説明

環状オレフィン系付加重合体の製造方法

【解決手段】 本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法は、特定のパラジウム化合物、ホスフィン化合物、イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物からなる多成分系触媒と、シクロペンテン環を有する化合物との存在下に、少なくとも1種の環状オレフィン系化合物からなる単量体を付加重合し、重量平均分子量が50,000〜500,000の環状オレフィン系付加重合体を製造することを特徴としている。
【効果】 本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、特定のパラジウム触媒及び分子量調節剤を用いることにより、重合体中に残存する触媒量が少なく、重量平均分子量が50,000〜500,000の範囲に制御され、芳香族炭化水素溶媒での溶液流延法によるフィルムまたはシートの成形加工が容易で、耐熱性に優れ、光学特性にも優れた環状オレフィン系付加重合体を高収率で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系付加重合体の製造方法に関し、より詳しくは、重合系に酸素や水が存在しても重合活性への影響がほとんどないパラジウム系触媒を用い、少ない触媒量で環状オレフィン系付加重合体を得るための環状オレフィン系付加重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノルボルネンを代表とする環状オレフィン系付加重合体は、Ni、Pd、Ti、Zr、Crなどの遷移金属化合物を含む触媒を用いて、環状オレフィン系単量体を付加重合することにより得られてきた(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
上記環状オレフィン系付加重合体の中でも、加水分解性シリル基、アルコキシカルボニル基、カルボンイミド基、酸無水物基などの極性基または官能基を側鎖に有する環状オレフィン系化合物と、非極性の環状オレフィン系化合物との付加共重合体は、耐熱性および透明性に優れるとともに、接着・密着性、寸法安定性および耐薬品性を向上させるために架橋化できる共重合体として有用である。
【0004】
上記環状オレフィン系付加(共)重合体を得るための重合触媒としては、後周期遷移金属のNiもしくはPdの単一錯体、または、NiもしくはPd化合物を含む多成分系触媒が主として用いられてきた(例えば、特許文献1、非特許文献2〜11参照)。これら従来用いられてきた触媒の中では、煩雑な触媒合成工程を省くため、工業的には単一触媒よりも多成分系のパラジウム触媒が用いられる場合が多い。
【0005】
また、このようなパラジウム系触媒は、Pdカチオンの配位子としてホスフィン化合物やアミン化合物などの中性ドナーを有し、Pdカチオンの弱いカウンターアニオン配位子として超強酸アニオンを有することにより、優れた重合活性を示すことが知られている(例えば、特許文献2〜5、非特許文献12参照)。
【0006】
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(ノルボルネン)を代表とする環状オレフィンの付加重合体は透明性、耐熱性が優れる材料として知られている。
しかし、環状オレフィン付加重合体のガラス転移温度は250℃を超えることが多く、分解開始温度が300℃付近にあるため、通常の透明樹脂で用いられる射出成形、押し出し成形など樹脂を溶融して成形する方法は採用することが困難である。
【0007】
このため、該付加重合体を溶媒に溶かし、得られる付加重合体溶液を溶液流延法(キャスト法)により、フィルム、シートなどの形態に成形する方法が用いられてきた。
溶液流延法による成形を行うためには、重合体溶液の粘度が特定の範囲に制御されなければならない。溶液粘度に関わる要因として、重合体の分子量、ゲル分、溶液の濃度、溶媒の種類があり、付加重合体の分子量は特定の範囲に制御されることが必要であり、ゲル分はないこと、溶液の濃度はフィルムまたはシートの膜厚にもよるが、通常、10〜30重量%の範囲であり、溶媒の種類は付加重合体を完全に溶解する溶媒で、フィルムまたはシートの乾燥時に除去できる溶媒であることが必要である。
【0008】
環状オレフィン付加重合体の分子量を制御する方法として以下の方法が知られているが、それぞれ問題点も有する。
1)分子量調節の手段として触媒量による方法(非特許文献13,14参照)
分子量を低下させるために多くの触媒を必要とするために、生成した重合体から
の触媒の除去が困難となる。
2)分子量調節剤として水素を用いる方法(特許文献2参照)
用いる遷移金属触媒としてTi、Zrなどの前周期の遷移金属化合物の触媒に対して有効であるが、これら触媒は極性基を含まない単量体の付加重合に限定され、エステル基、アルコキシシリル基、酸無水物基、イミド基などの極性基を含む単量体に対しては触媒が阻害され、付加重合が困難か、重合活性が著しく低いものであった。
3)分子量調節剤としてα−オレフィンを用いる方法
特許文献6には、α−オレフィンを分子量調節剤(連鎖移動剤)とするNi、Pdなど後周期の遷移金属化合物の触媒系での環状オレフィン付加重合体の分子量を制御する方法が記載されている。特許明細において、α−オレフィンの添加により、分子量の低下効果はパラジウム系の触媒よりニッケル系の触媒の方が効果的であることが記載されている。4)分子量調節剤として2−プロパノールを用いる方法
非特許文献10には、Pd系触媒による5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンの2−プロパノール存在下で付加重合すると生成重合体の分子量も低下するが同時に重合活性も低下することが示されている。
5)分子量調節剤としてシクロペンテンを用いる方法
特許文献3には,実施例92、93、94において、触媒として、
(allyl)PdCl dimmer / triphenylphosphine /LiB(CF)・2.5EtO
から成る触媒を用い、分子量調節剤としてシクロペンテンを用いて、ブチルノルボルネンと5-トリエトキシシリルノルボルネンを共重合する例示がある。
【0009】
しかし、触媒のPdの使用量は少ないが、重合体への収率が非常に低いものであり、生成付加重合体の分子量が大きく、分子量低下効果が不十分などの問題がある。
また、シクロペンテンには、ジイミン化合物を配位子としたパラジウム触媒では単量体としての働きもある(非特許文献15参照)。
【0010】
このため、少ないパラジウム触媒量で重合することができる高活性な触媒を用いて、重合体収率に優れ、フィルム、シートなどの製造に好適な特定範囲の分子量を有する付加重合体が得られる,環状オレフィン系付加重合体の製造方法の確立が求められていた。
【特許文献1】米国特許第3,330,815号公報
【特許文献2】特開平5−262821号公報
【特許文献3】米国特許第6,455,650号公報
【特許文献4】特開平10−130323号公報
【特許文献5】特開2001−98035号公報
【特許文献6】特表平9−508649号公報
【非特許文献1】Christoph Janiak, Paul G. Lassahn, Macromol. Rapid Commun. 22, p479(2001)
【非特許文献2】R. G. Schultz, Polym. Lett. VOL. 4, p541 (1966)
【非特許文献3】Stefan Breunig, Wilhelm Risse , Makromol. Chem. 193, 2915 (1992)
【非特許文献4】Adam L. Safir, Bruce M. Novak, Macromolecules,1995,28,5396
【非特許文献5】Joice P. Mathew et al., Macromolecules, 1996,29,2755
【非特許文献6】Annette Reinmuth et al., Macromol. Rapid Commun. 17, 173 (1996)
【非特許文献7】B. S. Heinz, Acta Polymer 48, 385(1997)
【非特許文献8】B. S. Heinz et al., Macromol. Rapid Commun. 19, 251 (1998)
【非特許文献9】Nicole R. Grove et al., J. Polym. Sci. Part B, 37, 3003 (1999)
【非特許文献10】April D. Hennis et al., Organometallics 2001, 20, 2802-2812
【非特許文献11】Seung UK Son et al., J. Polym. Sci. Part A Polym. Chem. 41, 76(2003)
【非特許文献12】Macromolecules 35, p8969-8977 (2002)
【非特許文献13】Macromolecules 25, p4226-4228 (1992)
【非特許文献14】Macromol. Rapid Commun. 18, 689-697 (1997)
