生体信号検出装置
【課題】被測定者にストレスや不快感を与えず、生体信号を日常的に検出する生体信号検出装置を提供する。
【解決手段】磁気ヘッド12は高周波磁界発生部分と磁気を検知する部分を一体化されている。磁気ヘッド12は、胸部表面に近接して水平に設定されている。磁気ヘッド12は、生体表面にほぼ水平方向に生体内に高周波磁界を与え、心筋表面に体液中のイオンの全体的な流れを誘導する。磁気ヘッド12の磁界検知部分は、心筋活動電位の進行方向に伝播する体液中のイオンの全体的な流れに比例した磁界の信号を感度良く得る。
【解決手段】磁気ヘッド12は高周波磁界発生部分と磁気を検知する部分を一体化されている。磁気ヘッド12は、胸部表面に近接して水平に設定されている。磁気ヘッド12は、生体表面にほぼ水平方向に生体内に高周波磁界を与え、心筋表面に体液中のイオンの全体的な流れを誘導する。磁気ヘッド12の磁界検知部分は、心筋活動電位の進行方向に伝播する体液中のイオンの全体的な流れに比例した磁界の信号を感度良く得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば心電や筋電あるいは脳波などの生体信号を電磁気的に検出する生体信号検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体情報センシングは、遠隔健康管理・介護システム等において利用されることが検討されつつあり、特に、情報通信システムを利用した医療分野において利用される可能性が高い。そのため、生体信号情報検出用のセンサのマイクロ化及び低消費電力化の必要性が指摘されている。また、自動車の安全システムの高度化においても、ドライバーの疲れや眠気等を検出するために、生体信号の検出技術は重要である。
磁気センサを用いて生体信号を検出する装置としては、特許文献1に示されるSQUID磁束計、或いは電気的に生体信号を検出する装置としては特許文献2に示される導電シートとLC発振回路による検出装置、特許文献3に示される圧力検出方式、または従来型の心電計などがある。
【特許文献1】特開2001-29320号公報
【特許文献2】特開2007-29388号公報
【特許文献3】特開2002-058653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
磁気センサを用いて生体情報を検出する方式として、生体磁気を検出する方法は従来から知られている。そのセンシングデバイスとして主にSQUID磁束計が用いられてきたが、検出信号のレベルが微弱なため日常の生活環境での計測は難しかった。また、電気的に生体信号を検出する装置では、装置が大掛かりである、或いは、体表面に電極の接続を必要とするなどの要因により、被測定者にストレスや不快感を与えることが多いため、日常の生体情報を長時間に亘り連続的に測定することは困難であった。
【0004】
以上の事情を考慮した結果、被測定者にストレスや不快感を与えず、生体信号を日常的に検出する装置を提供することが重要であることを認識し、そのため種々の検討を重ねたのである。
【0005】
そして、種々検討を重ねた結果、生体に交流磁界を印加する印加部と、前記印加部から前記生体に対し印加された交流磁界によって生体内に誘導される電流による磁界を検出可能な磁気検出部とを備えた装置により、生体活動に伴う生体表面の電気的特性変化を出力信号として検出できることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて為されたものであって、この方法を採用することで、被測定者にストレスや不快感を与えず、生体信号を日常的に検出可能な生体信号検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための請求項1に係る発明によれば、生体信号を電磁気的に検出する生体信号検出装置において、生体に交流磁界を印加する印加部と、前記印加部から前記生体に対し印加された交流磁界によって生体内に誘導された電流による磁界に対応した信号を出力可能となるように構成されている磁気センサを備えることを特徴とする。
請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a)生体表面の電磁気的変化を検出するための生体信号測定装置であること、(b)生体に交流磁界を印加して生体内に電流を誘導すること、(c)前記生体内に誘導された電流による磁界を検知する磁気センサ部分を含むことにある。
このような構成の場合、交流磁界を生体に印加して体内に体液に含まれるイオンによる全体的あるいは局所的な流れを誘導し、前記イオンの全体的あるいは局所的な流れが作る磁界を検出可能な磁気センサを備えているため、前記体液に含まれるイオンの変動に関係した信号が得られ、SQUID磁束計を用いるような生体磁気センシング装置に比べて、特別な磁気シールド装置を必要しないこと、或いは、心電計等に比べると、電極が不用で小型化が可能なため、被測定者にストレスや不快感を与えず、しかも汗などの影響を受けにくい等の効果がある。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載された生体信号検出装置において、記交流磁界によって体内に誘導される電流が生体表面近傍に誘導されることを特徴とする。
この場合、交流磁界により生体に誘導される電流は、前記電流が作る磁界を、体外から磁気センサを用いて感度良く検出が可能となるように、体表面近傍に誘導される。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載された生体信号検出装置において、前記交流磁界の印加部は磁気センサと磁気的に直交するような空間的な配置することを特徴とする。
このように交流磁界印加部分と磁気センサを磁気的に直交する空間的な配置とすることにより、磁気センサでは前記交流印加磁界の影響を受けず、前記交流印加磁界により生体内に誘導された電流による磁界のみを検出することができる。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか一の発明において、前記磁気センサは、パルス電流を通電する磁性線を巻回した検出コイルを有し、磁性線を生体表面に近接して水平に設置することを特徴とする。
磁性線にパルス電流を流す素子を用いて前記交流磁界発生部分と磁気を検知する部分を一体化し、磁気信号の検出部として前記磁性線に巻回した検出コイルを用いる場合、交流磁界による渦電流効果を利用して生体を伝播するイオンを生体表面に誘導し、前記生体表面のイオンの全体的な流れが作る磁界を検出することができる。
【0010】
