説明

生コーヒーの抽出物の製造方法

本発明は、コーヒー生豆が熱処理され、焙煎をせずに抽出される、生コーヒーの抽出物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、コーヒー生豆が熱処理され、抽出される、生コーヒーの抽出物の製造方法に関する。
【0002】
[背景]
コーヒーは、主として味及び香り、並びに/又はカフェインの刺激効果を求めて伝統的に摂取されてきた。独特の味及び香りは、大部分がコーヒー豆の焙煎中に形成される。近年、食品中の抗酸化物質の健康上の有益性を指摘する学術文献が増えている。コーヒーは、抗酸化物質、例えばクロロゲン酸を多量に含み、食事における抗酸化物質の重要な供給源として役立つことがある。しかし、クロロゲン酸はコーヒーの焙煎中に分解することが知られている。生コーヒーの抽出物は、栄養補助食品中に、並びに食品及び飲料製品中の添加物として、抗酸化物質を増量するために使用される。欧州特許出願公開第1674106号は、生コーヒーの抽出物を含む食用組成物を開示している。生コーヒーから直接淹れたコーヒー飲料には、コーヒーに通常は付きものの特徴的な味及び香りがない。国際公開第2006/108578号パンフレットは、生コーヒーの多量の抗酸化物質と焙煎コーヒーの味及び香りとを合わせもつ、焙煎コーヒー及び生コーヒーの組合せから作製したコーヒー製品を開示している。挽かれた(ground)コーヒー生豆を抽出すると、抽出物は、人によってはアレルギー反応を起こす可能性がある未変性タンパク質を含む場合がある。抗酸化物質に富み、好ましく魅力的な味及び香りがあるコーヒー系飲料、並びにアレルギー誘発特性のある未変性タンパク質を抽出することなく、挽かれたコーヒー生豆を抽出する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許出願公開公報第1674106号
【特許文献2】国際公開第2006/108578号パンフレット
【0004】
[発明の概要]
本発明者らは、熱処理をしたが焙煎をしていないコーヒー生豆を抽出すると、抗酸化物質に富み、新規で好ましく魅力的な味及び香りを備えたコーヒー抽出物ができることを発見した。したがって、本発明はa)コーヒー生豆を、コーヒー豆の総重量の6%〜50%の間に水分レベルを保持しながら100℃〜180℃の間の温度で少なくとも5分間熱処理するステップと、b)ステップa)の処理をしたコーヒー豆を抽出して、液体コーヒー抽出物を製造するステップとを備え、コーヒー豆及び/又はコーヒー抽出物を焙煎しない、コーヒー抽出物の製造方法に関する。本発明は、さらに飲料を調製するためのカプセルに関する。
【0005】
[発明の詳細な説明]
本発明によれば、コーヒー生豆(green coffee beans)は熱処理を受ける。コーヒー生豆という用語は、焙煎も、他の過酷な熱処理もしていない生のコーヒー豆(raw coffee beans)を意味する。コーヒー生豆の製造は当該技術分野において周知であり、コーヒーチェリーから豆を包んでいる皮及び果肉層を除去して、生のコーヒー豆を残したものである。豆は洗浄され、乾燥されてもよい。本発明によるコーヒー生豆は、例えばアラビカ種(Arabica)又はロブスタ種(Robusta)など、いずれの品種のコーヒー豆でもよい。
【0006】
熱処理
生豆の熱処理は、豆の水分量を所望のレベルに保持しながら好適な任意の方法で行うことができる。本発明の好ましい実施形態では、コーヒー生豆を蒸気に接触させることによって熱処理を行う。処理は、温度が上昇するにつれて内部の圧力が増加する密閉チャンバー内で行ってもよいし、例えば大気圧下で行ってもよい。好ましい実施形態では、飽和蒸気雰囲気を加熱中のチャンバー内に保持する。処理は、100℃〜180℃の間、好ましくは120℃〜160℃の間、より好ましくは130℃〜160℃の間の温度で行う。処理は、少なくとも5分間、好ましくは5分〜180分間行う。処理時間は処理温度に依る。1つの実施形態では、処理は、100℃〜130℃の間の温度で15分〜180分間、好ましくは25分〜180分間行う。別の実施形態では、処理は、130℃〜160℃の間の温度で20分〜120分間、好ましくは30分〜90分間行う。
【0007】
処理中は、コーヒー豆の水分含量を6%〜50%(重量%)の間に保持する。このように、多量の自由液体を存在させずにコーヒー豆を湿潤に保持する。この水分レベルでは、熱処理中に豆の抽出が起こらないことが確実になる。好ましい実施形態では、水分レベルは6%〜30%の間、より好ましい実施形態では6%〜20%の間、最も好ましい実施形態では8%〜15%の間に保持する。
