説明

環状エステルの製造方法及び精製方法

【課題】低分子量物から高分子量物までの脂肪族ポリエステルを効率的かつ経済的に解重合する環状エステルの製造方法、及び、粗環状エステルを効率的かつ経済的に精製する方法を提供すること。
【解決手段】脂肪族ポリエステルと下記式(1)


(式中、R1は、メチレン基又は炭素数2〜8の直鎖状又は分岐状のアルキレン基;X1は、炭化水素基;Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基;pは、1以上の整数;pが2以上の場合には、複数のR1は、同一でも異なってもよい。)で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテルとを含む混合物を、常圧下又は減圧下に、該脂肪族ポリエステルの解重合が起こる温度に加熱する工程を含む環状エステルの製造方法、並びに、粗環状エステルと前記のポリアルキレングリコールエーテルとを含む混合物を、常圧下又は減圧下に、加熱する工程を含む粗環状エステルの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルの解重合により環状エステルを製造する方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、オリゴマーなどの低分子量物から高分子量物にいたる脂肪族ポリエステルを解重合して、グリコリド、ラクチド、ラクトン類などの環状エステルを製造する方法に関する。また、本発明は、粗環状エステルの精製方法に関する。
【0002】
本発明の製造方法及び精製方法により得られる環状エステルは、開環重合用モノマーとして有用である。さらに詳しくは、本発明の製造方法により得られる環状エステルは、それぞれ単独で開環重合させるか、あるいは他のコモノマーと共重合させることにより、例えば、ポリグリコリド(即ち、ポリグリコール酸)、ポリラクチド(即ち、ポリ乳酸)、ポリラクトン類、または各種共重合体を得ることができる。これらの脂肪族ポリエステルは、生分解性ポリマー材料や医療用ポリマー材料などとして有用である。
【0003】
さらに、本発明の環状エステルの製造方法は、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーなどの低分子量の脂肪族ポリエステルを経由する環状エステルの製造方法のみならず、高分子量の脂肪族ポリエステルの製品廃棄物や成形屑などを、モノマーの環状エステルにまで変換してリサイクルする方法としても有用である。
【背景技術】
【0004】
ポリグリコール酸、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルは、生体内で加水分解され、また、自然環境下では、微生物によって代謝されて水と炭酸ガスに分解される。このため、脂肪族ポリエステルは、医療用材料や汎用樹脂に代替可能な生分解性ポリマー材料として注目されている。
【0005】
脂肪族ポリエステルは、グリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸を縮重合することにより得ることができるが、この方法では、高分子量ポリマーを得ることが難しい。そのため、成形用材料などとして用いられる高分子量の脂肪族ポリエステルは、一般に、グリコリド、ラクチド、ラクトン類などの環状エステルを開環(共)重合させることにより合成されている。
【0006】
具体的に、例えば、ポリグリコール酸は、グリコール酸(即ち、α−ヒドロキシ酢酸)を下記式〔I〕
【0007】
【化1】

【0008】
に従って、脱水重縮合することにより合成することができる。しかし、グリコール酸を出発原料とする重縮合法では、高分子量のポリグリコール酸を得ることが困難である。このため、グリコール酸の2分子間環状エステル(以下、「二量体環状エステル」ということがある)の構造を有するグリコリドを、オクタン酸錫などの触媒の存在下に、下記式〔II〕
【0009】
【化2】

【0010】
に従って開環重合することにより、高分子量のポリグリコール酸(即ち、ポリグリコリド)を合成している。
【0011】
グリコリドなどの環状エステルを原料として、脂肪族ポリエステルを工業的規模で大量生産するためには、高純度の環状エステルを効率的かつ経済的に供給することが不可欠である。しかし、環状エステルの合成を効率的かつ経済的に行うことは困難であった。例えば、グリコリドは、2分子のグリコール酸から2分子の水を脱離した構造の二量体環状エステルであるが、単にグリコール酸同士をエステル化反応させたのでは、通常、オリゴマーなどの低分子量物が形成されて、二量体環状エステルであるグリコリドを得ることができない。そのため、例えば、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを合成した後、該オリゴマーを解重合して二量体環状エステルを製造する方法などが採用されている。
【0012】
従来、グリコリドなどの二量体環状エステルを得るための技術としては、例えば、以下の方法が知られている。
【0013】
米国特許第2,668,162号明細書(特許文献1)には、グリコール酸オリゴマーを粉末状に砕き、粉砕物を約20g/hというごく少量ずつの割合で反応器に供給しながら、12〜15torr(1.6〜2.0kPa)という超真空下で、270〜285℃に加熱して解重合させ、生成したグリコリドを含む蒸気をトラップ内で捕集する方法が開示されている。この方法は、小スケールで実施することは可能であるが、スケールアップが困難であり、量産化に適していない。しかも、この方法では、加熱時にオリゴマーが重質物化して多量の残渣として反応容器内に残るため、収率が低い上、残渣のクリーニング操作が煩雑である。さらに、この方法では、高融点のグリコリドが副生物とともに回収ライン内壁に析出して、ラインを閉塞するおそれがあり、ライン内の析出物の回収も困難である。
【0014】
米国特許第4,727,163号明細書(特許文献2;特開昭63−152375号公報対応)には、熱安定性に優れたポリエーテルを基体(substrate)とし、それに少量のグリコール酸をブロック共重合させてブロック共重合体とした後、該共重合体を加熱して解重合することによりグリコリドを得る方法が開示されている。このブロック共重合プロセスは、工程数が多く、操作が煩雑で、生産コストが高くなる。さらに、この方法では、高融点のグリコリドが副生物とともに回収ラインの内壁に析出して、ラインの閉塞を引き起こすおそれがあり、ライン内の析出物の回収も困難である。
【0015】
米国特許第4,835,293号明細書(特許文献3)及び第5,023,349号明細書(特許文献4;特表平5−506242号公報対応)には、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを加熱して融液となし、該融液の表面に窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込んで、その表面から生成し揮発する環状エステルをガス気流に同伴させて回収する方法が開示されている。この方法は、環状エステルの生成速度が小さく、しかも、大量の不活性ガスを吹き込むために、不活性ガスの予備加熱を要するなど生産コストが高くなる。さらに、この方法では、加熱中にオリゴマー融液内で重質物化が進行し、多量の重質物が残渣として反応缶内に残るため、収率が低くなり、残渣のクリーニングも煩雑である。
【0016】
仏国特許出願公開第2692263号明細書(特許文献5)には、触媒を添加した溶媒に、α−ヒドロキシカルボン酸、そのエステルまたは塩のオリゴマーを加えて、加熱下に撹拌して接触分解する方法が開示されている。この方法では、環状エステルを気相状態で随伴するのに適した溶媒を用いて、常圧または加圧下にて行われ、気相を凝縮して環状エステルと溶媒を回収している。この文献には、実施例として、乳酸オリゴマーと、溶媒としてドデカン(沸点:約214℃)とを用いた例が示されている。しかし、本発明者らがグリコール酸オリゴマーとドデカンを用いて、同様の条件にて追試したところ、解重合反応開始と同時に重質物化が進行し、極めてわずかのグリコリドが生成した時点でグリコリドの生成が停止した。しかも、反応残渣が粘調であり、クリーニングに多大な労力を要した。
【0017】
米国特許第5,326,887号明細書(特許文献6)及び国際公開第92/15572号(特許文献7)には、グリコール酸オリゴマーを固定床触媒上で加熱して解重合させるグリコリドの製造方法が開示されている。しかし、この方法では、加熱時に相当量の重質化物が生成し、残渣として残るため、収率が低く、クリーニングも煩雑である。
【0018】
特開平9−328481号公報(特許文献8;米国特許第5,830,991号に対応する)において、本件共同発明者らは、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを解重合してα−ヒドロキシカルボン酸二量体環状エステルを製造する方法において、高沸点の極性有機溶媒を用いる方法を提案している。この方法は、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーと高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、解重合が起こる温度に加熱して実質的に均一な溶液相を形成し、その状態で加熱を継続することにより、生成した二量体環状エステルを極性有機溶媒とともに留出させ、留出物から二量体環状エステルを回収する方法である。この方法によれば、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーから、該オリゴマーの重質物化を防ぎつつ、二量体環状エステルを高収率で得ることができる。
【0019】
この文献には、高沸点極性有機溶媒として、沸点が230〜450℃の範囲内にある多数の極性溶媒が例示されているが、各実施例において使用されているのは、芳香族エステル化合物であるジ(2−メトキシエチル)フタレート、ジエチレングリコールジベンゾエート、ベンジルブチルフタレート、ジブチルフタレート、及びトリクレジルホスフェートである。本発明者らは、高沸点極性有機溶媒として、これらの芳香族エステル化合物を用いた解重合反応について更に検討したところ、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーの解重合が起こる温度に長時間加熱すると、芳香族エステル化合物が熱劣化を起こしやすいことが判明した。芳香族エステル化合物が熱劣化すると、溶媒として再利用するためには、精製工程が必要となる。また、解重合反応において、劣化した芳香族エステル化合物の量に相当する量を追加する必要が生じる。その結果、二量体環状エステルの製造コストの更なる低減が困難である。
【0020】
また、従来の方法では、主としてα−ヒドロキシカルボン酸のオリゴマーを出発原料としており、高分子量のポリ(α−ヒドロキシカルボン酸)などの脂肪族ポリエステルを用いる解重合方法については殆ど提案されていない。特開平12−119269号公報(特許文献9)には、ポリグリコール酸を200℃以上245℃未満の温度範囲で固相解重合するグリコリドの製造方法が提案されている。しかし、この方法は、工業的規模で効率的にグリコリドを大量生産する方法としては、必ずしも適していない。また、この方法は、加熱温度を厳密に制御しないと、ポリグリコール酸が重質物化しやすい。
【0021】
ポリ(α−ヒドロキシカルボン酸)などの高分子量の脂肪族ポリエステルは、今後、大量生産されると、製品廃棄物のリサイクルが重要な課題となる。脂肪族ポリエステルの成形時に副生する成形屑のリサイクルも課題となる。高分子量の脂肪族ポリエステルを環状エステルにまで効率的かつ経済的に解重合することができれば、リサイクルが容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第2,668,162号明細書
【特許文献2】米国特許第4,727,163号明細書
【特許文献3】米国特許第4,835,293号明細書
【特許文献4】米国特許第5,023,349号明細書
【特許文献5】仏国特許出願公開第2692263号明細書
【特許文献6】米国特許第5,326,887号明細書
【特許文献7】国際公開第92/15572号
【特許文献8】特開平9−328481号公報
【特許文献9】特開平12−119269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、オリゴマーなどの低分子量物から高分子量物までの脂肪族ポリエステルを効率的かつ経済的に解重合して、環状エステルを製造する方法を提供することにある。
【0024】
より具体的に、本発明の目的は、高沸点極性有機溶媒を用いてα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーを解重合する方法を改良して、解重合反応中に極性有機溶媒の熱劣化の発生を抑制しながら、脂肪族ポリエステルを解重合して環状エステルを製造する方法を提供することにある。
【0025】
本発明の他の目的は、粗環状エステルを効率的かつ経済的に精製する方法を提供することにある。
【0026】
本発明者らは、前記目的を解決すべく鋭意研究した結果、前記特開平9−328481号公報(米国特許第5,830,991号明細書)に高沸点極性有機溶媒として具体的に開示されていない特定のポリアルキレングリコールエーテルを選択して使用することにより、極性有機溶媒の熱劣化なしに脂肪族ポリエステルを解重合して環状エステルを製造できることを見出した。
【0027】
即ち、脂肪族ポリエステルと特定のポリアルキレングリコールエーテルとを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該脂肪族ポリエステルの解重合が起こる温度に加熱して、該脂肪族ポリエステルの融液相と該ポリアルキレングリコールエーテルからなる液相とが実質的に均一な相を形成した溶液状態とし、そして、該溶液状態で加熱を継続して解重合反応を進行させることにより、該ポリアルキレングリコールエーテルの熱劣化なしに環状エステルを効率的かつ経済的に製造することができる。脂肪族ポリエステルとしては、解重合により環状エステルを生成することが可能な繰り返し単位を有する脂肪族ポリエステルであれば、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。
【0028】
この方法によれば、解重合反応により、生成した環状エステルを該ポリアルキレングリコールエーテルとともに留出させた後、両者を液状のまま相分離させて、環状エステル相を分離回収し、一方、熱劣化していないポリアルキレングリコールエーテル相を解重合反応系に循環して再利用することができる。ポリアルキレングリコールエーテル相は、別の解重合反応系で利用してもよい。解重合反応系に残存するポリアルキレングリコールエーテルも、再利用が可能である。
【0029】
また、この方法によれば、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーなどの低分子量物だけではなく、廃棄物や成形屑などを含む高分子量脂肪族ポリエステルを出発原料として、解重合反応により環状エステルを製造することができる。該ポリアルキレングリコールエーテルに対する高分子量脂肪族ポリエステルの溶解度が低すぎる場合には、適切な可溶化剤を併用し、また、解重合反応を減圧下で行うなどの工夫をすればよい。
【0030】
さらに、この方法は、粗環状エステルの精製方法として適用することも可能である。
【0031】
本発明の方法によれば、解重合反応に用いる極性有機溶媒の劣化を引き起こすことがなく、また、極性有機溶媒の再利用が可能となるため、製造コストを大幅に低減することができ、環状エステルの工業的な大量生産に大きく寄与することができる。さらに、本発明の方法によれば、高分子量脂肪族ポリエステルを環状エステルにまで変換するリサイクルが可能である。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
かくして、本発明によれば、脂肪族ポリエステルを解重合して環状エステルを製造する方法において、
(I)脂肪族ポリエステル(A)と下記式(1)
【0033】
【化3】

