説明

生体の電気的インピーダンス断層像測定装置

【課題】性別と年齢と体型等の生体的特徴に応じて適切な電気的特性値の絶対値を得る。
【解決手段】各メッシュの電気的特性値を複数(n)に変化させて演算可能な3次元以上の数学モデルを作成する数学モデル作成手段34と、複数の生体特徴パラメータが異なる標準断層モデルが複数種類蓄積された断層モデルデータベース41から所望の生体特徴パラメータに対応する断層モデルを選択し、断層モデルに変更を施し、前記数学モデル作成手段34に供給して数学モデルを作成させる数学モデル変更手段44と、入力ペア電極と出力ペア電極とを具備し、数学モデルを用いて算出した、前記出力ペア電極にそれぞれ発生する複数(n)の第一の電位差(Dmodel)と、実測により得られた前記出力ペア電極に発生する第二の電位差(Dmean)と、に基づき、各画素における最適な電気的特性値を推定し決定し、これに基づき断層画像を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体断面における組織に関する電気的特性値を非侵襲で測定し表示する、生体の電気的インピーダンス断層像測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、EIT(Electrical Impedance Tomography)と称される電気インピーダンスCTが知られている。この装置は、生体表面に、例えば心電図用電極を水平かつ等間隔に8枚貼着し、微弱な定電流を加えることにより、体表面に生じる電位分布から生体内部の電気インピーダンスを求めて断層画像を得るものである。
【0003】
このEITは、電極を貼るだけであるから非侵襲で拘束性が少なく、装置が小型であり、可搬性があり、測定に特別な技術を要することがなく、リアルタイムの画像を得ることができ、長時間の測定が可能である等の利点を有する。
【0004】
近年においては、電気インピーダンスの絶対値を得るEITが開発されるに到っている。例えば、関心領域におけるインピーダンス分布を、数学モデルを用い、予測された境界電圧と実測された境界電圧の最小2乗誤差を生成して反復的な処理により収束させて電気インピーダンスの絶対値を得るものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記の従来例では、得られる電気インピーダンスの絶対値の精度は、使用する数学モデルの精度、すなわち、生体の外部形状、あるいは生体内部の臓器及びまたは組織の位置、大きさ、形状、の精度に左右される、という問題があった。
【0006】
図21は小児の胸部CT画像であり、図22は大人の胸部CT画像であり、小児では肺野に占める心臓の割合が大人に比べ大きいなどの明確な差異がある。また、図23に示す小児の胸部X線写真と図24に示す大人の胸部X線写真との比較から、小児は胸郭及び肺の大きさが大人に比べ明らかに小さいことが分かる。更に、図25は健常の小児の胸部CT画像であり、図26は心肥大の小児の胸部CT画像であるが、これから、年齢が近い場合においても臓器の位置や大きさや形状等の個体差は決して小さくないといえる。
【0007】
図28は、図21に示す胸部CT画像の小児被験者に対し、胸部CT画像合致する数学モデルを用いて胸部のEITを推定したEIT画像であり、これから、肺野領域および心臓領域がよく一致していることがわかる。これに対し、図27は、図22に示す大人の胸部CT画像から生成した大人の数学モデルを用いて、前記小児被験者の胸部EITを推定したEIT画像であり、図21のCT画像と比較して、肺野領域および心臓領域が明らかに異なっていることが分かる。このように、EITでは、計算に使用する数学モデルの大人と小児の差などの身体的差異が、推定精度に大きな影響を及ぼすため、特に局所的絶対値を算出するEITにおいては、被験者にそれぞれ合致した数学モデルを使用することが非常に重要である。
【0008】
しかしながら、高精度の3次元以上の数学モデルを作成するには、例えば、数mm以下のスライスのCT画像数百枚に対し、各断層像からそれぞれの臓器を抽出し、さらに上下の隣接する断層間において同一臓器の存在領域を考慮して3次元のメッシュを生成し、各メッシュに臓器毎に特有の代表的な電気的特性値を設定する必要がある。また、このとき、特定の臓器に割り当てられなかった領域にも、漏れなくメッシュを生成し、電気的特性値を設定しなければならない。しかしながら、現在の技術レベルにおいて、CT画像から全臓器を自動で抽出することは困難であるため、3次元以上の数学モデルの作成は人手に頼った、膨大な時間を要する作業とならざるを得ない。
【0009】
このような問題に対処するために、架空の被験者の所定の身長、年齢、性別等のような、架空の被験者と関連付けられる特徴に基づくデータベースから、被験者の特徴に基づき近似頭部モデルを選択するEITも知られている(特許文献2、特に0021欄)。このEITにおいては、選択された近似頭部モデルに基づきBarber-Brownの線形逆投影方法を用いて取得された電流流量マップを変更することができる。
【0010】
この方法を用いれば、データベースに事前に準備された標準モデルが豊富であればあるほど、理論的にはより該被験者に近いモデルを選択することが可能となるが、例えば、胸部の数学モデルを例に取ると、心臓の位置や大きさ、形状には少なからず個人差があり、さらに心肥大のような疾患を有する場合等も考慮すると、必要なデータベースは膨大となり、現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2003−534867号公報
