説明

環状カーボネート合成用触媒

【課題】触媒単位重量もしくは単位表面積あたりの活性を高めることを通じて、従来の環状カーボネート製造において生産量に比して反応装置の小型化を可能とし、さらに高収率、高選択率で環状カーボネートを与え、反応後の触媒分離も比較的容易であり、工業的に有利に安全で資源の無駄を省き、より小さな装置での生産を合理的に行うことが可能な環状カーボネートの合成用触媒を提供する。
【解決手段】オニウム塩化合物とメソポーラスシリカを含有する触媒を用いる。オニウム塩化合物としては、第15族を含むイオン性物質、好ましくは、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機アルソニウム塩、および有機アンチモニウム塩から選ばれる物質を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシドと二酸化炭素から環状カーボネートを合成する際に用いられる触媒および該触媒を用いた環状カーボネートの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状カーボネートは、ポリカーボネート原料、ジアルキルカーボネート及びアルキレングリコール合成の中間体、有機溶剤、合成繊維加工剤、医薬品原料、化粧品添加剤、リチウム電池用電解液溶媒、電気二重層キャパシター用電解質溶媒として広い用途に使用される重要な化合物である。
従来、この環状カーボネートは、エポキシドと二酸化炭素を均一系触媒の存在下、適当な加圧条件のもとで反応させることにより製造されている。このような均一系触媒としては、アルカリ金属等のハロゲン化物(特許文献1等)や第4級アンモニウム塩等のオニウム塩(特許文献2等)が古くから知られており、工業的に用いられている。
また最近では、アルカリ金属ハロゲン化物や、本発明者等によって見出された方法である、フッ化アルキルホスホニウム塩の存在下、超臨界状態の二酸化炭素を試薬のみならず反応媒体として利用した環状カーボネートの製造方法が提案されている(特許文献3)。
【0003】
触媒分離プロセスの簡素化を目的とした固体触媒の利用も提案されている。イオン交換樹脂(特許文献4等)、ハイドロタルサイトなどの塩基性層状化合物(特許文献5)、希土類化合物(特許文献6)、タングステン酸化物又はモリブデン酸化物を主体とするヘテロポリ酸(特許文献7)などが開示されている。また、マグネシアが固体触媒として利用できることが報告されている(非特許文献1)。
しかしながら、多くの固体触媒は一般に均一系触媒に比べ活性、収率や選択性の面で充分ではなく、またイオン交換樹脂についても分子触媒の性能を上回る活性を示すことはない。
【0004】
これらの問題点を解決するために、先に本発明者等は、シリカとオニウム塩を共有結合的に結合したハイブリッド触媒あるいはこれらの混合触媒が選択性、活性ともに従来触媒を上回る性能を有するうえに分離プロセスを容易にし、安価かつ安全に選択性を損なうことなく触媒活性を大幅に向上させることができる触媒を提案した(特許文献8)。
【0005】
【特許文献1】特公昭63−17072号公報
【特許文献2】特開昭55−145623号公報
【特許文献3】特開平11−335372号公報
【特許文献4】特開平3−120270号公報
【特許文献5】特開平11−226413号公報
【特許文献6】特開2002−363177号公報
【特許文献7】特開平7−206847号公報
【特許文献8】PCT/JP2005/003388
【非特許文献1】Chem. Commun., 1997, 1129
【非特許文献2】JACS, 1992, 114,10834.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記特許文献8に記載の発明の更なる改良を図るためになされたものであって、触媒単位重量もしくは単位体積あたりの活性を高めることを通じて、従来の環状カーボネート製造において生産量に比して反応装置の小型化を可能とし、さらに高収率、高選択率で環状カーボネートを与え、反応後の触媒分離も比較的容易であり、工業的に有利に安全で資源の無駄を省き、より小さな装置での生産を合理的に行うことが可能な環状カーボネートの合成用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した触媒の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、オニウム塩化合物とメソポーラスシリカとの混合物が、触媒単位重量もしくは単位表面積あたりの活性を高めることを通じて、従来の環状カーボネート製造において生産量に比して反応装置の小型化を可能とし、さらに高収率、高選択率で環状カーボネートを与え、反応後の触媒分離も比較的容易であり、工業的に有利に安全で資源の無駄を省き、より小さな装置での生産を合理的に行うことが可能な環状カーボネートの合成用触媒として有用であることを見出した。
