生乳検査装置並びにこれを用いた体細胞数測定方法及び家畜症状診断方法
【課題】乳房炎を初期段階で診断することを可能とする、生乳検査装置を提供する。
【解決手段】生乳検査装置1Aは、生乳を一端3aから他端3bに流すための流路3が設けられたセンサ2を備える。流路3は、途中に、生乳中に含まれる活性酸素を検出するための測定室31を有する。測定室31には、表面にSOD酵素が塗布された作用極と、作用極との間に電圧が印加される対極とが設けられている。生乳検査装置1Aは、さらに、測定室31よりも上流側で流路3を流れる生乳中の体細胞に刺激を与えて該体細胞から活性酸素を発生させる刺激手段4Aを備える。
【解決手段】生乳検査装置1Aは、生乳を一端3aから他端3bに流すための流路3が設けられたセンサ2を備える。流路3は、途中に、生乳中に含まれる活性酸素を検出するための測定室31を有する。測定室31には、表面にSOD酵素が塗布された作用極と、作用極との間に電圧が印加される対極とが設けられている。生乳検査装置1Aは、さらに、測定室31よりも上流側で流路3を流れる生乳中の体細胞に刺激を与えて該体細胞から活性酸素を発生させる刺激手段4Aを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生乳の検査に用いられる生乳検査装置並びにこれを用いた体細胞数測定方法及び家畜症状診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産において、家畜の病気、けがの発見、投与した薬剤の効果の診断など、家畜の状態を早期に詳しく診断するニーズは近年ますます高まっている。特に感染性の疾病においてはそのニーズは高い。哺乳類、とりわけ牛、羊、山羊など酪農用の家畜の症状診断には家畜の生乳を分析することが重要かつ有効な手段である。
【0003】
たとえば乳房炎は、乳用牛の死廃傷病事故のなかで最大の問題になっている。乳房炎は、罹りやすい上に極めて治りにくい病気であるため、世界的に最難治疾病の一つとされている。乳房炎に罹患した乳用牛の生乳中の体細胞数は、正常な乳用牛が通常2〜10万個であるのに対し、30万個/mL以上、なかには300万個/mL以上の慢性乳房炎に至る場合も少なくない。体細胞数の測定は煩雑であり、しかもそれを実現する装置は高価なため、通常生乳の検査は大型タンクに集められて(多くの場合は別の検査機関などに搬送されて)から行われる。そうすると、発覚が遅れて被害量が増えるだけでなく、サンプリングした生乳中の体細胞数が規定値以上であることが発覚した場合、生乳がタンク単位で廃棄されたり酪農家へペナルティ(課徴金)が課されたりする。そして、その年間被害額は、日本全体で800億円〜1000億円と試算されている。
【0004】
また、乳房炎による体細胞数の増加は、食の安全にも直結した課題である。乳房炎に感染すると、黄色ブドウ球菌が乳腺組織に定着するとともに、生乳中に黄色ブドウ球菌が混入する。黄色ブドウ球菌は、食中毒の原因となるエンテロトキシンを産生し、これを生乳中に放出する。生乳の製造工程において、殺菌によって黄色ブドウ球菌は殺菌されるものの、エンテロトキンは分解されないため、食中毒のリスクは排除されない。エンテロトキシンによる食中毒リスクを回避するためにも、乳房炎の早期発見と治療が望まれている。これら乳房炎の発見及び診断においては前記家畜の生乳を分析する方法は非常に有効である。
【0005】
けが、炎症、感染性の疾病においては生乳中の体細胞、例えば好中球が増加する場合が多く見られる。とりわけ乳房炎においてはこの傾向は顕著である。
【0006】
画像識別法は、生乳中の好中球を染色し、カメラによって脂質粒子と好中球を識別、自動計測する方法である。画像識別法においては、脂質粒子による遮光の問題が生じるため、生乳の容量は0.1mL以下とされ、薄い平らな空間に生乳を固定する等して計測を行う。しかしながら、画像識別法による自動細胞数測定機器による体細胞数測定は、極めて高額であるという問題があった。また、光学顕微鏡による塗沫測定では、手間がかかりすぎるという問題があった。また使用するサンプルが少量であるため、測定誤差が生じやすいという問題もあった。
【0007】
そこで、生乳の分析において混入した体細胞から放出される活性酸素量を、ルミノール化学発光法で測定することが提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
ルミノール化学発光法は、ルミノール試薬によって、好中球から放出された活性酸素を励起し、その化学発光量を検出して、増幅・定量化する方法である。細菌侵入に連動して集まる好中球数を、感染初期の細菌侵入開始段階から、重度乳房炎まで広範囲にわたって、高感度で検出可能な技術である。
【0009】
しかしながら、ルミノール化学発光法による乳房炎診断装置は、装置が高額となり、一定の光量を得るまでに10分以上の時間を必要とするため、実用性に課題を有していた。日本における乳用牛の飼養頭数だけでも、100万頭以上である。分房別に感染の有無を診断しようとすると、400万個以上の分房が対象となる。年間数回の感染チェックを行おうとすると、年間1000万回を超える測定が必要となり、迅速測定及び装置価格の点で課題を有するルミノール化学発光法は実用性に課題を有していた。また一定の光量を得るまでに時間がかかるため、製造コストと迅速化が課題となっていた。更に、通常ルミノール化学発光法を用いて生乳中の体細胞数を計測する場合、生乳中の脂質粒子が透明性を損なうために測定に用いる生乳の容量を0.1mL以下とし、数倍〜数10倍透明な生理食塩水で希釈することが必要となる。生乳中の好中球の存在比率は通常多少のバラツキあるため、サンプル量を少なくすることで、バラツキが測定値に与える影響が大きくなり、測定精度が低下する。
【0010】
この問題を改良した方法として、好中球から放出された活性酸素の存在を電流として検出することが提案されている。例えば特許文献2には、円筒状の絶縁部材の内周面に作用極が形成され、外周面に対極が形成されたニードル状の活性酸素センサを備える乳房炎診断装置が開示されている。この乳房炎診断装置は、活性酸素センサによって活性酸素の濃度を測定し、その濃度に基づいて乳房炎に罹っているか否かを判定するものである。作用極及び対極は、導電性部材の表面に金属ポルフィリン錯体の重合膜が形成されたものであり、活性酸素の測定原理は次のとおりである。
【0011】
活性酸素センサを活性酸素(例えば、スーパーオキシドアニオン:O2-)の存在する生乳中に漬けると、金属ポルフィリン錯体中の金属が活性酸素により還元される(例えば、Fe3+→Fe2+)。そこで、作用極と対極との間にある程度の電圧を印加すると、還元された金属が再酸化され(例えば、Fe2+→Fe3+)、電流が流れる。このときの電流値は、活性酸素の濃度と対応しているため、その電流値から活性酸素の濃度を検出することができる。
【0012】
生乳の生産において、体細胞数の管理目標値は、30〜50万個/mL以下に設定されている。乳房炎に感染した生乳中の体細胞数に占める好中球の比率は、8割〜9割と報告されており、体細胞数が30〜50万個/mLの場合、好中球数は27〜45万個/mLと推定される。このような生乳中の体細胞数は、健康な牛の血液中の好中球数の約1/10程度と低濃度であることから、生乳の分析による家畜の症状診断においては低濃度の体細胞を再現性よく測定できることが望まれる。
【0013】
しかしながら、電極に金属ポルフィリン錯体の重合膜を用いたニードル状の活性酸素センサの場合、好中球数がそれほど増加しない乳房炎の初期段階では、金属ポルフィリン錯体の重合膜表面からの反応によって得られる電流値の増加量は非常に小さく、乳房炎を初期段階で診断することが困難であった。
ニードル状の活性酸素センサの場合、測定を行う作用極及び対極はニードルの先端となり、反応面となる作用極の面積は極めて小さくなるため、得られる電流値は小さくなり、検出感度に課題を有していた。作用極の面積が極めて小さいため、生乳中の脂質粒子が作用極に付着すると、更に検出感度は低下することになる。作用極の面積を大きくしようとすると、ニードルの直径を太くすることが必要となり、ニードルの体積増加による電流量の損失が発生して検出感度を高めることにはならない。
また、生乳中の体細胞から放出される活性酸素は生乳中に拡散しているため濃度が低く、ニードル状の活性酸素センサを生乳に浸しただけでは、活性酸素を検出することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−041696号公報
【特許文献2】特開2005−106490号公報
【特許文献3】特開2006−314386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、電極に金属ポルフィリン錯体の重合膜を用いたニードル状の活性酸素センサを備える生乳の分析方法は、作用極の面積が極めて小さく、好中級がニードル状の活性酸素センサの近傍に存在しないため、金属ポルフィリン錯体の重合膜表面からの反応によって得られる電流値の変化量が非常に小さくなり、低濃度での分析が困難であった。このため例えば乳房炎を初期段階で診断することが困難であった。
【0016】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、畜産業において高い精度で迅速に生乳を分析することによって、例えば酪農におけるタンク単位での生乳の廃棄や被害の拡大を防止するために乳房炎を初期段階で診断することを可能とする、生乳検査装置並びにこれを用いた体細胞数測定方法及び家畜症状診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これら目的を達成するために、本発明は、生乳の検査に用いられる生乳検査装置であって、前記生乳を一端から他端に流すための流路であって前記生乳中に含まれる活性酸素を検出するための測定室を途中に有する流路、前記測定室に設けられた、表面にSOD酵素が塗布された作用極、及び前記測定室に設けられた、前記作用極との間に電圧が印加される対極、を含むセンサと、前記測定室よりも上流側で前記流路を流れる生乳中の体細胞に刺激を与えて該体細胞から活性酸素を発生させる刺激手段と、を備える、生乳検査装置を提供する。
【0018】
この構成によれば、生乳を流路に流しながら分析できる。しかも、測定室の上流側で生乳中の体細胞に刺激を与えることにより活性酸素の発生を促し、更にまた、活性酸素とSOD酵素の迅速で高感度な反応によって発生する電流を測定するため、体細胞の濃度が低い場合も精度の高い測定が可能である。
【0019】
なお、本発明でいう生乳検査装置とは、活性酸素とSOD酵素の反応によって発生した電流量に基づいて体細胞数の評価を可能にするものである。電流量から体細胞数を算出する算出部を該装置内に設けてもよく、電流値そのものや、これから算出した別の数値(例えば活性酸素量)を該装置で測定し、別途算出手段によって体細胞数を評価してもよい。
【0020】
また、本発明は、上記の生乳検査装置から得られる検査結果を用いて家畜の症状を診断する、家畜症状診断方法を提供する。
【0021】
この構成によれば、本発明の高感度な生乳検査装置から得られる検査結果を用いることで、家畜の疾病を初期段階で確認でき、個体ごとの免疫力や薬剤投与効果なども容易に確認できる。免疫力などを診断することで出産が家畜に与える影響や、育種、血統、育成環境などの影響も整理が容易になり、繁殖、品種改良などでも有用である。また個体ごとに診断し、疾病が確認できるので、疾病した生乳を健康な生乳と混入させて、廃棄対象が広がることも防げるばかりか、その場で結果が判断できることで疾病した生乳の出荷を速やかに停止できるので、無駄が少なく効率が高い。
【0022】
本発明の生乳検査装置を用いた症状診断方法により、例えば体細胞数及びその変化を把握することができ、潜在性乳房炎の早期感染を発見したり、臨床性乳房炎に移行する可能性のある乳用牛を特定したりすることが可能となる。
体細胞から放出される活性酸素量は、育種別及び血統別によって異なることが予測される。本発明の生乳検査装置を用いることにより、育種別及び血統別に好中球から放出される活性酸素量を電流量で把握することができ、乳房炎に感染しにくい育種を選抜して繁殖させることが可能となる。
体細胞から放出される活性酸素量は、乳腺組織及び生乳中の黄色ブドウ球菌数が多いか少ないかによって変動することが予測される。例えば、非感染の健康乳牛であれば、黄色ブドウ球菌数は少なく、好中球から放活性酸素を放出する必要ないため好中球の活性が高く、得られる電流量が大きくなると予想される。逆に、乳房炎感染が進行した乳用牛では、黄色ブドウ球菌数が多いため、好中球から活性酸素を放出して死滅する好中球が多く、得られる電流量が小さくなると予測される。
乳用牛の出産後は、免疫力が低下するために生乳中の体細胞数が多くなることが知られている。酪農家は、治療のために抗生物質を投与するが、投与期間中は生乳を出荷することができない。また、抗生物質の投与効果を迅速に把握するシステムは存在しない。
また本発明の生乳検査装置を用いた症状診断方法により、好中球から放出される活性酸素量の増減を把握することができ、薬剤投与効果のある乳用牛は好中球1個あたりの電流値が高いといった、飼養中の乳用牛に対しての新しい確認方法を提供できる。
【0023】
さらに、本発明は、上記の生乳検査装置を用いて、前記生乳検査装置における作用極と対極との間に電圧を印加したときに生乳中に含まれる活性酸素とSOD酵素との反応によって流れる電流量を測定し、該電流量を体細胞数に換算する、体細胞数測定方法を提供する。
【0024】
この構成によれば、測定した電流量を体細胞数に換算することで、他の方法で行われてきた過去のデータとの比較が容易になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、乳房炎を初期段階で診断することが可能となる。これにより、タンク単位での生乳の廃棄を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る生乳検査装置の平面図、(b)は同装置の正面図である。
【図2】(a)は図1に示した生乳検査装置を構成するセンサの平面図、(b)は(a)のIIB−IIB線断面図である。
【図3】第1電極部の表面に突起によって凹凸形状を形成した例を示す斜視図である。
【図4】突起の配置の変形例を示す平面図である。
【図5】突起の拡大断面図である。
【図6】図1に示した生乳検査装置のブロック図である。
【図7】(a)は本発明の第2実施形態に係る生乳検査装置の正面図、(b)は同装置の要部拡大断面図である。
【図8】(a)は本発明の第3実施形態に係る生乳検査装置の正面図、(b)は同装置の要部拡大断面図である。
【図9】(a)は本発明の第4実施形態に係る生乳検査装置の平面図、(b)は同装置の正面図である。
【図10】(a)は本発明の第5実施形態に係る生乳検査装置の平面図、(b)は(a)のXB−XB線断面図である。
【図11】図10(a)の一部拡大図であり、ベースプレートにチップを装着する前の状態を示す図である。
【図12】体細胞数と電流値の関係を示すグラフ(散布図)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の生乳検査装置は、生乳中の体細胞数が例えば10〜30万個/mLの範囲であっても、精度の高い測定を実行することができ、乳房炎の早期感染を把握することが可能である。通常、乳房炎感染の目安は、20〜30万個/mLの範囲とされている。正常な分房別の体細胞数は2〜10万個/mLの範囲であることが多く、乳用牛1頭が有する4つの乳房のなかで、1つ又は2つの分房のみが乳房炎に感染している場合が多い。本発明の生乳検査装置によれば10〜30万個/mLの体細胞数を測定可能であるために、分房別の感染の有無を、精度良く判別することが可能となる。
【0028】
通常、生乳中の体細胞は凝集することなく、生乳中に概ね均一に浮遊している。結果として測定電極である作用極の周囲には浮遊している体細胞のごく一部しか存在せず、大部分の体細胞は電極との距離が離れているため、十分な測定精度を得るには、生乳中に高濃度(例えば、100万個/mL以上)で体細胞が存在する必要がある。例えば、測定電極である作用極の電極直径が5mmの場合、電極から高さ0.5mm程度の生乳中に存在する体細胞から放出された活性酸素しか検出できないとすれば、生乳中の体細胞数が30万個/mLの場合、直径5mmの作用極が検出可能な体細胞数は約3000個と少ない。生乳中の好中球の存在比率は通常多少のバラツキあるため、測定する体細胞数が低下すると、バラツキが測定値に与える影響が大きくなり、測定精度が低下する。
【0029】
本発明の生乳検査装置は、流路を流れる生乳中の体細胞に測定室の上流で刺激を与える刺激手段を有することで、生乳中の体細胞の活性を高めることが特徴の一つである。刺激手段によって刺激を受けることで、体細胞は擬似足場を形成し粘着性を発現すると共に、活性酸素の産生量を高めることができるようになる。例えば、流路の測定室の上流側に刺激室を設け、この刺激室内で刺激手段によって生乳中の体細胞に刺激を与えてもよい。本発明の刺激手段は、体細胞を活性化するための薬剤であってもよく、生乳に物理的エネルギーを加えるものであってもよい。
【0030】
刺激手段として薬剤を採用する場合は、例えば刺激室の床面に薬剤を塗布又は固定しておけばよい。体細胞を活性化する薬剤として、例えば好中球の活性化剤としては、例えば、ケモカイン、エイコサノイド、ロイコトリエン、FMLP、ザイモザン、ホルボールミリステートアセテート(PMA)、コンカナバリンA、遊離脂肪酸、界面活性剤、金属微粒子、ポリマー微粒子等があげられる。金属微粒子に接着した好中球は、磁力によって電極近傍へ集積させてもよく、またポリマー微粒子に接着した好中球は重力、あるいは浮力で電極近傍へ集積させてもよい。また、通常特に制限はないが、活性化因子として活性化剤を用いる場合の好適な量は測定室又は生乳の体積に対して1ng/mL〜500μg/mLである。
【0031】
