説明

生体内で細胞および組織の生存を促進するための酸素生成組成物

創傷組織などの低酸素組織を治療する方法は、組成物を低酸素組織に低酸素症治療有効量で接触させることを含み、該組成物は、生分解性ポリマーおよび該ポリマーに取り込まれた無機過酸化物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体外および生体内で低酸素組織を治療するための方法および材料に関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学は、罹患もしくは損傷組織の通常の機能を回復させるための細胞およびその支持構造を一緒に構築することを含む(Langer,R.&Vacanti,J.P.Tissue Engineering.Science 260,920−926(1993))。十分な酸素を組織工学により作製された(engineered)組織に供給することは、移植した細胞の生着および組込みに必須であり、そうでなければ壊死が生じる。しかし、酸素拡散の限界により、細胞または組織成分は大量には移植できないという一般的概念がもたらされていた(Folkman,J.&Hochberg,M.J Exp Med 138,745−53(1973))。
【0003】
この限界を克服するためこれまで数多の努力がなされてきた。それにはパーフルオロ炭素およびシリコーン油などの酸素に富む流体の使用が含まれる(Radisic,M.et al.Biomimetic approach to cardiac tissue engineering:Oxygen carriers and channeled scaffolds.Tissue Engineering 12,2077−2091(2006);Leung,R.,Poncelet,D.&Neufeld,R.J.Enhancement of oxygen transfer rate using microencapsulated silicone oils as oxygen carriers.Journal of Chemical Technology and Biotechnology 68,37−46(1997))。
【0004】
試みられた、組織生存力を維持するためのその他のアプローチには、脈管形成因子、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)および内皮細胞、および移植片全体にわたり拡散の促進を可能にする細胞支持マトリックスの使用が含まれる(De Coppi,P.et al.Tissue Eng 11,1034−44(2005);Kaigler,D.et al.,J Bone Miner Res 21,735−44(2006);Nomi,M.et al.,J.Natl.Cancer Inst.93,266−267(2001))。
【0005】
しかし、酸素に富む流体と血管新生因子の使用は、臨床的に適用可能な大きな組織塊の生存を実現するのに部分的に成功しただけである。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第一の態様は、低酸素組織に低酸素症治療有効量の組成物を接触させる段階を含む、治療を必要とする低酸素組織を治療する方法であり、該組成物は、生分解性ポリマーと、該ポリマーに好ましくは固体形態(および所望により固体形態の該ポリマーの中に、かつ/または固体形態の該ポリマー上に取り込まれたラジカルトラップまたは分解触媒)で取り込まれた無機過酸化物を含む。
【0007】
一部の実施形態では、低酸素組織は、治療を必要とする被験体の生体内にある。
【0008】
一部の実施形態では、低酸素組織は創傷組織であり、組成物は創傷組織の治癒を促進するために有効な量で投与される。
【0009】
一部の実施形態では、この方法は創傷組織を陰圧創傷閉鎖法(negative pressure wound therapy)で同時に治療する段階をさらに含む。
【0010】
一部の実施形態では、低酸素組織は嫌気性菌感染症に罹患し、組成物は、感染症を治療するために十分な量で投与される。
【0011】
一部の実施形態では、低酸素組織は癌組織であり、組成物は、癌を治療するために十分な量で(単独で、または1種類以上のさらなる治療薬と併用して)投与される。
【0012】
一部の実施形態では、組成物はシート材料の形態であり、かつ、接触させる段階は、シート材料を低酸素組織に接触させることにより実施される。一部の実施形態では、組成物は注射用微粒子の形態であり、かつ、接触させる段階は微粒子を低酸素組織に注射することにより実施される。一部の実施形態では、組成物はスプレーの形態であり、かつ、接触させる段階は組成物を低酸素組織に噴霧することにより実施される。一部の実施形態では、組成物は外科用または救急医療用補助具(paramedical aid)の形態であり、かつ、接触させる段階は、補助具を低酸素組織に接触させることにより実施される。
【0013】
本発明の第2の態様は、
(a)50または70〜99重量%の生分解性ポリマーと、
(b)0.1〜30重量%の、生分解性ポリマーに固体形態で取り込まれた無機過酸化物と、
(c)所望により0.1〜30重量%の、生分解性ポリマーに固体形態で取り込まれたラジカルトラップまたは過酸化物分解触媒と、
(d)所望により0.001〜5重量%の少なくとも1つの付加的な活性物質(例えば、抗生物質、増殖因子、ステロイド、抗悪性腫瘍薬など)と
を含む、からなる、または本質的にからなる組成物である。組成物は、シート材料、注射用微粒子、その他の造形品またはスキャフォールド(scaffolds)などの形態であってよい。
【0014】
本発明のなおさらなる態様は、哺乳類組織を生体外で固相支持体またはスキャフォールド上で培養する方法において、哺乳類組織の酸素化が促進されるように、生分解性ポリマーを含む組成物および該ポリマーに固体形態で取り込まれた無機過酸化物をスキャフォールドとして利用する段階を含む、改良である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】生体外での、POG膜からの酸素放出を示す図である。用いる処方物において、酸素の放出は、最初の24時間の間、高い率の酸素放出でシグモイド曲線をたどる。対照材料のPLGAは、酸素放出を全く示さなかった。
【図2】皮弁壊死を示す図である。壊死を皮弁サイズの合計の割合で表すグラフである。初期の時点、2および3日で、SPO群は、対照群と比較した場合に、壊死が少なく、有意に良好な皮弁の残存を示した。しかし、7日後、壊死の面積は両方の群において同様であった。
