説明

環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法、及び樹脂組成物の製造方法

【課題】樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの含有量の定量を、従来の方法より正確且つ簡便に行う方法を提供する。
【解決手段】樹脂組成物を熱分解させた場合の、含有されている環状オレフィンポリマーの環状構造に由来する熱分解物の測定値と、樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの環状構造由来熱分解物量と、の間の相関関係に基づいて定量する。本発明においては、環状オレフィン系ポリマーの熱分解物の中でも、環状構造に由来する熱分解物であるシクロペンタジエンに着目することが好ましい。また、定量する際には、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置を用い、熱分解温度の条件を500℃以上1000℃以下に調整することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの含有量を定量する定量方法、当該定量方法を利用した樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系ポリマーは、主鎖に環状構造を有するポリマーであり、環状オレフィン系ポリマーには大きく分けて2つのタイプがある。一方のタイプは、環状オレフィン系モノマー(例えば、ノルボルネン)と、α−オレフィン(例えば、エチレン)とを、メタロセン触媒にて共重合することで得られる。他方のタイプは、環状オレフィン系モノマーを、メタセシス触媒にて開環重合し、水素添加することで得られる。
【0003】
いずれのタイプの環状オレフィン系ポリマーも、高透明性、低複屈折性、高熱変形温度、軽量性、寸法安定性、低吸水性、耐加水分解性、耐薬品性、低誘電率、低誘電損失、環境負荷物質を含まない等、多くの特徴を持つ。このため、環状オレフィン系ポリマーは、これらの特徴が必要とされる多種多様な分野に用いられている。
【0004】
ところで、環状オレフィン系ポリマーは、所望の物性を付与する等の目的で、他の成分と組み合わせて、樹脂組成物として、使用される場合が多々ある。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂が、改質剤として、環状オレフィン系ポリマーと組み合わされる。また、逆に、環状オレフィン系ポリマーを改質剤としてポリエチレンやポリプロピレン等に含有させる場合もある。また、環状オレフィン系ポリマーは、多層フィルムの原料としても用いられる。
【0005】
上記のような樹脂組成物、又はフィルム中に含まれる環状オレフィン系ポリマーの含有量が未知の場合、上記樹脂組成物中に含まれる環状オレフィン系ポリマーの種類がたとえ一種類であっても、上記含有量を定量することは容易では無い。現在、上記含有比率の定量のために、核磁気共鳴スペクトル装置で定量する方法、赤外スペクトルで特性ピークより求める方法が利用されている。
【0006】
上記核磁気共鳴スペクトルから定量する場合、赤外スペクトルから定量する場合のいずれも、アルキル部分のスペクトルが、他の成分のスペクトルと重なる傾向にある。このため、定量の正確性に問題がある。また、これらの方法の場合、抽出操作等が必要になる場合があり、上記含有量の定量を行うにあたって手間と時間がかかる。また、多層フィルム中に含まれる環状オレフィン系ポリマーの含有量の定量において、ATR測定を用いる場合には、1層の情報しかが得られなかったり、赤外スペクトルを採るために溶解しても均一系にならなかったりするため定量が難しい。
【0007】
ところで、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて、樹脂組成物や多層フィルムに含まれる成分から発生させたモノマー組成に由来するフラグメントを定量することにより、樹脂組成物中の成分の含有量を定量する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法を樹脂組成物や多層フィルムに適用すると、環状オレフィン系樹脂組成物の場合、複雑なスペクトルが得られ、環状オレフィン系モノマーに由来した特徴的なピークはほとんど表れない(環状オレフィン系ポリマーの熱分解物のピークが連続的に多く現れる。)。つまり、環状オレフィン系ポリマーからランダムに熱分解物が生成すると考えられるため、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いても、樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの含有量を定量することができないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−345401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の通り、樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの含有量の定量を、より正確且つ簡便に行う方法が求められている。
【0010】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの含有量の定量を、従来の方法より正確且つ簡便に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、樹脂組成物を熱分解させた場合の、環状オレフィン系ポリマーの環状構造由来の特定の熱分解物の測定値と、樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの含有量との間に相関関係があることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 環状オレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物中の、環状オレフィン系ポリマーの含有量(重量%)を定量する方法であって、既知の環状オレフィン系ポリマーを熱分解させた場合の、環状オレフィン系ポリマーの環状構造に由来する特定の熱分解物の測定値を基準にして、前記環状オレフィン系ポリマーと同じ種類の環状オレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物を熱分解させることによって前記特定の熱分解物の測定値と下記数式(I)を用いて定量する環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【数1】

【0013】
(2) 前記環状オレフィン系ポリマーは、下記一般式(A)で表される環状構造の化合物とエチレンとの共重合体か、又は、下記一般式(A)で表される環状構造の化合物を開環重合し、水素添加して得られる環状オレフィン系ポリマーであり、前記特定の熱分解物は、シクロペンタジエンである(1)に記載の環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【化1】

