説明

環状ハイドロフルオロエーテル及び環状ハイドロフロオロビニルエーテルの製造方法

【課題】含フッ素ポリマーの製造原料や、半導体製造時に用いられるドライエッチングガス、電子部品の洗浄剤等として有用な、環状ハイドロフルオロエーテル、及び環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、簡便かつ効率よく、工業的に有利に製造する方法を提供する。
【解決手段】1)式(III)で示される環状ハイドロフルオロオレフィンを、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化することを特徴とする、式(I)で示される環状ハイドロフルオロビニルエーテルの製造方法、及び、2)式(I)で示される環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、フッ素化することを特徴とする、環状ハイドロフルオロエーテルの製造方法。


(Rは、炭素数1〜5のアルキル基又はフルオロアルキル基、nは1〜3の整数。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ハイドロフルオロエーテル及び環状ハイドロフルオロビニルエーテルの工業的に有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状ハイドロフルオロエーテルや環状ハイドロフルオロビニルエーテルは、含フッ素ポリマーの製造原料や、半導体製造時に用いられるドライエッチングガス、電子部品の洗浄剤等として有用である。また、これらの化合物は、CFCl等のクロロフルオロカーボンと異なり、大気中での寿命が短く、地球温暖化係数も小さいため、環境に与える影響が小さく、さらなる利用が期待される。
【0003】
本発明に関連して、非特許文献1には、1−クロロ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンをアルコキシル化して、1−アルコキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンを合成する方法が記載されている。しかしながら、この方法は、収率や反応選択率が低いという問題がある。
【0004】
非特許文献2には、1,2−ジクロロ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンを用いて、1−アルコキシ−2−クロロ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンを得た後、これをフッ素化することにより、1−アルコキシ−2−クロロ−1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンを得、さらに、これを水素化アルミニウムリチウムで還元することにより、1−アルコキシ−1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンを合成する方法が記載されている。しかしながら、還元に用いる水素化アルミニウムリチウムは、高価な上に、反応性が非常に高く、水と反応して水素を発生させるものであるため、この方法は工業的な製造方法としては適していない。
【0005】
また、特許文献1、2には、パーフルオロオレフィンとアルコールとを反応させることにより、ハイドロフルオロエーテルを製造する方法が記載されている。
しかしながら、これらの文献に記載される方法では、ビニルエーテル構造を有する化合物は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−306800号公報
【特許文献2】特開2005−68142号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry,1975,40(19),2791
【非特許文献2】Journal of the Chemical Society,1969,(C),2329
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、環状ハイドロフルオロエーテルや環状ハイドロフルオロビニルエーテルは利用価値が高いものであるが、これらの化合物を簡便かつ効率よく、工業的に有利に製造する方法は知られていない。
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、環状ハイドロフルオロエーテル、及び環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、簡便かつ効率よく、工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、環状ハイドロフルオロビニルエーテルをフッ素化することで、環状ハイドロフルオロエーテルを、簡便かつ効率よく製造でき、さらに、環内にモノフルオロビニレン構造を有する環状ハイドロフルオロオレフィンを、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化することで、環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、簡便かつ効率よく、工業的に有利に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)、(2)のハイドロフルオロビニルエーテルの製造方法が提供される。
(1)式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、フッ素化することを特徴とする、式(II)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R及びnは前記と同じ意味を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロエーテルの製造方法。
(2)式(III)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、nは1〜3の整数を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロオレフィンを、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化する工程(1)と、
工程(1)で得られた、式(I)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Rは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルキル基を表し、nは前記と同じ意味を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、フッ素化する工程(2)を有する、式(II)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、n、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロエーテルの製造方法。
