説明

環境監視用観測井

【課題】地中に設置されたストレーナー管の回収を省略し、また掘削工事をスムーズに行なえるようにした環境監視用観測井を提供する。
【解決手段】地中の地下水位より下方に設置されたストレーナー管1と、当該ストレーナー管1の上端部に接続され、地中の地下水位より上方に設置されたケーシング2とから構成する。ストレーナー管1は生物分解性プラスチックスから形成することにより、工事完了後のストレーナー管1を地中の微生物によって、水、炭酸ガス等の無害な物質に分解変化させることによりストレーナー管1の回収工事を省略し、またストレーナー管1に邪魔されることなく、掘削工事をスムーズに行なえるようする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として薬液注入工事に伴う土壌汚染や地下水汚染を監視するための環境監視用観測井に関し、地中に設置されたストレーナー管の回収を省略することができる。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工事で利用される薬液注入工法は、地盤の透水性を減少させると共に、地盤の強度を増大させることにより工事中の安全性を向上させるため、上下水道の整備、地下鉄の建設、ケーブル類の敷設などで行なわれるトンネル工事や地下掘削工事、さらには既存の建物が建つ敷地地盤の支持力を増大させる工事として欠かせない工法とされている。
【0003】
その一方で、様々な種類の薬液が大量に消費されるため、地下水汚染や土壌汚染、これに伴う健康被害や環境被害の発生を未然に防止する必要があり、このため施工に当たっては地下水や周辺環境に対する影響を厳重に監視するなど充分な施工管理のもとで工事を進めることが必要とされている。
【0004】
ところで、薬液注入工事に伴う地下水汚染や土壌汚染を未然に防止するための監視方法として、工事域周辺に複数の観測井を設置し、この観測井で採水し、水質分析を行なう方法が一般に知られている。
【0005】
また、観測井の設置に当り、地中に設置されるストレーナー管には主として塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック製のネット状パイプが用いられている。そして、ストレーナー管は、薬液注入工事が完了した後に引抜く等の方法によって回収するか、あるいは地中にそのまま放置されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−255167号公報
【特許文献2】特開2007−132088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ストレーナー管には、長さが少なくとも10m程度と相当長いプラスチック製のパイプが用いられるため回収がきわめて困難であった。また、回収したパイプは主に焼却処分されるが、焼却の際にダイオキシン等の有害物質を発生するものが多く、環境汚染の一因になっていた。
【0008】
一方、地中に放置すると、その後の掘削工事で邪魔になり作業性が低下したり、あるいはプラスチックスからその成分が溶出して地下水や土壌を汚染する等の問題があった。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、地中に設置されるストレーナー管に生物分解性材料からなるパイプを利用することで、工事完了のストレーナー管を地中の微生物によって、水、炭酸ガス等の無害な物質に分解変化させることによりストレーナー管の回収を省略し、また掘削工事をスムーズに行なえるようにした環境監視用観測井を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の環境監視用観測井は、地中の地下水位より下方に設置されたストレーナー管と、当該ストレーナー管の上端部に接続され、地中の地下水位より上方に設置されたケーシングとからなる環境監視用観測井であって、前記ストレーナー管は生物分解性材料から形成されてなることを特徴するものである。
【0011】
本発明は、生物分解性材料、すなわち後述する生物分解性プラスチックスからなるパイプを、観測井のストレーナー管として地中に設置し、工事完了のストレーナー管を地中の微生物によって、水、炭酸ガス等の無害な物質に分解変化させることによりストレーナー管の回収工事を省略し、また地中に放置されたストレーナー管に邪魔されることなく、掘削工事をスムーズに行なえるようにしたものである。
【0012】
また、地中に放置することにより、地下水にその成分が溶出して地下水汚染や土壌汚染、さらにはこれに伴う健康被害も未然に防止できるようにしたものである。
【0013】
なお、ストレーナー管の上端側に設置されるケーシングは、浅い位置に設置され、比較的回収が容易な場合には、プラスチック製とし、繰り返し使用するようにすれば、コスト削減を図ることができる。
【0014】
請求項2記載の環境監視用観測井は、請求項1記載の環境監視用観測井において、ケーシングは生物分解性材料から形成されてなることを特徴するものである。
【0015】
本発明は、ストレーナー管の上端側に設置されたケーシングもストレーナー管と同様に生物分解性材料から形成されていることで、地中に設置したものの回収が全くなくなるので、施工の省力化、工期の短縮化等をさらにアップさせることができる。
【0016】
請求項3記載の環境監視用観測井は、請求項1記載の環境監視用観測井において、ストレーナー管とケーシングは、生物分解性材料から一体に形成されてなることを特徴するものである。
