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生体リズムの制御剤
説明

生体リズムの制御剤

【課題】 本発明は、概日リズム周期を調節することで概日リズム障害を治療する方法、及び概日リズム障害に起因する疾患の根本的な治療法を提供することにある。また、そのような概日リズム周期を調節可能な物質のスクリーニングに適した樹立細胞系を提供することも目的とする。
【解決手段】 本発明において、プロテインキナーゼCの活性化剤又は阻害剤として作用する物質を有効成分として含むことを特徴とする、概日リズム障害改善剤、又は概日リズムの障害に起因した疾患の予防、治療用医薬組成物を提供する。また、Bmal1プロモーターにより転写調節されるルシフェレース遺伝子を安定的に保持する樹立された組換えNIH3T3細胞を含む、概日リズム周期を調節可能な物質のスクリーニング用のキットを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概日リズムを制御することによる睡眠障害の改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝性の睡眠障害に加えて、社会の24時間化に伴う様々な睡眠障害が社会的問題となっている。概日リズム睡眠障害と呼ばれる一連の睡眠障害の発症には、時計遺伝子によって構成されている体内時計が関係しているものと考えられているが、その詳細なメカニズムに関しては不明である。
睡眠障害の治療法としては、特別な装置を必要とする高照度光療法や、ビタミンB12(非特許文献1)、ラトニン製剤(特許文献1)の投与が一般的である。
また、睡眠薬としては、ベンゾジアゼピン系の薬剤(非特許文献2)が一般に用いられており、長短時間型から、短時間型、中間型、長時間型まで様々な半減期の薬剤が開発されている。しかしながら、これらの睡眠薬による睡眠障害の治療法は、対処療法的なものであり、根本的に睡眠障害を治療することは困難である。また、夢遊症状等の副作用を伴う場合も多く、その使用法には細心の注意が必要である。最近、ノシセプチン受容体の作動薬としての作用を有する4-オキソイミダゾリジン-2-スピロピペリジン誘導体に概日リズム睡眠障害治療効果が期待されている(特許文献2)が、まだ研究開発途上であり副作用も懸念される。
天然成分や飲食品からの睡眠改善剤の研究開発も盛んで、茶葉由来のテアミンを用いるもの(特許文献4)、内因性のメラトニン分泌効果を有する発酵ホエーなどのホエー類を添加するもの(特許文献5)の他、高麗人参エキス(非特許文献3)、イクラ油に含まれるフォスファチジルコリン(非特許文献4)などを用いた睡眠改善剤が提案されている。これらは、いずれも飲食品用に用いられている素材に由来しているため、安全性も高く、日常的に摂取可能であるといえるが、その詳細な睡眠改善効果や作用メカニズムも十分な解明がなされておらず、効果に関しても大きな個人差があると考えられる。
このように、従来の治療方法は、そのほとんどは作用メカニズムが不明であるか、又は体内時計の位相を調節することにより生体リズムを正常化させようとするものであり、体内時計の周期の異常に起因する障害の根本的な治療法とはなっていない。
概日リズムは、体内時計によって制御されており、近年、時計遺伝子と呼ばれる一連の遺伝子群によって体内時計のリズムが刻まれていることが明らかとなってきた。体内時計は、生体リズムの位相調節と周期長の調節という2つの機能を有している。概日リズムの位相調節に関しては、時計遺伝子の発現が、少なくとも細胞培養系においては、多くの液性因子によって誘導されることから、生体においても、多くの調節因子が存在しているものと推測される(非特許文献5)。プロテインキナーゼCについても、カルシウム依存的なプロテインキナーゼCの活性化によって、時計タンパク質ClockやPeriod1がリン酸化され、体内時計のリセットに関与している可能性が報告されている(非特許文献6)。細胞内のプロテインキナーゼC(PKC)の酵素活性はTPA及びcalcimycin(A23187)等によって簡単に増減可能であるため、従来からPKCの酵素活性調節剤は概日リズムをリセットするために利用されていた。しかしながら、PKCの酵素活性調節は、短時間かつ一度の細胞処理ではじめて効果が見られると考えられていた(非特許文献7)ので、PKCの酵素活性調節剤の存在下で長期間細胞を培養してその周期に対する影響を観察するということはなされていなかった。例えば、PKCの酵素活性を変化させるための薬剤であるTPA及びcalcimycinを作用させている時間は15分(非特許文献8、9)から、長くても2時間(非特許文献10)止まりであったから、概日リズムをリセットできても、概日リズム周期への影響は不明である。
