)に曝露された際の色の経時変化が3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有する。本例によれば、簡易な構成により、4種類の特定ガスA,B,C,Dの濃度測定を同時に行うことを可能とする環境測定素子を実現することができる。
【0082】
図25は、本実施形態に係る環境測定素子の第4の例を示す概念図である。
【0083】
この環境測定素子は、その表面に前述の特定ガスA検出用金属薄膜31、特定ガスB検出用金属薄膜32、および特定ガスC検出用金属薄膜33を備えるほか、標準白色基板40を備えている。標準白色基板40は、撮影後の特定ガスA検出用金属薄膜31、特定ガスB検出用金属薄膜32、および特定ガスC検出用金属薄膜33の色調を補正する際の基準となる白色を提供するものである。本例によれば、簡易な構成により、3種類の特定ガスA,B,Cの濃度測定を同時に行うことに加えて色調補正を行うことが可能な環境測定素子を実現することができる。標準白色基板40があるため、当該環境測定素子を用いてガス濃度測定を行うための環境測定装置が、前述の較正曲線等の作成の際に使用した環境測定装置と異なる色調感度を有する場合であっても、この標準白色基板40の色調を用いて特定ガスA検出用金属薄膜31、特定ガスB検出用金属薄膜32、および特定ガスC検出用金属薄膜33の色調を補正することにより、特定ガスA,B,Cの濃度測定を高精度に行うことができる。
【0084】
図21〜図25に示した環境測定素子は、裏面に付着機構を備えていてもよい。付着機構の例としては、両面テープなどの粘着機構が挙げられる。このように構成すると、付着機構を介して環境測定素子を所望の測定場所に容易に取り付けることができ、また、取り外しも容易に行うことができる。なお、付着機構は、両面テープなどの粘着機構に限定されるものではない。
【0085】
また、図21〜図25に示した環境測定素子は、使用前においては、当該環境測定素子全体が大気から遮断されるように包装体に収納されていてもよい。包装体は、大気からの遮断を実現するものであれば、袋状のものであってもよいし、ラップ状のものであってもよい。なお、包装体は、これらの例に限定されるものではない。
【0086】
図26に、本実施形態に係る環境測定素子を用いて腐食性ガスの濃度測定を行う環境測定装置の構成の一例を示す。
【0087】
図26に示される環境測定装置は、環境測定素子101(例えば図21〜図25に示した環境測定素子のいずれか)を、濃度が未知の特定ガスに曝露させた状態で、環境測定素子101上の金属薄膜の色の経時変化をCCDカメラにて撮影する画像計測部200と、撮影される色の3刺激値が前述の3次元色空間の中で較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と濃度別の複数の移動距離データとから濃度が未知の特定ガスの濃度を求める情報処理部106と、出力装置107とを備えている。この場合の較正曲線および濃度別の複数の移動距離データは、環境測定素子101上の金属薄膜に対応する情報であり、前述の第1の実施形態もしくは第2の実施形態に示した手法により作成されたものである。
【0088】
情報処理部106は、例えば、パーソナルコンピュータであってもよいし、あるいはサーバ装置であってもよい。この場合、画像計測部200と情報処理部106とは、無線もしくは有線の通信媒体を通じて接続され、画像計測部200において撮影された情報が、当該通信媒体を通じて情報処理部106へ送信されるようになっている。通信媒体の例としては、LANやUSBケーブルなどが挙げられる。情報処理部106は、画像計測部200との通信が可能な範囲内であれば、どこに設置されていてもよい。情報処理部106は、画像計測部200と分離させて設置できるため、情報処理部106の小型化を図ることが可能となる。
【0089】
また、情報処理部106は、画像計測部200に内蔵されていてもよい。この情報処理部106を例えばチップ形状のマイコン等として画像計測部200に内蔵させることにより、情報処理部106の小型化を図ることができ、コンパクトでハンディな環境測定装置を実現することが可能となる。
【0090】
画像計測部200は、照明121およびCCDカメラ102を有し、情報処理部106は、データ作成部103、記憶部104、およびガス濃度演算部105を有している。
【0091】
なお、図26中の照明121およびCCDカメラ102は、図21中の照明21およびCCDカメラ2と同等の機能を有するものである。同様に、図26中のデータ作成部103、記憶部104、およびガス濃度演算部105は、図21中のデータ作成部3、記憶部4、およびガス濃度演算部5と同等の機能を有するものである。また、図26中の出力装置107は、図21中の出力装置7と同等の機能を有するものである。但し、データ作成部103は、さらに、後述するように領域判定部301および色調補正部302を備えている。また、図26に示される環境測定装置は、図21中の画像取得制御部22、回転機構付き保持部23、遮光箱24と同等の機能を有する要素をさらに備えていてもよい。また、CCDカメラ102は、CCDセンサではなくCMOSセンサを搭載したカメラに代えてもよい。
【0092】
また、画像計測部200の環境測定素子101側には、遮光カバー201が備えられる。この遮光カバー201により、余計な光の入射を防ぎつつ、画像計測部200本体に備えられた照明の光だけを利用して、環境測定素子101上の金属薄膜等の色調を正しく観測することができるので、ガス濃度測定の精度を向上させることが可能となる。
【0093】
領域判定部301は、例えば記憶部4のデータベースに予め記憶されている情報もしくはCCDカメラ102により撮影される画像に示される色調の違いなどに基づいて、画像中の金属薄膜の領域や標準白色基板の領域の位置を判定する機能を有する。