【0034】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表し、pは、1以上の整数を表し、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該脂肪族ポリエステル(A)の解重合が起こる温度に加熱し、
(II)該脂肪族ポリエステル(A)の融液相と該ポリアルキレングリコールエーテル(B)からなる液相とが実質的に均一な相を形成した溶液状態とし、
(III)該溶液状態で加熱を継続することにより、解重合により生成した環状エステルを該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させ、
(IV)留出物から環状エステルを回収する
ことを特徴とする環状エステルの製造方法が提供される。
【0035】
したがって、本発明によれば、脂肪族ポリエステルを解重合して環状エステルを製造する方法において、
(I)脂肪族ポリエステル(A)と下記式(1)
【0036】
【化4】

【0037】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表し、pは、1以上の整数を表し、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該脂肪族ポリエステル(A)の解重合が起こる温度に加熱する工程
を含む環状エステルの製造方法が提供される。
【0038】
また、本発明によれば、粗環状エステルを精製する方法において、粗環状エステル(A’)と下記式(1)
【0039】
【化5】

【0040】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表し、pは、1以上の整数を表し、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、加熱して、各成分の相分離がない実質的に均一な相を形成した溶液状態とし、該溶液状態で加熱を継続することにより、環状エステルを該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させ、留出物から環状エステルを回収することを特徴とする粗環状エステルの精製方法が提供される。
【0041】
したがって、本発明によれば、粗環状エステルを精製する方法において、粗環状エステル(A’)と下記式(1)
【0042】
【化6】

【0043】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表し、pは、1以上の整数を表し、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、加熱する工程を含む粗環状エステルの精製方法が提供される。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、オリゴマーなどの低分子量物から高分子量物までの脂肪族ポリエステルを効率的かつ経済的に解重合して、環状エステルを工業的に提供することができるという効果が奏される。また、本発明によれば、粗環状エステルを効率的かつ経済的に精製することができるという効果が奏される。特に、本発明の環状エステルの製造方法によれば、溶媒として特定のポリアルキレングリコールエーテルを用いて脂肪族ポリエステルを溶液相で解重合することにより、効率的かつ高純度で環状エステルを製造することができるという効果が奏される。また、本発明の方法によれば、重質化物の生成量が極度に低く、環状エステルの収率が向上し、反応容器内のクリーニングの手間も殆ど省くことができるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0045】
1.環状エステルと脂肪族ポリエステル(A)
本発明の環状エステルの製造方法は、グリコール酸、乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の2分子間環状エステル、即ち、二量体環状エステルの製造方法に適用することができる。例えば、グリコール酸の二量体環状エステルは、グリコリドであり、乳酸の二量体環状エステルは、ラクチド(D−ラクチド及び/またはL−ラクチド)である。
【0046】
また、本発明の環状エステルの製造方法は、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン類に適用することができる。これらのラクトン類は、環状エステルであって、開環重合することにより、「ヒドロキシカルボン酸」の繰り返し単位(−O−R−CO−)(Rは、アルキレン基である)を有する開環重合体が得られる。
【0047】
本発明で出発原料として使用する脂肪族ポリエステルは、解重合によって環状エステルを生成することが可能な繰り返し単位を含有する(共)重合体である。このような脂肪族ポリエステルは、グリコリド、ラクチド、ラクトン類などの環状エステルをモノマーとして、開環(共)重合することにより得ることができる。また、このような脂肪族ポリエステルは、グリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸、そのアルキルエステルまたは塩の重縮合によっても得ることができる。
【0048】
本発明で使用する脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリグリコール酸(ポリグリコリドを含む)、ポリ乳酸(ポリラクチドを含む)などのポリ(α−ヒドロキシカルボン酸);ポリ(ε−カプロラクトン)などのポリラクトン類;2種以上の環状エステルの開環共重合体、環状エステルとそれ以外のコモノマーと共重合体、2種以上のα−ヒドロキシカルボン酸の共重合体、α−ヒドロキシカルボン酸とそれ以外のコモノマーとの共重合体などのコポリエステル;などが挙げられる。
【0049】
本発明において、「ヒドロキシカルボン酸」の繰り返し単位(−O−R−CO−)を有する脂肪族ポリエステルであれば、ポリ(α−ヒドロキシカルボン酸)のみならず、ポリラクトン類を含めて、ポリヒドロキシカルボン酸と呼ぶ。また、ポリグリコール酸やポリ乳酸などは、α−ヒドロキシカルボン酸の重縮合により得られた重合体だけではなく、二量体環状エステルの開環重合体であっても、ポリ(α−ヒドロキシカルボン酸)と呼ぶ。
【0050】
本発明において、脂肪族ポリエステルとは、オリゴマーなどの低分子量物から高分子量物までを含むものとして定義される。オリゴマーなどの低分子量の脂肪族ポリエステルと、高分子量の脂肪族ポリエステルとは、必ずしも明瞭に区別することができないが、本発明では、重量平均分子量が10,000未満、多くの場合5,000未満の低分子量物をオリゴマーまたはオリゴマーなどの低分子量の脂肪族ポリエステルと定義する。オリゴマーの重合度、即ち、「ヒドロキシカルボン酸」の繰り返し単位(−O−R−CO−)の数は、通常2以上、好ましくは5以上である。
【0051】
高分子量の脂肪族ポリエステルは、重量平均分子量が通常10,000以上、好ましくは10,000〜1,000,000、より好ましくは20,000〜800,000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値である。例えば、ポリグリコール酸(即ち、ポリグリコリド)などのポリ(α−ヒドロキシカルボン酸)の場合、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を溶媒とするGPC測定により、標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値として重量平均分子量を測定することができる。
【0052】
脂肪族ポリエステルとしては、一般に、ヒドロキシカルボン酸の繰り返し単位を有しているポリヒドロキシカルボン酸が用いられるが、その中でも、ポリグリコール酸(即ち、ポリグリコリド)やポリ乳酸(即ち、ポリラクチド)などのポリ(α−ヒドロキシカルボン酸)がより好ましく、ポリグリコール酸が特に好ましい。脂肪族ポリエステルは、共重合体であってもよいが、その場合には、グリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の繰り返し単位の含有量が50重量%以上の共重合体であることが好ましい。
【0053】
各種脂肪族ポリエステルは、それぞれ常法に従って合成することができる。例えば、α−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーなどの低分子量物は、α−ヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜4程度)若しくは塩を、必要に応じて触媒の存在下に、重縮合させることにより得ることができる。
【0054】
より具体的に、例えば、グリコリドの出発原料として用いるグリコール酸オリゴマーを合成するには、グリコール酸またはそのエステル若しくは塩を、必要に応じて縮合触媒またはエステル交換触媒の存在下に、減圧または加圧下、100〜250℃、好ましくは140〜230℃の温度に加熱し、水、アルコール等の低分子量物質の留出が実質的に無くなるまで縮合反応またはエステル交換反応を行う。縮合反応またはエステル交換反応の終了後、生成したオリゴマーは、そのままで原料として使用することができる。得られたオリゴマーを反応系から取り出して、ベンゼンやトルエンなどの非溶媒で洗浄して、未反応物や触媒などを除去して使用することもできる。オリゴマーの構造は、環状でも直鎖状でもよい。他のα−ヒドロキシカルボン酸オリゴマーも、同様の方法により合成することができる。
【0055】
オリゴマーは、低重合度のものであってもよいが、解重合の際のグリコリドなどの環状エステルの収率の点から、融点(Tm)が通常140℃以上、好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上のものが好ましい。ここで、Tmは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性ガス雰囲気下、10℃/分の速度で昇温した際に検出される融点である。
【0056】
高分子量の脂肪族ポリエステルは、グリコリド、ラクチド、ラクトン類などの開環(共)重合により合成することができる。また、高分子量の脂肪族ポリエステルとしては、使用済み製品の廃棄物や成形屑などを好適に使用することができ、それによって、リサイクルを図ることができる。高分子量の脂肪族ポリエステルの形状は、特に限定されず、例えば、板状、フィルム状、糸状、球状、柱状、棒状など任意である。これらは、解重合反応を行う前に、粒状、粉末、繊維などの形状にしておくことが、反応効率を上げる上で好ましい。そのために、粉砕や溶融などにより、粒状化や粉末化したり、溶融や延伸により繊維状に加工してから、解重合反応に供することができる。
【0057】
本発明においては、脂肪族ポリエステルは、反応前に反応槽に一括して添加してもよいし、反応中に連続添加、分割添加のいずれかまたはその組み合わせで添加してもよい。ただし、後述するように、解重合反応中、反応槽内の脂肪族ポリエステルは、極性有機溶媒と実質的に均一な相(溶液状態)を形成していることが必要である。脂肪族ポリエステルの融液相と極性有機溶媒の液相がより均一な相を形成するように、別途、予備反応槽を設け、そこで均一相を形成後、解重合の反応槽に導入してもよい。さらに、後述する可溶化剤を極性有機溶媒と併用することにより、実質的に均一な相を形成させてもよい。
【0058】
2. ポリアルキレングリコールエーテル(B)
本発明の環状エステルの製造方法及び粗環状エステルの精製方法において用いられる極性有機溶媒は、下記式(1)
【0059】
【化7】

