説明

生体サンプルの細菌検査方法および関連機器

本願の生体サンプルの細菌検査方法により、生体サンプルが播種された液体培地または発育良好の培地から形成された懸濁液のマクファーランド濁度標準に従って、光散乱測定を実行し濁度を決定することができる。また、この方法においては、マクファーランド濁度標準に従って表示される所定の濁度閾値が達成されるまで、細菌の増殖ステップ中に分析されるサンプルの懸濁液から連続的・直接的に濁度が測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル中の細菌量を同定し、その治療に最も有効な抗生物質を選択する目的で行う生体サンプルの細菌検査方法および関連機器に関する。分析用サンプルとしては、例えば、尿、気管支の吸引物、血液、希釈血液等が考えられる。
【背景技術】
【0002】
現在の国際ガイドラインによれば、抗生物質に対するインビトロ感受性試験(アンチバイオグラム)により、最適化された濃度(ブレイクポイント)または抗生物質のスカラー希釈(MIC)に対して、試験用の標準化細菌懸濁液を設定できることが知られている。
【0003】
分析される細菌数は、このような試験で採用される方法の感受性にかかわりなく標準化される必要がある。
【0004】
播種材料(inoculum)の調製は、あらゆる感受性試験またはアンチバイオグラムの最も重要な工程の一つである。播種材料は、阻害面積のサイズに著しい影響を与える。
【0005】
播種材料によっては、分析する細菌が少なすぎる場合、偽感受性結果が得られる可能性がある。一方で、分析する細菌が多すぎることでも、誤った耐性結果が得られることもある。
【0006】
ほとんどの微生物にとって、使用する播種材料は、一夜培養後に、半密集(semi−confluent)コロニーに成長させる必要がある。不適当な播種材料(密集コロニーまたは分離成長したコロニー)は容易に識別できるため、これらの試験は繰り返し行う必要がある。
【0007】
半密集成長が得られるまでは、適切な播種材料の調製は重要ではない。
【0008】
播種材料は、一般に、形態が類似しているコロニーのうち4〜5個の分離コロニーを細胞培地に添加した後、対数増殖期にコロニーを成長させることにより調製される。
【0009】
単一コロニーではなく、4〜5個のコロニーから選択し、感受性変異株に由来する可能性のあるコロニーを分析するリスクを最小限に抑える。
【0010】
また、寒天培地で一晩成長させたコロニーを培養基または食塩水に直接懸濁することにより、播種材料を直接調製することもできる。この懸濁液を用いた播種材料の直接調製法は、培地内でどのように成長するか予測できない細菌(例えば、いわゆる難培養性(fastidious)細菌)に好適である。
【0011】
播種材料培地における増殖は信頼性が低いため、新鮮なカラムを用いることが不可欠である(16〜24時間の培養)。
【0012】
播種(inoculation)方法の選択は、主に、実施上の観点から条件付けられるが、既定の濁度標準または同等のラテックス(latex)で微生物の懸濁液の密度を比較したり、光度測定を行う等、特定の標準化方法を採用すれば結果は改善される。
【0013】
特に、最も広く用いられている、播種材料の標準化方法では、マクファーランド濁度標準が使用される。マクファーランド濁度標準は、細菌数が特定範囲内となるように細菌懸濁液の濁度を調整する基準として、微生物学で通常使用されている。
【0014】
マクファーランド標準(0.5、1、2、3、4)は、特定の光学濃度を有する硫酸バリウム溶液を得るために、特定量の硫酸または塩化バリウム二水和物を添加することにより調製される。
【0015】
最も一般的に使用される標準は、0.5マクファーランド標準であり、これは、99.5mLの1%硫酸を0.5mLの1.175%塩化バリウム二水和物に添加し、継続的に攪拌することで調製される。この溶液を播種材料の調製に使用するのと同様の試験管内に分注する。なお、この試験管は、スクリュー式のストッパーで蓋をして、室温で暗所に置く。
【0016】
0.5マクファーランド標準は、無菌食塩水または増殖培地中、約1.5×10CFU/mlを含有する細菌懸濁液の濁度と、目視で比較可能な標準を提供する。
【0017】
播種された培地(または微生物を含有する直接懸濁液)を含む分析用の試験管を攪拌する。
【0018】
その後、適切な照明を用いて、この試験管を、黒色の対照線を有する白色の背景上で0.5マクファーランド標準に隣接させ、懸濁液を通して黒色線を観察し、双方の濁度を比較する。
【0019】
懸濁液が濃すぎる場合には、0.5マクファーランド標準を通して観察するよりも、黒色線を観察しにくくなる。この場合、無菌の培地または食塩水を追加して、播種材料を希釈する。
【0020】