生乳に物理的エネルギーを加える方法によれば、工業技術上確立された素子を使用して安価かつ高精度にエネルギーを与えることができるため、生乳検査装置の製造コストを安価にすることが可能である。また、生乳に物理的エネルギーを加える方法は、薬剤刺激と比較して長期安定性があり、しかも生乳検査装置が設置された環境温度及び湿度に影響を受け難いため、使用年数が経過しても精度の高い測定値を再現することが可能となる。
【0032】
生乳に物理的エネルギーを加える場合、刺激手段としては、生乳に電磁波又は超音波を照射する刺激手段、生乳に剪断応力をかける刺激手段、生乳に電場又は磁場を印加する刺激手段等が好適に用いられる。
【0033】
生乳に電磁波を照射する刺激手段を用いる場合には、細胞核に作用する0.01〜0.4μmの波長の紫外線を照射することが好ましい。紫外線を照射すると、体細胞の外殻の一部が破壊されやすくなり、それによって活性化が促進され、体細胞からの活性酸素の放出量が多くなる。より好ましい紫外線の波長は0.1〜0.3μmである。
【0034】
また、電磁波としては、紫外線以外に、細胞内の水の分子運動を高めて細胞膜を柔軟化させるという観点から、マイクロ波、赤外線、可視光線等を用いてもよい。マイクロ波を用いる場合は、周波数が1〜10GHzの範囲内のマイクロ波が好ましく、周波数が2〜4GHzの範囲内のマイクロ波がより好ましい。赤外線を用いる場合は、波長0.7〜1000μmの赤外線が好ましく、波長2.0〜500μmの赤外線がより好ましい。可視光線を用いる場合は、波長380〜750nmの可視光線が好ましく、波長430〜600nmの可視光線がより好ましい。
【0035】
生乳に超音波を照射する刺激手段を用いる場合には、通常特に制限はないが、10〜200kHzの周波数の超音波を照射することが好ましく、20〜100kHzの周波数の超音波を照射することがより好ましい。
【0036】
生乳に剪断応力をかける刺激手段を用いる場合には、剪断応力は10〜10000dynes/cm2であることが好ましく、50〜5000dynes/cm2であることがより好ましい。
【0037】
生乳に電場を印加する刺激手段を用いる場合には、電場の強さは0.001〜10V/cmの範囲が好ましく、0.01〜5V/cmの範囲がより好ましい。さらに前記の電場は、20Hz〜10MHzのパルス状に印加してもよい。
【0038】
生乳に磁場を印加する刺激手段を用いる場合には、磁場の強さは0.05〜30mTの範囲が好ましく、0.1〜20mTの範囲がより好ましい。さらに前記の磁場は、20Hz〜10MHzのパルス状に印加してもよい。
【0039】
あるいは、生乳に物理的エネルギーを加える場合、刺激手段としては、例えば、生乳に圧力をかける刺激手段や、上記の構成を組み合わせた刺激手段を用いることも可能である。
【0040】
例えば、物理的エネルギーとして浸透圧を用いる場合には、浸透圧は10〜250mOsmの範囲内であることが好ましく、20〜100mOsmの範囲内であることがより好ましい。
また、浸透圧以外の圧力としては、空気圧、水圧、真空圧を用いてもよい。活性化因子として空気圧、水圧、真空圧を用いる場合は、白血球が破壊されない程度の加圧又は減圧を行えばよく、その圧力は通常特に制限はないが、0.01Pa〜10MPaの範囲内であることが好ましく、0.1Pa〜1MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0041】
本発明の生乳検査装置のもう一つの特徴は、生乳が流路を流れることによって作用極への体細胞の付着機会を飛躍的に高めることである。体細胞のかなりの部分を占める殺菌能を有する好中球は走化性を有することが知られている。しかし、菌等を捕捉するための好中球の走化速度は1〜5分/mm程度と遅いため、例えば測定室に生乳を滴下した場合には、生乳中の好中球が作用極に到達するのに少なくとも数分間かかり、迅速な測定は困難である。また、好中球は、活性化させる薬剤(刺激物質)濃度を感知し、薬剤濃度の高い方に移動する。作用極への体細胞の付着機会を高めるためには、薬剤を作用極に固定することが好ましいが、このようにすると薬剤の安定性及び製造コストが問題になる。
【0042】
本発明では、刺激手段によって粘着性と活性酸素の放出量を高めた体細胞を、流れによって迅速に、作用極及びその近傍に付着させることが可能である。刺激手段による刺激と流れにより、通常の生乳中に浮遊している場合と比較して、作用極の表面には、数倍以上の好中球を付着させることができ、数倍以上の検出感度を実現可能となる。また、更に、作用極の表面を疎水性とすることで、作用極及びその近傍への好中球の付着性を高めることができる。体細胞のなかで、好中球、血小板は疎水性表面に粘着しやすいことが知られている。刺激手段によって付着性の高まったこれらは、疎水性表面に触れることで、付着の程度を増すことになる。直径5mmの作用極上に、高さ0.5mmの高さまで集積可能な好中球数は、好中球の直径を20μm、間隔を20μmとした場合、約15万個となる。
【0043】
本発明を、人の疾患にて説明する。好中球の組織付着による疾患として、虚血再還流時の組織損傷、歯周病が挙げられる。
【0044】
虚血再還流とは、外科手術における組織の切開の際、患者の出血を抑えるために動脈、静脈血管をクランプ等で閉塞させた後、術後にクランプ等を開放し、組織や臓器への血流を再開するステップをいう。虚血再還流時における大きな課題は、血流が再開された際、血小板や好中球が、手術を行った臓器の血管の内側に急速に集中(粘着)し、好中球から放出される活性酸素によって臓器の細胞を破壊して組織損傷を発生させることである。
外科的処置を必要とする患者は、生体免疫機能のバランスが崩れやすく、血小板や好中球の走化性、粘着性が高まっていること多いとされる。更に、再還流時の血管内皮の性質変化により、好中球が血管内皮により粘着し易くなり、組織損傷を発生させるリスクが高くなるとされている。
【0045】
歯周病は、歯を支える歯肉組織、及び骨組織が損傷し、症状が進行すると歯が抜けてしまう疾患である。歯周病における組織損傷も、好中球の関与が明らかになっている。口腔内には、多くの細菌、及び細菌から産生されたLPS等の毒素が存在する。このプラークと呼ばれる細菌や毒素が歯肉組織に定着すると、血管内の好中球はプラークを退治しようと歯肉組織に定着し、好中球から産生される活性酸素によって歯肉や骨の細胞を破壊し、歯周病が進行する。
【0046】
本発明では、前記人の疾患と同じような好中球の挙動(作用極とその近傍への好中球付着と活性酸素放出量の増大)を、作用極上での生理活性物質等の薬剤刺激を必要とすることなく実現することが特徴であり、更に流路による流れを利用することによって迅速かつ高精度に、しかも低コストで体細胞数を測定することが可能である。
【0047】
本発明では、生乳中の脂質粒子による遮光の問題は障害とならないため、生乳の容量を0.1mL以上とすることで、測定値のバラツキを少なくし、高感度化に必要な作用極及びその近傍への好中球の付着機会を増すことが可能となる。
前記流路の容積は0.1〜50mLの範囲であることが望ましく、0.5〜20mLの範囲であることがより好ましい。容積が50mLを超えると装置が大型化してしまう。また、容積が0.1mLを下回ると、流路内の生乳に含まれる体細胞の濃度が低い場合、測定値に十分な精度が得られない場合がある。
【0048】
生乳サンプルの採取時期は、朝、夕方の搾乳時のいずれであっても良い。ミルカーによる搾乳時、前絞り、中絞り、後絞りであってもよく、酪農家別に搾乳時間が異なるので、乳用牛の乳量状態に応じて、適宜選択することが望ましい。
【0049】
電気化学測定法における3電極測定方式は、測定極となる表面にSOD酵素が塗布された作用極、参照極、及び対極からなる。3電極方式の場合、最初に、作用極と参照極に等電圧が印加された後、作用極に追加電圧(例えば0.3V)を印加し、作用極と対極間に流れる酸化還元電流値を測定する。
3電極測定方式は、2電極測定方式と比較し、基準電圧を印加するために必要な参照極を有することで、僅かな酸化還元電流であっても、再現性よく検出できることが特徴である。
【0050】
好中球は、疎水性表面に触れると擬似足場を形成して、付着しやすくなる。前記刺激室及び前記測定室の少なくとも一方の壁面を疎水性表面とすることで、作用極及びその近傍に好中球を付着しやすくなり、センサが高感度化できる。
刺激室及び/又は測定室の壁面を疎水性にするには、そのような材料でセンサを構成してもよいし、刺激室及び/又は測定室の壁面を疎水性有機材料で被覆してもよい。疎水性有機材料を被覆する場合は、刺激室及び/又は測定室の壁面(例えば、天井面、床面、4つの側面)のうち少なくとも最も大きな壁面に疎水性有機材料を塗布しておくことが好ましい。
【0051】
また、同様の疎水性有機材料により、SOD酵素上に疎水性表面を有する表層を形成してもよい。活性酸素は有機材料を通過可能であるため、有機材料を被覆しても感度に問題はない。
【0052】
疎水性表面の水に対する接触角は、30°以上110°以下の範囲が好ましく、40°以上100°以下の範囲がより好ましい。該接触角が30°を下回ると、好中球の接着性は低下する。一方、該接触角が110°を超えると、材料の選択肢が限定され、製造コストに悪影響を与える。
【0053】
また、疎水性表面を有する前記刺激室を、狭隘な流路とすることで、好中球の付着性を更に高めることができる。刺激室の形状を、例えば、幅2mm、深さ3mm、長さ50mmとすることで、好中球の疎水性表面への接触機会を高めておき、作用極に付着する好中球数を更に増やすことが可能となる。
【0054】
作用極の表面は、複数の点状の突起又は複数の点状の窪みによって凹凸形状とされていることが好ましい。通常、作用極の面積が大きくなると、体細胞の付着面積が増大することで、作用極から対極に流れる電流量が多くなり、検出感度が向上する。一方、作用極の面積が大きくなりすぎると、作用極上での電流が生乳中にも拡散するようになり、作用極から対極に流れる電流量は低下し、検出感度が低下する結果となる。
【0055】
体細胞から放出された活性酸素による電流値をS(信号)、作用極から対極に流れるベース電流値をN(ノイズ)とすると、S/N比を高めることで検出感度は高まる。S/N比の向上のため、電流値の生乳中への拡散を極力抑え、作用極から対極に流れる電流値を低くするために、小さな電極を複数配置する方法が考えられるが、小さな電極を複数有することは、電極の造形精度が求められ、収率低下による生産性が低下する。
【0056】
作用極の表面に、例えば、直径20μm、高さ40μmの突起、又は直径20μm、深さ40μの窪みを、20μm間隔で配置することで、電流の生乳中への拡散を抑制し、電流密度の増大による、S/N比の向上が期待できる。作用極上に複数の突起又は窪みを有することで、凹凸形状の先端面(突起の頂面又は窪み以外の面)で発生した電流は生乳中に拡散するものの、凹凸形状の先端面以外の表面で発生した電流は生乳中に拡散することなく、作用極から対極に電流を流すことが可能となり、S/N比を飛躍的に高めることが可能となる。
【0057】
好ましい突起又は窪みの密度は、200〜15000個/mm2が好ましく、500〜10000個/mm2がより好ましい。突起又は窪みは、例えば柱形であり、その断面形状は円形であっても多角形であってもよい。突起又は窪みの密度が200個/mm2を下回る場合、電流が拡散しやすくなり、S/N比を高めることは困難な場合がある。一方15000個/mm2を上回る場合、造形精度を維持するために製造タクトタイムが長くなる等、工業生産における難易度が高くなり、高コストとなる場合がある。
【0058】
生乳中には、固形分である脂質粒子が、好中球数の100倍以上存在している。また、脂質粒子の粒子径は、乳用牛の育種、飼料の内容等によって異なり、2μm〜30μmの広い範囲となっている。隣り合う突起の間の距離又は窪みの幅は、生乳中の脂質粒子による閉塞を考慮し、4〜100μmが好ましく、10〜60μmがより好ましい。
【0059】
好ましい突起の高さ又は窪みの深さは、0.5〜1000μmであり、より好ましくは5〜500μmである。突起の高さ又は窪みの深さが0.4μmを下回る場合、平坦な作用極と変わらず、S/N比の向上が困難となる場合がある。一方1000μmを上回る場合、造形精度を維持するために製造タクトタイムが長くなる等、工業生産における難易度が高くなり、高コストとなる場合がある。
一方、突起の幅に対する高さのアスペクト比又は窪みの幅に対する深さのアスペクト比は、大きくなるほど好中球が付着する可能性が高くなるが、同時に工業技術の観点で難易度が高くなり、生産性が低下する可能性があることから、0.2〜10の範囲から選択することが好ましく、0.5〜5の範囲から選択することがより好ましい。
【0060】
バッチ測定式の生乳検査装置においては、サンプリングした生乳の温度が、室温付近、例えば23℃程度まで低くなっていることが予測される。このように生乳の温度が低い場合は、体細胞数が例えば30万個/mL以下と少ないと、十分な検出感度が得られない可能性がある。このような場合、作用極を30〜45℃の範囲内の温度に保つためのヒータを装備することが好ましい。これにより、生乳を例えば30〜45℃付近まで昇温することができ、生乳中の好中球が放出する活性酸素とSOD酵素との反応性を高め、十分な検出感度を得ることができる。
【0061】
1つの装置本体に対して、複数のセンサ及び複数の刺激手段を設けることも可能である。乳用牛の乳房は4つあり、例えば、1つの装置本体に4個のセンサを搭載することで、一度で1頭分の4分房を測定することができ、更に迅速な測定が可能になる。
あるいは、1つのセンサ本体に、作用極、参照極及び対極を有するチップを複数設けることも可能である。センサの製造コストの観点からすれば、1つのセンサ本体に複数のチップを有することになれば、大面積化による大量生産が可能となり、低コスト化が可能になる。
【0062】
電気化学測定法により好中球数を定量化しようとした場合、pA(ピコアンペア)単位の電流量を電圧に変換した後に、この電圧を増幅することになる。しかし、これらを正確に実行する電子素子は極めて高額となる。
【0063】
測定装置の販売価格は、例えば100〜500万円/台と極めて高額となることが予測され、顧客となる酪農家、生乳検査を行う協会等への普及性は低くなってしまう。顧客となる酪農家、生乳検査を行う協会等への普及性を高めるには、測定装置の販売価格を、例えば、20万円/台以下にすることが望ましい。20万円/台以下を実現するには、汎用の電流電圧変換素子、電圧増幅素子を使用することが望ましく、nA(ナノアンペア)単位の電流量を得ることが望ましい。
【0064】
本発明は、生乳中の好中球数が、30万個/mL以下であっても、測定電極である作用極、及びその近傍に好中球を集めることができ、再現性よく、nA(ナノアンペア)単位の電流量を得ることを特徴としている。
【0065】
作用極と対極との間に電圧を印加したときに流れる電流は、1〜5000nAが好ましく、10〜1000nAがより好ましい。電流が1nAを下回る場合は、電流量を電圧に変換するための素子が極めて高額となり、装置価格が高額となり、普及性を損なう場合がある。一方5000nAを上回る場合、突起又は窪みの密度を高め、アスペクト比を高めることが必要となり、工業生産上の難易度を高め、センサの価格が高額となり、普及性を損なう場合がある。下限値が1nAを下回らない範囲であれば装置は十分な精度が得られる。
【0066】
体細胞から放出された活性酸素とSOD酵素との反応によって、酸化還元電流が発生する。この酸化還元電流をSOD酵素から作用極に良好に伝搬させるためには、作用極をシステイン溶液に浸漬させ、システインの自己組織化単分子膜を形成させた後、その上にSOD酵素を塗布することが好ましい。
【0067】
好中球から放出される活性酸素量は、育種別の免疫力、及び血統別によって異なることが予測される。家畜(例えば乳用牛など)の飼養方法は、従来の自然繁殖から、全て人工授精に変わっている。人工授精とは、血統別に冷凍保存されたオスの精子を、メスに注入し、血統別に繁殖させる方法である。更に近年では、食肉処理場で回収された卵巣から卵子を取り出し、血統別の精子と、血統別の卵巣を特定した繁殖法が広がりつつある。
本発明の生乳検査装置、測定方法及び診断方法を用いることにより、育種別、及び血統別に好中球から放出される活性酸素量を電流量として把握することができ、例えば乳房炎に感染しにくい乳用牛など、育種を選抜して繁殖させることが可能となる。
【0068】
好中球から放出される活性酸素量は、乳腺組織、及び生乳中の黄色ブドウ球菌数の多い、少ないによって変動する。例えば、非感染の健康乳牛であれば、黄色ブドウ球菌数は少なく、好中球から放活性酸素を放出する必要ないため好中球の活性が高く、得られる電流量が大きくなる。逆に、乳房炎感染が進行した乳用牛では、黄色ブドウ球菌数が多いため、好中球から活性酸素を放出して死滅する好中球が多く、得られる電流量が小さくなる。
雌の出産後は、免疫力が低下するために生乳中の体細胞数が多くなることが知られている。そのため治療のために抗生物質を投与するが、投与期間中は家畜やその生乳を出荷することができない。また、抗生物質の投与効果を迅速に把握するシステムは存在しない。
【0069】
本発明の生乳検査装置、測定方法及び診断方法を用いることにより、好中球から放出される活性酸素量の増減を把握することができ、薬剤投与効果のある個体は好中球1個あたりの電流値が高いといった結果を用いることで効率的に家畜を飼養することができる。
【0070】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。
【0071】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係る生乳検査装置1Aを示す。この生乳検査装置1Aは、生乳中の体細胞数を測定可能なものであり、回路基板等を内臓する装置本体10と、装置本体10に着脱可能な板状のセンサ(活性酸素測定センサ)2を備えている。なお、本明細書では、説明の便宜のために、図1(a)の下側を前方、上側を後方、左側を左方、右側を右方というとともに、図1(b)の下側を下方、上側を上方という。
