説明

環状過酸化物誘導体

【課題】細胞毒性が低く、高い抗マラリア活性を有し、かつ、短い工程で安全に合成することのできる、新規の環状過酸化物誘導体を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される環状過酸化物誘導体。
【化1】


[式中、X、X、R、Rは、水素又は任意の置換基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラリア原虫類による感染症の予防及び治療に有用な環状過酸化物誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリアは、プラスモジウム(Plasmodium)属に属する原虫類の感染によって引き起こされる伝染性疾患であり、ハマダラ蚊を媒介として感染し、断続的な熱発作や貧血、脾腫等の症状を示す。マラリアは、近年、環境の変化に伴って猛威をふるい始めており、患者数3〜5億人、年間死亡者数150〜270万人にも上る世界的な感染症である。
【0003】
ヒトに感染するマラリア原虫には、アフリカ、アジア、ラテンアメリアの熱帯地域全体に分布する熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)、世界各地の熱帯と温帯の一部に分布する三日熱マラリア原虫(P.vivax)、世界各地に分布する四日熱マラリア原虫(P.malariae)、主として熱帯西アフリカに分布する卵形マラリア原虫(P.ovale)等の原虫が挙げられるが、この中でも特に熱帯熱マラリアが最も重篤な症状を呈し、発症後1〜2週間で脳症、腎症、溶血性貧血、肺水腫、心臓障害、重症腸炎などを伴って容易に重症マラリアに進展し、短期間で多臓器不全に陥り人を死に至らせる。
【0004】
現在使用されている薬剤の代表的なものはクロロキン、プリマキン、アルテミシニン、メフロキン、ピリメタミンなどがあるが、これらの薬剤は毒性の強いものが多いこと、さらに多くの薬剤に対する耐性原虫の出現により、この薬剤耐性マラリアの拡散が化学療法の問題点となっている。薬剤耐性マラリアに唯一有効な薬剤としてキニーネがあるが、腎不全を引き起こす可能性が極めて高く、現在の医療水準から見てもリスクの高い治療剤である。このような状況からも、抗マラリア活性が高く且つ低毒性で安全性の高い非アルカロイド系新薬の開発が期待されている。
【0005】
抗マラリア活性を有する非アルカロイド系の化合物としては、天然有機化合物のアルテミシニンやN−89(特許文献1)、N−251などの環状過酸化物誘導体が知られている。アルテミシニンは耐性マラリア治療薬として現在広く利用されているが、単独の使用ではマラリアが完治しない。一方、最近開発されたN−89、N−251は、マラリアの完治が可能であると報告されているが、まだ治療薬にはなっておらず、細胞毒性もやや高い。また、化学合成上においても、アルテミシニンは多段階の過程を要するという難点があり、N−89、N−251は製造工程中で過酸化水素を使用するため、中間体や過酸化水素による事故の危険性があるといった問題があった。
【特許文献1】特開2000−229965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、細胞毒性が低く、高い抗マラリア活性を有し、かつ、短い工程で安全に合成することのできる、新規の環状過酸化物誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、この課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の一般式(1)で表される環状過酸化物誘導体が極めて高い抗マラリア活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の環状過酸化物誘導体は、一般式(1)で表される。
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、X、X、R、Rは、水素又は任意の置換基を表す。]
また、一般式(1)中、X、Xが水素、アルキル基又はアルコキシ基である。
【0011】
また、一般式(1)中、Rがアルキル基、Rが水素又はアルキル基である。
【0012】
また、一般式(1)中、X、Xが水素、メチル基又はメトキシ基、Rがメチル基又はエチル基、Rが水素又はメチル基である請求項1〜3のいずれか1項記載の環状過酸化物誘導体。
【0013】
本発明の抗マラリア剤は、本発明の環状過酸化物誘導体を含有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細胞毒性が低く、高い抗マラリア活性を有する新規の環状過酸化物誘導体が提供される。したがって、本発明の環状過酸化物誘導体は、マラリア原虫類による感染症の予防及び治療薬として有用である。
【0015】
また、本発明の環状過酸化物誘導体は、反応工程中の過酸化物構造(O−O構造)の導入過程で酸素や空気を使用する光化学反応を利用して、短い工程で安全に合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の環状過酸化物誘導体について詳細に説明する。
【0017】
本発明の環状過酸化物誘導体は、一般式(1)で表される。
【0018】
【化2】

