説明

環状アミン−1−カルボン酸エステル誘導体の製造方法およびその中間体

【課題】環状アミン-1-カルボン酸エステル誘導体の製造方法およびその中間体の提供。
【解決手段】下記式(III)で表される、疼痛および炎症の治療薬として有用な環状アミン-1-カルボン酸エステル誘導体を、下記式(I)で表される安価な原料とカルバメート化試薬とを反応し、下記式(II)で表される中間体を経て2または3工程で製造する方法[式中、m及びnは、各々独立して1または2を表し、R及びRは、各々独立して、水素原子、C1〜4アルキル基またはC2〜4アルケニル基を表す]。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品として有用な環状アミン-1-カルボン酸エステル誘導体の製造方法およびその中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛および炎症の治療薬として有用な環状アミン-1-カルボン酸エステル誘導体(III)は、特許文献1に記載されている。また、特許文献1には、例えば下記(III)の化合物を、以下に示す7工程で合成する方法が具体的に記載されている。
【0003】
【化1】

【0004】
[式中の定義は、下記項1と同義である]
【0005】
上記従来法では、非特許文献1または2に記載の方法に従い4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒドの水酸基をベンジル基で保護し、非特許文献3に記載の方法に従いヒドロキシアミンと縮合した後に還元反応を行うことにより、水酸基に保護基のついたベンジルアミン(D)が得られる。続いて特許文献1の記載の方法に従いtert-ブトキシカルボニル基で保護されたピペリジン-4-カルボン酸と縮合を行い、tert-ブトキシカルボニル基を脱保護し、カルバメート化試薬(IV)と縮合した後にベンジル基を脱保護する7工程を経て式(III)を得ていた。このように従来法では、保護基のついたベンジルアミン誘導体合成の過程、縮合した後にその脱保護をする過程、環状アミンの脱保護の過程が含まれており、さらには3回のカラム精製が必要であった。加えて最終工程でパラジウム触媒を使用していたことから、工業的製造法としては適していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第09/136625号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Chem. Soc., 817, (1930)
【非特許文献2】Heterocycles, 28, 295 (1989)
【非特許文献3】J. Chem. Soc., Perkin Trans. I, 2935 (1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、疼痛および炎症の治療薬として有用な環状アミン-1-カルボン酸エステル誘導体(III)およびその中間体の工業的に優れた製造方法、およびその中間体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、入手容易で安価な化合物(I)とカルバメート化試薬、特に(IV)または(V)を反応し、化合物(II)を経由することで、2または3工程のみで目的の化合物(III)を純度良く、効率的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
【化2】

【0011】
[式中、m、n、R、R、R、RおよびXは、下記項1と同義である。]
【0012】
すなわち、本発明は、以下の医薬品として有用な環状アミン-1-カルボン酸エステル誘導体の製造方法およびその中間体を提供するものである。
【0013】
[項1]下記式(I):
【0014】
【化3】

【0015】
[式中、m及びnは、各々独立して1又は2の整数を表す]で表される化合物またはその塩と、
下記式(IV)、(V)、(VI)または(VII):
【0016】
【化4】

【0017】
[式中、R及びRは、各々独立して、水素原子、C1〜4アルキル基またはC2〜4アルケニル基を表し、Rは、C1〜4アルキル基又は置換されていてもよいベンジル基を表し、Rは、水素原子またはC1〜4アルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子またはBFを表し、Yは、ハロゲン原子、C1〜4アルコキシ基または置換されていてもよいアリールオキシ基を表す]で表されるカルバメート化試薬を、塩基存在下で反応し、
下記式(II):
【0018】
【化5】

【0019】
[式中、m、n、R及びRは、上記と同義である] で表される化合物又はその塩を製造する方法。
[項2]さらに、式(II)の化合物又はその塩と、
下記式(VIII):
【0020】
【化6】