一方で、概日リズムの周期長の調節に関しては、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)が、時計分子Period2(非特許文献11)やREV-ERBα(非特許文献12)のリン酸化を介して体内時計に作用するとの報告があり、概日リズムに関与する転写因子の1つであるBmal1の抑制効果のあるc-Jun N末端キナーゼ-3(JNK3)の酵素活性調節剤を用いた睡眠改善剤も開発されてきている(特許文献3)。
睡眠障害を根本的に改善するためにも、概日リズム周期を調節するこのような睡眠改善剤の開発は強く望まれていたが、これまでは詳細な概日リズム周期を検出する実験方法が確立されていなかったこともあり、もっぱら概日リズムのリセットが主に解析されてきた。
したがって、概日リズム周期を調節する根本的な睡眠改善剤の提供と共に、概日リズム周期を改善する物質を効率的にかつ確実に検出するための実験手法の確立も望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平8−502259号公報
【特許文献2】WO2003/010168
【特許文献3】WO2003/063907
【特許文献4】WO2005/097101
【特許文献5】WO2005/097101
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「サーカディアンリズム睡眠障害の臨床」千葉茂、本間研一 編、新興医学出版社、2003
【非特許文献2】「睡眠障害の対応と治療ガイドライン」、内山真 編、じほう、2002
【非特許文献3】Young Ho Rhee,et al.,Psychopharmacology,101,p.486-488(1990)
【非特許文献4】日比野英彦、Food Style21,Vol.7,No.3,p.50-53(2003)
【非特許文献5】Curr Biol 2000,10:1291-4
【非特許文献6】EMBO Reports 2007,8:366-71、Eur J Neurosci 2007,26:451-62
【非特許文献7】Science,1992,258,607-614
【非特許文献8】Cur. Biol.,2000,10,1291-1294
【非特許文献9】FEBS Lett.,1999,465,79-82
【非特許文献10】Gene to Cells,2003,8,713-720
【非特許文献11】J. Biol. Chem.,2005,280,29397-29402
【非特許文献12】Science,2006,311,1002-1005
【非特許文献13】Cell,2000,103,1009-1017
【非特許文献14】Nature,2002,418,534-539
【非特許文献15】Mol. Cell. Biol.,2008,28,3477-3488
【非特許文献16】J. Biol. Chem.,1982,257,7847-7851
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、概日リズム周期を調節することで睡眠障害を治療する方法であって、体内時計の周期の異常に起因する障害の根本的な治療法を提供することにある。また、そのような概日リズムを調節可能な物質のスクリーニングに適した樹立細胞系を提供することも目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
最近の概日リズム関連遺伝子を用いたノックアウト実験などの結果から、生物時計調節の中心となる遺伝子がBmal1遺伝子であることがほぼ確立してきている(非特許文献13)。
従来から、Bmal1遺伝子プロモーター中の「RORE」配列とルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドを一過性発現可能に導入したNIH3T3細胞を用いた培養細胞レベルでのレポーターアッセイが、哺乳類における生体内でのBmal1遺伝子を介した概日リズムを再現できることが知られていた(非特許文献14)。しかしながら、このような従来の培養細胞によるレポーターアッセイ法では細胞内でのプラスミドの状態が不安定であり、培地中に被検物質を添加した状態で細胞の培養を続けてその影響を正確に測定することはできなかった。
