説明

環境障壁被覆膜系を含む物品、及びその製造方法

【課題】 高温環境において使用するための物品、及びそのような環境において物品を保護するための方法が提供される。
【解決手段】 物品(10)は、シリコンから成る基板(20)と;シリコンから成り、基板(20)の上に配置されたボンディングコート(30)と;ボンディングコート(30)の上に配置された中間バリア(40)であって、少なくとも1つの層(70)を具備し、少なくとも1つの層(70)は、希土類ケイ酸塩から成り、ムライトを実質的に含まない中間バリア(40)と;希土類一ケイ酸塩から成り、中間バリア(40)の上に配置されたトップコート(50)とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温機械部品に関する。特に、本発明は、機械部品を、高温環境にさらされることから保護するための被覆膜系に関する。また、本発明は、物品を保護するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、セラミック、合金、及び金属間化合物などのシリコン含有材料は、ガスタービンエンジン、熱交換器、及び内燃機関のような用途において、高温環境の中で使用することを目的として設計された構造に使用するのに有益な特性を提供する。しかし、そのような用途の環境特性には、多くの場合、水蒸気が含まれる。周知のように、高温の水蒸気は、表面に著しく大きなリセスを形成し、シリコン含有材料の質量損失を引き起こす。高温で、水蒸気は、構造材料と反応し、揮発性の高いシリコン含有種を形成する。その結果、リセス形成速度は、許容しがたいほど速くなる。
【0003】
高温の水蒸気による作用を受けやすいシリコン含有材料に塗布される環境障壁被覆膜(EBC)は、水蒸気と材料の表面との接触を阻止することにより、材料を保護する。EBCは、高温の水蒸気を含有する環境の中で、化学的に相対的に安定し、且つ材料の表面と環境との間に、材料を水蒸気にさらすような経路を形成する連結した空隙や、縦亀裂の発生を最小限に抑えるように設計される。亀裂の形成は、EBCと、その下方にある材料との熱膨張の不整合をできる限り小さくすることにより最小限に抑えられ、また、異なる材料から成る複数の層を使用することによって、接着力及び環境耐性の改善を実現できる。特許文献1に記載されるような、従来のEBC系の一例は、シリコンを含有する基板に塗布されたシリコン又はシリカのボンド層と;ムライト、又はムライトとアルカリ土類アルミノケイ酸塩との混合物から成り、ボンド層の上に蒸着された中間層と;アルカリ土類アルミノケイ酸塩から成り、中間層の上に蒸着されたトップ層とを具備する。特許文献2においては、上記のボンド層と中間層は使用されるが、トップ層は、アルミノケイ酸塩ではなく、ケイ酸イットリウム層である。
【0004】
上記の被覆膜系は、約1,200°Cまでの温度では、基板を適切に保護するが、ガスタービン及び他の高温機器の設計が進歩するにつれて、それより更に高い温度に長期間さらされても、それに耐えられる材料が要求されるようになってきている。従って、水蒸気を含む高温環境に長期間さらされても、それに耐える能力を有する環境障壁被覆膜系により保護された物品を提供することが必要とされる。更に、そのような高温環境から物品を保護するための方法を提供することが必要とされる。
【特許文献1】特開2000−343642号
【特許文献2】特開2000−355753号
【発明の開示】
【0005】
上記の必要及びその他の必要に対応するために、本発明の実施形態が提供される。1つの実施形態は、高温環境において使用するための物品である。物品は、シリコンから成る基板と;シリコンから成り、基板の上に配置されたボンディングコートと;ボンディングコートの上に配置された中間バリアであって、少なくとも1つの層を具備し、少なくとも1つの層は、希土類ケイ酸塩から成り、ムライトを実質的に含まない中間バリアと;希土類一ケイ酸塩から成り、中間バリアの上に配置されたトップコートとを具備する。
【0006】
本発明の第2の実施形態は、高温環境から物品を保護するための方法である。方法は、シリコンから成る基板を提供することと;シリコンから成るボンディングコートを基板の上に配置することと;希土類ケイ酸塩から成り、ムライトを実質的に含まない少なくとも1つの層を具備する中間バリアをボンディングコートの上に配置することと;希土類一ケイ酸塩から成るトップコートを中間バリアの上に配置することとから成る。
【0007】
本発明の上記の特徴、面及び利点、並びにその他の特徴、面及び利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読むことにより、更に良く理解されるであろう。図面を通して、同じ図中符号は、同じ部分を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
