説明

環境試験装置

【課題】試験対象物に対する試験環境を維持しつつ装置の消費エネルギーを低減させる。
【解決手段】環境試験装置1は、試験室5と、空調機器7と、試験室5内に着脱可能に設けられる容量変更部材10と、試験室5内の空気を所定の温湿度に調節するように、空調機器7の出力を制御する制御装置100とを含んでいる。そして、制御装置100は、試験室5内に容量変更部材10が設けられた第1の状態において、空調機器7の出力が試験室5内に容量変更部材10が設けられていない第2の状態におけるよりも小さくなるように、空調機器7を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象物の様々な環境状況下における動作信頼性などを確認するための環境試験を行う環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内部に取り外し可能な断熱壁が設置可能な熱衝撃試験装置について記載されている。この装置においては、試験対象物の大きさに応じて適宜の位置に断熱壁を設置することで、消費エネルギーを低減することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−340783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に係る熱衝撃試験装置においては、試験対象物の大きさに合わせて区画された試験空間が最も大きい試験空間よりも小さい場合でも、最も大きい試験空間のときと同様な試験条件で熱衝撃試験が行われており、試験対象物に対する試験環境(例えば、風速や温度変化など)が試験空間の大きさに応じて変化する。このように試験空間の大きさに応じて試験対象物に対する試験環境が変化すると、当該試験対象物に対して同じ環境試験を行うことができないという問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、試験対象物に対する試験環境を維持しつつ装置の消費エネルギーを低減させる環境試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の環境試験装置は、試験対象物を収容可能な試験室と、前記試験室内の空気を所定の温湿度に調節する空調機器と、前記試験室内に着脱可能に設けられ、前記試験室内に取り付けられた第1の状態における前記試験室の容積を前記試験室内から取り外された第2の状態における前記試験室よりも小さくする容量変更部材と、前記試験室内の空気を所定の温湿度に調節するように、前記空調機器の出力を制御する制御手段とを備えている。そして、前記制御手段は、同一の所定温湿度条件の場合、前記第1の状態において、前記空調機器の出力が前記第2の状態におけるよりも小さくなるように、前記空調機器を制御する。
【0007】
これによると、容量変更部材が試験室に対して着脱可能に設けられていることで、当該試験室の容積の変更(すなわち、試験室内を所定の温湿度にするための空調機器に与える負荷の変更)が可能となり、試験室の容積(負荷)の減少に応じて、空調機器の出力を減少させることが可能となる。このため、試験対象物に対する試験環境を維持しつつ装置の消費エネルギーを低減させることが可能になる。
【0008】
本発明において、前記制御手段は、前記空調機器の出力を大きくするときに前記空調機器に対する出力信号を増大させ、前記空調機器の出力を小さくするときに前記空調機器に対する出力信号を減少させるコントローラを有しており、前記コントローラは、前記第1の状態において前記試験室内を所定の温湿度にするための前記空調機器に与える負荷と前記第2の状態における前記負荷との比に基づいて、前記出力信号を比例変更することが好ましい。これにより、制御構成が簡易になる。
【0009】
また、本発明において、複数の前記空調機器を備えており、前記制御手段は、前記第1の状態における前記空調機器の制御台数が前記第2の状態におけるよりも少なくなるように、複数の前記空調機器を制御することが好ましい。これにより、複数の空調機器を有していても、試験室の容積(負荷)の減少に応じて、空調機器の制御台数を減少させることが可能となる。このため、装置の消費エネルギーを低減させることが可能になる。
【0010】
また、本発明において、前記空調機器は、風速を変更することが可能な送風機を有しており、前記制御手段は、前記第1の状態において、前記試験室内の風速が前記第2の状態と同じになるように、前記送風機を制御することが好ましい。これにより、試験室の容積(負荷)の減少・形状の変化に応じて、送風機の風速を減少させることが可能となる。このため、試験対象物に対する試験環境を維持しつつ装置の消費エネルギーを低減させることが可能になる。
【0011】
また、本発明において、前記試験室を画定する壁面の少なくとも一部が、断熱材によって覆われていることが好ましい。これにより、熱負荷を減少させることが可能となり、より装置の消費エネルギーを低減させることが可能になる。