【0019】
[式中、X、X、R、Rは、水素又は任意の置換基を表す。]
上記一般式(1)において、X、Xとしては、例えば、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル基等の直鎖状または分枝状のアルキル基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシとして例示さる直鎖又は分枝状のアルコキシ基等が挙げられる。好ましくはメチル基、メトキシ基である。
【0020】
また、Rとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、シクロプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル基として例示される直鎖状、分枝状、又は環状のアルキル基等が挙げられる。好ましくはメチル基、エチル基である。
【0021】
としては、例えば水素、メチル、エチル、プロピル、シクロプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル基として例示される直鎖状、分枝状、又は環状のアルキル基等が挙げられる。好ましくは水素、メチル基である。
【0022】
上記一般式(1)で表される本発明の環状過酸化物誘導体は下記の化学反応式に示す方法により製造することができる。以下、下記の化学反応式に示す反応工程(i)〜(iii)に分けて説明する。
【0023】
【化3】

【0024】
<反応工程(i)>
本反応工程は、一般式(2)で表される公知化合物のジケトンを適当な溶媒中でRに対応するアルキルホスホニウムイリドと反応させることにより、一般式(3)で表されるモノケトン化合物を得る。本工程で用いられる溶媒としては、テトラヒドロフラン、エーテル等が挙げられ、好ましくは、テトラヒドロフランが用いられる。反応に際しては、化合物(2)に対して、2.1倍モル量のアルキルホスホニウム塩と2.0倍モル量のtert−ブトキカリウムからアルキルホスホニウムイリドを調整し、室温で3時間、化合物(2)と反応させるのが好ましい。得られた化合物(3)は、通常の分離手段、例えばカラムクロマトグラフィーにより、反応混合物からE,Z−混合物として容易に単離精製することができる。
【0025】
<反応工程(ii)>
上記反応工程(i)で得られた化合物(3)を溶媒中でTebbe試薬(R=Hの場合)或いは、Rに対応するアルキルホスホニウムイリドと反応させることにより、一般式(4)で表されるジエン化合物を得る。本工程で用いられる溶媒としては、テドロフラン、エーテル等が挙げられ、好ましくは、テトラヒドロフランが用いられる。反応に際しては、化合物(3)に対して、Tebbe試薬(R=Hの場合)を用いる場合は、化合物(3)に対して、2.5倍モル量のTebbe試薬を0℃で4時間、反応させるのが好ましい。Rに対応するアルキルホスホニウムイリドの場合は、2.1倍モル量のアルキルホスホニウム塩と2倍モル量のtert−ブトキカリウムからアルキルホスホニウムイリドを調整し、室温で4時間、化合物(3)と反応させるのが好ましい。得られた化合物(4)は、通常の分離手段、例えばカラムクロマトグラフィーにより、反応混合物からE,Z−混合物として容易に単離精製することができる。
【0026】
<反応工程(iii)>
上記反応工程(ii)で得られた化合物(4)を酸素存在下、適当な溶媒中で光増感剤及び補助増感剤とともに光反応することにより、一般式(1)で表される環状過酸化物を得る。本工程で使用される溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、アセトニトリル等が挙げられ、好ましくは、アセトニトリルが用いられる。光増感剤としては、9,10−ジシアノアントラセン、2,4,6−トリアリールピリリウムテトラフルオロボレート、2,4,6−トリアリールピリリウムパークロレート等を用いることができ、好ましくは、2,4,6−トリフェニルピリリウムテトラフルオロボレートが用いられる。補助増感剤としては、そのラジカルカチオンが安定で長寿命な、ナフタレン、ジュレン、ビフェニル等の芳香族炭化水素等を用いることができ、好ましくは、ビフェニルが用いられる。照射光は、光増感剤のみが吸収する長波長に対応する390nm以上の可視光を使用するのが好ましい。反応に際しては、化合物(4)に対して0.2倍モル量の光増感剤(2,4,6−トリフェニルピリリウムテトラフルオロボレート)と3倍モル量のビフェニルを使用するのが好ましい。また、反応温度は20〜25℃、反応時間は5〜30分が好ましい。得られた化合物(4)は、通常の分離手段、例えば、カラムクロマトグラフィー等により、反応混合物から容易に単離精製できる。
【0027】
以上のように、本発明の環状過酸化物誘導体は、反応工程中の過酸化物構造(O−O構造)の導入過程で酸素や空気を使用する光化学反応を利用して、短い工程で安全に合成することができる。
【0028】
本発明の抗マラリア剤は、上記の本発明の環状過酸化物誘導体を含有する。本発明の環状過酸化物誘導体は、細胞毒性が低く、高い抗マラリア活性を有する。したがって、本発明の環状過酸化物誘導体は、マラリア原虫類による感染症の予防及び治療薬として有用である。
【0029】
本発明の抗マラリア剤をマラリア原虫類による感染症の予防や治療に使用する場合は、投与経路として、経口、皮下注射、静脈注射、局所投与等のいずれでも可能である。また、製剤としては、通常、製薬的に許容される担体や賦形剤、その他添加剤を用いて製造した散剤、錠剤、細粒剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤等の経口剤、点眼剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0030】
以下の実施例において、本発明の環状過酸化物誘導体について、より具体例に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0031】
<反応工程(i)の詳細例:(p−メトキシフェニル)(2−(1−(p−メトキシフェニル)−1−プロペニル)フェニルメタノン(化合物3a)の合成>
エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド4.11g(10.5mmol)とカリウム−tert−ブトキシド1.32g(10.0mmol)を乾燥テトラヒドロフラン30mLに溶かし、窒素雰囲気下、室温で30分間反応させてホスホニウムイリドを調整した。
【0032】
この溶液に1,2−ビス(p−メトキシベンゾイル)ベンゼン(化合物2a:X=X=OMe)1.73g(5.0mmol)のテトラヒドロフラン溶液(30mL)を加え、室温で3時間反応させた。反応終了後、水100mLを加え、100mLのエーテルで3回抽出した。エーテル層を重曹水、次いで水、飽和食塩水で洗った後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ジクロロメタン−ヘキサン、2:1)により、黄色油状物として標記化合物3aを1.679g(収率94%、E:Z=52:48)得た。
【0033】
【化4】

