環状鉄心及び静止誘導機器用鉄心
【課題】短絡電流防止用のスリットを不要とした環状鉄心において、電磁鋼板のサイズを変更することなく、環状鉄心の内径及び外径を容易に変更可能にするとともに、その製造作業を簡単化する。
【解決手段】長尺状電磁鋼板を渦巻き状に複数回巻回して形成され、所定内径を有する渦巻き鋼板2と、短尺状電磁鋼板から形成され、内径側端部3Aが渦巻き鋼板2に接触配置されるとともに、渦巻き鋼板2の巻回方向に沿って所定幅ずらして積層された略同一形状をなす複数の鉄心鋼板3とを備える。
【解決手段】長尺状電磁鋼板を渦巻き状に複数回巻回して形成され、所定内径を有する渦巻き鋼板2と、短尺状電磁鋼板から形成され、内径側端部3Aが渦巻き鋼板2に接触配置されるとともに、渦巻き鋼板2の巻回方向に沿って所定幅ずらして積層された略同一形状をなす複数の鉄心鋼板3とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば変圧器やリアクトルといった静止誘導機器、又は誘導発熱ローラ装置といった誘導発熱機器などの電磁誘導機器に用いられる環状鉄心及びその環状鉄心を用いた静止誘導機器用鉄心に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、短絡電流防止用のスリットを不要とした環状鉄心として、特許文献1に示すように、表面に絶縁被膜を有し、同じ長さとされた電磁鋼板の複数を、その一方の端縁を得ようとする環状鉄心の内周長に相当する長さにわたって均等にずらして積層し、その一方の端縁から巻芯を利用してその周囲に巻回して、外周面において、他方の端縁が均等にずれるように環状としている環状鉄心が考えられている。この環状鉄心は、巻芯を一回巻回することによって形成され、各電磁鋼板の一方の端縁は環状鉄心の内周面に位置し、他方の端縁は環状鉄心の外周面に位置する。
【0003】
しかしながら、この環状鉄心は、電磁鋼板の長さLが環状鉄心の内径rと巻厚d(外径r+d)により定まるため、内径rや巻厚dを変更しようとすると電磁鋼板の長さLも変更しなければならないという問題がある。具体的に電磁鋼板の長さLは、{r+(d/2)×2π}となる。そうすると、内径r及び巻厚d(外径r+d)が異なる種々の環状鉄心を製造するためには、各環状鉄心の種類に合わせて専用の電磁鋼板を準備しなければならないという問題がある。
【0004】
また、環状鉄心の巻厚dを大きくする場合には、電磁鋼板の枚数の増やす必要があるが、そうすると一度に曲げる電磁鋼板の枚数が増えることになり、その曲げ加工、つまり巻回作業が困難になり、製造効率が低下してしまう恐れがある。特に、環状鉄心の内径を小さくする場合には上記の問題が顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第2586826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、短絡電流防止用のスリットを不要とした環状鉄心において、電磁鋼板のサイズを変更することなく、環状鉄心の内径及び外径を容易に変更可能にすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る環状鉄心は、長尺状電磁鋼板を渦巻き状に複数回巻回して形成され、所定内径を有する渦巻き鋼板と、短尺状電磁鋼板から形成され、内径側端部が前記渦巻き鋼板に接触配置されるとともに、前記渦巻き鋼板の巻回方向に沿って所定幅ずらして積層された略同一形状をなす複数の鉄心鋼板とを備えることを特徴とする。ここで複数回とは、1回以上であり、整数の他、小数点以下の値を含む数であっても良い。
【0008】
このようなものであれば、環状鉄心の内径は、渦巻き鉄心の内径を変更することによって自在に設定可能であり、環状鉄心の外径は渦巻き鉄心の巻回数及び鉄心鋼板の枚数を変更することによって自在に設定可能である。これにより、用途に応じて種々の径寸法の環状鉄心を製造することができる。また、鉄心鋼板においては所定の長さに予め切断した電磁鋼板を使用するので、方向性電磁鋼板を用いた場合には、その方向性が環状鉄心の中心軸方向(磁束通過方向)に沿うように積層することができ、磁気特性に優れた環状鉄心を得ることができる。したがって、鉄心の断面積を小さくすることができ、当該環状鉄心を用いた電磁誘導機器を小型化できるだけでなく、コイルに使用する電線量も低減することができる。
【0009】
また本発明に係る環状鉄心は、長尺状電磁鋼板上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板を、前記長尺状電磁鋼板の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、前記長尺状電磁鋼板の一方の端部から前記短尺状電磁鋼板を巻き込むように、前記長尺状電磁鋼板を複数回巻き取ることにより形成されていることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、長尺状電磁鋼板をその一方の端部から巻回する際に、その巻回径を変更することによって環状鉄心の内径を自在に設定可能であり、環状鉄心の外径は鉄心鋼板の枚数を変更することによって自在に設定可能である。ここで、鉄心鋼板の枚数により環状鉄心の外径が自在に設定可能になるのは、複数の鉄心鋼板全てを巻き込むまで長尺状電磁鋼板を複数回巻回する結果、環状鉄心の外径がその巻回数により定まるためである。これにより、用途に応じて種々の径寸法の環状鉄心を製造することができる。また、長尺状電磁鋼板を巻き取る際に複数の鉄心鋼板が巻き込まれて環状鉄心が形成されるので、環状鉄心の製造作業を簡単にすることができる。このとき、巻芯に複数回巻回することによって環状鉄心を製造することから、一回巻回する工程で巻き込まれる鉄心鋼板の枚数を少なくすることが可能であり、鉄心鋼板の曲げ加工を容易にすることができ、巻回作業を簡単化することができる。さらに、鉄心鋼板において所定の長さに予め切断した電磁鋼板を使用するので、方向性電磁鋼板を用いた場合には、その方向性が環状鉄心の中心軸方向(磁束通過方向)に沿うように積層することができ、磁気特性に優れた環状鉄心を得ることができる。したがって、鉄心の断面積を小さくすることができ、当該環状鉄心を用いた電磁誘導機器を小型化できるだけでなく、コイルに使用する電線量も低減することができる。
【0011】
さらに本発明に係る環状鉄心製造方法は、長尺状電磁鋼板上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板を、前記長尺状電磁鋼板の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、巻芯を用いて、前記長尺状電磁鋼板の一方の端部から前記短尺状電磁鋼板を巻き込むように、前記長尺状電磁鋼板を複数回巻き取り、所望の外径に合わせて前記短尺状電磁鋼板の枚数を調整することを特徴とする。
