説明

環状抗微生物ペプチド

本発明は環状陽イオン性ペプチド及び該ペプチドの微生物感染の治療への使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の分野
本発明は環状陽イオン性ペプチド及び該ペブチドの微生物感染に対する治療への利用に関する。
【0002】
発明の背景
抗微生物ペプチド(AMP)は真核生物の免疫の基礎を形成し、微生物による皮膚や粘膜表皮の突破に対し、最初の防衛線を作り出す。天然にあるAMPの例としてはペプチドのdefensinやcathelicidin族がある。これらAMPは長さ、配列や構造は不均質であるが、ほとんどのものでサイズが小さい点、正味で陽イオン電荷を帯びている点、そして両親媒性構造を有している点で共通する。小型の陽イオンを帯びた両親媒性ペプチドは多くのバクテリア、菌類、植物、無脊椎動物や脊椎動物からも単離されており、それゆえ、これらはまた原核生物における生体防御にもその役割を果たしていると思われる。
【0003】
天然のAMPはグラム陽性及びグラム陰性バクテリア、酵母、菌類、被膜性ウイルスに対する広範囲な活性を呈する。微生物性病原体はこれら陽イオン性ペプチドに対する抵抗性を獲得しているようには思えず、従ってAMPは生命が生得的に獲得している宿主の免疫的防御分子として何千年にも渡る進化の中で保存されてきている。それ故、AMPは広い範囲にわたる感染に対する治療において潜在的な標的とみなされている。しかしながら、AMPは遺伝子組み替えシステムにて産生するのに技術的にもコスト的にも問題が多いこと、そして強力な化学走化性及び炎症を引き起こす生物活性を有していることが天然のAMPを治療に用いることを阻んできた。
【0004】
我々の同時係属出願において、リジンやアルギニンといった塩基性残基に富んだ線形ペプチドが抗微生物活性、特に菌体に対する活性を有していることを示した。しかしながら、微生物感染の治療や予防に使用可能な更なる試薬が依然として必要とされている。
【0005】
発明の説明
発明の第一の態様としては、2からおよそ200のDおよび/又はLアミノ酸より構成されるペプチドであることが挙げられ、この中のアミノ酸は同一の又は異なるものであってもよく、疎水性アミノ酸及び/又は陽イオン性アミノ酸のグループより選択され、そしてそのペプチドは環状構造を有するものである。該環状ペプチドは3からおよそ100のD及び/又はLアミノ酸により形成されていてもよく、4からおよそ50のD及び/又はLアミノ酸を含むもの、3から50のD及び/又はLアミノ酸から形成されるものが例として挙げられる。
【0006】
本発明のペプチドは微生物感染の治療や予防に有益である。
【0007】
本発明の環状化ペプチドは高活性であり、蛋白分解に対して耐性があり、極めて食塩非感受性であり、幹細胞毒性がなく、非溶血性であり、かつ合成が容易であるため、治療上有益である。
【0008】
本発明のペプチドの陽イオン電荷は微生物膜の極性基と該ペプチドとのつながりを容易にすると考えられている。環状化することで荷電基がより高密度の構造に安定化することは、ペプチドの抗菌活性を増大させることにより当該発明の魅力を高めると考えられている。
【0009】
本発明の更なる態様では、式Iに従ったアミノ酸を含むペプチドである。
((X)l(Y)m)n (I)
ここで、lとmは0から10までの整数で両方が0ではなく、nは1から10までの整数、XとYは疎水性アミノ酸及び/または陽イオン性アミノ酸グループから選択されており(XとYが同一ないしは異なる場合がありうる)、当該ペプチドは環状化され、医薬品として使用するためのものである。
【0010】
該ペプチドは2から50のアミノ酸を含んでいてもよく、例えば、3, 4, 5, 6又は7から10, 15, 20, 25,30, 35,40,45又は50アミノ酸に至るまでを含む、3, 4, 5, 6又は7から50アミノ酸に至るまでのものであってよい。
【0011】
本発明のより好ましい態様としては、ペプチドは2から15アミノ酸、例えば3から15アミノ酸を含む。さらに望ましくは、ペプチドは5から13アミノ酸を含む。3から7アミノ酸、例えば7アミノ酸を含むペプチドが、更に一段と望ましい。
【0012】
当業者には知られている様に、アミノ酸は主としてアミノ酸側鎖の化学的及び物理的特徴に依存した様々なクラスに位置づけることが出来る。例えば、いくつかのアミノ酸は一般的に親水性の、もしくは極性のアミノ酸に、別のものは疎水性の、もしくは非極性のアミノ酸とみなされている。疎水性アミノ酸はグリシン、ロイシン、フェニルアラニン、プロリン、アラニン、トリプトファン、バリン、イソロイシン、メチオニン、チロシンそしてスレオニンよりなる疎水性アミノ酸グループから選択され、陽イオン性アミノ酸はオルニチン、ヒスチジン、アルギニンそしてリジンよりなるグループから選択される。ここで使われているように、“疎水性の”と“陽イオン性の”という言葉は、Fauchere and Pliska Eur.J. Med Chem.10:39(1983)に記載されているような-1.10と同等又はそれ以上の疎水性を有し、及び/又は0と同等又はそれ以上の正味の荷電をしているアミノ酸に該当する。疎水性又は非極性アミノ酸はまた生理的pHにおいて荷電しない側鎖を有するアミノ酸に該当し、これらは極性が無く、一般的に水分子より反発を受ける。これらのアミノ酸は天然由来または合成であってよい。
【0013】
本発明のより好ましい態様では、X及び/又はYがヒスチジン、オルニチン、アルギニンそしてリジンよりなるグループから選択される陽イオン性アミノ酸である。さらに好ましくは、X及び/又はYがアルギニン又はリジンである。
X及び/又はYは、ここで例示されたD及び/又はLアミノ酸により定義された疎水性又は陽イオン性アミノ酸の光学異性体であってもよい。好ましくは、X及び/又はYはDアミノ酸である。
【0014】
本発明の好ましい態様では、式Iのペプチドは、少なくとも90%、例としては97-99%、例えば95%又は100%のDアミノ酸より構成される。
本発明の好ましい態様では、式Iのペプチドは、少なくとも90%、例としては97-99%、例えば95%又は100%のLアミノ酸より構成される。
【0015】
本発明はまた上記アミノ酸に対する既知の異性体(構造、ステレオ、高次構造、配置)、ペプチド模倣体、構造アナログや天然(例;遺伝子翻訳後修飾)ないしは化学的に修飾されたこれらのものを含む。ここでの修飾とはリン酸化、グリコシル化、スルフォニル化及び/又は水酸化を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0016】
一般に本発明のペプチドは、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン又はセリンというアミノ酸を含まないが、本発明の或る種のぺプチドは、たとえこれらのアミノ酸を含んでいても活性を有する場合がある。
より好ましい形態においては、XとYは同一である。XとYが同一であり、かつリジン又はアルギニンであるのが更に好ましい。
【0017】
式Iのペプチドにおいて、lとmは1,2,3,4,5,6,7,8,9又は10であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8,9又は10であってもよい。
式Iのペプチドにおいて、lは1であり、nも1であり、そしてmは4と9の間、例えば3,4,5,6,7,8又は9であってもよい。
【0018】
式Iのペプチドにおいて、n及び/又はmは1と5の間、例えば1,2,3,4又は5であってもよい。
式Iのペプチドにおいて、lとmは0と7の間の整数であり、nは1と10の間の整数であってもよい。
【0019】
式Iのペプチドにおいて、lとmは0,1又は2であり、nは1と10の間の整数であってもよい。
式Iのペプチドにおいて、XとYは同一であり、lは0、mは1、そしてnは3,4,5,6,7,8,9又は10であってもよい。
【0020】
式Iのペプチドにおいて、XとYは同一であり、lとmは1、そしてnは2,3,4又は5であってもよい。
式Iのペプチドにおいて、XとYは同一であり、lは1、mは2、そしてnは1,2,3又は4であってもよい。
【0021】
式Iのペプチドにおいて、XとYは同一であり、lとmは2、そしてnは1,2,3又は4であってもよい。
発明の更なる態様では、式IIに従ったアミノ酸を含むペプチドである。
(X)n (II)
ここで、Xとnはこれまで説明してきた通りである。Xはリジン、アルギニン又はオルニチンであることが好ましく、nは3から15までの整数であることが好ましい。
【0022】
本発明の一実施態様では、Xはアルギニンである。
本発明のそれに替わりうる実施態様では、Xはリジンである。
本発明のさらにそれに替わりうる実施態様では、Xはオルニチンである。
【0023】
本発明のペプチドは、1つ又はそれ以上のシステイン残基を含んでもよい。1,2,3,4,5又は6といった6残基までのシステイン残基が例として挙げられる。
【0024】
更に、ペプチド変異体を形成することを目的として、ペプチドのアミノ酸配列を修飾することができる。このペプチド変異体の形成にはペプチド中の少なくとも一つのアミノ酸残基を別のアミノ酸残基に置換することが含まれ、L体ではなくD体を用いた置換も含まれる。
