説明

環状デプシペプチド

【課題】医薬品として用いた場合に副作用を回避できる程度の適度な生理活性を有する新規な環状デプシペプチドを提供する。
【解決手段】頭楯目の海洋肉食性軟体動物由来のPhilinopsis speciosakulokekahilide-7Aの構造あるいはkulokekahilide-7Bの構造式を有する新規な環状デプシペプチド。この新規デプシペプチドは医薬品として副作用を回避できる制癌剤として特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質としての新規な環状デプシペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,医薬品の素材として海洋生物の生産する生理活性物質が注目され、海洋生物由来の新規な環状デプシペプチドの単離が試みられている。また、環状デプシペプチドは、癌に対する薬理作用等の生理活性を有することが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。例えば、海洋軟体生物であるアメフラシ科のタツナミガイ(Dolabella auricularia)から単離された環状デプシペプチドの一つであるオーリライドは非常に強力な細胞毒性を示す(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
また、本発明者らは、制癌剤として有用である新規な環状デプシペプチドの創出につき鋭意検討する中で、頭楯目の海洋肉食性軟体動物であるPhilinopsis speciosaに着目し、Philinopsis speciosaの抽出物の分画を進めたところ、純粋な活性ペプチドの単離に成功し、これをkulokekahilide-2と命名してJ. Nat. Prod.(非特許文献1)に報告した。天然由来のkulokekahilide-2の生理活性について検証したところ、ガン細胞株であるP388、SK−OV−3、MDA−MB−435、及びA−10に対してIC50の値が、それぞれ、4.2、7.5、14.6、及び59.1nMという強い細胞毒性を示すことを発見した。
【0004】
さらに、この天然由来のkulokekahilide-2について高分解能質量分析および一次元および二次元NMRスペクトル(COSY、HMQC、HMBC、NOESY)の解析に基づいて構造解析を行った結果、当該ペプチドがC446710の組成式を有し、alanine(Ala)、Isoleucine(Ile)、N-methylglycine(NMeGly)、N-methylphenylalanine(NMePhe)、およびalanineの5つのアミノ酸、ならびに、2-hydroxyisocaproic acid(leucic acid 、Hica)および5,7-dihydroxy-2,6,8-trimethyl-2,8-decadienoic acid(5S,6S,7S-Dtda)の2つのヒドロキシ脂肪酸から構成されている新規な環状デプシペプチドであることを導出し、また、その構成アミノ酸の立体配置についても推定した。
【0005】
本発明者らは上述の構造解析の結果に基づいて種々の立体異性体の合成を試みた。そして合成に成功した全ての立体異性体について生理活性を測定し、天然由来のkulokekahilide-2のスペクトルと全く同様なスペクトルを示す化合物(5)を合成異性体の中から見出し、この合成異性体は天然物と同等の細胞毒性を示した(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−233084号公報
【特許文献2】特表2006−501291号公報
【特許文献3】特表2006−523214号公報
【特許文献4】特開2003−64097号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y. Nakao, W. Y. Yoshida, Y. Takada, J. Kimura, L. Yang, S. L .Mooberry, and P. J. Scheuer, J.Nat.Prod., 2004, 67 1332-1340
【非特許文献2】Y. Takadda, M. Umehara, Y. Nakao, J. Kimura, Tetrahedron Lett., 2008, 49, 1163-1165
【化1】

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、この(5)に示す構造式で表される化合物は、細胞毒性が強いため、制癌剤等の医薬品に用いた場合に副作用を引き起こす虞がある。本発明者らは上述したkulokekahilide-2の立体異性体の合成を進めたところ、本発明に係る適度な生理活性を有する環状デプシペプチドを見出した。
【0009】
本発明の目的は、医薬品として用いた場合に副作用を回避できる程度の適度な生理活性を有する新規な環状デプシペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明に係る環状デプシペプチドによれば、
一般式(1)
【化2】

【0011】
で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体が提供される。(上記一般式(1)中、R〜R13は、水素原子、または炭素原子数1〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)
また、本発明に係る環状デプシペプチドによれば、
一般式(2)
【化3】

【0012】
で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体が提供される。(上記一般式(2)中、R〜R13は、水素原子、または炭素原子数1〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の環状デプシペプチドによれば、適度な生理活性を有し、制癌剤等の医薬品に用いた場合に副作用を回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る環状デプシペプチドについて説明するが、本発明は、以下に述べる実施の形態に限定されるものではない。本実施の形態に係る環状デプシペプチドであるkulokekahilide-7Aの構造を下記式(3)に、kulokekahilide-7Bの構造式を下記式(4)にそれぞれ示す。なお、下記式(3)及び(4)は原子省略法によって記載され、省略された末端はすべてメチル基である。
【化4】