【特許文献2】特表2006−502809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記のような生体の電気的インピーダンス断層像測定装置の現状に鑑みてなされたもので、その目的は、該患者の性別と年齢と体型等の生体特徴パラメータに合致した精緻な数学モデルを、臨床現場で実用可能な短時間で作成することを可能とし、実測値が求まると、これに対応する生体内部の電気的特性値の絶対値を一意に高精度で得ることができる、生体の電気的インピーダンス断層像測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置は、生体の臓器や組織の位置およびその電気的特性に基づき、前記生体断面を多数のメッシュに分割し、各メッシュの電気的特性値を複数(n)に変化させて演算可能な3次元以上の数学モデルを作成する数学モデル作成手段と、前記数学モデル作成手段により作成される数学モデルの基となる、複数の生体断面から構成される断層モデルであって、性別と年齢と体型の少なくとも一つを含む生体特徴パラメータが異なる標準断層モデルが複数種類蓄積された断層モデルデータベースと、断層モデルデータベースから所望の生体特徴パラメータに応じた断層モデルを選択して取り出し、断層モデルに変更を施し、前記数学モデル作成手段に供給して数学モデルを作成させる数学モデル変更手段と、定電流を印加するための入力ペア電極と電位差を検出するための出力ペア電極とを含む生体の表面の所定の位置を囲繞するように貼着された複数の電極と、前記入力ペア電極に定電流を印加する定電流印加手段とを具備し、前記数学モデル変更手段によって作成された新しい数学モデルを用いて算出された第一の電位差(Dmodel)と、実測により得られた前記出力ペア電極に発生する第二の電位差(Dmean)と、に基づき、各画素における最適な電気的特性値を推定し決定し、この各画素における最適な電気的特性値に基づき断層画像を表示することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置は、前記断層モデルの各断層においては、断層内に含まれる異なる複数の臓器及びまたは組織それぞれの領域が、優先順位を付された異なるレイヤーで管理され、各レイヤーを合成することで断層モデルの各断層が生成され、異なる臓器及びまたは組織の領域が重なり合う場合には、優先順位の高いレイヤーに属する臓器及びまたは組織が有効となるように、前記数学モデル変更手段により処理が行われる、ことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置では、前記断層モデルは、生体の特徴的パラメータとして、身長、胸囲、胸郭の縦横比の少なくともいずれかを更に備え、前記数学モデル変更手段は、選択して取り出した断層モデルを、前記生体特徴パラメータに応じて変形させる、ことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置は、前記数学モデル変更手段は、選択して取り出した断層モデルの任意の断層に対し、生体の外形、あるいは任意の臓器及びまたは組織の、位置及びまたは大きさ及びまたは形状、を調整する調整手段を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置では、前記調整手段は、断層モデルの任意の断層に対し施された変更に連動して、断層モデルの他の断層の生体の外形、あるいは臓器及びまたは組織の位置及びまたは大きさ及びまたは形状を変化させることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置では、前記数学モデル作成手段は、供された断層モデルを基に、臓器または組織それぞれの領域に対し、所定の分解能でメッシュを生成し、所望の電気的特性値を設定する、ことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置は、前記数学モデルに、実際の測定に使用する電極の、形状、サイズ、電気的特性値、を模擬する電極数学モデルを任意の位置に配置する、電極モデル生成配置手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置では、数学モデルの基となる、複数の生体断面から構成される断層モデルであって、性別と年齢と体型の少なくとも一つを含む生体特徴パラメータが異なる標準断層モデルが複数種類蓄積された断層モデルデータベースから、数学モデル変更手段により所望の生体特徴パラメータに応じた断層モデルを選択して取り出し、該被験者に合致するよう変更を施し、前記数学モデル作成手段に供給して新たな数学モデルを作成させるので、該被験者に合致した精緻な数学モデルを、臨床現場で実用可能な短時間で作成することができるとともに、より精度の良いEIT画像が得られる。
【0021】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置の断層モデルの各断層は、断層内に含まれる異なる複数の臓器及びまたは組織それぞれの領域が、優先順位を付された異なるレイヤーで管理され、各レイヤーを合成して生成される各断層において、異なる臓器及びまたは組織の領域が重なり合う場合には、優先順位の高いレイヤーに属する臓器を有効とする。そのため、数学モデル変更手段による断層モデルの任意の断層に対する胸囲及びまたは胸郭の縦横比の変更や、調整手段による生体の外形、あるいは任意の臓器及びまたは組織の、位置及びまたは大きさ及びまたは形状、の調整、により、該断層における臓器及びまたは組織の領域分けが変化したとき、連動して、他の断層の生体の外形、あるいは臓器及びまたは組織の、位置及びまたは大きさ及びまたは形状も、容易に変化させることができ、該被験者に合致した精緻な数学モデルの基となる断層モデルに効率的かつ迅速に変更することが可能である。さらに、身長に応じて、断層モデルの各断層間隔を伸縮させることで、断層モデルの精度を向上させることができる。