【図3】組織学的解析(100倍)を示す図である。3および7日に収集した皮弁のヘマトキシリンおよびエオシン染色は、SPO群において、組織構造、表皮の高さ、毛包および皮脂腺が良好に保存され、壊死の遅延を示した。差異は7日の時点でさらに顕著であった。
【図4】3日後のアポトーシスの評価を示す図である。a、褐色の細胞核(メチルグリーンで対比染色した細胞核)をもつアポトーシス陽性細胞を示す代表的な真皮の切片。b、処置群(SPO)と比較した場合に、有意な、より多数のアポトーシス細胞が対照(PLGA)群の真皮に見出された。酸素生成バイオマテリアルは、皮弁においてアポトーシスの誘導を妨げるかまたは遅延させることができた。
【図5】組織乳酸レベルを示す図である。組織重量に対して補正された皮弁組織の乳酸レベルを表すグラフである。個々の点は、各々の動物を表し、棒は群の平均を示す。高レベルの乳酸は、組織中の酸素張力の低さに起因する低い酸化的代謝の指標である。SPO群は、PLGAのみと比較した場合より低いレベルの乳酸塩で良好な結果を示す。
【図6】生体力学的試験を示す図である。MPaで表した最大破断点引張歪みを示すグラフである。平均して、SPO群は、3日の時点でより高い最大引張歪みを示し、正常な皮膚と比較した場合に統計上の差異はなかった。これにより、SPOが真皮の細胞外マトリックスでタンパク質の分解を遅延することができたことが示される。7日目に2つの群の歪みは同程度であった。
【図7】過酸化カルシウム(CPO)を含有する約1cmのPLGAスキャフォールドに組み込まれた3T3細胞を、拡大された低酸素(酸素<1%)条件下でインキュベートする場合に、強化された細胞生存力が観察されることを示す図である。対照は、酸素産生材料を含有しない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法および組成物により治療することのできる被験体には、ヒト被験体と動物被験体(それには、限定されるものではないが、その他の哺乳類被験体、例えばイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ウサギ、ヤギ、ブタ、サルなどが含まれる)の両方が含まれる。
【0017】
本明細書において引用される全ての特許引用文献の開示は、引用によりその全文が本明細書の一部をなす。
【0018】
A.組成物
任意の適した生分解性ポリマーを用いて本発明を実施してよく、それには、限定されるものではないが、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コグリコリド)、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリカーボネート、ポリエステルアミド、ポリ無水物、ポリ(アミノ酸)、ポリ(オルトエステル)、ポリシアノアクリレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレングリコール)とポリ(オルトエステル)の共重合体、ポリ(ジオキサノン)、ポリ(アルキレンアルキレート)、生分解性ポリウレタン、ならびにそれらのブレンドおよび共重合体が含まれる。例えば、米国特許第7,097,857号を参照されたい。また、米国特許第6,991,652号および同第6,969,480号を参照されたい。
【0019】
酸素生成活性物質は、好ましくは有機もしくは無機過酸化物、例えば、過酸化尿素、過酸化カルシウム、および過酸化マグネシウム、および過炭酸ナトリウムなどである。酸素生成活性物質は、任意の適した量で(例えば、0.1または1〜10、20、または30重量%、またはそれ以上)組成物に含められる。一部の実施形態では、インサイチューで所望の速度で酸素を放出するので、過酸化カルシウムが好ましい。酸素生成活性物質は、固体形態で、例えば複数のその固体粒子の形態で、ポリマーに含められてよい。
【0020】
一部の実施形態では、ラジカルトラップまたは過酸化物またはラジカル分解触媒も、(例えば、0.1または1〜10、20または30重量%、またはそれ以上の量で)組成物に含められる。ラジカルトラップまたは分解(decompition)触媒の適した例としては、限定されるものではないが、鉄(限定されるものではないが、鉄粒子またはナノ粒子、酵素、例えばカタラーゼ、ペルオキシダーゼ、またはデヒドロゲナーゼ(例えば、米国特許第7,189,329号参照)、化合物、例えば超酸化物および/またはカタラーゼおよび/またはペルオキシダーゼ活性を有する環状サレン−金属化合物(例えば、米国特許第7,122,537号を参照されたい)などが含まれる)が挙げられる。ラジカルトラップまたは分解触媒は、固体形態(例えば、固体微粒子形態)で含められてよく、ポリマーの上を被覆してもよいし、ポリマーに組み込まれてもよく、または、両方ともに、ポリマーの上を被覆し、かつポリマーに組み込まれてもよい)。
【0021】
シート材料は、ポリマーおよび酸素生成活性物質から、限定されるものではないが 浸漬、スプレー、鋳造、押出などを含む任意の適した技法により形成されてよい。
【0022】
注射用微粒子およびそれを作成する方法は、公知であり、例えば、米国特許第7,101,568号、同第6,455,526号、同第6,350,464号、同第5,482,927号、同第4,542,025号、および同第4,530,840号に記載されている。注射用微粒子は任意の適したサイズおよび形状であってよく、例えば、1、3または5マイクロメートルから、300、500または700マイクロメートルまでの平均径を有するものであってよい。
【0023】
一部の実施形態では(例えば、組織スキャフォールド用として)組成物は、シート材料などの物品、またはその他の少なくとも100マイクロメートルの厚さ(大体、組織中の酸素の拡散距離)を有する成形物品に形成される。それらの形状(例えば、微粒子、シート、またはその他の成形物品)に関係なく、組成物は、意図される使用に望ましいように固体であっても多孔性であってもよい。
【0024】
シート、微粒子の形態の、または任意のその他の適した形態の組成物は、後の使用のための滅菌容器中に滅菌形態で包装されてよい。
【0025】
注射用微粒子は、「乾燥した」状態で、または無菌の生理学的に許容される液体担体、例えば注射用生理食塩水溶液などと組み合わせて、提供し、注射することができる。
【0026】