【0021】
の化合物又はその塩を、塩基存在下で反応し、
下記式(III):
【0022】
【化7】

【0023】
[式中、m、n、R及びRは、上記項1と同義である]で表される化合物又はその塩を製造する工程を含む、項1に記載の製造方法。
[項3] カルバメート化試薬が、式(IV)または(V)の化合物である、項1または項2に記載の製造方法。
【0024】
[項4] カルバメート化試薬が、式(IV)の化合物である、項1または項2に記載の製造方法。
【0025】
[項5] カルバメート化試薬が、式(V)の化合物である、項1または項2に記載の製造方法。
【0026】
[項6]Rが、水素原子である、項4に記載の製造方法。
【0027】
[項7]Rが、メチル基であり、Rが、水素原子であり、Xが、ヨウ素原子である、項5に記載の製造方法。
【0028】
[項8]mおよびnが、2である、項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【0029】
[項9]mおよびnが、1である、項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【0030】
[項10]Rが、C1〜4アルキル基またはC2〜4アルケニル基であり、Rが、水素原子である、項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【0031】
[項11]下記式(IX):
【0032】
【化8】

【0033】
[式中、RおよびRは、上記項1と同義である]で表される化合物またはその塩と、
カルボイミダゾール化試薬とを反応し、式(IV)または(V)で表される化合物を製造する工程を含む、項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
【0034】
[項12]式(II)の化合物又はその塩基付加塩。
【発明の効果】
【0035】
本願製造法は、従来の製造方法に比べて、以下a)〜c)に示す点において工業的に優れた製造方法である。
a)先にカルバメート部分を合成し、さらにアミノ基と水酸基の反応性の違いを利用して水酸基をベンジル基で保護せずに合成したことにより、特許文献1と比較して大幅に工程数を減らすことが可能となった。
b)また、医薬品においてパラジウム残存量は10ppm未満であることが必要とされているが(欧州薬品審査庁(EMEA)ガイドライン参照)、本願合成法ではパラジウム触媒を用いて脱保護をする必要がなくなり、この要件を満たすことが可能となった。
c)さらに、カラムで精製をする必要がなくなり、大量合成が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0036】
式(III)の化合物は、1個またはそれ以上の不斉炭素原子を有する場合があり、また幾何異性や軸性キラリティを生じることがあるので、数種の立体異性体として存在しうる。本発明においては、これらの立体異性体、それらの混合物およびラセミ体は本発明の式(III)で表される化合物に包含される。
【0037】
つぎに、本明細書における用語について以下に説明する。
【0038】
「アルキル基」とは、直鎖状または分枝鎖状の飽和炭化水素基を意味し、「C1〜4アルキル基」とは炭素原子数が1〜4のアルキル基を意味する。「C1〜4アルキル基」の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。中でも好ましくはメチル基、エチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0039】
「アルケニル基」とは、二重結合を少なくとも1個もしくは2個有する、直鎖状または分枝鎖状の不飽和の炭化水素基を意味し、「C2〜4アルケニル基」とは炭素原子数が2〜4のアルケニル基を意味する。「C2〜4アルケニル基」の具体例としては、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−、2−若しくは3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基等が挙げられる。中でも好ましくはビニル基、アリル基、1−プロペニル基が挙げられる。
【0040】
「置換されていてもよいベンジル基」とは、無置換、もしくは芳香環上に同一または異なった1〜5個の置換基を有するベンジル基を意味する。置換基の種類としては、塩素原子、フッ素原子、トリフルオロメトキシ基、C1〜4アルキル基、C1〜4アルコキシ基等が挙げられる。中でも好ましくはフッ素原子、C1〜2アルキル基、C1〜2アルコキシ基が挙げられる。置換基の数として好ましくは、無置換又は1〜3置換体が挙げられ、より好ましくは無置換、又は1置換体が挙げられる。
【0041】
「置換されていてもよいアリールオキシ基」とは、無置換、もしくは芳香環上に同一または異なった1〜5個の置換基を有するアリールが酸素原子を介して結合した基を意味する。置換基の種類、数は、「置換されていても良いベンジル基」での定義と同じである。
【0042】
「アルコキシ基」とは、「アルキルオキシ基」と同義であり、「アルキル」部分は前記「アルキル基」と同義である。「C1〜4アルコキシ基」の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。中でも好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基が挙げられる。
【0043】
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。中でも好ましくは、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0044】
「カルバメート化試薬」としては、項1に記載の化合物(IV)、(V)、(VI)または(VII)が挙げられる。中でも好ましくは、化合物(IV)または(V)が挙げられる。
【0045】
「カルボイミダゾール化試薬」は、項1に記載の化合物(IV)または(V)を製造する際に用いられ、カルボニルジイミダゾールまたはイミダゾール環の任意の位置に置換基を有するカルボニルジイミダゾール等が挙げられる。中でも好ましくは、カルボニルジイミダゾールが挙げられ、化合物(IV)を得るには本試薬を単独で用いることで製造が達成され、また化合物(V)を得るには、例えば本試薬を用いて化合物(IV)を製造後、アルキルハライド(ヨウ化メチル等)を用いて反応することにより製造することができる。
【0046】
式(I)〜(IX)で表される本発明の化合物及び製造方法における、R〜R、m、n、X及びYで、好ましいものは以下のとおりであるが、本発明の技術範囲は下記に挙げる範囲に限定されるものではない。
【0047】
mおよびnとして好ましくは、mおよびnが共に1である4員環、またはmおよびnが共に2である6員環が挙げられる。
【0048】
およびRとして好ましくは、水素原子またはC1〜4アルキル基が挙げられる。より好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0049】
として好ましくは、C1〜2アルキル基、置換されていてもよいベンジル基が挙げられる。より好ましくはメチル基が挙げられる。
【0050】
として好ましくは、水素原子またはC1〜2アルキル基が挙げられる。より好ましくは水素原子が挙げられる。
【0051】
Xとして好ましくはハロゲン原子が挙げられる。より好ましくはヨウ素原子が挙げられる。
【0052】
Yとしては一般的な脱離基が挙げられ、好ましくはハロゲン原子が挙げられる。より好ましくは塩素原子が挙げられる。
【0053】
「式(I)および(VIII)で表される化合物の塩」としては、酸付加塩が挙げられる。具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩、およびグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸塩が挙げられる。
【0054】
「式(II)、(III)および(IX)で表される化合物の塩」としては、塩基付加塩が挙げられる。具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩のようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩、ピリジン塩、トリエチルアミン塩のような有機塩基との塩、およびリジン、アルギニン等のアミノ酸との塩が挙げられる。
【0055】
本発明の製造方法
式(II)の化合物の製法
【0056】
【化9】