【0094】
色調補正部302は、画像の色調補正(ホワイトバランスの調整)が必要とされる場合、例えば、ここで使用する環境測定装置が前述の較正曲線等の作成の際に使用した環境測定装置と異なる色調感度を有する場合などに使用される。この色調補正部302は、CCDカメラ102装置により撮影される金属薄膜の色調を、同CCDカメラ102により撮影される標準白色基板の色調を用いて補正し、前述の較正曲線に精度よく沿う色変化を観測できるようにする機能を有する。なお、この色調補正部302は、データ作成部103に設ける代わりに、例えばCCDカメラ102に設けるようにしてもよい。
【0095】
なお、濃度が未知のガスの濃度を測定する具体的な方法については、前述の第1の実施形態ですでに説明したため、ここではその説明を省略する。
【0096】
この第3の実施形態によれば、簡易な構成により、用途に合わせて1種類もしくは複数の種類の特定ガスの濃度測定を同時に行ったり、必要に応じて色調補正を行ったりすることを可能とする環境測定素子を提供することができる。また、そのような環境測定素子を用いて、濃度が未知の特定ガスの濃度測定を高精度に行うことができ、必要に応じて色調補正を行うことが可能な環境測定装置を提供することができる。
【0097】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1…金属薄膜、2…CCDカメラ、3…データ作成部、4…記憶部、5…ガス濃度演算部、6…情報処理部、7…出力装置、11…キャリブレーションカーブ、12…許容誤差範囲、13…判定可能データ、14…判定不可データ、21…照明、22…画像取得制御部、23…回転機構付き保持部、24…遮光箱、31…特定ガスA検出用金属薄膜、32…特定ガスB検出用金属薄膜、33…特定ガスC検出用金属薄膜、34…特定ガスD検出用金属薄膜、40…標準白色基板、101…環境測定素子、102…CCDカメラ、103…データ作成部、104…記憶部、105…ガス濃度演算部、106…情報処理部、107…出力装置、200…画像計測部、201…遮光カバー、301…領域判定部、302…色調補正部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する第1の素子を濃度が既知の前記特定ガスに曝露させた状態で前記第1の素子の色の経時変化を撮像装置により撮影し前記第1の素子の色の3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線であって前記3次元色空間の中で自身が交差しない曲線を較正曲線とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データと、
前記第1の素子と同じ組成を有する第2の素子を濃度が未知の前記特定ガスに曝露し、前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測して得られる観測結果とに基づき、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めることを特徴とする環境測定方法。
【請求項2】
前記観測結果と前記濃度別の複数の移動距離データとの間で、同じ曝露時間における移動距離を比較して移動距離の比率を求め、当該比率に基づき、既知の複数の濃度から、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めることを特徴とする請求項1に記載の環境測定方法。
【請求項3】
前記3次元色空間における色の3刺激値は、RGB表色系における3刺激値をR,G,Bとした場合、数式r=R/(R+G+B)、g=G/(R+G+B)、b=B/(R+G+B)から得られる値で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境測定方法。
【請求項4】
前記3次元色空間における較正曲線は、前記色の3刺激値が移動する軌跡に基づき、一定の許容幅をもって管状に形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の環境測定方法。
【請求項5】
前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離の変化を観測することにより、前記濃度が未知の特定ガスの濃度の計時変化を捉えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の環境測定方法。
【請求項6】
前記観測結果と前記濃度別の複数の移動距離データの少なくとも1つとの間で、同じ曝露時間における移動距離を比較することにより、前記濃度が未知の特定ガスの濃度が基準値を超えるか否かを判定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の環境測定方法。
【請求項7】
前記較正曲線の形成に適した色の経時変化を示す合金組成を選定し、選定した合金組成の膜を基板上に配置した素子を用いて、特定ガスの濃度測定を行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の環境測定方法。
【請求項8】
少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する第1の素子を特定ガスに曝露させた状態で撮像装置により撮影される前記第1の素子の色の3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線であって前記3次元色空間の中で自身が交差しない曲線を較正曲線とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データを記憶媒体に保管する記憶手段と、
