説明

環状アミノ化合物又はその塩

【課題】可溶性エポキシド加水分解酵素(sEH)に関与する疾患、例えば、糖尿病合併症、循環器疾患、又は炎症性疾患等の予防及び/または治療剤として有用な化合物を提供する。
【解決手段】本発明者らは、sEHに関与する疾患に有効な化合物又はその塩について検討し、式(I)の環状アミノ化合物又はその塩がsEH阻害作用を有することを確認し、本発明を完成した。本発明の式(I)の環状アミノ化合物又はその塩は、sEHに関与する疾患、例えば、糖尿病合併症、循環器疾患、及び/又は炎症性疾患等;具体的には、高血圧症、心血管疾患、動脈硬化症、糖尿病性腎症、慢性腎臓病、末梢動脈障害、糖尿病性網膜症、メタボリックシンドローム、及び/又は各種炎症性疾患等;の予防及び/又は治療剤として使用しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬組成物、殊に糖尿病合併症、循環器疾患、又は炎症性疾患等の治療用医薬組成物の有効成分として有用な環状アミノ化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシエイコサトリエン酸(EETs)はアラキドン酸からチトクローム P450(CYP)エポキシゲナーゼにより産生される。ヒトにおいてEETsを産生する代表的なエポキシゲナーゼはCYP2C9、CYP2C8あるいはCYP2J2であり、5,6−、8,9−、11,12−あるいは14,15−EETの4種類の位置異性体が産生されると考えられている。生体内でのEETsのエポキシ基の水解反応は、主に可溶性エポキシド加水分解酵素(sEH)により行なわれることが報告されており、これによりEETsは生物学的反応活性の低いジヒドロキシエイコサトリエン酸(DHETs)に変換される。EETsはオートクリンまたはパラクリン的に作用し多様な生物学的反応を惹起すると考えられており、cAMPの上昇を介したカルシウム依存性Kチャネルの開口、グアニンヌクレオチド結合性タンパク質であるGαsやSrcシグナルの活性化などを引き起こすことが報告されている。またEETsは細胞内ではリン脂質に取り込まれ、Ca2+イオノフォア処置により速やかに動員されることが報告されており、リン脂質を介したシグナルトランスダクションにも関与していると考えられる。
【0003】
一方、アラキドン酸同様にリノール酸もCYPエポキシゲナーゼによりエポキシオクタデカモノエノイック酸(EpOMEs)に代謝され、EpOMEはsEHによりジヒドロキシオクタデカモノエノイック酸(DiHOMEs)に加水分解される。EpOMEも多様な生物学的反応を惹起することが知られているがEETsに比べてまだ未解明な点が多い。
【0004】
ヒトでのsEH発現は肝臓及び腎臓で高く、そのほか各組織に広範に分布している。これはげっ歯類などの脊椎動物においても同様であると考えられている。CYP2C9、2C8及び2J2は、生体内の各組織に広範に分布しているが、sEHとの発現部位相同性が高く、肝臓及び腎臓での発現が高いことが報告されている。sEH、CYP2C9、2C8及び2J2はともに、肝臓では主に肝実質細胞で、腎臓では近位尿細管での発現が高く、また血管での発現も比較的高いことが知られている(Journal of Histochemistry and Cytochemistry,52,447−454,2004)。
【0005】
EETsの惹起する多様な生物学的反応の一つに血管弛緩作用がある。ブラジキニンやアセチルコリン、あるいはずり応力などの刺激により血管内皮細胞で産生されたEETsは、パラクリン的に血管平滑筋細胞の高伝導性Ca2+活性化Kチャネル(BKCa)を刺激しK+を放出(過分極)させることが報告されている(European Journal of Pharmacology,230,215−221,1993; Journal of Vascular Research,32,79−92,1995)。このことからEETsは、平滑筋細胞内へのCa2+流入を阻害し弛緩作用を発揮すると考えられるため、EETsは内皮由来の過分極反応を担う因子(内皮由来過分極因子;EDHF)のひとつであると考えられている(Circulation Research,78,877−884,1996)。一方、糖尿病、高血圧症あるいは高脂血症などでは内皮由来の血管弛緩反応の減弱が認められ、このことはこれら疾患のみならず、糖尿病合併症や動脈硬化の進展に関与していると考えられている(Vascular Health and Risk Management,3,853−876,2007)ことから、EETsによる全身血圧上昇の抑制や末梢細動脈血管抵抗の低下による、上記病態の改善が期待される。
【0006】
EETsは血管内皮への炎症性サイトカインやLPSなどの刺激によるVCAM−1、ICAM−1、またはE−セレクチンなどの細胞接着因子の発現上昇を抑制し、単球など炎症性細胞の浸潤を抑制することも報告されている(Science,285,1276−1279,1999)。動脈硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症などでは、炎症性血管障害が病態の進展に関与しているとも考えられていることから、EETsによって上記病態の改善が期待される。
【0007】
EETsはGαsを活性化し血管内皮での組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)の発現を上昇させることも報告されている(Journal of Biological Chemistry,276,15983−15989,2001)。t−PAはプラスミノーゲンをプラスミンに変換し線溶反応を亢進させるが、血管での血栓形成やアテローム性動脈硬化症においてはt−PAとその阻害因子であるプラスミノーゲン活性化因子阻害剤−1(PAI−1)の活性バランスの破綻が病態進展に関わっていると考えられている。糖尿病性腎症あるいは慢性腎臓病においては糸球体及び尿細管周囲の線維化が病態進展に密接に関わっており、この原因の一つとしてt−PAの発現減少及びPAI−1の発現亢進が認められている(Nephrology,10,S11−S13,2005)。以上のことから、EETsによるt−PA/PAI−1バランスの正常化により、上記病態の改善が期待される。
【0008】
さらに、sEH阻害剤はげっ歯類を用いた高脂肪食負荷肥満モデルに対して、腎血管抵抗の上昇及び全身血圧の上昇を抑制するだけでなく、体重増加、脂質異常、インスリン抵抗性、耐糖能異常を抑制することが報告されている(American Journal Physiology Renal Physiology,293,F342−F349,2007、特許文献1)。このことからメタボリックシンドロームの改善が期待される。
【0009】
以上から、sEH阻害剤は、sEHの関与する疾患、例えば、糖尿病合併症、循環器疾患、及び/又は炎症性疾患等;具体的には、高血圧症、心血管疾患、動脈硬化症、糖尿病性腎症、慢性腎臓病、末梢動脈障害、糖尿病性網膜症、メタボリックシンドローム、及び/又は各種炎症性疾患等;の治療薬となることが期待される。
【0010】
例えば、sEH阻害作用を有し、血管弛緩作用及び抗炎症作用等を有する化合物として、下記式の化合物が知られている(以下順に特許文献2、3)。
【化1】