【0072】
装置本体10は、前方に開口するコネクタ部11aが設けられた、上下方向に扁平で左右方向に延びる直方体状の主部11と、コネクタ部11aよりも下側で主部11から前方に張り出す台座部12と、台座部12上に設けられた左右一対のガイド部13とを有している。センサ2は、台座部12上に載置された状態で、ガイド部13に沿って後方に押し込まれることにより、コネクタ部11aに差し込まれて装置本体10に装着される。
【0073】
主部11の上面には、体細胞数を表示する表示部16、ユーザーから操作される入ボタン15a及び切ボタン15b、並びに測定した体細胞数が予め定めた閾値よりも大きな場合にユーザーにそれを報知するブザー18及び警報ランプ17が設けられている。また、台座部12には、ユーザーが握るためのグリップ部12aが連設されている。グリップ部には貫通孔12bが設けられており、この貫通孔12bを利用して生乳検査装置1Aをフック等に吊り下げ可能となっている。
【0074】
さらに、本実施形態では、主部11にセンサ2上の所定位置まで延びるアーム部14が設けられており、このアーム部14の先端の下面に刺激手段4Aが設けられている。
【0075】
<センサ>
次に、図2(a)及び(b)を参照して、センサ2の構成について詳細に説明する。センサ2の内部には、左右方向に延び、センサ2の上面に開口する右側の一端3aから同じくセンサ2の上面に開口する左側の他端3bに生乳を流すための流路3が設けられている。
【0076】
具体的に、センサ2は、左右方向に延びる長方形状のベースプレート21と、このベースプレート21の上面に積み重ねられた左右方向に延びる長方形状のカバープレート22とを有している。カバープレート22の長さはベースプレート21の長さと同じであるが、カバープレート22の幅はベースプレート21の後端部を露出させるようにベースプレート21の幅よりも短く設定されている。そして、ベースプレート21のカバープレート22よりも後側の部分は、装置本体10のコネクタ部11aに嵌り込む接続部2aとなっている。ベースプレート21のサイズは、例えば、長さ115mm、幅70mm、厚み1mmであり、カバープレート22のサイズは、例えば、長さ115mm、幅60mm、厚み4mmである。
【0077】
ベースプレート21及びカバープレート22の材質は、絶縁性のものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル−スチレン系共重合樹脂(MS樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合樹脂、スチレン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂等を挙げることができる。中でも、水に対する接触角が30°以上110°以下の、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル−スチレン系共重合樹脂、ポリエステル系樹脂等を用いることが好ましい。
【0078】
カバープレート22には、左右に離間する位置にカバープレート22を厚み方向に貫通する貫通孔33,36が設けられており、カバープレート22の下面には、それらの貫通孔33,36をつなぐ溝30が設けられている。そして、カバープレート22の下面にベースプレート21の上面が接合されることにより、貫通孔33,36、溝30及びベースプレート21の上面によって流路3が形成されている。すなわち、右側の貫通孔33が生乳を投入するための投入口である流路3の一端3aを構成し、左側の貫通孔36が投入された生乳の流れを止めて流路3内に一定量の生乳を確保するための貯留口である流路3の他端3bを構成する。溝30の深さは例えば1mmであり、右側の貫通孔33の直径は例えば30mmであり、左側の貫通孔36の直径は例えば20mmである。
【0079】
流路3の一端3aと他端3bの間(途中)には、溝30の形状の設定によって、上流側から順に、刺激室32、上流側狭隘部34、測定室31、及び下流側狭隘部35が設けられている。測定室31は、生乳中に含まれる活性酸素を検出するための部屋であり、刺激室32は、生乳中の体細胞に刺激を与えるための部屋である。上流側狭隘部34及び下流側狭隘部35は、生乳の流通を制限して生乳を刺激室32及び測定室34に長い時間留まらせる役割を果たす。測定室31の大きさは例えば30mm×30mmであり、刺激室32の大きさは例えば20mm×20mmである。また、上流側狭隘部34及び下流側狭隘部35の長さは例えば2mmであり、幅は例えば1mmである。
【0080】
ベースプレート21の上面には、接続部2aから測定室31内の所定位置まで前後方向に延びる3本の第1〜第3電極61〜62が設けられている。第1電極61〜第3電極63は、右側から左側にこの順に並んでいる。第1電極61の前端部には表面にSOD(スーパーオキサイドジスムターゼ)酵素が塗布された作用極6Aが設けられており、第2電極62の前端部には基準極として使用される参照極6Bが設けられており、第3電極63の前端部には主に作用極6Aとの間に電圧が印加される対極6Cが設けられている。カバープレート32は、これらの第1〜第3電極61〜63の上からベースプレート21に接合されている。なお、第1〜第3電極61〜63の後端部は、センサ2がコネクタ部11aに差し込まれたときに、装置本体10側の端子(図示せず)と電気的に接続される。
【0081】
作用極6Aと対極6Cとの間及び参照極6Bと対極6Cとの間には、例えば直流1Vの電圧が均等に印加される。その上で、作用極6Bに重畳的に例えば0.3Vの追加電圧が印加されると、作用極6A上でSOD酵素による生乳中に含まれる活性酸素の酸化分解(正確には生乳中の好中球から放出されたスーパーオキシドアニオンの酸化分解:O2-→O2+e-)が発生するとともに、作用極6A上から溶け出したSOD酵素が対極6C上で還元されて、作用極6Aと対極6Cとの間に電流が流れる。作用極6Aと対極6Cとの間に流れる電流量を測定することにより、好中球から放出される活性酸素量、ひいては生乳中の体細胞数を測定することが可能となる。
【0082】
作用極6A、参照極6B及び対極6Cの形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態では全て円形状になっている。作用極6Aと対極6Cとの間の抵抗値を低くするためには、それらを例えば0.5〜1.0mm程度に近接させて配置することが好ましい。対極6Cの面積は、作用極6Aの面積よりも大きいことが好ましい。このようになっていれば、作用極6A上での酸化分解に対する還元電流を検出しやすくできるからである。例えば、対極6Cの直径を作用極6Aの直径の2倍としてもよい。
【0083】
第1〜第3電極61〜63の形成法は、蒸着、スパッタリング、電解メッキ、無電解メッキ、シルクスクリーン印刷、金属ペーストのインジェクション法等を用いることができる。電極に用いられる導電性材料としては金、銀、塩化銀、白金、銅、アルミニウム等を挙げることができる。本実施形態では、活性酸素として好中球から放出されるスーパーオキシドアニオンを主に検出するので、第1電極(作用極6A)を金、第2電極62(参照極6B)を銀/塩化銀、第3電極63(対極33)を白金で構成している。
【0084】
本実施形態では、図3に示すように、作用極61の表面は、複数の点状の突起6aによって凹凸形状とされている。複数の突起6aを設けることにより、作用極6Aの表面で発生した酸化還元電流は、突起6aの頂面で発生した電流のみが生乳中に拡散し、そのほとんどが作用極6Aから対極6Cに流れるようになり、フラットな作用極と比較してS/N比の向上が可能となる。
【0085】
具体的に突起6aは、図5に示すように、ベースプレート21に形成された凹凸構造21aと、この凹凸構造21aの上に形成された薄膜の作用極6Aとで構成されている。そして、作用極6Aの上に、SOD酵素72がシステインの自己組織化単分子膜71を介して塗布されている。さらに、SOD酵素72の上には、疎水性材料により、水に対する接触角が30°以上110°以下の表面を有する表層73が形成されている。
【0086】
凹凸構造21aの形成方法は、特に限定されないが、例えば、射出成形、プレス成形、モノマーキャスト成形、溶剤キャスト成形、ホットエンボス成形、押出成形によるロール転写法等を挙げることができる。なかでも、生産性及び型転写性の観点から、射出成形が好ましく用いられる。
【0087】
突起6aは、図3に示すようにマトリクス状に配置されていてもよいし、図4に示すように千鳥状に配置されていてもよい。また、突起31dは、規則的に並んでいる必要はなく、ランダムに配置されていてもよい。なお、本発明の「隣り合う突起の間の距離」とは、図3及び図4中に符号Lで示すように、突起6aが並ぶ方向における突起6a同士の間の間隔のことである。
【0088】
<刺激手段>
次に、刺激手段4Aについて詳細に説明する。本実施形態の刺激手段4Aは、センサ2の上からセンサ2を透過して生乳に電磁波を照射することにより、刺激室32内で生乳中の体細胞に刺激を与えて該体細胞から活性酸素を発生させるものである。すなわち、刺激手段4Aは、センサ2が装置本体10に装着されたときに刺激室32の真上に位置する位置に配置されている。例えば、電磁波として紫外線を用いる場合は、刺激手段4Aとして紫外線LEDを採用すればよい。
【0089】
<ヒータ>
さらに、本実施形態では、装置本体10の台座部12に、作用極6Aを30〜45℃の範囲内の温度に保つためのヒータ5が埋め込まれている。本実施形態のヒータ5は、センサ2が装置本体10に装着されたときに流路3の一端3aから測定室31までの領域に略重なる程度の大きさを有している。このように、ヒータ5は、作用極6Aだけでなく、測定室31及びその上流側を広く加熱可能なように配置されていることが好ましい。このようになっていれば、生乳を流路3の一端3aに投入された直後から加熱することができるからである。
【0090】
<装置本体>
次に、図10を参照して、装置本体10の構成について詳細に説明する。装置本体10は、作用極6Aと対極6Cとの間に電圧を印加したときに流れる電流に基づいて生乳中に含まれる体細胞数を算出するものである。具体的に、装置本体10は、電源101と、作用極6Aと対極6Cとの間及び参照極6Bと対極6Cとの間に電圧を印加して、それらの間に流れる電流を検出する電流検出回路102と、検出された電流を電圧に変換する電流電圧変換回路103と、電圧値から体細胞数を算出する演算部104とを備えており、演算部104で算出された体細胞数が表示部16に表示される。また、装置本体10は、刺激手段4A及びヒータ5(図10では図示省略)に電力を供給する電力供給部105を有している。
【0091】
電源105は、電池やバッテリー等の内部電源であってもよいし、家庭用電源等の外部電源であってもよい。電流検出回路102は、スイッチング素子等で構成されている。電流電圧変換回路103は、電流電圧変換素子や電圧を増幅するオペアンプ等で構成されている。演算部104は、CPUや記憶部(ROM及びRAM)等からなっている。記憶部には、電圧値と体細胞数とを関係づける検量線が記憶されており、演算部104は、電流電圧変換回路103から送られる電圧値に応じた体細胞数を算出する。なお、感度の異なる複数種類のセンサ2を使用する場合には、センサ2毎に検量線を記憶部に記憶させておけばよい。
【0092】
本実施形態では、参照極6Bが設けられているので、体細胞数を算出する際の電圧値は、参照極6Cを考慮した値である。すなわち、装置本体10は、作用極6Bと対極6Cとの間に電圧を印加したときに流れる電流を電圧に変換して作用電圧値を得るとともに、参照極6Bと対極6Cとの間に電圧を印加したときに流れる電流を電圧に変換して参照電圧値を得る。そして、装置本体10は、体細胞数を算出する際には、作用電圧値から参照電圧値を控除した電圧値から体細胞数を算出する。このようにすれば、生乳中に含まれる活性酸素とSOD酵素との反応に基づく電圧値を正確に得ることができる。
【0093】
<使用要領>
次に、生乳検査装置1Aを使用して体細胞数を測定する方法を説明する。まずセンサ2を装置本体10に装着し、入ボタン15aを押して、電源スイッチをONにする。これにより、電力供給部105が刺激手段4A及びヒータ5に電力を供給し、刺激手段4Aから電磁波が照射されるとともに、ヒータ5によってセンサ2の作用極6Aが所定温度まで加熱される。また、電源スイッチがONされると、それと同時に電流検出回路102によって作用極6Aと対極6Cとの間及び参照極6Bと対極6Cとの間に等しい電圧が印加され、さらにその後(例えば、装置本体10内の電子素子が安定になる、電源スイッチがONされてから5秒後)に作用極6Aに追加電圧が印加されて、体細胞数の測定が可能な状態とされる。なお、追加電圧は、電源スイッチがONされると同時に作用極6Aに印加されてもよい。
【0094】
この状態で、流路3の一端3aにサンプルの生乳を投入する。生乳の投入に関しては、搾乳前の前絞り操作の際に滴下する生乳を直接一端3aに投入してもよいし、予めサンプリングしておいたものを一端3aに投入してもよい。生乳が流路3の一端3aに投入されると、生乳は流路3を一端3aから他端3bに流れる。生乳の投入は、例えば、他端3bにおける生乳の液面がセンサ2の上面と一致するまで行う。
【0095】
流路3の一端3aに投入された生乳は、投入後直ちに刺激室32に流れ込み、ここで刺激手段4Aから電磁波を照射される。これにより、生乳中の体細胞が活性化される。活性化された体細胞は、生乳が測定室31を通過する間に作用極6Aの表面に粘着、凝集する。そうすると、体細胞(特に好中球)が放出する活性酸素とSOD酵素が反応し、その酸化還元電流が装置本体10に送られて、体細胞数が算出される。算出された体細胞数は、表示部16に表示される。
【0096】
本実施形態の生乳検査装置1Aでは、小型化及び低コスト化が可能であり、簡易かつ迅速に体細胞数を精度よく測定できることができる。従って、酪農家による生乳の生産現場において、乳房炎を初期段階で診断することが可能になる。これにより、タンク単位での生乳の廃棄を効果的に防止することができる。
【0097】
(第2実施形態)
図7(a)及び(b)に、本発明の第2実施形態に係る生乳検査装置1Bを示す。なお、本第2実施形態及び後述する第3〜第5実施形態では、第1実施形態と同一構成部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0098】
第2実施形態では、生乳に電場を印加する刺激手段4Bが採用されている。具体的に、装置本体10のアーム部14の下面には、センサ2が装置本体10に装着されたときに刺激室32の真上に位置する位置に正電極41が設けられており、台座部12には、正電極41と対応する位置に負電極42が埋め込まれている。このような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0099】
(第3実施形態)
8(a)及び(b)に、本発明の第3実施形態に係る生乳検査装置1Cを示す。第3実施形態では、生乳に超音波を照射する刺激手段4Cが採用されている。具体的に、第3実施形態では、装置本体10にアーム部が設けられておらず、台座部12におけるセンサ2が装置本体10に装着されたときに刺激室32の真下に位置する位置に超音波発信素子が埋め込まれている。このような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0100】
なお、超音波発信素子に代えて電気磁石を台座部12に埋め込めば、生乳に磁場を印加する刺激手段を構成することも可能である。
【0101】
(第4実施形態)
9(a)及び(b)に、本発明の第4実施形態に係る生乳検査装置1Dを示す。第3実施形態では、生乳に剪断応力をかける刺激手段4Dが採用されている。具体的に、第3実施形態では、装置本体10に、左側のガイド13と台座部12を貫通する縦穴46が設けられている。縦穴46の上端には、先端にコネクタを有するチューブ45が接続されており、縦穴46の下端には、所定長さの排出管48が接続されている。排出管48の途中には、電磁弁47が設けられている。
【0102】
一方、センサ2では、刺激室32が狭隘の流路となっている。このため、刺激室32と測定室31の間には、上流側狭隘部ではなく、刺激室32の幅と測定室31の幅の中間の幅を有する開放部37が設けられている。すなわち、第4実施形態では、下流側狭隘部35のみが設けられている。
【0103】
第4実施形態の生乳検査装置1Dを使用するには、センサ2を装置本体10に装着した後に、流路3の他端3bにチューブ45の先端に設けられたコネクタを接続する。その後、流路の一端3aに生乳を投入しながら電磁弁47を開くことにより、縦穴46及び排出管48による落差圧によって一端3aに投入された生乳が刺激室32内に引き込まれる。これにより、刺激室32の前後の側面によって生乳に剪断応力がかけられる。すなわち、第4実施形態では、刺激室32、チューブ45、縦穴46、排出管48及び電磁弁47によって刺激手段4Dが構成されている。このような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0104】
なお、電磁弁37に代えて、例えばポンプを用いれば、生乳にかける剪断応力を自由に設定することができる。
【0105】
(第5実施形態)
図10(a)及び(b)に、本発明の第5実施形態に係る生乳検査装置1Eを示す。この生乳検査装置1Eでは、生乳の検査を4箇所で同時に行うことが可能なセンサ2が装置本体10に固定されており、装置本体10には、生乳の検査場所に対応した4つの表示部16が設けられている。なお、図10(a)では、ボタン15a,15bを省略している。
【0106】
具体的に、センサ2は、試料ガイド8によって4つの流路3が形成されたセンサ本体27と、センサ本体27に着脱可能な4つのチップ25とを有する。4つの流路3の一端3aはセンサ本体27の4つのコーナーの近くに配置されており、4つの流路3の他端3bはセンサ本体27の中央にまとめて配置されている。
【0107】
