説明

環状シリコーン樹脂を含んだ感光性アルカリ可溶性樹脂組成物及びこれを用いた硬化物

【課題】耐候性、耐光性、耐熱性に優れ、微細パターンの形成が可能な感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(i)一般式(1)で表されて、1分子内にカルボキシル基及び重合性不飽和基を有した感光性アルカリ可溶性樹脂、


〔R1は炭素数1〜10の炭化水素基であり、R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Xは重合性二重結合、カルボキシル基を含むイソシアヌル環を有する置換基。nは3〜6の数を表す。〕
(ii)少なくとも1個以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、及び(iii)光重合開始剤を必須の成分として含有する感光性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線又は電子線を照射することにより硬化し、尚且つ、アルカリ現像処理によるパターン形成が可能な感光性樹脂組成物、及びこれを用いた硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂は、電気特性、接着性、耐熱性、低吸水性等に優れており、電子材料分野等の多くの分野で使用されている。特に、分子内にエポキシ基を有するエポキシシリコーン樹脂は、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂に比べて耐候性、耐光性に優れていることから発光ダイオード(LED)封止材として有用である。詳しくは、LED素子から放出される光や熱による樹脂の劣化や経時変色を低減できる。しかし、これらの樹脂はアルカリ現像処理によるパターン形成能が無く、用途に制約がある。
【0003】
また、LED封止材等の電子材料分野において有用な樹脂組成物として、例えば特許文献1には、芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られる水素化エポキシ樹脂と多価カルボン酸を反応して得られるエポキシ当量が230〜1000g/eq.のエポキシ樹脂と環状オレフィンをエポキシ化して得られる脂環式エポキシ樹脂、及びこれを用いた封止用エポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、エポキシ基とビニル基を有するイソシアヌル酸化合物とシリコーン化合物を付加させ、側鎖にエポキシ基を有するイソシアヌル酸が導入されたシリコーン化合物が開示されている。特許文献3には、ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物を用いたカラーフィルター保護膜用樹脂組成物が開示されている。しかし、ここで例示されている化合物は、いずれもアルカリ現像処理によるパターン形成能を有していない。
【0004】
一方、特許文献4には、重合性二重結合とカルボキシル基を有する、カラーフィルター向けアルカリ可溶性芳香族樹脂化合物が開示されている。しかし、ここで例示されている化合物は芳香族基を有しているため、LED等から放出される光や熱による樹脂の劣化、経時変色が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-277473号公報
【特許文献2】特開2004-099751号公報
【特許文献3】特開2004-69930号
【特許文献4】特許第3509269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、上述したような、従来の樹脂組成物における課題を解決するために鋭意検討した結果、多官能エポキシ環状シリコーン化合物と重合性二重結合を含有するカルボン酸とを反応させて得られる多価アルコール化合物に、ジカルボン酸又はその酸一無水物を反応させることにより、感光性樹脂組成物の形成に好適なアルカリ可溶性環状シリコーン樹脂が得られることを見出した。そして、このアルカリ可溶性環状シリコーン樹脂を用いることで、環状シリコーン樹脂の有する耐候性、耐光性、耐熱性を維持したまま、アルカリ現像性を付与した感光性樹脂組成物を得ることに成功した。
【0007】
従って、本発明の目的は、耐候性、耐光性、耐熱性等に優れ、微細パターンの形成が可能な、環状シリコーン樹脂を含んだアルカリ可溶性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、(i)下記一般式(1)で表されて、1分子内にカルボキシル基、及び重合性不飽和基を有した感光性アルカリ可溶性樹脂、
【化1】

〔但し、R1は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Xは一般式(2)で示される置換基であり、X1及びX2はそれぞれ重合性二重結合を含み、少なくとも一方はカルボキシル基を含む。nは3〜6の数を表す。〕
【化2】

(ii)少なくとも1個以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、及び
(iii)光重合開始剤
を必須の成分として含有することを特徴とする感光性樹脂組成物である。
【0009】
本発明の好ましい実施の態様を以下に示す。すなわち、一般式(1)におけるXは、好ましくは下記一般式(3)で表される置換基である、上記感光性アルカリ可溶性樹脂組成物である。
【化3】

(但し、R3は水素原子又はメチル基を示す。R4は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子、又はエステル結合を含んでいても良い。R5は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Lは下記一般式(4)で表される置換基、又は水素原子を示す。)
【化4】