【0008】
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉オニウム塩化合物とメソポーラスシリカを含有することを特徴とする、エポキシドと二酸化炭素から環状カーボネートを合成する際に用いられる触媒。
〈2〉オニウム塩化合物が、第15族を含むイオン性物質であることを特徴とする上記〈1〉に記載の触媒。
〈3〉第15族を含むイオン性物質が、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機アルソニウム塩、および有機アンチモニウム塩から選ばれる物質であることを特徴とする上記〈2〉に記載の触媒。
〈4〉有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機アルソニウム塩及びアンチモニウム塩から選ばれる塩が、ハロゲン化物であることを特徴とする上記〈3〉に記載の触媒。
〈5〉有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機アルソニウム塩及び有機アンチモニウム塩から選ばれた塩の陰イオンが、硫酸イオン、硫酸水素イオン、燐酸イオン、燐酸水素イオン、燐酸二水素イオン、シアン化物イオン、イソチオシアン酸イオンおよびイソシアン酸イオンから選ばれた1種であることを特徴とする上記〈4〉に記載の触媒。
〈6〉メソポーラスシリカが孔径1nm〜10nmの円柱状の孔をもつものであることを特徴とする上記〈1〉〜〈5〉の何れかに記載の触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明の触媒は、触媒単位重量もしくは単位表面積あたりの活性を高めることを通じて、従来の環状カーボネート製造において生産量に比して反応装置の小型化を可能とし、さらに高収率、高選択率で環状カーボネートを与え、反応後の触媒分離も比較的容易であり、工業的に有利に安全で資源の無駄を省き、より小さな装置での生産を合理的に行うことが可能となる。
したがって、本発明の触媒によれば、リチウム電池用電解液溶媒、有機溶剤、合成繊維加工剤、医薬品原料、更にはアルキレングリコール及びジアルキルカーボネート合成の中間体として有用な環状カーボネートを、エポキシドと二酸化炭素から極めて高効率、高選択率で得ることができる。また、流通反応系での利用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のエポキシドと二酸化炭素からの環状カーボネートの合成反応は下記一般式(1)で示される。
【化1】

【0011】
上記一般式(1)において、R1、R2、R3およびR4は水素原子または置換基を有するかもしくは無置換の有機基であり、さらに詳しくはアルキル基、アリール基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基を表し、互いに同じであっても異なっていてもよい。ここでいう置換基とはハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、ジアルキルアミノ基、ニトロ基、カルボニル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アセトキシ基、シアノ基、水酸基、メルカプト基、スルホン基等であるがこれらの置換基に限定されるものではない。またR1〜R4はそのいずれかもしくは複数が環状に結合していてもよく、不飽和結合を含んでいてもよい。
【0012】
本発明で用いるエポキシドは下記一般式(2)で示される化合物である。
【化2】

【0013】
