説明

環状アミノ安息香酸エステル誘導体の製造方法

【課題】ヒトペルオキシゾーム増殖薬活性化受容体(PPAR)の優れたアゴニストである環状アミノ安息香酸誘導体の、効率的かつ工業生産に適した製造方法を提供する。
【解決手段】2−ニトロ安息香酸エステル誘導体とピペリジン誘導体を反応させ、得られた化合物のニトロ基を還元後、亜硝酸またはその塩と還元剤により脱アミノ化反応を行うことにより、PPARαアゴニストである環状アミノ安息香酸誘導体及びその水和物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトペルオキシゾーム増殖薬活性化受容体(PPAR)に対して優れたアゴニスト活性を有する環状アミノ安息香酸誘導体或いはその製造中間体として有用な環状アミノ安息香酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(A)
【0003】
【化1】

【0004】

[式中、Raは水素原子、低級アルキル基を表し、Rbは水素原子、低級アルキル基などを表し、Rcは低級アルキル基、低級アルコキシ基などを表し、Yは酸素原子、硫黄原子、−(CH)n−(nは0,1,2を表す)を表す]
で示される環状アミノ安息香酸誘導体は、ヒトペルオキシゾーム増殖薬活性化受容体(PPAR)に対して優れたアゴニストであり、PPARが関与する種々の病態(脂質代謝異常、糖尿病等)の治療等の医薬用途に有用であることが知られている(特許文献1)。
特許文献1に記載された一般式(A)のうち、下記一般式(A')
【0005】
【化2】

【0006】
[式中、Ra、Rb、RcおよびYは、前記定義と同一]

で示される化合物の製造方法は、フェニルボロン酸誘導体をピペリジン誘導体に対し2当量作用させるものであり、その収率も60%に満たないものである。
【特許文献1】WO 2006−016637 パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示されているアミノ安息香酸誘導体の製造方法は、ピペリジン誘導体に対しフェニルボロン酸誘導体および銅試薬を1〜3当量作用させる必要があり、収率も60%に満たず、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製工程が必要であることから、工業的規模の実施には適さない。
本発明は、一般式(A)に記載されたアミノ安息香酸誘導体の製造に際し、製造の操作性、精製効率及び収率等を向上させ、工業的生産に適合する製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、2−ニトロ安息香酸エステル誘導体と3位置換ピペラジン誘導体を用いることにより、フェニルボロン酸を用いずに、効率的に一般式(A')に包含される一般式(6)で表される化合物を製造する方法を見出した。
すなわち本発明は、
1) 一般式(1):
【0009】
【化3】

【0010】

[式中、R1は水素原子または低級アルキル基を表し、Xはハロゲン原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、パラトルエンスルホニルオキシ基、またはメタンスルホニルオキシ基を表す]で表されるベンゼン誘導体と、一般式(2):
【0011】
【化4】

【0012】
[式中、R2は水素原子、低級アルキル基、またはアラルキル基を表し;
R3は低級アルキル基、低級アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリール基、または一般式(3):
【0013】
【化5】

【0014】

(Yは酸素原子、硫黄原子、メチレンを表し;
R4は水素原子、低級アルキル基を表し;
R5はハロゲン原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい低級アルキル基、或いは低級アルコキシ基の中からそれぞれ独立して選ばれた1〜3個の置換基を有していてもよいベンゼン環を表す)を表す]で表されるピペリジン誘導体を反応させることにより、一般式(4):
【0015】
【化6】

【0016】
[式中、R1、R2およびR3は、前記定義と同一である]で表される2−ニトロ−5−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステルを得、次いでニトロ基を還元することによって、一般式(5):
【0017】
【化7】

【0018】
[式中、R1、R2およびR3は、前記定義と同一である]で表される2−アミノ−5−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステルを得、次いで亜硝酸またはその塩と還元剤を用いて脱アミノ化することを特徴とする一般式(6):
【0019】
【化8】