(但し、M1は2または3価のカルボン酸残基を示し、qは1または2である)
【0010】
また、本発明は、上記(i)〜(iii)成分に加えて、更に光又は熱によって重合又は硬化するその他の樹脂成分を含んだ感光性樹脂組成物としてもよい。その他の樹脂成分は、例えば2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂等を例示することができる。
【0011】
更に、本発明は、上記感光性樹脂組成物を塗布し、硬化させて得られる硬化物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂を含む感光性樹脂組成物は、従来、電子材料分野などで使用されていた樹脂組成物に比べて耐候性、耐光性、及び耐熱性が高く、かつアルカリ現像性を有する。すなわち、耐候性、耐光性、及び耐熱性に優れた硬化物を得ることができ、尚且つ微細パターンを形成することができる。そのため、本発明の感光性樹脂組成物は、カラーフィルター関連材料をはじめ、半導体デバイス等の保護層、封止材、接着剤として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の感光性樹脂組成物について詳細に説明する。
本発明の一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂は、後述するように、多官能エポキシ樹脂の有するエポキシ基に、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸のカルボキシル基が結合して形成された多価アルコール化合物に由来する光硬化性を有するほか、その多価アルコール化合物に、酸一無水物を反応させたことに由来する酸性基を含有するため、アルカリ可溶性を有する。
【0014】
一般式(1)の感光性アルカリ可溶性樹脂は、多官能エポキシ環状シリコーン化合物(以下、単に「エポキシ環状シリコーン化合物」という場合がある)が有するエポキシ基に、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸のカルボキシル基を反応させ、得られた重合性二重結合を有する多価アルコール化合物(以下、「エポキシアクリレート環状シリコーン化合物」という場合がある)に、ジカルボン酸類又はその酸一無水物を反応させて得られた、カルボキシル基を含有するエポキシアクリレート環状シリコーン樹脂である。一般式(1)の感光性アルカリ可溶性樹脂は、重合性二重結合とカルボキシル基とを併せ持つため、アルカリ現像型感光性樹脂組成物としたときに優れた光硬化性、良現像性、及びパターニング特性を与える。
【0015】
一般式(1)で表わされる感光性アルカリ可溶性樹脂の製造方法について詳細に説明する。まず、一般式(5)で表されるエポキシ環状シリコーン化合物と、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸とを反応させて、エポキシアクリレート環状シリコーン化合物を合成する。
【化5】

(但し、R1は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Yはイソシアヌル環骨格に、エポキシ基を含んだ基が結合した置換基を示す。nは3〜6の数を表す。)
【0016】
ここで、一般式(5)のR1は炭素数1〜10の炭化水素基であり、このような炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基等の直鎖状炭化水素基、シクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基、フェニル基等の芳香族炭化水素基が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、それぞれ同一でも異なっていても良い。なかでも好ましくはメチル基である。また、R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。このような炭化水素基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基、デシレン基、ドデシレン基又は下記一般式(5)で表される2価の置換基等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、それぞれ同一でも異なっていても良い。なかでも好ましくはプロピレン基である。
【化6】

(但し、R6は炭素数1〜17の炭化水素基又は単結合である。)
【0017】
また、一般式(5)におけるYは、イソシアヌル環骨格に、エポキシ基を含んだ基が結合した置換基を示し、好ましくは、−R7−(R8−E)2で表すことができる。ここで、R7はイソシアヌル環骨格からなる基であり、R8は、直結合又は鎖状の炭化水素基であることが好ましいが、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Eはエポキシ基である。この好ましいYについて、具体例として下記一般式(7)で表される置換基が例示できる。
【化7】

【0018】
このようなエポキシ環状シリコーン化合物と、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸との反応は、公知の方法を使用することができ、例えば、環状シリコーン化合物におけるエポキシ基1モルに対し、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸のカルボキシル基1モルを反応させて行う。この反応で得られる反応物は、重合性二重結合と水酸基とを有するエポキシアクリレート環状シリコーン化合物である。この場合、重合性二重結合を少なくとも1つ含有するカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸を挙げることができ、また、下記一般式(8)に示すようなアクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレートとジカルボン酸又はその酸一無水物との反応で得られる重合性二重結合を有するジカルボン酸のモノエステル類も挙げられる。
【化8】