【0012】
上記環状鉄心を用いた鉄心としては、前記環状鉄心の外側周面を囲む円筒状鉄心を備え、前記円筒状鉄心が、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の電磁鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された1又は複数の円筒状鉄心要素を前記環状鉄心に同心円上に積層して形成されたものであることを特徴とする。
【0013】
このとき、前記鉄心鋼板が、前記湾曲部の幅方向における外径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向とは反対側に屈曲して形成された外径側屈曲部を有し、当該外径側屈曲部が、円筒状鉄心要素の外周の接線に対して略直角となることが望ましい。これならば、鉄心鋼板が外径側屈曲部を有し、当該外径側屈曲部が、環状鉄心の外周部分において、その接線に対して略直角となるように構成されているので、誘導コイルによって生じる漏洩磁束が通過する部分が鉄心鋼板において径方向外側を向く端面のみとなり、漏洩磁束による渦電流を可及的に抑制することができる。また、外径側屈曲部が、湾曲部の湾曲方向とは反対側に屈曲していることにより、各鉄心鋼板の剛性を大きくすることができ、その鉄心鋼板を複数用いて構成された円筒状鉄心要素の剛性を大きくすることができる。さらに、円筒状鉄心要素を製造する過程においては、各鉄心鋼板の外径側屈曲部同士を係合させるように重ね合わせれば良いので、円筒状鉄心要素の製造作業を簡単にすることができる。その上、外径側屈曲部同士が係合することにより、鉄心鋼板が径方向に抜脱してしまうことを防止することができる。
【0014】
さらに鉄心鋼板の剛性を大きくするとともに、各鉄心鋼板を積み重ねる作業を容易にするだけでなく、鉄心鋼板が径方向に抜脱してしまうことを一層好適に防止するためには、前記鉄心鋼板が、前記湾曲部の幅方向における内径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向と同方向に屈曲して形成された内径側屈曲部を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、短絡電流防止用のスリットを不要とした環状鉄心の製造方法において、電磁鋼板のサイズを変更することなく、種々の内径及び外径を有する環状鉄心を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る環状鉄心の斜視図である。
【図2】同実施形態の環状鉄心の平面図である。
【図3】同実施形態の環状鉄心の電磁鋼板の拡大図である。
【図4】同実施形態の環状鉄心の製造方法を示す模式図である。
【図5】同実施形態の環状鉄心の製造工程を示す模式図である。
【図6】変形実施形態に係る静止誘導機器用鉄心の斜視図である。
【図7】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の平面図である。
【図8】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の正面図である。
【図9】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の背面図である。
【図10】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の右側面図である。
【図11】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の左側面図である。
【図12】同実施形態の鉄心鋼板の断面図である。
【図13】鉄心鋼板の変形例を示す断面図である。
【図14】別の変形実施形態に係る静止誘導機器用鉄心の斜視図である。
【図15】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の平面図である。
【図16】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の正面図である。
【図17】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の背面図である。
【図18】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の右側面図である。
【図19】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に係る環状鉄心の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態に係る環状鉄心100は、例えば変圧器やリアクトルといった静止誘導機器、又は誘導発熱ローラ装置といった誘導発熱機器などの電磁誘導機器に用いられるものであり、短絡電流防止用のスリットを不要とした環状鉄心である。
【0019】
具体的にこのものは、図1及び図2に示すように、長尺状電磁鋼板を渦巻き状に複数回巻回して形成された渦巻き鋼板2と、短尺状電磁鋼板から形成された略同一形状をなす複数の鉄心鋼板3とを備える。
【0020】
渦巻き鋼板2は、特に図2に示すように、平面視において所定内径を有する円形部21を有し、当該円形部21から外側に向かって広がる渦巻き状をなすものである。円形部21の内径は、環状鉄心100の内径に対応し、所望の環状鉄心100の内径に合わせて適宜設定可能である。また、渦巻き鋼板2は、後述する鉄心鋼板3との関係において、組み立て後、環状鉄心100の外側周面で切断除去されることにより構成される。
【0021】
鉄心鋼板3は、特に図3に示すように、内径側端部3Aが渦巻き鋼板2に接触配置されるとともに、渦巻き鋼板2の巻回方向に沿って所定幅ずらして積層されている。具体的に鉄心鋼板3の内径側端部3Aは、渦巻き鋼板2の外径側側面2xに接触する。また、鉄心鋼板3の外径側端部3Bは、その外径側に渦巻き鋼板2が存在する場合には、渦巻き鋼板2の内径側側面2yに接触する。なお、図3においては、鉄心鋼板3の外径側端部3Bのさらに外径側に渦巻き鋼板2が存在しない場合の部分拡大図を示しており、外径側端部3Bは渦巻き鋼板2に接触せず外部に露出した状態である。
【0022】