[式中、R1は、C1−C8アルキル、アリールC0−C8アルキル、C3−C12シクロアルキル、ヘテロシクリルであり、これらはそれぞれ1〜2個のC1−C8アルキル、C1−C8ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリールであり;Aは1〜2個のR7で置換されていてもよいヘテロシクリルであり; Y1は結合、C(R52、NR5又はOであり; Y2は、結合、NR5又はOであり; R5は、H、アルキル又は−C(=O)R6である。nは0又は1である。式中の他の記号は、特許文献2を参照のこと。]
【化2】


[式中、Xは、As、N、P、Se又はSであり; Wは、NH、O、S又はCHnであり; また、YはNH、O、S又はCHn; Zは、N、O、S又は存在しない。nは0、1、2又は3である。式中の他の記号は、特許文献3を参照のこと]
【0011】
また、11β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ阻害作用を有し、II型糖尿病等の疾患の治療に有用な化合物として、下記式の化合物が知られている(特許文献4)。
【化3】

【0012】
[式中、Qは、非置換フェニル;ハロゲン、低級アルキル、−COOA、−CF3、−OA、−NC(=O)A、及びフェニルよりなる群から独立に選択される基で、単置換、二置換、又は三置換されているフェニルである置換フェニル;環炭素原子により結合しており、かつ硫黄、窒素及び酸素よりなる群から選択される1〜3個の環ヘテロ原子を有する、5員又は6員芳香族複素環である非置換ヘテロシクリル;−COOA又はハロゲンで置換されているヘテロシクリルである置換ヘテロシクリル;ナフチル;環炭素により結合しており、かつ硫黄、窒素及び酸素よりなる群から選択される1〜3個の環ヘテロ原子を有する、9員及び10員二環式不飽和若しくは部分不飽和ヘテロシクリル、あるいはハロゲン又は低級アルキルから選択される置換基で、単置換、二置換又は三置換されている、9員又は10員二環式ヘテロシクリルである置換二環式ヘテロシクリルであり;
Aは、1〜4個の炭素原子を有する低級アルキルである。式中の他の記号は、特許文献4を参照のこと]
【0013】
sEH阻害作用を有し、かつ、11β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ タイプ1(11β−HSD1)阻害作用を有し、高血圧等の疾患の治療に有用な化合物として、下記の式で示される化合物が知られている(特許文献5)。
【化4】


[Aは、A1等; Wは、S(O2)R2又はC(O)NR22; R2は、独立して、H、CH3、Re、Rf、Rg、Rh、又はRm。式中の他の記号は、特許文献5を参照のこと]。特許文献5において、R2が、ヘテロシクロアルキルに該当する基の記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開WO2008/094869号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2007/106525号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2007/022059号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO2006/094633号パンフレット
【特許文献5】国際公開WO2009/070497号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
医薬組成物、特にsEHの関与する疾患、例えば、糖尿病合併症、循環器疾患、及び/又は炎症性疾患等;具体的には、高血圧症、心血管疾患、動脈硬化症、糖尿病性腎症、慢性腎臓病、末梢動脈障害、糖尿病性網膜症、メタボリックシンドローム、及び/又は各種炎症性疾患等;の治療用医薬組成物の有効成分として有用な化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らはsEHの関与する疾患の治療剤について鋭意検討した結果、環状アミノ化合物を見出して本発明を完成した。
即ち、本発明は、式(I)の化合物又はその塩、並びに、式(I)の化合物又はその塩、及び賦形剤を含有する医薬組成物に関する。
【化5】


(式中、
1は、同一または異なった1から5個の低級アルキル又はハロゲンで置換されていてもよいC6-12シクロアルキル、又は、同一または異なった1から5個の低級アルキルで置換されていてもよいアリールであり、
Xは、O、NH、又はCH2であり、
ただし、式(I)におけるR1を含むアミノカルボニル部分が、中央の環状アミノのXに結合する場合、XはN、又はCHであり、
Aは、同一または異なった1から5個のRAで置換されていてもよいアリール、同一または異なった1から5個のRAで置換されていてもよいヘテロアリール、又は、
式(II)
【化6】


