説明

環境試験装置

【課題】冷却手段50の能力の下限を引下げ、試験室3内の環境が安定した後における加熱ヒータ6の運転機会を減少させ、省エネルギーに寄与する環境試験装置を開発する。
【解決手段】環境試験装置1は、試験室3、冷却手段50、加熱ヒータ6、加湿装置7及び送風機8を備えている。冷却手段50は、2系統の冷却回路51,52を有している。制御用冷却回路52は、負荷用冷却回路51に比べて容量の小さい冷却・除湿器であり、制御側圧縮機65と、制御側熱交換器66と、制御側凝縮器67と、電磁弁73と、制御側膨張手段(キャピラリーチューブ)68と、制御側蒸発器69を有している。制御側蒸発器69は、ステンレススチールの裸管76で作られている。必要な冷熱量を演算し、この必要量に見合う様に、一定時間あたりの電磁弁73の開時間を演算し、この時間だけ電磁弁73を開いて冷媒を制御側蒸発器69に導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被試験物を所定の環境にさらすことのできる環境試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製品や部品等の性能や耐久性を調べる方策として、環境試験が知られている。環境試験は、環境試験装置と称される設備を使用して実施される。環境試験装置は、例えば高温環境や、低温環境、高湿度環境等を人工的に作り出すものである。
環境試験装置は、例えば図6の様な構成を備えている。図6に示す環境試験装置100は、試験室3、冷却・除湿器(冷却手段)5、加熱ヒータ6、加湿装置7及び送風機8を備えている。試験室3は、断熱材2によって覆われた空間である。そして試験室3と連通する空気流路10があり、当該空気流路10に前記した冷却・除湿器5の蒸発器11と、加熱ヒータ6、加湿装置7及び送風機8が設けられている。また、空気流路10の出口側に、温度センサー12と湿度センサー13が設けられている。環境試験装置100では、前記した空気流路10内の部材と、温度センサー12及び湿度センサー13によって空気調和装置15が構成されている。
【0003】
冷却・除湿器5は、相変化する熱媒体を使用して冷凍サイクルを実現するものであり、蒸発器11の他に、圧縮機20と、凝縮器21と、膨張弁22を有している。ここで膨張弁22は、例えば電子膨張弁であり、開度を変化させることができる。圧縮機20を駆動するモータは、インバータ制御されていて回転数を変化させることができる。蒸発器11は銅又は銅合金の様な熱伝導性に優れた素材で作られている。また外部との接触面積を増大させるために、蒸発器11にはフィン31が設けられている。即ち蒸発器11は、銅管で形成された流路を有し、且つフィン31が設けられている。
そして前記した圧縮機20と、凝縮器21と、膨張弁22及び蒸発器11が配管で環状に接続されて冷却回路30を構成し、その内部に相変化する冷媒が封入されている。冷媒は、冷却回路30内を循環する。
冷却・除湿器5は、公知のそれと同様に、蒸発器11内で、冷媒を膨張させ、蒸発器11の表面温度を低下させて環境から熱を奪う。
【0004】
加熱ヒータ6は、公知の電気ヒータである。
【0005】
加湿装置7は、加湿ヒータ25と水皿26が組み合わされたものであり、水皿26内の水を加湿ヒータ25で加熱して蒸発させる。
【0006】
湿度センサー13は、湿度を検知可能なものであれば特に限定するものではなく、例えば、乾湿球湿度計等が採用できる。
【0007】
環境試験装置100は、内蔵される空気調和装置15によって、試験室3内に所望の温度・湿度環境を作るものである。
即ち、送風機8を駆動して試験室3内の空気を空気流路10に導入し、必要に応じて、加熱、冷却、加湿、除湿して試験室3内を所望の温度・湿度環境にする。
例えば、外気と同じ環境を開始環境とし、高温・高湿環境を作る場合には、加熱ヒータ6と加湿装置7を駆動して試験室3内を加熱及び加湿する。
逆に低温・低湿環境を作る場合には、冷却・除湿器5を駆動して、試験室3内の温度及び湿度を低下させ、さらに加熱ヒータ6と加湿装置7を駆動して試験室3内の温度及び湿度を微調整する。
【0008】
また、低温・高湿環境を作る場合には、冷却・除湿器5を駆動して、試験室3内の温度を低下させ、さらに加湿装置7を駆動して試験室3内の湿度を上昇させる。
なお低温・高湿環境を作る場合には、温度を微調整するために加熱ヒータ6も運転される。
【0009】
いずれの場合においても、試験室3が所望の環境に至った後は、冷却・除湿器5と、加熱ヒータ6及び加湿装置7を適宜動作させて、前記した所望の環境を維持する。即ち冷却・除湿器5を運転して大きく環境を変化させ、加熱ヒータ6及び加湿装置7を運転して温度及び湿度を微調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平5−60614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
環境試験は、前記した様な環境試験装置100の試験室3に被試験物を配置して実施される。具体的には、環境試験装置100の図示しない入力装置を操作し、作り出したい環境条件を入力する。なお実際には、目標温度と目標湿度とを入力して試験を行うが、説明を容易にするために温度だけを設定することとする。例えば摂氏10度といった様な低温の試験条件を入力し、環境試験装置100を起動させる。
その結果、前記した空気調和装置15が運転を開始し、試験室3内に前記した摂氏10度の環境を人工的に作る。
【0012】
