環境負荷物質の排出権管理装置、環境負荷物質の排出権管理方法、コンピュータプログラム
【課題】複数の車輌から排出される温室効果ガスの削減量に基づく排出権を取引可能な大口のものに成形するとともに排出権を公平に配分する装置を提供する。
【解決手段】 排出権管理装置1は、管理対象となる複数の車輌2をグループ化し、グループに属する全車輌2の昨年度における燃料消費量の合算値と今年度における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値と、この増減値に対する個々の車輌2の貢献度を定量化する。増減値に対応する排出権を所定の換算テーブルをもとに特定し、特定した排出権に起因して生じる経済的価値を貢献度に応じて各車輌2へ配分する。
【解決手段】 排出権管理装置1は、管理対象となる複数の車輌2をグループ化し、グループに属する全車輌2の昨年度における燃料消費量の合算値と今年度における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値と、この増減値に対する個々の車輌2の貢献度を定量化する。増減値に対応する排出権を所定の換算テーブルをもとに特定し、特定した排出権に起因して生じる経済的価値を貢献度に応じて各車輌2へ配分する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば温室効果ガスのような環境負荷物質の排出権を、複数の車輌による燃料消費量の差分値に基づいて導出する情報処理の仕組みに関する。
ここで「排出権」とは、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す値であり、排出権取引市場において取引の対象とされるものである。排出権を取得した者は、当該排出権が表す定量値に応じた量の環境負荷物質を排出することが許容される。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化やエネルギーの枯渇等の環境問題の高まりから、環境負荷物質の排出量の削減や、石油等のエネルギー資源の有効利用を図る省エネルギー対策が求められている。産業部門では従来より対策が進められているが、更なる環境負荷物質の排出量の削減のためには、産業部門だけではなく、家計部門(一般家庭)からの排出量も削減することが望まれる。家計部門における環境負荷物質の排出には、大きく分けて、電気の使用によるものと車輌の使用によるものとがある。
【0003】
車輌による環境負荷物質の排出量については、燃料消費量又は給油量との相関によって求めることができる。例えば、ある期間において燃料消費量又は給油量が減少したという事実は、環境負荷物質の排出量の削減に寄与したことを表す。
燃料の給油量を削減するためには、使用する車輌をハイブリッド車や電気自動車等の環境対策車に変更することが考えられる。しかし、環境対策車は比較的高価であり、また、現在使用している車輌の可動年数も考えると、積極的な置き換えには至らない。
そこで、各運転手に対して、いわゆるエコドライブを推奨して、運転の方法によって燃料消費量を削減しようとするソフト的手法が注目されている。財団法人省エネルギーセンターでは、エコドライブの項目として、急発進、急加速、アイドリングストップ等を挙げ、これらの緩和を提唱している。
【0004】
ソフト的手法では、車輌における環境負荷物質の排出量を定量化して管理する技術が必要となる。このような技術については、車輌の運転者に対して、その車輌による二酸化炭素や窒素酸化物等の大気汚染物質の排出量を定量的に提示する技術が特許文献1に開示されている。
最近は、環境負荷物質の排出権を市場で取引するための仕組みも提案されている。例えば、個々の車輌で温室効果ガス排出量の削減量を排出権として温室効果ガスの排出権取引市場で取引する発明が特許文献2に開示されている。
また、自動車リース契約に係る自動車の燃料の給油量に応じて温室効果ガスの排出権をリース契約する顧客に付与することを内容とする発明が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−157842号公報
【特許文献2】特開2009−087317号公報
【特許文献3】特開2009−217401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されている発明では、個々の車輌では温室効果ガス排出量の削減量に対応する排出権を温室効果ガスの排出権取引市場での取引の対象としている。しかし、個人の場合、排出量の削減量は微々たるものであるために、排出権が小口となり、取引の対象にするにはコストがかかりすぎて、その普及は困難である。
特許文献3に開示されている発明は、燃料の供給量に応じてリース契約する顧客にこの排出権を与えるもので、燃料をより多く供給するほど、つまり、走行距離が長くなるほど排出権が大きくなるものであり、各リースの顧客による温室効果ガス排出の削減量に応じた排出権を導出するものではない。
【0007】
また、従来のいずれの発明も、車輌の運転者に対して、その車輌による二酸化炭素や窒素酸化物等の環境負荷物質の排出そのものを低減させるための動機付けを顧客に与えるものではない。
本発明は、従来のこのような問題を解消し、個々の車輌から排出される環境負荷物質の削減量に応じた小口の排出権を市場で取引可能なものに発展させるとともに、環境負荷物質の削減に対する動機付けを車輌運転者に与えることができる仕組みを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、排出権管理装置、排出権管理方法、及び、コンピュータプログラムを提供する。
本発明が提供する排出権管理装置は、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブルと、管理対象となる複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類するグループ管理手段と、個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に累積させるデータ取得手段と、一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて記憶する第1管理手段と、導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する第2管理手段と、前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する第3管理手段と、を備えて成る。
【0009】
本発明の排出権管理装置では、排出権の導出を複数の車輌から成るグループ単位で行うようにしたため、個々の車輌による微小の排出権を大口の排出権とすることができ、排出権取引に適したものとすることができる。また、燃料消費量の増減値、すなわち環境負荷物質排出の増減量に基づいて排出権を導出し、しかも排出権に起因して生じる経済的価値を、個々の車輌の貢献度に応じて配分するようにしているので、グループ内の公平性を担保することができ、車輌の運転者に対して、環境負荷物質を削減することの動機付けを与えることができる。
【0010】
ある実施の態様では、前記第1管理手段は、個々の車輌による前記第1期間と前記第2期間における燃料消費量、走行距離又は燃費同士を比較することにより得られる個別評価結果と、グループに属する全車輌の各期間の平均燃費と個々の車輌の燃料消費実績とにより得られるグループ内評価結果のうち、いずれか一方の結果を前記相対増減値として導出するように構成される。
この前記第1管理手段は、一のグループに属する全車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出するとともに、この平均燃費で個々の車輌が同じ期間中の走行距離を走行したと仮定した場合の仮定燃料消費量を車輌毎に算出し、前記第1期間の仮定燃料消費量と前記第2期間の仮定燃料消費量との差分値を当該グループに属する全車輌について合算することにより、当該グループ全体の前記第2期間の燃料消費量の全体増減値を導出し、この全体増減値に、グループ全体の差分値に対する個々の車輌の差分値との比率を乗じて相対増減値を導出することにより前記グループ内相対評価を行う。
あるいは、前記第1管理手段は、一のグループに属する全車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出し、前記第1期間のグループの平均燃費で前記第2期間の走行距離を走行したと仮定したときの燃料消費量と実際の燃料消費量との差分値を当該グループに属する車輌毎に算出し、これを前記相対増減値とすることにより前記グループ内相対評価を行う。
前記第1管理手段は、前記個別評価又は前記グループ内相対評価の結果が、所定倍数を超える場合は、前記配分の比率を変えるための調整値を出力するようにしてもよい。
【0011】
本発明が提供する排出権管理方法は、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブルと、記憶装置とを有するコンピュータ装置が実行する方法であって、管理対象となる複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類する段階と、個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に前記記憶装置へ累積させる段階と、一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて前記記憶装置へ記憶させる段階と、導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する段階と、前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する段階と、を有する、コンピュータ装置による排出権管理方法である。
【0012】
本発明が提供するコンピュータプログラムは、管理対象となる複数の車輌から直接又は間接にデータを取得する入力インタフェース、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブル、及び、記憶装置を有するコンピュータ装置を排出権管理装置として機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータ装置を、前記複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類するグループ管理手段、個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを前記入力インタフェースを通じて取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に前記記憶装置に累積させるデータ取得手段、一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて前記記憶装置に記憶する第1管理手段、導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する第2管理手段、前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する第3管理手段、として機能させるコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、個々の車輌から排出される環境負荷物質の削減量に応じた小口の排出権を市場で取引可能な大口のものに発展させ、これにより、取引に要する当事者のコストを低減して排出権取引の普及を促進させるとともに、環境負荷物質の個人努力による削減に対する動機付けを車輌運転者に与えることができ、結果的に環境負荷物質の実質的削減に貢献し得るという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】排出権管理装置によりどのように排出権を導出して排出権取引市場で取引を行うかを説明する概念図である。