【0025】
一つ又はそれ以上のペプチド残基を別のものと交換することで、該ペプチドの生物学的活性を変えたり、高めたり、維持したりすることが可能である。例として、この様な変異体が該変異体に対応する未変異ペプチドの生物学的活性の少なくともおよそ10%を維持する場合がある。コンサーバティブなアミノ酸がこうした置換によく使用される。言い換えると、上述したような化学的や物理的特徴の類似したアミノ酸による置換である。即ち、コンサーバティブなアミノ酸置換には例えばリジンとアルギニン、オルニチン又はヒスチジンとの交換、アルギニンとリジンやイソロイシンとの交換、オルニチンとヒスチジンとの交換又はある疎水性アミノ酸と別の疎水性アミノ酸との交換が含まれる。置換基が導入された後、これ等の変異体は生物学的活性を指標に選別される。
【0026】
「ペプチド」という用語は、ここで使用されている様に、一般的な用語としては、複数のアミノ酸残基がペプチド結合により連結されたものを意味する。この用語はポリペブチドやタンパクと置き換え可能に使用され、同義のものとみなされる。
【0027】
本発明の一実施態様では、環状ペプチドは、以下のペプチドよりなるグループから選択される;
K-K-K-K-K-K-K
R-R-R-R-R-R-R
【0028】
本発明のペプチドは通常、合成ペプチドである。該ペプチドは、例えば、固相ペプチド合成法、酵素触媒ペプチド合成や組み換えDNA工学を利用した方法によりインビトロで合成した単離精製ペプチドやその変異体である場合もある。
【0029】
本発明の更なる態様として、本発明に従ったペプチドの調製方法、カップリング剤とペプチドとの化学反応による式I又は式IIのペプチドの環状化を含む方法が提供される。
【0030】
カップリング剤は線形時におけるペプチドの二つの端末(C端末とN端末)アミノ酸残基の間、例えば二つの端末アミノ酸の基本骨格又は側鎖の間でペプチド結合を形成しうる薬剤でよい。カップリング剤の選択はカップリングの効率や、それに伴い、環状ペプチドの収率に影響を与えうる。本発明のプロセスに有効なカップリング剤の例を表1に示す。しかしながら、経験のある者は本発明において同様に有用である他の既知のカップリング剤を見出しうると思われる。好ましいカップリング剤としては、 、HATU-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。
【0031】
カップリング剤とペプチドの間の反応は塩基の存在下でおこることが望ましい。塩基にはn-メチルモルフォリン(NMM)又はジイソプロピルエチルアミン(DIEA)が含まれるが、これに限定はされない。該反応はアルカリpH下でおこることが望ましく、例としてpH8.5-9の間が挙げられる。カップリング剤との反応に先立って、保護基を加えることでペプチドは修飾されうる。保護基にはPbf (2,2,4,6,7-ペンタメチル-ジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル)、tBu (t-ブチル-エーテル)、Mtr(メトキシトリメチルベンゼンスルホニル)、Pmc (2,2,5,7,8-ペンタメチル-クロマン(chroman)-6-スルホニルクロリド)、Mbh (4,4-ジメチロキシベンジルヒドリド)、Tmob (2,4,6-トリメトキシベンジル)、Aloc (アリールオキシカルボニル)、Fmoc (9-フルオレニルメトキシベンジルヒドリド)そしてBoc (t-ブチロキシカルボニル)が挙げられる。カップリング剤との反応後、これら保護基は弱酸性条件下、例えばトリフルオロ酢酸(TFA)溶液存在下で、保護基を解裂することにより除去してもよい。
【0032】
ペプチド基本骨格の環状化の間に、線形ペプチドのC末端はカップリング剤の活性化官能基に晒されており、当該反応が進むにつれて、ケト−エノール中間体がC末端アミノ酸のアルファ炭素において生成される。それ故活性化官能基が隣接した炭素から外れ、ペプチド結合が形成させた時、エノール(又はアルケノール)中間体は二つの光学異性体を生成することとなる。こうしたラセミ化、即ち個々のアミノ酸でそれぞれの光学異性体が形成されること(例えば右旋回型と左旋回型(即ちそれぞれd及びl異性体に該当)やペプチド全体としてのジアステレオマーの形成は使用したカップリング剤によって活性化している環状化部位において起こりうる。本発明のペプチドは光学異性体として単一なものであることが望まれるため、望ましくないジアステレオマーの生成を減少又は阻止すべきである。こうしたジアステレオマーの形成を減少又は阻止し、ジアステレオマーとして単一なペプチドを生産するために、環状化の際にペプチドのラセミ化を阻害するアキラル成分を加えることにより、本発明のペプチドを修飾することもあり得る。
【0033】
このため、発明のさらに好ましい態様として、環状化の過程においてペプチドのジアステレオマー形成を阻害する成分を含めることにより、発明のペプチド、又は本発明のプロセスにおいて規定されるペプチドは修飾される。ここで使用されている「ラセミペプチド」とはそれぞれの光学異性体を相当量(典型的には同量)含んでいるペプチドのことであり、例としてペプチド環状化以前において該ペプチドのC端末であったアミノ酸における右旋回型と左旋回型(即ちそれぞれd及びl異性体に該当)が挙げられる。ペプチドに導入される成分は一般的にアキラルアミノ酸であり、これは天然に存在するアミノ酸でもアミノ酸アナログでもよい。アキラルアミノ酸はグリシン、βアラニン、3-アミノプロピオン酸、4-アミノ酪酸、5-アミノペンタン酸や6-アミノヘキサン酸より構成されるグループから選択することができる。本発明の一実施態様では、アキラルアミノ酸、例えばグリシンを含ませることにより、ペプチドは修飾される。
【0034】
C末端にここで規定したような成分を含ませることにより本発明のペプチドを修飾することに加えて、ペプチドの環状化の間に形成される2種の光学異性体の比率は使用される溶媒、反応時間や環状化(即ち、カップリング剤との反応)の間の温度や環状化を容易にするために使用される活性化官能基といった様々な要因に依存している。
【0035】
本発明はさらに更に、本発明のプロセスにおいて得られる環状化したペプチドに関係している。
【0036】
本発明の一実施態様では、以下より構成されるグループから選択されるアミノ酸配列を含んだ環状ペプチドが挙げられる;
K-K-K-K-K-K-K
R-R-R-R-R-R-R
O-O-O-O-O-O-O
DR-DR-DR-DR-DR-DR-DR
DO-DO-DO-DO-DO-DO-DO
DK-DK-DK-DK-DK-DK-DK
【0037】
哺乳類細胞にとって望ましくない毒性の殆ど無い又は全く無い活性のあるペプチドを同定する為に、個々のペプチドやペプチドライブラリーを作成し、個々のペプチドやライブラリー由来のペプチドを抗微生物活性や毒性(抗真菌、抗菌、抗ウイルス、抗原虫、抗寄生虫活性と毒性を含むが、これらに限定されるものではない)を指標に選別することが出来る。
【0038】
本発明のペプチドは例えば遊離酸、遊離塩基、エステルや他のプロドラッグ、塩や互変体のような異なった形態で存在しえ、また本発明はこれ等化合物の全ての異型を含んでいる。
【0039】
それ故、本発明は本発明のペプチド又はペプチド変異体の塩やプロドラッグを含む。
【0040】
本発明のペプチドは製薬上許容されうる塩の形状で投与されうる。本発明の製薬上許容されうる塩は古典的な化学的方法により塩基又は塩成分を含んだ元となるペプチドから合成することが出来る。一般的に、この様な塩は水や有機溶媒、又はこれ等の混合液中で適切な塩基又は酸を化学量論的に妥当な分量、ペプチドの遊離酸や塩基形状と反応させることにより調製することができる。一般にエーテル、エチルアセテート、エタノール、イソプロパノール又はアセトニトリルのような非水媒体が好ましい。適切な塩に関するリストはRemington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa., US, 1985, p.1418に記載されており、これは参考として本明細書に取り込むものとする。また、Stahl et al, Eds, “Handbook of Pharmaceutical Salts Properties Selection and Use”, Verlag Helvetica Chemica Acta and Wiley-VCH, 2002も参照のこと。
【0041】