(但し、R3は水素原子又はメチル基を示し、R9は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。M2は2価のカルボン酸残基を示す。)
【0019】
次に、上記で得られた重合性二重結合と水酸基とを有するエポキシアクリレート環状シリコーン化合物と、ジカルボン酸又はその酸一無水物との反応によって、一般式(1)で表される本発明の感光性アルカリ可溶性樹脂を得る方法を説明する。
【0020】
すなわち、前述のエポキシアクリレート環状シリコーン化合物の水酸基に対して、酸成分を反応させることで、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂を得る。この際、使用する溶媒、触媒等の反応条件に関しては特に制限されないが、例えば水酸基を持たず、反応温度より高い沸点を有する溶媒を反応溶媒として用いるのが良く、このような溶媒としては、例えば、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系溶媒や、ジグライム、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の高沸点のエーテル系若しくはエステル系の溶媒や、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶媒等であるのが良い。また、使用する触媒としては、例えばテトラエチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等のアンモニウム塩、トリフェニルホスフィン、トリス(2、6-ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類等の公知のものを使用することができる。これらについては特開平9-325494号公報に詳細に記載されている。
【0021】
また、酸成分としては、エポキシアクリレート化合物分子中の水酸基と反応し得る酸一無水物を使用するのが良く、飽和直鎖炭化水素ジカルボン酸の酸無水物、飽和環状炭化水素ジカルボン酸の酸無水物、不飽和ジカルボン酸の酸無水物等を使用することができる。このうち、飽和直鎖炭化水素ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、コハク酸、アセチルコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、シトラリンゴ酸、マロン酸、グルタル酸、クエン酸、酒石酸、オキソグルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、スベリン酸、ジグリコール酸等の無水物を挙げることができ、更には炭化水素基が置換された直鎖炭化水素ジカルボン酸無水物でもよい。また、飽和環状炭化水素ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、シクロブタンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、ヘキサヒドロトリメリット酸等の酸無水物を挙げることができ、更には飽和炭化水素が置換された脂環式ジカルボン酸の酸無水物でもよい。また、不飽和ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、クロレンド酸、トリメリット酸の酸無水物挙げることができる。これらのなかで、好ましくはコハク酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロトリメリット酸、フタル酸、又はトリメリット酸の無水物であるのが良く、より好ましくはコハク酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、又はトリメリット酸の無水物であるのが良い。
【0022】
エポキシアクリレート環状シリコーン化合物と酸成分とを反応させて、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂を合成する際の反応温度としては、20〜140℃の範囲が好ましく、より好ましくは40〜130℃である。一般式(1)で表されるアルカリ可溶性樹脂を合成する際の酸一無水物のモル比は、エポキシアクリレート環状シリコーン化合物中の水酸基に対して10〜100モル%であるのがよい。酸一無水物のモル比は、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂の酸価を調整する目的で決定するものであり、上述の範囲で任意に変更できる。
【0023】
本発明の感光性樹脂組成物は、上記一般式(1)の感光性アルカリ可溶性樹脂を樹脂成分の主成分として含有する。ここで、樹脂成分とは、重合又は硬化させることにより樹脂となる成分をいい、光又は熱によって重合又は硬化するエポキシ樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。また、樹脂成分には、樹脂の他、オリゴマー、モノマーを含む。更に、主成分として含有するとは、一般式(1)の感光性アルカリ可溶性樹脂が樹脂成分中に30wt%以上、好ましくは50wt%以上、より好ましくは60wt%以上含まれることをいう。本発明の感光性樹脂組成物は、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂を必須成分として含めばよく、一般式(1)の樹脂以外の成分は樹脂成分であってもよく、溶剤や充填材や着色剤等の非樹脂成分であってもよい。
【0024】
感光性樹脂組成物としての特徴を生かすためには、下記(i)、(ii)および(iii)成分を必須の成分として含有する。すなわち、(i)一般式(1)で表される1分子内にカルボキシル基、及び重合性不飽和基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂、(ii)少なくとも1個以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、(iii)光重合開始剤を必須の成分として含む。
【0025】
このうち、(ii)成分である少なくとも1個以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマーや、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類を挙げることができる。これらの化合物は、その1種又は2種以上を使用することができる。
【0026】
これら(ii)成分と、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂〔(i)成分〕との配合割合[(i)/(ii)]については、20/80〜90/10であるのがよく、好ましくは40/60〜80/20であるのがよい。感光性アルカリ可溶性樹脂の配合割合が少ないと、光硬化後の硬化物が脆くなり、また、未露光部において塗膜の酸価が低いためにアルカリ現像液に対する溶解性が低下し、パターンエッジががたつきシャープにならないといった問題が生じる。反対に、感光性アルカリ可溶性樹脂の配合割合が上記範囲より多くなると、樹脂に占める光反応性官能基の割合が少なく架橋構造の形成が十分でなく、また、樹脂成分における酸価度が高過ぎて、露光部におけるアルカリ現像液に対する溶解性が高くなることから、形成されたパターンが目標とする線幅より細くなったり、パターンの欠落が生じや易くなるといった問題が生じるおそれがある。
【0027】
