説明

環状ジチオカーボネート基を有するラジカル重合性化合物

【課題】高屈折率で透明性に優れ、かつ熱硬化反応時に酸化しにくく、着色の少ない安定な光学材料の提供。
【解決手段】
一般式(1)


(式中、R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。)
で示される基およびラジカル重合性の二重結合を有することを特徴とするラジカル重合性化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ジチオカーボネート基を有するラジカル重合性化合物、および環状ジチオカーボネート基を有するメルカプト化合物ならびに当該ラジカル重合性化合物を用いた高屈折率の光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機ガラスは無機ガラスに比べて軽量であるため、CR−39(商品名;PPG社製)に代表されるジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)の重合体や、メタクリル酸メチルの重合体などの有機ガラスなどが使用されている。ガラスの屈折率が高くなるほどレンズの薄肉化が可能となるが、これらの有機ガラスの屈折率は1.49〜1.50と無機ガラス(ホワイトクラウンガラスの場合1.523)に比べて低い。そのため、レンズを作製した場合に無機ガラスの場合よりも縁(コバ)が厚くなり、軽量化のメリットも損なわれる。さらに視力矯正用レンズとして用いた場合、度が強くなると見かけが悪くなるという欠点があった。このため、高屈折率の重合体を与える光学材料用樹脂が望まれていた。
【0003】
有機ガラスの屈折率を高くする方法については、これまで様々な試みがなされている。例えば、特開昭63−46213号公報(特許文献1)では、高屈折率を与える光学用樹脂として、イソシアネート化合物とメルカプト化合物とを反応させて得られるチオウレタン系の樹脂が記載されている。しかし、チオウレタン系樹脂は、原料であるイソシアネート化合物の毒性があること、また、原料のチオール化合物の臭気が問題となっている。
【0004】
さらには、特開平3−217412号公報(特許文献2)では、硫黄原子を含有する(メタ)アクリレート化合物も高屈折率を与える材料として知られている。これらの材料は、屈折率はある程度高くなるが、必ずしも十分な屈折率ではなかった。
また、特開2002−275216号公報(特許文献3)には、高屈折率化が可能となるジチオラン環構造を有する(メタ)アクリレート化合物が提言されている。これらの化合物の屈折率は高い。しかし、構造としてスルフィドを有するため、光による硬化性は良好であるが、パーオキサイドを開始剤に用いた熱硬化による成形ではスルフィドの酸化が起こりやすいため、重合性のコントロールの点で必ずしも十分ではなかった。
【0005】
さらに、特開2004−323702号公報(特許文献4)には、環状ジチオカーボナート構造を有する(メタ)アクリレート化合物と、イソボルニル(メタ)アクリレート化合物との共重合体が開示されている。しかしこれらも使用分野によっては、十分屈折率が高いとは言い難かった。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−46213号公報
【特許文献2】特開平3−217412号公報
【特許文献3】特開2002−275216号公報
【特許文献4】特開2004−323702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高屈折率で透明性に優れ、かつ熱硬化反応時に安定で着色の少ない光学材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ある特定の環状ジチオカーボネート構造を有するラジカル重合性化合物が高屈折率で透明性に優れ、かつ熱硬化反応時に酸化されにくく、着色の少ない安定な光学材料を与えることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下の1〜20に関する。
【0009】
1.一般式(1)で示される基およびラジカル重合性の二重結合を有することを特徴とするラジカル重合性化合物。
【化1】

(式中、R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。)
2.前記一般式(1)のR1〜R3が水素原子であり、かつXがメチレン基である前記1に記載のラジカル重合性化合物。
3.前記1に記載のラジカル重合性化合物が、一般式(2)で示されることを特徴とするラジカル重合性化合物。
【化2】

(式中、R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。R4は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
4.一般式(2)のR1〜R3が水素原子、R4がメチル基であり、かつXがメチレン基である前記3に記載のラジカル重合性化合物。
5.前記1〜4に記載のラジカル重合性化合物の重合体。
6.前記1〜4に記載のラジカル重合性化合物と他のラジカル重合性化合物との共重合体。
7.請求項1〜4に記載のラジカル重合性化合物とメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレートのいずれかから選択される少なくとも一種のラジカル重合性モノマーとの共重合物。
8.前記1〜4に記載のラジカル重合性化合物を含む光学材料用組成物。
9.一般式(3)で示されるメルカプト化合物を(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と反応させることを特徴とする前記3に記載のラジカル重合性化合物の製造方法。
【化3】