また、請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか一に記載の生体信号検出装置において、前記磁気センサを生体周辺に複数箇所に設置することにより外乱磁界の影響やアーチファクトを軽減することを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれか一に記載の生体信号検出装置が、携帯型装置の携帯者、または、輸送物に搭乗する乗員の生体信号を検出できるように、携帯型装置または輸送物に設置されていることを特徴とする。
それにより、生体信号検出装置を携帯型装置内部や輸送物内部に設置し、携帯端末の携帯者や乗員の生体信号を日常的に計測することができる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る生体信号検出装置によれば、SQUID磁束計を用いるような生体磁気センシング装置に比べて、特別な磁気シールド装置を必要しないこと、或いは、心電計等に比べると、電極が不用で小型化が可能なため、被測定者にストレスや不快感を与えず、しかも汗などの影響を受けにくい等の効果がある。
【0013】
また、請求項2の発明に係る生体信号検出装置によれば、交流磁界によって体内に誘導される電流は生体表面近傍に誘導されるので、生体表面に近接または接触した磁気検出部を備えた磁気センサにより生体の信号を感度良く検出できる。
【0014】
また、請求項3の発明に係る生体信号検出装置によれば、磁気検知部分が印加磁界の影響を受けず、交流印加磁界により生体内に誘導された全体的あるいは局所的な電流による磁界のみを検出することにより、細胞の活動により変化する体液中のイオンの変動に関する正確な信号を得る。
【0015】
また、請求項4の発明に係る生体信号検出装置によれば、高周波磁界印加による生体渦電流の効果を利用して、細胞の活動電位進行方向に伝播する体液中のイオンの全体的な流れを生体表面近傍に誘導し、前記生体表面近傍のイオンの全体的な流れによりビオ・サバールの法則に従った磁界が作られるため、生体表面の磁界の検出により、活動電位進行方向に伝播するイオンの全体の流れに比例した信号波形が感度良く得られる。
【0016】
また、請求項5の発明に係る生体信号装置によれば、磁気検出部を生体周辺に複数箇所に設置されているので、生体信号を日常生活における種々の環境で正確に検出できる。
【0017】
また、請求項6の発明に係る生体信号装置によれば、携帯型装置または輸送物に設置されているので、生体情報を日常的に計測することにより、急性心筋梗塞、不整脈、眠気などの体調の変化や、あるいは生活習慣病やうつ病、および痴呆症に関する知見が得られるので、その知見に基づき治療が施されることにより、患者の症状が改善するという効果を奏する。
また、車両等の輸送物を運転する運転手の生体情報を入手できるので、運転手の生体情報から急性心筋梗塞、不整脈、眠気などの体調の変化や、あるいは生活習慣病やうつ病、および痴呆症に関する知見が得られるので、例えば適切な警告を運転手に対し伝える構成を採用することにより、輸送の安全が図られ、輸送の安全に寄与するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、生体信号を電磁気的に検出する生体信号検出装置に関し、発明を実施するための最良の形態につき説明する。
生体信号検出装置は、生体に高周波磁界を印加する印加部を備えている。生体信号検出装置は、印加部から生体に対し印加された高周波磁界によって生体表面近傍に誘導された電流による磁界に対応した信号を出力可能となるように構成されている磁気センサを備えている。
高周波磁界印加部分と磁気検出部分は磁気的に直交するような空間的な配置が望ましい。また、磁気センサは、パルス電流を通電する磁性線に巻回した検出コイルを有し、磁性線を生体表面に近接して水平に設置するのが望ましく、また、前記磁気センサは生体周辺に複数箇所に設置されるのが望ましい。上記生体信号検出装置は、携帯型装置の携帯者、または、輸送物に搭乗する乗員の生体信号を検出できるように、携帯型装置または輸送物に設置されているのが望ましい。
【0019】
(実施例1)
次に、発明を実施するための実施例につき、図面を参照しつつ説明する。
図1は、生体信号検出装置の一例として、心電計測装置10の構成を示す図である。図1に示すように、生体に印加する高周波磁界発生部分と磁界検知部分を一体化させた磁気ヘッド12を体の水平方向に胸部付近で体表面に近接させ、磁気センサ出力を帯域幅0.2Hzから200Hzのバンドパスフィルタおよび60Hzのノッチフィルタに通して、環境のノイズの影響を減じた信号波形をディジタルオシロスコープに記録した。被験者は椅子に座った状態で、実験室に特別な磁気シールドは施さなかった。
【0020】
図2に磁気ヘッド12およびセンサ回路14の構成を示す。磁気ヘッド12はアモルファス磁性金属線40aとそのアモルファス磁性金属線40aにパルス電流を通電し、生体表面ほぼ水平方向の高周波磁界を生体内に印加する高周波磁界印加部分と、アモルファス磁性金属線40aにパルス電流を通電したときそのアモルファス磁性線40aのインピーダンスを検出するためにそのアモルファス磁性金属線40aに巻回されたピックアップコイル40bを備える磁気検知部分とからなる。
センサ回路14は、発信器42から出力されるクロック信号に基づいて上記アモルファス磁性金属線40aにパルス電流を付与するアンプ44と、アモルファス磁性金属線40aに巻回されているピックアップコイル40bに誘導される電圧信号を発振回路に同期して保持するサンプルホールド回路48とサンプルホールド回路48から出力される前記電圧信号と基準電圧を比較し出力する差動増幅器52を備えている。以上、前記磁気ヘッドと前記センサ回路により、前記磁気検知部分の磁界によるインピーダンスの変化を直流電圧に変換して出力するMI磁気センサを構成している。上記アモルファス磁性金属線40aはたとえば520℃で2秒アニールを施した1cm長のFeCoSiBアモルファスワイヤであり、ピックアップコイル40bはたとえば巻き数が600ターンのソレノイドである。
【0021】
図3は、1cmのアモルファスワイヤ(CoFeSiB)に100ターンのピックアップコイルを巻いたMI磁気センサの磁界検出特性を示す。(a)はシールドボックス内での測定結果であり、特に磁界によるフィードバックは施していないが、±4.5 mG(±450nT)の磁界範囲で良い直線性が得られている。(b)は、±4.5 ×10-5G(±4.5nT)の5Hz正弦磁界に対する出力応答を示している。若干の波形の乱れが観測されるが、1nTレベルまでの磁場の検出が可能であることが分かる。しかし、心電波形を得るために心磁気の変動を測定する場合には、これまでのSUID磁束計の測定結果から、少なくとも、100pTの分解能が望ましい。そこで、心電計測装置では、さらに高感度化を図るため、1cm長のアモルファスワイヤに600ターンのコイルを巻いた磁気ヘッドを使用した。
