生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物
生体における消化・吸収性により優れ、生体の免疫機構により生理活性を発現する、カワリハラタケ由来の低分子成分(または画分)、食品素材または薬品素材を提供することを目的とする。生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物であって、カワリハラタケの熱水抽出物を含む。この免疫機構は、免疫担当細胞によって媒介され、この免疫担当細胞は、マクロファージ、T細胞、キラー細胞からなる群から選択され得る。代表的には、上記生理活性は腫瘍の抑制作用であって、この腫瘍は肉腫であり得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カワリハラタケ由来の抽出物を含有する、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
健康を維持する願望がより増加するにつれ、多くの人々は、一般に、健康食品および健康補助剤を食している。副作用がほとんどなく、そして活性成分(特に抗腫瘍効果)を有する天然素材が注目されている。化学的治療薬物または合成化合物は、抗腫瘍活性とともに多くの副作用を示すからである。活性成分を有する天然素材の例としてマッシュルーム、アガリクス茸などが知られている。
【0003】
マッシュルームから、抗腫瘍活性をもつ多くの多糖類が単離されている(非特許文献1:Hamuro Jら(1978)、Cancer Res.38:3080−3085;Mizuno Tら(1992)、Biosci.Biotechnol.Biochem.56:347−348)。
【0004】
一般にアガリクス茸と呼ばれるものは、学名を「アガリクス・ブラゼイ・ムリル Agaricus blazei Murll」和名を「カワリハラタケ」という担子菌類ハラタケ科に属するきのこである。アガリクス茸(以後、本明細書では、一般に、カワリハラタケまたはABMと称する)は、ブラジルのサンパウロ州に位置するPiedade地方で伝統的に医薬として用いられている。カワリハラタケは、種々の免疫賦活活性、発癌予防効果、腫瘍増殖抑制効果をもつといわれ、現在、健康食品として幅広く内服されている。なお、本明細書では、用語「癌」および「腫瘍」は、交換可能に同義で用いられる。
【0005】
カワリハラタケに含まれる高分子多糖類は、ザルコーマ180に対して抗腫瘍活性を有し、そしてβ−1,6−グルコピラノシル残基を含む(非特許文献2:Ebina Tら(1986)、Jpn.J.Cancer Res 77:1034−1042)。カワリハラタケ抽出物は、(1→6)−β分岐をもつ(1→4)−α−D−グルカンを含み、ナチュラルキラー細胞活性化およびアポトーシスを経由して媒介される選択的抗腫瘍活性を有している(非特許文献3:Fujimiya Yら(1998)、Cancer Immunol Immunother 46:147−159)。二重移植腫瘍系において、カワリハラタケに含まれるペプチドグリカンは、Meth A腫瘍細胞に対して直接的な細胞傷害性作用を有し、そして腫瘍をもつマウスに対して間接的な免疫増強作用を有していた(非特許文献4:Ebina Tら(1998)、Biotherapy 11:259−265)。カワリハラタケに含まれる多糖類は、マウスにおけるT細胞サブセットにおける脾臓Thy1,2−、L3T4陽性細胞の割合を変えた(非特許文献5:Mizuno Mら(1998)、Biosci.Biotechnol.Biochem.62:434−437)。これらの報告は、カワリハラタケに含まれる高分子多糖類が、免疫調節活性を通じて腫瘍細胞に対する細胞傷害性作用を有することを示唆している。しかし、上記を含む従来技術は、いずれも、カワリハラタケ由来の高分子物質に関する報告であり、カワリハラタケ由来の低分子物質(または画分)の生理活性に関する報告はほとんどない。
【非特許文献1】Hamuro Jら(1978)、Cancer Res.38:3080−3085;Mizuno Tら(1992)、Biosci.Biotechnol.Biochem.56:347−348
【非特許文献2】Ebina Tら(1986)、Jpn.J.Cancer Res 77:1034−1042
【非特許文献3】Fujimiya Yら(1998)、Cancer Immunol Immunother 46:147−159
【非特許文献4】Ebina Tら(1998)、Biotherapy 11:259−265
【非特許文献5】Mizuno Mら(1998)、Biosci.Biotechnol.Biochem.62:434−437
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、高分子物質は、低分子物質に比べ、生体における消化・吸収がより困難と考えられる。本発明は、生体における消化・吸収性により優れたカワリハラタケ由来の生理活性を有する低分子成分(または画分)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カワリハラタケの熱水抽出エキスおよびその分画フラクションが、マウスに移植した癌細胞に対して示す増殖抑制効果の作用機序の解析を行うことによって本発明を完成した。
【0008】
本発明は、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物に関し、この組成物は、カワリハラタケの熱水抽出物を含む。
【0009】
上記免疫機構は、免疫担当細胞によって媒介され得る。
【0010】
上記免疫担当細胞は、マクロファージ、T細胞、キラー細胞からなる群から選択され得る。
【0011】
上記生理活性は、腫瘍抑制作用であり得る。
【0012】
上記腫瘍は、肉腫であり得る。
【0013】
上記肉腫は、ザルコーマ180またはMeth A フィブロザルコーマであり得る。
【0014】
上記生理活性は、延命作用であり得る。
【0015】
好ましくは、上記組成物は、薬学的に受容可能なキャリアをさらに包含し得る。
【0016】
上記組成物は、粉末、液体、錠剤、カプセル、ペレットからなる群から選択される形態であり得る。
【0017】
本明細書で用いる用語、「免疫担当細胞」は、当業者に公知の免疫応答に関与する細胞を意味し、これには、体液性免疫を媒介するB細胞および細胞性免疫を媒介するT細胞に大別されるリンパ球;マクロファージ、ランゲルハンス細胞、樹枝状細胞などのアクセサリー細胞;NK細胞(ナチュラルキラー細胞);LAK細胞(lymphokine activated killer cell);および抗体依存性細胞傷害を誘導する細胞などが含まれる。T細胞には、免疫応答の制御に関与するヘルパーT細胞やサプレッサーT細胞、標的細胞を破壊するキラーT細胞や遅延型過敏症などに関与するT細胞が含まれる。B細胞には、抗原やT細胞などにより活性化されてB細胞から分化した抗体分泌細胞が含まれる。
【0018】
上記カワリハラタケの熱水抽出物は、カワリハラタケの子実体を熱水抽出する工程、抽出物を透析処理する工程および透析外液をクロマトグラフィー処理する工程によって得られる分子量100〜2000のクロマトグラフィー主溶出画分を有効成分として含み得る。
【0019】
あるいは、上記カワリハラタケの熱水抽出物は、カワリハラタケの子実体を熱水抽出する工程、抽出物にエタノールを加えて混合し、混合物を遠心分離して沈殿と上澄液に分ける工程、上澄液にエタノールを加えて混合し、混合物を遠心分離して沈殿と上澄液に分ける工程および沈殿物を蒸留水に溶解して透析処理する工程によって得られる透析外液を有効成分として含み得る。
【0020】
上記カワリハラタケの熱水抽出物は、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリアと配合された形態であり得る。このような薬学的に受容可能なキャリアは当業者に公知であり、制限されないで、例えば、以下を包含する:リンゲル溶液、ハンクス溶液、または緩衝化生理食塩水などの緩衝液;ゴマ油などの脂肪酸、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル;ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトールなどの糖類;トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモなどの植物由来デンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース;アラビアゴム、トラガカントゴムなどのゴム;ゼラチン、コラーゲンなどのタンパク質;架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩など。
【発明の効果】
【0021】
生体における消化・吸収性に優れたカワリハラタケ由来の生理活性を有する低分子成分(または画分)が提供される。これら低分子成分(または画分)は、食品素材または薬品素材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】マウスに移植された腫瘍の増殖曲線を示す図である。本発明の組成物の腫瘍抑制効果を示す。
【図2】マウスに移植された腫瘍の増殖(腫瘍の体積で表される)を示す図である。Aは、ヌードマウスにおける腫瘍の増殖を示し、Bは、正常マウスにおける腫瘍の増殖を示す。