【0034】
【化5】

【0035】
<反応工程(ii)の詳細例:1−(1−p−メトキシフェニル)1−プロペニル−2−(1−(p−メトキシフェニル)ビニル)ベンゼン(化合物4a)の合成>
上記の反応工程(i)の詳細例で合成した化合物3aの358mg(1.0mmol)を10mLの乾燥テトラヒドロフランに溶かし、0℃でTebbe試薬5mL(2.5mmol)を加え、4時間反応させた。反応終了後、1M水酸化ナトリウム水溶液(1mL)を徐々に加えて、過剰のTebbe試薬を分解し、水30mLを加え、50mLのジクロロメタンで3回抽出した。有機層を重曹水、次いで水、飽和食塩水で洗った後、無水硫酸ナトウムで乾燥した。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:ジクロロメタン−ヘキサン、1:1)により、無色油状物として標記化合物4aを323mg(収率91%、E:Z=51:49)得た。
【0036】
【化6】

【0037】
<反応工程(iii)の詳細例(1):3,6−ジ(p−メトキシフェニル)−3,6−(1’,2’−ベンゾ)−4−メチル−1,2−ジオキサン(化合物5α、化合物5β)の合成>
パイレックス(登録商標)製試験管(長さ20cm、直径30mm)に上記の反応工程(ii)の詳細例で合成した化合物4aの71.3mg(0.2mmol、E:Z=51:49)とトリフェニルピリリウムテトラフルオロボレート7.9mg(0.02mmol)、ビフェニル92.5mg(0.60mmol)を加え、乾燥アセトニトリル(10mL)で溶かした。この溶液を超音波洗浄器で5分間脱気した後、10分間酸素(或いは空気でも可能)を通気した。この試験管を光反応装置(2kW Xeランプ)に固定し、溶液に酸素を通気、攪拌しながら5分間光照射(波長>390nm)を行った。反応終了後、溶媒を留去し、得られた粗生成物をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン−ヘキサン、5:2)或いはカラムクロマトグラフィーにより標記化合物5α(収率8%)、化合物5β(収率77%)をそれぞれ単離した。
【0038】
【化7】