で示される基であり、
Yは、O、NH、又はCH2であり、
Aは、−C(=O)OH、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよい低級アルキル、又は−C(=O)O−(フェニルで置換されていてもよい低級アルキル)であり、
2は、−CN、−OH、−C(=O)OH、−C(=O)NH2、−(低級アルキレン)−C(=O)O−(低級アルキル)、−C(=O)O−(低級アルキル)、−C(=O)NH(低級アルキル)、−C(=O)N(低級アルキル)2、−NH2、−NH−OH、−NO2、=O、−(低級アルキレン)−C(=O)OH、−(低級アルキレン)−C(=O)NH2、−(低級アルキレン)−OH、ヘテロアリール、アリール、又は低級アルキルであり、
kは、0又は1であり、
mは、0又は1である。)
【0017】
なお、特に記載がない限り、本明細書中のある化学式中の記号が他の化学式においても用いられる場合、同一の記号は同一の意味を示す。
【0018】
また、本発明は、式(I)の化合物又はその塩を含有するsEHの関与する疾患の治療用医薬組成物、即ち、式(I)の化合物又はその塩を含有するsEHの関与する疾患の治療剤に関する。
また、本発明は、sEHの関与する疾患治療用医薬組成物の製造のための式(I)の化合物又はその塩の使用、並びに、式(I)の化合物又はその塩の有効量を患者に投与することからなるsEHの関与する疾患の治療方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
式(I)の化合物又はその塩は、sEHの関与する疾患、例えば、糖尿病合併症、循環器疾患、及び/又は炎症性疾患等;具体的には、高血圧症、心血管疾患、動脈硬化症、糖尿病性腎症、慢性腎臓病、末梢動脈障害、糖尿病性網膜症、メタボリックシンドローム、及び/又は各種炎症性疾患等;の予防及び/又は治療剤として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
「ハロゲン」は、F、Cl、Br、Iを意味する。
【0022】
「低級アルキル」とは、直鎖又は分枝状の炭素数が1から6(以後、C1-6と略す)のアルキル、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等である。別の態様としては、C1-4アルキルである。
【0023】
「低級アルキレン」とは、直鎖又は分枝状のC1-6のアルキレン、例えばメチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、プロピレン、メチルメチレン、エチルエチレン、1,2−ジメチルエチレン、1,1,2,2−テトラメチルエチレン等である。別の態様としては、C1-4アルキレンであり、さらに別の態様としては、メチレンである。
【0024】
「C6-12シクロアルキル」とは、C6-12の飽和炭化水素環基である。例えば、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ビシクロ[3.1.1]ヘプチル、アダマンチル等である。別の態様としては、ビシクロ[3.1.1]ヘプチルである。
【0025】
「アリール」とは、C6-14の単環から三環式式芳香族炭化水素環基であり、例えばフェニル、ナフチル、インダニルであり、別の態様としてはフェニルであり、さらに別の態様としては、インダニルである。
【0026】
「ヘテロアリール」とは、窒素、酸素、及び硫黄からなる群より選択された同一又は異なるヘテロ原子を1個以上有する単環の5から6員環芳香族へテロ環を意味する。具体的には例えば、ピリジル、ピラジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、チエニル、フリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、インドリル、ベンゾオキサゾリル、又はベンゾチアゾリル等を挙げることができる。ある態様としては、6員環のヘテロアリールであり、別の態様としては、ピリジル、ピリミジニル、インドリル、ベンゾオキサゾリル、又はベンゾチアゾリルが挙げられる。
【0027】
「ヘテロシクロアルキル」とは、窒素、酸素、及び硫黄からなる群より選択された同一または異なるヘテロ原子を1個以上有する単環の4から8員環の非芳香環を意味し、これらは部分的に不飽和結合を有していてもよい。別の態様としては、アゼパニル、ジアゼパニル、アジリジニル、ピロリジニル、ピペリジル、ピラゾリジニル、ピペラジニル、アゾカニル、チオモルホリニル、チアゾリジニル、イソチアゾリジニル、オキサゾリジニル、モルホリニル、チオモルホリニルなどである。
【0028】
「環状アミノ」とは、環の構成原子の少なくとも一つが窒素原子である「ヘテロシクロアルキル」を意味する。別の態様としては、ピペリジル、ピペラジニル又はモルホリニルである。
【0029】
「置換されていてもよい」とは、無置換、若しくは置換基を1から5個有していることを意味する。なお、複数個の置換基を有する場合、それらの置換基は同一であっても、互いに異なっていてもよい。
【0030】
本明細書において、以下の略号を用いることがある。
tBuOK:tert−ブチルオキシカリウム、n−BuOH:ノルマルブタノール、CDI:1,1’−カルボニルジイミダゾール、DBU:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、DCC:ジシクロヘキシルカルボジイミド、DCM:ジクロロメタン、DIBOC:ジ−tert−ブチルジカルボナート、DIPEA:N,N−ジイソプロピルエチルアミン、DMAP:N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、DMF:N,N−ジメチルホルムアミド、DMSO:ジメチルスルホキシド、DPPA:ジフェニルリン酸アジド、EtOAc:酢酸エチル、EtOH:エタノール、HOBt:1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、MeCN:アセトニトリル、MEK:メチルエチルケトン、MeOH:メタノール、MgSO4:無水硫酸マグネシウム、Na2SO4:無水硫酸ナトリウム、NaHCO3:炭酸水素ナトリウム、NaOH:水酸化ナトリウム、NMP:N−メチルピロリドン、i−PrOH:2−プロパノール、TEA:トリエチルアミン、TFA:トリフルオロ酢酸、THF:テトラヒドロフラン、WSC:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、WSC・HCl:WSC塩酸塩、brine:飽和食塩水、(−)−cis−ミルタニルアミン:1−[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メタンアミン、tert−:ターシャリー。
【0031】
本発明のある態様を以下に示す。
(1)R1が、同一または異なった2個の低級アルキルで置換されていてもよいビシクロ[3.1.1]ヘプチルである式(I)の化合物又はその塩、あるいは別の態様として、R1が、2個のメチルで置換されているビシクロ[3.1.1]ヘプチルである式(I)の化合物又はその塩、
(2)Aが、フェニル、ピリジル、インドリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、又はピリミジニルである式(I)の化合物又はその塩、あるいは、Aが式(II)の基である式(I)の化合物又はその塩。
(3)kが、0である式(I)の化合物又はその塩。
(4)mが、0である式(I)の化合物又はその塩、あるいは別の態様として、mが、1である式(I)の化合物又はその塩。
(5)Xが、CH2である式(I)の化合物又はその塩。
(6)式(I)におけるR1を含むアミノカルボニル部分が、中央の環状アミノのXのα位の炭素と結合している式(I)の化合物又はその塩。
(7)上記(1)〜(6)の態様に示された基のうち二以上の組み合わせである式(I)の化合物。
【0032】
本発明の上述の態様(7)のうち、いくつかを以下に示す。
(8) Aが、フェニル、ピリジル、インドリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、又はピリミジニルであり、かつ、Xが、CH2である式(I)の化合物又はその塩。
(9) R1が、2個のメチルで置換されているビシクロ[3.1.1]ヘプチルであり、kが0であり、かつ、mが0である式(I)の化合物又はその塩。
【0033】
本発明に包含される具体的化合物の例として、以下の化合物又はその塩が挙げられる。 4−[(3R)−3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]−3−(トリフルオロメチル)安息香酸、 6−[(3R)−3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]−1−メチル−1H−インドール−2−カルボン酸、 2−[(3R)−3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]−1,3−ベンゾチアゾール−6−カルボン酸、 2−[4−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]−1,3−ベンゾチアゾール−6−カルボン酸、 5−クロロ−6−[(3R)−3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]ニコチン酸、 6−[(3R)−3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]−1−メチル−1H−インドール−3−カルボン酸、 4−[3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピロリジン−1−イル]−3−(トリフルオロメチル)安息香酸。
【0034】
式(I)の化合物には、置換基の種類によって、互変異性体や幾何異性体が存在しうる。本明細書中、式(I)の化合物が異性体の一形態のみで記載されることがあるが、本発明は、それ以外の異性体も包含し、異性体の分離されたもの、あるいはそれらの混合物も包含する。
【0035】
また、式(I)の化合物には、不斉炭素原子や軸不斉を有する場合があり、これに基づく光学異性体が存在しうる。本発明は、式(I)の化合物の光学異性体の分離されたもの、あるいはそれらの混合物も包含する。
【0036】
さらに、本発明は、式(I)で示される化合物の製薬学的に許容されるプロドラッグも包含する。製薬学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により又は生理学的条件下で、アミノ基、水酸基、カルボキシル基等に変換されうる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、例えば、Prog.Med.,5, 2157−2161(1985)や、「医薬品の開発」(廣川書店、1990年)第7巻 分子設計163−198に記載の基が挙げられる。
【0037】
また、式(I)の化合物の塩とは、式(I)の化合物の製薬学的に許容される塩であり、置換基の種類によって、酸付加塩又は塩基との塩を形成する場合がある。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等の有機塩基との塩、アセチルロイシン等の各種アミノ酸及びアミノ酸誘導体との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0038】
さらに、本発明は、式(I)の化合物及びその塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質も包含する。また、本発明は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物も包含する。
【0039】
(製造法)
式(I)の化合物及びその塩は、その基本構造あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。その際、官能基の種類によっては、当該官能基を原料から中間体へ至る段階で適当な保護基(容易に当該官能基に転化可能な基)に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。このような保護基としては、例えば、ウッツ(P. G. M. Wuts)及びグリーン(T. W. Greene)著、「Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis(第4版、2006年)」に記載の保護基等を挙げることができ、これらの反応条件に応じて適宜選択して用いればよい。このような方法では、当該保護基を導入して反応を行なったあと、必要に応じて保護基を除去することにより、所望の化合物を得ることができる。
また、式(I)の化合物のプロドラッグは、上記保護基と同様、原料から中間体へ至る段階で特定の基を導入、あるいは得られた式(I)の化合物を用いてさらに反応を行なうことで製造できる。反応は通常のエステル化、アミド化、脱水等、当業者に公知の方法を適用することにより行うことができる。
以下、式(I)の化合物の代表的な製造法を説明する。各製法は、当該説明に付した参考文献を参照して行うこともできる。なお、本発明の製造法は以下に示した例には限定されない。
【0040】
(第一製法)
【化7】

