説明

環状オレフィン系重合体からなる成形体に放射線照射を行う方法

【課題】
分子量分布が広く、かつ変形のない環状オレフィン系重合体からなる成形体を得るために、環状オレフィン系重合体からなる成形体に放射線照射を行う方法を提供する。
【解決手段】
環状オレフィン系重合体からなる成形体に、下記の(1)〜(3)を全て満たす条件下で放射線照射を行う方法。
(1)放射線の加速電圧が50kV以上
(2)放射線の照射線量が50〜1000kGy
(3)放射線照射中の前記成形体の放射線照射部表面温度が、(Tg−50)℃以上(Tg+70)℃以下(ただしTgは前記成形体を構成する環状オレフィン系重合体のガラス転移温度)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系重合体からなる成形体に放射線照射を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系重合体は、耐熱性や透明性、低吸湿性、低吸水性、耐吸湿性、耐吸水性、耐薬品性、低複屈折性等に優れることから、光学材料、医療材料、電気絶縁材料、自動車部品材料等の幅広い分野での使用が検討されている。とりわけその透明性や低複屈折性に着目して光学製品用樹脂として開発が盛んに行われている。具体的には、ピックアップレンズなどの光学レンズやCDやDVDなどの光ディスク、偏光板保護フィルムや位相差フィルムなどの光学フィルムなどが挙げられる。
【0003】
一般的に光学レンズや光ディスクは射出成形法、射出圧縮成形法などの方法により製造され、光学フィルムは押出成形法や溶剤キャスト法などの方法により製造されている。しかしながら、環状オレフィン系重合体を用いて射出成形法や押出成形法により成形しようとした場合には、押出機のトルクが高くなり、成形品を安定的に製造することが困難であった。樹脂の成形性を改良するためには、樹脂の分子量分布を広げることが有効であることが一般的に知られており、分子量分布の広い樹脂を得る方法として、重合触媒の工夫や、分子量の異なる材料を複数種ブレンドする方法、放射線照射により分子量分布を広げる方法などが提案されている。しかしながら現在、分子量分布の広い環状オレフィン系重合体は得られていない。具体的には、重合触媒により分子量分布を広げる方法に関しては、重合自体難易度が高く困難であり、分子量の異なる材料をブレンドする方法に関しては、ブレンドした重合体を用いて得られる成形品は、ブレンドしていない重合体を用いて得られる成形品よりも透明性に劣ることがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
環状オレフィン系重合体に放射線照射を行う方法としては、環状オレフィン系重合体に放射線架橋助剤等を混合した組成物からなるフィルムの少なくとも片面に導電性金属箔を積層した後、該導電性金属箔上から放射線を照射する方法が開示されている(特許文献1参照)。しかしながらこの方法では、環状オレフィン系重合体を含む組成物からなるフィルムに導電性金属箔を積層することが必要となる。本発明者らの検討により、導電性金属箔を積層することなく放射線照射を行った場合には、環状オレフィン系重合体の分子量分布は広がるものの、著しく変形してしまうことが明らかとなった。一方、変形しない程度に放射線を照射した場合には、成形性が改良されるほど分子量分布を広げることができないことも明らかになった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−340593号公報
【0006】
本発明の目的は、分子量分布が広く、かつ変形のない環状オレフィン系重合体からなる成形体を得るために、環状オレフィン系重合体からなる成形体に放射線照射を行う方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、環状オレフィン系重合体からなる成形体に、下記の(1)〜(3)を全て満たす条件下で放射線照射を行う方法である。
(1)放射線の加速電圧が50kV以上
(2)放射線の照射線量が50〜1000kGy
(3)放射線照射中の前記成形体の放射線照射部表面温度が、(Tg−50)℃以上(Tg+70)℃以下(ただしTgは前記成形体を構成する環状オレフィン系重合体のガラス転移温度)
【発明の効果】
【0008】
本発明の環状オレフィン系重合体からなる成形体に放射線照射を行う方法によれば、照射後の成形体は分子量分布が広く、かつ放射線照射前と比べて変形のない成形体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における環状オレフィン系重合体とは、環状オレフィンモノマー由来の構成単位を10モル%以上含んでなる重合体であり、具体的には、エチレン及び炭素原子数3〜12のα−オレフィンからなる群より選択されるモノマーと後述する環状オレフィンモノマーとの付加重合体(重合体[A])、環状オレフィンモノマーの開環単独重合体または2種以上の共重合体(重合体[B])、あるいは重合体[B]の水素添加物(重合体[C])である。
【0010】
本発明における環状オレフィンモノマーとは、下記式[I]で表される化合物である。