(式中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0014】
(3) 前記特定の熱分解物の測定値は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置により測定される(1)又は(2)のいずれか1項に記載の含有量の定量方法。
【0015】
(4) 前記特定の熱分解物の測定値は、熱分解温度500℃以上1000℃以下の条件で測定される(3)に記載の含有量の定量方法。
【0016】
(5) 前記樹脂組成物には環状オレフィン系ポリマー以外の熱可塑性樹脂を含み、前記特定の熱分解物の測定値は、熱分解温度650℃以上1000℃以下の条件で測定され、前記特定の熱分解物は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法により熱分解温度650℃以上1000℃以下の条件で導出した、前記環状オレフィン系ポリマーのパイログラムと前記熱可塑性樹脂のパイログラムとを比較する工程を経て決定される(3)に記載の環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【0017】
(6) 前記環状オレフィン系ポリマーのパイログラムにおいて、前記特定の熱分解物のピークは、検出時間が20分以下の範囲に現れる(5)に記載の環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【0018】
(7) 環状オレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物の製造方法であって、(1)から(6)のいずれかに記載の方法で、複数の樹脂組成物の環状オレフィン系ポリマーの含有量を定量する含有量定量工程と、前記含有量定量工程の結果、複数の樹脂組成物の中から、環状オレフィン系ポリマーの含有量の誤差が所望の値以下のものを選抜する樹脂組成物選抜工程と、を備える樹脂組成物の製造方法。
【0019】
(8) (7)に記載の方法で製造された樹脂組成物を原料として、多層フィルムを成形する多層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、実質的に環状オレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物中の上記環状オレフィン系樹脂の含有量を、従来の方法よりも、正確且つ簡便に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】環状オレフィン系ポリマー1のパイログラムを示す図である。
【図2】図1に示すパイログラムに基づき、シクロペンタジエンに着目してイオンクロマト抽出を行った結果を示す図である。
【図3】図1に示すパイログラムに基づき、ノルボルネンに着目してイオンクロマト抽出を行った結果を示す図である。
【図4】環状オレフィン系ポリマー1とポリエチレンからなる樹脂組成物のパイログラムとイオンクロマト抽出を行った結果を示す図である。
【図5】環状オレフィン系ポリマー1のパイログラムを示す図であり、(a)は熱分解温度が750℃の条件で導出したパイログラムであり、(b)は熱分解温度が600℃の条件で導出したパイログラムである。
【図6】環状オレフィン系ポリマー2のパイログラムを示す図である。
【図7】図6の結果に基づき、イオンクロマト抽出を行った結果を示す図である。
【図8】環状オレフィン系ポリマー3のパイログラムを示す図である。
【図9】図8の結果に基づき、イオンクロマト抽出を行った結果を示す図である。
【図10】環状オレフィン系ポリマー4のパイログラムを示す図である。
【図11】図10の結果に基づき、イオンクロマト抽出を行った結果を示す図である。
【図12】比較例1のIR測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0023】
<環状オレフィン系ポリマーの含有量(重量%)の定量方法>
本発明は、環状オレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物中の、環状オレフィン系ポリマーの含有量を定量する方法である。先ず、環状オレフィン系ポリマーについて説明する。
【0024】
[環状オレフィン系ポリマー]
環状オレフィン系ポリマーは、環状オレフィン系ポリマー成分を含むものであり、環状オレフィン系成分を主鎖に含むポリオレフィン系ポリマーであれば、特に限定されるものではない。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体等を挙げることができる。
【0025】
また、環状オレフィン系ポリマーを含むポリマーとしては、上記重合体に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。
【0026】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0027】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系ポリマーとしては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系ポリマーとしては、例えば、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、さらに、環状オレフィン成分を出発原料にしてメタセシス触媒で開環重合し、水素添加して製造される市販されている環状オレフィン系ポリマーとしては、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0028】
本発明の実施においては、環状オレフィン系ポリマーに含まれる環状オレフィン系成分として、下記一般式(A)で示される環状オレフィン成分が、環状オレフィン系ポリマー中に含まれていることが好ましい。下記一般式(A)で表される環状オレフィン成分とα−オレフィン成分(特にエチレン)との共重合体か、又は、下記一般式(A)で示される環状オレフィン成分を原料としてメタセシス触媒で開環重合し水素添加して製造されるものである。これらポリマーの場合には、環状オレフィン系ポリマーを熱分解させた場合に、シクロペンタジエンが多く生成しやすい。後述する通り、シクロペンタジエンが多く生成すると定量の精度が非常に高くなる傾向にある。
【0029】
【化2】