逆に、試験懸濁液が「薄すぎる」場合、懸濁液の濁度がマクファーランド標準に達するまで微生物を追加するか、あるいは懸濁液を再び培養させる(播種材料の調製プロトコールに従って)。
【0021】
一旦標準化されたら、播種材料の懸濁液は、調製後15分以内に使用する必要がある。
【0022】
最近では、硫酸バリウムのより簡単で安定した代替として、ラテックス粒子の懸濁液を使用して、マクファーランド標準の濁度に相当する濁度を得ることもある。
【0023】
また、分光光度計や比濁計により標準化を行うこともできる。この方法は、マクファーランド標準と対比させる場合、目視による調整よりもより適切かつ正確である。
【0024】
この場合、可視的な濁度を有する懸濁液となるように、コロニーをガラス製の試験管内で蒸留水に懸濁する。
【0025】
無菌水または培地(懸濁液にも用いるもの)を用いて、分光光度計を500nmでゼロに設定する。
【0026】
その後、細菌懸濁液の吸光度を測定し、対照表から、5mlの無菌蒸留水に添加すべき量を選択し、適切なマイクロピペットを用いて所定量を移す。
【0027】
この方法は、採用する分光光度計の種類に依存し、試験管の種類やサイズの異なるキュベットを選択することにも依存するように、機種ごとに異なる可能性がある。
【0028】
したがって、密集成長を得るには、いかなる場合も各研究室の機器に応じた希釈を行うことが必要である。
【0029】
上述のように、比濁計も使用可能であるが、微生物のグループごとにキャリブレートする必要がある。
【0030】
したがって、播種材料を調製し0.5マクファーランド標準を用いて比較する既知の方法は多くの作業を伴い、所望の最終データを得るうえで誤差や遅延なしにはすまされない。
【0031】
上記から、抗生物質による治療を迅速に始めなくてはならない患者の場合、最先端の既知の解決法は、正確なデータを迅速に提供するには有効ではないことが明らかである。
【0032】
このために、ときには、患者に有効な治療を開始するのに迅速さを欠く結果となり、患者の健康に重篤な危険をもたらすことになる。
【0033】
したがって、医師は、一般に、診断検査の裏付けなしに臨床上の疑いのみに従って、予め患者に対して広範な抗生物質を投与し、直ちに治療を開始する。こうした抗生物質の広範囲な使用により、いわゆる薬剤耐性の現象が引き起こされる。
【0034】
既知技術である米国特許出願US−A−2005/0254055(US’055)では、光散乱法を用いてリアルタイムかつインラインで、細胞増殖および細菌濃度をモニタリングする方法を開示している。該出願US’055は、開始時点で既知の微生物の増殖を制御することを目的とし、細菌の有無やあるいはその種類を同定することは目的としていない。この出願US’055は、特に中型インキュベーターや生物反応槽が想定されており、本件のような細菌学的分析からは非常にかけ離れているだけでなく、分析するサンプルの容器内での攪拌や混合に由来する気泡の存在という問題に悩まされることになる。つまり、気泡があると光散乱の測定が困難になる。
【0035】
本発明の目的は、細菌の検査方法を完成させ、関連機器を得ることである。これにより、アンチバイオグラム操作に着手する際に必要とされる時間を短縮でき、薬剤耐性を引き起こす危険性を判断することなく、患者への治療的介入の開始を早めることができるようになる。
【0036】
本出願人は、最新技術の問題点を克服し、これらの目的・利点と他の目的および利点を得るために、本発明を考案し試験を行って具体化した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本発明は、独立の請求項に記載されその特徴が明らかにされている。一方、従属請求項には、本発明の他の特徴または発明の主な態様の改良について記載されている。
【0038】
上記の目的に従って、本発明に係わる生体サンプルの細菌の検査方法により、液体培地または発育が良好な培地の懸濁液のマクファーランド標準により濁度を決定するために、光散乱測定を実行することができる。これらの培地には、生体サンプルが播種され、マクファーランド標準に従って示される既定の濁度閾値に到達するまで、分析サンプルの懸濁液を用いて、細菌の増殖中に継続的かつ直接的に濁度が測定される。
【0039】
本発明の重要な態様によれば、細菌の増殖または培養開始から微積分により達成されてきたものとして、マクファーランド濁度閾値を検出する。したがって、本発明により、濁度の変化率に対応してマクファーランド濁度閾値が達成されたとの通知(notice)が出される。この濁度の変化率は、実質的に、複製期中に継続的に測定された最終の濁度と初期の濁度との差異を算出した値により与えられる。これには利点があり、例えば、US’055と比較して、所望のマクファーランド濁度閾値への到達は、絶対濁度とは独立していることなどが挙げられる。