一部の実施形態では、組成物は、1以上の付加的な活性物質(例えば、0.0001または0.001〜1、5または10重量%)を含有してよい。このような付加的な活性物質の例としては、限定されるものではないが、化学療法薬、除草剤、成長阻害剤、抗真菌薬、抗細菌剤、抗ウイルス薬および抗寄生虫薬、マイコプラズマ治療、増殖因子、ステロイド、タンパク質、核酸、脈管形成因子、麻酔薬、ムコ多糖、金属、創傷治癒薬、成長促進剤、環境の変化の指標、酵素、栄養素、ビタミン、ミネラル、炭水化物、脂肪、脂肪酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、アミノ酸、血清、抗体およびその断片、レクチン、免疫刺激剤、免疫抑制剤、血液凝固因子、神経化学物質、細胞受容体、抗原、アジュバント、放射性物質、およびその他の細胞または細胞プロセスに影響を及ぼす物質が挙げられる。例えば、B.Gibbins et al.,米国特許出願公開第2001/0041188号を参照されたい。
【0027】
本明細書において用いられる「抗生物質」は、任意の適した抗生物質であってよく、それには、限定されるものではないが アミカシン、ゲンタマイシン、スペクチノマイシン、トブラマイシン、イミペネム、メロペネム、セファドロキシル、セファゾリン、セファレキシン、セファクロル、セフォテタン、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、ロラカルベフ、セフジニル、セフィキシム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフトゾキシム(Ceftozoxime)、セフトリアキソン、セフェピム、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、ペニシリンG、クロキサシリン、ジクロキサシリン、ナフシリン、オキサシリン、アモキシシリン、アンピシリン、メズロシリン、ピペラシリン、ナリジクス酸、シプロフロキサシン、エノキサシン、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、スパルフロキサシン、アラトロフロキサシン、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、トリメトプリム、スルフィソキサゾール、スルファメトキサゾール、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、アズトレオナム、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、キヌプリスチン、ホスホマイシン、メトロニダゾール、ニトロフラントイン、リファンピン、トリメトプリム、およびバンコマイシンが含まれる。例えば、米国特許第6,605,609号を参照されたい。嫌気性菌に対する使用に適した抗生物質としては、限定されるものではないが、クロラムフェニコール、メトロニダゾール、イミペネム、クリンダマイシンおよびセフォキシチンが挙げられる。
【0028】
本明細書において用いられる「増殖因子」、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、神経成長因子(NGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子1および2、(IGF−1およびIGF−2)、血小板由来増殖因子(PDGF)、腫瘍血管新生因子(TAF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、コルチコトロピン放出因子(CRF)、トランスフォーミング増殖因子αおよびβ(TGF−αおよびTGF−β)、インターロイキン−8(IL−8)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターロイキン、およびインターフェロン。例えば、B.Gibbinset al.,米国特許出願公開第2001/0041188号を参照されたい。
【0029】
本明細書において用いられる「ステロイド」は、任意の適したステロイドであってよく、それには、限定されるものではないが、米国特許第7,157,433号に記載されるものが含まれる。
【0030】
本明細書において用いられる「抗悪性腫瘍薬」としては、限定されないが、白金系の物質、例えば、カルボプラチンおよびシスプラチン、ナイトロジェンマスタードのアルキル化剤、ニトロソ尿素のアルキル化剤、例えばカルムスチン(BCNU)およびその他のアルキル化剤など、代謝拮抗剤、例えばメトトレキサートなど、プリン類似体代謝拮抗剤、ピリミジン類似体代謝拮抗剤、例えばフルオロウラシル(5−FU)およびゲムシタビンなど、抗腫瘍性ホルモン薬、例えばゴセレリン、ロイプロリド、およびタモキシフェンなど、天然の抗悪性腫瘍薬、例えばタキサン(例えば、ドセタキセルおよびパクリタキセル)、アルデスロイキン、インターロイキン−2、エトポシド(VP−16)、インターフェロンα、およびトレチノイン(ATRA)など、抗生物質の天然の抗悪性腫瘍薬(antibiotic natural antineoplastics)、例えばブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、およびマイトマイシンなど、ならびにビンカアルカロイド天然抗悪性腫瘍薬、例えばビンブラスチンおよびビンクリスチンが挙げられる。例えば、米国特許第7,101,568号を参照されたい。
【0031】
本明細書において用いられる「局所(Local)活性物質」または「局所(topical)活性物質」(すなわち、局所(local)および/または局所(topical)投与用の物質)としては、限定されるものではないが、上に説明した物質、局所用抗生物質およびその他の抗挫瘡薬、抗真菌薬、抗乾癬薬、鎮痒薬、抗ヒスタミン薬、抗悪性腫瘍薬、局所麻酔、抗炎症薬および同類のものが挙げられる。適した局所抗生剤としては、限定されるものではないが、リンコマイシンファミリーの抗生物質(本来ストレプトマイセス・リンカネンシスから回収した抗生剤のクラスを指す)、テトラサイクリンファミリーの抗生物質(本来ストレプトマイセス・オーレオファシエンスから回収した抗生剤のクラスを指す)、および硫黄系の抗生物質、すなわちスルホンアミドが挙げられる。リンコマイシンファミリーの例示的な抗生物質としては、リンコマイシンそれ自体(6,8−ジデオキシ−6−[[(1−メチル−4−プロピル−2−ピロリジニル)−カルボニル]アミノ]−1−チオ−L−トレオ−α−D−ガラクト−オクトピラノシド)、クリンダマイシン、リンコマイシンの7−デオキシ、7−クロロ誘導体(すなわち、7−クロロ−6,7,8−トリデオキシ−6−[[(1−メチル−4−プロピル−2−ピロリジニル)カルボニル]−アミノ]−1−チオ−L−トレオ−α−D−ガラクト−オクトピラノシド)、例えば米国特許第3,475,407号、同第3,509,127号、同第3,544,551号および同第3,513,155号に記載される関連化合物、ならびにそれらの薬理学的に許容される塩およびエステルが挙げられる。