(式中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0030】
〔〔2〕一般式(A)で示される環状オレフィン成分〕
一般式(A)で示される環状オレフィン成分について説明する。
【0031】
一般式(A)におけるR〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0032】
〜Rの具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0033】
また、R〜R12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アン通りル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0034】
とR10、又はR11とR12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0035】
又はR10と、R11又はR12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0036】
一般式(A)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等の2環の環状オレフィン;
【0037】
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,7−ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,8−ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン;5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった3環の環状オレフィン;
【0038】
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンといった4環の環状オレフィン;
【0039】
8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−へキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]−4−ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]−5−エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]−14−エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンを挙げることができる。
【0040】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。
【0041】
環状オレフィン成分と共重合する炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
【0042】
炭素数2〜20のα−オレフィン成分と一般式(A)で表される環状オレフィン成分との重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
【0043】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により環状オレフィン系ポリマーを得ることができる。
一方、用いられる開環重合させるメタセシス触媒ついても、水素添加触媒も従来周知の触媒を用いて周知の方法で環状オレフィン系ポリマーを得ることができる。
【0044】
その他含有可能な成分について説明する。環状オレフィン系ポリマーは、上記の炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、一般式(A)で示される環状オレフィン成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。
【0045】
任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0046】
[環状オレフィン系ポリマーの含有量の定量]
既知の環状オレフィン系ポリマーを熱分解させた場合の、環状オレフィン系ポリマーの環状構造に由来する特定の熱分解物の測定値は、例えば、環状オレフィン系ポリマーの含有量が既知の樹脂組成物から導出することができる。既知の含有量は、どのような値であってもよい。例えば、上限は実質的に環状オレフィン系ポリマーの含有量が100重量%であってもよい(「実質的に」とは、微量な不純物等の成分を含む場合等を指す)。また、下限は0.01重量%以上であることが好ましい。0.01重量%以上であれば、定量の対象となる熱分解物が充分に生成する場合が多いため好ましい。
【0047】
具体的な定量方法は後述するが、先ず、環状オレフィン系ポリマーの含有量が既知の樹脂組成物について、上記測定値を導出し、次いで、環状オレフィン系モノマーの含有量が未知の樹脂組成物についても同様に測定値の導出を行い、最後に、これらの測定値の比から、未知の樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの含有量を導出することができる。
【0048】
ここで、特定の熱分解物は、環状オレフィン系ポリマーの環状構造に由来する熱分解物であればよく、具体的にどの熱分解物に着目するかは、例えば、環状構造、樹脂組成物に含まれる環状オレフィン系ポリマー以外の成分の種類等に基づいて決定することができる。
【0049】
なお、ノルボルネンは、シクロペンタジエンとエチレンとのディールス・アルダー反応により得られる。また、ノルボルネンとエチレンの付加重合物の熱分解物を分析して得られる結果は、通常の考えではノルボルネンとエチレンが含まれると予想される。しかし、実際は多種多様の熱分解物が生成しており、通常の熱分解ガスクロマトグラフ質量分析データより、何に着目してよいか不明である。また、加熱分解発生ガス生成物を測定する研究が進められており、その研究は多段階加熱発生ガス分析法(2006年第10回高分子分析討論会)として環状オレフィンポリマーの発生ガス分析結果を発表している。なお、この時点では400℃までのガス分析であったため、後述するシクロペンタジエンを利用して環状オレフィンの定量することには至らなかった。
【0050】
