説明

生体分析用デバイスおよびそれを用いた血液分離方法

【課題】少量の血液に含まれる最大量の血漿成分を血球成分が混入することなく採取することができる生体分析用デバイスを提供する。
【解決手段】供給流路(16)から供給された血液を貯留する血液貯留部(5)と、回転中心(2)に対して血液貯留部(5)の外周側に配置され内部が血液分離壁(14)により血漿貯留部(15)と血球貯留部(9)に分けられた血液分離部(7)と、血液貯留部(5)と血液分離部(7)を連結する血液流路(17)と、血液分離部(7)にサイフォン流路(12a)を介して接続された血漿計量部(12)と、回転中心(2)に対して血球貯留部(9)より外周側に配置され血漿計量部(12)に接続された試薬反応部(11)とを備えたことを特徴とし、回転させて血液を遠心分離した後に、血漿計量部(12)にて血漿成分のみを計量採取できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分析用デバイスに試料液をセットして分析装置本体にセットし、分析装置本体が生体分析用デバイスから前記試料液の成分を自動で読み取る分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生物学的流体を光学的に分析する方法として液体流路を形成したマイクロデバイスを用いて分析する方法が知られている。マイクロデバイスは回転分析装置を使って流体を制御することが可能であり、遠心力を利用して試料の計量、細胞質材料の分離、分離された流体の移送分配等を行うことができるため、種々の生物化学的な分析を行うことが可能である。
【0003】
遠心力を利用して試料を計量する分析方法として特許文献1,特許文献2,特許文献3を挙げることができる。
図11は特許文献1の技術を示している。
【0004】
これは、生体分析用デバイスの中心から周縁に向けて、分析前に希釈すべき液体を収容する中央収容部31と、計量室32及び溢流室33と、混合室34と、測定セル35とを備え、計量室32が溢流室33とほぼ並行に配置され、且つ供給口36及び溢流口37以外に供給口36と対向する計量室壁面に開口38が設けられており、この開口38が常時開放されると共に、供給口36及び溢流口37より遥かに小さい断面を有している。
【0005】
この構成によると、計量室32への充填が高速で実施され、且つその溢流が直ちに除去される。液体は計量室32が液体で満たされ始めるとすぐにこの室から流出し始める。そのため、“流入口断面積”対“流出口断面積”の比の関数たる“供給時間”対“流出口”からの流出時間の比を小さくできることから、測定に正確さが与えられる。
【0006】
図12は特許文献2の技術を示している。
この生体分析用デバイスは、流体室41と、流体室41に連結されると共に流体室41に対して半径方向の外方に配置された計量室42と、計量室42に連結された溢流室43と、計量室42に対して半径方向の外方に配置された受容室44と、計量室42から受容室44に液体を供給するための毛細管連結手段45とを有している。毛細管連結手段45は、毛細管構造のサイフォン46を有しており、サイフォン46の肘状屈曲部分が、生体分析用デバイスの中心から、計量室42の半径方向の最内方点とほぼ同じ距離になるように位置付けられることで、生体分析用デバイスの回転中は毛細管力が遠心力に比べて小さいため、液体/空気の界面は生体分析用デバイスの軸線と同じ軸線を有し、且つ生体分析用デバイスの中心から計量室42の半径方向の最内方点までの距離に等しい長さの半径を持つ回転円筒体の形状と合致して計量室42は充填され、過剰な液は溢流室43に流れ込む。生体分析用デバイスを止めると、計量室42内に充填された液が、毛細管力で毛細管連結手段45に流入し、再度回転させることでサイフォンが始動し、計量室42内に存在する液は受容室44に排出される。
【0007】
図13は特許文献3の技術を示している。
この生体分析用デバイスは、内周から外周方向に向かって外周側が扇状に形成された貯留部51と、血球収容部52を備え、血球収容部52と貯留部51を接続する部分53は、凸形状になっており、遠心分離によって流入した血球成分が貯留部51に逆流しないようになっている。さらに、貯留部51の側面には、サイフォン形状の出力流路54が連結され、出力流路54から先は、次の操作領域へ操作後の試料液を供給できる構成である。供給流路55を介して原血液を貯留部51に供給し、供給された血液は遠心力によって比重の重い血球成分が血球収容部52に収容される。おおよそ分離完了の状態で生体分析用デバイスの回転数を下げることにより、貯留部51に連結された出力流路54内の溶液にかかる毛細管力と遠心力のバランスが逆転し、遠心分離によって貯留部51に残留した血漿・血清成分が出力流路54を介して次の操作領域へと排出される。