【図3】本発明の組成物を投与されたヌードマウスにおける腫瘍塊の比較を示す写真である。
【図4】抗アシアロ抗体を静注し、NK細胞を選択的に除去したマウスにおける腫瘍の増殖(腫瘍の体積で表される)を示す図である。
【図5】2−chloroadenosineを静注し、マクロファージを選択的に阻害したマウスにおける腫瘍の増殖(腫瘍の体積で表される)を示す図である。
【図6】図4における実験において、各群のマウスにおける腫瘍塊重量の比較を示す図である。
【図7】図4に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍サイズの比較を示す写真である。
【図8】図5に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍サイズの比較を示す写真である。図において、2−chloroadeosineで処理したことは、2−chloroadeosineで示される。
【図9】図5に示す実験において、各群のマウスにおける35日目の腫瘍塊重量の比較を示す図である。
【図10】図5に示す実験において、各群のマウスにおける35日目の腫瘍塊容積の比較を示す図である。
【図11】本発明の組成物のマウス宿主における延命効果を示す図である。
【図12】図11に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍塊サイズの推移を示す図である。
【図13】図11に示す実験において、各群のマウスの体重の推移を示す図である。
【図14】図11に示す実験における各群のマウスの飲料量を示す図である。
【図15】本発明の組成物のマウス宿主における延命効果を示す図である。
【図16】マウスに移植された腫瘍の増殖(体積で表される)を示す図である。本発明の組成物の腫瘍抑制効果を示す。本発明の組成物の腫瘍抑制作用を示す。
【図17】図16に示す実験において、各群のマウスの体重の推移を示す図である。
【図18】図16に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍サイズの比較を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物の製法について説明する。
【0024】
本発明のカワリハラタケ抽出物は、カワリハラタケ原料を、溶媒抽出して調製される。カワリハラタケ原料は、代表的には、天然または栽培されたカワリハラタケの子実体である。培養タンクなどで培養されたカワリハラタケの菌糸体を用いてもよい。通常、カワリハラタケは、洗浄された後、乾燥して用いられる。市販されている子実体の乾燥物もまた便利に利用できる。通常、乾燥されたカワリハラタケは常法に従って粉末とされ、抽出原料として用いられる。
【0025】
本発明のカワリハラタケ抽出物は、上記子実体の乾燥物またはその粉末に種々の溶媒を添加して抽出操作を行うことによって得られ得る。一般に、上記溶媒は、上記乾燥子実体またはその粉末の重量に対して2〜10倍の重量で添加されて抽出操作が行われる。上記溶媒としては、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、1,3−ブチレングリコール、酢酸エチル、ヘキサン、塩化メチレン、メタノールまたはそれらの混合物が用いられる。代表的には、水を用いてカワリハラタケ抽出物を調製する。
【0026】
カワリハラタケの熱水抽出は、乾燥子実体またはその乾燥粉末に5から10倍の水を加えて1〜3時間加熱抽出または加熱還流することによって行われる。必要に応じて、カワリハラタケの熱水抽出は、熱水抽出残渣についてもさらに加熱抽出または加熱還流を繰り返して行われる。このようにして得られる熱水抽出液(本明細書では、しばしばABMK−WWとも称する)は、凍結乾燥、スプレードライなど、当業者に公知の方法によって乾燥物(以下乾燥物Aという)とする。この乾燥物に、5〜20倍の水を加え、透析チューブに入れ数倍の蒸留水で10〜15時間透析し、透析外液(本明細書では、しばしばABMK−WLMまたはWLMとも称する)を凍結乾燥することによっても、カワリハラタケの熱水抽出物の乾燥物(以下乾燥物Cという)を得ることができる。
【0027】
次に、透析内液についても、さらに流水中で20〜40時間透析し、そして蒸留水で2回各数時間透析した後に得られる透析内液(本明細書では、しばしばABMK−WHMまたはWHMとも称する)を上記と同様に乾燥物とすることによっても、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する、カワリハラタケの熱水抽出物の乾燥物(以下乾燥物Bという)を得ることができる。
【0028】
次に、得られた上記乾燥物Cを、約10倍の蒸留水に溶解し、蒸留水を流出溶媒としてクロマトグラフィーを行い、20mLずつ分取し、多くの画分を得る。得られた画分の中程の主溶出画分で、ゲル濾過法によって分子量100〜2000の画分もまた、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する、カワリハラタケの熱水抽出物を含む画分である。
【0029】
これらの画分は、さらにODS(オクタデシルシラン化シリカゲル)を用いる逆相クロマトグラフィー、DEAE−TOYOPEARL650を用いるイオン交換クロマトグラフィーなどを用いて分析すると、アルギニン、リジン、マンニトールの他、数種の成分を含んでいることが確認されている。
【0030】
また、上記の方法で得られる熱水抽出液に等量のエタノールを加えて混合し、遠心分離処理して沈殿と上澄液に分ける。得られる上澄液にさらにその1から3倍量のエタノールを加えて混合し、遠心分離処理して得られる沈殿を蒸留水に溶解し、この溶液を透析処理して得られる透析外液もまた低分子画分であって、本発明の、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する、カワリハラタケの熱水抽出物を含む画分である。
【0031】
このようにして得られたカワリハラタケの熱水抽出物を含む画分は、そのまま、あるいは種々のキャリアとともに医薬製剤の製造に用いることができる。また、このカワリハラタケの熱水抽出物を含む画分は、そのまま、または他の食品素材と共に健康飲食品として利用することができる。
【0032】
本発明の組成物は、代表的には、生体適合性の薬学的キャリア(例えば、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水など)とともに経口的に摂取され得る。本発明の組成物は、単独または他の薬剤もしくは食品素材と組み合わせて摂取され得る。
【0033】
本発明の組成物は経口的または非経口的に投与され得る。非経口送達は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または鼻孔内への投与により達成され得る。本発明の薬学的組成物の処方および投与の詳細は、例えば、当該分野における教科書「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.、Easton、PA)に記載に従って行なわれ得る。
【0034】
経口投与のための組成物は、投与に適した投与形態で当該分野で周知の薬学的に受容可能なキャリアを用いて処方され得る。このようなキャリアは、得られる組成物が、患者による摂取に適した、錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物などに処方されることを可能とする。
【0035】
本発明の組成物は、カワリハラタケ熱水抽出物を、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現するに有効な量で含む。「薬理学的に有効な量」は、当業者に十分に認識される用語であり、生体内で意図される生体の免疫機構を通じて生理活性を発現するに有効なカワリハラタケ熱水抽出物の量をいう。従って、薬学的に有効な量は、処置されるべき、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現するのに十分な量である。
【0036】
「薬理学的に有効な量」を確認する有用なアッセイの例は、免疫機構が欠如したモデル動物とコントロール動物とを用い、例えば、これら動物に同種の癌を移植した後、カワリハラタケ抽出物を投与してその癌の増殖を比較することである。このようなモデル動物は、当業者に周知である。実際に投与されるカワリハラタケ抽出物の量は、処置が適用される個体の健康状態などに依存し、所望の効果が達成されるように最適化された量である。薬学的に有効な量を決定することは、当業者にとって慣用的な手順である。
【0037】
薬学的に有効な量は、まず、細胞培養によるインビトロアッセイまたは適切な動物モデルによって評価され得る。次に、このような情報を用いて、ヒトにおける投与に有用な量を決定し得る。薬学的に有効な量は、一般には、約1mg/kg体重/日〜約500mg/kg体重/日、好ましくは、約5mg/kg体重/日〜約200mg/kg体重/日の範囲であり得る。
【0038】