【0008】
熱処理を受けるコーヒー生豆は、挽かれていなくてもよく、挽かれたコーヒー豆でもよい。挽かれた豆は、当該技術分野において周知のコーヒー豆の挽き方で製造することができる。コーヒー生豆は、例えば熱処理の前又は後に挽かれてもよい。好ましい実施形態では、熱処理されるコーヒー生豆は、挽かれていないコーヒー豆である。例えば熱処理された豆を抽出ステップの前に保管しようとする場合、熱処理後の豆を乾燥してもよい。乾燥は、焙煎が起こらないような確実で好適な任意の方法で行うことができる。乾燥をする場合、乾燥中に温度が180℃を超えないことが好ましい。
【0009】
抽出
本発明の熱処理をしたコーヒー生豆を抽出して液体コーヒー抽出物を製造する。処理したコーヒー生豆の抽出は、好適な任意の方法で、例えば水、エタノール、又は他の好適な任意の溶媒を使用して行うことができる。好ましい実施形態では、熱処理したコーヒー生豆は、水又は水性コーヒー抽出物などの水性液体で抽出する。コーヒー豆の抽出は、当該技術分野において周知であり、例えばEP0826308及び/又はEP0916267に開示された方法で行うことができる。抽出対象の熱処理したコーヒー生豆は、挽かれていなくてもよく、挽かれていてもよい。挽かれていない生豆を熱処理ステップに供する場合、抽出前に豆を挽いてもよいし、挽かれていない豆を抽出してもよい。本発明の方法では、コーヒー生豆は、このように熱処理の前又は後に挽かれてもよいし、本発明のプロセスの間挽かれていないままであってもよい。
【0010】
得られた生コーヒー抽出物は、例えば濾過若しくは蒸発によってさらに濃縮してもよく、及び/又は、例えば噴霧乾燥若しくは凍結乾燥により乾燥して粉末にしてもよい。
【0011】
1つの実施形態では、抽出は、家庭で消費者によって、又はカフェテリア、レストラン、バーなどで使用される、コーヒーを入れる装置(coffee brewing device)で行う。かかるブリューイングデバイス(brewing device)及びその操作は当該技術分野において周知である。これは、例えば通常のフィルターブリューイングデバイス(filter brewing device)でもよいし、カプセル中の飲料物質を抽出するための、コーヒー又は飲料の製造機でもよい。かかる製造機は当該技術分野において周知であり、液体(通常は水)をカプセルに注入すると抽出又は溶解されうる飲料物質(例えば焙煎され、挽かれた、及び/又は可溶性のコーヒー)が入っているカプセルを通常は使用する。この目的のため、本発明による熱処理した生コーヒーは、抽出用の好適なカプセルに入れてもよい。好適なカプセルは当該技術分野において、例えばEP0512468から周知である。したがって、本発明は、1つの実施形態において、流体(fluid)の注入により飲料を調製するためのカプセルであって、密閉室(closed chamber)と、上記飲料を流出させる手段と、を備え、上記カプセルの密閉室が、粉砕済みのコーヒー生豆を包含し、その生豆は、水分レベルをコーヒー豆の総重量の6%〜50%の間に保持しながら100℃〜180℃の間の温度で少なくとも5分間熱処理されたものであり、コーヒー生豆が焙煎されていない、カプセルに関する。好ましい実施形態では、カプセルの密閉室の容積は10〜100mlの間であり、好ましくは20〜60mlの間である。
【0012】
焙煎
本発明の方法で処理されるコーヒー生豆及び/又は本発明のコーヒー抽出物は、本発明の方法の処理前又は処理中に焙煎されない。焙煎とは、コーヒー豆又はコーヒー抽出物に対する乾式又はほぼ乾式の熱処理を意味し、例えば、コーヒー豆を蒸すこと、又は水中で、例えば圧力下で、コーヒー豆を調理することとは対照的である。コーヒー豆は、焙煎中に乾燥される。生豆は、通常、焙煎前には約12〜16%の水を含み、焙煎の結果、水分レベルが例えば約2%まで減少する。このように、焙煎は水中又は蒸気での熱処理とは異なる。コーヒーを焙煎する目的は、通常、焙煎したコーヒーに特徴的な独特のフレーバーの香調(flavour note)を発現させることである。このフレーバーは、例えばコーヒー固形物の熱分解及びメイラード反応などのプロセスから生じる。
【0013】