【特許文献1】特開昭61−167469号公報
【特許文献2】特表平5−508709号公報
【特許文献3】特開2005−345160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図11や図12に示した従来の構成では、生体分析用デバイスが回転中は、遠心力が液体と計量室壁面との間に働く表面張力より大きいため、溢流口の開口位置で液面が釣り合って所定の量を計量できているが、次工程に移るために回転を減速あるいは停止させた場合に、液体は遠心力から開放されると同時に液体と溢流口壁面の界面で表面張力が働き出し、その表面張力によって液体は溢流口の壁面を伝って溢流室に流出してしまい、精密な計量ができない。また、液体の物性値の違いによって流出する量がばらつくため、分析する液体ごとに計量室の大きさを変える必要がある。
【0009】
さらに、図13に示した従来の構成では、比重の違いによる遠心分離は可能であるが、血液の導入される貯留部に直接に毛細管が連結される構造をとっているため、分離前の毛細管内に入ってしまった血球がそのまま毛細管内に残留し採取したい血清・血漿の中に血球が混入する可能性がある。
【0010】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、少量の血液から血球を混入させることなく必要量の血漿成分のみを正確に採取できる生体分析用デバイスおよびそれを用いた血液分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1記載の生体分析用デバイスは、回転中心を持ち回転自在に構成された生体分析用デバイスであって、試料液としての血液を採取する供給流路と、前記供給流路から供給された前記血液を貯留する血液貯留部と、前記回転中心に対して前記血液貯留部の外周側に配置され内部が血液分離壁により血漿貯留部と血球貯留部に分けられた血液分離部と、前記血液貯留部と前記血液分離部を連結する血液流路と、前記血液分離部にU字型形状のサイフォン流路を介して接続された血漿計量部と、前記回転中心に対して前記血球貯留部より外周側に配置され前記血漿計量部に接続された試薬反応部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2記載の生体分析用デバイスは、請求項1において、前記血液分離部を前記血液分離壁により前記回転中心に対して半径方向内側の前記血漿貯留部と半径方向外側の前記血球貯留部に分割し、前記血液分離壁の一部に前記血漿貯留部と前記血球貯留部を連結するように通気流路が形成され、前記血液分離壁の一部に前記血漿貯留部と前記血球貯留部を連結し端部が前記血漿貯留部と前記血球貯留部に突出しかつ前記サイフォン流路を介して前記血漿計量部に連通した血漿採取毛細管が形成されたことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3記載の生体分析用デバイスは、請求項2において、前記血液分離壁は、前記血球貯留部の容量が、前記血液貯留部に注入した血液量の65%〜70%になるように形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4記載の生体分析用デバイスは、請求項2において、前記血液分離壁は、前記血球貯留部に接する壁面が回転中心からの距離が一定の円弧面で形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5記載の生体分析用デバイスは、請求項2において、前記血液分離壁は、前記血漿貯留部に接する壁面の回転中心からの距離が一定あるいは前記血漿採取毛細管に向かって回転中心からの距離が長くなるように形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項6記載の生体分析用デバイスは、請求項1において、前記血液流路の深さは、前記血液分離部の深さよりも浅いことを特徴とする。