また、上記の生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する画分は、その機能を発揮するに十分な量で、選択された1種またはそれ以上の食品素材と混合される。選択された1種またはそれ以上の食品素材は、当業者に公知の形態、通常粉末形態で、この免疫賦活活性を有する画分と混合される。そしてこれらは、用途または好みに応じて、液状の食品として供することができる。あるいはハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤もしくは丸剤としてか、または粉末状、顆粒状、茶状、ティーバック状もしくは、飴状などの形状に成形され得る。
【0039】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の例示であり、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0040】
(実施例1)カワリハラタケ抽出物の調製
(1)カワリハラタケの熱水抽出物として上記の乾燥物Aを用いた。これは、カワリハラタケの乾燥子実体(協和アガリクス茸)を沸騰水で抽出し、1800×gで10分間遠心分離して残渣を取り除き、そして凍結乾燥したものである。これを、3.7mg/mlの濃度で精製水に溶解したものを試料I、そして8mg/mlの精製水に溶解したものを試料IIとした。
【0041】
(2)300gの協和アガリクス茸に蒸留水2Lを加え、2時間加熱還流を行った。得られた液を濾過して濾液(熱水抽出液)と残査とに分けた。残査には再び蒸留水2Lを加え、さらに2時間加熱還流して熱水抽出を行い濾液を得た。さらに残った残査についてもう一度同様の熱水抽出を行った。得られた濾液を合わせて凍結乾燥し、乾燥物A(153g:抽出率51%)を得た。
【0042】
50gの乾燥物Aに500mLの蒸留水を加え、透析チューブ(Spectra/Por Membrane 50×31、8mm内径×30cm長さ、FE−0526−65)に入れた。これを3Lの蒸留水に対して12時間透析した。得られた透析外液を凍結乾燥して乾燥物C(27g:抽出率53%)を得た。透析内液についてはさらに流水中で30時間透析し、その後蒸留水で2回(各4時間、合計8時間)透析した後、透析内液を凍結乾燥し、乾燥物B(11g:抽出率22%)を得た。続いて、3gの乾燥物Cを30mLの蒸留水に溶かし、TOYOPEARL HW40C(40mm内径×420mm長さ)を用いるクロマトグラフィーを行った。流出溶媒はすべて蒸留水を用いた。各フラクションについてそれぞれ20mLずつ分取し、画分1〜30を得た。それらのフラクションは薄層クロマトグラフィーを参考にして以下の5群に分けた。乾燥重量は次の通りであった。画分1〜11(75mg、2.5%)、画分12〜15(920mg、30.7%)、画分16〜17(1570mg、52.3%)、画分18〜19(270mg、9%)、画分20〜28(97mg、3.2%)。
【0043】
画分16(以後、しばしば1SY−16ともいう)の赤外線吸収スペクトル(IR)データは以下の通りであった。
画分16:IR(KBr)3390、3325、3285、2940、2920、1641、1634、1622、1615、1600、1595、1405、1394、1084、1020:分子量(ゲル濾過法)100〜2000。
【0044】
(3)上記(2)と同様の熱水抽出を実施して、合わせた濾液(熱水抽出液)6Lを得た。この濾液を減圧濃縮して1Lとし、これにエタノール1Lを加えて混合し、遠心分離して沈殿と上澄液を得た。この上澄液にさらにエタノール3Lを加えて混合し、遠心分離して得られる沈殿を蒸留水に溶解し、透析処理した。得られた透析外液を凍結乾燥して粉末を得た(以後、しばしばABMK−22ともいう)。
【0045】
(実施例2)カワリハラタケ抽出物の腫瘍増殖阻害効果の作用機構の検討
1.カワリハラタケ抽出物のT細胞を介した生理活性発現
ザルコーマ180(Sarcoma180)を移植したマウスに、上記カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションを経口投与したとき増殖抑制効果を認めている。図1に、その一例を示す。図1に示すグラフは、マウスに皮下移植したSarcoma180の腫瘍増殖曲線である。図中、横軸は、Sarcoma180を皮下移植した後の日数を、そして縦軸は、腫瘍のサイズ(容積)を示す。図中の参照番号1は、コントロール群、そして参照番号2〜5は、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションを投与した群の結果を示す。
【0046】
一般に、腫瘍増殖曲線を対数プロットで表したとき、化学療法剤で処理したときの曲線パターンは、投与開始と同時に腫瘍細胞の絶対数が顕著に減少し、その後、指数関数的に癌細胞の増殖が認められ、コントロール群とパラレルに増殖するのに対し、生体の免疫機構を介して癌抑制作用を示す物質で処理したときの曲線パターンは、投与開始から1〜2週間後に徐々に癌細胞の増殖が頭打ちの状態になることが知られている。図1に示される曲線パターンは、後者に属することから、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションは、生体に投与されたとき、免疫学的に様々な生体因子を媒介にして免疫が賦活され、腫瘍増殖作用が発現されていると考えられた。このことは、これら実験において、通常、副作用にともなう体重減少などの現象が認められないことなどからも支持された。
【0047】
そこで、本発明者らは、T細胞機能が欠損しているヌードマウスICR/JCL−nunuを用いて、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションを材料に、これらを経口投与し(ABMK−WWに換算して約100mg/kg/日相当)、上記と同様の活性試験を行った。図2にその結果を示す。図2のAがヌードマウスを用いたときの結果を、図2のBは正常マウスを用いたときの結果である。図のグラフにおいて、横軸はSarcoma180移植後の日数を示し、縦軸は腫瘍体積を示す。また、図中、四角はABMK−WLM(透析外液)を、三角はISY−16を投与した群の結果をそれぞれ示し、そして丸はコントロール群の結果を示す。なお、本明細書において、以下特に示さない限り、1つの実験群として6匹のマウスを使用した。この結果、図2のAに示されるように、ABMK−WLMと1SY−16とは、T細胞正常マウスを用いた場合(図2のB)の結果とは対照的に、全く増殖抑制効果を示さなかった。これらの結果から、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションは、Sarcoma180に対し、マウスのT細胞を介してその生理活性を発現し、腫瘍抑制作用を示すと考えられた。なお、表1および表2は、図2に示す実験において、各群のヌードマウスにおける腫瘍サイズの変動(表1)および35日目における腫瘍重量、腫瘍サイズ、阻害率(表2)をそれぞれ示す。また、図3は、各群のヌードマウスにおける腫瘍塊の比較を示す写真である。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
2.カワリハラタケ抽出物のNK細胞またはマクロファージ介した生理活性発現
さらに、生体防御を司る免疫機構に関与する細胞また因子のうち、NK細胞とマクロファージに着目し、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションの生理活性を調べた。NK細胞を選択的に除去することが知られる抗アシアロ抗体をマウス尾静脈法により投与したICR/JCLマウス、およびマクロファージに対し選択的に毒性作用を示す2−chloroadeosineを静注により投与したICR/JCLマウスに対し、上記1.と同様の活性試験を行った。結果を図4および図5に示す。
【0050】
図4は、抗アシアロ抗体で処理(図中アシアロGM1で示される)したマウスを用いた実験の結果を、そして図5は、2−chloroadeosineで処理したマウスを用いた実験の結果をそれぞれ示す。図4および図5に見られるように、抗アシアロ抗体処理したマウス、および2−chloroadeosineで処理したマウスにおける腫瘍体積は(図4において黒四角、白丸、白四角、白三角で示され、そして図5において黒丸、黒四角で示される)、抗アシアロ抗体および2−chloroadeosine処理せずにABMK−WLMを投与した群(図4および図5の黒三角で示される結果)と比較して顕著に大きかった。このことから、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションは、Sarcoma180に対し、マウスのNK細胞およびマクロファージを介してその生理活性を発現し、腫瘍抑制作用を示すと考えられた。
【0051】
なお、図6は、図4に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍塊重量の比較を示す。また、図7は、図4に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍サイズの比較を示す写真である。なお、図において、マウスを抗アシアロ抗体処理したことは、アシアロGM1(図6)またはAnti−ASIALO GM1(図7)で示される。
【0052】
また、図8は、図5に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍重量およびサイズの比較を示す写真である。図において、2−chloroadeosineで処理したことは、2−クロロアデノシンで示される。
【0053】