【0012】
また、本発明において、前記容量変更部材の表面には、その表面全体に熱が伝わるのを抑制する熱切り部が形成されていることが好ましい。これにより、容量変更部材の表面全体に熱が伝わるのを抑制することが可能となり、当該容量変更部材が試験室内に設けられたときに熱負荷を減少させることが可能となる。このため、より装置の消費エネルギーを低減させることが可能となる。
【0013】
また、本発明において、前記試験室を画定する壁面には、その表面全体に熱が伝わるのを抑制する熱切り部が形成されていることが好ましい。これにより、熱負荷を減少させることが可能となり、より装置の消費エネルギーを低減させることが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の環境試験装置によると、容量変更部材が試験室に対して着脱可能に設けられていることで、当該試験室の容積の変更(すなわち、試験室内を所定の温湿度にするための空調機器に与える負荷の変更)が可能となり、試験室の容積(負荷)の減少に応じて、空調機器の出力を減少させることが可能となる。このため、試験対象物に対する試験環境を維持しつつ装置の消費エネルギーを低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態による環境試験装置の概略斜視図である。
【図2】図1に示すII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1に示すII−II線に沿った断面図であって、試験室から容量変更部材を取り外した状況を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態による環境試験装置の第1変形例を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による環境試験装置の第2変形例を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態による環境試験装置の第3変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
本発明の一実施形態における環境試験装置1は、種々の環境試験において用いられるものであって、図1及び図2に示すように、内部に空間2aを有する略直方体形状の筐体2と、筐体2内の空間2aを仕切る仕切り壁3と、仕切り壁3によって分離され且つ仕切り壁3に形成された上部孔3a及び下部孔3bを介して互いに連通した試験室5及び空調室8と、試験室5内に設けられた容量変更部材10と、空調室8に収容された空調機器7と、空調機器7の出力を制御する制御装置100とを含んでいる。
【0018】
筐体2は、図2に示すように、2つの板金4a,4bと、開口2bを塞ぐことが可能な扉9とを有しており、当該扉9の内面に容量変更部材10がビスなどで着脱可能に設けられている。この構成において、図2に示すように、扉9に容量変更部材10を取り付けた状態で開口2bを塞ぐように扉9が閉められると、容量変更部材10が試験室5内に収容される。つまり、容量変更部材10が試験室5内に設けられた第1の状態となって、試験室5の容積が減少する。一方、図3に示すように、扉9に容量変更部材10を取り付けていないときは、扉9を閉めても容量変更部材10が試験室5内に収容されない。つまり、容量変更部材10が試験室5内に設けられていない第2の状態となって、試験室5の容積もそのままとなる。
【0019】
板金4aは、扉9に向かって開口した箱形状を有している。板金4bは、四角筒形状を有しており、板金4aの一端に固定されている。そして、板金4bは、板金4aとの固定端とは反対の端部に開口2bが構成されている。また、板金4bは、図2中左右方向に関して、その長さが試験室5の長さの約半分となっている。また、板金4a,4b間には、互いに伝わった熱を伝わりにくくするための部材(例えば、SMC、ベークライト)が介在されている。この部材は、熱伝導率が板金4a,4bよりも小さい。これにより、試験室5を画定する壁面(筐体2の内壁面)には熱切り部15が形成され、当該壁面のうち熱切り部15を挟む一方に熱が加えられても、熱切り部15を越えて一方から他方に熱が伝わりにくくなり、壁面全体に熱が伝わるのを抑制することが可能となる。
【0020】