【0020】

[式中、R1、R2およびR3は、前記定義と同一である]で表される3−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステル、若しくはそれらの水和物の製造方法、
2)前記R1が低級アルキル基、Xがハロゲン原子、R2が水素原子、R3が低級アルコキシ基、または一般式(3) :
【0021】
【化9】

【0022】
(Yは硫黄原子を表し、R4は低級アルキル基を表し、R5は1〜3個のハロゲン原子が置換してもよいベンゼン環を表す)である、1)記載の3−ピペリジノ安息香酸エステル又はその水和物の製造方法、
3)前記R3が一般式(3):
【0023】
【化10】

【0024】
(Yは硫黄原子を表し、R4は低級アルキル基を表し、R5はハロゲン原子が置換してもよいベンゼン環を表す)である、2)記載の3−ピペリジノ安息香酸エステル又はその水和物の製造方法、
4)脱アミノ化工程において、亜硝酸またはその塩が亜硝酸ナトリウムである、1)〜3)の何れかに記載の3−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステル、若しくはそれらの水和物の製造方法、
5)脱アミノ化工程において、還元剤が次亜リン酸である、1)〜4)の何れかに記載の3−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステル、若しくはそれらの水和物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、不純物が少なく、高収率でありかつ精製が簡便な3−ピペリジノ安息香酸エステル誘導体またはその水和物の工業的製造方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本明細書中に表される「低級アルキル基」とは、炭素数1から4の直鎖若しくは分岐鎖状のアルキル基を意味し、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。
本明細書中に表される「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。
本明細書中に表される「アラルキル基」とは、アリール基が置換した低級アルキル基を意味し、例えばベンジル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、フェネチル基、フェニルプロピル基などが挙げられる。
本明細書中に表される「低級アルコキシ基」とは、直鎖または分岐してもよい炭素数1から4のアルコキシ基を意味し、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基などが挙げられる。
本明細書中に表される「アラルキルオキシ基」とは、アリール基が置換したアルコキシ基を意味し、例えばベンジルオキシ基、ジフェニルメチルオキシ基、トリフェニルメチルオキシ基、フェネチルオキシ基、フェニルプロピルオキシ基などが挙げられる。
本明細書中に表される「アリール基」とは、芳香族炭化水素基を意味し、例えばフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
本明細書中に表される「亜硝酸またはその塩」とは、例えば亜硝酸、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどが挙げられる。
本明細書中に表される「還元剤」とは、亜硝酸またはその塩により生成したジアゾ化合物を還元的に脱離させることができるものであれば良く、例えば蟻酸、水素化ホウ素ナトリウム、硫酸鉄(II)、亜硫酸水素ナトリウム、次亜リン酸、亜リン酸などが挙げられる。
なお、本明細書においては化合物の構造式は便宜上ラセミ体で表すが、本発明には化合物の構造上生ずる全ての、不斉炭素に基づく光学異性体を含み、便宜上の式に限定されるものではない。また、化合物の塩やその水和物も総て本発明に含まれる。
(製造方法)
本発明は一般式(1)で表される2−ニトロ−安息香酸エステルに、一般式(2)で表される3位置換ピペリジンを反応させ、得られた2−ニトロ−5−ピペリジノ安息香酸エステル(4)のニトロ基を還元して、2−アミノ−5−ピペリジノ安息香酸エステル(5)とし、これを亜硝酸またはその塩と還元剤を用いることにより脱アミノ化することを特徴とする、一般式(6)で表される3−ピペリジノ安息香酸エステルまたはその水和物の工業的スケールの製造方法である(下記スキームを参照)。
【0027】
【化11】