センサ本体27は、グリップ部12aが連設されたベースプレート26を有している。ベースプレート26には、流路3に沿って溝が形成されていてもよい。試料ガイド8は、例えば高さ5mm、幅1mmのものである。
【0108】
試料ガイド8は、図11に示すように、生乳の投入口である流路3の一端3aを構成する一部が途切れた円形筒状部81と、生乳の貯留口である流路の他端3bを構成する一部が途切れた矩形筒状部82とを有している。なお、矩形筒状部82の2つの壁部は他の流路3用の矩形筒状部82と共用となっている。また、試料ガイド8は、円形筒状部81の途切れた部分と矩形筒状部82の途切れた部分をつなぐ一対の縦壁部83,84を有している。一方の縦壁部83は、上流側縦壁部83aと下流側縦壁部83bに分断されており、この間にチップ25が装着されるようになっている。
【0109】
チップ25は、基板25aを有し、この基板25aの上面に、一端に作用極6Aを有する第1電極61、一端に参照極6Bを有する第2電極62、及び一端に対極6Cを有する第3電極63が設けられている。さらに、基板25aの上面には、第1〜第3電極61〜63を横切るように例えば高さ3mmの液止めシート25bが貼着されており、チップ25における液止めシート25bよりも第1〜第3電極61〜63の他端側の部分が装置本体10に接続される接続部となっている。
【0110】
そして、チップ25が上流側縦壁部83aと下流側縦壁部83bの間に装着されたときには、液止めシート25bによってその間が塞がれ、流路3に生乳を満たすことが可能となる。また、上流側縦壁部83aの下流端には、他方の縦壁部64に向かって延び、隔壁部83cとの間に上流側狭隘部34を形成する形成隔壁部83cが設けられている。一方、下流側狭隘部35は、縦壁部64の下流端と下流側縦壁部83bの下流端とで形成されている。すなわち、第4実施形態では、縦壁部84の上流側部分、上流側縦壁部83a、隔壁部83c及びベースプレート26の上面によって刺激室32が構成され、隔壁部83c、縦壁部84の下流側部分、液止めシート25b、下流側縦壁部83b及び基板25aの上面によって測定室31が構成される。
【0111】
なお、第5実施形態では、第3実施形態と同様に、刺激室32の床面に超音波発信素子又は電気磁石を埋め込むことにより、刺激室32内で生乳に超音波を照射する又は生乳に磁場を印加する刺激手段を構成すればよい。
【0112】
このような構成であれば、チップのみを使い捨てとすることができ、使い勝手をよくすることができる。また、測定室31の床面を構成するチップのみを使い捨てとすることで、材料の無駄を少なくでき、センサの低コストが可能となる。さらに、センサ本体27は繰り返し使用とし、チップ25を使い捨てとすることで、測定室31を集中して配置することが可能となり、1つのセンサで1頭分、4分房の測定を行うことも可能となる。
【0113】
(変形例)
なお、前記実施形態では、生乳の投入開始から投入終了までの全期間に亘って刺激手段が生乳に物理的エネルギーを加えるようになっているが、生乳の投入開始から投入終了までの期間のうちで所定時間だけ刺激手段が生乳に物理的エネルギーを加えるようにしてもよい。例えば、装置本体10に刺激開始用の押しボタンを設け、その押しボタンが生乳投入時にユーザーに押されてから一定時間だけ刺激手段に電力が供給されるようにしてもよい。なお、前記の所定時間は、刺激手段の刺激を与える方法に応じて決定すればよい。
【0114】
また、流路3には、刺激室32が特別に区画されている必要はなく、例えば流路3の一端3aから測定室31までの部分が一定幅となっていて、この部分を生乳が流れる途中で刺激手段によって生乳に物理的エネルギーが加えられるようになっていてもよい。
【実施例】
【0115】
以下に実施例を説明する。本実施例で示した生乳検査装置は一例であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0116】
[生乳サンプル中の体細胞数計測]
5頭の乳房炎既往症履歴を持つ乳用牛を特定した後、各乳用牛から分房別に生乳サンプルを採取した。
【0117】
生乳サンプルをスライドグラスの上の一定面積に塗抹し、乾燥、染色、鏡検して、細胞数を数えた結果と、顕微鏡(油浸レンズ観察)の視野の面積との関係によって、生乳サンプル中に存在する体細胞数を算出した。なお、代表視野は16視野以上計測し、視野全ての有核体細胞数を計測した。体細胞数計測には、オリンパス光学工業株式会社の検査用顕微鏡(型式:BX41)を使用した。
【0118】
体細胞数計測は全ての生乳サンプルについて行い、それらのうちから各乳用牛から1つの生乳サンプルを選定した。生乳サンプルの体細胞数は、a:8万個/mL、b:20万個/mL、c:28万個/mL、d:60万個/mL、e:143万個/mLであった。
【0119】
[活性酸素測定センサの製造]
[実施例1〜4]
実施例1〜4では、センサを共通にした。まず、アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、長さ115mm、幅70mm、厚み1mmのベースプレートを形成した。このベースプレートの水に対する接触角は72°であった。次に、ベースプレートにマスキングを施し、蒸着装置〔(株)アルバック社製、型式:UEP〕を用い、作用極(金)、参照極(銀/塩化銀)、対極(白金)を形成した。作用極の直径は6mm、対極の直径は12mmとした。
【0120】
次に、作用極(金)をシステイン溶液に浸漬させ、作用極の表面上にシステインの自己組織化単分子膜を形成した後、浸漬法によりSOD酵素を塗布して固定した。SOD酵素の厚みは0.02μmとした。
【0121】
次に、アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、2つの貫通孔及びこれらの貫通孔をつなぐ深さ1mmの溝を有する、長さ110mm、幅60mm、厚み4mmのカバープレートを形成した。具体的に、生乳の投入口を構成する貫通孔を直径30mm、生乳の貯留口となる貫通孔を直径20mmとし、溝を、刺激室が20mm×20mm、上流側狭隘部が長さ2mm×幅1mm、測定室が30mm×30mm、下流側狭隘部が長さ2mm×幅1mmとなる形状にした。カバープレートの水に対する接触角は72°であった。
【0122】
次に、レーザー樹脂溶着機(ミヤチテクノス社製、型式:ML−5220B)を使用し、ベースプレートとカバープレートとを溶着し、活性酸素測定センサを得た。
【0123】
[実施例5]
アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を用いて射出成形法により、長さ100mm、幅60mm、厚み1mmのベースプレートを形成した。その際、スタンパーを使用して、ベースプレートの作用極を形成する領域に、直径20μm、高さ20μmの突起を、図3に示すように15μmの間隔Lにてマトリクス状に形成し、その上に直径12mmの作用極を形成した。その他は実施例1〜4と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0124】
[実施例6]
アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を用いて射出成形法により、長さ100mm、幅60mm、厚み1mmのベースプレートを形成した。その際、スタンパーを使用して、ベースプレートの作用極を形成する領域に、直径30μm、高さ75μmの突起を、図4に示すように20μmの間隔Lにて千鳥状に形成し、その上に直径12mmの作用極を形成した。その他は実施例1〜4と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0125】
[比較例1]
アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、長さ60mm、幅30mm、厚み1mmのベースプレートを形成した。次に、ベースプレートにマスキングを施し、蒸着装置〔(株)アルバック社製、型式:UEP〕を用い、作用極(金)、参照極(銀/塩化銀)、対極(白金)を形成した。作用極の直径は4mm、対極の直径は8mmとした。
【0126】
次に、作用極(金)の表面上に、システイン単分子膜及び酵素試薬の代わりに金属ポルフィリン錯体の重合膜を形成した。金属ポルフィリン錯体の重合膜は、特許文献3の参考例1,2の手法に沿って形成した。
【0127】
次に、アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、2つの貫通孔及びこれらの貫通孔をつなぐ深さ0.5mmの溝を有する、長さ50mm、幅30mm、厚み3mmのカバープレートを形成した。2つの貫通孔の直径をそれぞれ20mm、30mmとし、溝の形状を長さ40mm、幅10mmの長方形状とした。
【0128】
次に、レーザー樹脂溶着機(ミヤチテクノス社製、型式:ML−5220B)を使用し、ベースプレートとカバープレートとを溶着し、活性酸素測定センサを得た。
【0129】
[比較例2]
作用極(金)の表面上に金属ポルフィリン錯体を設けない、すなわち作用極の表面を露出させた以外は比較例1と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0130】
[比較例3]
作用極(金)の表面上に、金属ポルフィリン錯体の代わりにSOD酵素を塗布した以外は比較例1と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0131】
[比較例4]
アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を用いて射出成形法により、長さ60mm、幅30mm、厚み1mmのベースプレートを形成する際に、スタンパーを使用して、ベースプレートの作用極を形成する領域に、直径100μm、高さ100μmの突起を、300μmの間隔でマトリクス状に形成し、その上に作用極を形成した以外は作用極を露出させた比較例2と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0132】
[活性酸素測定センサが検出する電流値の測定]
前述した各生乳サンプルa〜eについて、実施例及び比較例の活性酸素測定センサを用いて電流を検出し、その電流値を測定した。電流値の測定は、ポテンシオスタット・ガルバノスタット(北斗電工株式会社、型式:HA―151)を使用した。
【0133】
活性酸素測定センサの流路の一端に生乳サンプルを投入しながら、作用極と参照極に直流1Vを印加した後、作用極に0.3Vの追加電圧を印加した。作用極上で酸化分解が発生すると同時に、対極には酵素の還元が起こり、作用極と対極との間に電流が流れた。その電流値を測定した。電流値の測定は、活性酸素測定センサを、37℃に設定されたプレート式のヒータ上に固定して行った。
【0134】
実施例1,2では、刺激室に流入した生乳に、センサ2の外から波長0.36μmの紫外線を照射した。紫外線照射は、照度2000mW/cm2の条件にて、実施例1では2秒間、実施例2では5秒間行った。実施例3,6では、刺激室に流入した生乳に、センサ2の外から中心波長1.0μmの赤外線を照射した。赤外線照射は、放射強度2000mW/srの条件にて、実施例3,6ともに5秒間行った。実施例4では、刺激室に流入した生乳に、センサ2の外から1V/mの電場を印加した。実施例5では、刺激室に流入した生乳に、周波数50kHzの超音波を照射した。超音波照射は、出力1000Wの条件にて、10秒間行った。比較例1〜4では、生乳に対して刺激を与えず、単に流路に流すだけにした。
【0135】
上記の刺激の方法及び条件並びに作用極の構成をまとめると表1のようになる。
【表1】
【0136】
また、電流値の測定結果は、表2及び図12に示すとおりであった。
【表2】
【0137】
表2から、比較例1〜4では、乳房炎に罹患した履歴を有する牛のものであるが生乳中の体細胞数が8万個/mLと低い生乳サンプルaと比較し、体細胞数の値が高い生乳アンプルb,cとで電流値の差がほとんどなく、乳房炎を初期段間で診断することが困難であることが分かる。体細胞数の値が更に高い生乳サンプルd,eにおいても、体細胞数の増加に応じた電流値を得ることができない。
これに対し、実施例1〜6では、生乳サンプルa〜eの体細胞数に応じて電流値の増大が認められ、体細胞数が30万個/mL以下の範囲においても高い電流値を得ることができ、乳房炎を初期段間で診断することができる。
【0138】
また、図12のグラフから、実施例1〜6では、生乳中の体細胞数の増加に従い、活性酸素測定センサが検出する電流値が大きく増大し、生乳中の体細胞数と電流値との相関関係が良好であることが確認できる。なかでも、実施例5の作用極が複数の突起を有する場合、電流値が高くなることが確認できた。実施例6のように作用極の複数の突起のアスペクト比が高くなると、さらに電流値が高くなることがわかる。
【符号の説明】
【0139】
1A〜1E 生乳検査装置
2 センサ
25 チップ
27 センサ本体
3 流路
3a 一端
3b 他端
31 測定室
32 刺激室
34 上流側狭隘部
35 下流側狭隘部
4A〜4D 刺激手段
5 ヒータ
6A 作用極
6a 突起
6B 参照極
6C 対極
71 単分子膜
72 SOD酵素
73 表層
10 装置本体
【技術分野】
【0001】
本発明は、生乳の検査に用いられる生乳検査装置並びにこれを用いた体細胞数測定方法及び家畜症状診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産において、家畜の病気、けがの発見、投与した薬剤の効果の診断など、家畜の状態を早期に詳しく診断するニーズは近年ますます高まっている。特に感染性の疾病においてはそのニーズは高い。哺乳類、とりわけ牛、羊、山羊など酪農用の家畜の症状診断には家畜の生乳を分析することが重要かつ有効な手段である。
【0003】
たとえば乳房炎は、乳用牛の死廃傷病事故のなかで最大の問題になっている。乳房炎は、罹りやすい上に極めて治りにくい病気であるため、世界的に最難治疾病の一つとされている。乳房炎に罹患した乳用牛の生乳中の体細胞数は、正常な乳用牛が通常2〜10万個であるのに対し、30万個/mL以上、なかには300万個/mL以上の慢性乳房炎に至る場合も少なくない。体細胞数の測定は煩雑であり、しかもそれを実現する装置は高価なため、通常生乳の検査は大型タンクに集められて(多くの場合は別の検査機関などに搬送されて)から行われる。そうすると、発覚が遅れて被害量が増えるだけでなく、サンプリングした生乳中の体細胞数が規定値以上であることが発覚した場合、生乳がタンク単位で廃棄されたり酪農家へペナルティ(課徴金)が課されたりする。そして、その年間被害額は、日本全体で800億円〜1000億円と試算されている。
【0004】
また、乳房炎による体細胞数の増加は、食の安全にも直結した課題である。乳房炎に感染すると、黄色ブドウ球菌が乳腺組織に定着するとともに、生乳中に黄色ブドウ球菌が混入する。黄色ブドウ球菌は、食中毒の原因となるエンテロトキシンを産生し、これを生乳中に放出する。生乳の製造工程において、殺菌によって黄色ブドウ球菌は殺菌されるものの、エンテロトキンは分解されないため、食中毒のリスクは排除されない。エンテロトキシンによる食中毒リスクを回避するためにも、乳房炎の早期発見と治療が望まれている。これら乳房炎の発見及び診断においては前記家畜の生乳を分析する方法は非常に有効である。
【0005】
けが、炎症、感染性の疾病においては生乳中の体細胞、例えば好中球が増加する場合が多く見られる。とりわけ乳房炎においてはこの傾向は顕著である。
【0006】
画像識別法は、生乳中の好中球を染色し、カメラによって脂質粒子と好中球を識別、自動計測する方法である。画像識別法においては、脂質粒子による遮光の問題が生じるため、生乳の容量は0.1mL以下とされ、薄い平らな空間に生乳を固定する等して計測を行う。しかしながら、画像識別法による自動細胞数測定機器による体細胞数測定は、極めて高額であるという問題があった。また、光学顕微鏡による塗沫測定では、手間がかかりすぎるという問題があった。また使用するサンプルが少量であるため、測定誤差が生じやすいという問題もあった。
【0007】
そこで、生乳の分析において混入した体細胞から放出される活性酸素量を、ルミノール化学発光法で測定することが提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
ルミノール化学発光法は、ルミノール試薬によって、好中球から放出された活性酸素を励起し、その化学発光量を検出して、増幅・定量化する方法である。細菌侵入に連動して集まる好中球数を、感染初期の細菌侵入開始段階から、重度乳房炎まで広範囲にわたって、高感度で検出可能な技術である。
【0009】
しかしながら、ルミノール化学発光法による乳房炎診断装置は、装置が高額となり、一定の光量を得るまでに10分以上の時間を必要とするため、実用性に課題を有していた。日本における乳用牛の飼養頭数だけでも、100万頭以上である。分房別に感染の有無を診断しようとすると、400万個以上の分房が対象となる。年間数回の感染チェックを行おうとすると、年間1000万回を超える測定が必要となり、迅速測定及び装置価格の点で課題を有するルミノール化学発光法は実用性に課題を有していた。また一定の光量を得るまでに時間がかかるため、製造コストと迅速化が課題となっていた。更に、通常ルミノール化学発光法を用いて生乳中の体細胞数を計測する場合、生乳中の脂質粒子が透明性を損なうために測定に用いる生乳の容量を0.1mL以下とし、数倍〜数10倍透明な生理食塩水で希釈することが必要となる。生乳中の好中球の存在比率は通常多少のバラツキあるため、サンプル量を少なくすることで、バラツキが測定値に与える影響が大きくなり、測定精度が低下する。
【0010】
