説明

甘味検査方法および甘味検査用センサ膜

【課題】高感度に且つ高い選択性をもって甘味の検出が行えるようにする。
【解決手段】高分子材と、可塑剤と、カルボキシル基またはリン酸基を有し且つ疎水性部分を持つ弱酸性物質とが混合されてなる膜センサを、金属カチオンを含むアルカリ性の前処理液に浸漬して、その金属カチオンを膜センサの弱酸性物質との相互作用により膜表面に吸着させ、さらに、その膜センサを糖物質が含まれる被測定液に浸漬して、金属カチオンを糖物質との相互作用により膜表面から離反させて、膜電位を負方向に変化させるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味物質に対するセンサ膜の電位変化に基づいて味物質の検査を行う技術に関し、特に、甘味に対する検査を高感度に且つ選択的に行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
味物質に対する検査を行う技術として、脂質を含む膜センサが味物質に応答してその膜電位が変化することを利用した方法が知られている。
【0003】
膜センサは、センサの母体となる例えばPVCのような高分子材と、可塑剤と、味物質に対する応答を示す脂質とを所定の割合で混合して膜状にしたものであり、その膜電位を電極を介して出力する構造を有しており、脂質や可塑剤の材質、混合比などを選ぶことにより、味物質に対する応答が異なる特性の膜センサを構成することができる。
【0004】
味物質には、基本的に塩味、酸味、苦味、旨味、甘味を呈するものに分類されるが、これまで膜センサを用いた検査では、他の基本味物質に比べて甘味物質の感度と選択性が十分とは言えず、この甘味物質に対する感度と選択性の向上が要望されている。
【0005】
その一つの解決手段として、本願出願人は、高分子材、可塑剤、脂質からなる膜本体部を、多価フェノール酸や加水分解型タンニン酸などの多価フェノールによって表面修飾することで、甘味物質に対する感度と選択性が得られることを見出し、この知見に基づいて甘味物質の検査を行う方法を次の特許文献1において提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−217630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1において、膜本体部を多価フェノールによって表面修飾することで甘味物質に対する感度と選択性が得られることに対する論理づけが十分とはいえず、発明を利用する際の条件が限定的で応用性という点で不十分であった。
【0008】
本発明は、種々の実験に基づいて甘味物質に対する感度と選択性を向上させるための構造原理を論理的に導き、その原理に広く対応した甘味検査方法および甘味検査用膜センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の甘味検査方法は、
高分子材と、可塑剤と、カルボキシル基またはリン酸基を有し且つ疎水性部分を持つ弱酸性物質とが混合されてなる膜センサを、金属カチオンを含むアルカリ性の前処理液に浸漬して、該金属カチオンを前記膜センサの前記弱酸性物質との相互作用により膜表面に吸着させる段階と、
前記金属カチオンが吸着された前記膜センサを糖物質が含まれる被測定液に浸漬して、前記金属カチオンを前記糖物質との相互作用により膜表面から離反させ、膜電位を負方向に変化させる段階とを含むことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の請求項2の甘味検査用膜センサは、
高分子材と、可塑剤と、カルボキシル基またはリン酸基を有し且つ疎水性部分を持つ弱酸性物質とが混合されて膜状に形成されていることを特徴する。
【0011】
また、本発明の請求項3の甘味検査用膜センサは、請求項2記載の甘味検査用膜センサにおいて、
脂質を含んでいることを特徴する。
【0012】
また、本発明の請求項5の甘味検査用膜センサは、請求項3記載の甘味検査用膜センサにおいて、