具体的には、図2に示すように試験室5が第1の状態のときに、試験室5内において板金4aに熱が加えられても、板金4aと板金4bとの間には熱切り部15が存在するので、板金4aから板金4bにはほとんど熱が伝わらない。さらに、試験室5が第1の状態のときには、板金4bはその内周面全体が容量変更部材10によって覆われるように対向しており、試験室5内に露出されていない。これより、試験室5が第1の状態のときには、試験室5の熱容量が第2の状態から板金4bの熱容量分だけ減少する。このように熱容量が減少することによって、第1の状態において試験室5を所定の温湿度にするための空調機器7に与える負荷に含まれる熱負荷が、第2の状態における熱負荷よりも小さくなる。このような熱負荷を含む負荷の算出は、予め第1及び第2の状態における負荷の減少率を測定するための負荷算出運転を行うことで求められる。そして、この負荷算出運転で同一条件での温度変化率を測定し、第1及び第2の状態における負荷比も算出する。算出した負荷比は、ユーザが初期の設定値として制御装置100に記憶させる。ここでいう負荷は、熱切りの熱負荷や容積減少による熱負荷等が考えられる。また、第1の状態と第2の状態の風速を計測し、容積減少・形状の変化による風速の増加に対して同じ風速になるように(サンプルに対するストレスを変えないために)、送風機への出力を小さくする負荷比を算出し、制御装置100に記憶させる。ここでの負荷は、風速負荷等である。
【0021】
空調機器7は、図2に示すように、上方から順に、送風機31、例えばシーズヒータ等の電熱ヒータからなる空気ヒータ32、冷却装置33、及び、例えば容器内の水を内蔵ヒータで加熱して加湿を行う加湿装置34を有している。これら送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34は、制御装置100によってその出力がそれぞれ制御される。試験室5から下部孔3bを通って空調室8に流入した空気は、順次、加湿装置34、冷却装置33、及び空気ヒータ32によってその温度及び湿度が調整され、所定の温度及び湿度となった状態で送風機31により上部孔3aを介して再び試験室5に流入する。なお、送風機31によって空調室8内の空気が試験室5に送り出されることで、試験室5内の空気が下部孔3bを通って空調室8内に流入する。こうして、試験室5と空調室8との間を空気が循環する。また、空気は、図2及び図3の太矢印で示すように、試験室5内において上部孔3aから下部孔3bに向かうように上から下へと流れ、空調室8内において下部孔3bから上部孔3aに向かうように下から上へと流れる。
【0022】
送風機31は、制御装置100からの出力信号に応じて、送り出す風速を変更する。つまり、制御装置100からの出力信号が大きくなるに連れて送風機31による風速が大きくなり、出力信号が小さくなるに連れて送風機31による風速が小さくなる。なお、風速の減少に伴って送風機31による風量も減少する。換言すると、風速が増大すると送風機31による風量も増大する。空気ヒータ32、冷却装置33、加湿装置34も、送風機31と同様に、制御装置100からの出力信号に応じて、空気の加熱量、空気の冷却量、空気の加湿量を変更する。つまり、制御装置100からの出力信号が大きくなるに連れて空気ヒータ32、冷却装置33、加湿装置34による加熱量、冷却量、加湿量が大きくなり、出力信号が小さくなるに連れて空気ヒータ32、冷却装置33、加湿装置34による加熱量、冷却量、加湿量が小さくなる。
【0023】
試験室5は、所定の温度及び湿度の空気を内包し、環境試験に係る試験対象物が配置される空間であり、試験室5内に容量変更部材10が配置されているか否かでその容積が変わるとともに試験室5を所定の温湿度にするための空調機器7に与える負荷が変わる。つまり、試験室5は、当該試験室5内に容量変更部材10が配置されている第1の状態における容積及び負荷が、試験室5内に容量変更部材10が配置されていない第2の状態における場合よりも小さくなる。
【0024】
ここで、容量変更部材10について説明する。この容量変更部材10は略直方体形状を有しており、図2に示すように、試験室5内に設けられたときにちょうど試験室5の容積が半分になる程度の大きさを有している。より具体的には、容量変更部材10は、図2に示すように、内部に空洞11が形成されるように板金12,13によって構成されている。なお、この空洞11には断熱材などが充填されていてもよい。なお、本実施形態における容量変更部材10のサイズは、ちょうど試験室5の半分であるが、容量変更部材は試験室5の容積未満であって容積の半分を超えてもよいし、半分未満でもよい。
【0025】
板金12は、仕切り壁3に向かって開口した箱形状を有しており、その外周側面が板金4bの内周面とちょうど合うように形成されている。つまり、容量変更部材10が試験室5内に配置されると、板金12が板金4bの内周面全体を覆う。板金13は、板金12の開口を塞ぐようにして板金12に固定されている。そして、これら板金12,13間にも、熱切り部15を構成する部材と同様な部材によって熱切り部14が構成されている(すなわち、容量変更部材10の表面に熱切り部14が形成されている)。この熱切り部14を構成する部材は、熱伝導率が板金12,13よりも小さい。このため、容量変更部材10は、その表面全体に熱が伝わるのが抑制される。
【0026】