次に本実施形態の環状鉄心100の製造方法について図4及び図5を参照して説明するが、本実施形態の環状鉄心100は、長尺状電磁鋼板(以下、ガイド板200という。)上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板(以下、鉄心鋼板3という。)を、ガイド板200の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、ガイド板200の一方の端部200Aから鉄心鋼板3を巻き込むように、ガイド板200を複数回巻き取ることにより形成されている。
【0023】
具体的には、帯状をなすガイド板200を載置台5上に載置して、当該ガイド板200上に略同一形状をなし、表面に絶縁被膜が形成された複数の鉄心鋼板3をガイド板200の延伸方向に沿って所定幅L1ずつずらして重ねて連続的に並べる。ここで、鉄心鋼板3の長さLは得ようとする環状鉄心100の内径及び外径に関係なく適宜設定可能である。
【0024】
また、各鉄心鋼板3は、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)から形成された略矩形状をなすものであり、ガイド板200の延伸方向に直交する方向(製品組み立て後における磁束通過方向)に当該方向性を向くようにガイド板200上に載置される。なお、図4においては、長手方向に沿って方向性を向く鉄心鋼板3を示している。さらに、ガイド板200も珪素鋼板からなるものであるが、延伸方向に方向性を有する珪素鋼板を用意することは製造上難があり、ガイド板200においては方向性を無視してガイド板200における磁気特性を若干犠牲にするか、ガイド板200として無方向性を珪素鋼板を用いることが考えられる。
【0025】
そして、複数の鉄心鋼板3が載置されたガイド板200の一方の端部2Aから、断面略円形状をなす巻芯4を用いて、ガイド板200の延伸方向に沿って巻き取る。なお、本実施形態の巻芯4は円筒形状をなすものであり、外部に設けられた回転装置の回転駆動軸に連結されている。そして、この回転装置により巻芯4が回転されてガイド板200及び鉄心鋼板3が巻き取られる。
【0026】
このとき、巻芯4には、ガイド板200の一方の端部200Aを固定するための固定部4xが設けられている。固定部4xは具体的にはガイド部200の一方の端部200Aが挿入される引っ掛け溝である。この引っ掛け溝4xにより固定されたガイド板200は鉄心鋼板3を巻き込むことなく数回(例えば1、2回程度)巻回される(図5上図参照)。これにより渦巻き鋼板2の円形部21が形成される。なお、ガイド板200の他方の端部200Bは、ガイド板200の他方の端部200Bを上下方向から挟み込んで固定する例えば油圧シリンダ等を用いた固定機構6により固定され、巻芯4による巻き取りに応じてガイド板200を供給する。
【0027】
鉄心鋼板3を巻き込むことなく数回巻回した後に、さらにガイド板200を巻き取ると、当該ガイド板200上に載置されている複数の鉄心鋼板3が徐々に巻き込まれていく(図5下図参照)。このとき、所望の外径に合わせて鉄心鋼板3の枚数及び各鉄心鋼板3のずれ幅L1が設定されており、複数の鉄心鋼板3全てを巻き込むまで巻芯4を複数回回転させてガイド板200を巻き取る。
【0028】
上記のとおり複数の鉄心鋼板3を巻き込むまでガイド板200を巻き取った後に、さらにガイド板200を数回(例えば1、2回程度)巻回して、例えばスポット溶接等によりガイド板200の他方の端部200Bを仮止めする。その後、焼き鈍し処理を施し、環状鉄心100の外側周面に露出しているガイド板200を切断して除去する。このとき、環状鉄心100に含まれるガイド板200が渦巻き鋼板2を構成する。なお、各鉄心鋼板はスポット溶接により一体化しても良いし、接着剤を含浸させることにより一体化しても良い。また環状鉄心100の組み立て後において巻芯4は環状鉄心100から抜き取られる。
【0029】
このようにして製造された環状鉄心100によれば、図3に示すように、鉄心鋼板3の一方の端部3A(径方向内側の端部)と他方の端部3B(径方向外側の端部)とは、径方向に沿って積層された鉄心鋼板3の厚み分離れて位置することになる。そして、鉄心鋼板3の両端部3A、3Bの間には他の複数の鉄心鋼板3が介在することになり、各鉄心鋼板3はその表面に絶縁被膜が形成されているので、この絶縁被膜が両端部3A、3B間を電気的に絶縁する作用を呈し、各鉄心鋼板3は閉回路を形成しない。このため、環状鉄心100の外側周面にコイルを巻回し、そのコイルを交流電源により励磁したことによって各鉄心鋼板3に短絡電流が流れようとしても、上記のように各鉄心鋼板3が閉回路を形成しないことによって、短絡電流が流れることが無い。すなわち従来のように短絡電流防止用のスリットを設ける必要が無い。
【0030】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る環状鉄心100によれば、環状鉄心100の内径は巻芯4の径を変更することによって自在に設定可能であり、環状鉄心100の外径は鉄心鋼板3の枚数を変更することによって自在に設定可能である。ここで、鉄心鋼板3の枚数により環状鉄心100の外径が自在に設定可能になるのは、複数の鉄心鋼板3全てを巻き込むまで巻芯4により複数回巻回する結果、環状鉄心100の外径がその巻回数により定まるためである。これにより、用途に応じて種々の径寸法の環状鉄心100を得ることができる。
【0031】
また、ガイド板2を巻き取る際に複数の鉄心鋼板3が巻き込まれて環状鉄心100が形成されるので、環状鉄心100の製造作業を簡単にすることができる。このとき、巻芯4に複数回巻回することによって環状鉄心100を製造することから、一回巻回する工程で巻き込まれる鉄心鋼板3の枚数を少なくすることが可能であり、鉄心鋼板3の曲げ加工を容易にすることができ、巻回作業を簡単化することができる。
【0032】
さらに、所定の長さに予め切断した鉄心鋼板3を使用するので、方向性電磁鋼板を用いた場合には、その方向性が環状鉄心100の中心軸方向(磁束通過方向)に沿うように積層することができ、磁気特性に優れた環状鉄心100を得ることができる。したがって、環状鉄心100の断面積を小さくすることができ、当該環状鉄心100を小型化できるだけでなく、コイルに使用する電線量も低減することができる。
【0033】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0034】
例えば、前記実施形態の環状鉄心100を用いて図6〜図11に示すような静止誘導機器用鉄心Zを構成しても良い。
【0035】
具体的にこの静止誘導機器用鉄心Zは、前記実施形態の環状鉄心100と、環状鉄心100の外側周面を囲む円筒状鉄心Z1とを備えている。そして、円筒状鉄心Z1が、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の鉄心鋼板Z11を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された1又は複数の円筒状鉄心要素を環状鉄心100に同心円上に積層して形成されたものである。なお、図6等においては、1つの円筒状鉄心要素により円筒状鉄心Z1が形成されている。