【0040】
好適な実施形態によれば、本発明に係わる方法は、少なくとも部分的に電磁放射線に透過的な包含要素に含有された液体培養基に播種した生体サンプルの懸濁液における細菌増殖を確認する第一の工程を含む。
【0041】
細菌増殖と同時に、コヒーレントで平行な光線(レーザー)が包含要素に当てられ、時間の経過に伴って懸濁液により屈折あるいは拡散(光散乱)された光の量が検出される。
【0042】
検出は、包含要素に対して互いに異なる第一および第二の角度位置に対応して行われ、第一および第二の角度位置にそれぞれ関わり、細菌懸濁液の濁度の経時的変化を示す第一および第二の曲線を規定することになる。
【0043】
また、本発明に係わる方法は、それぞれ、第一の角度位置に応じて検出された前記第一の曲線と第一の工程の開始時の濁度の瞬時値との差異、および第二の角度位置に応じて検出された前記第二の曲線と第二の工程の開始時の濁度の瞬時値との差異により与えられる2つの微分曲線が規定される第二の工程を含む。
【0044】
その後、この方法は、第一の分類データと比較される2つの微分曲線の変化から、細菌増殖が起きているサンプル中に存在する細菌のタイプ、またはその細菌が属するファミリーや株や種を推定する第三の工程を提供する。
【0045】
また、この方法では、2つの微分曲線の変化と、それに対応しマクファーランド標準に参照される濁度値の変化率との依存に関して予め記憶される第二のデータに応じて、2つの微分曲線と、それに対応し前記の濁度閾値を定義するマクファーランド標準に参照される濁度値の変化率との相互関係を比較する第四の工程も提供される。第二の依存性データは、その細菌が属する各ファミリーや株や種について定義され分類される。
【0046】
本発明の一実施形態では、細菌の有無と分類を決めるために、サンプルを通過するコヒーレント光またはレーザーの放出および相対的な拡散光の受容を行う特定の測定ユニットを採用している。
【0047】
有利には、測定ユニットは、マクファーランド濁度閾値に到達したときに、例えば、音響的に、図形的に、あるいは視覚的に、シグナルを発信することができる。
【0048】
本発明に係わる方法は、試験管やマイクロピットなどのガラス製やプラスチック製容器などを用いたマクファーランド濁度の検出に採用することも可能である。
【0049】
本発明は、レーザー光散乱測定システムを用いる分析装置とともに自動化できる。
【0050】
本発明の有利な特徴は、既知濃度のラテックス粒子の懸濁液を用いて、マクファーランド濁度の測定を行う自動定量により、測定ユニットによる正確な測定を制御することができる点である。
【0051】
本発明を用いれば、アンチバイオグラムを開始するのに必要な時間を削減でき、薬剤耐性を引き起こすリスクを判断することなく、患者への治療的介入を迅速化できるようになる。
【0052】
このようにして、前述してきた工程により、臨床のアンチバイオグラム(すなわち、増殖培地から直接行える抗生物質のテスト)を開始するのに最適な濁度を有する陽性試料が入手できる。
【0053】
この利点により、臨床医に、テストされる第一の抗生物質の機能性の結果(耐性または感受性)を提供することができ、感受性がある場合には、正しい抗生物質を投与して患者を治療し、またはテスト結果が耐性を示した場合には、抗生物質を変更することができる。
【0054】
したがって、本発明は、臨床型のアンチバイオグラム、すなわち、細菌増殖に対して陽性であることが証明された試験用の生体サンプルが播種された増殖培地において直接行うアンチバイオグラムの実行を可能にする。
【0055】
さらに、本発明は、所望のマクファーランド値(例えば、0.5標準)を達成するのに、最新技術で行われるような濃縮サンプルの希釈による方法よりも遙かに正確である。これは、低い数値から開始して細菌増殖中に操作すると、正確な濁度値を得るのにより信頼性が高くなるためである。
【0056】
本発明で必要とされる分析時間は、最新式の方法で必要とされる時間よりも遙かに短い。検出の迅速性は光散乱に基づく測定のおかげで可能となる。光散乱は、濁度の直接検出とその結果得られる生体の濃度により、短時間でサンプル中の細菌増殖の有無を確認するのに、非常に迅速でより感受性が高い方法である。
【0057】
本発明は、このように、既知の方法と比較して、少なからぬ時間の節約をしながら正確で信頼性の高い結果を提供することができ、しかも、既存の機械や機器を用いることも可能である。
【0058】
言い換えると、この方法により、古典的な血液培養法と比較すると著しく短縮された時間内にすべての陽性結果を同定することが可能となる。
【0059】
これは、アンチバイオグラムを行う平均時間を著しく短縮させ、治療および患者の管理に明らかな利点をもたらす。
【0060】