(式中、R7〜R18はそれぞれ独立に、水素原子、水酸基、アミノ基、ホスフィノ基、または炭素原子数1〜20の有機基であり、R16とR17は環を形成してもよい。mは0以上の整数を示す。)
【0011】
炭素原子数1〜20の有機基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;アセチル基等のアシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基もしくはアラルキルオキシカルボニル基;アセチルオキシ基等のアシルオキシ基;メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基等のアルコキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基もしくはアラルキルオキシスルホニル基;トリメチルシリル基等の置換シリル基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;カルボキシル基;シアノ基;並びに上記アルキル基、アリール基およびアラルキル基の水素原子の一部が水酸基、アミノ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、置換シリル基、アルキルアミノ基もしくはシアノ基で置換された基を挙げることができる。
【0012】
7〜R18として好ましくは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数1〜20のアシル基、炭素原子数2〜20のアルコキシカルボニル基、炭素原子数1〜20のアシルオキシ基または炭素原子数1〜20の2置換シリル基である。[I]中のmは0以上の整数であり、好ましくは0≦m≦3の範囲にある整数である。
【0013】
一般式[I]で表される環状オレフィンモノマーの好ましい例としては、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、5−ベンジルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、トリシクロウンデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、5−アセチルノルボルネン、5−アセチルオキシノルボルネン、5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−シアノノルボルネン、8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−テトラシクロドデセン、および8−シアノテトラシクロドデセンを列挙することができる。
【0014】
本発明の環状オレフィン系重合体を重合する場合には、式[I]で表される環状オレフィンモノマーのうち1種類のみを用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0015】
炭素原子数3〜12のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等が挙げられる。得られる成形体の耐熱性の観点から、環状オレフィンモノマーと共重合されるモノマーは、エチレン、プロピレンまたは1−ブテンであることが好ましい。
【0016】
重合体[A]のガラス転移温度は、エチレンまたは炭素原子数3〜12のα−オレフィンと環状オレフィンモノマーとの共重合比率を変えることにより制御することができる。重合体中の各モノマー由来の構成単位の含有量は、1H−NMRスペクトルや13C−NMRスペクトルによって測定することができる。
【0017】
重合体[A]には、エチレンまたは炭素原子数3〜12のα−オレフィンと、環状オレフィンモノマー以外のビニルモノマーを共重合により導入することもできる。該ビニルモノマーとしては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどを置換基に有する脂環式ビニルモノマーや、ベンゼン環、ナフタレン環などを置換基に有する芳香族ビニルモノマーなどが挙げられる。これらのうち、ビニルシクロヘキサン、スチレン、ビニルナフタレン、及びそれらの誘導体を共重合した環状オレフィン系重合体は、光弾性係数が小さく好ましい樹脂である。光弾性係数の観点から重合体[A]におけるビニルモノマーの共重合比率は、2mol%以上であることが好ましい。また、該重合体[A]からなる成形体に耐有機溶剤性が求められる場合には、重合体[A]中のビニルモノマーの共重合比率は30mol%以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明の環状オレフィン系重合体における重合体[B]とは、式[I]で表される環状オレフィンモノマーを1種または2種以上用いて開環重合して得られる重合体である。
【0019】
本発明の環状オレフィン系重合体における重合体[C]とは、重合体[B]に水素添加して得られる重合体である。
【0020】