【図2】排出権の導出に必要な構成の全体図である。
【図3】保険料算出システムの機能ブロック図である。
【図4】契約車データの例示図である。
【図5A】グループテーブルの例示図である。
【図5B】グループ別データの例示図である。
【図5C】グループ別データの例示図である。
【図6A】燃費データの例示図である。
【図6B】燃費データの例示図である。
【図7】グループ別燃費データの例示図である。
【図8A】排出量テーブルの例示図である。
【図8B】各車輌の温室効果ガスの増減量を表す排出量データの例示図である。
【図8C】各グループの温室効果ガスの増減量を表す排出量データの例示図である。
【図9】排出権テーブルの例示図である。
【図10】割引テーブルの例示図である。
【図11】排出権料テーブルの例示図である。
【図12】実施例1の排出権算定処理のフローチャートである。
【図13】実施例2の排出権算定処理のフローチャートである。
【図14】保険料決定の処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の排出権管理装置の実施形態例を詳細に説明する。
図1は、本発明の排出権管理装置の使用状況を表す概念図である。
本例では、環境負荷物質が、二酸化炭素のような温室効果ガスであり、排出権管理装置1は、予め登録した契約者が保有する車輌(以下、「契約車輌」という)の排出権を導出するように動作し、この排出権により獲得した排出権料を温室効果ガスの削減量に応じて還元する場合の例を挙げる。
【0016】
排出権管理装置1には、複数の契約車輌2から運行データ、すなわち、燃料消費量を表す消費量データ、走行距離を表す距離データ、その他契約車輌2の運転操作状況を表す各種データが、随時送られる。
排出権管理装置1は、複数の契約車輌2を所定の基準に従ってグルーピングして管理しており、各契約車輌2から取得した運行データをグループ毎に周期的に集計し、燃費消費量の増減値に基づくグループ毎の排出権を導出する。
この排出権は、排出権取引市場で取引の対象とされ、排出権料を得ることができる。
【0017】
図2は、上述した排出権管理装置1を構成要素の1つとして組み込んだ保険料算出システム3の概念図である。
保険料算出システム3は、例えば保険会社の建物内に設置され、契約車輌2の車載コンピュータ装置4から直接に、或いは記録媒体5、情報処理装置6及びネットワークNを通じて運行データを取得し、一定周期毎に集計する。
なお、排出権管理装置1は、保険料算出システム3と通信できれば良いので、別の独立した装置として設けられていてもよい。
【0018】
[車載コンピュータ装置]
契約車輌2には、上述した運行データを記憶し、この運行データを随時保険料算出システム3に向けて送出可能な車載コンピュータ装置4が設けられている。
車載コンピュータ装置4は、例えば、一般車輌に標準で搭載されているダイアグノーシス(diagnosis:各種センサーが正常に作動するかをチェックするための自己診断機能)用に設けられる外部出力端子に接続することができ、かつ、車輌内のCAN(Controler Area Network)を利用できるものである。
すなわち、ダイアグノーシスの外部出力端子に接続し、ダイアグノーシスで計測可能な各種の運行データを収集し、これを図示しないメモリに蓄積する。
運行データは、上述した距離データ、消費量データの他に、走行速度の経時変化、エンジン回転数の経時変化等を表すデータを含む。速度の変化やエンジン回転数の変化は、急発進、急加減速の度合いを表す。このような変化がなければ「エコドライブ」があったと推定される。また、消費量データにより表される燃料消費量は、アイドリングストップの励行により削減が可能である。
【0019】
車載コンピュータ装置4は、DSRC(Dedicated Short Range Communication)や携帯電話等の通信機器を装着することもできる。車載コンピュータ装置4がこのように構成される場合は、該通信機器により、保険料算出システム3に対して、DSRCによる狭域通信や携帯電話公衆波を用いて、直接、運行データの送信が行われる。車載コンピュータ装置4が、外部メモリ5が接続可能な端子を備える場合には、車載コンピュータ装置4に記憶される運行データは、外部メモリ5に記録される。
【0020】
[情報処理装置]
情報処理装置6は、保険料算出システム3との間で双方向通信が可能なコンピュータ装置であり、契約車輌2の車載コンピュータ装置4から読み出された運行データを記憶した外部メモリ5が装着可能になっている。情報処理装置6は、装着された外部メモリ5から運行データを読み出し、これをネットワークNを介して保険契約更新毎に保険料算出システム3に伝達する。
なお、保険料算出システム3は、車載コンピュータ装置4から直接取得する場合、不定期に運行データを取得するようにしてもよい。保険料算出装置3では、不定期に取得する運行データを、ある周期毎、例えば年度毎あるいは月毎に累積させることで、グループ及び個々の契約車輌2の運行データを、排出権管理装置1において管理することができる。
【0021】
[保険料算出システム]
保険料算出システム3は、通信機能を備えたサーバ装置であり、車載コンピュータ装置4或いは情報処理装置6から取得した運行データを用いて温室効果ガスの排出量と排出権とを導出するとともに、この排出権の取引により得られる排出権料を管理する。
また、排出権料を契約車輌2毎に分配して保険料を決定する。保険料算出システム3には、入力装置及び出力装置が接続されている。
【0022】
図3は、保険料算出システム3の機能ブロック図である。
保険料算出システム3は、所定のプログラムを実行することにより、ハードウェア部分と協働で形成される、入力制御部11、出力制御部12、契約車輌管理部13、燃費等管理部14、排出量管理部15、排出権管理部16、保険料管理部17、主制御部18、及び記憶部19を備えている。保険料算出システム3から保険料管理部17を除いた構成が、排出権管理装置1の一例となる。
【0023】
入力制御部11は、保険料算出システム3に接続される入力装置や、ネットワークNを介して、情報処理装置6や契約車輌2の車載コンピュータ装置4から運行データその他のデータを取得して各管理部に入力するための制御を行う。入力装置は、キーボード、テンキー、マウス等である。
【0024】
出力制御部12は、保険料算出システム3に接続される出力装置や、ネットワークNを介して、情報処理装置6や契約車輌2の車載コンピュータ装置4へ各種情報を出力するための出力制御を行う。出力装置は、ディスプレイ、プリンタ等である。
【0025】
契約車輌管理部13は、複数の契約車輌2を、所定基準に基づいてグルーピングして管理するグループ管理手段として機能する。グルーピングの基準としては、例えば同じ属性の契約車輌、例えば車種(排気量、装備状況、年式等を考慮する)、燃料消費量、燃費、主たる走行時間帯又は走行距離が、統計的に同じとなるようにする。
個々の契約者又は契約車輌を一意に識別できる識別情報を設定することは勿論、各契約車輌2が所属するグループについても、それを一意に識別できる識別情報、例えばI、II、III・・・のような分類記号を設定する。
【0026】
燃費等管理部14は、契約車輌毎及びグループ毎の燃費及び燃料消費量を、月間、年間等の期間別に累積し、複数の期間中の燃費等の変化を管理する管理手段として機能する。期間の開始を契機に蓄積を開始し、期間満了する度にそれまでの累積値を記憶部17に記憶させる。
【0027】
排出量管理部15は、燃料等管理部14で管理されている期間別の契約車輌毎及びグループ毎の燃費及び燃料消費量に基づいて燃料消費量の実際の増減値を算出し、算出結果に基づいて、排出権導出の基礎となる温室効果ガス排出の増減量と、グループ全体の温室効果ガス排出の増減に貢献した個々の契約車輌の貢献度合いを導出する。
温室効果ガス排出の増減量は、契約車輌毎に、ある期間(第1期間)中の燃料消費量の実績値と次の期間(第2期間)中の燃料消費量との比較により導出する。グループ全体のものは、当該グループに属するすべての契約車輌についての増減量を合算する。合算の結果、燃料消費量が減少したときは、減少分の温室効果ガスが削減されたことになる。
【0028】
貢献度合いについては、個々の契約車輌の実績値に基づいて導出する個別評価と、グループ全体の燃料消費量の増減値に対する個々の契約車輌の増減値との比較により導出するグループ内相対評価の2つがあり、これらのいずれか、あるいは双方を組み合わせて貢献度合いを定量化する。例えば個別評価とグループ内評価のうち削減効果が大きい方を当該契約車輌の貢献度合いを表す数値として採用する。個別評価及びグループ内相対評価により算定された数値は、契約車輌2の識別情報と関連付けて記憶部19に記憶しておく。
【0029】
排出権管理部16は、グループ全体の燃料消費量の増減値に基づく温室効果ガスの増減量に対応する排出権を後述する各種テーブルより読み出し、読み出した排出権を当該グループの第2周期における排出権として特定する。この排出権を排出権取引市場で取引の対象とし、これにより排出権料が得られるようにする。
排出権管理部16は、また、取引により得られた排出権料を、個別評価及びグループ内相対評価(加点調整値又は減点調整値を含む)に基づいて、各契約車輌について配分するための処理を行う。
【0030】
保険料管理部17は、配分された排出権料に基づいて各契約車輌2の保険料を決定する。主制御部18は、保険料算出システム3内の各機能ブロックの動作を制御する。主制御部18は、また、入力装置から入力されるデータにより記憶部19に記憶される各種データの更新を行い、また、各種処理を実行する。
【0031】
記憶部19は、契約車輌記憶部191、グループ記憶部192、年度別燃費等記憶部193、グループ別燃費等記憶部194、及び排出量記憶部195に分けられ、更に、排出権テーブル196、割引テーブル197、及び排出権料テーブル198を備える。
契約車輌記憶部191は、契約車輌2に関する情報が記憶される。グループ記憶部192には、契約車輌2をグルーピングしたグループに関する情報が記憶される。年度別燃費等記憶部193には、各契約車輌2の年度別の燃費、燃焼消費量の情報が記憶される。グループ別燃費等記憶部194には、グループ毎の燃費、燃焼消費量の情報が記憶される。排出量記憶部195には温暖化ガスの排出量に関する情報が記憶される。
排出権テーブル196は、燃料消費量又は温暖化ガスの排出量の増減値に対応する排出権の情報が記憶されている。割引テーブル197は保険料決定に用いるパラメータが記憶されている。排出権料テーブル198には、排出権に対応する排出権料に関する情報が記憶されている。
【0032】
図4は、契約車輌記憶部191に記憶される契約者データの例示図である。契約者データには、相互に関連付けられた契約内容の識別情報、契約者情報、契約車輌情報及び運行データが含まれる。
契約者情報は、契約車輌2を所有する契約者の氏名、住所、年齢、等級等であり、契約車輌情報は、契約車輌2の識別情報、型式、後述するグループテーブルを参照して決められる所属グループ、排気量、車輌重量、安全装備等である。契約者情報及び契約車輌情報は、例えば入力装置により書き換え可能となっている。このような契約内容によって、契約者の個人情報や安全装備等を考慮した契約車輌2の保険料の調整係数が算出される。運行データは、情報処理装置6又は車載コンピュータ装置4から入力制御部11を通じて取得され、契約車輌記憶部191に期間別に累積される。