最新の設計によるガスタービン及び他の高温機器において、その部品は、数千時間又は数万時間にもわたり、1,300°Cを超える温度にさらされるという状況に耐えることを要求される。これは、従来のEBC系の当初の設計目標であった環境の苛酷さをはるかに超える環境を表している。そのような高温にさらされた結果、従来のEBCシステムの性能は許容しがたいほど劣化することを、発明者は発見した。1,300°C以上の温度におけるそのような劣化の原因として認識されたのは、(1)アルミノケイ酸塩のトップコートと、気体環境に含まれる水蒸気とが激しく反応することにより、トップコートのリセス形成速度が許容しがたいほど速くなること;及び(2)ムライト‐アルミノケイ酸塩中間層と、シリコンボンド層との化学的相互作用が相当に大きいため、ボンド層の消費が加速され、ボンド層と中間層の境界で、ふくらみや亀裂が発生することなどである。本発明の実施形態は、少なくともこれら2つの劣化の原因に対処する。
【0009】
図1を参照すると、本発明の一実施形態は、高温環境において使用するための物品10であり、物品10は、シリコンから成る基板20を具備する。いくつかの実施形態では、基板20は、窒化シリコン、二ケイ化モリブデン、及び炭化シリコンのうちの少なくとも1つから成る。基板の材料として特に適しているのは、炭化シリコンから成る繊維によって補強された炭化シリコンマトリクスから成るセラミックマトリクス複合材料であるが、シリコンを含有するセラミックマトリクス材料と繊維補強材料の他の組み合わせも、同様に基板材料として適している。本発明の特定の実施形態においては、基板20は、例えば、燃焼ライナ、シュラウド、あるいはノズル又はブレードなどのエーロフォイル部品のような、ガスタービンエンジンの1つの構成要素から成る。
【0010】
EBC系60の接着力及び障壁特性を向上するために、基板20の上に、シリコンから成るボンディングコート30が配置される。いくつかの実施形態では、ボンディングコート30は、元素シリコン(例えば、ほぼ純粋なシリコン層)、シリカ、又はケイ化物のうちの少なくとも1つから成る。ボンディングコート30として選択される厚さは、例えば、保護されるべき特定の基板材料の種類、耐えるべき温度及び他の環境条件、並びに被覆膜の予想耐用年数を含む多くの要因によって決まる。特定の実施形態においては、ボンディングコート30は、約25μm〜約200μmの厚さを有する。
【0011】
ボンディングコート30の上に、少なくとも1つの層70を具備する中間バリア40が配置される。中間バリア40は、基板20が水蒸気にさらされるのを防止するための障壁を形成すると共に、基板20とトップコート50との間の化学組成及び熱膨張係数に遷移を与えることにより、被覆膜系の性能を向上する。中間バリア40の各層70は、希土類ケイ酸塩を含み、いくつかの実施形態においては、希土類ケイ酸塩から成る。ここで使用される用語「希土類ケイ酸塩」は、例えば、一ケイ酸塩、二ケイ酸塩、オルトケイ酸塩、メタケイ酸塩、ポリケイ酸塩、リン灰石相などのケイ酸塩種のうちのいずれかと、1つ以上の希土類元素とを含む化合物を意味する。ここで使用される「希土類元素」は、スカンジウム、イットリウム、及びランタニド類(元素番号57〜71)からの1つ以上の元素を含む。更に、中間バリア40の各層70は、ムライトを実質的に含まない。層70からムライトを除去することにより、高温における被覆膜系の安定性が向上する。例えば、上述の物品に望まれる温度範囲で、一ケイ酸イットリウムなどのいくつかの希土類ケイ酸塩と接触すると、ムライトは、化学的に安定しない。更に、希土類ケイ酸塩被覆膜からムライトを除去することにより、被覆膜中のシリカの活動度が低下するため、水蒸気と反応しやすく、シリコンボンド層と相互に反応しやすいという被覆膜の性質は抑制される。
【0012】
いくつかの実施形態においては、希土類ケイ酸塩は、(少なくとも1つという意味で)希土類一ケイ酸塩(少なくとも1つの希土類元素をREで表すとき、RESiO)、(少なくとも1つという意味で)希土類二ケイ酸塩(RESi)、又はそれらの組み合わせである。適切な希土類一ケイ酸塩の例としては、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせがある。適切な希土類二ケイ酸塩の例としては、二ケイ酸ルテチウム、二ケイ酸イッテルビウム、二ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせがある。
【0013】