【0022】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置の前記断層モデルでは、該被験者に合致するように変更を施した後も、上下の隣接する断層間で同一臓器の存在領域が維持されているため、前記断層モデルが数学モデル作成手段に供され、3次元のメッシュが生成される際、各々の臓器及びまたは組織に対し生成するメッシュが、他の臓器及びまたは組織にオーバラップしたり、メッシュのない空白のエリアが存在したり、する状態が発生しない、言い換えれば、複数の電気的特性値が同時に存在したり、電気的特性値をもたない領域が存在したりして、Dmodel、ひいてはEITの計算が発散してしまう、等の問題が発生しない。
【0023】
本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置では、オペレータが該被験者のCT画像等の1枚の断層像を基に、臓器及びまたは組織の重なり合いなどを考慮することなく、断層モデルの任意の断層に対して所望の変更を行うと、連動して断層モデル全体に変更が反映されるため、該被験者に合致した精緻な数学モデルを熟練者でなくとも容易に短時間で作成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置の構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置におけるモデルデータベースの概念的構成を示す図。
【図3】本発明において、X線CT画像に基づき胸部数学モデルを作成する過程の組織分けした断面画像を示す図。
【図4】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置による数学モデル取り出し及び調整を説明するためのフローチャート。
【図5】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置が採用している断層モデルとレイヤーを示す模式図。
【図6】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置が採用している断層モデルにおいて、臓器が移動された場合の、レイヤーと断層モデルにおける処理を示す模式図。
【図7】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置が採用している断層モデルにおいて、臓器が移動された場合の、レイヤーと隣接する断層の断層モデルに対する反映処理を示す模式図。
【図8】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置が採用している断層モデルにおいて、臓器の大きさが変更された場合の、レイヤーと断層モデルにおける処理を示す模式図。
【図9】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置が採用している断層モデルにおいて、臓器の大きさが変更された場合の、レイヤーと隣接する断層の断層モデルに対する反映処理を示す模式図。
【図10】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置が採用している断層モデルにおいて、臓器の形状が変更された場合の、レイヤーと断層モデルにおける処理を示す模式図。
【図11】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置が採用している断層モデルにおいて、臓器の形状が変更された場合の、レイヤーと隣接する断層の断層モデルに対する反映処理を示す模式図。
【図12】本発明において、X線CT画像に基づき胸部数学モデルを作成する過程の電極配置のための断面画像を示す図。
【図13】本発明において、X線CT画像に基づき作成された胸部数学モデルを示す断面図。
【図14】本発明において、健常者モデルのシミュレーションにより得られた電位差の結果を示す図。
【図15】本発明において、健常者モデルのシミュレーションにより得られた電位差の結果を用いて作成した回帰曲線の一例を示す図。
【図16】本発明において、健常者モデルのシミュレーションにより得られた別の電位差の結果を用いて作成した回帰曲線の一例を示す図。
【図17】本発明において、健常者モデルのシミュレーションにより得られた電流密度分布の結果を示す図。
【図18】本発明における電極配置とスライスの関係を示す斜視図。
【図19】本発明に係る電気的インピーダンス断層像測定装置の動作を示すフローチャート。
【図20】本発明により肺野の1画素毎に最適な電気的特性値としての抵抗率を求める曲線を示す図。
【図21】小児の胸部CT画像。
【図22】大人の胸部CT画像。
【図23】小児の胸部X線写真の図。
【図24】大人の胸部X線写真の図。
【図25】健常の小児の胸部CT画像。
【図26】心肥大の小児の胸部CT画像。
【図27】大人の数学モデルを用いて、小児の胸部EITを推定したEIT画像の図。
【図28】小児の数学モデルを用いて、小児の胸部EITを推定したEIT画像の図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下添付図面を参照して、本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置の実施例を説明する。各図において、同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1には、本発明に係る生体の電気的インピーダンス断層像測定装置の実施形態を示す構成図が示されている。この装置は、電位差検出手段を構成する電極部10と電極制御部20を備え、電極制御部20がコンピュータシステム30に接続されている。
【0026】
