説明

甜菜ペクチンを含有するパン組成物

水、食塩、イースト、小麦粉、及び甜菜ペクチンを含有する食品用組成物を開示する。また、フェルラ酸架橋結合を形成する方法であって、フェルラ酸源を用意し;グルテンを含有する小麦粉源を用意し;フェルラ酸源及び小麦粉源を混合して、生地を形成し;及び生地をベーキングに供し、これによって、フェルラ酸源とグルテンとの間で、フェルラ酸架橋結合を形成することを特徴とするフェルラ酸架橋結合の形成法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
パンは、今日、世界で最も広く消費されており、ほぼすべての文化及び環境の人々によって世界中で味わわれている食品の1つである。パンは、少なくとも石器時代以降、ヒトによって消費されてきており、早くから多くの改良を受けてきたが、今日、我々が知っているパンは、過去数千年と同じく、4つの基本成分、すなわち、小麦粉、水、食塩及びイーストからなる。
【背景技術】
【0002】
近年では、パンの科学が迅速に進歩し、パン製造及びバン処方は、ますます、洗練されたものとなっている。詳しくは、パン、特に、商業的規模で製造されるパンの質を向上させるために、広範囲の新たなパン添加剤が開発されている。例えば、酵素は、パンの混合、プロセッシング、ベーキングの初期段階におけるプロセッシング助剤として働くようなパン添加剤の1つであるが、製品のテキスチャー及び柔らかさを改善するアミラーゼのような熱安定性形で存在する。他の酵素も、同様に、パンの腐敗の開始を遅らせ、これによって、パンの棚寿命を延長させるような重要な役割を果たす。パンのレシピ及び処方に含まれる酵素及び他の添加剤は、パンの製造業者及び消費者の両方に対して有意義な利点をもたらす。パンの製造業者については、これらの添加剤は、パンのプロセッシング及び製造を支援し、同時に、焼く上がりのパンの体積を増大させる。消費者については、これら添加剤により、パン製品が、良好な柔らかさを有し、脂肪と似た口当たり及びテキスチャーを有するなど一層機能強化されていることである。
【0003】
多糖は、パンだけでなく、飲料及び飲料添加剤、ジャム、ゼリー、プレザーブ及び他の食品など各種の食品において、長い間使用されてきた特別なパン添加剤である。多糖は、テキスチャー、口当たり、及びレオロジーの制御のような、重要な食品添加剤の機能を提供する。注目すべき多糖としては、カラギーナン、キサンタンガム、ゲランガム、アラビヤゴム、及びペクチンがある。ペクチン、特に、高エステルペクチン(又はHM-ペクチン)は、特に重要な多糖であり、この高エステルペクチンは、そのカルボキシル基の少なくとも50%がメチル化されており、最も一般的には、柑橘類の皮から抽出される。HM-ペクチンは、パンにおいて使用されており、パンでは、極めて広範囲の利点、例えば、水分の結合及び吸着、パン体積の増大、パンへの魅力的及び食欲をそそる柔らかなテキスチャーの付与を提供する。さらに、これらのHM-ペクチンは、パンに保持される空気の量を増大させる。保持される空気の量が多ければ多いほど、パン内の気泡の数が多いほど、より長い棚寿命を有し、改善された柔らかさ及びテキスチャーを有するパンが生成される。
【0004】
これらの従来のHM-ペクチンは、パン添加剤として、特に効果的かつ有益であり、パンのレシピ及び処方における重要性は、更なるパフォーマンスの改善が、消費者(より良好なテキスチャーを持つ、長持ちするパンを入手できる)と共に、パンの製造業者(彼らにとっては、より大きな体積及び処理の容易性によって、パン製品が、より収益の高いものとなる)の両者にとって高度に有益であることにある。従って、当技術分野では、改良されたペクチンについての継続した需要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水、食塩、イースト、小麦粉、及び甜菜ペクチンを含有する食品組成物を包含する。
【0006】