【非特許文献15】Macromolecules 31, p6705-6707 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、少ないパラジウム触媒量で重合でき、重合体収率に優れ、流延法によるフィルム、シートなどへの製膜に好適な、特定範囲の分子量を有する付加重合体を容易に得ることができ、かつ、得られた付加重合体が耐熱性および透明性に優れる、環状オレフィン系付加重合体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法は、
(a)式(1)で表されるパラジウム化合物;
Pd(X)2 …(1)
(式(1)中、Pdはパラジウム原子を示し、Xは有機酸のアニオンまたはベータジケトン化合物のアニオンを示す。)、
(b)式(2−1)または式(2−2)で表されるホスフィン化合物;
P(R13 …(2−1)
P(R122 …(2−2)
(式(2−1)および式(2−2)中、Pはリン原子であり、R1は炭素数5〜12の
未置換またはアルキル置換のシクロペンチル基またはシクロヘキシル基であり、R2は炭
素数1〜5のアルキル基および炭素数6〜12の未置換またはアルキル置換のフェニル基から選ばれた置換基である。)、および、
(c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物
からなる多成分系触媒と、
シクロペンテン、アルキル置換シクロペンテン、シクロアルキル置換シクロペンテンおよびアリール置換シクロペンテンよりなる群から選ばれる炭素数5〜20のシクロペンテン環を有する化合物との存在下に、
少なくとも1種の下記式(3)で表される環状オレフィン系化合物からなる単量体を付加重合することを特徴としている。
【0013】
【化1】

【0014】
(式(3)中、A1〜A4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、トリアルキルシリル基よりなる群から選ばれる原子または基、または、加水分解性のシリル基、オ
キセタニル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、トリアルキルシロキシカルボニル基から選ばれる極性の置換基であり、これら極性の置換基は炭素数1〜10の連結基
により直鎖状または環構造に結合していてもよい。また、A1とA2またはA1とA3とそれぞれが結合する炭素原子とで脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基または酸無水物基を形成していてもよい。mは0または1である。)
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、前記式(1)中、Xが炭素数1〜20の有機カルボン酸のアニオンであることが好ましい。
【0015】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、ホスフィン化合物(b)が、トリシクロヘキシルホスフィンまたはトリシクロペンチルホスフィンであることが好ましい。
【0016】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、パラジウム化合物(a)とホスフィン化合物(b)とが、下記式(4)で表される錯体を形成していることが好ましい。
〔P(R13nPd(Y)2 …(4)
(式(4)中、Pはリン原子であり、Pdはパラジウム原子であり、Yは炭素数1〜20の有機カルボン酸のアニオンであり、R1は未置換またはアルキル置換のシクロペンチル
基、シクロヘキシル基から選ばれる炭素数5〜20の置換基であり、nは1または2である。)
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、前記(c)が、カルベニウムカチオンのイオン性ホウ素化合物であることが好ましい。
【0017】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、シクロペンテン環を有する化合物が、シクロペンテン、アルキル基の炭素数が1〜3である3−アルキルシクロペンテンおよび4−アルキルシクロペンテンよりなる群から選ばれた化合物であることが好ましい。
【0018】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、前記式(3)で表される環状オレフィン系化合物が、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンと、アルキル基の炭素数が3〜10である5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンとを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、特定のパラジウム触媒及び分子量調節剤を用いることにより、重合体中に残存する触媒量が少なく、重量平均分子量が50,000〜500,000の範囲に制御され、芳香族炭化水素溶媒での溶液流延法によるフィルムまたはシートの成形加工が容易で、耐熱性に優れ、光学特性にも優れた環状オレフィン系付加重合体を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、環状オレフィン系化合物の付加重合を、パラジウム化合物を含む特定の多成分系触媒を用い、分子量調節剤としてシクロペンテン化合物を用いて行う。
<多成分系触媒>
本発明で用いる多成分系触媒は、
(a)パラジウム化合物、
(b)ホスフィン化合物、
(c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物、
および、必要に応じて用いられる
(d)有機アルミニウム化合物
から調製される。
【0021】
以下にこれらの触媒成分について説明する。
(a)パラジウム化合物
本発明で用いるパラジウム化合物(a)は、下記式(1)で
式(1)で表されるパラジウム化合物である。
【0022】
Pd(X)2 …(1)
(式(1)中、Pdはパラジウム原子を示し、Xは有機酸のアニオンまたはベータジケトン化合物のアニオンを示す。)、
上記式(1)中、Xで表される有機酸アニオンを形成する有機酸としては、限定されるものではないが、有機モノカルボン酸、モノリン酸エステル、ジリン酸エステル、有機スルホン酸などが挙げられる。
【0023】
より具体的には、Xの有機酸アニオンを形成する有機酸として、以下の1)〜3)が好ましく挙げられる。
1)炭素数1〜15の有機モノカルボン酸;たとえば、メタン酸、エタン酸〔酢酸〕、クロロエタン酸、フルオロエタン酸、トリフルオロエタン酸、プロパン酸、3,3,3-トリフルオロプロパン酸、ブタン酸、3−メチルブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、オクタン酸、ドデカン酸、プロペン酸、2−メチルプロペン酸、オクタデカ−9−エン酸、シクロヘキサンカルボン酸、ベンゼンカルボン酸、2−メチルベンゼンカルボン酸、4-メチルベンゼンカルボン酸、ナフタレンカルボン酸など。
2)炭素数2〜20のリン酸エステルアニオンとなるモノリン酸エステル、ジリン酸エステル;たとえば、ブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、オクチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジシクロヘキシルホスフェートなど。
3)炭素数が炭素数1〜20の有機スルホン酸アニオンとなる有機スルホン酸;たとえば、メタンスルフォン酸、トリフルオロメタンスルフォン酸、p−トルエンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸、ナフタレンスルフォン酸、ドデシルベンゼンスルフォン酸など。
【0024】
また、Xのベータジケトンアニオンを形成するベータジケトン化合物としては、たとえば、2,4−ペンタジオン、1−エトキシ−1,3−ブタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5,5−トリフルオロ−2,4−ペンタジオンなどが好ましく挙げられる。(b)ホスフィン化合物
本発明に係る多成分系触媒を構成するホスフィン化合物(b)は、下記式(2−1)または式(2−2)で表される。
【0025】
P(R13 …(2−1)
P(R122 …(2−2)
(式(2−1)および式(2−2)中、Pはリン原子であり、R1は炭素数5〜12の
未置換またはアルキル置換のシクロペンチル基またはシクロヘキシル基であり、R2は炭
素数1〜5のアルキル基および炭素数6〜12の未置換またはアルキル置換のフェニル基から選ばれた置換基である。)
このようなホスフィン化合物(b)の具体例としては、トリシクロペンチルホスフィン、ジシクロペンチル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロペンチルフェニルホスフィン、ジシクロペンチルシクロオクチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシル(イソプロピル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(t−ブチル)ホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、ジシクロヘキシル(2−エチルヘキシル)ホスフィン、ジシクロヘキシル(o−トリル)ホスフィンなどが挙げられる。