コンピュータシステム30は、CPUや主記憶部及び外部記憶部などを含む本体部31と、本体部31に接続されたLEDなどにより構成される表示部32とキーボードやマウスなどにより構成される入力部33とを備えている。本体部31には、FEM(有限要素法)などの3次元以上の数学モデルを作成する数学モデル作成手段34としてのソフトウエアが備えられていると共に、断層モデルデータベース41が備えられている。
【0027】
断層モデルデータベース41には、数学モデル作成手段34により作成される数学モデルの基となる断層モデルであって、性別と年齢と体型の少なくとも一つが異なる複数の生体特徴パラメータにそれぞれ対応付けられた、複数の標準断層モデルが蓄積されている。例えば、断層モデルデータベース41は、図2に示されるように、男女の性別(生体特徴パラメータ)により区分され、更に男女それぞれが年齢(生体特徴パラメータ)により区分された複数の断層モデルが記憶されている。なお、標準断層モデルに対応する数学モデルを事前に生成して蓄積しておくことで、高精度EITを必要としない用途、あるいは該被験者に合致した精緻な数学モデルが生成されるまでの参照、として使用することも可能である。
【0028】
上記において示した生体特徴パラメータは一例に過ぎず、例えば身長、胸囲、胸郭の縦横比、などを生体特徴パラメータとすることもできる。上記の図2の例において、断層モデルを取り出す場合には、入力部33により性別、年齢、体型等からなる生体特徴パラメータを入力する。本体部31は、この生体特徴パラメータが入力されると、断層モデルデータベース41から当該生体特徴パラメータに対応する断層モデルを取り出し表示部32へ表示する。
【0029】
本実施形態では、本体部31に、数学モデル変更手段44、調整手段45が備えられている。調整手段45は、数学モデル変更手段44に備えられる。数学モデル変更手段44は、上記において取り出した一つの断層モデルの任意の断層を、入力部33に入力された、胸囲、胸郭の縦横比に応じて変形させ、同一断層モデルの隣接する断層にも順次、この変形を反映させる。さらに、数学モデル変更手段44は、入力部33により入力された、身長に応じて、断層モデルの各断層間隔を伸縮させる。
【0030】
本実施形態では、更に、調整手段45により、選択して取り出した断層モデルの任意の断層について、生体の外形、臓器及びまたは組織の位置や大きさ、形状が変更されると、同一断層モデルの隣接する断層にも順次、この変更を反映させる。
【0031】
生体の外形、臓器及びまたは組織の位置や大きさ、形状の変更は、それぞれ以下の手順で実施される。
【0032】
生体の外形の変形は、次の手順となる。まず、断層モデルの任意の断層が均質と見なしたときの重心位置と変形後の形状の重心位置を合わせ、重心位置から1〜10度程度の等角度で放射状に外形までの線分を引く。次に、各角度での重心位置から、生体の外形までの線分の比を算出し、その比に応じて、隣接する上下の断層を、順次伸縮させることにより、生体の外形を変更する。このとき、各断層に含有される臓器及びまたは組織も同様の方法で同時に伸縮させる。また、等角度間隔の間は直線補間、あるいはスプライン補間等を施す。
【0033】
臓器及びまたは組織の位置の変更は、次の手順となる。まず、断層モデルの任意の断層において、対象となる臓器または組織を選択し、移動させ、対象臓器または組織の元の重心位置と移動後の重心位置から、移動ベクトルを求めておく。このとき、対象臓器または組織の移動はレイヤーレベルで行われるため、対象臓器または組織の移動とレイヤーの優先順位により、合成された断層モデルでは、臓器及びまたは組織の領域分けが変化する。次に隣接する上下の断層でも、順次対象臓器または組織を同じベクトルだけ移動させ、断層モデルを再構築する。
【0034】
臓器及びまたは組織の大きさの変更は、次の手順となる。まず、断層モデルの任意の断層において、対象となる臓器または組織を選択し、その伸縮割合を指定する。対象臓器または組織の伸縮はレイヤーレベルで行われるため、対象臓器または組織の伸縮とレイヤーの優先順位により、合成された断層モデルでは、臓器及びまたは組織の領域分けが変化する。次に隣接する上下の断層でも、順次対象臓器または組織を同じ割合だけ伸縮させ、断層モデルを再構築する。
【0035】
臓器及びまたは組織の形状の変更は、次の手順となる。まず、断層モデルの任意の断層において、対象となる臓器または組織を選択し、変更後の形状を指定する。次に対象臓器または組織の変更後の形状の重心位置を、変更前の重心位置と合わせ、重心位置から1〜10度程度の等角度で放射状にそれぞれの外形までの線分を引き、各角度での線分の比を算出する。対象臓器または組織の形状の変更はレイヤーレベルで行われるため、対象臓器または組織の形状の変更とレイヤーの優先順位により、合成された断層モデルでは、臓器及びまたは組織の領域分けが変化する。隣接する上下の断層でも、順次対象臓器の重心位置から放射状の線分の比に応じて対象臓器または組織の外形を変形させ、断層モデルを再構築する。なお、等角度間隔の間は直線補間、あるいはスプライン補間等を施す。
【0036】
このような断層モデルに対する変更処理は、図4に示されるフローチャートにより本体部31によって行われる。前述の通り、生体特徴パラメータが入力されると、これを取り込み(S31)、該当の断層モデルを断層モデルデータベース41から取り出し、表示部32へ表示する(S32)。
【0037】
表示部32には図3のような断層モデルと該被験者のCT画像の代表断面がオペレータの選択により、並列あるいは重畳して表示され、オペレータはマウスにより生体の外形、臓器及びまたは組織の位置に変更を加える操作を行う。例えば、胸郭の一部をクリックして所望位置までドラッグしリリースするなどの操作による生体の外形の変更や、選択した所望の臓器、の拡大縮小ボタンによる大きさ変更、さらにはドラッグアンドドロップによる位置の変更、といった変更操作を実施する。臓器以外の組織である血管の位置や太さ、あるいは脂肪量(脂肪の厚さ)についても必要に応じ、マウスの操作により変更する。