次いで、特定の熱分解物の測定値の導出について説明する。ここでは、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法を用いる場合を例に説明する。最初に、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法について簡単に説明する。
【0051】
熱分解ガスクロマトグラフは、微量の試料を瞬間的に熱分解させ、その熱分解生成物をガスクロマトグラフへ導入・分離し、パイログラムを得る分離分析法である。ここで、パイログラムとは熱分解ガスクロマトグラフにより得られるクロマトグラムのことを指す。
熱分解ガスクロマトグラフ質量分析測定装置を構成する熱分解装置としてはフィラメント型、誘導加熱型、加熱炉型等、いずれを用いてもかまわない。特に好ましくは加熱炉型である。
【0052】
質量分析法は、試料の質量電荷比(質量を電荷の数で割った値)を求めるときに使用される分析法である。質量分析法としては、単収束磁場偏向型、四重極型、イオンとラップ型、二重収束型、あるいはイオンサイクロトロン型等の質量分析計を用いて実施することができる。
【0053】
つまり、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置によれば、試料を熱分解させた後、熱分解物をガスクロマトグラフにより分離し、分離した分解物のカウント数を質量分析法で定量することができる。なお、このカウント数が測定値にあたる。
【0054】
次いで、測定値を導出する手順について具体的に説明する。先ず、試料となる環状オレフィン系ポリマーから、熱分解ガスクロマトグラフにより、パイログラムを取得する。
【0055】
熱分解ガスクロマトグラフを行う際の、熱分解温度の条件は、500℃以上1000℃以下であることが好ましく、より好ましくは650℃以上1000℃以下である。熱分解温度の条件が500℃以上1000℃以下であれば、充分な熱分解が起こるため好ましい。
【0056】
特に、環状オレフィン系ポリマーの熱分解の場合には、熱分解温度の条件を650℃以上1000℃以下(より好ましい下限は700℃以上である)に設定することで、シクロペンタジエン等の所望の熱分解物を充分に生成させることができ、定量を困難にする不要成分はほとんど生じないため好ましい。また、この温度範囲で熱分解を行えば、多くの種類の熱分解物の中から、環状オレフィン系ポリマーの定量に適した熱分解物を選択することができるため、環状オレフィン系ポリマーの含有量の定量の精度がより高まる。
【0057】
また、上記の熱分解では、シクロペンタジエンと同時に芳香族化合物も熱分解物として発生する。例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等である。これらの芳香族化合物はシクロオレフィン系ポリマーに由来する。このため、これらの芳香族化合物はポリエチレンやポリプロピレン等の鎖状のオレフィン系樹脂の熱分解では生じない。このため、これらのシクロオレフィン成分に由来の芳香族化合物に着目して定量を行うことが好ましい。
【0058】
特に、測定する試料に含まれる環状オレフィン系ポリマーの種類と、ポリエチレンやポリプロピレン等のその他の熱可塑性樹脂の種類が特定されている場合には、それぞれに対して、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行い、それぞれのパイログラムを得て、これらを比較することで、好適な特定の熱分解物を決定することができる。
【0059】
具体的な比較方法としては、例えば、先ず、熱可塑性樹脂のパイログラムに現れる各ピークが有する検出時間、比(m/z)を確認する。次いで、環状オレフィン系ポリマーを用いた分析で得られたパイログラムに現れるピークの中から、ピークの大きさ等を考慮して、定量に適した特定の熱分解物を決定する。そして、その特定の熱分解物に由来するピークが有する検出時間及び比(m/z)を確認して、同じ検出時間且つ同じ比(m/z)を有するピークが、上記熱可塑性樹脂を分析して得られたパイログラムに現れるピークの中に存在しないか否かを確認する。存在しなければ、上記で決定した熱分解物に由来のピークに基づいて、本発明の方法を実施することができる。
【0060】
また、熱分解温度の条件を650℃以上1000℃以下に設定することで、明瞭に現れるピークのほとんどは、検出時間が20分以内である。したがって、特定の熱分解物を、上記検出時間内で決定することが好ましい。
【0061】
熱分解ガスクロマトグラフにより得られるパイログラムの例を、図1に示す。環状オレフィン系ポリマーのパイログラムは、環状オレフィン系成分が多くの種類の熱分解物を生成するため、非常に複雑なパイログラムになる。
【0062】
このパイログラムに基づいて、MSフラグメントm/e=66(シクロペンタジエンに由来するピーク(パイログラム中、1.7分付近に現れるピーク))のイオンクロマト抽出又はシングルイオンモニタリング(SIM)を行う。イオンクロマト抽出の結果の例を図2に示す。これらの処理で得られる、質量分析において発生する、シクロペンタジエン由来のイオンカウント数を用いて、これを試料の重量で除することにより、基準カウント数を定量することができる(基準カウント数=(シクロペンタジエン由来の発生イオンのカウント数)/(試料の重量mg))。このように特定の熱分解物(本実施形態ではシクロペンタジエン)の含有率を基準カウント数として導出することができる。この基準カウント数が、既知の環状オレフィン系ポリマーから得た熱分解物の測定値にあたる。
【0063】
以上のようにして、基準カウント数を導出することができる。ところで、基準カウント数の導出において、図2に示すイオンクロマト抽出の結果、着目する環状構造由来する熱分解物に由来するピーク以外のピークが現れる場合や、着目する熱分解物に由来するピークと他の熱分解物に由来するピークが重なる場合や、着目する熱分解物に由来するピークが小さすぎる場合には、選択する特定の熱分解物の種類を、環状構造由来する他の熱分解物に変更することで、定量の精度を高めることができる。
【0064】
環状オレフィン系ポリマーの含有量が未知の樹脂組成物を熱分解させた場合に、上記選択した特定の熱分解物(本実施形態ではシクロペンタジエン)のカウント数を測定し、既知の環状オレフィン系モノマーを熱分解して得られるシクロペンタジエンのカウント数(導出済み)を基準に環状オレフィン系ポリマーの含有量を算出する。具体的には、環状オレフィン系ポリマーの含有量とシクロペンタジエンのカウント数が比例関係にあることを利用して算出する。また、この結果に基づいて検量線(シクロペンタジエンのカウント数と環状オレフィン系ポリマーの含有量との相関関係を表す検量線)を作成し、この検量線に基づいて、樹脂組成物に含まれる環状オレフィン系ポリマーの含有量を導出することもできる。例えば、環状オレフィン系ポリマーが80重量%の樹脂組成物であれば、環状オレフィン系ポリマー単体のカウント数を0.8倍したカウント数として測定される。