本発明の請求項7記載の生体分析用デバイスは、請求項2において、前記血漿採取毛細管の深さは、前記血漿計量部の深さよりも深いことを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項8記載の生体分析用デバイスは、請求項1において、前記血漿計量部の深さは、前記試薬反応部の深さよりも浅いことを特徴とする。
本発明の請求項9記載の生体分析用デバイスは、請求項1において、前記血漿計量部に連通する前記サイフォン流路と前記血液分離部との連結部が、前記血液分離部の内部で遠心力によって分離された血球成分の界面の位置より、前記回転中心に対して内側に位置していることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項10記載の血液分離方法は、請求項1に記載の生体分析用デバイスに分析すべき血液をセットし、前記生体分析用デバイスを回転して発生する遠心力と毛細管力により遠心分離するに際し、第1の回転速度にて、前記生体分析用デバイスの血液貯留部の血液を血液分離部に移送し、かつ血球成分と血漿成分に分離し、次に、第2の回転速度に減速或いは停止して、前記血漿貯留部から血漿成分のみを前記サイフォン流路に移送し、段階的に回転速度を減速し血漿成分のみを前記血漿計量部に採取することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項11記載の血液分離方法は、請求項10において、前記第1の回転速度は、前記血液分離部に移送された血液にかかる重力が1000G以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項12記載の血液分離方法は、請求項10において、前記第1の回転速度は、前記血漿採取毛細管にて前記血漿成分に働く遠心力よりも毛細管力のほうが弱いことを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項13記載の血液分離方法は、請求項10において、前記第2の回転速度は、前記血漿採取毛細管にて前記血漿成分に働く遠心力よりも毛細管力のほうが強いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の生体分析用デバイスおよびそれを用いた遠心分離方法によれば、少量の血液に含まれる最大量の血漿成分を血球成分が混入することなく採取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の生体分析用デバイスおよびそれを用いた血液分離方法を具体的な実施の形態に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態における生体分析用デバイスを示す。
【0024】
この生体分析用デバイス1は、円形の基板の表面に深さの異なる複数の凹部によって形成された毛細管流路と貯留部と分離部などから形成されるマイクロチャネル6によって形成されるベース基板3と、ベース基板3に形成されたマイクロチャネル6を覆うように接合されるカバー基板4によって構成されている。
【0025】
ベース基板3に形成されるマイクロチャネル6は、射出成形あるいは切削により作製された合成樹脂材料によって形成されている。
分析するための試料液である血液を、カバー基板4に形成された供給流路16から導入し、その血液をベース基板3に形成された血液分離部7に移送し、遠心分離した後、遠心力を停止させることによって、血漿計量部12に毛細管力が働くことによって、血漿成分のみを採取する。さらに、再度遠心力を発生させて、試薬反応部11に移送することにより、血漿と試薬が反応し、反応液の検査を行うことができる。
【0026】
本発明では、検査すべき血漿と試薬を反応させた後、試薬反応部11に外部から透過光を照射してその反応状態を光学的に分析する。測定時には、試薬反応部11に充填された反応液が、反応の割合で吸光度を変化させるため、光源部から試薬反応部11に透過光を照射し、受光部にてその透過光の光量を測定することで、反応液を透過した光量の変化を測定することができるため、試料液の特性を分析することができる。
【0027】
次にベース基板3の構成について具体的に説明する。
本発明におけるベース基板3は射出成型あるいは切削された基板で構成されている。ベース基板3の厚みは、1mm〜5mmで形成しているが、特に制限は無く、マイクロチャネル6を形成可能な厚みであればよい。ベース基板3の形状については、生体分析用デバイス1を単独で回転させる際には円形の形状が好ましいが、生体分析用デバイス1を外部のアタッチメントに装着するような構成にして回転させる場合は、特に限定する必要が無く、用途目的に応じた形状、例えば、四角形、三角形、扇形、その他複雑な形状の成形物などの形状が可能である。