自動化が可能な本発明に係わる方法では、測定ステップやデータ処理、結果の表示などを自動化することで、限定的なマニュアル操作が必要とされるのみである。
【0061】
好ましくは、米国出願のUS’055とは異なり、本発明では、汚染物質の増殖を防ぐために真空密封され加熱オートクレーブ処理されたサンプル容器を使用する。
【0062】
さらに、本発明では、細菌コロニーの希釈工程を回避し、米国出願のUS’055では常に影響を及ぼしていたものの本発明では不要となる混合・攪拌工程中に発生する気泡の問題を除外した動的測定が可能である。
【0063】
本発明に係わる方法の改良型では、ゼロ未満の時間について、継続的に測定された濁度値から成長曲線を推定させ、分析開始前に複製した微生物の濁度の貢献も考慮するように、微積分により、推定された前記曲線の最小値に対して、前記マクファーランド濁度閾値が達成されたことを検知させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本発明のこれらの特徴は、添付の図面を参照し非限定的な例として挙げられる、以下の好適な実施形態の記載から明らかとなる。
【図1】図1は、本発明に係わる機器の略図である。
【図2】図2は、2つのセンサーS1、S2で検出された、拡散された光の量(V1(t)、V2(t))の時間(t)に対する変化のグラフである。
【図3】図3は、2つのセンサーS1、S2で検出された、拡散された光の量(V1(t)、V2(t))の初期の値(V1(0)、V2(0))に対する変化率(Δ1(t)、Δ2(t))の時間(t)に対する変化のグラフである。
【図4】図4は、図3の曲線Δ1(t)、Δ2(t)に基づく、マクファーランド濁度δ(t)の検出方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
添付の図面に示す本発明に係わる方法は、レーザー光散乱法により、所定のマクファーランド濁度(ここでは0.5)を有する、液体培養基または発育が良好な培地に懸濁した生体サンプルの調製に使用される。
【0066】
この方法では、電磁放射線に透過性のある包含要素または試験管16を使用するための装置10(図1)を使用する。試験管16内で、発育が良好な培地に播種された生体サンプルの懸濁液中の細菌が増殖される。有利には、試験管16は、閉鎖され、真空密封され、加熱オートクレーブ処理された状態で提供される。
【0067】
装置10は、測定ユニット11および、コンピュータなどの処理手段26を含む。測定ユニット11により、試験管16内に含まれるサンプルの懸濁液により拡散された光を検出し、処理手段26により、測定ユニット11が受信したシグナルを分析のために処理する。
【0068】
本発明により、サンプルの培養テストを行って、既定の細菌株について陽性であることを確認し、陽性の場合は、所望の濁度に調製されていれば、臨床のアンチバイオグラム試験のその後の工程にそのまま使用して、抗生物質に対するインビトロ感受性の評価を行う。
【0069】
図1に示す測定ユニット11による試験管中のサンプルのマクファーランド濁度の測定は、分析工程中に(つまり、分析サンプル中の細菌量を同定するための培養テスト中の細菌増殖工程と同時に)直接測定されるレーザー発光とレーザー光散乱の測定値に基づく。
【0070】
特に、測定ユニット11には、試験管16上で、コヒーレント平行光線または偏光(レーザー)平行光線14を衝突させるエミッタ手段12が具備される。
【0071】
さらに、測定ユニットは、第一のセンサー手段18および第二のセンサー手段20を含む。これらのセンサー手段により、懸濁液に拡散または屈折された光線22、24が経時的に検出される。
【0072】
第一および第二のセンサー手段18、20は、処理手段26に送信される対応のシグナルS1、S2を発することができる。
【0073】
第一および第二のセンサー手段18、20は、試験管16に対して互いに異なる第一および第二の角度位置P1、P2(図1)に対応して配置される。センサー手段の配置は、それぞれ第一および第二の角度位置P1、P2に対応し、細菌懸濁液の濁度の経時的変化を示す第一および第二の曲線V1(t)、V2(t)を規定するようになっている。
【0074】
この場合、第一および第二のセンサー手段18、20は、光線14方向に対して2つの所定の角度α、βに位置し、これらの角度はそれぞれ30°と90°である(図1)。
【0075】
処理手段26は、2つの曲線V1(t)およびV2(t)から2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)を規定するように、第一および第二のセンサー手段18、20で作られたシグナルS1、S2を処理することができる(図3)。
【0076】
