説明

環状有機水素シロキサンの調製方法

環状有機水素シロキサンの調製方法が、(A)式RHSiClのシランで、Rがアリール基と1〜12の炭素原子を有するアルキル基とから選択されるシランを、水と接触させ、環状有機水素シロキサンと直鎖有機水素シロキサンとを含む加水分解物を形成させること、ならびに、(B)不活性液体希釈剤の存在下で、該加水分解物を酸性転位触媒と接触させ、該加水分解物中の該直鎖有機水素シロキサンに対する該環状有機水素シロキサンの割合を上昇させることを含む。該酸性転位触媒は強酸基を含む有機化合物、例えばスルホン酸であり、それは該不活性希釈剤に溶解される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状有機水素シロキサンの調製方法である。
【背景技術】
【0002】
環状メチル水素シロキサンのような環状有機水素シロキサンは、電子産業および剥離紙コーティングで使われるシリコーンコーティングおよびカプセル化物質の架橋剤として有用であり、そしてSiH官能基化シロキサンを形成するための中間体として使われ得る。有機水素シロキサンの典型的な調製方法では、最初の工程は、環状有機水素シロキサンと短鎖の直鎖有機水素シロキサンとを含む平衡混合物を形成する、有機水素ジクロロシランの加水分解を含む。一般的に、該平衡混合物内の環状有機水素シロキサンの重量パーセントは、存在する直鎖有機水素シロキサンの重量パーセントとの関係では小さい。その結果として、環状有機水素シロキサンの需要が高くなったとき、余分な直鎖有機水素シロキサンが生成されることがある。
【0003】
米国特許第5395956号明細書は、加水分解物を形成するため、ほぼ化学量論的に当量の水と、有機水素ジクロロシランを接触させること、不活性溶媒中で該加水分解物を希釈すること、そしてそれを、環状有機水素シロキサンの形成をもたらす酸性転位触媒と接触させることを含む方法を記載している。該触媒は、一般的に固定又は攪拌されて使用される不均一系触媒である。米国特許第5395956号明細書では、該酸性転位触媒が、塩化水素、硫酸、またはクロロスルホン酸のような均一系触媒であってもよいといっているが、しかしそのような均一系の酸は、それらが後に中和されなくてはならないので、一般的に好ましくない。
【0004】
米国特許第5247116号明細書は、追加溶媒の非存在下で、強酸触媒とシロキサンを接触させることによるシクロシロキサンの生産方法を記載している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(A)式RHSiClのシランで、Rがアリール基と1〜12の炭素原子を有するアルキル基とから選択されるシランを水と接触させ、環状有機水素シロキサンおよび直鎖有機水素シロキサンを含む加水分解物を形成させること、ならびに、
(B)不活性液体希釈剤の存在下で、該加水分解物を酸性転位触媒と接触させ、該加水分解物中の該直鎖有機水素シロキサンに対する該環状有機水素シロキサンの割合を上昇させること
を含み、該酸性転位触媒が強酸基を含む有機化合物であり、該不活性液体希釈剤に溶解することを特徴とする、環状有機水素シロキサンの調製方法。
【0006】
本発明の方法は好ましくは、
(C)直鎖メチル水素シロキサンと前記希釈剤とからの分離によって、環状メチル水素シロキサンを回収するステップ;ならびに
(D)ステップ(C)からステップ(B)まで、該直鎖メチル水素シロキサンと溶解された前記酸性転位触媒とを含む該希釈剤をリサイクルさせるステップ
を含む連続法として実施される。該有機酸性転位触媒はこのようにして、該不活性希釈剤と共に、転位(B)および分離(C)ステップを経て、連続的にリサイクルされる。
【0007】
米国特許第5395956号明細書の方法が、そこに記載されているように固定層の固体触媒を使用しながら行われる時、加水分解物中の環状有機水素シロキサンの直鎖有機水素シロキサンに対する割合を上げる平衡が初期に起こることを我々は見出したが、しかしこの転位のための該触媒の活性は、相当急速に時間と共に減少する。本発明の方法では、不活性希釈剤に溶解される本有機酸触媒は、該固定層の固体触媒より遙かに長い時間、加水分解物中で環状有機水素シロキサンの直鎖有機水素シロキサンに対する割合を上げるためのその触媒活性を保持する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本方法で加水分解され得るシランは、式(1)で記載される。該シランは、式(1)によって記載されているような単一化学種のシランであってもよく、または、そのようなシランの混合物であってもよい。該シランは置換基Rを含み、該Rはアリール基と1〜12の炭素原子を含む1価の飽和炭化水素基とから成る群から選択される。Rは、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ドデシル、フェニル、トリル、およびナフチルであってもよい。好ましくは、Rがメチルおよびフェニルから成る群から選択されたときである。最も好ましくは、Rがメチルのときで、すなわちメチルジクロロシランである。
