説明

環境調節システム、環境調節方法、環境調節プログラム

【課題】人間の潜在意識が反映される脳の活動状態に鑑みて、この人間が五感を通じて知覚可能な適切な環境要素を決定することができるシステム等を提供する。
【解決手段】第1装置21に入力される環境ベクトルが調節されることにより、第1装置21から出力される、被験者Pが五感を通じて知覚可能な環境要素が調節される。この環境要素を知覚した被験者(人間)Pの脳活動状態を表す複数の状態ベクトルが脳計測装置22を用いて測定される。さらに、測定された状態ベクトルの目標状態ベクトルを基準とした適合度が評価される。そして、今回までの適合度の評価結果のうち一部または全部に基づき、第1装置21に次回入力される目標環境ベクトルが調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間がその五感を通じて知覚可能な環境要素を調節または制御するシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
製品のデザインを性能という観点から最適化するために、進化的アルゴリズムを使ったデザイン最適化という研究分野が注目を浴び、多くの成果が出てきている(非特許文献1および2参照)。
【0003】
たとえば、航空機の翼形状をインシデントタフネスに優れた形状にするために、進化的アルゴリズムと流体ソルバーを併用して、流体ソルバーでデザインの良し悪しを数値的に評価し、その評価値(適合度という。)に基づいて進化的アルゴリズムの中でデザインを進化させる方法などがある(特許文献1参照)。
【0004】
また、複数の目的を同時に最適化する多目的最適化という研究分野も注目を集めており、複数の目的を持った製品のデザインを最適化するという成果も数多く報告されている(非特許文献3参照)。たとえば、マイクロ熱交換器の熱交換率最大化および圧力損失最小化を、進化的アルゴリズム、流体ソルバー、熱ソルバーなどを併用して同時に最適化した方法などがある(非特許文献4参照)。
【0005】
前述のデザイン最適化の場合、適合度の計算には流体ソルバー、構造ソルバー、電磁場ソルバーなどが使われる場合が多い。また、適合度計算があまりに複雑でソルバーなどを使ってコンピュータ上で計算できないような場合にも、実験と進化的アルゴリズムを結合させた実験最適化という研究分野も昔から行われている(非特許文献5参照)。この技術によれば、流体ソルバーが今ほど高性能に現象を予測できなかった頃に、自由に形状が変わる空気管を使った実験と進化的アルゴリズムを結合して、空気管の形状最適化に成功している。
【0006】
前述のようにデザインを性能という観点から最適化するという研究は多くなされてきているが、感性という観点から最適化した研究は皆無に等しい。これは、人間の感性をソルバーで予測することや、実験最適化のように実験をしても人間の感性を数値化することが困難であることが主な理由である。
【0007】
このように、感性が数値化できないために最適化問題として扱えないという問題に対して、最近では対話型進化計算という手法が注目を浴びてきている(非特許文献6参照)。これは、生物の進化に基づいた進化的アルゴリズムを用いて、デザイン最適化をすることが基本となっている点では、前述のデザイン最適化や実験最適化と同じである。しかし、前述のように感性をソルバーで予測することや、実験で感性を数値化するのは困難であるために、この対話型進化計算では人間の感性をキーボードやマウスなどの装置を使って、擬似的に取り出す。この場合、人間の潜在意識を正確に計算へ反映させることはできない。
【0008】
また、最近では第2装置の性能向上や信号処理技術の向上に伴って、感性を数値化するということも可能となってきている。心の中の状態を物理的計測手段により観測し、それを客観的に理解する技術が提案されている(非特許文献7参照)。
【特許文献1】特開2002−70504号公報
【非特許文献1】Kalyanmoy Deb, Multi-Objective Optimization using Evolutionary Algorithms, ISBN 0-471-87339-X, Wiley, 2001.
【非特許文献2】Carlos A. Coello Coello et.al, Evolutionary Algorithms for Solving Multi-Objective Problems, ISBN 0-306-46762-3, Kluwer Academic Publishers, 2001.
【非特許文献3】中山弘隆, 岡部達哉, 荒川雅生, 尹禮分, 多目的最適化と工学設計 -しなやかシステム工学アプローチ-, 現代図書, 2007
【非特許文献4】Tatsuya Okabe, Evolutionary Multi-Objective Optimization -On the Distribution of Offspring in Parameter and Fitness Space-, ISBN 3-8322-2904-3, Sharker Verlag, 2004
【非特許文献5】Ingo Rechenberg, Evolutionsstrategie ‘94, Frommann-Holzboog, 1994
【非特許文献6】三木光範, 廣安知之, 冨岡弘志, 並列分散対話型遺伝的アルゴリズムを用いた合意形成システムの有効性, 人工知能学会論文誌, 20, 4C, p.p. 289-296, 2005
【非特許文献7】Decoding the visual and subjective contents of the human brain, Yukiyasu Kamitani and Frank Tong, Nature Neuroscience, Vol.8, Num.5, pp.679-685, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、製品のデザインは人間の主観に基づいて評価されるため、進化的アルゴリズムなどの機械学習アルゴリズムを使ってデザインを最適化することは困難である。これは、前述のように、人間の感性をソルバーなどで予測できないこと、感性を数値化することが容易でないことが原因である。また、対話型進化計算アルゴリズムが採用された場合、人間にデザインの良否を判断させた上で、キーボードやマウス装置等の入力装置にその判断結果を入力させる必要があるが、その判断結果に人間の潜在意識が正確に反映されているとはいいがたい。