(式中、R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。)
10.一般式(3)で示されるメルカプト化合物をハロプロピオン酸のハロゲン化物と反応させ、ハロプロピオン酸チオエステルとし、当該ハロプロピオン酸チオエステルを脱ハロゲン化水素することを特徴とする前記3に記載のラジカル重合性化合物の製造方法。
11.一般式(3)において、R1〜R3の少なくとも一つが水素原子ではないメルカプト化合物。
12.一般式(3)において、Xがメチレン基であるメルカプト化合物。
13.一般式(3)において、R1〜R3の少なくとも一つが水素原子ではなく、かつXがメチレン基であるメルカプト化合物。
14.光導波路、光学レンズ、光学用封止剤、光学用接着剤、光学フィルム、導光板に用いることを特徴とする、前記8に記載の光学材料用組成物。
15.前記8に記載の光学材料用組成物から得られた光導波路。
16.前記8に記載の光学材料用組成物から得られた光学レンズ。
17.前記8に記載の光学材料用組成物から得られた光学用封止剤。
18.前記8に記載の光学材料用組成物から得られた光学用接着剤。
19.前記8に記載の光学材料用組成物から得られた光学フィルム。
20.前記8に記載の光学材料用組成物から得られた導光板。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、高屈折率で透明性に優れ、かつ熱硬化反応時に安定で着色の少ない光学材料を提供する。本発明のラジカル重合性化合物および光学材料用組成物は、その硬化物の屈折率が高く、眼鏡レンズ、カメラレンズなどの光学レンズ、光導波路、光学用封止剤、光学用接着剤、光学フィルム、プリズム、液晶パネル用導光板、光ファイバー等の光学材料に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
<環状ジチオカーボネート基を有し、かつラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性化合物>
本発明のラジカル重合性化合物は、下記一般式(1)で示される環状ジチオカーボネート基を有し、かつラジカル重合性の二重結合を有することを特徴とする化合物である。
【0012】
【化4】

(式中、R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。)
【0013】
一般式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。
その具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。
これらの中で、屈折率を上げる観点においては、水素原子、メチル基が好ましい。
【0014】
一般式(1)中、Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。
その具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。また、これらのアルキレン基は炭素数1〜4において分岐しているアルキル基を有してもいてもよい。これらのアルキレン基の中で、屈折率を上げる観点においては、メチレン基が最も好ましい。
【0015】
ラジカル重合性の二重結合としては、エチレン性炭素−炭素二重結合を含む基が挙げられる。中でも、一般式(1)の環状ジチオカーボネート基と直接結合を形成できるという点で(メタ)アクリロイル基、スチリル基、(メタ)アリルエステル基などが好ましい。なお、(メタ)アクリロイルとはメタクリロイルまたはアクリロイルを意味する。(メタ)アクリル、(メタ)アリル等も同様である。
【0016】
一般式(1)で示される基を有し、かつラジカル重合性の二重結合を有するラジカル重合性化合物は、一般式(1)の環状ジチオカーボネート基とラジカル重合性の二重結合を分子内に有していれば特に限定されない。
一般式(1)の環状ジチオカーボネート基およびラジカル重合性の二重結合は1分子内に少なくとも1つは必須であるが、それぞれ独立に複数個の基があってもよい。好ましい例としては下記一般式(2)で示される化合物である。
【0017】
【化5】

(式中、R1〜R3は一般式(1)と同じ意味を表す。R4は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
一般式(2)で示される化合物の具体例としては下記一般式(4)〜(7)で示される化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
【化6】

(式中、R5は水素原子またはメチル基を表す。)
【0019】
【化7】

(式中、R5は水素原子またはメチル基を表す。)
【0020】
【化8】

(式中、R5は水素原子またはメチル基を表す。)
【0021】
【化9】

(式中、R5は水素原子またはメチル基を表す。)
【0022】
これらの中で、高屈折率化の点及び重合性の点において特に好ましいのは、一般式(4)で示されるラジカル重合性化合物であり、さらにR4がメチル基である化合物がさらに好ましい。
【0023】
本発明のラジカル重合性化合物が有している一般式(1)の環状ジチオカーボネート基は「−S−(C=O)−S−」構造を有している。一般的に「−CH2−S−CH2−」構造のS原子は酸化されやすいため、重合や硬化反応時に着色したり、重合開始剤の失活により硬化が不完全になるなどの問題を生ずるなど、安定性に問題がある。一方、本発明の「−S−(C=O)−S−」構造はS原子の隣に電子吸引性のカルボニル基があるため、酸化されにくく、着色も少なくなる。
【0024】
<一般式(3)のメルカプト化合物>
【化10】

(式中、R1〜R3及びXは一般式(1)と同じ意味を表す。)
【0025】
本発明の一般式(3)の環状ジチオカーボネート基を有するメルカプト化合物は、一般式(1)の化合物の原料となる化合物である。一般式(3)中のR1〜R3、及びXは、前記一般式(1)と同じ意味を表す。なお、一般式(3)において、R1〜R3がすべて水素原子、かつXがメチレン基である化合物は、CAS番号:96864−47−0の化合物である。
【0026】
一般式(3)のメルカプト化合物の具体例としては、下記一般式(8)〜(11)で示される化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【化11】