従来の研究でNIH3T3細胞を用いたレポーターアッセイ法は、Bmal1遺伝子のプロモーター領域などの特定領域に一過的に作用する物質又は遺伝子の探索を意図するものであったが、今回本発明者らは、全く新たな発想による従来のレポーターアッセイ法の適用を考えた。すなわち、Bmal1の発現によりClockと共に発現が促進されたPeriod遺伝子から生合成されたPeriodにより概日周期が刻まれ、核外でCryと融合して核内移行したPeriod-Cry融合タンパク質によりBmal及びClockの発現が制御されるという一連の概日リズム形成サイクル自体に長期間にわたって作用する物質、その周期を早めたり遅くしたりする物質を探索するためのレポーターアッセイ系を構築することを発想した。
本発明者らは、そのためにまず、Bmal1遺伝子プロモーター中の「RORE」配列及び転写開始部位を含む領域(−202〜+27位)にレポーターとなるルシフェラーゼ遺伝子を繋いだレポータープラスミドを作製し(図1)、当該レポータープラスミドをNIH3T3細胞に導入し、安定に概日リズムを刻みながらルシフェラーゼを生産する細胞株を樹立した。当該樹立細胞株を用いて種々の物質を作用させて、ルシフェレース活性をモニターした。その結果、プロテインキナーゼCの活性化剤であるTPA及び同阻害剤であるcalcimycin(A23187)を作用させ、プロテインキナーゼCの活性を増減させたところ、当該活性の増減に応じて、概日リズムが延長及び短縮することが初めて実証できた。このことから、プロテインキナーゼCは、体内時計のリセットに関与しているだけでなく、Bmal1プロモーター領域の転写調節部位に作用して、概日リズム周期の調節をしていることが確認できた。
以上の知見を得たことで、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を含むものである。
〔1〕 プロテインキナーゼCの活性化剤又は阻害剤として作用する物質を有効成分として含むことを特徴とする、概日リズム障害改善剤。
〔2〕 プロテインキナーゼCの活性化剤又は阻害剤として作用する物質を有効成分として含むことを特徴とする、概日リズムの障害に起因した疾患の治療又は予防用医薬組成物。
〔3〕 概日リズムの障害に起因した疾患が、睡眠相前進症候群(ASPS)、睡眠相後退症候群(DSPS)、非24時間睡眠相後退症候群、および季節性うつ病からなる群から選択される疾患である前記〔2〕に記載の医薬組成物。
〔4〕 概日リズムの障害改善剤の候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程(1)〜(5)を含む方法;
(1)Bmal1プロモーター領域中の「RORE」を含む−202〜+27の領域をルシフェレース遺伝子上流に転写可能に結合したプラスミドを構築する工程、
(2)前記(1)のプラスミドをNIH3T3細胞に導入し、Bmal1プロモーターにより転写調節されるルシフェレース遺伝子を安定的に保持する組換えNIH3T3細胞を樹立する工程、
(3)前記樹立細胞を発光基質ルシフェリンと共に培養し、概日リズムの周期を測定する工程、
(4)前記樹立細胞とルシフェリンを含む培地に被検物質を添加して培養し、概日リズムの周期を測定する工程、
(5)前記(4)で測定した前記細胞の概日リズムの周期が、前記(3)で測定した周期と比較して有意差をもって変化している場合に、培地中に添加した被検物質を、概日リズム傷害改善剤用の候補物質と判定する工程。
〔5〕 概日リズムの障害改善剤の候補物質をスクリーニングするためのキットであって、Bmal1プロモーターにより転写調節されるルシフェレース遺伝子を安定的に保持する樹立された組換えNIH3T3細胞、及び発光基質ルシフェリンを含むキット。
〔6〕 前記樹立された組換えNIH3T3細胞が、Bmal1プロモーター領域中の「RORE」を含む−202〜+27の領域をルシフェレース遺伝子上流に転写可能に結合したプラスミドを用いて形質転換され、継代培養により樹立された細胞である、前記〔5〕に記載のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、体内時計の周期長を調節することが可能であり、体内時計の周期異常に起因する概日リズム障害の、根本的な治療のための候補物質を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Bmal1レポータープラスミドの構築 Bmal1プロモーター領域の遺伝子地図中でのRORE(白)ならびにSAF-A結合配列(灰)の位置を示す。ROREを含む−202〜+27の領域をプラスミドpGL3-dLucのルシフェレース遺伝子上流に挿入した。
