説明

生体分子の選択的放射性標識

本発明によれば、生体分子上にフッ素原子を導入するための方法であって、(i)チオール反応性末端及びアジド/アルキン反応性末端を含むリンカーを用意する段階、(ii)リンカーのチオール反応性末端を、1以上のチオール基又はその反応性誘導体を含む生体分子と反応させる段階、並びに(iii)次いでリンカーのアジド/アルキン反応性末端をフッ素置換アジド又はアルキン基とそれぞれ反応させる段階を含んでなる方法が提供される。また、二官能性リンカー及びバイオコンジュゲートの組成物及び合成方法並びにフッ素標識生体分子を含む放射性診断剤も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子上にフッ素原子を導入するための方法に関する。本発明はまた、二官能性リンカー及びバイオコンジュゲートの組成物及び合成方法並びにフッ素標識生体分子を含む放射性診断剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸残基を含む生体分子上にフッ素原子(特に放射性フッ素原子)を導入するための方法は、大きな関心を集めている。しかし、18Fのような放射性フッ素原子は約110分という比較的短い寿命を有するので、生体分子上に放射性フッ素を導入するためには時間効率のよい方法が要求される。
【0003】
放射性フッ素原子をはじめとするフッ素原子を生体分子上に導入するための効率的で部位特異的な方法に対するニーズは今なお存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/067376号パンフレット
【発明の概要】
【0005】
一態様では、ポリペプチドのような生体分子上にフッ素原子を導入するための方法が開示される。本方法は、(i)チオール反応性末端及びアジド/アルキン反応性末端を含むリンカーを用意する段階、(ii)リンカーのチオール反応性末端を、1以上のチオール基又はその反応性誘導体を含む生体分子と反応させる段階、並びに(iii)次いでリンカーのアジド/アルキン反応性末端をフッ素置換アジド又はアルキンとそれぞれ反応させる段階を含んでなり得る。
【0006】
別の態様では、生体分子上に1以上のフッ素原子を導入するための方法が提供される。本方法は、(i)N−(ブト−3−イニル)−3−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロル−1−イル)プロパンアミドリンカー(1)のようなMal−アルキン二官能性リンカーのチオール反応性基を、1以上のチオール基を含む生体分子と反応させる段階、及び(ii)次いでリンカーのアルキン基をフッ素置換アジドと反応させる段階を含んでなる。
【0007】
さらに別の態様では、(i)1以上のチオール基を含む生体分子及び(ii)リンカーから導かれる構造単位を含んでなるバイオコンジュゲートが提供される。リンカーは、チオール反応性官能基を含むアミン化合物を、アジド又はアルキン反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステルと反応させることで製造できる。
【0008】
さらに別の態様では、上記の方法、リンカー及び生体分子を用いて製造されるバイオコンジュゲートが本発明によって提供される。
【0009】
別の態様では、リンカーの組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明のこれらの態様及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読んだ場合に一層よく理解されよう。添付の図面中では、図面全体を通じて類似の部分は同一の符号で表されている。
【図1】図1は、非最適化系の反応混合物のHPLC分析結果であって、18Fクリック標識Anti−Her2アフィボディ(27)を示している(a,放射能チャネル、b,280nmでのUVチャネル)。
【図2】図2は、勾配I及び216nmのUVを用いた2−[18F]フルオロエチルアジド(11)含有反応混合物のHPLC分析結果を示している(a,放射能チャネル,3:51分に2−[18F]フルオロエチルアジド(11)、b,UVチャネル)。蒸留生成物は、2−[18F]フルオロエチルアジド(11)の存在のみを示している(c,放射能チャネル、d,UVチャネル)。
【図3】図3は、モデル化合物(16)及び2−[18F]フルオロエチルアジド(11)を用いて様々なアルキン(16)濃度及び温度で生成されたトリアゾール生成物(17)の放射化学収率のHPLCプロットを示している。
【図4】図4は、アルキニル化アフィボディ(22)のMALDI−TOF MSデータを示している。
【図5】図5は、アルキニル化アフィボディ(22)とCy5標識アジドPEG(25a)との間のクリックコンジュゲートのSDS−PAGEタンパク質ゲルを示している。CuI源及び還元剤の存在下におけるコンジュゲート生成物(26)の予想分子量でCy5色素の蛍光発光が認められる。これらが存在しない対照実験では、コンジュゲート生成物の存在は認められない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の詳細な説明は例示的なものであり、本願の発明及び該発明の用途を限定するものではない。さらに、先行する発明の背景又は以下の詳細な説明中に示されるいかなる理論によっても限定されるものではない。
【0012】
特許請求される発明の主題を一層明確で簡潔に記載しかつ指示するため、以下の説明及び添付の特許請求の範囲中に使用される特定の用語に関して以下に定義を示す。単数形で記載したものであっても、前後関係から明らかでない限り、複数の場合も含めて意味する。
【0013】
本明細書中で使用する「活性化基」という用語は、求核試薬(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド、スルホ−N−ヒドロキシスクシンイミド、酸塩化物及び尿素中間体)に対するカルボニル基の反応性を高める任意の基をいう。
【0014】
本明細書中で使用する「アジド反応性末端」及び/又は「アジド反応性官能基」という用語は、アジド官能基と反応し得る任意の官能基をいう。アジド反応性官能基の若干の例には、特に限定されないが、アルキン、アレン及びホスフィンがある。
【0015】
本明細書中で使用する「アルキン反応性末端」及び/又は「アルキン反応性官能基」という用語は、アルキン官能基と反応し得る任意の官能基をいう。アルキン反応性官能基の例には、特に限定されないが、CuI源(特に限定されないが、Cu0、CuI及びCuIIを含む)及び還元剤(例えば、アスコルビン酸ナトリウム)の存在下で反応し得るアジドがある。
【0016】
本明細書中で使用する「脂肪族ラジカル」又は「脂肪族基」という用語は、一般に、環状でなくかつsp3炭素原子である結合点を有する炭素原子配列をいう。炭素原子配列はさらに、sp3、sp2又はsp混成炭素原子の任意の組合せを含み得る。さらに、炭素原子配列は一価、二価又は三価であり得る。アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、イソオクチル、ベンジル、シクロヘキシルメチル、フェネチル及び1’,1’−ジメチルベンジルがある。
【0017】
本明細書中で使用する「芳香族ラジカル」及び/又は「芳香族基」という用語は、sp2混成炭素原子及び共役炭素−炭素二重結合の環状配列をいい、環状炭素原子配列の一部をなす芳香族sp2混成炭素原子の位置に結合点を有する。芳香族基又はラジカルは、1乃至最大許容数の置換基を有し得る。アリール基の例には、フェニル、置換フェニル、トリル、置換トリル、キシリル、メシチル、クロロフェニル、ナフチル、フリル、チエニル及びピロリルがある。
【0018】
本明細書中で使用する「脂環式ラジカル」又は「脂環式基」という用語は、sp3混成炭素原子の環状配列をいい、環状炭素原子配列の一部をなす芳香族sp3混成炭素原子の位置に結合点を有する。炭素原子配列はさらに、sp3、sp2又はsp混成炭素原子の任意の組合せを含み得る。さらに、環状炭素原子配列は1乃至最大許容数の置換基で置換されていてもよい。さらに、環状炭素原子配列はO、N又はSのようなヘテロ原子を含み得る。脂環式基の例には、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、トリメチルシクロヘキシル、フェニルシクロヘキシル、テトラヒドロピラニル、4−チアシクロヘキシル及びシクロオクチルがある。
【0019】
「チオール基とチオール交換反応を行い得るジスルフィド基」という用語は、生体分子のチオール基と反応し得る基をいう。したがって、ジスルフィドはチオール反応性基とみなすことができる。ピリジルジスルフィドはかかるジスルフィドの例である。
【0020】
本明細書中で使用する「フッ素置換アジド」という用語は、1以上のフッ素置換基を有するアジド含有化合物を意味する。さらに、フッ素置換基は任意の種類の同位体(例えば、18F及び19F)であり得る。一実施形態では、フッ素置換基は18Fである。アジドは脂肪族アジド、脂環式アジド又は芳香族アジドであり得る。さらに、脂環式アジド及び芳香族アジドは単環式、二環式又は多環式構造を有し得る。