【0026】
なお、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを多く含む単量体を用いる場合には、ホスフィン化合物(b)がトリフェニルホスフィン、トリ(m−キシリル)ホスフィンなどのトリアリールホスフィン化合物では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを多く含む単量体から形成される環状オレフィン付加重合体はビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン由来の構造単位が規則性の高いものとなり、芳香族系溶媒には不溶となる場合がある。
【0027】
本発明で用いる多成分系触媒には、上述のパラジウム化合物(a)およびホスフィン化合物(b)が含まれるが、特定のパラジウム化合物(a)とホスフィン化合物(b)とは、下記式(4)で表される錯体を形成していてもよい。
【0028】
〔P(R13〕Pd(Y)2 または〔P(R132Pd(Y)2 … 式(4)
〔式(4)中、Pdはパラジウム原子、Yは炭素数1〜20の有機カルボン酸のアニオン、Pはリン原子、R1はシクロヘキシル基またはシクロペンチル基を示す。〕
具体的なパラジウム錯体としては、
トリシクロヘキシルホスフィンパラジウムジ(エタノアート)、
トリシクロヘキシルホスフィンパラジウムジ(エタノアート)、
トリシクロペンチルホスフィンパラジウムジ(エタノアート)、
トリシクロヘキシルホスフィンパラジウムジ(トリフルオロエタノアート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(メタノアート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(プロパノア−ト)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(トリフルオロエタノアート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(2−エチルヘキサノアート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(シクロヘキサンカルボキシラト)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(オクタノアート)、
ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウムジ(ベンゼンカルボキシラト)、
ビス(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウムジ(エタノアート)
などが挙げられる。
【0029】
多成分系触媒の成分として、このようなパラジウム化合物(a)とホスフィン化合物(b)との錯体を用いると、酸素が存在する雰囲気下でも体制のある触媒となるため好ましい。なお、この場合は新たなパラジウム化合物(a)およびホスフィン化合物(b)を別途用いる必要はない。
(c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物
本発明に係る多成分系触媒には、イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物(c)が含まれる。
【0030】
イオン性ホウ素化合物としては、下記式(5−1)で表される化合物が挙げられる。
〔R3+〔B(R44- …(5−1)
(式(5−1)中、R3はカルボニウムカチオン、ホスフォニウムカチオン、アンモニウ
ムカチオン、アニリニウムカチオンから選ばれた炭素数1〜25の有機カチオン、R4
フッ素原子置換またはフッ化アルキル置換のフェニル基、Bはホウ素原子を示す。)
このようなイオン性ホウ素化合物としては、たとえば、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリ(p-トリル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジフェニル(メチル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ビス(ジフェニル)メチルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリフェニルホスフォニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジフェニルホスフォニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラフェニルボレート、
トリブチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
N,N−ジフェニルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート
などが挙げられる。
【0031】
また、イオン性アルミニウム化合物としては、下記式(5−2)で表される化合物が挙げられる。
〔R3+〔Al(R44- …(5−2)
(式(5−2)中、R3はカルボニウムカチオン、ホスフォニウムカチオン、アンモニウ
ムカチオン、アニリニウムカチオンから選ばれた炭素数1〜25の有機カチオン、R4
フッ素原子置換またはフッ化アルキル置換のフェニル基、Alはホウ素原子を示す。)
このようなイオン性アルミニウム化合物としては、たとえば、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]アルミナート、
トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)アルミナート、
トリフェニルカルベニウムテトラフェニルアルミナート
などが挙げられる。
【0032】
これらのイオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物(c)のうちでは、イオン性ホウ素化合物が好ましく、さらにカルベニウムカチオンのイオン性ホウ素化合物が好ましい。
(d)有機アルミニウム化合物
本発明に係る多成分系触媒は、上述した(a)パラジウム化合物、(b)ホスフィン化合物、および、(c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物以外に、必要に応じて(d)有機アルミニウム化合物を触媒成分として含むことができる。触媒成分(d)の添加により、触媒としての重合活性の向上や重合系に存在する微量に存在するアミン化合物、硫黄化合物、などを除去して重合活性の向上に寄与することができる。
【0033】
有機アルミニウム化合物(d)は、少なくとも1つのアルミニウム−アルキル結合を有するアルミニウム化合物であり、具体的には、たとえば、メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、ブチルアルモキサンなどのアルキルアルモキサン化合物;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリドなどのトリアルキルアルミニウム化合物;ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのジアルキルアルミニウムハライド、ジブチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウム化合物が挙げられる。
触媒の調製
本発明に係る多成分系触媒の調製においては、上述した各触媒成分は、通常以下の範囲の使用量で用いられる。
【0034】
触媒成分(a)のパラジウム化合物は、単量体1モルに対して、0.001〜0.02
ミリモル、好ましくは0.002〜0.01ミリモルの範囲で用いられる。
触媒成分(b)のホスフィン化合物は、触媒成分(a)のパラジウム化合物1モル当たり、0.2〜5モル、好ましくは0.5〜2.0、さらに好ましくは0.7〜1.5モルの範囲で用いられる。
【0035】
触媒成分(c)のイオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物は、触媒成分(a)のパラジウム化合物の1モル当たり、0.5〜10モルの範囲で、好ましくは
0.7〜2モル、さらに好ましくは1.0〜1.5の範囲で用いられる。
【0036】
触媒成分(d)の有機アルミニウム化合物は、触媒成分(a)のパラジウム化合物の1モル当たり、0.5〜200モル好ましくは5〜50モルの範囲で用いられる。
多成分系触媒の調製方法、すなわち各触媒成分の添加方法としては、特に制約はないが、たとえば、
1)単量体と重合溶媒の混合物に、触媒成分(a)、触媒成分(b)、または触媒成分(a)および成分(b)のパラジウムの錯体、および触媒成分(c)の順に添加する方法、2)単量体と重合溶媒の混合物に、触媒成分(d)、触媒成分(a)、触媒成分(b)
および触媒成分(c)の順に添加する方法、
3)予め触媒成分(a)、(b)および(c)を混合接触したものを、単量体、重合溶媒の混合物に添加する方法
などの方法が通常用いられる。
<単量体>