【0028】

本発明の合成中間体である2−アミノ−5−ピペリジノ安息香酸エステル(5)は、特許文献1に記載の方法で製造することができる(工程1および工程2)。
工程3は、2−アミノ−5−ピペリジノ安息香酸エステル(5)を、亜硝酸またはその塩と還元剤を用いることにより脱アミノ化反応させることにより、5−ピペリジノ安息香酸エステル(6)へと誘導する工程である。
【0029】
本工程は無溶媒または溶媒存在下で行い、溶媒の種類としては、反応に悪影響を与えない限り特に制限はないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール系溶媒、水溶媒ならびにこれらの混合溶媒が挙げられる。好ましくは、エーテル系溶媒又はエーテル系溶媒を含んだ混合溶媒であり、特に好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン及び水からなる混合溶媒である。
本工程に使用できる「亜硝酸またはその塩」とは、例えば亜硝酸、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどが挙げられ、好ましくは亜硝酸ナトリウムが挙げられる。「還元剤」としては、亜硝酸またはその塩により生成したジアゾ化合物を還元的に脱離させることができるものであれば良く、例えば蟻酸、水素化ホウ素ナトリウム、硫酸鉄(II)、亜硫酸水素ナトリウム、次亜リン酸、亜リン酸などが挙げられ、好ましくは次亜リン酸が挙げられる。本工程の脱アミノ化反応はこれらの組み合わせにより実施され、好ましくは、亜硝酸ナトリウムと次亜リン酸の組み合わせである。使用量は、好ましくは基質に対して1〜10当量であり、より好ましくは2〜4当量である。
【0030】
本工程における反応は触媒を存在させても良く、触媒の種類としては、銅、酸化銅(II)、塩化銅(II)、亜鉛等が挙げられる。好ましくは、酸化銅(II)である。
本工程の反応温度は、0℃から溶媒の還流温度までの範囲で適宜選択され、使用する亜硝酸化合物により好ましい温度が異なる。反応時間は、反応温度との関係で適宜決められる。
【0031】
さらに本工程においては、上記反応を実施後,水及び2−プロパノールの混合溶媒による熱時懸濁洗浄等の精製を行うことにより,簡便な操作で収率良く,かつ高純度の3−ピペリジノ安息香酸エステル(6)又はその水和物を得ることができる。
一般に、芳香族一級アミンに亜硝酸およびその塩を作用させ生成するジアゾニウム化合物及びその塩は熱、衝撃等に不安定であり(化学プロセス安全ハンドブック、P16、田村昌三、朝倉書店、2000年)、反応途中において爆発の危険を伴うものであるが、本件発明の方法によれば、脱アミノ体を安全かつ収率よく製造できる。
一方、特許文献1に示された一般式(A)の製造方法は、ピペリジン誘導体に対し3位置換フェニルボロン酸を2当量作用させるものであり、また生成物であるアミノ安息香酸誘導体の収率も60%に満たないものであった。また精製にはシリカゲルカラムを必要とし、工業的規模で実施することが困難であった。
本発明により3−ピペリジノ安息香酸エステル誘導体又はその水和物の優れた工業的生産方法が提供された。