【0010】
そこで、本発明は、人間の潜在意識が反映される脳の活動状態に鑑みて、この人間が五感を通じて知覚可能な環境要素を適切に調節することができるシステム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の環境調節システムは、人間の環境を調節するシステムであって、第1装置に入力される環境ベクトルを調節することにより、該第1装置により出力される、前記人間が五感を通じて知覚可能な環境要素を調節する第1処理要素と、前記人間の脳活動状態に応じた第2装置からの出力信号に基づき、前記第1処理要素により調節された前記環境要素を知覚した該人間の脳活動状態を表す状態ベクトルを測定する第2処理要素と、該第2処理要素により測定された該状態ベクトルの目標状態ベクトルを基準とした適合度を評価する第3処理要素とを備え、前記第1処理要素が、前記第3処理要素による今回までの前記適合度の評価結果のうち一部または全部に基づき、前記第1装置に次回入力される前記環境ベクトルを調節することを特徴とする。
【0012】
第1発明の環境調節システムによれば、第1装置に入力される環境ベクトルが調節されることにより、この第1装置から出力される、人間が五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)を通じて知覚可能な環境要素が調節される。また、環境要素を知覚した人間の脳活動状態を表わす状態ベクトルが測定され、目標状態ベクトルを基準とした状態変数ベクトルの適合度が評価される。さらに、今回までの適合度の評価結果のうち一部または全部に基づき、第1装置に次回入力される前記環境ベクトルが調節される。そして、前記のように第1装置に次回入力される環境ベクトルが調節されることにより、第1装置により次回出力される環境要素が調節される。これにより、人間の潜在意識が反映される脳活動状態を目標状態に近づける観点から、この人間により知覚される環境要素が適切に調節されうる。
【0013】
第2発明の環境調節システムは、第1発明の環境調節システムにおいて、前記第1処理要素が、前記第1装置に逐次入力された第i環境ベクトル群(i=1,2,‥)に属する前記環境ベクトルから、前記第3処理部により評価された前記適合度が高い前記状態ベクトルに対応する前記環境ベクトルを選択し、当該選択環境ベクトルに基づき、前記第1入力装置に逐次入力される第i+1環境ベクトル群に属する前記環境ベクトルを調節することを特徴とする。
【0014】
第2発明の環境調節システムによれば、第1装置に入力された第i環境ベクトル群からの、適合度が高い状態ベクトルに対応する環境ベクトルの選択と、第1装置に入力される第i+1環境ベクトル群の調節とが繰り返される。これにより、状態ベクトルの適合度が徐々に高くなるように第1装置から出力される環境要素が調節されうる。
【0015】
第3発明の環境調節システムは、第2発明の環境調節システムにおいて、前記第1処理要素が、前記第i環境ベクトル群から選択された一の前記環境ベクトルの成分の一部を、同じく前記第i環境ベクトル群から選択された他の前記環境ベクトルの該当成分に置換し、または、任意の値に変化させることにより、前記第i+1環境ベクトルを調節することを特徴とする。
【0016】
第3発明の環境調節システムによれば、第i環境ベクトル群から選択された一の環境ベクトルの成分の一部の、同じく第i環境要素群から選択された他の環境ベクトルの該当成分への置換(交配)、または、任意の値への変化((突然)変異)により、第i+1環境ベクトル群が調節される。このように測定状態変数の適合度が高い環境要素の交配または変異が繰り返されることにより、状態変数値の適合度が徐々に高くなるように環境要素が調節されうる。
【0017】
第4発明の環境調節システムは、第2または第3発明の環境調節システムにおいて、前記第1処理要素が前記第i環境ベクトル群から選択された前記環境ベクトルを包含する第iクラスタに包含されるように前記第i+1環境ベクトル群に属する前記環境ベクトルを調節することを特徴とする。
【0018】
第4発明の環境調節システムによれば、第i環境ベクトル群に属する環境ベクトルのうち、適合度が高い状態ベクトルに対応する環境要素の、適合度が低い状態ベクトルに対応する環境要素からの区分(クラスタリング)と、このクラスタリングによって生じたクラスタに属するように第i+1環境ベクトル群が調節されることにより、状態ベクトルの適合度が徐々に高くなるように第1装置から出力される環境要素が調節されうる。
【0019】
第5発明の環境調節システムは、第1〜第4発明のうちいずれか1つの環境調節システムにおいて、前記第1処理要素が、物品のデザインを構成する形状、色彩もしくは模様またはこれらの組み合わせのうち少なくとも一部に関連付けられている前記環境変数の値を調節することにより、前記環境要素としての当該物品のデザインを調節することを特徴とする。
【0020】
第5発明の環境調節システムによれば、人間の潜在意識が反映される脳活動状態を目標状態に近づける観点から、この人間により視覚を通じて知覚される環境要素としての物品のデザインが適切に調節されうる。
【0021】
第6発明の環境調節システムは、第1〜第5発明のうちいずれか1つの環境調節システムにおいて、前記第2処理要素が、前記第2装置からの出力信号に基づき、前記人間の複数の頭部領域のうち前記環境要素の知覚方法の種類の別に応じて定まる頭部領域における該人間の脳活動状態を表わす前記状態ベクトルを測定することを特徴とする。
【0022】