【図2A】プロテインキナーゼCの活性化剤による概日リズム調節 プロテインキナーゼC活性化剤TPA 50nM共存下(白)、ならびに対照(黒)の化学発光量の経時変化を示す。
【図2B】プロテインキナーゼCの阻害剤による概日リズム調節 プロテインキナーゼC阻害剤G6850 2μM共存下(白)、ならびに対照(黒)の化学発光量の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.睡眠障害について
睡眠障害は、「概日リズム睡眠障害」と「睡眠呼吸障害」とに大別される。概日リズム睡眠障害には、外因性の急性症候群と内因性の慢性症候群とに区分され、睡眠相前進症候群や睡眠相後退症候群、非24時間睡眠覚醒障害、不規則型睡眠覚醒障害などは、内因性慢性症候群に含まれる。概日リズム睡眠障害には、体内時計の関与が考えられており、特に、内因性慢性症候群は、体内時計の周期異常が一因となっている。従来からの典型的な睡眠障害の治療法である光照射やメラトニン投与、あるいは様々な睡眠薬による治療法は、体内時計のリセットに作用する対処療法的なものであるのに対し、本発明が目指す睡眠障害の治療法は、体内時計の周期異常、すなわち「概日リズム障害」を改善することによる治療法である。
【0011】
2.概日リズム障害により引き起こされる疾患について
概日リズム障害に起因する疾患としては、睡眠相前進症候群(ASPS)、睡眠相後退症候群(DSPS)、非24時間睡眠相後退症候群、および季節性うつ病が典型的なものとして考えられる。その他、内因性躁鬱病、周期性緊張症、周期性高血圧症、周期性潰瘍、不規則排卵周期、およびインスリン分泌の周期性異常に起因する糖尿病などの周期性・反復性障害や、脳血管型痴呆やアルツハイマー型痴呆における夜間徘徊なども概日リズム障害が関与すると考えられている。
【0012】
3.概日リズムとBmal1遺伝子について
体内時計の調節に係わる主要な因子としては、体内時計の刻みを促進するBmal1遺伝子とClock遺伝子、抑制因子として働くCry遺伝子とPeriod遺伝子の4種類がある。
これら遺伝子群のうちで、Bmal1遺伝子をノックアウトしたマウスでは、行動のリズムが全く見られなくなり、まるで生物リズムが全く破壊された様に振舞う。他の時計遺伝子PeriodやCryptochrome等のノックアウトマウスでは活動周期に異常が観察されるのみであり、Bmal1遺伝子は単一遺伝子の破壊において行動リズム形成を全く示さなくなる唯一つの遺伝子である。さらにBmal1遺伝子ノックアウトマウスでは時計中枢である視交叉上核(SCN)において時計遺伝子Period1およびPeriod2の発現がほぼ完全に抑えられている。以上のことより、生物時計調節の中心となるのがBmal1遺伝子であると考えられている(非特許文献13)。
最近、本発明者らは、Bmal1遺伝子プロモーター領域中の「SAF-A結合領域(−27〜+266位)」へのSAF-A結合によるBmal1遺伝子を介した概日リズムの転写調節を解明した(非特許文献15、特願2008−25966)。
【0013】
4.概日リズムの周期を調節する物質のスクリーニング
本発明において、概日リズムの周期を調節する物質のスクリーニングに用いるレポーターアッセイ系は、従来の研究でBmal1遺伝子のプロモーター領域などの特定領域に一過的に作用する物質又は遺伝子を探索するために用いられていたスクリーニング系を改変して利用するものである。
まず、プラスミドpGL3-dLuc (非特許文献14)のルシフェレース遺伝子上流に、Bmal1プロモーター領域の「RORE」を含む−202〜+27の領域を挿入して作製したレポータープラスミド(図1)を、非特許文献14の手法に従ってNIH3T3細胞に導入し、継代培養して、安定に概日リズムを刻みながらルシフェラーゼを生産する形質転換NIH3T3細胞株を樹立した。
当該樹立細胞の培地に被検物質を添加し、培養しながらルシフェラーゼの発光強度を経時的にモニターすることにより、Bmal1の発現によりClockと共に発現が促進されたPeriod遺伝子から生合成されたPeriodにより概日周期が刻まれ、核外でCryと融合して核内移行したPeriod-Cry融合タンパク質によりBmal及びClockの発現が制御されるという一連の概日リズム形成サイクル自体に長期間にわたって作用する物質、そのサイクルを早めたり遅くしたりする物質がはじめて探索できるようになった。