図9は、図5に示す実験において、各群のマウスにおける35日目の腫瘍塊重量の比較を示す図である。
【0054】
図10は、図5に示す実験において、各群のマウスにおける35日目の腫瘍塊重容積の比較を示す図である。
【0055】
これらの図に示されるように、マウスに、カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクション、特に、1SY−16に強い腫瘍抑制作用が認められた。
【0056】
以上要約すると、MTT試薬を用いたマウス由来口腔癌細胞株:KB細胞に対する細胞傷害活性を測定したところ、カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションには、有意な細胞傷害活性は認められなかった(結果は示さず)。また、ICR/JCL−nunuマウス(先天的T細胞欠損マウス)を用いて移植したSarcoma180に対する腫瘍抑制効果を測定したところ、カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションの経口投与ではSarcoma180に対して全く腫瘍抑制効果を示さなかった。このことは、カワリハラタケの抽出物およびその分画フラクションの腫瘍増殖抑制効果にはT細胞を介した免疫学的機序が関与していることを示唆する。
【0057】
NK細胞およびマクロファージもまた、それぞれ、生体防御機構に関与する重要な細胞集団である。NK細胞を選択的に除去するために抗アシアロGM1抗体を、そしてマクロファージに対し選択的に毒性を示す薬剤2−chloroadenosineをそれぞれ静注したマウスを用いて、カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションの腫瘍増殖抑制効果を調べたところ、これら薬剤で処理していないマウスとは対照的に、腫瘍増殖が抑制されないことが観察された。これらのことから、カワリハラタケの抽出物およびその分画フラクションは、これらの細胞集団を活性化することで、生体の免疫を賦活していることが示唆された。カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションが腫瘍細胞増殖抑制効果を示す作用機構として、マクロファージの活性化、T細胞を介する腫瘍増殖抑制経路、マクロファージが直接的エフェクター細胞として殺腫瘍作用を発揮する経路、NK細胞を介して様々な免疫担当細胞およびサイトカインの活性化による殺腫瘍作用を発揮する経路などのような癌細胞増殖抑制機構を通じて腫瘍増殖抑制効果を発現することなどが考えられる。
【0058】
(実施例3)カワリハラタケ抽出物の延命効果の検討
1.Sarcoma180を用いた試験
カワリハラタケの抽出物またはその分画フラクションのマウス宿主延命効果を検討するため、Sarcoma180細胞(1×106/マウス)を、雌性、5〜6週令のICR/JCLマウスの腹腔に移植し、その後、カワリハラタケの抽出物またはその分画フラクションを経口投与し(ABMK−WWとして100mg/kg/日:ゾンデにより投与)生存率を観察した。実施例2と同様に、蒸留水を投与した群をコントロール群とした。図11のAにその結果を示す。図において、横軸は腫瘍移植後のマウス宿主の延命日数を、そして縦軸は生存率をそれぞれ示す。
【0059】
図11のAに示されるように、コントロール群と比較してカワリハラタケの分画フラクションを投与した群では、約3日の延命効果が認められた。Sarcoma180細胞を皮下移植した場合にも同様の延命効果が認められた(結果は示さず)。
【0060】
図11のBは、カワリハラタケの分画フラクションを、ゾンデにより投与するのではなく、給水管の水に溶かして飲料としてマウスに自由摂取させることにより(ABMK−WWとして約10mg/kg/日相当)、図11のAに示される実験に準じて行った結果を示す。この実験では、コントロール群と比較してカワリハラタケの分画フラクションを投与した群では、約10日の延命効果が認められた。図12は、カワリハラタケの分画フラクションを自由摂取させたこの実験における各群のマウスにおける腫瘍塊サイズの推移を、そして図13は各群のマウスの体重の推移を示す。また、図14は、この実験における各群のマウスの飲料量を示す。図示されるように、各群のマウスにおいて飲料量はほぼ同じである。
【0061】
ゾンデ投与に比べ延命日数が多いのは、ゾンデ投与によるストレスが延命を縮めるように影響すると考えられた。
【0062】
2.Meth A fibrosarcomaを用いた試験
次に、異種細胞株であるMeth A フィブロザルコーマ(Meth A fibrosarcoma)を用い、上記1.と同様に延命効果を検討した。Meth A fibrosarcomaは、マウスに皮下接種した。図15にその結果を示す。図15に示されるように、カワリハラタケ抽出物投与群で約3日の延命効果が認められた。なお、図中、SENSEIROで示されるのは、AMBK−WWに相当するカワリハラタケ抽出物を投与した群の結果である。
【0063】
次に、マウスに皮下移植されたMeth A fibrosarcomaについても、上記1.のSarcoma180と同様に、カワリハラタケの抽出物またはその分画フラクションの腫瘍抑制作用をアッセイした。図16〜図18にその結果を示す。図16は、この実験における腫瘍塊容積の変動を、図17はマウス体重の変化を、そして図18は、実験35日目の各群のMeth A fibrosarcomaの腫瘍サイズの比較を示す写真である。図16〜図18に示されるように、Meth A fibrosarcomaについても、カワリハラタケの抽出物またはその分画フラクションは、対照群のマウスと比較して腫瘍の抑制効果(阻害率22〜60%)が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
生体における消化・吸収性により優れ、生体の免疫機構により生理活性を発現する、カワリハラタケ由来の低分子成分(または画分)、食品素材または薬品素材が提供される。現在、癌は、日本における死亡原因の1位を占める疾患であり、近年、癌と宿主の免疫反応との関係が明らかになるにつれ、宿主の免疫力を高めることで癌の増殖を抑え、最終的には、癌を退縮させる免疫療法が注目されている。宿主の免疫系を活性化する手段の1つにBRMs(biological response modifiers)と呼ばれる薬剤がある。これは、サイトカインなどを癌に対して特異的または非特異的免疫応答調節因子として関与させ、腫瘍と宿主との間の関係を変える薬剤と定義されている。本発明の組成物は、BRM製剤の1つとして用いることができる。また、本発明の組成物は、単独または化学療法剤との併用療法により、癌患者のQOLの向上、癌治療効果の増強などの用途に用いることができる。さらに、本発明の組成物は、副作用の少ない抗癌剤開発のための薬品素材としても用いることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カワリハラタケ由来の抽出物を含有する、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
健康を維持する願望がより増加するにつれ、多くの人々は、一般に、健康食品および健康補助剤を食している。副作用がほとんどなく、そして活性成分(特に抗腫瘍効果)を有する天然素材が注目されている。化学的治療薬物または合成化合物は、抗腫瘍活性とともに多くの副作用を示すからである。活性成分を有する天然素材の例としてマッシュルーム、アガリクス茸などが知られている。
【0003】
マッシュルームから、抗腫瘍活性をもつ多くの多糖類が単離されている(非特許文献1:Hamuro Jら(1978)、Cancer Res.38:3080−3085;Mizuno Tら(1992)、Biosci.Biotechnol.Biochem.56:347−348)。
【0004】
一般にアガリクス茸と呼ばれるものは、学名を「アガリクス・ブラゼイ・ムリル Agaricus blazei Murll」和名を「カワリハラタケ」という担子菌類ハラタケ科に属するきのこである。アガリクス茸(以後、本明細書では、一般に、カワリハラタケまたはABMと称する)は、ブラジルのサンパウロ州に位置するPiedade地方で伝統的に医薬として用いられている。カワリハラタケは、種々の免疫賦活活性、発癌予防効果、腫瘍増殖抑制効果をもつといわれ、現在、健康食品として幅広く内服されている。なお、本明細書では、用語「癌」および「腫瘍」は、交換可能に同義で用いられる。
【0005】
カワリハラタケに含まれる高分子多糖類は、ザルコーマ180に対して抗腫瘍活性を有し、そしてβ−1,6−グルコピラノシル残基を含む(非特許文献2:Ebina Tら(1986)、Jpn.J.Cancer Res 77:1034−1042)。カワリハラタケ抽出物は、(1→6)−β分岐をもつ(1→4)−α−D−グルカンを含み、ナチュラルキラー細胞活性化およびアポトーシスを経由して媒介される選択的抗腫瘍活性を有している(非特許文献3:Fujimiya Yら(1998)、Cancer Immunol Immunother 46:147−159)。二重移植腫瘍系において、カワリハラタケに含まれるペプチドグリカンは、Meth A腫瘍細胞に対して直接的な細胞傷害性作用を有し、そして腫瘍をもつマウスに対して間接的な免疫増強作用を有していた(非特許文献4:Ebina Tら(1998)、Biotherapy 11:259−265)。カワリハラタケに含まれる多糖類は、マウスにおけるT細胞サブセットにおける脾臓Thy1,2−、L3T4陽性細胞の割合を変えた(非特許文献5:Mizuno Mら(1998)、Biosci.Biotechnol.Biochem.62:434−437)。これらの報告は、カワリハラタケに含まれる高分子多糖類が、免疫調節活性を通じて腫瘍細胞に対する細胞傷害性作用を有することを示唆している。しかし、上記を含む従来技術は、いずれも、カワリハラタケ由来の高分子物質に関する報告であり、カワリハラタケ由来の低分子物質(または画分)の生理活性に関する報告はほとんどない。
