説明

環境試験装置

【課題】湿度が周期的に変化する環境に電子機器等の被試験物を置く環境試験装置を改良するものであり、環境試験に要する時間を短縮し、短時間で従来と同様の効果を得ることができる環境試験装置を開発する。
【解決手段】低湿度から高湿度へ移行する上昇側過渡期と、高湿度状態が安定する高湿度安定期と、高湿度から低湿度へ移行する下降側過渡期と、低湿度状態が安定する低湿度安定期とを繰り返す。a−b間等の上昇側過渡期と、c−d間等の下降側過渡期に循環する風速が増大される。その結果、被試験物たる基板に接する風量が増大し、被試験物と外気間における水蒸気の移動が円滑に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境試験装置に関するものである。本発明の環境試験装置は、湿度や吸湿量の被試験物に対する影響を試験する装置として好適である。また本発明の環境試験装置は、湿度を周期的に変化させる環境試験装置として好適である。
【背景技術】
【0002】
各種の機器や材料等の性能や耐久性を評価する装置として環境試験装置が知られている。環境試験装置は、特許文献1,2に記載された様に、高温環境や低温環境、あるいは高湿度環境を人工的に作り、この環境に被試験物を置くものである。
また環境試験装置には、低温から高温へ、さらに高温から低温へと温度を繰り返し変化させる様な試験を行うものもある。
【0003】
環境試験装置は、一般に、ヒータや冷凍機の他に、送風機を備えている。従来技術の環境試験装置は、環境試験室内の環境状態を一定に保つために、一定の温度及び湿度に制御した空気を循環して試験を行っている。
【特許文献1】特開平3−48780号公報
【特許文献2】特開2001−147251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで電子機器、電子部品、高分子材料等は、一般に湿度の影響を強く受けるものである。そのため電子機器等の製造者や研究者は、湿度による影響を試験する必要がある。代表的な試験方法として、湿度が周期的に変化する環境に電子機器等の被試験物を置く環境試験が挙げられる。
この試験では、低湿度から高湿度へ、さらに高湿度から低湿度へと繰り返し変化する環境を作り、この環境に被試験物を晒す。
【0005】
環境試験は、一般に長期間に渡って行われる。その一方で、製品の開発期間は、ますます短くなる傾向にある。
そのため研究者等においては、上記した環境試験に要する時間を少しでも短縮したいという要求がある。
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点を解決するため、短時間で従来と同様の効果を得ることができる環境試験装置の開発を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決する為に、本発明者らは、環境試験の本来のねらい、及び試験中における被試験物の挙動を分析した。
即ち湿度を変化させて行う環境試験のねらいは、被試験物が吸湿した状態を一定時間維持し、その後に乾燥した状態を一定時間維持し、これらを繰り返すことにある。
また環境試験の際における被試験物の挙動は次の通りである。
即ちこの試験において被試験物は、試験環境が低湿度から高湿度へ移行する期間、及び高湿度状態となってから一定の期間の間に吸湿する。一定量の水蒸気を吸収すると、外部環境と被試験物との間が平衡状態となり、それ以上、外部環境と被試験物との間で水蒸気の移動はない。そして高湿度状態が続く間は前記した平衡が保たれ、高い吸湿状態が維持される。
【0007】
逆に高湿度から低湿度へ移行する期間、及び低湿度状態となってから一定の期間の間に被試験物は内包する水蒸気を放出する。そして低湿度状態が続く間は平衡が保たれ、乾燥状態が維持される。
従って「被試験物が吸湿した状態」は、低湿度から高湿度へ移行する過渡期を過ぎ、さらに一定時間の安定期を経過した後に発生する状態である。また「被試験物が乾燥した状態」は、高湿度から低湿度へ移行する過渡期を過ぎ、さらに一定時間の安定期を経過した後に発生する。
従って、従来技術においては、試験に寄与する「被試験物が吸湿した状態における一定時間」及び「被試験物が乾燥した状態における一定時間」は、環境が安定期に入ってしばらくした後から開始する時間である。
【0008】
そこで本発明者らは、「被試験物が吸湿した状態」及び「被試験物が乾燥した状態」をより速く作れば、環境試験に要する時間を短縮できると考えた。
【0009】
上記した思想に基づいて完成された請求項1に記載の発明は、被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも送風手段及び送風環境制御手段を有し、被試験物からの水蒸気の出入りが激しい期間は、被試験物からの水蒸気の出入りが行われやすい送風環境とすることを特徴とする環境試験装置である。