また、成分(iii)の光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルアセトフェノン等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p'-ビスジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類、2-(o-クロロフェニル)-4,5-フェニルビイミダゾール、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(m-メトキシフェニル)ビイミダゾール、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルビイミダゾール、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルビイミダゾール、2、4,5-トリアリールビイミダゾール等のビイミダゾール系化合物類、2-トリクロロメチル−5−スチリル−1,3,4−オキサジアゾール、2−トリクロロメチル-5-(p-シアノスチリル)-1,3,4-オキサジアゾール、2-トリクロロメチル-5-(p-メトキシスチリル)-1,3,4-オキサジアゾール等のハロメチルチアゾール化合物類、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-メチル−4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-フェニル-4、6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシナフチル)-4,6-ビス(トリクロロRメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(3,4,5-トリメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-メチルチオスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等のハロメチル−s−トリアジン系化合物類、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-,2-(o-ベンゾイルオキシム)、1-(4-フェニルスルファニルフェニル)ブタン-1,2-ジオン-2-オキシム-o-ベンゾアート、1-(4-メチルスルファニルフェニル)ブタン-1,2-ジオン-2-オキシム-o-アセタート、1-(4-メチルスルファニルフェニル)ブタン-1-オンオキシム-o-アセタート等のo-アシルオキシム系化合物類、ベンジルジメチルケタール、チオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、2,4-ジエチルチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、2-イソプロピルチオキサンソン等のイオウ化合物、2-エチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン等のアントラキノン類、アゾビスイソブチルニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、クメンパーオキシド等の有機過酸化物、2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール等のチオール化合物、トリエタノールアミン、トリエチルアミン等の第3級アミンなどが挙げられる。これらの光重合開始剤は、その1種又は2種以上を使用することができる。
【0028】
(iii)成分の光重合開始剤の使用量は、一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂〔(i)成分〕及び光重合性モノマー〔(ii)成分〕の合計100重量部を基準として2〜50重量部であるのがよく、好ましくは15〜40重量部であるのがよい。(i)成分と(ii)成分の合計に対する光重合開始剤の配合割合が少ないと、光重合の速度が遅くなって感度が低下する。反対に多過ぎると、感度が強すぎてパターン線幅がパターンマスクに対して太くなった状態になり、マスクに対して忠実な線幅が再現できない、又はパターンエッジががたつきシャープにならないといった問題が生じるおそれがある。なお、(iii)の光重合開始剤には光増感作用を併せ持つものも含まれるが、別途光増感剤を添加してもなんらさしつかえない。
【0029】
(i)成分の一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂、(ii)成分の光重合性モノマー、及び(iii)成分の光重合開始剤を必須成分として含む感光性樹脂組成物は、必要により溶剤に溶解させたり、各種添加剤を配合して用いることもできる。すなわち、本発明の感光性樹脂組成物をカラーフィルター用等に使用する場合においては、上記必須成分の他に溶剤を使用することが好ましい。溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、α−若しくはβ−テルピネオール等のテルペン類等、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N-メチル-2-ピロリドン等のケトン類、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類等が挙げられ、これらを用いて溶解、混合させることにより、均一な溶液状の組成物とすることができる。
【0030】
また、本発明の感光性樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤、熱重合禁止剤、可塑剤、充填材、レベリング剤、消泡剤等の添加剤を配合することができる。このうち、熱重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、tert-ブチルカテコール、フェノチアジン等を挙げることができる。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、トリクレジル等を挙げることができる。充填材としては、グラスファイバー、シリカ、マイカ、アルミナ等を挙げることができる。また、レベリング剤や消泡剤としては、例えば、シリコン系、フッ素系、アクリル系の化合物を挙げることができる。
【0031】
本発明の感光性樹脂組成物は、溶剤を除いた固形分(固形分には硬化後に固形分となるモノマーを含む)中に、(i)の一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂、(ii)の光重合性モノマー、及び(iii)光重合開始剤が合計で70wt%以上、好ましくは80wt%、より好ましくは90wt%以上含むことが望ましい。溶剤の量は、目標とする粘度によって変化するが、全体量に対して10〜30wt%の範囲が望ましい。
【0032】
本発明の感光性樹脂組成物は、上記一般式(1)の感光性アルカリ可溶性樹脂以外の樹脂成分として、光又は熱によって重合又は硬化するその他の樹脂成分を併用してもよい。その他の樹脂成分としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシシリコーン樹脂等のエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシアクリレート、フェノールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシアクリレート、エポキシシリコーン樹脂のエポキシアクリレート等のアクリル樹脂、ポリ(ジアリルフタレート)、ポリ(ジビニルベンゼン)等のアリル基又はビニル基含有樹脂等が挙げられる。耐候性、耐光性、耐熱性与えるためには、エポキシシリコーン樹脂、エポキシシリコーン樹脂のエポキシアクリレート等のシリコーン化合物が好ましい。
【0033】
また、本発明の硬化物(塗膜)は、例えば、上記感光性樹脂組成物の溶液を所定の基板等に塗布し、乾燥し、光(紫外線、放射線等を含む)を照射し、これを硬化させることにより得られる。光が当たる部分と当たらない部分とを設けて、光が当たる部分だけを硬化させ、他の部分をアルカリ溶液で溶解させれば、所望のパターンの硬化物が得られる。
【0034】
次に、感光性樹脂組成物を用いたパターン形成方法について説明する。まず、基板等の表面上に、感光性樹脂組成物を塗布したのち、プレベークを行って溶剤を蒸発させ、塗膜を形成する。次いで、この塗膜にフォトマスクを介して露光したのち、アルカリ性現像液を用いて現像して、塗膜の未露光部を溶解除去し、その後ポストベークすることにより、パターンを形成する。
【0035】
感光性樹脂組成物を基板に塗布する際には、公知の溶液浸漬法、スプレー法の他、ローラーコーター機、ランドコーター機やスピナー機を用いる方法等の何れの方法をも採用することができる。これらの方法によって、所望の厚さに塗布した後、溶剤を除去する(プレベーク)ことにより、塗膜が形成される。プレベークはオーブン、ホットプレート等による加熱、真空乾燥又はこれらの組み合わせることによって行われる。プレベークにおける加熱温度及び加熱時間は使用する溶剤に応じて適宜選択され、例えば80〜120℃の温度で1〜20分間行われる。