【0021】
本明細書中で使用する「フッ素置換アルキン」という用語は、1以上のフッ素置換基を有するアルキン含有化合物を意味する。さらに、フッ素置換基は任意の種類の同位体(例えば、18F及び19F)であり得る。一実施形態では、フッ素置換基は18Fである。アルキンは脂肪族アルキン、脂環式アルキン又は芳香族アルキンであり得る。さらに、脂環式アルキン及び芳香族アルキンは単環式、二環式又は多環式構造を有し得る。
【0022】
本明細書中で使用する「タンパク質」、「ペプチド」及び「ポリペプチド」という用語は、長さ又は翻訳後修飾(例えば、グリコシル化又はリン酸化)にかかわらず、任意のアミノ酸連鎖を記述するために本明細書中で使用される。したがって、これらの用語は本明細書中ではアミノ酸残基のポリマーを表すため互換的に使用できる。これらの用語はまた、1以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工模倣体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。したがって、「ポリペプチド」という用語は、完全長の天然タンパク質並びに完全長の天然タンパク質或いは天然タンパク質の特定ドメイン又は部分に相当する組換え又は合成ポリペプチドを包含する。
【0023】
「アルキル」、「脂肪族」、「脂環式」及び「芳香族」という用語に適用される「ラジカル」及び「基」という用語は、本明細書中では互換的に使用される。
【0024】
本明細書中で使用する「チオール反応性末端」及び/又は「チオール反応性官能基」という用語は、チオール基又はメルカプタン基(即ち、−SH基)と反応し得る官能基をいう。チオール反応性官能基の例には、特に限定されないが、マレイミド基、ハロ脂肪族基、ハロ芳香族基、ハロ脂環式基、(ハロアセチル)アルキル基、(ハロアセチル)シクロアルキル基、(ハロアセチル)アリール基、α,β−不飽和スルホン基、ビニルスルホン基、α,β−不飽和カルボニル基、エポキシ基、アジリジン基、及びチオール基とチオール交換反応を行い得るジスルフィド基がある。
【0025】
好適なマレイミド基には、母体(非置換)基並びに脂肪族基、脂環式基又は芳香族基を置換基として含む誘導体がある。好適なα,β−不飽和カルボニル基には、アクリロイル基を含むものがある。好適なα,β−不飽和カルボニル基には、α,β−不飽和エステル及びα,β−不飽和スルホンがある。ビニルスルホン基はα,β−不飽和スルホン基の具体例である。
【0026】
特記しない限り、本明細書及び特許請求の範囲中で使用される成分の量、性質(例えば分子量)、反応条件などを表すすべての数は、あらゆる場合に「約」という用語で修飾されていると理解すべきである。したがって、そうではないと表記されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲中に示される数値パラメーターは、本発明によって得ることが求められる所望の特性に応じて変動しうる近似値である。最低でも、特許請求の範囲の技術的範囲への等価物の原則の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも報告された有効数字の桁数を考慮しつつ通常の丸め技法を適用して解釈すべきである。
【0027】
本発明の態様は、生体分子上にフッ素原子を導入するための方法に関する。本方法は、
(i)チオール反応性末端及びアジド又はアルキン反応性末端を含むリンカーを用意する段階、
(ii)リンカーのチオール反応性末端を、1以上のチオール基又はその反応性誘導体を含む生体分子と反応させる段階、並びに
(iii)次いでリンカーのアジド又はアルキン反応性末端をフッ素置換アジド又はアルキン基とそれぞれ反応させる段階
を含んでなる。
【0028】
本発明の別の態様は、1以上のチオール基を含む生体分子及びリンカーから導かれる構造単位を含んでなるバイオコンジュゲート組成物を提供することである。リンカーは、アジド又はアルキン反応性官能基を含むアミン化合物を、チオール反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステルと反応させることを含んでなる方法によって製造できる。別の態様では、リンカーは、チオール反応性官能基を含むアミン化合物を、アジド又はアルキン反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステル化合物と反応させることによって製造できる。
【0029】
生体分子
本明細書中で使用する「生体分子」という用語は、リンカーとの反応のために1以上のチオール基(時には「メルカプト」基ともいう)又はその反応性誘導体を含む天然の分子又は操作された分子をいう。チオール基は、生体分子中に天然に存在するものでもよいし、或いは標準の生物学的方法又は当技術分野で認められている適当な方法を用いて化学的に導入又は操作されたものでもよい。若干の実施形態では、生体分子は特に50未満のアミノ酸残基を有するものを除外する。
【0030】
かかる生体分子は、天然の状態で1以上のSH基を有していてもよいし、或いは例えば標準の分子生物学的技法を用いて操作されていてもよい。天然にSH基を有する生体分子の例には、1以上のシステインアミノ酸に結合されたものがある。「その反応性誘導体」という用語は、リンカー化合物との反応のために遊離チオール基を生成するように活性化されたSH基の誘導体を意味する。
【0031】
天然に1以上のチオール基を有するか又は化学的に操作されたチオール基を有する生体分子の例には、ペプチド、ポリペプチド、ベクター、脂質、多糖、グリコサミノグリカン及びその修飾形、糖脂質、糖タンパク質、合成ポリマー、細胞応答調節剤(例えば、成長因子、走化性因子又はサイトカイン)、酵素、受容体、神経伝達物質、ホルモン、サイトカイン、ワクチン、ハプテン、毒素、インターフェロン及びリボザイムがある。開示される方法はまた、チオール基を含まないが、チオール基を含む分子にコンジュゲートされる分子にも適用できる。生体分子のさらに他の例には、タンパク質、タンパク質フラグメント、タンパク質変異体、骨格系タンパク質、操作タンパク質、ヌクレオチド及び関連分子、核酸、オリゴDNA又はオリゴRNAペプチドコンジュゲート、ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体のような抗体、及び抗体系フラグメントがある。したがって、開示される方法は、チオール基を有するポリペプチドのようなチオール含有分子と結合したデオキシリボ核酸(例えば、オリゴデオキシヌクレオチド、核酸プローブ、プラスミド)及びリボ核酸(例えば、siRNA)をはじめとする核酸をフッ素化するためにも使用できる。
【0032】
生体分子は、1以上のチオール基を有する任意の天然生体分子又は操作生体分子であり得る。すべての実施形態において、生体分子は天然アミノ酸残基及び/又は非天然アミノ酸残基を含み得る。別の実施形態では、1以上のチオール基を有する生体分子はシステイン残基又は非天然基を含む。「システイン残基」という用語は、システインが生体分子連鎖の一部として含まれた後に生じるチオール基以外の構造フラグメントを意味する。さらに別の実施形態では、リンカーと反応するための生体分子は、操作されたシステイン残基を有するものである。これは、適当な前駆体生体分子を化学的に修飾することにより、チオール基及びシステイン残基を有する所望の生体分子を生成し得ることを意味する。
【0033】
場合によっては、生体分子を還元剤で処理して反応性チオール基を生成することができる。例えば、ジスルフィド結合を有する生体分子を適当な還元剤で還元することで、チオール基を有する生体分子2当量を生成することができる。有用な還元剤の例には、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトエタノールアミン、ジチオトレイトール(DTT)及びトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)がある。
【0034】
リンカー
本明細書中で使用する「リンカー」という用語は、チオール反応性末端又はその保護誘導体及びアジド又はアルキン反応性末端又はその保護誘導体を含む二官能性化合物をいう。かかるリンカーは、一端ではチオール反応性末端を介してチオール含有化合物を結合し、他端ではアジド又はアルキン反応性末端を介してアジド又はアルキン(特にフッ素置換アジド又はアルキン)をそれぞれ結合するために使用できる。本明細書中で使用する「Mal−アルキン二官能性リンカー」という用語は、第1の末端にマレイミド基を有し、第2の末端にアルキン基を有するリンカー、例えばN−(ブト−3−イニル)−3−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロル−1−イル)プロパンアミドリンカー(1)をいい、「Mal−アジド二官能性リンカー」という用語は、第1の末端にマレイミド基を有し、第2の末端にアジド基を有するリンカー、例えば化合物(2)をいう。リンカーの若干の非限定的な例を下記構造(1)〜(6)に示す。
【0035】
【化1】