このような容量変更部材10は、扉9にビスなどの固定部材(不図示)などで取り付けられ当該扉9が閉められることで、試験室5が第1の状態となり、試験室5の容積が第2の状態の約半分となる。また、このときの第1の状態における負荷は、負荷算出運転の結果によれば、第2の状態よりも小さくなっている。これは、第1の状態における試験室5が熱切り部14,15によって板金12及び板金4bと熱切りされた板金13、板金4a、及び、仕切り壁3で囲まれて構成されているからであり、試験室5を構成する板金13、板金4aに熱が伝わっても熱切り部14,15を越えて板金12,4bに熱がほとんど伝わらないからである。つまり、熱負荷が小さくなっている。なお、上述の負荷は、試験室5の容積が単に小さくなる、すなわち、第2の状態から第1の状態になるだけでも、当該試験室5における温湿度の調整・維持のための熱量を減らすことが可能となるため、減少する。
【0027】
制御装置100(制御手段)は、コントローラ104及び当該コントローラ104に電気的に接続された設定・表示器105を含んでいる。コントローラ104は、空調機器7である送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34とそれぞれ電気的に接続されている。設定・表示器105は、ユーザによって試験室5内の温湿度、試験時間、及び、試験室5の状態(第1の状態及び第2の状態のいずれか)などの環境試験条件を設定するものであり、当該設定値を表示するものでもある。
【0028】
コントローラ104は、設定・表示器105によって設定された環境試験条件を示すデータに基づいて、空調機器7に対して出力信号を出力する。具体的には、コントローラ104は、設定・表示器105でユーザによって試験室5の状態が第1の状態に設定されたときは、第2の状態に設定されたときよりも空調機器7に対する出力信号が小さくなるように出力される。つまり、コントローラ104は、第1の状態における試験室5の容積と第2の状態における試験室5の容積との比や形状などに基づいて、送風機31に対する出力信号を変更する。さらに、コントローラ104は、第1の状態における負荷と第2の状態における負荷との比に基づいて、空気ヒータ32、冷却装置33、加湿装置34に対する出力信号を比例変更する。なお、負荷比や容積比は予め制御装置100の記憶部(不図示)に記憶されている。
【0029】
続いて、試験対象物に対する環境試験を行うときの環境試験装置1の動作について、以下に説明する。まず、環境試験を行うときは、試験対象物の大きさに応じて、試験室5を第1の状態及び第2の状態のいずれにするかをユーザが判断する。つまり、試験対象物がそれほど大きくなく、第1の状態における試験室5内に試験対象物を収容させることができる場合に、ユーザが第1の状態を選択する。一方、試験対象物を第1の状態における試験室5内に収容させることができない場合は、第2の状態が選択される。そして、第2の状態を選択した場合は、扉9に容量変更部材10を取り付けずに、図3に示すように、そのまま第2の状態の試験室5内に試験対象物Bを架台(不図示)に載せた状態で配置してから扉9を閉じる。
【0030】
次に、ユーザが設定・表示器105で、試験室5が第2の状態であること及び所望の環境試験条件(風速、温湿度、試験時間など)を設定する。すると、コントローラ104が出力信号の大きさを所定の大きさ(第1の状態におけるよりも大きい大きさ)で出力し、送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34を制御する。そして、空調室8内で調節された空気を送風機31が第2の状態における試験室5内に送り出す。なお、送風機31によって試験室5内に空気が送り出されると、試験室5内の空気が下部孔3bを通って空調室8内に流入し、当該空調室8において所定の温湿度に調節される。
【0031】
次に、所定の試験時間が経過した後、コントローラ104が送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34の駆動を停止するように制御する。そして、ユーザが扉9を開けて試験対象物Bを試験室5から取り出す。こうして、第2の状態における試験対象物に対する環境試験が終了する。
【0032】