【0036】
パターン形成する際に使用される放射線としては、例えば、可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、X線等を使用することができるが、波長が250〜450nmの範囲にある放射線が好ましい。また、このアルカリ現像に適した現像液としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩の水溶液、アルカリ金属の水酸化物の水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液等の水酸化アンモニウム類、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類を挙げることができるが、特に炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等の炭酸塩、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の水酸化アンモニウム類、ジエチルアミン、ジエタノールアミン等のアミン類を0.05〜10重量%含有する弱アルカリ性水溶液を用いて20〜30℃の温度で現像するのがよく、市販の現像機や超音波洗浄機等を用いて微細な画像を精密に形成することができる。なお、アルカリ現像後は、通常、水洗する。現像処理法としては、シャワー現像法、スプレー現像法、ディップ(浸漬)現像法、パドル(液盛り)現像法等を適用することができる。現像条件は、常温で10〜300秒が好ましい。
【0037】
このようにして現像した後、180〜250℃の温度及び20〜100分の条件で熱処理(ポストベーク)が行われる。このポストベークは、パターニングされた塗膜と基板との密着性を高めるため等の目的で行われる。これはプレベークと同様に、オーブン、ホットプレート等により加熱することによって行われる。本発明のパターニングされた硬化物は、以上のフォトリソグラフィー法による各工程を経て形成される。
【0038】
パターンを形成する際に使用される基板としては、例えば、ガラス、透明フィルム(例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルフォン等)等が挙げられる。また、これら基板には、必要に応じて、シランカップリング剤等による薬品処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着等の適宜の前処理を施しておくこともできる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例に使用する一般式(1)で表される感光性アルカリ可溶性樹脂の合成例等を具体的に示しながら、本発明の感光性樹脂組成物についてより詳細に説明する。なお、本発明はこれらの合成例等によりその範囲を限定されるものではない。また、以下の合成例等における樹脂の評価は、断りのない限り以下の通りに行った。
【0040】
[固形分濃度]
合成例(及び比較合成例)中で得られた樹脂溶液(反応生成物やアルカリ可溶性樹脂の場合を含む)1gをガラスフィルター〔重量:W0(g)〕に含浸させて秤量し〔W1(g)〕、160℃にて2hr加熱した後の重量〔W2(g)〕から次式より求めた。
固形分濃度(重量%)=100×(W2―W0)/(W1―W0)
【0041】
[エポキシ当量]
樹脂溶液をジオキサンに溶解させた後に臭化テトラエチルアンモニウムの酢酸溶液を加え、電位差滴定装置(平沼製作所(株)製 商品名COM-1600)を用いて1/10N−過塩素酸溶液で滴定して求めた。
【0042】
[酸価]
樹脂溶液をジオキサンに溶解させ、電位差滴定装置(平沼製作所(株)製 商品名COM-1600)を用いて1/10N−KOH水溶液で滴定して求めた。
【0043】
[分子量]
テトラヒドロフランを展開溶媒として、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)にて標準ポリスチレン換算値として重量平均分子量(Mw)を求めた値である。
【0044】
また、合成例及び比較合成例で使用する略号は次のとおりである。
FHPA:ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂とアクリル酸との当量反応物(新日鐵化学社製、ASF-400溶液:固形分濃度50wt%、固形分換算の酸価1.28mgKOH/g)
BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
THPA:1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物
TPP:トリフェニルホスフィン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0045】
[合成例1]
窒素導入管及び還流管付き1000ml四つ口フラスコ中に1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン48g、ジオキサン480g、及びカーボン粉末に担持された白金触媒(白金濃度5%)0.04gを仕込み、内温を90℃まで昇温した後、N−アリル−N',N"−ジグリシジルイソシアヌレート224gを3時間かけて投入した。投入終了後、ジオキサンが還流を始める温度まで昇温し、10時間還流した。0.1Nの水酸化カリウム/メタノール溶液に反応液を滴下し、水素ガスの発生がなくなったことを確認し、残存する白金触媒をセライトにてろ過した。エバポレーターにて、ろ液の溶媒を留去することで一般式(5)のエポキシ環状シリコーン樹脂(CES1)240gを得た。得られたエポキシ環状シリコーン樹脂は、一般式(5)におけるR1がメチル基、nが4であって内部に環状シロキサン骨格とイソシアヌル環骨格を有し、かつイソシアヌル環骨格にエポキシ基を有する。また、得られたエポキシ環状シリコーン樹脂のエポキシ当量は174g/eq、粘度は0.5Pa・s(150℃)であった。
【0046】
次いで、還流管付き1000ml四つ口フラスコ中にて、上記エポキシ環状シリコーン樹脂150gに対して、アクリル酸61.97g(0.86mol)、PGMEAを259.57g、及びTPPを0.57g仕込み、100〜105℃で加熱下に20hr撹拌して反応させた。更に、フラスコ内にTHPAを98.37g(0.65mol)仕込み、120〜125℃で加熱下に6hr撹拌し、感光性アルカリ可溶性樹脂(i)-1を得た。得られた感光性アルカリ可溶性樹脂の固形分は54.9wt%、酸価(固形分換算)は121.2mgKOH/g、GPC分析によるMwは2230であった。また、得られたアルカリ可溶性樹脂のIR測定から、1731cm-1(エステル結合)、1410cm-1(ビニル基)、及び1188cm-1(カルボキシル基)にピークが観測された。これより、重合性二重結合とカルボキシル基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂であることを確認した。
【0047】
[比較合成例1]
窒素導入管及び還流管付き1000ml四つ口フラスコ中に、両末端がSi-H基であるポリジメチルシロキサン(SI-H当量363g/eq)184g、ジオキサン250g、及びカーボン粉末に担持された白金触媒(白金濃度5%)0.27gを仕込み、内温を90℃まで昇温した後、N−アリル−N',N"−ジグリシジルイソシアヌレート150gを3時間かけて投入した。投入終了後、内温を110℃まで昇温し、ジオキサンを還流させながら加熱撹拌を行った。0.1Nの水酸化カリウム/メタノール溶液に反応液を滴下し、水素ガスの発生がなくなったことを確認し、残存する白金触媒をセライトにてろ過した。エバポレーターにて、ろ液の溶媒を留去することで一般式(9)のエポキシシリコーン樹脂(ES1)320gを得た。得られたエポキシシリコーン樹脂は、一般式(9)におけるR1がメチル基であり、aが8であって直鎖シロキサン骨格とイソシアヌル環骨格を有し、かつ末端にエポキシ基を有する。また、得られたエポキシシリコーン樹脂のエポキシ当量は317g/eq、粘度は4.5Pa・s(25℃)であった。
【化9】