本発明で用いられる環状オレフィン系重合体は、公知の方法で重合することができる。重合体[A]は、例えば特許第2693596号公報に開示されるようなバナジウム化合物と有機アルミニウム化合部からなる均一系触媒により製造される。重合体[B]は、例えば特許第2940014号公報などで開示されているようなタングステン化合物とデミングの周期律表のIA、IIA、IIB族などの化合物で当該元素−炭素結合を有するものの組合せたメタセシス重合触媒を用いて製造することができる。重合体「C」は、重合体[B]を3〜150気圧下で20〜150℃の反応温度で水素ガスと反応させることにより通常得られる。
【0021】
不飽和結合を有する環状オレフィン系重合体は劣化しやすいため、本発明においては重合体[A]、または重合体[C]を用いることが好ましい。
【0022】
本発明の環状オレフィン系重合体は、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上であることが好ましく、Tgが120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が低すぎると、カーナビゲーションシステムのモニターの液晶ディスプレイや、ピックアップレンズなど耐熱性が必要な用途には使用できないことがある。環状オレフィン系重合体のガラス転移温度の上限は、成形性の観点から200℃以下であることが好ましい。重合体のガラス転移温度(Tg)は、JIS−K7121に従ってDSC法により測定することができる。
【0023】
環状オレフィン系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、GPC測定により求めることができる。測定に使用する有機溶剤への重合体の溶解度が低い場合には、高温でも測定可能なGPCを用いることが好ましい。環状オレフィン系重合体のGPC測定の結果から、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を計算し、その比(Mw/Mn)が分子量分布となる。
【0024】
環状オレフィン系重合体には、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。例えば、フェノール系やリン系、HALS等の酸化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線安定剤、アミン系などの帯電防止剤、高級脂肪酸エステル系の滑剤、あるいは放射線架橋助剤などの各種添加剤を一種、あるいは二種以上配合してもよい。添加剤を配合する場合の配合量は、通常、環状オレフィン系重合体100重量部に対し0.1〜10重量部である。
【0025】
前記放射線架橋助剤とは、該放射線架橋助剤を添加しない場合に比べて低い照射線量で環状オレフィン系重合体の分子量分布を広げることを可能とするものである。放射線架橋助剤としては、例えば、(i)エステルアクリレート類、エポキシアクリレート類、ウレタンアクリレート類、エーテルアクリレート類、メラミンアクリレート類、アルキドアクリレート類、シリコンアクリレート類等のアクリル酸類、(ii)トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等の多官能モノマー、(iii)多官能エポキシ類等が挙げられる。上記の放射線架橋助剤の中でも、環状オレフィン系重合体との相溶性に優れることから上記(ii)群中のトリアリルシアヌレートやトリアリルイソシアヌレートが好ましい。
【0026】
上記の添加剤を環状オレフィン系重合体に配合する方法は、例えば環状オレフィン系重合体に添加剤を所定量加え、ロール、ブラベンダー、押出機等を用いて、該環状オレフィン系重合体のガラス転移温度より高く、十分に重合体が流動する温度にて溶融混練する方法や、有機溶剤等に環状オレフィン系重合体を溶解して、添加剤を所定量配合して攪拌し均一化した後、再沈殿、あるいは、乾燥により有機溶剤を蒸発させる方法などが挙げられる。
【0027】
本発明における環状オレフィン系重合体からなる成形体の形状は特に限定されるものではなく、前記の環状オレフィン系重合体からなるペレットやフィルム、シート、レンズなどが挙げられる。成形体の製造方法も特に限定されるものではなく、所望の成形体の製造に適した方法により製造することができる。例えばフィルムやシートの場合には押出成形法が挙げられ、レンズの場合には射出成形法が挙げられる。
【0028】
本発明における放射線照射とは、高エネルギーを有する放射線(β線、γ線など)である。放射線を照射する装置としては、市販されているβ線照射装置やγ線照射装置に、照射する成形品の形状に合った搬送装置を取り付けたものが使用できる。装置の簡便さと汎用的であることから、β線を用いることが好ましい。
【0029】
本発明は、環状オレフィン系重合体からなる成形体に、下記の(1)〜(3)を全て満たす条件下で放射線照射を行う。
(1)放射線の加速電圧が50kV以上
(2)放射線の照射線量が50〜1000kGy
(3)放射線照射中の前記成形体の放射線照射部表面温度が、(Tg−50)℃以上(Tg+70)℃以下(ただしTgは前記成形体を構成する環状オレフィン系重合体のガラス転移温度)