若干の実施形態では、チオール反応性末端、アジド又はアルキン反応性末端、或いはチオール反応性末端及びアジド又はアルキン反応性末端の両方を前駆体誘導体で置換することができる。かかるリンカーは、一端ではチオール反応性末端を介してチオール含有化合物を結合するため、及び/又は他端ではアジド又はアルキン反応性末端を介してアジド又はアルキン(特にフッ素置換アジド又はアルキン)をそれぞれ結合するために使用できる。
【0036】
リンカーの製造
リンカーは、チオール反応性官能基及びアジド又はアルキン反応性官能基の両方を、それぞれ(i)1以上のチオール基を有する生体分子及び(ii)フッ素置換アジド又はアルキンとの反応のために利用可能にする任意の方法によって製造できる。一実施形態では、リンカーは、アジド又はアルキン反応性官能基を含むアミン化合物を、チオール反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステルと反応させることで製造される。アジド又はアルキン反応性官能基を有する任意のアミン化合物が使用できる。一実施形態では、アミン化合物は下記構造(7)を有する。
G−J−NHR1 (7)
式中、Gはアジド又はアルキン反応性官能基であり、Jは連結単位であり、R1はH、脂肪族基、芳香族基又は脂環式基である。二価連結単位Jの性質は、チオール反応性官能基及びアジド又はアルキン反応性官能基の反応性に悪影響を及ぼすことがある立体障害を最小にするように設計できる。本アプローチの利点の1つは、バイオコンジュゲートの最終性質を変更するように連結単位を調整できることである。即ち、リンカーのサイズ、極性、電荷及び化学組成を変化させることにより、溶解性及び薬物動態学/薬力学的(PK/PD)性質のような最終コンジュゲートの性質を変更することができる。さらにリンカーは、標的化及び/又は溶解性を向上させる基を結合するための追加の結合手(handle)を含むことができる。
【0037】
他の実施形態では、リンカーは、チオール反応性官能基を含むアミン化合物を、アジド又はアルキン反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステル化合物と反応させることで製造できる。
【0038】
カルボン酸又は活性化エステルは、下記構造(8)を有する。
L−M−COR2 (8)
式中、Lはチオール反応性官能基又はその保護誘導体からなり、Mは二価連結単位であり、R2はOH又は活性化基である。活性化基R2は、アジド又はアルキン反応性官能基を有するアミン化合物と構造(8)のカルボニル炭素原子との反応を容易にする。
【0039】
別の実施形態では、下記の式を有するリンカー組成物が提供される。
L−M−CO−NH(R1)−J−G
式中、
Lはチオール反応性官能基であり、
M及びJは二官能性単位/連結単位であり、
1はH、脂肪族基、芳香族基又は脂環式基であり、
Gはアジド又はアルキン反応性官能基である。
【0040】
構造(1)及び(2)を有するリンカーを製造するための例示的な合成アプローチを下記反応スキーム1及び2に示す。
【0041】
【化2】

