説明

生体中のグルコース濃度の測定装置

【課題】 グルコース濃度の測定に際しても対象とする組織の温度を一定とすることで、より高い測定精度を得る。
【解決手段】 近赤外線の受発光間隔を中心間距離0.1mm以上2mm以下に設定した近赤外光受発光手段を有して、該近赤外光受発光手段を生体表面に接触させて表面近傍組織に波長が1000nm〜2500nmの近赤外光を照射するとともに近赤外光の吸収を測定することで生体中のグルコース濃度を測定する装置である。近赤外光受発光手段における生体の表面近傍組織との接触部分の温度を一定とする制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、近赤外領域における光の吸収を利用して生体中のグルコース濃度を非侵襲的に分光分析する生体中のグルコース濃度測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】生体表面近傍組織中のグルコース濃度を近赤外領域における光の吸収を利用して測定するものとして、図5に示すように、ハロゲンランプからなる光源1と、光源1からの光を集束する集光レンズ2と、集光レンズ2を通過した光を皮膚組織に照射し且つ皮膚組織を透過あるいは拡散反射した光を受光するための光ファイバーバンドル3、受光後の光を分光する回折格子を収めた回折格子ユニット4、前記回折格子ユニット4で分光された光を検出するためのInGaAsアレイ型受光素子ユニットからなる受光部5、受光部5で得られた信号をもとにグルコース濃度を演算する演算ユニット6とから構成されたのものがある。
【0003】上記光ファイバーバンドル3は、被検体に光を照射するための投光用光ファイバーと、皮膚組織を透過あるいは拡散反射した光を受光するための受光用光ファイバーとをそれぞれ複数本束ねたもので、その生体の皮膚表面に接触させることになるプローブ先端面の測定面7は、クラッド径が200μm、コア径が180μmから成る投光用光ファイバーの光の出射端8及び受光用光ファイバーの光の入射端9とが所定の配置(図6に示す例では出射端8が入射端9を中心とした円周上に複数個配されたものを1単位とし、これが複数単位設けられている)で配設され、1単位内における出射端8と入射端9との中心間隔Lは0.1mm以上2mm以下の範囲内において一定間隔とされている。
【0004】生体の皮膚組織に測定面7を当接させれば、光ファイバーバンドル3内の投光用光ファイバーを通り出射端8から出射した光は被検体内を伝搬するが、この時、皮膚組織から出射された一部の散乱光を入射端9によって受光して光ファイバーバンドル3内の受光用光ファイバーを通じて回折格子ユニット4に送り、回折格子ユニット4で分光された光は受光部5で受光信号として検出して、受光信号の増幅及びAD変換後、マイクロコンピュータからなる演算ユニット6において重回帰分析あるいは主成分回帰分析を行うことでグルコース濃度を算出する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、水溶液や含水率の高い試料の近赤外分光分析を行う場合、それらのスペクトルは水のスペクトル同様、温度変化にともなうスペクトルのシフトなどの変動が大きく、定量分析において温度の影響が無視できないことが知られている。
【0006】本発明のこの点に鑑みなされたもので、グルコース濃度の測定に際しても対象とする組織の温度を一定とすることで、より高い測定精度を得ることができるようにしたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】しかして本発明においては、近赤外線の受発光間隔を中心間距離0.1mm以上2mm以下に設定した近赤外光受発光手段を有して、該近赤外光受発光手段を生体表面に接触させて表面近傍組織に波長が1000nm〜2500nmの近赤外光を照射するとともに近赤外光の吸収を測定することで生体中のグルコース濃度を測定する装置において、近赤外光受発光手段における生体の表面近傍組織との接触部分の温度を一定とする制御手段を備えていることに特徴を有している。
【0008】上記制御手段としては、温度を検知する温度検知手段と、加熱を行う加熱手段と、温度検知手段の出力に応じて加熱手段の動作を制御する温度制御手段とからなるものを用いることができる。
【0009】この時、制御手段は、近赤外光受発光手段を表面近傍組織に接触させた時点もしくは接触させて近赤外光の照射を開始してから所定時間が経過した後に、測定を行うものを用いてもよく、この時の所定時間は、接触面の温度が目標温度に一致する時間として決定したり、目標温度と環境温度及び近赤外光受発光手段を生体の表面近傍組織に接触させた時点での生体温度とから所定時間を決定したりすることができる。