【0041】
[式中、Lvは脱離基を示す。]
本発明化合物(I)又はその塩は、化合物(1)又はその塩と化合物(2)とを反応させて製造できる。
本工程は、化合物(1)を、化合物(2)のAで置換する反応であり、常圧または加圧下に、溶媒の不存在下若しくは適当な溶媒中で行うことができる。化合物(2)のLvとしては、フルオロ、クロロ、ブロモ等のハロゲン;メタンスルホニルオキシ、エタンスルホニルオキシ、p−トルエンスルホニルオキシ、p−ニトロベンゼンスルホニルオキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシ等のスルホニルオキシ;等を挙げることができる。反応に用いる 溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;アセトン、MEK等のケトン類;ジエチルエーテル、THF、ジオキサン、ジエトキシエタン等のエーテル類;MeOH、EtOH、i−PrOH及びn−BuOH等のアルコール類;DCM、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;MeCN;DMF、 NMPやDMSO等の非プロトン性極性溶媒;水;あるいはこれらの混合溶媒が挙げられる。 本反応は塩基の存在下に行うのが好ましく、塩基の具体例としてはK2CO3やNa2CO3等の炭酸アルカリ;NaHCO3やKHCO3等の炭酸水素アルカリ;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、tBuOK等のアルコキシド;TEA、トリブチルアミン、DIPEA等の三級アミン;DBU、ピリジン、ルチジン等の有機塩基等を挙げることができるが、化合物(1)の過剰量で兼ねることもできる。反応温度は、原料化合物の種類、反応条件等により異なるが、通常室温から溶媒の還流温度程度で行うことができる。通常、DIPEA、又はK2CO3等の塩基の存在下、DMF、DMSO等の反応に不活性な有機溶媒中、室温から加熱下に行うことができる。
別法として、加熱条件下にマイクロ波を照射させて反応させることもできる。また、リン酸カリウム等の塩基存在下、2−(ジtert−ブチルホスフィノ)ビフェニル等のリン試薬とPd(OAc)2等のパラジウム触媒を用いたカップリング反応により行うこともできる。
【0042】
(第二製法)
【化8】

【0043】
本発明化合物(I)は、化合物(3)と化合物(4)とを反応させて製造できる。
本反応では、化合物(3)又はその塩と化合物(4)とを、等量若しくは一方を過剰量用い、これらの混合物を縮合剤の存在下、反応に不活性な溶媒中、冷却下から加熱下、好ましくは−20℃から60℃において、通常0.1時間から5日間撹拌する。溶媒の例としては、特に限定はされないが、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、非プロトン性極性溶媒、EtOAc、MeCN又は水、及びこれらの混合物が挙げられる。縮合剤の例としては、WSC、DCC、CDI、DPPA、オキシ塩化リンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。添加剤(例えばHOBt)を用いることが反応に好ましい場合がある。有機塩基、又は無機塩基の存在下で反応を行うことが、反応を円滑に進行させる上で有利な場合がある。
また、化合物(4)を反応性誘導体へ変換した後に化合物(3)と反応させる方法も用いることができる。カルボン酸の反応性誘導体の例としては、オキシ塩化リン、塩化チオニル等のハロゲン化剤と反応して得られる酸ハロゲン化物、クロロギ酸イソブチル等と反応して得られる混合酸無水物、HOBt等と縮合して得られる活性エステル等が挙げられる。これらの反応性誘導体と化合物(3)との反応は、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類等の反応に不活性な溶媒中、冷却下から加熱下、好ましくは、−20℃から60℃で行うことができる。
〔文献〕
S. R. Sandler及びW. Karo著、「Organic Functional Group Preparations」、第2版、第1巻、Academic Press Inc.、1991年
日本化学会編「実験化学講座(第5版)」16巻(2005年)(丸善)
【0044】
(第三製法)
【化9】

【0045】
[式中、Halはハロゲンを意味する。]
本発明化合物(I)は、化合物(5)と化合物(6)とを反応させて製造できる。通常、スルファモイルハライドを有する化合物(5)に対して、化合物(6)又はその塩を等量または過剰量用いて反応させる。溶媒としては、特に限定はされないが、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、DMF、ピリジン、アルコール類、DMSO、EtOAc、MeCN又は水、及びこれらの混合溶媒が挙げられる。 本反応は、塩基の存在下に行うのが好ましく、塩基の具体例としては、炭酸アルカリ、炭酸水素アルカリ、アルコキシド、三級アミン、有機塩基等を挙げることができる。塩基は化合物(6)の過剰量を兼ねることもできる。
【0046】
(第一中間体製法)
【化10】