上記一般式(2)において、 R1、R2、R3およびR4は前記一般式(1)の場合と同じである。R1〜R4はそのいずれかもしくは複数が環状に結合していてもよく、ヘテロ元素や不飽和結合を含んでいてもよい。具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、ビニルエチレンオキシド、トリフルオロメチルエチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、ブタジエンジオキシド、クロラール、2−メチル-3-フェニルブテンオキシド、ピネンオキシド、テトラシアノエチレンオキシド、等が例示されるが、本発明はこれらのエポキシドに限定されるものではなく、炭素原子2つと酸素原子1つからなる3員環を構造式中に少なくとも1つ含む、いわゆるエポキシ系化合物であればさしつかえない。
【0014】
本発明において製造される環状カーボネートは下記一般式(3)で示される化合物である。
【化3】

【0015】
上記一般式(3)において、 R1、R2、R3およびR4は前記一般式(1)の場合と同じである。R1〜R4はそのいずれかもしくは複数が環状に結合していてもよく、ヘテロ元素や不飽和結合を含んでいてもよい。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、シクロヘキセンカーボネート、スチレンカーボネート、ブタジエンモノカーボネート、ブタジエンジカーボネート、クロロメチルカーボネート、ピネンカーボネート、テトラシアノエチレンカーボネート等が例示されるが、本発明において製造される環状カーボネートはこれらに限定されるものではなく、O−CO−O結合を有する5員環を含む、いわゆる環状カーボネートであればさしつかえない。
【0016】
本発明において使用される触媒は、オニウム塩化合物とメソポーラスシリカを含む混合系触媒である。この混合系触媒は、特別な前処理を必要とせず、通常、オニウム塩化合物とメソポーラスシリカとを混合して用いるだけで自動的に有効に働く。
【0017】
本発明の混合系触媒における物質の混合方法には特に前処理を必要としないが、バッチ反応で用いる場合は仕込み開始直後から活性を発現させるためにオニウム塩溶媒にあらかじめ溶解させたうえでメソポーラスシリカを共存させ、シリカ表面にオニウム塩をよくゆきわたらせておくことが有効である。このとき用いるべき溶媒としてはオニウム塩をよく溶解することが必要である。このためにふさわしい物質としてはアミド、エステル、ケトン、アルコール等が考えられるが、反応後の精製を考慮するともっとも適した溶媒は生成物である環状カーボネートそのものを用いることである。
なお、後記の実施例においては生成物との区別を容易にし、副生成物の生成を押さえるために異なる種類の環状カーボネートを溶媒として用いている。
【0018】
本明細書でいう、「オニウム塩化合物」とは第15族元素を含むイオン性物質を意味する。
これらの第15族元素を含むイオン性物質は、一般に、一般式ER5R6R7R8Xで表すことができる。
ここでEは第15族元素(窒素、リン、砒素、アンチモン、ビスマス)のうちの一種を表す。
R5〜R8は置換されていてもよい有機基を表し、より詳しくはアルキル基、アリール基等を表し、これらのうち2ないし4個が環状に結合していてもよい。またはこの場合の環は二重結合もしくは三重結合を包含してもよい。したがって、イミダゾリニウム、ピリジニウム、テトラゾリニウム等のような含窒素複素環型の塩も内包される。
【0019】
Xは陰イオンであり、ハロゲン化物イオン、燐酸イオン、燐酸水素イオン、燐酸二水素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、有機酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ホウ酸イオン、ホウ酸水素イオン、ホウ酸水素イオン、アルキルまたはアリール硫酸イオン、モノまたはジアルキル燐酸イオン、モノまたはジアリール燐酸イオン、モノまたはジアルキルホウ酸イオン、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン、カルボン酸イオン、テトラフルオロボレートイオン等から選ばれる1種類ないしは複数の陰イオンであって、好ましくは、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、シアン化物イオン、燐酸イオン、イソシアン酸イオン、イソチオシアン酸イオン等であり、さらに好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンである。
