説明

甜菜の紙筒育苗において施肥量を減らす方法

【課題】甜菜の紙筒育苗において、苗質を低下させないで育苗培地への施肥量を減らす方法を提供する。
【解決手段】甜菜の紙筒育苗において、擂潰籾殻を育苗土壌と混合し、それに肥料を混合してなる育苗培地を使用することで、甜菜の苗質(特に甜菜の主な利用部位である根部生重)を育苗土壌に標準施肥量(甜菜紙筒60冊の培地あたり肥料50.0kg)を施肥した培地を使用した場合よりも低下させることなく施肥量を減らすことができ、かつ、育苗培地全体の軽量化も図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は擂潰籾殻を主成分とした甜菜用の紙筒用育苗培地及びこれを使用した紙筒による甜菜の育苗方法並びに甜菜苗に関する。
【背景技術】
【0002】
1998年の北海道の甜菜栽培面積は70,000haで、その96%で紙筒移植栽培が行われている。移植栽培のために必要な、1ha分紙筒60冊当たりの育苗土壌の容量は、2.5mで、北海道全体では16.8万mに及ぶ。移植栽培では、3月中旬に育苗肥料添加の育苗土壌を充填した紙筒に甜菜種子を播種し、ビニ−ルハウス内で45日前後育苗を行い、4月下旬から5月上旬に本畑に移植している。甜菜は砂糖を集積する地下部を利用する作物であることから、育苗筒は深く、紙筒1本の形状は口径19mm、長さ130mmで、容量は30mlあり、これを1,400本綴って1冊としている(非特許文献1)。育苗土壌充填後の重量は、使用土壌の容積重の大小により幅があるが、50kgから60kgあり、1人で持つことが出来ない(表1)。
【0003】
【表1】

