説明

環境風提示装置

【課題】利用者に対して多様な風を提示する。
【解決手段】複数の送風用ファン22は、利用者200の想定位置を中心とする仮想的な球体の表面上に配置される。複数の送風用ファン22は、互いの距離が実質的に等間隔に配置される。風圧制御部24は、利用者200に対して提示すべき環境風を示すデータにもとづいて、複数の送風用ファン22の回転数を独立に制御する。複数の送風用ファン22は、球体を近似したフラードーム(ジオデシックドーム)または正多面体(12面、20面体)の各頂点もしくは各平面の中心に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲーム、ホームシアター、バーチャルリアリティなど、利用者に対して仮想空間を提示する仮想空間生成技術に関し、特に風を利用した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テレビの大型化や、DVD、高機能なゲーム機器の急激な普及にともない、家庭で映画やゲームを臨場感豊かに楽しむことが可能なホームシアターなどへの関心が高まっている。こうしたホームシアターやゲームに代表されるような仮想空間生成装置においては、リアルな映像に加えて、以下のような付加的な機能を提示することにより、より臨場感を高める試みがなされている。
【0003】
たとえば、5.1chのサラウンドシステムを用いた立体音響や、利用者に対して振動を与える振動ユニットは、利用者に対して、より高い臨場感を提示するものである。また、遊技施設におけるアトラクションなどのエンターテイメントの分野では、映像に併せて客席が動くものや、ヘッドアクショントラッカーを内蔵し、ゲーム内の仮想空間を全方位見渡せるヘッドマウントディスプレイも実用化されている。
【0004】
さらに、こうした仮想空間生成装置に、送風用のファンを設けることにより、提示される仮想空間と同期して利用者に風圧を与え、よりリアルな環境を提示するこころみがなされており、その呈示感覚は「風覚」とも呼ばれている(たとえば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−78430号公報
【特許文献2】特開2003−67107号公報
【特許文献3】特開平6−210065号公報
【特許文献4】特開2007−307097号公報
【特許文献5】特開2007−307098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の風を用いた提示デバイス(以下、環境風提示装置と称する)は、呈示部位が利用者の手や指先といった領域に限られており、また呈示方向が1次元もしくは2次元に限られていた。たとえば特許文献4の図1または図2に記載される環境風提示装置は、利用者に対して水平方向に対してのみ、風を与えることができる。言い換えれば送風用ファンの配置が偏っているため、利用者に提示できる環境風には限界があった。
【0007】
本発明はこうした背景からなされたものであり、その包括的な目的は、利用者に対して、多様な風を提示する技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、環境風提示装置に関する。環境風提示装置は、利用者の想定位置を中心とする仮想的な球体の表面上に、実質的に等間隔に配置された複数の送風用ファンと、利用者に対して提示すべき環境風を示すデータにもとづいて、複数の送風用ファンの回転数を独立に制御する制御部と、を備える。
【0009】
この態様によると、複数の送風用ファンと利用者の距離は等しく、かつ隣接する送風用ファンの間の距離も等しくなる。つまり複数の送風用ファンの偏りをなくすことができ、利用者に対してさまざまな方向から多彩な風を提示できる。
【0010】
複数の送風用ファンは、球体を近似したフラードームの各頂点に配置されてもよい。あるいは複数の送風用ファンは、球体を近似したフラードームの各面の中心に配置されてもよい。
この態様によれば、すべて送風用ファンが幾何学的に対称に配置されるため、利用者に対して偏り無く多彩な風を提示することができる。
【0011】
環境風を示すデータは、当該環境風提示装置と対をなす風測定装置によって取得されたものであってもよい。この風測定装置は、観測点を中心とする仮想的な球体の表面上に実質的に等間隔に配置され、それぞれが球体の法線方向に指向性を有する複数の風量計と、複数の風量計により取得された各方向の風量を電子化し、観測点の環境風を示すデータとして出力する信号処理部と、を備えるものであってもよい。環境風提示装置の複数の送風用ファンは、風測定装置の複数の風量計と1対1で対応づけられてもよい。制御部は、各送風用ファンをそれぞれ、対応する風量計により取得された風量に対応する回転数で回転させてもよい。