この問題を改良した方法として、好中球から放出された活性酸素の存在を電流として検出することが提案されている。例えば特許文献2には、円筒状の絶縁部材の内周面に作用極が形成され、外周面に対極が形成されたニードル状の活性酸素センサを備える乳房炎診断装置が開示されている。この乳房炎診断装置は、活性酸素センサによって活性酸素の濃度を測定し、その濃度に基づいて乳房炎に罹っているか否かを判定するものである。作用極及び対極は、導電性部材の表面に金属ポルフィリン錯体の重合膜が形成されたものであり、活性酸素の測定原理は次のとおりである。
【0011】
活性酸素センサを活性酸素(例えば、スーパーオキシドアニオン:O2-)の存在する生乳中に漬けると、金属ポルフィリン錯体中の金属が活性酸素により還元される(例えば、Fe3+→Fe2+)。そこで、作用極と対極との間にある程度の電圧を印加すると、還元された金属が再酸化され(例えば、Fe2+→Fe3+)、電流が流れる。このときの電流値は、活性酸素の濃度と対応しているため、その電流値から活性酸素の濃度を検出することができる。
【0012】
生乳の生産において、体細胞数の管理目標値は、30〜50万個/mL以下に設定されている。乳房炎に感染した生乳中の体細胞数に占める好中球の比率は、8割〜9割と報告されており、体細胞数が30〜50万個/mLの場合、好中球数は27〜45万個/mLと推定される。このような生乳中の体細胞数は、健康な牛の血液中の好中球数の約1/10程度と低濃度であることから、生乳の分析による家畜の症状診断においては低濃度の体細胞を再現性よく測定できることが望まれる。
【0013】
しかしながら、電極に金属ポルフィリン錯体の重合膜を用いたニードル状の活性酸素センサの場合、好中球数がそれほど増加しない乳房炎の初期段階では、金属ポルフィリン錯体の重合膜表面からの反応によって得られる電流値の増加量は非常に小さく、乳房炎を初期段階で診断することが困難であった。
ニードル状の活性酸素センサの場合、測定を行う作用極及び対極はニードルの先端となり、反応面となる作用極の面積は極めて小さくなるため、得られる電流値は小さくなり、検出感度に課題を有していた。作用極の面積が極めて小さいため、生乳中の脂質粒子が作用極に付着すると、更に検出感度は低下することになる。作用極の面積を大きくしようとすると、ニードルの直径を太くすることが必要となり、ニードルの体積増加による電流量の損失が発生して検出感度を高めることにはならない。
また、生乳中の体細胞から放出される活性酸素は生乳中に拡散しているため濃度が低く、ニードル状の活性酸素センサを生乳に浸しただけでは、活性酸素を検出することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−041696号公報
【特許文献2】特開2005−106490号公報
【特許文献3】特開2006−314386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、電極に金属ポルフィリン錯体の重合膜を用いたニードル状の活性酸素センサを備える生乳の分析方法は、作用極の面積が極めて小さく、好中級がニードル状の活性酸素センサの近傍に存在しないため、金属ポルフィリン錯体の重合膜表面からの反応によって得られる電流値の変化量が非常に小さくなり、低濃度での分析が困難であった。このため例えば乳房炎を初期段階で診断することが困難であった。
【0016】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、畜産業において高い精度で迅速に生乳を分析することによって、例えば酪農におけるタンク単位での生乳の廃棄や被害の拡大を防止するために乳房炎を初期段階で診断することを可能とする、生乳検査装置並びにこれを用いた体細胞数測定方法及び家畜症状診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これら目的を達成するために、本発明は、生乳の検査に用いられる生乳検査装置であって、前記生乳を一端から他端に流すための流路であって前記生乳中に含まれる活性酸素を検出するための測定室を途中に有する流路、前記測定室に設けられた、表面にSOD酵素が塗布された作用極、及び前記測定室に設けられた、前記作用極との間に電圧が印加される対極、を含むセンサと、前記測定室よりも上流側で前記流路を流れる生乳中の体細胞に刺激を与えて該体細胞から活性酸素を発生させる刺激手段と、を備える、生乳検査装置を提供する。
【0018】
この構成によれば、生乳を流路に流しながら分析できる。しかも、測定室の上流側で生乳中の体細胞に刺激を与えることにより活性酸素の発生を促し、更にまた、活性酸素とSOD酵素の迅速で高感度な反応によって発生する電流を測定するため、体細胞の濃度が低い場合も精度の高い測定が可能である。
【0019】
なお、本発明でいう生乳検査装置とは、活性酸素とSOD酵素の反応によって発生した電流量に基づいて体細胞数の評価を可能にするものである。電流量から体細胞数を算出する算出部を該装置内に設けてもよく、電流値そのものや、これから算出した別の数値(例えば活性酸素量)を該装置で測定し、別途算出手段によって体細胞数を評価してもよい。
【0020】
また、本発明は、上記の生乳検査装置から得られる検査結果を用いて家畜の症状を診断する、家畜症状診断方法を提供する。
【0021】
この構成によれば、本発明の高感度な生乳検査装置から得られる検査結果を用いることで、家畜の疾病を初期段階で確認でき、個体ごとの免疫力や薬剤投与効果なども容易に確認できる。免疫力などを診断することで出産が家畜に与える影響や、育種、血統、育成環境などの影響も整理が容易になり、繁殖、品種改良などでも有用である。また個体ごとに診断し、疾病が確認できるので、疾病した生乳を健康な生乳と混入させて、廃棄対象が広がることも防げるばかりか、その場で結果が判断できることで疾病した生乳の出荷を速やかに停止できるので、無駄が少なく効率が高い。
【0022】
本発明の生乳検査装置を用いた症状診断方法により、例えば体細胞数及びその変化を把握することができ、潜在性乳房炎の早期感染を発見したり、臨床性乳房炎に移行する可能性のある乳用牛を特定したりすることが可能となる。
体細胞から放出される活性酸素量は、育種別及び血統別によって異なることが予測される。本発明の生乳検査装置を用いることにより、育種別及び血統別に好中球から放出される活性酸素量を電流量で把握することができ、乳房炎に感染しにくい育種を選抜して繁殖させることが可能となる。
体細胞から放出される活性酸素量は、乳腺組織及び生乳中の黄色ブドウ球菌数が多いか少ないかによって変動することが予測される。例えば、非感染の健康乳牛であれば、黄色ブドウ球菌数は少なく、好中球から放活性酸素を放出する必要ないため好中球の活性が高く、得られる電流量が大きくなると予想される。逆に、乳房炎感染が進行した乳用牛では、黄色ブドウ球菌数が多いため、好中球から活性酸素を放出して死滅する好中球が多く、得られる電流量が小さくなると予測される。
乳用牛の出産後は、免疫力が低下するために生乳中の体細胞数が多くなることが知られている。酪農家は、治療のために抗生物質を投与するが、投与期間中は生乳を出荷することができない。また、抗生物質の投与効果を迅速に把握するシステムは存在しない。
また本発明の生乳検査装置を用いた症状診断方法により、好中球から放出される活性酸素量の増減を把握することができ、薬剤投与効果のある乳用牛は好中球1個あたりの電流値が高いといった、飼養中の乳用牛に対しての新しい確認方法を提供できる。
【0023】
さらに、本発明は、上記の生乳検査装置を用いて、前記生乳検査装置における作用極と対極との間に電圧を印加したときに生乳中に含まれる活性酸素とSOD酵素との反応によって流れる電流量を測定し、該電流量を体細胞数に換算する、体細胞数測定方法を提供する。
【0024】
この構成によれば、測定した電流量を体細胞数に換算することで、他の方法で行われてきた過去のデータとの比較が容易になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、乳房炎を初期段階で診断することが可能となる。これにより、タンク単位での生乳の廃棄を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る生乳検査装置の平面図、(b)は同装置の正面図である。
【図2】(a)は図1に示した生乳検査装置を構成するセンサの平面図、(b)は(a)のIIB−IIB線断面図である。
【図3】第1電極部の表面に突起によって凹凸形状を形成した例を示す斜視図である。
【図4】突起の配置の変形例を示す平面図である。
【図5】突起の拡大断面図である。
【図6】図1に示した生乳検査装置のブロック図である。
【図7】(a)は本発明の第2実施形態に係る生乳検査装置の正面図、(b)は同装置の要部拡大断面図である。
【図8】(a)は本発明の第3実施形態に係る生乳検査装置の正面図、(b)は同装置の要部拡大断面図である。
【図9】(a)は本発明の第4実施形態に係る生乳検査装置の平面図、(b)は同装置の正面図である。
【図10】(a)は本発明の第5実施形態に係る生乳検査装置の平面図、(b)は(a)のXB−XB線断面図である。
【図11】図10(a)の一部拡大図であり、ベースプレートにチップを装着する前の状態を示す図である。
【図12】体細胞数と電流値の関係を示すグラフ(散布図)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の生乳検査装置は、生乳中の体細胞数が例えば10〜30万個/mLの範囲であっても、精度の高い測定を実行することができ、乳房炎の早期感染を把握することが可能である。通常、乳房炎感染の目安は、20〜30万個/mLの範囲とされている。正常な分房別の体細胞数は2〜10万個/mLの範囲であることが多く、乳用牛1頭が有する4つの乳房のなかで、1つ又は2つの分房のみが乳房炎に感染している場合が多い。本発明の生乳検査装置によれば10〜30万個/mLの体細胞数を測定可能であるために、分房別の感染の有無を、精度良く判別することが可能となる。
【0028】
通常、生乳中の体細胞は凝集することなく、生乳中に概ね均一に浮遊している。結果として測定電極である作用極の周囲には浮遊している体細胞のごく一部しか存在せず、大部分の体細胞は電極との距離が離れているため、十分な測定精度を得るには、生乳中に高濃度(例えば、100万個/mL以上)で体細胞が存在する必要がある。例えば、測定電極である作用極の電極直径が5mmの場合、電極から高さ0.5mm程度の生乳中に存在する体細胞から放出された活性酸素しか検出できないとすれば、生乳中の体細胞数が30万個/mLの場合、直径5mmの作用極が検出可能な体細胞数は約3000個と少ない。生乳中の好中球の存在比率は通常多少のバラツキあるため、測定する体細胞数が低下すると、バラツキが測定値に与える影響が大きくなり、測定精度が低下する。
【0029】
本発明の生乳検査装置は、流路を流れる生乳中の体細胞に測定室の上流で刺激を与える刺激手段を有することで、生乳中の体細胞の活性を高めることが特徴の一つである。刺激手段によって刺激を受けることで、体細胞は擬似足場を形成し粘着性を発現すると共に、活性酸素の産生量を高めることができるようになる。例えば、流路の測定室の上流側に刺激室を設け、この刺激室内で刺激手段によって生乳中の体細胞に刺激を与えてもよい。本発明の刺激手段は、体細胞を活性化するための薬剤であってもよく、生乳に物理的エネルギーを加えるものであってもよい。
【0030】
刺激手段として薬剤を採用する場合は、例えば刺激室の床面に薬剤を塗布又は固定しておけばよい。体細胞を活性化する薬剤として、例えば好中球の活性化剤としては、例えば、ケモカイン、エイコサノイド、ロイコトリエン、FMLP、ザイモザン、ホルボールミリステートアセテート(PMA)、コンカナバリンA、遊離脂肪酸、界面活性剤、金属微粒子、ポリマー微粒子等があげられる。金属微粒子に接着した好中球は、磁力によって電極近傍へ集積させてもよく、またポリマー微粒子に接着した好中球は重力、あるいは浮力で電極近傍へ集積させてもよい。また、通常特に制限はないが、活性化因子として活性化剤を用いる場合の好適な量は測定室又は生乳の体積に対して1ng/mL〜500μg/mLである。
【0031】
生乳に物理的エネルギーを加える方法によれば、工業技術上確立された素子を使用して安価かつ高精度にエネルギーを与えることができるため、生乳検査装置の製造コストを安価にすることが可能である。また、生乳に物理的エネルギーを加える方法は、薬剤刺激と比較して長期安定性があり、しかも生乳検査装置が設置された環境温度及び湿度に影響を受け難いため、使用年数が経過しても精度の高い測定値を再現することが可能となる。
【0032】
生乳に物理的エネルギーを加える場合、刺激手段としては、生乳に電磁波又は超音波を照射する刺激手段、生乳に剪断応力をかける刺激手段、生乳に電場又は磁場を印加する刺激手段等が好適に用いられる。
【0033】
生乳に電磁波を照射する刺激手段を用いる場合には、細胞核に作用する0.01〜0.4μmの波長の紫外線を照射することが好ましい。紫外線を照射すると、体細胞の外殻の一部が破壊されやすくなり、それによって活性化が促進され、体細胞からの活性酸素の放出量が多くなる。より好ましい紫外線の波長は0.1〜0.3μmである。
【0034】
また、電磁波としては、紫外線以外に、細胞内の水の分子運動を高めて細胞膜を柔軟化させるという観点から、マイクロ波、赤外線、可視光線等を用いてもよい。マイクロ波を用いる場合は、周波数が1〜10GHzの範囲内のマイクロ波が好ましく、周波数が2〜4GHzの範囲内のマイクロ波がより好ましい。赤外線を用いる場合は、波長0.7〜1000μmの赤外線が好ましく、波長2.0〜500μmの赤外線がより好ましい。可視光線を用いる場合は、波長380〜750nmの可視光線が好ましく、波長430〜600nmの可視光線がより好ましい。
【0035】
生乳に超音波を照射する刺激手段を用いる場合には、通常特に制限はないが、10〜200kHzの周波数の超音波を照射することが好ましく、20〜100kHzの周波数の超音波を照射することがより好ましい。
【0036】
生乳に剪断応力をかける刺激手段を用いる場合には、剪断応力は10〜10000dynes/cm2であることが好ましく、50〜5000dynes/cm2であることがより好ましい。
【0037】
生乳に電場を印加する刺激手段を用いる場合には、電場の強さは0.001〜10V/cmの範囲が好ましく、0.01〜5V/cmの範囲がより好ましい。さらに前記の電場は、20Hz〜10MHzのパルス状に印加してもよい。
【0038】
生乳に磁場を印加する刺激手段を用いる場合には、磁場の強さは0.05〜30mTの範囲が好ましく、0.1〜20mTの範囲がより好ましい。さらに前記の磁場は、20Hz〜10MHzのパルス状に印加してもよい。
【0039】
あるいは、生乳に物理的エネルギーを加える場合、刺激手段としては、例えば、生乳に圧力をかける刺激手段や、上記の構成を組み合わせた刺激手段を用いることも可能である。
【0040】
例えば、物理的エネルギーとして浸透圧を用いる場合には、浸透圧は10〜250mOsmの範囲内であることが好ましく、20〜100mOsmの範囲内であることがより好ましい。
また、浸透圧以外の圧力としては、空気圧、水圧、真空圧を用いてもよい。活性化因子として空気圧、水圧、真空圧を用いる場合は、白血球が破壊されない程度の加圧又は減圧を行えばよく、その圧力は通常特に制限はないが、0.01Pa〜10MPaの範囲内であることが好ましく、0.1Pa〜1MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0041】
本発明の生乳検査装置のもう一つの特徴は、生乳が流路を流れることによって作用極への体細胞の付着機会を飛躍的に高めることである。体細胞のかなりの部分を占める殺菌能を有する好中球は走化性を有することが知られている。しかし、菌等を捕捉するための好中球の走化速度は1〜5分/mm程度と遅いため、例えば測定室に生乳を滴下した場合には、生乳中の好中球が作用極に到達するのに少なくとも数分間かかり、迅速な測定は困難である。また、好中球は、活性化させる薬剤(刺激物質)濃度を感知し、薬剤濃度の高い方に移動する。作用極への体細胞の付着機会を高めるためには、薬剤を作用極に固定することが好ましいが、このようにすると薬剤の安定性及び製造コストが問題になる。
【0042】
本発明では、刺激手段によって粘着性と活性酸素の放出量を高めた体細胞を、流れによって迅速に、作用極及びその近傍に付着させることが可能である。刺激手段による刺激と流れにより、通常の生乳中に浮遊している場合と比較して、作用極の表面には、数倍以上の好中球を付着させることができ、数倍以上の検出感度を実現可能となる。また、更に、作用極の表面を疎水性とすることで、作用極及びその近傍への好中球の付着性を高めることができる。体細胞のなかで、好中球、血小板は疎水性表面に粘着しやすいことが知られている。刺激手段によって付着性の高まったこれらは、疎水性表面に触れることで、付着の程度を増すことになる。直径5mmの作用極上に、高さ0.5mmの高さまで集積可能な好中球数は、好中球の直径を20μm、間隔を20μmとした場合、約15万個となる。
【0043】
本発明を、人の疾患にて説明する。好中球の組織付着による疾患として、虚血再還流時の組織損傷、歯周病が挙げられる。
【0044】
虚血再還流とは、外科手術における組織の切開の際、患者の出血を抑えるために動脈、静脈血管をクランプ等で閉塞させた後、術後にクランプ等を開放し、組織や臓器への血流を再開するステップをいう。虚血再還流時における大きな課題は、血流が再開された際、血小板や好中球が、手術を行った臓器の血管の内側に急速に集中(粘着)し、好中球から放出される活性酸素によって臓器の細胞を破壊して組織損傷を発生させることである。
外科的処置を必要とする患者は、生体免疫機能のバランスが崩れやすく、血小板や好中球の走化性、粘着性が高まっていること多いとされる。更に、再還流時の血管内皮の性質変化により、好中球が血管内皮により粘着し易くなり、組織損傷を発生させるリスクが高くなるとされている。
【0045】