【0057】
(式中、m、n、R及びRは、上記項1と同義である。)
式(II)の化合物は、式(I)の化合物と項1に記載の式(IV)、(V)、(VI)または(VII)で表されるカルバメート化試薬を反応させることによって製造することができる。中でも好ましくは式(IV)または式(V)のカルバメート化試薬を用いた反応が挙げられる。上記反応は、溶媒中または無溶媒下に行われる。使用する溶媒は、原料化合物の種類等に従って選択されるべきであるが、例えばトルエン、THF、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、NMP、DMF、水等が挙げられる。中でも好ましくは、1,4−ジオキサン、水が挙げられる。これらの溶媒はそれぞれ単独で、或いは2種以上の混合溶媒として用いることができる。なお、式(I)の化合物は、塩酸塩等の酸付加塩の形で使用し、反応系中で遊離塩基を生成させてもよい。
【0058】
また、本反応は通常塩基の存在下で行われる。塩基の具体例としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような無機塩基、或いは、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンのような有機塩基が挙げられる。中でも好ましくは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、トリエチルアミンが挙げられる。反応温度は用いる原料化合物の種類等により異なるが、通常、−30度〜150度、好ましくは−10度〜100度である。反応時間は、1時間〜48時間程度である。
【0059】
式(IV)の化合物は、特許文献1に記載の方法、あるいはこれに準じた方法に従って製造することができる。また、式(V)の化合物は、Nature Protocols, 3, 646 (2008)、国際公開第07/076160号パンフレット等に記載の方法、あるいはこれらに準じた方法に従って製造することができる。式(VI)の化合物は市販品を用いる、またはSynthesis,103(1993),J.Org.Chem.,53,2340(1988)に記載の方法、あるいはこれに準じた方法に従って製造することができる。式(VII)の化合物は市販品を用いる、またはJ.Org.Chem.,27,1901(1962),Org,Synth.,VI,418(1988)に記載の方法、あるいはこれに準じた方法に従って製造することができる。
【0060】
式(III)の化合物の製法
【0061】
【化10】

