説明

環状脂肪族ジアミンの製造方法

【課題】ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂のモノマー原料および医農薬原料の中間体として有用な、環状脂肪族ジアミンの製造方法を提供する。
【解決手段】シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンを1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと反応させて環状脂肪族ジハライドを製造する工程、次いで環状脂肪族ジハライドを水素化して環状脂肪族ジハライドを製造する工程、さらに環状脂肪族ジハライドをガブリエル反応によってアミノ化する工程からなることを特徴とする下記一般式(4)で表される環状脂肪族ジアミンの製造方法。


(式中、nは0又は1を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環状脂肪族ジアミンの新規な製造方法に関する。本発明の環状脂肪族ジアミンはポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂のモノマー原料及び医農薬原料の中間体として有用なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、脂肪族ジアミンを原料としたポリアミド樹脂は高耐熱及び低吸水性を有し、鉛フリーハンダ対応の材料として注目されている。また、特に環状構造の脂肪族炭化水素を骨格に持つ環状脂肪族ジアミンを原料として得られる環状脂肪族ジイソシアネートは無黄変性、耐候性及び剛直性を有し、この環状脂肪族ジイソシアネートから製造されるポリウレタン樹脂は塗料や接着剤用途の材料として注目されている。
【0003】
このような環状脂肪族ジアミンは、例えば、シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンと無水マレイン酸を用いてDiels−Alder反応を行い、次いで、水素化、イミノ化、そして再度水素化を行う全6工程からなるルートで製造する方法(例えば、非特許文献1参照)、シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンとフマロニトリル又はマレオニトリルを反応させ、次いで水素化して製造する方法(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【0004】
しかし、非特許文献1のルートは全6工程と煩雑であり、特許文献1のルートではフマロニトリル又はマレオニトリルが高価で入手困難である等の問題があった。
【0005】
【非特許文献1】Tetrahedron:Asymmetry 2003年14巻1167頁
【特許文献1】特許3185807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は原料を容易に入手でき、煩雑な工程を経ることなく、ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂用モノマーの中間原料及び医農薬原料の中間体として有用な環状脂肪族ジアミンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、環状脂肪族ジアミンの新規な製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、下記一般式(4)で表される環状脂肪族ジアミンの新規な製造方法に関するものである。
【0008】
【化1】

(式中、nは0又は1を表す。)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の一般式(4)で表される環状脂肪族ジアミンの新規な製造方法は、シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンを下記一般式(1)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと反応させて下記一般式(2)で表される環状脂肪族ジハライドを製造する工程、次いで環状脂肪族ジハライドを水素化して下記一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライドを製造する工程、さらに環状脂肪族ジハライドをガブリエル反応によってアミノ化する工程からなる。
【0010】
【化2】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
【0011】
【化3】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、nは0又は1を表す。)
【0012】
【化4】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、nは0又は1を表す。)
本発明の製造方法で製造される上記一般式(4)で表される環状脂肪族ジアミンとしては、例えば、ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン−2,3−ジメタンアミン、1α,2,3,4α,4aα,5β,6,7,8β,8aα−デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ジメタンアミン等があげられる。