従って本発明は、本発明のペプチドの製薬上許容されうる塩をも含み、本発明において例えば無機ないし有機の酸又は塩基から形成される酸又は塩基塩(例えば常套的に用いられる無毒塩や第4級アンモニウム塩)を合成することによって元となる化合物が修飾されることにより該塩が形成される。このような酸付加塩の例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルフォン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳塩、樟脳スルフォン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、重グルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルフォン酸塩、フマル酸塩、グルコペプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒトドキシエタンスルフォン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルフォン酸塩、2-ナフタリンスルフォン酸塩、ニコチン酸塩、オキサロ酢酸塩、パルミチン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩そしてウンデカン酸塩が挙げられる。塩基塩としては、アンモニア塩、ナトリウムやカリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N-メチル-D-グルタミン塩やアルギニン、リジン等のアミノ酸に関する塩が挙げられる。また、塩基性窒素含有群は塩化、臭化そしてヨウ化メチル、エチル、プロピルそしてブチルといった下級ハロゲン化アルキル、ジメチル、ジエチル、ジブチルそしてジアミル硫酸といったジアルキル硫酸、塩化、臭化そしてヨウ化デシル、ラウリル、ミリスチルそしてステアリルといった長鎖アルキル、臭化ベンジルやフェネチルといったハロゲン化アラルキルやその他の試薬により四級化されうる。
【0042】
本発明のペプチド又はペプチド変異体のカルボキシル基の塩は、一つ又はそれに相当する複数の望ましい塩基とペプチドを接触させることによる通常の方法にて調製でき、ここで望ましい塩基とは、例えば、金属結合型水酸化塩基(例として水酸化ナトリウム)、金属炭酸塩基や重炭酸塩基(例として炭酸ナトリウムや重炭酸ナトリウム)又はアミン塩基(例としてトリエチルアミン、トリエタノールアミンやその類似物)が例として挙げられる。
【0043】
本発明は記載したペプチドのうち活性のある製薬向けのタイプにおけるプロドラックも含む。例えば、ペプチド中の一つ又はそれ以上の機能を有する官能基を保護ないしは誘導し、生体内において機能を有する官能基に戻るものが挙げられ、例としてはカルボン酸のエステルが生体内で遊離酸に変換したり、保護されていたアミンが遊離アミノ基に変換する場合がある。ここで使われているように「プロドラッグ」という用語は例えば血中での加水分解のように、生体内で急速にもとの構造に変形する構造を特に意味する。
【0044】
本発明の更なる態様には、本発明の一つのペプチド又は二つ以上の異なるペプチドの薬剤としての有効量を含む薬剤組成物も含まれる。
【0045】
その組成物はまた、製薬上許容されうるキャリアー、賦形剤又は希釈剤をも含む。「製薬上許容されうる」という文言は、本明細書では、正常な医療判断の範囲内において、ヒト組織に投与する上でその適用に適しているような化合物、物質、組成物及び/又は剤形に使われており、場合によっては動物において過度の毒性、炎症、アレルギー反応やその他のトラブルや厄介な状況になっておらず、妥当な損益比率と相応である場合にも使われる。
【0046】
本発明のペプチドは、例えばバクテリア、菌類、酵母、寄生虫、原生動物やウイルスに対する抗微生物ペプチドとして特に有用である。ここで「抗微生物ペプチド」という用語は殺菌活性及び/又はマイクロバイスタティックな活性を有するペプチドを定義するのに使われており、抗バクテリア、抗菌類、抗真菌、抗寄生生物、抗原生動物、抗ウイルス、抗感染そして/又は殺菌性、殺藻性、殺アメーバ性、殺細菌性、殺バクテリア性、殺菌類性、殺寄生生物性、殺原生動物性な特徴を有するものとして説明されるペプチドを包括的に含んでいる。
【0047】
好ましい態様として、本発明は微生物感染治療の為の薬剤生産における本発明に基づくペプチドの使用をも提供する。
【0048】
「微生物感染」とはバクテリア、寄生生物、原生動物、ウイルス又は酵母を含む菌類による感染のことをいう。「病原体」とは一般に疾患を引き起こす生物と定義される。
【0049】
バクテリア病原体はStaphylococcus spp.,例としてStaphylococcus aureus (即ちStaphylococcus aureus NCTC 10442)やStaphylococcus epidermidis; Chlamydia spp., 例としてChlamydia trachomatis, Chlamydia pneumoniae, Chlamydia psittaci; Enterococcus spp., 例としてEnterococcus faecalis; Streptococcus pyogenes; Listeria spp.,; Psudomonas spp.,; Mycobacterium spp.;例としてMycobacterium tuberculosis; Enterobacter spp.; Campylobacter spp.; Salmonella spp.; Streptococcus spp., 例としてStreptococcus A又はB族、Streptoccocus pneumoniae; Helicobacter spp.,例としてHelicobacter pylori; Neisseria spp., 例としてNeisseria gonorrhea, Neisseria meningitides; Borrelia burgdorferi; Shigella spp., 例としてShigella flexneri; Escherichia coli (E..coli O157:H7 NCTC12900); Haemophilus spp.,例としてHaemophilus influenzae; Francisella tulanrensis; Bacillus spp.,例としてBacillus anthracis; Clostridia spp., 例としてClostridium botulinum; Yersinia spp., 例としてYersinia pesitis; Treponema spp.; Burkholderia spp., 例としてBurkholderia cepacia, B. malleiそしてB. psudomalleiより構成されるグループ(ただしこれのみに限定されるわけではない)から選択されたバクテリア種由来である場合がある。
【0050】
本発明に基づく使用においては、バクテリア病原体はStaphyloccus aureus又はE coliであることが好ましい。
【0051】
ウイルス病原体はヒト免疫不全ウイルス(HIV1及び2);ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV1及び2);エボラウイルス;ヒトパピローマウイルス(例としてHPV-2, HPV-5, HPV-8, HPV-16, HPV-18, HPV-31, HPV-33, HPV-52, HPV-54及びHPV-56);パポバウイルス;リノウイルス;ポリオウイルス;ヘルペスウイルス;アデノウイルス;Epstein Barrウイルス;インフルエンザウイルス;B型及びC型肝炎ウイルス;Variolaウイルス;ロタウイルス又はSARSウイルスより構成されるグループ(ただしこれのみに限定されるわけではない)から選択されたウイルス由来である場合がある。
【0052】
寄生生物病原体はTrypanosoma spp. (Trypanosoma cruzi, Trypanosoma brucei), Leishmania spp., Giardia spp., Trichomonas spp., Entamoeba spp., Naegleria spp., acanthamoeba spp., Schistosoma spp., Plasmodium spp., Crytosporidium spp., Isospora spp., Balantidium spp., Loa Loa, Ascaris lumbricoides, Dirofilaria immitis, Toxoplasma spp.,例としてToxoplasma gondiiより構成されるグループ(ただしこれのみに限定されるわけではない)から選択された寄生生物由来である場合がある。
【0053】
本発明に基づく好ましい使用においては、微生物感染は菌類感染である。
【0054】