この2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)は、それぞれ、第一の位置P1に対応して検出された第一の曲線V1(t)と検出開始時の濁度の第一の瞬時値V1(0)との差、および第二の位置P2に対応して検出された第二の曲線V2(t)と検出開始時の濁度の第二の瞬時値V2(0)との差より得られる。処理手段26は、第一の分類データD1が記憶される、データベース付きの記憶手段28を含む。記憶手段28により、2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)の変化から、細菌増殖が起きているサンプル中に存在する細菌のタイプ、またはその細菌が属するファミリーが推定される。
【0077】
複製細菌が存在する生体サンプルは、測定ユニット11が検出し、細菌増殖の経時的変化を表す特定の曲線を提供するように処理手段26が処理する拡散光のシグナルを発する。
【0078】
30°の角度を有する第一のセンサー18から得られるシグナルに由来する第一の曲線は、細菌の存在、および存在する場合の経時的な細菌量の測定に関する。
【0079】
90°の角度を有する第二のセンサー20から得られるシグナルに由来する第二の曲線は、逆に、より強く細菌形態に特徴付けられる。2つのセンサー18、20により提供されるシグナルS1、S2から得られる、見込みのある細菌の成長曲線V1(t)およびV2(t)から、2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)が算出される。これらの微分曲線は、それぞれ、第一の位置P1に対応して検出された第一の曲線V1(t)と検出開始時の濁度の第一の瞬時値V1(0)との差、および第二の位置P2に対応して検出された第二の曲線V2(t)と検出開始時の濁度の第二の瞬時値V2(0)との差から得られる。
【0080】
微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)から、各曲線について、非線形回帰モデルに基づいて特定の数学的パラメータが推定される。さらに派生するパラメータを得るために、2つの曲線のホモローグなパラメータを組み合わせること(例えば、比や差や和を計算することにより)も可能である。
【0081】
これらのパラメータ(またはパラメータセット)全体が、分析するサンプル中に存在する細菌の曲線の特性の総合的な描写(synthetic description)を提供する。
【0082】
曲線に適用可能な回帰方程式の例には、たとえば以下のようなものがあり、細菌コロニーの指数関数的成長発達を示すのに有効に使用できる。
【数1】

【0083】
微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)に適用される式は、以下のとおりである。
【数2】

【数3】

【0084】
次に、これらの式から、パラメータa1、b1、c1、a2、b2およびc2を推定することが可能である。その後、処理手段26は、微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)から推定されるパラメータと、第一のデータD1を比較する。この場合、第一のデータD1は、さまざまなタイプの細菌、球菌型または桿菌型の細菌、異なるファミリーの細菌、異なる細菌種、または異なる細菌株の成長曲線に適用される回帰方程式の前記パラメータセットの典型的な数値(その正当範囲を含む)の一群から構成される。
【0085】
特に、処理手段26は、データD1内に存在するさまざまなパラメータセットと、試験対象の細菌のパラメータセットを比較し、最適な統計的手法を活用して、最も高い確率で対象の細菌が属するタイプやファミリーや種や菌株を同定する。
【0086】
記憶手段26において、第二のデータD2は、2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)の変化とマクファーランド標準に係わる濁度値との依存について保存される。
【0087】
第二の依存性データD2は定義されて、その細菌が属する各ファミリーに分類される。データD2は、さまざまなファミリーの、散乱法により測定される濁度の増加と、マクファーランド濁度の相対的増加との間の依存関係のパラメータである。
【0088】
処理手段26は、2つの微分曲線A1(t)およびΔ2(t)と、マクファーランド標準に係わる濁度の規定値(有利にはマクファーランド0.5)との相互関係を比較することが可能である。
【0089】
分析の開始時(t=0)に測定ユニット11で検出された測定値は記憶され、このゼロ(0)の場合の参照用マクファーランド濁度レベルが、通常それに割り当てられる。実験的に測定ユニット11による検出値の上昇(最初に記憶される値に対する差またはデルタΔで表される)と、マクファーランド濁度単位で表される相対的な濁度の変化率との依存関係が特定される。