【0048】
次いで、還流管付き1000ml四つ口フラスコ中にて、上記エポキシシリコーン樹脂150gに対して、アクリル酸34.10g(0.47mol)、PGMEAを198.87g、及びTPPを0.62g仕込み、100〜105℃で加熱下に20hr撹拌して反応させた。更に、フラスコ内にTHPAを53.49g(0.35mol)仕込み、120〜125℃で加熱下に6hr撹拌し、感光性アルカリ可溶性樹脂(i)-2を得た。得られた感光性アルカリ可溶性樹脂の固形分は54.6wt%、酸価(固形分換算)は85.3mgKOH/g、GPC分析によるMwは2540であった。また、得られた感光性アルカリ可溶性樹脂のIR測定から、1732cm-1(エステル結合)、1409cm-1(ビニル基)、及び1186cm-1(カルボキシル基)にピークが観測された。これより、重合性二重結合とカルボキシル基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂であることを確認した。
【0049】
[比較合成例2]
窒素導入管及び還流管付き1000ml四つ口フラスコ中に、両末端がSi-H基であるポリジメチルシロキサン(SI-H当量215g/eq)152g、ジオキサン152g、及びカーボン粉末に担持された白金触媒(白金濃度5%)0.36gを仕込み、内温を90℃まで昇温した後、N−アリル−N',N"−ジグリシジルイソシアヌレート200gを3時間かけて投入した。投入終了後、内温を110℃まで昇温し、ジオキサンを還流させながら加熱撹拌を行った。0.1Nの水酸化カリウム/メタノール溶液に反応液を滴下し、水素ガスの発生がなくなったことを確認し、残存する白金触媒をセライトにてろ過した。エバポレーターにて、ろ液の溶媒を留去することで一般式(9)のエポキシシリコーン樹脂(ES2)324gを得た。得られたエポキシシリコーン樹脂は、一般式(9)におけるR1がメチル基であり、aが4であって直鎖シロキサン骨格とイソシアヌル環骨格を有し、かつ末端にエポキシ基を有する。また、得られたエポキシシリコーン樹脂のエポキシ当量は237g/eq、粘度は0.34Pa・s(75℃)であった。
【0050】
次いで、還流管付き1000ml四つ口フラスコ中にて、上記エポキシシリコーン樹脂150gに対して、アクリル酸45.61g(0.63mol)、PGMEAを224.29g、及びTPPを0.83g仕込み、100〜105℃で加熱下に20hr撹拌して反応させた。更に、フラスコ内にTHPAを72.22g(0.47mol)仕込み、120〜125℃で加熱下に6hr撹拌し、感光性アルカリ可溶性樹脂(i)-3を得た。得られた感光性アルカリ可溶性樹脂の固形分は54.7wt%、酸価(固形分換算)は101.1mgKOH/g、GPC分析によるMwは1800であった。また、得られた感光性アルカリ可溶性樹脂のIR測定から、1730cm-1(エステル結合)、1410cm-1(ビニル基)、及び1188cm-1(カルボキシル基)にピークが観測された。これより、重合性二重結合とカルボキシル基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂であることを確認した。
【0051】
[比較合成例3]
還留冷却器付き1000ml四つ口フラスコ中にFHPAの50%PGMEA溶液を412.52g(0.34mol)、BPDAを50.02g(0.17mol)、THPAを25.87g(0.17mol)、PGMEAを52.0g及びTPPを0.90g仕込み、120〜125℃で加熱下に6hr撹拌し、感光性アルカリ可溶性樹脂(i)-4を得た。得られた樹脂溶液の固形分濃度は55.6wt%、酸価(固形分換算)は103.0mgKOH/g、GPC分析によるMwは2600であった。また、得られた感光性アルカリ可溶性樹脂のIR測定から、1731cm-1(エステル結合)、1407cm-1(ビニル基)、及び1181cm-1(カルボキシル基)にピークが観測された。これより、重合性二重結合とカルボキシル基を有する感光性アルカリ可溶性樹脂であることを確認した。
【0052】
次に、感光性樹脂組成物及びその硬化物の製造に係る実施例及び比較例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。ここで、以降の実施例及び比較例の感光性樹脂組成物及びその硬化物の製造で用いた原料及び略号は以下の通りである。
【0053】
(i)-1成分:上記合成例1で得られた感光性アルカリ可溶性樹脂
(i)-2成分:上記比較合成例1で得られた感光性アルカリ可溶性樹脂
(i)-3成分:上記比較合成例2で得られた感光性アルカリ可溶性樹脂
(i)-4成分:上記比較合成例3で得られた感光性アルカリ可溶性樹脂
(ii)成分:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
(iii)-1成分:光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ製、イルガキュア907)
(iii)-2成分:4,4'ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(光増感剤)
(iv)-1成分:テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂
(iv)-2成分:合成例1で得られたエポキシ環状シリコーン樹脂(CES1)
(iv)-3成分:比較合成例2で得られたエポキシシリコーン樹脂(ES2)
溶剤-1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
溶剤-2:ジプロピレングリコールジメチルエーテル
添加剤-1:シランカップリング剤(東レダウコーニング製SH-6040)
添加剤-2:界面活性剤(住友3M社製FC-430)
【0054】
上記の成分を表1に示す割合で配合して、実施例1及び比較例1〜4の感光性樹脂組成物を調製した。尚、表1中の数値はすべて重量部を表す。
【0055】
【表1】