菌類病原体はthe genera Candidia spp., (例としてC.albicans), Epidermophyton spp., Exophiala spp., Microsporum spp., Trichophyton spp., (例としてT.rubrumとT.interdigitale), Tinea spp., Aspergillus spp., Blastomyces spp., Blastoschizomyces spp., Coccidioides spp., Cryptococcus spp. (例としてCryptococcus neoformans), Histoplasma spp., Paracoccidiomyces spp., Sporotrix spp., Absidia spp., Cladophialophora spp., Fonsecaea spp., Phialophora spp., Lacazia spp., Arthrographis spp., Acremonium spp., Actinomadura spp., Apophysomyces spp., Emmonisia spp.., Basidiobolus spp., Beauveria spp., Chrysosporium spp., Conidiobolus spp., Cunninghamella spp., Fusarium spp., Geotrichum spp., Graphium spp., Leptosphaeria spp., Malassezia spp. (例としてMalassezia Furfur), Mucor spp., Neotestudina spp., Nocardia spp., Nocardiopsis spp., Paecilomyces spp., Phoma spp., Piedraia spp., Pneumocystis spp., Pseudallescheria spp., Pyrenochaeta spp., Rhizomucor spp., Rhizopus spp., Rhodotorula spp., Saccharomyces spp., Scedosporium spp., Scopulariopsis spp., Sporoblolmyces spp., Syncephalastrum spp., Trichoderma spp., Trichosporon spp., Ulocladium spp., Ustilago spp., Verticillium spp., Wangiella sppより選択された菌類(ただしこれのみに限定されるわけではない)由来である場合がある。
【0055】
本発明に基づく使用においては、菌類病原体はthe genera Trichophyton spp.又はCryptococcus spp.のいずれかであることが好ましい。例えば、菌類病原体はTrichophyton rubrum, Trichophyton interdigitale又はCryptococcus neoformansであってもよい。
【0056】
菌類感染は全身性、局所性、皮下、皮膚又は粘膜からの感染である場合がある。
【0057】
爪や皮膚からの局所菌類感染は、酵母のようなある種の非皮膚糸状菌によって皮膚感染が引きおこなれることもあるが、通常は皮膚糸状菌によって引き起こされる。皮膚糸状菌による感染には白癬感染が含まれうる;例えばTinea barbae (髭)、Tinea capitis (頭)、Tinea corporis (体躯)、Tinea cruris (鼠径部)、Tinea faciei (顔)、Tinea manuum (手)、Tinea pedis (足)、Tinea unguium (爪)、Tinea versicolor (粃糠疹)、Tinea incognito又はTinea nigraがある。該感染はthe genera Epidermophyton, MicrosporumやTrichophyton spp. (例えばT.rubrumやT.interdigitale)に属する菌類由来でありうる。
【0058】
皮膚糸状菌感染は皮膚、舌端、 角質層、爪(指爪及び足爪)又は頭髪からの感染でありうる。特記すべきは、the genera Trichophyton, Epidermophyton又はMicrosporumに属する皮膚糸状菌によって生じる皮膚糸状菌感染である。典型的な皮膚糸状菌にはEpidermophyton floccosum, Microsporum canis, Microsporum audouinii, Microsporum gypseum, Microsporum nanum, Microsporum ferrugineum, Microsporum distortum, Microsporum fulvum, Trichophyton rubrum, Trichophyton mentagrophytes var. interdigitale, Trichophyton mentagrophytes var.nodulare, Trichophyton tonsurans, Trichophyton soudanese, Trichophyton violaceum, Trichopyton megnini, Trichophyton schoenlenii, Trichophyton gallinae, Trichophyton krajdenii, Trichophyton yaoundei, Trichopyton equinum, Trichophyton erinaceiそしてTrichopyton verrucosumが含まれる。
【0059】
本発明の特別な実施態様では、皮膚糸状菌感染が爪甲真菌症である場合がある。「爪甲真菌症」という用語は遠位側部爪下、表層白部、近位白部爪下、第二次的異栄養性、第一次的異栄養性、エンドニクス型、カンジタ型(例として爪甲離床症及び慢性皮膚粘膜疾患)爪甲真菌症及び爪白癬を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0060】
爪甲真菌症と関係する非皮膚糸状菌の菌類としてはAspergillus spp., Cephalosporum spp., Fusarium oxysporum, Scopularis brevicaulis, Scytalidium spp.が含まれる。
【0061】
本発明のペプチドは広範囲な病原生物に対応しうる強力な抗微生物ペプチドである。しかしながら、本発明のペプチドは又、嚢胞性線維症、胃腸系、泌尿生殖器系、泌尿器系(例として腎臓感染や膀胱炎)又は呼吸器系感染といった粘膜感染と関連するような条件(ただしこれらに限定されるわけではない)での治療にも有効でありうる。
【0062】
本発明のペプチドはまた、典型的には皮膚と関連する感染の治療及び予防にも有効でありうる。とりわけ創傷、潰瘍そして傷害、例としては切り傷や火傷の皮膚創傷やそれに関連する状態が含まれる。
【0063】
発明の好ましい態様では、ペプチドがバクテリアによる皮膚感染や「膿皮症」の治療に有効であることが挙げられる。
【0064】
「治療」という用語は、本明細書に記載されているペプチドの(感染性)疾患に苦しんでいる患者に対し利益(患者の状態を改善したり、疾患の進行を遅らせたり)を与えるという効能と合致する。
【0065】
本明細書で使われている様に、「傷の治療」とは創傷治癒やそれに関連する条件や組織の治癒を促進し、増強し、又は加速し、また術後創、火傷、潰瘍、乾癬や組織のリモデリング加速(例えば整形外科手術後や臓器移植)を含む治療法を含みうる。
【0066】
従って、本発明の更なる態様では、本発明のペプチドを塗布したり、接着したりする基材も含まれている。該基材は創傷への接着や創傷部位への送出に適していることが好ましい。該基材は発明のペプチドを基材から創傷へ容易に移動させるものであることが好ましい。当該基材は包帯、例えば創傷被覆材であってもよい。包帯は繊維材質で出来ていてもよいし、コラーゲン様の材質で出来ていても良い。
【0067】
本発明のペプチドにはまた、殺菌剤としての適用が考えられる。この状況において本発明のペプチド又は薬剤組成物は単独で、又は他の殺菌剤との組み合わせで治療すべき表層に利用されうる。本明細書で使われる「治療すべき表層」とは、本明細書で規定した基材や医療用具でありうる。
【0068】
更なる様態では、本発明は対象における微生物感染を本発明に基づくペプチドの治療に有効な量を当該対象へ投与することにより治療又は予防する方法も含んでいる。
【0069】
本発明の好ましい方法では、微生物感染は菌類感染である。本発明の方法では、ペプチドは上記対象の皮膚や爪に局所的に適応される。
【0070】
ほ乳類、鳥類やその他の動物はここで記載されたペプチドやその組成又は方法によって治療されうる。そのようなほ乳類や鳥類はヒト、イヌ、ネコやウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリや七面鳥といった家畜およびその類似生物を含む。さらに植物もまた本発明のペプチドやその組成又は方法によって処置されうる。
【0071】
対象が動物である場合、本発明の方法は蹄、爪足、足(これらに限定されるわけではない)といった爪に類似した部分を介して利用される。
【0072】
本発明の方法はペプチドによる処置に加え、爪へのペプチド透過性を高める処理をも含む。これは化学的又は物理的方法により促進されうる。爪をエッチングしたり、爪の背面層をファイリングするとった物理的処理により、本発明のペプチド透過性を亢進することができる。本発明のペプチドの爪での透過性を化学的方法により高めるのは、爪甲のケラチン中の物理的又は化学的結合を破壊することによってなされる。尿素やサリチル酸といった爪を柔軟化する試薬(これらに限定されるわけではない)は水和を増加することで爪の密度を低下させ、それによって本発明のペプチドの透過性を亢進することができる。メルカプト基を含む化合物は爪のケラチンのジスルフィド結合を解裂させることで、構造を不安定化させ、試薬の透過性を高めうる。