【0090】
分析の開始時(ゼロ時間(t=0))に2つのセンサー18、20で検出された値は、通常V1(0)およびV2(0)で示され、処理手段26に送られる。処理手段26では、記憶手段28により数値を記憶する。
【0091】
分析中に、第一のセンサー手段18および第二のセンサー手段20が、試験管16に対する2つの角度αおよびβに屈折した光の量を検出する。「t」を分析中のある瞬間とすると、時間tに第一のセンサー手段18および第二のセンサー手段20により測定される値は、通常V1(t)およびV2(t)と表示され、これにより、時間tに対する拡散された光の変化または関数を示す。
【0092】
図2に、発育が良好な培地で増殖する細菌を含有する生体サンプルの分析中に、第一のセンサー手段18および第二のセンサー手段20により検出された値の関数V1(t)およびV2(t)に関わる曲線の指数関数的な経時変化の典型例を示す。
【0093】
本発明によれば、時間tにおいて、センサーごとに、その時点の値V(t)と「t=0」時の値との間の差が算出される。すなわち、第一のセンサー18については、以下の式があり、
【数4】

第二のセンサー20については、以下の式がある。
【数5】

【0094】
したがって、2つの曲線Δ1(t)およびΔ2(t)を得ることが可能である(図3参照)。これらの曲線は、2つのセンサーにより経時的に測定される散乱の変化率を示している。
【0095】
出願人は、測定ユニット11により光散乱法で測定された濁度の変化率(記号Δで表示)と、マクファーランド濁度単位で表わされる、同じく濁度の変化率(δで示されるが、相対的な時間の経過または時間関数はδ(t)で示される)との間に、依存関係があることを確認した。この依存性は固定のものではなく、対象の細菌の形態やサイズなど、さまざまな要因により決定される。
【0096】
出願人は、図1に示すように検出される異なるファミリーの細菌増殖について、実験的に試験を行った。特に、散乱の変化率Δ1(t)およびΔ2(t)の推移について試験を行い、それらの値と、参照光度計(reference photometer)により検出されマクファーランド(δ)で表わされる濁度の増加とを比較した。
【0097】
これらのテストから、試験対象となった細菌ファミリーごとに、2つのセンサー18、20で検出された散乱値の上昇Δ1(t)およびΔ2(t)と、マクファーランド濁度単位(δ)で表わされる濁度の相対的増加との間に依存性があることが推定された。依存性に関する情報、すなわち第二のデータD2は、記憶手段28に記憶される。
【0098】
一例を挙げると、第二のデータD2は、以下の表に示すような構成となる。
【表1】

【0099】
表中、各細菌ファミリーと、依存関係とが相関している。この依存関係は、マクファーランド濁度単位(δ)で表わされる濁度の変化率および光散乱法により測定される濁度の相対的変化率(Δ)にリンクしている。
【0100】
したがって、もし試験細菌が属するファミリー(例えばファミリー1)が既知の場合であって、初期値t=0(Δ)から光散乱法により測定されるような濁度の変化率が既知の場合、マクファーランド濁度単位(δ)で表わされる対応する濁度の変動は以下の式で表わされる。
【数6】

上記の式において、a1、b1およびc1は同定されるファミリーに適した特定パラメータである。
【0101】
図4に、曲線Δ1(t)およびΔ2(t)に基づくマクファーランド濁度δ(t)の検出原理を概略的に示す。第一のデータD1に基づく曲線Δ1(t)およびΔ2(t)の比較分析から、試験細菌の種類または少なくともその細菌が属するファミリーを解明することが可能である。
【0102】
細菌が属するファミリーにより、研究室の実験データベースに基づいてΔおよびδ間の依存関係を定義することが可能である。
【0103】
この時点で、依存関係についてわかっているので、分析サンプルの現在のマクファーランド濁度の数値δを算出することが可能であり、2つの曲線Δ1(t)およびΔ2(t)に前記式を当てはめることができる。
【0104】
好ましくは、測定の完了をさらに確認するため、既知濃度のラテックスも使用される。
【0105】
この技法の実用的応用により、培養分析の対象となる陽性試料の培養中にアンチバイオグラム試験の播種材料の標準化濃度として必要とされる既定のマクファーランド濁度レベル(この場合0.5濁度単位)に到達したか否かを検出できる。
【0106】
増殖中のサンプルの濁度を継続的にモニターすることで、臨床または標準的なアンチバイオグラム試験のための播種手順を迅速化できるという操作上の利点が得られる。
【0107】