【0022】
図4(a)および(b)は、上記心電計測装置10によりシャツを脱いだ状態で心電波形が記録された例を示す。この波形によればR波のピークが明瞭に観測される。センサ出力の0.1Vを磁場に換算した値は10nTであり、これはこれまでにSQUID磁束計によって得られた心磁場R波のピークに比べて約100倍大きな値である。図4(c)および(b)は、上記心電計測装置10によりデニムシャツを着用した状態で心電波形が記録された例である。
【0023】
生体に対する高周波磁界の印加により、心筋の興奮に伴う磁界の大きさが、胸部表面近傍で増幅されるメカニズムを以下に説明する。図5はイオンの出入りと心室筋の電位の関係を示すものである。細胞は細胞膜のもつイオンの選択的透過性により、細胞膜を介して電位差が生ずる。興奮性の細胞は一過性に膜電位が変動する性質を有し、これが興奮の伝達に密接に関連している。心筋細胞が刺激され、膜電位が閾膜電位を超えるとNaチャネルが開き、Na+が細胞内に流入する(内向き電流)。このナトリウムチャネルが開いているのは極めて短い時間(1〜数m秒)にすぎず、Na+は一瞬しか入らない。Naチャネルが閉じたあと膜電位が高い状態になるとCaチャネルが開いてCa2+が細胞外から細胞内にゆっくりと移動する。その後膜電位がゆっくりと下がって細胞内電位が0に近づくとKチャネルが開いてK+イオンの流失が一時的に増え、これによって元の静止状態に戻る。
【0024】
図6は、アモルファス金属細線に高周波電流を流して生ずる高周波磁場と体液中のイオンの運動の関係を模式的に描いたものである。細胞はお互いに絶縁膜で仕切られているため、印加された高周波磁界を打ち消す方向に体液内のイオンが円運動をする渦電流はイオンの全体的な流れに比して局所的である。体液中のイオンによる局所的な渦電流を磁気モーメントとみなせば、磁気モーメントの向きと生体に印加された高周波磁場の向きは常に反平行なので前記体液中のイオンの全体的な流れは、生体表面に引き寄せられる。心筋の表面に誘導された体液中のイオンの全体的な流れは心筋の興奮が伝播する方向であり、前記イオンの流れをダイポール電流とすれば、図7のダイポール電流モデルにより形成される磁場は、ダイポール電流から磁気センサまでの距離の距離をrとしてビオ・サバールの法則により次の数式(1)式で示される。
【0025】
数式1
【数1】
μo 真空中の透磁率
r センサの位置ベクトル
r’ 電流源の位置ベクトル
B(r) 位置 r における磁束密度
Qi(r’) 点 r’に存在するダイポールの電流モーメント
【0026】
このように、生体に印加する高周波磁界による渦電流効果により、体液中のイオンの全体的な流れを生体表面近傍に誘導すると、上記体液中のイオンの全体的な流れによる磁界が、イオンの全体的な流れから磁気ヘッド位置までの距離の2乗に反比例して増加する。
【0027】
図8は、イオンの局所的な円運動による磁気モーメントが作る磁力線を説明する模式図である。前記磁気モーメントは、その方向が高周波磁界印加方向と反並行であり心電計測装置10の場合に、前記磁気モーメントよる磁界が磁気検知部分に亘って零となるような磁気ヘッドの設定方法は、イオンの全体的な流れの位置を磁気ヘッドの中心とするものである。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の磁気ヘッド12は、高周波磁界発生部分と磁気を検知する部分を一体化し、胸部表面に近接して水平に設定されているので、磁気ヘッド12は、生体表面にほぼ水平方向に生体内に高周波磁界を与え、心筋表面に体液中のイオンの全体的な流れを誘導し、高周波磁界印加方向に直交かつ胸部表面に水平に設置した磁界検知部分により、心筋活動電位の進行方向に伝播する体液中のイオンの全体的な流れに比例した磁界の信号を感度良く得る。
【0029】
図9は、磁気ヘッドの体表面からの距離を4mmおよび6mmとした場合の心電計測装置10の出力波形である。距離とともにほぼ2乗に比例してセンサ出力信号は減衰するが、通常の実験室のノイズの環境で、胸部からのセンサヘッドの距離が6mm以下で心拍にともなう心電出力信号のR波ピークが観測されるので、上記生体信号計測装置10は非接触心電計としての動作ができる。
【0030】
図10は、2004年に松山で開催された、日本ME学会において岡山大学工学部の楠野らによって報告された、SQUID磁束計による心磁場の大きさの距離依存性の測定結果である。横軸は、検出コイルから体表面までの距離、縦軸が心磁場のR波の最大値である。このデータに単一のダイポールモーメントを仮定して(1)式を当てはめると、ダイポールモーメントQとして、Q=2.34μA・mが得られる。
【0031】
図11は、Q=2.34μA・mおよびダイポール電流の体表面からの深さd0を1.5mmと仮定してモデル計算した磁場の大きさと、心電計測器10の出力最大値を磁場に換算して、体表面からの距離の依存性として表した結果を比較して示す。渦電流の効果により、体液中のイオンの全体的流れが体表面に誘導されるとすれば、両者は誤差の範囲内で定量的に一致することが分かる。
【0032】
(実施例2)
実施例1においては、生体に高周波磁界を印加する渦電流効果を利用して体液中のイオンの全体的な流れを生体表面近傍に誘導し、細胞活動電位の方向のイオンの全体的な流れが作る磁界を高感度に検出し、前記局所的な渦電流による磁界は検知しないことを理想としたが、実施例2は、次のような構成にする。
【0033】
実施例2は、細胞活動電位方向に流れる全体的なイオンの電流は検知せず、生体に印加された高周波磁界による局所的な渦電流が作る磁界を検出する生体信号計測装置の一例として渦電流心拍計測装置20を図12に示す。この検出方法によれば生体信号の検出に関して、地磁気等の低周波の環境磁界による雑音の影響を軽減できる利点がある。
【0034】
渦電流心拍計測装置20は、図1の計測システムの磁気ヘッド12の代わりに、図12に示す渦電流検出ヘッド22を用いたものである。
【0035】