【0060】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表し、pは、1以上の整数を表し、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)である。
【0061】
このポリアルキレングリコールエーテル(B)は、脂肪族ポリエステルの解重合反応の極性有機溶媒として用いられ、また、生成したグリコリドなどの環状エステルを反応系から取り出すための極性有機溶媒として用いられる。
【0062】
本発明で使用するポリアルキレングリコールエーテル(B)は、少なくとも一方の末端のエーテル基が炭素数2以上のアルキル基またはアリール基を有するポリアルキレングリコールエーテルである。
【0063】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)の沸点は、230〜450℃である。ポリアルキレングリコールエーテル(B)の沸点が低すぎると、解重合反応温度を高く設定することができず、グリコリドなどの環状エステルの生成速度が低下してしまう。一方、ポリアルキレングリコールエーテル(B)の沸点が高すぎると、ポリアルキレングリコールエーテルが留出しにくくなり、解重合により生成した環状エステルとの共留出が難しくなる。ポリアルキレングリコールエーテル(B)の沸点は、好ましくは235〜450℃、より好ましくは240〜430℃、最も好ましくは250〜420℃の範囲である。
【0064】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)の分子量は、150〜450である。ポリアルキレングリコールエーテル(B)の分子量が低すぎても高すぎても、グリコリドなどの環状エステルとの共留出が難しくなる。ポリアルキレングリコールエーテル(B)の分子量は、好ましくは180〜420、より好ましくは200〜400の範囲である。
【0065】
上述のように、本発明で用いるポリアルキレングリコールエーテル(B)は、少なくとも一方の末端基(Y)が炭素数2以上のアルキル基またはアリール基である。両末端が炭素数1のアルキル基のエーテルの場合、グリコリドとの共留出に好適な高沸点の溶媒とするためにはR1の炭素数を長くする必要がある。そのようなポリアルキレングリコールエーテルは、合成する際に、(−R−O−)単位の繰り返し数pが広い分布を示すため、蒸留による精製が必要になるなど、工程が煩雑で、収率も低くなる。その結果、そのようなポリアルキレングリコールエーテルは、工業的規模での実施に適さない。
【0066】
前記特開平9−328481号公報(米国特許第5,830,991号明細書)には、極性有機溶媒の具体例として、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル(分子量310)が挙げられているが、このものは、実際的には、対応する分子量範囲のポリエチレングリコールジメチルエーテルから精製分離する必要がある。しかし、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテルの原料として適当な市販のポリエチレングリコールジメチルエーテル(平均分子量250程度)は、重合度分布が主成分のみでも4〜8と広く、重合度6の目的物質は、原料中、質量比で20〜30質量%程度しか存在しない。
【0067】
前記式(1)において、Xは、炭化水素基であり、その具体例としては、アルキル基、アリール基などが挙げられる。
【0068】
ポリアルキレングリコールエーテルの両末端のエーテル基(X及びY)の炭素数の合計が21を超える場合には、極性が低下するため、解重合反応時、脂肪族ポリエステルと均一な融液相を形成することが難しくなる。ポリアルキレングリコール化合物であっても、末端にエーテル基を有さず、末端が水酸基やエステル基などである場合、そのような化合物を極性有機溶媒として使用すると、解重合反応中に熱分解を起こしやすく、コスト高の原因となる。
【0069】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)は、両末端のエーテル基(X及びY)がいずれもアルキル基であり、かつ、両末端のエーテル基に含まれるアルキル基の炭素数の合計が好ましくは3〜21、より好ましくは6〜20の範囲にあることが望ましい。このようなアルキル基の例としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基等が挙げられる。これらのアルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよい。アルキル基の炭素数の合計が21を超えると、ポリアルキレングリコールエーテルの分子量が450を超えやすくなり、解重合時にグリコリドなどの環状エステルと共留出しにくくなる。
【0070】
ポリアルキレングリコールジアルキルエーテルとしては、ポリエチレングリコールジアルキルエーテルが好ましく、その中でも、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、及びテトラエチレングリコールジアルキルエーテルがより好ましい。
【0071】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)の両末端のエーテル基のアルキル基としては、ジブチル、ジヘキシル、ジオクチルなどのように、同じ炭素数のアルキル基を用いることができるが、必ずしも同じ炭素数である必要はなく、例えば、プロピル基とラウリル基、ヘキシル基とヘプチル基、ブチル基とオクチル基などのような異種のアルキル基同士の組み合わせでもよい。
【0072】
式(1)において、Yがアリール基である場合、その具体例としては、フェニル基、ナフチル基、置換フェニル基、置換ナフチル基などが挙げられる。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素など)が好ましい。置換フェニル基の場合、置換基の数は、通常1〜5、好ましくは1〜3である。置換基が複数ある場合、それぞれ同一または異なっていてもよい。置換基は、ポリアルキレングリコールエーテル(B)の沸点と極性を調整する役割を果す。
【0073】
ポリアルキレングリコールエーテルの性質は、式(1)中のアルキレンオキシ単位(−R−O−)の繰り返し数pによっても変化する。本発明では、繰り返し数pが2〜8、好ましくは2〜5のポリアルキレングリコールエーテル(B)を用いる。この繰り返し数pが大きくなると、重付加反応による合成時に重合度分布が広くなりやすく、同一繰り返し単位数のポリアルキレングリコールエーテルの単離が困難となる。特に、繰り返し単位数pが8を超えると、高分子量物のため蒸留による単離も難しくなり、収率も低下してしまう。
【0074】
アルキレンオキシ単位(−R−O−)は、Rがメチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基であれば、特に限定されるものではないが、その具体例としては、Rの炭素数が2のエチレンオキシ単位からなるポリエチレングリコールエーテル、R1の炭素数が3のプロピレンオキシ単位からなるポリプロピレングリコールエーテル、Rの炭素数が4のブチレンオキシ単位からなるポリブチレングリコールエーテルが挙げられる。これらの中でも、原料が入手しやすく、また、合成しやすい点で、ポリエチレングリコールエーテルが特に好ましい。
【0075】
アルキレンオキシ単位(−R−O−)の繰り返し数pが2以上の場合には、複数のRがそれぞれ同一であっても、異なっていてもよい。複数のR1が異なるものとしては、例えば、酸化エチレンと酸化プロピレンを混合して反応させることにより得られるエチレンオキシ単位とプロピレンオキシ単位とを含むものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0076】
このようなポリアルキレングリコールエーテル(B)としては、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジオクチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジオクチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジオクチルエーテル、ジエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルオクチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル、トリエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールブチルオクチルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールブチルオクチルエーテル、テトラエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル;該ポリエチレングリコールジアルキルエーテルにおいて、エチレンオキシ単位に代えて、プロピレンオキシ単位またはブチレンオキシ単位を含むポリプロピレングリコールジアルキルエーテルやポリブチレングリコールジアルキルエーテル等のポリアルキレングリコールジアルキルエーテル;ジエチレングリコールブチルフェニルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルフェニルエーテル、ジエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、トリエチレングリコールブチルフェニルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルフェニルエーテル、トリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、テトラエチレングリコールブチルフェニルエーテル、テトラエチレングリコールヘキシルフェニルエーテル、テトラエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、またはこれらの化合物のフェニル基の少なくとも1つの水素原子がアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等で置換されたポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル;該ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテルにおいて、エチレンオキシ単位に代えて、プロピレンオキシ単位またはブチレンオキシ単位を含むポリプロピレングリコールアルキルアリールエーテルやポリブチレングリコールアルキルアリールエーテル等のポリアルキレングリコールアルキルアリールエーテル;ジエチレングリコールジフェニルエーテル、トリエチレングリコールジフェニルエーテル、テトラエチレングリコールジフェニルエーテル、またはこれらの化合物のフェニル基の少なくとも1つの水素原子がアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等で置換された化合物等のポリエチレングリコールジアリールエーテル;前記ポリエチレングリコールジアリールエーテルにおいて、エチレンオキシ単位に代えて、プロピレンオキシ単位またはブチレンオキシ単位を含むポリプロピレングリコールジアリールエーテルやポリブチレングリコールジアリールエーテル等のポリアルキレングリコールジアリールエーテル;等が挙げられる。
【0077】
本発明で用いるポリアルキレングリコールエーテル(B)は、以下のような特徴を有することが好ましい。
【0078】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)は、解重合反応の実施後に反応液中に残存する量と留出液からの回収される量の合計量の仕込み量に対する割合(即ち、回収率)が好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であることが望ましい。ポリアルキレングリコールエーテル(B)の回収率が低すぎると、コストを低減することが困難になる。また、不純物を含むポリアルキレングリコールエーテルを精製するためのコストが大きくなる。
【0079】
本発明で用いるポリアルキレングリコールエーテル(B)は、25℃におけるグリコリドなどの環状エステルの溶解度が0.1%以上であることが好ましい。多くの場合、環状エステルの溶解度が0.1〜10%の範囲にあるポリアルキレングリコールエーテル(B)が好ましい。ここで、25℃における環状エステルの溶解度とは、25℃のポリアルキレングリコールエーテル(B)にグリコリドなどの環状エステルが飽和状態になるまで溶解させたときのポリアルキレングリコールエーテル(B)の容積A(ml)に対する環状エステルの質量B(g)の百分率で示される。すなわち、溶解度は、下式で示される。
溶解度(%)=(B/A)×100
【0080】
溶解度が低すぎると、ポリアルキレングリコールエーテル(B)と共に留出したグリコリドなどの環状エステルが析出して、回収ラインの閉塞などを起こしやすくなるので好ましくない。溶解度が高すぎると、解重合反応で得られた共留出液から環状エステルを回収するために、例えば、0℃以下の温度に冷却したり、非溶媒を加えたりして、環状エステルを単離する必要が生じる。低温に冷却するには、工業的規模では多大なエネルギーが必要となる。非溶媒の添加は、ポリアルキレングリコールエーテル(B)の回収・再利用に際して、非溶媒の分離が必要となり、工程数及び設備がともに増えるため、工業的実施に不利である。
【0081】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)は、例えば、アルキレンオキサイドをアルコールに付加させて得たアルキレングリコールモノエーテルや重付加させて得たポリアルキレングリコールモノエーテルの末端ヒドロキシ基をエーテル化することにより製造することができる。エーテル化の方法は、公知であり、特に制限されないが、一般的には、ポリアルキレングリコールモノエーテルを、金属ナトリウム、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの存在下、ハロゲン化アルキルと反応させる方法;その際にヨウ化ナトリウムを共存させる方法;ハロゲン化アルキル(即ち、アルキル化剤)の代わりに、塩基性化合物の存在下、スルホン酸クロリド(例えば、トシルクロリド、メシルクロリド等)を用いてアルコールをスルホン酸エステル化したものをアルキル化剤として用いる方法;などが挙げられる。
【0082】
3.可溶化剤(C)
本発明においては、ポリアルキレングリコールエーテル(B)に対するグリコール酸オリゴマーやポリグリコリドなどの脂肪族ポリエステルの溶解特性(溶解度及び/または溶解速度)を改善するために、可溶化剤を用いることができる。
【0083】
本発明で用いる可溶化剤は、次のような要件のいずれか1つ以上を満たす化合物であることが好ましい。
【0084】
(i) 非塩基性化合物であること。アミン、ピリジン、キノリンなどの塩基性化合物は、脂肪族ポリエステルや生成する環状エステルと反応するおそれがあるため、好ましくない。
【0085】
(ii)ポリアルキレングリコールエーテル(B)に相溶性または可溶性の化合物であること。ポリアルキレングリコールエーテル(B)に相溶性または可溶性の化合物であれば、常温で液体でも固体でもよい。
【0086】
(iii)沸点が180℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは250℃以上の化合物であること。特に、解重合反応に使用するポリアルキレングリコールエーテル(B)の沸点よりも高沸点の化合物を可溶化剤として使用すると、グリコリドなどの環状エステルの留出時に、環状エステル及びポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出しないか、あるいは留出量が極めて少なくなるので、好ましい。多くの場合、沸点が450℃以上の化合物を可溶化剤として使用することにより、良好な結果を得ることができる。ただし、解重合に使用するポリアルキレングリコールエーテル(B)の沸点より低沸点の化合物であっても、アルコール類などは、可溶化剤として好適に使用することができる。
【0087】
(iv)例えば、OH基、COOH基、CONH基などの官能基を有する化合物であること。
【0088】
(v) ポリアルキレングリコールエーテル(B)よりも脂肪族ポリエステル(A)との親和性が高いこと。可溶化剤と脂肪族ポリエステル(A)との親和性は、a)脂肪族ポリエステル(A)とポリアルキレングリコールエーテル(B)との混合物を230℃〜280℃に加熱して均一な溶液相を形成させ、b)そこに、脂肪族ポリエステル(A)を更に添加して、その濃度を混合物が均一溶液相を形成しなくなるまで高め、c)そこに可溶化剤を加えて、再び均一溶液相を形成するか否かを目視により観察することにより確認することができる。
【0089】
本発明で使用することができる可溶化剤の具体例としては、一価または二価以上の多価アルコール類(部分エステル化物及び部分エーテル化物を含む)、フェノール類、一価または二価以上の多価脂肪族カルボン酸類、脂肪族カルボン酸とアミンとの脂肪族アミド類、脂肪族イミド類、分子量が450を越えるポリアルキレングリコールエーテルなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0090】
これらの中でも、一価または多価アルコール類は、可溶化剤として特に効果的である。アルコール類としては、沸点が180℃以上、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは250℃以上の一価または多価アルコール類を挙げることができる。より具体的に、アルコール類としては、デカノール、トリデカノール、デカンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの脂肪族アルコール;クレゾール、クロロフェノール、ナフチルアルコールなどの芳香族アルコール;ポリアルキレングリコール;ポリアルキレングリコールモノエーテルなどが挙げられる。
【0091】
ポリアルキレングリコールとしては、式(2)
【0092】
【化8】