【0004】
毎年離農者がいることから、一戸当たりの甜菜耕作面積が年々増加し、1998年の北海道における平均耕作面積は5.7haとなり、14.2mの育苗土壌が必要で、移植直前に通常行う潅水後の紙筒苗の総重量は17tに及ぶ。現在、大部分の農家は自分の畑土壌を採取して培地土壌を確保しているが、その採取、運搬、砕土、篩い分け等の培地調整に多くの労力を必要としている。更に、農家の高齢化が進んでおり、土詰播種済みの紙筒を購入して育苗を行う農家、紙筒苗を購入して移植をする農家等、育苗に伴う作業の省力を選択する農家が増加している。一方、播種、育苗を請負う育苗センタ−や農家では育苗土壌の確保が年々困難になっている。又、甜菜苗を育苗した後、圃場に移植する際、苗の運搬時及び移植機で移植する時、円筒の紙筒から充填されている培地土壌が落下することが頻繁にあり、苗の細根を損傷する原因になっていた。この為、苗の生長が遅れたり、病気の原因になったりした。
【0005】
これまで甜菜育苗培地の土壌改良を目的に、調整泥炭やパ−ライトなどの土壌改良材が検討され、市販されているが、甜菜の紙筒苗用として擂潰籾殻を培地素材として検討されたことはなかった。甜菜の場合、水稲や野菜等に比べ、面積当たりの収益率が低く、既販の培地及び培地素材の利用は経済的に使えない。同じ籾殻の処理物である籾殻燻炭も広く育苗培地素材として使われているが、甜菜の紙筒育苗用には必要量が多いため、主成分としては経済的に使えない状況にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「甜菜の紙筒移植栽培」、増田昭芳 著、財団法人北農会、1996年、101〜104頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、培地土壌の使用量を軽減し、紙筒による甜菜の栽培に適した育苗紙筒用の育苗培地素材の創出とその素材を使用した甜菜の育苗方法、並びに紙筒苗に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、甜菜の育苗培地に適した素材を種々検討の結果、容積重が小さく(軽く)、安価で量の確保が容易で、成分が均一であること、容易に必要な粒度に処理ができ、他の培地成分と良く混り、適度な保水性を持つこと、稚苗の生育に有害な成分や微生物を含まず、育苗中の苗に悪影響を及ぼすような発酵がない甜菜の紙筒用育苗培地を新たに見出した。
【0009】
数種類の育苗培地素材について種々検討の結果、擂潰籾殻を主成分とする育苗培地であって、その擂潰籾殻の含水分が20から30%であるものが、甜菜の育苗に最適であることが判明した。又、擂潰籾殻の全培地に対する容量割合が25から75%のものが培地としてより適当である。本発明に使用する擂潰籾殻は、未発酵の籾殻を市販の籾殻擂潰装置で、擂潰して、その籾殻の飽和容水量が110から140g/100ml籾殻の籾殻が本発明には適当である。
【0010】
この擂潰装置は、籾殻が凸状のロ−タ−(雄型)と凹状のハウジング(雌型)の「する作用」と「つぶす作用」を受けながら、籾殻表面のガラス質層が傷つき、細粉されるので、本来籾殻が持っている撥水性が失われ、籾殻表面からの吸水が旺盛となり容水量(保水性)が高くなる。ハンマ−ミルによる細粉籾殻は、粒度が細か過ぎ、充填量が多くなるために培地重量が育苗土壌並に重くなる。紙筒育苗の要点は、苗歩留に直結する種子の高発芽率を維持し、利用部位である主根を健全に育成することである。発芽期の培地水分を適切に維持することは極めて重要であり、擂潰籾殻に予め水を添加し、吸水割合が20〜30%であることが必要である。また、擂潰籾殻の塩基交換容量が育苗土壌に比べて少ないために、肥料成分の保持能力が少なく、育苗専用肥料を標準量施肥すると電気伝導度が上昇し(表6)、発芽率が低下し、根の生育を抑制することから(表7)、擂潰籾殻を主成分とする培地では施肥量を標準の半量とする必要があるが、苗の生育と3要素含有率からみて、半量の施肥で問題はない(表7)。なお、籾殻にはカリウムが多く含まれるため、擂潰籾殻培地系列のカリウム含有率が高くなっている(表7)。本発明は、甜菜の移植栽培用紙筒を使う育苗において、擂潰籾殻を主成分として、育苗土壌(水分20から30重量%程度)や調整泥炭、育苗肥料等の他の育苗培地成分と混合使用することにより、所要の育苗培地の確保を容易にし、北海道で毎年多量に排出している籾殻の有効利用をも計るものである。本発明の育苗培地はキャベツなどのブロック苗の育苗にも好適であり、ここで育苗された苗は培地でしっかりブロックされ、移植時の培地の崩落を完全に防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
甜菜の紙筒移植の育苗培地用として、通常、農家は自分の畑から育苗土壌を採取しているが、本擂潰細粉籾殻を甜菜紙筒育苗培地の主成分とすることにより、採土量を減らすことができる。今後一層増加すると見込まれる、移植苗の育成を請け負う育苗センタ−や農家の培地確保を容易にすることができる。更に、擂潰籾殻が吸水膨張する性質があるため、移植機による移植の際に、培地土壌の落下や、紙筒の中折れが少なくなり、移植をより一層高速で行え、能率を上げることができる。更に、擂潰細粉籾殻は保水量が大きいために、移植本畑の土壌が乾燥していてもその影響が少なく、苗の活着が良くなり欠株が少なくなる。以上のように、本育苗培地を使用した紙筒による育苗は甜菜の育苗に最適である。又、籾殻は毎年、北海道においても多量に出ており、これを北海道の輪作基幹作物である甜菜の生産に有効活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施例について述べる。
【実施例1】
【0013】
未発酵の籾殻(水分約10%)を市販の籾殻擂潰装置(株式会社 北川鉄工 ミルクル・ミニ GMG 150型)で作成。その籾殻の容積重と塩基性交換容量を表2に、その粒度分布を表3に示す。
【0014】
【表2】

【0015】
【表3】

【実施例2】
【0016】
擂潰籾殻の吸水割合が甜菜の発芽率に及ぼす影響について調査した。実施例1の擂潰装置で擂潰籾殻を5L×4個作成しながら擂潰籾殻5Lに対して水0、1、1.25、2Lをそれぞれ噴霧し、均一に混合した結果、飽和容水量の内吸水割合が0、20、30、40%分の擂潰籾殻が得られた。尚、水添加前の擂潰籾殻の容積重は37g/100mlであった。このそれぞれの吸水割合の擂潰籾殻を育苗土壌(乾性火山灰土:水分25.6%)と60対40の容積割合で混合した培地で紙筒による甜菜の育苗試験を行い発芽率を調査した。その結果を表4に示す。
【0017】
【表4】