【0013】
本発明の製造方法に用いられる上記一般式(1)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンとしては、例えば、1,4−ジクロロ−2−ブテン、1,4−ジブロモ−2−ブテン、1,4−ジヨード−2−ブテン、1−クロロ−4−ブロモ−2−ブテン、1−クロロ−4−ヨード−2−ブテン、1−ブロモ−4−ヨード−2−ブテン等があげられる。これらのうち、簡便に効率よく製造できることから、上記一般式(1)におけるXが両方とも塩素原子である1,4−ジクロロ−2−ブテン、上記一般式(1)におけるXが両方とも臭素原子である1,4−ジブロモ−2−ブテン、上記一般式(1)におけるXが両方ともヨウ素原子である1,4−ジヨード−2−ブテンが好ましく、特に安定性が高いこと及び安価で入手が容易であること等から、上記一般式(1)におけるXが両方とも塩素原子である1,4−ジクロロ−2−ブテンがさらに好ましい。
【0014】
シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンを一般式(1)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと反応させる方法としては、例えば、Diels−Alder反応等があげられる。Diels−Alder反応の方法に特に制限はなく、原料である1,4−ジハロゲノ−2−ブテン、シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエン等及び必要であれば溶媒を一度に反応装置に仕込む回分式、原料である1,4−ジハロゲノ−2−ブテン、シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエン等及び必要であれば溶媒等を連続的に供給すると共に未反応原料及び反応液を連続的に抜出す連続式のいずれでも実施できる。また、反応状態は特に制限されず、液相又は気相状態、さらに気液混合状態で行うことができるが、好ましくは液相状態である。反応装置に仕込まれたシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンは、熱分解により、シクロペンタジエンとジシクロペンタジエンの混合状態となり、一般式(1)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと反応する。
【0015】
シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンと1,4−ジハロゲノ−2−ブテンの仕込み比率は、特に制限されないが、効率的に反応が行えることから1,4−ジハロゲノ−2−ブテン1モルに対してシクロペンタジエン換算で100〜0.01モル、好ましくは50〜0.05モル、より好ましくは10〜0.1モルである。
【0016】
Diels−Alder反応は溶媒中又は無溶媒で行うことができる。そのような溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、水;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカヒドロナフタレン等の脂環族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等があげられる。さらに、原料の一方である1,4−ジハロゲノ−2−ブテン、又はシクロペンタジエン若しくはジシクロペンタジエンを溶媒に用いることも可能である。これらの溶媒は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。
【0017】
Diels−Alder反応における温度は特に制限はなく、例えば、50〜300℃、好ましくは100〜250℃である。反応圧力は特に制限されないが、通常、絶対圧で0.1〜100kg/cmであり、好ましくは1〜50kg/cmである。また、反応時間は温度や原料の基質濃度に左右され、一概に決めることはできないが、通常、1分〜100時間である。反応中の雰囲気は特に制限はないが、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスによって置換して用いることができる。
【0018】
反応終了後、公知の分離法、例えば、蒸留等の方法により一般式(2)で表される環状脂肪族ジハライドを得ることができる。また、原料である1,4−ジハロゲノ−2−ブテン、シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンは公知の分離法、例えば、蒸留等の方法により回収し、原料として再利用することが可能である。
【0019】
上記のようにシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンと一般式(1)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンとの反応によって得られた一般式(2)で表される環状脂肪族ジハライドを水素化して一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライドを製造する。一般式(2)で表される環状脂肪族ジハライドを水素化して一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライドを製造する工程における水素化反応は、水素化反応が効率的に進行することが可能であれば、特に限定されるものではなく、例えば、水素化反応触媒の存在下で水素を用いて反応を行う。ここで水素化反応触媒とは周期表第6〜11族の遷移金属からなる触媒であって、具体的にはクロム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金等の金属触媒が使用できる。