図13に渦電流検出ヘッド22およびセンサ回路の構成を示す。渦電流検出ヘッド22は円形導線60aを生体表面に平行に設置し、その円形導線60aにパルス電流を通電する高周波磁界印加部分と、高周波磁界を印加したときに生体に流れる渦電流による磁界を検出するために、その長軸を円形導線が含まれる平面と同一平面に設置した、空心ソレノイド60bによる磁気検出部分を備える。空心のピックアップコイル60bの長さおよび、巻き数はたとえばそれぞれ1cmおよび150ターンとする。生体に流れる渦電流が作る磁界の時間的な変化により電圧が誘起される空心ソレノイド60bと、その誘起された電圧の振幅を同期整流するセンサ回路により、渦電流が作る磁界に比例した直流電圧を出力する渦電流磁気センサを構成している。前記渦電流磁気センサの出力を帯域幅0.2Hzから200Hzのバンドパスフィルタおよび60Hzのノッチフィルタに通して、環境のノイズの影響を減じた信号波形を記録した。
【0036】
図14(a)は、渦電流心拍計測装置20によりシャツを脱いだ状態で心拍変動による波形が記録された例を示す。図14(a)の波形によればR波のピークか明瞭ではないが、心電計測装置10により記録した図14(b)の波形とその周期が互いに一致していることが分かる。
【0037】
生体表面の渦電流の磁界の計測により心拍変動に同期した波形が得られる理由は、渦電流は物質の電気伝導率に比例して流れ、体液ではイオン濃度が高いほど電気伝導率が高く、心筋の活動により局所的な細胞のイオンの濃度が変化するためである。図14(a)の振動波形の持続時間約0.4sは、図4に示した心室筋の活動電位の持続時間に相当し、この間に細胞内外へのイオンの出入りが活発である。
【0038】
実施例1による図3の心電波形にも渦電流磁界成分による波形ノイズの影響が考えられる。
【0039】
渦電流磁界による波形ノイズの影響を図3に例示した心電計測装置10による心電波形から取り除く必要がある場合には、磁気ヘッド12とほぼ同じ場所においた空心コイルからの出力信号を利用すれば良い。
【0040】
心電計測装置10における磁気ヘッドは図2のように構成されていたが、その高周波発生部分が生体内部に高周波磁界を与え、心筋表面に体液中のイオンの全体的な流れを誘導するものであり、その磁気検出部分が、心筋表面に誘導されたイオンの全体的な流れによる磁界を感度良く検出できるものであれば、どのような構成でも良い。
【0041】
渦電流磁気センサは図13に示すように構成されていたが、高周波磁界印加部分と渦電流磁界検出部分がお互いに磁気的に直交していればどのような構成でも良い。また磁気的な直交が不完全な構造の場合は、渦電流磁気センサの出力信号から信号処理により高周波印加磁界の影響を取り除いても良い。
【0042】
なお、前述したのはあくまでも例示であり、必要に応じて適宜変更され得る。その他、一々例示はしないが本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得るものである。例えば筋電あるいは脳波などの生体信号を電磁気的に検出するように構成してもよい。また、図15に示すように、生体信号検出装置を携帯装置内に設置しても良いし、図16に示すように生体信号検出装置を車両内のシートベルトに設置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】生体信号検出装置の一例として、心電計測装置の構成を示す図である。
【図2】磁気ヘッドおよびセンサ回路の構成を示す図である。
【図3】磁気ヘッドとセンサ回路から構成される磁気センサの特性を示す図である。
【図4】心電計測装置によりシャツを脱いだ状態およびシャツを着用した状態で心電波形が記録された例を示す図である。
【図5】イオンの出入りと心室筋の電位の関係を示す図である。
【図6】アモルファス金属細線に高周波電流を流して生ずる高周波磁場と体液中のイオンの運動の関係を模式的に描いた図である。
【図7】ダイポール電流モデルにより形成される磁場を示す図である。
【図8】イオンの局所的な円運動による磁気モーメントが作る磁力線を説明する模式図である。
【図9】磁気ヘッドの生体表面からの距離を4mmおよび6mmとした場合の心電計測装置の出力波形図である。
【図10】SQUID磁束計による心磁場の大きさの距離依存性の測定結果を示す図である。
【図11】本実施例の心電計測器の出力最大値を磁場に換算して、体表面からの距離の依存性として表した結果をモデル計算と比較して示す図である。
【図12】生体信号検出装置の一例として、渦電流心拍計測装置の構成を示す図である。
【図13】渦電流検出ヘッドおよびセンサ回路の構成を示す図である。
【図14】渦電流心拍計測装置によりシャツを脱いだ状態で心拍変動による波形が記録された例を示す図である。
【図15】生体信号検出装置を、携帯装置に設置した場合の例を示す図である。
【図16】生体信号検出装置を、シートベルトに設置した場合の例を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 心電計測装置 12 磁気ヘッド 14 センサ回路
40a アモルファス磁性金属線 40b ピックアップコイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば心電や筋電あるいは脳波などの生体信号を電磁気的に検出する生体信号検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体情報センシングは、遠隔健康管理・介護システム等において利用されることが検討されつつあり、特に、情報通信システムを利用した医療分野において利用される可能性が高い。そのため、生体信号情報検出用のセンサのマイクロ化及び低消費電力化の必要性が指摘されている。また、自動車の安全システムの高度化においても、ドライバーの疲れや眠気等を検出するために、生体信号の検出技術は重要である。
磁気センサを用いて生体信号を検出する装置としては、特許文献1に示されるSQUID磁束計、或いは電気的に生体信号を検出する装置としては特許文献2に示される導電シートとLC発振回路による検出装置、特許文献3に示される圧力検出方式、または従来型の心電計などがある。
【特許文献1】特開2001-29320号公報
【特許文献2】特開2007-29388号公報
【特許文献3】特開2002-058653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
磁気センサを用いて生体情報を検出する方式として、生体磁気を検出する方法は従来から知られている。そのセンシングデバイスとして主にSQUID磁束計が用いられてきたが、検出信号のレベルが微弱なため日常の生活環境での計測は難しかった。また、電気的に生体信号を検出する装置では、装置が大掛かりである、或いは、体表面に電極の接続を必要とするなどの要因により、被測定者にストレスや不快感を与えることが多いため、日常の生体情報を長時間に亘り連続的に測定することは困難であった。
【0004】