本発明においては、当該樹立細胞株を用いてルシフェレース活性をモニターすることで、Bmal1遺伝子の転写を介した概日リズムを調節する物質がプロテインキナーゼCであることを解明し、当該プロテインキナーゼC活性の活性化剤又は阻害剤が、概日リズムの周期を増大又は短縮するための概日リズム周期改善剤として用いられることが確認できた。
すなわち、プロテインキナーゼC及びそのアイソザイムを特異的に活性化する典型的な活性化剤の12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA)を上記樹立細胞の培養系に対して投与することにより、概日リズムの周期が長くなることを確認し、反対にプロテインキナーゼC及びそのアイソザイムを特異的な阻害剤であるBisindolylmaleimideI(G6850)の投与により、概日リズムの周期が短くなることを確認したことから、概日リズムを調節している物質がプロテインキナーゼC及びそのアイソザイムであることが立証できたものである。
【0014】
5.プロテインキナーゼC(PKC)について
プロテインキナーゼC(Protein Kinase C;PKC)は、1977年に西塚らによりラット脳内に初めて見いだされたCa2+及びリン脂質依存性のSer-Thr特異的プロテインキナーゼである。PKCはホスホリパーゼC(PLC)が生体膜由来のホスファチジルイノシトール(PI)をイノシトールリン酸(IP)とジアシルグリセール(DG)に分解し、IPが細胞内のCa2+を放出させDGとCa2+の相乗的作用でPKCを活性化する。他に、主要なリン脂質関連酵素(PI-3キナーゼ、ホスホリパーゼA2、ホスホリパーゼD、スフィンゴミエリナーゼ)の代謝産物もPKCを活性化することも知られている。PKCは多数のサブタイプ(アイソフォーム)から構成されるファミリーであり、哺乳類で少なくとも10種類のPKCサブタイプ、在来型(conventional;α、βI、βII、γ)、新型(novel;δ、ε、η、θ)及び非典型(atypical;ζ、λ/ι)が見出されている。
【0015】
本発明で概日リズム調節をしようとする対象動物は、ヒト等の霊長類、イヌ、ネコなどの愛玩動物、ウシ、ウマなどの家畜動物、マウス、ラットなどの実験動物を含む哺乳類及び相同性の高い時計遺伝子を持つ鳥類及び魚類である。したがって、本発明で、「Bmal1遺伝子」、「プロテインキナーゼC」などというとき、ヒトを含む哺乳類、鳥類及び魚類由来の遺伝子又は遺伝子産物を指すものである。また、「プロテインキナーゼC」の場合、10種類のアイソザイム全てを含めていうが、主に膜付近で活性を発揮する、在来型及び新型のアイソザイムを指しており、典型的には在来型PKC、特に「Cキナーゼ」とも呼ばれるサブタイプαのPKCを指す。
【0016】
6.PKCの活性化剤について
最も強力な活性化剤である12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセテート(TPA)は、強力な発癌プロモーターとしても有名であるが、特に膜に結合するタイプの在来型(conventional;α、βI、βII、γ)及び新型(novel;δ、ε、η、θ)のサブタイプを強力に活性化することが知られている。
本発明において、プロテインキナーゼCの活性化剤というとき、上述のTPA,リン脂質関連酵素(PI-3キナーゼ、ホスホリパーゼA2、ホスホリパーゼD、スフィンゴミエリナーゼ)の代謝産物であるDGやフォスファチジルセリン等のリン脂質以外にphorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)、phorbol-12,13-dibutyrate(PDBu)およびphorbol-12,13-didecanoate(PDD)等のホルボールエステル(非特許文献16)も含まれる。なお、本発明の実施例においては、概日リズムの周期の調節が、プロテインキナーゼCの活性化作用によることを立証するために、あえて、生理的活性化剤であるDGと同様の作用を示す典型的な特異的かつ強力な活性剤であり、しかも各サブタイプに作用する「TPA」を用いたが、上述のように、「TPA」自体は発癌活性が知られていることから、医薬品としては用いるのには適さない。
【0017】
7.PKCの阻害剤について
本発明においてプロテインキナーゼCの阻害剤というとき、強力で選択性の高い細胞膜透過性プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤が多数周知であり、BisindolylmaleimideI〜IVなどが市販されている。実施例で用いたBisindolylmaleimideI(G6850)は、中でもPKC特異性が高い阻害剤である。