テトラサイクリンファミリーの例示的な抗生物質としては、テトラサイクリンそれ自体4−(ジメチルアミノ)−1,4,4α,5,5α,6,11,12α−オクタヒドロ−3,6,12,12α−ペンタヒドロキシ−6−メチル−1,11−ジオキソ−2−ナフタセン−カルボキサミド)、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ロリテトラサイクリン、メタサイクリンおよびドキシサイクリンおよびそれらの製薬上許容される塩およびエステル、特に塩酸塩などの酸付加塩が挙げられる。例示的な硫黄系抗生物質としては、限定されるものではないが、スルホンアミドスルファセタミド、スルファベンズアミド、スルファジアジン、スルファドキシン、スルファメラジン、スルファメチアジン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、およびそれらの薬理学的に許容される塩およびエステル、例えば、スルファセタミドナトリウムが挙げられる。局所用抗挫瘡薬としては、角質溶解薬、例えばサリシクリック酸(salicyclic acid)、レチノイン酸(「レチンA」)、および有機過酸化物などが挙げられ、一方、局所抗真菌薬としては、アムホテリシンB、安息香酸、ブトコナゾール、カプリル酸、エコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、サリチル酸、およびテルコナゾールが挙げられ、さらに、局所抗乾癬薬としては、アントラリン、アザチオプリン、カルシポトリエン、カルシトリオール、コルヒチン、シクロスポリン、レチノイド、およびビタミンAが挙げられる。活性物質はまた、局所コルチコステロイドであってもよく、さらに、より効力の弱いコルチコステロイド、例えばヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン−21−モノエステル(例えば、ヒドロコルチゾン−21−アセテート、ヒドロコルチゾン−21−ブチレート、ヒドロコルチゾン−21−プロピオナート、ヒドロコルチゾン−21−バレラートなど)、ヒドロコルチゾン−17,21−ジエステル(例えば、ヒドロコルチゾン−17,21−ジアセテート、ヒドロコルチゾン−17−アセテート−21−ブチレート、ヒドロコルチゾン−17,21−ジブチレートなど)、アルクロメタゾン、デキサメタゾン、フルメタゾン、プレドニゾロン、またはメチルプレドニゾロンのうちの1つであってもよく、あるいは、より効力の強いコルチコステロイド、例えばプロピオン酸クロベタゾール、安息香酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、酢酸ジフロラゾン、フルオシノニド、フロ酸モメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、または同類のものであってもよい。例えば、米国特許第6,582,714号を参照されたい。
【0032】
B.生体外および生体内の組織
本発明の組成物を用いて、任意の適した手段により、例えば、組成物を細胞に(例えば、シート材料としてまたは微粒子として)局所適用すること、細胞を組成物で、かつ/または組成物(例えば、シートまたはその他の固体基質形態の組成物)の中で培養すること、組成物を生体外で培養される細胞または組織の中に注射することなどにより、生体外で細胞および組織を処理または酸素添加してよい。
【0033】
哺乳類組織(例えば、イヌ、ネコ、マウス、サル、ヒト組織など)を生体外で培養することは公知であり、公知技法に従って実施することができる。一般に、培養はバイオリアクターにおいて実施され、適した細胞は支持体またはスキャフォールドに播種または堆積され、そのスキャフォールドは、順に、適した成長培地または培地に置かれる。例えば、米国特許第4,940,853号、同第6,592,623号、同第6,645,759号、同第6,645,759号、その他を参照されたい。培養に適した組織の例としては、限定されるものではないが、骨組織、皮膚組織(例えば、真皮組織)、骨格筋、心筋、脈管(例えば、血管)組織、およびその他の酸素感受性細胞からなる組織が挙げられる。
【0034】
なおさらなる実施形態では、上記のような組成物は、生体内で組織スキャフォールドとして適した被験体に、特に移植しなければ循環が損なわれ得る領域に移植することができる。
【0035】
C.創傷治療
一部の実施形態では、関心対象の領域または治療される組織は、創傷に苦しむ患者または被験体の創傷部位または創傷部位に隣接する領域である。
【0036】
本明細書において用いられる「創傷」には、あらゆる種類の偶発的なまたは意図的な(例えば、外科的な)組織の外傷が含まれ、それには、限定されるものではないが、切開、裂傷、潰瘍、擦過傷、熱傷、挫滅傷、切断、穿刺、およびそれらの組合せが含まれる。
【0037】
「創傷組織」は、創傷(例えば、皮弁などでの血液循環の崩壊、挫滅傷など)によってその健康が有害な影響を受ける組織である。
【0038】
一部の実施形態では、創傷または創傷組織はまた、本明細書においてさらに説明されるように、嫌気性菌感染症に感染または罹患している。
【0039】
本発明の一実施形態では、組成物は、同時に陰圧創傷閉鎖法での処置を受ける被験体の創傷に投与される。例えば、一部の実施形態では、シート材料の形態(所望により穿孔を含んでよい)の本発明の組成物は、陰圧チャンバが創傷組織の上に適用されて、陰圧が加えられる前または直前に、創傷または創傷組織に適用され、それにより陰圧創傷閉鎖法の間に組成物から罹患組織に酸素が投与される。この実施形態では、シート材料は、所望により陰圧創傷閉鎖法のシステムにおいて「インターフェース」または「包帯材」としての機能を果たす。その他の実施形態では、注射用微粒子の形態の組成物は、陰圧チャンバが創傷組織の上に適用されて、それに陰圧が加えられる前または直前に、創傷組織に局所適用されるかまたは創傷組織に注射され(例えば、創傷の表面の下方に、創傷の真下に、創傷に直接(imediately)隣接した領域に、注射されて、罹患組織への酸素輸送を促進する)、それにより陰圧創傷閉鎖法の間に組成物から罹患組織に酸素が投与される。陰圧創傷閉鎖法は公知であり、真空、または陰圧を創傷に適用することにより創傷治癒が促進される技法を説明する。例えば、米国特許第5,645,081号を参照されたい。具体的な実施様式は決定的でなく、限定されるものではないが、米国特許第7,004,915号、同第6,951,553号、同第6,855,135号、同第6,800,074号、同第6,695,823号、および同第6,458,109号に記載されるものなど、多様な技法のいずれかを用いることができる。
【0040】