以上の事情を考慮した結果、被測定者にストレスや不快感を与えず、生体信号を日常的に検出する装置を提供することが重要であることを認識し、そのため種々の検討を重ねたのである。
【0005】
そして、種々検討を重ねた結果、生体に交流磁界を印加する印加部と、前記印加部から前記生体に対し印加された交流磁界によって生体内に誘導される電流による磁界を検出可能な磁気検出部とを備えた装置により、生体活動に伴う生体表面の電気的特性変化を出力信号として検出できることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて為されたものであって、この方法を採用することで、被測定者にストレスや不快感を与えず、生体信号を日常的に検出可能な生体信号検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための請求項1に係る発明によれば、生体信号を電磁気的に検出する生体信号検出装置において、生体に交流磁界を印加する印加部と、前記印加部から前記生体に対し印加された交流磁界によって生体内に誘導された電流による磁界に対応した信号を出力可能となるように構成されている磁気センサを備えることを特徴とする。
請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a)生体表面の電磁気的変化を検出するための生体信号測定装置であること、(b)生体に交流磁界を印加して生体内に電流を誘導すること、(c)前記生体内に誘導された電流による磁界を検知する磁気センサ部分を含むことにある。
このような構成の場合、交流磁界を生体に印加して体内に体液に含まれるイオンによる全体的あるいは局所的な流れを誘導し、前記イオンの全体的あるいは局所的な流れが作る磁界を検出可能な磁気センサを備えているため、前記体液に含まれるイオンの変動に関係した信号が得られ、SQUID磁束計を用いるような生体磁気センシング装置に比べて、特別な磁気シールド装置を必要しないこと、或いは、心電計等に比べると、電極が不用で小型化が可能なため、被測定者にストレスや不快感を与えず、しかも汗などの影響を受けにくい等の効果がある。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載された生体信号検出装置において、記交流磁界によって体内に誘導される電流が生体表面近傍に誘導されることを特徴とする。
この場合、交流磁界により生体に誘導される電流は、前記電流が作る磁界を、体外から磁気センサを用いて感度良く検出が可能となるように、体表面近傍に誘導される。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載された生体信号検出装置において、前記交流磁界の印加部は磁気センサと磁気的に直交するような空間的な配置することを特徴とする。
このように交流磁界印加部分と磁気センサを磁気的に直交する空間的な配置とすることにより、磁気センサでは前記交流印加磁界の影響を受けず、前記交流印加磁界により生体内に誘導された電流による磁界のみを検出することができる。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか一の発明において、前記磁気センサは、パルス電流を通電する磁性線を巻回した検出コイルを有し、磁性線を生体表面に近接して水平に設置することを特徴とする。
磁性線にパルス電流を流す素子を用いて前記交流磁界発生部分と磁気を検知する部分を一体化し、磁気信号の検出部として前記磁性線に巻回した検出コイルを用いる場合、交流磁界による渦電流効果を利用して生体を伝播するイオンを生体表面に誘導し、前記生体表面のイオンの全体的な流れが作る磁界を検出することができる。
【0010】
また、請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか一に記載の生体信号検出装置において、前記磁気センサを生体周辺に複数箇所に設置することにより外乱磁界の影響やアーチファクトを軽減することを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれか一に記載の生体信号検出装置が、携帯型装置の携帯者、または、輸送物に搭乗する乗員の生体信号を検出できるように、携帯型装置または輸送物に設置されていることを特徴とする。
それにより、生体信号検出装置を携帯型装置内部や輸送物内部に設置し、携帯端末の携帯者や乗員の生体信号を日常的に計測することができる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係る生体信号検出装置によれば、SQUID磁束計を用いるような生体磁気センシング装置に比べて、特別な磁気シールド装置を必要しないこと、或いは、心電計等に比べると、電極が不用で小型化が可能なため、被測定者にストレスや不快感を与えず、しかも汗などの影響を受けにくい等の効果がある。
【0013】
また、請求項2の発明に係る生体信号検出装置によれば、交流磁界によって体内に誘導される電流は生体表面近傍に誘導されるので、生体表面に近接または接触した磁気検出部を備えた磁気センサにより生体の信号を感度良く検出できる。
【0014】
また、請求項3の発明に係る生体信号検出装置によれば、磁気検知部分が印加磁界の影響を受けず、交流印加磁界により生体内に誘導された全体的あるいは局所的な電流による磁界のみを検出することにより、細胞の活動により変化する体液中のイオンの変動に関する正確な信号を得る。
【0015】
また、請求項4の発明に係る生体信号検出装置によれば、高周波磁界印加による生体渦電流の効果を利用して、細胞の活動電位進行方向に伝播する体液中のイオンの全体的な流れを生体表面近傍に誘導し、前記生体表面近傍のイオンの全体的な流れによりビオ・サバールの法則に従った磁界が作られるため、生体表面の磁界の検出により、活動電位進行方向に伝播するイオンの全体の流れに比例した信号波形が感度良く得られる。
【0016】
また、請求項5の発明に係る生体信号装置によれば、磁気検出部を生体周辺に複数箇所に設置されているので、生体信号を日常生活における種々の環境で正確に検出できる。
【0017】
また、請求項6の発明に係る生体信号装置によれば、携帯型装置または輸送物に設置されているので、生体情報を日常的に計測することにより、急性心筋梗塞、不整脈、眠気などの体調の変化や、あるいは生活習慣病やうつ病、および痴呆症に関する知見が得られるので、その知見に基づき治療が施されることにより、患者の症状が改善するという効果を奏する。
