説明

環状チオカーボネート、その製造方法、重合硬化物及び光学材料

【課題】
開環重合反応の制御を容易にする高屈折率材料を提供する。
【解決手段】
一般式(1)で表される環状チオカーボネート。
【化1】


(式中、X、Yはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表し、R、Rは炭素数が1から4のアルキル基を表し、R、Rは炭素数が1から8のアルキレン鎖を表す。ただし、R、R、R、Rの中に硫黄原子を含有していてもよく、環構造を含有していてもよい。)
また、前記環状チオカーボネートと、任意成分として前記環状チオカーボネートと反応する官能基を有する有機化合物を含有することを特徴とする重合性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な環状チオカーボネートおよびその製造方法に関する。更には、前記環状チオカーボネートを使用した重合硬化物及び光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料としてプラスチックレンズが注目を浴びている。プラスチックレンズはガラスレンズに比べ軽量で割れにくく、染色、切削等の加工性も容易である。例えば、特許文献1および特許文献2などに記載されているポリエピスルフィドの開環重合体であるポリチオエーテルは屈折率が1.6台後半から1.7台と高く、アッベ数も30以上と高いため、光学レンズやプリズムなどの薄型化に貢献している。しかし、ポリエピスルフィドはその反応性の高さから反応の制御が難しく、製造工程の開環重合反応中に、予期せぬ発熱、発煙、着色などが起きることが知られている。
【特許文献1】特開平9−71580号公報
【特許文献2】特開平9−110979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記に示す開環重合反応の制御を容易にする高屈折率材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以下の事項に関する。
[1]一般式(1)で表される環状チオカーボネート。
【0005】
【化1】


(式中、X、Yはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表し、R、Rは炭素数が1から4のアルキル基を表し、R、Rは炭素数が1から8のアルキレン鎖を表す。ただし、R、R、R、Rの中に硫黄原子を含有していてもよく、環構造を含有していてもよい。)
[2]前記環状チオカーボネートと、任意成分として前記環状チオカーボネートと反応する官能基を有する有機化合物を含有することを特徴とする重合性組成物。
[3]任意成分がチオール化合物である、[2]記載の重合性組成物。
[4][2]または[3]記載の重合性組成物を重合してなる重合硬化物。
[5][4]記載の重合硬化物を含む光学材料。
[6]一般式(2)で表されるトリチオール化合物と一般式(3)で表されるジアリール(チオ)カーボネートを反応させ一般式(4)で表される化合物を得た後、一般式(4)で表される化合物を酸化反応することを特徴とする[1]記載の環状チオカーボネートの製造方法。(ただし、一般式(4)で表される化合物は単独で使用してもよく、複数で使用してもよい。)
【0006】
【化2】