さらに含有量が既知の環状オレフィン系ポリマー樹脂組成物のカウント数から、環状オレフィン系ポリマー含有量が未知の樹脂組成物のカウント数を測定することによって、同様に含有量を導出することもできる。例えば、環状オレフィン系ポリマー含有量70%の樹脂組成物のカウント数を測定しておく。次いで、環状オレフィン系ポリマー含有量未知の樹脂組成物が、含有量既知のカウント数に対して、0.5倍の数値だった場合、70%×0.5=35%が未知の樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマー含有量となる。
また、樹脂組成物中に異なる種類の環状オレフィン系ポリマーが複数含まれる場合でも、その複数の環状オレフィン系ポリマーの比率が一定の樹脂組成物に対して、比率が既知の複数の環状オレフィン系ポリマーのカウント数を基にして測定することができる。
【0065】
なお、樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの含有量を、本発明の方法で定量して、所望の含有量との差が大きい樹脂組成物を取り除くことで、環状オレフィン系ポリマーの含有量が所望の値に揃った樹脂組成物になる。そして、この樹脂組成物を用いて、成形体を作製すると、成形体に含まれる環状オレフィン系ポリマーの含有量も安定する。ここで、成形体としては射出成形体等の単一の樹脂組成物からなる成形体の他、多層フィルム等も含む。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0067】
<実施例1>
環状オレフィン系ポリマー1(ノルボルネンとエチレンとの共重合体、TOPAS 8007F04、Topas Advanced Polymers社製)を用いて、以下の評価を行った。ポリエチレンはプライムポリマー社製エボリューSP2320を用いて以下の評価を行った。ポリプロピレンは日本ポリプロ社製ノバテック(登録商標)PP EA6Aを用いて以下の評価を行った。なお、樹脂組成物は通常の2軸押出機を用いて、通常の条件で製造した。
【0068】
まず、試料として、環状オレフィン系ポリマー1について、分析を行った。試料100μgを熱分解用白金容器に入れ熱分解装置(ダブルショット・パイロライザー 2010iD、フロンティアラボ社製)にセットした。熱分解温度750℃の条件で、熱分解ガスを発生させた。
【0069】
熱分解ガスの分離手段としては、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置(6890N/5975、Agilent社製)を用いた。この熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置に用いられるカラム(DB−5MS)は、長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25mmであった。上記試料に関し、この熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて得られたパイログラムを図1に示した。
【0070】
図1の結果から、得られたMSスペクトルをGC/MSのデータ解析方法に従い、市販されているアメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology, NIST)作成の質量データベース(NIST Standard Reference Database 、NIST05&Wiley275)より検索する。その後、MSパターンと化合物が妥当かを解析し、各ピークが表す化合物を決定した。
【0071】
環状構造由来の特定された熱分解物であるシクロペンタジエンに着目してイオンクロマト抽出を行った結果を図2に示した。また、環状オレフィン系ポリマー1の環状オレフィン系モノマー成分であるノルボルネンに着目して、イオンクロマト抽出を行った結果を図3に示した。図3の結果から明らかなように、ノルボルネンのピークは小さく且つ同じフラグメントイオンを持つピークが複数存在するが、シクロペンタジエンのピークは大きく且つ他の熱分解物と明確に区別可能であることが確認された。
【0072】
シクロペンタジエンに着目した場合のイオンクロマト抽出の結果から、シクロペンタジエンに由来するイオンの発生数をサンプル量で割り、カウント数を導出した。カウント数は151566×10/mgとなった。この結果が既知の環状オレフィン系ポリマー1から得た熱分解物の測定値にあたる。
【0073】
次いで、環状オレフィン系ポリマー1を80重量%含み、ポリエチレンを20重量%含む樹脂組成物1を試料として用いた以外は、上記と同様にして、パイログラムを導出し(図4(a))、そして、シクロペンタジエンのピークに着目してイオンクロマト処理(SIM測定)を行い、その処理の結果(図4(b))から、シクロペンタジエンに由来するイオンの発生数のカウント数を導出した。結果は121909×10/mgであった。この結果が樹脂組成物1の熱分解から得た熱分解物の測定値にあたる。
【0074】
なお、予め上記ポリエチレンについても上記と同様にしてパイログラムを導出し、このパイログラムに現れる各ピークの検出時間、比(m/z)を確認した。上記環状オレフィン系ポリマーのパイログラムに現れるシクロペンタジエンに由来のピークと同じ検出時間、比(m/z)を有するピークは、ポリエチレンのパイログラムの中には存在しなかった。
【0075】
上記環状オレフィンポリマー1からの熱分解物のカウント数、組成物1からの熱分解物のカウント数を上記式(I)に代入すると、環状オレフィン系ポリマー樹脂組成物1の環状オレフィン系ポリマー1の含有量が80.4重量%であると定量された。この結果は、上記の樹脂組成物中の環状オレフィン系ポリマーの含有量値と非常に近いことが確認された。
【0076】
<測定精度の評価>
環状オレフィン系ポリマー1の仕込み量が、表1に示されるような樹脂組成物について、上記と同様の方法で定量値を導出した。定量値の結果も表1に示した。
Y(=含有量(重量%))=0.939x(=仕込み量(重量%))+5.1
相関関数が0.938で非常に良い相関が得られた。
【表1】