また、車両等の輸送物を運転する運転手の生体情報を入手できるので、運転手の生体情報から急性心筋梗塞、不整脈、眠気などの体調の変化や、あるいは生活習慣病やうつ病、および痴呆症に関する知見が得られるので、例えば適切な警告を運転手に対し伝える構成を採用することにより、輸送の安全が図られ、輸送の安全に寄与するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、生体信号を電磁気的に検出する生体信号検出装置に関し、発明を実施するための最良の形態につき説明する。
生体信号検出装置は、生体に高周波磁界を印加する印加部を備えている。生体信号検出装置は、印加部から生体に対し印加された高周波磁界によって生体表面近傍に誘導された電流による磁界に対応した信号を出力可能となるように構成されている磁気センサを備えている。
高周波磁界印加部分と磁気検出部分は磁気的に直交するような空間的な配置が望ましい。また、磁気センサは、パルス電流を通電する磁性線に巻回した検出コイルを有し、磁性線を生体表面に近接して水平に設置するのが望ましく、また、前記磁気センサは生体周辺に複数箇所に設置されるのが望ましい。上記生体信号検出装置は、携帯型装置の携帯者、または、輸送物に搭乗する乗員の生体信号を検出できるように、携帯型装置または輸送物に設置されているのが望ましい。
【0019】
(実施例1)
次に、発明を実施するための実施例につき、図面を参照しつつ説明する。
図1は、生体信号検出装置の一例として、心電計測装置10の構成を示す図である。図1に示すように、生体に印加する高周波磁界発生部分と磁界検知部分を一体化させた磁気ヘッド12を体の水平方向に胸部付近で体表面に近接させ、磁気センサ出力を帯域幅0.2Hzから200Hzのバンドパスフィルタおよび60Hzのノッチフィルタに通して、環境のノイズの影響を減じた信号波形をディジタルオシロスコープに記録した。被験者は椅子に座った状態で、実験室に特別な磁気シールドは施さなかった。
【0020】
図2に磁気ヘッド12およびセンサ回路14の構成を示す。磁気ヘッド12はアモルファス磁性金属線40aとそのアモルファス磁性金属線40aにパルス電流を通電し、生体表面ほぼ水平方向の高周波磁界を生体内に印加する高周波磁界印加部分と、アモルファス磁性金属線40aにパルス電流を通電したときそのアモルファス磁性線40aのインピーダンスを検出するためにそのアモルファス磁性金属線40aに巻回されたピックアップコイル40bを備える磁気検知部分とからなる。
センサ回路14は、発信器42から出力されるクロック信号に基づいて上記アモルファス磁性金属線40aにパルス電流を付与するアンプ44と、アモルファス磁性金属線40aに巻回されているピックアップコイル40bに誘導される電圧信号を発振回路に同期して保持するサンプルホールド回路48とサンプルホールド回路48から出力される前記電圧信号と基準電圧を比較し出力する差動増幅器52を備えている。以上、前記磁気ヘッドと前記センサ回路により、前記磁気検知部分の磁界によるインピーダンスの変化を直流電圧に変換して出力するMI磁気センサを構成している。上記アモルファス磁性金属線40aはたとえば520℃で2秒アニールを施した1cm長のFeCoSiBアモルファスワイヤであり、ピックアップコイル40bはたとえば巻き数が600ターンのソレノイドである。
【0021】
図3は、1cmのアモルファスワイヤ(CoFeSiB)に100ターンのピックアップコイルを巻いたMI磁気センサの磁界検出特性を示す。(a)はシールドボックス内での測定結果であり、特に磁界によるフィードバックは施していないが、±4.5 mG(±450nT)の磁界範囲で良い直線性が得られている。(b)は、±4.5 ×10-5G(±4.5nT)の5Hz正弦磁界に対する出力応答を示している。若干の波形の乱れが観測されるが、1nTレベルまでの磁場の検出が可能であることが分かる。しかし、心電波形を得るために心磁気の変動を測定する場合には、これまでのSUID磁束計の測定結果から、少なくとも、100pTの分解能が望ましい。そこで、心電計測装置では、さらに高感度化を図るため、1cm長のアモルファスワイヤに600ターンのコイルを巻いた磁気ヘッドを使用した。
【0022】
図4(a)および(b)は、上記心電計測装置10によりシャツを脱いだ状態で心電波形が記録された例を示す。この波形によればR波のピークが明瞭に観測される。センサ出力の0.1Vを磁場に換算した値は10nTであり、これはこれまでにSQUID磁束計によって得られた心磁場R波のピークに比べて約100倍大きな値である。図4(c)および(b)は、上記心電計測装置10によりデニムシャツを着用した状態で心電波形が記録された例である。
【0023】
生体に対する高周波磁界の印加により、心筋の興奮に伴う磁界の大きさが、胸部表面近傍で増幅されるメカニズムを以下に説明する。図5はイオンの出入りと心室筋の電位の関係を示すものである。細胞は細胞膜のもつイオンの選択的透過性により、細胞膜を介して電位差が生ずる。興奮性の細胞は一過性に膜電位が変動する性質を有し、これが興奮の伝達に密接に関連している。心筋細胞が刺激され、膜電位が閾膜電位を超えるとNaチャネルが開き、Na+が細胞内に流入する(内向き電流)。このナトリウムチャネルが開いているのは極めて短い時間(1〜数m秒)にすぎず、Na+は一瞬しか入らない。Naチャネルが閉じたあと膜電位が高い状態になるとCaチャネルが開いてCa2+が細胞外から細胞内にゆっくりと移動する。その後膜電位がゆっくりと下がって細胞内電位が0に近づくとKチャネルが開いてK+イオンの流失が一時的に増え、これによって元の静止状態に戻る。
【0024】
図6は、アモルファス金属細線に高周波電流を流して生ずる高周波磁場と体液中のイオンの運動の関係を模式的に描いたものである。細胞はお互いに絶縁膜で仕切られているため、印加された高周波磁界を打ち消す方向に体液内のイオンが円運動をする渦電流はイオンの全体的な流れに比して局所的である。体液中のイオンによる局所的な渦電流を磁気モーメントとみなせば、磁気モーメントの向きと生体に印加された高周波磁場の向きは常に反平行なので前記体液中のイオンの全体的な流れは、生体表面に引き寄せられる。心筋の表面に誘導された体液中のイオンの全体的な流れは心筋の興奮が伝播する方向であり、前記イオンの流れをダイポール電流とすれば、図7のダイポール電流モデルにより形成される磁場は、ダイポール電流から磁気センサまでの距離の距離をrとしてビオ・サバールの法則により次の数式(1)式で示される。
【0025】
数式1
【数1】
μo 真空中の透磁率
r センサの位置ベクトル
r’ 電流源の位置ベクトル
B(r) 位置 r における磁束密度
Qi(r’) 点 r’に存在するダイポールの電流モーメント
【0026】