特定の実施形態においては、中間バリア40は、単一の層から形成される。いくつかの実施形態における単一の層は、組成勾配を含む。この種類の例を示す一実施形態(図2)では、単一の層206における希土類一ケイ酸塩の濃度は、点Aから点Bへ進む方向200、すなわち、一般に基板202及びボンディングコート203から離れてトップコート204に向かう方向に、距離に対して増加する。この特定の「漸増層」の実施形態は、熱膨張係数を漸進的に遷移させることにより、系の様々な層の間の熱応力を減少する。特定の実施形態においては、層206は、希土類二ケイ酸塩を更に含む。
【0014】
単一の層から成る中間バリアを含む実施形態に代わる実施形態においては、バリア300は、複数の層302、304を具備する(図3)。いくつかの実施形態では、バリア300は、ボンディングコート306の上に配置された第1の層302と、第1の層302の上且つトップコート308の下方に配置された第2の層304とを含む。第1の層302は、希土類二ケイ酸塩を含み、いくつかの実施形態においては、希土類二ケイ酸塩から成る。使用条件の下では、ボンディングコート306上に、シリコン酸化物の層が形成される。このシリコン酸化物層が存在するとき、希土類二ケイ酸塩は熱力学的に安定し、従って、この実施形態は、二ケイ酸塩をボンディングコート306と接触させることにより、高温における化学的安定性を増進する。第2の層304は、希土類一ケイ酸塩及び希土類二ケイ酸塩を含み、いくつかの実施形態においては、希土類一ケイ酸塩及び希土類二ケイ酸塩から成る。そのような構造により、第1の層302とトップコート308との間で、組成及び熱膨張係数の遷移が得られる。第2の層304は、いくつかの実施形態では、一ケイ酸塩材料と二ケイ酸塩材料の単純な混合物であるが、別の実施形態においては、単一の層206(図2)に関して上述したような組成勾配を含む。
【0015】
中間バリア40(図1)が単一の層から成るか、又は複数の層から成るかに関わらず、その組成は、被覆膜系60と基板20との間の熱不整合応力が許容しがたいほど大きくならないことを保証するように調整される。これは、バリア40の熱膨張係数及び厚さを調整することにより実現される。バリア40の熱膨張係数を、基板20の熱膨張係数にごく近い値に保持することにより、応力は、許容しうるレベルに維持される。いくつかの実施形態においては、基板20の熱膨張係数と、バリア40の各層70の熱膨張係数との差は、約3.0×10−6.C−1までである。特定の実施形態においては、この差は、約0.5×10−6.C−1までである。バリア40の厚さは、いくつかの矛盾する要因のバランスに基づいて選択される。例えば、厚さが増すにつれて、所定の期間にわたり、水蒸気を含む燃焼環境の中で、被覆膜が完全に気化する確率は低くなるが、被覆膜は、亀裂又は剥離を生じやすくなる。いくつかの実施形態においては、バリア40の各層70は、約250μmまでの厚さを有する。いくつかの実施形態では、この厚さは、約25μm〜約125μmの範囲であり、特定の実施形態においては、厚さは、約25μm〜約75μmの範囲である。
【0016】
物品10(図1)は、中間バリア40の上に配置されたトップコート50を更に具備する。トップコート50は、環境と基板20との間の一次障壁として機能するので、水蒸気に対して高い耐性を示すように選択される。従って、本発明の実施形態におけるトップコート50は、例えば、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせなどの希土類一ケイ酸塩を含み、いくつかの実施形態においては、それらの希土類一ケイ酸塩から成る。希土類一ケイ酸塩は、水蒸気を含む燃焼環境の中で、アルミノケイ酸塩などの従来のEBCトップコート材料に勝るリセス形成耐性を有することがわかっている。トップコート50の厚さは、中間バリア40に関して上述した要因に類似する要因のバランスに基づいて選択される。いくつかの実施形態においては、トップコート50の厚さは、約750μmまでである。いくつかの実施形態では、この厚さは、約25μm〜約125μmの範囲であり、特定の実施形態においては、厚さは、約25μm〜約75μmの範囲である。
【0017】
本発明の物品に、いくつかの特定の実施形態が含まれることは、当業者には理解されるであろう。特定の1つの実施形態は、シリコンから成る基板と;シリコンから成り、基板の上に配置されるボンディングコートと;中間バリアであって、ムライトを実質的に含まず、
a.ボンディングコートの上に配置され、二ケイ酸ルテチウム、二ケイ酸イッテルビウム、二ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つから成る第1の層と、