次に本発明を具体例によって説明するが、これらの例によって本発明が限定されるものではない。

(参考例1)
5−フルオロ−2−ニトロ安息香酸メチルエステル
5−フルオロ−2−ニトロ安息香酸 5.35g(28.9mmol)及び炭酸カリウム 5.99g(43.3mmol)にN,N−ジメチルホルムアミド(16.1mL)を加え、攪拌しながらヨウ化メチル 8.20g(57.8mmol)を滴下し、外温25〜30℃で1.5時間攪拌した後、外温35〜40℃で2時間攪拌した。水冷後、水 53.5mL及び酢酸エチル 53.5mLを加え抽出し、酢酸エチル層を分取し、得られた酢酸エチル層をチオ硫酸ナトリウム・五水和物 2.68gの水 53.5mL溶液で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去して淡褐色油状物の5−フルオロ−2−ニトロ安息香酸メチルエステル(5.64g、収率98%)を得た。
H−NMR(400MHz, CDCl)δ:3.95(3H, s), 7.31(1H, ddd, J = 9.0, 7.3, 2.7 Hz), 7.39(1H, dd, J = 7.8, 2.9 Hz), 8.03(1H, dd, J = 9.0, 4.6 Hz).
【実施例1】
【0032】
工程1:
5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ)−2−ニトロ安息香酸メチルエステル
5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド])ピペリジン 3.34g(9.93mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(25mL)に加え、外温45℃で攪拌しながら溶解した。炭酸カリウム2.06g(14.9mmol)を加え、5−フルオロ−2−ニトロ安息香酸メチルエステル 2.18g(10.9 mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド 3mL溶液を加えて外温45℃で2時間攪拌した。その後加温および攪拌を停止し、16時間静置した。反応液を室温で攪拌しながら、水20mLを加え晶析させ、5分間攪拌した後さらに水58mLを加えた。外温45℃で30分間攪拌し、さらに室温で攪拌した後、結晶を濾取した。水58mLで洗浄し、これにアセトン50mL、水30mLを加え、外温65℃で30分間攪拌した。その後、室温で一夜静置し、結晶を濾取した。アセトン:水=1:1混液50mLで洗浄し、60℃で4時間送風乾燥して黄色粉末の5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ)−2−ニトロ安息香酸メチルエステル(4.90g、収率96%)を得た。
H−NMR(400MHz, DMSO−d)δ:1.50−1.59(1H, m), 1.65−1.74(1H, m), 1.80−1.83(1H, m), 1.93−1.97(1H, m), 2.56(3H, s), 3.15−3.22(2H, m), 3.38(3H, s), 3.80−3.91(2H, m), 3.97−4.01(1H, m), 7.07−7.10(2H, m), 7.57(2H, d, J = 8.5Hz), 7.94(2H, d, J = 8.5 Hz),8.00(1H, d, J = 9.3 Hz), 8.33(1H, d, J = 6.8 Hz).

工程2:
2−アミノ−5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ)安息香酸メチルエステル
メタノール875 mLに塩化ニッケル(II)六水和物11.54 g (48.6 mmol)を撹拌下投入し、溶解させた。テトラヒドロフラン 875 mLおよび5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ)−2−ニトロ安息香酸メチルエステル 125.00 g (243 mmol)を撹拌下投入し、懸濁させた。アルゴンガス気流下、冷却し、内温5〜20℃で水素化ホウ素ナトリウム27.55 g (728 mmol)を撹拌下投入し,内温5〜18℃で1時間撹拌した。反応液に酢酸エチル1.75 L、塩化アンモニウム溶液(塩化アンモニウム87.50 g、水1.16 Lで調製)およびテトラヒドロフラン 375 mLを加え、内温15〜20℃で10分間撹拌した。水層(下層)を廃棄し、有機層(上層)を塩化アンモニウム溶液(塩化アンモニウム87.50 gおよび水788 mLで調製)で洗浄(内温15〜20℃)、次いで塩化アンモニウム溶液(塩化アンモニウム60.00 gおよび水563 mLで調製)で洗浄(内温30〜40℃で30分間撹拌)した。有機層にN,N−ジメチルホルムアミド 625 mLを投入し、外温40℃以下で減圧濃縮した。濃縮残留物にN,N−ジメチルホルムアミド 625 mLを投入し、加熱して溶解した後、内温50〜55℃で常水250 mLを滴下し(結晶析出確認)、30分間撹拌後、常水1000 mLを滴下した。冷却して、内温15〜25℃で30分間撹拌した。結晶をろ取し、常水625 mLで洗浄して、湿潤粗結晶221.78 gを得た。
メタノール1.88 Lおよび水625 mLの混液に湿潤粗結晶を撹拌下投入し、加熱して、内温50〜60℃で30分間撹拌した。冷却し、内温15〜25℃で30分間撹拌した後、結晶をろ取し、メタノール250 mLと水250 mLの混液で洗浄して、湿潤結晶180.54 gを得た。60℃で16時間送風乾燥して、2−アミノ−5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ)安息香酸メチルエステル (105.90 g、収率:90.0%)を得た。