反応スキーム1及び2中、DMFはジメチルホルムアミドを表し、DIEAはジイソプロピルエチルアミンを表す。これらの方法を用いて製造できるリンカーの若干の例は、上記構造(1)〜(6)に示されている。
【0042】
バイオコンジュゲート
リンカーと1以上のチオール基を有する生体分子との反応から得られる生成物をバイオコンジュゲートと呼ぶ。かくして一実施形態では、バイオコンジュゲートは(i)1以上のチオール基を含む生体分子及び(ii)リンカーから導かれる構造単位を含んでなり、リンカーは、アジド又はアルキン反応性官能基を含むアミン化合物を、チオール反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステルと反応させることを含んでなる方法によって製造される。別の実施形態では、バイオコンジュゲートは(i)1以上のチオール基を含む生体分子及び(ii)リンカーから導かれる構造単位を含んでなり、リンカーは、チオール反応性官能基を含むアミン化合物を、アジド又はアルキン反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステルと反応させることを含んでなる方法によって製造される。別の態様では、リンカーは、チオール反応性官能基を含むアミン化合物を、アジド又はアルキン反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステル化合物と反応させることで製造できる。
【0043】
バイオコンジュゲートのフッ素化方法
本明細書中に記載される方法は、フッ素標識バイオコンジュゲート、さらに詳しくは放射性フッ素(例えば18F)標識バイオコンジュゲートの製造を可能にする。これらの方法の利点の1つは、生体分子のチオール基をリンカーのチオール反応性官能基と選択的に反応させ得る非放射性条件下でリンカーを生体分子に選択的に結合し、得られたバイオコンジュゲートを18F又は通常のフッ素で置換されたアジド又はアルキンとの反応前に精製できることである。別の利点は、放射性フッ素標識を最終段階で選択的に付加することができ、最終バイオコンジュゲートを特にトレーサーレベルで製造する前に時間のかかる追加の精製段階を行う必要性が排除されることである。
【0044】
本明細書中に記載される、バイオコンジュゲート上にフッ素を導入するための方法は、任意の長さのフッ素化バイオコンジュゲートを生成するために使用できる。かくして、若干の実施形態では、バイオコンジュゲートの生体分子は50以上のアミノ酸残基又は100以上のアミノ酸残基を含む。
【0045】
一態様では、生体分子上に1以上のフッ素原子を導入するための方法が開示される。本方法は、(i)チオール反応性末端及びアジド又はアルキン反応性末端を含むリンカーを用意する段階、(ii)リンカーのチオール反応性末端を、1以上のチオール基又はその反応性誘導体を含む生体分子と反応させる段階、並びに(iii)次いでリンカーのアジド又はアルキン反応性末端をフッ素置換アジド又はアルキンとそれぞれ反応させる段階を含んでなり得る。
【0046】
ポリペプチドのような生体分子上にフッ素原子を導入するための方法の若干の実施形態では、リンカーのチオール反応性末端は、マレイミド基、ハロ脂肪族基、ハロ芳香族基、ハロ脂環式基、(ハロアセチル)アルキル基、(ハロアセチル)シクロアルキル基、(ハロアセチル)アリール基、ビニルスルホン基、アクリロイル基、エポキシ基、アジリジン基、及びチオール基とチオール交換反応を行い得るジスルフィド基から選択される。
【0047】
さらに詳しくは、本明細書中に記載される方法は、N−(ブト−3−イニル)−3−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロル−1−イル)プロパンアミド(1)のようなMal−アルキン二官能性リンカーをリンカーとして用いて生体分子上に1以上のフッ素原子を導入するために使用できる。かかる方法は、(i)N−(ブト−3−イニル)−3−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロル−1−イル)プロパンアミド(1)のチオール反応性基を、1以上のチオール基を含む生体分子と反応させる段階、及び(ii)次いで段階(i)から得られた中間生成物のアルキン基をフッ素置換アジドと反応させる段階を含んでなる。別の実施形態では、本方法は化合物(2)のようなMal−アジド二官能性リンカーをリンカーとして用いて生体分子上に1以上のフッ素原子を導入するために使用できる。かかる方法は、化合物(2)のチオール反応性官能基を、1以上のチオール基を含む生体分子と反応させる段階、及び(ii)次いで段階(i)から得られた中間生成物のアジド基をフッ素置換アルキンと反応させる段階を含んでなる。
【0048】
リンカーのアジド又はアルキン反応性末端とフッ素置換アジド又はアルキンとの反応は、温和な酸性条件から温和な塩基性条件にまでわたり得る任意の媒質中で実施できる。一実施形態では、反応は約6〜約9の範囲内のpHを有する媒質中で実施でき、別の実施形態では、約7〜約8のpH範囲内で実施できる。反応温度は室温から約70℃まで変化し得る。反応時間は様々に変化し得るが、一般には約10〜約60分であり得る。若干の実施形態では、反応時間は約10〜約30分であり得る。しかし、それより長い反応時間も使用できる。反応は、CuI又はその前駆体(特に限定されないが、Cu0、CuI又はCuII塩を含む)及び還元剤(例えば、特に限定されないが、アスコルビン酸ナトリウム)の存在下で実施できる。反応スキーム3及び4は、フッ素標識バイオコンジュゲート(9)及び(10)を製造するための可能なアプローチを示している。
【0049】
【化3】