高分子材PVC800mg、可塑剤DOPP1ml、脂質TDAB0〜1mg、弱酸性物質トリメリット酸30〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の甘味検査方法は、高分子材と、可塑剤と、カルボキシル基またはリン酸基を有し且つ疎水性部分を持つ弱酸性物質とが混合されてなる膜センサを、金属カチオンを含むアルカリ性の前処理液に浸漬して、その金属カチオンを膜センサの弱酸性物質との相互作用により膜表面に吸着させ、さらに、その膜センサを糖物質が含まれる被測定液に浸漬して、金属カチオンを糖物質との相互作用により膜表面から離反させて、膜電位を負方向に変化させるようにしているので、従来より高感度に且つ高い選択性をもって甘味の検出が行える。
【0014】
また、本発明の甘味検査用膜センサは、高分子材と、可塑剤と、カルボキシル基またはリン酸基を有し且つ疎水性部分を持つ弱酸性物質とを混合して膜状に形成しているから、この膜センサを金属カチオンを含むアルカリ性の前処理液に浸漬して、その金属カチオンを膜センサの弱酸性物質との相互作用により膜表面に吸着させ、さらに、その膜センサを糖物質が含まれる被測定液に浸漬して、金属カチオンを糖物質との相互作用により膜表面から離反させて、膜電位を負方向に変化させる測定方法を用いることで、従来より高感度に且つ高い選択性をもって甘味の検出が行える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の甘味検出原理を説明するための図
【図2】甘味検出のための膜センサの構造例とシステム図
【図3】膜センサに含有させる弱酸性物質(甘味応答物質)の種類、含有量および測定結果を示す図
【図4】弱酸性物質(甘味応答物質)としてトリメリット酸を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図5】図4の測定結果を3次元グラフで示した図
【図6】基本味に対する従来センサと実施例センサとの応答の違いを示す図
【図7】甘味度既知の糖溶液に対する実施形態の膜センサの応答と甘味度との相関を表す図
【図8】蔗糖溶液に対する測定結果
【図9】ぶどう糖溶液に対する測定結果
【図10】果糖溶液に対する測定結果
【図11】ラフィノース溶液に対する測定結果
【図12】イソマルトオリゴ糖溶液に対する測定結果
【図13】人口甘味料溶液に対する測定結果
【図14】脂質をTOMAに変えた時の蔗糖溶液に対する測定結果
【図15】糖の水酸基の数と応答電位の関係を示す図
【図16】糖の水酸基の数と応答電位の関係を示す図
【図17】前処理液の成分と応答電位の関係を示す図
【図18】前処理液の塩化物の有無による応答電位の関係を示す図
【図19】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図20】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図21】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図22】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図23】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図24】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図25】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図26】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図27】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図28】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図29】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図30】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図31】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図32】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図33】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図34】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【図35】トリメリット酸以外の弱酸性物質(甘味応答物質)を用いた場合の脂質との含有比に対する応答の違いを示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