【0033】
図5A〜5Cは、グループ記憶部192に記憶されるグループデータの例示図である。契約車輌2は、型式等により燃費が異なる。また、契約車輌2が普段走行する地域又は時間帯によって、同じ車種等の車輌であっても燃費が異なるし、走行距離にもバラツキが生じる。
そこで、契約車輌管理部13は、複数の契約車輌2を、基本的には、型式、燃料消費量、燃費、走行時間帯又は走行距離が、統計的にほぼ同じとなる契約車輌毎にグルーピングした後、さらに、マイカー通勤の多い郊外部、渋滞の多い都心部、主たる運行時間帯といった、契約車輌2の利用される地域性を反映させて、グルーピングの調整を行い、その結果を、契約者データの契約車輌情報に記憶させる。
【0034】
図5Aは、契約車輌管理部13によってグルーピングを行うための分類ルールを定めたグループテーブルの例示図であり、入力装置から入力されるデータにより書き換え可能になっている。
図5Aを例にすると、型式が「GSR200」で、都区部に主たる所在地のある契約車輌2は、グループI、埼玉郊外に主たる所在地のある契約車輌2は、グループVに所属させる。
なお、図示を省略しているが、契約車輌2を型式ではなく、10/15モード燃費等のカタログスペックのような基準でグルーピングしてもよい。
図5B、5Cは、図5Aで示されるテーブルに基づいてグルーピングされた契約車輌2の識別情報をグループ毎に記述したグループ別データの例示図である。図5Bは2009年のグルーピングの結果の例示図であり、図5Cは2008年のグルーピングの結果の例示図である。期間は年度で行っている。今年度のほかに前年度のグループ別データを保持するのは、契約者の事情の変化に対応させることで、グループに属する契約車輌同士の均質化を図るためである。
【0035】
図6A、6Bは、燃費等管理部14で導出され、年度別燃費等記憶部183に記憶される燃費、燃料消費量その他燃料消費に関するデータ、すなわち燃費データの例示図である。この例でも期間は年度としている。
図6Aは、2009年度の各契約車輌2の燃費データの例示図であり、図6Bは、2008年度の各契約車輌2の燃費データの例示図である。年度間の比較を行うため、燃費データは、各契約車輌2とも少なくとも複数年度分のものが記憶されるようにする。
なお、各契約車輌2の燃費は、契約車輌記憶部191の各契約車輌2について予め記憶されている契約者データと関連付けて記憶されていてもよい。この場合、年度別燃費等記憶部183を別途用意することがなくなる。
【0036】
図7は、燃費等管理部14で導出され、グループ別燃費等記憶部184に記憶されるグループ別燃費データの例示図である。グループ毎に、当該グループに属する全契約車輌2の走行距離の合算値、燃料消費量の合算値、平均燃費が契約車輌記憶部191の運行データに基づいて算出され、その結果が項目「走行距離」、「燃料消費量」、「燃費」の各データとして累積される。
【0037】
図8A〜8Cは、排出量管理部15で導出され、排出量記憶部195に記憶されるデータの例示図であり、図8Aは、排出量記憶部195に記憶される換算用テーブル(便宜上、排出量テーブルと称する)を例示している。排出量テーブルには、燃料消費量と科学的根拠に基づく温室効果ガスの排出量との対応関係を表す換算データが記憶されている。この換算データは、例えば環境省により公表されている「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」に記述されている、両者の対応関係情報に基づいて作成したものである。
燃料の種類によって温室効果ガスの排出量が異なるため、排出量テーブルには、ガソリン、軽油等の種類毎に、排出される温室効果ガスの量が決められている。図8Aでは、燃料の種類毎に1リッター毎の温室効果ガス排出量(kg)を表している。排出量テーブルにより、燃料消費量の削減量1リッター当たり削減される温室効果ガスの量がわかる。
【0038】
図8Bは、排出量記憶部195に記憶される、個々の契約車輌2についての温室効果ガス排出の増減量の例示図である。
排出量管理部15でグループの燃費データ、契約車輌2の燃費データ、及び排出量テーブルに基づいて導出された排出量が、契約車輌2が属するグループの識別情報と共に記憶される。図8Bの例では、識別情報「AAAA」の契約車輌2による温室効果ガスが194.8[kg]増加し、識別情報「BBBB」の契約車輌2による温室効果ガスが153.4[kg]減少している。識別情報「AAAA」、「BBBB」の各契約車輌2の温室効果ガス排出の増減量の算出の仕方については、燃料等管理部15の機能として説明したとおりである。
【0039】
図8Cは、排出量記憶部195に記憶される、各グループの温室効果ガス排出の増減量の例示図である。図8Bに示した各契約車輌2の増減量の合算値が当該グループ全体の温室効果ガス排出の増減量として記憶される。図8Cの例では、グループIVの温室効果ガスが3000[kg]減少し、グループVIIの温室効果ガスが1200[kg]増加したことを示している。
【0040】
図9は、排出権テーブル196の例示図である。排出権テーブル196では、温室効果ガスの種類毎に、その削減量1kg当たりの排出権を定量化するための数値が記憶されている。図示の例では、二酸化炭素(CO2)の場合は、1kg当たり「2.3」の排出権に相当することが記憶されている。このように排出権を定量化するための数値は、国際的な取り決めに基づいて定められているので、それを用いることができる。
【0041】
図10は、保険料の割引係数を導出するための割引テーブル197の例示図である。割引係数は、燃料消費量が小さくなるほど、また、走行距離が短くなるほど大きくなるように設定される。つまり、温室効果ガスの排出量が少なくなるほど割引係数が大きくなる。図10の割引テーブル197では、燃料消費量が、その量に応じて区分1〜3の3つの区分に分けられており、区分3が最も燃料消費量が小さい。走行距離は、その距離に応じて区分1〜4の4つの区分に分けられており、区分4が最も走行距離が短い。
なお、燃料消費量及び走行距離の区分数は、任意に設定することができる。
【0042】
図11は、グループ毎の排出権料を表す排出権料テーブル198の例示図である。この排出権料テーブル198に記憶される排出権料は、排出権を排出権取引市場で取引することで得られる金額であるが、取引前は目安として、取引後は取引実績値として記憶される。
【0043】
<排出権管理処理>
次に、保険料算出システム3により行われる排出権管理処理の具体例を説明する。
排出権管理処理は、排出権導出処理と個々の契約車輌の貢献度合いの決定処理とに分かれる。
【0044】
[排出権導出処理]
図12は、排出権導出処理の手順説明図である。排出権については、複数の契約車輌から成る1つのグループで1つの排出権を導出する。
まず、契約車輌2から情報処理装置6を介して或いはダイレクトに送信される運行データを、当該契約車輌2の識別情報、日時情報とともに取得し(ステップS10)、取得した運行データを契約車輌記憶部191に累積させる。運行データは、一定の期間毎、本例では年度毎に累積される。
【0045】
運行データが第1期間及び第2期間の満了まで累積されると(ステップS11:Y)、排出量管理部15は、契約車輌毎に、第1期間と第2期間の燃料消費量の増減値を算出するとともに(ステップS12)、その結果に基づいてグループ毎の燃料消費量の増減値を算出する(ステップS13)。そして、これらの算出結果に基づいて、排出権導出の基礎となる温室効果ガス排出の増減量を導出する(ステップS14)。その後、排出権管理部16において、温室効果ガス排出の増減量から、排出権テーブル196を参照して、グループ全体の排出権を導出する(ステップS15)。導出した排出権は、記憶部19内にグループ毎に記憶され、必要に応じて、所定書式の「証書」として、出力制御部12を通じて出力装置に出力される。
【0046】
排出権は、少なくとも1つのグループでまとめて排出権取引市場で取引の対象とされ、排出権料を得ることができる。実際の取引により得られた排出権料は、そのグループに所属する契約車輌の温室効果ガス削減に対する貢献度合いに応じて配分される。
【0047】
[貢献度合い決定処理]
貢献度合いについては、個々の契約車輌の実績値に基づいて導出する個別評価と、グループ全体の燃料消費量の増減値に対する個々の契約車輌の増減値との比較により導出するグループ内相対評価の2つがある。排出量管理部15は、これらのいずれか、あるいは双方を組み合わせて貢献度合いを定量化する。
【0048】
個別評価では、例えば契約車輌Aの第1期間中の実際の燃料消費量よりも第2期間中の実際の燃料消費量が低減している場合は、その差分値を契約車輌Aについての実績値とする。契約車輌Aの第1期間中の燃費と第2期間中の燃費との比較によって実績値を導出するようにしてもよい。また、運転操作傾向が改善されることによって、いわゆるエコドライブが推進された程度が客観的に特定できる場合、例えば同じ走行環境のもとで燃費が向上した場合は、その向上率、その程度に応じて実績値を増加させるようにしてもよい。
【0049】
グループ内相対評価方式には、図13に示す手順で行う第1方式と、図14に示す手順で行う第2方式とがあり、いずれか一方を選択することができる。
[第1方式]
図13を参照すると、排出量管理部15は、一のグループに属する全契約車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別、例えば年度別に算出する(ステップS20)。グループの平均燃費は、第1期間(昨年度)と第2期間(今年度)について算出する。
次に、グループの平均燃費で同じ年度の走行距離を走行したと仮定した場合の仮定燃料消費量を、当該グループに属する契約車輌毎に、第1期間(昨年度)と第2期間(今年度)について算出する(ステップS21)。
そして、第1期間の仮定燃料消費量と第2期間中の仮定燃料消費量との差分値を当該グループに属する全契約車輌について合算し、これを当該グループ全体の第2期間中の燃料消費量の増減値(全体増減値)とする(ステップS22)。
その後、この全体増減値に、グループ全体の差分値に対する個々の契約車輌の差分値との比率を乗じて相対増減値を導出する(ステップS23)。
【0050】
例えば、当該グループ全体の第1期間に対する第2期間の燃料消費量が10kリッター減で、ある契約車輌の差分値とグループ全体の差分値との比が0.01(相対比率)であったとすると、グループ内相対評価により導出される燃料消費量の相対増減値は、100リッター減となる。
【0051】
[第2方式]
図14を参照すると、排出量管理部15は、一のグループに属する全契約車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出すること(ステップS30)は、第1方式と同じである。
第2方式では、第1期間中のグループの平均燃費で第2期間中の走行距離を走行したと仮定したときの燃料消費量と実際の燃料消費量との差分値を当該グループに属する契約車輌毎に算出し、これを相対増減値とする(ステップS31)。
この相対増減値は、以下の式によって求めることができる。
相対増減値=第2期間中の燃料消費量
×{(第2期間中の当該契約車輌の平均燃費)
÷(第1期間中のグループの平均燃費)}
−1
【0052】
例えば、一のグループの第1期間中の燃料消費量の合算値が30kリッタ−、走行距離の合算値が189,000kmであったとすると、第1期間中のグループの平均燃費は、6.3km/リッターとなる。
第2期間中、当該グループに属する契約車輌Bの燃料消費量が600リッター、走行距離が4200km、期間中の平均燃費が7km/リッターであった場合、契約車輌Bが同じ走行距離をグループの平均燃費で走行したと仮定したときの燃料消費量は、4200km÷6.3km/リッター=666.7リッターとなる。第2期間中の実際の燃料消費量は600リッターなので、結局、66.7リッター減となる。