【化5】

【0015】
本実施の形態に係るkulokekahilide-7A及びkulokekahilide-7Bは、D−アラニン(D−Ala)、L−イソロイシン(L−Ile)、N−メチルグリシン(NMeGly)、D−メチルフェニルアラニン(D−MePhe)、及びD−アラニン(D−Ala)の5つのアミノ酸、ならびに、2−ヒドロキシイソカプロン酸(D−leucic acid、Hica)および5,7−ジヒドロキシー2,6,8−トリメチルー2,8デカジエン酸(5S,6S,7S−Dtda)の2つのヒドロキシ脂肪酸から構成されている環状デプシペプチドである。
【0016】
また、本実施の形態に係るkulokekahilide-7A及びkulokekahilide-7Bは、P388マウス白血病細胞及びヒト子宮がん由来HaLa細胞に対して適度な細胞毒性を示す。
【0017】
本発明の化合物の構造及び生理活性について説明したが、次に本実施の形態に係る環状デプシペプチドの製造方法について説明する。本実施の形態に係るkulokekahilide-7A及びkulokekahilide-7Bは、以下に示す手順により合成される。
【0018】
まず、L−イソロイシン(L−Ile)のカルボキシル基をトリクロロエチル基(Tce)で保護し、カルボシル基が保護されたL−イソロイシン(L−Ile−Tce)とする。そして、縮合剤を用い、L−Ile−Tceとアミノ基がt−ブトキシカルボニル基(Boc)で保護されたN−メチルグリシン(Boc−N−MeGly)と反応させ、Boc−ジペプチド(Boc−N−MeGly−L−Ile−Tce)を得る。
【0019】
次に、D−メチルフェニルアラニンのアミノ基をt−ブトキシカルボニル基(Boc)で保護したD−メチルフェニルアラニン(Boc−D−MePhe)と、Boc−ジペプチドのN末端側の保護基Bocを除去したジペプチド(N−MeGly−L−Ile−Tce)とを縮合剤を用いて反応させ、Boc−トリペプチド(Boc−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)を得る。
【0020】
そして、アミノ基をt−ブトキシカルボニル基(Boc)で保護したD−アラニン(Boc−D−Ala)と、Boc−トリペプチドのN末端側の保護基Bocを除去したトリペプチド(D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)と縮合剤を用いて反応させ、Boc−テトラペプチド(Boc−D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)を得る。
【0021】
そして、後述する方法により合成されるD−2−ヒドロキシイソカプロン酸(D−Hica)とBoc−テトラペプチドのN末端側の保護基Bocを除去したテトラペプチド(D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)とを縮合剤を用いて反応させ、ペンタペプチド(D−Hica−D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)を得る。
【0022】
そして、後述する合成方法により得られる5,7−ジヒドロキシー2,6,8−トリメチルー2,8デカジエン酸(5S,6S,7S−Dtda)の5位をメチルチオメチル基(MTM)、7位をt−ブチルジメチルシリル基(TBS)で保護し、ペンタペプチドと縮合剤を用いて反応させ、デプシヘキサペプチド(5S,6S,7S,5−O−MTM−7−O−TBS−Dtda−D−Hica−D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)を得る。
【0023】
最後に、D−アラニンのアミノ基を9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc)で保護したFmoc−D−アラニンと、TBS基を除去したデプシヘキサペプチド(5S,6S,7S,5−O−MTM−Dtda−D−Hica−D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)とを縮合剤を用いて反応させ、デプシヘプタペプチド( Fmoc−D−Ala−(5S,6S,7S)−5−O−MTM−Dtda−D−Hica−L−Ala−D−Me−Phe−N−MeGly−L−Ile−Tce)を得る。
【0024】
そして、デプシヘプタペプチドのFmoc基を除去し、縮合剤(EDCl・HCl)を用いて環化させ、MTM基を除去後kulokakahalide-7A及び7Bを得る。
【0025】
上述の実施の形態において縮合剤として、1−エチルー3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCl・HCl)、ヘキサフルオロリン酸2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム(HBTU)、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリスジメチルアミノホスホニウム塩(Bop)及びBop誘導体のホスホニウム塩等を用いることができる。
【0026】
また、上述の実施の形態において添加剤を用いることもでき、添加剤としてジメチルアミノピリジン(DMAP)、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)を用いることができる。