【0073】
更なる態様でて、本発明は治療に有効な用量のペプチドないしは基材を本発明に基づいて創傷に適用することにより、対象の創傷を治療する方法を含む。
【0074】
望ましい効果を達成するために、ペプチド及びその変異体又はその組み合わせを単回又は複数回投与することができる。例えば最低およそ0.01mg/kgからおよそ500から750mg/kg、最低およそ0.01mg/kgからおよそ300から500kg/kg、最低およそ0.01mg/kgからおよそ100から300kg/kg、体重に対し最低およそ1mg/kgからおよそ50から100kg/kg、体重に対し最低およそ1mg/kgからおよそ20kg/kgである。もっとも他の投与量であっても有効な結果が得られる可能性もある。投与量は選択されたペプチド、臨床効果、疾患、体重、身体条件、健康状態、ほ乳類の年齢、予防を期待しているのか治療を期待しているのか、そしてペプチドに化学修飾を施しているか、といった様々な要因(これらに限定されるわけではない)に依存して変わりうる。
【0075】
本発明に基づいた治療薬の投与は単回投与でも、複数回投与でも、連続投与でも間欠投与でもよく、例えば受容者の生理的条件、投与目的が治療か予防か、習熟した医師なら知りうるその他の要因に依存する。発明のペプチド投与は前もって設定された期間に必ず連続的になすのでもよく、間隔をあけてなすのでもよい。
【0076】
組成物を調製するために、ペプチドは必要又は望まれるだけ合成され、さもなくば調達、精製した後、凍結乾燥して安定化する。該ペプチドは適当な濃度に調整され、場合によっては他の試薬と組み合わせられる。単位あたりの投与量に含まれるペプチドの絶対量は様々に変わりうる。例えば本発明の少なくとも1つのペプチド、又は特別な細胞種に対し特定の複数のペプチドをおよそ0.01からおよそ2g、又はおよそ0.01からおよそ500mg、投与する場合が挙げられる。あるいは単位当たりの投与量はおよそ0.01gからおよそ50g、およそ0.01gからおよそ35g、およそ0.01gからおよそ25g、およそ0.5gからおよそ12g、およそ0.5gからおよそ8g、およそ0.5gからおよそ4g、又は0.5gからおよそ2gに変わりうる。
【0077】
従って、本発明の治療用ペプチドよりなる一つ又はそれ以上の適当な単位剤形は経口、非経口(皮下、静脈内、筋肉内そして腹腔内)、直腸、皮膚、経皮、胸郭内、肺内そして鼻腔内(呼吸)といった様々な経路を介して投与されうる。治療用ペプチドはまた持続的放出(例えば微小カプセル化を用いて、WO94/07529、米国特許番号No.4,962,091を参照)のために脂質に処方することができる。該処方はしかるべき場合には個々の単位剤形として都合良く提示することができ、製薬技術としてよく知られている何らかの方法により調製することが可能である。こうした方法には、治療薬を脂質キャリアや固体基質、半固結キャリア、細粒固体キャリアやこれらの組み合わせと混合し、もし必要であれば、望まれる薬剤輸送システムに治療薬を導入したり、その為に治療薬を成形するステップが含まれている。
【0078】
本発明の治療用ペプチドを経口投与用に調製する場合、通常は製薬上の条件を満たすキャリア、希釈液や添付剤と該ペプチドを結合させ、製薬製剤、すなわち単位剤形を形成する。経口投与の為に該ペプチドは粉末、粒状、溶液、懸濁液、乳剤、天然もしくは合成ポリマーで、又はチューインガムから活性物質を摂取すべく樹脂に含侵させた形で提供されうる。活性のあるペプチドはまた丸薬、舐剤又はペーストの形状でも提供される。本発明における経口投与用の治療ペプチドはまた持続放出が可能となるように薬剤処方することも可能である。すなわち、該ペプチドをコートしたり、微少カプセル化したり、さもなくば持続的に薬剤供給する装置に充填することにより可能となる。このような製剤処方において全活性成分は該剤形処方重量のうちの0.1から99.9%を占める。
【0079】
本発明の治療用ペプチドを含む剤形処方は公知で容易に入手可能な構成成分を用いた既知の技術によって調製することが可能である。例としては、該ペプチドは一般的な希釈液、添付剤又はキャリアによって製剤処方することが可能であり、錠剤、カプセル剤、溶液、懸濁液、粉末、エアゾールやこれらに類似の物に成形することが出来る。このような製剤処方に適した添付剤、希釈液やキャリアの例としては緩衝液、溶化剤やスターチ、セルロース、糖、マンニトールやシリカ誘導体といった増量剤があげられる。結合剤もまたこれらに含まれ、例としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやその他のセルロース誘導体、アルギン酸塩、ゼラチンそしてポリビニルピロリジンが挙げられる。グリセロールのような保湿剤や炭酸カルシウムや重炭酸ナトリウムのような分解剤も含めることが出来る。パラフィンのような分解を遅延するための試薬も含めることができる。第四級アンモニウム化合物のような吸収促進剤も含めることができる。セチルアルコールやグリセロールモノステアリン酸のような表面活性剤も含まれる。カオリンやベントナイトのような吸着性キャリアも加えうる。タルク、ステアリン酸カルシウムやマグネシウムそして固形ポリエチルグリコールといった潤滑剤もまた含めることができる。防腐剤もまた加えうる。本発明の複合体はまたセルロース及び/又はセルロース誘導体のような増粘剤を含んでいてもよい。これらはまたキサン、グアール又はカルボガム又はアラビアゴムあるいはポリエチレングリコール、ベントンそしてモンモリロナイトやこれらの類縁体といったゴムもまた含みうる。
【0080】
例として、本発明のペプチドを含んでいる錠剤やカプレットは炭酸カルシウム、酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムといった緩衝剤を含有することができる。適切な緩衝剤はまた塩の中に酢酸、クエン酸、ホウ酸やリン酸を含んでいることがある。カプレットや錠剤はまたセルロース、ゼラチン化前のスターチ、二酸化ケイ素、ヒドロキシプロリルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、微結晶性セルロース、スターチ、タルク、二酸化チタン、安息香酸、クエン酸、コーンスターチ、鉱油、ポリプロピレングリセロール、リン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛やその類縁体といった不活性な含有物を含有することも出来る。少なくとも本発明のペプチドの一つを含んでいる硬質又は軟質ゼラチンカプセルはゼラチン、微結晶性セルロース、ラウリル酸硫酸ナトリウム、スターチ、タルクや二酸化チタンやその類縁体といった不活性な含有物やポリエチレングリコールや植物油といった液状媒体を含むことが出来る。それに加えて、本発明の一つ又はそれ以上のペプチドを含む腸溶コーティングのカプレットや錠剤は胃での分解に耐え、より中性からアルカリ性である十二指腸の環境で分解するように設計されている。本発明の治療用ペプチドは万能薬、又は、簡便な経口投与のための溶液、筋肉内、皮下、腹腔内又は静脈内経路という非経口的投与に適した溶液として製剤化することもできる。本発明の治療用ペプチドはその製剤処方により水溶液、無水の溶液、分散状態、さもなくば乳濁液や懸濁液や軟膏の形状をとることも可能である。
【0081】
それ故、治療用ペプチドは非経口的投与用(すなわち、インジェクションで、例としては静脈内ボーラスや継続的インフュージョン)に製剤処方することができ、アンプル、事前に充満させた注射器、少量のインフュージョンコンテナや複数回投与用コンテナといった単位剤形で提供されることが可能である。活性のあるペプチドとその他の含有物は油性又は水性溶媒の中で懸濁液、溶液又は乳濁液を形成することが出来、懸濁化剤、分解安定剤及び/又は分散剤といった製剤処方のための試薬を含むことも可能である。もう一つの方法として、活性のあるペプチドとその他の含有物は粉体であり、滅菌した固体から無菌下の単離により、又は使用前に滅菌しパイロジェン除去した水といった適当な媒体により調製された溶液を凍結乾燥することで取得してもよい。
【0082】
これらの製剤処方は、当該技術分野において周知である、薬剤上許容なキャリア、媒体やアジュバンドを含むことができる。例えば、生理的な観点から使用可能な一つ又は数種類の有機溶媒を使って溶液を調製することは可能である。ここで、有機溶媒とは、水に加えて、アセトン、酢酸、エタノール、イソプロピルアルコール、ジメチルスルホキシド、“Dowanol”という商品名で販売されているグリコールエーテル、ポリグリコールおよびポリエチレングリコール、短鎖有機酸のC1-C4アルキルエーテル、乳酸エーテル又はイソプロピル、”Miglyol”という商品名で販売されている脂肪酸トリグリセリド、ミリスチン酸イソプロピル、動物油、鉱油および植物油やポリシロキサンから選択されたものを指す。
本発明のペプチドを含む溶媒や希釈剤には酸溶液、ジメチルスルホキシド、N-(2-メルカプトプロピオニル)グリシン、2-n-ノニル-1,3-ジオキソランやエチルアルコールが含まれうる。溶媒/希釈剤は酸性溶媒が望ましく、例えば酢酸、クエン酸、ホウ酸、乳酸、プロピオン酸、リン酸、安息香酸、酪酸、リンゴ酸、マロン酸、シュウ酸、コハク酸や酒石酸である。