【0053】
排出量管理部15は、個別評価とグループ内相対評価とを併用し、例えば個別評価とグループ内評価のうち削減効果が大きい方、すなわち相対増減値の大きい方を当該契約車輌の貢献度合いを表す数値として採用する。これにより、第2期間中、いわゆるエコドライブを集中的に励行した契約者ほど個別評価によって貢献度合いが高くなり、他方、走行距離が伸びて燃料消費量が増加しても、エコドライブを励行する契約車輌についてはグループ内相対評価によって貢献度合いが高くなるため、結果的に、エコドライブを奨励することにつながる。
【0054】
個別評価及びグループ内相対評価により算定された相対増減値は、契約車輌2の識別情報と関連付けて記憶部19に記憶しておく。
なお、個別評価にしても、グループ内相対評価にしても、第1期間中よりも第2期間中の燃費又は燃料消費量が所定倍、例えば1.2倍以上変化している場合は、相対増減値に乗算する加点調整値(向上した場合)又は減点調整値(悪化した場合)として算定するようにしてもよい。この場合、各調整値は、当該契約車輌2の識別情報と関連付けて記憶しておく。
これにより、燃費が悪化するような運転操作を抑制し、いわゆるエコドライブを心がける強い動機付けを契約者に与えることができる。
【0055】
<保険料算出処理>
保険料管理部17は、図15に示す手順で契約車輌2毎に保険料を算出する。
すなわち、契約車輌記憶部191から保険料の算出対象となる契約車輌2の契約車データを取得する(ステップS40)。これにより、当該契約車輌2が所属するグループと、昨年度及び今年度の走行距離及び燃料消費量がわかる。
【0056】
保険料管理部17は、今年度の燃料消費量及び走行距離により、割引テーブル197を参照して、割引係数を特定する(ステップS41)。燃料消費量による区分及び走行距離による区分に応じて割引係数が特定される。
【0057】
保険料管理部17は、契約車データにより該契約車輌2が属するグループを確認し、確認したグループの排出権料を排出権料テーブル198から読み出す。保険料管理部17は、読み出した排出権料と、排出量記憶部195に記憶された該契約車輌2の温室効果ガスの増減量と、ステップS31で特定した割引係数と、契約車データの内容とから、保険料の増減額を算出する(ステップS42)。
保険料管理部17は、算出した保険料の増減額を反映して保険料を決定する。保険料算出システム3は、例えば決定した保険料を通信制御部13から情報処理装置6或いは契約車輌2の車載コンピュータ装置4に通知してもよい。通知の際には、単に保険料を通知するのみならず、保険契約の更新申込書の書式で送信して、契約者に保険の更新を促すようにしてもよい。
【0058】
このように、本実施形態の保険料算出システム3では、グループで得られる排出権料を保険料に反映させることで、保険の契約者が温室効果ガス排出の削減を行う動機付けを与えるものとなる。保険料という形で、契約者に温室効果ガス排出量の削減を意識させることができる。このようにして排出権を算出することで、1つの契約車輌2では小口の排出権しか生成できない場合でも、グループに属する複数の契約車輌2で大口の排出権を生成できる。そのために、排出権取引市場において、従来よりも取引の対象になりやすい。
【0059】
[運用例]
保険料算出システム3の運用例を以下に示す。
年間走行距離が6000[km]程度の契約車輌2により、エコドライブを行うことでどの程度の燃料消費量の削減量及び排出権が期待されできるかを説明する。
エコドライブでは、信号及び踏み切りにおけるアイドリングストップ、発進時には2000回転までのふんわりアクセル(エコドライブ前は3000回転までアクセル)、アクセルオフ・加減速はエコ運転(エコドライブ前は通常運転)を行う。1日の走行距離が20[km]で1ヶ月に27日間走行する場合、契約車輌2の年間の走行距離が6480[km]になる。排気量が1800[cc]〜2000[cc]の自動車では、一般的に燃料消費量1リッター当たり8[km]走行可能である。この場合、1ヶ月の燃料消費量が67.5リッターになる。
【0060】
エコドライブを行うことで、以下のような効果が得られる。
(1)アイドリングストップにより、1日合計でおよそ10分間エンジンを切ることができ、260ミリリッターの燃料の節約になる。1ヶ月当たりでは、7リッターの燃料節約になる。
(2)ふんわりアクセルを励行することで、10%の燃料節約が期待でき、1ヶ月当たり6.8リッターの燃料節約になる。
(3)アクセルオフ・加減速エコ運転の励行により、2.2%の燃料節約が期待でき、1ヶ月当たり2.7リッターの燃料節約になる。
上記(1)〜(3)により、1ヶ月当たり16.5リッターの燃料を節約できる。年間では198リッターの燃料が削減される。温室効果ガスに換算すると455[kg]の温室効果ガスの削減が見込まれる。
【0061】
同様の契約車輌2が100万台参加すれば、45万5000トンの排出権が生成される。欧州の排出権取引市場では、1トンあたり1500円程度で排出権の取引が行われるために、45万5000トンで6億8250万円の取引額が想定される。保険料に取引額を反映させる場合には、エコドライブによる温室効果ガスの削減効果に応じて、100万台の契約車輌2に振り分けられる。
現在、日本には約5000万台の自動車が登録されており、このうち2%の自動車が契約車輌2として本発明の排出権管理装置に参加することで、この額の経済効果が見込まれる。全自動車メーカー、全保険会社により取り組むことが可能であれば、更に温室効果ガスを削減することが期待できる。
【0062】
なお、本明細書では、環境負荷物質として温室効果ガス(二酸化炭素等)を例に挙げて説明したが、車輌から排出される鉛、水銀、六価クロム、カドミウムのような有害物質についても、上記と同様の処理内容によって、その増減量を排出権の対象として管理できるものである。
【符号の説明】
【0063】
1…排出権算定装置、11…入力制御部、12…出力制御部、13…契約車輌管理部、14…燃費等管理部、15…排出量管理部、16…排出権管理部、17…保険料管理部、18…主制御部、19…記憶部、191…契約車輌記憶部、192…グループ記憶部、193…年度別燃費等記憶部、194…グループ別燃費等記憶部、195…排出量記憶部、196…排出権テーブル、197…割引テーブル、198…排出権料テーブル、2…契約車輌、3…保険料算出システム、4…車載コンピュータ装置、5…外部メモリ、6…情報処理装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば温室効果ガスのような環境負荷物質の排出権を、複数の車輌による燃料消費量の差分値に基づいて導出する情報処理の仕組みに関する。
ここで「排出権」とは、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す値であり、排出権取引市場において取引の対象とされるものである。排出権を取得した者は、当該排出権が表す定量値に応じた量の環境負荷物質を排出することが許容される。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化やエネルギーの枯渇等の環境問題の高まりから、環境負荷物質の排出量の削減や、石油等のエネルギー資源の有効利用を図る省エネルギー対策が求められている。産業部門では従来より対策が進められているが、更なる環境負荷物質の排出量の削減のためには、産業部門だけではなく、家計部門(一般家庭)からの排出量も削減することが望まれる。家計部門における環境負荷物質の排出には、大きく分けて、電気の使用によるものと車輌の使用によるものとがある。
【0003】
車輌による環境負荷物質の排出量については、燃料消費量又は給油量との相関によって求めることができる。例えば、ある期間において燃料消費量又は給油量が減少したという事実は、環境負荷物質の排出量の削減に寄与したことを表す。
燃料の給油量を削減するためには、使用する車輌をハイブリッド車や電気自動車等の環境対策車に変更することが考えられる。しかし、環境対策車は比較的高価であり、また、現在使用している車輌の可動年数も考えると、積極的な置き換えには至らない。
そこで、各運転手に対して、いわゆるエコドライブを推奨して、運転の方法によって燃料消費量を削減しようとするソフト的手法が注目されている。財団法人省エネルギーセンターでは、エコドライブの項目として、急発進、急加速、アイドリングストップ等を挙げ、これらの緩和を提唱している。
【0004】
ソフト的手法では、車輌における環境負荷物質の排出量を定量化して管理する技術が必要となる。このような技術については、車輌の運転者に対して、その車輌による二酸化炭素や窒素酸化物等の大気汚染物質の排出量を定量的に提示する技術が特許文献1に開示されている。
最近は、環境負荷物質の排出権を市場で取引するための仕組みも提案されている。例えば、個々の車輌で温室効果ガス排出量の削減量を排出権として温室効果ガスの排出権取引市場で取引する発明が特許文献2に開示されている。
また、自動車リース契約に係る自動車の燃料の給油量に応じて温室効果ガスの排出権をリース契約する顧客に付与することを内容とする発明が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−157842号公報
【特許文献2】特開2009−087317号公報
【特許文献3】特開2009−217401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されている発明では、個々の車輌では温室効果ガス排出量の削減量に対応する排出権を温室効果ガスの排出権取引市場での取引の対象としている。しかし、個人の場合、排出量の削減量は微々たるものであるために、排出権が小口となり、取引の対象にするにはコストがかかりすぎて、その普及は困難である。
特許文献3に開示されている発明は、燃料の供給量に応じてリース契約する顧客にこの排出権を与えるもので、燃料をより多く供給するほど、つまり、走行距離が長くなるほど排出権が大きくなるものであり、各リースの顧客による温室効果ガス排出の削減量に応じた排出権を導出するものではない。
【0007】
また、従来のいずれの発明も、車輌の運転者に対して、その車輌による二酸化炭素や窒素酸化物等の環境負荷物質の排出そのものを低減させるための動機付けを顧客に与えるものではない。
本発明は、従来のこのような問題を解消し、個々の車輌から排出される環境負荷物質の削減量に応じた小口の排出権を市場で取引可能なものに発展させるとともに、環境負荷物質の削減に対する動機付けを車輌運転者に与えることができる仕組みを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、排出権管理装置、排出権管理方法、及び、コンピュータプログラムを提供する。
本発明が提供する排出権管理装置は、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブルと、管理対象となる複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類するグループ管理手段と、個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に累積させるデータ取得手段と、一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて記憶する第1管理手段と、導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する第2管理手段と、前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する第3管理手段と、を備えて成る。