【0056】
[アルカリ現像性]
表1に示した感光性樹脂組成物を、スピンコーターを用いて125mm×125mmのガラス基板上にポストベーク後の膜厚が3.8〜4.2μmとなるように塗布し、80℃で3分間プレベークして塗布板を作成した。その後、500W/cm2の高圧水銀ランプで波長365nmの照度32mJ/cm2の紫外線を照射し、感光部分の光硬化反応を行った。次に、この露光済み塗布板を23℃の0.8wt%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液中、又は23℃の0.35wt%ジエタノールアミン水溶液中、ディップ現像にて現像を行い、さらに水洗を行い、塗膜の未露光部を除去した。その後、熱風乾燥機を用いて180℃、90分間加熱乾燥処理を行って、実施例1、及び比較例1〜4に係るパターンを得た。
【0057】
上記で得られた実施例1、及び比較例1〜4の感光性樹脂組成物からなるパターンについて、現像性及び現像マージン等を評価した結果を表2に示す。これらの評価方法は以下の通りに行った。
【0058】
膜厚:
触針式段差形状測定装置(ケーエルエー・テンコール(株)製 商品名P-10)を用いて測定した。
【0059】
現像時間:
アルカリ現像時、塗膜の未露光部が全て溶解するのに要した時間を記録し、現像時間が300秒を超えてもパターンが見えない場合は×とした。
【0060】
テーパー形状:
現像後のパターンを、走査型電子顕微鏡((株)KEYENCE製 商品名VE-7800)を用いて観察し、パターンの断面形状が滑らかな順テーパーを維持している場合は○、逆テーパーや剥がれが生じた場合は×とし、パターンの断面形状が順テーパーで、かつ垂直に近い場合は◎とした。
【0061】
ライン形状:
現像後の10μm線について測長顕微鏡((株)ニコン製 商品名XD-20)でパターン部の直線性やフリンジなどの有無を評価した。そこで、直線性がよく、フリンジなどが発生していないものに関しては○<良好>とし、フリンジなどが発生し、直線性の悪いものを×<不良>と評価した。各項目とも非常に良好な場合に限り◎と評価した。
【0062】
塗膜表面のタック性:
80℃で3分間プレベークして作成した塗膜表面のタック性を評価した。タック性が全く無いものに関しては○、わずかにタック性がある場合は△、顕著にタック性がある場合は×とした。
【0063】
塗膜収縮率:
現像後の塗膜の膜厚〔厚さ:T0(μm)〕及び180℃、90分間加熱乾燥処理後の膜厚〔厚さ:T1(μm)〕を測定して次式より求めた。塗膜収縮率が10%以上の場合は×、5〜10%の場合は○、5%以下の場合は◎とした。
塗膜収縮率(%)=100×(1―T1/T0
【0064】
【表2】