【0047】
[式中、Protは保護基を意味する。]
化合物(1)は、化合物(3)と化合物(7)を反応させて得られた化合物(8)を、脱保護することにより製造できる。Step4−1は、前述のStep2と同様の条件を用いることができる。Step4−2は、通常の脱保護の条件で行えばよく、例えば、ウッツ(P.G.M.Wuts)及びグリーン(T.W.Greene)著、「Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis(第4版、2006年)」を参照して行うことができる。
【0048】
(第二中間体製法)
【化11】

【0049】
化合物(4)は、化合物(9)と化合物(2)と反応させることにより得られた化合物(10)を脱保護することにより製造できる。 Step5−1は、前述のStep1と同様の条件で製造することができる。 Step5−2は、通常のエステルのアルカリ加水分解により脱保護することも可能であるが、例えば、ウッツ(P.G.M.Wuts)及びグリーン(T.W.Greene)著、「Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis(第4版、2006年)」を参照して行うことができる。
【0050】
(第三中間体製法)
【化12】

【0051】
化合物(6)は、化合物(11)と化合物(12)とを反応させて得られた化合物(13)を脱保護することにより製造できる。
Step6−1は化合物(11)又はその塩と、化合物(12)で示されるスルファモイルハライド又はアリールスルホニルハライドとを反応させて、化合物(13)のスルファミドを形成する反応である。化合物(11)の塩を用いる場合には、ピリジン、TEA、DIPEA等の有機塩基を加える。本反応は上述のStep3のスルファミド化の反応と同様に行うことができる。
Step6−2は、化合物(13)又はその塩を脱保護する反応である。通常のエステルのアルカリ加水分解により脱保護することも可能であるが、例えば、ウッツ(P.G.M.Wuts)及びグリーン(T.W.Greene)著、「Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis(第4版、2006年)」を参照して行うことができる。
【0052】
(第四中間体製法)
【化13】

【0053】
化合物(5)は、化合物(1)にスルフリルビスハライドを反応させて製造できる。
Step7は、化合物(1)のアミン又はその塩にスルフリルビスハライドを作用させて、スルファモイルハライドを有する化合物(5)を製造する工程である。溶媒としては、通常、ハロゲン化炭化水素類を用いることができる。通常、ピリジン、TEA、DIPEA、DMAP等の有機塩基を加える。特に、DMAPが好ましい。反応温度は通常−78℃から30℃の間、好ましくは、−78℃から室温までの間で行うことが好ましい。
【0054】
さらに、式(I)で示されるいくつかの化合物は、以上のように製造された本発明化合物から、公知のアルキル化、アシル化、置換反応、酸化、還元、加水分解、脱保護など当業者が通常採用しうる工程を任意に組み合わせることにより製造することもできる。
【0055】
式(I)の化合物は、遊離化合物、その塩、水和物、溶媒和物、あるいは結晶多形の物質として単離され、精製される。式(I)の化合物の塩は、常法の造塩反応に付すことにより製造することもできる。
単離、精製は、抽出、分別結晶化、各種分画クロマトグラフィー等、通常の化学操作を適用して行なわれる。
各種の異性体は、適当な原料化合物を選択することにより製造でき、あるいは異性体間の物理化学的性質の差を利用して分離することができる。例えば、光学異性体は、ラセミ体の一般的な光学分割法(例えば、光学活性な塩基又は酸とのジアステレオマー塩に導く分別結晶化や、キラルカラム等を用いたクロマトグラフィー等)により得られ、また、適当な光学活性な原料化合物から製造することもできる。
【0056】
試験例
式(I)の化合物の薬理活性は、以下の試験により確認した。
試験例1:sEH阻害試験(in vitro)
a.酵素の調製(ヒトおよびラット)
例えば、ヒトsEH cDNAを3 x FLAG tagを含むベクターにクローニングした。このプラスミドを293細胞にトランスフェクションし、3 x FLAG tagged ヒトsEHを一過的に発現させた。発現細胞を40mM Tris−HCl pH8.0, 150mM NaCl, 1mM EDTA, 0.2mM PMSFを含むバッファーに懸濁し、凍結融解により破砕した。遠心分離により上清を回収し、M2−agaroseを用いて3 x FLAG tagged ヒトsEHを部分精製した。ラットsEHについても同様の手法で酵素を精製した。さらに純度を上げるため、イオン交換クロマトグラフィーを行い高純度酵素を得た。
また、上記の手法以外にも、ヒト・ラットのsEHを適当なプラスミドにクローニングし、動物細胞・昆虫細胞・大腸菌等に発現させたものをイオン交換クロマトグラフィー等で精製する等して、酵素とした。
b.酵素阻害実験
上記手法により取得したヒトおよびラットsEH酵素を適宜希釈して用いた。被験化合物はDMSOで希釈して用い、0.02% Triton−X 100含有の25 mMのBis−Trisバッファー中で酵素と混合した。基質として終濃度50 μMのPHOME((3−フェニル−オキシラニル)−酢酸 シアノ−(6−メトキシ−ナフタレン−2−イル)−メチルエステル)(Analytical Biochemistry 2005年、343、pp.66−75)を添加し、マルチウェルプレートを用いて室温にて50分間反応させた。反応後、蛍光プレートリーダーにて励起光355 nm/放射光460 nmで測定を行った。被験化合物の活性は、溶媒添加群の測定値を0%阻害、酵素無添加の測定値を100%阻害とし、ロジスティック回帰により50%抑制する被験化合物の濃度(IC50) として算出した。
【0057】
式(I)の化合物のうちいくつかの化合物について、酵素阻害実験の結果(IC50値)を表1に示す。表中のNo欄に記載されたExは実施例番号を示す。
【表1】