【0009】
前記シランは、ほぼ化学量論的に当量の水と接触させられ、化学量論的に当量の水は、該シランによる方法へ供給される塩素1モルあたり0.5モルの水として定義されている。用語「約」を使うことによって、シランに対する水のモル比は、化学量論的な当量の±20パーセントの範囲内であることが意味される。好ましくはシランに対する水のモル比が−5%〜+15%の範囲内である場合であり、より好ましくは化学量論的な当量から5または10%過剰な水までである。
【0010】
ステップ(A)の水とのシランの接触は、加水分解していくクロロシランのための標準的反応容器中で行われ得る。本方法が行われる圧力は重要ではないけれども、シランが液相として存在する圧力で本方法が行われることが好ましい。そのような圧力は、本方法が行われる特定のクロロシランと温度とに依存するものである。該加水分解プロセスは好ましくは−15℃〜120℃の範囲内の温度で行われ、より好ましくは0℃〜50℃、最も好ましくは20℃〜40℃である。
【0011】
前記加水分解プロセスで形成される加水分解物は、不活性液体希釈剤内で希釈され、それは該加水分解物に混和性であってもなくてもよい。用語「不活性」によって、該プロセス中に有意な反応を他に持たない希釈剤が意味される。好ましい液体希釈剤は、アルカンの混合物を含むアルカンである。該アルカンは、直鎖もしくは分岐アルカンまたはそれらの混合物であってよい。該液体希釈剤は好ましくは、有機水素シロキサンの環状6量体以上の沸点を持つ。例えば、該環状6量体がメチル水素シロキサンである場合、好適な希釈剤は約9の炭素原子よりも多い炭素原子を有するそれらのアルカンである。1つの好ましい希釈剤は、243℃〜285℃までの範囲の沸点のパラフィン混合物で、’Isopar P’という商標下で販売されている。該有機水素シロキサンの環状6量体の沸点よりも低い沸点を有する不活性液体希釈液も使われ得るが、該環状有機水素シロキサンからの該希釈剤の分離をより難しくすることがある。
【0012】
希釈する加水分解物の最適重量比は、ケイ素原子上で置換した有機置換基と、平衡で転位された加水分解物内での直鎖有機水素シロキサンに対する環状有機水素シロキサンの望ましい割合のような要因に依存している。ある最大値まで、該加水分解物の希釈が大きいほど、転位された該加水分解物内での直鎖有機水素シロキサンに対する環状有機水素シロキサンの割合も大きくなる。該希釈剤は、好ましくは約50〜95重量%までの加水分解物と希釈剤との液体混合物を形成し、より好ましくは60〜90%、最も好ましくは70〜85%である。
【0013】
該希釈された加水分解物は、前記有機酸性転位触媒と接触される。一般的に好ましいのは、該加水分解物が希釈される前に、該酸性転位触媒と接触されないことである。本発明の方法が直鎖メチル水素シロキサンと溶解された該酸性転位触媒とを含む該希釈剤のリサイクルを含む連続法として実行される時、該加水分解物と接触する該希釈剤は該触媒を含む。
【0014】
前記酸性転位触媒は、強酸性基を含む有機化合物であり、それは前記不活性液体希釈剤に溶解される。「強酸性基」によって、我々は、有機酸は3未満のpKを有し、そして好ましくは1.5未満であることを意味する。該酸は好ましくはスルホン酸であるが、あるいは、ホスホン酸または硫酸エステルであってもよい。好ましいスルホン酸はアリールスルホン酸、特に式R’−Ar−SOHのアルキルアリールスルホン酸で、Arはベンゼンもしくはナフタレン核のような芳香核で、そしてR’はアルキル基であり、それは1〜30の炭素原子を有してもよいが、好ましくは8〜20の炭素原子を持ち、例えばドデシルベンゼンスルホン酸である。好適である代替物のスルホン酸は、アルキルスルホン酸とハロゲン化アリールまたはアルキルスルホン酸とを含み、たとえばトリフルオロメタンスルホン酸である。
【0015】