本発明は、フェルラ酸架橋を形成する方法であって、フェルラ酸源を用意し;グルテンを含有する小麦粉源を用意し;フェルラ酸源及び小麦粉源を混合して、生地を生成し;及び生地をベーキングに供し、これによって、フェルラ酸源とグルテンとの間で、フェルラ酸架橋を形成する各工程を包含することを特徴とするフェルラ酸架橋の形成法も包含する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書において使用するすべての「部」、「%」及び比は、他に特定しない限り、質量基準である。
【0008】
本発明は、パン組成物における使用のための甜菜ペクチンを含有するパン組成物を対象とするものである。現代のパン添加剤と同様に、パンの基本成分、例えば、小麦粉、食塩、水及びイーストと共に、パン組成物に含まれる場合、結果として、増大された体積を有し、より柔らかであり、良好なテキスチャーを有し、及び新鮮さが持続するパン製品が得られる。この甜菜ペクチンを、より詳細に記載する。この甜菜ペクチンは、パン製品用のレシピ全般について配合される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
甜菜ペクチン多糖
【0010】
甜菜ペクチンは、甜菜精製の副生物である使用済み甜菜パルプ(又は繊維)から抽出される。精製後、残留ペクチン物質の抽出用オフサイトプラントに移送される前に、甜菜パルプ原料を、洗浄又は乾燥するか、又は洗浄及び乾燥の両方に供する。これらの選択肢のいずれを使用するかにかかわらず、ペクチンは、従来の方式で、甜菜パルプからのペクチンの液抽出(代表的には酸性pHにおいて)、液状甜菜エキスの精製、及び液状エキスからの抽出ペクチンの単離の3工程法によって、甜菜パルプから調製される。このようなペクチン獲得及び精製プロセスの実施、操作及びメンテナンスは、当業者によく知られている。
【0011】
本発明の甜菜ペクチンを含有するパン製品は、柑橘類植物原料から製造されたペクチンを含有するパン製品と比べて、多少増大された焼き上がりパン体積、よりソフトなテキスチャー及びより良好な抗老化特性を有する。この改善された特性を提供する甜菜ペクチンの重要な特性は、甜菜ペクチンが、柑橘類パルプ又は繊維から抽出されるペクチンでは見られないフェルラ酸を含有することである。甜菜ペクチンは、フェルラ酸約0.6〜約3質量%を含有する。フェルラ酸の効果を、下記において詳述する。
【0012】
本発明のパン組成物は、甜菜ペクチン約0.03〜約1.2質量%、好ましくは、約0.05〜約0.65質量%を含有する。使用時、ペクチンは、小麦粉、水、食塩及びイーストの4つの基本成分を含むパン組成物に添加される。
【0013】
4つのパン基本成分
【0014】
パンでは、小麦粉が主成分である。小麦粉は、小麦穀物を複雑な製粉処理に供した最終製品である。小麦粉自体は、主に、デンプン(約70質量%)及びタンパク質(約6〜18質量%)からなり、残余は、脂質(主として、小麦胚芽に由来する)及び「非デンプン」多糖(小麦の内乳における細胞壁(一般に、「繊維」とも称される)を構成する)である。
【0015】
一般に、タンパク質は、小麦粉におけるタンパク質の量が、しばしば、生成される製品の性質を決定するため、小麦粉の最も重要な部分である。例えば、クッキー、ケーキ、及びスイート・ロールは、一般に、最も低いタンパク質含量の小麦粉から製造され、一方、パン及びパスタは、一般的には、最も高いタンパク質含量を有する小麦粉から製造される。小麦粉のタンパク質含量におけるある種の変化が認められるが、日本では、スイート・ロールは、最も高いタンパク質含量(例えば、11.5〜13.5%)の小麦粉から製造される。一般に、小麦粉のタンパク質含量は、製粉に供する小麦の硬さに比例する。タンパク質自体は、さらに、構成成分まで分解されるが、タンパク質の最も多い成分は、水に不溶性のグルテンタンパク(一般に、「小麦グルテン」又は単に「グルテン」と称される)である。
【0016】