始めに、本発明の甘味検査方法の原理について説明する。
本願発明者は、従来の味検査用の膜センサの基本的な含有成分を構成する高分子材(PVC)、可塑剤(DOPP)、脂質(TDBA)(脂質無しの場合も含む)だけでなく、カルボキシル基あるいはリン酸基を有する弱酸性物質を混合して形成した膜センサを用い、前処理段階で金属カチオンを有するアルカリ性の前処理液に漬けてから被測定液の検査をすることで、前記特許文献1に開示の膜センサを用いた場合よりも高い感度と選択性をを以て甘味検査ができることを見出した。
【0017】
その実験データについては後述するが、その実験データから、甘味を高感度に且つ選択的に検出できることの根拠が明確となった。以下、それについて説明する。
【0018】
図1は、本発明の甘味検査方法の原理を模式的に示すものであり、始めに、PVC等の高分子材と、DOPP等の可塑剤と、トリメリット酸等のようにカルボキシル基(またはリン酸基)を有し且つ疎水性部分を持つ弱酸性物質とが所定の混合比で混合されてなる膜センサを用意する。
【0019】
ここで、後述するように脂質自体は甘味に対する応答にほとんど関与していないので、主たる甘味応答物質である弱酸性物質(図1でR-COOと記す)に関して説明する。
【0020】
弱酸性物質を含有した膜センサを、K(カリウム)やNa(ナトリウム)等の金属カチオンを含むアルカリ性の前処理液に数分間浸漬すると、金属カチオン(K)と膜センサの弱酸性物質との相互作用により、金属カチオン(K)が膜表面に吸着する(a)。
【0021】
そして、この金属カチオンが吸着された膜センサを軽く洗浄して、余分な前処理液を除いて、糖物質が含まれる被測定液に浸漬する(b)。
【0022】
このとき、膜表面に吸着していた金属カチオンと糖物質の水酸基と相互作用により、金属カチオンが膜表面から離反し、膜センサの電位を負方向に変化させる(c)。
【0023】
上記原理が妥当性を有していることは、後述するように、膜センサに含有する弱酸性物質の材質や含有比を種々変えても甘味に対する高い応答性が得られること、金属カチオンの元になる塩化物、ヨウ化物、臭化物について、金属カチオンの違いによる応答の変化はあるが、アニオン側(塩素、ヨウ素、臭素)の種類が変わっても応答の変化はほとんど確認できないこと等から明らかである。以下、その実験結果について説明する。
【0024】
まず、膜センサの組成に関しては、高分子材としてPVC800mg、可塑剤としてDOPP1mlに、後述の図3に示した弱酸性物質(甘味応答物質)と脂質TDAB(テトラドデシルアンモニウムブロミド)を混合して、従来方法、即ち、溶剤として10mlのTHF(テトラヒドロフラン)を用いて溶解し、ガラスプレートの上に膜状に拡げて溶剤を揮発させて厚さ200μmの膜本体を形成する。
【0025】
図2は、実際の膜センサ100、参照電極200の構造例および測定システムを示すものであり、膜センサ100は、ガラスのような絶縁体の筒体101の側面に設けられた穴を塞ぐように外表部に膜本体102を固定し、筒体101内部に、電解質KCl、AgClの混合液を寒天で固めた緩衝層103と、導電体Ag/AgClからなる電極104を設け、膜本体102の裏面の一部が緩衝層103に接する構造とし、膜本体102の電位を緩衝層103および電極104を介して外部へ出力できるようにしている。なお、膜センサの構造は前記特許文献1の図7、図8に示されているように、筒型のもの以外に、基板上の電極の上に膜本体が重なる構造であってもよい。
【0026】
また、参照電極200は、膜センサ100の電位の基準値Vaを出力するためのものであり、膜センサ100と参照電極200とを一定間隔で、測定対象液の入った容器300に浸漬し、参照電極200の出力Vaを膜センサ100の出力Vbとともに電圧検出回路301に与え、Vb−Vaの電圧をサンプル液に対する膜センサ100の応答電圧Vxとして得て、A/D変換器302によりデジタル値に変換してコンピュータからなる演算処理装置303に与え、電圧の演算処理や記憶処理などを行わせている。なお、実際の測定結果は、基準液の測定値に対する被測定液の測定値との差(相対値)である。