【0077】
上記の通り、実際の含有量値が変わっても、定量結果は実際の含有量の値に近いことが確認された、つまり、本発明の方法を用いれば、環状オレフィン系ポリマーの含有量が多い場合でも少ない場合でも高い精度で含有量を定量できることが確認された。
【0078】
<定量値の誤差の評価>
環状オレフィン系ポリマー1の実際の含有量が80質量%の試料について、上記と同様の方法で5回の定量を行った。定量の結果を表2に示した。また、5回の測定の平均値、σ(標準偏差)、cv%((標準偏差/平均値)×100)についても表2に示した。
【表2】

【0079】
表2の結果から、本発明における環状オレフィン系ポリマーの含有量分析における誤差は非常に小さいことが確認された。
【0080】
<熱分解温度の評価>
熱分解温度の条件を、500℃、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃に設定した場合の、質量分析におけるそれぞれの条件での発生イオンのカウント数の合計を、表3にまとめた。
【表3】

【0081】
表3の結果から明らかなように、熱分解温度が650℃以上の条件の場合には、発生イオンの合計が多くなり、定量が容易になることが確認された。
【0082】
熱分解温度が750℃の条件で得た環状オレフィン系ポリマー1のパイログラムを図5(a)に、熱分解温度が600℃の条件で得た環状オレフィン系ポリマー1のパイログラムを図5(b)に示した。図5(a)、(b)に示すように、熱分解温度の条件を高めることで、環状オレフィン系ポリマー1のパイログラムに、環状オレフィン系ポリマー1に由来する熱分解物のピークが多く、且つ大きく現れることが確認された。
【0083】
<その他の熱分解物の評価>
上記では、シクロペンタジエンに由来するピークに着目して、定量する場合について説明した。次いで、着目される熱分解物がシクロペンタジエンではない場合について説明する。なお、試料については、環状オレフィン系ポリマー1を80重量%含み、ポリエチレンを20重量%含む樹脂組成物1を採用した。
【0084】
ここでは、比(m/z)が77の熱分解物、78の熱分解物、91の熱分解物、106の熱分解物、117の熱分解物の5つの熱分解物に着目した。脂環状部分の分解と同時に、主鎖部分が芳香族化し、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の化合物が発生する。この芳香族化は、周知の情報(高分子の熱分解ガスクロマトグラフィー基礎及びデータ集 株式会社テクノシステム製)によれば、塩化ビニルと類似(HClが分解し、主鎖が同じく芳香族化し、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等が発生)している。この芳香族化はポリエチレン、ポリプロピレンの分解時には生じないため、環状オレフィン系ポリマーとそれ以外の熱可塑性樹脂とを判別する指標となる。したがって、シクロオレフィンポリマー(ベンゼン環を有しないポリマー)から共通して芳香族化合物が発生するという特徴的現象に着目し、上記の比(m/z)を持つ熱分解物に着目した。
【0085】
[比(m/z)が77の熱分解物について]
比(m/z)が77の熱分解物については、検出時間が2.10(分)、2.97(分)、4.68(分)のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表4に示した。
【0086】
【表4】

【0087】
[比(m/z)が78の熱分解物について]
比(m/z)が78の熱分解物については、検出時間が2.11(分)、2.25(分)、5.20(分)のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表5に示した。
【0088】
【表5】

【0089】
[比(m/z)が91の熱分解物について]
比(m/z)が91の熱分解物については、検出時間が2.96(分)、4.68(分)、5.37(分)、7.99(分)のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表6に示した。
【0090】
【表6】

【0091】
[比(m/z)が106の熱分解物について]
比(m/z)が106の熱分解物については、検出時間が5.29(分)、5.37(分)のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表7に示した。
【0092】
【表7】

【0093】
[比(m/z)が117の熱分解物について]
比(m/z)が117の熱分解物については、検出時間が7.51(分)、7.66(分)、7.82(分)、8.00(分)、8.46(分)、8.62(分)、10.18(分)のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表8に示した。
【0094】
【表8】

【0095】
以上の5つの熱分解物のいずれに着目したとしても、定量値と実際の含有量とが非常に近く、本発明の方法を実施可能であることが確認された。
【0096】
<環状構造由来の熱分解物の評価>
他の環状オレフィン系ポリマーについても、特定の熱分解物として着目することが好ましい環状構造に由来する熱分解物の評価を行った。
【0097】
[評価1]
環状オレフィン系ポリマー2(テトラシクロドデセンとエチレンとの共重合体、APEL8008、三井化学社製)を用いて以下の評価を行った。
【0098】
環状オレフィン系ポリマー2に関して、実施例1と同様の方法(熱分解温度750℃)を用いて、パイログラムを導出した。パイログラムの結果を図6に示した。この結果に基づいて、シクロペンタジエンに由来するピーク、ノルボルネンに由来するピークのそれぞれについて、イオンクロマト抽出を行った。シクロペンタジエンに関する結果を図7(a)に示し、ノルボルネンに関する結果を図7(b)に示した。
【0099】
シクロペンタジエンに関する結果は、単一の大きなピークを示し、他の熱分解物と明確に区別可能であることが確認された。これに対して、ノルボルネンに関する結果は、ピークは大きいものの、ピークが複数存在し、他の熱分解物との区別が不明確になることが確認された。
【0100】
[評価2]
環状オレフィン系ポリマー3(ノルボルネン系モノマーをメタセシス触媒にて開環重合させてなる重合体、ZEONEX 480R、日本ゼオン社製)を用いて以下の評価を行った。
【0101】
環状オレフィン系ポリマー3についても、上記の方法と同様の方法(熱分解温度750℃)を用いて、パイログラムを導出した。パイログラムの結果を図8に示した。この結果に基づいて、同じくシクロペンタジエンについて、イオンクロマト抽出(図9)を行った。また、上記パイログラムの各ピークに由来する、具体的な熱分解物を上記と同様の方法で決定した。また、比(m/z)が77、78、91、106、120の各熱分解物についても、イオンクロマト処理を行った。
【0102】
また、環状オレフィン系ポリマー3を84重量%、ポリエチレンを16重量%含む樹脂組成物2について、パイログラムの導出、比(m/z)が77、78、91、106、120の各熱分解物についてのイオンクロマト処理を行った。
【0103】
比(m/z)が77の熱分解物については、検出時間が2.19分、2.34分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表9に示した。
【0104】
【表9】