【0020】
水素化反応触媒は水素化反応が進行する触媒であればどのような形態のものでもよく、例えば、固体触媒、および金属錯体触媒のいずれも使用することができる。固体触媒には(i)遷移金属化合物から調製した固体触媒、および(ii)担体に遷移金属化合物を担持した固体触媒があり、いずれの固体触媒も使用することができる。固体触媒、金属錯体触媒については、例えば、「接触水素化反応」(株式会社東京化学同人)第15頁〜第54頁に記載されている。
【0021】
前記(i)の遷移金属化合物から調製した固体触媒としては、高い触媒活性と安定性を保持するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ラネーニッケル触媒、漆原ニッケル触媒、ホウ化ニッケル触媒、ギ酸ニッケル触媒、ニッケル−リン触媒、硫化ニッケル触媒、ラネーコバルト触媒、ラネー銅触媒、ラネー鉄触媒、酸化モリブデン触媒、酸化タングステン触媒、三硫化モリブデン触媒、水酸化ルテニウム触媒、ルテニウム黒触媒、二酸化ルテニウム触媒、水酸化ロジウム触媒、ロジウム黒触媒、酸化ロジウム触媒、ロジウム−白金酸化物触媒、酸化パラジウム触媒、水酸化パラジウム触媒、パラジウム黒触媒、酸化白金触媒、白金黒触媒、オスミウム黒触媒、イリジウム黒触媒、レニウム黒触媒等があげられる。
【0022】
前記(ii)の担体に遷移金属化合物を担持した固体触媒としては、高い触媒活性と安定性を保持するものであれば、特に限定されるものではないが、例えばモリブデン、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金の金属、酸化物、水酸化物、硫化物等があげられる。担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、ジルコニア、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ−アルミナ等があげられる。
【0023】
前記の金属錯体触媒としては、高い触媒活性と安定性を保持するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)、ジカルボニルジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)、ジ−μ−クロロビス(シクロオクタジエン)ジロジウム(I)、trans−ヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)、ジ−μ−クロロジクロロビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジロジウム(III)、ヘキサデカカルボニルヘキサロジウム、trans−クロロカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム(I)、ヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ジクロロイリジウム(III)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ドデカカルボニルトリオスミウム(0)、cis−ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)白金(II)、ヘキサカルボニルクロム、ベンゼン−トリカルボニルクロム(0)、ペンタシアノコバルト(II)、オクタカルボニルジコバルト(0)、η−アリルトリス(トリメトキシホスフィン)コバルト等があげられる。
【0024】
これらの水素化反応触媒のうち、取り扱いの容易性や安全性の点から、固体触媒を使用することが好ましく、さらに好ましくは前記(i)の遷移金属化合物から調製した固体触媒のラネーニッケル触媒、ラネーコバルト触媒、ラネー銅触媒、ラネー鉄触媒等、または前記(ii)の担体に遷移金属化合物を担持した固体触媒の担持ニッケル活性炭触媒、担持ニッケルアルミナ触媒、担持ニッケルシリカ触媒、担持パラジウム活性炭触媒、担持パラジウムアルミナ触媒、担持パラジウムシリカ触媒、担持ルテニウム活性炭触媒、担持ルテニウムアルミナ触媒、担持ルテニウムシリカ触媒、担持ロジウム活性炭触媒、担持ロジウムアルミナ触媒、担持ロジウムシリカ触媒、担持レニウム活性炭触媒、担持レニウムアルミナ触媒、担持レニウムシリカ触媒、担持白金活性炭触媒、担持白金アルミナ触媒、担持白金シリカ触媒、担持イリジウム活性炭触媒、担持イリジウムアルミナ触媒、担持イリジウムシリカ触媒等が用いられる。
【0025】
水素化反応は溶媒中又は無溶媒で行うことができる。そのような溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、水;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル等があげられる。さらに、これらの溶媒は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。