本発明の第2によれば、下記(3)の環状ハイドロフルオロビニルエーテルの製造方法が提供される。
(3)式(III)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、nは1〜3の整数を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロオレフィンを、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化する工程を有する、式(I)
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、nは前記と同じ意味を表し、Rは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルキル基を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロビニルエーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、環状ハイドロフルオロエーテル、及び、このものの製造中間体である環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、簡便かつ効率よく、工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、1)環状ハイドロフルオロエーテルの製造方法、及び、2)環状ハイドロフルオロビニルエーテルの製造方法、に項分けして説明する。
【0027】
1)環状ハイドロフルオロエーテルの製造方法
本発明の第1は、前記式(I)で表される環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、フッ素化することを特徴とする、前記式(II)で表される環状ハイドロフルオロエーテルの製造方法である。
【0028】
式(I)中、Rは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルキル基を表す。
前記Rの炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。
Rで表される炭素数1〜5のフルオロアルキル基中のフッ素原子の数は特に制限されない。炭素数1〜5のフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、1,1,1−トリフルオロ−2−プロピル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル基、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル基、パーフルオロ−t−ブチル基等が挙げられる。
これらの中でも、炭素数1若しくは2のアルキル基、又は炭素数1若しくは2のフルオロアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、又は2,2,2−トリフルオロエチル基がより好ましい。
【0029】
nは1〜3の整数を表し、好ましくは3である。なお、nが、1、2、3のとき、式(I)は、それぞれ、3員環化合物、4員環化合物、5員環化合物を表す。
【0030】
式(I)で表される化合物の具体例としては、1−メトキシ−3,3−ジフルオロシクロプロペン、1−エトキシ−3,3−ジフルオロシクロプロペン等の3員環化合物;1−メトキシ−3,3,4,4−テトラフルオロシクロブテン、1−エトキシ−3,3,4,4−テトラフルオロシクロブテン等の4員環化合物;1−メトキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、1−エトキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン等の5員環化合物;等が挙げられる。
これらの中でも、1−メトキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンが好ましい。
式(I)で表される化合物は、例えば、後述する方法によって製造することができる。
【0031】
式(I)で表される化合物をフッ素化するには、式(I)で表される化合物をフッ素化剤と反応させればよい。用いるフッ素化剤としては、フッ化水素、フッ素ガス、遷移金属フッ化物等が挙げられる。遷移金属フッ化物を用いる場合には、フッ化水素やフッ素ガスを用いる方法に比べて、より安全かつ簡便に行うことができるため好ましい。
【0032】
遷移金属フッ化物としては、三フッ化コバルト、三フッ化マンガン、二フッ化銀、四フッ化セリウムなどが好適に用いられ、特に反応性の観点から三フッ化コバルトが好ましい。遷移金属フッ化物は公知の方法により製造することができ、また、市販品を用いることもできる。
【0033】
遷移金属フッ化物の使用量は、式(I)で表される化合物1モルに対し、通常1〜20モル、好ましくは2〜10モルである。
【0034】
式(I)で表される化合物とフッ素化剤とを反応させるときの好ましい反応温度は、用いる遷移金属フッ化物により異なる。例えば、フッ素化剤として三フッ化コバルトを用いる場合の反応温度は、通常30〜190℃であり、好ましくは80〜180℃、さらに好ましくは120〜170℃である。いずれのフッ素化剤を用いる場合であっても、反応温度があまりに高い場合、環状ハイドロフルオロエーテルの反応選択性が低下し、副生成物が生成するおそれがある。一方、反応温度があまりに低い場合、反応速度が遅く、環状ハイドロフルオロエーテルをほとんど得ることができなくなるおそれがある。
反応時間は、通常0.001〜10時間、好ましくは0.001〜1時間の範囲である。
【0035】
式(I)で表される化合物とフッ素化剤との反応は、窒素やヘリウムなどの不活性な希釈用ガスの存在下に行ってもよい。希釈ガス量は、式(I)で表される化合物1モルに対して、通常0.001〜100モル、好ましくは0.01〜50モルである。
【0036】
また、フッ素化剤として遷移金属フッ化物を用いる場合、式(I)で表される化合物と遷移金属フッ化物との反応は、遷移金属フッ化物を充填した反応器の中を、気体状態の式(II)で示される化合物を連続的に流通させてフッ素化反応を行うフロー式であっても、遷移金属フッ化物を充填した反応器の中に、一定量の式(I)で表される化合物(液体状物であっても気体状物であってもよい。)を添加してフッ素化反応を行うバッチ式であってもよい。効率の観点からはフロー式が好ましい。
【0037】
より具体的には、フロー式の場合、例えば、気化器を通過させることにより気体状態とした式(I)で表される化合物を、遷移金属フッ化物が攪拌された状態の反応器内を通過させることで、式(I)で表される化合物をフッ素化させる。次いで、反応生成物を含む反応混合物ガスを−50〜0℃の捕集器内で凝縮させることで、液体状態の反応混合物を得ることができる。