【0093】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、qは、1以上の整数を表し、qが2以上の場合、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で示されるポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0094】
ポリアルキレングリコールモノエーテルとしては、式(3)
【0095】
【化9】

【0096】
(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、rは、1以上の整数を表し、rが2以上の場合、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表されるポリアルキレングリコールモノエーテルが好ましい。ポリアルキレングリコールモノエーテルの具体例としては、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノプロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル、ポリエチレングリコールモノデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテルなどのポリエチレングリコールモノエーテル;該ポリエチレングリコールモノエーテルにおいて、エチレンオキシ基をプロピレンオキシ基またはブチレンオキシ基に代えたポリプロピレングリコールモノエーテルやポリブチレングリコールモノエーテルなどのポリアルキレングリコールモノエーテル;などが挙げられる。ポリエチレングリコールモノエーテルは、そのエーテル基として炭素数1〜18のアルキル基を有するものが好ましく、炭素数6〜18のアルキル基を有するものがより好ましい。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0097】
可溶化剤として、ポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールモノエーテルを用いると、これらの化合物が高沸点であるため、留出することが殆どない。しかも、ポリアルキレングリコール及びポリアルキレングリコールモノエーテルは、脂肪族ポリエステルの溶解性が高いので、これらを可溶化剤として用いると、脂肪族ポリエステルの解重合反応が迅速に進む。また、可溶化剤としてポリアルキレングリコールモノエーテルを使用すると、缶壁(反応容器内壁)のクリーニング効果が特に優れる。
【0098】
本発明においては、解重合反応の極性有機溶媒として用いるポリアルキレングリコールエーテル(B)よりも、脂肪族ポリエステルとの親和性が高く、高分子量かつ高沸点のポリアルキレングリコールエーテルを可溶化剤として使用することができる。可溶化剤として好適なポリアルキレングリコールエーテルの具体例としては、ポリエチレングリコールジメチルエーテル#500(平均分子量500)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル#2000(平均分子量2000)などが挙げられる。可溶化剤としてのポリアルキレングリコールエーテルは、分子量が450を超えるものである。分子量が低いと、解重合反応時に環状エステルとともに留出し、解重合反応系での脂肪族ポリエステルの溶解性を維持する可溶化剤としての機能が果たせなくなる。
【0099】
可溶化剤の作用は、未だ充分に明らかではないが、脂肪族ポリエステルの末端と作用して脂肪族ポリエステルを溶けやすいものに変える作用、脂肪族ポリエステルの分子鎖の中間に作用して分子鎖を切断し、分子量を調整して脂肪族ポリエステルを溶けやすいものに変える作用、溶媒系全体の極性を変えて親水性を高め、脂肪族ポリエステルの溶解性を高める作用、脂肪族ポリエステルを乳化分散させる作用、あるいはこれらの複合作用などの作用を行うものと推定される。
【0100】
可溶化剤を使用する場合には、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、通常0.1 〜500重量部、好ましくは1〜300重量部の割合で使用される。可溶化剤の使用割合が少なすぎると、可溶化剤による可溶性向上効果が充分に得られない。可溶化剤の使用割合が多すぎると、可溶化剤の回収にコストがかかり、経済的ではない。
【0101】
4.触媒(D)
本発明の環状エステルの製造方法では、脂肪族ポリエステルがポリアルキレングリコールエーテル(B)に溶解して、その表面積が極度に広がるために、解重合によるグリコリドなどの環状エステルの発生速度または揮発速度が大きい。したがって、一般に、解重合のための触媒(例えば、錫化合物、アンチモン化合物等)を用いる必要はない。熱安定性に優れたポリアルキレングリコールエーテル(B)を用いている本発明の製造方法において、触媒は、むしろ有害になるおそれもある。しかし、本発明の「溶液相解重合法」を本質的に損なわない範囲において、触媒を使用することもできる。
【0102】
5.環状エステルの製造方法
本発明の環状エステルの製造方法は、以下の工程を含んでいる。
【0103】
(I)脂肪族ポリエステル(A)と、前記式(1)で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該脂肪族ポリエステル(A)の解重合が起こる温度に加熱する工程。
【0104】
(II)該脂肪族ポリエステル(A)の融液相と該ポリアルキレングリコールエーテル(B)からなる液相とが実質的に均一な相を形成した溶液状態とする工程。
【0105】
(III)該溶液状態で加熱を継続することにより、解重合により生成した環状エステルを該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させる工程。
【0106】
(IV)留出物から環状エステルを回収する工程。
【0107】
本発明の環状エステルの製造方法は、脂肪族ポリエステルの解重合を溶液相の状態で行う点に最大の特徴を有する。解重合反応は、通常、200℃以上の温度で行うが、脂肪族ポリエステルの大半が溶媒に溶解しないで融液相を形成する場合には、環状エステルが留出しにくく、しかも融液相が重質物化しやすい。脂肪族ポリエステルの大半を溶液相の状態で加熱することにより、環状エステルの発生及び揮発速度が飛躍的に大きくなる。
【0108】
具体的には、前記工程(I)において、先ず、脂肪族ポリエステル(A)を融液状態で、あるいは固体状態で必要であれば適当な粒度に粉砕してから反応容器に投入し、ポリアルキレングリコールエーテル(B)と混合する。脂肪族ポリエステル(A)とポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物は、通常、200℃以上の温度に加熱することにより、脂肪族ポリエステルの全部もしくは大半がポリアルキレングリコールエーテル(B)に溶けて実質的に均一な液相(溶液状態)を形成する。脂肪族ポリエステルの融解及び溶解の操作は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。脂肪族ポリエステル(A)が高分子量であるなどのために、ポリアルキレングリコールエーテル(B)に対する溶解度が低い場合には、可溶化剤(C)を加える。
【0109】
前記工程(II)では、脂肪族ポリエステル(A)とポリアルキレングリコールエーテル(B)との均一な液相を形成することが好ましいが、脂肪族ポリエステル融液相の残存率が0.5以下であれば脂肪族ポリエステル融液相が共存してもよい。ここで、「融液相の残存率」とは、流動パラフィンのように脂肪族ポリエステルに対して実質的に溶解力のない溶媒中に脂肪族ポリエステルF(g)を加えて解重合が起こる温度に加熱した際に形成される脂肪族ポリエステル融液相の容積がa(ml)、実際に使用する溶媒中で脂肪族ポリエステルF(g)を解重合が起こる温度に加熱して形成される脂肪族ポリエステル融液相の容積がb(ml)である場合に、b/aの比率を表す。溶媒としては、ポリアルキレングリコールエーテル(B)を単独で使用するか、あるいはポリアルキレングリコールエーテル(B)と可溶化剤(C)とを併用する。脂肪族ポリエステル融液相の残存率は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.1以下、最も好ましくは実質的にゼロの場合である。
【0110】
前記工程(III)では、脂肪族ポリエステル(A)とポリアルキレングリコールエーテル(B)とが実質的に均一な液相を形成している状態で加熱を継続して脂肪族ポリエステル(A)を解重合させ、生成したグリコリドなどの環状エステルをポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させる。
【0111】
解重合は、ポリグリコール酸(ポリグリコリド)を例にとると、基本的には以下の反応式〔III〕
【0112】
【化10】