本発明で好ましく用いられるオニウム塩化合物は、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機アルソニウム塩及び有機アンチモニウム塩から選ばれた少なくとも一種の塩である。
【0020】
このような第15族元素を含むイオン性物質の具体的な例としては、テトラエチルアンモニウムブロミドやセチルトリメチルアンモニウムブロミドやベンザルコニウムクロリド等四級アンモニウムハライド、トリフェニルブチルホスホニウムクロリドやテトラブチルホスホニウムヨージドやテトラフェニルホスホニウムブロミド等四級ホスホニウムハライド、トリフェニルベンジルアルソニウムヨージドやテトラフェニルアルソニウムクロリド等四級アルソニウムハライド、テトラフェニルアンチモニウムブロミド等四級アンチモニウムハライド等が挙げられる。
【0021】
本発明で用いる「メソポーラスシリカ」とは、シリカを主体とする骨格からなり、数ナノメートルオーダーの均一なナノ細孔を有する多孔体であって、細孔がヘキサゴナルあるいはキュービック相に配列した三次元規則性を持つものをいう。
【0022】
具体的には、このメソポーラスシリカは、図1に概略的に示すように極めて均一な孔径を有する微細孔がヘキサゴナル状に並んだ構造を有するものであり、このような微細孔構造は優れた三次元高規則性を有すると言うことができる。
【0023】
この場合、三次元高規則的な柱状に配列した界面活性剤の周りに、ゲル状の加水分解物が配列したものか、ゲル状加水分解物と界面活性剤との複合体を焼成することによって得られた焼成体が好ましい。焼成体としては350〜700℃で1時間以上されているものが好ましい。
【0024】
この三次元高規則性はメソポーラスシリカの(100)面のX線回折ピークの半値幅により評価することができる。一般に無機材料はX線回折ピークの半値幅が小さいほど高い結晶性を有するが、メソポーラス体の場合、半値幅は微細孔の規則性(孔径分布及び三次元配列)とも相関している。(100)面のX線回折ピークの半値幅が1°以下であると、三次元高規則性に優れていると言える。半値幅は0.8°以下であるのが好ましく、0.6°以下であるのがより好ましく、0.3°以下であるのが特に好ましい。
【0025】
メソポーラスシリカの孔径は、好ましくは1〜10 nmであり、更に好ましくは1.2〜6nmであり、より好ましくは1.2〜4.0 nmである。孔径が小さすぎると拡散が遅くなるために表面積に比して活性が低下する場合がある。一方孔径が大きすぎるとメソポーラスであることによる特別な効果については失われてしまう。
【0026】
このメソポーラスシリカの孔径は、特開2005-162596号公報にみられるのと同様にガス吸着法により求めた孔径分布のピークにおける孔径と定義する。またガス吸着測定は、メソポーラスシリカを300℃で8時間減圧乾燥(真空脱気)した後、−196℃で行うこととする。減圧乾燥時の圧力は10-1 Pa以下とするのが好ましく、10-2 Pa以下とするのがより好ましい。
【0027】
本発明において、メソポーラスシリカはシリカを主体とする限り、その成分は限定されない。
シリカ中に微量もしくは少量の炭素、鉛、錫、ホウ素、アルミ、ガリウム、インジウム、窒素、リン、ヒ素、アンチモン、チタン、ジルコン、ハフニウム等の元素を含むものであってもよい。
また、骨格以外の部分に有機物を含有しても良い。例えば焼成を行う前の乾燥メソポーラス体の微細孔内には、カチオン界面活性剤等の有機物が含まれていてもよい。
【0028】
本発明のメソポーラスシリカとしては、その表面積は500〜2000m2・g-1の対重量比表面積もの、好ましくは600〜1800m2・g-1、さらに好ましくは800〜1600cm2・g-1の表面積をもつものが好ましい。
【0029】
本発明のメソポーラスシリカの形態に特に制限はないが、通常、微粉状、薄膜状、あるいは平均粒径0.1〜10 mm程度の球形または円柱状の粒子である。
【0030】
本発明で好ましく使用されるメソポーラスシリカとして、入手容易なものとしては、たとえば、J.S.Beckら、J.Am.Chem.Soc.,114、10834(1992)、に記載されているアルキルトリメチルアンモニウムからなる界面活性剤の集合体をテンプレートとして用い、水熱合成によって得られるメソポーラスシリカ(MCM−41)が挙げられる。
【0031】