(式中、Rは前記R又はRに相当し、R’は前記RまたはRに相当する。R、R、R、Rは前記と同様である。)
【0007】
【化3】


(式中、Aは前記X又はYに相当する酸素原子又は硫黄原子を表し、Arは芳香族置換基を表す。)
【0008】
【化4】

(式中、R、R’、Aは前記と同様である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明により、上記に示す開環重合反応の制御を容易にする高屈折率重合性モノマーであり、高屈折率材料の原料として有用な環状チオカーボネートおよびその製造方法、重合性組成物を提供することができる。また、該重合性組成物を用いて熱硬化を行うことで重合硬化物を得ることができる。重合硬化物は、高屈折率の光学材料、例えばプラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録用基盤、着色フィルター、赤外線吸収フィルターなどに使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の環状チオカーボネートは前記一般式(1)で表され、X、Yはそれぞれ独立に酸素原子、あるいは硫黄原子を表す。中でも、X、Yが共に酸素原子であるものが着色度が低いため好ましい。R、Rは炭素数が1から4のアルキル基を表し、R、Rは炭素数が1から8、好ましくは1から4のアルキレン鎖を表す。ただし、R、R、R、Rの中に硫黄原子を含有していてもよく、環構造を含有していてもよい。硫黄原子の数は特に限定されないが、環構造は脂環構造であることが好ましい。
【0011】
前記一般式(1)で表される環状チオカーボネートは、前記一般式(2)で表されるトリチオール化合物と前記一般式(3)で表されるジアリール(チオ)カーボネートをエステル交換触媒の存在下、エステル交換反応をさせて一般式(4)で表される化合物とし、これを酸化反応によりジスルフィド化することにより製造される。一般式(4)で表される化合物が同じ種類であれば、対称の環状チオカーボネートを得ることができる。他方、一般式(4)で表される異なる種類の化合物を複数用いて酸化反応をすれば、非対称の環状チオカーボネートを得ることができる。
【0012】
一般式(2)で表されるトリチオール化合物としては1,2,3−トリメルカプトプロパン、1,2,3−トリメルカプトブタン、1,2,3−トリメルカプトペンタン、1,2,3−トリメルカプトヘキサン、1,2,3−トリメルカプトヘプタン、1,2,4−トリメルカプトブタン、1,2,5−トリメルカプトペンタン、1,2,6−トリメルカプトヘキサン、1,2,7−トリメルカプトヘプタン等のトリチオール、
【0013】
1,2,5−トリメルカプト−4−チアペンタン、1,2,9−トリメルカプト−4,7−チアノナン等の硫黄原子を含むトリチオール、1−メルカプトメチル−4−(2’,3’−メルカプトプロピル)シクロヘキサン等の環構造を含むトリチオール、2−メルカプトメチル−5−(2’,3’−メルカプトプロピル)−1,4−ジチアン等の硫黄原子及び環構造を含有するトリチオールなどが挙げられる。
【0014】
一般式(3)で表されるジアリール(チオ)カーボネートとしては、ジフェニルカーボネート、ジフェニルチオカーボネート等が挙げられる。
【0015】
エステル交換触媒は、前記エステル交換反応を触媒する化合物であれば特に制限されない。例えば、炭酸カリウム、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等)、四級アンモニウム塩(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド)などの塩基性化合物;四塩化チタン、テトラアルコキシチタン(テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン等)などのチタン化合物;金属スズ、水酸化スズ、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンオキシド、ブチルチントリス(2−エチルヘキサノエート)などのスズ化合物があげられる。
【0016】
エステル交換触媒の中では、炭酸カリウム、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等)、四級アンモニウム塩(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド)などの塩基性化合物;およびテトラアルコキシチタン(テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン等)が好ましい。
【0017】
エステル交換触媒の使用量は、一般式(2)で表されるトリチオール化合物と一般式(3)で表されるジアリール(チオ)カーボネートの合計量に対して、重量基準で0.001〜5%、好ましくは0.01〜2%、特に好ましくは0.05〜1%の範囲で使用するのが好ましい。
【0018】
エステル交換反応の温度条件は、150℃を超える高温条件で反応を行うと高分子量化した化合物が副生成物として生成してくるため、反応温度はジアリール(チオ)カーボネートがトリチオール化合物に溶解する20℃〜150℃、さらには20〜120℃、特に20〜100℃で反応を行うのが好ましい。反応時間としては、1分〜24時間、さらには3分〜10時間、特に5分〜5時間で行うのが好ましく、圧力としては、目的物を生成させることができるなら特に制限されない。
【0019】
エステル交換反応終了後、エステル交換触媒を不活性化することが好ましい。エステル交換触媒を不活性化する方法としては、無機酸あるいは有機酸を混合して中和することが挙げられる。中和反応に用いる無機酸としては、硫酸等が挙げられ、有機酸としては、p−トルエンスルホン酸・一水和物、メタンスルホン酸等が挙げられる。無機酸あるいは有機酸の使用量は、エステル交換触媒の使用量に対してモル基準で1〜3倍、好ましくは1.05〜2倍、より好ましくは1.1〜1.5倍であることが好ましい。
【0020】
次いで、触媒を不活性化した後の反応混合物は溶媒に溶解される。溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等が挙げられ、中でも沸点の低い溶媒であるジクロロメタン、クロロホルム等が特に好ましい。
【0021】
溶媒に溶解された反応混合物は、同容量の水が加えられ洗浄される。その後、水が除去され、溶媒とアリールアルコールが加熱減圧により除去される。最後に、蒸留精製を行うことにより一般式(4)が得られる。蒸留精製方法としては、減圧蒸留や薄膜蒸留が挙げられる。蒸留精製の温度と圧力は、それぞれ20℃〜150℃、0.01〜50kPaである。
尚、触媒の不活性化から蒸留精製に至る操作温度は、副反応による高分子量化を考慮して20〜150℃、好ましくは20〜120℃、より好ましくは20〜100℃が好ましい。
【0022】
一般式(1)で表される環状チオカーボネートは一般式(4)で表される化合物をジスルフィドへと酸化させて製造することができる。この際、酸化剤の存在下において行うことが好ましい。前記酸化剤としては、ジスルフィドへの酸化反応を促進する化合物であれば特に制限されない。例えば、過塩素酸ナトリウム、ヨウ素、二酸化鉛(PbO)、酸素、硫酸銅、塩化第二鉄、過マンガン酸カリウムなどが挙げられる。酸化剤は化合物(4)に対してモル基準で1倍以上用いることが必要であり、さらには1.02〜4倍、特に1.05〜2倍用いるのが好ましい。
【0023】
環状チオカーボネートを製造する際に、一般式(4)で表される化合物は、単独で使用してもよいが、複数種類(少なくとも2種)で使用しても良い。複数種類使用する場合の使用割合は、得られる光学材料の物性に応じて適宜選択される。
【0024】
ジスルフィドへの酸化反応の温度条件は、150℃を超える高温条件で反応を行うと高分子量化した化合物が副生成物として生成してくるため、20℃〜150℃、さらには20〜120℃、特には20℃〜100℃で反応を行うのが好ましい。酸化反応の時間及び圧力は、目的物を生成させることができるなら特に制限されない。
【0025】
