説明

甘味増強剤

【課題】甘味増強剤、甘味が増強された飲食品の製造方法、甘味増強方法の提供。
【解決手段】乾燥酵母粉末を有効成分として含有する、甘味増強剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘味増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール・発泡酒等の発泡性麦芽飲料や雑酒等のビール様飲料の製造工程内で酵母菌体はアルコール発酵に用いられ、その後は余剰酵母として回収される。これら余剰酵母は、一般的には、所望によりホップ樹脂等の苦味成分を除去した後、乾燥酵母や酵母エキスの製造原料として利用される。得られる乾燥酵母や酵母エキスの用途は、調味料、健康食品等の食品、医薬品、動物飼料等多岐にわたる。
【0003】
特に、酵母菌体に自己消化処理、酵素処理、酸処理等の処理を施して得られる酵母エキスはアミノ酸や核酸を豊富に含み、うま味、こく味が強く、かつ独特の風味を有するため、調味料等、飲食品に多用される。一方で、用途によっては、酵母エキスが有するうま味、コク味や独特の風味の付与が好まれない場合がある。
【0004】
例えば、甘味剤の分野においては、遊離アミノ酸が5%以上含有される酵母エキスを添加して甘味とコク味を増強する方法(特許文献1:特開2009−44978号公報参照)が知られている。しかしながら、酵母エキスをラクトアイス等の甘味増強に利用した場合、そのうま味やこく味の付与は一般的に好まれないという問題があった。
【0005】
一方、酵母エキスと比較して、乾燥酵母は、それ自体は強い風味を有さないことが知られている。しかしながら、乾燥酵母は、風味改良剤としての用途はほとんど報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−44978号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明らは、今般、乾燥酵母粉末を飲食品へ添加することにより、飲食品の甘味を効果的に増強できることを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は、飲食品における甘味増強剤、甘味増強剤の製造方法、飲食品の甘味増強方法、および甘味の増強された飲食品の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)乾燥酵母粉末を有効成分として含有する、甘味増強剤。
(2)上記乾燥酵母粉末の平均粒径が3〜10μmである、(1)記載の甘味増強剤。
(3)上記乾燥酵母粉末が、乾燥酵母を気流粉砕して得られたものである、(2)に記載の甘味増強剤。
(4)酵母を乾燥し、粉末化することを含んでなる、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の甘味増強剤の製造方法。
【0010】
本発明によれば、飲食品の甘味を顕著に増強することができる。また、本発明の甘味増強剤は、飲食品の嗜好性を効果的に向上させる上で有利に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられる酵母(以下、単に酵母ともいう)は、飲食品またはその製造に使用可能な酵母であれば特に限定されず、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)等のキャンディダ(Candida)属、トルラスポラ・デルブルッキー(Torulaspora delbrueckii)等のトルラスポラ(Torulaspora)属、クルイベロミセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)等のクルイベロミセス属(Kluyveromyces)、ピヒア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)等のピヒア(Pichia)属に属する酵母等が挙げられるが、好ましくはサッカロミセス属である。
【0012】
また、酵母の形態は特に限定されず、そのまま後述の乾燥・粉末化をはじめとする一連の工程に用いてもよく、酵母を常法に準じて培養して得られる培養物の形態で用いてもよく、かかる培養物を遠心分離、ろ過等の固液分離処理に供して得られる残渣等の形態で用いてもよい。
【0013】
酵母の培養に用いられる培地としては、固体培地、液体培地等の酵母が生育可能な培地であればいずれの培地であってもよい。例えば、固体培地を用いて培養した場合は、固体培地に生育した菌体を固体培地とともにそのまま培養物として用いることができる。また、液体培地を用いて培養した場合は、培養液をそのまま培養物として用いることができる。
【0014】
また、酵母の培養では、炭素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の栄養培地であれば、合成培地または天然培地のいずれを用いてもよい。
【0015】
上記培地の炭素源としては、グルコース、グリセロール、マニトール、エタノールまたはn-パラフィン等が挙げられる。また、乳酸やクエン酸等の有機酸も単独あるいは他の炭素源とともに用いることができる。
【0016】
また、窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウムまたは酢酸アンモニウム等が挙げられる。
【0017】