(式中、m、n、R及びRは上記項1と同義である。)
【0062】
式(III)の化合物は、従来のアミド合成法に従い製造できる。例えば、縮合剤の存在下、式(II)の化合物と4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアミン(VIII)とを縮合することによって製造できる。縮合剤の具体例としては、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’−カルボニルジイミダゾール、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシトリス(ピロリジノ)ホスホニウム ヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。中でも好ましくは、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩が挙げられる。これらの縮合剤は単独で、または、これら縮合剤と、N−ヒドロキシコハク酸イミド、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール等のペプチド合成試薬と組み合わせて用いることができる。
【0063】
式(III)の化合物はまた、式(II)の化合物のカルボキシル基を反応性誘導体に変換した後に、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアミンと反応することによっても製造できる。反応性誘導体としては、例えば低級アルキルエステル(特にメチルエステル)、活性エステル、酸無水物、酸ハライド(特に酸クロリド)が挙げられる。活性エステルとしては、例えば、p−ニトロフェニルエステル、N−ヒドロキシコハク酸イミドエステル等が挙げられる。酸無水物としては、例えば、クロロ炭酸エチル、クロロ炭酸イソブチル等との反応により得られる混合酸無水物が挙げられる。
【0064】
上記のアミド化反応は、溶媒中又は無溶媒下で行われる。使用する溶媒は、原料化合物の種類等に従って選択されるべきであるが、例えばトルエン、THF、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、DMF、NMP、水等が挙げられる。中でも好ましくは、DMF、NMPが挙げられる。これらの溶媒はそれぞれ単独で、或いは2種以上の混合溶媒として用いられる。なお、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアミン(VIII)は、市販されているものを用いることができる。塩酸塩等の酸付加塩の形で使用し、反応系中で遊離塩基を生成させてもよい。
【0065】
本反応は通常塩基の存在下で行われる。塩基の具体例としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような無機塩基、或いは、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジンのような有機塩基が挙げられる。中でも好ましくは、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミンが挙げられる。反応温度は用いる原料化合物の種類等により異なるが、通常、−30度〜150度、好ましくは−10度〜70度である。反応時間は、1時間〜48時間程度である。
【0066】
なお、本明細書において記載の簡略化のために、次に挙げる略号を用いることもある。Me:メチル、t−:tert−、s−:sec−、i−:イソ−、THF:テトラヒドロフラン、NMP:N-メチルピロリドン、DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
【0067】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、化合物の同定は、NMRスペクトル(300MHz又は400MHz)等によって行った。構造式中のRおよびSはいずれも不斉炭素原子上の立体の絶対配置を意味し、RおよびSはいずれも不斉炭素原子上の立体の相対配置を意味する。
【実施例】
【0068】
参考例1
1−{(1S,2R)−2−メチルシクロヘキロキシカルボニル}−3−メチル−1H−イミダゾールー3−イウム イオジドの製造:
【0069】
【化11】