【0012】
この態様によれば、環境風提示装置の複数の送風用ファンと、風測定装置の複数の風量計とが対応づけられているため、風測定装置で測定した環境風を忠実に再現し、利用者に提供することができる。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を、方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、利用者に対して、多様な風を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態に係る環境風提示装置の構成を示す図である。
【図2】図2(a)、(b)は、比較技術に係る環境風提示装置の構成を示す図である。
【図3】実施の形態に係る風測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく単に例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0017】
(環境風の提示:ウィンドディスプレイ)
図1は、実施の形態に係る環境風提示装置20の構成を示す図である。環境風提示装置20は、家庭用のゲーム機器、映画視聴装置、あるいは遊技施設における遊技装置として利用することができる。環境風提示装置20は、風を表示するデバイスと把握できるため、ウィンドディスプレイとも称される。
【0018】
環境風提示装置20は、中央に利用者200が位置するように構成される。本実施の形態に係る環境風提示装置20は、複数の送風用ファン22と、風圧制御部24と、送風用ファン22を保持するための構造体26を備える。
【0019】
複数の送風用ファン22は、利用者200の想定位置を中心とする、仮想的な球体の表面上に配置されており、隣接する送風用ファン22は、実質的に等間隔に配置されている。送風用ファン22は、単相であると複相であるとを問わず、様々なモータのロータに、ファンを取り付けることにより構成することができる。
【0020】
利用者200の想定位置とは、利用者200が環境風提示装置20を使用する際に想定される任意の位置をいい、たとえば利用者200の頭部を中心とすることが好ましい。なぜなら、利用者200の頭部は、衣類に覆われていないため露出部分が多く、また、人間は頭髪に風を受けると、体感的に風圧を感知しやすいためである。なお、頭部に代えて、胸部を中心としてもよいし、腹部を中心としてもよい。
【0021】
送風用ファン22の個数は任意であるが、好ましくは12個以上であることが望ましい。複数の送風用ファン22が想定位置から等距離であって、かつ隣接する送風用ファン22同士の距離が等距離となるためには、送風用ファン22をフラードームか正多面体の頂点もしくは面上に配置すればよい。たとえば、送風用ファン22の均等な配置としては、構成1aが例示される。
【0022】
1a. 複数の送風用ファン22は、仮想的な球体を近似したフラードーム構造の各頂点に配置される。フラードームとは、正20面体を同心の球面上に投影し、さらに各面を、正三角形や六角形に曲面分割を繰り返して生成される構造体をいい、ジオデシックドームとも呼ばれる。図1には、正20面体球の1辺を2分割したフラードーム型(頂点数42個)の構造体26が示される。構造体26は、フラードームの辺を構成する辺部材28と、頂点部材30を含む。
【0023】
円状の頂点部材30の中心部、つまりフラードームの頂点には、送風用ファン22が固定されている。なお、利用者200の移動性を確保するため、利用者200の足下付近、つまりフラードームの底部には、送風用ファン22を設けなくてもよい。この場合、送風用ファン22の個数は42から1を減じた41個となる。
【0024】
なおフラードームには、図1に示す構造の他にも、分割数を変更したさまざまな構造がありえ、それらも本発明の範囲に含まれる。
【0025】
風圧制御部24は、利用者に対して提示すべき環境風を示すデータ(以下、環境風データ)Dwindにもとづいて、複数の送風用ファン22の回転数を制御する。すべての送風用ファン22と風圧制御部24とは、配線25で接続されており、風圧制御部24から各送風用ファン22には、回転数(トルク)に応じた制御信号が供給される。環境風データDwindは、仮想空間の設計者がコンピュータプログラムなどを用いて生成したものであってもよいし、あるいは後述する風測定装置によって取得されたものであってもよい。
【0026】