これは、標準手順では、周知のように、標準濁度を有する懸濁液が得られるまで、容器(dish)内で予め単離したコロニーを生理溶液・食塩水で希釈する必要があるためである。したがって、既知の手順の場合、希釈時や、使用するコロニーの処理または選択時にエラーが発生する可能性がある。通常、これらの調製は、少なくとも一晩培養させる必要がある前記の細菌が、通常のシャーレに既に増殖している場合に行われる。
【0108】
したがって、ここに記載する新技術により、細菌懸濁液の調製に関わるあらゆるマニュアル操作が回避でき、考えられるエラーの要因を低減し、試験の自動化を最大限可能にする。
【0109】
増殖ステップ中のサンプルが所定のマクファーランド濁度レベル(例えば0.5)に達するまでにかかる時間は、サンプルの初期の細菌量に依存し、カウント値(count value)が大きいほど予め決められたマクファーランド閾値に早く到達することになる。
【0110】
有利には、測定ユニット11およびサンプルを上述の所望のレベルの濁度まで調製するための関連機器10は、単一の自動装置内に一体化されている。
【0111】
本発明の有利な改良型によれば、ラグフェーズがあり、t=0時から開始する平坦な曲線を有する(この曲線の最小値がt=0時の初期値V(0)に等しい)細菌増殖の場合と同様に、細菌が分析前に既に複製フェーズに(ラグフェーズがない状態で)入っている場合にも、この方法を適用できる。
【0112】
この場合、測定される増殖数に基づき推定される成長曲線は、ラグフェーズのある曲線に対して定性的に後方へ、すなわち時間を示すX軸方向に対して左方向にシフトする。ラグフェーズから始まる平坦な曲線の場合のように曲線の最小の開始点ではなく、分析の開始時t=0に、濁度値V(0)を有する。
【0113】
この場合、本発明は、開始時(t=0)の値V(0)ではなく、継続的に測定される細菌増殖数に基づいて推定される(すなわち、ゼロ未満の瞬時値t<0について推定される)曲線の実際の最小値Vminに対する濁度の違いを算出することができる。濁度について、既に複製し始めていた細菌により与えられる貢献(分析を始める前、すなわち、時間tがt=0となる前の濁度への貢献)も考慮することができるため、この選択は有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体サンプルの細菌検査方法であって、該生体サンプルが植え付けられた液体培養手段または発育良好の培地から形成される懸濁液のマクファーランド濁度標準に従って、濁度を決定するために光散乱測定を行い、マクファーランド濁度標準に従って表される濁度が所定の閾値に達するまで、細菌の増殖ステップ中に、分析されるサンプルの懸濁液から直接、継続的に濁度を測定する細菌検査方法。
【請求項2】
微積分により、前記細菌の増殖ステップの開始からマクファーランド濁度閾値に達したことを検出する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも部分的に電磁放射に対して透過性を有する包含要素(16)内で、液体培養手段に播種された生体サンプルの懸濁液の細菌増殖を行い、該包含要素(16)上に、細菌増殖と同時に、コヒーレント平行光線(14)が当てられ、懸濁液により屈折あるいは拡散した光の量が経時的に検出され、該検出は、前記包含要素(16)に対して互いに異なる第一の角度位置(P1)および第二の角度位置(P2)に対応して行われ、それぞれ前記第一の角度位置(P1)および第二の角度位置(P2)に関連して細菌懸濁液の濁度の経時的変化を表す第一の曲線V1(t)および第二の曲線V2(t)を決定するように行われる第一のステップと、
前記第一の曲線V1(t)と、第一の角度位置(P1)に応じて検出される第一のステップ開始時の濁度の第一の瞬時値V1(0)との差、および前記第二の曲線V2(t)と、第二の角度位置(P2)に応じて検出される第一のステップ開始時の濁度の第二の瞬時値V2(0)との差からそれぞれ得られる2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)が規定される第二のステップと;
2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)の変化と、第一の分類データ(D1)とを比較して、サンプル中に存在する細菌のタイプ、または該細菌が属するファミリーまたは株または種が推定される第三のステップと;
予め記憶された、前記2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)の変化と、マクファーランド濁度標準δ(t)に係わる濁度値との依存性を示す第二のデータ(D2)に従って、前記2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)と、前記濁度閾値を定義するマクファーランド濁度標準δ(t)に参照される濁度値の対応する変化率δとの相互関係を比較し、前記第二のデータ(D2)は、該細菌が属する各ファミリーまたは株または種について定義され分類される第四のステップと;を有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第四のステップの前記変動δが、0.5マクファーランド濁度標準に相当する請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