【0010】
本発明の環境試験装置では、被試験物からの水蒸気の出入りが激しい期間、被試験物からの水蒸気の出入りが行われやすい送風環境とする。そのため被試験物からの水蒸気の出入りが早期に収斂し、「被試験物が吸湿した状態」及び「被試験物が乾燥した状態」をより速く作ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、被試験物からの水蒸気の出入りが激しい期間は、被試験物に接する送風を増大させることを特徴とする請求項1に記載の環境試験装置である。
【0012】
被試験物と外気間における水蒸気の移動量は、被試験物に接する風量と相関があり、接する風量が多いほど水蒸気の移動量が増大する。
図8は、本発明者らが実施した実験のグラフであり、被試験物に送風を当てた際における風速と吸湿率変化度を示す。図8のグラフから吸湿率変化度は、風速に比例することが分かる。即ち被試験物に接する風量が多いほど被試験物と外気間の水蒸気の移動が円滑に行われる。
本発明では、被試験物からの水蒸気の出入りが激しい期間に、被試験物に接する送風を増大させるので、被試験物からの水蒸気の出入りがより早期に収斂し、「被試験物が吸湿した状態」及び「被試験物が乾燥した状態」をより速く作ることができる。
【0013】
また同様の作用効果が期待できるもう一つの発明は、 被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも送風手段及び送風環境制御手段を有し、環境を変化させる過渡期と環境が安定した安定期における送風環境を変化させることを特徴とする環境試験装置である(請求項3)。
【0014】
本発明の環境試験装置では、被試験物と外気間における水蒸気の移動量が多い過渡期と、移動量が少ない安定期の送風環境を変化させることによって、被試験物からの水蒸気の出入を早期に収斂させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも湿度を調節する湿度調節手段と、送風手段及び送風環境制御手段を有し、湿度を変化させる過渡期と湿度が安定した安定期における送風環境を変化させることを特徴とする環境試験装置である。
【0016】
本発明の環境試験装置においても、被試験物と外気間における水蒸気の移動量が多い過渡期と、移動量が少ない安定期の送風環境を変化させることによって、被試験物からの水蒸気の出入を早期に収斂させることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも温度を調節する温度調節手段と、送風手段及び送風環境制御手段を有し、温度を変化させる過渡期と温度が安定した安定期における送風環境を変化させることを特徴とする環境試験装置である
【0018】
本発明の環境試験装置においては、温度が変化する過渡期と、温度変化が少ない安定期の送風環境を変化させる。被試験物に対する吸湿量は、周囲の湿度に大きく依存するが、温度の影響も無視できない。そこで本発明では、温度を変化させる過渡期に送風環境を変化させることによって、被試験物からの水蒸気の出入を早期に収斂させることとした。
【0019】
請求項6に記載の発明は、被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも湿度を調節する湿度調節手段と、温度を調節する温度調節手段と、送風手段及び送風環境制御手段を有し、温度及び湿度を変化させる過渡期と湿度及び温度が安定した安定期における送風環境を変化させることを特徴とする環境試験装置である。
【0020】
本発明の環境試験装置では、湿度及び温度を変化させる過渡期と湿度及び温度が安定した安定期における送風環境を変化させたので、被試験物と外気間における水蒸気の移動量が多い期間と、移動量が少ない期間の送風環境を変化させることができ、被試験物からの水蒸気の出入を早期に収斂させることができる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、過渡期においては被試験物に接する送風を増大し、安定期においては被試験物に接する送風を減少させることを特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載の環境試験装置である。
ここで「送風を増大させる」「送風を減少させる」の表現は、過渡期における送風と安定期における送風とを比較したものである。従って送風量を段階的に変化させる場合は、送風量の段階は全部で二以上あれば足りる。
【0022】
本発明では、過渡期においては被試験物に接する送風を増大させるので、被試験物からの水蒸気の出入を早期に収斂させることができる。