一方、ユーザが第1の状態を選択した場合は、扉9に容量変更部材10が取り付けられる。次に、図2に示すように、試験対象物Aを第1の状態の試験室5内に架台(不図示)に載せた状態で配置してから扉9を閉じる。そして、ユーザが設定・表示器105で、試験室5が第1の状態であること及び所望の環境試験条件(風速、温湿度、試験時間など)を設定する。ここでは、試験室5が第2の状態において試験対象物Bに対して行った環境試験条件と同じ条件を設定する。すると、コントローラ104が出力信号の大きさを第2の状態におけるよりも小さい大きさで出力し、送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34を制御する。つまり、空調室8内において、単位時間当たりの空気の加熱量、冷却量及び加湿量を、第2の状態におけるよりも小さくする。このように空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34の出力を第2の状態におけるよりも小さくしても、試験室5の容積とともに試験室5を所定の温湿度にするための負荷が第2の状態におけるよりも小さくなっており、第2の状態において空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34の出力を所定の出力としている状態とほぼ同じように空気の温湿度を調節することが可能になる。加えて、消費エネルギーを減少させることも可能になる。
【0033】
そして、空調室8内で調節された空気を送風機31が第1の状態における試験室5内に送り出す。このときも送風機31は、第2の状態におけるよりも小さい風速で試験室5内に所定の温湿度に調節された空気を送り出す。このように第2の状態におけるよりも約半分の容積となった試験室5に、第2の状態におけるよりも小さい(遅い)風速(すなわち、少ない風量)で試験室5内に空気が送り込まれているため、試験対象物に対する風速(試験環境)が第1の状態のときと第2の状態のときとでほぼ同じになる。なお、送風機31によって試験室5内に空気が送り出されると、試験室5内の空気が下部孔3bを通って空調室8内に流入し、当該空調室8において所定の温湿度に調節される。
【0034】
次に、所定の試験時間が経過した後、コントローラ104が送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34の駆動を停止するように制御する。そして、ユーザが扉9を開けて試験対象物Aを試験室5から取り出す。こうして、第1の状態において、試験対象物に対する環境試験が終了する。
【0035】
以上のように、本実施形態の環境試験装置1は、容量変更部材10が試験室5に対して着脱可能に設けられていることで、当該試験室5の容積変更が可能となる。つまり、試験室内を所定の温湿度にするための空調機器7に与える負荷の変更が可能となる。試験対象物の大きさに応じて試験室5の容積(負荷)を減少させることが可能になる。そして、環境試験装置1は、試験室5を第1の状態にして試験室5の容積及び負荷を第2の状態から減少させたときには、空調機器7(送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34)の出力を小さくさせることが可能である。このとき、空調機器7の出力を減少させていても、大きさの異なる試験対象物A,Bに対する試験環境を同じように維持することが可能となり、装置1の消費エネルギーを低減させることが可能となる。
【0036】
また、コントローラ104は、第1の状態における負荷と、第2の状態における負荷との比に基づいて、出力信号を小さく変更、例えば、比例変更する。このため、コントローラ104による複雑な制御を行う必要がなくなり、制御構成が簡易になる。
【0037】
また、送風機31は風速を変更することが可能であり、コントローラ104が第1の状態において、送風機31の風速が第2の状態の場合より小さくなるように、送風機31を制御するため、試験対象物に対する試験環境を維持しつつ環境試験装置1の消費エネルギーを低減させることが可能になる。変形例として、容量変更部材の形状によって試験対象物に対する風速が第1の状態のときの方が第2の状態のときよりも遅くなる場合、第2の状態のときよりも当該風速が速くなるように送風機を制御してもよい。この場合においても、全体的な空調機器の制御出力は第2の状態のときよりも第1の状態のときの方が減少している。
【0038】
また、容量変更部材10の板金12と板金13間には熱切り部14が形成されており、図2に示すように、板金12が試験室5内に露出されずに板金13だけが試験室5内に露出されている。このため、試験室5内の空気から板金13に伝わった熱が、板金13から板金12に伝わりにくくなる。このため、容量変更部材10が試験室5内に設けられたときに試験室5を所定の温湿度にするための空調機器7に与える熱負荷を減少させることが可能となる。したがって、より環境試験装置1の消費エネルギーの低減に寄与できる。つまり、熱負荷を小さくすることが可能になると、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34の空調機器7の出力を小さくしても当該試験室5内の空気の温湿度を維持することが可能となり、環境試験装置1の消費エネルギーの低減が可能になる。また、筐体2の板金4aと板金4bの間にも熱切り部15が形成されており、図2に示すように、第1の状態において、容量変更部材10が板金4bを覆うように配置されている。このため、試験室5内の空気から板金4aに伝わった熱が、板金4aから板金4bに伝わりにくくなる。したがって、上述と同様に、熱負荷を減少させることが可能となり、より環境試験装置1の消費エネルギーの低減に寄与できる。