【0010】制御手段が温度自己制御型ヒータであってもよい。
【0011】受発光手段は光ファイバーのような非電気的なもので構成できるために、電気的な加熱手段や制御手段が直近に配置されても、近赤外光の吸収信号に電気ノイズが混入することはまず無い。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明を実施の形態の一例に基づいて説明すると、本発明に係る生体中のグルコース濃度の測定装置は、近赤外光を用いて人間の皮膚組織内、特に真皮組織中のグルコース濃度を分光分析により定量するもので、基本的構成は上記従来例と同じく、図5R>5に示すように、光源1と、光源1からの光を集束する集光レンズ2と、集光レンズ2を通過した光を皮膚組織に照射し且つ皮膚組織を透過あるいは拡散反射した光を受光するための光ファイバーバンドル3、受光後の光を分光する回折格子を収めた回折格子ユニット4、前記回折格子ユニット4で分光された光を検出するためのInGaAsアレイ型受光素子ユニットからなる受光部5、受光部5で得られた信号をもとにグルコース濃度を演算する演算ユニット6とからなるもので、被検体に光を照射するための投光用光ファイバーと、皮膚組織を透過あるいは拡散反射した光を受光するための受光用光ファイバーとをそれぞれ複数本束ねた光ファイバーバンドル3は、その生体の皮膚表面に接触させることになるプローブ先端面の測定面7に、図1に示すように、クラッド径が200μm、コア径が180μmから成る投光用光ファイバーの光の出射端8及び受光用光ファイバーの光の入射端9とを出射端8が入射端9を中心とした円周上に複数個配したものを1単位設けている(複数単位設けてもよいのはもちろんである)。1単位内における出射端8と入射端9との中心間隔Lは0.1mm以上2mm以下の範囲内において一定間隔としてある。
【0013】ここで、出射端8の数を入射端9の数よりも多くしているのは、その逆の場合よりも分光分析に必要な受光量を容易に確保することができるからであり、また被検体内を伝搬する光の経路の数を増やすことになるので、光の照射位置の変化など測定値を変動させる要因の影響を低減させることができるからである。
【0014】なお、出射端8を入射端9を中心とした円周上に複数個配しているが、1単位内における出射端8と入射端9との中心間隔Lが上記間隔に設定されているのであれば、出射端8及び入射端9ともにこの個数(光ファイバーの本数)に限るものでは無く、また、分光手段としてビームスプリッタや干渉フィルタを用いても良く、皮膚組織に照射する前の光を分光する装置構成であっても良い。また、光源としては、グルコース濃度を算出するに必要な特定波長域を出力するLED等の発光素子を用いてもよい。
【0015】そして、本例においては光ファイバーバンドル3のプローブ先端の測定面7に面状のヒータ10と表面温度検知手段11とを付設するとともに、図2に示すように、面状ヒータ10に電源を供給する電圧供給手段12と、前記温度検知手段11からの信号に応じて電圧供給手段12の出力電圧を調整してヒータ10の発熱量を制御する温度制御手段13とを設けている。たとえば、温度検知手段11で検出される温度が40±0.1℃で一定となるように温度制御を行うのである。もちろん、近赤外線を利用した測定は、測定面7の温度が所定の温度(この場合、40±0.1℃)になった時点で行う。制御目標温度は上記温度に限るものではなく、たとえば体温にほぼ等しい37℃近辺であってもよい。
【0016】このような温度制御により、生体に接触させた受発光手段の接触面7の温度を一定とすることができるものであり、測定条件の安定化が図れ、従ってグルコース濃度の定量精度を向上させることができる。
【0017】このほか、環境温度の検出手段(図示せず)を設けて、該環境温度検出手段を制御手段13に接続し、測定面7を生体表面に接触させた時点の目標温度と生体表面温度の差及び目標温度と環境温度の差から、測定を開始するまでの遅れ時間を求めて、この遅れ時間の後に測定を始めるようにしてもよい。遅れ時間はたとえば表1に示すようなテーブルを加熱手段の熱量やプローブの熱容量などに応じて予め定めておき、該当値をテーブルから求めて遅れ時間をセットするとよい。各温度あるいは温度差を説明変数とする数式を用いて遅れ時間を算出してもよいのはもちろんである。なお、表1では目標温度を40℃としている。