第6発明の環境調節システムによれば、環境要素の知覚方法の種類の別、すなわち、この環境要素が視覚、聴覚等の五感のうちいずれによって知覚されるかに応じて活発になる脳領域が異なることに鑑みて、脳活動状態を測定する観点から適切な状態ベクトルが選択的に測定されうる。これにより、解析または演算処理対象となる状態ベクトルの成分が適切に選択されるまたは絞り込まれるので、適合度の算出等に関する演算処理の効率化が図られる。
【0023】
第7発明の環境調節システムは、第1〜第6発明の環境調節システムにおいて、前記第2処理要素が、前記第2装置からの出力信号に基づき、目標環境要素を知覚した前記人間の脳活動状態を表わす前記状態変数値を前記目標状態値として測定することを特徴とする。
【0024】
第7発明の環境調節システムによれば、人間の脳活動状態が、目標環境要素を知覚したときのこの人間または他の人間の脳活動状態に近づくように、第1装置から出力され、この人間に知覚させる環境要素が制御されうる。
【0025】
第8発明の環境調節システムは、第1〜第7発明のうちいずれか1つの環境調節システムにおいて、前記第3処理要素が、前記第2処理要素により測定された前記状態ベクトルと前記目標状態ベクトルとの近似度を前記適合度として評価することを特徴とする。
【0026】
第8発明の環境調節システムによれば、状態ベクトルおよび目標状態ベクトルの近似度が、目標状態ベクトルを基準としたこの状態ベクトルの適合度として評価されうる。
【0027】
第9発明の環境調節システムは、第8発明の環境調節システムにおいて、前記第3処理要素が、前記状態ベクトルと前記目標状態ベクトルとの差分ベクトルのノルムと、該状態ベクトルのノルムのα乗(α≧1)と該目標状態ベクトルのノルムのα乗との偏差と、該状態ベクトルと該目標状態ベクトルとのなす角度とのうち一部または全部の減少関数を前記近似度として評価することを特徴とする。
【0028】
第9発明の環境調節システムによれば、状態ベクトルおよび目標状態ベクトルの差分ベクトルのノルム等の減少関数(当該ノルム等が大きい場合は適合度が小さくなり、当該ノルム等が小さい場合は適合度が大きくなる関数)が、目標状態ベクトルを基準としたこの状態ベクトルの適合度として評価されうる。
【0029】
第10発明の環境調節方法は、人間の環境を調節する方法であって、第1装置に入力される環境ベクトルを調節することにより、該第1装置により出力される、前記人間が五感を通じて知覚可能な環境要素を調節する第1処理と、前記人間の脳活動状態に応じた第2装置からの出力信号に基づき、前記第1処理の実行により調節された前記環境要素を知覚した該人間の脳活動状態を表す状態ベクトルを測定する第2処理と、該第2処理の実行により測定された該状態ベクトルの目標状態ベクトルを基準とした適合度を評価する第3処理とを実行し、前記第1処理において、前記第3処理の実行による今回までの前記適合度の評価結果のうち一部または全部に基づき、前記第1装置に次回入力される前記環境ベクトルを調節する処理を実行することを特徴とする。
【0030】
第10発明の環境調節方法によれば、人間の潜在意識が反映される脳活動状態を基準となる状態に近づける観点から、第1装置により出力され、この人間により知覚される環境要素が適切に調節されうる。
【0031】
第11発明の環境調節プログラムは、人間の環境を調節するシステムとしてコンピュータを機能させるプログラムであって、第1発明の環境調節システムとして前記コンピュータを機能させることを特徴とする。
【0032】
第11発明の環境調節プログラムによれば、人間の潜在意識が反映される脳活動状態を基準となる状態に近づける観点から、第1装置から出力され、この人間により知覚される環境要素を適切に決定しうるようにコンピュータを機能させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の環境調節システムの実施形態について図面を用いて説明する。
【0034】
まず、本発明の一実施形態としての環境調節システムの構成について説明する。環境調節システム100は図1に示されているように第1装置(たとえばモニタ装置)21と、第2装置(たとえばfMRI装置)22とのそれぞれに接続されたコンピュータ(CPU,ROM,RAM,I/O等により構成されている。)10により構成されている。コンピュータ10を環境調節システム100として機能させるための「環境調節プログラム」はサーバからコンピュータ10にダウンロードされ、あるいは、携帯型メモリ、CDやDVD等の記憶媒体を介してコンピュータ10にインストールされることによってRAM等の記憶装置に格納される。
【0035】
第1装置21は被験者Pにより五感(たとえば視覚)を通じて知覚される環境要素(たとえば画像)を出力するディスプレイ装置である。なお、第1装置21は環境要素として音や音楽を出力する装置等、被験者Pの視覚以外の五感(たとえば聴覚)を通じて知覚される環境要素を出力する音響機器等のあらゆる装置であってもよい。
【0036】
第2装置22は被験者Pの脳活動状態を表わす物理量(たとえば人体の構成要素であるプロトンの密度および緩和時間)をこの被験者Pの脳における複数の領域において測定するfMRI装置である。なお、第2装置22は脳磁図、近赤外線光計測、脳波計、ポジトロン画像診断装置、硬膜下電極またはユニットレコーディング等、被験者Pの脳活動状態に応じて変動する物理量を測定するあらゆる装置であってもよい。
【0037】
環境調節システム100は図2に示されているように第1処理要素110と、第2処理要素120と、第3処理要素130とを備えている。各処理要素110等はCPU(またはその演算処理回路の一部)等により構成されていてもよく、異なるCPU等により構成されていてもよい。
【0038】
第1処理要素110は第1装置21に入力される状態ベクトルを調節することにより、第1装置21により出力され、被験者(人間)Pが五感を通じて知覚可能な環境要素を調節する。なお、第1装置21が第1処理要素110の構成要素であってもよい。第2処理要素120は第1処理要素110により調節された環境要素を知覚した被験者Pの脳活動状態を表す状態ベクトルを、第2装置22から出力された信号に基づいて測定する。なお、第2装置22が第2処理要素120の構成要素であってもよい。第3処理要素130は第2処理要素120により測定された状態ベクトルに基づき、目標状態ベクトルを基準とした当該状態ベクトルの適合度を評価する。