1つのアプローチでは、アルキン又はアジド含有リンカーの前駆体を最初にチオール基を含むポリペプチドと反応させ、得られた中間体を変換して所望のバイオコンジュゲートを得ることができる。別法として、アルキン又はアジド含有リンカーの前駆体を最初に変換してリンカーを得、次いでこれをチオール基を含むポリペプチドと反応させて生成物を得ることができる。
【0050】
上述の技法を使用すれば、フッ素又は放射性フッ素原子(例えば18F)を生体分子上に導入することができる。フッ素置換アジド又はアルキンをバイオコンジュゲートと反応させた場合、フッ素置換バイオコンジュゲートが得られる。放射性フッ素置換アジド又はアルキンをバイオコンジュゲートと反応させた場合、放射性フッ素標識バイオコンジュゲートが得られる。好適なフッ素置換アジド/アルキンの非限定的な例を下記構造(11)〜(14)に示す。
【0051】
【化4】

バイオコンジュゲートを製造するためには、1以上のチオール基を有する前述の生体分子(例えば、ポリペプチド)の任意のものが使用できる。1以上のチオール基を有するポリペプチド、ベクター、骨格系タンパク質及び操作結合タンパク質のような生体分子が特に有用であるが、これはかかる物質が潜在的に有用な診断学的及び治療学的価値を有するからである。かくして一実施形態では、アフィボディのような骨格系タンパク質をN−(ブト−3−イニル)−3−(2,5−ジオキソ−2,5−ジヒドロ−1H−ピロル−1−イル)プロパンアミドリンカー(1)のようなMal−アルキン二官能性リンカーと反応させることでバイオコンジュゲートを製造できる。別の実施形態では、アフィボディのような骨格系タンパク質を化合物(2)のようなMal−アジド二官能性リンカーと反応させることでバイオコンジュゲートを製造できる。さらに、バイオコンジュゲートをフッ素置換アジド又はアルキンと反応させることで有用なフッ素標識バイオコンジュゲートを製造できる。
【0052】
フッ素標識バイオコンジュゲートは、診断用途において有用な物質である。18F標識バイオコンジュゲートは、当技術分野で公知のイメージング技法(例えば、PET(ポジトロン放出断層撮影)技法)を用いて可視化できる。
【0053】
以上、本明細書中には本発明の若干の特徴のみを例示し説明してきたが、当業者には数多くの修正及び変更が想起されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は本発明の真の技術思想に含まれるこのような修正及び変更のすべてを包含することを理解すべきである。
【実施例】
【0054】
本発明の実施は、以下の実施例からなお一層完全に理解されよう。これらの実施例は例示のみを目的として本明細書中に示されるものであって、決して本発明を限定するものと解すべきでない。
【0055】
実施例セクションで使用される略語は、以下に示す通りである。「mg」:ミリグラム、「mL」:ミリリットル、「mg/mL」:ミリグラム/ミリリットル、「mmol」:ミリモル、「μL」:マイクロリットル、「KDa」:キロダルトン、「MALDI−MS」:マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法、「HPLC」:高圧液体クロマトグラフィー、「LC−MS」:液体クロマトグラフィー質量分析法、「ESI−MS」:エレクトロスプレーイオン化質量分析法、「MALDI−TOF MS」:マトリックス支援レーザー脱離イオン化−非行時間質量分析法、「TFA」:トリフルオロ酢酸、「DMSO」:ジメチルスルホキシド、「DTT」:ジチオトリエトール、「MeCN」:アセトニトリル、「PBS」:リン酸緩衝食塩水、「Mal」:マレイミド、「ppm」:百万分率、「MWCO」:分子量カットオフ、「コールド条件」:放射性同位体が存在しない条件、「放射化学収率」:元来存在していた放射能の分率。特記しない限り、すべての試薬用化学薬品は受け入れたままで使用し、すべての水溶液の調製にはミリポア(Millipore)水を使用した。
【0056】
実施例1:2−[18F]フルオロエチルアジド(11)の製造
【0057】
【化5】

18F]−フッ化物は、濃縮[18O]H2Oターゲットの19MeVプロトン照射による18O(p,n)18F核反応を用いてサイクロトロンで生成させた。照射後、Kryptofix(登録商標)(5mg、13.3μmol)、炭酸カリウム(1mg、7.2μmol)及びMeCN(1mL)の混合物を18F−水(1mL)に添加した。窒素流(100mL/分)下において80℃で加熱することで溶媒を除去した。その後、MeCN(0.5mL)を添加し、加熱及び窒素流下で蒸発させた。この操作を2回繰り返した。室温に冷却した後、トルエンスルホン酸2−アジドエチルエステル(15)を無水MeCN(0.2mL)に溶解した溶液を添加した。反応混合物を80℃で15分間撹拌した。MeCN(0.3mL)の添加後、2−[18F]フルオロエチルアジド(11)を窒素流(15mL/分)下において130℃で蒸留して、MeCN(0.1mL)を含むトラッピングバイアル中に捕集した。この化合物(11)は、(18F−フッ化物に対し)54%の崩壊補正放射化学収率及び63%の蒸留効率で得られた。
【0058】
図2は、勾配I及び216nmのUVを用いた2−[18F]フルオロエチルアジド(11)含有反応混合物のHPLC分析結果(a,放射能チャネル,3:51分に2−[18F]フルオロエチルアジド(11)、b,UVチャネル)並びに蒸留生成物2−[18F]フルオロエチルアジド(11)のHPLC分析結果(c,放射能チャネル、d,UVチャネル)を示している。
【0059】
実施例2:小基質の様々な濃度におけるトリアゾール生成を示す濃度試験
【0060】
【化6】