創傷を治療するために用いる場合、組成物は所望により上記のような、成長を促進するかまたは感染を治療する(例えば、抗生物質)、疼痛を治療する(例えば、鎮痛薬)、炎症を治療する(例えば、非ステロイド性抗炎症薬などの抗炎症薬)ために、1以上の付加的な局所(local)もしくは局所(topical)活性物質を含有してよい。
【0041】
D.外科用補助具、救急医療用補助具、およびスプレー
外科用および救急医療用補助具を、本発明の材料から製造することができる。このような補助具は、一般に、上記のように、生分解性ポリマーと、前記ポリマーに固体形態で取り込まれた無機過酸化物とを含む。補助具は、任意の適した形態、例えばスポンジ、パッキング、創傷被覆材(ガーゼ、粘着包帯など)、縫合糸などであってよい。生分解性ポリマーの支持材には、所望であれば、シート、粉末、粒子などの形態の支持材に接触したポリマーが備わっていてよい。補助具は適した容器に滅菌形態で包装されてもよいし、または使用者が消毒するための非滅菌形態で提供されてもよい。
【0042】
一部の用途には、組成物はスプレー組成物として提供することができ、スプレー組成物は、担体(例えば、水性もしくは非水性担体)、生分解性ポリマー、および上記のような固体形態の無機過酸化物を含む。ポリマーは、担体中で可溶化または分散されてよい(つまり、スプレー組成物は、溶液、懸濁液、分散液、微細分散液、乳濁液などの形態であってよい)。スプレー組成物は、ポンプ型スプレー塗布装置などの適したスプレー塗布装置で提供されてもよいし、エアゾール容器中に適した噴射剤(例えば、HFA−134a、HFA−227ea、二酸化炭素)とともに包装されて、エアゾールスプレー組成物を含有するエアゾールスプレー装置を提供してもよい。スプレー組成物には、全て上記に記載される、付加的な活性物質を有利に含めてよい。このようなスプレー組成物は、当業者に明らかな公知技法またはその変形形態(variatious)に従って処方することができる。例えば、米国特許第7,182,277号、同第7,163,672号、同第7,101,535号、同第7,090,831号、同第7,074,388号、同第6,218,353号、などを参照されたい。
【0043】
E.嫌気性感染症
本発明の組成物は、嫌気性菌感染症を、そのように感染したあらゆる組織において、例えばそのような感染症に罹患した被験体において、治療するために用いてよい。嫌気性感染症は、限定されるものではないが、バクテロイデス属(Bacteriodes)の種(例えば、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis))、ペプトストレプトコッカス属(Peptostreptococcus)、およびクロストリジウム属(Clostridium)の種(例えば、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens))を含む、多様な嫌気性菌のいずれかにより引き起こされ得る。
【0044】
嫌気性菌感染症の例としては、限定されるものではないが、ガス壊疽、クロストリジウム性筋壊死、壊死性筋膜炎などの壊死性感染症などが挙げられる。特定の例としては、口、頭部、および頚部の嫌気性菌感染症(例えば、根管、歯ぐき(歯肉炎)、下顎、扁桃腺、咽頭、洞、耳、その他の感染症)、肺の嫌気性菌感染症(例えば、肺炎、肺膿瘍などでの、肺の粘膜の感染症(膿胸)、および拡張型肺気管支(気管支拡張症))、腹腔の嫌気性菌感染症、例えば腹腔内膿瘍形成、腹膜炎、および虫垂炎、女性生殖器の嫌気性菌感染症(例えば、骨盤膿瘍、骨盤内炎症性疾患、子宮内膜の炎症(子宮内膜炎)、および妊娠中絶、出産、および手術の後の骨盤感染症)、皮膚および軟組織の嫌気性菌感染症(例えば、糖尿病性皮膚潰瘍、壊疽、深部皮膚および組織の破壊的感染症(壊死性筋膜炎)、ならびに咬感染症)、中枢神経系の嫌気性菌感染症(例えば、脳膿瘍および脊髄膿瘍を引き起こす)、菌血症、などが挙げられる。
【0045】
投与経路は、感染の特定の種類および感染した組織によって決まる。一部の実施形態では、組成物からなるシート材料は、上記の創傷に関連して記載されるものと同種の方法で適用されてよい。その他の実施形態では、組成物からなる注射用微粒子は、上記の創傷に関連して記載されるように注射されてよい。複数の投与経路(例えば、局所と注射の両方)を用いることができる。損傷組織の手術による除去および/または(例えば、陰圧創傷閉鎖法または任意のその他の手段による)有害な影響を受けた部位のドレナージを用いてもよい。複数の投与が望ましい。組成物は、これも上記に記載されるように、その中に組み込まれた1種以上の抗生物質などの付加的な活性物質を有してよい。
【0046】
F.腫瘍治療
一部の実施形態では、本発明の組成物を用いて、治療を必要とする被験体に組成物を投与することにより、治療を必要とする被験体において腫瘍または癌を治療することができる。投与は、組成物を腫瘍細胞に接触させるいずれの技法により実施されてもよく、それには、限定されるものではないが、微粒子形態の組成物を腫瘍の中に、あるいは腫瘍を含有するかまたは腫瘍に隣接する領域に注射することが含まれる。治療することのできる腫瘍または癌としては、限定されるものではないが、肺癌、結腸癌、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、皮膚癌、および膵臓癌が挙げられる。
【0047】
下の実験の項に説明される限定されない例において、本発明をさらに詳細に説明する。
【0048】
実験の項
ここに、本発明者らは、埋め込み可能な酸素放出バイオマテリアルが、細胞および組織へ酸素の持続放出をもたらすことができ、その結果長期の組織の生存および壊死の低下をもたらすことを示す。視覚的および組織学的の両面から、酸素添加するバイオマテリアルをマウスに移植した後最低2日間で壊死の有意な低下が観察された。本発明者らの結果は、酸素産生バイオマテリアルは酸素を低酸素組織に放出することができ、その結果壊死の発生の遅延がもたらされることを示す。低酸素症は癌細胞の攻撃性を促進することが示されているので、これらの知見は癌の治療にも適用可能である(Hockel,M.&Vaupel,P.J.Natl.Cancer Inst.93,266−267(2001))。その上、この技術は、皮弁を用いる形成手術および嫌気性菌感染症の治療を含む、様々な創傷治癒および再建用途にも有用である(Jonsson,K.et al.,Annals of Surgery 214,605−613(1991);Bowler,P.G.et al.,Clinical Microbiology Reviews 14,244(2001))。
【0049】