【0027】
参照電極200は、膜センサ100から、筒体101、膜本体102を除いた構造、即ち、電解質KCl、AgClの混合液を寒天で固めた緩衝層203と、導電体Ag/AgClからなる電極204を有し、緩衝層203の表面の電位を電極204を介して出力する。
【0028】
図3の測定結果は、上記構造の膜センサと参照電極を用いるとともに、被測定溶液を濃度300mM、1Mの蔗糖溶液とし、金属カチオンを含むアルカリ性の前処理液を、100mMのKCl、10mMのKOH、30%エタノールからなるpH12.5の混合液とし、この前処理液に浸漬する前に、基準液(1mM KCl)に浸漬し、そのときの測定値Vx1と、被測定溶液に浸漬した時の測定値Vx2との差Vx2−Vr1を被測定溶液に対する膜センサの応答電位としている。なお、被測定溶液には、支持電解質として30mMのKClと、pH調整のための0.3mMの酒石酸が含まれ、pHは約3.4に調整されている。
【0029】
図3のNo.2〜5の甘味応答物質は、カルボキシル基を有し、疎水性部を有する弱酸性物質であるが、特許文献1において膜本体部に測定前に修飾する際に用いられた多価フェノールに分類されるものである。また、No.1のトリメリット酸、No.6〜29の各甘味応答物質は非多価フェノールであり、カルボキシル基を有し、且つ疎水性部を有する弱酸性物質である。
【0030】
また、No.30、31の甘味応答物質は、リン酸基を有し、且つ疎水性部を有する弱酸性物質である。
【0031】
この図3に示した甘味応答物質が混合された膜センサで、上記方法を用いて測定した結果を見れば明らかなように、30mM濃度の蔗糖溶液と1M濃度の蔗糖溶液の応答電圧(mV)の絶対値は、濃度の大小に正しく相関していることがわかる。
【0032】
この結果から、少なくとも、非多価フェノールで、カルボキシル基またはリン酸基を有し、疎水性部を有する弱酸性物質を含む膜センサを用いて上記方法で甘味検査を行うことで高感度な測定ができると言える。
【0033】
また、No.2〜5の多価フェノールの弱酸性物質を含む膜センサの場合も、膜本体部を表面修飾したものと、これらの弱酸性物質を混合して一体的に製造された膜センサとは甘味検出の原理の同一性は証明されないので、新規性、進歩性を有している。
【0034】
次に、上記した弱酸性物質(甘味応答物質)としてトリメリット酸を用いた場合のより詳細な特性について説明する。
【0035】
トリメリット酸と脂質TDABの含有量を変化させた場合の蔗糖溶液に対する応答電位の測定結果を図4、図5に示す。なお、図4は測定結果を数値で示しており、図5はその結果を3次元グラフで表示したものである。
【0036】
この結果から、傾向的に、脂質TDABの含有量が少ない領域(ゼロも含む)で高い応答電位が得られ、トリメリット酸については100mg前後で高い応答電圧が得られることがわかる。
【0037】
また、図4、図5に示した広い範囲で実用的な感度は得られているが、この範囲の中で、特に、脂質TDAB1.0mg以下(0も含む)、トリメリット酸80〜120mgの範囲で含有する膜センサの応答性は高く、より高感度な検査が行える。
【0038】
次に、上記範囲のうち、トリメリット酸100mg、脂質TDAB1mgを含有する膜センサの各味に対する応答を測定した結果を図6のグラフに示す。なお図6において、「GL1」はトリメリット酸100mg、脂質TDAB1mgを含有する上記実施形態の膜センサの特性であり、「GL0」は、特許文献1で開示した没食子酸で膜本体を表面修飾した場合の膜センサの特性である。
【0039】
図6の測定結果から明らかなように、実施形態の「GL1」の膜センサでは、薄い蔗糖溶液に対する応答電位が従来の「GL0」の膜センサより格段に大きく、従来甘味との区別が困難な旨味に対する感度が非常に小さくなっている。
【0040】
なお、塩味、酸味については従来の「GL0」の膜センサより応答電位が高くなっているが、塩味や酸味に関してはそれぞれ選択性の高い膜センサによる検査が可能であるから、その識別がより困難な旨味に対する選択性が高いことが大きなメリットとなる。
【0041】
図7は、既知の甘味度の種々の糖物質溶液に対する上記実施形態の「GL1」の膜センサの応答値の対比(a)と、その相関性を調べたグラフ(b)を示している。
【0042】
この図7から、この実施形態の膜センサは既知の甘味度と高い相関性を有していることがわかる。