また安定期においては被試験物に接する送風を減少させるので、被試験物が風で飛んだり、電気特性が変化するといった悪影響は無い。また送風量を減少することによる省エネルギー効果も期待できる。
【0023】
請求項8に記載の発明は、過渡期においては風速を増大し、安定期においては風速を減少させることを特徴とする請求項3乃至7のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0024】
本発明では、過渡期においては風速を増大させるので、被試験物からの水蒸気の出入を早期に収斂させることができる。
また安定期においては風速を減少させるので、被試験物が風で飛んだり、電気特性が変化するといった悪影響は無い。また送風量を減少することによる省エネルギー効果も期待できる。
【0025】
請求項9に記載の発明は、過渡期においては送風量を増大し、安定期においては送風量を減少させることを特徴とする請求項3乃至8のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0026】
本発明では、過渡期においては送風量を増大させるので、被試験物からの水蒸気の出入を早期に収斂させることができる。
また安定期においては送風量を減少させるので、被試験物が風で飛んだり、電気特性が変化するといった悪影響は無い。また送風量を減少することによる省エネルギー効果も期待できる。
【0027】
請求項10に記載の発明は、被試験物が置かれる環境を周期的に変化させることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0028】
請求項11に記載の発明は、過渡期を過ぎて安定期に入り、一定の条件を満足した後に送風環境を変化させることを特徴とする請求項3乃至10のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0029】
本発明の環境試験装置は、過渡期を過ぎて安定期に入り、一定の条件を満足した後に送風環境を変化させるので、送風環境を変化させる時期がより適切である。
【0030】
請求項12に記載の発明は、過渡期を過ぎて安定期に入り、一定の時間が経過した後に送風環境を変化させることを特徴とする請求項3乃至10のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0031】
本発明の環境試験装置は、過渡期を過ぎて安定期に入り、一定の時間が経過した後に送風環境を変化させるので、被試験物の吸湿に遅れが生じた場合に対処することができ、送風環境を変化させる時期がより適切である。
即ち吸湿や水蒸気の放出には、一定の時間が必要であり、送風等を増大させたとしても、必ずしも過渡期の間に水蒸気の移動が完了するとは限らない。そこで本発明は、過渡期を過ぎて安定期に入り、一定の時間が経過した後に送風環境を変化させることとした。
なお逆に安定期に至る前に送風環境を変化させてもよい。
【0032】
請求項13に記載の発明は、被試験物の吸湿状況を検知する吸湿状況検知手段を備えることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0033】
本発明の環境試験装置では、吸湿状況を検知する吸湿状況検知手段を備えるので、送風環境の変更時期をより適切化することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の環境試験装置によると、被試験物からの水蒸気の出入りを早期に収斂させることができ、「被試験物が吸湿した状態」及び「被試験物が乾燥した状態」をより速く作ることができる。そのため本発明の環境試験装置を使用すると、環境試験に要する時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態の環境試験装置の構成図である。
本実施形態の環境試験装置1は、断熱材2によって囲まれた恒温恒湿槽(環境試験室)3を備え、制御装置4によって恒温恒湿槽3内の環境が制御される。
この様に恒温恒湿槽3は、公知のそれと同様に、内部の温度や湿度等の内部環境を任意に調節する機能を持つ。最初に恒温恒湿槽3の概略構成と、恒温恒湿槽3内の環境を調節する手段について説明する。
【0036】
恒温恒湿槽3の内部は、仕切り板9によって上下に仕切られ、図1の様に被試験物配置室5と、空調通路6に分かれている。空調通路6は、被試験物配置室5の下部にあり、両側面側に被試験物配置室5と連通する開口7,8がある。一方の開口7は、吸入側開口として機能し、他方の開口8は、送風用開口として機能する。
【0037】