これらのグルテンは、上述の非デンプン多糖と共に、ネットワーク構造を形成する。非デンプン多糖の非セルロースである部分は、ヘミセルロースと称される。主鎖が五炭糖を形成するヘミセルロースフラクションは、「ペントース」と称される。これら小麦粉ペントースが、フェルラ酸基(ペントースとグルテンとの間の架橋剤として機能する)の作用によって、グルテンと結合する際に、ネットワーク構造が形成される。
【0017】
理論によって限定することを意図するものではないが、本発明では、甜菜ペクチン分子から伸びるフェルラ酸基によって、更なるネットワーク結合、詳しくは、甜菜ペクチン分子のグルテンへの更なる結合が生ずる。この更なる結合によって、改善された特性(甜菜ペクチンの存在により、ペントースがグルテンに結合される(フェルラ酸の架橋作用による)ことに加えて、グルテンも甜菜ペクチンへ結合する(この場合も、フェルラ酸の架橋作用による)ため)が生ずる。これによって、より高度にネットワーク化された生地が生じ、他の利点を中でも、焼き上がりのパンの増大された体積及び柔らかさが提供される。
【0018】
甜菜ペクチンはグルテンと結合して(おそらく上記の様式による)、グルテンネットワークを増大及び促進するため、本発明のパン組成物において使用される甜菜ペクチンは、他のペクチン物質よりも効果的なパン体積ブースターである。従って、本発明によるパン組成物では、従来技術のパン材料におけるペクチン濃度と比べて、より少ない量の甜菜ペクチンを使用でき、同時に、より大きい、又は少なくとも同等のパン体積の増大が達成される。このように、本発明のパン組成物は、従来のペクチン含有パン組成物と比べて、少ない量のペクチンを使用でき、同じ又は匹敵するパン体積を有する。
【0019】
小麦粉に加えて、パン組成物は、発酵処理(これによって、炭水化物を二酸化炭素及びエタノールに変換する)を可能にするイーストも含む。生ずる発酵ガスは、膨らませ作用を提供し、軽い又は膨らませたパンを提供する。残りの2つのパンの必須成分は、食塩及び水である。食塩は、味を改善し、混合する生地のレオロジー性に影響を及ぼすため、1〜2質量%の低レベルで使用され、一方、水は、パンレシピの残余を形成し、可塑化剤、溶媒及び反応媒体として作用する。
【0020】
他のパン添加剤
【0021】
上述の成分に加えて、パンは、いくつかの他の成分、例えば、油脂、砂糖、酵素、酸化剤、界面活性剤、強化用栄養素、及び他の組合せ成分を含有できる。これらの成分について詳述する。
【0022】
油脂(軟化状態でもよい)がパンに添加される。生地の混合段階では、油脂は可塑化剤及び体積増大剤として機能し、潜在的に、焼き上がりのパンの体積を10%程度増大させる。油脂は、抗老化特性を提供し、より長い保存性のパンを提供する。
【0023】
砂糖もパン処方に添加され、発酵の間の炭水化物源として機能し、さらに、パン、一般的には、米国市場用のパンに対して、わずかな甘みを提供する。砂糖が存在する場合、添加量は、約1〜35質量%、より好ましくは、約1〜約25質量%である。
【0024】
酵素は、これら任意成分の中では最も重要である。中でも、酵素α-アミラーゼが最も重要であり、主として、パンを柔らくし、良好なテキスチャー及び口当たりを付与するために添加され、抗老化性のためにも添加される。好適な市販の酵素としては、DSM Bakery Ingredients(オランダ国デルフト)から市販の酵素グルコースオキシダーゼBakezyme Go 1500(登録商標)及び同じくDSM Bakery Ingredientsから入手可能なセルラーゼ及びヘミセルラーゼの酵素ブレンドBakezyme HE-1000(登録商標)がある。好適な市販の酵素α-アミラーゼは、Danisco ApS(デンマーク国コペンハーゲン)からMaxLife E5(商標名)ブランドにて、同様に、Novozyme ApS(デンマーク国バウスヴェア)からFungamyl(登録商標)アミラーゼ酵素として入手できる。好適なキシラナーゼは、Novozyme ApSから市販のPentopan(登録商標)500である。好適なγ-酵素は、天野エンザイム(株)(日本国名古屋)からブランドSoftMax(登録商標)として市販されている。