(式中、R1'〜R3'はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。)
【0028】
【化12】

(式中、R1'〜R3'はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。)
【0029】
【化13】

(式中、R1'〜R3'はそれぞれ独立にして水素原子またはメチル基を表す。)
【0030】
【化14】

(式中、R1'〜R3'はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。)
【0031】
次に、本発明の一般式(3)のメルカプト化合物の製造方法について説明する。
一般式(3)のメルカプト化合物は、そのメルカプト基がハロゲン原子である化合物を公知の方法によりメルカプト化することにより得ることができる。例えば、一般式(3)中のメルカプト基がハロゲン原子である化合物を水硫化ソーダと反応させることにより得ることができる。水硫化ソーダの使用量は特に制限されるものではないが、通常、一般式(3)中のメルカプト基がハロゲン原子である化合物1モルに対して1〜20モルである。中でも1〜5モルが好ましく、1〜2モルが更に好ましい。1モル未満では反応収率が低くなり、また20モルを超えると経済性が悪くなる。
【0032】
反応には、一般的には溶媒を用いる。該溶媒としては、n−ヘキサン、トルエン、キシレン、ベンゼン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような極性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独もしくは2種類以上を併用してもよい。
【0033】
反応温度に特に制限はなく、通常、−20〜100℃の範囲であり、好ましくは0〜50℃の範囲である。−20℃未満では極端に反応が遅くなり、100℃を超えると重合などの副反応が起きやすくなる。
【0034】
このようにして得られた一般式(3)で示されるメルカプト化合物は、蒸留や抽出、再結晶、クロマトグラフィーや活性炭、活性白土、合成吸着剤等の処理により精製することができる。
【0035】
<一般式(2)で示されるラジカル重合性化合物の製造方法>
本発明の一般式(2)で示されるラジカル重合性化合物は、一般式(3)で示されるメルカプト化合物を原料として、公知の方法により(メタ)アクリル酸チオエステル化することにより製造される。
【0036】
一般式(2)で示されるラジカル重合性化合物を製造する第一の方法としては、一般式(3)で示される化合物と(メタ)アクリル酸ハロゲン化物とをエステル化する方法が挙げられる。ここでいう(メタ)アクリル酸ハロゲン化物とは、下記一般式(12)に示される化合物を示す。
【0037】
【化15】

(式中、R6は水素原子またはメチル基を表し、Yは塩素原子または臭素原子を表す。)
【0038】
一般式(3)のメルカプト化合物と反応させる一般式(12)の(メタ)アクリル酸ハロゲン化物の使用量は特に制限されるものではないが、通常は一般式(3)のメルカプト化合物1モルに対して0.1〜20モルが好ましく、0.5〜5モルが特に好ましい。0.1モル未満では反応収率が低くなり、また、20モルを超えると経済性が悪くなる。
【0039】
反応は無溶媒で行っても良く、不活性な溶媒を使用しても良い。該溶媒としては、n−ヘキサン、トルエン、キシレン、ベンゼン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような極性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独もしくは2種類以上を併用することもできる。
【0040】
反応温度に特に制限はないが、通常は−20〜100℃の範囲が好ましく、0〜50℃が特に好ましい。−20℃未満では極端に反応が遅くなり、100℃を超えると重合などの副反応が起きやすくなる。
該反応は、無触媒下で副生するハロゲン化水素を反応系外に除去しながら行う方法と、ハロゲン化水素捕集剤を加えて行う方法のどちらも利用できる。
【0041】
ハロゲン化水素捕集剤としては、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。
該ハロゲン化水素捕集剤の使用量としては特に制限はないが、上記一般式(3)のメルカプト化合物1モルに対して0.1〜20モルであり、好ましくは0.5〜5モルである。
【0042】
また、該反応には、重合を抑制するために重合禁止剤を加えることもできる。
重合禁止剤としては、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン等のキノン類、ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン等の多価フェノール類、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチルパラクレゾール、α−ナフトールなどのフェノール類が挙げられる。
このようにして得られた一般式(1)で示される重合性化合物は、蒸留や抽出、再結晶、クロマトグラフィーや活性炭、活性白土、合成吸着剤等の処理により精製することができる。
【0043】
一般式(2)で示されるラジカル重合性化合物を製造する第2の方法としては、下記反応工程式(1)に示すように、一般式(3)で示されるメルカプト化合物とハロプロピオン酸類の酸ハロゲン化物(一般式(13))との反応により、ハロプロピオン酸チオエステル化合物(一般式(14))を合成した後、脱ハロゲン化水素して製造する方法(例えば、特開平10−204056号公報、特開平2−172969号公報などに記載の方法)を挙げることができる。
【0044】
【化16】