本発明では、下記一般式(3)で表される環状オレフィン系化合物からなる単量体を付加重合する。
【0037】
【化2】

【0038】
(式(3)中、A1〜A4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、トリアルキルシリル基よりなる群から選ばれる原子または基、または、加水分解性のシリル基、オキセタニル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、トリアルキルシロキシカルボニル基から選ばれる極性の置換基であり、これら極性の置換基は炭素数1〜10の連結基
により直鎖状または環構造に結合していてもよい。また、A1とA2またはA1とA3とそれぞれが結合する炭素原子とで脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基または酸無水物基を形成していてもよい。mは0または1である。)
本発明で単量体として用いられる、上記一般式(3)で表される環状オレフィン系化合物としては、極性の置換基を有さない環状オレフィン系化合物(A)、および、極性の置換基を有する環状オレフィン系化合物(B)が挙げられる。以下にこれらの単量体の具体例を挙げるが、これらの具体例に何ら限定されるものではない。
【0039】
極性の置換基を有さない環状オレフィン系化合物(A)としては、式(3)中、A1
4が、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アル
キレン基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、トリアルキルシリル基よりなる群から選ばれる原子または基である化合物が挙げられる。なお、A1とA2またはA1
3とそれぞれが結合する炭素原子とで、脂環構造または芳香環構造を形成していてもよ
い。
【0040】
このような環状オレフィン系化合物(A)としては、たとえば、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−プロピルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−(1−ブテニル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ペンチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ヘプチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−−エン、
5−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ドデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−アリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5,6−ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチル−6−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−フロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−クロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メトキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5,6−ベンゾビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、
3,4−ベンゾトリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン、
トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン、
トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ−9−エン、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−エチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
などが挙げられる。
【0041】
これらの環状オレフィン系化合物(A)のうちでは、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、アルキル基の炭素数が3〜10である5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが好ましく用いられる。また、本発明では、単量体が、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンと、アルキル基の炭素数が3〜10である5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンとを含むことが好ましい。
【0042】
極性の置換基を有する環状オレフィン系化合物(B)としては、式(3)中、A1〜A4の1つ以上が、アルコキシシリル基、シラシクロアルキル基などの加水分解性のシリル基;
オキセタニル基;アルコキシカルボニル基;トリアルキルシロキシカルボニル基から選ばれる極性の置換基である化合物が挙げられる。これら極性の置換基は炭素数1〜10の連
結基により直鎖状または環構造に結合していてもよい。さらに、A1とA2またはA1とA3とそれぞれが結合する炭素原子とでカルボンイミド基または酸無水物基を形成してなる化合物も挙げることができる。環状オレフィン系化合物(B)において、極性の置換基以外のA1〜A4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、トリアルキルシリル基よりなる群から選ばれる原子または基である。また、A1とA2またはA1とA3とそれぞれが結合する炭素原子とで、脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基または酸無水物基を形成していてもよい。
【0043】
このような環状オレフィン系化合物(B)としては、たとえば、以下のような化合物が挙げられる。
置換基として加水分解性のアルコキシシリル基を有する単量体の例:
5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−トリエトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチルジメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチルジエトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−メチルジクロロシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
9−トリメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−トリエトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−メチルジメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−エチルジメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−シクロヘキシルジメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−フェニルジメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−ジメチルメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−トリクロロシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−ジクロロメチルシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−クロロジメチルシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−クロロジメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−ジクロロメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、
9−クロロメチルメトキシシリルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなど。
置換基として加水分解性のシラシクロアルキル基を有する単量体の例:
5−[1’−メチル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−[1’−メチル−2’,5’−ジオキサ−3’,4’−ジメチル−1’−シラシクロペンチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−[1’−メチル−2’,5’−ジオキサ−3’−メチル−1’−シラシクロペンチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−[1’−フェニル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−[1’−メチル−2’,6’−ジオキサ−4’,4’−ジメチル−1’−シラシクロ
ヘキシル]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
9−[1’−メチル−2’,5’−ジオキサ−1’−シラシクロペンチル]テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなど。
置換基としてオキセタニル基を有する単量体の例:
5−[(3−エチル−3−オキタセニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
5−[(3−オキセタニル)メトキシ]ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸(3−エチル−3−オキセタニル)メチルなど。
置換基としてアシルオキシ基を有する単量体の例:
エタン酸〔ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジメチル〕、
プロパン酸〔ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジメチル〕、
エタン酸〔ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イル〕、
エタン酸〔ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−イルメチル〕など。
置換基としてアルコキシカルボニル基を有する単量体の例:
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸t-ブチル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸メチル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−メチルカルボン酸メチル−2−カルボン酸メチル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸エチル、4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸メチル、
4−メチルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸エチルなど。
置換基としてトリアルキルシロキシカルボニル基を有する単量体の例:
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸トリエチルシリル、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸ジエチルブチル、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4−カルボン酸トリエチルシリルなど。
置換基としてカルボンイミド基を有する単量体の例:
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−N−シクロヘキシル−2,3−カルボンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−N−フェニル−2,3−カルボンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−N−(2’,6’−ジメチルフェニル)−
2,3−カルボンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−スピロ−N−シクロヘキシル−スクシンイミド、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−スピロ−N−(2’,4’−ジメトキシフェニル)スクシンイミドなど。
置換基として酸無水物基を有する単量体の例:
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−無水カルボン酸、
ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−スピロ−3’−exo−無水スクシン酸、
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−無水カルボン酸など。
【0044】
本発明では、環状オレフィン系化合物(B)としては、式(3)中、A1〜A4の1つのみが、アルコキシシリル基やシラシクロアルキル基などの加水分解性のシリル基、オキセタニル基、アルコキシカルボニル基、およびトリアルキルシロキシカルボニル基から選ば
れる極性の置換基である化合物が好ましく用いられる。
【0045】
本発明では、単量体として、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン 1モルに対して、アルキル基の炭素数が3〜10の5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを0.05〜1.7モルを含む単量体を用いると、形成される付加共重合体からは靱性のあるフィルムまたはシートが得られるので好ましい。特に、5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンとしては、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンや、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンが好ましい。
【0046】
また、本発明においては、式(3)で表される環状オレフィン化合物として、側鎖置換基に加水分解性のシリル基、オキセタニル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、トリアルキルシロキシカルボニル基、カルボンイミド基および酸無水物基から選ばれた極性基を有する環状オレフィン化合物(環状オレフィン系化合物(B))を全単量体中に、0.5〜20モル%、好ましくは2〜10モル%含むことが好ましい。このような単量体から形成される付加共重合体からは、接着性が付与された環状オレフィン付加重合体や、極性基の部位が架橋部位となった耐溶剤性、耐薬品性が優れた架橋された環状オレフィン付加重合体が得られるため好ましい。
【0047】
本発明では、上述した環状オレフィン系化合物からなる単量体を、本発明の方法で付加(共)重合することにより、下記一般式(6)で表される構造単位を有する付加(共)重合体が得られる。なお、式(6)中、A1〜A4およびmは、式(3)と同様である。
【0048】
【化3】

【0049】
<重合>
本発明では、上述の多成分系触媒を用いて、上述した環状オレフィン系化合物からなる単量体を付加(共)重合する。
分子量調節剤
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、製造する環状オレフィン系付加重合体の分子量の調節を、分子量調節剤として重合系内にシクロペンテン環を有する化合物を添加することにより行う。シクロペンテン環を有する化合物としては、シクロペンテン、アルキル置換シクロペンテン、シクロアルキル置換シクロペンテンおよびアリール置換シクロペンテンよりなる群から選ばれる炭素数5〜20のシクロペンテン環を有する化合物が挙げられる。
【0050】
シクロペンテン環を有する化合物としては、具体的には、たとえば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、3−エチルシクロペンテン、3−イソプロピルシクロペンテン、3−n−プロピルシクロペンテン、3−n−ブチルシクロペンテン、3−ペンチルシクロペンテン、3−ヘキシルシクロペンテン、3−シクロヘキシルシクロペンテン、4−
メチルシクロペンテン、4−エチルシクロペンテン、4−イソプロピルシクロペンテン、4−フェニルシクロペンテンなどから選ばれた1種以上の化合物が用いられる。このうち、シクロペンテン、アルキル基の炭素数が1〜3のアルキル置換のシクロペンテンから選ばれた化合物が好ましく、さらに好ましくはシクロペンテンである。
【0051】
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法において、分子量調節剤として用いるシクロペンテン環を有する化合物の使用量は、単量体1モルに対して、0.05〜5モル、好ましくは0.1〜2モル、さらに好ましくは0.2〜1モルの範囲である。本発明では、このような特定の分子量調節剤を用いることにより、本発明の環状オレフィン付加重合体の重量平均分子量(Mw)を好ましい範囲(好ましくは50,000〜500,000)に制御することができる。
重合溶媒