そのほかその他のリン酸化酵素に対する阻害作用も若干有するプロテインキナーゼC阻害剤スタウロスポリン、カルフォスチン、H-7等がある。またこれら低分子化合物以外にもリン酸化の偽基質ペプチド等も知られている。
【0018】
8.概日リズム障害改善剤及び概日リズム障害に起因する疾患の予防及び治療用医薬組成物
上記PKC活性化作用のあるDG、ホスファチジルコリンなどの各種リン脂質、ホルボールエステル、及びPKC阻害作用のあるBisindolylmaleimideI〜IV、スタウロスポリンなどの市販のPKC阻害剤は、いずれも概日リズム障害改善剤として用いることができる。また、さらに、本発明において樹立した概日リズムの周期を調節する物質のスクリーニング用のNIH3T3形質転換細胞系を用いて、当該細胞の概日リズムの周期を変化させる物質を検索し、当該物質を概日リズム障害改善剤として用いることができる。
概日リズムの改善剤を有効成分として含み、適当な医薬上許容される担体または賦形剤と組み合わせることで概日リズム障害に起因する疾患の予防及び治療用の医薬組成物とすることができる。
そのような疾患としては、睡眠相前進症候群(ASPS)、睡眠相後退症候群(DSPS)、非24時間睡眠相後退症候群、および季節性うつ病が典型的なものとして考えられる。
その他、内因性躁鬱病、周期性緊張症、周期性高血圧症、周期性潰瘍、不規則排卵周期、およびインスリン分泌の周期性異常に起因する糖尿病などの周期性・反復性障害や、脳血管型痴呆やアルツハイマー型痴呆における夜間徘徊のための治療用に、単独で又は治療に必要な他の化合物または医薬と一緒に使用する。
医薬組成物の投与形態は、全身投与であっても局所投与であってもよく、注射、膏薬など非経口投与でも、経口投与でもよく、周知の製剤化方法が適用できる。
用量は、投与形態により異なるが、例えば対象の体重1kgあたり0.1ないし100μgの範囲が好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は特にこれら実施例に限定されるものではない。
なお、本発明で使用されている技術的用語は、別途定義されていない限り、当業者により普通に理解されている意味を持つ。本発明の実施例で用いた遺伝子組換え技術、PCR法、その他の手法などの具体的な手順や条件は、特に断らない限り、Sambrook and Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Edition.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,NY(2001)、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989);D.M.Glover et al. ed.,"DNA Cloning",2nd ed.,Vol.1to4,(The Practical Approach Series),IRL Press,Oxford University Press(1995);Ausubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York,N.Y,1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人(1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸III(組換えDNA技術)」、東京化学同人(1992);R.Wu ed.,"Methods in Enzymology",Vol.68(Recombinant DNA),Academic Press,New York(1980);R.Wu et al.ed.,"Methods in Enzymology",Vol.100(Recombinant DNA,PartB)&101(Recombinant DNA,Part C),Academic Press,New York(1983);R.Wu et al. ed.,"Methods in Enzymology",Vol.153(Recombinant DNA,Part D),154(Recombinant DNA,Part E)&155(Recombinant DNA,Part F),Academic Press,New York(1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法により行うことができる。