【非特許文献1】Hamuro Jら(1978)、Cancer Res.38:3080−3085;Mizuno Tら(1992)、Biosci.Biotechnol.Biochem.56:347−348
【非特許文献2】Ebina Tら(1986)、Jpn.J.Cancer Res 77:1034−1042
【非特許文献3】Fujimiya Yら(1998)、Cancer Immunol Immunother 46:147−159
【非特許文献4】Ebina Tら(1998)、Biotherapy 11:259−265
【非特許文献5】Mizuno Mら(1998)、Biosci.Biotechnol.Biochem.62:434−437
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、高分子物質は、低分子物質に比べ、生体における消化・吸収がより困難と考えられる。本発明は、生体における消化・吸収性により優れたカワリハラタケ由来の生理活性を有する低分子成分(または画分)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カワリハラタケの熱水抽出エキスおよびその分画フラクションが、マウスに移植した癌細胞に対して示す増殖抑制効果の作用機序の解析を行うことによって本発明を完成した。
【0008】
本発明は、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物に関し、この組成物は、カワリハラタケの熱水抽出物を含む。
【0009】
上記免疫機構は、免疫担当細胞によって媒介され得る。
【0010】
上記免疫担当細胞は、マクロファージ、T細胞、キラー細胞からなる群から選択され得る。
【0011】
上記生理活性は、腫瘍抑制作用であり得る。
【0012】
上記腫瘍は、肉腫であり得る。
【0013】
上記肉腫は、ザルコーマ180またはMeth A フィブロザルコーマであり得る。
【0014】
上記生理活性は、延命作用であり得る。
【0015】
好ましくは、上記組成物は、薬学的に受容可能なキャリアをさらに包含し得る。
【0016】
上記組成物は、粉末、液体、錠剤、カプセル、ペレットからなる群から選択される形態であり得る。
【0017】
本明細書で用いる用語、「免疫担当細胞」は、当業者に公知の免疫応答に関与する細胞を意味し、これには、体液性免疫を媒介するB細胞および細胞性免疫を媒介するT細胞に大別されるリンパ球;マクロファージ、ランゲルハンス細胞、樹枝状細胞などのアクセサリー細胞;NK細胞(ナチュラルキラー細胞);LAK細胞(lymphokine activated killer cell);および抗体依存性細胞傷害を誘導する細胞などが含まれる。T細胞には、免疫応答の制御に関与するヘルパーT細胞やサプレッサーT細胞、標的細胞を破壊するキラーT細胞や遅延型過敏症などに関与するT細胞が含まれる。B細胞には、抗原やT細胞などにより活性化されてB細胞から分化した抗体分泌細胞が含まれる。
【0018】
上記カワリハラタケの熱水抽出物は、カワリハラタケの子実体を熱水抽出する工程、抽出物を透析処理する工程および透析外液をクロマトグラフィー処理する工程によって得られる分子量100〜2000のクロマトグラフィー主溶出画分を有効成分として含み得る。
【0019】
あるいは、上記カワリハラタケの熱水抽出物は、カワリハラタケの子実体を熱水抽出する工程、抽出物にエタノールを加えて混合し、混合物を遠心分離して沈殿と上澄液に分ける工程、上澄液にエタノールを加えて混合し、混合物を遠心分離して沈殿と上澄液に分ける工程および沈殿物を蒸留水に溶解して透析処理する工程によって得られる透析外液を有効成分として含み得る。
【0020】
上記カワリハラタケの熱水抽出物は、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリアと配合された形態であり得る。このような薬学的に受容可能なキャリアは当業者に公知であり、制限されないで、例えば、以下を包含する:リンゲル溶液、ハンクス溶液、または緩衝化生理食塩水などの緩衝液;ゴマ油などの脂肪酸、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル;ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトールなどの糖類;トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモなどの植物由来デンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース;アラビアゴム、トラガカントゴムなどのゴム;ゼラチン、コラーゲンなどのタンパク質;架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸またはその塩など。
【発明の効果】
【0021】
生体における消化・吸収性に優れたカワリハラタケ由来の生理活性を有する低分子成分(または画分)が提供される。これら低分子成分(または画分)は、食品素材または薬品素材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】マウスに移植された腫瘍の増殖曲線を示す図である。本発明の組成物の腫瘍抑制効果を示す。
【図2】マウスに移植された腫瘍の増殖(腫瘍の体積で表される)を示す図である。Aは、ヌードマウスにおける腫瘍の増殖を示し、Bは、正常マウスにおける腫瘍の増殖を示す。
【図3】本発明の組成物を投与されたヌードマウスにおける腫瘍塊の比較を示す写真である。
【図4】抗アシアロ抗体を静注し、NK細胞を選択的に除去したマウスにおける腫瘍の増殖(腫瘍の体積で表される)を示す図である。
【図5】2−chloroadenosineを静注し、マクロファージを選択的に阻害したマウスにおける腫瘍の増殖(腫瘍の体積で表される)を示す図である。
【図6】図4における実験において、各群のマウスにおける腫瘍塊重量の比較を示す図である。
【図7】図4に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍サイズの比較を示す写真である。
【図8】図5に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍サイズの比較を示す写真である。図において、2−chloroadeosineで処理したことは、2−chloroadeosineで示される。
【図9】図5に示す実験において、各群のマウスにおける35日目の腫瘍塊重量の比較を示す図である。
【図10】図5に示す実験において、各群のマウスにおける35日目の腫瘍塊容積の比較を示す図である。
【図11】本発明の組成物のマウス宿主における延命効果を示す図である。
【図12】図11に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍塊サイズの推移を示す図である。
【図13】図11に示す実験において、各群のマウスの体重の推移を示す図である。
【図14】図11に示す実験における各群のマウスの飲料量を示す図である。
【図15】本発明の組成物のマウス宿主における延命効果を示す図である。
【図16】マウスに移植された腫瘍の増殖(体積で表される)を示す図である。本発明の組成物の腫瘍抑制効果を示す。本発明の組成物の腫瘍抑制作用を示す。
【図17】図16に示す実験において、各群のマウスの体重の推移を示す図である。
【図18】図16に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍サイズの比較を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物の製法について説明する。
【0024】
本発明のカワリハラタケ抽出物は、カワリハラタケ原料を、溶媒抽出して調製される。カワリハラタケ原料は、代表的には、天然または栽培されたカワリハラタケの子実体である。培養タンクなどで培養されたカワリハラタケの菌糸体を用いてもよい。通常、カワリハラタケは、洗浄された後、乾燥して用いられる。市販されている子実体の乾燥物もまた便利に利用できる。通常、乾燥されたカワリハラタケは常法に従って粉末とされ、抽出原料として用いられる。
【0025】
本発明のカワリハラタケ抽出物は、上記子実体の乾燥物またはその粉末に種々の溶媒を添加して抽出操作を行うことによって得られ得る。一般に、上記溶媒は、上記乾燥子実体またはその粉末の重量に対して2〜10倍の重量で添加されて抽出操作が行われる。上記溶媒としては、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、1,3−ブチレングリコール、酢酸エチル、ヘキサン、塩化メチレン、メタノールまたはそれらの混合物が用いられる。代表的には、水を用いてカワリハラタケ抽出物を調製する。