【0039】
前記構成の環境調節システムの機能または環境調節方法について説明する。
【0040】
まず、第1処理要素110が目標画像データを定義する目標画像データをメモリから読み取り、この目標画像データを第1装置21に入力することにより、目標画像を目標環境要素として第1装置21に出力させる(図3/S102)。目標画像としては、自然風景、動物、被験者Pが所有している物品の静止画または動画等、さまざまな画像が選択されうる。なお、観察者の手によってパネルや紙に印刷または描写された写真、イラスト、文章などが目標画像として被験者Pに提示されてもよい。
【0041】
また、第2処理要素120が目標環境要素を知覚した被験者Pの脳活動状態を表す状態ベクトルを目標状態ベクトルX0として、第2装置22から出力された信号に基づいて測定する(図3/S104)。目標状態ベクトルX0は、fMRIにより複数の脳領域のうち、視覚を通じた認識に際して活発になると考えられる領域(ROI:Region of Interest)に包含されるn個所におけるプロトンの密度等の物理量を成分とする式(1)で表わされるn次元のベクトルである。目標状態ベクトルX0は図8(a)左側に概念的に示されているようにn次元の状態変数空間における点として表現される。
【0042】
【数1】

【0043】
なお、ROIにおいて異なる時刻にq回(q>1)にわたって測定されたn×q個の測定物理量を成分とするベクトルが目標状態ベクトルX0として測定されてもよい。また、ROIにおける物理量として、脳におけるプロトンの密度や緩和時間の時間微分(変化速度や変化加速度など)が測定されていてもよい。また、ROI以外の脳領域においても状態変数値が測定されてもよい。
【0044】
さらに、目標環境値の次数を表わす指数kと、環境要素群の次数を表わす指数iとがともに「1」に設定される(図3/S106)。
【0045】
また、第1処理要素110が第i環境ベクトル群{Yk|k=ki,‥,ki+1−1}を決定する(図3/S108)。第i環境ベクトル群は、式(2)で表わされる一または複数のm次元の第k環境ベクトルYkの集合として定義される。第k環境ベクトルYkは図8(a)右側に概念的に示されているようにm次元の環境変数空間における点として表現される。なお、環境ベクトルYkはm=1、すなわち、スカラーをも包含する概念である。
【0046】
【数2】

【0047】
たとえば、第1処理要素110が有する乱数生成器により生成された乱数を成分とする第k環境ベクトル(k=ki〜ki+1−1,k1=1)の集合が、第1環境ベクトル群(i=1)として定義されてもよい。また、第1処理要素110によってメモリ等の記憶装置にあらかじめ格納されている数値がこの記憶装置から読み取られ、当該数値を成分とする第k環境ベクトルの集合が、第1環境ベクトル群として定義されてもよい。
【0048】
さらに、第1処理要素110が先の決定どおりに第1装置21に入力される第k環境ベクトルYkを調節することにより、第k環境要素として第1装置21により出力または表示される画像を調節または制御する(図3/S110)。なお、第k環境ベクトルYkの成分がすべて一度に第1装置21に入力されてもよく、第k環境ベクトルYkの成分が必要に応じて断続的に第1装置21に入力されてもよい。
【0049】
たとえば図4(a)〜(c)に示されているように横から見たときの自動車の高さHk、前後方向の長さLkおよび車体のカラーの識別するための数値Ckを成分とする、第1装置21に入力される第k環境ベクトルYk=(Hk,Lk,Ck)が調節される。これにより、自動車を横から見たときのさまざまなデザインを示す画像が第k環境要素として第1装置21により出力される。
【0050】
また、自動車のデザインのさらに詳細な特徴量が環境変数値として調節されてもよい。たとえば、図5(a)(b)に示されているように自動車を横から見たときのフロントウィンドウが配置される第1部分の長さd1k、ボンネットが配置される第2部分の長さd2k、ヘッドランプが配置される第3部分の長さd3kおよびフロントバンパーが配置される第4部分の長さd4kのほか、車体トップ部分から第1部分への推移部分、第1部分から第2部分への推移部分、第2部分から第3部分への推移部分および第3部分から第4部分への推移部分のそれぞれにおける曲率半径rjk(j=1〜4)および屈曲角度θjkを成分とする、第1装置21に入力される第k環境ベクトルYk=(d1k,d2k,d3k,d4k,r1k,r2k,r3k,r4k,θ1k,θ2k,θ3k,θ4k)が調節されてもよい。これにより、自動車を横から見たときの微妙に異なるさまざまなデザインを示す画像が第k環境要素として第1装置21により出力される。
【0051】
さらに、図6に示されているようにニュース番組のテレビ画面において(1)画面右上に表示される時刻等の表示スペースの高さH1kおよび幅L1kならびに文字の色彩の識別番号C1kと、(2)画面右側に置かれているサイドテーブルに置かれている花瓶およびこれに挿された花の高さH2k、このサイドテーブルの見えている部分の幅L2kおよび背景の色彩の識別番号C2kと、(3)正面右側に座っているニュースキャスターの頭部から画面上縁までの間隔H3k、隣のキャスターとの頭部間隔L3kおよび衣服の色彩の識別番号C3kと、(4)正面左側に座っているキャスターの頭部から画面上縁までの間隔H4k、画面左縁までの間隔L4kおよび衣服の色彩の識別番号C4kと、(5)キャスターの前に置かれているデスクの見えている部分の幅L5kとを成分とする、第1装置21に入力される環境ベクトルYk=(H1k,H2k,H3k,H4k,L1k,L2k,L3k,L4k,L5k,C1k,C2k,C3k,C4k)が調節される。これにより、ニュース番組のテレビ画面を示す画像が第k環境要素として第1装置21により出力される。