【0018】
【表1】


【0019】図4に他例を示す。ここでは測定面7に設けたヒータ10として、PTC(正特性サーミスタ)のような温度白己制御型ヒータを用いている。ヒータ10自身が予め定まったたとえば40℃の温度を保つことから、表面温度検知手段11や温度制御手段13がなくとも、測定条件の安定化を図ることができる。
【0020】このほか、光ファイバーバンドル3の熱容量が十分小さく、このためにプローブの測定面7を生体に接触させれば次第に生体温度(目標温度)に近づく。従って、測定面7に温度検知手段11のみを設けて、測定面7の加熱は体温で行うものとするとともに、近赤外光を利用したグルコース濃度の測定の開始タイミングを、プローブの測定面7を生体表面に接触させた時点ではなく、目標温度(たとえば37℃)に達した時点(もしくは目標温度に達した時点から所定時間が経過した時点)とするようにしてもよい。
【0021】
【発明の効果】以上のように本発明においては、近赤外光受発光手段における生体の表面近傍組織との接触部分の温度を一定とする制御手段を備えているために、温度変化に伴うスペクトルシフトなどの影響を避けてグルコース濃度の測定を行うことができるものであり、このためにグルコース濃度の定量精度を向上させることができる。
【0022】上記制御手段としては、温度を検知する温度検知手段と、加熱を行う加熱手段と、温度検知手段の出力に応じて加熱手段の動作を制御する温度制御手段とからなるものを用いることで、接触部分の温度を確実に一定に保つことができる。
【0023】また、制御手段として温度自己制御型ヒータを用いる場合には、より簡便な構成で接触部分の温度を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の一例における生体への接触部分を示すもので、(a)は水平断面図、(b)は縦断面図である。
【図2】同上の概略回路図である。
【図3】温度変化と測定開始タイミングを示すタイムチャートである。
【図4】他例の縦断面図である。
【図5】従来例のブロック図である。
【図6】同上の生体への接触部分の水平断面図である。
【符号の説明】
7 測定面
8 出射端
9 入射端
10 ヒータ
11 表面温度検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 近赤外線の受発光間隔を中心間距離0.1mm以上2mm以下に設定した近赤外光受発光手段を有して、該近赤外光受発光手段を生体表面に接触させて表面近傍組織に波長が1000nm〜2500nmの近赤外光を照射するとともに近赤外光の吸収を測定することで生体中のグルコース濃度を測定する装置において、近赤外光受発光手段における生体の表面近傍組織との接触部分の温度を一定とする制御手段を備えていることを特徴とする生体中のグルコース濃度の測定装置。
【請求項2】 制御手段は、温度を検知する温度検知手段と、加熱を行う加熱手段と、温度検知手段の出力に応じて加熱手段の動作を制御する温度制御手段とからなることを特徴とする請求項1記載の生体中のグルコース濃度の測定装置。
【請求項3】 制御手段は、近赤外光受発光手段を表面近傍組織に接触させた時点もしくは接触させて近赤外光の照射を開始してから所定時間が経過した後に、測定を行うものであることを特徴とする請求項1または2記載の生体中のグルコース濃度の測定装置。
【請求項4】 制御手段は所定時間を接触面の温度が目標温度に一致する時間として決定するものであることを特徴とする請求項3記載の生体中のグルコース濃度の測定装置。
【請求項5】 制御手段は目標温度と環境温度及び近赤外光受発光手段を生体の表面近傍組織に接触させた時点での生体温度とから所定時間を決定するものであることを特徴とする請求項3記載の生体中のグルコース濃度の測定装置。
【請求項6】 制御手段は温度自己制御型ヒータであることを特徴とする請求項1記載の生体中のグルコース濃度の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2001−299727(P2001−299727A)
【公開日】平成13年10月30日(2001.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−124920(P2000−124920)
【出願日】平成12年4月25日(2000.4.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】