たとえば風圧制御部24は、利用者200に対し、環境風とともに提示するその他の音声や映像などの環境情報に同期して、利用者200に対して風圧を与えることができる。たとえば、利用者200が体感する仮想空間において、爆発が起こった場合には、送風用ファン22を強く回転させることにより、爆風を再現する。このとき、爆発が起こった方向に配置される送風用ファン22を駆動することにより、利用者200はあたかもその方向に実際に爆発が起こったかのような臨場感を味わうことができる。また、利用者200が視聴する映像において、風が吹いている場合には、風向に応じて、駆動する送風用ファン22を選択し、風量に応じて回転数を制御することにより、環境風を再現することができる。
【0027】
上述したように、各送風用ファン22の回転数を制御するための環境風データDwindは、映像、音声とともにディスクなどに保存されていてもよい。風圧制御部24はそれらのデータを読み出し、複数の送風用ファン22を駆動する。この場合、映画などのコンテンツ制作者が、映像、音声により再現される仮想空間に適した風向、風量に関するデータを作成する必要があるが、各場面に応じて最適な風量、風向を再現することができるため、臨場感の高い仮想空間を提示することができる。
【0028】
また、現在普及しているようなDVDに記録された映画などのコンテンツであって、風に関するデータを含まないコンテンツにもとづいて仮想空間を再現する場合には、風圧制御部24は、映像データ、音声データにもとづいて、環境風データDwindを生成してもよい。
【0029】
環境風提示装置20がゲーム機器などに接続されて使用される場合には、環境風提示装置20により利用者200に与えられる風量、風向は、ゲーム機器における演算処理結果により得られる環境風データDwindにもとづいてもよい。
【0030】
以上が環境風提示装置20の構成である。図1の環境風提示装置20によれば、利用者200に対して、フラードーム構造の頂点42箇所のうち、その真下の頂点を除く41箇所に固定した送風用ファンから、風を任意の強さで提示することができる。この際、任意の単一の送風用ファン22のみによって任意の強度の風を提示することも可能であるし、任意の複数の送風用ファン22によって風を提示することも可能であり、個々の送風用ファン22の風量を独立に制御することもできる。
【0031】
実施の形態に係る環境風提示装置20によれば、複数の送風用ファン22と、利用者200との距離が等しく、かつ各送風用ファン22は実質的に等間隔に配置されている。したがって、利用者200に与える風の偏りを無くすことができる。
【0032】
この利点は、従来の、あるいは仮想的な以下の比較技術との対比によって明確となろう。もし仮に、特許文献4の図1、図2に記載されるように、送風用ファンが利用者200の頭部の周囲のみに配置される場合、利用者200に与えられる風は水平方向のみに限定されてしまう。これに対して、本願の図1の環境風提示装置20によれば、あらゆる方向から風を提供することが可能となる。
【0033】
図2(a)、(b)は、比較技術に係る環境風提示装置300の構成を示す図である。図2(a)は上方から見た投影図を、同図(b)は横方向から見た投影図を示す。図2(a)、(b)に示すように、環境風提示装置300には、ユーザの頭部を含むX−Y平面内に8個の中段送風用ファンF1〜F8が設けられる。各送風用ファンF1〜F8の45度上方には、上段送風用ファンFU1〜FU8が設けられ、各送風用ファンF1〜F8の45度下方には、下段送風用ファンFL1〜FL8が設けられる。さらに中段送風用ファンF1〜F8の90度上方、つまり利用者200の頭上には、送風用ファンFTが設けられる。このような環境風提示装置300では、隣接する2つの送風用ファンが利用者200を頂点として成す角度は、いずれも45度となり等しいが、隣接する送風用ファンの間隔は異なってしまう。このような環境風提示装置300において、すべての送風用ファンから同じ風速(強度)の風を利用者200に提示した場合、利用者200は、中段よりも上段の方が多くの風を感じることとなる。つまり、風に偏りが発生することになる。
【0034】
これに対して、実施の形態に係る環境風提示装置20によれば、あらゆる方向から均等に偏り無く風を提示することができる。
【0035】
以上が環境風提示装置20の利点である。ここでは環境風提示装置20が41個の送風用ファン22を備える場合を説明したが、コストや環境風の再現精度を考慮して、送風用ファン22の個数を減らした方が望ましい場合もあろう。この場合には、以下の変形例1b〜3bを採用することができる。
【0036】
1b. 複数の送風用ファン22は、球体を近似したフラードームの各面の中心に配置される。
【0037】
2a. 複数の送風用ファン22は、想定位置を中心とする仮想球と接する仮想的な正12面体の各面の中心に配置される。この場合、送風用ファン22の数は、12個となる。
【0038】