【0058】
試験例2 経口吸収性・生体内安定性試験(ex vivo)
a.ラット血漿中化合物濃度を検出する試験
SD系雄性ラット(6〜8週齢、150〜250 g、非絶食)に、被験化合物を経口投与し、4時間後にヘパリン採血管を用いて眼窩静脈叢より血漿を採取し、ラット赤血球のsEH活性を利用した阻害反応試験に供する検体とした。ラット赤血球は、SD系雄性ラット(6〜8週齢、150〜250 g、非絶食)の腹部大動脈より採取した全血を、遠心分離操作によりバフィーコートを除去し、生理的塩濃度の試験バッファー(5 mMグルコース、0.2%牛アルブミンを添加)による洗浄操作により調製した。阻害反応試験は、5×108個/mLの赤血球に対して、被験化合物を投与した血漿を添加し、基質として100ng/mLの14,15−EETを添加し、37℃で30分間反応させた。反応後の上清を遠心分離操作により回収し、上清中の14,15−DHET量をELISA法(デトロイトR&D)にて測定した。ELISAは、抗14,15−DHET抗体を固相化した96ウェルプレートに被験サンプルまたは14,15−DHET標準液を添加し、同時にHRPを標識した14,15−DHET抗体を添加し、室温にて2時間インキュベートした。洗浄後、TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)溶液にて発色させ450 nMの吸光度を測定した。被験化合物の阻害活性は、化合物溶媒のみを投与した群の14,15−DHET濃度を0%阻害、反応液の基質である14,15−EETを添加しない群を100%阻害とし、被験化合物群の阻害率を算出した。
【0059】
式(I)の化合物のうちいくつかの化合物について、3mg/kg経口投与時のsEH阻害試験の結果を表1に示す。表中のNo欄に記載されたExは実施例番号を示す。
【表2】