前記不活性液体希釈剤内の前記酸性転位触媒の濃度は、好ましくは0.05〜5重量%までの範囲であり、より好ましくは0.07〜0.2重量%である。連続法では、該濃度は前記直鎖メチル水素シロキサンとして観察され得、そして溶解された該酸性転位触媒を含む該希釈剤が分離ステップ(C)から転位ステップ(B)までリサイクルされ、そして必要とされるさらなる触媒もしくはさらなる希釈剤を加えることによって調節され得る。
【0016】
前記転位反応が実施される温度は重要ではなく、そして一般的に該不活性希釈剤の凝固点前後〜約150℃よりもより広い範囲内であり得る。好ましくは約0℃〜40℃の範囲内の温度で、例えば常温である。該転位プロセスが実施される圧力は重要ではなく、そして常圧であってよい。
【0017】
前記転位反応が実施される容器は如何なるタイプのタンクまたは反応容器であってもよく、例えば任意に攪拌される単純なタンクまたは管型反応容器である。反応時間は1分〜24時間またはそれ以上であってよく、該転位反応は平衡反応であり、そして平衡は一般的に、触媒がシロキサンと溶媒とに接触して存在する場合はいつでも、ずれていく。該触媒が該不活性希釈剤と共に該転位および分離ステップを通じて連続的にリサイクルされる連続法中での、該触媒、シロキサン、および溶媒の典型的滞留時間は、0.5〜10時間、特に1〜5時間である。該転位反応は平衡反応であるので、長期の接触時間は有害ではない。
【0018】
本方法によって回収され得る前記環状有機水素シロキサンは、式(RHSiO)によって記載され、Rは前に記載されたように、そしてnは3〜約12の整数である。本方法から回収される好ましい有機水素シロキサンは、Rがメチルであり、そしてnが4、5、または6であるものである。本方法から該環状有機水素シロキサンを回収する方法は決定したものではなく、そして混合物から環状シロキサンを分離する当技術分野で既知の標準的方法であってよい。例えば該転位された加水分解物は、より高沸点の直鎖有機水素シロキサンと前記不活性液体希釈剤の大部分とから、環状有機水素シロキサンを分離するよう平衡フラッシュ蒸留され得る。該回収されたより高沸点の直鎖有機水素シロキサンと希釈剤とその中に溶解された該触媒とは、該転位反応容器へとリサイクルされ得る。該環状有機水素シロキサンを含む該回収されたより低沸点のフラクションは、必要に応じ、より高沸点の直鎖種へのより低沸点の直鎖種の重合をもたらし、そして該環状有機水素シロキサンからのそれらの分離を容易にするようさらなる水を用いて処理されてよい。得られた水相は、重量測定または薄膜分離のような標準的方法によって取り除かれ得る。該環状有機水素シロキサン含有フラクションはその後、該環状有機水素シロキサンをより高沸点の直鎖種から分離するために蒸留され得る。より高沸点の該直鎖種はその後、更なる処理のための前記転位反応容器へとリサイクルされ得る。
【0019】
以下の実施例の中のパーセンテージは重量によるもので、本発明を説明すべく提供される。本実施例は、添付図面の一つの図を含んでおり、それは時間に対する実施例1の転位反応容器を出る混合物中の環状有機水素シロキサンの濃度と、クロロシラン供給をベースに理論収率(%)として表現されている時間に対する実施例1の環状有機水素シロキサンの収率とを表示するグラフである。
【実施例】
【0020】
<実施例1>
メチルジクロロシランCHSiClを、化学量論的に当量の水、すなわちケイ素と結合した塩素1モルあたり0.5モルの水と、蒸気加熱連続加水分解反応容器内で混合した。該加水分解反応容器を60psigに維持し、該反応容器の温度を、該反応容器を出る加水分解物が約33℃の温度にあるように制御した。該反応容器を出る加水分解物を、水素炎イオン化検出器(FID)を使うガスクロマトグラフィー(GC)によって分析し、約95重量パーセントの直鎖塩素末端メチル水素シロキサン種と約5重量パーセントの環状メチル水素シロキサン種とを含むことが見出された。該加水分解物を、0.1%のドデシルベンゼンスルホン酸触媒を含む炭化水素溶媒「Isopar P」中約20%まで希釈した。該加水分解反応からの余剰分のHClガスを、再利用するために集めた。
【0021】
該触媒を含む希釈された加水分解物を、常温常圧で単純な転位反応容器のタンクを通して送った。該反応容器内の希釈された加水分解物の滞留時間は約3時間であった。該転位反応容器を出る生成物のGC−FID分析は、約70重量パーセントの直鎖塩素末端メチル水素シロキサン種と約30重量パーセントの環状メチル水素シロキサン種とから成るシロキサン成分を示した。