【0052】
また、図7に示されているようにテレビ番組の連続表示時間tjk(j=1,2,‥)と、広告の連続表示時間sjkとを成分とする、第1装置21に入力される環境ベクトルYkが制御される。これにより、第1装置21によりテレビ番組と、広告(CM)とが交互に切り替えられながら表示される。
【0053】
さらに、第2処理要素120が、第1処理要素11によって調節され第1装置21により出力された第k環境要素を知覚した被験者Pの脳活動状態を表す第k状態ベクトルXkを、第2装置22から出力された信号に基づいて測定する(図3/S112)。第k状態ベクトルXkは、目標状態ベクトルX0と同様にROIに包含されるn個所におけるプロトンの密度等の物理量を成分とする式(3)で表わされるn次元のベクトルである。第k状態ベクトルXkも目標状態ベクトルX0と同様、図8(a)左側に概念的に示されているように状態変数空間における点として表現される。
【0054】
【数3】

【0055】
また、第3処理要素130が目標状態ベクトルX0を基準とした、第2処理要素120により測定された第k状態ベクトルXkの第k適合度f(Xk)を評価する(図3/S114)。具体的には、第k状態ベクトルXkと目標状態ベクトルとX0の差分ベクトルXk−X0の、式(4)で表わされるノルム|Xk−X0|の減少関数が第k適合度f(Xk)として評価される。したがって、第k状態ベクトルXkのノルムおよび方位のそれぞれが、目標状態ベクトルX0のノルムおよび方位のそれぞれに近づくほど第k適合度f(Xk)が高く評価される。
【0056】
【数4】

【0057】
なお、この差分ベクトルのノルムに代えてあるいは加えて、第k状態ベクトルXkのノルムと目標状態ベクトルX0のノルムとの偏差|Xkα−|X0α(α≧1)と、式(5)で表わされる第k状態ベクトルXkと目標状態ベクトルX0とがなす角度φ=arccos[(Xk・X0)/|Xk|・|X0|]とのうち一部または全部の減少関数が第k適合度f(Xk)として評価されてもよい。
【0058】
【数5】

【0059】
さらに、第1処理要素110によって指数kが第i所定数ki+1−1以上であるか否か、すなわち、第i環境要素群に属するすべての環境要素に応じた適合度f(Xk)が評価されたか否かが判定される(図3/S116)。当該判定結果が否定的である場合(図3/S116‥NO)、指数kが1だけ増加され(図3/S118)、第k環境要素の調節および第k状態ベクトルXkの測定等の処理が繰り返される(図3/S110〜S116)。
【0060】
その一方、指数kが第i所定数ki+1−1以上であると判定された場合(図3/S116‥YES)、環境要素調節終了条件が満たされているか否かがさらに判定される(図3/S120)。環境要素調節終了条件としては、指数kが所定値以上であることと、第k適合度f(Xk)が所定値f0以上となる所定数以上の第k状態ベクトルXkが存在すること等との組み合わせが採用されうる。当該判定結果が否定的であった場合(図3/S120‥NO)、第1処理部110が第3処理要素130による第k適合度f(Xk)の評価結果に基づき、第i環境ベクトル群{Yk|k=ki,‥,ki+1−1}から第k環境要素Ykを選択する(図3/S122)。
【0061】
たとえば、図8(a)左側に示されているように第1装置21に入力される環境ベクトルYk(k=1〜5)が調節されることにより、図8(a)右側に示されているように5つの状態ベクトルXkが測定された場合を考える。この場合、第k適合度f(Xk)が比較的高い、すなわち、目標状態ベクトルX0との間隔(差分ベクトルのノルム)が比較的短い、図8(b)左側に示されている枠に含まれる3つの状態ベクトルX1、X2およびX3のそれぞれに対応する環境ベクトルY1〜Y3が選択される。
【0062】
さらに、指数「i」および指数「k」がともに「1」だけ増加され(図3/S124)、選択環境ベクトルに基づいて新たな第i環境ベクトル群{Yk|k=ki,‥,ki+1−1}が決定される(図3/S108)。
【0063】
具体的には「進化的アルゴリズム」にしたがい、第i環境ベクトル群(第i世代の個体群){Yk|k=ki,‥,ki+1−1}から第i+1環境ベクトル群(第i+1世代の個体群){Yk|k=ki+1,‥,ki+2−1}が生成されうる。例として、第i環境要素群{Yk|k=ki,‥,ki+1−1}から図9(a)に示されている2つの環境ベクトルYa=(a1,a2,a3,a4,a5)およびYb=(b1,b2,b3,b4,b5)が選択された場合を考える。この場合、これら2つの環境ベクトルYaおよびYbの「交配」によって新たな環境ベクトルYが決定されうる。各環境ベクトルはその各成分の列によって構成される遺伝子とみなされる。交叉点(交配のために遺伝子が切断される箇所)が1つである1点交叉により新たな遺伝子が生成されうる。たとえば、環境ベクトル(遺伝子)YaおよびYbが第3および第4成分の間を1つの交叉点として交配されることにより新たな遺伝子Yab=(a1,a2,a3,b4,b5)およびYba=(b1,b2,b3,a4,a5)が生成されてもよい。また、交叉点が複数である複数点交叉により新たな遺伝子が生成されうる。たとえば、遺伝子YaおよびYbが第2および第3成分の間と、第4および第5成分の間とを2つの交叉点として交配されることにより新たな遺伝子Yab=(a1,a2,b3,b4,a5)およびYba=(b1,b2,a3,a4,b5)が生成されてもよい。その他、遺伝子が均等交叉、すなわち、成分間のすべての境界を交叉点として交配されてもよい。ただし、遺伝子が切断された後、元通りに接続される場合もありうるので、N点交叉の結果が、N−k(k≧1)点交叉の結果と同一になる場合もある。また、3以上の環境ベクトルYkの交配によって新たな環境ベクトルYが生成されてもよい。
【0064】