2b. 複数の送風用ファン22は、想定位置を中心とする仮想球と接する仮想的な正12面体の各頂点に配置される。この場合、送風用ファン22の数は、20個となる。
【0039】
3a. 複数の送風用ファン22は、想定位置を中心とする仮想球と接する仮想的な正20面体の各面の中心に配置される。この場合、送風用ファン22の数は、20個となる。
【0040】
3b. 複数の送風用ファン22は、想定位置を中心とする仮想球と接する仮想的な正20面体の各頂点に配置される。この場合、送風用ファン22の数は、12個となる。
【0041】
あるいは、方向の分解能をさらに落としてよい場合には、上記1a〜3bにおいて、いくつかの送風用ファン22を間引きしてもよい。また、風を提示する必要がない方向が存在する場合、それらの方向に対応する送風用ファン22を省略することもできる。
【0042】
あるいは、環境風の再現精度を高めるために、フラードームの分割数を増加させ、より多くの送風用ファン22を設けてもよい。
【0043】
(環境風の測定:ウィンドカメラ)
これまでは、利用者200に環境風を提供する装置について説明した。以下では、環境風を測定する装置について説明する。
【0044】
図3は、実施の形態に係る風測定装置50の構成を示す図である。風測定装置50は、観測点に吹き込む風の強度を、方向ごとに独立に測定するための装置である。このことから、風測定装置50をウィンドカメラとも称する。
【0045】
風測定装置50は、観測点が中心に位置するように構成され、複数の風量計52、信号処理部54、および複数の風量計52を保持するための構造体56を備える。
【0046】
複数の風量計52は、観測点を中心とする仮想的な球体の表面上に配置されており、隣接する風量計52同士は、実質的に等間隔に配置される。各風量計52は、球体の法線方向に指向性を有する。たとえばある風量計52に対して斜め方向に風が吹き込む場合、その風の法線方向のベクトル成分のみが風量として抽出される。
【0047】
風量計52の個数は任意であるが、好ましくは12個以上であることが望ましい。複数の風量計52が観測点から等距離であって、かつ隣接する風量計52同士の距離が等距離となるためには、風量計52をフラードームか正多面体の頂点もしくは面上に配置すればよい。たとえば、送風用ファン22の均等な配置としては、以下の構成4aが例示される。
【0048】
4a. 複数の風量計52は、仮想的な球体を近似したフラードーム構造の各頂点に配置される。図3には、正20面体球の1辺を2分割したフラードーム型(頂点数42個)の構造体56が示される。構造体56は、フラードームの辺を構成する辺部材58と、頂点部材60を含む。円状の頂点部材60の中心部、つまりフラードームの頂点には、各々1個の風量計52が固定されている。
【0049】
なおフラードームには、図3に示す構造の他にもさまざまな構造がありえ、それらも本発明の範囲に含まれる。
【0050】
信号処理部54は、配線55を介して複数の風量計52と接続されており、各風量計52によって取得された各方向の風量(風速)を電子化し、観測点の環境風を示すデータ(環境風データ)Dwindとして出力する。
【0051】
以上が風測定装置50の構成である。図3の風測定装置50によれば、観測点に対して多方向から吹き込む風あるいは吹き去る風を、独立のベクトル成分として評価することができる。
【0052】
この利点は、従来の比較技術との対比によって明確となろう。特許文献4の図3に記載される測定装置は、X軸の正負2方向、Y軸の正負2方向、Z軸の正負2方向の合計6個のベクトルに分解して環境風を評価するものである。したがって、たとえば測定装置に対して、X軸とY軸から45度ずれた斜め方向から風速αの風が吹き込んだ場合、測定装置は、X軸方向から風速α/√2の風が吹き込み、Y軸方向から風速α/√2の風が吹き込んでいる状態と判定し、それに応じたデータを生成する。
【0053】
しかしながら、厳密な観点からいえば、X方向、Y方向それぞれから風速α/√2の風が吹き込んでいる状況と、X軸とY軸から45度ずれた斜め方向から風速αの風が吹き込んでいる状況は、区別されるべきである。
たとえば、人間は、北方向から風速1mの風を南方向から風速2mの風を同時に受けている状態と、南方向から風速1mの風を受けている状況を区別することができるし、あるいは、ある物体を、そのような2つの状況においた場合の物体の振る舞いは、異なるはずだからである。
【0054】
実施の形態に係る図3の風測定装置50によれば、フラードーム構造の頂点42箇所に、観測点に向けて固定した送風用ファンからの風を、方向ごとに評価できるため、従来に比べて、自然界に存在する風を適切に観測、評価することが可能となる。
【0055】