【0027】
また、上述の実施の形態において、縮合反応に用いる溶媒として、無水または含水のクロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、ピリジン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン、アセトニトリル等が挙げられ、そして必要に応じてこれらの溶媒の2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
ここで、上述のkulokekahilide-7A及び7Bの合成に用いられるD−Hica及び5S,6S,7S−Dtdaの合成方法について説明する。
【0029】
D−Hicaは、市販のL−2−ヒドロキシイソカプロン酸(L−Hica)のカルボキシル基をメチルエステル化し、安息香酸を用いた光延反応により水酸基が結合している炭素の立体配置を反転させ、アルカリを用いて加水分解を行うことにより得られる。
【0030】
次に、5S,6S,7S−Dtdaの合成方法について説明する。市販の(S)−(+)−4−イソプロピルー3プロピオニル−2−オキサゾリジノンを出発物質に用いてアンチ選択的アルドール縮合を行い、Dtdaの6〜10位に相当する炭素骨格を有する化合物が得られる。この化合物をアルデヒドに変換し、向山アルドール反応を行うと5位の水酸基の立体がR体である化合物が得られる。この5位の水酸基の立体をS体に反転させ、メチルチオメチル基で保護し、加水分解することにより5S,6S,7S−Dtdaが得られる。
【0031】
なお、本実施の形態において、上記の式(3)または(4)に示した構造式によって表される化合物について説明したが、式(3)または(4)で表される化合物の他、当該化合物の薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体であってもよい。薬理上許容される塩とは、常法に従って式(3)または(4)に示した構造式によって表される化合物を酸または塩基で処理することにより得られる塩であって、著しい毒性を有さず、医薬として使用され得る塩をいう。このような酸付加塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸等による付加塩があげられ、塩基による塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、グアニジン、トリエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の有機塩基による塩が挙げられる。
【0032】
また、薬理上許容されるエステル誘導体とは、例えば上述の実施の形態において、式(3)または(4)に示した構造式によって表される化合物の水酸基が保護されたエステル誘導体をいう。本実施の形態においては、式(3)または(4)で示した化合物の水酸基中の水素原子をアシル基で置換することによってエステル誘導体を形成することができる。
【実施例】
【0033】
次に本実施の形態に係る環状デプシペプチドの実施の形態ついて、実施例を用いてより具体的に説明を行う。kulokekahilide-7A及び7Bは、以下の手順により得られる。
【0034】
(1)ジペプチド(Boc−N−MeGly−L−Ile−Tce)
Boc−L−Ile(1.39g、6.0mmol)のCHCl(16.0mL)に溶液に、トリクロロエタノール(TceOH、0.69mL、7.2mmol)、DMAP(73mg、0.6mmol)、縮合剤にEDCI・HCl(1.38g、7.2mmol)を加え、Boc−L−Ile−OTceを得た。これに4M塩酸ジオキサン溶液(12mL)で処理し、L−Ile−OTce・HClとした。この塩酸塩をCHCl−ジメチルホルムアミド(DMF)(1:1、24mL)に溶解し、トリエチルアミン(EtN、0.84mL、6.0mmol)、Boc−NMeGly(1.36g、7.2mmol)、HOBt(973mg、7.2mmol)、そしてEDCI・HCl(1.38g、7.2.0mmol)を加え、縮合し、Boc−ジペプチド(2.36g、5.45mmol、91%)を得た。
【0035】
(2)トリペプチド(Boc−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)
Boc−ジペプチド(3.71g、8.56mmol)を、4M塩酸−ジオキサン溶液(20mL)で処理し、ジペプチド塩酸塩を得た。この塩酸塩(644mg、1.74mmol)のCHCl−DMF(1:1、6mL)溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(iPrNet、0.94mL、5.22mmol)及びBoc−D−NMePhe(542mg、1.94mmol)を加え、HBTU(792mg、2.09mmol)を用いて縮合し、Boc−トリペプチド(882mg、1.48mmol、85%)を得た。
【0036】
(3)テトラペプチド(Boc−D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)