【0083】
また、一種又は複数種の本発明のペプチドと一種又は複数種の他の抗微生物又は抗菌類薬との混合も想定される。ここで他の抗微生物又は抗菌類薬とは、例えば、アンフォテリシンB、アンフォテリシンB脂質複合体(ABCD)、リポゾーマルアンフォテリシンB,(L-AMB)やリポゾーマルニスタチン、アゾールやボリコナゾール、フルコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ポザコナゾールやその類縁体といったトリアゾール;カスポフンジン、ミカフンジン(FK463)やV-エキノカンジン(LY303366)といったグルカン合成酵素阻害剤;テルビナフィンといったアリルアミン;フルシトシンや上記してきたその他の抗菌類薬である。これに加えて、該ペプチドがシクロピロックスオラミン、ハロプロジン、トルナフテート、ウンデシレン酸塩、局所投与型ナイスタチン、アモロルフィン、ブテナフィン、ナフテフィン、テルビナフィンやその他の局所投与薬といった局所投与式の抗菌類薬と混合して用いられることも想定される。
【0084】
さらに、該ペプチドは徐放剤型ないしはそれに類するものとして製剤処方されうる。この手の製剤処方はきちんと設定されているため、活性ペプチドを、例えば小腸や気道内の特定の部位にて、おそらくは一定時間に渡り、放出することが可能である。被覆物、外皮や保護マトリクスは例えば、ポリアクチドグリコール酸、リポゾーム、マイクロエマルジョン、マイクロ微粒子、ナノ微粒子又はワックスといった高分子物質から作りうる。これら被覆物、外皮や保護マトリクスはステント、カテーテル、腹腔透析用チューブ、排水装置といった生体内機器のコーティングに有用である。
【0085】
局所投与のために、活性物質はターゲット部位に直接投与するよう当該技術分野において知られている方法で剤型処方されることが可能である。とりわけ局所投与用に設定された剤型としては、例えば、クリーム、ミルク、ジェル、粉末、分散体やマイクロエマルジョン、程度の差こそあれ濃化したローション、含侵パッド、軟膏、スティック、エアゾール(即ち、スプレイやフォーム)、石けん、洗剤、ローション又は塊状の石けんが挙げられる。本目的のために従来から使われている他の剤型として、創傷被覆材、被覆包帯や他のポリマー被膜、軟膏、クリーム、ローション、泥膏、ゼリー、スプレーやエアゾールがある。従って、本発明の治療用ペプチドは皮膚投与の場合パッチや包帯を介して供給されうる。もう一つの方法として、該ペプチドはポリアクリル酸塩やアクリル/ビニルアセテート共重合体といった接着性ポリマーの一部として剤形処方されうる。長期間投与のために、ミクロ細孔及び/又は通気性のある支持薄板を使用することが好ましく、これにより皮膚の水和や浸漬を最小限に抑えることができる。この時、支持層は期待される保護かつ支持機能を満足するだけの適当な厚みをもつことが可能である。適当な厚みとは一般におよそ10からおよそ20ミクロンである。
【0086】
局所投与は爪のコーティングやマニキュア塗料の形態でなされうる。例えば、抗菌類ペプチドはエチルアセテート(NF)、イソプロピルアルコール(USP)やイソプロピルアルコール中のポリ[メチルビニルエーテル/マレイン酸]のブチルモノエステルといった局所投与用の溶液に剤型処方することができる。
【0087】
局所投与のための剤型処方には、例えば、治療すべき兆候や疾患に対し特異的な本発明のペプチドの一つ又は複数がおよそ0.001mg/mlとおよそ100mg/mlの間(例えば0.1mg/mlと10mg/mlの間)の濃度で含まれる生理的な条件を満たす緩衝食塩水も含まれる。
【0088】
軟膏やクリームは、例えば、適当な増粘剤及び/又はゲル化剤を加えた水性又は油性基剤を用いて製剤処方される。ローションは水性又は油性基剤を用いて製剤処方され、また一般に一種又は数種の乳化剤、安定剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤または着色剤を含んでいる。活性ペプチドはまたイオントフォレーゼ(即ち、米国特許番号4,140122; 4,383,529;又は4,051,842に開示されているように)を介して供給されうる。局所投与用の剤型処方中に存在する本発明の治療試薬の重量比率は様々な要素に依存するが、一般的には剤型処方の全重量中の0.01%から95%を占め、典型的には重量中0.1-85%となる。
【0089】
点眼薬や点鼻薬のような点滴薬は一種類又は数種類の分散剤、安定剤や懸濁化剤も含む水性又は非水性基剤中に一種類又は数種類の治療用ペプチドを加えることで剤型処方することができる。液体スプレーはポンプで放出でき、便利なことには加圧したパックから放出される。点滴薬は単純なキャップ付き点滴器容器や、滴り状に液体内容物を投薬できるように適合されたプラスティック製容器や、特殊な形状をしたクロージャーによって供給することができる。
【0090】
治療用ペプチドはさらに口腔や喉への局所投与用に剤型処方することができる。例として、風味のついた基剤、通常はショ糖とアカシアかトラガカントよりなるトローチ剤;ゼラチンやグリセリン又はショ糖とアカシアといった不活性基剤との組み合わせによりなる芳香製剤;そして適当な液体キャリアと現発明の組成物よりなるうがい薬;として活性成分を製剤処方することができる。
【0091】
当該発明の製剤処方に利用されるキャリア及び/又は希釈剤の具体的かつそれに限定されるわけではない例として、水及びpH7.0-8.0のリン酸緩衝食塩水のような生理的な条件を満たしている緩衝食塩水が挙げられる。
【0092】
本発明のペプチドは、また、食道にも投与することが可能である。吸入による投与のために、該ペプチド成分は乾燥粉末、例えば治療試薬とラクトースやスターチといった適当な粉末基剤の混合粉末の形状を取り得る。当該発明の治療ペプチドはまた、エアゾールや吸入方式で投与する場合、水溶液の形状で投与することも可能である。それ故、その他のエアゾールタイプの剤型処方には、例えば、治療すべき兆候や疾患に対して特異的な該発明の一種類又は数種類のペプチドを生理的な条件を満たしている緩衝食塩水にておよそ0.001mg/mlからおよそ100mg/ml (例えば0.5-50mg/ml, 0.5-20mg/ml, 0.5-10mg/ml, 0.5-5mg/ml又は1-5mg/mlといった0.1と100mg/mlの間)になるように希釈したものが含まれうる。
【0093】
本明細書の明細書本文や請求の範囲を通して、“含む(comprise)”及び”含む(contain)”という言葉とこの言葉のバリエーション、例えば“comprising”や”comprises”は“含むがそれに限定されない”ということを意味し、他の成分、添加物、構成要素、整数又は段階を除外するということを意図しない。本明細書の明細書本文や請求の範囲を通して、もし前後関係が要求していないのであれば、単数形は複数形を包含する。特に不定冠詞が使われている場合、その明細事項は単数だけでなく複数をも予期するものと、もし前後関係によりいずれかに限定されない限り、理解すべきである。
【0094】
特徴、整数、特性、化合物、化学成分、特定の様相と関連したグループ、発明の具体例や実例は、もしそこでは矛盾するわけでは無い場合は、本文で記載したその他の様相、具体例や実例にも当てはめることができると理解すべきである。
【実施例】
【0095】
物質と方法
実施例1
7アミノ酸のポリリジンペプチドの環状化は1等量の保護済みのペプチドを1等量のHATUとDMF(ジメチルホルムアミド)中にて100mg/mlになるように溶解することによって行った。pHを上げるために、2.5等量のDIEA(ジイソプロピルエチルアミン)を加え、反応の進行はHPLCにて追跡した。反応完了時、ペプチドは水によって沈殿させ、水でさらに洗浄した。該ペプチドは乾燥させ、環状ペプチドの最終産物を産生するためにフッ化水素酸にて脱保護した。イオン交換クロマトグラフィーにて凍結乾燥前にフッ化水素酸溶媒を酢酸にて置換した。
【0096】
実施例2
7アミノ酸のポリアルギニンペプチドの環状化は1等量の保護済みのペプチドを5等量のNaHCO3(炭酸水素ナトリウム)とDMFに溶解した2等量のPyBOPと28.5mg/mlにて化合することによって行った。反応はTLCにて追跡し、反応完了時、ペプチドは水によって沈殿させ、水でさらに洗浄した。該ペプチドは乾燥させ、環状ペプチドの最終産物を産生するためにフッ化水素酸にて脱保護した。イオン交換クロマトグラフィーにて凍結乾燥前にフッ化水素酸溶媒を酢酸にて置換した。
【0097】
実施例3
7アミノ酸のポリアルギニンペプチドの環状化:
溶液1: 57mgのHBTU(分子量=379.3、0.15mmole)又は57mgのHATU (分子量=380.3、0.15mmole)と60mlの0.92mg/ml NMM (n-メチルモルフォリン、分子量=101.2、0.55mole)を2.86mlのDMFに溶解したもの
溶液2: 288mgのH-[Arg(pbf)]7-OH(分子量=2877.6、0.1mmole)(7アミノ酸ポリアルギニンペプチド)を0.71mlのDMFに溶解したもの