【0022】
前記転位反応容器からの生成物を、水性のHCl(塩酸)の除去のために熱し、真空下のフラッシュドラム(flash drums)内で取り去り、その後真空蒸留し、そして該環状種とより低沸点の直鎖種とを上方で回収した。底のフラクションを冷やし、そして該転位反応容器へとリサイクルした。
【0023】
該フラッシュ蒸留からの上方のフラクション内の残留塩素(粗生成物)を、炭酸カルシウムと塩化カルシウムと水との系との接触によって取り除いた。最終的に該生成物を、酸化マグネシウム床内で乾燥した。回収された環状メチル水素シロキサンのフラクションを、GC−FIDによって分析し、99.7重量パーセントの環状メチル水素シロキサンの四量体、五量体、そして六量体種を含むことを見出した。本方法を、約20日間連続して行った。
【0024】
結果を、図1に示す。前記転位反応容器を出る混合物中の環状物の%は、一貫して4%以上であり、そして平均して5%以上であった。環状メチル水素シロキサンの収率は、一貫して、クロロシラン供給ベースの理論収率の80%以上であり、そして平均して理論収率の約100%であった。理論的平衡データの%は、「標準的な」固体の触媒、Amberlyst(商標)スルホン化ジビニルベンゼンスチレンコポリマーを使う実験室での実験から、シロキサンと環状物との平衡濃度の間の経験則による関係との比較である。
【0025】
実施例1の方法が前記転位反応容器内で固定層の固体触媒を使うことで実施された時、米国特許第5395956号明細書に記載されているように、溶媒にドデシルベンゼンスルホン酸触媒を加える代わりに、該転位反応容器を出る混合物中の前記環状物の%は変化するが、通常1%〜3%の範囲内であった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】は、均一系触媒下における平衡後の環状物の%と理論的平衡の%の時間変化とを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式RHSiClのシランで、Rがアリール基と1〜12の炭素原子を有するアルキル基とから選択されるシランを水と接触させ、環状有機水素シロキサンと直鎖有機水素シロキサンとを含む加水分解物を形成させること;ならびに
(B)不活性液体希釈剤の存在下で、該加水分解物を酸性転位触媒と接触させ、該加水分解物中の該直鎖有機水素シロキサンに対する該環状有機水素シロキサンの割合を上昇させること
を含み、該酸性転位触媒が強酸基を含む有機化合物であり、該不活性稀釈剤に溶解することを特徴とする、環状有機水素シロキサンの調製方法。
【請求項2】
前記酸性転位触媒がスルホン酸であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スルホン酸がアルキルアリールスルホン酸であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記スルホン酸がドデシルベンゼンスルホン酸であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が:
(C)直鎖メチル水素シロキサンと前記希釈剤とからの分離によって、環状メチル水素シロキサンを回収するステップ;ならびに
(D)ステップ(C)からステップ(B)まで、該直鎖メチル水素シロキサンと溶解された前記酸性転位触媒とを含む該希釈剤をリサイクルさせるステップ
を含む連続法であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記希釈剤中の前記酸性転位触媒の濃度が0.05〜5重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−513548(P2009−513548A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519871(P2006−519871)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007805
【国際公開番号】WO2005/005441
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(590001418)ダウ・コ−ニング・コ−ポレ−ション (166)
【氏名又は名称原語表記】DOW CORNING CORPORATION
【Fターム(参考)】