【0039】
第1変形例として、図4に示すように、空調室8には、もう1組の空調機器7(すなわち、送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34)が設けられていてもよい。つまり、環境試験装置1に、2組の空調機器7として、送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34がそれぞれ2つずつ設けられていてもよい。そして、制御装置100は、これら送風機31、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34とそれぞれ電気的に接続されている。コントローラ104は、設定・表示器105で設定された環境試験条件を示すデータに基づいて、各空調機器7に対して出力信号を出力する。具体的には、コントローラ104は、第1及び第2の状態において同じ環境試験条件であって、設定・表示器105でユーザによって試験室5の状態が第1の状態に設定されたときは、1組の空調機器7だけに出力信号を供給する。一方、設定・表示器105でユーザによって試験室5の状態が第2の状態に設定されたときは、2組の空調機器7に出力信号を供給する。つまり、コントローラ104は、第1の状態における空調機器7の制御台数が第2の状態におけるよりも少なくなるように、2組の空調機器を制御する。これにより、環境試験装置1に2組の空調機器7が設けられていても、試験室5の容積及び負荷の減少に応じて、空調機器7の制御台数を減少させることが可能となる。このため、装置1の消費エネルギーを低減させることが可能になる。
【0040】
また、この第1変形例において、容量変更部材10のサイズを1.5倍にした容量変更部材を試験室5内に配置してもよい。第1の状態における負荷が、負荷算出運転の結果によると、例えば第2の状態におけるよりも約1/4となる場合に、コントローラ104は、第2の状態における1組の空調機器7に対する出力信号の約半分の大きさになるような出力信号を1組の空調機器7に出力してもよい。つまり、コントローラ104は、第1の状態における負荷と第2の状態における負荷との比に基づいて、第1の状態における空調機器7の制御台数が第2の状態におけるよりも少なくなるようにしつつ、1組の空調機器7に属する空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34に対する出力信号を比例変更する。さらに、コントローラ104は、第1の状態における風速と第2の状態における風速との比に基づいて、1組の空調機器7に属する送風機31に対する出力信号を比例変更してもよい。これにおいても、環境試験装置1の消費エネルギーを低減させることが可能になる。
【0041】
第2変形例として、図5に示すように、容量変更部材10に変えて容量変更部材20が仕切り壁3の中央に着脱可能に設けられていてもよい。この容量変更部材20も略直方体形状を有しており、図5に示すように、試験室5内に設けられたときにちょうど試験室5の容積が半分になる程度の大きさを有している。より具体的には、容量変更部材20は、図5に示すように、板金22,23の内部に空洞21が形成されるように構成されている。なお、空洞21に変えて断熱材を設置してもよいが、熱負荷の上昇を考慮すると、空洞の方がよい。
【0042】
コントローラ104は、第1及び第2の状態において同じ環境試験条件であって、設定・表示器105でユーザによって試験室5の状態が第1の状態に設定されたときに、第2の状態の試験室5内の風速と同じになるように、送風機31に対する出力信号を出力する。つまり、コントローラ104は、上述の実施形態と同様に第1の状態における試験室5の風速・形状と第2の状態における試験室5の風速・形状に基づいて、試験室5内の風速が同じになるように、送風機31に対する出力信号を変更する。容量減少に対して風速を同じにする場合、送風機31に対する出力信号は小さくなるため、上述と同様に環境試験装置1の消費エネルギーを低減させることが可能になる。さらに、コントローラ104は、第1の状態における熱負荷と第2の状態における熱負荷との比に基づいて、空気ヒータ32、冷却装置33、加湿装置34に対する出力信号を比例変更する。本変形例において、第1及び第2の状態における熱負荷の比がほとんど変わらない場合、第1及び第2の状態のいずれにおいても、同じ大きさの出力信号を空気ヒータ32、冷却装置33、加湿装置34に出力する。なお、コントローラ104の上記制御構成は、第1の状態と第2の状態における環境試験条件が同じ場合に限る。当然、設定温度、湿度、風速が変更されれば、適宜、その環境試験条件に合った出力信号がコントローラ104から空調機器7に出力される。