【0036】
円筒状鉄心(円筒状鉄心要素)Z1の内側周面は、環状鉄心100の外側周面に接触して設けられている。鉄心鋼板Z11は、長尺形状をなすものであり、図12に示すように等断面形状をなすものであり、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部Z11aと、当該湾曲部Z11aの幅方向における内径側端部に連続して形成された内径側屈曲部Z11bとを有する。この鉄心鋼板Z11は、例えば表面に絶縁皮膜が形成された方向性電磁鋼板(珪素鋼板)により形成されており、その板厚は、例えば約0.3mmである。また、鉄心鋼板Z11は、長手方向(つまり、製品組み立て後における磁束通過方向)に磁束方向性が向くように形成されている。湾曲部Z11aは、全体に亘って一定の曲率で湾曲しているもの、又は、連続して曲率が変化しながら湾曲するものが考えられ、例えばインボリュート曲線の一部を用いたインボリュート形状、部分円弧形状又は部分楕円形状などが考えられる。内径側屈曲部Z11bは、湾曲部Z11aの湾曲方向と同方向に屈曲して形成されている。
【0037】
そして、鉄心鋼板Z11の湾曲部Z11a及び内径側屈曲部Z11bにより形成された凹部に、他の鉄心鋼板Z11の湾曲部Z11a及び内径側屈曲部Z11bにより形成された凸部を嵌め込むように、尚かつ各鉄心鋼板Z11が幅方向にずれるようにして、同一形状をなす多数枚の鉄心鋼板Z11を重ね合わせる。このようにして円筒形状をなす円筒状鉄心要素Z1が形成される。
【0038】
上記の円筒状鉄心要素Z1を構成する鉄心鋼板Z11は、上記の他に図13に示すように、湾曲部Z11a及び内径側屈曲部Z11bに加えて、湾曲部Z11aの幅方向における外径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向とは反対側に屈曲して形成された外径側屈曲部Z11cを有するものであっても良い。この外径側屈曲部Z11cは、湾曲部Z11aの湾曲方向とは反対側に屈曲して形成された概略平板状をなすものであり、環状鉄心100を組み立てた際に当該円筒状鉄心要素Z1の外周(つまり、円筒状鉄心要素Z1に外接する仮想円)の接線Lに対して略垂直となるように設定されている。
【0039】
このように構成した静止誘導機器用鉄心Zによれば、簡単な構成により剛性の大きい円柱状の鉄心を構成することができる。また、環状鉄心100の内径及び外径を自由に設定できると共に、円筒状鉄心要素Z1を必要に応じて径方向に積層することができ、種々の径を有する静止誘導機器用鉄心Zを構成することができる。さらに円筒状鉄心要素Z1を構成する鉄心要素Z11が等価的に放射状に並べられたものとなり、漏洩磁束が鉄心要素Z11をその厚さ方向に貫通する割合を小さくすることができ渦電流を可及的に小さくすることができる。さらに鉄心要素Z11が外径側屈曲部Z11cを有するものであれば、誘導コイルにより生じる漏洩磁束は、実質的に外径側屈曲部Z11cの外端面のみを通過するようになり、渦電流の発生を可及的に減少させることができる。その上、環状鉄心100及び円筒状鉄心要素Z1のいずれにも方向性電磁鋼板を用いることができるので、磁気特性に優れた静止誘導機器用鉄心Zを得ることができる。したがって、静止誘導機器用鉄心Zの断面積を小さくすることができ、当該静止誘導機器用鉄心Zを小型化できるだけでなく、コイルに使用する電線量も低減することができる。
【0040】
加えて、上記では、1つの円筒状鉄心要素により円筒状鉄心Z1が形成されているが、図14〜図19に示すように、2つ以上の円筒状鉄心要素により円筒状鉄心Z1が構成されるものであっても良い。なお、図14等においては2つの円筒状鉄心要素により構成した場合を示している。
【0041】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
100・・・環状鉄心
2 ・・・渦巻き鋼板
3 ・・・鉄心鋼板
4 ・・・巻芯
Z ・・・静止誘導機器用鉄心
Z1・・・円筒状鉄心
Z11・・・鉄心鋼板
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば変圧器やリアクトルといった静止誘導機器、又は誘導発熱ローラ装置といった誘導発熱機器などの電磁誘導機器に用いられる環状鉄心及びその環状鉄心を用いた静止誘導機器用鉄心に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、短絡電流防止用のスリットを不要とした環状鉄心として、特許文献1に示すように、表面に絶縁被膜を有し、同じ長さとされた電磁鋼板の複数を、その一方の端縁を得ようとする環状鉄心の内周長に相当する長さにわたって均等にずらして積層し、その一方の端縁から巻芯を利用してその周囲に巻回して、外周面において、他方の端縁が均等にずれるように環状としている環状鉄心が考えられている。この環状鉄心は、巻芯を一回巻回することによって形成され、各電磁鋼板の一方の端縁は環状鉄心の内周面に位置し、他方の端縁は環状鉄心の外周面に位置する。
【0003】
しかしながら、この環状鉄心は、電磁鋼板の長さLが環状鉄心の内径rと巻厚d(外径r+d)により定まるため、内径rや巻厚dを変更しようとすると電磁鋼板の長さLも変更しなければならないという問題がある。具体的に電磁鋼板の長さLは、{r+(d/2)×2π}となる。そうすると、内径r及び巻厚d(外径r+d)が異なる種々の環状鉄心を製造するためには、各環状鉄心の種類に合わせて専用の電磁鋼板を準備しなければならないという問題がある。
【0004】
また、環状鉄心の巻厚dを大きくする場合には、電磁鋼板の枚数の増やす必要があるが、そうすると一度に曲げる電磁鋼板の枚数が増えることになり、その曲げ加工、つまり巻回作業が困難になり、製造効率が低下してしまう恐れがある。特に、環状鉄心の内径を小さくする場合には上記の問題が顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第2586826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、短絡電流防止用のスリットを不要とした環状鉄心において、電磁鋼板のサイズを変更することなく、環状鉄心の内径及び外径を容易に変更可能にすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る環状鉄心は、長尺状電磁鋼板を渦巻き状に複数回巻回して形成され、所定内径を有する渦巻き鋼板と、短尺状電磁鋼板から形成され、内径側端部が前記渦巻き鋼板に接触配置されるとともに、前記渦巻き鋼板の巻回方向に沿って所定幅ずらして積層された略同一形状をなす複数の鉄心鋼板とを備えることを特徴とする。ここで複数回とは、1回以上であり、整数の他、小数点以下の値を含む数であっても良い。