【0026】
水素化反応における温度は特に制限はなく、例えば、−20〜300℃、好ましくは0〜200℃である。反応圧力は特に制限されないが、通常、絶対圧で0.01〜300kg/cmであり、好ましくは1〜150kg/cmである。また、反応時間は温度や原料の基質濃度に左右され、一概に決めることはできないが、通常、1分〜100時間である。水素化反応は、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスによって希釈して行うことができる。
【0027】
水素化反応の方法に特に制限はなく、原料である上記一般式(2)で表される環状脂肪族ジハライド、水素化触媒及び必要であれば溶媒を一度に反応装置に仕込む回分式、一般式(2)で表される環状脂肪族ジハライド及び必要であれば溶媒等を連続的に供給すると共に未反応原料及び反応液を連続的に抜出す固定床または懸濁床の連続式のいずれでも実施できる。また、反応状態は特に制限されず、液相又は気相状態、さらに気液混合状態で行うことができる。
【0028】
反応終了後、公知の分離法、例えば、蒸留等の方法により一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライドを得ることができる。また、原料である一般式(2)で表される環状脂肪族ジハライドは公知の分離法、例えば、蒸留等の方法により回収し、原料として再利用することが可能である。
【0029】
一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライドをアミノ化する工程はガブリエル反応と呼ばれる反応で行うものであり、例えば、「第5版 実験化学講座14 有機化合物の合成II アルコール・アミン」(日本化学会編・丸善株式会社)第360頁に記載されている。この方法では、まず環状脂肪族ジハライドはフタルイミドアルカリ塩によってフタルイミド化する。その後、酸、塩基又はヒドラジン類によって分解することでアミノ化されて、一般式(4)で表される環状脂肪族ジアミンを製造することができる。
【0030】
ガブリエル反応においてフタルイミド化に用いられるフタルイミドアルカリ塩としては、フタルイミドナトリウム、フタルイミドカリウム、フタルイミドセシウム等があげられる。
【0031】
一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライドとフタルイミドアルカリ塩の仕込み比率は、特に制限されないが、効率的にフタルイミド化が行えることから一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライド1モルに対してフタルイミドアルカリ塩の量は2〜100モル、好ましくは2〜20モル、より好ましくは2〜10モルである。
【0032】
フタルイミド化は溶媒中又は無溶媒で行うことができる。そのような溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、水;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカヒドロナフタレン等の脂環族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等があげられる。さらに、原料の一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライドを溶媒に用いることも可能である。これらの溶媒は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。これらの溶媒のうち、反応が進行しやすい点で、好ましくはN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類であり、より好ましくはジメチルホルムアミドである。
【0033】
フタルイミド化における反応温度は特に制限はなく、例えば、−50〜300℃、好ましくは0〜200℃である。反応圧力は特に制限されないが、通常、絶対圧で0.01〜300kg/cmであり、好ましくは1〜150kg/cmである。また、反応時間は温度や原料の基質濃度に左右され、一概に決めることはできないが、通常、1分〜100時間である。反応中の雰囲気は、特に限定されないが、空気を避けて行うことが望ましく、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気で反応が行うことが好ましい。
【0034】
フタルイミド化の方法に特に制限はなく、原料である一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライド、フタルイミドアルカリ塩等及び必要であれば溶媒を一度に反応装置に仕込む回分式、原料である一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライド、フタルイミドアルカリ塩及び必要であれば溶媒等を連続的に供給すると共に未反応原料、及び反応液を連続的に抜出す連続式のいずれでも実施できる。また、反応状態は特に制限されないが、液相または固液混合状態で行うことができる。
【0035】
反応終了後、公知の分離法で分離でき、例えば、蒸留又は溶媒から析出させ廬別する方法等により生成物を分離し、酸、塩基又はヒドラジン類による分解を行う。
【0036】
酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸等のカルボン酸、フェノール等があげられる。塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム等の無機塩基があげられる。ヒドラジン類としては、例えば、ヒドラジン、メチルヒドラジン、エチルヒドラジン、プロピルヒドラジン、フェニルヒドラジン、o−トリルヒドラジン、m−トリルヒドラジン、p−トリルヒドラジン等があげられる。これらのうち、反応が容易で、収率よく一般式(4)で表される環状脂肪族ジアミンが得られることから、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等の無機塩基またはヒドラジン類が好ましく、より好ましくはヒドラジン類である。
【0037】
フタルイミド化生成物と酸、塩基又はヒドラジン類の仕込み比率は、特に制限されないが、効率的に分解が行えることから一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライド1モルに対して酸、塩基又はヒドラジン類の量は2〜100モル、好ましくは2〜50モル、より好ましくは2〜20モルである。
【0038】
酸、塩基又はヒドラジン類による分解は溶媒中又は無溶媒で行うことができる。そのような溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、水;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカヒドロナフタレン等の脂環族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類等があげられる。これらの溶媒は単独で使用し得るのみならず、二種以上を混合して用いることも可能である。これらの溶媒のうち、反応が進行しやすい点で、好ましくは水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類であり、より好ましくはメタノール、エタノール、ジメチルホルムアミドである。
【0039】
酸、塩基又はヒドラジン類による分解温度は特に制限はなく、例えば、−50〜200℃、好ましくは0〜150℃である。反応圧力は特に制限されないが、通常、絶対圧で0.01〜300kg/cmであり、好ましくは1〜100kg/cmである。また、反応時間は温度や原料の基質濃度に左右され、一概に決めることはできないが、通常、1分〜100時間である。反応中の雰囲気は、特に限定されないが、空気を避けて行うことが望ましく、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気で反応が行うことが好ましい。
【0040】
酸、塩基又はヒドラジン類による分解の方法に特に制限はなく、フタルイミド化生成物及び酸、塩基又はヒドラジン類及び必要であれば溶媒を一度に反応装置に仕込む回分式、フタルイミド化生成物及び酸、塩基又はヒドラジン類並びに必要であれば溶媒等を連続的に供給すると共に未反応原料、及び反応液を連続的に抜出す連続式のいずれでも実施できる。また、反応状態は特に制限されないが、液相または固液混合状態で行うことができる。
【0041】
このようにして分解終了後、公知の分離法、例えば、蒸留等の方法により生成物を分離し、一般式(4)で表される環状脂肪族ジアミンを得ることができる。
【0042】
本発明の環状脂肪族ジアミンは、ポリアミド樹脂やポリウレタン樹脂のモノマー原料および医農薬原料の中間体として、好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明は、ポリアミドやポリウレタン樹脂のモノマー原料および医農薬原料の中間体として有用な環状脂肪族ジアミンの効率的な製造方法を提供するものであり、工業的にも非常に有用である。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
以下に実施例に用いた測定方法を示す。
【0046】
<ガスクロマトグラフ分析>
反応液に内標としてN−メチルピロリドンを加え、ジーエルサイエンス製TC−1カラム(商品名)が備わったガスクロマトグラフ(島津製作所製GC−1700)に反応液0.4μlを注入し、分析を行った。
【0047】
<GC−MS測定>
ガスクロマトグラフ質量分析計(GC部;ヒューレット・パッカード製、商品名HP6890、MS部;日本電子製、商品名JMS−700)を用い、測定を行った。
【0048】
実施例1
(環状脂肪族ジハライド製造工程)
ジシクロペンタジエン212g(1.6mol)と1,4−ジクロロ−2−ブテン800g(6.4mol)を2リットルのオートクレーブに仕込んだ。内部を窒素置換した後、攪拌しながら170℃まで昇温し、そのまま5時間加熱攪拌した。反応終了後、25℃まで温度を下げ、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液は褐色溶液であった。得られた褐色の溶液を0.4kPaの減圧下で蒸留し、80〜93℃の範囲の留出分を集めることにより、純度94重量%のビシクロ−(2,2,1)−ヘプト−5−エン−2,3−ビス(クロロメチル)を364.7g(ジシクロペンタジエン基準の収率:60%)の無色溶液として得た。
(水素化工程)