既知の濃度のラテックス粒子の懸濁液との比較により、マクファーランド濁度の正確な測定をコントロールするステップを含む請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ゼロ未満の時間について、継続的に測定された濁度値から成長曲線を推定させ、分析開始前に複製した微生物の濁度の貢献も考慮するように、推定された前記曲線の最小値に対する微積分により、前記マクファーランド濁度閾値が達成されたことを検知させる請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
包含要素(16)と、
測定ユニット(11)と、
処理手段(26)とを有する生体サンプルの細菌検査用装置であって、
前記包含要素(16)は、少なくとも部分的に電磁放射に対して透過性を有し、該包含要素(16)の中で、液体培養手段または発育良好の培地に播種された生体サンプルの懸濁液の細菌増殖を行い;
前記測定ユニット(11)には、エミッタ手段(12)が具備され、該エミッタ手段(12)により、前記包含要素(16)上にコヒーレント平行光線(14)が当てられ、第一のセンサー手段(18)および第二のセンサー手段(20)を用いて、前記懸濁液によって屈折あるいは拡散した光線(22、23)が経時的に検出され、前記第一のセンサー手段(18)および第二のセンサー手段(20)は、前記包含要素(16)に対して互いに異なる第一の角度位置(P1)および第二の角度位置(P2)に対応して配置され、それぞれ前記第一の角度位置(P1)および第二の角度位置(P2)に関連して、細菌懸濁液の濁度の経時的変化を表す第一の曲線V1(t)および第二の曲線V2(t)を決定するようになっており;
前記第一の曲線V1(t)と、第一の角度位置(P1)に応じて検出される第一のステップ開始時の濁度の第一の瞬時値V1(0)との差、および前記の第二の曲線V2(t)と、第二の角度位置(P2)に応じて検出される第一のステップ開始時の濁度の第二の瞬時値V2(0)との差からそれぞれ得られる2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)を規定するように、前記処理手段(26)は、前記第一のセンサー手段(18)および第二のセンサー手段(20)が生成するシグナルを処理することができ、前記処理手段(26)は、第一の分類データ(D1)が記憶されるデータベース記憶手段(28)を含み、該第一の分類データ(D1)を用いて、2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)の変化から、前記生体サンプル中に存在する細菌のタイプ、または該細菌が属するファミリーまたは株または種が推定され、前記記憶手段(28)には、予め記憶された第二のデータ(D2)も存在しており、該第二のデータ(D2)は、前記2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)の変化と、所望の濁度閾値を定義するマクファーランド濁度標準δ(t)に係わる濁度値の対応する変化率との依存性のデータであり、前記第二の依存性データ(D2)は、該細菌が属する各ファミリーまたは株または種について定義され分類され、前記処理手段(26)は、前記2つの微分曲線Δ1(t)およびΔ2(t)と、マクファーランド濁度標準に係わる前記濁度値の対応する変化率δとの相互関係を比較することができる生体サンプルの細菌検査用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−518429(P2012−518429A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551543(P2011−551543)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000373
【国際公開番号】WO2010/097687
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(511207877)アリファックス ホールディング エスピーエー (4)
【氏名又は名称原語表記】ALIFAX HOLDING SPA
【住所又は居所原語表記】Via Petrarca, 2/1, 35020 Polverara(IT)
【Fターム(参考)】