被試験物配置室5内であって、送風用開口8の近傍に室内温度検知センサー11と湿度検知センサー12が設けられている。
室内温度検知センサー11は具体的には熱電対である。
室内温度検知センサー11及び湿度検知センサー12の検知信号は、図1の様に制御装置4に入力される。
【0038】
下部の空調通路6には、加湿器15、空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17、加熱ヒータ18及び送風機20が配されている。
加湿器15、空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17及び加熱ヒータ18は、いずれも公知のものを採用することができる。
なお加湿器15及び除湿用熱交換器17は湿度調節手段として機能し、空気冷却用熱交換器16と加熱ヒータ18は温度調節手段として機能する。
【0039】
送風機20は、本実施形態では、回転速度を任意に変更できるものが採用されている。即ち送風機20を回転するモータ21は、直流モータ或いはインバータ制御されたモータであり、回転数が可変である。
前記した加湿器15、空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17、加熱ヒータ18及び送風機20はそれぞれリレー等の駆動装置に接続され、さらに図1の様に制御装置4からの信号を受けて動作する。
【0040】
本実施形態の環境試験装置1では、送風機20によって恒温恒湿槽3内の空気が循環して空調通路6を通過し、所望の環境が作られる。即ち恒温恒湿槽3内の空気は送風機20によって空調通路6の吸入側開口7から吸入され、空調通路6を通過して送風用開口8に抜ける。このとき、空気は前記した空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17を通過し、さらに加熱ヒータ18に触れる。また必要に応じて加湿器15から水蒸気が供給される。
【0041】
環境試験装置1の制御装置4には、テンキーやタッチパネル等の設定入力手段22が接続されており、希望する恒温恒湿槽3内の環境を設定入力することができる。また制御装置4には、表示装置23が接続されており、設定内容や、現在の恒温恒湿槽3内の環境が数値で表示される。
【0042】
環境試験装置1では、室内温度検知センサー11と湿度検知センサー12によって被試験物配置室5内の温度と湿度が監視されている。そして被試験物配置室5内の温度が設定環境の温度よりも低い場合には加熱ヒータ18に通電して空気を昇温させ、被試験物配置室5内の温度が設定環境の温度よりも高い場合には空気冷却用熱交換器16に冷媒を流して空気冷却用熱交換器16の温度を低下させ、流通する空気から熱を奪う。
また被試験物配置室5内の湿度が設定環境の湿度よりも低い場合には加湿器15から蒸気を噴射して通過する空気に混入する。
逆に被試験物配置室5内の湿度が設定環境の湿度よりも高い場合には除湿用熱交換器17によって水蒸気を凝縮させる。
【0043】
次に本実施形態の環境試験装置1に特有の構成及び機能について説明する。
本発明の環境試験装置1は、後記する基板30の他に、高分子材料を試験対象とすることもできるが、本実施形態では、一例として基板30を対象とした試験について説明することとする。
即ち本実施形態の環境試験装置1は、IC等の電子機器が装着された基板30を試験することができるものであり、そのための特有の構成を具備している。即ち本実施形態の環境試験装置1では、基板30に給電するための給電端子32,33を備えている。
【0044】
また基板30の吸湿状態を監視する吸湿状況検知手段35を備えている。吸湿状況検知手段35は、基板30のリーク電流を検知することにより吸湿状況を間接的に監視するものであり、具体的には2個の電極36,37と、リーク電流検知装置38によって構成されている。吸湿状況検知手段35の回路は、図2の通りであり、定電流源40と、電圧計41及び抵抗42によって構成さている。
図2に示すように、電極36,37を介して基板30に定電流が供給される。そして基板30と並列に電圧計41が接続されている。そのため基板30のリーク電流の大小によって電圧計41の端子間電圧が変化する。そしてこの電圧変動を抵抗42によって電流変化に変換し、制御装置4に入力する。制御装置4では、入力される電流値の変化によって吸湿量が演算される。
【0045】
一方、制御装置4からは、測定周期を制御する信号がリーク電流検知装置38に送信され、この信号に従って前記した定電流源40から基板30に電流が送電される。そして前記した様にリーク電流が測定され、この値によって吸湿量の演算が行われる。
吸湿量の変化は、制御手段の図示しないメモリーに記録データとして記憶される。また必要に応じて表示装置23に表示される。