ここで、起動前における試験室3内の環境は、外気の環境(例えば室温の摂氏20度)付近であり、環境試験装置100を起動することによって、試験室3内の温度が目標に向かって変化する。先の例では、目標温度(摂氏10度)が室温(摂氏20度)よりも低いから、空気調和装置15の冷却・除湿器5が運転を開始して試験室3内の温度を低下させる。
より具体的には、圧縮機20をフル回転で回転させると共に、膨張弁22の開度を全開にして蒸発器11に大量の冷媒を送り込み、多くの冷熱を発生させて試験室3内の温度を急激に低下させる。
そして試験室3の温度が目標温度(摂氏10度)に近づくと、膨張弁22の開度を絞ると共に、圧縮機20の回転数を低下させ、蒸発器11に供給される冷媒量を低下させてゆく。
【0013】
試験室3内の温度が目標温度に達した後は、膨張弁22の開度を絞り、且つ圧縮機20の回転数を落とした状態で、冷却・除湿器5を運転する。
即ち、仮に被試験物が発熱しないものであるならば、試験室3内の温度が目標温度に達した後に必要な冷熱は、送風機8が内部の空気を攪拌することによって発生する発熱を抑制するのに必要な冷熱と、外部環境から侵入する熱を抑制するのに必要な冷熱等に限られ、立ち上げ時にくらべて少ない。従って試験室3内の温度が目標温度を維持するために冷却・除湿器5に要求される冷熱は、これらに見合うもので足り、少量である。そのため冷却・除湿器5は、最小能力に近い状態で運転される。即ち出力を絞りきった状態で運転される。
【0014】
しかしながら冷却・除湿器5は、発生冷熱量を変動させることができる領域が狭い。即ち冷却・除湿器5は、膨張弁22の開度を変更可能であり、且つ圧縮機20の回転数を変化させることができる。しかしながら、冷却・除湿器5を安定して運転するためには、膨張弁22の開度及び圧縮機20の回転数に下限がある。即ち冷却・除湿器5は、能力を絞ることができるにしても限界があり、冷却量の制御可能範囲が狭く、小能力の状態では運転しにくい。
そのため従来技術の環境試験装置100では、試験室3内の温度が目標温度に達した後は、冷却・除湿器5を運転可能な最小能力で運転し、加熱ヒータ6で試験室3内の温度を制御する。そのため従来技術の環境試験装置は、一方で冷却し、一方で加熱するという状況が起こり、エネルギーの無駄があり、省エネルギー可能な余地がある。
【0015】
本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、冷却・除湿器5の制御可能領域を広げ、能力の下限を引下げ、試験室3内の環境が安定した後における加熱ヒータ6の運転機会を減少させ、省エネルギーに寄与する環境試験装置の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した課題を解決するため、冷却回路に電磁弁等の開閉弁を設け、蒸発器に対する冷媒導入を断続させる方策を考え、この冷却回路を搭載した環境試験装置を試作した。開閉弁の制御方法は、公知のオンオフ制御を採用した。
この方策によると、冷却量の制御可能範囲が広く、冷却・除湿器の能力の下限を引下げることができた。即ち、発生する冷熱量が少ない状態であっても、冷却・除湿器を安定して運転することができた。
しかしながら、この方策によると、試験室3内の温度が安定しないという新たな問題が発生した。即ち環境試験装置は、試験室3の温度変化を一定の範囲内に収められることが重要な性能の一つである。
環境試験装置に構造が似たものとして、業務用冷蔵庫があるが、試験室3の温度変化を一定の範囲内に収めるという要求は、業務用冷蔵庫には無い。即ち業務用冷蔵庫は、冷凍食品を一定温度以下に保つことができるか否かが要求品質の柱であり、室温を例えば摂氏マイナス30度以下の状態を保つことが出来さえすれば、温度の変動は問わない。業務用冷蔵庫は例えば、摂氏マイナス50度から摂氏マイナス40度の範囲で、室温が変動しても差し支えない。
これに対して環境試験装置は、許容される温度変化の幅が極めて小さく、例えば設定温度に対してプラスマイナス0.3度という様な、極めて狭い範囲の温度変動しか許されない。
ここで前記した様な、蒸発器に対する冷媒導入を断続させる方策によると、図7の様に、試験室3内の温度が刻々変動してしまう。
即ち、電磁弁が開くと、蒸発器に冷媒が導入され、蒸発器の表面温度が急激に低下して、試験室3内の温度が低下傾向となる。
【0017】
前記した従来技術における問題点、及び新たに発生した問題点を解決することができる請求項1に記載の発明は、被試験物を配置する試験室と、冷却手段とを有し、前記冷却手段は、圧縮機と、凝縮器と、膨張手段と、蒸発器を有してこれらが環状に配管されて成る少なくとも1系統の冷却回路を有し、冷却回路の内部に相変化する冷媒を循環させて冷凍サイクルを実現し、蒸発器が発する冷熱を利用して試験室内に目標の試験環境を作り出す環境試験装置において、前記冷却回路には蒸発器に流れる冷媒の流れを断続する開閉弁と、蒸発器を迂回するバイパス流路が設けられ、前記開閉弁を開閉して試験室内の環境を所望の環境に一致させるものであり、前記開閉弁は一定時間間隔のなかで所定時間開状態となるものであり、目標の試験環境に至るのに必要な冷熱量及び/又は目標の試験環境を維持するのに必要な冷熱量を演算し、当該演算値に見合う様に開閉弁が開く時間が制御されることを特徴とする環境試験装置である。
【0018】
本発明で採用する冷却手段は、蒸発器に流れる冷媒の流れを断続する開閉弁を持ち、開閉弁を開閉して試験室内の環境を所望の環境に一致させるものである。そのため発生させる冷熱量が小さい状況においても、安定して運転することができる。
また本発明では、開閉弁は一定時間間隔のなかで所定時間開状態となる様に制御される。この開閉弁の制御方法は、単なるオンオフ制御とは異なり、時間比例制御またはこれに類似する制御方法であると言える。