【0070】
Nature Protocols, 3, 646 (2008)、国際公開第07/076160号パンフレット等に記載の方法に従い(1S,2R)−2−メチルシクロヘキサノールから、(1S,2R)−2−メチルシクロヘキシル 1H−イミダゾール−1−カルボキシレートを合成した。次に、(1S,2R)−2−メチルシクロヘキシル 1H−イミダゾール−1−カルボキシレート(1.00g)およびアセトニトリル(12mL)の混合物にヨウ化メチル(1.21mL)を加えた後、1日攪拌し、反応液を濃縮した。残渣にアセトニトリル(6mL)を加えた後、50℃に加熱し、酢酸エチル(24mL)を加えて結晶化させた。攪拌しながら室温まで放冷した後、析出した結晶を濾取し、酢酸エチルで洗浄し、乾燥して目的物1.32g(80%)を得た。
1H-NMR (CDCl3, δ): 1.05 (d, 3H), 1.20-1.42 (m, 1H), 1.50-1.99 (m, 7H), 2.01-2.18 (m, 1H), 4.39 (t, 3H), 5.29-5.34 (m, 1H), 7.67 (s, 1H), 7.74 (s, 1H), 10.54 (s, 1H).
【0071】
参考例2〜4
(1S,2R)−2−メチルシクロヘキサノールの代わりに各種置換シクロヘキサノールから、各種置換シクロヘキシル 1H−イミダゾール−1−カルボキシレートを合成し、参考例1と同様にして表1に示す化合物を得た。結晶化の溶媒、化学収率およびH−NMRデータを表2に記載する。
【0072】
【化12】

【0073】

【0074】
A法
実施例1
シス−4−エチルシクロヘキシル 4−カルボキシ−ピペリジン−1−カルボキシレートの製造:
【0075】
【化13】

【0076】
特許文献1に記載の方法に従い、シス−4−エチルシクロヘキサノールからシス−4−エチルシクロヘキシル 1H−イミダゾール−1−カルボキシレートを合成した。次に4−カルボキシ−ピペリジン(1.16g)、1,4−ジオキサン(14ml)、水(7ml)およびトリエチルアミン(1.88g)の混合物に、シス−4−エチルシクロヘキシル 1H−イミダゾール−1−カルボキシレート(1.00g)を加えた。反応液を80℃で6時間攪拌後、濃縮し、1,4−ジオキサンを留去した。残渣に2Nの水酸化ナトリウム水溶液を加え、トルエンで2回洗浄し、水層を2Nの塩酸水溶液でpH2に調製し、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去し、目的物670mg(52%)を得た。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.87 (t, 3H), 1.10-1.35 (m, 5H), 1.38-1.75 (m, 6H), 1.77-1.99 (m, 4H), 2.53 (tt, 1H), 2.82-3.02 (m, 2H), 3.92-4.15 (m, 2H), 4.90-4.94 (m, 1H).
【0077】
実施例2〜6
シス−4−エチルシクロヘキサノールの代わりに、各種置換シクロヘキサノールから各種置換シクロヘキシル 1H−イミダゾール−1−カルボキシレートを合成し、実施例1と同様にして表1に示す化合物を得た。化合物(I)の当量、反応溶媒、反応温度、反応時間、化学収率およびH−NMRデータを表2に記載する。
【0078】
【化14】

【0079】

【0080】
実施例7
シス−4−t−ブチルシクロヘキシル 3−カルボキシ−アゼチジン−1−カルボキシレートの製造:
【0081】
【化15】

【0082】
特許文献1に記載の方法に従い、シス−t−ブチルシクロヘキサノールからシス−4−t−ブチルシクロヘキシル 1H−イミダゾール−1−カルボキシレートを合成した。次に3−カルボキシ−アゼチジン(606mg)、1,4−ジオキサン(14ml)、水(7ml)およびトリエチルアミン(1.11g)の混合物に、シス−4−t−ブチルシクロヘキシル 1H−イミダゾール−1−カルボキシレート(1.00g)を加えた。反応液を80℃で10時間攪拌後、濃縮し、1,4−ジオキサンを留去した。実施例1と同様に処理をし、目的物915mg(81%)を得た。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.85 (s, 9H), 0.95-1.17 (m, 1H), 1.19-1.60 (m, 6H), 1.90-2.00 (m, 2H), 3.45 (quintet, 1H), 4.20 (d, 4H), 4.88-4.93 (m, 1H).
【0083】
B法
実施例8
(1S,2R)−2−メチルシクロヘキシル 4−カルボキシ−ピペリジン−1−カルボキシレートの製造:
【0084】
【化16】