(式中、R1〜R3は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R7は水素原子またはメチル基を表す。Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。Zは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかを表す。)
【0045】
初めに、上記反応工程式(1)において、一般式(3)で示されるメルカプト化合物とハロプロピオン酸類の酸ハロゲン化物(一般式(13))との反応により、ハロプロピオン酸チオエステル化合物(一般式(14))を製造する方法について詳しく述べる。
【0046】
反応の際、上記一般式(3)で示されるメルカプト化合物に対して作用させるハロプロピオン酸類(例えば、3−クロロプロピオン酸、3−ブロモプロピオン酸、3−クロロ−2−メチルプロピオン酸、3−ブロモ−2−メチルプロピオン酸など)の酸ハロゲン化物の使用量は特に制限するものではないが、通常は該メルカプト化合物1モルに対して0.1〜5モルが好ましく、0.2〜3モルがさらに好ましく、0.5〜2モルがより好ましく、0.8〜1.5モルが特に好ましい。
【0047】
反応は、無溶媒で行ってもよく、あるいは不活性溶媒中で行ってもよい。該溶媒としては、反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定するものではなく、例えば、有機溶媒あるいはこれらの混合系で行ってもよい。該有機溶媒としては、n−ヘキサン、ベンゼンまたはトルエン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチルまたは酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランまたはジオキサン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソクロルベンゼン等のハロゲン系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の極性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独で使用してもよく、あるいは2種類以上を併用してもよい。
【0048】
反応温度に特に制限はなく、通常は−78〜150℃の範囲が好ましく、−20〜120℃の範囲がさらに好ましく、0〜100℃の範囲が特に好ましい。
【0049】
反応は、無触媒下で副生するハロゲン化水素(例えば、塩化水素など)を反応系外に除去しながら行ってもよく、あるいは、脱ハロゲン化水素剤を用いて行ってもよい。
該脱ハロゲン化水素剤としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等の有機塩基、あるいは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の無機塩基などが例示される。
【0050】
かかる脱ハロゲン化水素剤の使用量としては特に制限はないが、上記一般式(3)で示されるメルカプト化合物1モルに対して、0.05〜10モルが好ましく、0.1〜5モルがさらに好ましく、0.5〜3モルが特に好ましい。
【0051】
次に、反応工程式(1)において、ハロプロピオン酸チオエステル化合物(一般式(14))を塩基の存在下に脱ハロゲン化水素して、本発明の一般式(2)で示されるラジカル重合性化合物を製造する方法について詳しく述べる。
【0052】
この反応に用いる塩基としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、アニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、トルイジン、アニシジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等の有機塩基、あるいは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の無機塩基などが例示される。
【0053】
かかる塩基の使用量としては特に制限はないが、ハロプロピオン酸チオエステル化合物(一般式(14))1モルに対して0.05〜10モルが好ましく、0.1〜5モルがさらに好ましく、0.5〜3モルが特に好ましい。
反応は、無溶媒で行ってもよく、あるいは不活性溶媒中で行ってもよい。かかる溶媒としては、反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定するものではなく、例えば、水、有機溶媒あるいはこれらの混合系で行ってもよい。
【0054】
該有機溶媒としては、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチルまたは酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランまたはジオキサン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の極性溶媒などが例示される。これらの溶媒は単独で使用してもよく、あるいは、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
反応温度に特に制限はなく、通常、−78〜150℃の範囲が好ましく、−20〜120℃の範囲がさらに好ましく、0〜100℃の範囲が特に好ましい。
【0056】
上述した反応経路においては、一段階目のハロプロピオン酸チオエステル化反応の後に、中間体である一般式(14)で示されるハロプロピオン酸チオエステル化合物を一旦取り出した後、二段階目の脱ハロゲン化水素を行う段階的な方法であってもよく、あるいは、該ハロプロピオン酸チオエステル化合物を途中で取り出すことなく、一段階(one−pot)で次の脱ハロゲン化水素反応を行う方法のうち、いずれの方法であっても差し支えない。
【0057】
段階的な方法を用いる場合、前述の方法で得られた一般式(14)で示されるハロプロピオン酸チオエステル化合物は、さらに必要に応じて、公知の方法(例えば、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーあるいは活性炭処理など)により分離、精製して、より高純度の化合物として単離される。
【0058】
本発明の一般式(2)で示されるラジカル重合性化合物を製造する際に、反応中あるいは反応後において生成物の重合を防止するために、重合禁止剤を使用することが好ましい。
かかる重合禁止剤としては、例えば、4−メトキシフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルクレゾール、ハイドロキノン、フェノチアジン等の公知の各種化合物を挙げることができる。
【0059】
重合禁止剤の使用量に特に制限はないが、反応系中の原料混合物あるいは反応生成物100質量部に対して、通常、0.001〜5質量部が好ましく、0.05〜3質量部がさらに好ましく、0.01〜1質量部が特に好ましい。
【0060】
反応終了後、生成物である本発明の一般式(2)で示されるラジカル重合性化合物は、公知の操作、処理方法(例えば、中和、溶媒抽出、水洗、分液、溶媒留去など)により後処理されて単離される。
【0061】
<一般式(1)のラジカル重合性化合物の重合体>
本発明の一般式(1)のラジカル重合性化合物は、ラジカル重合により、熱や紫外線、電子線等により容易に重合することができる。
また、他のラジカル重合性化合物と共重合することにより、共重合体とすることもできる。一般式(1)のラジカル重合性化合物や他のラジカル重合性化合物が多官能のラジカル重合性を有する場合、重合体は架橋構造を有することになり、この場合は硬化物ともいえる。
【0062】
他のラジカル重合性化合物の具体例としては、ジ(メタ)アリルフタレート、ジ(メタ)アリルイソフタレート、ジ(メタ)アリルテレフタレート、(メタ)アリルベンゾエート、α−ナフトエ酸(メタ)アリル、β−ナフトエ酸(メタ)アリル、2−フェニル安息香酸(メタ)アリル、3−フェニル安息香酸(メタ)アリル、4−フェニル安息香酸(メタ)アリル、o−クロロ安息香酸(メタ)アリル、m−クロロ安息香酸(メタ)アリル、p−クロロ安息香酸(メタ)アリル、o−ブロモ安息香酸(メタ)アリル、m−ブロモ安息香酸(メタ)アリル、p−ブロモ安息香酸(メタ)アリル、2,6−ジクロロ安息香酸(メタ)アリル、2,4−ジクロロ安息香酸(メタ)アリル、2,4,6−トリブロモ安息香酸(メタ)アリル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ(メタ)アリル、3−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、エンディック酸ジ(メタ)アリル、クロレンド酸ジ(メタ)アリル、3,6−メチレン−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ(メタ)アリル、トリメリット酸トリ(メタ)アリル、ジフェン酸ジ(メタ)アリル等、コハク酸ジ(メタ)アリル、アジピン酸ジ(メタ)アリルなどのアリルエステル類、ジベンジルマレート、ジベンジルフマレート、ジフェニルマレート、ジフェニルフマレート、ジブチルマレート、ジブチルフマレート、ジメトキエチルマレート、ジメトキシエチルフマレート等のマレイン酸ジエステル/フマル酸ジエステル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンジリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、メトキシスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、カプロン酸ビニル等の脂肪族カルボン酸のビニルエステル;シクロヘキサンカルボン酸ビニルエステル等の脂環式カルボン酸のビニルエステル;安息香酸ビニルエステル、t−ブチル安息香酸ビニルエステル等の芳香族カルボン酸のビニルエステル、ジアリルカーボネート、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)、CR−39(商品名;PPG社製)に代表されるポリエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂等のアリルカーボネート化合物、末端に(メタ)アリルエステル基を有し、内部が多価カルボン酸と多価アルコールから誘導されたエステル構造からなるオリゴマー、イソシアヌル酸トリアリルやシアヌル酸トリアリルなどの窒素含有多官能アリル化合物などが挙げられる。