また、第i環境要素群{Yk|k=ki,‥,ki+1−1}から図9(b)に示されている環境ベクトルYc=(c1,c2,c3,c4,c5)が選択された場合を考える。この場合、この環境ベクトルYcの「変異(または突然変異)」によって新たな環境ベクトルYが決定されうる。すなわち、環境ベクトルYcの第3成分c3および第4成分c4のそれぞれが、任意の値d1およびd2のそれぞれに変化することにより新たな環境ベクトル(c1,c2,d1,d4,c5)が決定される。そして、一もしくは複数回の交配、一もしくは複数回の変異、またはこれらの組み合わせによって生成された当該新たな環境ベクトルYを構成要素とする第i+1環境ベクトル群が決定される。
【0065】
そのほか、機械学習(サポートベクターマシン(SVM))を用いて新たな第i環境ベクトル群が決定されてもよい。具体的には、図8(b)左側に示されている適合度f(Xk)が高い状態ベクトルX1〜X3のそれぞれに対応する、図8(b)右側に示されている選択環境ベクトルY1〜Y3により画定されるクラスタ領域(斜線領域)に包含される環境ベクトルYkを構成要素とする第i環境ベクトル群が決定されてもよい。これにより、図8(c)右側に示されているようにこのクラスタ領域に属する環境ベクトルY6〜Y10により構成される第i+1環境ベクトル群が決定される。
【0066】
なお、SVMまたは分別器によって第1クラスタ、第2クラスタ、‥のように明確にクラスタリングされるのではなく、回帰器によって第1.2クラス他、第1.5クラスタ、‥のように非整数的にまたはより曖昧にクラスタリングされてもよい。
【0067】
そして、環境要素調節終了条件が満たされていると判定された場合(図3/S120‥YES)、一連の処理が終了する。たとえば、図8(c)左側に示されている環境ベクトルYk(k=6〜10)に応じて、図8(c)右側に示されているように状態ベクトルXkが測定され、目標状態ベクトルX0の近傍にある状態ベクトルX7の適合度f(Xk)が所定値f0以上になっている場合、環境要素調節終了条件が満たされていると判定されうる。
【0068】
前記機能を発揮する環境調節システムによれば、第1装置21に入力される環境ベクトルYkに関連付けられている状態ベクトルXkの目標状態ベクトルX0を基準とした適合度f(Xk)の前回までの評価結果のうち一部または全部に基づき、適合度f(Xk)が徐々に高くなるように次回以降の環境要素が調節される(図3/S108→‥→S122→‥→S108→‥参照)。具体的には、進化的アルゴリズムにしたがい、第i世代の個体群{Yk|k=ki,‥,ki+1−1}のうち、適合度f(Xk)が高い状態ベクトルXkに対応する個体(環境ベクトルYk)のみが選択されて生き残る一方、適合度f(Xk)が低い状態ベクトルXkに対応する個体は淘汰される。そして、生き残った個体の「交配」や「変異」による第i+1世代の個体群{Yk|k=ki+1,‥,ki+2−1}の生成が複数世代にわたって繰り返される(図9(a)(b)参照)。また、SVMを用いたクラシフィケーション的手法や回帰器を用いたリグレッション的手法により、適合度f(Xk)が高い状態ベクトルXkに対応する、環境変数空間における領域が徐々に絞り込まれていく。特に、リグレッション的手法によれば、曖昧なクラスタリングによって、環境ベクトルYkの選択余地が対応する状態ベクトル空間において適合度f(Xk)が極大値を示すような谷間に限定されてしまうことが回避されうる。すなわち、適合度f(Xk)がより高い状態ベクトルXkに対応する環境ベクトルYkを模索する観点から、環境ベクトルYkの選択余地が不必要に狭小化することが回避されうる。これにより、人間の潜在意識が反映される脳活動状態を目標となる状態に近づける観点から、この人間により知覚される環境要素が適切に調節されうる。
【0069】
なお、第k回までの適合度f(Xj)の評価結果のうち一部とは、一の第p適合度f(Xp)(1≦p≦k)、第p1適合度f(Xp1)(1≦p1<k)から第p2適合度f(Xp2)(p1<p2≦k)までの連続的な適合度群{f(Xj)|j=p1,p1+1,‥,p2−1,p2}または第p1適合度f(Xp1)から第p2適合度f(Xp2)までの断続的な適合度群{f(Xj)|j=p1,p1+3,p1+7,‥,p2−2,p2}等、第k回までの適合度f(Xj)の評価結果の全部を包含する適合度群{f(Xj)|j=1,2,‥,k}の任意の部分集合を意味する。また、第k+1回以降の環境ベクトルYjが決定される、一の第q環境ベクトルYq(k+1≦q)が決定されること、第q1環境ベクトルYq1(k+1≦q1)から第q2環境ベクトルYq2(q1<q2)までの連続的な環境ベクトル群{Yj|j=q1,q1+1,‥,q2−1,q2}が決定されること、または、第q1環境ベクトルYq1(k+1≦q1)から第q2環境ベクトルYq2(q1<q2)までの断続的な環境ベクトル群{Yj|j=q1,q1+5,q1+6,‥,q2−2,q2}が決定されること等、第k+1回以降の環境ベクトルYjの任意の集合が決定されることを意味する。
【0070】
また、視覚を通じて知覚されうる環境要素には、自動車、二輪車、航空機、環境調節システム、船、芝刈り機、太陽電池またはエンジンのデザインや販売店のデザイン、商品配列、カーナビゲーションシステムの画面または画像、映画、写真、テレビ番組、ラジオ番組、コマーシャル、ポスター、WEB配信での、撮影の仕方(アングル、構図、撮影位置、撮影高さ、照明の当て方、レンズ)、画面構成、色数、配色、画角、解像度、番組編成、番組構成、番組コンテンツ、キャスティング、出演者イメージ、舞台配置、話速、声域、音量、服飾デザイン、テロップのフォント、情報量やリモコン、操作ボタンのデザイン、固定電話、携帯端末、コンピュータ端末を使った情報通信時の画質、音質、音声帯域、圧縮アルゴリズム、GUI等が含まれる。
【0071】