【0008】
このようなものであれば、環状鉄心の内径は、渦巻き鉄心の内径を変更することによって自在に設定可能であり、環状鉄心の外径は渦巻き鉄心の巻回数及び鉄心鋼板の枚数を変更することによって自在に設定可能である。これにより、用途に応じて種々の径寸法の環状鉄心を製造することができる。また、鉄心鋼板においては所定の長さに予め切断した電磁鋼板を使用するので、方向性電磁鋼板を用いた場合には、その方向性が環状鉄心の中心軸方向(磁束通過方向)に沿うように積層することができ、磁気特性に優れた環状鉄心を得ることができる。したがって、鉄心の断面積を小さくすることができ、当該環状鉄心を用いた電磁誘導機器を小型化できるだけでなく、コイルに使用する電線量も低減することができる。
【0009】
また本発明に係る環状鉄心は、長尺状電磁鋼板上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板を、前記長尺状電磁鋼板の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、前記長尺状電磁鋼板の一方の端部から前記短尺状電磁鋼板を巻き込むように、前記長尺状電磁鋼板を複数回巻き取ることにより形成されていることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、長尺状電磁鋼板をその一方の端部から巻回する際に、その巻回径を変更することによって環状鉄心の内径を自在に設定可能であり、環状鉄心の外径は鉄心鋼板の枚数を変更することによって自在に設定可能である。ここで、鉄心鋼板の枚数により環状鉄心の外径が自在に設定可能になるのは、複数の鉄心鋼板全てを巻き込むまで長尺状電磁鋼板を複数回巻回する結果、環状鉄心の外径がその巻回数により定まるためである。これにより、用途に応じて種々の径寸法の環状鉄心を製造することができる。また、長尺状電磁鋼板を巻き取る際に複数の鉄心鋼板が巻き込まれて環状鉄心が形成されるので、環状鉄心の製造作業を簡単にすることができる。このとき、巻芯に複数回巻回することによって環状鉄心を製造することから、一回巻回する工程で巻き込まれる鉄心鋼板の枚数を少なくすることが可能であり、鉄心鋼板の曲げ加工を容易にすることができ、巻回作業を簡単化することができる。さらに、鉄心鋼板において所定の長さに予め切断した電磁鋼板を使用するので、方向性電磁鋼板を用いた場合には、その方向性が環状鉄心の中心軸方向(磁束通過方向)に沿うように積層することができ、磁気特性に優れた環状鉄心を得ることができる。したがって、鉄心の断面積を小さくすることができ、当該環状鉄心を用いた電磁誘導機器を小型化できるだけでなく、コイルに使用する電線量も低減することができる。
【0011】
さらに本発明に係る環状鉄心製造方法は、長尺状電磁鋼板上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板を、前記長尺状電磁鋼板の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、巻芯を用いて、前記長尺状電磁鋼板の一方の端部から前記短尺状電磁鋼板を巻き込むように、前記長尺状電磁鋼板を複数回巻き取り、所望の外径に合わせて前記短尺状電磁鋼板の枚数を調整することを特徴とする。
【0012】
上記環状鉄心を用いた鉄心としては、前記環状鉄心の外側周面を囲む円筒状鉄心を備え、前記円筒状鉄心が、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の電磁鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された1又は複数の円筒状鉄心要素を前記環状鉄心に同心円上に積層して形成されたものであることを特徴とする。
【0013】
このとき、前記鉄心鋼板が、前記湾曲部の幅方向における外径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向とは反対側に屈曲して形成された外径側屈曲部を有し、当該外径側屈曲部が、円筒状鉄心要素の外周の接線に対して略直角となることが望ましい。これならば、鉄心鋼板が外径側屈曲部を有し、当該外径側屈曲部が、環状鉄心の外周部分において、その接線に対して略直角となるように構成されているので、誘導コイルによって生じる漏洩磁束が通過する部分が鉄心鋼板において径方向外側を向く端面のみとなり、漏洩磁束による渦電流を可及的に抑制することができる。また、外径側屈曲部が、湾曲部の湾曲方向とは反対側に屈曲していることにより、各鉄心鋼板の剛性を大きくすることができ、その鉄心鋼板を複数用いて構成された円筒状鉄心要素の剛性を大きくすることができる。さらに、円筒状鉄心要素を製造する過程においては、各鉄心鋼板の外径側屈曲部同士を係合させるように重ね合わせれば良いので、円筒状鉄心要素の製造作業を簡単にすることができる。その上、外径側屈曲部同士が係合することにより、鉄心鋼板が径方向に抜脱してしまうことを防止することができる。
【0014】
さらに鉄心鋼板の剛性を大きくするとともに、各鉄心鋼板を積み重ねる作業を容易にするだけでなく、鉄心鋼板が径方向に抜脱してしまうことを一層好適に防止するためには、前記鉄心鋼板が、前記湾曲部の幅方向における内径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向と同方向に屈曲して形成された内径側屈曲部を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、短絡電流防止用のスリットを不要とした環状鉄心の製造方法において、電磁鋼板のサイズを変更することなく、種々の内径及び外径を有する環状鉄心を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る環状鉄心の斜視図である。
【図2】同実施形態の環状鉄心の平面図である。
【図3】同実施形態の環状鉄心の電磁鋼板の拡大図である。
【図4】同実施形態の環状鉄心の製造方法を示す模式図である。
【図5】同実施形態の環状鉄心の製造工程を示す模式図である。
【図6】変形実施形態に係る静止誘導機器用鉄心の斜視図である。
【図7】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の平面図である。