最初に、本発明者らは、過炭酸ナトリウム(SPO)をポリ(ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)中に分散させることにより高分子酸素生成(POG)膜を調製した。過炭酸ナトリウムは、過酸化水素と重炭酸ナトリウムの付加物であり、水に接触すると自発的に分解して酸素を産生する。POG膜が37℃の湿潤環境に置かれると、酸素の産生が24時間にわたって観察された。(図1)。予測した通り、PLGAからなる対照膜からは酸素放出は検出されなかった。酸素生成バイオマテリアルがどのように生体内で決定的に(critically)/辺縁の灌流組織に影響を及ぼし得るのかを調べるため、本発明者らはマウスの皮弁モデルを使用した。このモデルが虚血組織の生存に関する研究の基準として役立つことは十分承認されている(Buemi,M.et al.,Shock 22,169−173(2004);Giunta,R.E.et al.,J.Gene Med.7,297−306(2005);Gould,L.J.et al.,Wound Repair Regen.13,576−582(2005)).11−13。本発明者らは、組織、細胞および生化学レベルで隣接する組織皮弁を分析した。
【0050】
長方形の背部皮弁を作成した後、酸素産生膜を全ての動物の皮下空間に入れ、手術創を閉じた。過炭酸ナトリウムを含有しないPLGA膜を対照として用いた。組織壊死のサイズを2、3および7日に測定した。移植片壊死の分析により、SPO群に初期の時点でそれぞれ、2日目はp=0.001、3日目はp=0.025の有意な利点が示される。
【0051】
しかし、7日後、組織壊死のサイズは、2つの群(roups)間で同程度であった(p=0.74)(図2)。酸素放出バイオマテリアルによる壊死の阻止は、この研究の主要な知見であり、初期の酸素の補充が組織の死滅を遅延させることができたことを示すことができた。細胞レベルでの特徴付けには、3および7日の組織切片の組織学的検査が含まれた。組織切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色して組織壊死の程度を調査した。全体に、一般的な組織構造、表皮の高さ、毛包および皮脂腺がより良好に保存されているPOG群に関して、明らかな延命効果があった。初期の時点で、対照群は既に重層化した層および真皮の高さの多くを失っていた。毛包および皮脂腺は、POG群と比較するとはっきりとした特徴はなかった。しかし、3日目に、一般的な組織構造は両方の群で保存され、それには、基底細胞と基底板で隔てられた、明確に示された表皮および真皮が含まれた。対照群では、この像は7日目に急激に変化し、組織構造は崩壊し、層とエオシン陽性塊の間の漠然とした移行が真皮に取って代わっていた。真皮乳頭、皮脂腺および毛包の喪失は、より進行した壊死の段階を明示した。POG群は残存する明確な層および無傷の毛包を有し、より遅い進行を示した。両方の群が皮弁の縁を発端とする混合細胞浸潤を示し、POG群の真皮中の細胞含量がより多い傾向を示した。
【0052】
2つの群の皮弁におけるアポトーシス誘導を比較するため、本発明者らはTUNEL染色を行った(図3)。本発明者らは、3日目に、有意に少ない量のアポトーシス陽性細胞をPOG群の真皮に見出した(p=0.030)。7日目の核膜の崩壊を含む、より進んだ段階の組織分解のために、TUNEL染色は、あまり明確でないDNA塗抹を示すにとどまった。要約すれば、組織学的知見および有意に低いレベルのアポトーシスは、酸素放出バイオマテリアルを含む群において壊死の発生の遅延を示す。
【0053】
アポトーシスを、本発明の組成物で処置した皮弁組織において3日後に評価した(図4)。図4aは、褐色の細胞核(メチルグリーンで対比染色した細胞核)をもつアポトーシス陽性細胞を示す代表的な真皮の切片を提供する。図4bに示されるように、処置群(SPO)と比較すると、対照(PLGA)群の真皮において、有意に多い数のアポトーシス細胞が見出された。酸素生成バイオマテリアルは、皮弁におけるアポトーシス誘導を阻止または遅延させることができた。
【0054】
生化学レベルのさらなる調査は、皮弁組織の乳酸濃度を測定することにより行った。より高濃度の乳酸は、嫌気性菌の代謝を誘導する様々な医学的状態に関連し、そのため、血管新生不全にする嫌気性代謝の信頼できる尺度である。本発明者らは、酸素産生バイオマテリアルをその下に含む組織皮弁が、対照群と比較した場合に低い乳酸レベルを有することを見出した(図5)。この差は初期の時点でより顕著であり、POG群は対照群の57%の乳酸を有した。両方の群の乳酸レベルは7日目の時点で増加した。予測された7日後の増加は、組織中の生細胞の減少により相殺される。POG群の乳酸のレベルが低いことは、酸素放出バイオマテリアルが細胞の生存を支持できることのさらなる指標である。
【0055】
酸素放出バイオマテリアルの組織の完全性への影響をさらに調べるため、本発明者らは創傷破壊強度(wound breaking strengths)を測定した(図6)。収集時に縦方向の組織検体を皮弁から切断し、引き伸ばして破壊した。初期の時点で、対照由来の皮膚試料は、正常な皮膚と比較すると、既に有意な強度を失っていた(p=0.028)。POG群において強度の低下は有意でなかった(p=0.130)。しかし、7日後、両方の試料は同程度であり、それぞれ、PLGA群についてはp=0.008で、そしてPOG群についてはp=0.004で、強度の有意な損失を示した。生体力学的試験は、初期の時点でPOG群について組織の完全性に利点を示すことができた。加水分解および酵素分解による細胞外基質マトリックスタンパク質の分解は組織死の間によく起こるため、POG群の組織強度が高いほど、組織壊死の遅延を示す。
【0056】
図7に示されるように、強化された細胞生存力は、過酸化カルシウム(CPO)を含有する約1cmのPLGAスキャフォールドに組み込まれた3T3細胞を、拡大された低酸素(酸素<1%)条件下でインキュベートする場合に観察される。対照は、酸素産生材料を含有しない。特に、10日のデータが示されていることに留意されたい。
【0057】
方法
高分子酸素生成膜の作製。過炭酸ナトリウム(SPO,Geel,Belgium)または過酸化カルシウム(CPO)を組み込んだ、ポリ(D,L−ラクチド−コグリコリド)(PLGA 50:50、i.v.30℃のHFIP中0.89dl/g、Lactel Absorbable Polymers,Pelham AL)膜を、溶媒流延法を用いてPLGAおよびSPOの混合物から作製した。手短に言えば、PLGAを塩化メチレン(5% w/v)に溶かし、SPOをフリーザーミル(SPEX 6700,Mutchen,NJ)により微粉砕した。PLGA溶液およびSPOを、ボルテックスを用いて完全に混合した。指定された濃度のSPOを含有する、PLGA溶液からパイレックス(登録商標)ガラス皿(φ100)に膜を流延した。ポリマー膜の内部での空隙の形成を防ぐため、ガラス蓋を型の上にのせて溶媒の蒸発を遅くした。溶媒蒸発の48時間後、膜を72時間、室温にて真空条件下の乾燥チャンバ中で乾燥させた。SPOを含まないPLGA膜を対照として使用し、同じ方法で作製した。その他の分析等級の化学物質は全て、Sigma社(St.Louis,MO)より購入した。収集された生成酸素ガスで置換された水の置換容積を記録することにより酸素放出を測定した。