また、環境変数空間における環境ベクトルYkの調節範囲が、各環境ベクトルYkに関連付けられている状態ベクトルXkの適合度f(Xk)の高低に応じたクラスタリングにより、目標状態ベクトル(状態変数の目標値)X0に鑑みた次回以降の適合度f(Xk)を高める観点から適切に絞り込まれうる(図3/S020,図4(b)右側参照)。また、このクラスタリングが繰り返されていることにより、環境ベクトルYkの調節範囲が、目標状態ベクトルX0に鑑みた状態ベクトルXkの次回以降の適合度f(Xk)を徐々に高める観点から適切に徐々に絞り込まれうる。
【0072】
さらに、環境要素の知覚方法の種類の別、すなわち、この環境要素が視覚、聴覚等の五感のうちいずれによって知覚されるかに応じて活発になる脳の領域が異なることに鑑みて、脳活動状態を測定する観点から、ROIに属する領域において測定された適切な状態変数xkiが多数の物理量の中から選定されうる。このように解析または演算処理対象となる状態変数が適切に絞り込まれることにより、演算処理の効率化が図られる。
【0073】
前記実施形態では第i環境ベクトル群{Yk|k=ki,‥,ki+1−1}が逐次設定されたが、他の実施形態として「リサンプリング的手法」にしたがって第k環境ベクトルYkが逐次設定されてもよい。以下、当該他の実施形態について説明する。
【0074】
まず、第1処理要素110がメモリから読み取った目標画像データを第1装置21に入力することにより、目標画像を目標環境要素として第1装置21に出力させる(図10/S202)。また、第2処理要素120が目標環境要素を知覚した被験者Pの脳活動状態を表す状態ベクトルを目標状態ベクトルX0として、第2装置22から出力された信号に基づいて測定する(図10/S204(式(1)参照))。さらに、目標環境値の次数を表わす指数kが「1」に設定される(図10/S206)。また、第1処理要素110が第1装置21に入力される第k環境ベクトルYkを決定または調節することにより、第k環境要素として第1装置21により出力される画像を調節する(図10/S208(式(2)参照))。
【0075】
さらに、第2処理要素120が、第1処理要素11によって調節され第1装置21により出力された第k環境要素を知覚した被験者Pの脳活動状態を表す第k状態ベクトルXkを、第2装置22から出力された信号に基づいて測定する(図10/S210(式(3)参照))。また、第3処理要素130が目標状態ベクトルX0を基準とした、第2処理要素120により測定された第k状態ベクトルXkの第k適合度f(Xk)を評価する(図10/S212)。
【0076】
さらに、第1処理要素110によって指数kが2以上であるか否かが判定され(図10/S214)、当該判定結果が否定的である場合(図10/S214‥NO)、指数kが1だけ増加され(図10/S220)、第k環境要素の調節および第k状態ベクトルXkの測定等の処理が繰り返される(図10/S208〜S214)。その一方、指数kが2以上であると判定された場合(図10/S214‥YES)、環境要素調節終了条件が満たされているか否かがさらに判定される(図10/S216)。当該判定結果が否定的であった場合(図10/S216‥NO)、第1処理部110が第3処理要素130による第k適合度f(Xk)の評価結果に基づき、第k−1環境ベクトルYk-1および第k環境要素Ykのうち一方を次回以降も生き残る第k環境要素Ykとして選択する(図10/S218)。具体的には、第k適合度f(Xk)が第k−1適合度f(Xk-1)と比較して高い場合または閾値εを超えて高い場合、第k環境要素Ykがそのまま第k環境要素Ykとして選択される。一方、第k−1適合度f(Xk-1)が第k適合度f(Xk)と比較して高い場合または閾値εを超えて高い場合、第k−1環境要素Yk-1が第k環境要素Ykとして選択される。
【0077】
さらに、指数kが「1」だけ増加され(図10/S220)、第k環境要素の調節および第k状態ベクトルXkの測定等の処理が繰り返される(図10/S208〜S216)。そして、環境要素調節終了条件が満たされていると判定された場合(図10/S216‥YES)、一連の処理が終了する。
【0078】
前記機能を発揮する環境調節システムによれば、第1装置21に入力される環境ベクトルYkに関連付けられている状態ベクトルXkの目標状態ベクトルX0を基準とした適合度f(Xk)の評価結果に基づき、次回以降の適合度f(Xk)が徐々に高くなるように次回以降の環境要素が調節される(図10/S208→‥→S218→‥→S208→‥参照)。具体的には、前回の環境ベクトルYk-1と今回の環境ベクトルYkのうち、対応する適合度f(Xj)が高い環境ベクトルが逐次選択されていく。また、単なる高低比較だけではなく、前記閾値εが設けられることにより、単純に適合度f(Xk)が高い状態ベクトルXkに対応する環境ベクトルYkが逐次選択され、環境ベクトルYkの選択余地が対応する状態ベクトル空間において適合度f(Xk)が極大値を示すような谷間に限定されてしまうことが回避されうる。すなわち、適合度f(Xk)がより高い状態ベクトルXkに対応する環境ベクトルYkを模索する観点から、環境ベクトルYkの選択余地が不必要に狭小化することが回避されうる。これにより、人間の潜在意識が反映される脳活動状態を目標となる状態に近づける観点から、この人間により知覚される環境要素が適切に調節されうる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】環境調節システムの構成説明図
【図2】環境調節システムの構成説明図
【図3】環境調節方法を示すフローチャート
【図4】環境要素の第1例に関する説明図
【図5】環境要素の第2例に関する説明図
【図6】環境要素の第3例に関する説明図
【図7】環境要素の第4例に関する説明図
【図8】環境ベクトルおよび状態ベクトルの関係説明図
【図9】進化的アルゴリズムにしたがった交配および変異に関する説明図
【図10】他の環境調節方法を示すフローチャート
【符号の説明】
【0080】
21‥第1装置、22‥第2装置、100‥環境調節システム、110‥第1処理要素、120‥第2処理要素、130‥第3処理要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の環境を調節するシステムであって、