工程3:
(S)−3−{3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド] ピペリジノ}安息香酸メチルエステル
N,N−ジメチルホルムアミド 3.47 L及びテトラヒドロフラン 1.74 Lの混液に(S)−2−アミノ−5−{3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ}安息香酸メチルエステル 347 g(715 mmol)及び50%次亜リン酸1.21 Lを加え、10℃以下で亜硝酸ナトリウム98.7 g(1.43 mol)の水521 mL溶液を滴下した。10℃以下で1時間撹拌後、20〜30℃で1時間撹拌した。加熱し、45〜55℃で水3.47 Lを加えた。冷却し、25℃以下で30分間撹拌後、析出した結晶をろ取し、2−プロパノールと水の混液で洗浄して、湿潤粗結晶を得た。2−プロパノール2.78 Lと水694 mLの混液に湿潤粗結晶を加え、内温50〜60℃で30分間撹拌後、冷却し、内温20〜30℃で30分間撹拌した。析出した結晶をろ取し、2−プロパノールと水の混液で洗浄後、乾燥すると,茶褐色粉末の(S)−3−{3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド] ピペリジノ}安息香酸メチルエステル 286 g(609 mmol、収率85%)を得た。
FAB−MS(positive) m/z:470[M + H]
H−NMR(CDCl, 400 MHz)δ:1.80−1.91(4H, m), 2.72(3H, s), 3.05−3.09(1H, m), 3.29−3.41(3H, m), 3.91(3H, s), 4.41−4.42(1H, m), 6.32(1H, d, J= 7.8 Hz), 7.16(1H, dd, J= 2.4, 7.8 Hz), 7.34(1H, t, J= 7.8 Hz), 7.41(2H, d, J= 8.3 Hz), 7.57(1H, d, J = 7.8 Hz), 7.63(1H, d, J = 2.4 Hz), 7.87(2H, d, J = 8.3 Hz).
【実施例2】
【0033】
工程1:
5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ)−2−ニトロ安息香酸メチルエステル
N,N−ジメチルホルムアミド 1.41 Lに5−フルオロ−2−ニトロ安息香酸 170 g (920 mmol)およびヨウ化メチル143 g (1.00 mol)を加え撹拌下溶解させ、炭酸カリウム254 g (1.84 mol)を投入し、内温30〜37℃で2時間撹拌した。次いで反応液に内温37℃で5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド])ピペリジン281 g (837 mmol)およびN,N−ジメチルホルムアミド 1.41 Lを投入し、内温40〜49℃で3時間撹拌した。常水5.62 Lに内温40℃で反応液を撹拌下滴下して結晶化させ、N,N−ジメチルホルムアミド 562 mLおよび常水1.12 Lで順次洗い込み結晶化液に合一した。冷却後、内温14〜25℃で30分間撹拌して、結晶をろ取し、常水1.41 Lで洗浄した。60℃で48時間送風乾燥して、黄色結晶性粉末の5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ)−2−ニトロ安息香酸メチルエステル425 g (825 mmol、99%)を得た。
FAB−MS(positive) m/z:515[M + H]
H−NMR(CDCl, 400 MHz)δ:1.72−1.91(3H, m), 2.05−2.10(1H, m), 2.70(3H, s), 3.30−3.40(2H, m), 3.54−3.59(1H, m), 3.88(1H, dd, J= 2.9, 13.2 Hz), 3.92(3H, s), 4.22−4.26(1H, m), 5.83(1H, d, J=7.3 Hz), 6.91(1H, d, J= 2.9 Hz), 6.96(1H, dd, J= 2.9, 9.3 Hz), 7.42(2H, d, 8.8 Hz), 7.86(2H, d, J= 8.8 Hz), 8.02(1H, d, J= 9.3 Hz).