【0009】
本発明の排出権管理装置では、排出権の導出を複数の車輌から成るグループ単位で行うようにしたため、個々の車輌による微小の排出権を大口の排出権とすることができ、排出権取引に適したものとすることができる。また、燃料消費量の増減値、すなわち環境負荷物質排出の増減量に基づいて排出権を導出し、しかも排出権に起因して生じる経済的価値を、個々の車輌の貢献度に応じて配分するようにしているので、グループ内の公平性を担保することができ、車輌の運転者に対して、環境負荷物質を削減することの動機付けを与えることができる。
【0010】
ある実施の態様では、前記第1管理手段は、個々の車輌による前記第1期間と前記第2期間における燃料消費量、走行距離又は燃費同士を比較することにより得られる個別評価結果と、グループに属する全車輌の各期間の平均燃費と個々の車輌の燃料消費実績とにより得られるグループ内評価結果のうち、いずれか一方の結果を前記相対増減値として導出するように構成される。
この前記第1管理手段は、一のグループに属する全車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出するとともに、この平均燃費で個々の車輌が同じ期間中の走行距離を走行したと仮定した場合の仮定燃料消費量を車輌毎に算出し、前記第1期間の仮定燃料消費量と前記第2期間の仮定燃料消費量との差分値を当該グループに属する全車輌について合算することにより、当該グループ全体の前記第2期間の燃料消費量の全体増減値を導出し、この全体増減値に、グループ全体の差分値に対する個々の車輌の差分値との比率を乗じて相対増減値を導出することにより前記グループ内相対評価を行う。
あるいは、前記第1管理手段は、一のグループに属する全車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出し、前記第1期間のグループの平均燃費で前記第2期間の走行距離を走行したと仮定したときの燃料消費量と実際の燃料消費量との差分値を当該グループに属する車輌毎に算出し、これを前記相対増減値とすることにより前記グループ内相対評価を行う。
前記第1管理手段は、前記個別評価又は前記グループ内相対評価の結果が、所定倍数を超える場合は、前記配分の比率を変えるための調整値を出力するようにしてもよい。
【0011】
本発明が提供する排出権管理方法は、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブルと、記憶装置とを有するコンピュータ装置が実行する方法であって、管理対象となる複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類する段階と、個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に前記記憶装置へ累積させる段階と、一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて前記記憶装置へ記憶させる段階と、導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する段階と、前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する段階と、を有する、コンピュータ装置による排出権管理方法である。
【0012】
本発明が提供するコンピュータプログラムは、管理対象となる複数の車輌から直接又は間接にデータを取得する入力インタフェース、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブル、及び、記憶装置を有するコンピュータ装置を排出権管理装置として機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータ装置を、前記複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類するグループ管理手段、個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを前記入力インタフェースを通じて取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に前記記憶装置に累積させるデータ取得手段、一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて前記記憶装置に記憶する第1管理手段、導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する第2管理手段、前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する第3管理手段、として機能させるコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、個々の車輌から排出される環境負荷物質の削減量に応じた小口の排出権を市場で取引可能な大口のものに発展させ、これにより、取引に要する当事者のコストを低減して排出権取引の普及を促進させるとともに、環境負荷物質の個人努力による削減に対する動機付けを車輌運転者に与えることができ、結果的に環境負荷物質の実質的削減に貢献し得るという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】排出権管理装置によりどのように排出権を導出して排出権取引市場で取引を行うかを説明する概念図である。
【図2】排出権の導出に必要な構成の全体図である。
【図3】保険料算出システムの機能ブロック図である。
【図4】契約車データの例示図である。
【図5A】グループテーブルの例示図である。
【図5B】グループ別データの例示図である。
【図5C】グループ別データの例示図である。
【図6A】燃費データの例示図である。
【図6B】燃費データの例示図である。
【図7】グループ別燃費データの例示図である。
【図8A】排出量テーブルの例示図である。
【図8B】各車輌の温室効果ガスの増減量を表す排出量データの例示図である。
【図8C】各グループの温室効果ガスの増減量を表す排出量データの例示図である。
【図9】排出権テーブルの例示図である。
【図10】割引テーブルの例示図である。
【図11】排出権料テーブルの例示図である。
【図12】実施例1の排出権算定処理のフローチャートである。
【図13】実施例2の排出権算定処理のフローチャートである。
【図14】保険料決定の処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の排出権管理装置の実施形態例を詳細に説明する。
図1は、本発明の排出権管理装置の使用状況を表す概念図である。
本例では、環境負荷物質が、二酸化炭素のような温室効果ガスであり、排出権管理装置1は、予め登録した契約者が保有する車輌(以下、「契約車輌」という)の排出権を導出するように動作し、この排出権により獲得した排出権料を温室効果ガスの削減量に応じて還元する場合の例を挙げる。
【0016】
排出権管理装置1には、複数の契約車輌2から運行データ、すなわち、燃料消費量を表す消費量データ、走行距離を表す距離データ、その他契約車輌2の運転操作状況を表す各種データが、随時送られる。
排出権管理装置1は、複数の契約車輌2を所定の基準に従ってグルーピングして管理しており、各契約車輌2から取得した運行データをグループ毎に周期的に集計し、燃費消費量の増減値に基づくグループ毎の排出権を導出する。
この排出権は、排出権取引市場で取引の対象とされ、排出権料を得ることができる。
【0017】
図2は、上述した排出権管理装置1を構成要素の1つとして組み込んだ保険料算出システム3の概念図である。
保険料算出システム3は、例えば保険会社の建物内に設置され、契約車輌2の車載コンピュータ装置4から直接に、或いは記録媒体5、情報処理装置6及びネットワークNを通じて運行データを取得し、一定周期毎に集計する。
なお、排出権管理装置1は、保険料算出システム3と通信できれば良いので、別の独立した装置として設けられていてもよい。
【0018】
[車載コンピュータ装置]
契約車輌2には、上述した運行データを記憶し、この運行データを随時保険料算出システム3に向けて送出可能な車載コンピュータ装置4が設けられている。
車載コンピュータ装置4は、例えば、一般車輌に標準で搭載されているダイアグノーシス(diagnosis:各種センサーが正常に作動するかをチェックするための自己診断機能)用に設けられる外部出力端子に接続することができ、かつ、車輌内のCAN(Controler Area Network)を利用できるものである。
すなわち、ダイアグノーシスの外部出力端子に接続し、ダイアグノーシスで計測可能な各種の運行データを収集し、これを図示しないメモリに蓄積する。
運行データは、上述した距離データ、消費量データの他に、走行速度の経時変化、エンジン回転数の経時変化等を表すデータを含む。速度の変化やエンジン回転数の変化は、急発進、急加減速の度合いを表す。このような変化がなければ「エコドライブ」があったと推定される。また、消費量データにより表される燃料消費量は、アイドリングストップの励行により削減が可能である。
【0019】
車載コンピュータ装置4は、DSRC(Dedicated Short Range Communication)や携帯電話等の通信機器を装着することもできる。車載コンピュータ装置4がこのように構成される場合は、該通信機器により、保険料算出システム3に対して、DSRCによる狭域通信や携帯電話公衆波を用いて、直接、運行データの送信が行われる。車載コンピュータ装置4が、外部メモリ5が接続可能な端子を備える場合には、車載コンピュータ装置4に記憶される運行データは、外部メモリ5に記録される。
【0020】
[情報処理装置]
情報処理装置6は、保険料算出システム3との間で双方向通信が可能なコンピュータ装置であり、契約車輌2の車載コンピュータ装置4から読み出された運行データを記憶した外部メモリ5が装着可能になっている。情報処理装置6は、装着された外部メモリ5から運行データを読み出し、これをネットワークNを介して保険契約更新毎に保険料算出システム3に伝達する。
なお、保険料算出システム3は、車載コンピュータ装置4から直接取得する場合、不定期に運行データを取得するようにしてもよい。保険料算出装置3では、不定期に取得する運行データを、ある周期毎、例えば年度毎あるいは月毎に累積させることで、グループ及び個々の契約車輌2の運行データを、排出権管理装置1において管理することができる。
【0021】
[保険料算出システム]
保険料算出システム3は、通信機能を備えたサーバ装置であり、車載コンピュータ装置4或いは情報処理装置6から取得した運行データを用いて温室効果ガスの排出量と排出権とを導出するとともに、この排出権の取引により得られる排出権料を管理する。
また、排出権料を契約車輌2毎に分配して保険料を決定する。保険料算出システム3には、入力装置及び出力装置が接続されている。
【0022】
図3は、保険料算出システム3の機能ブロック図である。
保険料算出システム3は、所定のプログラムを実行することにより、ハードウェア部分と協働で形成される、入力制御部11、出力制御部12、契約車輌管理部13、燃費等管理部14、排出量管理部15、排出権管理部16、保険料管理部17、主制御部18、及び記憶部19を備えている。保険料算出システム3から保険料管理部17を除いた構成が、排出権管理装置1の一例となる。
【0023】