【0026】
カワリハラタケの熱水抽出は、乾燥子実体またはその乾燥粉末に5から10倍の水を加えて1〜3時間加熱抽出または加熱還流することによって行われる。必要に応じて、カワリハラタケの熱水抽出は、熱水抽出残渣についてもさらに加熱抽出または加熱還流を繰り返して行われる。このようにして得られる熱水抽出液(本明細書では、しばしばABMK−WWとも称する)は、凍結乾燥、スプレードライなど、当業者に公知の方法によって乾燥物(以下乾燥物Aという)とする。この乾燥物に、5〜20倍の水を加え、透析チューブに入れ数倍の蒸留水で10〜15時間透析し、透析外液(本明細書では、しばしばABMK−WLMまたはWLMとも称する)を凍結乾燥することによっても、カワリハラタケの熱水抽出物の乾燥物(以下乾燥物Cという)を得ることができる。
【0027】
次に、透析内液についても、さらに流水中で20〜40時間透析し、そして蒸留水で2回各数時間透析した後に得られる透析内液(本明細書では、しばしばABMK−WHMまたはWHMとも称する)を上記と同様に乾燥物とすることによっても、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する、カワリハラタケの熱水抽出物の乾燥物(以下乾燥物Bという)を得ることができる。
【0028】
次に、得られた上記乾燥物Cを、約10倍の蒸留水に溶解し、蒸留水を流出溶媒としてクロマトグラフィーを行い、20mLずつ分取し、多くの画分を得る。得られた画分の中程の主溶出画分で、ゲル濾過法によって分子量100〜2000の画分もまた、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する、カワリハラタケの熱水抽出物を含む画分である。
【0029】
これらの画分は、さらにODS(オクタデシルシラン化シリカゲル)を用いる逆相クロマトグラフィー、DEAE−TOYOPEARL650を用いるイオン交換クロマトグラフィーなどを用いて分析すると、アルギニン、リジン、マンニトールの他、数種の成分を含んでいることが確認されている。
【0030】
また、上記の方法で得られる熱水抽出液に等量のエタノールを加えて混合し、遠心分離処理して沈殿と上澄液に分ける。得られる上澄液にさらにその1から3倍量のエタノールを加えて混合し、遠心分離処理して得られる沈殿を蒸留水に溶解し、この溶液を透析処理して得られる透析外液もまた低分子画分であって、本発明の、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する、カワリハラタケの熱水抽出物を含む画分である。
【0031】
このようにして得られたカワリハラタケの熱水抽出物を含む画分は、そのまま、あるいは種々のキャリアとともに医薬製剤の製造に用いることができる。また、このカワリハラタケの熱水抽出物を含む画分は、そのまま、または他の食品素材と共に健康飲食品として利用することができる。
【0032】
本発明の組成物は、代表的には、生体適合性の薬学的キャリア(例えば、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水など)とともに経口的に摂取され得る。本発明の組成物は、単独または他の薬剤もしくは食品素材と組み合わせて摂取され得る。
【0033】
本発明の組成物は経口的または非経口的に投与され得る。非経口送達は、静脈内、筋肉内、腹腔内、または鼻孔内への投与により達成され得る。本発明の薬学的組成物の処方および投与の詳細は、例えば、当該分野における教科書「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.、Easton、PA)に記載に従って行なわれ得る。
【0034】
経口投与のための組成物は、投与に適した投与形態で当該分野で周知の薬学的に受容可能なキャリアを用いて処方され得る。このようなキャリアは、得られる組成物が、患者による摂取に適した、錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁物などに処方されることを可能とする。
【0035】
本発明の組成物は、カワリハラタケ熱水抽出物を、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現するに有効な量で含む。「薬理学的に有効な量」は、当業者に十分に認識される用語であり、生体内で意図される生体の免疫機構を通じて生理活性を発現するに有効なカワリハラタケ熱水抽出物の量をいう。従って、薬学的に有効な量は、処置されるべき、生体の免疫機構を通じて生理活性を発現するのに十分な量である。
【0036】
「薬理学的に有効な量」を確認する有用なアッセイの例は、免疫機構が欠如したモデル動物とコントロール動物とを用い、例えば、これら動物に同種の癌を移植した後、カワリハラタケ抽出物を投与してその癌の増殖を比較することである。このようなモデル動物は、当業者に周知である。実際に投与されるカワリハラタケ抽出物の量は、処置が適用される個体の健康状態などに依存し、所望の効果が達成されるように最適化された量である。薬学的に有効な量を決定することは、当業者にとって慣用的な手順である。
【0037】
薬学的に有効な量は、まず、細胞培養によるインビトロアッセイまたは適切な動物モデルによって評価され得る。次に、このような情報を用いて、ヒトにおける投与に有用な量を決定し得る。薬学的に有効な量は、一般には、約1mg/kg体重/日〜約500mg/kg体重/日、好ましくは、約5mg/kg体重/日〜約200mg/kg体重/日の範囲であり得る。
【0038】
また、上記の生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する画分は、その機能を発揮するに十分な量で、選択された1種またはそれ以上の食品素材と混合される。選択された1種またはそれ以上の食品素材は、当業者に公知の形態、通常粉末形態で、この免疫賦活活性を有する画分と混合される。そしてこれらは、用途または好みに応じて、液状の食品として供することができる。あるいはハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤もしくは丸剤としてか、または粉末状、顆粒状、茶状、ティーバック状もしくは、飴状などの形状に成形され得る。
【0039】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の例示であり、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0040】
(実施例1)カワリハラタケ抽出物の調製
(1)カワリハラタケの熱水抽出物として上記の乾燥物Aを用いた。これは、カワリハラタケの乾燥子実体(協和アガリクス茸)を沸騰水で抽出し、1800×gで10分間遠心分離して残渣を取り除き、そして凍結乾燥したものである。これを、3.7mg/mlの濃度で精製水に溶解したものを試料I、そして8mg/mlの精製水に溶解したものを試料IIとした。
【0041】
(2)300gの協和アガリクス茸に蒸留水2Lを加え、2時間加熱還流を行った。得られた液を濾過して濾液(熱水抽出液)と残査とに分けた。残査には再び蒸留水2Lを加え、さらに2時間加熱還流して熱水抽出を行い濾液を得た。さらに残った残査についてもう一度同様の熱水抽出を行った。得られた濾液を合わせて凍結乾燥し、乾燥物A(153g:抽出率51%)を得た。
【0042】
50gの乾燥物Aに500mLの蒸留水を加え、透析チューブ(Spectra/Por Membrane 50×31、8mm内径×30cm長さ、FE−0526−65)に入れた。これを3Lの蒸留水に対して12時間透析した。得られた透析外液を凍結乾燥して乾燥物C(27g:抽出率53%)を得た。透析内液についてはさらに流水中で30時間透析し、その後蒸留水で2回(各4時間、合計8時間)透析した後、透析内液を凍結乾燥し、乾燥物B(11g:抽出率22%)を得た。続いて、3gの乾燥物Cを30mLの蒸留水に溶かし、TOYOPEARL HW40C(40mm内径×420mm長さ)を用いるクロマトグラフィーを行った。流出溶媒はすべて蒸留水を用いた。各フラクションについてそれぞれ20mLずつ分取し、画分1〜30を得た。それらのフラクションは薄層クロマトグラフィーを参考にして以下の5群に分けた。乾燥重量は次の通りであった。画分1〜11(75mg、2.5%)、画分12〜15(920mg、30.7%)、画分16〜17(1570mg、52.3%)、画分18〜19(270mg、9%)、画分20〜28(97mg、3.2%)。
【0043】
画分16(以後、しばしば1SY−16ともいう)の赤外線吸収スペクトル(IR)データは以下の通りであった。
画分16:IR(KBr)3390、3325、3285、2940、2920、1641、1634、1622、1615、1600、1595、1405、1394、1084、1020:分子量(ゲル濾過法)100〜2000。
【0044】
(3)上記(2)と同様の熱水抽出を実施して、合わせた濾液(熱水抽出液)6Lを得た。この濾液を減圧濃縮して1Lとし、これにエタノール1Lを加えて混合し、遠心分離して沈殿と上澄液を得た。この上澄液にさらにエタノール3Lを加えて混合し、遠心分離して得られる沈殿を蒸留水に溶解し、透析処理した。得られた透析外液を凍結乾燥して粉末を得た(以後、しばしばABMK−22ともいう)。
【0045】