ただし、他のラジカル重合性化合物は上記に限定されるわけではない。また、これらのラジカル重合性化合物は目的の物性を得るために2種以上併用しても良い。
【0063】
上記ラジカル重合性化合物の中で、重合物のアッベ数を高くするためには、分子内に芳香族基を有さない非芳香族系のラジカル重合性化合物が好ましい。アッベ数が低いとレンズの縁で画像が不鮮明となるなどの問題が生ずるため、レンズ材料としてはアッベ数の高い方が好ましい。
【0064】
ラジカル重合開始剤は、例えば熱、紫外線、電子線、放射線によってラジカルを生成するものであれば、いずれのラジカル重合開始剤の使用も可能である。
【0065】
熱によるラジカル重合に際して使用できるラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類、ベンゾイルパーオキシド、デカノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ−t−ブチルパーオキシアゼレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシトリメチルアジペート等のアルキルパーオキシエステル類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロプルカーボネート等のパーオキシカーボネート類等が挙げられる。
【0066】
紫外線、電子線、放射線による重合に際して使用できるラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン等のアセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−トリメチルシリルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルフィド等のベンゾフェノン誘導体、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン誘導体、メチルフェニルグリオキシレート、ベンゾインジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0067】
これらの重合開始剤の添加量は、硬化温度やラジカル重合性組成物の組成比、添加剤の種類、量によって異なるため、一概に限定することはできないが、本発明の一般式(1)のラジカル重合性化合物と他のラジカル重合性化合物の総量100質量部に対して、0.01〜15質量部が好ましく、0.1〜10質量部が特に好ましい。ラジカル重合開始剤の添加量が0.01質量部未満の場合は重合、硬化が不十分になる恐れがある。また、15質量部を超えて添加することは経済上好ましくない。
【0068】
重合温度(硬化温度)は重合開始剤の種類に応じて適宜選択すればよい。紫外線等による重合であれば、室温でも可能である。熱重合の場合は開始剤の分解温度に対応して適宜決めることが望ましく、一般的には30〜130℃が好ましい。また、段階的に温度を変えて重合(硬化)させてもよい。重合の際には不活性溶媒を使用することもできる。
【0069】
本発明の一般式(1)のラジカル重合性化合物の重合により得られる樹脂は透明性が高く、高屈折率の光学材料用樹脂として使用が期待される。
【0070】
<光学材料用組成物>
本発明の光学材料用組成物は一般式(1)のラジカル重合性化合物を含む重合性(硬化性)組成物である。必要に応じて、ラジカル重合開始剤、他のラジカル重合性化合物を含んでもよい。
また、多官能のラジカル重合性化合物を含有させたものは架橋して使用できるため、光学材料用としてより好ましい。
他のラジカル重合性化合物、ラジカル重合開始剤、重合(硬化)方法については一般式(1)のラジカル重合性化合物の重合体の項の記載と同様である。但し、硬化物からの除去の問題があるので溶媒は用いない方が好ましい。
【0071】
一般式(1)のラジカル重合性化合物と、他のラジカル重合性化合物の組成物中の配合量は特に限定されない。本組成物を光学材料用重合性組成物として使用し、かつ硬化方法が注型硬化の場合には、型に注入し易くするために、適宜ラジカル重合性モノマーを反応性希釈剤として配合し粘度調整をすることができる。粘度は、型に流し込む時の温度において、600mPa・s以下であることが好ましく、300mPa・s以下がより好ましく、200mPa・s以下が特に好ましい。なお、粘度はJIS Z8803に準拠して測定した値である。
【0072】
また、本発明の光学材料用組成物は紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、着色剤(着色顔料、染料)、流動調節剤、レベリング剤、無機充填剤などの公知の各種添加剤を使用することも可能である。
【0073】
紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2’−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのトリアゾール類、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、4−tert−ブチルフェニルサリシラート等のサリシラート類、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバシートなどのヒンダートアミン類が挙げられる。
【0074】
紫外線吸収剤の配合量としては、他の配合物の種類、量等により変わるが、一般的には、光学材料用組成物中の全ラジカル重合性成分100質量部に対して0.01〜2質量部が好ましく、0.03〜1.7質量部がより好ましく、0.05〜1.4質量部が最も好ましい。紫外線吸収剤が0.01質量部未満では十分な効果が期待できず、2質量部を超えると経済的に好ましくない。
【0075】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]メタン等のフェノール系、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオナート等の硫黄系、トリスノニルフェニルホスファイト等のリン系の酸化防止剤が挙げられる。
【0076】
酸化防止剤の配合量は、他の配合物の種類、量等により変わるが、一般的には、光学材料用組成物中の全ラジカル重合性成分100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.05〜4質量部がより好ましく、1〜3質量部が最も好ましい。酸化防止剤が0.01質量部未満では十分な効果が期待できず、5質量部を超えると経済的に好ましくない。
【0077】
離型剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アミド、フッ素系化合物類、シリコン化合物類などが挙げられる。
離型剤の配合量は、他の配合物の種類、量等により変わるが、一般的には、光学材料用組成物中の全ラジカル重合性成分100質量部に対して、0.01〜2質量部が好ましく、0.03〜1.7質量部がより好ましく、0.05〜1.4質量部が最も好ましい。離型剤が0.01質量部未満では十分な効果が期待できず、2質量部を超えると経済的に好ましくない。
【0078】
着色剤としては、アントラキノン系、アゾ系、カルボニウム系、キノリン系、キノンイミン系、インジゴイド系、フタロシアニン系などの有機顔料、アゾイック染料、硫化染料などの有機染料、チタンイエロー、黄色酸化鉄、亜鉛黄、クロムオレンジ、モリブデンレッド、コバルト紫、コバルトブルー、コバルトグリーン、酸化クロム、酸化チタン、硫化亜鉛、カーボンブラックなどの無機顔料などが挙げられる。その配合量は特に限定されない
【0079】
本発明の光学材料用組成物をプラスチックレンズなどの光学材料に成形する場合、その成形加工方法には、注型成形が適している。具体的には、組成物中にラジカル重合開始剤を添加し、エラストマーガスケットやスペーサーで固定されている型へ注入して、オーブン中で熱により硬化する方法などが挙げられる。
【0080】
このとき、型として使用される材質は、通常金属やガラスである。一般に、プラスチックレンズの型は注型成形の後に洗浄が必要であり、洗浄剤としては通常、強アルカリ液または強酸が用いられる。ガラスは金属とは異なり、洗浄により変質せず、また容易に研磨され平坦面が得やすいという理由から、好ましく用いられている。
【0081】
本発明の光学材料用組成物をプラスチックレンズ等に成形する際の硬化温度は、組成物の組成比、添加剤の種類、量によって異なるが、一般的には約20〜150℃、好ましくは30〜120℃である。
また、硬化温度の操作については、硬化時の収縮やひずみを考慮すると、昇温しながら徐々に硬化する方法が好ましい。一般的には0.5〜100時間、好ましくは3〜50時間、さらに好ましくは10〜30時間かけて硬化するのがよい。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により何らの限定を受けるものではない。
【0083】
実施例及び比較例で合成した物質の諸物性は、以下の通りに測定した。
1.屈折率(nD)およびアッベ数
使用機種:アタゴ社製 アッベ屈折率計1T
測定方法:9mm×16mm×4mmの試験片を作製し、「アッベ屈折率計1T」を用いて、25℃における屈折率(nD)及びアッベ数(νD)を測定した。接触液はジヨードメタンを使用した。
【0084】
2.1H−NMR
使用機種:日本電子社製 JEOL EX−400(400MHz)
測定方法:重水素化クロロホルムに溶解し、内部標準物質にテトラメチルシランを使用して測定した。
3.FT−IR
使用機種:パーキンエルマー社製 Spectrum GX
測定方法:KBr板を用いて、液膜法で測定した。
【0085】
実施例1:4−クロロメチル−1,3−ジチオラン−2−オンの合成
【化17】