【0058】
動物モデル。16匹のヌードマウス(Nude−nude、Charles River Laboratories Inc.Wilmington、MA)を無作為に2つの群に割り当てた。グループ1には酸素放出バイオマテリアル(SPO)を与え、一方、グループ2は対照群としての役割を果たし、PLGAのみのバイオマテリアル(PLGA)を与えた。各群のうちの4匹の動物を3日目および7日目に犠牲にした。全ての手順は実験動物委員会に従って行った。本発明者らは、確立されたマウスの皮弁モデルを用いて非常に血管新生した皮弁を作成した。全ての手術はイソフラン2%を用いる全身麻酔下で行った。30×10mmのサイズの皮弁を背中に作出した。u型の皮弁は、1cm幅のベースに対してインタクトな血管分布を減少させた。両方の群において、20×10mmの大型のバイオマテリアルを筋肉と皮膚層の間の皮下に置いた。次に、手術創を吸収性の縫合材料を用いて連続する方法で閉じた。全ての動物は合併症もなく手術に耐えた。最初の24時間の間、マウスに通例のブプレノルフィン0.1mg/kgの鎮痛剤注射を1日3回行った。動物に食物および水を自由摂取させ、12時間の昼/夜サイクルで飼育した。犠牲にする時に、動物をCOで安楽死させた。一貫性を保つために、全ての個々の試験の組織試料は標準的な方法で採取した。
【0059】
移植片壊死の評価。2、3および7日に全ての動物をイソフラン2%で麻酔し、標準的な照明の下で撮影した。壊死は、皮膚の色が褐色/黒に変化して、明らかに目視できた。皮弁の壊死を画像解析により測定し(Image J,NIH)、総皮弁サイズに対するパーセントで表した。
【0060】
組織学的検査。3および7日に収集した皮膚試料を、Tissue−Tek(登録商標)O.C.T.Compound 4583(Sakura(登録商標))に包埋し、クリオスタット(CM 1850 Cryotsat,Leica,Bannockbum,IL)を用いて液体窒素で凍結し、6〜8μmの薄片に切片化した。各々の動物の組織試料を、標準的なプロトコールを用いてヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。組織学的検査を用いて、炎症、残存する組織構造および壊死のレベルを評価した。さらに、TUNEL染色(TACS TdT Kit,R&D Systems,Minneapolis,MN)を製造業者のガイドラインに従って行い、皮弁の表皮内に誘導されたアポトーシスのレベルを調べた。画像はZeiss Axio Imager M1 Microscope(Carl Zeiss,Thornwood,NY)を用いて取得した。Image J(NIH)画像解析ソフトウェアを用いて画像解析を行った。高倍率視野(400倍)を通じてアポトーシス細胞の数を計数し、群間で比較した。
【0061】
乳酸アッセイ。組織試料を−80℃で保存し、低温磨砕(cryo grinding)を用いてホモジナイズ(homogenized)した。粉末を秤量し、冷3M HClO(バイアルあたり0.15ml)中の組織粒子をさらに20分間溶解した。全ての管は−8℃の氷/塩浴中で処理した。11,500RPMにて4℃で10分間の遠心分離の後、上清を回収し、市販のキット(Lactate Assay Kit,Bio Vision Research,Mountain View,CA)を用いて分光測定で組織のL−乳酸を決定した。手短に言えば、試料を、酵素および反応バッファーを含有する96ウェルディッシュに移した。30分後、室温にて比色変化を540nmにて分光測定によって測定した。
【0062】
生体力学的試験。長方形の縦方向の組織片(30mm×5mm)を用いて創傷破壊強度を評価した。引張試験(Instron model 5544,Issaquah,WA,USA)を、0.05mm/秒の速度で0.2Nの前負荷で破損するまで組織片を縦方向に伸長させることにより行った。グリップ間の空間は2cmであった。全ての検体は室温で試験し、湿潤を保った。最大引張歪み(MPa)を決定した。
【0063】
統計。提示される全てのデータは平均値および対応する標準偏差として表される。統計分析のため、本発明者らはSPSS v11(SPSS Inc)を用いた。2つの群間の差を、2テール独立サンプルT検定を用いて分析した。生体力学特性の分析のため、本発明者らは、複数比較のために一元配置分散分析(ANOVA)に続いてボンフェローニ検定を用いた。0.05未満(less then)のp値を有意とみなした。
【0064】
前述の内容は本発明を例証するものであり、それを限定するものと解釈されるべきでない。本発明は以下の特許請求の範囲により規定され、特許請求の範囲の同等物もその中に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする低酸素組織を治療する方法であって、前記低酸素組織に低酸素症治療有効量の組成物を接触させる段階を含み、前記組成物が、生分解性ポリマーおよび前記生分解性ポリマーに固体形態で取り込まれた無機過酸化物を含む、方法。
【請求項2】
前記低酸素組織が、前記治療を必要とする被験体の生体内にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低酸素組織が創傷組織であり、前記組成物が、前記創傷組織の治癒を促進するために十分な量で投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記創傷組織を陰圧創傷閉鎖法で同時に治療する段階をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記低酸素組織が嫌気性菌感染症に罹患し、前記組成物が、前記感染症を治療するために十分な量で投与される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記低酸素組織が癌組織であり、前記組成物が、前記癌を治療するために十分な量で投与される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記低酸素組成物が、シート材料の形態であり、かつ、前記接触させる段階が、前記シート材料を前記組織に接