この濃度試験では、アルキンモデル(16)(1.2〜0.01mg、7.5〜0.25μmol)をDMF(50μL)に溶解し、硫酸銅(II)(25μl、2.8mg、11.25μmol)及びアスコルビン酸ナトリウム(25μL、7.5mg、37.5μmol)の水溶液と窒素下で混合した。MeCN(100μl)中の[18F]2−フルオロエチルアジド(11)を添加して室温で15分間静置した後、混合物をHPLCで分析した。次いで、バイアルを加熱し(15分間、80℃)、再び分析した。
【0061】
室温では、3.14mM(100μg)の最小アルキンモデル(16)濃度において、生じたトリアゾール生成物(17)が定量的収率で得られた。反応混合物を80℃で加熱した場合には、生じたトリアゾール(17)を定量的収率で得るための最小アルキンモデル(16)濃度は1.57mM(50μg)であった。
【0062】
図3は、モデル化合物(16)及び2−[18F]フルオロエチルアジド(11)を用いて様々なアルキン(16)濃度及び温度で生成されたトリアゾール生成物(17)の放射化学収率のHPLCプロットを示している。
【0063】
実施例3:ペプチド上でのトリアゾール生成
18F](S)−6−アミノ−2−(2−{(S)−2−[2−((S)−6−アミノ−2−{[4−(2−フルオロエチル)−[1,2,3]トリアゾール−1−カルボニル]アミノ}ヘキサノイルアミノ)アセチルアミノ}−3−フェニルプロピオニルアミノ}アセチルアミノヘキサン酸(19)の製造。
【0064】
【化7】

硫酸銅(II)五水和物(4.3mg、17μmol)を水(50μL)に溶解した溶液に、水(50μL)中のアスコルビン酸ナトリウム(3.4mg、17μmol)を窒素下で添加した。室温で約1分後、アルキンペプチド前駆体(18)(2mg、3.4μmol)をリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0、0.5M、50μL)に溶解した溶液を添加し、次いで2−[18F]フルオロエチルアジド(11)(24〜32MBq)をMeCN(50μL)に溶解した溶液を添加した。混合物を室温に15分間保ち、HPLCの移動相A(水、0.1%TFA)(0.3mL)で希釈した。半分取HPLCを用いて標識ペプチド(19)を単離した(216nmのUV、Rt=6:24)。
【0065】
実施例4:Mal−アルキン二官能性リンカー(1)の合成
【0066】
【化8】

N−[β−マレイミドプロピルオキシ]スクシンイミドエステル(50mg、1.25当量)を1.0mLの乾燥DMFに溶解した。3−ブチン−1−アミン塩酸塩(16mg、1.0当量)を0.5mLの乾燥ジメチルホルムアミド(DMF)及び26μLのジイソプロピルエチルアミン(DIEA)に溶解した。エステル溶液を氷浴中に保ちながら、このアミン溶液をスクシンイミドエステルに滴下した。混合物を0℃で10分間撹拌した。溶液を室温まで放温し、18時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させ、残留物を5mLのCH2Cl2に溶解した。有機溶液をブライン(3×5mL)で抽出し、MgSO4上で乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、フラッシュクロマトグラフィー(シリカ、MeOH/CH2Cl2)を用いて粗物質を精製した。生成物(1)をグリースから精製するため、試料を最小量のCH2Cl2(約2mL)に溶解し、次いでヘキサンで3回洗浄した。生成物(1)は綿毛状の白色固体として沈殿した。生成物の特性決定は1H−NMRを用いて行った。収量:8.2mg(25%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ2.02(s,1)、2.41(t,J=5Hz,2)、2.57(t,J=5Hz,2)、3.42(td,J=5Hz,2)、3.88(t,J=5Hz)、5.90(bs,1)、6.73(s,2)。
【0067】
実施例5:2−フルオロエチルトリアゾール−マレイミド(参照化合物(21))の製造
【0068】
【化9】

リン酸ナトリウム緩衝液(20μl、250mM、pH6.0)、DMF(50μl)及び銅粉末(100mg、−40メッシュ、Aldrich Cat.No.26,608−6)の混合物を窒素ガス(10ml/分)で5分間パージした。(Glaser and Årstad 2007により記載されたようにして製造した)DMF(9.2μl)中の2−フルオロエチルアジド(20)(10μmol)及びDMF(20μl)中の3−(N−マレイミジル)−N−(3−プロパルギル)プロビオンアミド(1)(2.1mg、9.5μmol)を添加した後、容器を室温で1時間撹拌した。溶媒を減圧下で除去した(1mbar、80℃)。分取HPLCによって精製することで、フルオロエチルトリアゾール化合物(21)(1.2mg、41%)を得た。HR ESI−MS:C131653Fについて(計算値m/z=310.1310、実測値m/z=310.1314)。
【0069】
分取HPLCによる精製は次のような条件下で行った。勾配:15分で5〜80%溶媒B(ただし、A=H2O/0.1%TFA及びB=MeCN/0.1%TFA)、流量:15mL/分、カラム:Luna 5μm C18(2)(Phenomenex),75x30mm、検出:UV 216nm。
【0070】
実施例6:アフィボディのアルキニル化及びMal−アルキン二官能性リンカーとの反応
【0071】
【化10】