【0113】
で示される反応である。
【0114】
解重合のための加熱温度は、脂肪族ポリエステルの解重合が起こる温度以上であり、通常、200℃以上の温度である。加熱温度は、通常200〜320℃、好ましくは210〜310℃、より好ましくは220〜300℃、特に好ましくは230〜290℃の範囲である。
【0115】
加熱により、脂肪族ポリエステルの解重合反応が起こり、グリコリド(大気圧下での沸点:240〜241℃)などの環状エステルが溶媒とともに留出する。環状エステルの留出に際し、溶媒が一緒に留出しない場合は、留出ライン内壁に環状エステルが析出して付着しやすい。
【0116】
脂肪族ポリエステル(A)とポリアルキレングリコールエーテル(B)、及び必要に応じて可溶化剤(C)を含む混合液を加熱して実質的に均一な液相を形成させる温度と、解重合反応により環状エステルをポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させる温度とは、必ずしも同じである必要はない。いずれの工程の加熱も、常圧下または減圧下に行うことができる。好ましくは、脂肪族ポリエステル(A)とポリアルキレングリコールエーテル(B)、及び必要に応じて添加される可溶化剤(C)を含む混合液を加熱して実施的に均一な液相を形成させる工程(I)及び(II)を常圧で行い、次いで、工程(III)では、減圧下で加熱して環状エステルをポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させる。解重合反応は、可逆反応であるためグリコリドなどの環状エステルを液相から留去することにより、脂肪族ポリエステルの解重合反応が効率的に進行する。
【0117】
解重合反応時の加熱は、常圧下または減圧下に行うが、0.1〜90kPaの減圧下に行うことが好ましい。圧力が低い程、解重合反応温度が下がり、溶媒の回収率が高くなる。圧力は、好ましくは1〜50kPa、より好ましくは3〜30kPa、特に好ましくは5〜20kPaである。
【0118】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)は、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、通常30〜500重量部、好ましくは50〜200重量部の割合で使用する。ポリアルキレングリコールエーテル(B)は、反応系内の混合物が実質的に均一な液相を形成する範囲内で解重合反応途中に連続的または分割的に追加してもよい。また、より均一な液相を形成するために、混合物中に可溶化剤を添加してもよく、また、可溶化剤も、解重合反応中に連続的もしくは分割的に追加してもよい。
【0119】
工程(IV)において、留出物中に含まれるグリコリドなどの環状エステルは、留出物を冷却し、必要に応じて環状エステルの非溶媒を添加することにより、容易に分離回収することができる。
【0120】
回収した環状エステルは、必要に応じて、再結晶などにより精製を行うことができる。あるいは、後述の粗環状エステルの精製法によっても、環状エステルを精製することができる。一方、環状エステルを除いた母液は、ポリアルキレングリコールエーテル(B)を含むが、これは熱安定性に優れているため、ほぼ全量を精製等の工程を経ることなく再利用することができる。ポリアルキレングリコールエーテル(B)は、活性炭等で吸着させて精製したり、あるいは蒸留等により精製してから再利用してもよい。
【0121】
このように、本発明に使用するポリアルキレングリコールエーテル(B)は、解重合反応において化学的にも熱的にも安定であり、再利用する際に、追加する新たなポリアルキレングリコールエーテル(B)は、極少量ですむ。
【0122】
本発明では、使用する極性有機溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)が熱安定性に優れているため、前記工程(IV)において、留出物を液状のままで相分離させて、環状エステル相を分離・回収するとともに、ポリアルキレングリコールエーテル(B)相を解重合反応系に循環することができる。
【0123】
具体的には、留出物を冷却器(コンデンサー)で冷却して、グリコリドなどの環状エステルと溶媒とを液状のままで相分離させる。留出物を相分離させると、通常、下層に環状エステル相ができ、上層は溶媒相となる。下層の環状エステル相は、液状のままで分離回収することができる。液状で環状エステルと溶媒とを相分離させるには、冷却温度を通常85〜180℃、好ましくは85〜150℃、より好ましくは85〜120℃に制御する。冷却温度が高すぎると、分離操作の間に環状エステル相において開環反応や重合反応などの副反応が生成しやすくなる。冷却温度が低すぎると、液状のままで相分離させることが困難になる。
【0124】
コンデンサーにより留出物の温度制御を行いながら解重合反応を継続すると、溶媒と共に留出した環状エステルが上層の溶媒相を液滴となって通過し、下層の環状エステル相へと凝縮する。
【0125】
このような相分離を行うには、ポリアルキレングリコールエーテル(B)として、両末端のエーテル基がいずれもアルキル基であり、かつ、そのアルキル基の炭素数の合計が3〜21であるものが好ましい。このような溶媒は、前記冷却温度において、グリコリドなどの環状エステルと相分離しやすい。
【0126】
分離した環状エステル相は、さらに冷却して回収され、必要に応じて精製処理される。この方法によれば、回収した環状エステルから大量の溶媒を分離する必要がなくなり、溶媒と環状エステルとの分離操作が簡単になる。
【0127】
また、この方法において、相分離させた留出物からポリアルキレングリコールエーテル(B)相を分離して、解重合反応系に戻すことができる。この方法によれば、大量の溶媒を回収する必要がなくなり、さらには、反応容器の容積で決定される量を超える溶媒を用意する必要がなくなる。したがって、この方法では、溶媒の損失を最小限に抑制することができる。
【0128】
脂肪族ポリエステル(A)が重量平均分子量が10,000〜1,000,000の高分子量ポリマーである場合、解重合反応の溶媒として、ポリアルキレングリコールエーテル(B)と可溶化剤のアルコール類とを併用することが好ましい。また、解重合反応は、減圧下に行うことが好ましい。
【0129】
具体的には、高分子量の脂肪族ポリエステル(A)を解重合して環状エステルを製造する方法において、
(i)高分子量の脂肪族ポリエステル(A)と、前記式(1)で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)と、可溶化剤(C)として沸点が180℃以上の一価または二価以上の多価アルコールとを含む混合物を、常圧下または減圧下に、高分子量の脂肪族ポリエステル(A)の解重合が起こる温度に加熱し、
(ii)高分子量の脂肪族ポリエステル(A)の融液相とポリアルキレングリコールエーテル(B)と可溶化剤(C)とからなる液相とが実質的に均一な相を形成した溶液状態とし、
(iii)減圧下に、溶液状態で加熱を継続することにより、解重合により生成した環状エステルをポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させ、
(iv)留出物から環状エステルを回収する
ことを特徴とする環状エステルの製造方法である。
【0130】
本発明の環状エステルの製造方法によれば、加熱時及び解重合時に脂肪族ポリエステルの重質化物が殆ど生成しないので、反応容器内のクリーニングの手間を省くことができる。また、仮に何らかのトラブル等により反応容器内に重質化物が付着した場合は、ポリアルキレングリコールエーテル(B)と可溶化剤(C)とを反応容器に入れて加熱することにより、容易にクリーニングすることができる。
【0131】
環状エステルを分離した母液に、二種類以上の溶媒や可溶化剤が含まれている場合は、この分離した母液を精製せずにそのままリサイクルして使用したり、活性炭等で吸着精製してリサイクル使用したり、あるいは単蒸留もしくは分留して、再び溶媒及び/または可溶化剤としてリサイクル使用することができる。可溶化剤は、重質化物の溶解に効果があるので、可溶化剤を用いた解重合の場合は、反応容器内のクリーニングを省略もしくは低減できる。
【0132】
6.粗環状エステルの精製方法
本発明の「溶液相解重合法」は、粗グリコリドなどの粗環状エステルの精製方法にも適用することができる。
【0133】
すなわち、本発明によれば、粗環状エステル(A’)と前記式(1)で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、加熱して、各成分の相分離がない実質的に均一な相を形成した溶液状態とし、該溶液状態で加熱を継続することにより、環状エステルを該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させ、留出物から環状エステルを回収する粗環状エステルの精製方法が提供される。
【0134】
この場合、環状エステルは、開環重合を起こすことなく、溶媒とともに留出する。留出物を冷却し、必要に応じて更に環状エステルの非溶媒を添加して、環状エステルを分離などの方法で精製することができる。留出物を冷却器で冷却して、液状のままで相分離させ、環状エステル層とポリアルキレングリコールエーテル(B)層とをそれぞれ分離して回収することもできる。
【0135】
母液中の溶媒は化学的、熱的に安定なため、再利用する際、追加する新たなポリアルキレングリコールエーテル(B)は、極少量ですむ。本発明の環状エステルの精製方法は、従来の昇華法などの精製方法とは異なり、スケールアップが容易であり、大量の環状エステルを工業的に精製することができる。
【0136】
7.作用
本発明の環状エステルの製造方法は、いわば「溶液相解重合法」とも言うべき方法である。この製造方法によれば、以下のような理由により、効率よく環状エステルを製造することができる。
【0137】
1.脂肪族ポリエステルを溶液相、好ましくは均一溶液相で解重合を起こさせることによって、その表面積が飛躍的に拡大され、脂肪族ポリエステル表面から発生、揮発する環状エステルの生成速度が飛躍的に大きくなる。
【0138】
2.脂肪族ポリエステル同士の接触が溶媒の希釈効果によって抑制されるために、加熱時における脂肪族ポリエステルの重縮合反応の進行が抑制され、また、重質化物の生成量が極度に低減する。したがって、環状エステルの収率が向上し、反応容器内のクリーニングの手間も殆ど省くことができる。
【0139】
3.環状エステルは、ポリアルキレングリコールエーテル(B)の留出温度で生成し、溶媒とともに留出するため、留出ラインには殆ど蓄積せず、従って、ラインの閉塞が防止され、また、ライン内の蓄積物の回収という手間も殆ど省くことができる。
【0140】
4.通常の蒸留システムと類似のシステムを用いることでができるため、スケールアップが容易であり、工業的スケールでの量産化も容易である。
【0141】
5.さらに、ポリアルキレングリコールエーテル(B)は、解重合反応によって熱劣化を殆ど起こさず、したがって、解重合反応に使用した溶媒を再び解重合反応に用いることにより、新たに持ち込む溶媒量を極わずかにすることができる。したがって、環状エステルの大量生産を行う場合、溶媒コストを大幅に低減することができ、その結果、グリコリドなどの環状エステルを低コストで大量に生産することができる。
【実施例】
【0142】
以下に、参考例、実施例、及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の例において、溶媒に対するグリコリド(環状エステル)の溶解度は、下記の方法により測定した。
【0143】
(1)溶解度
溶媒10mlを25ml共栓付き試験管に入れ、それに飽和状態よりわずかに過剰になるようにグリコリドを加えて超音波を30分照射した。照射後、25℃にて一晩放置し、上清中のグリコリド含量をガスクロマトグラフィーで定量し、溶解量B(g)を求め、以下の式により溶解度を算出した。
溶解度(%)=(B/10)×100
【0144】
[参考例1]
グリコール酸オリゴマーの合成例
5リットルのオートクレーブに、グリコール酸〔和光純薬(株)製〕2500gを仕込み、常圧で撹拌しながら170℃から200℃まで2時間かけて昇温加熱し、生成水を留出させながら縮合反応を行った。次いで、缶内圧力を5.0 kPaに減圧し、200℃で2時間加熱して、未反応原料等の低沸分を留去し、グリコール酸オリゴマーを調製した。
【0145】
得られたグリコール酸オリゴマーの融点(Tm)は206℃であり、ΔHmcは105J/gであった。Tmは、DSC(示差走査熱量計)を用い、不活性ガス雰囲気下、10℃/分の昇温速度で加熱したときの値であり、ΔHmcは、その際に検出される融解エンタルピーである。
【0146】
[参考例2]
テトラエチレングリコールジブチルエーテル(TEG−DB)の合成例
フラスコに、トルエン500ml、ブトキシエタノール118.2g、及びトリエチルアミン101.2gを加え、氷冷下、塩化メタンスルホニル115gを滴下した。析出したトリエチルアミン塩酸塩を除去した後、トリエチレングリコールブチルエーテル206.3gを加えた。この混合物を滴下ロートに仕込み、60%NaH40gとトルエン200mlの60〜70℃の混合液中に滴下した。反応液からテトラエチレングリコールジブチルエーテルを蒸留(沸点140〜143℃、80Pa)により得た。この物質(以下、「TEG−DB」と略記)の沸点を常圧に換算すると、おおよそ340℃である。また、この物質の25℃でのグリコリドの溶解度は、4.6%であった。
【0147】
[参考例3]
ジエチレングリコールブチル(2−クロロフェニル)エーテル(DEG−BClPh)の合成例
フラスコに、エチレングリコールn−ブチルエーテル330.9g、トリエチルアミン202.3g、及びトルエン500mlを加え、氷冷撹拌し、そこに塩化メタンスルホニル229.1gを7〜10℃の温度を維持しながら4時間で滴下した。反応混合物を室温に戻して2時間後に反応終了とした。反応混合物に水を加えてトルエン相を抽出した。次いで、溶媒を留去してメシル化物474.7gを得た。
【0148】
上述のメシル化物470g、2−クロロフェノール260g、及びN−メチルピロリドン20mlの混合物に、NaOH78.2g、水117gの混合物を半量ずつ2回に分けて加え、100℃に加熱後、さらにNaOH18.7g、水59gの混合物を加えて更に1時間反応を続けた。水洗後、トルエン相から目的物質であるジエチレングリコールブチル(2−クロロフェニル)エーテル519.7gを蒸留(沸点139〜144℃、70Pa)により得た。この物質(以下、「DEG−BClPh」と略記)の沸点を常圧に換算すると、おおよそ345℃である。この物質の25℃でのグリコリドの溶解度は、1.8%であった。
【0149】
[参考例4]
ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEG−DB)の合成例
60%NaH120g及び500mlトルエン中に、ブロモブタン329gと、ジエチレングリコールブチルエーテル486gを50℃で滴下した。反応物からジエチレングリコールジブチルエーテル(以下、「DEG−DB」と略記)を蒸留(沸点256℃、常圧)にて得た。また、この物質の25℃でのグリコリドの溶解度は、1.8%であった。
【0150】
[参考例5]
トリエチレングリコールn−ブチルn−オクチルエーテル(TEG−BO)の合成例
ブロモブタンをブロモn−オクタンに代え、ジエチレングリコールブチルエーテルをトリエチレングリコールn−ブチルエーテルに代えたこと以外は、参考例4と同様の操作により、トリエチレングリコールn−ブチルn−オクチルエーテル(以下、「TEG−BO」と略記)を蒸留(沸点140〜145℃、70Pa)にて得た。TEG−BOの沸点を常圧に換算すると、おおよそ350℃である。この物質の25℃でのグリコリドの溶解度は、2.0%であった。
【0151】
[参考例6]
トリエチレングリコールブチルデシルエーテル(TEG−BD)の合成例
ブロモオクタンをブロモデカンに代えたこと以外は、参考例5と同様の操作により、トリエチレングリコールブチルデシルエーテル(以下、「TEG−BD」と略記)を蒸留(沸点170〜180℃、70Pa)にて得た。TEG−BDの沸点を常圧に換算すると、おおよそ400℃である。この物質の25℃でのグリコリドの溶解度は、1.3%であった。
【0152】
これらの結果を表1にまとめて示す。
【0153】
【表1】