工程2:
2−アミノ−5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]−ピペリジノ)安息香酸メチルエステル
テトラヒドロフラン 2.97 Lに5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ)−2−ニトロ安息香酸メチルエステル 424 g (823 mmol)を撹拌下投入して溶解させ、次いでメタノール2.97 Lおよび塩化ニッケル(II)六水和物39.1 g (165 mmol)を投入した。冷却下、内温8〜20℃で水素化ホウ素ナトリウム93.4 g (2.47 mol)をゆっくり投入し、内温6〜20℃で1.5時間撹拌した。反応液に酢酸エチル5.94 Lおよび塩化アンモニウム水溶液(塩化アンモニウム297 g +常水2.67 L)を投入し、加熱後、内温30〜35℃で30分間撹拌した。有機層を分取し、塩化アンモニウム水溶液(塩化アンモニウム297 g +常水2.67 L)および塩化アンモニウム水溶液(塩化アンモニウム212 g +常水1.91 L)で順次洗浄した。有機層にN,N−ジメチルホルムアミド 2.12 Lを投入し、外温40℃以下で減圧濃縮した。濃縮残留物にN,N−ジメチルホルムアミド 2.12 Lを投入し、加熱して溶解した後、内温50〜56℃で常水848 mLを滴下し、結晶化させた後、内温55〜56℃で15分間撹拌した後、内温50〜55℃で常水3.39 Lを滴下し、冷却して、内温10〜25℃で30分間撹拌した。結晶をろ取し、常水2.12 Lで洗浄して、帯緑褐色の湿潤粗結晶を得た。
湿潤粗結晶をメタノール6.36 Lに撹拌下投入し、次いで常水2.12 Lを投入し、内温50〜58℃で30分間撹拌した。冷却し、内温8〜25℃で30分間撹拌した後、結晶をろ取し、メタノール848 mLと常水848 mLの混液で洗浄した。60℃で20時間送風乾燥して、灰緑色結晶性粉末の2−アミノ−5−(3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ)安息香酸メチルエステル 348 g (718 mmol、87%)を得た。
FAB−MS(positive) m/z:485[M + H]
H−NMR(CDCl, 400 MHz)δ:1.72−1.78(2H, m), 1.88−1.90(1H, m), 2.75(3H, s), 2.79−2.84(1H, m), 3.06−3.15(2H, m), 3.20−3.22(1H, m), 3.88(3H, s), 4.41(1H, brs), 5.49(2H, brs), 6.59(1H, d, J= 7.8 Hz), 6.65(1H, d, 8.8 Hz), 7.05(1H, dd, J= 2.4, 8.8 Hz), 7.42(2H, d, J= 8.8 Hz), 7.45(1H, d, J= 2.4 Hz), 7.88(2H, d, J = 8.8 Hz).

(比較例1) 特許文献1記載の製造方法
(S)−N−(ピペリジン−3−イル)−2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド(336 mg, 1.00 mmol)、3−(メトキシカルボニル)フェニルボロン酸(360 mg, 2.00 mmol)、モレキュラーシーブス4A(400 mg)をジクロロメタン(10 mL)に懸濁させ、酢酸銅(II)(188 mg, 0.984 mmol)及びトリエチルアミン(0.344 mL, 2.46 mmol)を加えた後、室温で8時間攪拌した。反応液をセライトろ過し、ろ液に飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えた後、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン : 酢酸エチル = 20 : 1 → 2 : 1)で精製、無色粉末の表題化合物を88.2 mg(37%)得た。

実施例1と比較例1の比較から分かるように、本発明の方法により、従来用いられていた製造方法と比較して、収率が大きく向上し且つ精製も極めて容易になり、工業レベルの製造にも適する製造方法を確立することができた。