【0098】
溶液2を溶液1に30分かけて滴下した。pHを湿ったpH試験紙で確認し、8.5-9の間にしなければならない。その反応混合液は、一晩室温にて撹拌し続けた。該混合液は真空下、濃縮した。NaHCO3溶液(5%)を添加した。保護済みの環状ペプチドからなる沈殿物をフィルターにかけ、水にて洗浄した。150-200mgを得ることができた。Pbf基の分離はTFA/水(体積比95/5)(1gの保護済み環状ペプチドに対し10ml)によって行われた。混合液は濃縮され、未精製の産物を沈殿するためにIPEを添加した。100-110mgの未精製環状アルギニンを回収した。
(*HATUを用いたカップリングは5時間後に完了した。NMMの量はH-[Arg(pbf)]-OH中のTFA超過分に依存する。)
本環状ペプチドは少なくとも95%光学異性体として純度の高いものが合成され、これは97と99%の間で変動する傾向にあった。これらのペプチドはこの方法によって合成される度に最低95%光学異性体として純度の高いものであった。
【0099】
培養液希釈による抗菌類活性感受性試験
関連する菌株の環状ペプチドに対する感受性はClinical Laboratory Standard Institute (CLSI; 以前のNCCLS) Approved Standardsを使って決定した。菌類の感受性は“Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Test of Filamentous Fungi; Approved Standard M38-P”を用いて試験し、酵母の感受性は“Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Test of yeasts; Approved Standard-Second Edition M27-A”を用いて試験した。
【0100】
培養液希釈による抗バクテリア活性感受性試験
関連するバクテリア株の環状ペプチドに対する感受性はClinical Laboratory Standard Institute (CLSI; 以前のNCCLS) Approved Standardsを使って決定した。バクテリア類の感受性は“Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Anaerobically; Approved Standard ? Seven Edition M7-A7”を用いて試験した。
【0101】
溶血分析
評価対象のペプチドは希望の濃度でNunc社の96穴プレート内で3穴ずつ分収し、1:1の連続希釈液(100ml)を作成した。100mlの洗浄し(50mlのHBSSにて3回洗浄)保存しておいた赤血球細胞(RBC)(1x108 RBC/ml)を試験穴に加え、37℃で3時間保温した。保温後、さらに100mlのHBSSを全ての穴に加え、プレートごと4℃で一晩保管した。100mlの上清を分取し、新規のマイクロタイタープレートに移し、Sunrise plate reader (Tascam社)にて450/620nmの波長吸光度を測定した。緩衝液のみ、緩衝液とRBC、水とRBCの対象穴(4穴分ずつ)もまた保温した。データはプロットし、Graph Pad (Prism software社)を用いて統計解析を行った。
【0102】
結果
環状ペプチドの配列
分析したペプチドの配列は以下の通りである:
ペプチド1: Cyclic-K-K-K-K-K-K-K
ペプチド2: Cyclic-R-R-R-R-R-R-R
ペプチド3: Cyclic-K-K-K-K-K-K-K-G
ペプチド4: Cyclic-R-R-R-R-R-R-R-G
ペプチド5: Cyclic-O-O-O-O-O-O-O-G
ペプチド6: Cyclic-DR-DR-DR-DR-DR-DR-DR-G
ペプチド7: Cyclic-DO-DO-DO-DO-DO-DO-DO-G
ペプチド8: Cyclic-DK-DK-DK-DK-DK-DK-DK-G
接頭語“D-“はペプチド合成に使用されたアミノ酸のD-アイソマーを示す。”O“は非天然アミノ酸であるオルニチンを表す。
3, 5, 9, 11, 13又は15のアルギニン又はリジンから構成されている環状ペプチドは合成され、その活性も測定された(データは示さず)。
【0103】
環状ペプチドの抗バクテリア活性
E..ColiとStaphylococcus aureusの培養にペプチド1を暴露したところ、37℃で16時間増殖させた後のMICは両バクテリアとも1mMであった(表2)。全体として、ペプチド1はE..ColiとStaphylococcus aureusともこの濃度で増殖を抑制する。
本実験はペプチド2で同様に行われた。ペプチド2のE.coliに対するMICは0.1mMであり、S.aureusに対するMICは1.0mMであった。このことから該ペプチドのバクテリア増殖に対する有意な影響が示される。
ペプチド1及び2に対しサイズで対応する線形ペプチドはペプチド1及び2よりもそれぞれ有意に低い活性しか示さなかった。
【0104】
Trichophyton rubrumに対する環状ペプチドの抗菌類活性
T.rubrumのペプチド1−8に対する感受性を試験した。ペプチド1は培養したT.rubrumに対して0.1mMのMICを示した。ペプチド2は培養したT.rubrumに対して0.25mMのMICを示した。
ペプチド1及び2に対しサイズで対応する線形ペプチドはペプチド1及び2よりもそれぞれ有意に低い活性しか示さなかった。
ペプチド3−8は一つのグリシン残基を環状ペプチドリングに導入している。それ故、ペプチド3−8はペプチド1,2の7アミノ酸に比べ、8アミノ酸長である。ペプチド3−6は全てT.rubrumに対する抗菌類活性を示した(それぞれMIC(mM) 4.0, 2.0, 4.0, 1.0)。ペプチド7−8は最高評価濃度(4mM)でもT.rubrumに対する抗菌類活性を示さなかった。
ペプチド3−6は抗菌類活性を示したが、非陽イオンアミノ酸であるグリシンの導入により、有意に抗菌類活性が減少した。例を挙げると、この現象はペプチド4(グリシン添加型;MIC=2.0mM)(表2)と比したペプチド2の活性(グリシン不添加型;MIC=0.2mM)で認められる。このデータは、7及び8アミノ酸長の環状ペプチド両方に抗菌類活性は存在するが、陽イオン性の低下したペプチドではT.rubrumに対する抗菌類活性は減少することを示している。
【0105】
環状ペプチドによるTrichophyton interdigitale増殖の阻害
T.interdigitaleのペプチド2−8に対する感受性を評価した。ペプチド2−8のT.interdigitaleに対する抗菌類活性を表2に示す。ペプチド2,4及び6がT.interdigitaleに対し活性を有している。
【0106】
環状ペプチドによるCryptococcus neoformans増殖の阻害
C.neoformansのペプチド4及び6−8に対する感受性を”Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Yeasts; Approved Standard ? Second Edition M27-A”を用いて評価した。
表2は陽イオン性環状ペプチド4及び6−8が病原性酵母であるC.neoformansに対し抗菌類活性を有している (それぞれMICs=1.0mM, 0.5mM, 2.0mMそして0.5mM)ことを示している。
【0107】
ペプチド2の選択された微生物病原体に対する抗微生物活性
選択された60に渡る微生物病原体に対するペプチド2の抗微生物活性を表3に示す。確認できるように、最大の抗微生物活性(すなわち最小MIC)は一貫して菌類、特に皮膚糸状菌、Scopulariopsis brevicaulis,、Malassezia furfur、非白色Candida sppやバクテリアであるE.coliに対して認められる。
【0108】
環状ペプチドへの光学異性アミノ酸利用の効果
全てL体及び全てD体の環状陽イオンペプチドの阻害効果の比較を表2に示す。ペプチド4及び6はアルギニン(7アミノ酸)とグリシン(1アミノ酸)を含む全てL体及び全てD体の対応する環状カチオンペプチドである。T.rubrumに対する抗菌類活性は全てD体の種類についての方が全てL体の種類についてよりも大きい(それぞれMIC=1.0と2.0mM)。T.interdigitaleに対する抗菌類活性は全てD体の種類についての方が全てL体の種類についてよりも大きい(それぞれMIC=0.25と0.5mM)。酵母であるC.neofarmansに対する抗菌類活性は全てD体の種類についての方が全てL体の種類についてよりも大きい(それぞれMIC=0.5と1.0mM)。このことより本ペプチドでは全てD体の種類についての方が全てL体の種類についてよりも高活性であることが示される。
ペプチド3と8はリジン(7アミノ酸)とグリシン(1アミノ酸)を含む全てL体及び全てD体の対応する環状カチオンペプチドである。T.rubrumに対する抗菌類活性は全てL体の種類についての方が全てD体の種類についてよりも大きい(それぞれMIC=4.0と>4.0mM)。どちらのペプチドもT.interdigitaleに対する抗菌類活性は示していない(両ペプチドともMIC>4.0mM)。