【0105】
比(m/z)が78の熱分解物については、検出時間が2.34分、5.36分、11.84分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表10に示した。
【0106】
【表10】

【0107】
比(m/z)が91の熱分解物については、検出時間が3.09分、3.37分、3.92分、6.42分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表11に示した。
【0108】
【表11】

【0109】
比(m/z)が106の熱分解物については、検出時間が5.08分、5.16分、5.46分、5.53分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表12に示した。
【0110】
【表12】

【0111】
比(m/z)が120の熱分解物については、検出時間が5.90分、6.43分、6.85分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表13に示した。
【0112】
【表13】

【0113】
環状オレフィン系ポリマーの種類が異なっても同様の効果が得られることが確認された。
【0114】
また、環状オレフィン系ポリマー3を51重量%、ポリプロピレンを49重量%含む樹脂組成物3について、パイログラムの導出、比(m/z)が77、78、91、106、120の各熱分解物についてのイオンクロマト処理を行った。
【0115】
ポリプロピレンについても上記と同様の条件(熱分解温度750℃)でパイログラムを導出し、このパイログラムに現れる各ピークの検出時間、比(m/z)を確認した。上記環状オレフィン系ポリマーのパイログラムに現れる下記比(m/z)及び検出時間を有するピークと同じ検出時間、比(m/z)を有するピークは、ポリプロピレンのパイログラムの中には存在しなかった。
【0116】
比(m/z)が77の熱分解物については、検出時間が2.34分、2.82分、4.84分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表14に示した。
【0117】
【表14】

【0118】
比(m/z)が78の熱分解物については、検出時間が2.19分、2.34分、11.84分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表15に示した。
【0119】
【表15】

【0120】
比(m/z)が91の熱分解物については、検出時間が3.09分、3.37分、3.92分、4.84分、4.99分、6.43分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表16に示した。
【0121】
【表16】

【0122】
比(m/z)が106の熱分解物については、検出時間が4.25分、4.84分、5.16分、5.38分、5.46分、5.54分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表17に示した。
【0123】
【表17】

【0124】
比(m/z)が120の熱分解物については、検出時間が2.08分、6.43分、6.55分、6.61分、6.85分、7.20分、7.25分、7.33分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表18に示した。
【0125】
【表18】

【0126】
環状オレフィン系ポリマー以外の熱可塑性樹脂としてポリプロピレンが含まれる場合であっても、同様の効果が得られることが確認された。
【0127】
[評価3]
環状オレフィン系ポリマー4(ノルボルネン系モノマーをメタセシス触媒にて開環重合させてなる重合体、ZEONOR 1020R、日本ゼオン社製)を用いて以下の評価を行った。
【0128】
環状オレフィン系ポリマー4を、実施例1と同様の方法を用いて、パイログラムを導出した。パイログラムの結果を図10に示した。この結果に基づいて、同じくシクロペンタジエンについて、イオンクロマト抽出(図11)を行った。また、上記パイログラムの各ピークに由来する熱分解物を上記と同様の方法で決定した。また、比(m/z)が77、78、91、106、120の各熱分解物についても、イオンクロマト処理を行った。
【0129】
また、環状オレフィン系ポリマー4を60重量%、ポリエチレンを40重量%含む樹脂組成物4について、パイログラムの導出、比(m/z)が77、78、91、106、120の各熱分解物についてのイオンクロマト処理を行った。
【0130】
比(m/z)が77の熱分解物については、検出時間が3.88分、4.38分、4.85分、5.37分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表19に示した。
【0131】
【表19】

【0132】
比(m/z)が78の熱分解物については、検出時間が2.40分、5.37分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表20に示した。
【0133】
【表20】

【0134】
比(m/z)が91の熱分解物については、検出時間が3.09分、3.93分、3.92分、4.85分、5.00分、5.39分、6.43分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表21に示した。
【0135】
【表21】

【0136】
比(m/z)が106の熱分解物については、検出時間が4.67分、4.85分、5.00分、5.09分、5.16分、5.39分、5.46分、5.70分、5.75分、7.82分、8.06分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表22に示した。
【表22】