前記第1の素子と同じ組成を有する第2の素子を載置かつ交換可能にする保持部と、
前記第2の素子に所定の光を当てる照明と、
前記第2の素子の色の変化を撮影可能な撮像装置と、
濃度が未知の特定ガスに前記第2の素子が曝露される状態で、前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と前記記憶手段の前記濃度別の複数の移動距離データとに基づき、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めるガス濃度演算手段と
を備えたことを特徴とする環境測定装置。
【請求項9】
前記照明が前記第2の素子の撮影時のみ点灯するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする請求項8に記載の環境測定装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記第2の素子の任意の箇所の色の3刺激値を監視し、この3刺激値の全ての値あるいはいずれかの値が照明消灯時の値から一定量以上大きく変化した時に前記照明が点灯して撮影が行われるように制御することを特徴とする請求項9に記載の環境測定装置。
【請求項11】
前記保持部は、前記第2の素子の表面を傾ける回転機構を有することを特徴とする請求項8に記載の環境測定装置。
【請求項12】
前記第2の素子、前記保持部、および前記撮像装置が、測定環境の光を遮ることができ且つ外気と同じガス雰囲気を保つことができる遮光箱に収納され、前記第2の素子の色変化を当該遮光箱内の一定の照明条件で撮影できるようにしたことを特徴とする請求項8の環境測定装置。
【請求項13】
特定ガスに曝露されて色が経時変化する金属薄膜を表面に備えた環境測定素子であって、前記金属薄膜は、前記特定ガスに曝露されて色が経時変化する際に当該色の経時変化が色の3刺激値を座標軸とする3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有することを特徴とする環境測定素子。
【請求項14】
前記金属薄膜は複数個備えられ、それぞれ種類の異なる特定ガスに曝露されて、異なる色の経時変化を示すものであることを特徴とする請求項13に記載の環境測定素子。
【請求項15】
色調補正用の標準白色基板をさらに具備することを特徴とする請求項13に記載の環境測定素子。
【請求項16】
請求項13乃至15のいずれか1項に記載の環境測定素子を、濃度が未知の特定ガスに曝露させた状態で、前記金属薄膜の色の経時変化を撮影する撮像装置を有する画像計測手段と、前記撮像装置により撮影される色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果から前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求める情報処理手段とを具備することを特徴とする環境測定装置。
【請求項17】
前記環境測定素子は、色調補正用の標準白色基板を備えており、
前記撮像装置により撮影される前記金属薄膜の色調を、前記撮像装置により撮影される前記標準白色基板の色調を用いて補正する手段を具備することを特徴とする請求項16に記載の環境測定装置。
【請求項18】
前記画像計測手段と前記情報処理手段とは、無線もしくは有線の通信媒体を通じて接続され、
前記画像計測手段において撮影された情報は、前記通信媒体を通じて前記情報処理手段へ送信されることを特徴とする請求項16又は17に記載の環境測定装置。
【請求項19】
前記情報処理手段が前記画像計測手段に内蔵されていることを特徴とする請求項16又は17に記載の環境測定装置。
【請求項1】
少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する第1の素子を濃度が既知の前記特定ガスに曝露させた状態で前記第1の素子の色の経時変化を撮像装置により撮影し前記第1の素子の色の3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線であって前記3次元色空間の中で自身が交差しない曲線を較正曲線とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データと、
前記第1の素子と同じ組成を有する第2の素子を濃度が未知の前記特定ガスに曝露し、前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測して得られる観測結果とに基づき、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めることを特徴とする環境測定方法。
【請求項2】
前記観測結果と前記濃度別の複数の移動距離データとの間で、同じ曝露時間における移動距離を比較して移動距離の比率を求め、当該比率に基づき、既知の複数の濃度から、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めることを特徴とする請求項1に記載の環境測定方法。
【請求項3】
前記3次元色空間における色の3刺激値は、RGB表色系における3刺激値をR,G,Bとした場合、数式r=R/(R+G+B)、g=G/(R+G+B)、b=B/(R+G+B)から得られる値で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境測定方法。
【請求項4】
前記3次元色空間における較正曲線は、前記色の3刺激値が移動する軌跡に基づき、一定の許容幅をもって管状に形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の環境測定方法。
【請求項5】