【0043】
また、本変形例において、筐体2の試験室5を区画する内壁面、及び、扉9の内面には、これら内壁面及び扉9の内面よりも熱容量の低い材質から構成された断熱材28が設けられている。このように、筐体2及び扉9に断熱材28が設けられていることで、試験室5の熱容量を大幅に低下させることが可能となる。このため、断熱材28が設けられていない装置と比して、熱負荷を低下させることが可能となり、特に、空気ヒータ32、冷却装置33、加湿装置34に対する出力信号を小さくすることが可能となる。したがって、より環境試験装置1の消費エネルギーを低減させることが可能になる。なお、本変形例においては、筐体2の試験室5を区画する内壁面が断熱材28によって覆われているので、特に熱切り部15が設けられていない。つまり、筐体2自体も2つの板金4a,4bから構成される必要が無く、1つの板金で構成することが可能となる。このため、筐体2の構成が簡易になる。また、筐体を1つの板金で構成する場合は、仕切り壁3との境界部分に熱切り構造を有する方が、熱負荷を低減させることが可能となる。
【0044】
第3変形例として、図6に示すように、容量変更部材10に代えて容量変更部材40が扉9に着脱可能に設けられていてもよい。この容量変更部材40は、仕切り壁3と対向する面が当該仕切り壁3と交差する斜面41に形成されている。これにより、試験室5内に設けられるだけで、試験室5内における気流方向を変更することが可能となる。つまり、試験室5において、上から下へと鉛直方向に流れる空気の流れが、扉9の上部から仕切り壁3の下部に向けて斜め下方への空気の流れに変更される。なお、容量変更部材40の大きさは、試験室5内に設けられたときにちょうど試験室5の容積が半分になる程度の大きさを有している。また、容量変更部材40は、第1の状態における熱負荷が第2の状態における熱負荷よりも小さくなるように構成されている。これにより、コントローラ104は、上述の第2変形例と同様の制御が行われる。このため、第2変形例と同様な構成においては、同じ効果を得ることができる。
【0045】
なお、容量変更部材の形状は、上述の容量変更部材10,20,40以外の形状でもよいし、例えば、空気などの流体が充填された可撓性を有する断熱樹脂袋であってもよい。断熱樹脂袋の場合は、試験室5の底面に載置するような形で試験室5内に設けられればよい。また、断熱樹脂袋は試験室5に設けられたときに、当該試験室5の内面形状に追従して壁面に密着するため、第1の状態における熱負荷を第2の状態におけるよりも減少させることができる。
【0046】
また、本実施形態及び第1〜第3変形例においては、第1及び第2の状態における容積比及び負荷比に応じて、コントローラ104が空調機器7に対する出力信号を制御してきたが、比例変更のみで制御の調整が不可能な場合、加熱、加湿、冷却制御の制御演算パラメータ(例えば、PID制御のPIDパラメータ)の調整を行ってもよい。また、試験室5内に風速計を設け、当該風速計によって測定された測定値に基づいて、第1の状態においても第2の状態のときと風速が同じになるように、コントローラ104が送風機31を制御してもよい。また、本実施形態及び第1〜第3変形例においては、ユーザが設定・表示器105で試験室5の状態を設定していたが、試験室5に容量変更部材を設けることで、自動的に試験室5の状態を制御装置100が判定してもよい。これにより、ユーザによる設定ミスの影響を受けなくなる。
【0047】
また、上述の実施形態においては、試験室5が第1の状態のときに第2の状態におけるよりも熱負荷が減少しているため、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34の出力信号を小さくしていたが、空気ヒータ32、冷却装置33、及び、加湿装置34に対しては第1及び第2の状態において出力信号を同じにしていてもよい。こうすれば、第1の状態のときに試験室5の容積及び熱負荷が小さくなっても第2の状態のときと同じ能力で試験室5内の空気の温湿度を調節できるため、当該試験室5内の空気を急速に所望の温湿度に調節することが可能となる。このため、第1の状態における環境試験時間を、第2の状態におけるよりも短くすることが可能となる。なお、このときにおいても、送風機31に対する出力信号を小さくして、第1及び第2の状態において同じ風速になるように調節しておれば、試験対象物に対する試験環境は、第1及び第2の状態においてほとんど変えずに試験を行うことができる。さらに、第1の状態のときに試験室5の容積が小さくなっても第2の状態のときと同じ能力で試験室5内の空気の温湿度を調節できるため、試験室5内の空気の調節範囲を拡大することが可能となる。つまり、第2の状態におけるよりも容積が小さい第1の状態においては、第2の状態においては生じない余剰熱量を生み出すことが可能となって、試験室5内の空気の最大調節値を大幅に拡大することができる。なお、第1の状態における試験室5の容積を大幅に小さくした場合などは、空調機器7が当該容積に対する適用可能範囲から逸脱することがある。この場合は、適用可能範囲に入る空調機器7に適宜、入れ替えてもよい。