また、特開2005-162596号公報にみられる同様の分子集合体を鋳型としたシリカもしくはほかの金属酸化物のアルコキシドからの酸塩基触媒による加水分解縮合を室温付近で起こさせ、減圧乾燥によって得られる固形物を焼結してつくられるメソポーラスシリカ(MPS−C16)等も有効である。この固体は機械的強度、化学的強度、表面積あたりの嵩体積の小ささなどの点でMCM−41よりもさらに好ましい。
【0032】
上記メソポーラスシリカ(MPS-C16)は(a)ケイ素のアルコキシド及び/又はその重縮合物と、界面活性剤と、水及びアルコールからなる溶液と、酸とを含有する反応溶液中で、前記金属アルコキシド及び/又は前記重縮合物を加水分解し、(b) 得られた加水分解物溶液の溶媒を揮発させる方法により、粉状又は粒状のナノポーラス体が効率よく生成する。
また、前記加水分解物溶液の溶媒は、減圧雰囲気中で揮発させるのが好ましい。減圧雰囲気中で揮発させることにより、溶媒を効率よく除去することができる。前記加水分解物溶液が沸騰しない程度の圧力に減圧しながら溶媒を揮発させるのが好ましい。また前記加水分解物溶液の均一性を維持するように強制的に流れを起こしながら、前記溶媒を揮発させるのが好ましい。前記溶媒は0〜70℃で揮発させるのが好ましい。また加水分解物溶液を酸性にして前記溶媒を揮発させるのが好ましい。
【0033】
前記ケイ素のアルコキシド及び/又は前記重縮合物にはケイ素の他に少量のアルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属のアルコキシド及び/又はその重縮合物が含まれていてもよい。前記界面活性剤はカチオン界面活性剤又はノニオン界面活性剤であるのが好ましく、四級アンモニウム系界面活性剤であるのがより好ましい。
【0034】
上記のような本発明において使用されるメソポーラスシリカは、単位重量あたりもしくは単位嵩あたりの比表面積が十分に大きく、かつ十分な機械的化学的安定性を有するものである。
【0035】
オニウム塩化合物とシリカの使用割合はオニウム塩が少なすぎるとシリカ上の不活性な吸着点への吸着のみが起こり、活性が現れない。またオニウム塩が多すぎると溶液が粘稠となりさらには固体が析出するため触媒分離等にとって不利な状態となる。オニウム塩とシリカの重量比は好ましくは0.1:1から10:1であり、さらに好ましくは0.5:1から2:1である。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0037】
参考例1
[メソポーラスシリカ(MPS-C16)の合成]
セチルトリメチルアンモニウムクロライド19.2 gと、エタノール(純度99.5体積%以上)138.0 gとを500 mLのガラスビーカーに入れ、マグネチックスターラーを使用して、常温で15分間撹拌した。次にテトラエチルオルトシリケート(純度98%)62.5 gと、塩酸水溶液(10−3 M)54.0 gとを加えて常温で1時間撹拌し、透明な加水分解物溶液を得た。物性定数推算法[化学工学便覧第3版 丸善(株)]によると、この加水分解物溶液の動粘度は、2cm2/secであった。
【0038】
この加水分解物溶液を1000 mLナス型フラスコ(最も径の大きい部分の内径13.2 cm)に移し、ロータリーエバポレータ(40 rpm)を使用して、25℃の温度及び60 hPaの減圧状態で90分間反応させ、白色の析出物を得た。次いで60℃に昇温するとともに、減圧度を10
hPaに上げて、白色析出物を十分に乾燥した。得られた個体を600℃で焼成して、カチオン界面活性剤を除去した。得られた焼成体のX線回折分析(XRD)、及び窒素ガスによる吸着等温線により多孔構造の構造規則性の評価を行った。メソポーラスシリカ(MPS-C16)のX線回折パターン及び窒素吸着等温線を示すグラフを図2及び図3に示す。メソポーラスシリカは高い三次元高規則性を有していることがわかった。
またこの実験で得られた表面積ならびに規則性細孔のサイズのデータを表1に示す。
【0039】
参考例2
[メソポーラスシリカ(MCM−41)の合成]
40gの水、18.7gのナトリウムシリケート28.7%シリカ溶液と1.2gの亜硫酸を混合し、攪拌する。10分間攪拌を続けた後、C16H33(CH3)3NBr 16.77gを水50.23gに溶かした溶液を加えてさらに30分攪拌を続ける。ゲル状となったものに20gの水をさらに加える。このゲルは100℃で144時間加熱する。この操作により水溶液中から固体が得られた。