【実施例3】
【0018】
甜菜紙筒苗の軽量化を目的に種々の培地素材と育苗土壌(乾性火山灰土:水分26.2%)及び紙筒育苗専用肥料(苦土、ほう素、マンガン入りビート育苗複合肥料1号、北海道日産化学製)(25kg/紙筒60冊)とを容量割合で混合し培地を作成し、甜菜の育苗調査を実施した。尚、使用した擂潰籾殻は実施例2で作成したと同様な作成法で作成した吸水割合25%の擂潰籾殻である。その結果を表5に示す。甜菜の育苗として指数90以上が満足できる値である。
【0019】
【表5】

【実施例4】
【0020】
実施例2で作成したのと同様な作成法で作成した吸水割合25%の擂潰籾殻を60%、育苗土壌(乾性火山灰土:水分25.5%)を40%を容量割合で混合し、それに紙筒育苗専用肥料の施肥量を変え添加した培地による育苗試験を実施した。その培地の水溶液のpHとECを測定した結果を表6に示す。又、その培地を使用して甜菜の紙筒による育苗試験結果を表7に示す。
【0021】
【表6】

【0022】
【表7】

【実施例5】
【0023】
実施例2で作成したのと同様な作成法で作成した吸水割合25%の擂潰籾殻を容量で60%に対し、a.育苗土壌を40%混合、b.育苗土壌20%+調整泥炭20%、c.調整泥炭40%、d.調整泥炭20%+樹皮堆肥20%をそれぞれ混合した4つの培地に、対照として土壌100%の培地を準備し、土壌100%には、紙筒育苗専用肥料を慣行量である1ha分紙筒60冊の培地当たり50kgを、擂潰籾殻を主成分とする4つの培地には半量の25kgをそれぞれ添加した。これらを紙筒に充填後、慣行方法で甜菜種子を播種、覆土をして通常に管理し、40日後に苗の生育を調査した。その結果を表8に示す。その結果、擂潰籾殻を主成分とする培地のなかで、樹皮堆肥を含む培地では育苗土壌100%処理より発芽率と苗質が低下したが、その他の培地では差がなかった。尚、育苗土壌は乾性火山灰土(水分25.6%)を使用。
【0024】
【表8】

【実施例6】
【0025】
飽和容水量130g/100mlで、吸水容水量25%の擂潰籾殻を容量で60%に対し、清川原土育苗土壌を40%混合し、対照として清川原土100%の培地を準備し、土壌100%には、紙筒育苗専用肥料を慣行量である1ha分紙筒60冊の培地当たり50kgを、擂潰籾殻を主成分とする培地には半量の25kgをそれぞれ添加した。これらを紙筒に充填後、慣行方法でキャベツ種子を播種、覆土をして通常に管理し、40日間育苗し、この苗を移植機で紙筒をはがしながらブロックで50cm下の土壌に落下させ、ブロックが崩壊しないかどうかを調査した。その結果を表9に示す。その結果、本発明品はブロック残留率において優れていることがわかった。
【0026】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
甜菜の紙筒育苗において施肥量を減らす方法であって、擂潰籾殻を育苗土壌と混合し、それに肥料を混合してなる育苗培地を使用することを特徴とする、甜菜の苗質が低下しない施肥量軽減方法。
【請求項2】
擂潰籾殻を容積割合が50%以上で育苗土壌と混合することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
擂潰籾殻を容積割合が50〜75%で育苗土壌と混合することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
吸水割合20〜30%の擂潰籾殻を使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
施肥量軽減が、標準施肥量である紙筒60冊の培地あたり肥料50.0kgの25〜50%軽減するものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
施肥量軽減が、標準施肥量である紙筒60冊の培地あたり肥料50.0kgの半量軽減するものであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
苗質が、根部生重であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2010−4894(P2010−4894A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235608(P2009−235608)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【分割の表示】特願2000−46572(P2000−46572)の分割
【原出願日】平成12年2月23日(2000.2.23)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】