入力制御部11は、保険料算出システム3に接続される入力装置や、ネットワークNを介して、情報処理装置6や契約車輌2の車載コンピュータ装置4から運行データその他のデータを取得して各管理部に入力するための制御を行う。入力装置は、キーボード、テンキー、マウス等である。
【0024】
出力制御部12は、保険料算出システム3に接続される出力装置や、ネットワークNを介して、情報処理装置6や契約車輌2の車載コンピュータ装置4へ各種情報を出力するための出力制御を行う。出力装置は、ディスプレイ、プリンタ等である。
【0025】
契約車輌管理部13は、複数の契約車輌2を、所定基準に基づいてグルーピングして管理するグループ管理手段として機能する。グルーピングの基準としては、例えば同じ属性の契約車輌、例えば車種(排気量、装備状況、年式等を考慮する)、燃料消費量、燃費、主たる走行時間帯又は走行距離が、統計的に同じとなるようにする。
個々の契約者又は契約車輌を一意に識別できる識別情報を設定することは勿論、各契約車輌2が所属するグループについても、それを一意に識別できる識別情報、例えばI、II、III・・・のような分類記号を設定する。
【0026】
燃費等管理部14は、契約車輌毎及びグループ毎の燃費及び燃料消費量を、月間、年間等の期間別に累積し、複数の期間中の燃費等の変化を管理する管理手段として機能する。期間の開始を契機に蓄積を開始し、期間満了する度にそれまでの累積値を記憶部17に記憶させる。
【0027】
排出量管理部15は、燃料等管理部14で管理されている期間別の契約車輌毎及びグループ毎の燃費及び燃料消費量に基づいて燃料消費量の実際の増減値を算出し、算出結果に基づいて、排出権導出の基礎となる温室効果ガス排出の増減量と、グループ全体の温室効果ガス排出の増減に貢献した個々の契約車輌の貢献度合いを導出する。
温室効果ガス排出の増減量は、契約車輌毎に、ある期間(第1期間)中の燃料消費量の実績値と次の期間(第2期間)中の燃料消費量との比較により導出する。グループ全体のものは、当該グループに属するすべての契約車輌についての増減量を合算する。合算の結果、燃料消費量が減少したときは、減少分の温室効果ガスが削減されたことになる。
【0028】
貢献度合いについては、個々の契約車輌の実績値に基づいて導出する個別評価と、グループ全体の燃料消費量の増減値に対する個々の契約車輌の増減値との比較により導出するグループ内相対評価の2つがあり、これらのいずれか、あるいは双方を組み合わせて貢献度合いを定量化する。例えば個別評価とグループ内評価のうち削減効果が大きい方を当該契約車輌の貢献度合いを表す数値として採用する。個別評価及びグループ内相対評価により算定された数値は、契約車輌2の識別情報と関連付けて記憶部19に記憶しておく。
【0029】
排出権管理部16は、グループ全体の燃料消費量の増減値に基づく温室効果ガスの増減量に対応する排出権を後述する各種テーブルより読み出し、読み出した排出権を当該グループの第2周期における排出権として特定する。この排出権を排出権取引市場で取引の対象とし、これにより排出権料が得られるようにする。
排出権管理部16は、また、取引により得られた排出権料を、個別評価及びグループ内相対評価(加点調整値又は減点調整値を含む)に基づいて、各契約車輌について配分するための処理を行う。
【0030】
保険料管理部17は、配分された排出権料に基づいて各契約車輌2の保険料を決定する。主制御部18は、保険料算出システム3内の各機能ブロックの動作を制御する。主制御部18は、また、入力装置から入力されるデータにより記憶部19に記憶される各種データの更新を行い、また、各種処理を実行する。
【0031】
記憶部19は、契約車輌記憶部191、グループ記憶部192、年度別燃費等記憶部193、グループ別燃費等記憶部194、及び排出量記憶部195に分けられ、更に、排出権テーブル196、割引テーブル197、及び排出権料テーブル198を備える。
契約車輌記憶部191は、契約車輌2に関する情報が記憶される。グループ記憶部192には、契約車輌2をグルーピングしたグループに関する情報が記憶される。年度別燃費等記憶部193には、各契約車輌2の年度別の燃費、燃焼消費量の情報が記憶される。グループ別燃費等記憶部194には、グループ毎の燃費、燃焼消費量の情報が記憶される。排出量記憶部195には温暖化ガスの排出量に関する情報が記憶される。
排出権テーブル196は、燃料消費量又は温暖化ガスの排出量の増減値に対応する排出権の情報が記憶されている。割引テーブル197は保険料決定に用いるパラメータが記憶されている。排出権料テーブル198には、排出権に対応する排出権料に関する情報が記憶されている。
【0032】
図4は、契約車輌記憶部191に記憶される契約者データの例示図である。契約者データには、相互に関連付けられた契約内容の識別情報、契約者情報、契約車輌情報及び運行データが含まれる。
契約者情報は、契約車輌2を所有する契約者の氏名、住所、年齢、等級等であり、契約車輌情報は、契約車輌2の識別情報、型式、後述するグループテーブルを参照して決められる所属グループ、排気量、車輌重量、安全装備等である。契約者情報及び契約車輌情報は、例えば入力装置により書き換え可能となっている。このような契約内容によって、契約者の個人情報や安全装備等を考慮した契約車輌2の保険料の調整係数が算出される。運行データは、情報処理装置6又は車載コンピュータ装置4から入力制御部11を通じて取得され、契約車輌記憶部191に期間別に累積される。
【0033】
図5A〜5Cは、グループ記憶部192に記憶されるグループデータの例示図である。契約車輌2は、型式等により燃費が異なる。また、契約車輌2が普段走行する地域又は時間帯によって、同じ車種等の車輌であっても燃費が異なるし、走行距離にもバラツキが生じる。
そこで、契約車輌管理部13は、複数の契約車輌2を、基本的には、型式、燃料消費量、燃費、走行時間帯又は走行距離が、統計的にほぼ同じとなる契約車輌毎にグルーピングした後、さらに、マイカー通勤の多い郊外部、渋滞の多い都心部、主たる運行時間帯といった、契約車輌2の利用される地域性を反映させて、グルーピングの調整を行い、その結果を、契約者データの契約車輌情報に記憶させる。
【0034】
図5Aは、契約車輌管理部13によってグルーピングを行うための分類ルールを定めたグループテーブルの例示図であり、入力装置から入力されるデータにより書き換え可能になっている。
図5Aを例にすると、型式が「GSR200」で、都区部に主たる所在地のある契約車輌2は、グループI、埼玉郊外に主たる所在地のある契約車輌2は、グループVに所属させる。
なお、図示を省略しているが、契約車輌2を型式ではなく、10/15モード燃費等のカタログスペックのような基準でグルーピングしてもよい。
図5B、5Cは、図5Aで示されるテーブルに基づいてグルーピングされた契約車輌2の識別情報をグループ毎に記述したグループ別データの例示図である。図5Bは2009年のグルーピングの結果の例示図であり、図5Cは2008年のグルーピングの結果の例示図である。期間は年度で行っている。今年度のほかに前年度のグループ別データを保持するのは、契約者の事情の変化に対応させることで、グループに属する契約車輌同士の均質化を図るためである。
【0035】
図6A、6Bは、燃費等管理部14で導出され、年度別燃費等記憶部183に記憶される燃費、燃料消費量その他燃料消費に関するデータ、すなわち燃費データの例示図である。この例でも期間は年度としている。
図6Aは、2009年度の各契約車輌2の燃費データの例示図であり、図6Bは、2008年度の各契約車輌2の燃費データの例示図である。年度間の比較を行うため、燃費データは、各契約車輌2とも少なくとも複数年度分のものが記憶されるようにする。
なお、各契約車輌2の燃費は、契約車輌記憶部191の各契約車輌2について予め記憶されている契約者データと関連付けて記憶されていてもよい。この場合、年度別燃費等記憶部183を別途用意することがなくなる。
【0036】
図7は、燃費等管理部14で導出され、グループ別燃費等記憶部184に記憶されるグループ別燃費データの例示図である。グループ毎に、当該グループに属する全契約車輌2の走行距離の合算値、燃料消費量の合算値、平均燃費が契約車輌記憶部191の運行データに基づいて算出され、その結果が項目「走行距離」、「燃料消費量」、「燃費」の各データとして累積される。
【0037】
図8A〜8Cは、排出量管理部15で導出され、排出量記憶部195に記憶されるデータの例示図であり、図8Aは、排出量記憶部195に記憶される換算用テーブル(便宜上、排出量テーブルと称する)を例示している。排出量テーブルには、燃料消費量と科学的根拠に基づく温室効果ガスの排出量との対応関係を表す換算データが記憶されている。この換算データは、例えば環境省により公表されている「温室効果ガス総排出量算定方法ガイドライン」に記述されている、両者の対応関係情報に基づいて作成したものである。
燃料の種類によって温室効果ガスの排出量が異なるため、排出量テーブルには、ガソリン、軽油等の種類毎に、排出される温室効果ガスの量が決められている。図8Aでは、燃料の種類毎に1リッター毎の温室効果ガス排出量(kg)を表している。排出量テーブルにより、燃料消費量の削減量1リッター当たり削減される温室効果ガスの量がわかる。
【0038】
図8Bは、排出量記憶部195に記憶される、個々の契約車輌2についての温室効果ガス排出の増減量の例示図である。
排出量管理部15でグループの燃費データ、契約車輌2の燃費データ、及び排出量テーブルに基づいて導出された排出量が、契約車輌2が属するグループの識別情報と共に記憶される。図8Bの例では、識別情報「AAAA」の契約車輌2による温室効果ガスが194.8[kg]増加し、識別情報「BBBB」の契約車輌2による温室効果ガスが153.4[kg]減少している。識別情報「AAAA」、「BBBB」の各契約車輌2の温室効果ガス排出の増減量の算出の仕方については、燃料等管理部15の機能として説明したとおりである。
【0039】
図8Cは、排出量記憶部195に記憶される、各グループの温室効果ガス排出の増減量の例示図である。図8Bに示した各契約車輌2の増減量の合算値が当該グループ全体の温室効果ガス排出の増減量として記憶される。図8Cの例では、グループIVの温室効果ガスが3000[kg]減少し、グループVIIの温室効果ガスが1200[kg]増加したことを示している。
【0040】
図9は、排出権テーブル196の例示図である。排出権テーブル196では、温室効果ガスの種類毎に、その削減量1kg当たりの排出権を定量化するための数値が記憶されている。図示の例では、二酸化炭素(CO2)の場合は、1kg当たり「2.3」の排出権に相当することが記憶されている。このように排出権を定量化するための数値は、国際的な取り決めに基づいて定められているので、それを用いることができる。
【0041】
図10は、保険料の割引係数を導出するための割引テーブル197の例示図である。割引係数は、燃料消費量が小さくなるほど、また、走行距離が短くなるほど大きくなるように設定される。つまり、温室効果ガスの排出量が少なくなるほど割引係数が大きくなる。図10の割引テーブル197では、燃料消費量が、その量に応じて区分1〜3の3つの区分に分けられており、区分3が最も燃料消費量が小さい。走行距離は、その距離に応じて区分1〜4の4つの区分に分けられており、区分4が最も走行距離が短い。
なお、燃料消費量及び走行距離の区分数は、任意に設定することができる。
【0042】
図11は、グループ毎の排出権料を表す排出権料テーブル198の例示図である。この排出権料テーブル198に記憶される排出権料は、排出権を排出権取引市場で取引することで得られる金額であるが、取引前は目安として、取引後は取引実績値として記憶される。
【0043】
<排出権管理処理>
次に、保険料算出システム3により行われる排出権管理処理の具体例を説明する。