このように、生体に印加する高周波磁界による渦電流効果により、体液中のイオンの全体的な流れを生体表面近傍に誘導すると、上記体液中のイオンの全体的な流れによる磁界が、イオンの全体的な流れから磁気ヘッド位置までの距離の2乗に反比例して増加する。
【0027】
図8は、イオンの局所的な円運動による磁気モーメントが作る磁力線を説明する模式図である。前記磁気モーメントは、その方向が高周波磁界印加方向と反並行であり心電計測装置10の場合に、前記磁気モーメントよる磁界が磁気検知部分に亘って零となるような磁気ヘッドの設定方法は、イオンの全体的な流れの位置を磁気ヘッドの中心とするものである。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の磁気ヘッド12は、高周波磁界発生部分と磁気を検知する部分を一体化し、胸部表面に近接して水平に設定されているので、磁気ヘッド12は、生体表面にほぼ水平方向に生体内に高周波磁界を与え、心筋表面に体液中のイオンの全体的な流れを誘導し、高周波磁界印加方向に直交かつ胸部表面に水平に設置した磁界検知部分により、心筋活動電位の進行方向に伝播する体液中のイオンの全体的な流れに比例した磁界の信号を感度良く得る。
【0029】
図9は、磁気ヘッドの体表面からの距離を4mmおよび6mmとした場合の心電計測装置10の出力波形である。距離とともにほぼ2乗に比例してセンサ出力信号は減衰するが、通常の実験室のノイズの環境で、胸部からのセンサヘッドの距離が6mm以下で心拍にともなう心電出力信号のR波ピークが観測されるので、上記生体信号計測装置10は非接触心電計としての動作ができる。
【0030】
図10は、2004年に松山で開催された、日本ME学会において岡山大学工学部の楠野らによって報告された、SQUID磁束計による心磁場の大きさの距離依存性の測定結果である。横軸は、検出コイルから体表面までの距離、縦軸が心磁場のR波の最大値である。このデータに単一のダイポールモーメントを仮定して(1)式を当てはめると、ダイポールモーメントQとして、Q=2.34μA・mが得られる。
【0031】
図11は、Q=2.34μA・mおよびダイポール電流の体表面からの深さd0を1.5mmと仮定してモデル計算した磁場の大きさと、心電計測器10の出力最大値を磁場に換算して、体表面からの距離の依存性として表した結果を比較して示す。渦電流の効果により、体液中のイオンの全体的流れが体表面に誘導されるとすれば、両者は誤差の範囲内で定量的に一致することが分かる。
【0032】
(実施例2)
実施例1においては、生体に高周波磁界を印加する渦電流効果を利用して体液中のイオンの全体的な流れを生体表面近傍に誘導し、細胞活動電位の方向のイオンの全体的な流れが作る磁界を高感度に検出し、前記局所的な渦電流による磁界は検知しないことを理想としたが、実施例2は、次のような構成にする。
【0033】
実施例2は、細胞活動電位方向に流れる全体的なイオンの電流は検知せず、生体に印加された高周波磁界による局所的な渦電流が作る磁界を検出する生体信号計測装置の一例として渦電流心拍計測装置20を図12に示す。この検出方法によれば生体信号の検出に関して、地磁気等の低周波の環境磁界による雑音の影響を軽減できる利点がある。
【0034】
渦電流心拍計測装置20は、図1の計測システムの磁気ヘッド12の代わりに、図12に示す渦電流検出ヘッド22を用いたものである。
【0035】
図13に渦電流検出ヘッド22およびセンサ回路の構成を示す。渦電流検出ヘッド22は円形導線60aを生体表面に平行に設置し、その円形導線60aにパルス電流を通電する高周波磁界印加部分と、高周波磁界を印加したときに生体に流れる渦電流による磁界を検出するために、その長軸を円形導線が含まれる平面と同一平面に設置した、空心ソレノイド60bによる磁気検出部分を備える。空心のピックアップコイル60bの長さおよび、巻き数はたとえばそれぞれ1cmおよび150ターンとする。生体に流れる渦電流が作る磁界の時間的な変化により電圧が誘起される空心ソレノイド60bと、その誘起された電圧の振幅を同期整流するセンサ回路により、渦電流が作る磁界に比例した直流電圧を出力する渦電流磁気センサを構成している。前記渦電流磁気センサの出力を帯域幅0.2Hzから200Hzのバンドパスフィルタおよび60Hzのノッチフィルタに通して、環境のノイズの影響を減じた信号波形を記録した。
【0036】
図14(a)は、渦電流心拍計測装置20によりシャツを脱いだ状態で心拍変動による波形が記録された例を示す。図14(a)の波形によればR波のピークか明瞭ではないが、心電計測装置10により記録した図14(b)の波形とその周期が互いに一致していることが分かる。
【0037】
生体表面の渦電流の磁界の計測により心拍変動に同期した波形が得られる理由は、渦電流は物質の電気伝導率に比例して流れ、体液ではイオン濃度が高いほど電気伝導率が高く、心筋の活動により局所的な細胞のイオンの濃度が変化するためである。図14(a)の振動波形の持続時間約0.4sは、図4に示した心室筋の活動電位の持続時間に相当し、この間に細胞内外へのイオンの出入りが活発である。
【0038】
実施例1による図3の心電波形にも渦電流磁界成分による波形ノイズの影響が考えられる。
【0039】
渦電流磁界による波形ノイズの影響を図3に例示した心電計測装置10による心電波形から取り除く必要がある場合には、磁気ヘッド12とほぼ同じ場所においた空心コイルからの出力信号を利用すれば良い。
【0040】
心電計測装置10における磁気ヘッドは図2のように構成されていたが、その高周波発生部分が生体内部に高周波磁界を与え、心筋表面に体液中のイオンの全体的な流れを誘導するものであり、その磁気検出部分が、心筋表面に誘導されたイオンの全体的な流れによる磁界を感度良く検出できるものであれば、どのような構成でも良い。
【0041】
渦電流磁気センサは図13に示すように構成されていたが、高周波磁界印加部分と渦電流磁界検出部分がお互いに磁気的に直交していればどのような構成でも良い。また磁気的な直交が不完全な構造の場合は、渦電流磁気センサの出力信号から信号処理により高周波印加磁界の影響を取り除いても良い。
【0042】
なお、前述したのはあくまでも例示であり、必要に応じて適宜変更され得る。その他、一々例示はしないが本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得るものである。例えば筋電あるいは脳波などの生体信号を電磁気的に検出するように構成してもよい。また、図15に示すように、生体信号検出装置を携帯装置内に設置しても良いし、図16に示すように生体信号検出装置を車両内のシートベルトに設置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】生体信号検出装置の一例として、心電計測装置の構成を示す図である。