【0038】
バッチ式の場合、例えば、反応器内に遷移金属フッ化物と式(I)で表される化合物とを所定量添加して、所定温度、所定圧力で反応器内を撹拌することで、式(I)で表される化合物をフッ素化させることができる。
【0039】
反応の進行は、例えば、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
反応終了後は、有機合成で通常使用されている手法によって、反応液から目的物を分離、精製することができる。例えば、副生物であるハロゲン化水素を除去するために、反応液に、水又はアルカリ性溶液(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の水溶液)を加えて撹拌、静置し、有機層を分取した後、定法により洗浄、乾燥し、次いで蒸留することで、目的物を得ることができる。また、この抽出操作をすることなく、直接蒸留を行うことで目的物を得ることもできる。
【0040】
式(I)で表される化合物をフッ素化することによって、前記式(II)で表される環状ハイドロフルオロエーテルを得ることができる。
式(II)中、n、Rは前記式(I)と同じ意味を表す。
【0041】
式(II)で表される化合物の具体例としては、1−メトキシ−1,2,2,3−テトラフルオロシクロプロパン、1−エトキシ−1,2,2,3−テトラフルオロシクロプロパン、1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,2,2,3−テトラフルオロシクロプロパン等の3員環化合物;1−メトキシ−1,2,2,3,3,4−ヘキサフルオロシクロブタン、1−エトキシ−1,2,2,3,3,4−ヘキサフルオロシクロブタン、1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,2,2,3,3,4−ヘキサフルオロシクロブタン等の4員環化合物;1−メトキシ−1,2,2,3,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンタン、1−エトキシ−1,2,2,3,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンタン、1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,2,2,3,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンタン等の5員環化合物;等が挙げられる。
これらの中でも、1−メトキシ−1,2,2,3,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンタン、1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,2,2,3,3,4,4,5−オクタフルオロシクロペンタンが好ましい。
【0042】
上記式(II)で表される化合物は、前記式(III)で表される化合物を、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化する工程(1)と、工程(1)で得られた、前記式(I)で表される化合物をフッ素化する工程(2)とを有する製造方法によっても得ることができる。
【0043】
ここで、式(III)で表される化合物を、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化する工程(1)は、後述する方法(本発明の第2)を採用することができ、式(I)で表される化合物をフッ素化する工程(2)は、先に説明した方法(本発明の第1)を採用することができる。
【0044】
2)ハイドロフルオロビニルエーテルの製造方法
本発明の第2は、前記式(III)で表される環状ハイドロフルオロオレフィンを、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化する工程を有する、前記式(I)で表される環状ハイドロフルオロビニルエーテルの製造方法である。
【0045】
本発明に用いる環状ハイドロフルオロオレフィンは、上記式(III)で表される化合物である。
前記式(III)中、nは1〜3の整数を表し、好ましくは3である。
前記式(III)で表される化合物の具体例としては、1,3,3−トリフルオロシクロプロペン、1,3,3,4,4−ペンタフルオロシクロブテン、1,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテンが挙げられ、好ましくは、1,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテンである。
【0046】
式(III)で表される化合物は、公知の方法により製造することができる。例えば、含フッ素ハロゲン化合物を、金属フッ化物、及びアルキルスルホン酸塩と接触させて、含フッ素ハロゲン化合物の塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子をフッ素原子に置換する方法(特開2010−43034号公報等)、含フッ素ハロゲン化合物をトリアルキルホスフィンと含水エーテル系溶媒下に接触させて、−CF=CF−基中のフッ素原子の1つを水素原子に置換する方法(特開2010−126452号公報等)、担持型パラジウム触媒の存在下に、含フッ素ハロゲン化合物を水素と接触させる方法(WO2010/007968号パンフレット等)等により、目的の化合物を容易に製造することができる。また、市販品を用いることもできる。
【0047】
前記式(III)で表される化合物を、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化する方法としては、前記式(III)で表される化合物を、アルコキシル化剤又はフルオロアルコキシル化剤(以下、これらをまとめて「アルコキシル化剤等」ということがある。)と反応させる方法が挙げられる。
【0048】
アルコキシル化剤等は、分子内に、式:OR基(Rは前記と同じ意味を表す。)を有する化合物であって、モノフルオロビニレン基(−CH=CF−)のフッ素原子(F)をOR基(Rは前記と同じ意味を表す。)に置換しうるものである。
【0049】
炭素数1〜5のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基等が挙げられる。
炭素数1〜5のフルオロアルコキシル基中のフッ素原子の数は特に制限されない。炭素数1〜5のフルオロアルコキシル基としては、トリフルオロメトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基、2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ基、1,1,1−トリフルオロ−2−プロポキシ基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロポキシ基、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブトキシ基、パーフルオロ−t−ブトキシ基等が挙げられる。
これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基、又は2,2,2−トリフルオロエトキシ基が好ましい。
【0050】
アルコキシル化剤等としては、炭素数1〜5のアルコール又は炭素数1〜5のフルオロアルコールと、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物との混合物(反応生成物)や、炭素数1〜5のアルコール又は炭素数1〜5のフルオロアルコールと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属との反応生成物が挙げられる。また、市販のアルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属フルオロアルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、アルカリ土類金属フルオロアルコキシド等を用いることもできる。
【0051】
炭素数1〜5のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール等が挙げられる。炭素数1〜5のフルオロアルコールとしては、2,2,2−トリフルオロエタノール等が挙げられる。
【0052】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。
これらのアルコキシル化剤等の中でも、生産性、費用、安全性等の観点から、炭素数1〜5のアルコール又は炭素数1〜5のフルオロアルコールとアルカリ金属水酸化物との混合物(混合により反応生成物であるアルコキシドとなる)が好ましい。
【0053】
アルコキシル化剤等の使用量は、式(III)で表される化合物1モルに対して、通常1.0〜2.0モル、好ましくは1.0〜1.5モルである。
式(III)で表される化合物とアルコキシル化剤等とを反応させる時の反応温度は、通常20〜100℃であり、好ましくは35〜70℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が遅すぎて実用的ではない。また、反応温度が高すぎると、望ましくない副生成物が生成する傾向がある。
反応時間は、通常2〜8時間、好ましくは3〜4時間である。
【0054】
前記式(III)で表される化合物とアルコキシル化剤等との反応は、溶媒の存在下で行っても、無溶媒で行ってもよいが、収率向上と、反応後の精製のしやすさの観点から、溶媒存在下で行うことが好ましい。
【0055】
反応溶媒としては、アルコキシル化反応に悪影響を及ぼすものでなければ特に制限されずに用いることができるが、極性溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物系溶媒;等が挙げられる。反応溶媒の使用量は、反応速度及び収率の観点から、式(III)で表される化合物に対して、体積比で、通常0.5〜100倍、好ましくは1〜10倍である。
【0056】
反応終了後は、有機合成で通常使用されている手法によって、反応液から目的物を分離、精製することができる。例えば、未反応のアルコキシル化剤を除去するために、反応液に水を加えて、撹拌、静置して分液し、有機層を分取した後、定法により洗浄、乾燥し、必要に応じて蒸留することで、目的物を得ることができる。また、この抽出操作をすることなく、直接蒸留を行うことで目的物を得ることもできる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りが無い限り、実施例中の「部」は「重量部」を意味する。
反応生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー(GC)法及びガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)法及び核磁気共鳴分光(NMR)法で行った。
【0058】
<GC測定条件>
装置:日立製作所社製、「G−5000A」
カラム:ジーエルサイエンス社製、「Inert Cap1(登録商標)」、長さ60m、内径250μm、膜厚1.50μm
インジェクション温度:200℃
ディテクター温度:200℃
キャリアーガス:窒素(53.0mL/分)
メイクアップガス:窒素(30mL/分)、水素(50mL/分)、空気(400mL/分)
スプリット比:100/1
昇温プログラム:(1)40℃で10分間保持、(2)10℃/分で240℃まで昇温 計30分間
【0059】
<GC−MS測定条件>
測定装置:Agilent Technologies社製、「6890 series GC system」、「5973 Network Mass Selective Detector」
カラム:ジーエルサイエンス社製、「Inert Cap1(登録商標)」、長さ60m、内径250μm、膜厚1.50μm
インジェクション温度:220℃
昇温プログラム:(1)40℃で10分間保持、(2)10℃/分で昇温、(3)240℃で10分間保持
【0060】
<NMR測定条件>
測定装置:ブルカー社製核磁気共鳴装置、「AVANCE III 400」
【0061】
(実施例1)1−メトキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンの製造
滴下ロート及び還流冷却器を取り付けたガラス製反応器内に、水酸化ナトリウム(純度85%)35部、及びメタノール 516部を入れた。一方、メタノール 128部と1,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテン 100部からなる混合物を滴下ロートに入れた。次いで、反応器内の内容物を攪拌子で攪拌しながら、滴下ロート内の混合物を1時間かけて滴下し、滴下終了後、55℃まで昇温し、3時間さらに攪拌した。反応終了後、反応液に氷400部を加え、よく攪拌した後、有機層を分取した。
分取した有機層の一部を採取し、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)法による分析を行なった結果、目的物である1−メトキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンが生成していることが確認された。
また、分取した有機層の一部を採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)法により分析したところ、原料である1,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテンは検出されず、ほぼ定量的に反応が進行したことが確認された。
反応生成物としては2種が検出され、その比率はGCピーク面積で、目的物(一置換体)である1−メトキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンが96.0%、副生成物(二置換体)が4.0%であった。