【0043】
また、図8〜図12は、異なる種類の糖溶液の濃度に対する上記実施形態の膜センサの応答を測定したものであり、図8は蔗糖(スクロース)、図9はぶどう糖(グルコース)、図10は果糖(フルクトース)、図11はラフィノース(オリゴ糖)、図12はイソマルトオリゴ糖を、純水または基準液(30mM KCl+0.3mM 酒石酸 pH3.5)に溶かしたサンプル液を用いている(濃度は重量パーセントである)。
【0044】
この測定結果から、実施形態の膜センサは、いずれの糖溶液に対しても、その濃度に応じた応答電圧が得られることがわかる。
【0045】
図13は、人口甘味料であるアセスルファムカリウム(甘味度200)とサッカリンナトリウム(甘味度500)を前記基準液に溶かしたサンプル液の濃度を、10パーセント蔗糖、30%蔗糖の溶液と同じ甘さとなるように調整して測定した結果を示すものであり、蔗糖溶液とほぼ等しい測定結果が得られているので、実施形態の膜センサは、人口甘味料に対する甘味検出も行えることがわかる。
【0046】
なお、膜センサに含ませる脂質の材質については上記TDABに限定されない。従来から膜センサに用いる脂質として知られているTOMA(トリオクチルメチルアンモニウムクロリド)を用いた測定結果を図14に示す。
【0047】
この測定結果から、膜センサに含ませる脂質としてTOMAを用いた場合でも、十分高い応答電位が得られることがわかる。
【0048】
次に、上記した測定原理の妥当性を検証するための測定結果を示す。
まず始めに、上記原理では、膜センサに吸着していた金属カチオンと被測定液の糖の水酸基とが作用して応答電位が得られるとしているから、糖の水酸基数によって感度が変わる筈である。
【0049】
図15、図16はそれを如実に示す測定結果であり、図15は、水酸基の数が1〜6までの以下の糖物質、
番号1 エタノール(水酸基数1)
番号2 エチレングリコール(水酸基数2)
番号3 グリセロール(水酸基数3)
番号4 エリスリトール(糖アルコール)(水酸基数4)
番号5 キシリトール(糖アルコール)(水酸基数5)
番号6 ソルビトール(糖アルコール)(水酸基数6)
の30mM溶液を実施形態の膜センサで測定した結果である。
【0050】
また、図16は、水酸基が5、8、11の以下の糖物質、
番号1 フルクトース(単糖類 水酸基数5)
番号2 グルコース(単糖類 水酸基数5)
番号3 ラクトース(二糖類 水酸基数8)
番号4 マルトース(二糖類 水酸基数8)
番号5 蔗糖(二糖類 水酸基数8)
番号6 トレハロース(二糖類 水酸基数8)
番号7 ラフィノース(三糖類 水酸基数11)
の30mM溶液を実施形態の膜センサで測定した結果である。
【0051】
これらの図から明らかなように、糖物質の水酸基数に対応して応答電位が大きくなっていることが明確にわかる。また、図示しないが、2−デオキシグルコース、キシロース、ガラクトース、2−デオキシガラクトース、マンノース、リキソース等の糖物質についても同様の測定結果を得ている。
【0052】
次に、アルカリ性の前処理液について、上記例では、10mMのKOH、100mMのKCl、30%エタノールからなるpH12.5の混合液としていたが、他の成分でも実用的な感度が得られることを確認している。
【0053】
図17は、前処理液の成分とその測定結果を示すものであり、番号1は前記した10mMのKOH、100mMのKClの組合せ、番号2は10mMのLiOHと100mMのLiClの組合せ、番号3は10mMのNaOHと100mMのNaClの組合せ、番号4は10mMのCa(OH)と100mMのCaClの組合せ、番号5は1%のTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)と100mMのKClの組合せである。
【0054】
この測定結果から明らかなように、金属カチオンを含むアルカリ性の前処理液を用いることで甘味に対する応答が得られ、特に、上記番号1以外に、番号3のNaOHとNaClを組合せたものや、番号5のTMAHとKClを組合せたものは高感度が得られている。
【0055】
なお、上記検出原理から明らかなように、KCl、NaCl等の塩化物を含まない(つまり電離によって発生するK、Na等の金属カチオン)液体を、前処理液に用いても甘味に対する感度が得られないことを確認している。
【0056】