本発明において、付加重合に用いることができる溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒などであるが、非ハロゲン系の溶媒を用いることが安全衛生上や環境対策上、好ましい。また、付加重合後、重合体溶液をそのまま、フィルムまたはシートの成形に用いる場合は、溶媒として芳香族炭化水素溶媒を主体とした溶媒が好ましい。
【0052】
なお、本発明においては、これら溶媒を2種以上使用した混合溶媒も用いることができる。
重合溶媒は単量体100重量部当たり、0〜2000重量部の範囲で用いることができる。
重合
本発明の環状オレフィン系付加重合体の製造方法では、上述の分子量調節剤、重合溶媒の存在下、パラジウム系触媒を用いて単量体の付加(共)重合を行う。
【0053】
本発明においては、単量体を一括して仕込む方式や逐次添加する方式など採ることができる。二種以上の単量体を用いる場合、生成する共重合体は共重合反応性の違いと単量体の仕込み方法により、組成分布ないランダムな共重合体から組成分布のある共重合体まで制御することができる。また、重合プロセス方式としては、バッチ重合方式、あるいは、槽型反応器、塔型反応器もしくはチューブ型反応器などによる連続重合方式いずれも採用することができる。
【0054】
また、重合温度は、通常、−20〜120℃の範囲であり、経時的に温度を変えることも可能である。
本発明の重合系の雰囲気は窒素下、アルゴン下、および空気下でも行うことができる。水素化
本発明では、置換基にオレフィン性不飽和結合を有する単量体を用いて生成する環状オレフィン付加重合体や、本発明のような分子量調節の重合機構から生じる環状オレフィン付加重合体の末端に環状の内部オレフィンの不飽和結合が存在する場合など、熱や光による着色やゲル化等の劣化が問題になるようであれば必要に応じて、付加(共)重合で生成した環状オレフィン付加重合体にさらに水素化を行うことができる。その水素化率は高い程好ましいが、通常、90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。
【0055】
水素化方法は特には限定されず、通常のオレフィン性不飽和結合を水素化する方法が適
用される。一般的には、水素化触媒の存在下で不活性溶媒中、水素ガス圧0.5〜15MPa、反応温度0〜200℃で水素化が行われる。なお、芳香環が重合体中に存在する場合、係る芳香環は光学特性、特に複屈折性、波長分散性に寄与する場合もあるため、必ずしも水素化される必要はない。
【0056】
水素化反応に用いることができる不活性溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ドデカンなどの炭素数5〜14の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロデカン、メチルシクロヘキサンなどの炭素数5〜14の脂環族炭化水素が挙げられるが、芳香環を水素化しない条件で水素化する場合には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの炭素数6〜14の芳香族炭化水素も使用することができる。
【0057】
水素化触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ルテニウム、ロジウムなどのVIII族の金属またはその化合物をカーボン、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、珪藻土などの多孔性担体に担持した固体触媒、あるいは、コバルト、ニッケル、パラジウムなどのIV族〜VIII族の有機カルボン酸塩、β−ジケトン化合物と有機アルミニウムまたは有機リチウムの組み合わせや、ルテニウム、ロジウム、イリジウムなどの錯体などの均一触媒が用いられる。
脱触媒
本発明においては、重合を停止して得られた重合体溶液もしくはその水素化体の溶液を、乳酸、グリコール酸、オキシプロピオン酸、オキシ酪酸などのオキシカルボン酸やトリエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、エチレンジアミンテトラ酢酸塩などのの水溶液を用いて処理するか、珪藻土、シリカ、アルミナ、活性炭などの吸着剤を用いて処理することにより脱触媒を行うことができる。
【0058】
さらに、脱触媒された溶液から、直接、溶媒を蒸発除去したり、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やアセトン、メチルエチルケトンなどのケトンを用いて凝固し、次いで乾燥したりすることにより、目的とする環状オレフィン系付加重合体を得ることができる。
【0059】
このような方法により、本発明の付加重合体は、Pd原子およびAl原子として、それぞれ5ppm以下、好ましくはは1ppm以下、さらに好ましくは0.5ppm以下にすることが
できる。
<環状オレフィン系付加重合体>
本発明で得られる環状オレフィン系付加(共)重合体のガラス転移温度(Tg)は、主に重合に用いる単量体の種類や量により決定される。このため、本発明では、使用される用途に応じて適宜設計したガラス転移温度(Tg)を有する環状オレフィン系付加(共)重合体を製造することができるが、通常、150〜450℃、好ましくは200〜400℃である。該重合体のガラス転移温度が150℃未満の場合は耐熱性に問題が生じることがあり、一方、450℃を超えると重合体が剛直になり靱性が低下して割れやすくなることがある。
【0060】
本発明において、得られる環状オレフィン系付加重合体の分子量は、o−ジクロロベンゼンを溶媒とし、120℃、ゲル・パーミエ−ションクロマトグラフィー法で測定され、好ましくはポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が20,000〜200,000、重量平均分子量(Mw)が50,000〜500,000であり、特に好ましくは数平均分子量(Mn)が40,000〜150,000、重量平均分子量(Mw)が100,000〜300,000である。
【0061】
数平均分子量(Mn)が20,000未満、重量平均分子量(Mw)が50,000未
満では、フィルムまたはシートとした際、割れやすいものとなるおそれがある。一方、数平均分子量(Mn)が300,000、重量平均分子量(Mw)が500,000を超えると、溶液流延法(キャスト法)でフィルムまたはシートを作製する際に重合体の溶液粘度が高くなりすぎて、取り扱いが困難となったり、また平坦性のよいフィルムまたはシートを得ることが困難となるおそれがある。
【0062】
本発明において、環状オレフィン系付加重合体は、フェノール系、リン系、チオエーテル系、ラクトン系から選ばれた酸化防止剤を付加重合体100重量部当たり、0.01〜5重量部添加して、さらに耐熱劣化性を改良することができる。
<成形>
本発明に係る環状オレフィン系付加(共)重合体もしくは該重合体を含む組成物は、特に限定されることなく任意の方法で成形することができるが、熱履歴による重合体の劣化を抑制できる点で、本発明の重合体もしくは該重合体を含む組成物を溶媒に溶解させて支持体に塗工し、しかる後、溶媒を乾燥させる溶液流延法(キャスト法)により成形するのが好ましく、これによりフィルム、シートおよび薄膜が好適に得られる。
【0063】
溶液流延法に用いられる溶媒は、付加重合体を溶解させる溶媒である必要がある。本発明に係る付加重合体の多くは、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素溶媒や、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒に溶解する。本発明の環状オレフィン系付加重合体は、一般に脂環族炭化水素溶媒に対して溶解性は優れるが、脂環族炭化水素溶媒を溶液流延法に用いると、膜厚によっては、乾燥時にフィルムまたはシートから残留溶媒が除去できない場合がある。このため、溶液流延法の溶媒としては、比較的沸点の低いトルエン、キシレン、エチルベンゼンなどから選ばれた芳香族炭化水素溶媒を主成分とした溶媒が好ましく用いられる。
【0064】
本発明の製造方法により得られた環状オレフィン系付加重合体は、光学材料部品をはじめ、電子・電気部品、医療用器材、電気絶縁材料あるいは包装材料などに使用することができる。
【0065】
光学材料としては、例えば、導光板、保護フィルム、偏向フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、透明電極基板、CD、MD、DVDなどの光学記録媒体基板、TFT用基板、カラーフィルター基板などや光学レンズ類、封止材などに用いることができる。電子・電気部品としては、容器、トレイ、キャリアテープ、セパレーション・フィルム、洗浄容器、パイプ、チューブなどに用いることができる。医療用器材としては、薬品容器、アンプル、シリンジ、輸液用バック、サンプル容器、試験管、採血管、滅菌容器、パイプ、チューブなどに用いることができる。電気絶縁材料としては、電線・ケーブルの被覆材料、コンピューター、プリンター、複写機などのOA機器の絶縁材料、プリント基板の絶縁材料などに用いることができる。包装材料としては、食品や医薬品等のパッケージフィルムなどに用いることができる。
【0066】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