触させることにより実施される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、注射用微粒子の形態であり、かつ、前記接触させる段階が、前記微粒子を前記低酸素組織に注射することにより実施される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、スプレーの形態であり、かつ、前記接触させる段階が、前記組成物を前記低酸素組織に噴霧することにより実施される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、外科用または救急医療用補助具の形態であり、かつ、前記接触させる段階が、前記補助具を前記低酸素組織に接触させることにより実施される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記生分解性ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリラクチド−グリコリド共重合体、およびアルギン酸塩からなる群から選択される、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記無機過酸化物が過酸化カルシウムである、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記無機過酸化物が過炭酸ナトリウムである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
(a)70〜99重量%の生分解性ポリマーと、
(b)1〜30重量%の、前記生分解性ポリマーに固体形態で取り込まれた無機過酸化物と、
(c)所望により0.1〜30重量%の、前記生分解性ポリマーに固体形態で取り込まれたラジカルトラップまたは過酸化物分解触媒と、
(d)所望により0.001〜5重量%の少なくとも1つの付加的な活性物質と
を含む、組成物。
【請求項15】
前記組成物が、シート材料の形態である、請求項15に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、注射用微粒子の形態である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記生分解性ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリラクチド−グリコリド共重合体、およびアルギン酸塩からなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記少なくとも1つの付加的な活性物質が、抗生物質、増殖因子、ステロイド、および抗悪性腫瘍薬からなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記無機過酸化物が過酸化カルシウムである、請求項1〜18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
前記無機過酸化物が過炭酸ナトリウムである、請求項1〜19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
哺乳類組織を生体外で固相支持体またはスキャフォールド上で培養する方法において、前記哺乳類組織の酸素化が促進されるように、生分解性ポリマーと前記生分解性ポリマーに固体形態で取り込まれた無機過酸化物とを含む組成物を前記スキャフォールドとして利用する段階を含む、改良。
【請求項22】
前記哺乳類組織が、皮膚組織、骨組織、骨格筋組織、心筋組織、および血管組織からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物がシート材料の形態であり、かつ、前記接触させる段階が前記シート材料を前記組織に接触させることにより実施される、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が注射用微粒子の形態であり、かつ、前記接触させる段階が前記微粒子を前記組織に注射することにより実施される、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項25】
前記生分解性ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリラクチド−グリコリド共重合体、およびアルギン酸塩からなる群から選択される、請求項21〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記無機過酸化物が過酸化カルシウムである、請求項21〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記無機過酸化物が過炭酸ナトリウムである、請求項21〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
生分解性ポリマーと前記生分解性ポリマーに固体形態で取り込まれた無機過酸化物とを含む、外科用または救急医療用補助具。
【請求項29】
スポンジ、パッキング、創傷被覆材、または縫合糸を含む、請求項28に記載の補助具。
【請求項30】
滅菌包装されている、請求項28又は29に記載の補助具。
【請求項31】
少なくとも1種類の付加的な局所活性物質をさらに含む、請求項28〜30のいずれかに記載の補助具。
【請求項32】
担体、生分解性ポリマー、および固体形態の無機過酸化物を含む、スプレー組成物。
【請求項33】
前記生分解性ポリマーが前記担体に可溶化されるかまたは分散されている、請求項32に記載のスプレー組成物。
【請求項34】
エアゾールスプレー組成物である、請求項32又は33に記載のスプレー組成物。
【請求項35】
少なくとも1種類の付加的な局所活性物質をさらに含む、請求項32〜34のいずれかに記載のスプレー組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−523661(P2010−523661A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503028(P2010−503028)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/004502
【国際公開番号】WO2008/124126
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(507189574)ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ (14)
【Fターム(参考)】