【0085】
参考例1で合成した1−{(1S,2R)−2−メチルシクロヘキロキシカルボニル}−3−メチル−1H−イミダゾールー3−イウム イオジド(700mg)、4−カルボキシ−ピペリジン(388mg)、水(10mL)の混合物に炭酸カリウム(553mg)加えた。反応液を室温で13時間攪拌した後、2Nの塩酸水溶液を加えpH2に調製し、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去し、目的物551mg(100%)を得た。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.89 (d, 3H), 1.20-1.58 (m, 6H), 1.51-2.00 (m, 7H), 2.54 (tt, 1H), 2.80-3.03 (m, 2H), 4.04-4.18 (m, 2H), 4.80-4.89 (m, 1H).
【0086】
実施例9〜11
参考例1で合成した1−{(1S,2R)−2−メチルシクロヘキロキシカルボニル}−3−メチル−1H−イミダゾールー3−イウム イオジドの代わりに、参考例2〜4で合成した化合物を用い、実施例8と同様にして表3に示す化合物を得た。塩基、反応溶媒、反応時間、化学収率およびH−NMRデータを表3に記載する。
【0087】
【化17】

【0088】

【0089】
実施例12
シス−4−t−ブチルシクロヘキシル 3−カルボキシ−アゼチジン−1−カルボキシレートの製造:
【0090】
【化18】

【0091】
参考例4で合成した1−{(1S,4S)−4−tert−ブチルシクロヘキロキシカルボニル}−3−メチル−1H−イミダゾールー3−イウム イオジド(320mg)、3−カルボキシ−アゼチジン(123mg)、水(5mL)の混合物に炭酸カリウム(226mg)加え、反応液を室温で13時間攪拌した。実施例8と同様に処理し、目的物210mg(91%)を得た。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.85 (s, 9H), 0.95-1.17 (m, 1H), 1.19-1.61 (m, 6H), 1.90-2.01 (m, 2H), 3.45 (quintet, 1H), 4.20 (d, 4H), 4.88-4.93 (m, 1H).
【0092】
実施例13
シス−4−エチルシクロヘキシル 4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルカルバモイル)−ピペリジン−1−カルボキシレートの製造:
【0093】
【化19】

【0094】
実施例1で合成したシス−4−エチルシクロヘキシル 4−カルボキシ−ピペリジン−1−カルボキシレート(500mg)およびN-メチルピロリドン(10mL)の混合物にN,N’−カルボニルジイミダゾール(342mg)を加えた。反応液を室温で3時間攪拌した後、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアミン塩酸塩(400mg)およびトリエチルアミン(0.74mL)を加えた。反応液を室温で15時間攪拌した後、0.1Nの塩酸水溶液(15mL)を加えた後、酢酸エチルで抽出した。有機層を0.1Nの塩酸水溶液、水、飽和炭酸水酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。酢酸エチルおよびヘプタンで結晶化し、目的物477mg(65%)を得た。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.88 (3H, t), 1.14-1.32 (5H, m), 1.44-1.79 (6H, m), 1.81-1.94 (4H, m), 2.21-2.35 (1H, m), 2.68-2.96 (2H, m), 3.88 (3H, s), 4.11-4.31 (2H, m), 4.36 (2H, d), 4.87-4.96 (1H, m), 5.60 (1H, s), 5.68 (1H, brs), 6.75 (1H, dd), 6.79 (1H, d), 6.86 (1H, d).
【0095】
実施例14〜18
実施例1で合成したシス−4−エチルシクロヘキシル 4−カルボキシ−ピペリジン−1−カルボキシレートの代わりに、実施例2〜6で合成した化合物を用い、実施例13と同様にして表4に示す化合物を得た。塩基、反応溶媒、反応時間、化学収率およびH−NMRデータを表に記載する。
【0096】
【化20】