図18は、上記応答性が高いと思われる3種類の前処理液と、それから塩(塩化物)を省いた前処理液を用いた場合の測定結果を示している。
【0057】
この測定結果から、前処理液の塩化物が含まれない前処理液で実用的な感度が得られず、この塩化物が甘味の応答に大きく関与していることがわかる。
【0058】
また、測定結果は省略するが、上記塩化物以外の例えばヨウ化物(KI、NaI)や臭化物(KBr、KI、NaBr)であっても、金属カチオンを持つ化合物であれば前処理液としていずれも甘味検出に十分な応答が得られており、塩素、ヨウ素、臭素等のアニオンの種類に甘味応答は影響を受けないことが確かめられている。
【0059】
このような実験結果から、前記検出原理の通り、糖物質の水酸基と、前処理液の金属カチオンとの作用により甘味応答が得られることが裏付けられている。
【0060】
上記実施形態の膜センサは、甘味応答に大きく関与している弱酸性物質としてトリメリット酸を用いていたが、図3に示した明記した測定結果から、トリメリット酸以外に少なくとも図3に提示したカルボキシル基あるいはリン酸基を有する弱酸性物質を含有する膜センサについても、甘味に対する高い感度と選択性が認められる。
【0061】
この点について図3では、含有比の代表値のみを記載しているが、実際にはさらに多くの含有比で実験を行っており、図3の含有比に限定されない範囲で、甘味に対する高感度と選択性が認められている。
【0062】
その一部の測定結果を図19〜図35に示す。これらの測定結果は、脂質TDABと弱酸性物質(甘味応答物質)の含有量を変えたときの蔗糖300mM溶液に対する膜センサの応答であり、いずれの場合も図3に示した含有比だけでなくその近傍でも十分高い応答が得られていることがわかる。
【0063】
このように、カルボキシル基あるいはリン酸基をもち且つ疎水性を有する弱酸性物質の多くのものにおいて低濃度の甘味に対する高い感度と選択性(特に旨味に対する高い識別性)が得られ、しかもその応答原理も明らかであるから、図3に示した弱酸性物質以外であっても、カルボキシル基あるいはリン酸基をもち且つ疎水性を有するものであれば、本発明の甘味検出に用いる膜センサに有効である。
【符号の説明】
【0064】
100……膜センサ、101……筒体、102……膜本体、103……緩衝層、104……電極、200……参照電極、203……緩衝層、204……電極、300……容器、301……電圧検出回路、302……A/D変換器、303……演算処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材と、可塑剤と、カルボキシル基またはリン酸基を有し且つ疎水性部分を持つ弱酸性物質とが混合されてなる膜センサを、金属カチオンを含むアルカリ性の前処理液に浸漬して、該金属カチオンを前記膜センサの前記弱酸性物質との相互作用により膜表面に吸着させる段階と、
前記金属カチオンが吸着された前記膜センサを糖物質が含まれる被測定液に浸漬して、前記金属カチオンを前記糖物質との相互作用により膜表面から離反させ、膜電位を負方向に変化させる段階とを含むことを特徴とする甘味検査方法。
【請求項2】
高分子材と、可塑剤と、カルボキシル基またはリン酸基を有し且つ疎水性部分を持つ弱酸性物質とが混合されて膜状に形成されていることを特徴する甘味検査用膜センサ。
【請求項3】
脂質を含んでいることを特徴する請求項2記載の甘味検査用膜センサ。
【請求項4】
高分子材PVC800mg、可塑剤DOPP1ml、脂質TDAB0〜1mg、弱酸性物質トリメリット酸30〜120mgの割合で含まれていることを特徴とする請求項3記載の甘味検査用膜センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate


【公開番号】特開2012−251832(P2012−251832A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123659(P2011−123659)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(502240607)株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー (10)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)