【0048】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態及び第1〜第3変形例においては、試験室5内の気流が上から下に向かう鉛直方向の気流を構成する環境試験装置であったが、例えば、下から上に向かう気流又は水平方向の気流を構成する環境試験装置においても、本発明を適用することが可能である。また、容量変更部材は、試験室内において扉や仕切り壁以外に設置してもよい。また、容量変更部材は2以上設けられてもよい。また、制御出力は、第1及び第2の状態における熱負荷(負荷)の比に基づいて決定されるものではなく、例えば、装置と容量変更部材の組合せを変えて予め計測した実験データ(例えば、温度、湿度、風速、制御出力)に基づいて決定されるものでもよい。また、空調機器は、送風機、ヒータ、冷却器、加湿器の少なくともいずれか1つを有しておればよい。また、空調機器は、上述の実施形態以外の構成からなる空調機器であってもよい。また、試験室と空調室とが、1つの筐体に一体的に形成されておらずに、別体として構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 環境試験装置
2 筐体
5 試験室
7 空調機器
10,20,40 容量変更部材
14,15 熱切り部
28 断熱材
31 送風機
32 空気ヒータ
33 冷却装置
34 加湿装置
100 制御装置(制御手段)
104 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象物を収容可能な試験室と、
前記試験室内の空気を所定の温湿度に調節する空調機器と、
前記試験室内に着脱可能に設けられ、前記試験室内に取り付けられた第1の状態における前記試験室の容積を前記試験室内から取り外された第2の状態における前記試験室よりも小さくする容量変更部材と、
前記試験室内の空気を所定の温湿度に調節するように、前記空調機器の出力を制御する制御手段とを備えており、
前記制御手段は、同一の所定温湿度条件の場合、前記第1の状態において、前記空調機器の出力が前記第2の状態におけるよりも小さくなるように、前記空調機器を制御することを特徴とする環境試験装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記空調機器の出力を大きくするときに前記空調機器に対する出力信号を増大させ、前記空調機器の出力を小さくするときに前記空調機器に対する出力信号を減少させるコントローラを有しており、
前記コントローラは、前記第1の状態において前記試験室内を所定の温湿度にするための前記空調機器に与える負荷と前記第2の状態における前記負荷との比に基づいて、前記出力信号を比例変更することを特徴とする請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項3】
複数の前記空調機器を備えており、
前記制御手段は、前記第1の状態における前記空調機器の制御台数が前記第2の状態におけるよりも少なくなるように、複数の前記空調機器を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の環境試験装置。
【請求項4】
前記空調機器は、風速を変更することが可能な送風機を有しており、
前記制御手段は、前記第1の状態において、前記試験室内の風速が前記第2の状態と同じになるように、前記送風機を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の環境試験装置。
【請求項5】
前記試験室を画定する壁面の少なくとも一部が、断熱材によって覆われていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の環境試験装置。
【請求項6】
前記容量変更部材の表面には、その表面全体に熱が伝わるのを抑制する熱切り部が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の環境試験装置。
【請求項7】
前記試験室を画定する壁面には、その表面全体に熱が伝わるのを抑制する熱切り部が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−73130(P2012−73130A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218509(P2010−218509)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】