前記の条件下で放射線を照射することにより、成形体の分子量分布を広げることができ、かつ照射後の成形体の変形を抑制することができる。放射線の照射線量は、好ましくは100〜600kGyである。成形体の表面温度は、好ましくは(Tg−40)℃以上(Tg+50)℃以下である。
【0030】
本発明の放射線照射時の加速電圧は、50kV以上である。加速電圧は、成形体内部への放射線の浸透具合に影響を与える条件であり、成形体の厚み方向に均一に放射線照射を行う場合には、成形体の厚みに応じた加速電圧とすることが必要である。成形体厚みが0.1mmのときは150kV以上、2mmのときでは2000kV以上の加速電圧であれば、成形体の厚み方向に均一に放射線を照射することができる。本発明において、放射線を照射する成形体が厚み50〜300μm程度のフィルムである場合には、100〜300kVの加速電圧とすることが好ましく、3〜10mmφのペレットである場合には、150〜3000kVとすることが好ましい。加速電圧が大きくなると装置が高額となり、ランニングコストも高くなるため、150〜300kVの加速電圧で照射することが好ましい。
【0031】
本発明では、放射線照射中の前記成形体の放射線照射部表面温度が、(Tg−50)℃以上(Tg+70)℃以下となるようにすることが必要である。成形体の表面温度が低すぎる場合には、成形体の表面温度を適度な温度まで上昇させる必要があり、放射線照射により成形体の表面温度が著しく上昇する場合には、表面温度を適度な温度まで下げる必要がある。本発明における放射線照射部の成形体の表面温度を制御する方法としては、照射スペースに所定の温度に温調した気体を導入する方法や、ハロゲンヒーター、赤外線ヒーターなどのヒーターにより加熱して成形体の表面温度を調整した直後に放射線を照射する方法が挙げられる。成形体がフィルムやシートである場合には、温度制御したロールに前記フィルムやシートを巻いた状態で放射線を照射することもできる。温度制御したロールを用いる場合のロール径は、フィルムまたはシートの搬送速度を考慮して決定される。
【0032】
環状オレフィン系重合体からなる成形体の放射線照射部の表面温度の測定方法としては、市販のサーモラベルを成形体表面に添付して測定する方法や、熱電対を用い、成形体表面温度を実測する方法などが挙げられる。
【0033】
成形体に放射線を照射する際には、照射スペースの酸素量が1容積%以下であることが好ましく、0.5容積%以下であることがより好ましい。酸素濃度の高い場合には、放射線照射により活性化された環状オレフィン系重合体と酸素が反応し、前記重合体の劣化反応を引き起こすことがある。劣化が進行した場合には、成形体が黄色く着色してしまうおそれがある。
【0034】
本発明の方法により放射線照射を行った成形体は、放射線照射前の成形体と比べて変形がなく、分子量分布が広い。本発明の方法により放射線照射した後の成形体を構成する重合体の分子量分布は、3.0以上となる。成形体がペレットである場合には、変形がないため押出機に投入してもスクリューへの食い込みがよく、分子量分布が広いため成形が容易である。このようなペレットを用いて押出成形や射出成形を行い、ピックアップレンズなどの光学レンズやCD、DVDなどの光ディスク、液晶ディスプレイの偏光板保護フィルムなどの光学フィルムや、医薬品の包装材、医療機器、診断用容器類のなどの医療製品などを製造することができる。また成形体がフィルムやシートである場合には、そのまま種々の用途に使用することもでき、放射線照射後のフィルムやシートをさらに延伸する等の二次加工することもできる。
【0035】
実施例
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(1)分子量および分子量分布の測定
以下の条件で環状オレフィン系重合体のGPC測定を行い、分子量および分子量分布を求めた。
測定装置:GPC 150−CALC(ウォーターズ社製)
カラム:AT−806M/S(SHODEX社製) 2本
測定温度:140℃
サンプル調整:試料約4mgにODCB約4mlを加えて、ヒーターで加熱し140℃で1時間かけて溶解させ、不溶分をフィルターで除去した後、GPC測定を行った。
(2)環状オレフィン系重合体のガラス転移温度の測定
ガラス転移温度(Tg)は、JIS−K7121に従ってDSC法により測定した。
(3)放射線照射中の成形体の放射線照射部表面温度測定
成形体表面に熱電対を耐熱性粘着テープで直接取付けた状態で放射線照射を行い、表面温度を計測した。
(4)放射線照射後の成形体の変形評価
放射線照射された後の成形体の変形具合は、目視にて良否を判定した。
【0037】
[実施例1]
環状オレフィン系重合体「APEL5014DP(Tg=136℃)」(三井化学社製、商品名)を、卓上プレスにて280℃で5分間加熱した後、100kgf/cm2の圧力で1分間加圧した。その後30℃に調整した卓上プレスに移動して5分間放置し、厚さ150μm、150mm角の環状オレフィン系重合体フィルムを作製した。該フィルムに放射線(β線)照射を行った。放射線照射には、岩崎電気(株)製放射線照射装置を用い、PET基材に前記フィルムを貼り付けた試験片を、ライン速度3.1m/minで移動させながら、酸素濃度0.03容積%の窒素雰囲気下、加速電圧150kV、照射線量250kGyの放射線(β線)を、放射線照射中の試験片の放射線照射部表面温度が150℃(Tg+14℃)となる条件下で試験片に照射した。放射線照射後の試験片を構成する環状オレフィン重合体の分子量および分子量分布の測定結果および照射後の試験片の変形評価結果を表1に示した。