【0017】
本発明は、ストレーナー管とケーシングを、生物分解性材料から連続する一本のパイプとすることで、ストレーナー管とケーシングを押し出し加工により単一品として容易に成形できるようにしたものである。
【0018】
請求項4記載の環境監視用観測井は、請求項1−3のいずれか1に記載の環境監視用観測井において、ストレーナー管の外周に複数のリブが形成されていることを特徴とするものである。
【0019】
本発明は、主としてストレーナー管の強度増大を目的とするものであり、この場合のリブは、ストレーナー管の長手方向に連続し、かつストレーナー管の円周方向に一定間隔おきに複数設けるか、あるいはストレーナー管の長手方向に螺旋状に設けることができる。
また、リブの断面形状は、矩形または三角形状などでよい。
【0020】
また特に、前者のようにリブが設けてあれば、先施工されたボーリング孔に押し込んで地中に設置する際、周辺地盤との摩擦が低減されるため設置作業が容易になる。また、前者のようにリブが設けてあれば、ボーリング孔内にねじ込んで地中に設置することにより設置作業が容易になる。
【0021】
請求項5記載の環境監視用観測井は、請求項1−4のいずれか1に記載の環境監視用観測井において、ストレーナー管は外管と内管とから二重に形成されていることを特徴とするものである。ストレーナー管を二重構造とすることにより、強度の大きいストレーナー管とすることができる。
【0022】
生物分解性プラスチックスについて詳述すると、本発明における生物分解性プラスチックスは、微生物により分解される高分子化合物であって、かつ熱可塑性であるため、これを素材とするストレーナー管は押出成形により容易に加工でき、ストレーナー管としての機械的強度も備えている。
【0023】
なお、水溶性プラスチックス、特にアルカリ性の条件下で溶解するプラスチックスは、生物によっても分解され易く、本発明において好ましいものである。
【0024】
その化学構造は(1)主鎖が脂肪族で、これにエーテル結合またはエステル結合を有するもの、(2)主鎖(または側鎖)に水酸基、カルボキシル基を有するもの、あるいは、(3)プラスチックスの光分解および微生物分解を誘因、促進する添加剤を含有することにより生物分解性が良好なプラスチックスであり、具体的には澱粉系、酢酸セルロース系、ポリ乳酸系、脂肪族ポリエステル系、ポリビニルアルコール系等の生物分解性プラスチックスが挙げられる。
【0025】
これらの主原料には、性能の向上あるいは可撓性の付与等の目的で他の高分子化合物、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックス、可塑剤、安定剤、着色剤等を必要に応じて添加することもできる。
【0026】
上記(2)の水酸基あるいはカルボキシル基を有する化合物としては、脂肪族化合物が好ましい。これらの生物分解性プラスチックスとしては具体的には、上記(1)の例として、「ビオノーレ」(ポリオールとジカルボン酸の脂肪族ポリエステル)(昭和高分子株式会社と昭和電工株式会社)、「セルグリーン」(酢酸セルロース系、ポリカプロラクトン系)(ダイセル化学工業株式会社)、「ラクティ(乳酸系)」(株式会社島津製作所)、(2)の例として、「ポバール」(ポリビニルアルコール)(株式会社クラレ)、(3)の例として、「ワンダースターケン」(トウモロコシ澱粉とポリエチレン)(ワンダー株式会社)等々が挙げられる。
【0027】
上記生物分解性プラスチックスには、ポリヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリグリコシド等の高融点生物分解性プラスチックスをブレンドすることにより、加工性を向上させ、織物、不織布とすることにより袋体としても使用できる。これらの主原料は、土中ではバクテリアにより、例えば90〜300日程度の日数で分解される。
【0028】
なお、生物分解性プラスチックスは、その成形品と微生物の体内より代謝される酵素の表面反応であるため、成形品の厚みが厚いほど分解時間は長くなる。
【0029】
他方、薬液注入材がアルカリ性の場合には、エステル結合を有する生物分解性プラスチックスが加水分解を受けやすい。
【0030】
また、注入地盤は、酸性からアルカリ性まで、あるいは海水浸透等種々の異なる条件下にあり、さらに、注入材の注入によっても大きく変わってくる。したがって、ストレーナー管の分解速度は一概にはいえないが、掘削しない場合についてみると、1年といえども十分短期間といえる。また、注入後掘削する場合には、脆性のより大きな生物分解性プラスチックスを使用するのが好ましい。
【0031】
また、このような生物分解性プラスチックスを素材とするストレーナー管は、必要に応じて耐候性を落とすことによって分解、あるいは強度の低下を促進させることもできる。
【0032】
したがって、本発明におけるストレーナー管を使用する場合には、特に地中に設置する前の管理に配慮し、例えば直射日光に長期間曝すとか、雨中に放置することはできるだけ避けるのが好ましい。
【0033】
なお、生物分解性プラスチックスとして酢酸セルロース系およびポリエステル系について引張破断強度、引張破断伸度、および分解評価を測定し、結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【発明の効果】
【0035】
本発明は、生物分解性材料からなるパイプを、観測井のストレーナー管として地中に設置し、工事完了のストレーナー管を地中の微生物によって、水、炭酸ガス等の無害な物質に分解変化させるようにしたことで、ストレーナー管の回収工事を省略でき、また地中に放置してもストレーナー管に邪魔されることなく、掘削工事などをスムーズに行なうことができるため、施工の省力化、工期の短縮化、さらにはコスト削減等を図ることができる。