また本発明の環境試験装置では、目標の試験環境に至るのに必要な冷熱量及び/又は目標の試験環境を維持するのに必要な冷熱量が演算され、この演算値に見合う様に開閉弁が開く時間が制御される。そのため単なる比例制御による場合に比べて、試験室の環境をより安定させることができる。
即ち公知の比例制御は、単に現状の環境と目標環境の偏差に応じて出力を増減するものである。これに対して、本発明では、必要な冷熱量を演算し、この演算値に見合う様に出力調整がなされるので、試験室の環境をより安定させることができる。
【0019】
請求項2に記載の発明は、ヒータを備えた加湿手段を有し、試験室内の現在の温度及び湿度と、加湿手段を運転する際のヒータの発熱を加味した上で前記目標の試験環境に至るのに必要な冷熱量及び/又は目標の試験環境を維持するのに必要な冷熱量を演算することを特徴とする請求項1に記載の環境試験装置である。
【0020】
本発明の環境試験装置は、加湿手段を備えていることを前提としている。ここでヒータを備えた加湿手段は、水をヒータで加熱して気化させるものであるから、加湿を行う際に熱を発生させる。
そこで本発明では、試験室内の現在の温度及び湿度だけでなく、加湿手段を運転する際のヒータの発熱を加味した上で目標の試験環境を維持するのに必要な冷熱量を演算し、当該演算値に見合う様に開閉弁が開く時間を増減することとした。
【0021】
請求項3に記載の発明は、前記冷却回路を構成する蒸発器は、ステンレススチール製の裸管であることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境試験装置である。
【0022】
本発明で採用する蒸発器は、ステンレススチールで作られている。ここでステンレススチールは、銅に比べて熱伝導率が低い。そのため開閉弁を開いた際に、冷媒の冷熱が蒸発器の表面に伝わりにくく、蒸発器表面の温度低下が緩やかである。一方ステンレススチールは、銅に比べて熱容量が大きいので、開閉弁を閉じた際の蒸発器表面の温度上昇が緩やかである。即ちステンレススチールで作られた蒸発器を採用することによって、開閉弁を開閉した際の、表面温度の変化を小さくすることができる。
ところで前記した請求項1又は2に記載の発明によると、試験が行われている間は、原則的に冷却・除湿器を連続運転させるから、蒸発器を除霜運転することができず、蒸発器の表面の霜が過大に成長してしまうという問題がある。
この問題に対し、本発明で採用する蒸発器は、裸管であってフィンを持たないので、結露した水が溜まりにくく、霜の成長が遅い。
【0023】
請求項4に記載の発明は、開閉弁は、時間比例制御されて開閉されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0024】
ここで時間比例制御とは、一定時間を一つのサイクルタイムとし、このサイクルタイム内で開閉弁が開く時間と閉じる時間を決め、前記サイクルを繰り返す。
本発明では、開閉弁を時間比例制御して開閉するので、単なるオンオフ制御に比べて試験室の温度変動が小さい。
【0025】
請求項5に記載の発明は、目標の環境が、昇温且つ除湿すべき環境である場合には、次のいずれかの動作又は補正が行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の環境試験装置である。
(1)単位時間あたりの開閉弁が開く時間を短縮する。
(2)開閉弁を閉止し続ける。
(3)圧縮機を停止する。
【0026】
試験室の温度が上昇すると、試験室の相対湿度が低下するから、試験室は実質的に除湿された状態となる。
そのため目標の環境が昇温且つ除湿すべき環境である場合には、実質的に必要な冷熱量が少ない。そこで請求項5に記載の発明では、発生する冷熱が減少する様に動作又は補正することとした。
【0027】
請求項6に記載の発明は、目標の環境が、冷却且つ加湿すべき環境である場合には、次のいずれかの動作又は補正が行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の環境試験装置である。
(1)単位時間あたりの開閉弁が開く時間を延長する。
(2)開閉弁を開き続ける。
【0028】
請求項5の場合とは逆に、目標の環境が、冷却且つ加湿すべき環境である場合には、実質的に必要な冷熱量が増加する。そのため請求項6に記載の発明では、発生する冷熱が増加する様に動作又は補正することとした。
【0029】
請求項7に記載の発明は、冷却手段は、2系統以上の冷却回路を有し、その内の1系統以上の冷却回路が前記開閉弁と前記バイパス流路を備えた冷却回路であり且つ膨張手段は開度の変更が不能であり、他の1系統以上の冷却回路は膨張手段の開度の変更が可能であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0030】
本発明の環境試験装置では、開度の変更が可能な膨張手段を備えていて膨張手段の開度を調節して冷却量を調整する冷却回路と、開閉弁を開閉することによって冷却量を調整する冷却回路を有している。そのため、本発明の環境試験装置、冷却量の制御可能範囲が広い。
【0031】
請求項8に記載の発明は、冷却手段は、2系統以上の冷却回路を有し、2系統以上の冷却回路の凝縮器はいずれも空冷式であって同一の送風機によって冷却されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0032】
本発明の環境試験装置は、一つの送風機で複数の凝縮器を冷却することができるから、部品点数が少ない。
【0033】