また、有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、さらにこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキスまたは大豆蛋白分解物等が挙げられる。
【0018】
また、無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩またはカルシウム塩等が挙げられる。
【0019】
また、酵母の培養は、特に限定されないが、例えば、培養温度20〜37℃、pH3〜8の下、必要に応じて通気培養を行うことができる。
また、上記培養は、例えば、10時間〜4日間程度行なってもよい。
また、培養中、炭酸カルシウム、アンモニア水、アンモニアガス、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリでpHを適宜調整してもよい。
【0020】
また、本発明に用いられる酵母としては、ビール、発泡酒等の発泡性麦芽飲料やビール様飲料等の醸造工程において公知の手法により回収された酵母を用いることができる。したがって、本発明の酵母は、好ましくはアルコール発酵中または後に回収されたものであり、より好ましくは醸造工程で回収された泥状酵母であり、さらに好ましくはビール醸造工程で回収された泥状酵母である。
【0021】
また、酵母は、アルカリ処理により苦味を低減して用いることが好ましい。かかるアルカリ処理は、アルコール発酵工程から回収される酵母を用いる場合の脱苦味処理として特に有利である。アルカリ処理は、例えば、酵母にアルカリ溶液を適量添加し、混合することにより行うことができる。
【0022】
アルカリ溶液の調製に用いられるアルカリ物質は、特に限定されないが、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
また、アルカリ溶液の調製に用いられる溶媒は、水をはじめとする水性媒体が好ましい。
【0024】
アルカリ処理の具体的な条件は、処理前と比較して酵母の苦味が低減または除去される限り特に制限されず、常法により行うことができる。例えば、泥状ビール酵母1Lに対して、炭酸ナトリウムを10〜200g程度添加し、必要に応じて水を添加して撹拌してもよい。
【0025】
また、酵母は、アルカリ処理の後、所望により遠心分離またはろ過等の固液分離処理に供してよい。
【0026】
また、酵母は、上述の固液分離処離の前後または固液分離処離と共に、水性媒体を用いて洗浄することが好ましい。かかる洗浄操作は、特に限定されないが、洗浄により得られる水性媒体のpHが8以下になるまで繰り返すことが好ましい。かかる洗浄は、酵母の苦味を効果的に低減する上で有利である。
【0027】
なお、苦味の低減、固液分離処理および洗浄等をはじめとする酵母の調製は、特開昭55−162983号公報および特開 2008−131881号公報の記載に従って行ってもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【0028】
本発明の甘味増強剤は、上述のような酵母を乾燥し、粉末化することにより製造することができる。
【0029】
乾燥処理方法は、特に限定されないが、例えば、天日乾燥、通風乾燥、熱乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
【0030】
また、乾燥酵母の水分含有量は、特に限定されないが、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下である。
【0031】
また、乾燥酵母としては市販の乾燥酵母を用いてもよく、例えば、ビール酵母を脱苦味処理した乾燥酵母BY-G(キリン協和フーズ社製)等が挙げられる。
【0032】
また、酵母の粉末化方法は、湿式ガラスビーズ粉砕機等のガラスビーズによる粉砕機、マントンガーリン等の高圧粉砕機、気流粉砕機等の装置を用いる機械的処理が挙げられ、気流粉砕が好ましく用いられる。
【0033】
また、本発明に用いられる乾燥酵母粉末の平均粒径は、3〜10μmであることが好ましい。かかる平均粒径の乾燥酵母粉末は、効果的に飲食品の甘味を増強する上で有利である。なお、乾燥酵母粉末の平均粒径は、レーザー回折・散乱法を用いるレーザー回折式粒度分布装置を用いて当業者により適宜決定される。
【0034】
また、本発明の甘味増強剤は、乾燥酵母粉末をそのまま用いてもよいが、必要に応じて塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、脂肪酸等の酸、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン等のアミノ酸、ショ糖、ブドウ糖、糖蜜、メープルシロップ、蜂蜜、オリゴ糖、エリスリトール、トレハロース、マルチトール、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ソーマチン、グリセリン、サッカリン、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、スクラロース、ネオテーム等の甘味料、醤油、味噌、畜肉エキス、家禽エキス、魚介エキス、蛋白質加水分解物等の天然調味料、スパイス類、ハーブ類等の香辛料、デキストリン、各種澱粉等の賦形剤等の飲食品に使用可能な各種添加物を含有してもよい。
【0035】
本発明の甘味増強剤は甘味料を含有する場合、甘味調味料として用いることができる。
【0036】