14kDaのAnti−Her2アフィボディ(凍結乾燥粉末として1mg)を460μLのリン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解した。溶液のpHを7.4に保った。この溶液に、PBSに溶解したジチオトレイトール(DTT)の0.5M溶液(pHを7.4に保った)40μLを添加した。得られた混合物を室温で2時間撹拌した。還元アフィボディをゲル濾過によって精製した。還元アフィボディのこの純粋画分に、Mal−アルキン二官能性リンカー(1)の溶液(DMSO中0.15M)の12μLアリコートを添加した。この反応混合物を穏やかに撹拌しながら室温で2時間インキュベートした。ゲル濾過、次いで遠心限外濾過(Amicon社)、MWCO 5kDa(Millipore社)を用いて反応混合物を精製することで精製アルキニル化アフィボディ(22)を得た。
【0072】
(MALDI−TOF−MS)及びHPLC、次いでLC(ESI)−MSを用いて、得られた精製アルキニル化アフィボディ(22)の特性決定を行った。収率(%):78、MS:(MH+計算値:14260、実測値:14260)。図4は、アルキニル化アフィボディ(22)のMALDI−TOF MSデータを示している。
【0073】
アルキニル化アフィボディ(22)のHPLC分析のための標準条件:Grace Vydac Protein C4カラムをHPLC分析のために使用した。溶媒A:100%H2O,0.1%TFA、溶媒B:100%MeCN,0.1%TFA、検出:UV 216nm及び280nm、流量:1mL/分。下記表1中に示すように、溶媒濃度を経時的に変化させた。
【0074】
【表1】

アルキニル化アフィボディ(22)に関する典型的な溶出時間は約11分であった。
【0075】
実施例7:コールド条件下におけるバイオコンジュゲート上へのトリアゾール生成
【0076】
【化11】

アジドPEG(23)を用いたアルキニル化アフィボディ(22)の標識。36μLのリン酸ナトリウム水溶液(100mM、pH8)に、アルキニル化アフィボディ(22)原液(0.6mM、リン酸緩衝食塩水、pH7.4中約8mg/mL)の3μLアリコートを添加した。この溶液に、(100mMリン酸ナトリウム、pH8で希釈した)11−アジド−3,6,9−トリオキサウンデカン−1−アミン(アジドPEG)(23)の調製したばかりの18mM溶液の1μLアリコートを添加した。次いで、この溶液に(100mMリン酸ナトリウム、pH8中における)アスコルビン酸ナトリウムの調製したばかりの10mM(2mg/mL)溶液の5μLアリコートを添加した。最後に、(100mMリン酸ナトリウム、pH8中における)硫酸銅(II)の調製したばかりの10mM(1.6mg/mL)懸濁液の5μLアリコートを反応混合物に添加した。かくして、これらの添加は試薬及び基質に関して下記の最終濃度を与えた。アルキニル化アフィボディ(22)(36μM)、アジドPEG(23)(360μM)、アスコルビン酸ナトリウム(1mM)及びCuSO4(1mM)。
【0077】
得られた溶液を穏やか撹拌しながら65℃で0.75時間混合した。次いで、反応混合物を直ちに純水(MilliQ)で4mLに希釈し、Amicon遠心限外濾過ユニット、MWCO 5kDa(Millipore社)を用いて<100μLに濃縮した。過剰の試薬を除去するため、この水希釈−濃縮手順をさらに2回繰り返した。MALDI−TOF−MS及び高速液体クロマトグラフィー、次いでLC(ESI)−MSを用いて、得られた精製コンジュゲート(24)の特性決定を行った。収率(%):42、MS:(MH+計算値:14478、実測値:14492)。
【0078】
実施例8:Cy5標識アジドPEG(25a)を用いたアルキニル化アフィボディ(22)の標識
【0079】
【化12】

36μLのリン酸ナトリウム水溶液(100mM、pH8)に、アルキニル化アフィボディ(22)原液(0.6mM、リン酸緩衝食塩水、pH7.4中約8mg/mL)の3μLアリコートを添加した。次に、(100mMリン酸ナトリウム、pH8で希釈した)Cy5標識アジドPEG(25a)の調製したばかりの18mM溶液の1μLアリコートを添加した。次いで、この溶液に(100mMリン酸ナトリウム、pH8中における)アスコルビン酸ナトリウムの調製したばかりの10mM(2mg/mL)溶液の5μLアリコートを添加した。最後に、(100mMリン酸ナトリウム、pH8中における)硫酸銅(II)の調製したばかりの10mM(1.6mg/mL)懸濁液の5μLアリコートを反応混合物に添加した。これらの添加は試薬及び基質に関して下記の最終濃度を与えた。アルキニル化アフィボディ(22)(36μM)、Cy5標識アジドPEG(25a)(360μM)、アスコルビン酸ナトリウム(1mM)及びCuSO4(1mM)。
【0080】
得られた溶液を穏やか撹拌しながら65℃で0.75時間混合した。次いで、反応混合物を直ちに純水(MilliQ)で4mLに希釈し、Amicon遠心限外濾過ユニット、MWCO 5kDa(Millipore社)を用いて<100μLに濃縮した。過剰の試薬を除去するため、この水希釈−濃縮手順をさらに2回繰り返した。HPLC及び色素の蛍光発光をモニターするSDS−PAGEタンパク質ゲル(図5)により、得られた精製コンジュゲート(26)の特性決定を行った。
【0081】
実施例9:ホット条件下におけるアルキニル化アフィボディ(22)上へのトリアゾール生成
【0082】
【化13】