【0154】
(脚注)
Bu:ブチル基
2-ClPh:2−クロロフェニル基
Oct:オクチル基
Dec:デシル基
Ety:−CHCH
【0155】
[実施例1]
参考例1で調製したグリコール酸オリゴマー40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、参考例2で調製したテトラエチレングリコールジブチルエーテル(TEG−DB)を200g加えた。窒素ガス雰囲気でグリコール酸オリゴマーと溶媒の混合物を280℃に加熱した。グリコール酸オリゴマーは、溶媒に均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。加熱を続けながらフラスコ内を10kPaに減圧すると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。解重合反応は、およそ4時間で終了した。
【0156】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは26gであり(収率:65%)、ガスクロマトグラフィー(GC)による純度(面積法)は99.98%と高純度であった。母液中及び反応液中のTEG−DBをGCで定量すると198g(残存率:99%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0157】
[実施例2]
参考例1で調製したグリコール酸オリゴマー20gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、参考例3で調製したジエチレングリコールブチル(2−クロロフェニル)エーテル(DEG−BClPh)を180g加えた。窒素ガス雰囲気でグリコール酸オリゴマーと溶媒の混合物を280℃に加熱した。グリコール酸オリゴマーは、溶媒にほぼ均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら8kPaの減圧下にすると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。解重合反応は、およそ4時間で終了した。
【0158】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは12gであり(収率:60%)、GCによる純度(面積法)は99.98%と高純度であった。母液中及び反応液中のDEG−BClPhをGCで定量すると173g(残存率:96%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0159】
[実施例3]
参考例1で調製したグリコー酸オリゴマー20gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、参考例4で調製したジエチレングリコールジブチルエーテル(DEG−DB)200gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、グリコール酸オリゴマーと溶媒の混合物を260℃に加熱した。グリコール酸オリゴマーは、溶媒にほぼ均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら20kPaの減圧下にすると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。解重合反応は、およそ4時間で終了した。
【0160】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後得られたグリコリドは11gであり(収率:55%)、GCによる純度(面積法)は99.96%と高純度であった。母液中及び反応液中のDEG−DBをGCで定量すると、198g(残存率:99%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0161】
[実施例4]
参考例1で調製したグリコール酸オリゴマー40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として参考例4で調製したジエチレングリコールジブチルエーテル(DEG−DB)を200g加え、さらに可溶化剤(C)としてポリエチレングリコールジメチルエーテル#2000(平均分子量2000、メルク製)50gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、グリコール酸オリゴマーと溶媒の混合物を260℃に加熱した。オリゴマーは溶媒に均一に溶解し、相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら20kPaの減圧下にすると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。解重合反応はおよそ5時間で終了した。
【0162】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは32gであり(収率:80%)、GCによる純度(面積法)は99.98%と高純度であった。母液中及び反応液中のDEG−DBをGCで定量すると199g(残存率:99.5%)であり、溶媒の損失が殆ど無いことが確認された。
【0163】
[実施例5]
可溶化剤(C)をテトラエチレングリコール(分子量194、沸点327℃)10gに代えたこと以外は、実施例4と同様にして解重合反応を行った。共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは30gであり(収率:75%)、GCによる純度(面積法)は99.96%と高純度であった。母液中及び反応液中のDEG−DBをGCで定量すると199g(残存率:99.5%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0164】
[実施例6]
可溶化剤(C)をポリエチレングリコール#600(平均分子量600)60gに代えたこと以外は、実施例4と同様にして解重合反応を行った。共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは32gであり(収率:80%)、GCによる純度(面積法)は99.98%と高純度であった。母液中及び反応液中のDEG−DBをGCで定量すると199g(残存率:99.5%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0165】
[実施例7]
可溶化剤(C)をポリプロピレングリコール#400(平均分子量400)40gに代えたこと以外は、実施例4と同様にして解重合反応を行った。共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは33gであり(収率:82.5%)、GCによる純度(面積法)は99.97%と高純度であった。母液中及び反応液中のDEG−DBをGCで定量すると199g(残存率:99.5%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0166】
[実施例8]
参考例1で調製したグリコール酸オリゴマー40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、参考例5で調製したトリエチレングリコールブチルオクチルエーテル(TEG−BO)を100g加え、さらに可溶化剤(C)としてポリエチレングリコールモノメチルエーテル#350(平均分子量350、アルドリッチ製)50gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、グリコール酸オリゴマーと溶媒の混合物を260℃に加熱した。グリコール酸オリゴマーは、溶媒に均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら10kPaの減圧下にすると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。途中、TEG−BOを100g追加し、解重合反応は、およそ7時間で終了した。
【0167】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは32gであり(収率:80%)、GCによる純度(面積法)は99.99%と高純度であった。母液中及び反応液中のTEG−BOをGCで定量すると198g(残存率:99%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0168】
[実施例9]
参考例1で調製したグリコール酸オリゴマー40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、参考例6で調製したトリエチレングリコールブチルデシルエーテル(TEG−BD)を80g加え、さらに可溶化剤(C)としてポリエチレングリコールモノラウリルエーテル、商品名ニューコール1105、日本乳化剤株式会社製)50gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、グリコール酸オリゴマーと溶媒の混合物を280℃に加熱した。オリゴマーは、溶媒に均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら8kPaの減圧下にすると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。途中、TEG−BDを数回に分けて合わせて100g追加し、解重合反応は、およそ7時間で終了した。
【0169】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは33gであり(収率:82.5%)、GCによる純度(面積法)は99.99%と高純度であった。母液中及び反応液中のTEG−BDをGCで定量すると175g(残存率:94%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。また、実施例1〜8に比べて、反応容器には汚れが殆ど無く、クリーニングの必要はなかった。
【0170】
[比較例1]
参考例1で調製したグリコール酸オリゴマー40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、極性有機溶媒としてジ(2−メトキシエチル)フタレート(DMEP)170gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、グリコール酸オリゴマーと溶媒の混合物を280℃に加熱した。グリコール酸オリゴマーは、溶媒に均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら13kPaの減圧下にすると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。解重合反応は、およそ4時間で終了した。
【0171】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは25gであり(収率:62.5%)、GCによる純度(面積法)は99.85%であった。母液中及び反応液中のDMEPをGCで定量すると、125g(残存率:73%)の存在が確認された。また、母液中に無水フタル酸及び2−メトキシエタノールの存在が確認された。
【0172】
実施例1〜9及び比較例1の結果を表2にまとめて示す。
【0173】
【表2】