請求項9に記載の発明は、バイパス流路を流れて圧縮機に戻る冷媒と、圧縮機から吐出される高温の冷媒との間で熱交換する熱交換器を備えたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の環境試験装置である。
【0034】
本発明によると、圧縮機への液戻りを防止することができる。即ちバイパス流路を流れて圧縮機に戻る冷媒は、蒸発器を迂回したものであるから、気化が十分ではなく、液体を含んでいる。本発明では、バイパス流路を流れて圧縮機に戻る冷媒が熱交換器で加熱されるので、冷媒の気化が進み、圧縮機に液戻りしない。また圧縮機から吐出された高温の冷媒が、熱交換器で冷却されるので、凝縮負荷が減少し、凝縮用送風機の消費電力を減少させることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の環境試験装置が採用する冷却手段は、冷却量の制御可能範囲が広く、特に小能力状態においても安定した運転が期待できる。そのため加熱ヒータによる温度補正量を減少させることができ、省エネルギーに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態の環境試験装置の構成図である。
【図2】図1の環境試験装置の制御装置のブロック図である。
【図3】単位時間間隔あたりの電磁弁を開く時間と冷熱量の関係を示すグラフである。
【図4】図1の環境試験装置の動作を概念的に表現したタイムチャートであり、電磁弁の開閉と、蒸発器の表面温度の変化、及び試験室の温度変化を示す。
【図5】図1の環境試験装置の動作範囲を示すグラフである。
【図6】従来技術の環境試験装置の構成図である。
【図7】従来技術の環境試験装置の動作を概念的に表現したタイムチャートであり、電磁弁の開閉と、蒸発器の表面温度の変化、及び試験室の温度変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。なお従来技術の環境試験装置100と同一の部材については、同一の番号を付して重複した説明を省略する。
本発明の実施形態の環境試験装置1の機械的構成は、冷却手段50の構造を除いて従来技術の環境試験装置100と同一である。
即ち環境試験装置1は図1の様に、試験室3、冷却手段50、加熱ヒータ6、加湿装置7及び送風機8を備えている。試験室3は、断熱材2によって覆われた空間である。そして試験室3と連通する空気流路10があり、当該空気流路10に前記した冷却手段50の2基の蒸発器59,69と、加熱ヒータ6、加湿装置7及び送風機8が設けられている。加湿装置7は、加湿ヒータ25と水皿26が組み合わされたものであり、水皿26内の水を加湿ヒータ25で加熱して蒸発させる。
また、空気流路10の出口側に、温度センサー12と湿度センサー13が設けられている。環境試験装置1では、前記した空気流路10内の部材と、温度センサー12及び湿度センサー13によって空気調和装置15が構成されている。
【0038】
冷却手段50は、本実施形態の特徴的構成であり、詳細に説明する。本実施形態で採用する冷却手段50は、2系統の冷却回路51,52を有している。説明の便宜上、冷却回路51を負荷用冷却回路51と称し、冷却回路52を制御用冷却回路52と称する。
負荷用冷却回路51は、大容量の冷却・除湿器であり、負荷側圧縮機55と、負荷側熱交換器56と、負荷側凝縮器57と、負荷側膨張手段58と、負荷側蒸発器59を有している。
負荷側熱交換器56は、一次側流路60と二次側流路61を有している。
負荷側膨張手段58は、例えば電子膨張弁であり、開度を変化させることができる。
負荷側蒸発器59は、銅又は銅合金の様な熱伝導性に優れた素材で作られている。また外部との接触面積を増大させるために、フィン31が設けられている。即ち負荷側蒸発器59は、銅管で形成された流路を有し、且つフィン31が設けられている。
【0039】
負荷用冷却回路51では、前記した各部材が環状に配管接続され、その中に相変化する冷媒が充填されている。
即ち負荷用冷却回路51は、負荷側圧縮機55の吐出側と、負荷側熱交換器56の一次側流路60と、負荷側凝縮器57と、負荷側膨張手段58と、負荷側蒸発器59と、負荷側熱交換器56の二次側流路61がこの順に接続され、負荷側圧縮機55の吸い込み側に戻る環状回路である。
【0040】
また負荷用冷却回路51の負荷側凝縮器57と負荷側膨張手段58の間が分岐され、負荷側蒸発器59と負荷側熱交換器56の二次側流路61の間に至るバイパス流路62が設けられている。バイパス流路62は、負荷側膨張手段58及び負荷側蒸発器59を迂回する流路である。
本実施形態では、バイパス流路62に電磁弁63と、キャピラリーチューブ64が設けられている。電磁弁63は、開閉弁として機能し、キャピラリーチューブ64は、流量を絞る部材として機能する。
【0041】
負荷用冷却回路51は内部に相変化する冷媒を循環させて冷凍サイクルを実現し、負荷側蒸発器59内で、冷媒を膨張させ、負荷側蒸発器59の表面温度を低下させて環境から熱を奪う。
【0042】
次に制御用冷却回路52について説明する。制御用冷却回路52は、前記した負荷用冷却回路51に比べて容量の小さい冷却・除湿器であり、制御側圧縮機65と、制御側熱交換器66と、制御側凝縮器67と、電磁弁73と、制御側膨張手段68と、制御側蒸発器69を有している。
制御側熱交換器66は、一次側流路70と二次側流路71を有している。
電磁弁73は、開閉弁として機能する。制御側膨張手段68は、例えばキャピラリーチューブであり、開度を変化させることができない。