前記酸化反応は、原料が溶解し、原料と反応しない溶媒中で行うことができる。溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール化合物;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル化合物;クロロホルム、ジクロロメタンなどの塩化炭化水素化合物、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトニル、N−メチルピロリドンなどの極性化合物などが挙げられる。
【0026】
得られた反応混合物は、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼンなどの溶媒に溶解させ、同容量の水で2〜10回、好ましくは3〜8回洗浄される。水を分離した後、溶媒を除去することにより、環状チオカーボネートは固形物として単離される。溶媒の除去温度は20〜150℃、好ましくは20〜120℃、特に好ましくは20〜100℃である。また、圧力は溶媒が留去でき、環状チオカーボネートが留出しない範囲であれば特に制限されないが、例えば、0.01〜50kPaである。
【0027】
溶媒除去後、所望の純度を得るために環状チオカーボネートを不可溶溶媒を用いて更に洗浄することができる。不可溶溶媒としては、例えば、ヘプタン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロメタン−ヘプタン(1:1(容量基準))、ジイソプロピルエーテル、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどが挙げられる。特に好ましくはヘキサン、ジクロロメタン−ヘプタン(1:1(容量基準))、ジエチルエーテルなどが挙げられる。洗浄温度は、冷温下、例えば−40〜50℃、特に好ましくは−20〜30℃である。
【0028】
上記で得られる環状チオカーボネートは、任意成分として前記環状チオカーボネートと反応する官能基を有する有機化合物を含有することにより、重合性組成物となる。
前記有機化合物は、重合性組成物を硬化して得られる重合硬化物の光学的性能や力学的性能を調整するための樹脂改質剤として、単独または複数の種類の化合物を存在させることができる。
【0029】
環状チオカーボネートと反応する官能基を有する有機化合物は、環状チオカーボネートと反応する官能基を少なくとも1個有し、特に低分子化合物が好ましい。具体的には、チオール化合物、アミン化合物、アリル化合物、(メタ)アクリレート化合物、有機酸およびその無水物、メルカプト有機酸、メルカプトアミン、フェノール化合物等が挙げられる。
【0030】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネートと反応する官能基を有するチオール化合物としては、SH基を1個または2個以上有する化合物が挙げられる。通常は、SH基は8個以下、好ましくは6個以下である。このような化合物として、例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、1,2−エタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,7−ヘプタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,12−ドデカンジチオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジチオール、3−メチル−1,5−ペンタンジチオール、2−メチル−1,8−オクタンジチオール、1,4−シクロヘキサンジチオール、1,4−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)ジスルフィド、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジオキサン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、1,1,1−トリス(メルカプトメチル)エタン、2−エチル−2−メルカプトメチル−1,3−プロパンジチオール、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、3,3’−チオビス(プロパン−1,2−ジチオール)、2,2’−チオビス(プロパン−1,3−ジチオール)、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトアセテート)等の脂肪族チオール化合物;およびベンジルメルカプタン、チオフェノール、1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,3,5−ベンゼントリチオール、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、トルエン−3,4−ジチオール等の芳香族チオール化合物などが挙げられる。また、環状チオカーボネートを製造する際の中間体である、化合物(4)をチオール化合物として挙げることができる。
【0031】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネートと反応する官能基を有するアミン化合物としては、少なくとも1個のアミノ基を有する化合物が挙げられ、例えばエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、3−ペンチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、1,2−ジメチルヘキシルアミン、アミノメチルビシクロヘプタン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、2,3−ジメチルシクロヘキシルアミン、アミノメチルシクロヘキサン、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,7−ジアミノフルオレン等の1級脂肪族アミン化合物;アニリン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、メタ(又はパラ)キシリレンジアミン、1,5−、1,8−、あるいは2,3−ジアミノナフタレン、2,3−、2,6−、あるいは3,4−ジアミノピリジン等の1級芳香族アミン化合物;ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、ピペリジン、ピロリジン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、1,1−ジ(4−ピペリジル)メタン、1,2−(4−ピペリジル)エタン、1,3−(4−ピペリジル)プロパン、1,4−ジ(4−ピペリジル)ブタン等の2級脂肪族アミン化合物;およびジフェニルアミン、ジベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、N−エチルベンジルアミン等の2級芳香族アミン化合物が挙げられる。
【0032】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネートと反応する官能基を有するアリル化合物としては、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルアミン、ジアリルアミン、N−メチルアリルアミン等が挙げられる。
【0033】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネートと反応する官能基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、ベンジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネート化合物と反応する官能基を有する有機酸およびその無水物としては、チオジグリコール酸、ジチオジプロピオン酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルノルボルネン酸無水物、メチルナルボルナン酸無水物、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