b.第1の層の上に配置され、二ケイ酸ルテチウム、二ケイ酸イッテルビウム、二ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つから成り、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを更に含む第2の層とを具備する中間バリアと;
中間バリアの上に配置され、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つから成るトップコートとを具備する物品である。この実施形態においては、中間バリアの第1の層は、上述したように、使用中にボンディングコートの上に一般に形成されるシリコン酸化物と接触する状態にあるときに非常に安定する二ケイ酸塩から成る。中間バリアの第2の層は、二ケイ酸塩から成る第1の層から、リセス形成耐性に優れたトップコートの一ケイ酸塩への遷移を生じさせることにより、EBC系と基板との間の熱応力を減少するのに役立つ。
【0018】
第2の特定の実施形態は、高温環境において使用するための物品であり、シリコンから成る基板と;シリコンから成り、基板の上に配置されたボンディングコートと;ボンディングコートの上に配置された中間バリアであって、少なくとも1つの層を具備し、少なくとも1つの層は、ムライトを実質的に含まず、二ケイ酸ルテチウム、二ケイ酸イッテルビウム、二ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせから成り、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを更に含む中間バリアと;バリア層の上に配置され、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つから成るトップコートとを具備する。この実施形態では、中間バリアは、二ケイ酸塩材料と一ケイ酸塩材料との混合物である。この場合にも、混合物は、基板と一ケイ酸塩トップコートとの間に遷移層を形成する。混合物層を形成することにより、応力を減少し且つ安定性を増進させるという利点を更に強化するために、この混合物バリアは、上述したような組成勾配を含んでいてもよい。例えば、一ケイ酸塩の濃度は、バリアとボンディングコートの境界において最小になるように調整され、バリアと一ケイ酸塩トップコートとの境界における最大レベルまで、漸進的に増加するように調整される。
【0019】
本発明の実施形態は、物品を高温環境から保護する方法を更に含む。方法は、シリコンから成る基板を提供することと;シリコンから成るボンディングコートを基板の上に配置することと;希土類ケイ酸塩から成り、ムライトを実質的に含まない少なくとも1つの層を具備する中間バリアをボンディングコートの上に配置することと;希土類一ケイ酸塩から成るトップコートを中間バリアの上に配置することとから成る。この実施形態及びここで説明されるその他の実施形態における様々な被覆膜層の全ては、例えば、化学気相成長、物理気相成長、熱スプレー蒸着、及びプラズマスプレー蒸着を含めて、当該技術分野で知られている何らかの適切な方法を使用して形成される。適切な厚さの範囲及び使用できる材料は、物品の実施形態に関して上述した範囲及び材料と同一である。
【0020】
更に、いくつかの実施形態においては、バリアは、現場プロセスにより形成される。例えば、希土類一ケイ酸塩から成る層がボンディングコートの上に蒸着された後、加熱などの手段によって、この層を反応させて、その場で二ケイ酸塩を形成する。特定の実施形態では、この反応は、酸素を含む環境の中で、一ケイ酸塩を少なくとも1,000°Cの温度まで加熱することにより実現される。一ケイ酸塩から二ケイ酸塩への少なくとも部分的な変換が起こるように、この熱処理は、一般に、少なくとも100時間にわたり実行される。処理時間が長くなれば、変換の量も多くなる。この処理の結果、バリア内部に、ボンディングコートに近接して、二ケイ酸塩を豊富に含有する層が形成される。上述したように、この層は、被覆膜系全体の化学的安定性を増進する。
実施例
以下に示す実施例は、本発明の実施形態を明示することを意図されており、本発明の範囲を限定するものとして考えられてはならない。
実施例1:エアプラズマスプレー技法により、SiC/SiCセラミックマトリクス複合(CMC)基板に、被覆膜系を塗布した。CMCの表面は、36グリットSiC粒子によるグリットブラストにより前処理された。まず、厚さ約75μmのシリコンボンディングコートを基板に塗布した。次に、厚さ約125μmの二ケイ酸イットリウム(YSi)中間バリアを、ボンディングコートの上面に蒸着した。最後に、厚さ125μmの一ケイ酸イットリウム(YSiO)から成るトップコートを、中間バリアの上に蒸着した。被覆後の基板を、静止した空気の中で、10時間にわたり1,300°Cで熱処理した。X線回折により、トップコートは、結晶質一ケイ酸イットリウムから成り、中間層は、結晶質二ケイ酸イットリウムから成ることが示された。