【0060】
上記試験の結果、式(I)の化合物はsEH阻害作用を有することが確認された。従って、sEHの関与する疾患、例えば、糖尿病合併症、循環器疾患、又は炎症性疾患等;具体的には、高血圧症;うっ血性心不全、狭心症又は心筋梗塞等の心血管疾患;動脈硬化症;糖尿病性腎症;慢性腎臓病;末梢動脈障害;糖尿病性網膜症;メタボリックシンドローム;又はリウマチ、変形性関節症、クローン病、潰瘍性大腸炎、腎炎、非アルコール性脂肪性肝炎等の各種炎症性疾患等;の治療に使用できる。
【0061】
式(I)の化合物又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する医薬組成物は、当分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0062】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0063】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0064】
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0065】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0066】
通常経口投与の場合、1日の投与量は、体重当たり約0.001〜100 mg/kg、好ましくは0.1〜30 mg/kg、更に好ましくは0.1〜10 mg/kgが適当であり、これを1回であるいは2回〜4回に分けて投与する。静脈内投与される場合は、1日の投与量は、体重当たり約0.0001〜10 mg/kgが適当で、1日1回〜複数回に分けて投与する。また、経粘膜剤としては、体重当たり約0.001〜100 mg/kgを1日1回〜複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0067】
式(I)の化合物は、前述の式(I)の化合物が有効性を示すと考えられる疾患の種々の治療剤又は予防剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、或いは別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例に基づき、式(I)の化合物の製造法をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例に記載の化合物に限定されるものではない。また、原料化合物の製法を製造例に、公知化合物の製造を参考例にそれぞれ示す。また、式(I)の化合物の製造法は、以下に示される具体的実施例の製造法のみに限定されるものではなく、式(I)の化合物はこれらの製造法の組み合わせ、あるいは当業者に自明である方法によっても製造されうる。
【0069】
製造例1
1−(tert−ブトキシカルボニル)ピペリジン−4−カルボン酸 5.00 g、1−[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メタンアミン 4.01 g、WSC・HCl 4.60 g、HOBt 3.24 gおよびDMF 75 mLの混合物を室温で終夜攪拌した。反応液にEtOAcおよび水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、1M 塩酸、飽和NaHCO3水溶液、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去し、4−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−カルボン酸 tert−ブチル 7.9 gを無色固体として得た。
【0070】
製造例2
4−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−カルボン酸 tert−ブチル 7.9 g、EtOAc 32 mLの混合物に、氷冷下、4 M 塩化水素/EtOAc溶液 55 mLを加え、氷冷下2時間攪拌した。析出した固体をろ別し、水 100 mL、1 M NaOH水溶液を加え、反応液のpHを12から13に調整した。反応液をEtOAcで抽出し、有機層をbrineで洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去し、N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}ピペリジン−4−カルボキサミド 4.98 gを無色固体として得た。
【0071】
製造例3
N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}ピペリジン−4−カルボキサミド 200 mg、3−ブロモ安息香酸 tert−ブチル 389 mg、酢酸パラジウム(II) 7 mg、ジシクロヘキシル(2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル−2−イル)ホスフィン 35 mg、リン酸カリウム 802 mg及び1,4−ジオキサン 6.0 mLの混合物をアルゴン雰囲気下、100℃で終夜攪拌した。反応液を冷却後、セライトにてろ過し、EtOAcおよび水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=1:1)で精製し、3−[4−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]安息香酸 tert−ブチル 300 mgを黄色油状物として得た。
【0072】
製造例4
4−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)安息香酸 10.0 g、2−メチルプロパン−2−オール 76 mL、DIBOC 21.0 g、DMAP 881 mg、DCM 200 mLの混合物を4日間室温で攪拌した。反応液に1M塩酸、水を加え有機層を分離した後、飽和NaHCO3水溶液、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=4:1)にて精製し、4−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)安息香酸 tert−ブチルを無色油状物として得た。
【0073】
製造例5
1−(ピペリジン−1−イルスルホニル)ピペリジン−3−カルボン酸エチル 3.01 g、1M NaOH水溶液 20 mL及びEtOH 30 mLの混合物を2時間加熱還流した。反応液を減圧留去した後、1M塩酸で中和し、生じた固体をろ別、乾燥し、1−(ピペリジン−1−イルスルホニル)ピペリジン−3−カルボン酸 2.50 gを無色固体として得た。
【0074】
製造例7
塩化スルフリル 713 mg及びDCM 13 mLの混合物に、N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}ピペリジン−3−カルボキサミド 1.27 g、DMAP 616 mg及びDCM 27 mLの混合物を−60〜−50℃に保ちながら滴下した。室温にて2時間攪拌した後、反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=1:1)を通して精製し、塩化 3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−スルホニル 1.10 gを無色油状物として得た。
【0075】
製造例8
3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−カルボン酸 tert−ブチル 6.5 g、4M 塩化水素/EtOAc溶液 60 mL及びEtOAc 40 mLの混合物を氷冷下、5分攪拌し、さらに室温で2時間攪拌した。反応液を濃縮後、水を加え、水層をジイソプロピルエーテルにて洗浄した後、1M NaOH水溶液を加え、クロロホルムで抽出した。有機層をNa2SO4で乾燥後、減圧濃縮し、得られた残渣を塩基性シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:MeOH=9:1)にて精製し、N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}ピペリジン−3−カルボキサミド 4.05 gを無色固体として得た。
【0076】
製造例9
2−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)モルホリン−4−カルボン酸 tert−ブチル 2.1 g、4M塩化水素/EtOAc溶液 21 mL及びEtOAc 21 mLの混合物を室温で4 時間攪拌した後、4 ℃で終夜攪拌した。生じた固体をろ別、乾燥し、N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}モルホリン−2−カルボキサミド 塩酸塩 1.65 gを無色固体として得た。
【0077】
実施例2
N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}ピペリジン−4−カルボキサミド 200 mg、2−クロロ−1,3−ベンゾチアゾール−6−カルボン酸エチル 219 mg、N−エチル−N−イソプロピルプロパン−2−アミン 0.26 mLおよびDMSO 4.0 mLの混合物を100℃で終夜攪拌した。反応液にEtOAcおよび水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=9:1から0:1)で精製し、2−[4−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]−1,3−ベンゾチアゾール−6−カルボン酸エチル 340 mgを淡黄色固体として得た。
【0078】
実施例3
N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}ピペリジン−4−カルボキサミド 200 mg、2−フルオロピリジン 88 mg、N−エチル−N−イソプロピルプロパン−2−アミン 0.26 mLおよびDMSO 4.0 mLの混合物を室温で終夜攪拌した。反応液にEtOAcおよび水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=9:1)で精製し、得られた残渣にEtOAc 4.0 mL、4 M 塩化水素/EtOAc溶液 1.0 mLを加え、溶媒を減圧留去し、N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}−1−ピリジン−2−イルピペリジン−4−カルボキサミド 塩酸塩 120 mgを褐色固体として得た。
【0079】
実施例4
2−[4−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]−1,3−ベンゾチアゾール−6−カルボン酸エチル 320 mg、1 M NaOH水溶液 1.0 mL、THF 3.2 mL、EtOH 3.2 mLの混合物を60℃で終夜攪拌した。反応液を室温まで冷却し、1 M塩酸で中和し、溶媒を減圧留去し、生じた固体を濾取し、2−[4−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]−1,3−ベンゾチアゾール−6−カルボン酸 300 mgをベージュ色固体として得た。
【0080】
実施例6
3−[4−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]安息香酸 tert−ブチル 300 mg、TFA 4.0 mL、DCM 5.0 mLの混合物を室温で4時間攪拌した。反応液を減圧留去した。得られた残渣にEtOAc 4.0 mL、4 M 塩化水素/EtOAc溶液 1.0 mLを加え、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をアセトニトリルで固体化させ、3−[4−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]安息香酸 塩酸塩 208 mgをベージュ色固体として得た。
【0081】
実施例7
2−[(3R)−3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]安息香酸ベンジル 160 mg、Pd炭素 16 mg、EtOAc 3.2 mLの混合物を、水素雰囲気下終夜攪拌した。反応液をセライトで濾過し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣にEtOAc 4.0 mL、4 M 塩化水素/EtOAc溶液 1.0 mLを加え、溶媒を減圧留去し、2−[(3R)−3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]安息香酸 塩酸塩を無色固体として得た。
【0082】
実施例8
1−フェニルピペリジン−4−カルボン酸 300 mg、1−[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メタンアミン 269 mg、WSC・HCl 308 mg、HOBt 217 mgおよびDMF 4.5 mLの混合物を室温で終夜攪拌した。反応液にEtOAcおよび水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣にEtOAc 2.0 mL、4 M 塩化水素/EtOAc溶液 4.5 mLを加え、溶媒を減圧留去し、ジイソプロピルエーテルで洗浄し、N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}−1−フェニルピペリジン−4−カルボキサミド 塩酸塩 496 mgを無色固体として得た。
【0083】
実施例9
5−クロロ−6−[(3R)−3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]ニコチン酸 tert−ブチル 350 mg、TFA 3.5 mL、DCM 3.5 mLの混合物を室温で4時間攪拌した。反応液を減圧留去し、EtOAcおよびヘキサンを加え、生じた固体をろ別し、5−クロロ−6−[(3R)−3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]ニコチン酸 トリフルオロ酢酸塩138 mgを無色固体として得た。
【0084】
実施例34
1−(ピペリジン−1−イルスルホニル)ピペリジン−3−カルボン酸 300 mg、2−シクロヘプチルエチルアミン 184 mg、WSC・HCl 250 mg、HOBt 176 mg及びDMF 3.0 mLの混合物を室温で終夜攪拌した。反応液にEtOAc及び水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を1M塩酸、Na2CO3水溶液、brineで順次洗浄し、MgSO4で乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をEtOAc、ジエチルエーテル、ヘキサンを用いて固体化し、N−(2−シクロヘプチルエチル)−1−(ピペリジン−1−イルスルホニル)ピペリジン−3−カルボキサミド 341 mgを無色固体として得た。
【0085】
実施例35
(1−{[3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]スルホニル}ピペリジン−4−イル)酢酸エチル350 mg、1M NaOH水溶液4.0 mL、MeOH 8.0 mL及びTHF 2.0 mLの混合物を終夜加熱還流した。反応液を減圧留去した後、1M塩酸にて中和し、EtOAcにて抽出し、brineで洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をEtOAc−ヘキサンより固体化させ、(1−{[3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]スルホニル}ピペリジン−4−イル)酢酸 220 mgを無色固体として得た。
【0086】
実施例36
(4−{[3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]スルホニル}ピペラジン−1−イル)酢酸エチル 塩酸塩 286 mg、1M NaOH水溶液 2.7 mL及びMeOH 4.0 mLの混合物を終夜加熱還流した。反応液を減圧乾固した後、1 M塩酸で中和し、減圧濃縮した。得られた残渣に加熱したEtOH 10 mLを加え、10分間攪拌した後、不溶物をろ過し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をODSカラムクロマトグラフィー(水:MeCN=1:0〜水:MeCN=0:1)により精製した。生成物に水 2.0 mL及び1M 塩酸を加え、減圧濃縮し、EtOAcで固体化し、(4−{[3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]スルホニル}ピペラジン−1−イル)酢酸 塩酸塩 68 mgをベージュ色固体として得た。
【0087】
実施例37
4−{[2−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)モルホリン−4−イル]スルホニル}安息香酸メチル 395 mg、1M NaOH水溶液 2.0 mL及びEtOH 4 mLの混合物を終夜加熱還流した。反応液を減圧濃縮した後、1M 塩酸にて中和し、生じた固体をろ別、乾燥し、4−{[2−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)モルホリン−4−イル]スルホニル}安息香酸 295 mgを無色固体として得た。
【0088】
実施例38
塩化 3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−スルホニル 240 mg及びDCM 5.0 mLの混合物に室温にてモルホリン 0.29 mLを加え、終夜攪拌した。反応液にEtOAc及び水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、1M 塩酸、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、得られた固体をEtOAc−ヘキサンにて洗浄し、N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}−1−(モルホリン−4−イルスルホニル)ピペリジン−3−カルボキサミド 215 mgを無色固体として得た。
【0089】
実施例39
塩化 3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−スルホニル 400 mg、TEA 0.46 mL及びDCM 8.0 mLの混合物にピペリジン−4−イル酢酸エチル 300 mgを加え、室温にて終夜攪拌した。反応液にEtOAc及び水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、1M 塩酸、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=1:2)で精製し、(1−{[3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]スルホニル}ピペリジン−4−イル)酢酸エチル 485 mgを無色油状物として得た。
【0090】
実施例40
塩化 3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−スルホニル400 mg、TEA 0.77 mL及びDCM 8.0 mLの混合物にピペラジン−1−イル酢酸エチル二塩酸塩405 mgを加え、室温で終夜攪拌した。反応液にEtOAc及び水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、飽和NaHCO3水溶液、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:MeOH)で精製した。得られた残渣をEtOAc 10 mLに溶解し、4M 塩化水素/EtOAc溶液 1.1 mLを加え、室温にて20分間攪拌した。溶媒を留去し、得られた残渣をMeCN−ジエチルエーテルで固体化させ、(4−{[3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]スルホニル}ピペラジン−1−イル)酢酸エチル 塩酸塩 510 mgを無色固体として得た。
【0091】
実施例41
N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}ピペリジン−3−カルボキサミド 400 mg、TEA 0.42 mL及びDCM 8.0 mLの混合物に3−(クロロスルホニル)プロパン酸メチル 339 mgを加え、室温で終夜攪拌した。反応液にEtOAc及び水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、1M 塩酸及びbrineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=1:2)で精製した。得られた残渣をEtOAc−ヘキサンより固体化させ、3−{[3−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)ピペリジン−1−イル]スルホニル}プロパン酸メチル 320 mgを無色固体として得た。
【0092】
実施例42
N−{[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}モルホリン−2−カルボキサミド 塩酸塩、TEA 0.28 mL及びピリジン 3.0 mLの混合物に、4−(クロロスルホニル)安息香酸メチル 256 mgを加え、室温で終夜攪拌した。反応液を減圧留去し、EtOAc及び水を加え、EtOAcで抽出し、有機層を水、1M塩酸、brineで順次洗浄し、Na2SO4で乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc=1:1)で精製し、4−{[2−({[(1S,2R,5S)−6,6−ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト−2−イル]メチル}カルバモイル)モルホリン−4−イル]スルホニル}安息香酸メチル 399 mgを無色固体として得た。
【0093】
上述の実施例又は製造例の方法と同様にして、後記表に示す実施例及び製造例の化合物を製造した。実施例及び製造例の化合物について、構造を表3〜表17に、物理化学的データ及び製造法を表18〜表20に示す。表中、Prは製造例番号、Exは実施例番号を表す。Noの欄は、実施例又は製造例番号を記載する。Refの欄には、参考にして製造できる実施例又は製造例番号を記載する。Strは構造式を表す。Dataの欄は、1H−NMR及び/又はMSデータを記載する。NMRは、DMSO−d6中での1H−NMRデータを表す。ESI及びEIは、それぞれエレクトロスプレーイオン化法による質量分析値、電子イオン化法による質量分析値を表し、ESIおよびEIデータの+又は未記載の場合にはポジティブを意味する。