制御側蒸発器69は、ステンレススチールの裸管76で作られている。即ち制御側蒸発器69は、ステンレススチールの単なる管であり、フィンは無い。
【0043】
制御用冷却回路52は、前記した部材が、環状に配管接続され、その中に相変化する冷媒が充填されている。
即ち制御用冷却回路52は、制御側圧縮機65の吐出側と、制御側熱交換器66の一次側流路70と、制御側凝縮器67と、電磁弁73と、制御側膨張手段68と、制御側蒸発器69と、制御側熱交換器66の二次側流路71がこの順に接続され、制御側圧縮機65の吸い込み側に戻る環状回路である。
【0044】
また制御用冷却回路52の制御側凝縮器67と電磁弁73の間が分岐され、制御側蒸発器69と制御側熱交換器66の二次側流路71の間に至るバイパス流路72が設けられている。バイパス流路72は、電磁弁73、制御側膨張手段(キャピラリーチューブ)68及び制御側蒸発器69の三者を迂回する流路である。
本実施形態では、バイパス流路72にもキャピラリーチューブ74が設けられている。キャピラリーチューブ74は、流量を絞る部材として機能する。
【0045】
制御用冷却回路52は内部に相変化する冷媒を循環させて冷凍サイクルを形成し、制御側蒸発器69内で、冷媒を膨張させ、制御側蒸発器69の表面温度を低下させて環境から熱を奪う。
【0046】
また本実施形態では、負荷用冷却回路51の負荷側凝縮器57と、制御用冷却回路52の制御側凝縮器67は、共に空冷式であり、図1の様に重ねて配置されている。そしてその近傍に一台の凝縮用送風機75が配置されており、一台の凝縮用送風機75によって二基の凝縮器57,67が冷却される。本実施形態では、前記した凝縮用送風機75は、インバータ制御されており、凝縮量に応じて送風量を変化させることができる。
【0047】
本実施形態では、図2の様に、温度センサー12が検知する試験室3内の温度に関する信号と、湿度センサー13が検知する試験室3内の湿度に関する信号が、制御装置80に入力される。また目標環境入力装置81によって、目標の環境が入力される。具体的には、試験環境の温度と湿度が目標環境入力装置81から制御装置80に入力される。
【0048】
また制御装置80から発せられる信号によって、試験室3の温度と湿度が制御される。具体的には、図2の様に、加熱ヒータ6及び加湿ヒータ25を動作させる信号が、制御装置80から発信される。
また冷却手段50の負荷用冷却回路51と制御用冷却回路52が制御装置80によって制御される。
【0049】
具体的には、制御装置80から、負荷側圧縮機55と、負荷側膨張手段58及び電磁弁63を動作させる信号が発信される。ここで本実施形態では、負荷側圧縮機55は回転数を制御する手段(例えばインバータ)を持たず、単に起動・停止を行うだけである。従って、制御装置80から、負荷側圧縮機55を起動・停止する信号が発信される。
一方、負荷側膨張手段58は、電子式膨張弁であるから、開度を任意に変更することができる。本実施形態では、開度を調整する信号が、制御装置80から負荷側膨張手段58側に発信される。
また電磁弁63を開閉する信号が、制御装置80から発信される。
【0050】
同様に、制御用冷却回路52の制御側圧縮機65と、電磁弁73を動作させる信号が制御装置80から発信される。ここで本実施形態では、制御側圧縮機65は回転数を制御する手段(例えばインバータ)を持たず、単に起動・停止を行うだけである。従って、制御装置80から、制御側圧縮機65を起動・停止する信号が発信される。
【0051】
また制御装置80からは、凝縮用送風機75の回転数を制御する信号が発信される。
【0052】
本実施形態の環境試験装置1では、前記した様に制御装置80から発信される信号によって、負荷側圧縮機55と、負荷側膨張手段58及び電磁弁63を動作させる信号が発信され、負荷側圧縮機55の起動・停止と、負荷側膨張手段58の開度調整と、電磁弁63の開閉が行われる。
【0053】
負荷側圧縮機55が起動されると、負荷用冷却回路51内に充填された気体状の冷媒が圧縮されて高温の気体となり、負荷側熱交換器56の一次側流路60を経て負荷側凝縮器57に入る。ここで負荷側凝縮器57内で気体状の冷媒が凝縮用送風機75の送風によって冷却されて液化し、負荷側膨張手段58に至る。そして負荷側膨張手段58を出て負荷側蒸発器59内で気化し、負荷側蒸発器59の表面温度を低下させる。
気化した冷媒は、負荷側熱交換器56の二次側流路61を経て負荷側圧縮機55に戻る。ここで、負荷側蒸発器59内で気化しきれなかった冷媒は、負荷側熱交換器56で、一次側を流れる高温の気体から熱供給を受けて気化する。
【0054】
また制御装置80からの信号によって、負荷側膨張手段58の開度が調節され、負荷側蒸発器59に入る冷媒量が制御される。即ち負荷側膨張手段58の開度を開くと、大量の冷媒が負荷側蒸発器59に流れ込み、大きな冷熱を発生させる。逆に、負荷側膨張手段58の開度を絞ると、負荷側蒸発器59に供給される冷媒量が減少し、冷熱が減じる。
【0055】
本実施気形態では、負荷側膨張手段58の開度が一定以上閉じられると、制御装置80から電磁弁63を開く信号が発せられてバイパス流路62が開かれる。その結果、冷媒が負荷側蒸発器59を迂回して負荷側圧縮機55に戻り、負荷側圧縮機55に過度の負荷が掛かることが防止される。
またバイパス流路62を流れる冷媒は、液状のものを含むが、負荷側圧縮機55に戻る際に負荷側熱交換器56を通過し、負荷側熱交換器56の一次側を流れる高温の気体から熱供給を受けて気化する。そのため負荷側圧縮機55に液戻り現象が発生することはない。
【0056】