【0038】
マウスによる操作を受けて調整手段45は、図4のフローチャートにおいて調整入力の検出状態(S33)から、当初の断層モデルを調整して変更調整された断層モデルの画像を表示部32に表示する(S34)。
【0039】
本実施形態においては、入力部33に備えられているマウスの操作による調整は、勿論、表示部32の画面にタッチパネルを設けたり、ペン入力による手法による方法で実施することも可能である。
【0040】
次に、数学モデル変更手段44及び調整手段45により、上記のように行われる処理の具体例を説明する。ここでは、説明を簡素化するために、断層モデルは、図5に示されるように、断層#1、断層#2、断層#3という、三つの断層により構成され、一つの断層は、レイヤーL1、L2、L3の3枚のレイヤーから構成されているものとする。図5の例では、断層#2について、レイヤーL1、L2、L3の3枚のレイヤーから構成されているものを示しているが、断層#1、断層#3についても同様に3枚のレイヤーから構成されている。
【0041】
図5では、レイヤーL1には心臓Aが設定され、レイヤーL2には右肺B、左肺Cが設定され、レイヤーL3には胸郭Dが設定される例を示している。レイヤーL1、L2、L3には、優先順位が設けられており、数学モデル変更手段44は、異なる臓器及びまたは組織の領域が重なり合う場合に、優先順位の高いレイヤーの臓器及びまたは組織が有効となるように処理を行う。このようにして変更が施された断層モデルの有効な臓器、組織に対して、数学モデル生成手段は、メッシュを生成し、各メッシュに電気的特性値を設定する。
【0042】
例えば、臓器Aを移動する場合として、断層#2においてオペレータの操作により心臓AがP1からP2に移動させられたとすると、数学モデル変更手段44及び調整手段45により、心臓AがP1からP2へ移動され、レイヤーL1、L2、L3の3枚のレイヤーが合成されて新たな断層#2aが作成される(図6)。心臓Aについて移動ベクトルが求められ、残りの断層モデルである断層#1、断層#3について対応する心臓Aが設定されているレイヤーへの反映処理(位置変更処理)が行われ、それぞれにおいて3枚のレイヤーが合成されて新たな断層#1a、#3aが作成される(図7)。
【0043】
また、例えば、臓器Aの大きさを変更する場合として、断層#2においてオペレータの操作により心臓Aのサイズが中央の楕円形状b1から外側の楕円形状b2に変更されたとする。数学モデル変更手段44及び調整手段45により、心臓Aが楕円形状b1から楕円形状b2へ変更され、レイヤーL1、L2、L3の3枚のレイヤーが合成されて新たな断層#2bが作成される(図8)。心臓Aについて楕円形状b1から楕円形状b2への変更に基づき伸縮割合が求められ、残りの断層モデルである断層#1、断層#3について対応する心臓Aが設定されているレイヤーへの反映処理(伸縮割合に基づく伸縮処理)が行われ、それぞれにおいて3枚のレイヤーが合成されて新たな断層#1b、#3bが作成される(図9)。
【0044】
更に、例えば、臓器Aの形状を変更する場合として、断層#2においてオペレータの操作により心臓Aの形状を中央の楕円形状c1から外側の形状c2に変更させられたとする。数学モデル変更手段44及び調整手段45により、心臓Aが形状c1から形状c2へ変更され、レイヤーL1、L2、L3の3枚のレイヤーが合成されて新たな断層#2cが作成される(図10)。この場合には、心臓Aの重心から等角度で1〜10程度の線分を引き、形状c1と形状c2について、心臓の外郭までの線分長の伸縮比を算出する。残りの断層モデルである断層#1、断層#3について対応する心臓Aが設定されているレイヤーへの反映処理(線分長の伸縮比に基づく伸縮処理)が行われ、それぞれにおいて3枚のレイヤーが合成されて新たな断層#1b、#3bが作成される(図11)。
【0045】
以上述べたステップS33とステップS34の処理が繰り返され、入力部33から断層モデルを決定する指示入力がある(S35)と、調整された断層モデルが数学モデル作成手段34へ送られる(S36)。
【0046】
数学モデル作成手段34は、図3に示すように組織ごとに領域分けされ、領域に組織番号が付された断層モデルを受け取る。数学モデル作成手段34は、各組織と番号及び抵抗率の対応関係を示す表1の内容を有するデータベースを備え、対応付けを行うことが可能である。
【0047】
【表1】

【0048】
次に数学モデル作成手段34は、上記断層モデルから3次元胸部数学モデルを作成し、図1の電極部10における電極11−1〜11−8を含む各電極(例えば、縦6.5mm、横5mm)を設定する。具体的には、図12に示すようにスライス画像に中心から等角度の8本線lを引き、生体表面に横5mmの電極をプロットし、例えば1.3 mmスライス幅のCT画像を所定枚数重ねることにより電極の縦の寸法に対応させる。このように本実施形態は、上記数学モデルに、実際の測定に使用する電極の、形状、サイズ、電気的特性値、を模擬する電極数学モデルを任意の位置に配置する、電極モデル生成配置手段を備える。
【0049】
一例として、要素数2,660,960、節点数527,571 を有する3次元胸部数学モデルの平面図を図13に示す。図13は、紙面に垂直な奥側が頭部であり、脊髄51の位置から明らかな通り、図13の上方が腹部側であり、下方が背中側である。主な臓器として、心臓52、右肺53、左肺54が示されている。なお、図13では、1スライス面に16個の電極が設定されているが、これは、正中切開患者のように電極位置を変えてEITデータを得る必要がある場合に備えたものである。
【0050】