【図8】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の正面図である。
【図9】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の背面図である。
【図10】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の右側面図である。
【図11】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の左側面図である。
【図12】同実施形態の鉄心鋼板の断面図である。
【図13】鉄心鋼板の変形例を示す断面図である。
【図14】別の変形実施形態に係る静止誘導機器用鉄心の斜視図である。
【図15】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の平面図である。
【図16】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の正面図である。
【図17】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の背面図である。
【図18】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の右側面図である。
【図19】同実施形態の静止誘導機器用鉄心の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に係る環状鉄心の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態に係る環状鉄心100は、例えば変圧器やリアクトルといった静止誘導機器、又は誘導発熱ローラ装置といった誘導発熱機器などの電磁誘導機器に用いられるものであり、短絡電流防止用のスリットを不要とした環状鉄心である。
【0019】
具体的にこのものは、図1及び図2に示すように、長尺状電磁鋼板を渦巻き状に複数回巻回して形成された渦巻き鋼板2と、短尺状電磁鋼板から形成された略同一形状をなす複数の鉄心鋼板3とを備える。
【0020】
渦巻き鋼板2は、特に図2に示すように、平面視において所定内径を有する円形部21を有し、当該円形部21から外側に向かって広がる渦巻き状をなすものである。円形部21の内径は、環状鉄心100の内径に対応し、所望の環状鉄心100の内径に合わせて適宜設定可能である。また、渦巻き鋼板2は、後述する鉄心鋼板3との関係において、組み立て後、環状鉄心100の外側周面で切断除去されることにより構成される。
【0021】
鉄心鋼板3は、特に図3に示すように、内径側端部3Aが渦巻き鋼板2に接触配置されるとともに、渦巻き鋼板2の巻回方向に沿って所定幅ずらして積層されている。具体的に鉄心鋼板3の内径側端部3Aは、渦巻き鋼板2の外径側側面2xに接触する。また、鉄心鋼板3の外径側端部3Bは、その外径側に渦巻き鋼板2が存在する場合には、渦巻き鋼板2の内径側側面2yに接触する。なお、図3においては、鉄心鋼板3の外径側端部3Bのさらに外径側に渦巻き鋼板2が存在しない場合の部分拡大図を示しており、外径側端部3Bは渦巻き鋼板2に接触せず外部に露出した状態である。
【0022】
次に本実施形態の環状鉄心100の製造方法について図4及び図5を参照して説明するが、本実施形態の環状鉄心100は、長尺状電磁鋼板(以下、ガイド板200という。)上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板(以下、鉄心鋼板3という。)を、ガイド板200の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、ガイド板200の一方の端部200Aから鉄心鋼板3を巻き込むように、ガイド板200を複数回巻き取ることにより形成されている。
【0023】
具体的には、帯状をなすガイド板200を載置台5上に載置して、当該ガイド板200上に略同一形状をなし、表面に絶縁被膜が形成された複数の鉄心鋼板3をガイド板200の延伸方向に沿って所定幅L1ずつずらして重ねて連続的に並べる。ここで、鉄心鋼板3の長さLは得ようとする環状鉄心100の内径及び外径に関係なく適宜設定可能である。
【0024】
また、各鉄心鋼板3は、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)から形成された略矩形状をなすものであり、ガイド板200の延伸方向に直交する方向(製品組み立て後における磁束通過方向)に当該方向性を向くようにガイド板200上に載置される。なお、図4においては、長手方向に沿って方向性を向く鉄心鋼板3を示している。さらに、ガイド板200も珪素鋼板からなるものであるが、延伸方向に方向性を有する珪素鋼板を用意することは製造上難があり、ガイド板200においては方向性を無視してガイド板200における磁気特性を若干犠牲にするか、ガイド板200として無方向性を珪素鋼板を用いることが考えられる。
【0025】
そして、複数の鉄心鋼板3が載置されたガイド板200の一方の端部2Aから、断面略円形状をなす巻芯4を用いて、ガイド板200の延伸方向に沿って巻き取る。なお、本実施形態の巻芯4は円筒形状をなすものであり、外部に設けられた回転装置の回転駆動軸に連結されている。そして、この回転装置により巻芯4が回転されてガイド板200及び鉄心鋼板3が巻き取られる。
【0026】
このとき、巻芯4には、ガイド板200の一方の端部200Aを固定するための固定部4xが設けられている。固定部4xは具体的にはガイド部200の一方の端部200Aが挿入される引っ掛け溝である。この引っ掛け溝4xにより固定されたガイド板200は鉄心鋼板3を巻き込むことなく数回(例えば1、2回程度)巻回される(図5上図参照)。これにより渦巻き鋼板2の円形部21が形成される。なお、ガイド板200の他方の端部200Bは、ガイド板200の他方の端部200Bを上下方向から挟み込んで固定する例えば油圧シリンダ等を用いた固定機構6により固定され、巻芯4による巻き取りに応じてガイド板200を供給する。
【0027】
鉄心鋼板3を巻き込むことなく数回巻回した後に、さらにガイド板200を巻き取ると、当該ガイド板200上に載置されている複数の鉄心鋼板3が徐々に巻き込まれていく(図5下図参照)。このとき、所望の外径に合わせて鉄心鋼板3の枚数及び各鉄心鋼板3のずれ幅L1が設定されており、複数の鉄心鋼板3全てを巻き込むまで巻芯4を複数回回転させてガイド板200を巻き取る。
【0028】