本発明の1つの実施形態では、焙煎とは、200℃を超える温度での、水分レベルが4%(重量)未満、好ましくは3%未満の熱処理を意味する。水分レベルは、焙煎されているコーヒー豆又はコーヒー抽出物中に含まれる水の割合と理解される。上述の通り、焙煎開始時の水分レベルは4%を超えている場合があるが、焙煎中に水分レベルは4%未満、好ましくは3%未満まで減少する。
【0014】
クロロゲン酸
クロロゲン酸は抗酸化活性を有する化合物である。本発明の目的のために、クロロゲン酸の量は、クロロゲン酸同族体である3−カフェオイルキナ酸(3−CQA)、4−カフェオイルキナ酸(4−CQA)、5−カフェオイルキナ酸(5−CQA)、3,4ジカフェオイルクン酸(dicaffeoylqunic acid)(3,4−diCQA)、3,5−ジカフェオイルキナ酸(3,5−diCQA)、4,5−ジカフェオイルキナ酸(4,5−diCQA)、4−フェルロイルキナ酸(4−FQA)、及び5−フェルロイルキナ酸(5−FQA)の総量として定量する。クロロゲン酸異性体は、320nmでUV検出をするHPLCで定量し、外部標準として5−CQAを使用して濃度を計算することができる。
【0015】
本発明の方法によって調製した抽出物は、好ましくは、抽出されているコーヒー生豆のグラム当たり4gを超えるクロロゲン酸を含み、より好ましくは、抽出されているコーヒー生豆のグラム当たり5gを超えるクロロゲン酸を含む。
【0016】
食品又は飲料組成物
本発明の方法の1つの実施形態では、本方法は、本発明の熱処理及び抽出によって得られた抽出物から食品又は飲料組成物を調製するステップをさらに備える。本発明による食品又は飲料組成物は、ペットフード組成物を含む、ヒト又は動物が摂取することを意図した食品又は飲料組成物のいずれでもよく、例えば、コーヒー飲料、ココア若しくはチョコレート飲料、麦芽飲料、果物若しくは果汁飲料、炭酸飲料、ソフトドリンク、又は乳系飲料などの飲料;パフォーマンス栄養バー、粉末飲料又はそのまま飲める飲料などのパフォーマンス栄養製品;医療栄養製品;乳飲料、ヨーグルト又は他の発酵乳製品などの乳製品;アイスクリーム製品;チョコレート製品などの菓子製品;スリミング製品、脂肪燃焼製品、精神機能の向上若しくは精神的退化の防止のための製品、又は皮膚を改善する製品などの機能性食品又は飲料等が挙げられる。
【0017】
本発明による飲料は、例えば、摂取前に好適な液体、例えば水若しくは乳と混合される粉末形態若しくは濃縮液形態、又はそのまま飲める飲料でもよい。飲料組成物が粉末形態の場合、例えばクリーマー、甘味料、フレーバー剤、及び/又は粉末飲料製品に含めるのに好適な他の任意の成分をさらに含んでもよい。そのまま飲める飲料とは、液体をさらに追加せずに摂取できるようになっている液体形態の飲料を意味する。本発明による飲料は、当該技術分野において公知の、飲料を製造するのに好適な他の任意の成分、例えば甘味料、例えば、転化糖、スクロース、フルクトース、グルコース、又はこれらの任意の混合物などの糖、天然又は人工甘味料;香り及びフレーバー、例えば果物、コーラ、コーヒー、若しくは茶の、香り及び/又はフレーバー;果物若しくは野菜の汁又はピューレ;乳;安定剤;乳化剤;天然又は人工色素;防腐剤;抗酸化物質、例えばアスコルビン酸などを含んでもよい。製品の所望のpHを得るために、好適な任意の酸又は塩基、例えばクエン酸又はリン酸を使用してもよい。本発明の飲料は炭酸飲料でもよく、当該技術分野において公知の好適な任意の方法で二酸化炭素を添加することができる。
【実施例】
【0018】
実施例1
挽かれていないロブスタ種コーヒー生豆を135℃で60分間、蒸気で熱処理した。処理した豆を、2mmのふるいを備えたレッチェミル(Retsch Mill)を使用して挽いた。挽かれた豆を、最初に100℃で10分間、次に180℃で10分間の2段階抽出プロセスにより、蒸留水で抽出した。得られた抽出物を凍結乾燥した。
【0019】
事前の熱処理以外は上記の通りに、挽かれていないロブスタ種生豆を挽いて、抽出物を製造することで、対照抽出物試料を調製した。
【0020】
試料のタンパク質分を、分子量が2.5〜200の間の多くの既知のタンパク質標準を用いたゲル電気泳動(NuPAGE)によって分析した。熱処理した豆の抽出物中には未変性タンパク質が検出できなかったのに対し、対照抽出物には未変性のタンパク質バンドが検出された。
【0021】
以下の抽出収率を得た(抽出した全コーヒー固体に対する%)。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例2