【0046】
次に本実施形態の環境試験装置1の機能を、図3を参照しつつ、実際の試験手順を追って説明する。なお図3は、本実施形態の環境試験装置の動作を示すフローチャートである。
【0047】
本実施形態の環境試験装置1は、前記した様に基板30を検査するものであり、試験の準備段階として、試験条件を設定する。即ち基板30を設置する恒温恒湿槽3内の温度、湿度及びこれらの許容範囲を設定する。また本実施形態の環境試験装置1で実施する試験は、特に温度と湿度を繰り返し変動させるものであり、その周期や一定に保つ時間等が設定される。
【0048】
そして続いて恒温恒湿槽3内に被試験物たる基板30を設置する。具体的には、被試験物配置室5に基板30を置く。そして被試験物配置室5に設けられた給電端子32,33を基板30の給電端子(図示せず)に接続する。また電極36,37についても基板30に接続する。
【0049】
準備が整うと、試験を開始する。以下、環境試験装置1は、図3のフローチャートの様に機能する。
即ち環境試験装置1を起動すると、ステップ1で必要な設定入力が完了しているか否かが判別される。必要な設定入力がされていれば、ステップ2に移行し、図示しない試験開始スイッチがONされているか否かを判断する。試験開始スイッチがONされていれば、ステップ3に移行して試験及び所定の測定が開始される。
具体的には、加湿器15、空気冷却用熱交換器16、除湿用熱交換器17、加熱ヒータ18が起動し、恒温恒湿槽3内の環境が目標環境となる様に制御する。
【0050】
ここで本実施形態の環境試験装置1は、前記した様に温度及び湿度を繰り返し変動させて試験を行うものであるから、時間の経過と共に目標環境が変化する。
実際には温度と湿度が共に変化するのであるが、説明を容易にするために湿度だけに注目すると、本実施形態の環境試験装置1は、低湿度状態の目標環境と高湿度状態の目標環境を持ち、これを交互に繰り返すものである。
従って恒温恒湿槽3の湿度は、図4の上段に示すタイムチャートの様に、低湿度から高湿度へ移行する上昇側過渡期と、高湿度状態が安定する高湿度安定期と、高湿度から低湿度へ移行する下降側過渡期と、低湿度状態が安定する低湿度安定期とを繰り返す。
【0051】
タイムチャートに沿って説明すると、a−b間が低湿度から高湿度へ移行する上昇側過渡期であり、これに続くb−c間は高湿度状態が安定する高湿度安定期である。さらに続くc−d間が高湿度から低湿度へ移行する下降側過渡期であり、これに続くd−e間が低湿度状態が安定する低湿度安定期である。そしてさらに続くe−fで再度の上昇側過渡期を迎え、以下、順次、高湿度安定期、下降側過渡期・・・を繰り返す。
【0052】
そして本実施形態の環境試験装置1では、図4の中段のタイムチャートの様に、a−b間等の上昇側過渡期と、c−d間等の下降側過渡期に循環する風速が増大される。より具体的には、送風機20の回転数が増加し、送風量が増加する。例えば送風機20の回転数が二段階に変化可能であり、高風速設定と、低風速設定を有する様な場合であれば、a−b間等の上昇側過渡期と、c−d間等の下降側過渡期に高風速設定となる。なお高風速設定における風速は、約1m/秒以上の風速であることが推奨される。
その結果、被試験物たる基板30に接する風量が増大し、被試験物と外気間における水蒸気の移動が円滑に行われる。
【0053】
より具体的に説明すると、a−b間の上昇側過渡期は、基板30を取り巻く環境の湿度が増大するから、基板30内の蒸気圧と外部環境の蒸気圧との平衡が崩れ、基板30内に水蒸気が取り込まれる環境にある。本実施形態では、a−b間の上昇側過渡期において、送風機20の回転数が増加し、送風量が増加して風速が増大され、基板30に接する風量が増大するので、基板30内への水蒸気の移動速度が増加し、早期に新たな平衡状態に達する。
【0054】
また逆にc−d間の下降側過渡期は、基板30を取り巻く環境の湿度が低下するから、基板30内の蒸気圧と外部環境の蒸気圧との平衡が崩れ、基板30側から外気に向かって水蒸気が放出される環境にある。本実施形態では、c−d間の下降側過渡期においても、送風機20の回転数が増加し、送風量が増加して風速が増大され、基板30に接する風量が増大するので、基板30は早期に水蒸気を奪われ短時間の内に新たな平衡状態に達する。
【0055】
一方、b−c間の高湿度状態が安定する高湿度安定期や、d−e間の低湿度安定期は、前記した上昇側過渡期又は下降側過渡期の間に平衡状態に近い状態に至っているから、送風を弱めても構わない。即ち本実施形態の環境試験装置1では、過渡期の間に必要な水蒸気の移動が略終了し、安定期に入った時には、略平衡状態(飽和状態)となっているので、送風量や風速の大小に係わらず水蒸気の移動は少ない。そのため本実施形態では、b−c間等の高湿度安定期やd−e間等の低湿度安定期には送風量や風速を低下させる。具体的には低風速設定に変化する。