第1装置に入力される環境ベクトルを調節することにより、該第1装置により出力される、前記人間が五感を通じて知覚可能な環境要素を調節する第1処理要素と、
前記人間の脳活動状態に応じた第2装置からの出力信号に基づき、前記第1処理要素により調節された前記環境要素を知覚した該人間の脳活動状態を表す状態ベクトルを測定する第2処理要素と、
該第2処理要素により測定された該状態ベクトルの目標状態ベクトルを基準とした適合度を評価する第3処理要素とを備え、
前記第1処理要素が、前記第3処理要素による今回までの前記適合度の評価結果のうち一部または全部に基づき、前記第1装置に次回入力される前記環境ベクトルを調節することを特徴とする環境調節システム。
【請求項2】
請求項1記載の環境調節システムにおいて、
前記第1処理要素が、前記第1装置に逐次入力された第i環境ベクトル群(i=1,2,‥)に属する前記環境ベクトルから、前記第3処理部により評価された前記適合度が高い前記状態ベクトルに対応する前記環境ベクトルを選択し、当該選択環境ベクトルに基づき、前記第1入力装置に逐次入力される第i+1環境ベクトル群に属する前記環境ベクトルを調節することを特徴とする環境調節システム。
【請求項3】
請求項2記載の環境調節システムにおいて、
前記第1処理要素が、前記第i環境ベクトル群から選択された一の前記環境ベクトルの成分の一部を、同じく前記第i環境ベクトル群から選択された他の前記環境ベクトルの該当成分に置換し、または、任意の値に変化させることにより、前記第i+1環境ベクトルを調節することを特徴とする環境調節システム。
【請求項4】
請求項2または3記載の環境調節システムにおいて、
前記第1処理要素が前記第i環境ベクトル群から選択された前記環境ベクトルを包含する第iクラスタに包含されるように前記第i+1環境ベクトル群に属する前記環境ベクトルを調節することを特徴とする環境調節システム。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の環境調節システムにおいて、
前記第1処理要素が、物品のデザインの構成要素としての形状、色彩もしくは模様またはこれらの組み合わせを表わす数値を成分とする前記環境ベクトルを調節することにより、前記第1装置により出力される前記環境要素としての当該物品のデザインを調節することを特徴とする環境調節システム。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載の環境調節システムにおいて、
前記第2処理要素が、前記第2装置からの出力信号に基づき、前記人間の複数の頭部領域のうち前記環境要素の知覚方法の種類の別に応じて定まる頭部領域における該人間の脳活動状態を表わす前記状態ベクトルを測定することを特徴とする環境調節システム。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1つに記載の環境調節システムにおいて、
前記第2処理要素が、前記第2装置からの出力信号に基づき、目標環境要素を知覚した前記人間の脳活動状態を表わす前記状態変数値を前記目標状態値として測定することを特徴とする環境調節システム。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか1つに記載の環境調節システムにおいて、
前記第3処理要素が、前記第2処理要素により測定された前記状態ベクトルと前記目標状態ベクトルとの近似度を前記適合度として評価することを特徴とする環境調節システム。
【請求項9】
請求項8記載の環境調節システムにおいて、
前記第3処理要素が、前記状態ベクトルと前記目標状態ベクトルとの差分ベクトルのノルムと、該状態ベクトルのノルムのα乗(α≧1)と該目標状態ベクトルのノルムのα乗との偏差と、該状態ベクトルと該目標状態ベクトルとのなす角度とのうち一部または全部の減少関数を前記近似度として評価することを特徴とする環境調節システム。
【請求項10】
人間の環境を調節する方法であって、
第1装置に入力される環境ベクトルを調節することにより、該第1装置により出力される、前記人間が五感を通じて知覚可能な環境要素を調節する第1処理と、
前記人間の脳活動状態に応じた第2装置からの出力信号に基づき、前記第1処理の実行により調節された前記環境要素を知覚した該人間の脳活動状態を表す状態ベクトルを測定する第2処理と、
該第2処理の実行により測定された該状態ベクトルの目標状態ベクトルを基準とした適合度を評価する第3処理とを実行し、
前記第1処理において、前記第3処理の実行による今回までの前記適合度の評価結果のうち一部または全部に基づき、前記第1装置に次回入力される前記環境ベクトルを調節する処理を実行することを特徴とする環境調節方法。
【請求項11】
人間の環境を調節するシステムとしてコンピュータを機能させるプログラムであって、
第1装置に入力される環境ベクトルを調節することにより、該第1装置により出力される、前記人間が五感を通じて知覚可能な環境要素を調節する第1処理要素と、
前記人間の脳活動状態に応じた第2装置からの出力信号に基づき、前記第1処理要素により調節された前記環境要素を知覚した該人間の脳活動状態を表す状態ベクトルを測定する第2処理要素と、
該第2処理要素により測定された該状態ベクトルの目標状態ベクトルを基準とした適合度を評価する第3処理要素とを備え、
前記第1処理要素が、前記第3処理要素による今回までの前記適合度の評価結果のうち一部または全部に基づき、前記第1装置に次回入力される前記環境ベクトルを調節する環境調節システムとして、前記コンピュータを機能させることを特徴とする環境調節プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−50474(P2009−50474A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220392(P2007−220392)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)