歯周病は、歯を支える歯肉組織、及び骨組織が損傷し、症状が進行すると歯が抜けてしまう疾患である。歯周病における組織損傷も、好中球の関与が明らかになっている。口腔内には、多くの細菌、及び細菌から産生されたLPS等の毒素が存在する。このプラークと呼ばれる細菌や毒素が歯肉組織に定着すると、血管内の好中球はプラークを退治しようと歯肉組織に定着し、好中球から産生される活性酸素によって歯肉や骨の細胞を破壊し、歯周病が進行する。
【0046】
本発明では、前記人の疾患と同じような好中球の挙動(作用極とその近傍への好中球付着と活性酸素放出量の増大)を、作用極上での生理活性物質等の薬剤刺激を必要とすることなく実現することが特徴であり、更に流路による流れを利用することによって迅速かつ高精度に、しかも低コストで体細胞数を測定することが可能である。
【0047】
本発明では、生乳中の脂質粒子による遮光の問題は障害とならないため、生乳の容量を0.1mL以上とすることで、測定値のバラツキを少なくし、高感度化に必要な作用極及びその近傍への好中球の付着機会を増すことが可能となる。
前記流路の容積は0.1〜50mLの範囲であることが望ましく、0.5〜20mLの範囲であることがより好ましい。容積が50mLを超えると装置が大型化してしまう。また、容積が0.1mLを下回ると、流路内の生乳に含まれる体細胞の濃度が低い場合、測定値に十分な精度が得られない場合がある。
【0048】
生乳サンプルの採取時期は、朝、夕方の搾乳時のいずれであっても良い。ミルカーによる搾乳時、前絞り、中絞り、後絞りであってもよく、酪農家別に搾乳時間が異なるので、乳用牛の乳量状態に応じて、適宜選択することが望ましい。
【0049】
電気化学測定法における3電極測定方式は、測定極となる表面にSOD酵素が塗布された作用極、参照極、及び対極からなる。3電極方式の場合、最初に、作用極と参照極に等電圧が印加された後、作用極に追加電圧(例えば0.3V)を印加し、作用極と対極間に流れる酸化還元電流値を測定する。
3電極測定方式は、2電極測定方式と比較し、基準電圧を印加するために必要な参照極を有することで、僅かな酸化還元電流であっても、再現性よく検出できることが特徴である。
【0050】
好中球は、疎水性表面に触れると擬似足場を形成して、付着しやすくなる。前記刺激室及び前記測定室の少なくとも一方の壁面を疎水性表面とすることで、作用極及びその近傍に好中球を付着しやすくなり、センサが高感度化できる。
刺激室及び/又は測定室の壁面を疎水性にするには、そのような材料でセンサを構成してもよいし、刺激室及び/又は測定室の壁面を疎水性有機材料で被覆してもよい。疎水性有機材料を被覆する場合は、刺激室及び/又は測定室の壁面(例えば、天井面、床面、4つの側面)のうち少なくとも最も大きな壁面に疎水性有機材料を塗布しておくことが好ましい。
【0051】
また、同様の疎水性有機材料により、SOD酵素上に疎水性表面を有する表層を形成してもよい。活性酸素は有機材料を通過可能であるため、有機材料を被覆しても感度に問題はない。
【0052】
疎水性表面の水に対する接触角は、30°以上110°以下の範囲が好ましく、40°以上100°以下の範囲がより好ましい。該接触角が30°を下回ると、好中球の接着性は低下する。一方、該接触角が110°を超えると、材料の選択肢が限定され、製造コストに悪影響を与える。
【0053】
また、疎水性表面を有する前記刺激室を、狭隘な流路とすることで、好中球の付着性を更に高めることができる。刺激室の形状を、例えば、幅2mm、深さ3mm、長さ50mmとすることで、好中球の疎水性表面への接触機会を高めておき、作用極に付着する好中球数を更に増やすことが可能となる。
【0054】
作用極の表面は、複数の点状の突起又は複数の点状の窪みによって凹凸形状とされていることが好ましい。通常、作用極の面積が大きくなると、体細胞の付着面積が増大することで、作用極から対極に流れる電流量が多くなり、検出感度が向上する。一方、作用極の面積が大きくなりすぎると、作用極上での電流が生乳中にも拡散するようになり、作用極から対極に流れる電流量は低下し、検出感度が低下する結果となる。
【0055】
体細胞から放出された活性酸素による電流値をS(信号)、作用極から対極に流れるベース電流値をN(ノイズ)とすると、S/N比を高めることで検出感度は高まる。S/N比の向上のため、電流値の生乳中への拡散を極力抑え、作用極から対極に流れる電流値を低くするために、小さな電極を複数配置する方法が考えられるが、小さな電極を複数有することは、電極の造形精度が求められ、収率低下による生産性が低下する。
【0056】
作用極の表面に、例えば、直径20μm、高さ40μmの突起、又は直径20μm、深さ40μの窪みを、20μm間隔で配置することで、電流の生乳中への拡散を抑制し、電流密度の増大による、S/N比の向上が期待できる。作用極上に複数の突起又は窪みを有することで、凹凸形状の先端面(突起の頂面又は窪み以外の面)で発生した電流は生乳中に拡散するものの、凹凸形状の先端面以外の表面で発生した電流は生乳中に拡散することなく、作用極から対極に電流を流すことが可能となり、S/N比を飛躍的に高めることが可能となる。
【0057】
好ましい突起又は窪みの密度は、200〜15000個/mm2が好ましく、500〜10000個/mm2がより好ましい。突起又は窪みは、例えば柱形であり、その断面形状は円形であっても多角形であってもよい。突起又は窪みの密度が200個/mm2を下回る場合、電流が拡散しやすくなり、S/N比を高めることは困難な場合がある。一方15000個/mm2を上回る場合、造形精度を維持するために製造タクトタイムが長くなる等、工業生産における難易度が高くなり、高コストとなる場合がある。
【0058】
生乳中には、固形分である脂質粒子が、好中球数の100倍以上存在している。また、脂質粒子の粒子径は、乳用牛の育種、飼料の内容等によって異なり、2μm〜30μmの広い範囲となっている。隣り合う突起の間の距離又は窪みの幅は、生乳中の脂質粒子による閉塞を考慮し、4〜100μmが好ましく、10〜60μmがより好ましい。
【0059】
好ましい突起の高さ又は窪みの深さは、0.5〜1000μmであり、より好ましくは5〜500μmである。突起の高さ又は窪みの深さが0.4μmを下回る場合、平坦な作用極と変わらず、S/N比の向上が困難となる場合がある。一方1000μmを上回る場合、造形精度を維持するために製造タクトタイムが長くなる等、工業生産における難易度が高くなり、高コストとなる場合がある。
一方、突起の幅に対する高さのアスペクト比又は窪みの幅に対する深さのアスペクト比は、大きくなるほど好中球が付着する可能性が高くなるが、同時に工業技術の観点で難易度が高くなり、生産性が低下する可能性があることから、0.2〜10の範囲から選択することが好ましく、0.5〜5の範囲から選択することがより好ましい。
【0060】
バッチ測定式の生乳検査装置においては、サンプリングした生乳の温度が、室温付近、例えば23℃程度まで低くなっていることが予測される。このように生乳の温度が低い場合は、体細胞数が例えば30万個/mL以下と少ないと、十分な検出感度が得られない可能性がある。このような場合、作用極を30〜45℃の範囲内の温度に保つためのヒータを装備することが好ましい。これにより、生乳を例えば30〜45℃付近まで昇温することができ、生乳中の好中球が放出する活性酸素とSOD酵素との反応性を高め、十分な検出感度を得ることができる。
【0061】
1つの装置本体に対して、複数のセンサ及び複数の刺激手段を設けることも可能である。乳用牛の乳房は4つあり、例えば、1つの装置本体に4個のセンサを搭載することで、一度で1頭分の4分房を測定することができ、更に迅速な測定が可能になる。
あるいは、1つのセンサ本体に、作用極、参照極及び対極を有するチップを複数設けることも可能である。センサの製造コストの観点からすれば、1つのセンサ本体に複数のチップを有することになれば、大面積化による大量生産が可能となり、低コスト化が可能になる。
【0062】
電気化学測定法により好中球数を定量化しようとした場合、pA(ピコアンペア)単位の電流量を電圧に変換した後に、この電圧を増幅することになる。しかし、これらを正確に実行する電子素子は極めて高額となる。
【0063】
測定装置の販売価格は、例えば100〜500万円/台と極めて高額となることが予測され、顧客となる酪農家、生乳検査を行う協会等への普及性は低くなってしまう。顧客となる酪農家、生乳検査を行う協会等への普及性を高めるには、測定装置の販売価格を、例えば、20万円/台以下にすることが望ましい。20万円/台以下を実現するには、汎用の電流電圧変換素子、電圧増幅素子を使用することが望ましく、nA(ナノアンペア)単位の電流量を得ることが望ましい。
【0064】
本発明は、生乳中の好中球数が、30万個/mL以下であっても、測定電極である作用極、及びその近傍に好中球を集めることができ、再現性よく、nA(ナノアンペア)単位の電流量を得ることを特徴としている。
【0065】
作用極と対極との間に電圧を印加したときに流れる電流は、1〜5000nAが好ましく、10〜1000nAがより好ましい。電流が1nAを下回る場合は、電流量を電圧に変換するための素子が極めて高額となり、装置価格が高額となり、普及性を損なう場合がある。一方5000nAを上回る場合、突起又は窪みの密度を高め、アスペクト比を高めることが必要となり、工業生産上の難易度を高め、センサの価格が高額となり、普及性を損なう場合がある。下限値が1nAを下回らない範囲であれば装置は十分な精度が得られる。
【0066】
体細胞から放出された活性酸素とSOD酵素との反応によって、酸化還元電流が発生する。この酸化還元電流をSOD酵素から作用極に良好に伝搬させるためには、作用極をシステイン溶液に浸漬させ、システインの自己組織化単分子膜を形成させた後、その上にSOD酵素を塗布することが好ましい。
【0067】
好中球から放出される活性酸素量は、育種別の免疫力、及び血統別によって異なることが予測される。家畜(例えば乳用牛など)の飼養方法は、従来の自然繁殖から、全て人工授精に変わっている。人工授精とは、血統別に冷凍保存されたオスの精子を、メスに注入し、血統別に繁殖させる方法である。更に近年では、食肉処理場で回収された卵巣から卵子を取り出し、血統別の精子と、血統別の卵巣を特定した繁殖法が広がりつつある。
本発明の生乳検査装置、測定方法及び診断方法を用いることにより、育種別、及び血統別に好中球から放出される活性酸素量を電流量として把握することができ、例えば乳房炎に感染しにくい乳用牛など、育種を選抜して繁殖させることが可能となる。
【0068】
好中球から放出される活性酸素量は、乳腺組織、及び生乳中の黄色ブドウ球菌数の多い、少ないによって変動する。例えば、非感染の健康乳牛であれば、黄色ブドウ球菌数は少なく、好中球から放活性酸素を放出する必要ないため好中球の活性が高く、得られる電流量が大きくなる。逆に、乳房炎感染が進行した乳用牛では、黄色ブドウ球菌数が多いため、好中球から活性酸素を放出して死滅する好中球が多く、得られる電流量が小さくなる。
雌の出産後は、免疫力が低下するために生乳中の体細胞数が多くなることが知られている。そのため治療のために抗生物質を投与するが、投与期間中は家畜やその生乳を出荷することができない。また、抗生物質の投与効果を迅速に把握するシステムは存在しない。
【0069】
本発明の生乳検査装置、測定方法及び診断方法を用いることにより、好中球から放出される活性酸素量の増減を把握することができ、薬剤投与効果のある個体は好中球1個あたりの電流値が高いといった結果を用いることで効率的に家畜を飼養することができる。
【0070】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。
【0071】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係る生乳検査装置1Aを示す。この生乳検査装置1Aは、生乳中の体細胞数を測定可能なものであり、回路基板等を内臓する装置本体10と、装置本体10に着脱可能な板状のセンサ(活性酸素測定センサ)2を備えている。なお、本明細書では、説明の便宜のために、図1(a)の下側を前方、上側を後方、左側を左方、右側を右方というとともに、図1(b)の下側を下方、上側を上方という。
【0072】
装置本体10は、前方に開口するコネクタ部11aが設けられた、上下方向に扁平で左右方向に延びる直方体状の主部11と、コネクタ部11aよりも下側で主部11から前方に張り出す台座部12と、台座部12上に設けられた左右一対のガイド部13とを有している。センサ2は、台座部12上に載置された状態で、ガイド部13に沿って後方に押し込まれることにより、コネクタ部11aに差し込まれて装置本体10に装着される。
【0073】
主部11の上面には、体細胞数を表示する表示部16、ユーザーから操作される入ボタン15a及び切ボタン15b、並びに測定した体細胞数が予め定めた閾値よりも大きな場合にユーザーにそれを報知するブザー18及び警報ランプ17が設けられている。また、台座部12には、ユーザーが握るためのグリップ部12aが連設されている。グリップ部には貫通孔12bが設けられており、この貫通孔12bを利用して生乳検査装置1Aをフック等に吊り下げ可能となっている。
【0074】
さらに、本実施形態では、主部11にセンサ2上の所定位置まで延びるアーム部14が設けられており、このアーム部14の先端の下面に刺激手段4Aが設けられている。
【0075】
<センサ>
次に、図2(a)及び(b)を参照して、センサ2の構成について詳細に説明する。センサ2の内部には、左右方向に延び、センサ2の上面に開口する右側の一端3aから同じくセンサ2の上面に開口する左側の他端3bに生乳を流すための流路3が設けられている。
【0076】
具体的に、センサ2は、左右方向に延びる長方形状のベースプレート21と、このベースプレート21の上面に積み重ねられた左右方向に延びる長方形状のカバープレート22とを有している。カバープレート22の長さはベースプレート21の長さと同じであるが、カバープレート22の幅はベースプレート21の後端部を露出させるようにベースプレート21の幅よりも短く設定されている。そして、ベースプレート21のカバープレート22よりも後側の部分は、装置本体10のコネクタ部11aに嵌り込む接続部2aとなっている。ベースプレート21のサイズは、例えば、長さ115mm、幅70mm、厚み1mmであり、カバープレート22のサイズは、例えば、長さ115mm、幅60mm、厚み4mmである。
【0077】
ベースプレート21及びカバープレート22の材質は、絶縁性のものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル−スチレン系共重合樹脂(MS樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合樹脂、スチレン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂等を挙げることができる。中でも、水に対する接触角が30°以上110°以下の、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル−スチレン系共重合樹脂、ポリエステル系樹脂等を用いることが好ましい。
【0078】
カバープレート22には、左右に離間する位置にカバープレート22を厚み方向に貫通する貫通孔33,36が設けられており、カバープレート22の下面には、それらの貫通孔33,36をつなぐ溝30が設けられている。そして、カバープレート22の下面にベースプレート21の上面が接合されることにより、貫通孔33,36、溝30及びベースプレート21の上面によって流路3が形成されている。すなわち、右側の貫通孔33が生乳を投入するための投入口である流路3の一端3aを構成し、左側の貫通孔36が投入された生乳の流れを止めて流路3内に一定量の生乳を確保するための貯留口である流路3の他端3bを構成する。溝30の深さは例えば1mmであり、右側の貫通孔33の直径は例えば30mmであり、左側の貫通孔36の直径は例えば20mmである。
【0079】
流路3の一端3aと他端3bの間(途中)には、溝30の形状の設定によって、上流側から順に、刺激室32、上流側狭隘部34、測定室31、及び下流側狭隘部35が設けられている。測定室31は、生乳中に含まれる活性酸素を検出するための部屋であり、刺激室32は、生乳中の体細胞に刺激を与えるための部屋である。上流側狭隘部34及び下流側狭隘部35は、生乳の流通を制限して生乳を刺激室32及び測定室34に長い時間留まらせる役割を果たす。測定室31の大きさは例えば30mm×30mmであり、刺激室32の大きさは例えば20mm×20mmである。また、上流側狭隘部34及び下流側狭隘部35の長さは例えば2mmであり、幅は例えば1mmである。
【0080】
ベースプレート21の上面には、接続部2aから測定室31内の所定位置まで前後方向に延びる3本の第1〜第3電極61〜62が設けられている。第1電極61〜第3電極63は、右側から左側にこの順に並んでいる。第1電極61の前端部には表面にSOD(スーパーオキサイドジスムターゼ)酵素が塗布された作用極6Aが設けられており、第2電極62の前端部には基準極として使用される参照極6Bが設けられており、第3電極63の前端部には主に作用極6Aとの間に電圧が印加される対極6Cが設けられている。カバープレート32は、これらの第1〜第3電極61〜63の上からベースプレート21に接合されている。なお、第1〜第3電極61〜63の後端部は、センサ2がコネクタ部11aに差し込まれたときに、装置本体10側の端子(図示せず)と電気的に接続される。
【0081】
作用極6Aと対極6Cとの間及び参照極6Bと対極6Cとの間には、例えば直流1Vの電圧が均等に印加される。その上で、作用極6Bに重畳的に例えば0.3Vの追加電圧が印加されると、作用極6A上でSOD酵素による生乳中に含まれる活性酸素の酸化分解(正確には生乳中の好中球から放出されたスーパーオキシドアニオンの酸化分解:O2-→O2+e-)が発生するとともに、作用極6A上から溶け出したSOD酵素が対極6C上で還元されて、作用極6Aと対極6Cとの間に電流が流れる。作用極6Aと対極6Cとの間に流れる電流量を測定することにより、好中球から放出される活性酸素量、ひいては生乳中の体細胞数を測定することが可能となる。