次に制御用冷却回路52の動作について説明する。前記した様に、本実施形態の環境試験装置1では、制御装置80から、制御側圧縮機65と、電磁弁73を動作させる信号が発信され、制御側圧縮機65の起動・停止と、電磁弁73の開閉が行われる。
【0057】
制御側圧縮機65が起動されると、制御用冷却回路52内に充填された気体状の冷媒が圧縮されて高温の気体となり、制御側熱交換器66の一次側流路70を経て制御側凝縮器67に入る。制御側凝縮器67では気体状の冷媒が凝縮用送風機75の送風によって冷却されて液化し、電磁弁73を経て制御側膨張手段68に至る。そして冷媒は、制御側膨張手段68を出て制御側蒸発器69内で気化し、制御側蒸発器69の表面温度を低下させる。
気化した冷媒は、制御側熱交換器66の二次側流路71を経て制御側圧縮機65に戻る。ここで、制御側蒸発器69内で気化しきれなかった冷媒は、制御側熱交換器66で、一次側を流れる高温の気体から熱供給を受けて気化する。
【0058】
また制御装置80からの信号によって、電磁弁73が閉じられると、制御側蒸発器69に入る冷媒が遮断される。即ち電磁弁73が開かれていれば、大半の冷媒が制御側蒸発器69に流れ込み、冷熱を発生する。逆に、電磁弁73が閉じられると、制御側蒸発器69に供給される冷媒が遮断され、冷熱の発生が停止する。
【0059】
なお電磁弁73が閉じられると、冷媒は制御側蒸発器69を迂回してバイパス流路72に流れる。その結果、冷媒は制御側圧縮機65に戻り、制御側圧縮機65に過度の負荷が掛かることが防止される。
またバイパス流路72を流れる冷媒は、液状のものを含むが、制御側圧縮機65に戻る際に制御側熱交換器66を通過し、制御側熱交換器66の一次側を流れる高温の気体から熱供給を受けて気化する。そのため制御側圧縮機65に液戻り現象が発生することはない。
【0060】
また本発明に特有の構成として、制御装置80に、冷熱量演算手段が設けられている。冷熱量演算手段は、実際にはソフトウェアによって構成されている。
冷熱量演算手段は、温度センサー12から入力される試験室3の現状温度と、湿度センサー13から入力される試験室3内の現状湿度と、目標環境入力装置81から入力される目標温度及び目標湿度から、目標環境に達するために必要な冷熱量又は目標環境を維持するために必要な冷熱量を演算するソフトウェアである。
ここで特記すべき事項は、本実施形態では、加湿ヒータ25が発する熱を相殺するのに必要な冷熱についても、原則として「必要な冷熱量」に加算される。
即ち試験室3内を加湿するためには、加湿装置7を駆動させなければならないが、加湿装置7は、前記した様に、加湿ヒータ25によって水を加熱するものである。そのため加湿装置7を駆動すると、試験室3内の温度を上昇させてしまうから、この昇温を相殺するために冷却手段50を動作させる必要が生じる。
本実施形態で採用する制御装置80は、現状の試験室3内の温度を目標の温度に低下させるのに必要な冷熱に加え、加湿ヒータ25が発生するであろう熱をも「必要な冷熱量」として演算する。
【0061】
次に、冷却手段50の持つ負荷用冷却回路51と制御用冷却回路52の役割分担について説明する。
本実施形態では、制御用冷却回路52を優先して使用し、不足する冷熱を負荷用冷却回路51で補う。
実際の動作状況に沿って説明すると、試験室3の環境を常温・常湿の状態から、低温の目標環境に至らせるまでの間は負荷用冷却回路51と制御用冷却回路52が共に運転され、目標環境に至って定常状態となると、負荷用冷却回路51が停止して制御用冷却回路52だけで試験室3の環境調整が行われる。簡単に説明すると、低温の試験環境の立ち上げ時には負荷用冷却回路51と制御用冷却回路52が共に使用され、環境が定常化した後は制御用冷却回路52だけで試験室3の環境調整が行われる。
【0062】
即ち前記した様に、制御用冷却回路52の冷却能力(容量)は、負荷用冷却回路51よりも小さく、両者の間には、1対2から1対6程度の能力差がある。
例えば、両者の冷却能力比を1対4であると仮定すると、冷却手段50の全能力を100パーセントとして、20パーセントまでの要求冷熱量である場合には、制御用冷却回路52だけが運転され、それ以上の冷熱が必要な場合には、負荷用冷却回路51と制御用冷却回路52の双方が運転される。
【0063】
そのため、前記した様に、環境試験装置1の立ち上げ時には、負荷用冷却回路51と制御用冷却回路52の双方が使用され、試験室3内の環境が安定すると、制御用冷却回路52だけが使用されることとなる。
【0064】
また前記した様に、制御用冷却回路52の冷却能力は、負荷用冷却回路51よりも小さいので、制御用冷却回路52は冷却出力が小さい状態でも安定して運転することができる。
加えて、本実施形態では、制御用冷却回路52は、電磁弁73を開閉することによって発生する冷熱量が調整されるが、電磁弁73の時間比例制御又はこれに類似した制御方式によって制御される。
即ち本実施形態では、前記した様に、制御装置80が冷熱量演算手段を備えている。冷熱量演算は、前記した様に現状環境と、目標環境から、必要な冷熱量を演算するものであるが、試験室3内の環境が立ち上げ時を過ぎ、安定状態に至ると、必要な冷熱量は、略一定値に落ちつく。即ち被試験物が自己発熱しないものであるならば、試験室3内が目標環境に至った後に必要な冷熱は、試験室3内の送風機8から発生する熱を相殺するのに必要な冷熱と、試験室3の断熱材2を経て外に伝導される冷熱等に限られ、定常化する。そのため、この必要量に見合う様に、一定時間あたりの電磁弁73の開時間を演算し、この時間だけ電磁弁73を開いて冷媒を制御側蒸発器69に導入すると、試験室3内の環境は極めて安定する。
【0065】