実施例2:1つの点を除いて、実施例1で説明した被覆膜蒸着プロセスに従って、被覆膜を塗布した。この実施例における中間層は、一ケイ酸イットリウムと二ケイ酸イットリウムの混合物を含んでいた。空気中で、500時間にわたり2,400°Fの温度にさらした後、シリコンの酸化によって、ボンディングコートの表面上に酸化物層が成長したことが観測された。SEM/EDX解析により、成長した酸化物層は、純粋なシリカSiOであることが確認された。シリカ層と中間層との化学反応の証拠はなく、中間層の化学的適合性が優れていることが実証された。
実施例3:冷間圧縮及び焼結により、アルミノケイ酸バリウムストロンチウム(BSAS‐従来のEBC材料)、一ケイ酸イットリウム、一ケイ酸ルテチウム、及び一ケイ酸イッテルビウムから成るバルクペレットを製造した。焼結後の試料を、100時間にわたり1,315°Cの水蒸気を豊富に含む環境(90%のHO及び10%のOを含む大気)にさらした。蒸気との相互反応と、その後の気体水酸化シリコンの形態をとるシリカの揮発とによって、BSAS試料の重量は減少した。これに対し、希土類一ケイ酸塩試料は、いずれも、重量を減らさなかった。このことは、それらの材料から製造された被覆膜が、蒸気中で優れた安定性を示すであろうということを示唆する。XRD解析により、蒸気にさらされた後、シリカ又は希土類酸化物は全く失われないことが明示され、蒸気との反応があったとしても、それは、ごくわずかであることが確認された。
【0021】
様々な実施形態が説明されているが、当業者により、元素の様々な組み合わせ、変形、等価の構成、又は改善を実施できる。なお、特許請求の範囲に記載された符号は、理解容易のためであってなんら発明の技術的範囲を実施例に限縮するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の概略横断面図。
【図2】本発明の実施形態の概略横断面図。
【図3】本発明の実施形態の概略横断面図。
【符号の説明】
【0023】
10…物品、20…基板、30…ボンディングコート、40…中間バリア、50…トップコート、60…被覆膜系、70…(バリアの)単一の層、202…基板、203…ボンディングコート、204…トップコート、206…(バリアの)単一の層、300…バリア、302…第1の層、304…第2の層、306…ボンディングコート、308…トップコート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温環境で使用するための物品(10)において、
シリコンから成る基板(20)と;
シリコンから成り、前記基板(20)の上に配置されたボンディングコート(30)と;
前記ボンディングコート(30)の上に配置された中間バリア(40)であって、少なくとも1つの層(70)を具備し、前記少なくとも1つの層(70)は、希土類ケイ酸塩から成り、ムライトを実質的に含まない中間バリア(40)と;
希土類一ケイ酸塩から成り、前記中間バリア(40)の上に配置されたトップコート(50)とを具備する物品(10)。
【請求項2】
前記希土類ケイ酸塩は、希土類一ケイ酸塩、希土類二ケイ酸塩、及びそれらの組み合わせである請求項1記載の物品(10)。
【請求項3】
前記希土類二ケイ酸塩は、二ケイ酸ルテチウム、二ケイ酸イッテルビウム、二ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つであり、前記少なくとも1つの層(70)の前記希土類一ケイ酸塩は、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つである請求項2記載の物品(10)。
【請求項4】
前記中間バリアは、単一の層(70)を具備する請求項2記載の物品(10)。
【請求項5】
前記単一の層(70)は、組成勾配を含み、前記一ケイ酸塩の濃度は、前記基板(20)から離れて前記トップコート(50)に向かう方向(200)に、距離に対して増加する請求項4記載の物品(10)。
【請求項6】
前記単一の層(70)は、前記希土類二ケイ酸塩を更に含む請求項5記載の物品(10)。
【請求項7】
前記中間バリアは、複数の層(70)を具備する請求項2記載の物品(10)。
【請求項8】
前記中間バリアは、
前記ボンディングコート(30)の上に配置された第1の層(302)と;
前記第1の層(70)の上且つ前記トップコート(50)の下方に配置された第2の層(304)とを具備し、