この固体を回収して540℃で1時間加熱する。得られた固体はXRD及び窒素ガスによる吸着等温線により多孔質構造の構造規則性の評価を行った。メソポーラスシリカ(MCM-41)のX線解説パターン及び窒素吸着等温線を示すグラフは文献のものとほぼ一致した。またこの実験で得られた表面積ならびに規則性細孔のサイズのデータを表1に示す。メソポーラスシリカは文献と同様、高い三次元高規則性を有していることがわかった。
【0040】
また、参考例1および2で得たメソポーラスシリカの単位質量あたりの嵩体積の測定をJIS K1550に準じて、より少量での測定を行なうために5〜8 mlの試料について10 mlのメスシリンダーで計り取ったうえ、その重量を10 mgの単位まで正確に量った上でシリカの詰まったメスシリンダーをゴム板の上で約1分間たたいて紛体を詰め、すきまなく均一に詰まっていることを目視により確認した上で0.05 mlの単位まで正確に読み取って求めた体積でシリカの重量を割ることによって求めた。結果を表1に示す。なお、表1には、一方分離用シリカゲルSG60Nについて同様の実験を行い、その値も同じ表に示した。
この表1から MPS-C16はMCM-41と比較して嵩密度が大幅に高く、単位重量あたりの表面積は同程度でありながら単位嵩体積あたりの表面積は倍であることが判る。一方分離用シリカゲルSG60Nは嵩密度は中程度であるが単位重量あたりの表面積はメソポーラスシリカの半分程度であり、単位嵩体積あたりの表面積はふたつのメソポーラスシリカの中間にあたることが判る。
【0041】
実施例1〜2、比較例1
触媒として一定量の市販のテトラブチルホスホニウムブロミド、表1に示した2種のメソポーラスシリカと通常のシリカゲル各200mgと、溶媒としてエチレンカーボネート2.6 g(溶解時約2.0 ml)、内部標準としてアダマンタン50mgとを攪拌機、圧力ゲージ、ニードルバルブを具備した容積20mlのオートクレーブ中にアルゴン下で仕込み、注射筒を用いてプロピレンオキシド2 .0ml ( 28.6 mmol )を加えたうえで密封し、ニードルバルブを介して室温の液体CO2を充填する。これを密封し、所定の温度に設定したオイルバス中で攪拌しながら約5分間加熱する。さらにバルブから高圧CO2を圧入し一定圧力としたうえで、加熱を続けて反応をうながす。反応中、圧力が著しく低下した場合にはさらにニードルバルブからCO2を追加し、内部の圧力をほぼ一定に保ちながら一時間反応を続ける。反応後、容器の圧開放時には放出されるガスをDMFトラップを通じて気相中に残っている原料のプロピレンオキシドや生成物であるプロピレンカーボネートの一部をできるだけ完全にトラップする。このDMF溶液と反応液をあわせた全体をよく均一にしたうえでろ過し、ろ別されたシリカゲルを再度DMFで洗った洗液とともによく均一にまぜた溶液をガスクロマトグラフィーによって分析した。プロピレンカーボネートの生成モル量から収率を計算し、副生成物の生成量を考慮して選択率を計算した。なお水分が十分に取り除かれた原料を用いた場合、選択率はいずれも99.8%を超えていた。収率の結果を表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
上記の表1から明らかなように、同じ重量の通常のシリカ(比較例1:SG60N)を触媒として用いた場合と比較してメソポーラスシリカ(実施例1:MPS-C16、実施例2:MCM-41)を用いると収率が明らかに向上していることがわかる。このように通常のシリカに比して大表面積を有するメソポーラスシリカを用いる利点は明らかである。
【0045】
上記実施例と比較例における収率の比較はシリカの重量をそろえた実験(単位重量当たりの収率)によって行ったが、上記メソポーラスシリカは分離用シリカゲルであるSG60Nよりも1.5倍程度高表面積であるため、シリカ単位表面積(100m2)に換算した反応速度定数(ks)でこれらを比較し直すことで単位表面積あたりの触媒性能を比較した。その結果を表3に示す。
なお、単位表面積当たりの反応速度定数ks/min-1m-2は、系の擬一次反応速度定数(k':単位はmin-1)をそれぞれ用いたシリカの表面積で除することによって求めた。
k' =−ln(1−y(t))/t
t:反応時間(min)
y(t):時刻tにおける生成物のモル分率(収率)
【0046】
【表3】

【0047】