【表3】




【表4】




【表5】




【表6】



【表7】



【表8】



【表9】



【表10】



【表11】



【表12】





【表13】




【表14】




【表15】




【表16】




【表17】




【表18】




【表19】




【表20】



【産業上の利用可能性】
【0094】
式(I)の化合物又はその塩は、sEHに関与する疾患、例えば、糖尿病合併症、循環器疾患、及び/又は炎症性疾患等;具体的には、高血圧症、心血管疾患、動脈硬化症、糖尿病性腎症、慢性腎臓病、末梢動脈障害、糖尿病性網膜症、メタボリックシンドローム、及び/又は各種炎症性疾患等;の予防及び/又は治療剤として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物又はその塩。
【化14】


(式中、
1は、同一または異なった1から5個の低級アルキル又はハロゲンで置換されていてもよいC6-12シクロアルキル、又は、同一または異なった1から5個の低級アルキルで置換されていてもよいアリールであり、
Xは、O、NH、又はCH2であり、
ただし、式(I)におけるR1を含むアミノカルボニル部分が、中央の環状アミノのXに結合する場合、XはN、又はCHであり、
Aは、同一または異なった1から5個のRAで置換されていてもよいアリール、同一または異なった1から5個のRAで置換されていてもよいヘテロアリール、又は、
式(II)
【化15】


で示される基であり、
Yは、O、NH、又はCH2であり、
Aは、−C(=O)OH、ハロゲン、ハロゲンで置換されていてもよい低級アルキル、又は−C(=O)O−(フェニルで置換されていてもよい低級アルキル)であり、
2は、−CN、−OH、−C(=O)OH、−C(=O)NH2、−(低級アルキレン)−C(=O)O−(低級アルキル)、−C(=O)O−(低級アルキル)、−C(=O)NH(低級アルキル)、−C(=O)N(低級アルキル)2、−NH2、−NH−OH、−NO2、=O、−(低級アルキレン)−C(=O)OH、−(低級アルキレン)−C(=O)NH2、−(低級アルキレン)−OH、ヘテロアリール、アリール、又は低級アルキルであり、
kは、0又は1であり、
mは、0又は1である。)
【請求項2】
Aが、それぞれ同一または異なった1から5個のRAで置換されていてもよいフェニル、ピリジル、インドリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、又はピリミジニルであり、
Xが、CH2である式(I)の化合物又はその塩。
【請求項3】
Aが、式(II)で示される基である請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項4】
1が、2個のメチルで置換されているビシクロ[3.1.1]ヘプチルでありビシクロ[3.1.1]ヘプチルであり、
kが、0であり、
mが、0である請求項1に記載の化合物又はその塩。

【公開番号】特開2011−16742(P2011−16742A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161081(P2009−161081)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】