また、本発明で引用した先行文献又は特許出願明細書の記載内容は、本明細書の記載として組み入れるものとする。
【0020】
(実施例1)Bmal1プロモーターにより転写されるルシフェレース遺伝子を安定的に保持しているNIH3T3細胞株の樹立
Bmal1遺伝子のリズミックな発現に必要最小限のプロモーター領域として、「RORE」を含む−202〜+27の領域を選定し、プラスミドpGL3-dLuc(非特許文献14)のルシフェレース遺伝子上流に、挿入してBmal1レポータープラスミドを作製した(図1)。
当該Bmal1レポータープラスミドと共に、抗生物質(Zeocin)耐性マーカー遺伝子を持つpTracer-CMV(Invitrogen社製)をNIH3T3細胞に導入し(非特許文献14記載の手法による。)、Bmal1プロモーターにより転写調節されるルシフェレース遺伝子を安定的に保持する組換えNIH3T3細胞を取得した。さらに継代培養を繰り返し、安定に概日リズムを刻みながらルシフェラーゼを生産する形質転換NIH3T3細胞株を樹立し、樹立した細胞の中でルシフェレース活性の概日リズムが最も安定的に観察されるクローンを選択した。
【0021】
(実施例2)概日リズムの周期を変化させる物質のスクリーニング
実施例1で樹立したNIH3T3細胞株を約5×105個を35mm培養ディッシュに播種した後、100nMデキサメサゾンにより生体リズムをリセットして用いた。
樹立したNIH3T3細胞株の発光基質ルシフェリンを含む培地に被検物質を添加し、細胞培養を続けながら、リアルタイムでレポーター遺伝子による化学発光を120時間測定した。発光は10分毎に1分間測定した。
プロテインキナーゼCの生体リズムに対する影響を検討するために、まず、細胞内においてプロテインキナーゼCを特異的に活性化させる薬剤であるTPAの50nMを作用させたところ、転写リズムの周期は約1時間短縮した(TPA 23.62時間、対照 24.57時間)。
そこで、プロテインキナーゼC活性の特異的な阻害剤であるG6850(Bisindolemaleimide)を作用させると、反対に約1時間周期が長くなった(G6850 27.56時間、対照 26.36時間)。(図2A,図2B)
以上の結果を得たことで、プロテインキナーゼCの活性を変化させる物質により概日リズムを人為的に変化させることができることが立証できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
概日リズムの障害改善剤の候補物質をスクリーニングする方法であって、以下の工程(1)〜(5)を含む方法;
(1)Bmal1プロモーター領域中の「RORE」を含む−202〜+27の領域をルシフェレース遺伝子上流に転写可能に結合したプラスミドを構築する工程、
(2)前記(1)のプラスミドをNIH3T3細胞に導入し、Bmal1プロモーターにより転写調節されるルシフェレース遺伝子を安定的に保持する組換えNIH3T3細胞を樹立する工程、
(3)前記樹立細胞を発光基質ルシフェリンと共に培養し、概日リズムの周期を測定する工程、
(4)前記樹立細胞とルシフェリンを含む培地に被検物質を添加して培養し、概日リズムの周期を測定する工程、
(5)前記(4)で測定した前記細胞の概日リズムの周期が、前記(3)で測定した周期と比較して有意差をもって変化している場合に、培地中に添加した被検物質を、概日リズム傷害改善剤用の候補物質と判定する工程。
【請求項2】
概日リズムの障害改善剤の候補物質をスクリーニングするためのキットであって、Bmal1プロモーターにより転写調節されるルシフェレース遺伝子を安定的に保持する樹立された組換えNIH3T3細胞、及び発光基質ルシフェリンを含むキット。
【請求項3】
前記樹立された組換えNIH3T3細胞が、Bmal1プロモーター領域中の「RORE」を含む−202〜+27の領域をルシフェレース遺伝子上流に転写可能に結合したプラスミドを用いて形質転換され、継代培養により樹立された細胞である、請求項2に記載のキット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2013−99360(P2013−99360A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−29057(P2013−29057)
【出願日】平成25年2月18日(2013.2.18)
【分割の表示】特願2009−175576(P2009−175576)の分割
【原出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】