本発明の甘味増強剤における乾燥酵母粉末の含有量は、特に限定されないが、例えば、10〜100質量%である。
【0037】
また、本発明の甘味増強剤を、甘味を有することが好ましい飲食品に、必要に応じて上述のような添加物とともに添加することにより、飲食品の甘味を増強することができる。
【0038】
本発明の甘味増強剤の飲食品への添加量は、特に限定されず、飲食品や他の添加物の種類等に応じて適宜決定してよいが、飲食品の質量全体に対して、乾燥酵母粉末として、好ましくは0.01〜0.5質量部となる量であり、より好ましくは0.1〜0.2質量部となる量である。
【0039】
飲食品としては、甘味を有することが好ましい飲食品であれば特に制限されず、例えば、卓上甘味料などの砂糖代替え食品、健康食品(例、タブレット剤)、ショ糖代替食品(例、シロップ)、果物の加工食品(例、フルーツ缶詰)、菓子類(例、ゼリー、羊羹、水羊羹、ガム)、氷菓、調味漬物類、調味料類(例、味噌、醤油、たれ類、麺つゆ類、食酢類)、水産加工食品(例、魚類の味付け缶詰、味付けのり、味付けわかめ)、飲料類(例、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、乳飲料)などが挙げられる。
【0040】
また、本発明の製造方法および本発明の甘味増強方法における乾燥酵母粉末の飲食品への添加方法は、特に限定されず、例えば、飲食品を製造する際に甘味増強剤を素材の一部として添加する方法、製品となっている飲食品に加熱調理、電子レンジ調理、真空調理等の処理を施す際に甘味増強剤を添加する方法、飲食品を摂食の際に甘味増強剤を添加する方法等を挙げることができる。
また、飲食品に使用可能な他の添加物の添加は、甘味増強剤の添加と同時であっても別々であってもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0042】
実施例1
ビール醸造工程から回収したサッカロマイセス属の泥状酵母および炭酸ナトリウムを用意し、泥状酵母1Lにつき炭酸ナトリウム100gの割合でそれらを水に添加し、得られる混合液を攪拌・分散させることによりアルカリ処理を行った。次に、得られる分散液をろ過し、残渣に冷水を添加し、遠心分離を行い、これらの操作を分散液のpHが8以下となるまでを繰り返した。次に、得られた物をドラムドライヤーで乾燥処理し、脱苦味乾燥酵母を得た。さらに、脱苦味乾燥酵母を気流粉砕機(セイシン企業社製)で気流粉砕し、脱苦味乾燥酵母粉末を得た。
脱苦味乾燥酵母の粉末の粒子径をレーザー回折粒度分布装置(日本レーザー(株)製)を用いて測定したところ、平均粒子径は3〜10μmであった。
【0043】
次に、6質量%の砂糖を含む砂糖水を用意し、これに対して脱苦味乾燥酵母および脱苦味乾燥酵母粉末をそれぞれ、砂糖水全質量に対して0.2質量%となる量添加した。
【0044】
得られた溶液の甘味について、訓練された15名のパネラーにより官能評価を行った。評価は、甘味が強いと感じた試験区を、パネラーに選択させることにより行った。各試験区について、甘味が強いと評価した人数を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すとおり、脱苦味乾燥酵母粉末を添加することにより、甘味が向上した。
【0047】
なお、脱苦味乾燥酵母または脱苦味乾燥粉砕酵母自体の甘味を確認するため、脱苦味乾燥酵母または脱苦味乾燥粉砕酵母の1質量%水溶液(砂糖無添加)の甘味について官能評価したところ、いずれも甘味はわずかに感じられたものの、両者間に有意な差は認められなかった。
【0048】
実施例2
牛乳中に砂糖を6質量%溶解した加糖牛乳を用意し、この加糖牛乳に対して実施例1記載の脱苦味乾燥酵母および脱苦味乾燥酵母粉末をそれぞれ、加糖牛乳全質量に対して0.2質量%となる量添加し、試験サンプルを得た。
【0049】
得られた試験サンプルの甘味および嗜好性について、訓練された15名のパネラーにより官能評価を行った。評価は、甘味項目では甘味が強いと感じた試験区を、嗜好性の項目では嗜好性の高い試験区を、パネラーに選択させることにより行った。それぞれの試験区および項目につき選択した人数を、表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すとおり、脱苦味乾燥酵母粉末を添加することにより、甘味および嗜好性が向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥酵母粉末を有効成分として含有する、甘味増強剤。
【請求項2】
前記乾燥酵母粉末の平均粒径が3〜10μmである、請求項1記載の甘味増強剤。
【請求項3】
前記乾燥酵母粉末が、乾燥酵母を気流粉砕して得られたものである、請求項1または2に記載の甘味増強剤。
【請求項4】
酵母を乾燥し、粉末化することを含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の甘味増強剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−100562(P2012−100562A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250159(P2010−250159)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(505144588)キリン協和フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】