以上が風測定装置50の利点である。図1の環境風提示装置20は、42個の風量計52を備える場合を説明したが、コストや環境風の状況を考慮して、風測定装置50の個数を減らしてもよい。この場合には、以下の変形例4b〜6bを採用することができる。
【0056】
4b. 複数の風量計52は、球体を近似したフラードームの各面の中心に配置される。
【0057】
5a. 複数の風量計52は、想定位置を中心とする仮想球と接する仮想的な正12面体の各面の中心に配置される。この場合、風量計52の数は、12個となる。
【0058】
5b. 複数の風量計52は、想定位置を中心とする仮想球と接する仮想的な正12面体の各頂点に配置される。この場合、風量計52の数は、20個となる。
【0059】
6a. 複数の風量計52は、想定位置を中心とする仮想球と接する仮想的な正20面体の各面の中心に配置される。この場合、風量計52の数は、20個となる。
【0060】
6b. 複数の風量計52は、想定位置を中心とする仮想球と接する仮想的な正20面体の各頂点に配置される。この場合、風量計52の数は、12個となる。
【0061】
あるいは、方向の分解能をさらに落としてよい場合には、上記4a〜6bにおいて、いくつかの風量計52を間引きしてもよい。また、風を評価する必要がない方向が存在する場合、それらの方向に対応する風量計を省略することもできる。
あるいは、環境風の測定精度を高めるために、フラードームの分割数を増加させ、より多くの風量計52を設けてもよい。
【0062】
このような図3の風測定装置50は、世界遺産、史跡や観光名所の風をアーカイブ化することに利用することができる。あるいは風力発電所の設計や建造物の設計に大いに役立つであろう。あるいは、竜巻やハリケーンの観測や、惑星上の風の観測などにも利用することができる。
【0063】
(ウィンドステージ)
図1の環境風提示装置(ウィンドディスプレイ)20と図3の風測定装置(ウィンドカメラ)50はペアを成して、ウィンドステージと呼ばれるシステムを構築することができる。
【0064】
つまり風測定装置50によって生成された環境風データDwindは、上述した図1の環境風提示装置20によって再生することを前提として取得され、環境風提示装置20は風測定装置50によって生成された環境風データDwindを再生する。つまり両者はレコーダとプレイヤの関係にある。
【0065】
ウィンドステージを構成する環境風提示装置20と風測定装置50は、同様のトポロジーで構成される。つまり、環境風提示装置20の複数の送風用ファン22は、風測定装置50の複数の風量計52と1対1で対応づけられており、対応する送風用ファン22と風測定装置50同士は、位置と方向が一致している。
【0066】
なお風測定装置50は、利用者200を取り囲むのに十分なサイズが必要であるため、仮想的な球体の直径は2m程度、あるいはそれ以上必要であるが、風測定装置50のサイズには限定が無く、たとえば直径0.5m程度の仮想的な球体に収まるサイズとしてもよい。
【0067】
このウィンドステージにおいて、環境風提示装置20の風圧制御部24は、各送風用ファン22をそれぞれ、対応する風量計52により取得された風量に対応する回転数で回転させる。
【0068】
このウィンドステージによれば、風測定装置50によって取得した環境風を、異なる時間あるいは異なる場所において、環境風提示装置20によって再現することが可能となる。
【0069】
たとえばウィンドステージは、CG(コンピュータグラフィックス)を利用した映画撮影などに利用することができる。CGで描かれた背景あるいは実際に撮影された背景(これらを仮想空間という)と、現実の俳優を合成することにより、あたかも仮想空間に俳優が存在するかのような演出が可能となる。
【0070】
このCG技術では以下の処理が行われる。
1. ブルーバック(ブルースクリーン)、グリーンバックなどと呼ばれる背景の前で俳優を撮影する(撮影)。
2. 撮影された映像からブルーの部分つまり俳優以外の部分を削除して、俳優の映像のみを抽出する(マット処理)。
3. 抽出された俳優の映像を、仮想空間の背景と合成するステップ(合成処理)。
【0071】
より臨場感を高めるために俳優に対して風を与えたい場合、現状ではアシスタントが送風機を使って風を吹き付ける必要がある。しかしながら、こうして生成される風は、実際に測定された風ではなく単調であり、またテイクを重ねるごとに再現性が損なわれるという問題がある。
【0072】
かかる状況において、実施の形態に係るウィンドステージを好適に利用できる。この場合、以下の処理が実行される。
1. 俳優に与えるべき風が存在するロケーションに風測定装置50を配置し、その場所の環境風を測定する。
2. ブルースクリーンの手前に環境風提示装置20を配置したスタジオにおいて、環境風提示装置20の内部で俳優(利用者200)が演技をし、その状況を撮影する。好ましい別の実施例では、環境風提示装置20のフラードームの各面に、ブルーバックやグリーンバックを貼り付けてもよい。