【0056】
図3に示すフローチャートの説明に戻ると、ステップ4で温度湿度の環境が変化している時期であるか否かを判断する。即ち図4の過渡期であるか否かを判断する。
そして過渡期であるならばステップ5に移行し、送風機20の回転数を上げて高風速にする。過渡期でないならば、ステップ6に移行し、送風機の回転数を低速にし、風速を落とす。
【0057】
ステップ7で試験終了を示す信号が確認された場合には、試験を終了する。試験終了でないならばステップ4に戻り、過渡期であるか否かの監視を続ける。
【0058】
以上説明した実施形態では、送風機20のモータ21の回転数を変更することによって送風量を調節したが、ダンパー等を設け、ダンパーの開度を調節することによって送風量を増減することも可能である。
また風の向きを制御する風向板等を設け、風向を変化させて基板と接する実際の風量を増減させてもよい。
さらに図5に示す実施形態の様に、被試験物配置室5内に風速センサー45を設け、風速センサー45で検知される風速を監視しながらモータ21の回転数やダンパーの開度を制御してもよい。なお、図5に示す環境試験装置50は、風速センサー45を有する点を除いて図1の環境試験装置1と同一であるから、同一の部材に同一の番号を付することによって詳細な説明に代える。
【0059】
また図5に示す装置は、風速センサー45によって被試験物配置室5内を流れる送風の全体的な風速を検知するものであるが、風速センサー45の位置や向き、個数を工夫することによって、基板30に直接接触する風の風速や、基板30の面方向の風速あるいは風量を検知する構成としてもよい。
【0060】
また前記した実施形態では、送風量を段階的に変化させたが、目標環境と実際の環境との偏差に応じて送風量を増減してもよい。
例えば目標環境の湿度と現在の湿度との差に応じて比例制御してもよい。
【0061】
上記した実施形態では、過渡期に限って送風量を増大させ、安定期に入ると直ちに送風量を低下させたが、過渡期を過ぎて安定期に入り、一定の時間が経過した後に送風環境を変化させてもよい。逆に安定期に至る前に送風環境を変化させてもよい。
また他の条件がそろうことを補助的要件としてもよい。例えば前記した吸湿状況検知手段35の検知データを活用し、水蒸気の移動が確認された後に送風環境を変化させてもよい。
上記した実施形態では、基板30のリーク電流を検知することにより吸湿状況を間接的に監視したが、他の方策としては、基板30の各部の抵抗の変化によって吸湿状況を検出することもできる。
即ち図6に示すように基板30の各部(例えばa〜i)間の抵抗値を監視する。ここで基板30等の被試験物は、一般的に吸湿量によって抵抗値が僅かに変化するから、各部の抵抗値の変化を監視することによって基板30の吸湿量を間接的に検知することができる。
また特に本実施形態の環境試験装置は、基板30に通電しつつ試験を行うこともできるから、各部を流れる電流や電圧の変化を監視しやすい。電流や電圧の変化を監視することによって電気的特性の変化を検知することができ、間接的に吸湿量を知ることもできる。
同様にインピーダンスの変化を検知することによって間接的に吸湿量を知る方策も考えられる。
【0062】
さらに図7に示すように、電気的特性を検知する吸湿状況検知手段に代わって、ロードセルの様な重量測定機器60を吸湿状況検知手段35として恒温恒湿槽3内に設置し、重量測定機器60で基板30の重量を常時監視することによって吸湿量を知ることもできる。即ち吸湿量が増大すれば基板30の重量が増大し、基板30が乾燥すれば重量が減少する。そのため基板30の重量を監視することによって吸湿量を知ることができる。
【0063】
本発明の環境試験装置は、環境を周期的に変化させて試験する装置として好適であるが、一定の環境を長時間維持するタイプの環境試験装置に対して本発明を応用してもよい。
【0064】
以上説明した実施形態では、環境中の湿度だけに注目し、湿度が変化する過渡期と、湿度が安定する安定期の送風量等を変えた。しかしながら被試験物に対する吸湿量は、環境の温度に対しても依存するから、被試験物が置かれた環境温度に注目し、温度が変化する過渡期と、温度が安定する安定期の送風量等を変えてもよい。もちろん、この両者が共に変化する過渡期と共に安定する安定期の送風量等を変えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態の環境試験装置の構成図である。
【図2】本実施形態の環境試験装置で採用する吸湿状況検知手段の回路図である。