なお、以下の実施例および比較例において、分子量、ガラス転移温度、共重合体の組成および透明性は下記の方法で測定あるいは評価した。
(1)分子量
ウォーターズ(WATERS)社製150C型ゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)装置で東ソー(株)製Hタイプカラムを用い,o−ジクロロベンゼンを溶媒として1
20℃で測定した。得られた分子量は標準ポリスチレン換算値である。
(2)ガラス転移温度
ガラス転移温度は動的粘弾性で測定されるTanδ(貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”との比Tanδ=E”/E’)の温度分散のピーク温度で測定した。動的粘弾性の測定はレオバイブロンDDV−01FP(オリエンテック製)を用い、測定周波数が10Hz、昇温速度が4℃/分、加振モードが単一波形、加振振幅が2.5μmのものを用いてTanδのピーク温度を測定した。
(3)共重合体中の組成解析
重合後の重合体溶液の一部を採取し、標準物質としてテトラリンを添加し、過剰のイソプロパノールで重合体を凝固した。その上澄み溶液をガスクロマトグラム(島津製作所製GC−14B)装置、キャピラリーカラム(膜厚1μm、内径0.25mm、長さ60m、カラム温度200℃)を使用することにより、検量線から残留単量体量を分析した。残留単量体量と仕込み単量体量から生成した共重合体の組成を求めた。
(4)透明性(光線透過率、ヘイズ)
重合体を溶液流延法により、膜厚が約100μmのフィルムに成形して、光線透過率はASTM−D1003に従い、またヘイズはJIS規格K7136に従い求めた。
〔実施例1〜4〕
100mlのガラス製耐圧ビンに窒素雰囲気下で水分10ppmのトルエン47ml、単量体の5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを40mmol、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン50mmolを仕込み、分子量調節剤として表1に示す量のシクロペンテンをそれぞれ仕込んだ。耐圧ビンの口を穴あき王冠付きゴムキャップで封止した。次に、ゴムキャップを通じて触媒成分(a)のパラジウムジ(エタノアート)を0.0005mmol、および触媒成分(b)のトリシクロヘキシルホスフィン0.0005mmolを仕込んだ。さらに2分後、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート〔Ph3C・B(C654〕0.0005mmolを仕込んで、付加重合を60℃で開始した。
【0068】
重合開始1時間後および3時間後に、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンをそれぞれ5mmol添加して重合を6時間行った。重合結果を表1に示す。実施例1〜4の
生成する付加共重合体の5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンに由来する構造単位の割合はほぼ39モル%であった。
【0069】
次いで、得られた共重合体をそれぞれ固形分20重量%のトルエン溶液に調製し、溶液流延法により製膜し、180℃、90分乾燥して、それぞれ100μmのフィルムを得た。このフィルムを用いて透明性(光線透過率、ヘイズ)を測定した。結果を表1に併せて示す。
[実施例5]
【0070】
100mlのガラス製耐圧ビンを用いて、空気雰囲気下で、分子量調節剤としてシクロペンテン75mmolを用い、触媒としてパラジウムジ(エタノアート)のトリシクロヘキシルホスフィン錯体〔PCy3Pd(ethanoate)2〕を0.0005mmol、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート〔Ph3C・B(C664〕0.0005ミリモルを用いる以外、実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
[実施例6]
【0071】
実施例2において、シクロペンテンの代わりに3−メチルシクロペンテン75mmolを用いる以外、実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
[実施例7]
【0072】
実施例2において、シクロペンテンの代わりに4−メチルシクロペンテン75mmolを用
いる以外、実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
[実施例8]
【0073】
実施例2において、パラジウムジ(エタノアート)の代わりにパラジウムジ(2-エチルヘキサノアート)0.0005mmolを用い、触媒添加の最後にトリエチルアルミニウム0.0025mmolを追加して重合を行う以外、実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
〔比較例1〕
分子量調節剤としてシクロペンテンを5mmolを用いる以外、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。この処方で得られた共重合体は分子量が高すぎるため、固形分濃度を調製しても、平坦性のよいフィルム得ることは困難であった。
〔比較例2〕
実施例2において、触媒成分(b)のホスフィン化合物として、トリシクロヘキシルホスフィン0.0005mmolの代わりにトリフェニルホスフィン0.0005mmolを用いたこと以外、実施例2と同様に行った。生成重合体はトルエン溶媒に膨潤して、結晶成分があるものであった。フィルム化はイソプロパノールで凝固し、乾燥して得られた重合体を120℃でクロロベンゼンに溶解して製膜した。製膜したフィルムをクロロホルム蒸気に曝した後、180℃、90分減圧下で乾燥して残留溶媒を除去して、100μmのフィルムを得た。結果を表1に示す。
〔比較例3〕
実施例4において、触媒成分(b)のホスフィン化合物として、トリシクロヘキシルホスフィン0.0005mmolの代わりにトリフェニルホスフィン0.0005mmolを用いたこと以外、実施例4と同様に行った。生成重合体はトルエン溶媒に膨潤して、結晶成分があるものであった。フィルム化はイソプロパノールで凝固し、乾燥して得られた重合体を120℃でクロロベンゼンに溶解して製膜した。製膜したフィルムをクロロホルム蒸気に曝した後、180℃、90分減圧下で乾燥して残留溶媒を除去して、100μmのフィルムを得た。結果を表1に示す。
【0074】
比較例2および3より、触媒成分(b)としてトリフェニルホスフィンを用いると重合活性がやや低下し、生成する共重合体から成形されたフィルムは透明性が劣るものであった。
〔比較例4〕
実施例4において、分子量調節剤としてシクロペンテン200mmolの代わりに、シクロペンタン200mmolを用いたこと以外は実施例4と同様に行った。結果を表1に示す。
〔比較例5〕
実施例4において、分子量調節剤としてシクロペンテン200mmolの代わりに、シクロヘキセン200mmolを用いたこと以外は実施例4と同様に行った。結果を表1に示す。
【0075】
比較例4および比較例5より、シクロペンタン、シクロヘキセンは分子量調節剤としての作用はなく、いずれも非常に高分子量の重合体が生成した。
〔比較例6〕
実施例1において、分子量調節剤としてシクロペンテンを700mmol用いたこと以外、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。生成した付加共重合体の分子量が低すぎるため、これから得られる100μmのフィルムは靱性のない脆いものであった。
〔比較例7〕
実施例1において、分子量調節剤としてシクロペンテン75mmolの代わりに1−ヘキセン10mmolを用いたこと以外、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。この処方で得られる共重合体のフィルムはややヘイズ値が劣った。
[実施例9]
【0076】
5リットルの反応器に、窒素雰囲気下で、25℃で水分が7ppmのトルエン2L、単量
体としてビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン493g(5.24モル)、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン180g(1.2モル)および5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン100.8g(286モル)を仕込み、さらに、分子量調節剤としてシクロペンテン338g(4.96mol)を重合系に添
加した。
【0077】
その後、触媒成分(a)としてパラジウムジエタノアートを0.033mmol、触媒成分(b)としてトリシクロヘキシルホスフィンを0.033mmol、最後に触媒成分(c)としてトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート〔Ph3
・B(C664〕0.033mmolを添加して、55℃で重合を行った。
【0078】
1.5時間後、重合体への転化率が72%で、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン47g(0.5mol)、5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−