【0039】
【化8】

【0040】
以下にそれぞれの物性値を示す。
【0041】
[化合物5α]
融点:220-221.5℃(エタノール)
1H NMR(CDCl3)δ:1.21(d, 3H, J = 6.5 Hz), 2.30 (dd, 1H, J = 12.0 Hz, 3.1 Hz), 2.42-2.57 (m, 1H), 2.66 (dd, 1H, J = 12.0 Hz, 11.0 Hz), 3.87 (s, 6H), 6.68-6.80 (m, 2H), 6.93-7.06 (m, 4H), 7.15-7.23 (m, 2H), 7.30-7.52 (m, 4H).
13C NMR (CDCl3)δ:17.71(q, 1C), 32.20(d, 1C), 37.67(t, 1C), 55.26(q, 1C), 55.32(q, 1C), 80.84(s, 1C), 82.91(s, 1C), 113.66(d, 2C), 113.76(d, 2C), 122.74(d, 1C), 123.12(d, 1C), 127.51(d, 1C), 127.60(d, 3C), 128.57(d, 2C), 128.66(s, 1C), 128.92(s, 1C), 140.61(s, 1C), 141.74(s, 1C), 158.79(s, 1C), 159.74(s, 1C).
[化合物5β]
融点:215-217℃(エタノール)
1H NMR(CDCl3)δ:0.75 (d, 3H, J = 6.8 Hz), 1.72 (dd, 1H, J = 12.8 Hz, 2.9 Hz), 3.02 (dd, 1H, J = 12.8 Hz, 9.2 Hz), 3.20-3.41 (m, 1H), 3.86 (s, 6H), 6.73-6.82 (m, 1H), 6.95-7.08 (m, 4H), 7.12-7.37 (m, 3H), 7.42-7.53 (m, 2H), 7.58-7.70 (m, 2H).
13C NMR (CDCl3)δ:21.03(q, 1C), 31.12(d, 1C), 37.60(t, 1C), 55.31(q, 2C), 80.44(s, 1C), 85.03(s, 1C), 113.64(d, 2C), 113.70(d, 2C), 123.20(d, 1C), 125.34(d, 1C), 125.61(s, 1C), 127.20(d, 1C), 127.58(d, 1C), 128.54(d, 2C), 129.12(s, 1C), 131.73(d, 2C), 137.59(s, 1C), 141.16(s, 1C), 159.63(s, 1C), 160.03(s, 1C).
【実施例2】
【0042】
<反応工程(iii)の詳細例(2):3,6−ジ(p−メチルフェニル)−3,6−(1’,2’−ベンゾ)−4−エチル−1,2−ジオキサン(化合物6α、化合物6β)の合成>
パイレックス(登録商標)製試験管(長さ20cm、直径30mm)に実施例1の反応工程(ii)の詳細例に従って合成した1−(1−p−メチルフェニル)1−ブテニル−2−(1−(p−メチルフェニル)ビニル)ベンゼン(化合物4b)の67.7mg(0.2mmol、E:Z=27:73)とトリフェニルピリリウムテトラフルオロボレート7.9mg(0.02mmol)、ビフェニル92.5mg(0.60mmol)を加え、乾燥アセトニトリル(10mL)で溶かした。この溶液を超音波洗浄器で5分間脱気した後、10分間酸素(或いは空気でも可能)を通気した。この試験管を光反応装置(2kW Xeランプ)に固定し、溶液に酸素を通気、攪拌しながら7分間光照射(波長>390nm)を行った。反応終了後、溶媒を留去し、得られた粗生成物をシリカゲル薄層クロマトグラフィー(展開溶媒:ジクロロメタン−ヘキサン、1:1)或いはカラムクロマトグラフィーにより標記化合物6α(収率6%)、化合物6β(収率87%)をそれぞれ単離した。
【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