(実施例2)カワリハラタケ抽出物の腫瘍増殖阻害効果の作用機構の検討
1.カワリハラタケ抽出物のT細胞を介した生理活性発現
ザルコーマ180(Sarcoma180)を移植したマウスに、上記カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションを経口投与したとき増殖抑制効果を認めている。図1に、その一例を示す。図1に示すグラフは、マウスに皮下移植したSarcoma180の腫瘍増殖曲線である。図中、横軸は、Sarcoma180を皮下移植した後の日数を、そして縦軸は、腫瘍のサイズ(容積)を示す。図中の参照番号1は、コントロール群、そして参照番号2〜5は、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションを投与した群の結果を示す。
【0046】
一般に、腫瘍増殖曲線を対数プロットで表したとき、化学療法剤で処理したときの曲線パターンは、投与開始と同時に腫瘍細胞の絶対数が顕著に減少し、その後、指数関数的に癌細胞の増殖が認められ、コントロール群とパラレルに増殖するのに対し、生体の免疫機構を介して癌抑制作用を示す物質で処理したときの曲線パターンは、投与開始から1〜2週間後に徐々に癌細胞の増殖が頭打ちの状態になることが知られている。図1に示される曲線パターンは、後者に属することから、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションは、生体に投与されたとき、免疫学的に様々な生体因子を媒介にして免疫が賦活され、腫瘍増殖作用が発現されていると考えられた。このことは、これら実験において、通常、副作用にともなう体重減少などの現象が認められないことなどからも支持された。
【0047】
そこで、本発明者らは、T細胞機能が欠損しているヌードマウスICR/JCL−nunuを用いて、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションを材料に、これらを経口投与し(ABMK−WWに換算して約100mg/kg/日相当)、上記と同様の活性試験を行った。図2にその結果を示す。図2のAがヌードマウスを用いたときの結果を、図2のBは正常マウスを用いたときの結果である。図のグラフにおいて、横軸はSarcoma180移植後の日数を示し、縦軸は腫瘍体積を示す。また、図中、四角はABMK−WLM(透析外液)を、三角はISY−16を投与した群の結果をそれぞれ示し、そして丸はコントロール群の結果を示す。なお、本明細書において、以下特に示さない限り、1つの実験群として6匹のマウスを使用した。この結果、図2のAに示されるように、ABMK−WLMと1SY−16とは、T細胞正常マウスを用いた場合(図2のB)の結果とは対照的に、全く増殖抑制効果を示さなかった。これらの結果から、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションは、Sarcoma180に対し、マウスのT細胞を介してその生理活性を発現し、腫瘍抑制作用を示すと考えられた。なお、表1および表2は、図2に示す実験において、各群のヌードマウスにおける腫瘍サイズの変動(表1)および35日目における腫瘍重量、腫瘍サイズ、阻害率(表2)をそれぞれ示す。また、図3は、各群のヌードマウスにおける腫瘍塊の比較を示す写真である。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
2.カワリハラタケ抽出物のNK細胞またはマクロファージ介した生理活性発現
さらに、生体防御を司る免疫機構に関与する細胞また因子のうち、NK細胞とマクロファージに着目し、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションの生理活性を調べた。NK細胞を選択的に除去することが知られる抗アシアロ抗体をマウス尾静脈法により投与したICR/JCLマウス、およびマクロファージに対し選択的に毒性作用を示す2−chloroadeosineを静注により投与したICR/JCLマウスに対し、上記1.と同様の活性試験を行った。結果を図4および図5に示す。
【0050】
図4は、抗アシアロ抗体で処理(図中アシアロGM1で示される)したマウスを用いた実験の結果を、そして図5は、2−chloroadeosineで処理したマウスを用いた実験の結果をそれぞれ示す。図4および図5に見られるように、抗アシアロ抗体処理したマウス、および2−chloroadeosineで処理したマウスにおける腫瘍体積は(図4において黒四角、白丸、白四角、白三角で示され、そして図5において黒丸、黒四角で示される)、抗アシアロ抗体および2−chloroadeosine処理せずにABMK−WLMを投与した群(図4および図5の黒三角で示される結果)と比較して顕著に大きかった。このことから、カワリハラタケの熱水抽出エキスまたはその分画フラクションは、Sarcoma180に対し、マウスのNK細胞およびマクロファージを介してその生理活性を発現し、腫瘍抑制作用を示すと考えられた。
【0051】
なお、図6は、図4に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍塊重量の比較を示す。また、図7は、図4に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍サイズの比較を示す写真である。なお、図において、マウスを抗アシアロ抗体処理したことは、アシアロGM1(図6)またはAnti−ASIALO GM1(図7)で示される。
【0052】
また、図8は、図5に示す実験において、各群のマウスにおける腫瘍重量およびサイズの比較を示す写真である。図において、2−chloroadeosineで処理したことは、2−クロロアデノシンで示される。
【0053】
図9は、図5に示す実験において、各群のマウスにおける35日目の腫瘍塊重量の比較を示す図である。
【0054】
図10は、図5に示す実験において、各群のマウスにおける35日目の腫瘍塊重容積の比較を示す図である。
【0055】
これらの図に示されるように、マウスに、カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクション、特に、1SY−16に強い腫瘍抑制作用が認められた。
【0056】
以上要約すると、MTT試薬を用いたマウス由来口腔癌細胞株:KB細胞に対する細胞傷害活性を測定したところ、カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションには、有意な細胞傷害活性は認められなかった(結果は示さず)。また、ICR/JCL−nunuマウス(先天的T細胞欠損マウス)を用いて移植したSarcoma180に対する腫瘍抑制効果を測定したところ、カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションの経口投与ではSarcoma180に対して全く腫瘍抑制効果を示さなかった。このことは、カワリハラタケの抽出物およびその分画フラクションの腫瘍増殖抑制効果にはT細胞を介した免疫学的機序が関与していることを示唆する。
【0057】
NK細胞およびマクロファージもまた、それぞれ、生体防御機構に関与する重要な細胞集団である。NK細胞を選択的に除去するために抗アシアロGM1抗体を、そしてマクロファージに対し選択的に毒性を示す薬剤2−chloroadenosineをそれぞれ静注したマウスを用いて、カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションの腫瘍増殖抑制効果を調べたところ、これら薬剤で処理していないマウスとは対照的に、腫瘍増殖が抑制されないことが観察された。これらのことから、カワリハラタケの抽出物およびその分画フラクションは、これらの細胞集団を活性化することで、生体の免疫を賦活していることが示唆された。カワリハラタケの熱水抽出物およびその分画フラクションが腫瘍細胞増殖抑制効果を示す作用機構として、マクロファージの活性化、T細胞を介する腫瘍増殖抑制経路、マクロファージが直接的エフェクター細胞として殺腫瘍作用を発揮する経路、NK細胞を介して様々な免疫担当細胞およびサイトカインの活性化による殺腫瘍作用を発揮する経路などのような癌細胞増殖抑制機構を通じて腫瘍増殖抑制効果を発現することなどが考えられる。
【0058】
(実施例3)カワリハラタケ抽出物の延命効果の検討
1.Sarcoma180を用いた試験
カワリハラタケの抽出物またはその分画フラクションのマウス宿主延命効果を検討するため、Sarcoma180細胞(1×106/マウス)を、雌性、5〜6週令のICR/JCLマウスの腹腔に移植し、その後、カワリハラタケの抽出物またはその分画フラクションを経口投与し(ABMK−WWとして100mg/kg/日:ゾンデにより投与)生存率を観察した。実施例2と同様に、蒸留水を投与した群をコントロール群とした。図11のAにその結果を示す。図において、横軸は腫瘍移植後のマウス宿主の延命日数を、そして縦軸は生存率をそれぞれ示す。
【0059】
図11のAに示されるように、コントロール群と比較してカワリハラタケの分画フラクションを投与した群では、約3日の延命効果が認められた。Sarcoma180細胞を皮下移植した場合にも同様の延命効果が認められた(結果は示さず)。
【0060】