【0174】
(脚注)
1)溶媒の種類
TEG-DB:テトラエチレングリコールジブチルエーテル
DEG-BClPh:ジエチレングリコールブチル(2−クロロフェニル)エーテル
DEG-DB:ジエチレングリコールジブチルエーテル
TEG-BO:トリエチレングリコールブチルオクチルエーテル
TEG-BD:トリエチレングリコールブチルデシルエーテル
DMEP:ジ(2−メトキシエチル)フタレート
可溶化剤の種類
PEGDME:ポリエチレングリコールジメチルエーテル
TEG:テトラエチレングリコール
PEG:ポリエチレングリコール
PPG:ポリプロピレングリコール
PEGMME:ポリエチレングリコールモノメチルエーテル
PEGMLE:ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル
2)溶媒の沸点は、常圧における換算値である。
3)溶媒及び可溶化剤の量は、グリコール酸オリゴマー100重量部に対する重量部に換算して示している。
【0175】
[実施例10]
米国特許2,668,162号の実施例A(Example A)に記載の方法に準じて、グリコール酸を縮合して得られたグリコール酸オリゴマー100gを粉末に粉砕し、1gの三酸化アンチモンと混合した後、270〜280℃に加熱し、さらに10〜15mmHgの減圧下の容器に1時間に20gずつ5回に分けて混合物を投じた。黄色の留出物を冷却して87gの粗グリコリドを得た。この粗グリコリド(GCによる純度(面積法)97%)40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、参考例2で調製したテトラエチレングリコールジブチルエーテル(TEG−DB)を200g加えた。窒素ガス雰囲気で粗グリコリドと溶媒の混合物を250℃に加熱した。粗グリコリドは、溶媒に均一に溶解し、相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら7kPaの減圧下にすると、グリコリドと溶媒の共留出が始まった。共留出は、およそ4時間で終了した。
【0176】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後得られたグリコリドは36gであり(収率:90%)、GCによる純度(面積法)は99.99%と高純度であった。母液中及び反応液中のTEG−DBをGCで定量すると、198g(残存率:99%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0177】
[比較例2]
実施例10と同様にして調製した粗グリコリド(GCによる純度(面積法)97%)40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、極性有機溶媒としてジ(2−メトキシエチル)フタレート(DMEP)170gを加えた。窒素ガス雰囲気で粗グリコリドと溶媒の混合物を250℃に加熱した。粗グリコリドは、溶媒に均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら7kPaの減圧下にすると、グリコリドと溶媒の共留出が始まった。共留出はおよそ4時間で終了した。
【0178】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは、32gであり(収率:80%)、GCによる純度(面積法)は、99.92%であった。母液中及び反応液中のDMEPをGCで定量すると、142g(残存率:84%)の存在が確認された。また、母液中に無水フタル酸及び2−メトキシエタノールの存在が確認された。
【0179】
実施例10及び比較例2の結果を表3に示す。
【0180】
【表3】