以下にそれぞれの物性値を示す。
【0047】
[化合物6α]
融点:211-212℃(エタノール)
1H NMR(CDCl3)δ:0.96 (t, 3H, J = 7.5 Hz), 1.50-1.73 (m, 2H), 2.13-2.30 (m, 1H), 2.38 (dd, 1H, J = 12.8 Hz, 3.7 Hz), 2.42 (s, 6H), 2.59 (dd, 1H, J = 12.8 Hz, 10.9 Hz), 6.65-6.77 (m, 2H), 7.12-7.22 (m, 2H), 7.24-7.38 (m, 6H), 7.41-7.51 (m, 2H).
13C NMR (CDCl3)δ:12.09 (q, 1C), 21.24 (q, 1C), 21.28 (q, 1C), 24.87 (t, 1C), 35.27 (t, 1C), 39.47 (d, 1C), 81.04 (s, 1C) ,83.39 (s, 1C), 122.81 (d, 1C), 123.15 (d, 1C), 126.10 (d, 2C), 126.92 (d, 2C), 127.62 (d, 2C), 128.97 (d, 1C), 129.08 (d, 3C), 133.86 (s, 1C), 134.12 (s, 1C), 137.13 (s, 1C), 138.35 (s, 1C), 140.60 (s, 1C),141.58 (s, 1C).
[化合物6β]
融点:169-171℃(エタノール)
1H NMR(CDCl3)δ:0.02-0.22 (m, 1H), 0.96 (t, 3H, J = 7.3 Hz), 1.58-1.73 (m, 1H), 1.88 (dd, 1H, J = 12.4 Hz, 1.9 Hz), 2.42 (s, 6H), 2.94 (dd, 1H, J = 12.4 Hz, 9.2 Hz), 2.94-3.07 (m, 1H), 6.73-6.78 (m, 1H), 7.08-7.14 (m, 1H), 7.17-7.33 (m, 6H), 7.42-7.48 (m, 2H), 7.50-7.58 (m, 2H).
13C NMR (CDCl3)δ:11.05 (q, 1C), 21.32 (q, 1C), 21.34 (q, 1C), 27.96 (t, 1C), 35.23 (t, 1C),38.78 (d, 1C), 80.49 (s, 1C), 84.74 (s,1C), 123.14 (d, 4C), 124.88 (d, 1C),126.95 (d, 2C), 127.11 (d, 1C),127.41 (d, 1C), 128.93 (d, 2C), 128.95 (d, 2C), 130.20 (d, 2C),130.64 (s, 1C), 134.17 (s, 1C), 137.94(s, 1C), 138.16 (s, 1C),139.01 (s, 1C), 141.06 (s, 1C).
【実施例3】
【0048】
<熱帯熱マラリア原虫の培養検定試験>
本実験では、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum FCR-3 strain(ATCC 30932))を用いた。実験に用いた培地は、濾過滅菌したRPMI1640培地で、pHを7.4に合わせ、ヒト血清を10%となるように添加した。マラリア原虫の培養はO濃度5%、CO濃度5%、N濃度90%、温度は36.5℃で行った。ヘマトクリット値(赤血球浮遊液中に占める赤血球の体積割合)は5%にして用いた。培養開始時の熱帯熱マラリア原虫の初期感染率は0.1%とした。24穴培養プレートを用いて培養し、培地は毎日交換し、感染率4%で植え継ぎを行った。感染率は薄層塗沫標本を作成し、ギムザ染色あるいはDiff−Quick染色を行った後、顕微鏡(油浸、1000倍)下で計測し、マラリア原虫感染率を下記式により算出した。
【0049】
【数1】