前記第1の層(302)は、希土類二ケイ酸塩から成り、前記第2の層(304)は、希土類一ケイ酸塩及び希土類二ケイ酸塩から成る請求項7記載の物品(10)。
【請求項9】
前記第1の層(302)は、希土類二ケイ酸塩から成り、前記第2の層(304)は、希土類一ケイ酸塩及び希土類二ケイ酸塩から成る請求項8記載の物品(10)。
【請求項10】
前記第2の層(70)は、組成勾配を含み、前記一ケイ酸塩の濃度は、前記基板(20)から離れて前記トップコート(50)に向かう方向(200)に、距離に対して増加する請求項8記載の物品(10)。
【請求項11】
前記基板(20)の熱膨張係数と、前記中間バリアの各層(70)の熱膨張係数との差は、約3.0×10−6.C−1までである請求項1記載の物品(10)。
【請求項12】
前記トップコート(50)は、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つから成る請求項1記載の物品(10)。
【請求項13】
前記基板(20)は、ガスタービンアセンブリの1つの構成要素から成る請求項1記載の物品(10)。
【請求項14】
高温環境で使用するための物品(10)において、
シリコンから成る基板(20)と;
シリコンから成り、前記基板(20)の上に配置されたボンディングコート(30)と;
中間バリア(40)であって、前記中間バリアは、ムライトを実質的に含まず、
a.前記ボンディングコート(30)の上に配置され、二ケイ酸ルテチウム、二ケイ酸イッテルビウム、二ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つから成る第1の層(302)と;
b.前記第1の層(302)の上に配置され、二ケイ酸ルテチウム、二ケイ酸イッテルビウム、二ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つから成り、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを更に含む第2の層(304)とを具備する中間バリア(40)と;
前記中間バリア(40)の上に配置され、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つから成るトップコート(50)とを具備する物品(10)。
【請求項15】
高温環境で使用するための物品(10)において、
シリコンから成る基板(20)と;
シリコンから成り、前記基板(20)の上に配置されたボンディングコート(30)と;
前記ボンディングコート(30)の上に配置された中間バリア(40)であって、少なくとも1つの層(70)を具備し、前記少なくとも1つの層(70)は、ムライトを実質的に含まず、二ケイ酸ルテチウム、二ケイ酸イッテルビウム、二ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせから成り、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを更に含む中間バリア(40)と;
前記中間バリアの層(70)の上に配置され、一ケイ酸ルテチウム、一ケイ酸イッテルビウム、一ケイ酸イットリウム、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つから成るトップコート(50)とを具備する物品(10)。
【請求項16】
高温環境から物品(10)を保護する方法において、
シリコンから成る基板(20)を提供することと;
シリコンから成るボンディングコート(30)を前記基板(20)の上に配置することと;
希土類ケイ酸塩から成り、ムライトを実質的に含まない少なくとも1つの層(70)を具備する中間バリア(40)を前記ボンディングコート(30)の上に配置することと;
希土類一ケイ酸塩から成るトップコート(50)を前記中間バリア(40)の上に配置することとから成る方法。
【請求項17】
前記中間バリアを配置することは、希土類一ケイ酸塩から成る層(70)を前記ボンディングコート(30)の上に配置することと、前記一ケイ酸塩を反応させて、その場で希土類二ケイ酸塩を形成することとを含む請求項16記載の方法。
【請求項18】
反応させることは、酸素を含む環境の中で、前記一ケイ酸塩を少なくとも1,000°Cの温度まで加熱することを含む請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−28015(P2006−28015A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205079(P2005−205079)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】