排出権管理処理は、排出権導出処理と個々の契約車輌の貢献度合いの決定処理とに分かれる。
【0044】
[排出権導出処理]
図12は、排出権導出処理の手順説明図である。排出権については、複数の契約車輌から成る1つのグループで1つの排出権を導出する。
まず、契約車輌2から情報処理装置6を介して或いはダイレクトに送信される運行データを、当該契約車輌2の識別情報、日時情報とともに取得し(ステップS10)、取得した運行データを契約車輌記憶部191に累積させる。運行データは、一定の期間毎、本例では年度毎に累積される。
【0045】
運行データが第1期間及び第2期間の満了まで累積されると(ステップS11:Y)、排出量管理部15は、契約車輌毎に、第1期間と第2期間の燃料消費量の増減値を算出するとともに(ステップS12)、その結果に基づいてグループ毎の燃料消費量の増減値を算出する(ステップS13)。そして、これらの算出結果に基づいて、排出権導出の基礎となる温室効果ガス排出の増減量を導出する(ステップS14)。その後、排出権管理部16において、温室効果ガス排出の増減量から、排出権テーブル196を参照して、グループ全体の排出権を導出する(ステップS15)。導出した排出権は、記憶部19内にグループ毎に記憶され、必要に応じて、所定書式の「証書」として、出力制御部12を通じて出力装置に出力される。
【0046】
排出権は、少なくとも1つのグループでまとめて排出権取引市場で取引の対象とされ、排出権料を得ることができる。実際の取引により得られた排出権料は、そのグループに所属する契約車輌の温室効果ガス削減に対する貢献度合いに応じて配分される。
【0047】
[貢献度合い決定処理]
貢献度合いについては、個々の契約車輌の実績値に基づいて導出する個別評価と、グループ全体の燃料消費量の増減値に対する個々の契約車輌の増減値との比較により導出するグループ内相対評価の2つがある。排出量管理部15は、これらのいずれか、あるいは双方を組み合わせて貢献度合いを定量化する。
【0048】
個別評価では、例えば契約車輌Aの第1期間中の実際の燃料消費量よりも第2期間中の実際の燃料消費量が低減している場合は、その差分値を契約車輌Aについての実績値とする。契約車輌Aの第1期間中の燃費と第2期間中の燃費との比較によって実績値を導出するようにしてもよい。また、運転操作傾向が改善されることによって、いわゆるエコドライブが推進された程度が客観的に特定できる場合、例えば同じ走行環境のもとで燃費が向上した場合は、その向上率、その程度に応じて実績値を増加させるようにしてもよい。
【0049】
グループ内相対評価方式には、図13に示す手順で行う第1方式と、図14に示す手順で行う第2方式とがあり、いずれか一方を選択することができる。
[第1方式]
図13を参照すると、排出量管理部15は、一のグループに属する全契約車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別、例えば年度別に算出する(ステップS20)。グループの平均燃費は、第1期間(昨年度)と第2期間(今年度)について算出する。
次に、グループの平均燃費で同じ年度の走行距離を走行したと仮定した場合の仮定燃料消費量を、当該グループに属する契約車輌毎に、第1期間(昨年度)と第2期間(今年度)について算出する(ステップS21)。
そして、第1期間の仮定燃料消費量と第2期間中の仮定燃料消費量との差分値を当該グループに属する全契約車輌について合算し、これを当該グループ全体の第2期間中の燃料消費量の増減値(全体増減値)とする(ステップS22)。
その後、この全体増減値に、グループ全体の差分値に対する個々の契約車輌の差分値との比率を乗じて相対増減値を導出する(ステップS23)。
【0050】
例えば、当該グループ全体の第1期間に対する第2期間の燃料消費量が10kリッター減で、ある契約車輌の差分値とグループ全体の差分値との比が0.01(相対比率)であったとすると、グループ内相対評価により導出される燃料消費量の相対増減値は、100リッター減となる。
【0051】
[第2方式]
図14を参照すると、排出量管理部15は、一のグループに属する全契約車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出すること(ステップS30)は、第1方式と同じである。
第2方式では、第1期間中のグループの平均燃費で第2期間中の走行距離を走行したと仮定したときの燃料消費量と実際の燃料消費量との差分値を当該グループに属する契約車輌毎に算出し、これを相対増減値とする(ステップS31)。
この相対増減値は、以下の式によって求めることができる。
相対増減値=第2期間中の燃料消費量
×{(第2期間中の当該契約車輌の平均燃費)
÷(第1期間中のグループの平均燃費)}
−1
【0052】
例えば、一のグループの第1期間中の燃料消費量の合算値が30kリッタ−、走行距離の合算値が189,000kmであったとすると、第1期間中のグループの平均燃費は、6.3km/リッターとなる。
第2期間中、当該グループに属する契約車輌Bの燃料消費量が600リッター、走行距離が4200km、期間中の平均燃費が7km/リッターであった場合、契約車輌Bが同じ走行距離をグループの平均燃費で走行したと仮定したときの燃料消費量は、4200km÷6.3km/リッター=666.7リッターとなる。第2期間中の実際の燃料消費量は600リッターなので、結局、66.7リッター減となる。
【0053】
排出量管理部15は、個別評価とグループ内相対評価とを併用し、例えば個別評価とグループ内評価のうち削減効果が大きい方、すなわち相対増減値の大きい方を当該契約車輌の貢献度合いを表す数値として採用する。これにより、第2期間中、いわゆるエコドライブを集中的に励行した契約者ほど個別評価によって貢献度合いが高くなり、他方、走行距離が伸びて燃料消費量が増加しても、エコドライブを励行する契約車輌についてはグループ内相対評価によって貢献度合いが高くなるため、結果的に、エコドライブを奨励することにつながる。
【0054】
個別評価及びグループ内相対評価により算定された相対増減値は、契約車輌2の識別情報と関連付けて記憶部19に記憶しておく。
なお、個別評価にしても、グループ内相対評価にしても、第1期間中よりも第2期間中の燃費又は燃料消費量が所定倍、例えば1.2倍以上変化している場合は、相対増減値に乗算する加点調整値(向上した場合)又は減点調整値(悪化した場合)として算定するようにしてもよい。この場合、各調整値は、当該契約車輌2の識別情報と関連付けて記憶しておく。
これにより、燃費が悪化するような運転操作を抑制し、いわゆるエコドライブを心がける強い動機付けを契約者に与えることができる。
【0055】
<保険料算出処理>
保険料管理部17は、図15に示す手順で契約車輌2毎に保険料を算出する。
すなわち、契約車輌記憶部191から保険料の算出対象となる契約車輌2の契約車データを取得する(ステップS40)。これにより、当該契約車輌2が所属するグループと、昨年度及び今年度の走行距離及び燃料消費量がわかる。
【0056】
保険料管理部17は、今年度の燃料消費量及び走行距離により、割引テーブル197を参照して、割引係数を特定する(ステップS41)。燃料消費量による区分及び走行距離による区分に応じて割引係数が特定される。
【0057】
保険料管理部17は、契約車データにより該契約車輌2が属するグループを確認し、確認したグループの排出権料を排出権料テーブル198から読み出す。保険料管理部17は、読み出した排出権料と、排出量記憶部195に記憶された該契約車輌2の温室効果ガスの増減量と、ステップS31で特定した割引係数と、契約車データの内容とから、保険料の増減額を算出する(ステップS42)。
保険料管理部17は、算出した保険料の増減額を反映して保険料を決定する。保険料算出システム3は、例えば決定した保険料を通信制御部13から情報処理装置6或いは契約車輌2の車載コンピュータ装置4に通知してもよい。通知の際には、単に保険料を通知するのみならず、保険契約の更新申込書の書式で送信して、契約者に保険の更新を促すようにしてもよい。
【0058】
このように、本実施形態の保険料算出システム3では、グループで得られる排出権料を保険料に反映させることで、保険の契約者が温室効果ガス排出の削減を行う動機付けを与えるものとなる。保険料という形で、契約者に温室効果ガス排出量の削減を意識させることができる。このようにして排出権を算出することで、1つの契約車輌2では小口の排出権しか生成できない場合でも、グループに属する複数の契約車輌2で大口の排出権を生成できる。そのために、排出権取引市場において、従来よりも取引の対象になりやすい。
【0059】
[運用例]
保険料算出システム3の運用例を以下に示す。
年間走行距離が6000[km]程度の契約車輌2により、エコドライブを行うことでどの程度の燃料消費量の削減量及び排出権が期待されできるかを説明する。
エコドライブでは、信号及び踏み切りにおけるアイドリングストップ、発進時には2000回転までのふんわりアクセル(エコドライブ前は3000回転までアクセル)、アクセルオフ・加減速はエコ運転(エコドライブ前は通常運転)を行う。1日の走行距離が20[km]で1ヶ月に27日間走行する場合、契約車輌2の年間の走行距離が6480[km]になる。排気量が1800[cc]〜2000[cc]の自動車では、一般的に燃料消費量1リッター当たり8[km]走行可能である。この場合、1ヶ月の燃料消費量が67.5リッターになる。
【0060】
エコドライブを行うことで、以下のような効果が得られる。
(1)アイドリングストップにより、1日合計でおよそ10分間エンジンを切ることができ、260ミリリッターの燃料の節約になる。1ヶ月当たりでは、7リッターの燃料節約になる。
(2)ふんわりアクセルを励行することで、10%の燃料節約が期待でき、1ヶ月当たり6.8リッターの燃料節約になる。
(3)アクセルオフ・加減速エコ運転の励行により、2.2%の燃料節約が期待でき、1ヶ月当たり2.7リッターの燃料節約になる。
上記(1)〜(3)により、1ヶ月当たり16.5リッターの燃料を節約できる。年間では198リッターの燃料が削減される。温室効果ガスに換算すると455[kg]の温室効果ガスの削減が見込まれる。
【0061】
同様の契約車輌2が100万台参加すれば、45万5000トンの排出権が生成される。欧州の排出権取引市場では、1トンあたり1500円程度で排出権の取引が行われるために、45万5000トンで6億8250万円の取引額が想定される。保険料に取引額を反映させる場合には、エコドライブによる温室効果ガスの削減効果に応じて、100万台の契約車輌2に振り分けられる。
現在、日本には約5000万台の自動車が登録されており、このうち2%の自動車が契約車輌2として本発明の排出権管理装置に参加することで、この額の経済効果が見込まれる。全自動車メーカー、全保険会社により取り組むことが可能であれば、更に温室効果ガスを削減することが期待できる。
【0062】
なお、本明細書では、環境負荷物質として温室効果ガス(二酸化炭素等)を例に挙げて説明したが、車輌から排出される鉛、水銀、六価クロム、カドミウムのような有害物質についても、上記と同様の処理内容によって、その増減量を排出権の対象として管理できるものである。
【符号の説明】
【0063】
1…排出権算定装置、11…入力制御部、12…出力制御部、13…契約車輌管理部、14…燃費等管理部、15…排出量管理部、16…排出権管理部、17…保険料管理部、18…主制御部、19…記憶部、191…契約車輌記憶部、192…グループ記憶部、193…年度別燃費等記憶部、194…グループ別燃費等記憶部、195…排出量記憶部、196…排出権テーブル、197…割引テーブル、198…排出権料テーブル、2…契約車輌、3…保険料算出システム、4…車載コンピュータ装置、5…外部メモリ、6…情報処理装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブルと、