【0025】
酵素も、混合及びベーキングの間の生地の挙動に影響を及ぼすために、パンレシピに添加される。
【0026】
必要であれば、酵素を他の成分とブレンド又は混合し、単一成分としてパンレシピに添加できる。例えば、FREEZE-J(CP Kelco, ApS:デンマーク国Lelle Skensverdから市販)は、柑橘類から抽出のペクチンと酵素約1質量%との混合物である。このようなペクチン−酵素混合物は、ペクチン約51〜約99質量%、好ましくは、約55〜約70質量%及び酵素約0.02〜約1質量%(特異な酵素活性に応じて)を含有する(混合物の総質量に対する質量基準である)。
【0027】
処理の各種段階(混合、発酵、等)における生地の強度を改善するため、及び改善された体積及びテキスチャーのような所望の特質を持つパンを生成するために、酸化剤が低レベル(ppmで測定される)で添加される。酸化剤の例(これらに限定されない)としては、臭化カリウム、アゾジカルボンアミド、及び過酸化カルシウムと共に、アスコルビン酸のような化合物(最も一般的)がある。
【0028】
界面活性剤も、生地強化剤、乳化剤、及び抗老化剤として機能するように添加される。好適な界面活性剤としては、ステアロイル乳酸ナトリウム、エトキシル化モノグリセリド、及びモノグリセリド及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル(DATEM)がある。特に好適なDATEMは、Grunau GmbH(ドイツ国Illertissen)によって販売されているDW 8000 DATEMである。
【0029】
一連の栄養富化添加剤もパンに添加され、実際、少なくとも過去50年間、小麦粉の栄養価は、製粉処理の間に失われた栄養物質を補うために、少なくとも一部は強化されている。今日、これら栄養富化添加剤としては、ビタミン、食物繊維、及びチアミン、リボフラビン、葉酸、及び鉄、等のような他の栄養サプリメントがある。卵、蜂蜜、シロップ、果実、ナッツ、及びスパイス、等の人工香味料及び他のテキスチャー及び感覚影響添加剤も含めることができる。
【0030】
次に、下記の特別な具体例を参照して、本発明をさらに詳述するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【実施例】
【0031】
本発明及び従来技術に従い、次のようにして、サンドイッチタイプのパンサンプルを調製した。初めに、アスコルビン酸を水と混合し、ついで、混合物にイースト及びオイルを添加した。次に、例えば、Diosnaスパイラルミキサーを使用し、混合物に、小麦粉、乳化剤、及びペクチンを導入して、生地を形成した(正確な混合時間を、小麦粉のfarninograph測定によって測定した)。ついで、生地を600gの小片に秤取り、生地を10分間休ませた。各小片を成形し、オイルを敷いたオーブン皿においた(プルーフィング条件:温度37℃;相対湿度70%;及び時間60分)。ベーキングを、ベンチレーテッドオーブンにおいて、初めにスチームを20秒間付与して、温度180℃で28分間行った。
【0032】
小片において使用した成分及び成分割合を下記の表に示す。各小片は、使用したペクチンの量及び酵素の存在又は不存在に関する点を除き、ほぼ同一である。例1〜4のパン組成物は、酵素を含有しない。例5〜8のパン組成物は、酵素を含有する。組成物3、4、7及び8では、ペクチンを、小麦粉の質量の1.05%の標準割合で使用した(従って、ペクチンの濃度は、レシピ全体の0.59質量%である)。一方、組成物2及び6については、ペクチンを、小麦粉の質量の0.63%の低減した割合で使用した(従って、ペクチンの濃度は、レシピ全体の0.35質量%である)。要するに、組成物1、4、5及び8は従来技術を代表するものであり、一方、組成物2、3、6及び7は本発明を代表するものである。