【図3】本実施形態の環境試験装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態の環境試験装置の動作及び被試験物の吸湿量変化を示すタイムチャートである。
【図5】本発明の他の実施形態の環境試験装置の構成図である。
【図6】基板の吸湿量を測定する他の実施形態を示す説明図である。
【図7】基板の吸湿量を測定するさらに他の実施形態を示す説明図である。
【図8】被試験物に送風を当てた際における風速と吸湿率変化度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1,50 環境試験装置
3 恒温恒湿槽
4 制御装置
11 室内温度検知センサー
12 湿度検知センサー
15 加湿器
16 空気冷却用熱交換器
17 除湿用熱交換器
18 加熱ヒータ
20 送風機
21 モータ
22 設定入力手段
23 表示装置
30 基板(被試験物)
35 吸湿状況検知手段
45 風速センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも送風手段及び送風環境制御手段を有し、被試験物からの水蒸気の出入りが激しい期間は、被試験物からの水蒸気の出入りが行われやすい送風環境とすることを特徴とする環境試験装置。
【請求項2】
被試験物からの水蒸気の出入りが激しい期間は、被試験物に接する送風を増大させることを特徴とする請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項3】
被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも送風手段及び送風環境制御手段を有し、環境を変化させる過渡期と環境が安定した安定期における送風環境を変化させることを特徴とする環境試験装置。
【請求項4】
被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも湿度を調節する湿度調節手段と、送風手段及び送風環境制御手段を有し、湿度を変化させる過渡期と湿度が安定した安定期における送風環境を変化させることを特徴とする環境試験装置。
【請求項5】
被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも温度を調節する温度調節手段と、送風手段及び送風環境制御手段を有し、温度を変化させる過渡期と温度が安定した安定期における送風環境を変化させることを特徴とする環境試験装置。
【請求項6】
被試験物が置かれる環境を調節する環境調節手段を備えた環境試験装置において、前記環境調節手段は、少なくとも湿度を調節する湿度調節手段と、温度を調節する温度調節手段と、送風手段及び送風環境制御手段を有し、温度及び湿度を変化させる過渡期と湿度及び温度が安定した安定期における送風環境を変化させることを特徴とする環境試験装置。
【請求項7】
過渡期においては被試験物に接する送風を増大し、安定期においては被試験物に接する送風を減少させることを特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項8】
過渡期においては風速を増大し、安定期においては風速を減少させることを特徴とする請求項3乃至7のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項9】
過渡期においては送風量を増大し、安定期においては送風量を減少させることを特徴とする請求項3乃至8のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項10】
被試験物が置かれる環境を周期的に変化させることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項11】
過渡期を過ぎて安定期に入り、一定の条件を満足した後に送風環境を変化させることを特徴とする請求項3乃至10のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項12】
過渡期を過ぎて安定期に入り、一定の時間が経過した後に送風環境を変化させることを特徴とする請求項3乃至10のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項13】
被試験物の吸湿状況を検知する吸湿状況検知手段を備えることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−212419(P2007−212419A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35699(P2006−35699)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】