【0109】
環状ペプチドの溶血活性
環状ペプチドの溶血活性(表4)は抗菌類活性を示す濃度以上の濃度ではごく僅かである。
【0110】
環状ペプチドの幹細胞毒性
ペプチド2,9及び10では抗菌類活性を示す濃度と同程度の濃度では幹細胞毒性は認められない。
【0111】
表1−カップリング剤
【表1】

【0112】
表2:選択された微生物病原体に対する環状ペプチドの抗微生物活性(MIC; mM)
【表2】

【0113】
表3:選択された微生物病原体に対するペプチド2の抗微生物活性(MIC; mM)
【表3】

【0114】
表4:赤血球細胞に対する選択されたペプチドの溶血活性
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iのアミノ酸を含んでなる環状ペプチド又はその変異体であって、
((X)(Y) (I)
ここでl及びmは、共に0である場合を除いた0から10までの整数であり、nは1から10までの整数であり、
XとYは陽イオンアミノ酸よりなるグループから選択されるアミノ酸であり、両者は同一であっても、異なっていてもよく、医薬としての使用のための変異体。
【請求項2】
2から50のアミノ酸を含んでなる請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
3から15のアミノ酸を含んでなる請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
5から13のアミノ酸を含んでなる請求項3に記載のペプチド。
【請求項5】
X及び/又はYがアルギニン、リジン又はオルニチンである前記いずれかの請求項に記載されたペプチド。
【請求項6】
X及びYが同一であり、かつ、アルギニン又はリジンである請求項5のいずれかに記載のペプチド。
【請求項7】
X及びYが同一であり、かつ、アルギニンである請求項6に記載のペプチド。
【請求項8】
X及び/又はYがD型アミノ酸である前記いずれかの請求項に記載のペプチド。
【請求項9】
X及び/又はYがL型アミノ酸である請求項1乃至7のいずれかに記載のペプチド。
【請求項10】
l及びmが0と7の間の整数であり、かつ、nが1と10の間の整数である前記いずれかの請求項に記載のペプチド。
【請求項11】
ペプチドがR−R−R−R−R−R−Rである前記いずれかの請求項に記載のペプチド。
【請求項12】
式Iのペプチドを、該ペプチドの2つの末端アミノ酸残基間でペプチド結合を形成しうるカップリング剤と該ペプチドを反応させることにより、環状化することを含む、前記いずれかの請求項に記載のペプチドの調製方法。
【請求項13】
カップリング剤がHATU−O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルォロホスフェートである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12又は13の方法によって取得される環状ペプチド。
【請求項15】
請求項1乃至11のいずれかに記載のペプチドの薬剤上有効な用量と薬剤としての条件を満たしうるキャリア、賦形剤又は希釈剤からなる組成物。
【請求項16】
式Iのアミノ酸を含んでなる環状ペプチド又はその変異体の使用であって、
((X)(Y) (I)
ここでl及びmは、共に0である場合を除いた0から10までの整数であり、nは1から10までの整数であり、XとYは陽イオンアミノ酸よりなるグループから選択されるアミノ酸であり、両者は同一であっても、異なっていてもよく、微生物感染の治療のための医薬の製造における使用。
【請求項17】
感染が菌類感染である請求項16に記載の使用。
【請求項18】
菌類感染がCandida spp., Epidermophyton spp., Exophiala spp., Microsporum spp., Trichophyton spp., Tinea spp., Aspergillus spp., Blastomyces spp., Blastoschizomyces spp., Coccidioides spp., Cryptococcus spp., Histoplasma spp., Paracoccidiomyces spp., Sporotrix spp., Absidia spp., Cladophialophora spp., Fonsecaea spp., Phialophora spp., Lacazia spp., Arthrographis spp., Acremonium spp., Actinomadura spp., Apophysomyces spp., Emmonsia spp., Basidiobolus spp., Beauveria spp., Chrysosporium spp., Conidiobolus spp., Cunninghamella spp., Fusarium spp., Geotrichum spp., Graphium spp., Leptosphaeria spp., Malassezia spp., Mucor spp., Neotestudina spp., Nocardiopsis spp., Paecilomyces spp., Phoma spp., Piedraia spp., Pneumocystis spp., Pseudallescheria spp., Pyrenochaeta spp., Rhizomucor spp., Rhizopus spp., Rhodotorula spp., Saccharomyces spp., Scedosporium spp., Scopulariopsis spp., Sporobolomyces spp., Syncephalastrum spp., Trichoderma spp., Trichosporon spp., Ulocladium spp.,Ustilago spp., Verticillium spp., Wangiella spp.属の菌類由来の病原菌類により引き起こされる請求項16に記載の使用。
【請求項19】
菌類感染が皮膚糸状菌による感染である請求項17に記載の使用。
【請求項20】
皮膚糸状菌感染が白癬感染である請求項19に記載の使用。
【請求項21】
皮膚糸状菌感染が、Trichophyton, Epidermophyton又はMicrosporum属の皮膚糸状菌によって引き起こされる請求項19に記載の使用。
【請求項22】
皮膚糸状菌が、Trichophyton spp.である請求項21に記載の使用。
【請求項23】
皮膚糸状菌が、Trichophyton interdigitaleである請求項22に記載の使用。
【請求項24】
皮膚糸状菌が、Trichophyton rubrumである請求項22に記載の使用。
【請求項25】
菌類感染が、爪甲真菌症である請求項17乃至24のいずれかに記載の使用。
【請求項26】
式Iのアミノ酸を含んでなる環状ペプチド又はその変異体の使用であって、
((X)(Y) (I)
ここでl及びmは、共に0である場合を除いた0から10までの整数であり、nは1から10までの整数であり、XとYは陽イオンアミノ酸よりなるグループから選択されたアミノ酸であり、両者は同一であっても、異なっていてもよく、創傷治療のための医薬の製造における使用。
【請求項27】
式Iのアミノ酸を含んでなる環状ペプチド又はその変異体の、薬剤上有効な用量を対象に投与することを含む該対象における微生物感染の治療又は予防方法であって、
((X)(Y) (I)
ここでl及びmは、共に0である場合を除いた0から10までの整数であり、nは1から10までの整数であり、XとYは陽イオンアミノ酸よりなるグループから選択されたアミノ酸であり、両者は同一であっても、異なっていてもよい、治療又は予防方法。
【請求項28】
微生物感染が、菌類感染である請求項27に記載の方法。
【請求項29】
薬剤上有効な用量のペプチド又はペプチド変異体が局所的に投与される請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
薬剤上有効な用量のペプチド又はペプチド変異体が局所的に対象の皮膚又は爪に投与される請求項29に記載の方法。

【公表番号】特表2009−520794(P2009−520794A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546630(P2008−546630)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004890
【国際公開番号】WO2007/072037
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(508066991)ノバビオティクス・リミテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】NOVABIOTICS LIMITED
【Fターム(参考)】