【0181】
(脚注)
1)溶媒の種類
TEG-DB:テトラエチレングリコールジブチルエーテル
DMEP:ジ(2−メトキシエチル)フタレート
2)溶媒の沸点は、常圧における換算値である。
3)溶媒及び可溶化剤の量は、グリコール酸オリゴマー100重量部に対する重量部に換算して示している。
【0182】
[実施例11]留出物の相分離
参考例1で調製したグリコール酸オリゴマー80gを、90℃の温水で保温したディーンスターク型のコンデンサー付き受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として参考例3で調製したジエチレングリコールブチル(2−クロロフェニル)エーテル(DEG−BCIPh)を200g加え、さらに可溶化剤(C)としてポリエチレングリコール#600(平均分子量600)60gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、グリコール酸オリゴマーと溶媒の混合物を260℃に加熱した。グリコール酸オリゴマーは、溶媒に均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら10kPaの減圧下にすると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。
【0183】
留出物をコンデンサーにて冷却して、温度を100℃に低下させたところ、2液に相分離した。上層が溶媒相で、下層がグリコリド相である。2液の相を形成後も解重合反応を続けると、コンデンサーで冷却されたグリコリドは、液滴となって溶媒相を通過し、下層のグリコリド相に凝縮されていくことが観察できた。上層の溶媒相を還流により反応系内に連続的に戻した。
【0184】
受器がグリコリド融液相でいっぱいになる直前に、反応系の圧力を一時的に常圧に戻し、受器の下部からグリコリド融液を抜き出し、再び圧力を元に戻して解重合反応を続けた。約3時間後、グリコリドの留出がほとんど見られなくなったことから反応を停止した。
【0185】
回収したグリコリド融液の量は、64.5gであった。GC分析により0.3gのDEG−BCIPhがグリコリド融液中に存在した。グリコリド融液を冷却し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後、得られたグリコリドは、64.2gであり(収率:80%)、GCによる純度(面積法)は、99.98%と高純度であった。グリコリド融液中及び反応液中のDEG−BCIPhをGCで定量すると、199g(残存率:99.5%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0186】
[実施例12]高分子量ポリグリコール酸の解重合
重量平均分子量20万のポリグリコール酸の顆粒20gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、参考例4で調製したジエチレングリコールジブチルエーテル(DEG−DB)200gを加えた。さらに可溶化剤(C)としてポリエチレングリコール#600(平均分子量600)50gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、ポリグリコール酸と溶媒の混合物を260℃に加熱した。ポリグリコール酸は、溶媒にほぼ均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら20kPaの減圧下にすると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。解重合反応は、おおよそ4時間で終了した。
【0187】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後得られたグリコリドは、11gであり(収率:55%)、GCによる純度(面積法)は、99.96%と高純度であった。母液中及び反応液中のDEG−DBをGCで定量すると、198g(残存率:99%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0188】
[実施例13]高分子量ポリグリコール酸の解重合
長さ30cm、直径2cmの円柱状ポリグリコール酸を1cm長さに切断し、20gを冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、参考例4で調製したジエチレングリコールジブチルエーテル(DEG−DB)200gを加えた。さらに可溶化剤(C)としてポリエチレングリコール#600(平均分子量600)50gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、ポリグリコール酸と溶媒の混合物を260℃に加熱した。30分以内にポリグリコール酸は、溶媒にほぼ均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら20kPaの減圧下にすると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。解重合反応は、おおよそ4時間で終了した。
【0189】
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶した。乾燥後得られたグリコリドは、10.5gであり(収率:52.5%)、GCによる純度(面積法)は、99.97%と高純度であった。母液中及び反応液中のDEG−DBをGCで定量すると、198g(残存率:99%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【0190】
[実施例14]ポリ乳酸の解重合
ポリ乳酸(重量平均分子量20万、LACTY#9400、島津製作所製)のペレット20gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、参考例5で調製したトリエチレングリコールブチルオクチルエーテル(TEG−BO)200gを加えた。さらに可溶化剤(C)としてポリエチレングリコール#400(平均分子量400)50gを加えた。窒素ガス雰囲気下で、ポリ乳酸と溶媒の混合物を230℃に加熱した。ポリ乳酸は、溶媒にほぼ均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。この混合物を加熱を続けながら4kPaの減圧下にすると、解重合反応によりラクチドと溶媒の共留出が始まった。解重合反応は、おおよそ3時間で終了した。
【0191】
共留出終了後、留出液から析出しているラクチドを分離し、ジエチルエーテルで再結晶した。乾燥後得られたラクチドは、13gであり(収率:65%)、GCによる純度(面積法)は、99.97%と高純度であった。母液中及び反応液中のTEG−BOをGCで定量すると、198g(残存率:99%)であり、溶媒の損失が殆どないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明によれば、オリゴマーなどの低分子量物から高分子量物までの脂肪族ポリエステルを効率的かつ経済的に解重合して、環状エステルを工業的に提供することができる。また、本発明によれば、粗環状エステルを効率的かつ経済的に精製する方法が提供される。
【0193】
特に、本発明の環状エステルの製造方法によれば、溶媒として特定のポリアルキレングリコールエーテルを用いて脂肪族ポリエステルを溶液相で解重合することにより、効率的かつ高純度で環状エステルを製造することができる。また、本発明の方法によれば、重質化物の生成量が極度に低く、環状エステルの収率が向上し、反応容器内のクリーニングの手間も殆ど省くことができる。
【0194】
環状エステルは、特定のポリアルキレングリコールエーテルの留出温度で生成し、かつ、該ポリアルキレングリコールエーテルと共に留出するため、留出ラインの閉塞が防止され、ライン内壁の蓄積物の回収が実質的に不要である。
【0195】
本発明の方法では、通常の蒸留システムと類似のシステムを用いることができるため、スケールアップが容易であり、工業的スケールでの量産化が容易である。溶媒として使用する特定のポリアルキレングリコールエーテルは、解重合反応によって熱劣化を殆ど起こさないので、僅かな量を補充することにより、解重合反応に再利用することができ、その結果、環状エステルを低コストで大量に生産することができる。
【0196】
また、本発明の方法によれば、高分子量の脂肪族ポリエステルなどの廃棄物や成形屑などをモノマーの環状エステルにまで変換してリサイクルすることができる。
【0197】
本発明の方法により得られる環状エステルは、生分解性ポリマー材料や医療用材料などとして好適な脂肪族ポリエステルの原料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルを解重合して環状エステルを製造する方法において、
工程(I):脂肪族ポリエステル(A)と下記式(1)
【化1】

(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表し、pは、1以上の整数を表し、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該脂肪族ポリエステル(A)の解重合が起こる温度に加熱する工程
を含む環状エステルの製造方法。
【請求項2】
前記工程(I)に続いて、
工程(II):該脂肪族ポリエステル(A)の融液相と該ポリアルキレングリコールエーテル(B)からなる液相とが実質的に均一な相を形成した溶液状態とする工程
を含む請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(II)に続いて、
工程(III):該溶液状態で加熱を継続することにより、解重合により生成した環状エステルを該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させる工程
を含む請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
脂肪族ポリエステル(A)が、ポリヒドロキシカルボン酸である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
ポリヒドロキシカルボン酸が、ポリ(α−ヒドロキシカルボン酸)である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
ポリ(α−ヒドロキシカルボン酸)が、ポリグリコール酸またはポリ乳酸である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
脂肪族ポリエステル(A)が、重量平均分子量10,000未満の低分子量物である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
脂肪族ポリエステル(A)が、重量平均分子量10,000以上の高分子量物である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)が、25℃で環状エステルの溶解度が0.1〜10%のポリアルキレングリコールエーテルである請求項1乃至8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)が、前記式(1)において、Rが炭素数2〜5個のアルキレン基であるポリアルキレングリコールエーテルである請求項1乃至9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)が、前記式(1)において、X及びYがいずれもアルキル基であり、かつ、これらのアルキル基の炭素数の合計が3〜21であるポリアルキレングリコールエーテルである請求項1乃至10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)が、ポリエチレングリコールジアルキルエーテルである請求項1乃至11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
ポリエチレングリコールジアルキルエーテルが、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、またはテトラエチレングリコールジアルキルエーテルである請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)が、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチル(2−クロロフェニル)エーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールn−ブチルn−オクチルエーテル、またはトリエチレングリコールブチルデシルエーテルである請求項1乃至13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
工程(I)において、ポリアルキレングリコールエーテル(B)を、脂肪族ポリエステル(A)100重量部に対して、30〜500重量部の割合で混合する請求項1乃至14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
工程(I)乃至(III)において、混合物を200〜320℃の温度に加熱する請求項3乃至15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
工程(III)において、0.1〜90kPaの減圧下で加熱を継続する請求項3乃至16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
工程(I)または工程(II)またはこれら両工程において、脂肪族ポリエステル(A)のポリアルキレングリコールエーテル(B)に対する溶解特性を高める可溶化剤(C)を混合物中に含有させる請求項1乃至17のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
可溶化剤(C)が、沸点180℃以上で、ポリアルキレングリコールエーテル(B)に相溶性のある非塩基性化合物である請求項18記載の製造方法。
【請求項20】
可溶化剤(C)が、一価または二価以上の多価アルコール類(部分エステル化物及び部分エーテル化物を含む)、フェノール類、一価または二価以上の多価脂肪族カルボン酸類、脂肪族カルボン酸とアミンとの脂肪族アミド類、脂肪族イミド類、及び分子量が450を越えるポリアルキレングリコールエーテルからなる群よりえらばれる少なくとも1種である請求項18記載の製造方法。
【請求項21】
可溶化剤(C)が、式(2)
【化2】

(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、qは、1以上の整数を表し、qが2以上の場合、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で示されるポリアルキレングリコールである請求項18記載の製造方法。
【請求項22】
前記式(2)で示されるポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリブチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項21記載の製造方法。
【請求項23】
可溶化剤(C)が、式(3)
【化3】

(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、rは、1以上の整数を表し、rが2以上の場合、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で示されるポリアルキレングリコールモノエーテルである請求項18記載の製造方法。
【請求項24】
前記式(3)で示されるポリアルキレングリコールモノエーテルが、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル、及びポリブチレングリコールモノエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項23記載の製造方法。
【請求項25】
前記ポリエチレングリコールモノエーテルが、そのエーテル基として炭素数1〜18のアルキル基を有するものである請求項24記載の製造方法。
【請求項26】
可溶化剤(C)を、脂肪族ポリエステル(A)100重量部に対して、0.1〜500重量部の割合で添加する請求項18記載の製造方法。
【請求項27】
前記工程(III)に続いて、
工程(IV):留出物をコンデンサーで冷却して、環状エステルとポリアルキレングリコールエーテル(B)とを液状で相分離させ、環状エステル相を分離回収する工程
を含む請求項3乃至26のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項28】
留出物を85〜180℃の温度に冷却して、環状エステルとポリアルキレングリコールエーテル(B)とを液状で相分離させる請求項27記載の製造方法。
【請求項29】
解重合反応を継続しながら相分離を行い、留出物中の環状エステルを下層の環状エステル相中に凝縮させる請求項27記載の製造方法。
【請求項30】
ポリアルキレングリコールエーテル(B)相を分離して、解重合反応系に循環させる請求項27記載の製造方法。
【請求項31】
重量平均分子量が10,000以上の高分子量の脂肪族ポリエステルを解重合して環状エステルを製造する方法において、
工程(i):高分子量の脂肪族ポリエステル(A)と下記式(1)
【化4】

(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表し、pは、1以上の整数を表し、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)と、可溶化剤(C)として沸点が180℃以上の一価または二価以上の多価アルコールとを含む混合物を、常圧下または減圧下に、高分子量の脂肪族ポリエステル(A)の解重合が起こる温度に加熱する工程
を含む環状エステルの製造方法。
【請求項32】
前記工程(i)に続いて、
工程(ii):高分子量の脂肪族ポリエステル(A)の融液相とポリアルキレングリコールエーテル(B)と可溶化剤(C)とからなる液相とが実質的に均一な相を形成した溶液状態とする工程
を含む請求項31記載の製造方法。
【請求項33】
前記工程(ii)に続いて、
工程(iii):減圧下に、溶液状態で加熱を継続することにより、解重合により生成した環状エステルを該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させる工程
を含む請求項32記載の製造方法。
【請求項34】
粗環状エステルを精製する方法において、
工程(a):粗環状エステル(A’)と下記式(1)
【化5】

(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表し、Xは、炭化水素基を表し、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表し、pは、1以上の整数を表し、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表され、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、加熱する工程
を含む粗環状エステルの精製方法。
【請求項35】
前記工程(a)に続いて、
工程(b):該粗環状エステル(A’)と該ポリアルキレングリコールエーテル(B)からなる各成分の相分離がない実質的に均一な相を形成した溶液状態とする工程
を含む請求項34記載の製造方法。
【請求項36】
前記工程(b)に続いて、
工程(c):該溶液状態で加熱を継続することにより、環状エステルを該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させる工程
を含む請求項35記載の製造方法。
【請求項37】
ポリ(α−ヒドロキシカルボン酸)が、ポリグリコール酸である請求項6記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−246479(P2011−246479A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155157(P2011−155157)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【分割の表示】特願2002−519443(P2002−519443)の分割
【原出願日】平成13年8月8日(2001.8.8)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】