【0050】
<マラリア原虫増殖阻害スクリーニング試験>
培養したマラリア原虫感染赤血球を遠心で集め、血清を含む培地で洗浄を行った後、非感染赤血球を加え、初期感染率を0.3%とした。この時のヘマトクリット値は3%である。実験に用いるサンプルは滅菌水、ジメチルホルムアミド(DMF)或いはジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、所定のサンプルとした。24穴培養プレートにサンプルを5〜10μLずつ加えた。サンプルはデュープリケート或いはトリプリケートにとった。コントロールは滅菌水、DMF或いはDMSOを10μL/ウエル加えた。次ぎに、あらかじめ用意しておいた熱帯熱マラリア原虫培養液を990〜995μLずつ加え、静かにピペッテイングを行い培地に一様に懸濁させた。培養プレートはCO−O−N(5%、5%、90%)インキュベーター中で72時間培養した後、それぞれのウエルについて薄層塗沫標本を作製し、染色した後、顕微鏡下で観察し、試薬を加えたものの感染率及びコントロールの感染率を算出した。上記で求めたマラリア原虫感染率から次式によって増殖率を算出することにより、マラリア原虫に対する50%増殖阻害濃度(EC50)を求めた。結果を表1に示す。
【0051】
【数2】

【0052】
<マウスFM3A細胞増殖阻害試験>
マウス乳癌由来FM3A細胞の野生株であるF28−7株を用いた。培地はES培地に非働化した胎児牛血清を2%となるように添加し、CO濃度5%、37℃で培養した。この条件下でのFM3A細胞の倍加時間は約12時間であった。前培養を行い、対数増殖期に入った細胞を5×10セル/mLになるように培地で希釈した。
【0053】
サンプルはマラリア原虫の抗マラリア活性測定時調整したものを用いた。24穴培養プレートにサンプル溶液を5〜10μLずつ加えた(培地等を加えると最終濃度は1×10−4〜1×10−6となった)。化合物はデュープリケート或いはトリプリケートにとり、コントロールとして滅菌水、DMF或いはDMSOを10μL加えたウエルも同時に用意した。次ぎに、用意しておいた培養細胞浮遊液を990〜995μLずつ加え、静かにピペッテイングを行い培地に一様に懸濁させた。48時間培養した後、それぞれのウエルについて細胞数をセルコントローラー(CC−108、トーアメディカルエレクトリクス社製)で計数し、下記式により増殖率を算出した。
【0054】
【数3】

【0055】
細胞増殖阻害活性は、サンプルを添加したウエルの細胞数及びコントロールの細胞数から算出した。これにより、サンプルの細胞毒性を評価し、細胞増殖阻害濃度(EC50)で示した。EC50値とは、マラリア原虫或いはFM3A細胞の培地にサンプルを添加していないコントロールの増殖率或いはマラリア原虫感染率を100%とし、サンプル添加によってコントロールの増殖率を50%阻害するサンプルの濃度のことである(モル濃度で表示する)。結果を表1に示す。
【0056】
サンプルの抗マラリア作用は、FM3A細胞に対するマラリア原虫のサンプルのEC50値の比(化学療法係数、下記式参照)から評価し、薬効測定を行った。また、参考までに抗マラリア剤として利用されているクロロキンについても同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【数4】

【0058】
【表1】

【0059】
【化12】

【0060】
以上の結果、本発明の環状過酸化物誘導体は、細胞毒性が低く、高いマラリア原虫増殖阻害活性を有することが判明した。比較のために、公知の抗マラリア剤であるキニーネ、アルテミシニン、及び最近開発された抗マラリア活性化合物であるN−89、N−251の薬効測定の文献値を表2に示した。
【0061】
【表2】

【0062】
【化13】

【0063】
【化14】

【0064】
【化15】

【0065】
【化16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される環状過酸化物誘導体。
【化1】

[式中、X、X、R、Rは、水素又は任意の置換基を表す。]
【請求項2】
一般式(1)中、X、Xが水素、アルキル基又はアルコキシ基である請求項1記載の環状過酸化物誘導体。
【請求項3】
一般式(1)中、Rがアルキル基、Rが水素又はアルキル基である請求項1又は2記載の環状過酸化物誘導体。
【請求項4】
一般式(1)中、X、Xが水素、メチル基又はメトキシ基、Rがメチル基又はエチル基、Rが水素又はメチル基である請求項1〜3のいずれか1項記載の環状過酸化物誘導体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の環状過酸化物誘導体を含有する抗マラリア剤。

【公開番号】特開2009−221166(P2009−221166A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68419(P2008−68419)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年 光化学討論会 講演要旨集 平成19年9月21日 藤井恒男 発行
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】