【0036】
また、地中に放置しても、水、炭酸ガス等の無害な物質に分解変化してしまうので、地下水にその成分が溶出して地下水汚染や土壌汚染、さらにはこれに伴う健康被害も未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図1−6は、本発明の一実施形態を示し、図において、符号1は観測井本体を構成するストレーナー管、2はケーシング、そして、符号3は蓋である。
【0038】
ストレーナー管1には、生物分解性プラスチックスを素材とし、押出し成形された円形のパイプによって形成され、地下水の水位より下方に設置されている。
【0039】
また、ストレーナー管1の外周には複数の集水用の孔1aと必要により複数の補強リブ1bが複数形成されている。孔1aは円形または図6に図示するような縦長に形成され、かつ管の全体にわたってほぼ均等に形成されている。
【0040】
リブ1bは、ストレーナー管1の長手方向に連続し、かつストレーナー管1の円周方向に一定間隔おきに複数形成されている。また、リブ1bの断面形状は矩形または図5に図示するような三角形状に形成されている。なお、リブ1bはストレーナー管1本体ととともに押出し成形によりストレーナー管1と一体に形成されている。
【0041】
ケーシング2は、ストレーナー管1と同様の生物分解性プラスチックスを素材としたパイプ、あるいはプラスチック製のパイプまたは鋼管などから形成されている。
【0042】
また、ケーシング2はストレーナー管1の上端部に差込み式またはねじ込み式などによって脱着できるように接続され、かつ地下水の水位より上方に設置され、その上端部は地上に所定長さ突出している。
【0043】
以上の構成により、観測井は地中に設置されている。そして、薬液注入工事が完了した後、ストレーナー管1を地中に放置しておいても、ストレーナー管1は地中の微生物によって、水、炭酸ガス等の無害な物質に分解変化してしまうので、ストレーナー管1の回収工事を省略することができる。
【0044】
また、その後の掘削工事も地中に放置されたストレーナー管1に邪魔されることなくスムーズに行なうことができる。さらに、地下水にストレーナー管1の成分が溶出して地下水汚染や土壌汚染、さらにはこれに伴う健康被害も発生しない。
【0045】
なお、ケーシング2は、ストレーナー管1と同様に生物分解性プラスチックスで成形されたものであれば、地中に放置しておけばよい。また、プラスチック製や鋼管の場合には回収して繰り返し利用することができる。
【0046】
また、上記ストレーナー管1の外周部には、ストレーナー管1が土粒子によって目詰まりするのを防止するために、目の細かいネットや繊維質の被覆膜材で覆ってもよい。
【0047】
これらの素材にも生物分解性材料を用いることができる。また、観測井として使用後はその内部に土砂や埴土、泥土などの土壌の微生物を含有する土やイースト菌、その他の人工的に作られた微生物を投入することによって分解を促進させ、その後の土地の復元や利用を早めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、ストレーナー管として生物分解性プラスチックスからなるパイプを地中に設置し、工事完了のストレーナー管を地中の微生物によって、水、炭酸ガス等の無害な物質に分解変化させることにより、ストレーナー管の回収工事を省略でき、また掘削工事をスムーズに行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】環境監視用観測井の設置域を示す平面図である。
【図2】環境監視用観測井の一実施形態を示す縦断面図である。
【図3】ストレーナー管の一例を示し、(a)はその横断面図、(b)は一部側面図である。
【図4】ストレーナー管の一例を示し、(a)は横断面図、(b)は一部側面図である。
【図5】ストレーナー管の一例を示す横断面図である。
【図6】ストレーナー管の一例を示す一部側面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 ストレーナー管
1a 孔
1b リブ
2 ケーシング
3 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中の地下水位より下方に設置されたストレーナー管と、当該ストレーナー管の上端部に接続され、地中の地下水位より上方に設置されたケーシングとからなる環境監視用観測井であって、前記ストレーナー管は生物分解性材料から形成されてなることを特徴する環境監視用観測井。
【請求項2】
ケーシングは、生物分解性材料から形成されてなることを特徴する請求項1記載の環境監視用観測井。
【請求項3】
ストレーナー管とケーシングは、生物分解性材料から一体に形成されてなることを特徴する請求項1記載の環境監視用観測井。
【請求項4】
ストレーナー管の外周に複数のリブが形成されていることを特徴とする請求項1−3のいずれか1に記載の環境監視用観測井。
【請求項5】
ストレーナー管は外管と内管とから二重に形成されていることを特徴とする請求項1−4のいずれか1に記載の環境監視用観測井。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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