【0038】
[実施例2]
環状オレフィン系重合体「APEL8008T(Tg=58℃)」(三井化学社製、商品名)を、卓上プレスにて280℃で5分間加熱した後、100kgf/cm2の圧力で1分間加圧した。その後30℃に調整した卓上プレスに移動して5分間放置し、厚さ150μm、150mm角の環状オレフィン系重合体フィルムを作製した。該フィルムを用いて、放射線照射中の試験片の放射線照射部表面温度が75℃(Tg+17℃)となるようにした以外は実施例1と同様の条件で放射線照射を行った。放射線照射後の試験片を構成する環状オレフィン重合体の分子量および分子量分布の測定結果および照射後の試験片の変形評価結果を表1に示した。
【0039】
[実施例3]
環状オレフィン系重合体フィルム「ZEONOR ZF−14(Tg=140℃、厚み100μm)」(日本ゼオン社製、商品名)から作製した4サイズの試験片を用い、放射線照射中の試験片の放射線照射部表面温度が180℃(Tg+40℃)となるようにし、照射する放射線の照射線量を600kGyとした以外は実施例1と同様の条件で放射線照射を行った。放射線照射後の試験片を構成する環状オレフィン系重合体の分子量および分子量分布の測定結果および照射後の試験片の変形評価結果を表1に示した。
【0040】
[実施例4]
120℃で5時間乾燥した環状オレフィン系重合体「TOPAS6013(Tg=140℃)」(ティコナ社製、商品名)を、シリンダー温度を280℃とした50mmφ押出機に投入して溶融混練し、前記押出機に取り付けられた450mm巾Tダイより押出した。押出されたフィルム状溶融環状オレフィン系重合体を、60℃に温度調整した250mmφのキャスティングロールを有するポリシングロールにより引き取り、厚み160μmの環状オレフィン系重合体フィルムを得た。該フィルムからA4サイズの試験片を作製し、放射線照射中の試験片の放射線照射部表面温度が103℃(Tg-37℃)となるようにした以外は実施例1と同様の条件で放射線照射を行った。放射線照射後の試験片を構成する環状オレフィン系重合体の分子量および分子量分布の測定結果および照射後の試験片の変形評価結果を表1に示した。
【0041】
[比較例1]
実施例1で得られた環状オレフィン系重合体フィルムから作製した試験片を用い、放射線照射中の試験片の放射線照射部表面温度を35℃(Tg−101℃)とし、照射する放射線の照射線量を30kGyとした以外は実施例1と同様の条件で放射線照射を行った。放射線照射後の試験片を構成する環状オレフィン系重合体の分子量および分子量分布の測定結果および照射後の試験片の変形評価結果を表2に示した。
【0042】
[比較例2]
実施例1で得られた環状オレフィン系重合体フィルムから作製した試験片を用い、放射線照射中の試験片の放射線照射部表面温度を35℃(Tg−101℃)とし、照射する放射線の照射線量を300kGyとした以外は実施例1と同様の条件で放射線照射を行った。放射線照射後の試験片を構成する環状オレフィン系重合体の分子量および分子量分布の測定結果および照射後の試験片の変形評価結果を表2に示した。
【0043】
[比較例3]
実施例2で得られた環状オレフィン系重合体フィルムから作製した試験片を用い、放射線照射中の試験片の放射線照射部表面温度を180℃(Tg+122℃)とし、照射する放射線の照射線量を300kGyとした以外は実施例1と同様の条件で放射線照射を行った。放射線照射後の試験片を構成する環状オレフィン系重合体の分子量および分子量分布の測定結果および照射後の試験片の変形評価結果を表2に示した。
【0044】
[参考例1]
実施例1で用いた環状オレフィン系重合体「APEL5014DP(Tg=136℃)」の分子量および分子量分布の測定結果を表3に示した。
[参考例2]
実施例2で用いた環状オレフィン系重合体「APEL8008T(Tg=58℃)」の分子量および分子量分布の測定結果を表3に示した。
[参考例3]
実施例3で用いた環状オレフィン系重合体フィルム「ZEONOR ZF−14(Tg=140℃、厚み100μm)」の分子量および分子量分布の測定結果を表3に示した。
[参考例4]
実施例4で用いた環状オレフィン系重合体「TOPAS6013(Tg=140℃)」の分子量および分子量分布の測定結果を表3に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系重合体からなる成形体に、下記の(1)〜(3)を全て満たす条件下で放射線照射を行う方法。
(1)放射線の加速電圧が50kV以上
(2)放射線の照射線量が50〜1000kGy
(3)放射線照射中の前記成形体の放射線照射部表面温度が、(Tg−50)℃以上(Tg+70)℃以下(ただしTgは前記成形体を構成する環状オレフィン系重合体のガラス転移温度)