【0035】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネート化合物と反応する官能基を有するメルカプト有機酸としては、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオ酢酸、チオ乳酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸等が挙げられる。
【0036】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネート化合物と反応する官能基を有するメルカプトアミンとしては、アミノエチルメルカプタン、2−アミノチオフェノール、3−アミノチオフェノール、4−アミノチオフェノール等が挙げられる。
【0037】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネート化合物と反応する官能基を有するフェノール化合物としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、3−メトキシフェノール、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、ピロガロール等が挙げられる。
【0038】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネート化合物と反応する官能基を有する有機化合物のなかでも、チオール化合物、アミン化合物、メルカプトアミンおよびフェノール化合物が好ましく、特に屈折率の点でチオール化合物が好ましい。これら化合物の中では、前記一般式(4)で表される化合物が特に好ましく、環状チオカーボネートの中間体をそのまま使用することができる。
【0039】
前記、重合性組成物における、環状チオカーボネートと反応する官能基を有する有機化合物は全量に対して、0〜70重量%、さらには0〜60重量%、特に0〜50重量%の範囲で存在させることができる。
【0040】
本発明の重合性組成物は、その他に目的に応じて問題のない範囲で、内部離型剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、塗料、充填剤等を加えてもよい。
【0041】
本発明の重合硬化物は、重合性組成物を硬化反応することにより得ることができる。硬化反応は、硬化触媒の存在下、組成物を0℃〜80℃で攪拌した後、ガラスや金属製の型に注入し、1〜72時間かけて10〜200℃で特に20℃〜150℃で徐々に昇温しながら加熱することによって行うのが好ましい。触媒は、硬化反応を制御できる範囲で必要に応じて適宜使用すればよく、その使用量は重合性組成物に対して例えば10重量%以下、より好ましくは0.001〜3重量%、特に好ましくは0.01〜1重量%であればよい。
【0042】
硬化反応に使用する触媒としては、化合物(4)を製造する際のエステル交換触媒と同じものを挙げることができ、例えば、炭酸カリウム、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等)、四級アンモニウム塩(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、リチウムジイソプロピルアミド、水酸化ナトリウムなどの塩基性化合物が挙げられる。
【0043】
上記で得られる重合硬化物を含む光学材料は、高屈折率の光学材料、例えばプラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録用基盤、着色フィルター、赤外線吸収フィルターなどの用途に幅広く使用することができる。
【実施例】
【0044】
〔環状チオカーボネートチオールの製造〕
攪拌機、温度計を設置した内容積200mlのガラス製反応器に、1,2,3−トリメルカプトプロパン24.04g(0.171モル)、ジフェニルカーボネート36.68g(0.171モル)および28重量%ナトリウムメトキシド−メタノール溶液(触媒)0.236g(0.0012モル)を仕込み、常圧、60℃の条件で10分間反応を行った。次いで、硫酸0.25g(0.0025モル)を添加後、常圧、室温の条件で1時間攪拌した。反応溶液を500mlのジクロロメタンに溶解させ、500ml飽和食塩水を用いて抽出洗浄操作を2回行った。抽出操作後の有機層に硫酸マグネシウムを添加して脱水処理を行い、140℃、1mmHg(133Pa)の条件で溶媒であるジクロロメタンと反応生成物であるフェノールを減圧除去した。精製処理後、透明液状の環状チオカーボネートチオール(A)を27.25g(収率95.6%)得た。
【0045】
得られた環状チオカーボネートチオール(A)のH−NMR(重クロロホルム中)の測定結果を次に示す。
H−NMR:(300MHz、CDCl)1.68−1.74ppm(q、J=1.0Hz、SH)、2.97−3.04ppm(m、J=1.2、2.2、CHSH)、3.70−3.91ppm(m、J=1.2、2.2、−CHCH(R)CHSH)、4.04−4.13ppm(m、J=1.2、2.2、−CHCHSH)
【0046】
得られた環状チオカーボネートチオール(A)の質量分析(DI−MS CI)の測定結果を次に記す。
Mass found mass=167(Exact Mass=166.97)
【0047】
〔環状チオカーボネートの製造〕
内容積100mlのガラス製反応器に環状チオカーボネートチオール(A)10.00g(0.0601モル)および塩化第二鉄・6水和物19.49g(0.0721モル)をメタノール60mlに溶解させ常圧、室温条件下で1時間攪拌した。反応溶液をジクロロメタン200mlに溶解させ200ml飽和食塩水で抽出洗浄操作を2回行った。抽出操作後の有機層に硫酸マグネシウムを添加して脱水処理を行い、常圧、80℃の条件で溶媒であるジクロロメタンを除去した。溶媒除去後の白色粉体をジクロロメタン−ヘプタン(1:1, v/v)で洗浄し、環状チオカーボネート(B)を白色粉体として8.34g(収率84.1%)得た。
【0048】
得られた環状チオカーボネート(B)のH−NMR(重ジメチルスルホキシド中)の測定結果を次に示す。
H−NMR:(300MHz、CDCl)3.23−3.40ppm(m、J=1.5、5.4、CHSS−)、3.75−4.04ppm(m、J=1.5、5.4、CHCH(R)CH2SS−)、4.55−4.63ppm(m、J=1.5、5.4、−CHCHSS)
【0049】
得られた環状チオカーボネート化合物(B)の質量分析(LC/MS FAB)結果を次に記す。
Mass found mass=331(Exact Mass+H=330.91)
【0050】
〔重合硬化物の製造〕
環状チオカーボネート(B)10g(0.0303モル)、環状チオカーボネートチオール(A)10g(0.0601モル)及び炭酸カリウム0.2gを十分に攪拌して重合性組成物とし、これを2枚のガラス板をシリコンゴムスペーサーで挟んだ型の中に注型した。注型後に室温(25℃)で2時間放置し、その後、25℃から100℃まで35時間かけて昇温し、得られた重合硬化物を離型した。反応は穏やかであり、得られた重合硬化物に気泡は観測されなかった。アッベ屈折率計(アタゴ製;MR−04)で屈折率を測定したところ、以下の結果が得られた。なお、屈折率(n)は23℃でe線(λ=546nm)を照射したときのものを表し、アッベ数(ν)は23℃でe線(λ=546nm)、F’線(λ=480nm)、C’線(λ=644nm)を照射したときの屈折率(n、nF’、nC’)から次式により算出した。
ν=(n−1)/(nF’−nC’
屈折率(n):1.75、アッベ数(ν):31.0
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の環状チオカーボネートは、開環重合反応の制御が容易であり、重合硬化物の屈折率及びアッベ数が高いために、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記憶用基盤、着色フィルター、赤外線吸収フィルター、光学フィルム、接着剤などの光学材料への利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される環状チオカーボネート。
【化1】