3. 撮影の際には、測定した環境風を俳優に提示する。撮影された映像中の俳優は、風によって表情が変わったり、頭髪がなびいたりするであろう。
4. 撮影した映像から俳優を抽出する(マット処理)。
5. 抽出した俳優の映像を、仮想空間の背景と合成する(合成処理)。
【0073】
このウィンドステージによれば、よりリアルなCGを生成できる。また、テイクを重ねた場合であっても、常に同じ環境風を俳優に提示することができる。
【0074】
あるいは映画以外にも、ウィンドステージは利用できる。たとえば、環境風提示装置20と風測定装置50を互いに遠隔の地に設置し、両者を通信インタフェースを介して接続すれば、リアルタイムで遠隔地の風を再現することが可能となる。
【0075】
さらには、現在の3D(3次元)−CGソフトウェアでは、仮想空間を物理シミュレーションによって再現している。すなわち、3Dのキャラクタやオブジェクトに重力や風といった情報を与えると、CPUによって物理シミュレーションが実行され、キャラクタの服や髪はそれに応じた挙動を示し、リアルな表現が可能となっている。従来では、それらの重力や風情報を入力するには熟練した技術と膨大な手間と時間が必要であったが、実施の形態に係る風測定装置(ウィンドカメラ)50を用いることにより、実際の風情報を3Dソフトウェアに取り込むことも可能となる。
【0076】
以上、実施の形態を説明した。実施の形態は例示であり、さまざまな変形例が可能であり、そうした変形例も本発明に含まれることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0077】
20…環境風提示装置、22…送風用ファン、24…風圧制御部、25…配線、26…構造体、28…辺部材、30…頂点部材、50…風測定装置、52…風量計、54…信号処理部、55…配線、56…構造体、58…辺部材、60…頂点部材、200…利用者。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の想定位置を中心とする仮想的な球体の表面上に、実質的に等間隔に配置された複数の送風用ファンと、
前記利用者に対して提示すべき環境風を示すデータにもとづいて、前記複数の送風用ファンの回転数を独立に制御する制御部と、
を備えることを特徴とする環境風提示装置。
【請求項2】
前記複数の送風用ファンは、前記球体を近似したフラードームの各頂点に配置されることを特徴とする請求項1に記載の環境風提示装置。
【請求項3】
前記複数の送風用ファンは、前記球体を近似したフラードームの各面の中心に配置されることを特徴とする請求項1に記載の環境風提示装置。
【請求項4】
前記複数の送風用ファンは、前記球体と接する仮想的な正12面体または正20面体の頂点に配置されることを特徴とする請求項1に記載の環境風提示装置。
【請求項5】
前記複数の送風用ファンは、前記球体と接する仮想的な正12面体または正20面体の各面の中心に配置されることを特徴とする請求項1に記載の環境風提示装置。
【請求項6】
前記環境風を示すデータは、当該環境風提示装置と対をなす風測定装置によって取得されたものであり、
前記風測定装置は、
観測点を中心とする仮想的な球体の表面上に実質的に等間隔に配置され、それぞれが前記球体の法線方向に指向性を有する複数の風量計と、
前記複数の風量計により取得された各方向の風量を電子化し、観測点の環境風を示すデータとして出力する信号処理部と、
を備えるものであり、
前記環境風提示装置の前記複数の送風用ファンは、前記風測定装置の前記複数の風量計と1対1で対応づけられており、前記制御部は、各送風用ファンをそれぞれ、対応する前記風量計により取得された風量に対応する回転数で回転させることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の環境風提示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−200967(P2010−200967A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49567(P2009−49567)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月13日・14日 日本バーチャルリアリティ学会共催の「インタラクティブ東京2008」に出展、平成20年10月29日発行の「エンタテインメントコンピューティング2008論文集」に発表
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】