【表1】

(なお、表1において、組成物の数値は、四捨五入による誤差のため、足しても正確に100%とはならない。ペクチンの濃度についてのみ、明確な数値のままである。)
上記のパン組成物において使用したペクチンは、下記のとおりである。
表2
組成
ペクチン1 本発明による甜菜ペクチン
ペクチン2 酵素1%とブレンドした本発明による甜菜ペクチン
ペクチン3 従来技術のHM-ペクチン
ペクチン4 酵素1%とブレンドした従来技術のHM-ペクチン
【0033】
(表2に関する注記:ペクチン1〜4は、いずれも、標準化を目的として、砂糖がブレンドされている。表1に示すペクチンの量は、使用したペクチンの実際の量であり、砂糖の質量を含まない。さらに、ペクチン2及び4は、表2に示すように、酵素約1質量%がブレンドされたものである。この酵素量は、上記表1に示してある。)
【0034】
ついで、これらパンサンプルの各々を、テスト及び測定に供した。各パンサンプルの体積を、体積計を使用して測定した。
【0035】
パンを厚さ25mmにスライスし、中央部から環状片を切り取った。ついで、環状片の柔らかさを、Stable MicroSystems(英国サリー州ゴダルミン)から市販のテキスチャーアナライザーTA-XT2を使用することによって分析した。
【0036】
パンの柔らかさは、パンを25%又は6.25mm圧縮するために要する力である。これらテスト及び測定からの結果を下記の表3に示す。さらに、体積及び柔らかさの測定を一体化して、体積及び柔らかさの両方の値に対する影響におけるペクチンの能力の含むシングルパラメーターとすることができる。この体積/柔らかさの比は次のとおりである:
比=体積/柔らかさ
この比について、体積及び柔らかさに基づくより良好な特性のパンは、より大きい比の値を有するであろう。
【表3】

【0037】
2セットの組成物を調製した。これらのセットは、酵素を含有するか否かによって区別される。組成物1〜4は酵素を含有しておらず、組成物1(酵素のみならず、ペクチンも含有しない)は対照組成物である。組成物5〜8は酵素を含有しておらず、組成物5(ペクチンを含有しない)は対照組成物である。
【0038】
上記の表から理解されるように、本発明による甜菜ペクチン(すなわち、ペクチン1及び2)、従来技術において公知のペクチン(すなわち、ペクチン3及び4)を同じ量で使用した場合には、本発明によるペクチンを含有するパンは、従来技術のパン組成物の体積増加と比べて、より大きい体積増加を示している(体積増加を測定するための基準として対照パンサンプルを使用する)。組成物3と4、及び組成物7と8の体積増加を比較した。
【0039】
さらに、従来技術のペクチンによって得られたパン体積に匹敵するパン体積の増大が、より少ないペクチン量を使用する場合であっても、本発明によるペクチンを含有するパン組成物によって得られることが注目されなければならない。例えば、パン組成物2(本発明に従って調製されたもの)は、ペクチン0.35質量%を含有するが、従来技術を超える体積の増大6.2%を示しており、一方、パン組成物4(従来技術に従って調製されたもの)は、より多くのペクチン0.59%を含有するが、より小さい体積の増大5.4%を示した。同様に、パン組成物6(本発明に従って調製されたもの)は、わずかにペクチン0.35%を含有するが、従来技術を超える体積の増大7.1%を示しており、一方、パン組成物8(従来技術に従って調製されたもの)は、より多くのペクチン0.59%を含有するが、わずかに大きい体積の増大7.4%を示した。
【0040】
このように、本発明による甜菜ペクチンを含有するパン組成物では、従来技術のペクチンを含有するパン組成物と比べて、ペクチンの量は低減されているが、本発明によるパン組成物は、従来技術のパン組成物と比べて、同等又は優秀なパン体積を有する。このような明らかに改善された結果は、当業者であっても予測しえなかったものである。
【0041】