例えば、5秒から10秒を一つのサイクルタイムとして、この間の電磁弁73が開くべき時間を演算で求める。仮に、1サイクルを10秒とし、制御用冷却回路52の冷却能力の20パーセントの冷熱が必要であるならば、それに見合う時間だけ電磁弁73を開き、残りの時間は電磁弁73を閉じる。そしてこの動作を5秒から10秒間隔で繰り返す。その結果、全体として20パーセントの出力が得られる。
【0066】
なお付言すると、発生する冷熱量と、電磁弁73を開く時間とは必ずしも比例しない。先の例で説明すると、1サイクルを10秒とし、電磁弁73を2秒間だけ開く動作を繰り返すと、計算上、制御側膨張手段68の開度は20パーセントとなるが、発生する冷熱量は20パーセントになるとは限らない。
即ち図3の様に、電磁弁73を開く時間(開度 単位時間あたりの時間)と発生する冷熱量との間は、正の相関関係があるものの、正比例関係にはならない。そのため電磁弁73を開く時間はさらに演算やデータを加味して決定することが望ましい。
例えば、開く時間と、冷熱量との関係を予め実験し、このデータを記憶したり、何らかの近似式を使用する方法が考えられる。また開く時間と冷熱量の関係を対数関数を活用して対数グラフ化して直線化し、このデータに基づいて電磁弁73が開く時間を設定してもよい。
【0067】
また本実施形態では、制御側蒸発器69は、ステンレススチールで作られている。ここでステンレススチールは、従来採用されていた銅に比べて熱伝導率が低い。そのため電磁弁73を開いた際に、冷媒の冷熱が制御側蒸発器69の表面に伝わりにくく、制御側蒸発器69の温度低下が緩やかである。
即ち図4の様に、電磁弁73を開いても、制御側蒸発器69の表面の温度降下カーブは図7に示す従来例に比べて緩やかである。従って図4の様に、試験室3の温度低下カーブも緩やかなものとなる
【0068】
またステンレススチールは、銅に比べて熱容量が大きいので、電磁弁73を閉じた際の制御側蒸発器69の表面の温度上昇が、図7に示す従来例に比べて、図4の様に緩やかとなる。そのため試験室3の温度上昇カーブも緩やかなものとなる
【0069】
また本実施形態では、前記した様に、制御用冷却回路52を優先して使用し、不足する冷熱を負荷用冷却回路51で補う。そのため、実質的に制御用冷却回路52は休みなく運転されることとなり、除霜を行うことができない。この対策として本実施形態では、制御側蒸発器69に裸管76を採用している。そのため運転時に発生した結露が制御側蒸発器69に溜まりにくく、霜の過度の成長が抑制される。
【0070】
本実施形態の環境試験装置1では、前記した様に制御装置80が必要な冷熱量を演算し、その際に、加湿ヒータ25が発する熱を相殺するのに必要な冷熱についても、原則として必要な冷熱量に加算される。
しかし、運転状況によっては、加湿ヒータ25が発する熱を考慮することが不要であったり、むしろ悪影響を及ぼす場合がある。
以下、この点について説明する。
図5に示すように、試験開始前の環境(温度及び湿度)を原点とし、X軸に温度をとり、Y軸に湿度をとったグラフを想定し、グラフ上のいずれかの位置を目標環境であると仮定すると、目標環境が第1象限Aにある場合は、加熱と加湿が必要な状況を表している。また目標環境が第2象限Bにある場合は、冷却と加湿が必要な状況を表している。同様に、第3象限Cにある場合は、冷却と除湿が必要な状況を表し、目標環境が第4象限Dにある場合は、加熱と除湿が必要な状況を表している。
【0071】
ここで、温度と湿度(相対湿度)との関係をみたとき、空気中の水蒸気の絶対量が同じであるならば、環境温度が上昇すると湿度(相対湿度)は低下する。そのため加熱と除湿は、補完関係にあり、環境温度を上昇させると、必然的に湿度が下がる。従って、現在の環境の湿度が目標湿度よりも高い場合は、加湿ヒータ25が発する熱を相殺するには及ばない。
従って、前記した必要冷熱量の演算に補正を加えることが推奨される。
実際の現象としては、次の様な動作が実行される。
(1)単位時間あたりの電磁弁73が開く時間を短縮する
(2)電磁弁73を閉止し続ける。
(3)制御側圧縮機65を停止する。
【0072】
冷却と除湿が必要な状況においては先と逆の補正や動作を行うことが推奨される。
図5のグラフに基づいて説明すると、目標の環境が第2象限Bにある場合と、第4象限Dにある場合には、先の補正や動作とは逆の補正等を行うことが推奨される。特に、第2象限B及び第4象限Dに表示した曲線よりも外側に目標の環境がある場合には、先の補正や動作とは逆の補正や動作を行わしめることが推奨される。
【0073】
即ち第2象限B及び第4象限Dに表示した曲線よりも外側に目標の環境がある場合には、次のいずれかの動作又は補正が行われることが推奨される。
(1)単位時間あたりの電磁弁73が開く時間を延長する。
(2)電磁弁73を開き続ける。
【0074】
以上説明した実施形態では、電磁弁73の時間比例制御又はこれに類似した制御方式によって制御したが、もちろんこれに加えて、微分制御と積分制御を実施することが望ましい。即ち電磁弁73は、時間比例制御を実施するP.I.D制御を行うことが望ましい。 また上記した実施形態では、制御装置80に冷熱量演算手段を持たせ、必要な冷熱量に応じて電磁弁73を時間比例させたが、単に、現状の温度と、目標温度との偏差に基づいて時間比例制御やP.I.D制御を行うものであってもよい。
制御用冷却回路52では、電磁弁73を制御側膨張手段(キャピラリーチューブ)68の上流側に設置したが、制御側膨張手段(キャピラリーチューブ)68の下流側や、制御側蒸発器69の下流側に設けてもよい。
【0075】