【0082】
作用極6A、参照極6B及び対極6Cの形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態では全て円形状になっている。作用極6Aと対極6Cとの間の抵抗値を低くするためには、それらを例えば0.5〜1.0mm程度に近接させて配置することが好ましい。対極6Cの面積は、作用極6Aの面積よりも大きいことが好ましい。このようになっていれば、作用極6A上での酸化分解に対する還元電流を検出しやすくできるからである。例えば、対極6Cの直径を作用極6Aの直径の2倍としてもよい。
【0083】
第1〜第3電極61〜63の形成法は、蒸着、スパッタリング、電解メッキ、無電解メッキ、シルクスクリーン印刷、金属ペーストのインジェクション法等を用いることができる。電極に用いられる導電性材料としては金、銀、塩化銀、白金、銅、アルミニウム等を挙げることができる。本実施形態では、活性酸素として好中球から放出されるスーパーオキシドアニオンを主に検出するので、第1電極(作用極6A)を金、第2電極62(参照極6B)を銀/塩化銀、第3電極63(対極33)を白金で構成している。
【0084】
本実施形態では、図3に示すように、作用極61の表面は、複数の点状の突起6aによって凹凸形状とされている。複数の突起6aを設けることにより、作用極6Aの表面で発生した酸化還元電流は、突起6aの頂面で発生した電流のみが生乳中に拡散し、そのほとんどが作用極6Aから対極6Cに流れるようになり、フラットな作用極と比較してS/N比の向上が可能となる。
【0085】
具体的に突起6aは、図5に示すように、ベースプレート21に形成された凹凸構造21aと、この凹凸構造21aの上に形成された薄膜の作用極6Aとで構成されている。そして、作用極6Aの上に、SOD酵素72がシステインの自己組織化単分子膜71を介して塗布されている。さらに、SOD酵素72の上には、疎水性材料により、水に対する接触角が30°以上110°以下の表面を有する表層73が形成されている。
【0086】
凹凸構造21aの形成方法は、特に限定されないが、例えば、射出成形、プレス成形、モノマーキャスト成形、溶剤キャスト成形、ホットエンボス成形、押出成形によるロール転写法等を挙げることができる。なかでも、生産性及び型転写性の観点から、射出成形が好ましく用いられる。
【0087】
突起6aは、図3に示すようにマトリクス状に配置されていてもよいし、図4に示すように千鳥状に配置されていてもよい。また、突起31dは、規則的に並んでいる必要はなく、ランダムに配置されていてもよい。なお、本発明の「隣り合う突起の間の距離」とは、図3及び図4中に符号Lで示すように、突起6aが並ぶ方向における突起6a同士の間の間隔のことである。
【0088】
<刺激手段>
次に、刺激手段4Aについて詳細に説明する。本実施形態の刺激手段4Aは、センサ2の上からセンサ2を透過して生乳に電磁波を照射することにより、刺激室32内で生乳中の体細胞に刺激を与えて該体細胞から活性酸素を発生させるものである。すなわち、刺激手段4Aは、センサ2が装置本体10に装着されたときに刺激室32の真上に位置する位置に配置されている。例えば、電磁波として紫外線を用いる場合は、刺激手段4Aとして紫外線LEDを採用すればよい。
【0089】
<ヒータ>
さらに、本実施形態では、装置本体10の台座部12に、作用極6Aを30〜45℃の範囲内の温度に保つためのヒータ5が埋め込まれている。本実施形態のヒータ5は、センサ2が装置本体10に装着されたときに流路3の一端3aから測定室31までの領域に略重なる程度の大きさを有している。このように、ヒータ5は、作用極6Aだけでなく、測定室31及びその上流側を広く加熱可能なように配置されていることが好ましい。このようになっていれば、生乳を流路3の一端3aに投入された直後から加熱することができるからである。
【0090】
<装置本体>
次に、図10を参照して、装置本体10の構成について詳細に説明する。装置本体10は、作用極6Aと対極6Cとの間に電圧を印加したときに流れる電流に基づいて生乳中に含まれる体細胞数を算出するものである。具体的に、装置本体10は、電源101と、作用極6Aと対極6Cとの間及び参照極6Bと対極6Cとの間に電圧を印加して、それらの間に流れる電流を検出する電流検出回路102と、検出された電流を電圧に変換する電流電圧変換回路103と、電圧値から体細胞数を算出する演算部104とを備えており、演算部104で算出された体細胞数が表示部16に表示される。また、装置本体10は、刺激手段4A及びヒータ5(図10では図示省略)に電力を供給する電力供給部105を有している。
【0091】
電源105は、電池やバッテリー等の内部電源であってもよいし、家庭用電源等の外部電源であってもよい。電流検出回路102は、スイッチング素子等で構成されている。電流電圧変換回路103は、電流電圧変換素子や電圧を増幅するオペアンプ等で構成されている。演算部104は、CPUや記憶部(ROM及びRAM)等からなっている。記憶部には、電圧値と体細胞数とを関係づける検量線が記憶されており、演算部104は、電流電圧変換回路103から送られる電圧値に応じた体細胞数を算出する。なお、感度の異なる複数種類のセンサ2を使用する場合には、センサ2毎に検量線を記憶部に記憶させておけばよい。
【0092】
本実施形態では、参照極6Bが設けられているので、体細胞数を算出する際の電圧値は、参照極6Cを考慮した値である。すなわち、装置本体10は、作用極6Bと対極6Cとの間に電圧を印加したときに流れる電流を電圧に変換して作用電圧値を得るとともに、参照極6Bと対極6Cとの間に電圧を印加したときに流れる電流を電圧に変換して参照電圧値を得る。そして、装置本体10は、体細胞数を算出する際には、作用電圧値から参照電圧値を控除した電圧値から体細胞数を算出する。このようにすれば、生乳中に含まれる活性酸素とSOD酵素との反応に基づく電圧値を正確に得ることができる。
【0093】
<使用要領>
次に、生乳検査装置1Aを使用して体細胞数を測定する方法を説明する。まずセンサ2を装置本体10に装着し、入ボタン15aを押して、電源スイッチをONにする。これにより、電力供給部105が刺激手段4A及びヒータ5に電力を供給し、刺激手段4Aから電磁波が照射されるとともに、ヒータ5によってセンサ2の作用極6Aが所定温度まで加熱される。また、電源スイッチがONされると、それと同時に電流検出回路102によって作用極6Aと対極6Cとの間及び参照極6Bと対極6Cとの間に等しい電圧が印加され、さらにその後(例えば、装置本体10内の電子素子が安定になる、電源スイッチがONされてから5秒後)に作用極6Aに追加電圧が印加されて、体細胞数の測定が可能な状態とされる。なお、追加電圧は、電源スイッチがONされると同時に作用極6Aに印加されてもよい。
【0094】
この状態で、流路3の一端3aにサンプルの生乳を投入する。生乳の投入に関しては、搾乳前の前絞り操作の際に滴下する生乳を直接一端3aに投入してもよいし、予めサンプリングしておいたものを一端3aに投入してもよい。生乳が流路3の一端3aに投入されると、生乳は流路3を一端3aから他端3bに流れる。生乳の投入は、例えば、他端3bにおける生乳の液面がセンサ2の上面と一致するまで行う。
【0095】
流路3の一端3aに投入された生乳は、投入後直ちに刺激室32に流れ込み、ここで刺激手段4Aから電磁波を照射される。これにより、生乳中の体細胞が活性化される。活性化された体細胞は、生乳が測定室31を通過する間に作用極6Aの表面に粘着、凝集する。そうすると、体細胞(特に好中球)が放出する活性酸素とSOD酵素が反応し、その酸化還元電流が装置本体10に送られて、体細胞数が算出される。算出された体細胞数は、表示部16に表示される。
【0096】
本実施形態の生乳検査装置1Aでは、小型化及び低コスト化が可能であり、簡易かつ迅速に体細胞数を精度よく測定できることができる。従って、酪農家による生乳の生産現場において、乳房炎を初期段階で診断することが可能になる。これにより、タンク単位での生乳の廃棄を効果的に防止することができる。
【0097】
(第2実施形態)
図7(a)及び(b)に、本発明の第2実施形態に係る生乳検査装置1Bを示す。なお、本第2実施形態及び後述する第3〜第5実施形態では、第1実施形態と同一構成部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0098】
第2実施形態では、生乳に電場を印加する刺激手段4Bが採用されている。具体的に、装置本体10のアーム部14の下面には、センサ2が装置本体10に装着されたときに刺激室32の真上に位置する位置に正電極41が設けられており、台座部12には、正電極41と対応する位置に負電極42が埋め込まれている。このような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0099】
(第3実施形態)
8(a)及び(b)に、本発明の第3実施形態に係る生乳検査装置1Cを示す。第3実施形態では、生乳に超音波を照射する刺激手段4Cが採用されている。具体的に、第3実施形態では、装置本体10にアーム部が設けられておらず、台座部12におけるセンサ2が装置本体10に装着されたときに刺激室32の真下に位置する位置に超音波発信素子が埋め込まれている。このような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0100】
なお、超音波発信素子に代えて電気磁石を台座部12に埋め込めば、生乳に磁場を印加する刺激手段を構成することも可能である。
【0101】
(第4実施形態)
9(a)及び(b)に、本発明の第4実施形態に係る生乳検査装置1Dを示す。第3実施形態では、生乳に剪断応力をかける刺激手段4Dが採用されている。具体的に、第3実施形態では、装置本体10に、左側のガイド13と台座部12を貫通する縦穴46が設けられている。縦穴46の上端には、先端にコネクタを有するチューブ45が接続されており、縦穴46の下端には、所定長さの排出管48が接続されている。排出管48の途中には、電磁弁47が設けられている。
【0102】
一方、センサ2では、刺激室32が狭隘の流路となっている。このため、刺激室32と測定室31の間には、上流側狭隘部ではなく、刺激室32の幅と測定室31の幅の中間の幅を有する開放部37が設けられている。すなわち、第4実施形態では、下流側狭隘部35のみが設けられている。
【0103】
第4実施形態の生乳検査装置1Dを使用するには、センサ2を装置本体10に装着した後に、流路3の他端3bにチューブ45の先端に設けられたコネクタを接続する。その後、流路の一端3aに生乳を投入しながら電磁弁47を開くことにより、縦穴46及び排出管48による落差圧によって一端3aに投入された生乳が刺激室32内に引き込まれる。これにより、刺激室32の前後の側面によって生乳に剪断応力がかけられる。すなわち、第4実施形態では、刺激室32、チューブ45、縦穴46、排出管48及び電磁弁47によって刺激手段4Dが構成されている。このような構成であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0104】
なお、電磁弁37に代えて、例えばポンプを用いれば、生乳にかける剪断応力を自由に設定することができる。
【0105】
(第5実施形態)
図10(a)及び(b)に、本発明の第5実施形態に係る生乳検査装置1Eを示す。この生乳検査装置1Eでは、生乳の検査を4箇所で同時に行うことが可能なセンサ2が装置本体10に固定されており、装置本体10には、生乳の検査場所に対応した4つの表示部16が設けられている。なお、図10(a)では、ボタン15a,15bを省略している。
【0106】
具体的に、センサ2は、試料ガイド8によって4つの流路3が形成されたセンサ本体27と、センサ本体27に着脱可能な4つのチップ25とを有する。4つの流路3の一端3aはセンサ本体27の4つのコーナーの近くに配置されており、4つの流路3の他端3bはセンサ本体27の中央にまとめて配置されている。
【0107】
センサ本体27は、グリップ部12aが連設されたベースプレート26を有している。ベースプレート26には、流路3に沿って溝が形成されていてもよい。試料ガイド8は、例えば高さ5mm、幅1mmのものである。
【0108】
試料ガイド8は、図11に示すように、生乳の投入口である流路3の一端3aを構成する一部が途切れた円形筒状部81と、生乳の貯留口である流路の他端3bを構成する一部が途切れた矩形筒状部82とを有している。なお、矩形筒状部82の2つの壁部は他の流路3用の矩形筒状部82と共用となっている。また、試料ガイド8は、円形筒状部81の途切れた部分と矩形筒状部82の途切れた部分をつなぐ一対の縦壁部83,84を有している。一方の縦壁部83は、上流側縦壁部83aと下流側縦壁部83bに分断されており、この間にチップ25が装着されるようになっている。
【0109】
チップ25は、基板25aを有し、この基板25aの上面に、一端に作用極6Aを有する第1電極61、一端に参照極6Bを有する第2電極62、及び一端に対極6Cを有する第3電極63が設けられている。さらに、基板25aの上面には、第1〜第3電極61〜63を横切るように例えば高さ3mmの液止めシート25bが貼着されており、チップ25における液止めシート25bよりも第1〜第3電極61〜63の他端側の部分が装置本体10に接続される接続部となっている。
【0110】
そして、チップ25が上流側縦壁部83aと下流側縦壁部83bの間に装着されたときには、液止めシート25bによってその間が塞がれ、流路3に生乳を満たすことが可能となる。また、上流側縦壁部83aの下流端には、他方の縦壁部64に向かって延び、隔壁部83cとの間に上流側狭隘部34を形成する形成隔壁部83cが設けられている。一方、下流側狭隘部35は、縦壁部64の下流端と下流側縦壁部83bの下流端とで形成されている。すなわち、第4実施形態では、縦壁部84の上流側部分、上流側縦壁部83a、隔壁部83c及びベースプレート26の上面によって刺激室32が構成され、隔壁部83c、縦壁部84の下流側部分、液止めシート25b、下流側縦壁部83b及び基板25aの上面によって測定室31が構成される。
【0111】
なお、第5実施形態では、第3実施形態と同様に、刺激室32の床面に超音波発信素子又は電気磁石を埋め込むことにより、刺激室32内で生乳に超音波を照射する又は生乳に磁場を印加する刺激手段を構成すればよい。
【0112】
このような構成であれば、チップのみを使い捨てとすることができ、使い勝手をよくすることができる。また、測定室31の床面を構成するチップのみを使い捨てとすることで、材料の無駄を少なくでき、センサの低コストが可能となる。さらに、センサ本体27は繰り返し使用とし、チップ25を使い捨てとすることで、測定室31を集中して配置することが可能となり、1つのセンサで1頭分、4分房の測定を行うことも可能となる。
【0113】
(変形例)
なお、前記実施形態では、生乳の投入開始から投入終了までの全期間に亘って刺激手段が生乳に物理的エネルギーを加えるようになっているが、生乳の投入開始から投入終了までの期間のうちで所定時間だけ刺激手段が生乳に物理的エネルギーを加えるようにしてもよい。例えば、装置本体10に刺激開始用の押しボタンを設け、その押しボタンが生乳投入時にユーザーに押されてから一定時間だけ刺激手段に電力が供給されるようにしてもよい。なお、前記の所定時間は、刺激手段の刺激を与える方法に応じて決定すればよい。
【0114】
また、流路3には、刺激室32が特別に区画されている必要はなく、例えば流路3の一端3aから測定室31までの部分が一定幅となっていて、この部分を生乳が流れる途中で刺激手段によって生乳に物理的エネルギーが加えられるようになっていてもよい。
【実施例】
【0115】
以下に実施例を説明する。本実施例で示した生乳検査装置は一例であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0116】
[生乳サンプル中の体細胞数計測]
5頭の乳房炎既往症履歴を持つ乳用牛を特定した後、各乳用牛から分房別に生乳サンプルを採取した。
【0117】
生乳サンプルをスライドグラスの上の一定面積に塗抹し、乾燥、染色、鏡検して、細胞数を数えた結果と、顕微鏡(油浸レンズ観察)の視野の面積との関係によって、生乳サンプル中に存在する体細胞数を算出した。なお、代表視野は16視野以上計測し、視野全ての有核体細胞数を計測した。体細胞数計測には、オリンパス光学工業株式会社の検査用顕微鏡(型式:BX41)を使用した。
【0118】
体細胞数計測は全ての生乳サンプルについて行い、それらのうちから各乳用牛から1つの生乳サンプルを選定した。生乳サンプルの体細胞数は、a:8万個/mL、b:20万個/mL、c:28万個/mL、d:60万個/mL、e:143万個/mLであった。
【0119】
[活性酸素測定センサの製造]
[実施例1〜4]
実施例1〜4では、センサを共通にした。まず、アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、長さ115mm、幅70mm、厚み1mmのベースプレートを形成した。このベースプレートの水に対する接触角は72°であった。次に、ベースプレートにマスキングを施し、蒸着装置〔(株)アルバック社製、型式:UEP〕を用い、作用極(金)、参照極(銀/塩化銀)、対極(白金)を形成した。作用極の直径は6mm、対極の直径は12mmとした。
【0120】
次に、作用極(金)をシステイン溶液に浸漬させ、作用極の表面上にシステインの自己組織化単分子膜を形成した後、浸漬法によりSOD酵素を塗布して固定した。SOD酵素の厚みは0.02μmとした。
【0121】
次に、アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、2つの貫通孔及びこれらの貫通孔をつなぐ深さ1mmの溝を有する、長さ110mm、幅60mm、厚み4mmのカバープレートを形成した。具体的に、生乳の投入口を構成する貫通孔を直径30mm、生乳の貯留口となる貫通孔を直径20mmとし、溝を、刺激室が20mm×20mm、上流側狭隘部が長さ2mm×幅1mm、測定室が30mm×30mm、下流側狭隘部が長さ2mm×幅1mmとなる形状にした。カバープレートの水に対する接触角は72°であった。