【0086】
ジムロート冷却管、撹拌子、温度計を備えた丸底フラスコに、5−クロロメチル−1,3−オキサチオラン−2−チオン(式15)(500g,2.96mol)、トリフルオロメタンスルホン酸(4.44g,0.029mol)、トルエン(500ml)を仕込み、窒素雰囲気下にした。フラスコを加熱し、緩やかに還流させ、還流開始から4時間後に反応液を冷却した。反応液に水酸化ナトリウム水溶液を加え数回洗浄、分液し、さらに水で数回洗浄、分液した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥してろ過した後、エバポレーターを用いて低沸点物を除去した。得られた反応物について減圧蒸留(沸点:76.5℃/24Pa)を行ったところ、微黄色透明液体を得た(収量:399.5g,収率:79.9%)。この液体の1H−NMR及びFT−IRを測定し、目的化合物である4−クロロメチル−1,3−ジチオラン−2−オン(式16)であることを確認した。
【0087】
実施例2:4−メルカプトメチル−1,3−ジチオラン−2−オンの合成
【化18】

【0088】
撹拌子、温度計を備えた丸底フラスコに、4−クロロメチル−1,3−ジチオラン−2−オン(式16)(131.86g,0.78mol)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(493g)を仕込み、窒素雰囲気下にした。70%水硫化ナトリウム含水物(62.6g,水硫化ナトリウムとして0.78mol)を数回に分け、7時間かけて反応液に加えた。次に、35質量%塩酸水溶液(4.47g)を加え中和した後、析出している不溶物を濾過により除いた。得られた反応液より減圧下低沸点物を留去し、淡黄色粘稠液体を得た(収量:112.7g)。
得られた淡黄色粘稠液体の減圧蒸留(沸点:121℃/40Pa)を行ったところ、無色透明液体を得た(収量:40.3g;淡黄色粘稠液体の仕込み量105.5gに対する量)。この液体の1H−NMR、FT−IRを測定し、目的化合物である4−メルカプトメチル−1,3−ジチオラン−2−オン(式17)であることを確認した。
【0089】
実施例3:S−[4−(1,3−ジチオラン−2−オン)−イル−メチル]メタクリルチオエートの合成
【化19】