図11のBは、カワリハラタケの分画フラクションを、ゾンデにより投与するのではなく、給水管の水に溶かして飲料としてマウスに自由摂取させることにより(ABMK−WWとして約10mg/kg/日相当)、図11のAに示される実験に準じて行った結果を示す。この実験では、コントロール群と比較してカワリハラタケの分画フラクションを投与した群では、約10日の延命効果が認められた。図12は、カワリハラタケの分画フラクションを自由摂取させたこの実験における各群のマウスにおける腫瘍塊サイズの推移を、そして図13は各群のマウスの体重の推移を示す。また、図14は、この実験における各群のマウスの飲料量を示す。図示されるように、各群のマウスにおいて飲料量はほぼ同じである。
【0061】
ゾンデ投与に比べ延命日数が多いのは、ゾンデ投与によるストレスが延命を縮めるように影響すると考えられた。
【0062】
2.Meth A fibrosarcomaを用いた試験
次に、異種細胞株であるMeth A フィブロザルコーマ(Meth A fibrosarcoma)を用い、上記1.と同様に延命効果を検討した。Meth A fibrosarcomaは、マウスに皮下接種した。図15にその結果を示す。図15に示されるように、カワリハラタケ抽出物投与群で約3日の延命効果が認められた。なお、図中、SENSEIROで示されるのは、AMBK−WWに相当するカワリハラタケ抽出物を投与した群の結果である。
【0063】
次に、マウスに皮下移植されたMeth A fibrosarcomaについても、上記1.のSarcoma180と同様に、カワリハラタケの抽出物またはその分画フラクションの腫瘍抑制作用をアッセイした。図16〜図18にその結果を示す。図16は、この実験における腫瘍塊容積の変動を、図17はマウス体重の変化を、そして図18は、実験35日目の各群のMeth A fibrosarcomaの腫瘍サイズの比較を示す写真である。図16〜図18に示されるように、Meth A fibrosarcomaについても、カワリハラタケの抽出物またはその分画フラクションは、対照群のマウスと比較して腫瘍の抑制効果(阻害率22〜60%)が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
生体における消化・吸収性により優れ、生体の免疫機構により生理活性を発現する、カワリハラタケ由来の低分子成分(または画分)、食品素材または薬品素材が提供される。現在、癌は、日本における死亡原因の1位を占める疾患であり、近年、癌と宿主の免疫反応との関係が明らかになるにつれ、宿主の免疫力を高めることで癌の増殖を抑え、最終的には、癌を退縮させる免疫療法が注目されている。宿主の免疫系を活性化する手段の1つにBRMs(biological response modifiers)と呼ばれる薬剤がある。これは、サイトカインなどを癌に対して特異的または非特異的免疫応答調節因子として関与させ、腫瘍と宿主との間の関係を変える薬剤と定義されている。本発明の組成物は、BRM製剤の1つとして用いることができる。また、本発明の組成物は、単独または化学療法剤との併用療法により、癌患者のQOLの向上、癌治療効果の増強などの用途に用いることができる。さらに、本発明の組成物は、副作用の少ない抗癌剤開発のための薬品素材としても用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物であって、カワリハラタケの熱水抽出物を含む、組成物。
【請求項2】
前記免疫機構が免疫担当細胞によって媒介される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記免疫担当細胞が、マクロファージ、T細胞およびキラー細胞からなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記免疫担当細胞がマクロファージである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記免疫担当細胞がT細胞である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記免疫担当細胞がキラー細胞である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記生理活性が腫瘍の抑制作用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記腫瘍が肉腫である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記肉腫がザルコーマ180である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記肉腫がMeth A フィブロザルコーマである、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記生理活性が延命作用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
薬学的に受容可能なキャリアをさらに包含する、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
粉末、液体、錠剤、カプセル、ペレットからなる群から選択される形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する方法であって、カワリハラタケの熱水抽出物を含む組成物を被験体に投与する工程を包含する方法。
【請求項15】
生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物の調製のためのカワリハラタケの熱水抽出物の使用。
【請求項1】
生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物であって、カワリハラタケの熱水抽出物を含む、組成物。
【請求項2】
前記免疫機構が免疫担当細胞によって媒介される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記免疫担当細胞が、マクロファージ、T細胞およびキラー細胞からなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記免疫担当細胞がマクロファージである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記免疫担当細胞がT細胞である、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記免疫担当細胞がキラー細胞である、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記生理活性が腫瘍の抑制作用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記腫瘍が肉腫である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記肉腫がザルコーマ180である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記肉腫がMeth A フィブロザルコーマである、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
前記生理活性が延命作用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
薬学的に受容可能なキャリアをさらに包含する、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
粉末、液体、錠剤、カプセル、ペレットからなる群から選択される形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する方法であって、カワリハラタケの熱水抽出物を含む組成物を被験体に投与する工程を包含する方法。
【請求項15】
生体の免疫機構を通じて生理活性を発現する組成物の調製のためのカワリハラタケの熱水抽出物の使用。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図3】
【図7】
【図8】
【図18】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図3】
【図7】
【図8】
【図18】
【国際公開番号】WO2005/027952
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514018(P2005−514018)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012957
【国際出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(305056799)株式会社S・S・I (1)
【出願人】(599092516)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/012957
【国際出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(305056799)株式会社S・S・I (1)
【出願人】(599092516)
【Fターム(参考)】
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