【0122】
次に、レーザー樹脂溶着機(ミヤチテクノス社製、型式:ML−5220B)を使用し、ベースプレートとカバープレートとを溶着し、活性酸素測定センサを得た。
【0123】
[実施例5]
アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を用いて射出成形法により、長さ100mm、幅60mm、厚み1mmのベースプレートを形成した。その際、スタンパーを使用して、ベースプレートの作用極を形成する領域に、直径20μm、高さ20μmの突起を、図3に示すように15μmの間隔Lにてマトリクス状に形成し、その上に直径12mmの作用極を形成した。その他は実施例1〜4と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0124】
[実施例6]
アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を用いて射出成形法により、長さ100mm、幅60mm、厚み1mmのベースプレートを形成した。その際、スタンパーを使用して、ベースプレートの作用極を形成する領域に、直径30μm、高さ75μmの突起を、図4に示すように20μmの間隔Lにて千鳥状に形成し、その上に直径12mmの作用極を形成した。その他は実施例1〜4と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0125】
[比較例1]
アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、長さ60mm、幅30mm、厚み1mmのベースプレートを形成した。次に、ベースプレートにマスキングを施し、蒸着装置〔(株)アルバック社製、型式:UEP〕を用い、作用極(金)、参照極(銀/塩化銀)、対極(白金)を形成した。作用極の直径は4mm、対極の直径は8mmとした。
【0126】
次に、作用極(金)の表面上に、システイン単分子膜及び酵素試薬の代わりに金属ポルフィリン錯体の重合膜を形成した。金属ポルフィリン錯体の重合膜は、特許文献3の参考例1,2の手法に沿って形成した。
【0127】
次に、アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を使用し、射出成形法により、2つの貫通孔及びこれらの貫通孔をつなぐ深さ0.5mmの溝を有する、長さ50mm、幅30mm、厚み3mmのカバープレートを形成した。2つの貫通孔の直径をそれぞれ20mm、30mmとし、溝の形状を長さ40mm、幅10mmの長方形状とした。
【0128】
次に、レーザー樹脂溶着機(ミヤチテクノス社製、型式:ML−5220B)を使用し、ベースプレートとカバープレートとを溶着し、活性酸素測定センサを得た。
【0129】
[比較例2]
作用極(金)の表面上に金属ポルフィリン錯体を設けない、すなわち作用極の表面を露出させた以外は比較例1と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0130】
[比較例3]
作用極(金)の表面上に、金属ポルフィリン錯体の代わりにSOD酵素を塗布した以外は比較例1と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0131】
[比較例4]
アクリル樹脂(クラレ社製、パラペットGH−S)を用いて射出成形法により、長さ60mm、幅30mm、厚み1mmのベースプレートを形成する際に、スタンパーを使用して、ベースプレートの作用極を形成する領域に、直径100μm、高さ100μmの突起を、300μmの間隔でマトリクス状に形成し、その上に作用極を形成した以外は作用極を露出させた比較例2と同様にして活性酸素測定センサを得た。
【0132】
[活性酸素測定センサが検出する電流値の測定]
前述した各生乳サンプルa〜eについて、実施例及び比較例の活性酸素測定センサを用いて電流を検出し、その電流値を測定した。電流値の測定は、ポテンシオスタット・ガルバノスタット(北斗電工株式会社、型式:HA―151)を使用した。
【0133】
活性酸素測定センサの流路の一端に生乳サンプルを投入しながら、作用極と参照極に直流1Vを印加した後、作用極に0.3Vの追加電圧を印加した。作用極上で酸化分解が発生すると同時に、対極には酵素の還元が起こり、作用極と対極との間に電流が流れた。その電流値を測定した。電流値の測定は、活性酸素測定センサを、37℃に設定されたプレート式のヒータ上に固定して行った。
【0134】
実施例1,2では、刺激室に流入した生乳に、センサ2の外から波長0.36μmの紫外線を照射した。紫外線照射は、照度2000mW/cm2の条件にて、実施例1では2秒間、実施例2では5秒間行った。実施例3,6では、刺激室に流入した生乳に、センサ2の外から中心波長1.0μmの赤外線を照射した。赤外線照射は、放射強度2000mW/srの条件にて、実施例3,6ともに5秒間行った。実施例4では、刺激室に流入した生乳に、センサ2の外から1V/mの電場を印加した。実施例5では、刺激室に流入した生乳に、周波数50kHzの超音波を照射した。超音波照射は、出力1000Wの条件にて、10秒間行った。比較例1〜4では、生乳に対して刺激を与えず、単に流路に流すだけにした。
【0135】
上記の刺激の方法及び条件並びに作用極の構成をまとめると表1のようになる。
【表1】
【0136】
また、電流値の測定結果は、表2及び図12に示すとおりであった。
【表2】
【0137】
表2から、比較例1〜4では、乳房炎に罹患した履歴を有する牛のものであるが生乳中の体細胞数が8万個/mLと低い生乳サンプルaと比較し、体細胞数の値が高い生乳アンプルb,cとで電流値の差がほとんどなく、乳房炎を初期段間で診断することが困難であることが分かる。体細胞数の値が更に高い生乳サンプルd,eにおいても、体細胞数の増加に応じた電流値を得ることができない。
これに対し、実施例1〜6では、生乳サンプルa〜eの体細胞数に応じて電流値の増大が認められ、体細胞数が30万個/mL以下の範囲においても高い電流値を得ることができ、乳房炎を初期段間で診断することができる。
【0138】
また、図12のグラフから、実施例1〜6では、生乳中の体細胞数の増加に従い、活性酸素測定センサが検出する電流値が大きく増大し、生乳中の体細胞数と電流値との相関関係が良好であることが確認できる。なかでも、実施例5の作用極が複数の突起を有する場合、電流値が高くなることが確認できた。実施例6のように作用極の複数の突起のアスペクト比が高くなると、さらに電流値が高くなることがわかる。
【符号の説明】
【0139】
1A〜1E 生乳検査装置
2 センサ
25 チップ
27 センサ本体
3 流路
3a 一端
3b 他端
31 測定室
32 刺激室
34 上流側狭隘部
35 下流側狭隘部
4A〜4D 刺激手段
5 ヒータ
6A 作用極
6a 突起
6B 参照極
6C 対極
71 単分子膜
72 SOD酵素
73 表層
10 装置本体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生乳の検査に用いられる生乳検査装置であって、
前記生乳を一端から他端に流すための流路であって前記生乳中に含まれる活性酸素を検出するための測定室を途中に有する流路、前記測定室に設けられた、表面にSOD酵素が塗布された作用極、及び前記測定室に設けられた、前記作用極との間に電圧が印加される対極、を含むセンサと、
前記測定室よりも上流側で前記流路を流れる生乳中の体細胞に刺激を与えて該体細胞から活性酸素を発生させる刺激手段と、
を備える、生乳検査装置。
【請求項2】
前記流路の容積は0.1〜50mLである、請求項1に記載の生乳検査装置。
【請求項3】
前記センサは、前記測定室に設けられた、基準極として使用される参照極をさらに含む、請求項1又は2に記載の生乳検査装置。
【請求項4】
前記流路は、前記測定室の上流側に刺激室を有し、
前記刺激手段は、前記刺激室内で前記生乳中の体細胞に刺激を与えるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項5】
前記刺激手段は、前記生乳に物理的エネルギーを加えることによって生乳中の体細胞に刺激を与えるものである、請求項4に記載の生乳検査装置。
【請求項6】
前記刺激手段は、前記生乳に電磁波又は超音波を照射するものである、請求項5に記載の生乳検査装置。
【請求項7】
前記刺激手段は、前記生乳に剪断応力をかけるものである、請求項5に記載の生乳検査装置。
【請求項8】
前記刺激手段は、前記生乳に電場又は磁場を印加するものである、請求項5に記載の生乳検査装置。
【請求項9】
前記流路は、前記他端と前記測定室との間に、生乳の流通を制限する狭隘部を有する、請求項4又は5に記載の生乳検査装置。
【請求項10】
前記流路は、前記測定室と前記刺激室の間にも、生乳の流通を制限する狭隘部を有する、請求項9に記載の生乳検査装置。
【請求項11】
前記刺激室及び前記測定室の少なくとも一方は、水に対する接触角が30°以上110°以下の壁面を有する、請求項4〜10のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項12】
前記SOD酵素上には、疎水性材料により、水に対する接触角が30°以上110°以下の表面を有する表層が形成されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項13】
前記作用極の表面は、複数の点状の突起又は複数の点状の窪みによって凹凸形状とされており、前記突起又は窪みの密度は200〜15000個/mm2である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項14】
前記複数の突起における隣り合う突起の間の距離又は前記窪みの幅は4〜100μmである、請求項13に記載の生乳検査装置。
【請求項15】
前記突起の高さ又は前記窪みの深さは0.5〜1000μmであり、前記突起の幅に対する高さのアスペクト比又は前記窪みの幅に対する深さのアスペクト比は0.2〜10である、請求項13又は14記載の生乳検査装置。
【請求項16】
前記作用極を30〜45℃の範囲内の温度に保つためのヒータをさらに備える、請求項1〜15のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項17】
前記作用極と前記対極との間に電圧を印加したときに流れる電流は1〜5000nAである、請求項1〜16のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項18】
前記SOD酵素は、前記作用極上に、システインの単分子膜を介して塗布されている、請求項1〜17のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項19】
前記センサ及び前記刺激手段を複数備える、請求項1〜18のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項20】
前記作用極と前記対極との間に電圧を印加したときに流れる電流に基づいて前記生乳中の体細胞数を算出する装置本体をさらに備える、請求項1〜19のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項21】
前記センサは、前記装置本体に着脱可能なものである、請求項20に記載の生乳検査装置。
【請求項22】
前記センサは、前記流路を有するセンサ本体と、前記作用極及び前記対極、又は前記作用極、前記対極及び前記参照極を有し、前記センサ本体に着脱可能なチップとを含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の生乳検査装置から得られる検査結果を用いて家畜の症状を診断する、家畜症状診断方法。
【請求項24】
請求項1に記載の生乳検査装置を用いて、前記生乳検査装置における作用極と対極との間に電圧を印加したときに生乳中に含まれる活性酸素とSOD酵素との反応によって流れる電流量を測定し、該電流量を体細胞数に換算する、体細胞数測定方法。
【請求項1】
生乳の検査に用いられる生乳検査装置であって、
前記生乳を一端から他端に流すための流路であって前記生乳中に含まれる活性酸素を検出するための測定室を途中に有する流路、前記測定室に設けられた、表面にSOD酵素が塗布された作用極、及び前記測定室に設けられた、前記作用極との間に電圧が印加される対極、を含むセンサと、
前記測定室よりも上流側で前記流路を流れる生乳中の体細胞に刺激を与えて該体細胞から活性酸素を発生させる刺激手段と、
を備える、生乳検査装置。
【請求項2】
前記流路の容積は0.1〜50mLである、請求項1に記載の生乳検査装置。
【請求項3】
前記センサは、前記測定室に設けられた、基準極として使用される参照極をさらに含む、請求項1又は2に記載の生乳検査装置。
【請求項4】
前記流路は、前記測定室の上流側に刺激室を有し、
前記刺激手段は、前記刺激室内で前記生乳中の体細胞に刺激を与えるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項5】
前記刺激手段は、前記生乳に物理的エネルギーを加えることによって生乳中の体細胞に刺激を与えるものである、請求項4に記載の生乳検査装置。
【請求項6】
前記刺激手段は、前記生乳に電磁波又は超音波を照射するものである、請求項5に記載の生乳検査装置。
【請求項7】
前記刺激手段は、前記生乳に剪断応力をかけるものである、請求項5に記載の生乳検査装置。
【請求項8】
前記刺激手段は、前記生乳に電場又は磁場を印加するものである、請求項5に記載の生乳検査装置。
【請求項9】
前記流路は、前記他端と前記測定室との間に、生乳の流通を制限する狭隘部を有する、請求項4又は5に記載の生乳検査装置。
【請求項10】
前記流路は、前記測定室と前記刺激室の間にも、生乳の流通を制限する狭隘部を有する、請求項9に記載の生乳検査装置。
【請求項11】
前記刺激室及び前記測定室の少なくとも一方は、水に対する接触角が30°以上110°以下の壁面を有する、請求項4〜10のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項12】
前記SOD酵素上には、疎水性材料により、水に対する接触角が30°以上110°以下の表面を有する表層が形成されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項13】
前記作用極の表面は、複数の点状の突起又は複数の点状の窪みによって凹凸形状とされており、前記突起又は窪みの密度は200〜15000個/mm2である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項14】
前記複数の突起における隣り合う突起の間の距離又は前記窪みの幅は4〜100μmである、請求項13に記載の生乳検査装置。
【請求項15】
前記突起の高さ又は前記窪みの深さは0.5〜1000μmであり、前記突起の幅に対する高さのアスペクト比又は前記窪みの幅に対する深さのアスペクト比は0.2〜10である、請求項13又は14記載の生乳検査装置。
【請求項16】
前記作用極を30〜45℃の範囲内の温度に保つためのヒータをさらに備える、請求項1〜15のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項17】
前記作用極と前記対極との間に電圧を印加したときに流れる電流は1〜5000nAである、請求項1〜16のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項18】
前記SOD酵素は、前記作用極上に、システインの単分子膜を介して塗布されている、請求項1〜17のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項19】
前記センサ及び前記刺激手段を複数備える、請求項1〜18のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項20】
前記作用極と前記対極との間に電圧を印加したときに流れる電流に基づいて前記生乳中の体細胞数を算出する装置本体をさらに備える、請求項1〜19のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項21】
前記センサは、前記装置本体に着脱可能なものである、請求項20に記載の生乳検査装置。
【請求項22】
前記センサは、前記流路を有するセンサ本体と、前記作用極及び前記対極、又は前記作用極、前記対極及び前記参照極を有し、前記センサ本体に着脱可能なチップとを含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の生乳検査装置。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか一項に記載の生乳検査装置から得られる検査結果を用いて家畜の症状を診断する、家畜症状診断方法。
【請求項24】
請求項1に記載の生乳検査装置を用いて、前記生乳検査装置における作用極と対極との間に電圧を印加したときに生乳中に含まれる活性酸素とSOD酵素との反応によって流れる電流量を測定し、該電流量を体細胞数に換算する、体細胞数測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−230363(P2010−230363A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75953(P2009−75953)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】
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