上記のとおり複数の鉄心鋼板3を巻き込むまでガイド板200を巻き取った後に、さらにガイド板200を数回(例えば1、2回程度)巻回して、例えばスポット溶接等によりガイド板200の他方の端部200Bを仮止めする。その後、焼き鈍し処理を施し、環状鉄心100の外側周面に露出しているガイド板200を切断して除去する。このとき、環状鉄心100に含まれるガイド板200が渦巻き鋼板2を構成する。なお、各鉄心鋼板はスポット溶接により一体化しても良いし、接着剤を含浸させることにより一体化しても良い。また環状鉄心100の組み立て後において巻芯4は環状鉄心100から抜き取られる。
【0029】
このようにして製造された環状鉄心100によれば、図3に示すように、鉄心鋼板3の一方の端部3A(径方向内側の端部)と他方の端部3B(径方向外側の端部)とは、径方向に沿って積層された鉄心鋼板3の厚み分離れて位置することになる。そして、鉄心鋼板3の両端部3A、3Bの間には他の複数の鉄心鋼板3が介在することになり、各鉄心鋼板3はその表面に絶縁被膜が形成されているので、この絶縁被膜が両端部3A、3B間を電気的に絶縁する作用を呈し、各鉄心鋼板3は閉回路を形成しない。このため、環状鉄心100の外側周面にコイルを巻回し、そのコイルを交流電源により励磁したことによって各鉄心鋼板3に短絡電流が流れようとしても、上記のように各鉄心鋼板3が閉回路を形成しないことによって、短絡電流が流れることが無い。すなわち従来のように短絡電流防止用のスリットを設ける必要が無い。
【0030】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る環状鉄心100によれば、環状鉄心100の内径は巻芯4の径を変更することによって自在に設定可能であり、環状鉄心100の外径は鉄心鋼板3の枚数を変更することによって自在に設定可能である。ここで、鉄心鋼板3の枚数により環状鉄心100の外径が自在に設定可能になるのは、複数の鉄心鋼板3全てを巻き込むまで巻芯4により複数回巻回する結果、環状鉄心100の外径がその巻回数により定まるためである。これにより、用途に応じて種々の径寸法の環状鉄心100を得ることができる。
【0031】
また、ガイド板2を巻き取る際に複数の鉄心鋼板3が巻き込まれて環状鉄心100が形成されるので、環状鉄心100の製造作業を簡単にすることができる。このとき、巻芯4に複数回巻回することによって環状鉄心100を製造することから、一回巻回する工程で巻き込まれる鉄心鋼板3の枚数を少なくすることが可能であり、鉄心鋼板3の曲げ加工を容易にすることができ、巻回作業を簡単化することができる。
【0032】
さらに、所定の長さに予め切断した鉄心鋼板3を使用するので、方向性電磁鋼板を用いた場合には、その方向性が環状鉄心100の中心軸方向(磁束通過方向)に沿うように積層することができ、磁気特性に優れた環状鉄心100を得ることができる。したがって、環状鉄心100の断面積を小さくすることができ、当該環状鉄心100を小型化できるだけでなく、コイルに使用する電線量も低減することができる。
【0033】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0034】
例えば、前記実施形態の環状鉄心100を用いて図6〜図11に示すような静止誘導機器用鉄心Zを構成しても良い。
【0035】
具体的にこの静止誘導機器用鉄心Zは、前記実施形態の環状鉄心100と、環状鉄心100の外側周面を囲む円筒状鉄心Z1とを備えている。そして、円筒状鉄心Z1が、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の鉄心鋼板Z11を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された1又は複数の円筒状鉄心要素を環状鉄心100に同心円上に積層して形成されたものである。なお、図6等においては、1つの円筒状鉄心要素により円筒状鉄心Z1が形成されている。
【0036】
円筒状鉄心(円筒状鉄心要素)Z1の内側周面は、環状鉄心100の外側周面に接触して設けられている。鉄心鋼板Z11は、長尺形状をなすものであり、図12に示すように等断面形状をなすものであり、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部Z11aと、当該湾曲部Z11aの幅方向における内径側端部に連続して形成された内径側屈曲部Z11bとを有する。この鉄心鋼板Z11は、例えば表面に絶縁皮膜が形成された方向性電磁鋼板(珪素鋼板)により形成されており、その板厚は、例えば約0.3mmである。また、鉄心鋼板Z11は、長手方向(つまり、製品組み立て後における磁束通過方向)に磁束方向性が向くように形成されている。湾曲部Z11aは、全体に亘って一定の曲率で湾曲しているもの、又は、連続して曲率が変化しながら湾曲するものが考えられ、例えばインボリュート曲線の一部を用いたインボリュート形状、部分円弧形状又は部分楕円形状などが考えられる。内径側屈曲部Z11bは、湾曲部Z11aの湾曲方向と同方向に屈曲して形成されている。
【0037】
そして、鉄心鋼板Z11の湾曲部Z11a及び内径側屈曲部Z11bにより形成された凹部に、他の鉄心鋼板Z11の湾曲部Z11a及び内径側屈曲部Z11bにより形成された凸部を嵌め込むように、尚かつ各鉄心鋼板Z11が幅方向にずれるようにして、同一形状をなす多数枚の鉄心鋼板Z11を重ね合わせる。このようにして円筒形状をなす円筒状鉄心要素Z1が形成される。
【0038】
上記の円筒状鉄心要素Z1を構成する鉄心鋼板Z11は、上記の他に図13に示すように、湾曲部Z11a及び内径側屈曲部Z11bに加えて、湾曲部Z11aの幅方向における外径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向とは反対側に屈曲して形成された外径側屈曲部Z11cを有するものであっても良い。この外径側屈曲部Z11cは、湾曲部Z11aの湾曲方向とは反対側に屈曲して形成された概略平板状をなすものであり、環状鉄心100を組み立てた際に当該円筒状鉄心要素Z1の外周(つまり、円筒状鉄心要素Z1に外接する仮想円)の接線Lに対して略垂直となるように設定されている。
【0039】
このように構成した静止誘導機器用鉄心Zによれば、簡単な構成により剛性の大きい円柱状の鉄心を構成することができる。また、環状鉄心100の内径及び外径を自由に設定できると共に、円筒状鉄心要素Z1を必要に応じて径方向に積層することができ、種々の径を有する静止誘導機器用鉄心Zを構成することができる。さらに円筒状鉄心要素Z1を構成する鉄心要素Z11が等価的に放射状に並べられたものとなり、漏洩磁束が鉄心要素Z11をその厚さ方向に貫通する割合を小さくすることができ渦電流を可及的に小さくすることができる。さらに鉄心要素Z11が外径側屈曲部Z11cを有するものであれば、誘導コイルにより生じる漏洩磁束は、実質的に外径側屈曲部Z11cの外端面のみを通過するようになり、渦電流の発生を可及的に減少させることができる。その上、環状鉄心100及び円筒状鉄心要素Z1のいずれにも方向性電磁鋼板を用いることができるので、磁気特性に優れた静止誘導機器用鉄心Zを得ることができる。したがって、静止誘導機器用鉄心Zの断面積を小さくすることができ、当該静止誘導機器用鉄心Zを小型化できるだけでなく、コイルに使用する電線量も低減することができる。