粗生成物を常圧蒸留することにより、GC純度98%の1−メトキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン(ハイドロフルオロビニルエーテルA)を92部(収率87%)得た。
【0062】
〔ハイドロフルオロビニルエーテルAのスペクトルデータ〕
H−NMR(TMS,CDCl):δ3.87(s,3H,OCH),δ5.34(s,1H,CH)
19F−NMR(C、CDCl):δ31.8(quint,2F,CF),δ43.1(m,2F,CF),δ59.3(quint,2F,CF
GC−MS:m/z 206,187,156
【0063】
(実施例2)1−メトキシ−1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタンの製造
攪拌羽根、温度計、原料導入用気化器及びデュワー瓶型トラップ(ドライアイス−エタノール:−78℃)を備えた100ml反応器を2基直列に接続し、三フッ化コバルト 25部を入れた。気化器を100℃に加熱し、三フッ化コバルト反応器の内温を140℃に調整し、2.5部/分の速度で1−メトキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、及び窒素ガスを5ml/分の速度で気化器内に導入した。1−メトキシ−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンの導入量は合計25部であった。三フッ化コバルト反応器を通過した反応ガスをトラップで捕集した。反応終了後、捕集された粗生成物は22.5部であった。
得られた粗生成物を蒸留することにより得た留分を、ガスクロマトグラフィー(GC)法により分析したところ、GC純度98%の1−メトキシ−1,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロシクロペンタン(ハイドロフルオロエーテルA)が21部(収率71%)得られたことが確認された。
【0064】
〔ハイドロフルオロエーテルAのスペクトルデータ〕
GC−MS:m/z 244,225,194
【0065】
(実施例3)1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンの製造
滴下ロート及び還流冷却器を取り付けたガラス製反応器内に、水酸化ナトリウム(純度85%)35部、2,2,2−トリフルオロエタノール260部を入れた。一方、1,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテン100部を滴下ロートに入れた。次いで、反応器内の内容物を攪拌子で攪拌しながら、滴下ロート内の内容物を1時間かけて滴下し、滴下終了後、55℃まで昇温し、3時間さらに攪拌した。反応終了後、氷400部を加え、よく攪拌した後、有機層を分取した。
分取した有機層の一部を採取し、ガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)法による分析を行なった結果、目的物である1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンが生成していることが確認された。
分取した有機層の一部を採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)法により分析したところ、原料である1,3,3,4,4,5,5−ヘプタフルオロシクロペンテンは検出されず、ほぼ定量的に反応が進行したことが確認された。
生成物としては2種が検出され、その比率はGCピーク面積で、目的物(一置換体)である1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテンが75.4%、副生成物(二置換体)が24.6%であった。
粗生成物を常圧蒸留することにより、GC純度98%の1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン(ハイドロフルオロビニルエーテルB)が96部(収率68%)得られた。
【0066】
〔ハイドロフルオロビニルエーテルBのスペクトルデータ〕
H−NMR(TMS、CDCl):δ4.35(s,2H,OCHCF),δ5.48(s,1H,CH)
19F−NMR(CDCl):δ31.8(quint,2F,CF),δ43.3(m,2F,CF),δ58.1(quint,2F,CF),δ88.6(s,3F,CF
GC−MS:m/z 274,255,205,191,175

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルキル基を表し、nは1〜3の整数を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、フッ素化することを特徴とする、式(II)
【化2】

(式中、Rおよびnは前記と同じ意味を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロエーテルの製造方法。
【請求項2】
式(III)
【化3】

(式中、nは1〜3の整数を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロオレフィンを、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化する工程(1)と、
工程(1)で得られた、式(I)
【化4】

(式中、Rは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルキル基を表し、nは前記と同じ意味を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロビニルエーテルを、フッ素化する工程(2)
を有する、式(II)
【化5】

(式中、n、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロエーテルの製造方法。
【請求項3】
式(III)
【化6】

(式中、nは1〜3の整数を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロオレフィンを、アルコキシル化又はフルオロアルコキシル化する工程を有する、式(I)
【化7】

(式中、nは前記と同じ意味を表し、Rは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のフルオロアルキル基を表す。)
で示される環状ハイドロフルオロビニルエーテルの製造方法。

【公開番号】特開2013−95715(P2013−95715A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240906(P2011−240906)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】