【0090】
撹拌子、滴下漏斗、温度計を備えた丸底フラスコに、実施例(2)で得られた式(17)で示される化合物(20.04g,0.12mol)、ピリジン(12ml,0.15mol)、ジメチルホルムアミド(400ml)を仕込み、窒素雰囲気下にした。当該液を氷水で冷やし、当該液の温度が2℃になったところで、メタクリロイルクロリド(式(18),11ml,0.15mol)を滴下した。そのまま5時間撹拌した後、反応液を室温にして、さらに18時間撹拌した。反応液に酢酸エチルを加え、水で数回洗浄、分液を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過した。得られた有機層にヒドロキノン(147mg)を加え、エバポレーターにて低沸点物を留去し、淡黄色液体(収量:27.09g)を得た。
得られた淡黄色液体の減圧蒸留を行い(沸点:141〜147℃/26.6Pa)、無色透明液体を得た(収量:8.7g;無色透明液体の仕込み量27gに対する量)。この液体の1H−NMR及びFT−IRを測定し、目的化合物であるS−[4−(1,3−ジチオラン−2−オン)−イル−メチル]メタクリルチオエート(式19)であることを確認した。
【0091】
実施例4:式(19)の硬化
実施例3で得られた式(19)で示される化合物(1.5g)に、ラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキシド(日本油脂株式会社製,商品名:パークミルD,45.9mg)を加え、2枚のガラス板とシリコンチューブスペーサーからなる厚さ4mmの型に流し込んだ。これをオーブンに入れ、50℃で2時間加熱し、次いで2時間かけて100℃に昇温し、そのまま100℃で2時間加熱するという硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果、無色透明な硬化物が得られ、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
実施例5:式(19)と他のラジカル重合性モノマーとの硬化
実施例3で得られた式(19)で示される化合物(1.06g)、メタクリル酸n−ブチル(和光純薬工業株式会社製,0.44g)、ラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキシド(日本油脂株式会社製,商品名:パークミルD,41.4mg)を混合し、2枚のガラス板とシリコンチューブスペーサーからなる厚さ4mmの型に流し込んだ。これをオーブンに入れ、50℃で2時間加熱し、次いで2時間かけて100℃に昇温し、そのまま100℃で2時間加熱するという硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果、無色透明な硬化物が得られ、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0093】
実施例6:式(19)と他のラジカル重合性モノマーとの硬化
実施例3で得られた式(19)で示される化合物(1.23g)、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社製,商品名:NKエステルCHD−4E,0.82g)、ラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキシド(日本油脂株式会社,商品名:パークミルD,61.5mg)を混合し、2枚のガラス板とシリコンチューブスペーサーからなる厚さ4mmの型に流し込んだ。これをオーブンに入れ、50℃で2時間加熱し、次いで2時間かけて100℃に昇温し、そのまま100℃で2時間加熱するという硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果、無色透明な硬化物が得られ、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
実施例7:式(19)と他のラジカル重合性モノマーとの硬化
実施例3で得られた式(19)で示される化合物(1.17g)、ジシクロペンタニルメタクリレート(日立化成工業株式会社製、商品名:FA−513M、0.79g)、ラジカル重合開始剤である1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルエヘキサノエート(日本油脂株式会社製,商品名:パーオクタO,9.8mg)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(日本油脂株式会社製,商品名:パーヘキサTMH,9.8mg)を混合し、2枚のガラス板とシリコンチューブスペーサーからなる厚さ4mmの型に流し込んだ。これをオーブンに入れ、50℃で2時間加熱し、次いで2時間かけて100℃に昇温し、そのまま100℃で2時間加熱するという硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果、無色透明な硬化物が得られ、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0095】
比較例1:5−(1,3−オキサチオラン−2−チオン)−イル−メチルメタクリレートの硬化
特開2005−36084号公報の[0068]参考製造例2に基づき、式(20)で示される化合物(5−(メタクリロイルオキシ)メチル−1,3−オキサチオラン−2−チオン)を合成した。
【化20】