同様に、表3から理解されるように、本発明による甜菜ペクチンを含有するパン組成物では、パンの柔らかさも、明らかに増大されている。実際、この結果は、本発明による甜菜ペクチンを含有するすべてパン組成物について当てはまる。パン組成物2及び3は、従来技術のパン組成物と比べて、1日目及び2日目のいずれにおいても、パン組成物4よりも柔らかい(より小さい数値は、より柔らかいパンであることを示す)。同様に、パン組成物6及び7は、従来技術のパン組成物と比べて、1日目及び2日目のいずれにおいても、パン組成物8よりも柔らかい。このような明らかに改善された柔らかさに関する結果は、当業者であっても予測しえなかったものである。
【0042】
柔らかさ及び体積の両方における全体的な改善は、柔らかさ及び体積の両測定値を一体化して、シングルパラメーター、すなわち、上述の体積/柔らかさの比とすることによって、より良好に評価される。表3から理解されるように、本発明によるペクチンを含有するパン組成物は、ペクチンがより少ない量で使用される場合でも、従来技術によるペクチンを含有するパン組成物よりも優れている。パン組成物2及び3は、いずれも、組成物4よりも大きい比の値を有していた。同様に、組成物6及び7は、いずれも、組成物8よりも大きい比の値を有していた。本発明によるペクチンを含有し、酵素をも含有するパン組成物は、0.060より大、好ましくは、0.065より大の比の値を有する。
【0043】
本発明の広範な発明の概念を逸脱することなく、上述の具体例に、変更を加えることが可能であることは、当業者によって理解されるであろう。従って、本発明は記載した特別な具体例に限定されず、また、請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲内の変更を含むものであることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、食塩、イースト、小麦粉及び甜菜ペクチンを含有することを特徴とする、食品組成物。
【請求項2】
甜菜ペクチンが、フェルラ酸約0.6〜約3.0質量%を含有するものである、請求項1記載の食品組成物。
【請求項3】
甜菜ペクチンが、約0.05〜約1.2質量%、好ましくは、約0.3〜約0.65質量%の濃度で存在する、請求項1記載の食品組成物。
【請求項4】
1以上の酵素を、さらに含有する、請求項3記載の食品組成物。
【請求項5】
油脂、砂糖、酵素、酸化剤、界面活性剤、強化用栄養素からなる群から選ばれる添加剤を、さらに含有する、請求項1記載の食品組成物。
【請求項6】
フェルラ酸架橋を形成する方法であって、フェルラ酸源を用意し;グルテンを含有する小麦粉源を用意し;フェルラ酸源及び小麦粉源を混合して、生地を生成し;及び生地をベーキングに供し、これによって、フェルラ酸源とグルテンとの間で、フェルラ酸架橋を形成する各工程を包含することを特徴とする、フェルラ酸架橋の形成法。
【請求項7】
フェルラ酸源が甜菜ペクチンである、請求項6記載のフェルラ酸架橋の形成法。
【請求項8】
体積/柔らかさの比の値が、約0.06より大、好ましくは、約0.065より大である、請求項3記載の食品組成物。
【請求項9】
砂糖約1〜約35質量%を、さらに含有する、請求項1記載の食品組成物。
【請求項10】
水、食塩、イースト、小麦粉、及び甜菜ペクチン約0.05〜約1.2質量%、好ましくは、約0.3〜約0.65質量%を含有することを特徴とする、食品組成物。

【公表番号】特表2008−534003(P2008−534003A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503621(P2008−503621)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001633
【国際公開番号】WO2006/126094
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(507323868)
【Fターム(参考)】