【0137】
比(m/z)が120の熱分解物については、検出時間が7.30分、7.63分、8.15分、11.26分、11.70分、11.83分、11.94分、14.95分のデータをそれぞれ用いた。それぞれの検出時間における上記カウント数、上記と同様の方法で導出した定量値を表23に示した。
【0138】
【表23】

【0139】
上記の結果からも、本発明の効果は、環状オレフィン系ポリマーの種類によらず奏することが確認された。
【0140】
また、実施例1、評価1、2、3の結果から明らかなように、環状構造に由来する熱分解物であるシクロペンタジエンのピークは、充分大きいため、環状オレフィン系ポリマーの定量を正確に行うことができる。
【0141】
<実施例2>
環状オレフィン系ポリマー(8007F04、Topas Advanced Polymers社製)からなるCOC層とポリエチレンからなるPE層とを積層させてなる多層フィルム(COC層/PE層/COC層=5質量部/20質量部/5質量部:全体で30ミクロン厚み)の熱分解ガスクロマトグラフ質量検出器で分析した。上記、測定精度の評価の箇所で記載の方法と同様に、まず、環状オレフィン系ポリマー添加量とカウント数の関係式を導出した。環状オレフィン系ポリマー8007F04とPEの樹脂組成物を、環状オレフィン系ポリマー8007F04の添加量が10重量%、20重量%、30重量%、80重量%となるように4点用意した。4点の組成物それぞれのカウント数を得て、カウント数と添加量の関係式を導出した。
その後、多層フィルムの熱分解ガスクロマトグラフ測定を行い、多層フィルムのカウント数を得た。得られた多層フィルムのカウント数を関係式に代入したところ、環状オレフィン系ポリマー量が33重量%となった。多層フィルムでも環状オレフィン系ポリマーの含有量を定量できることが確認された。
【0142】
<比較例1>
実施例2に用いた多層フィルムをIR測定すると図12のチャートが得られる。図12中には参考のためPEとPPのIRチャートも示す。実施例2の多層フィルムは外側がCOC(環状オレフィン系ポリマー)であるため図12に示したCOCのチャートが得られ、PE(ポリエチレン)の構造が得られない。また、PEがCOCに少量存在している樹脂はPEのピークが少し大きくなるため、COCのエチレン量が増える結果になり、COC含有量をピーク比より計算できない。
同様にPPが積層されている場合もPPが少量増えてもCOCにPPのピークが増えるため、NB由来の環状構造由来ピークが増え、COC含有量をピーク比より計算できない。
【0143】
図12の結果から明らかなように、ポリプロピレン等の他の成分の混入により、定量が不可能になることが確認された。IRにより含有比率を定量しようとすると、他の成分の影響により、正確な定量が困難になりやすい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物中の、環状オレフィン系ポリマーの含有量(重量%)を定量する方法であって、
既知の環状オレフィン系ポリマーを熱分解させた場合の、環状オレフィン系ポリマーの環状構造に由来する特定の熱分解物の測定値を基準にして、前記環状オレフィン系ポリマーと同じ種類の環状オレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物を熱分解させて導出した前記特定の熱分解物の測定値と、下記数式(I)とを用いて定量する環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【数1】

【請求項2】
前記環状オレフィン系ポリマーは、下記一般式(A)で表される環状構造の化合物とエチレンとの共重合体か、又は、下記一般式(A)で表される環状構造の化合物を開環重合し、水素添加して得られる環状オレフィン系ポリマーであり、
前記特定の熱分解物は、シクロペンタジエンである請求項1に記載の環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【化1】

(式中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
とR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記特定の熱分解物の測定値は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置により測定される請求項1又は2のいずれか1項に記載の環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【請求項4】
前記特定の熱分解物の測定値は、熱分解温度500℃以上1000℃以下の条件で測定される請求項3に記載の環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物には環状オレフィン系ポリマー以外の熱可塑性樹脂を含み、
前記特定の熱分解物の測定値は、熱分解温度650℃以上1000℃以下の条件で測定され、
前記特定の熱分解物は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析法により熱分解温度650℃以上1000℃以下の条件で導出した、前記環状オレフィン系ポリマーのパイログラムと前記熱可塑性樹脂のパイログラムとを比較する工程を経て決定される請求項3に記載の環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【請求項6】
前記環状オレフィン系ポリマーのパイログラムにおいて、前記特定の熱分解物のピークは、検出時間が20分以下の範囲に現れる請求項5に記載の環状オレフィン系ポリマー含有量の定量方法。
【請求項7】
環状オレフィン系ポリマーを含む樹脂組成物の製造方法であって、
請求項1から6のいずれかに記載の方法で、複数の樹脂組成物の環状オレフィン系ポリマーの含有量を定量する含有量定量工程と、
前記含有量定量工程の結果、複数の樹脂組成物の中から、環状オレフィン系ポリマーの含有量の誤差が所望の値以下のものを選抜する樹脂組成物選抜工程と、を備える樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法で製造された樹脂組成物を原料として、多層フィルムを成形する多層フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−78340(P2012−78340A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130625(P2011−130625)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】