次に、上記の構築された3次元胸部数学モデルについて第一の算出手段35を用いて電極11−1〜11−8のいずれかの入力ペア電極(例えば、11−1&11−2)に細胞壁を直進する高い周波数(例えば数MHz以上)の定電流を印加したときの、入力ペア電極とは異なる組み合わせの出力ペア電極(電極11−1〜11−8の組み合わせ)から出力される電位差を、肺野の抵抗率を変えてシミュレーションする。
【0051】
次に、入力ペア電極を別のペア(例えば、11−2&11−3)に変えて同様に電位差をシミュレーションする。以下同様に、電極11−1〜11−8のいずれかのペア全てについて、順次に入力ペア電極として、同様に電位差をシミュレーションする。他のスライスに電極11−1〜11−8以外の電極が配置されている場合についても同様にして電位差のシミュレーションを行う。
【0052】
肺野の抵抗率変化の一例として、肺抵抗率は個人差があるものの、通常、健常者の肺は5Ωm以上であり、肺炎の肺では3Ωm以下であることが多いことから、肺の抵抗率を5〜16.7Ωmの間において8段階(5、5.55、6.25、7.14、8.33、10、12.5、16.7Ωm)に変化させ、電極D1〜D8の入力ペア電極に1mAの定電流を印加したシミュレーションについて説明する。なお、実際のシミュレーションでは導電率を用いるため、上記抵抗率と導電率の換算表を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
図13の電極D1〜D8において、縦方向に入力ペア電極をとり、横方向に出力ペア電極をとり、肺の抵抗率を16.7Ωmとして出力ペア電極から得られた電位差を表にして示すと図14の通りになる。入力出力が同じペアによる検出は不正確となるので、0とする。また、出力ペア電極に入力ペア電極の一つを含む場合の電位差も不正確と思われる。
【0055】
以上の不適切と思われる場合を除いた電位差データは40通りとなるため、それぞれについて設定した8つの抵抗率(導電率)に対する8つの電位差から回帰曲線を算出し、実質、多段階に抵抗率を変化させた場合の電位差をシミュレートすることが可能である。
【0056】
一例として、電極D1,D2を入力ペア電極とし、電極D3,D4の出力ペア電極から得られる電位差によって作成される回帰曲線を図14に示す。また、電極D2,D3を入力ペア電極とし、電極D4,D5の出力ペア電極から得られる電位差によって作成される回帰曲線を図16に示す。それぞれの図に寄与率R2を示してあるが、いずれも0.99以上となり、高い相関が得られた。
【0057】
上述の回帰曲線を算出する代わりに抵抗率を細かく多段階に変化させて、図14のようなマトリクスを抵抗率毎(上記の例では8段階)に算出し、第一の算出手段35により対象組織に対して設定された抵抗率と出力ペア電極から検出される電位差との対応関係のデータベース36(図1)として構成してもよい。
【0058】
図17に、上記のシミュレーションにおいて得られた電流分布の例を示す。輝度の高い部分が電流密度の高い部分であり、電流が多く流れていることを示す。この図17において、左上部分において電流密度が高いのは電極D1,D2を入力ペア電極としているためである。また、肺は抵抗が高いために電流が多くは流れず、抵抗の低い心臓や肺の周囲に存在する血管や脂肪などに多くの電流が集中することが分かる。
【0059】
次に、測定手段22(図1)について説明する。電極部10には、例えば8個の電極11−1〜11−8が備えられ、生体の表面を囲繞するように貼着される。ここに、生体の表面は、目的に応じて、頭部、胴体、四肢等の所要部における表面とすることができるが、ここでは胸部を対象とし、呼吸による肺の状態変化の測定を例示する。電極11−1〜11−8は、生体に等間隔に生体に貼着される。電極11−1〜11−8は、図18に示されるように複数スライスに配置しても良い。
【0060】
電極11−1〜11−8を含む各電極は、リード線を介して電極制御部20に接続されている。電極制御部はリード線を介さず各電極上に直接配置してもよい。電極制御部20は、定電流印加手段21と測定手段22とを含み、印加される定電流は細胞壁を直進する高い周波数(例えば数MHz以上)が望ましいが、数10kHz〜200、300kHz程度であってもよい。定電流印加手段21と測定手段22とは、同じクロックを与えられて同期して動作する。
【0061】
定電流印加手段21は、図1の例に示した電極11−1〜11−8を含むスライス面を例にすると、電極11−1〜11−8のいずれかの入力ペア電極(例えば、11−1&11−2)に電流を印加する。
【0062】
測定手段22は、このとき各電極11−1〜11−8の隣り合ういずれかの出力ペア電極(電極11−1〜11−8の組み合わせ)から出力される電位差を順次取り込み、ディジタル化してコンピュータシステム30へ送る。このとき出力ペア電極は8通りあるが、入力ペア電極の片方あるいは両方が含まれる出力ペア電極(11−1&11−2、11−1&11−8、11−2&11−3)による検出は不正確となるので、採用しない。
【0063】
次に、入力ペア電極を異なるペア(例えば、11−2&11−3)に変えて同様に電位差を求める。以下同様に、電極11−1〜11−8の任意のうち、あらかじめ設定されたペアを入力ペア電極とし、前述の手順で出力ペア電極の電位差を測定する。このようにして得られた実測の電位差マトリックスをDmeanとする。電極11−1〜11−8以外の電極により測定されるスライスについても同様に電位差測定を行う。
【0064】
ここで、定電流印加手段21に印加する定電流の周波数は、1MHzを超えるような高周波の定電流を直接印加する代りに、複数の低い周波数の定電流を印加し、補正手段43により高周波の定電流を印加したときに観測される電位差に補正することも可能である。補正手段43は、複数の低い周波数の定電流をスィープさせ、測定された電位差を平面上にプロットし、得られる曲線からCole−Cole方程式に基づき、高い周波数での周波数での電位差を推定する、ものである。
【0065】