(式中、X、Yはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表し、R、Rは炭素数が1から4のアルキル基を表し、R、Rは炭素数が1から8のアルキレン鎖を表す。ただし、R、R、R、Rの中に硫黄原子を含有していてもよく、環構造を含有していてもよい。)
【請求項2】
前記環状チオカーボネートと、任意成分として前記環状チオカーボネートと反応する官能基を有する有機化合物を含有することを特徴とする重合性組成物。
【請求項3】
任意成分がチオール化合物である、請求項2記載の重合性組成物。
【請求項4】
請求項2または3記載の重合性組成物を重合してなる重合硬化物。
【請求項5】
請求項4記載の重合硬化物を含む光学材料。
【請求項6】
一般式(2)で表されるトリチオール化合物と一般式(3)で表されるジアリール(チオ)カーボネートを反応させ一般式(4)で表される化合物を得た後、一般式(4)で表される化合物を酸化反応することを特徴とする請求項1記載の環状チオカーボネートの製造方法。(ただし、一般式(4)で表される化合物は単独で使用してもよく、複数で使用してもよい。)
【化2】


(式中、Rは前記R又はRに相当し、R’は前記RまたはRに相当する。R、R、R、Rは前記と同様である。)
【化3】


(式中、Aは前記X又はYに相当する酸素原子又は硫黄原子を表し、Arは芳香族置換基を表す。)
【化4】

(式中、R、R’、Aは前記と同様である。)

【公開番号】特開2008−247868(P2008−247868A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94327(P2007−94327)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】