【0065】
[透過率]
また、表1に示した感光性樹脂組成物を、スピンコーターを用いて125mm×125mmのガラス基板上にポストベーク後の膜厚が3.8〜4.2μmとなるように塗布し、80℃で3分間プレベークして塗布板を作成した。その後、500W/cm2の高圧水銀ランプで波長365nmの照度32mJ/cm2の紫外線を照射して、光硬化反応を行った。その後、熱風乾燥機を用いて230℃、30分間加熱乾燥処理を行って、実施例1、及び比較例1〜4に係る硬化膜を得た。そして、得られた塗布板を透過率計(日本電色工業製 商品名SPECTRO PHOTOMETER SD5000)を用いて透過率を測定し、波長380nmでの透過率が90%以上の場合に○、90%未満の場合に×と評価した。
【0066】
[機械的物性]
更には、表1に示した感光性樹脂組成物を、スピンコーターを用いて125mm×125mmの離型剤を塗布したアルミニウム基板上にポストベーク後の膜厚が28〜32μmとなるように塗布し、110℃で10分間プレベークして塗布板を作成した。その後、500W/cm2の高圧水銀ランプで波長365nmの照度32mJ/cm2の紫外線を照射し、感光部分の光硬化反応を行った。次に、この露光済み塗布板を25℃の0.8wt%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液中、ディップ現像にて現像を行い、さらに水洗を行い、塗膜の未露光部を除去した。その後、熱風乾燥機を用いて180℃、90分間加熱乾燥処理を行った。更に、加熱乾燥処理後の塗布板を80℃の熱水に浸漬し、塗膜をアルミニウム基板から剥離して実施例1、及び比較例1〜4に係る硬化フィルムを得た。そして、上記の硬化フィルムのガラス転移点を、熱機械的分析装置(SII(株)製 EXSTAR 6000)を用いて測定し、ガラス転移点が160℃以上の場合に◎、145℃〜160℃の場合に○、130℃〜145℃の場合に△、130℃未満の場合に×とした。結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
上記表2及び表3の結果から明らかなように、実施例1に係る硬化物は比較例1〜4と同等の現像性及び密着性を維持し、更に、高い透過率、パターンの直線性を有する硬化物を形成できる。その上、塗膜収縮率の低減、塗膜表面のタック性の改善ができる。すなわち、アルカリ現像性を維持したまま、耐候性、耐光性、耐熱性を有する硬化膜を提供できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の感光性樹脂組成物は、耐候性、耐光性、耐熱性を有する環状シリコーン樹脂において、光硬化性及びアルカリ現像性を付与した樹脂を用いたことで、耐候性、耐光性、耐熱性を有するパターンを形成することができる。そのためカラー液晶表示装置、カラーファクシミリ、イメージセンサー等の各種の表示素子や、カラーフィルター保護膜材料及びブラックマトリックス形成用材料、あるいは、有機半導体等の有機デバイス等の保護層、封止材、接着剤として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記一般式(1)で表されて、1分子内にカルボキシル基、及び重合性不飽和基を有した感光性アルカリ可溶性樹脂、
【化1】

〔但し、R1は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。R2は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Xは一般式(2)で示される置換基であり、X1及びX2はそれぞれ重合性二重結合を含み、少なくとも一方はカルボキシル基を含む。nは3〜6の数を表す。〕
【化2】

(ii)少なくとも1個以上のエチレン性不飽和結合を有する光重合性モノマー、及び
(iii)光重合開始剤
を必須の成分として含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【請求項2】
一般式(1)におけるXが、下記一般式(3)で表される1価の置換基である請求項1記載の感光性樹脂組成物。
【化3】

(但し、R3は水素原子又はメチル基を示す。R4は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子、又はエステル結合を含んでいても良い。R5は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、内部にエーテル性酸素原子を含んでいても良い。Lは下記一般式(4)で表される置換基、又は水素原子を示す。)
【化4】

(但し、M1は2または3価のカルボン酸残基を示し、qは1または2である)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物を硬化させて得た硬化物。

【公開番号】特開2011−209442(P2011−209442A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75757(P2010−75757)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】