第二の算出手段37は、測定した電位差からDmeanと、データベース36に記憶されているシミュレート結果である複数(n)の抵抗率に対する電位差マトリックスDmodel(n)と、感度理論の基づく感度マトリックス(sensitivity matrix)あるいはヤコビアン(Jacobian matrix)として知られる重み付けの補正係数を用い、各画素に対する抵抗率等の電気的特性値を複数(n)算出する。ここで、感度マトリックス等の補正係数は公知の手法により算出し、データベース36として記憶しておくことができる。また、nは、設定した肺抵抗率の数であり、本例では表3などに示すように8種としたが、0.2Ωm刻みで300種、などを事前に計算しておき、データベース36としてもよい。
【0066】
近年EITで広く採用されている感度マトリクスを用いた場合、Dmeanの各要素とDmodelの各要素で除算により比較し、さらに各要素の重み付けをするために感度マトリクスを乗算して補正した値EIT(n)を画素毎に算出することができる。
【0067】
各画素について、DmeanとDmodel(n)に差がない状態のn、すなわち変化率がゼロとなるnのときが最終的に求めたい抵抗率であるので、理想的には感度マトリクスを乗算して補正したEIT(n)がゼロとなるnのときが最終的に求めたい抵抗率である。決定手段38は反復計算によりEIT(n)がゼロに収束するときを最終的に求めたい抵抗率に決定することもできるし、nを離散的に設定し、EIT(n)の絶対値、あるいは図20のように変化する[EIT(n)]2が最小となるnのときを最終的に求めたい抵抗率(図20では、最適値)に決定することもできる。他のスライスがある場合は他のスライスについても同様の処理を行う。ここまで説明した第二の算出手段37と決定手段38により、最適な電気的特性値としての抵抗率を求めるために実行された処理を最適電気的特性値の決定処理と呼ぶこととする。
【0068】
断層画像表示制御手段39は、このようにして推定された各画素の最適電気的特性値を、あらかじめ設定された電気的特性値に応じた色を用いて、リアルタイムで表示する。ここで、最適電気的特性値は絶対的な値であるため、例えば、肺野の各画素の最適電気的特性値は、対応する肺野の局所的なガス量に一対一で対応する。すなわち、断層画像表示制御手段によって表示される同一部位の断層画像は、肺野の局所的なガス量等の状態を、同じ基準で客観的に判断することが可能である。
【0069】
領域選択手段42は、断層画像表示制御手段39によって生成された断層画像から、所定の領域を選択する領域選択手段を備える。すなわち、肺を対象組織とした場合、肺全体、右肺、左肺、右前、右後、左前、左後、画素単位等、適宜所望の領域を選択し、選択領域に対応する数学モデル作成手段34のメッシュの電気的特性値をnよりも多く変化させ、最終的に、複数(n)以上の電気的特性値から各画素における最適な電気的特性値を推定し決定することにより、所定の領域における電気的特性値をより正確に推定することが可能となる。
【0070】
以上の説明をまとめると、本実施形態に係る電気的インピーダンス断層像測定装置は、図19のフローチャートに示すように動作する。即ち、図2〜図11を用いて説明した如く、断層モデルを選択して調整を行い、生体の数学モデルを作成し(S11)、その数学モデルに対し電極を設置し(S12)、対象臓器内において領域の選択がされているかを検出し(S19B)、当初は選択されないので、NOへ分岐して、対象臓器の電気的特性値をn通りに設定する(S13)。
【0071】
次に、n通りの電気的特性値に対し、入力ペア電極を決めて出力ペア電極から電位差を検出し、入力ペア電極を順次シフトして全ての隣り合う電極ペアを入力ペア電極としたシミュレーションを実行する(S14)。シミュレーションの結果を用いて電極間電位差と電気的特性値変化の関係を示す図14のような電位差マトリクスDmodel(n)を求める(S15)。これは前述の通り、データベース36に記憶されてもよい。
【0072】
ステップS15に続いて、電極部10と電極制御部20を用いて電位差を実測し、電位差マトリクスDmeanを得る(S16)。ここで、実測時に印加された定電流の周波数が低い場合、Cole−Cole方程式により、実際に用いた定電流よりも高い周波数で印加した場合に得られる電気的特性値に補正する(S16A)。このようにして得られたシミュレート結果の電位差マトリクスDmodel(n)と実測の電位差マトリクスDmeanを比較し、感度マトリクスS(n)などで知られる重み付け係数を乗算して補正することにより各画素のEIT(n)を算出する(S17)。
【0073】
更に、各画素について、EIT(n)の絶対値、あるいは[EIT(n)]2(図20)が最小となるnのとき、すなわち、DmeanとDmodel(n)に差がない状態のnでの電気的特性値を求め、絶対的な最適電気的特性値を決定し、あらかじめ設定された電気的特性値に応じた色を用いて、リアルタイムで断層像として表示する(S19)。なお、生成された断層画像から、所定の領域を選択することにより、各画素における最適な電気的特性値をより正確に推定することが可能となる。
【0074】
ステップS19に続いて、オペレータが終了を選択したかを検出し(S19A)、NOとなるとステップS19Bへ戻る。ステップS19Bにおいて、生成された断層画像の対象臓器内において領域を選択したことが検出されると、今度は、S19BにおいてYESへ分岐することになり、選択領域を詳細に測定するため、対象臓器の電気的特性値を複数(n)、選択領域の電気的特性値を複数(n)以上、にそれぞれ設定し(S13B)、ステップS14へ進んでそれ以降の処理を行う。ステップS19AにおいてYESへ分岐した場合には、終了となる。
【0075】