表3から、テトラエチルアンモニウム塩をシリカに対して比較的大量に用いると、シリカゲル60Nでは活性が飽和しているのに対し、ふたつのメソポーラスシリカでは活性が上昇し、表面積あたりの活性で分離用シリカゲルのそれをそれぞれ1.5倍または2.3倍上回ることがわかる。この事実は表面ばかりではなく、孔内におかれているアンモニウム塩も通常の液相中のそれよりも高い活性を担っている可能性を示唆する。
【0048】
更に、上記実施例と比較例において、単位体積(1cm3)に換算した反応速度定数(ks)を比較し、嵩体積あたりの触媒性能を比較した。その結果を表4に示す。
なお、単位体積当たりの反応速度定数kv(min-1・cm-3)は、系の擬一次反応速度定数(k':単位はmin-1)をそれぞれ用いたシリカの体積で除することによって求めた。
k' =−ln(1−y(t))/t
t:反応時間(min)
y(t):時刻tにおける生成物のモル分率(収率)
【0049】
【表4】

【0050】
表4から、メソポーラスシリカではそれと同量以上のオニウム塩を加えた場合にシリカゲル60Nよりも高い活性を示している。とりわけこの効果はMPS-C16が大きく、シリカ表面だけではなく、孔内にあるオニウム塩も溶液中のそれよりも高い触媒活性を発現している可能性を示唆する。
また、MPS-C16はMCM-41と比べて均一かつ稠密で嵩密度が高い。このことはおそらく多孔質固体触媒の外表面積が低いことが関係していると予想される。
【0051】
以上のことから、高表面積をもつメソポーラスシリカとオニウム塩を用いることでシリカの単位重量あたりの触媒活性を増大させうることが明らかになった。とりわけMCM-41でこの効果は顕著である。一方、MPS-C16などの特定のメソポーラスシリカを用いることによって触媒粒子の嵩体積あたりの活性を増大しうる。これらメソポーラスシリカにおいては表面だけではなくメソ孔内にあるオニウム塩も溶液中にあるそれよりも高い触媒活性をもち、シリカはその高い活性を発現する場として働いていることが予想される。これらのメソポーラスシリカの利用によって環状カーボネートの合成をより効率よく行うことができるようになるほか、小さなリアクターでの生産効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】メソポーラスシリカの微細構造の概略断面図。
【図2】メソポーラスシリカ(MPS-C16)のX線結晶回折データ。
【図3】メソポーラスシリカ(MPS-C16)の-196℃での窒素の吸着等温線データ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オニウム塩化合物とメソポーラスシリカを含有することを特徴とする、エポキシドと二酸化炭素から環状カーボネートを合成する際に用いられる触媒。
【請求項2】
オニウム塩化合物が、第15族を含むイオン性物質であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
第15族を含むイオン性物質が、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機アルソニウム塩、および有機アンチモニウム塩から選ばれる物質であることを特徴とする請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機アルソニウム塩及びアンチモニウム塩から選ばれる塩が、ハロゲン化物であることを特徴とする請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機アルソニウム塩及び有機アンチモニウム塩から選ばれた塩の陰イオンが、硫酸イオン、硫酸水素イオン、燐酸イオン、燐酸水素イオン、燐酸二水素イオン、シアン化物イオン、イソチオシアン酸イオンおよびイソシアン酸イオンから選ばれた1種であることを特徴とする請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
メソポーラスシリカが孔径1nm〜10nmの円柱状の孔をもつものであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−209926(P2007−209926A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34189(P2006−34189)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】