【0040】
加えて、上記では、1つの円筒状鉄心要素により円筒状鉄心Z1が形成されているが、図14〜図19に示すように、2つ以上の円筒状鉄心要素により円筒状鉄心Z1が構成されるものであっても良い。なお、図14等においては2つの円筒状鉄心要素により構成した場合を示している。
【0041】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
100・・・環状鉄心
2 ・・・渦巻き鋼板
3 ・・・鉄心鋼板
4 ・・・巻芯
Z ・・・静止誘導機器用鉄心
Z1・・・円筒状鉄心
Z11・・・鉄心鋼板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状電磁鋼板を渦巻き状に複数回巻回して形成され、所定内径を有する渦巻き鋼板と、
短尺状電磁鋼板から形成され、内径側端部が前記渦巻き鋼板に接触配置されるとともに、前記渦巻き鋼板の巻回方向に沿って所定幅ずらして積層された略同一形状をなす複数の鉄心鋼板とを備える環状鉄心。
【請求項2】
長尺状電磁鋼板上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板を、前記長尺状電磁鋼板の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、前記長尺状電磁鋼板の一方の端部から前記短尺状電磁鋼板を巻き込むように、前記長尺状電磁鋼板を複数回巻き取ることにより形成された環状鉄心。
【請求項3】
長尺状電磁鋼板上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板を、前記長尺状電磁鋼板の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、巻芯を用いて、前記長尺状電磁鋼板の一方の端部から前記短尺状電磁鋼板を巻き込むように、前記長尺状電磁鋼板を複数回巻き取り、所望の外径に合わせて前記短尺状電磁鋼板の枚数を調整する環状鉄心製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の環状鉄心と、
前記環状鉄心の外側周面を囲む円筒状鉄心とを備え、
前記円筒状鉄心が、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の鉄心鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された1又は複数の円筒状鉄心要素を前記環状鉄心に同心円上に積層して形成されたものである静止誘導機器用鉄心。
【請求項5】
前記鉄心鋼板が、前記湾曲部の幅方向における外径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向とは反対側に屈曲して形成された外径側屈曲部を有し、当該外径側屈曲部が、円筒状鉄心要素の外周の接線に対して略直角となる請求項4記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項6】
前記鉄心鋼板が、前記湾曲部の幅方向における内径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向と同方向に屈曲して形成された内径側屈曲部を有する請求項4又は5記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項1】
長尺状電磁鋼板を渦巻き状に複数回巻回して形成され、所定内径を有する渦巻き鋼板と、
短尺状電磁鋼板から形成され、内径側端部が前記渦巻き鋼板に接触配置されるとともに、前記渦巻き鋼板の巻回方向に沿って所定幅ずらして積層された略同一形状をなす複数の鉄心鋼板とを備える環状鉄心。
【請求項2】
長尺状電磁鋼板上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板を、前記長尺状電磁鋼板の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、前記長尺状電磁鋼板の一方の端部から前記短尺状電磁鋼板を巻き込むように、前記長尺状電磁鋼板を複数回巻き取ることにより形成された環状鉄心。
【請求項3】
長尺状電磁鋼板上に、略同一形状をなす複数の短尺状電磁鋼板を、前記長尺状電磁鋼板の延伸方向に沿って略等間隔にずらして重ねて並べ、巻芯を用いて、前記長尺状電磁鋼板の一方の端部から前記短尺状電磁鋼板を巻き込むように、前記長尺状電磁鋼板を複数回巻き取り、所望の外径に合わせて前記短尺状電磁鋼板の枚数を調整する環状鉄心製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の環状鉄心と、
前記環状鉄心の外側周面を囲む円筒状鉄心とを備え、
前記円筒状鉄心が、幅方向断面が湾曲形状をなす湾曲部を有する複数の鉄心鋼板を、幅方向にずらして積み重ねることにより形成された1又は複数の円筒状鉄心要素を前記環状鉄心に同心円上に積層して形成されたものである静止誘導機器用鉄心。
【請求項5】
前記鉄心鋼板が、前記湾曲部の幅方向における外径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向とは反対側に屈曲して形成された外径側屈曲部を有し、当該外径側屈曲部が、円筒状鉄心要素の外周の接線に対して略直角となる請求項4記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項6】
前記鉄心鋼板が、前記湾曲部の幅方向における内径側端部に連続して、当該湾曲部の湾曲方向と同方向に屈曲して形成された内径側屈曲部を有する請求項4又は5記載の静止誘導機器用鉄心。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−155079(P2011−155079A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14689(P2010−14689)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000110158)トクデン株式会社 (91)
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