Boc−トリペプチド(2.23g、2.76mmol)を、4M塩酸−ジオキサン溶液(7.0mL)で処理し、トリペプチド塩酸塩を得た。この塩酸塩(2.02g、3.76mmol)のCHCl−DMF(1:1、15.0mL)溶液に、EtN(0.52mL、3.76mmol)、iPrNEt(1.33mL、7.51mmol)、Boc−D−Ala(853mg、4.51mmol)及びPyBOP(登録商標)((Benzotriazol-1-yloxy)tripyrrolidinophosphonium hexafluorophospate 、2.35g、4.51mmol)を加え縮合し、Boc−テトラペプチド(1.43g、2.10mmol、56%)を得た。
【0037】
(4)ペンタペプチド(D−Hica−D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)
Boc−テトラペプチド(1.33g、1.95mmol)を、4M塩酸−ジオキサン溶液(4.0mL)で処理し、トリペプチド塩酸塩を得た。この塩酸塩(1.18g、1.95mmol)のCHCl−DMF(1:1、8.0mL)溶液に、EtN(0.27mL、1.95mmol)、D−Hica(323mg、2.34mmol)、HOBt(278mg、1.95mmol)、EDCI・HCl(785mg、3.90mmol)を加え縮合し、ペンタペプチド(1.43g、2.10mmol、56%)を得た。
【0038】
(5)デプシヘキサペプチド(5S,6S,7S−5−O−MTM−7−O−TBS−Dtda−D−Hica−D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce)
ペンタペプチド(463mg、0.68mmol)のCHCl(3.0mL)溶液に、5位をメチルチオメチル基(MTM)、7位をt−ブチルジメチルシリル基(TBS)で保護したジヒドロキシ酸(5S,6S,7S−5−O−MTM−7−O−TBS−Dtda、236mg、0.57mmol)、DMAP(69.3mg、0.57mmol)、EDCI・HCl(217mg、1.13mmol)を加え縮合し、デプシヘキサペプチド(456mg、0.42mmol、75%)を得た。
【0039】
(6)デプシヘプタペプチド[Fmoc−D−Ala−(5S,6S,7S)−5−O−MTM−7−O−TBS−Dtda−D−Hica−D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−Tce]
デプシヘキサペプチド(437mg、0.68mmol)をフッ化水素−ピリジン塩(1.53g)のピリジン−テトラヒドロフラン(THF)(1:4、7.8mL)混合溶液(9.0mL)に溶かし、55℃で反応させ、7位のTBS基を除去した(346mg、0.36mmol、88%)。このアルコール(331mg、0.34mmol)のCHCl(1.4mL)溶液に、Fmoc−D−Ala(214mg、0.69mmol)、DMAP(41.9mg、0.34mmol)およびEDCI・HCl(264mg、1.37mmol)を加え、縮合し、デプシヘプタペプチド(405mg、0.32mmol、94%)を得た。
【0040】
(7)環化前駆体[HN−D−Ala−(5S,6S,7S)−5−O−MTM−7−O−TBS−Dtda−D−Hica−D−Ala−D−MePhe−N−MeGly−L−Ile−COOH]
デプシヘプタペプチド(380mg、0.30mmol)のTHF(12.1mL)溶液に、1M酢酸アンモニウム(2.0mL)、および亜鉛粉末(1.39mg、21.2mmol)を加え、C−末端側のTce基を脱離し、遊離カルボン酸(314mg、0.28mmol、92%)とし、このカルボン酸(284mg、0.25mmol)のアセトニトリル(12.6mL)溶液に、ジエチルアミン(1.3mL)を加え、N−末端側のFmoc基を除去し、環化前駆体(203mg、0.21mmol、89%)を得た。
【0041】
(8)環状化合物
環化前駆体(190mg、0.21mmol)のCHCl−DMF(10:1、209mL)混合溶液に、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt、570mg、4.19mmol)、EDCI・HCl(804mg、4.19mmol)を加え、マクロラクタム化させ、環状化合物(152mg、0.17mmol、82%)を得た。この環状化合物(128mg、0.145mmol)のTHF−水(4:1、5.0mL)混合溶液に、2,6−ルチジン(0.337mL、2.89mmol)および硝酸銀(982mg、5.78mmol)を加え、65℃で反応させ、ジヒドロキシ酸のMTM保護基を除去し、kulokekahilide-7A及び7Bの混合物(109mg、0.131mmol、91%)を得た。
【0042】
(9)kulokekahilide-7A及び7Bの単離
HPLC(Cosmosil 5C18-MS, 250×10mm、溶媒:50%アセトニトリル水、flow rate:2.5mL/min、検出波長:220nm)を用いてkulokekahilide-7A(保持時間91分)及び7B (保持時間133分)を単離し、kulokekahilide7A及び7Bをおよそ3:1の割合で得た。
【0043】
上述した手順で合成したkulokekahilide-7Aの物理化学的性質を下記の表1に、kulokekahilide-7Bの物理化学的性質を下記の表2にそれぞれ示す。
【表1】