本実施形態の環境試験装置1が採用する冷却手段50は、冷却量の制御可能範囲が広く、小能力の状態であっても安定して運転できるので、試験室3内の環境が安定した後に必要とされる量だけの冷熱を発生させることができる。即ち必要な冷熱を過不足なく発生させることができる。そのため、従来技術の欄で説明した様な、加熱ヒータ6を起動して過剰な冷熱を加熱ヒータ6の発熱で相殺する機会は減少する。しかしながら、本発明は、試験室3内の環境が安定した後に加熱用のヒータを使用することを禁止するものではなく、必要に応じて加熱用ヒータを使用するべきである。
【0076】
即ち加熱ヒータ6を使用する理由は、単に余剰の冷熱を相殺するというだけではなく他の理由によっても必要である。
加熱ヒータ6を使用するもう一つの理由として、冷却手段50は、温度変化に対する追従性が低く、且つ発生する冷熱量を微調整することが困難であるという点が挙げられる。即ち冷却手段50は、冷媒を加圧し、凝縮し、膨張させて冷熱を発生させるものであり、冷媒の圧力変化や保有熱量の変化によって冷熱を生じさせるものであるから、モータの回転数変化や、膨張弁の開度を変化させても、直ちに冷熱量が変わるものではなく、相当の遅れが生じる。また同様の理由から、発生する冷熱量を微調整することが困難である。
これに対して加熱ヒータ6は、通電によるジュール熱によって発熱するから、反応が早く、且つ発熱量の微調整が容易である。本発明は、この観点からも加熱用のヒータを使用することを禁止するものではない。
【符号の説明】
【0077】
1 環境試験装置
3 試験室
6 加熱ヒータ(加熱手段)
7 加湿装置(加湿手段)
25 加湿ヒータ
50 冷却手段
51 負荷用冷却回路
52 制御用冷却回路
55 負荷側圧縮機
56 負荷側熱交換器
57 負荷側凝縮器
58 負荷側膨張手段
59 負荷側蒸発器
62 バイパス流路
64 キャピラリーチューブ
65 制御側圧縮機
66 制御側熱交換器
67 制御側凝縮器
68 制御側膨張手段
69 制御側蒸発器
72 バイパス流路
73 電磁弁
75 凝縮用送風機
76 裸管
80 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物を配置する試験室と、冷却手段とを有し、前記冷却手段は、圧縮機と、凝縮器と、膨張手段と、蒸発器を有してこれらが環状に配管されて成る少なくとも1系統の冷却回路を有し、冷却回路の内部に相変化する冷媒を循環させて冷凍サイクルを実現し、蒸発器が発する冷熱を利用して試験室内に目標の試験環境を作り出す環境試験装置において、 前記冷却回路には蒸発器に流れる冷媒の流れを断続する開閉弁と、蒸発器を迂回するバイパス流路が設けられ、前記開閉弁を開閉して試験室内の環境を所望の環境に一致させるものであり、
前記開閉弁は一定時間間隔のなかで所定時間開状態となるものであり、目標の試験環境に至るのに必要な冷熱量及び/又は目標の試験環境を維持するのに必要な冷熱量を演算し、当該演算値に見合う様に開閉弁が開く時間が制御されることを特徴とする環境試験装置。
【請求項2】
ヒータを備えた加湿手段を有し、試験室内の現在の温度及び湿度と、加湿手段を運転する際のヒータの発熱を加味した上で前記目標の試験環境に至るのに必要な冷熱量及び/又は目標の試験環境を維持するのに必要な冷熱量を演算することを特徴とする請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項3】
前記冷却回路を構成する蒸発器は、ステンレススチール製の裸管であることを特徴とする請求項1又は2に記載の環境試験装置。
【請求項4】
開閉弁は、時間比例制御されて開閉されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項5】
目標の環境が、昇温且つ除湿すべき環境である場合には、次のいずれかの動作又は補正が行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の環境試験装置。
(1)単位時間あたりの開閉弁が開く時間を短縮する。
(2)開閉弁を閉止し続ける。
(3)圧縮機を停止する。
【請求項6】
目標の環境が、冷却且つ加湿すべき環境である場合には、次のいずれかの動作又は補正が行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の環境試験装置。
(1)単位時間あたりの開閉弁が開く時間を延長する。
(2)開閉弁を開き続ける。
【請求項7】
冷却手段は、2系統以上の冷却回路を有し、その内の1系統以上の冷却回路が前記開閉弁と前記バイパス流路を備えた冷却回路であり且つ膨張手段は開度の変更が不能であり、他の1系統以上の冷却回路は膨張手段の開度の変更が可能であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項8】
冷却手段は、2系統以上の冷却回路を有し、2系統以上の冷却回路の凝縮器はいずれも空冷式であって同一の送風機によって冷却されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の環境試験装置。
【請求項9】
バイパス流路を流れて圧縮機に戻る冷媒と、圧縮機から吐出される高温の冷媒との間で熱交換する熱交換器を備えたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−73502(P2013−73502A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213349(P2011−213349)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】