【図2】磁気ヘッドおよびセンサ回路の構成を示す図である。
【図3】磁気ヘッドとセンサ回路から構成される磁気センサの特性を示す図である。
【図4】心電計測装置によりシャツを脱いだ状態およびシャツを着用した状態で心電波形が記録された例を示す図である。
【図5】イオンの出入りと心室筋の電位の関係を示す図である。
【図6】アモルファス金属細線に高周波電流を流して生ずる高周波磁場と体液中のイオンの運動の関係を模式的に描いた図である。
【図7】ダイポール電流モデルにより形成される磁場を示す図である。
【図8】イオンの局所的な円運動による磁気モーメントが作る磁力線を説明する模式図である。
【図9】磁気ヘッドの生体表面からの距離を4mmおよび6mmとした場合の心電計測装置の出力波形図である。
【図10】SQUID磁束計による心磁場の大きさの距離依存性の測定結果を示す図である。
【図11】本実施例の心電計測器の出力最大値を磁場に換算して、体表面からの距離の依存性として表した結果をモデル計算と比較して示す図である。
【図12】生体信号検出装置の一例として、渦電流心拍計測装置の構成を示す図である。
【図13】渦電流検出ヘッドおよびセンサ回路の構成を示す図である。
【図14】渦電流心拍計測装置によりシャツを脱いだ状態で心拍変動による波形が記録された例を示す図である。
【図15】生体信号検出装置を、携帯装置に設置した場合の例を示す図である。
【図16】生体信号検出装置を、シートベルトに設置した場合の例を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
10 心電計測装置 12 磁気ヘッド 14 センサ回路
40a アモルファス磁性金属線 40b ピックアップコイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体信号を電磁気的に検出する生体信号検出装置において、
生体に交流磁界を印加する印加部と、
前記印加部から前記生体に対し印加された交流磁界によって生体内に誘導された電流による磁界に対応した信号を出力可能となるように構成されている磁気センサを備えることを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載された生体信号検出装置において、
前記交流磁界によって体内に誘導される電流が生体表面近傍に誘導されることを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された生体信号検出装置において、
前記交流磁界を印加するための印加部は、前記磁気センサと磁気的に直交するような空間的な配置となることを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載された生体信号検出装置において、
前記磁気センサは、パルス電流を通電する磁性線を巻回した検出コイルを有し、磁性線を生体表面に近接して水平に設置することを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載された生体信号検出装置において、
前記磁気センサを生体周辺の複数箇所に設置したことを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の生体信号検出装置が、携帯型装置の携帯者、または、輸送物に搭乗する乗員の生体信号を検出できるように、携帯型装置または輸送物に設置されていることを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項1】
生体信号を電磁気的に検出する生体信号検出装置において、
生体に交流磁界を印加する印加部と、
前記印加部から前記生体に対し印加された交流磁界によって生体内に誘導された電流による磁界に対応した信号を出力可能となるように構成されている磁気センサを備えることを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載された生体信号検出装置において、
前記交流磁界によって体内に誘導される電流が生体表面近傍に誘導されることを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された生体信号検出装置において、
前記交流磁界を印加するための印加部は、前記磁気センサと磁気的に直交するような空間的な配置となることを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載された生体信号検出装置において、
前記磁気センサは、パルス電流を通電する磁性線を巻回した検出コイルを有し、磁性線を生体表面に近接して水平に設置することを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載された生体信号検出装置において、
前記磁気センサを生体周辺の複数箇所に設置したことを特徴とする生体信号検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つに記載の生体信号検出装置が、携帯型装置の携帯者、または、輸送物に搭乗する乗員の生体信号を検出できるように、携帯型装置または輸送物に設置されていることを特徴とする生体信号検出装置。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図9】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図9】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−245373(P2012−245373A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−190606(P2012−190606)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【分割の表示】特願2007−264518(P2007−264518)の分割
【原出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【分割の表示】特願2007−264518(P2007−264518)の分割
【原出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】
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