【表2】

【0044】
(生理活性測定)
上述した手順で合成したkulokekahilide-7A及び7Bについて下記に示す条件の下、生理活性測定を行った。あわせて、比較例として、kulokekahilide-2、抗癌作用を示す抗生物質として既知のアドリアマイシン(ADM)についても同様の条件下で生理活性測定を行った。ガン細胞株として、ヒト子宮がん由来HeLa細胞、およびP388マウス白血病細胞を選択し、これらの細胞株のそれぞれについて、上記化合物をサンプルとして下記の条件で細胞毒性(IC50)を測定した。なお、IC50値は、サンプルを加えていないコントロールの吸収値から各サンプル投与群の吸収値を差し引き、これをコントロールの吸収値で割り、100をかけて細胞増殖阻害率(%)としたうえで、各濃度での細胞増殖阻害率(%)を片対数グラフにプロットし、50%阻害を与える濃度を算出することにより求めた。
【0045】
(Hela細胞)
ヒト子宮がん由来HeLa細胞は、2μg/mLのゲンタマイシン、10%ウシ胎児血清、10μg/mLの抗生物質を添加し、1MHClでpH7.0−7.4に調節したMEM培地(GibcoBRL)中で、37℃、5%の二酸化炭素存在下で培養を行った。96穴マクロプレートの各ウェルに細胞を含む200μL(1000細胞/mL)の培地を加えて24時間培養を行った後に、各濃度のサンプル溶液2μLを添加して96時間培養を行った。50μLの3-(4,5-dimethyl-2-thiazoyl)-2,5-diphenyl-2Htetrazolium bromide(MTT) 生理食塩水溶液(1mg/mL)を各ウェルに加え3時間培養を続けた。上清を除去後、生じた沈殿にジメチルスルホキシド(DMSO)を加えて溶解し510nmの吸収を測定した。
【0046】
(P−388細胞)
P388マウス白血病細胞(JCRB17)は、100μg/mLのカナマイシン、10%ウシ胎児血清、10μMの2−ヒドロキシエチルジスルフィドを添加したRPMI1640培地(ニッスイ)中で、37℃、5%の二酸化炭素存在下で培養を行った。96穴マクロプレートの各ウェルに100μLの細胞懸濁液(1×10細胞/mL)と100μLのサンプルを含む培地を加え、96時間培養を行った。50μLの3-(4,5-dimethyl-2-thiazoyl)-2,5-diphenyl-2Htetrazolium bromide(MTT)生理食塩水溶液(1mg/mL)を各ウェルに加え3時間培養を続けた。上清を除去後、生じた沈殿にDMSOを加えて溶解し510nmの吸収を測定した。
【0047】
以上、説明した条件で行った生理活性測定の結果を下記表3に示す。なお、下記表3において、K−7Aはkulokekahilide-7Aを、K−7Bはkulokekahilide-7Bを、K−2はkulokekahilide-2を、ADMはアドリアマイシンを示すものとする。
【表3】

【0048】
上述した結果より、本実施例に係るkulokekahilide-7A及び7Bは、P388マウス白血病細胞及びヒト子宮がん由来HaLa細胞に対して、kulokekahilide-2及びこれらの2細胞に対して抗癌作用を示すアドリアマイシンよりも細胞毒性としては弱いが、適度な細胞毒性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る環状デプシペプチドによれば、適度な生理活性を有し、制癌剤等の医薬品として用いた場合に副作用を回避することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化6】

で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体。
(上記一般式(1)中、R〜R13は、水素原子、または炭素原子数1〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)
【請求項2】
一般式(2)
【化7】

で表される化合物、又はその薬理上許容される塩若しくはエステル誘導体。
(上記一般式(2)中、R〜R13は、水素原子、または炭素原子数1〜6個の分岐または直鎖のアルキル基を示す。)

【公開番号】特開2010−174005(P2010−174005A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21622(P2009−21622)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(399109333)学校法人青山学院 (12)
【Fターム(参考)】