(比較例2)亜硝酸エステルを用いた脱アミノ化反応
亜硝酸第三ブチル(0.0889 mL, 0.750 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(0.5 mL)に、2−アミノ−5−{3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド]ピペリジノ}安息香酸メチルエステル 243 mg(0.500 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(1.5 mL)を加えた後、加熱還流下1時間撹拌した。反応液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 10:1 → 2:1)で精製したところ無色粉末の3−{3−[2−(4−クロロフェニル)−4−メチルチアゾール−5−カルボキサミド] ピペリジノ}安息香酸メチルエステルを88.0 mg(37%)得た。

上記実施例1と比較例2を参考として、各種条件での結果を下記表にまとめた。
【0034】
【化12】

【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
以上のように、脱アミノ化に汎用されている亜硝酸エステルでは収率が低く、精製効率も十分ではなかった。亜硝酸塩を用いる本発明の方法により、収率が大きく向上し且つ精製も極めて容易になり、工業レベルの製造にも適する製造方法を確立することができた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の環状アミノ安息香酸誘導体の製造方法は、2−ニトロ安息香酸エステル誘導体とピペリジン誘導体を原料とし、亜硝酸化合物を用いた還元的な脱離反応を用いることによって、一般式(A)で表されるPPARαアゴニスト及びその水和物を収率良く提供でき、その工業的製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】


[式中、R1は水素原子または低級アルキル基を表し、Xはハロゲン原子、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、パラトルエンスルホニルオキシ基、またはメタンスルホニルオキシ基を表す]で表されるベンゼン誘導体と、一般式(2):
【化2】

[式中、R2は水素原子、低級アルキル基、またはアラルキル基を表し;
R3は低級アルキル基、低級アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリール基、または一般式(3):
【化3】


(Yは酸素原子、硫黄原子、メチレンを表し;
R4は水素原子、低級アルキル基を表し;
R5はハロゲン原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい低級アルキル基、或いは低級アルコキシ基の中からそれぞれ独立して選ばれた1〜3個の置換基を有していてもよいベンゼン環を表す)を表す]で表されるピペリジン誘導体を反応させることにより、一般式(4):
【化4】

[式中、R1、R2およびR3は、前記定義と同一である]で表される2−ニトロ−5−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステルを得、次いでニトロ基を還元することによって、一般式(5):
【化5】

[式中、R1、R2およびR3は、前記定義と同一である]で表される2−アミノ−5−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステルを得、次いで亜硝酸またはその塩と還元剤を用いて脱アミノ化することを特徴とする一般式(6):
【化6】


[式中、R1、R2およびR3は、前記定義と同一である]で表される3−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステル、若しくはそれらの水和物の製造方法。
【請求項2】
前記R1が低級アルキル基、Xがハロゲン原子、R2が水素原子、R3が低級アルコキシ基、または一般式(3):
【化7】

(Yは硫黄原子を表し、R4は低級アルキル基を表し、R5は1〜3個のハロゲン原子が置換してもよいベンゼン環を表す)である、請求項1記載の3−ピペリジノ安息香酸エステル又はその水和物の製造方法。
【請求項3】
前記R3が一般式(3):
【化8】

(Yは硫黄原子を表し、R4は低級アルキル基を表し、R5はハロゲン原子が置換してもよいベンゼン環を表す)である、請求項2記載の3−ピペリジノ安息香酸エステル又はその水和物の製造方法。
【請求項4】
脱アミノ化工程において、亜硝酸またはその塩が亜硝酸ナトリウムである、請求項1〜3の何れかに記載の3−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステル、若しくはそれらの水和物の製造方法。
【請求項5】
脱アミノ化工程において、還元剤が次亜リン酸である、請求項1〜4の何れかに記載の3−ピペリジノ安息香酸、又はそのエステル、若しくはそれらの水和物の製造方法。

【公開番号】特開2012−51803(P2012−51803A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329224(P2008−329224)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】