300mlのオートクレーブに上記で得られたビシクロ−(2,2,1)−ヘプト−5−エン−2,3−ビス(クロロメチル)150gおよびエタノール50gとエヌ・イー ケムキャット社製5wt%Pd/C2.0gを入れて、窒素置換した。その後、攪拌しながらオートクレーブ内の温度を50℃に上げ、水素を供給し1.0MPaに保ち2時間後、反応液を取り出した。得られた反応液をろ過後、0.4kPaの減圧下で蒸留し88〜90℃の範囲の留出分を集めガスクロマトグラフで分析した結果、ビシクロ−(2,2,1)−ヘプト−5−エン−2,3−ビス(クロロメチル)は完全に転化し、ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン−2,3−ビス(クロロメチル)の選択率は91%であった。
(ガブリエル反応工程)
300mlのガラス製セパラブルフラスコにジメチルホルムアミド90gとフタルイミドカリウム30g(0.16mol)を入れ、さらに上記で得られたビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン−2,3−ビス(クロロメチル)を10g(0.047mol)加えて、攪拌しながらセパラブルフラスコ内の温度を140℃に上げて8時間加熱攪拌した。反応終了後室温まで冷却し、水100gを添加し30分間攪拌した。攪拌後メンブレンフィルターを用いて、吸引ろ過し固形分をろ別した。ろ別した固形分をセパラブルフラスコに移し、エタノール150gを添加後80℃で加熱攪拌し、エタノール還流状態でヒドラジン16g(0.32mol)を添加した。80℃で2時間加熱攪拌した後、室温まで冷却しメンブレンフィルターで吸引ろ過した。このろ液をガスクロマトグラフで分析した結果、ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン−2,3−ジメタンアミンの収率は49%であった。
【0049】
実施例2
(水素化工程)
水素化反応触媒をエヌ・イー ケムキャット社製5wt%Pt/Cに換えた以外は実施例1と同様に水素化反応を行った。ガスクロマトグラフで分析した結果、ビシクロ−(2,2,1)−ヘプト−5−エン−2,3−ビス(クロロメチル)は完全に転化し、ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン−2,3−ビス(クロロメチル)の選択率は90%であった。
(ガブリエル反応工程)
300mlのガラス製セパラブルフラスコにジメチルホルムアミド90gとフタルイミドカリウム30g(0.16mol)を入れ、さらに上記で得られたビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン−2,3−ビス(クロロメチル)を10g(0.047mol)加えて、攪拌しながらセパラブルフラスコ内の温度を140℃に上げて8時間加熱攪拌した。反応終了後室温まで冷却し、水100gを添加し30分間攪拌した。攪拌後メンブレンフィルターを用いて、吸引ろ過し固形分をろ別した。ろ別した固形分をセパラブルフラスコに移し、エタノール150gを添加後80℃で加熱攪拌し、エタノール還流状態でヒドラジン16g(0.32mol)を添加した。80℃で2時間加熱攪拌した後、室温まで冷却しメンブレンフィルターで吸引ろ過した。このろ液をガスクロマトグラフで分析した結果、ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン−2,3−ジメタンアミンの収率は49%であった。
【0050】
実施例3
(ガブリエル反応工程)
300mlのガラス製セパラブルフラスコにジメチルホルムアミド90gとフタルイミドカリウム30g(0.16mol)を入れ、さらに実施例1で得られたビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン−2,3−ビス(クロロメチル)を10g(0.047mol)加えて、攪拌しながらセパラブルフラスコ内の温度を140℃に上げて8時間加熱攪拌した。反応終了後室温まで冷却し、水100gを添加し30分間攪拌した。攪拌後メンブレンフィルターを用いて、吸引ろ過し固形分をろ別した。ろ別した固形分をセパラブルフラスコに移し、20wt%の水酸化ナトリウム水溶液150gを添加した。2時間攪拌した後、メンブレンフィルターで吸引ろ過した。このろ液に塩化メチレン100mlを加えた。塩化メチレン相を分離して、ガスクロマトグラフで分析した結果、ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン−2,3−ジメタンアミンの収率は52%であった。
【0051】
実施例4
(環状脂肪族ジハライド製造工程)
ジシクロペンタジエン212g(1.6mol)と1,4−ジクロロ−2−ブテン800g(6.4mol)を2リットルのオートクレーブに仕込んだ。内部を窒素置換した後、攪拌しながら170℃まで昇温し、そのまま5時間加熱攪拌した。反応終了後、25℃まで温度を下げ、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液は褐色溶液であった。得られた褐色の溶液を0.4kPaの減圧下で蒸留し、80〜93℃の範囲の留出分を集めることにより、純度94重量%のビシクロ−(2,2,1)−ヘプト−5−エン−2,3−ビス(クロロメチル)を364.7g(ジシクロペンタジエン基準の収率:60%)の無色溶液として得た。
【0052】