前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離の変化を観測することにより、前記濃度が未知の特定ガスの濃度の計時変化を捉えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の環境測定方法。
【請求項6】
前記観測結果と前記濃度別の複数の移動距離データの少なくとも1つとの間で、同じ曝露時間における移動距離を比較することにより、前記濃度が未知の特定ガスの濃度が基準値を超えるか否かを判定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の環境測定方法。
【請求項7】
前記較正曲線の形成に適した色の経時変化を示す合金組成を選定し、選定した合金組成の膜を基板上に配置した素子を用いて、特定ガスの濃度測定を行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の環境測定方法。
【請求項8】
少なくとも1種類の特定ガスに曝露されて色が経時変化する第1の素子を特定ガスに曝露させた状態で撮像装置により撮影される前記第1の素子の色の3刺激値が各刺激値に1本の座標軸を対応させた3本の座標軸を有する3次元色空間の中で移動する軌跡に応じた曲線であって前記3次元色空間の中で自身が交差しない曲線を較正曲線とし、当該較正曲線上を移動する色の3刺激値の移動距離と曝露時間との関係を濃度別に求めて得られる濃度別の複数の移動距離データを記憶媒体に保管する記憶手段と、
前記第1の素子と同じ組成を有する第2の素子を載置かつ交換可能にする保持部と、
前記第2の素子に所定の光を当てる照明と、
前記第2の素子の色の変化を撮影可能な撮像装置と、
濃度が未知の特定ガスに前記第2の素子が曝露される状態で、前記第2の素子の色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記較正曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果と前記記憶手段の前記濃度別の複数の移動距離データとに基づき、前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求めるガス濃度演算手段と
を備えたことを特徴とする環境測定装置。
【請求項9】
前記照明が前記第2の素子の撮影時のみ点灯するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする請求項8に記載の環境測定装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記第2の素子の任意の箇所の色の3刺激値を監視し、この3刺激値の全ての値あるいはいずれかの値が照明消灯時の値から一定量以上大きく変化した時に前記照明が点灯して撮影が行われるように制御することを特徴とする請求項9に記載の環境測定装置。
【請求項11】
前記保持部は、前記第2の素子の表面を傾ける回転機構を有することを特徴とする請求項8に記載の環境測定装置。
【請求項12】
前記第2の素子、前記保持部、および前記撮像装置が、測定環境の光を遮ることができ且つ外気と同じガス雰囲気を保つことができる遮光箱に収納され、前記第2の素子の色変化を当該遮光箱内の一定の照明条件で撮影できるようにしたことを特徴とする請求項8の環境測定装置。
【請求項13】
特定ガスに曝露されて色が経時変化する金属薄膜を表面に備えた環境測定素子であって、前記金属薄膜は、前記特定ガスに曝露されて色が経時変化する際に当該色の経時変化が色の3刺激値を座標軸とする3次元色空間上で自分自身と交差しない曲線を形成する金属組成を有することを特徴とする環境測定素子。
【請求項14】
前記金属薄膜は複数個備えられ、それぞれ種類の異なる特定ガスに曝露されて、異なる色の経時変化を示すものであることを特徴とする請求項13に記載の環境測定素子。
【請求項15】
色調補正用の標準白色基板をさらに具備することを特徴とする請求項13に記載の環境測定素子。
【請求項16】
請求項13乃至15のいずれか1項に記載の環境測定素子を、濃度が未知の特定ガスに曝露させた状態で、前記金属薄膜の色の経時変化を撮影する撮像装置を有する画像計測手段と、前記撮像装置により撮影される色の3刺激値が前記3次元色空間の中で前記曲線に沿って移動する移動距離と曝露時間とを観測し、その観測結果から前記濃度が未知の特定ガスの濃度を求める情報処理手段とを具備することを特徴とする環境測定装置。
【請求項17】
前記環境測定素子は、色調補正用の標準白色基板を備えており、
前記撮像装置により撮影される前記金属薄膜の色調を、前記撮像装置により撮影される前記標準白色基板の色調を用いて補正する手段を具備することを特徴とする請求項16に記載の環境測定装置。
【請求項18】
前記画像計測手段と前記情報処理手段とは、無線もしくは有線の通信媒体を通じて接続され、
前記画像計測手段において撮影された情報は、前記通信媒体を通じて前記情報処理手段へ送信されることを特徴とする請求項16又は17に記載の環境測定装置。
【請求項19】
前記情報処理手段が前記画像計測手段に内蔵されていることを特徴とする請求項16又は17に記載の環境測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2011−196985(P2011−196985A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226938(P2010−226938)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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