本実施形態では、絶対的な最適電気的特性値を決定し、あらかじめ設定された電気的特性値に応じた色を用いて、リアルタイムで断層像を表示する。この前提として、数学モデル変更手段44が、複数の生体特徴パラメータが異なる標準断層モデルが複数種類蓄積された断層モデルデータベース41から所望の生体特徴パラメータに応じた標準断層モデルを選択して取り出し、標準断層モデルに変更を施し、前記数学モデル作成手段34に供給して数学モデルを作成させている。例えば、数学モデル変更手段44により処理された小児の数学モデルを用いて小児の胸部のEITを推定したEIT画像(図28)では、胸部CT画像(図21)と肺野領域および心臓領域がよく一致している。これに対し、大人の数学モデルを用いて、小児のEITを推定するという従来手法を用いると、得られるEIT画像は、図27のようになり、図21のCT画像と比べて、肺野領域、心臓領域ともに明らかに異なっており、被験者に合致した数学モデルを使用する本実施形態が優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0076】
10 電極部
11−1〜11−8 電極
20 電極制御部
21 定電流印加手段
22 測定手段
30 コンピュータシステム
31 本体部
32 表示部
33 入力部
34 数学モデル作成手段
35 推定手段
36 データベース
37 算出手段
38 決定手段
39 断層画像表示制御手段
41 断層モデルデータベース
42 領域選択手段
43 補正手段
44 数学モデル変更手段
45 調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の臓器や組織の位置およびその電気的特性に基づき、前記生体断面を多数のメッシュに分割し、各メッシュの電気的特性値を複数(n)に変化させて演算可能な3次元以上の数学モデルを作成する数学モデル作成手段と、
前記数学モデル作成手段により作成される数学モデルの基となる、複数の生体断面から構成される断層モデルであって、性別と年齢と体型の少なくとも一つを含む生体特徴パラメータが異なる標準断層モデルが複数種類蓄積された断層モデルデータベースと、
断層モデルデータベースから所望の生体特徴パラメータに応じた断層モデルを選択して取り出し、断層モデルに変更を施し、前記数学モデル作成手段に供給して数学モデルを作成させる数学モデル変更手段と、
定電流を印加するための入力ペア電極と
電位差を検出するための出力ペア電極と
を含む生体の表面の所定の位置を囲繞するように貼着された複数の電極と、
前記入力ペア電極に定電流を印加する定電流印加手段と
を具備し、
前記数学モデル変更手段によって作成された新しい数学モデルを用いて算出された第一の電位差(Dmodel)と、実測により得られた前記出力ペア電極に発生する第二の電位差(Dmean)と、に基づき、各画素における最適な電気的特性値を推定し決定し、この各画素における最適な電気的特性値に基づき断層画像を表示することを特徴とする生体の電気的インピーダンス断層像測定装置。
【請求項2】
前記断層モデルの各断層においては、断層内に含まれる異なる複数の臓器及びまたは組織それぞれの領域が、優先順位を付された異なるレイヤーで管理され、各レイヤーを合成することで断層モデルの各断層が生成され、異なる臓器及びまたは組織の領域が重なり合う場合には、優先順位の高いレイヤーに属する臓器または組織が有効となるように、前記数学モデル変更手段により処理が行われる、
ことを特徴とする請求項1に記載の生体の電気的インピーダンス断層像測定装置。
【請求項3】
前記断層モデルは、生体の特徴的パラメータとして、身長、胸囲、胸郭の縦横比の少なくともいずれかを更に備え、前記数学モデル変更手段は、選択して取り出した断層モデルを、前記生体特徴パラメータに応じて変形させる、ことを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の生体の電気的インピーダンス断層像測定装置。
【請求項4】
前記数学モデル変更手段は、選択して取り出した断層モデルの任意の断層に対し、生体の外形、あるいは任意の臓器及びまたは組織の、位置及びまたは大きさ及びまたは形状、を調整する調整手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の生体の電気的インピーダンス断層像測定装置。
【請求項5】
前記調整手段は、断層モデルの任意の断層に対し施された変更に連動して、断層モデルの他の断層の生体の外形、あるいは臓器及びまたは組織の位置及びまたは大きさ及びまたは形状を変化させることを特徴とする請求項4に記載の生体の電気的インピーダンス断層像測定装置。
【請求項6】
前記数学モデル作成手段は、供された断層モデルを基に、臓器または組織それぞれの領域に対し、所定の分解能でメッシュを生成し、所望の電気的特性値を設定する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の生体の電気的インピーダンス断層像測定装置。
【請求項7】
前記数学モデルに、実際の測定に使用する電極の、形状、サイズ、電気的特性値、を模擬する電極数学モデルを任意の位置に配置する、電極モデル生成配置手段を備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の生体の電気的インピーダンス断層像測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図17】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−90880(P2012−90880A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242396(P2010−242396)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】