さらにジシクロペンタジエン53g(0.4mol)と上記ビシクロ−(2,2,1)−ヘプト−5−エン−2,3−ビス(クロロメチル)を308g(1.6mol)を1リットルのオートクレーブを用いて上記と同様の条件で反応を行った。反応終了後、25℃まで温度を下げ、オートクレーブから反応液を取り出した。反応液は褐色溶液であった。得られた褐色の溶液を0.04kPaの減圧下で蒸留し、90〜105℃の範囲の留出分を集めることにより、純度90重量%の1α,2,3,4α,4aα,5β,8β,8aα−オクタヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ビス(クロロメチル)を105g(ジシクロペンタジエン基準の収率:51%)の無色溶液として得た。
(水素化工程)
300mlのオートクレーブに上記で得られた1α,2,3,4α,4aα,5β,8β,8aα−オクタヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ビス(クロロメチル)50gおよびエタノール50gとエヌ・イー ケムキャット社製5wt%Pd/C2.0gを入れて、窒素置換した。その後、攪拌しながらオートクレーブ内の温度を50℃に上げ、水素を供給し1.0MPaに保ち2時間後、反応液を取り出した。得られた反応液をろ過後、0.04kPaの減圧下で蒸留し88〜105℃の範囲の留出分を集めガスクロマトグラフで分析した結果、1α,2,3,4α,4aα,5β,8β,8aα−オクタヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ビス(クロロメチル)は完全に転化し、1α,2,3,4α,4aα,5β,6,7,8β,8aα−デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ビス(クロロメチル)の選択率は90%であった。
(ガブリエル反応工程)
300mlのガラス製セパラブルフラスコにジメチルホルムアミド90gとフタルイミドカリウム30g(0.16mol)を入れ、さらに上記で得られた1α,2,3,4α,4aα,5β,6,7,8β,8aα−デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ビス(クロロメチル)を13g(0.050mol)加えて、攪拌しながらセパラブルフラスコ内の温度を140℃に上げて8時間加熱攪拌した。反応終了後室温まで冷却し、水100gを添加し30分間攪拌した。攪拌後メンブレンフィルターを用いて、吸引ろ過し固形分をろ別した。ろ別した固形分をセパラブルフラスコに移し、エタノール150gを添加後80℃で加熱攪拌し、エタノール還流状態でヒドラジン16g(0.32mol)を添加した。80℃で2時間加熱攪拌した後、室温まで冷却しメンブレンフィルターで吸引ろ過した。このろ液をガスクロマトグラフで分析した結果、1α,2,3,4α,4aα,5β,6,7,8β,8aα−デカヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ジメタンアミンの収率は45%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンを下記一般式(1)で表される1,4−ジハロゲノ−2−ブテンと反応させて下記一般式(2)で表される環状脂肪族ジハライドを製造する工程、次いで環状脂肪族ジハライドを水素化して下記一般式(3)で表される環状脂肪族ジハライドを製造する工程、さらに環状脂肪族ジハライドをガブリエル反応によってアミノ化する工程からなることを特徴とする下記一般式(4)で表される環状脂肪族ジアミンの製造方法。
【化1】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
【化2】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、nは0又は1を表す。)
【化3】

(式中、Xはそれぞれ独立して塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表し、nは0又は1を表す。)
【化4】

(式中、nは0又は1を表す。)
【請求項2】
一般式(1)におけるXが両方とも塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であることを特徴とする請求項1に記載の環状脂肪族ジアミンの製造方法。
【請求項3】
ガブリエル反応によってアミノ化する工程がヒドラジン類を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の環状脂肪族ジアミンの製造方法。
【請求項4】
一般式(2)で表される環状脂肪族ジハライドを水素化する工程が水素化反応触媒の存在下に水素を用いて反応させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の環状状脂肪族ジアミンの製造方法。
【請求項5】
水素化反応触媒が固体触媒であることを特徴とする請求項4に記載の環状脂肪族ジアミンの製造方法。

【公開番号】特開2009−209114(P2009−209114A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56202(P2008−56202)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】