管理対象となる複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類するグループ管理手段と、
個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に累積させるデータ取得手段と、
一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて記憶する第1管理手段と、
導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する第2管理手段と、
前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する第3管理手段と、
を備えて成る排出権管理装置。
【請求項2】
前記第1管理手段は、個々の車輌による前記第1期間と前記第2期間における燃料消費量、走行距離又は燃費同士を比較することにより得られる個別評価結果と、グループに属する全車輌の各期間の平均燃費と個々の車輌の燃料消費実績とにより得られるグループ内評価結果のうち、いずれか一方の結果を前記相対増減値として導出する、
請求項1記載の排出権管理装置。
【請求項3】
前記第1管理手段は、一のグループに属する全車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出するとともに、この平均燃費で個々の車輌が同じ期間中の走行距離を走行したと仮定した場合の仮定燃料消費量を車輌毎に算出し、前記第1期間の仮定燃料消費量と前記第2期間の仮定燃料消費量との差分値を当該グループに属する全車輌について合算することにより、当該グループ全体の前記第2期間の燃料消費量の全体増減値を導出し、この全体増減値に、グループ全体の差分値に対する個々の車輌の差分値との比率を乗じて相対増減値を導出することにより前記グループ内相対評価を行う、
請求項2記載の排出権管理装置。
【請求項4】
前記第1管理手段は、一のグループに属する全車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出し、前記第1期間のグループの平均燃費で前記第2期間の走行距離を走行したと仮定したときの燃料消費量と実際の燃料消費量との差分値を当該グループに属する車輌毎に算出し、これを前記相対増減値とすることにより前記グループ内相対評価を行う、
請求項2記載の排出権管理装置。
【請求項5】
前記第1管理手段は、前記個別評価又は前記グループ内相対評価の結果が、所定倍数を超える場合は、前記配分の比率を変えるための調整値を出力する、
請求項2記載の排出権算定装置。
【請求項6】
環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブルと、記憶装置とを有するコンピュータ装置が実行する方法であって、
管理対象となる複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類する段階と、
個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に前記記憶装置へ累積させる段階と、
一のグループに属する全車輌の第1期間(昨年度)における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて前記記憶装置へ記憶させる段階と、
導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する段階と、
前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値(排出権料)を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する段階と、を有する、
コンピュータ装置による排出権管理方法。
【請求項7】
管理対象となる複数の車輌から直接又は間接にデータを取得する入力インタフェース、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブル、及び、記憶装置を有するコンピュータ装置を排出権管理装置として機能させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータ装置を、
前記複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類するグループ管理手段、
個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを前記入力インタフェースを通じて取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に前記記憶装置に累積させるデータ取得手段、
一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて前記記憶装置に記憶する第1管理手段、
導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する第2管理手段、
前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する第3管理手段、
として機能させるコンピュータプログラム。
【請求項1】
環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブルと、
管理対象となる複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類するグループ管理手段と、
個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に累積させるデータ取得手段と、
一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて記憶する第1管理手段と、
導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する第2管理手段と、
前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する第3管理手段と、
を備えて成る排出権管理装置。
【請求項2】
前記第1管理手段は、個々の車輌による前記第1期間と前記第2期間における燃料消費量、走行距離又は燃費同士を比較することにより得られる個別評価結果と、グループに属する全車輌の各期間の平均燃費と個々の車輌の燃料消費実績とにより得られるグループ内評価結果のうち、いずれか一方の結果を前記相対増減値として導出する、
請求項1記載の排出権管理装置。
【請求項3】
前記第1管理手段は、一のグループに属する全車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出するとともに、この平均燃費で個々の車輌が同じ期間中の走行距離を走行したと仮定した場合の仮定燃料消費量を車輌毎に算出し、前記第1期間の仮定燃料消費量と前記第2期間の仮定燃料消費量との差分値を当該グループに属する全車輌について合算することにより、当該グループ全体の前記第2期間の燃料消費量の全体増減値を導出し、この全体増減値に、グループ全体の差分値に対する個々の車輌の差分値との比率を乗じて相対増減値を導出することにより前記グループ内相対評価を行う、
請求項2記載の排出権管理装置。
【請求項4】
前記第1管理手段は、一のグループに属する全車輌の燃料消費量の合算値及び走行距離の合算値に基づいて当該グループの平均燃費を期間別に算出し、前記第1期間のグループの平均燃費で前記第2期間の走行距離を走行したと仮定したときの燃料消費量と実際の燃料消費量との差分値を当該グループに属する車輌毎に算出し、これを前記相対増減値とすることにより前記グループ内相対評価を行う、
請求項2記載の排出権管理装置。
【請求項5】
前記第1管理手段は、前記個別評価又は前記グループ内相対評価の結果が、所定倍数を超える場合は、前記配分の比率を変えるための調整値を出力する、
請求項2記載の排出権算定装置。
【請求項6】
環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブルと、記憶装置とを有するコンピュータ装置が実行する方法であって、
管理対象となる複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類する段階と、
個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に前記記憶装置へ累積させる段階と、
一のグループに属する全車輌の第1期間(昨年度)における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて前記記憶装置へ記憶させる段階と、
導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する段階と、
前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値(排出権料)を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する段階と、を有する、
コンピュータ装置による排出権管理方法。
【請求項7】
管理対象となる複数の車輌から直接又は間接にデータを取得する入力インタフェース、環境負荷物質の排出が許容される枠を定量的に表す排出権と燃料消費量又はその増減値との対応関係を記録したテーブル、及び、記憶装置を有するコンピュータ装置を排出権管理装置として機能させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータ装置を、
前記複数の車輌を所定基準に従って1つのグループに分類するグループ管理手段、
個々の車輌の燃料消費量及び走行距離を含む運行データを前記入力インタフェースを通じて取得し、取得した運行データを当該車輌及びグループの識別情報と関連付けて一定期間毎に前記記憶装置に累積させるデータ取得手段、
一のグループに属する全車輌の第1期間における燃料消費量の合算値とその後の第2期間における燃料消費量の合算値との差分に基づいて当該グループ全体の燃料消費量の増減値を導出するとともに、この増減値に対する個々の車輌の貢献度を定量化し、定量化された貢献度を当該車輌の識別情報と関連付けて前記記憶装置に記憶する第1管理手段、
導出された前記増減値に対応する前記排出権を前記テーブルの対応関係をもとに特定する第2管理手段、
前記特定された排出権に起因して生じる経済的価値を前記貢献度に応じて当該グループに属する各車輌へ配分する第3管理手段、
として機能させるコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−48522(P2012−48522A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190388(P2010−190388)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(595140170)東京海上日動火災保険株式会社 (13)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(595140170)東京海上日動火災保険株式会社 (13)
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