【0097】

【0098】
実施例19
シス−t−ブチルシクロヘキシル 3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルカルバモイル)−アゼチジン−1−カルボキシレートの製造(1):
【0099】
【化21】

【0100】
実施例7で合成したシス−4−t−ブチルシクロヘキシル 3−カルボキシ−アゼチジン−1−カルボキシレート(450mg)およびN-メチルピロリドン(9mL)の混合物に、N,N’−カルボニルジイミダゾール(310mg)を加えた。反応液を室温で3時間攪拌した後、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアミン塩酸塩(362mg)およびトリエチルアミン(0.66mL)を加え、反応液を15時間攪拌した。実施例13と同様に処理し、目的物432mg(65%)を得た。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.85 (9H, s), 0.94-1.05 (1H, m), 1.16-1.62 (6H, m), 1.87-2.00 (2H, m), 3.14-3.28 (1H, m), 3.87 (3H, s), 4.09-4.27 (4H, m), 4.38 (2H, d), 4.85-4.93 (1H, m), 5.61 (1H, s), 5.69 (1H, brs), 6.76 (1H, dd), 6.79 (1H, d), 6.87 (1H, d).
【0101】
実施例20
シス−t−ブチルシクロヘキシル 3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルカルバモイル)−アゼチジン−1−カルボキシレートの製造(2):
実施例7で合成したシス−4−t−ブチルシクロヘキシル 3−カルボキシ−アゼチジン−1−カルボキシレート(450mg)、N-メチルピロリドン(10mL)、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジルアミン塩酸塩(362mg)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(366mg)およびトリエチルアミン(0.66mL)の混合物に1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(258mg)を加え、反応液を室温で16時間攪拌した。実施例13と同様に処理し、目的物468mg(70%)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明により、式(III)で表される環状アミン−1−カルボン誘導体酸又はその塩、および式(II)で表される中間体を、式(I)で表される安価な化合物から短工程で効率的に製造することができる。従ってス工業的な生産にも対応できる製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):

[式中、m及びnは、各々独立して1又は2の整数を表す]で表される化合物又はその塩と、
下記式(IV)、(V)、(VI)または(VII):

[式中、R及びRは、各々独立して、水素原子、C1〜4アルキル基またはC2〜4アルケニル基を表し、Rは、C1〜4アルキル基又は置換されていてもよいベンジル基を表し、Rは、水素原子またはC1〜4アルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子またはBFを表し、Yは、ハロゲン原子、C1〜4アルコキシ基または置換されていてもよいアリールオキシ基を表す]で表されるカーバメート化試薬を、塩基存在下で反応し、
下記式(II):

[式中、m、n、R及びRは、上記と同義である] で表される化合物又はその塩を製造する方法。
【請求項2】
さらに、式(II)の化合物又はその塩と、
下記式(VIII):

の化合物又はその塩を、塩基存在下で反応し、
下記式(III):

[式中、m、n、R及びRは、上記請求項1と同義である]で表される化合物又はその塩を製造する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
カーバメート化試薬が、式(IV)または(V)の化合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
カーバメート化試薬が、式(IV)の化合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
カーバメート化試薬が、式(V)の化合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
が、水素原子である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
が、メチル基であり、Rが、水素原子であり、Xが、ヨウ素原子である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
mおよびnが、2である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
mおよびnが、1である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
式(II)の化合物又はその塩基付加塩。

【公開番号】特開2012−121815(P2012−121815A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271212(P2010−271212)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】