【0096】
この式(20)で示される化合物(2.2g)に、ラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキシド(日本油脂株式会社製,商品名,パークミルD,65mg)を加え、加温しながら2枚のガラス板とシリコンチューブスペーサーからなる厚さ4mmの型に流し込んだ。これをオーブンに入れ、100℃で1時間加熱し、次いで1時間かけて130℃に昇温し、そのまま130℃で2時間加熱させる硬化温度プログラムで熱硬化させた。
この結果得られた硬化物は褐色透明であった。その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

結果の通り、本発明のラジカル重合性化合物および光学材料用組成物から得られた硬化物は屈折率が高く、光学材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される基およびラジカル重合性の二重結合を有することを特徴とするラジカル重合性化合物。
【化1】

(式中、R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)のR1〜R3が水素原子であり、かつXがメチレン基である請求項1に記載のラジカル重合性化合物。
【請求項3】
請求項1に記載のラジカル重合性化合物が、一般式(2)で示されることを特徴とするラジカル重合性化合物。
【化2】

(式中、R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。R4は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項4】
一般式(2)のR1〜R3が水素原子、R4がメチル基であり、かつXがメチレン基である請求項3に記載のラジカル重合性化合物。
【請求項5】
請求項1〜4に記載のラジカル重合性化合物の重合体。
【請求項6】
請求項1〜4に記載のラジカル重合性化合物と他のラジカル重合性化合物との共重合体。
【請求項7】
請求項1〜4に記載のラジカル重合性化合物とメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレートのいずれかから選択される少なくとも一種のラジカル重合性モノマーとの共重合物。
【請求項8】
請求項1〜4に記載のラジカル重合性化合物を含む光学材料用組成物。
【請求項9】
一般式(3)で示されるメルカプト化合物を(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と反応させることを特徴とする請求項3に記載のラジカル重合性化合物の製造方法。
【化3】

(式中、R1〜R3はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは炭素数1〜4のアルキレン基を表す。)
【請求項10】
一般式(3)で示されるメルカプト化合物をハロプロピオン酸のハロゲン化物と反応させ、ハロプロピオン酸チオエステルとし、当該ハロプロピオン酸チオエステルを脱ハロゲン化水素することを特徴とする請求項3に記載のラジカル重合性化合物の製造方法。
【請求項11】
一般式(3)において、R1〜R3の少なくとも一つが水素原子ではないメルカプト化合物。
【請求項12】
一般式(3)において、Xがメチレン基であるメルカプト化合物。
【請求項13】
一般式(3)において、R1〜R3の少なくとも一つが水素原子ではなく、かつXがメチレン基であるメルカプト化合物。
【請求項14】
光導波路、光学レンズ、光学用封止剤、光学用接着剤、光学フィルム、導光板に用いることを特徴とする、請求項8に記載の光学材料用組成物。
【請求項15】
請求項8に記載の光学材料用組成物から得られた光導波路。
【請求項16】
請求項8に記載の光学材料用組成物から得られた光学レンズ。
【請求項17】
請求項8に記載の光学材料用組成物から得られた光学用封止剤。
【請求項18】
請求項8に記載の光学材料用組成物から得られた光学用接着剤。
【請求項19】
請求項8に記載の光学材料用組成物から得られた光学フィルム。
【請求項20】
請求項8に記載の光学材料用組成物から得られた導光板。

【公開番号】特開2007−224294(P2007−224294A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16074(P2007−16074)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】