エン9.6g(44.8mmol)を反応器に添加し、3時間後の重合体への転化率が92%でさらに、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを47.0g、5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン9.6gを反応器に添加した。6時間後の重合体への転化率は99.8%であった。
【0079】
このようにして得られた付加共重合体Aの数平均分子量(Mn)は52,000、重量平均分子量(Mw)は167,000であった。また、共重合体A中の5−トリメトキシシリルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン由来の構造単位の割合は7.1モル%であった。
【0080】
次いで、得られた共重合体Aをトルエンの20重量%溶液に調製して、熱酸発生剤p−トルエンスルフォン酸シクロヘキシルを、共重合体Aの100重量部に対して1.0重量部、酸化防止剤としてペンタエリスリチルテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート〕およびトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトをそれぞれ0.6重量部添加して、溶液流延法によりポリエステルフィルム上で製膜し、さらに180℃で2時間乾燥して、溶媒を除去し、そのフィルムを180℃のスチームで架橋すると全光線透過率92%、ガラス転移温度が320℃の高透明、高耐熱で耐薬品、耐溶剤性の優れた架橋された膜厚100μmのフィルムが得られた。[実施例10]
【0081】
100mlのガラス製耐圧ビンに窒素雰囲気下で水分20ppmのトルエン20ml、シ
クロヘキサン30ml、単量体として、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、55mmol、2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチル 2
0mmolを用い、分子量調節剤としてシクロペンテン75mmol、触媒成分(a)および触媒成分(b)としてトリシクロヘキシルパラジウムビス(2−エチルヘキサノエート)0.005mmol、触媒成分(c)としてトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)アルミナート、〔Ph3C・Al(C654〕0.006mmolを仕込み、王冠付きゴムキャップで封止した。
【0082】
耐圧ビンを60℃に加温して重合を開始して、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンを最初の30分毎に5ミリモルずつ、5回添加して、6時間重合した。単量体の共重合体への転化率は83%であった。共重合体は共重合体溶液をイソプロパノールで凝固・分離後、さらに乾燥して回収した。
【0083】
得られた共重合体中の2−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチル由来の構造単位の割合は20mol%であった。また、得られた共重合体の数
平均分子量は48,000、重量平均分子量は174,000であった。
【0084】
この共重合体をトルエンでキャストして得た100μmのフィルムの全光線透過率は92%であった。
【0085】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の方法により得られる環状オレフィン系付加重合体は、光学材料をはじめ、電子・電気部品、医療用器材、電気絶縁材料、包装材料にも使用することができる。
光学材料としては、例えば、TFT基板材料、導光板、保護フィルム、偏向フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、透明電極基板、近赤外フィルム、CD、MD、DVDなどの光学記録媒体基板などや光学レンズ類、封止材などに用いられる。
【0087】
電子・電気部品としては、例えば、液晶表示素子、容器、トレイ、キャリアテープ、セパレーション・フィルム、洗浄容器、パイプ、チューブ、などに用いられる。
医療用器材としては、例えば、薬品容器、アンプル、シリンジ、輸液用バック、サンプ
ル容器、試験管、採血管、滅菌容器、パイプ、チューブなどに用いられる。
【0088】
電気絶縁材料としては、例えば、電線・ケーブルの被覆材料、コンピューター、プリンター、複写機などのOA機器の絶縁材料、プリント基板の絶縁材料などに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式(1)で表されるパラジウム化合物;
Pd(X)2 …(1)
(式(1)中、Pdはパラジウム原子を示し、Xは有機酸のアニオンまたはベータジケトン化合物のアニオンを示す。)、
(b)式(2−1)または式(2−2)で表されるホスフィン化合物;
P(R13 …(2−1)
P(R122 …(2−2)
(式(2−1)および式(2−2)中、Pはリン原子であり、R1は炭素数5〜12の
未置換またはアルキル置換のシクロペンチル基またはシクロヘキシル基であり、R2は炭
素数1〜5のアルキル基および炭素数6〜12の未置換またはアルキル置換のフェニル基から選ばれた置換基である。)、および、
(c)イオン性ホウ素化合物またはイオン性アルミニウム化合物
からなる多成分系触媒と、
シクロペンテン、アルキル置換シクロペンテン、シクロアルキル置換シクロペンテンおよびアリール置換シクロペンテンよりなる群から選ばれる炭素数5〜20のシクロペンテン環を有する化合物との存在下に、
少なくとも1種の下記式(3)で表される環状オレフィン系化合物からなる単量体を付加重合することを特徴とする環状オレフィン系付加重合体の製造方法;
【化1】

(式(3)中、A1〜A4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、トリアルキルシリル基よりなる群から選ばれる原子または基、または、加水分解性のシリル基、オキセタニル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、トリアルキルシロキシカルボニル基から選ばれる極性の置換基であり、これら極性の置換基は炭素数1〜10の連結基
により直鎖状または環構造に結合していてもよい。また、A1とA2またはA1とA3とそれぞれが結合する炭素原子とで脂環構造、芳香環構造、カルボンイミド基または酸無水物基を形成していてもよい。mは0または1である。)。
【請求項2】
前記式(1)中、Xが炭素数1〜20の有機カルボン酸のアニオンであることを特徴とする請求項1に記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法。
【請求項3】
ホスフィン化合物(b)が、トリシクロヘキシルホスフィンまたはトリシクロペンチルホスフィンであることを特徴とする請求項1または2に記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法。
【請求項4】
パラジウム化合物(a)とホスフィン化合物(b)とが、下記式(4)で表される錯体を形成していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法;
〔P(R13nPd(Y)2 …(4)
(式(4)中、Pはリン原子であり、Pdはパラジウム原子であり、Yは炭素数1〜20の有機カルボン酸のアニオンであり、R1は未置換またはアルキル置換のシクロペンチル
基、シクロヘキシル基から選ばれる炭素数5〜20の置換基であり、nは1または2である。)。
【請求項5】
前記(c)が、カルベニウムカチオンのイオン性ホウ素化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法。
【請求項6】
シクロペンテン環を有する化合物が、シクロペンテン、アルキル基の炭素数が1〜3である3−アルキルシクロペンテンおよび4−アルキルシクロペンテンよりなる群から選ばれた化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法。
【請求項7】
前記式(3)で表される環状オレフィン系化合物が、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンと、アルキル基の炭素数が3〜10である5−アルキルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンとを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の環状オレフィン系付加重合体の製造方法。

【公開番号】特開2006−321912(P2006−321912A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146595(P2005−146595)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】