ロブスタ種コーヒーの挽かれていない生豆を種々の条件下で熱処理した。各条件のセットにおいて、10kgの生豆を、下記の表に示す時間、温度及び水分レベルで、オートクレーブ中で処理した。所望の温度に到達するまでの加熱時間は4〜12分間であった。処理後、コーヒー豆をオートクレーブの二重コート内の冷水で50℃まで冷却した。冷却時間は15〜22分間と様々であった。熱処理したコーヒー生豆をFreezer Mill 6800中で粉砕し、平均粒径を100マイクロメートル未満にした。乾燥器内で102℃で4時間乾燥して水分を定量した。挽かれたコーヒー豆を、ASE200 Dionex抽出器を使用して、70%メタノール水溶液中で40℃で抽出した。抽出物中のクロロゲン酸(CA)を、水/アセトニトリル/ホスファートグラジエントを使用して、Spherisorb ODS1(250mmx4)によるクロマトグラフ分離によって定量し、UV(320nm)によって検出した。結果を以下に示すが、水分及びクロロゲン酸(CA)は、未処理の生コーヒーの重量%として表している。
【0024】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)コーヒー生豆を、前記コーヒー豆の総重量の6%〜50%の間に水分レベルを保持しながら100℃〜180℃の間の温度で少なくとも5分間熱処理するステップと、
b)ステップa)の処理をした前記コーヒー豆を抽出して、液体コーヒー抽出物を製造するステップと、を備え、
前記コーヒー豆及び/又は前記コーヒー抽出物を焙煎しない、
コーヒー抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記コーヒー生豆が、ステップa)において、130℃〜160℃の間の温度で20分〜120分間熱処理される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)の前記熱処理が、コーヒー生豆を蒸気に接触させることによって行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記コーヒー豆を、ステップa)の前又は後に挽くステップをさらに備える、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理したコーヒー生豆が、ステップb)において水性液体で抽出される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップb)において得られた前記抽出物を乾燥するステップをさらに備える、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ステップb)において得られた前記抽出物が、抽出されているコーヒー生豆のグラム当たり4gを超えるクロロゲン酸を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
本発明の前記熱処理及び抽出によって得られた抽出物から、食品又は飲料組成物を調製するステップをさらに備える、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記食品又は飲料組成物が粉末飲料製品である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
流体の注入によって飲料を調製するためのカプセルであって、
密閉室と、
前記飲料を流出させる手段と、を備え、
前記カプセルの前記密閉室が、挽かれたコーヒー生豆を包含し、当該コーヒー生豆は、水分レベルを前記コーヒー豆の総重量の6%〜50%の間に保持しながら100℃〜180℃の間の温度で少なくとも5分間熱処理されたものであり、
前記コーヒー生豆が焙煎されていない、カプセル。
【請求項11】
前記密閉室の容積が10〜100mlの間である、請求項10に記載のカプセル。

【公表番号】特表2013−514065(P2013−514065A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543595(P2012−543595)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069011
【国際公開番号】WO2011/073052
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】