18FによるAnti−Her2アフィボディ(22)の標識。硫酸銅(II)の水溶液(5μL、0.0249mg、0.1μmol)を、リン酸ナトリウム緩衝液(5μL、100mM、pH8.0)中のアスコルビン酸ナトリウム(0.198mg、1μmol)及びPBS(5μL)中のアルキニル化アフィボディ(22)(50μg、3.57nmol)と混合した。Glaser,M.,and Årstad,E.(2007),“Click Labeling with 2−[18F]fluoroethylazide for Positron Emission Tomography”Bioconj.Chem.18,989−993(その記載内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に記載されたようにして製造した2−[18F]フルオロエチルアジド(11)(264μCi、9.8MBq)をMeCN(20μl)に溶解して添加した後、混合物を60℃で30分間加熱した。2−[18F]フルオロエチルアジド(11)による標識後、反応混合物のHPLC分析は、アフィボディ(27)のUV信号と共溶出する放射能ピークを示した。
【0083】
分取HPLCによる精製は次のような条件下で行った。勾配:15分で5〜80%溶媒B(ただし、A=H2O/0.1%TFA及びB=MeCN/0.1%TFA)、流量:1mL/分、カラム:Luna 3μm C18(2)(Phenomenex),50x4.6mm、検出:UV 280nm。図1は、非最適化系の反応混合物のHPLC分析結果であって、18Fクリック標識Anti−Her2アフィボディ(27)を示している(a,放射能チャネル、b,280nmでのUVチャネル)。
【0084】
本発明は、その技術思想又は本質的特性から逸脱することなく、他の特定の形態で実施することができる。したがって、前述の実施形態はすべての点において本明細書中に記載した本発明を限定するのではなく例示的なものと見なすべきである。したがって、本発明の技術的範囲は前述の記載ではなく添付の特許請求の範囲によって示されており、特許請求の範囲の意味及びそれの同等性の範囲内に含まれるすべての変更がその中に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子上にフッ素原子を導入するための方法であって、
(i)チオール反応性末端及びアジド又はアルキン反応性末端を含むリンカーを用意する段階、
(ii)リンカーのチオール反応性末端を、1以上のチオール基又はその反応性誘導体を含む生体分子と反応させる段階、並びに
(iii)次いでリンカーのアジド又はアルキン反応性末端をフッ素置換アジド又はアルキン基と反応させる段階
を含んでなる方法。
【請求項2】
生体分子が50を超えるアミノ酸残基を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
生体分子がアフィボディである、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
チオール反応性末端が、マレイミド基、ハロ脂肪族基、ハロ芳香族基、ハロ脂環式基、(ハロアセチル)アルキル基、(ハロアセチル)シクロアルキル基、(ハロアセチル)アリール基、ビニルスルホン基、アクリロイル基、エポキシ基、アジリジン基、及びチオール基とチオール交換反応を行い得るジスルフィド基から選択される、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
1以上のチオール基がシステイン残基又はチオール含有非天然アミノ酸を含む、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
リンカーのチオール反応性末端がマレイミド基である、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
生体分子の反応性誘導体が、生体分子を還元剤で処理することで製造される、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
リンカーが下記のものから選択される、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の方法。
【化1】

【請求項9】
リンカーが、アミン化合物をカルボン酸又は活性化エステル化合物と反応させてリンカーを生成させることを含んでなる方法であって、アミン化合物がアジド又はアルキン反応性官能基を含みかつカルボン酸又は活性化エステル化合物がチオール反応性官能基を含む方法によって製造される、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
フッ素置換アジド又はアルキンが18F置換アジド又はアルキン或いは19F置換アジド又はアルキン、好ましくは18F置換アジド又はアルキンからなる、請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
生体分子上にフッ素原子を導入するための方法であって、
(i)Mal−アルキン二官能性リンカーのチオール反応性末端を、1以上のチオール基を含む生体分子と反応させる段階、及び
(ii)次いでアルキン基をフッ素置換アジド基と反応させる段階
を含んでなる方法。
【請求項12】
生体分子上にフッ素原子を導入するための方法であって、
(i)Mal−アジド二官能性リンカーのチオール反応性末端を、1以上のチオール基を含む生体分子と反応させる段階、及び
(ii)次いでアジド基をフッ素置換アルキン基と反応させる段階
を含んでなる方法。
【請求項13】
フッ素置換アジド基が18F置換アジド基又は19F置換アジド基、好ましくは18F置換アジド基からなる、請求項11記載の方法。
【請求項14】
フッ素置換アルキン基が18F置換アルキン基又は19F置換アルキン基、好ましくは18F置換アルキン基からなる、請求項12記載の方法。
【請求項15】
(i)1以上のチオール基を含む生体分子及び(ii)リンカーから導かれる構造単位を含んでなるバイオコンジュゲートであって、リンカーは、アジド又はアルキン反応性官能基を含むアミン化合物を、チオール反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステルと反応させることを含んでなる方法によって製造される、バイオコンジュゲート。
【請求項16】
活性化エステルが構造L−M−COR2(式中、Lはチオール反応性官能基又はその保護誘導体であり、Mは二価連結単位であり、R2はOH又は活性化基である。)を有する、請求項15記載のバイオコンジュゲート。
【請求項17】
アミン化合物が構造G−J−R1(式中、Gはアミンであり、Jは二価連結単位であり、R1はアジド又はアルキン反応性官能基である。)を有する、請求項15記載のバイオコンジュゲート。
【請求項18】
生体分子がアフィボディである、請求項15記載のバイオコンジュゲート。
【請求項19】
連結単位が、アジド又はアルキン反応性官能基を含むアミン化合物を、チオール反応性官能基を含むカルボン酸又は活性化エステル化合物と反応させことを含んでなる方法によって製造される、請求項17記載のバイオコンジュゲート。
【請求項20】
式L−M−CO−NH(R1)−J−Gを有するリンカー組成物。
(式中、
Lはチオール反応性官能基であり、
M及びJは二価連結単位であり、
1はH、脂肪族基、芳香族基又は脂環式基であり、
Gはアジド又はアルキン反応性官能基である。)
【請求項21】
リンカーが下記のものから選択される、請求項21記載のリンカー組成物。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−508194(P2011−508194A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538605(P2010−538605)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067413
【国際公開番号】WO2009/080561
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【出願人】(504000591)ハマースミス・イメイネット・リミテッド (26)
【氏名又は名称原語表記】Hammersmith Imanet Ltd
【Fターム(参考)】