【0028】
ベース基板3とカバー基板4の材料として、易成形性、高生産性、低価格の面から合成樹脂を使用しているが、ガラス、シリコンウェハー、金属、セラミックなど接合できる材料であれば特に制限はない。
【0029】
ベース基板3には、マイクロチャネル6内の粘性抵抗を減らし流体移動を促進するために壁面の一部或いは全ての壁面に親水性処理を行っているが、ガラス等の親水性材料を用いたり、成形時に界面活性剤、親水性ポリマー、シリカゲルの如き親性粉末などの親水化剤を添加させて材料表面に親水性を付与させたりしてもかまわない。親水性処理方法としては、プラズマ、コロナ、オゾン、フッ素等の活性ガスを用いた表面処理方法や界面活性剤による表面処理が挙げられる。ここで、親水性とは水との接触角が90°未満のことをいい、より好ましくは接触角40°未満である。
【0030】
この実施の形態ではベース基板3とカバー基板4を超音波溶着を用いて接合しているが、使用する材料に応じて粘着性接合シートや陽極接合やレーザー接合などの接合方法で接合してもかまわない。
【0031】
次に生体分析用デバイス1のマイクロチャネル6の構成および血液の注入および移送プロセスについて説明する。
図1に示すように、マイクロチャネル6は、ベース基板3の回転中心2の近傍からベース基板3の外周方向に向かって形成されている。具体的には、回転中心2に最も接近した位置に配置された血液を注入するための血液貯留部5と、血液貯留部5より外周側に配置された血液分離部7と、血液貯留部5と血液分離部7を連結しかつ毛細管で形成されている血液流路17と、血液分離部7に隣接しかつ血液分離部7の側壁にU字型形状のサイフォン流路12aを介して接続された血漿計量部12と、血漿計量部12に連結しかつ血漿計量部12より回転中心2の方向に配置された空気孔13と、血漿計量部12に連結しかつ血漿計量部12より外周側に配置された試薬反応部11で構成されている。
【0032】
さらに、血液分離部7の内部は、円周方向に形成された血液分離壁14によって回転中心2の側と外周の側とに分割されており、回転中心2の側が血漿貯留部15となり、外周側が血球貯留部9になるように形成されている。
【0033】
また、血液分離壁14には、血漿貯留部15と血球貯留部9を連結するように血漿採取毛細管10と通気流路8が形成されている。さらに血漿採取毛細管10は、端部が血漿貯留部15と血球貯留部9に突出しかつサイフォン流路12aを介して血漿計量部12に連通している。血球貯留部9に突出した血漿採取毛細管10の端部は、血球貯留部9の底部に達している。
【0034】
また、血液分離壁14は、血球貯留部9の容量が、血液貯留部5に注入した血液量の65%〜70%になるように形成されている。さらに、この血液分離壁14の血球貯留部9に接する壁面14aは、回転中心2からの距離が一定の円弧面で形成されている。血液分離壁14の血漿貯留部15に接する壁面14bは、血漿採取毛細管10に向かって回転中心2からの距離が長くなるように形成されている。
【0035】
ベース基板3を覆っているカバー基板4は、ベース基板3と同様の外形であり、回転中心2の付近に形成された供給流路16から、ベース基板3の血液貯留部5に血液を注入できるようになっている。
【0036】
血液の注入から試薬反応部11までの移送プロセスを構成と共に説明する。
先ず、図2に示すように血液21は、ピペット22などで計量されて供給流路16に注入される。本実施例では、ピペット22で10μlの血液を計量し注入した。
【0037】
ピペット22から注入された血液21は、血液貯留部5に注入され満たされる。その際に、血液貯留部5に注入された血液21は、血液貯留部5と血液分離部7を結ぶ血液流路17にも進入する。しかしながら、血液21は血液流路17と血液分離部7の接続部23で停止する。
【0038】
図2で示したA−AA断面を図3に示す。
血液流路17の深さは毛細管力が働くように浅い隙間で形成されており、血液分離部7の深さは血液流路17よりも深くて毛細管力が作用しない深さに形成されている。
【0039】
これは、血液分離部7に血液21が注入された際、注入された血液21が血液貯留部5に注入されると共に、毛細管力によって血液流路17に進入するが、血液流路17より血液分離部7の深さを深くしていることにより、血液流路17と血液分離部7の接続部23で毛細管力が遮断され、表面張力により血液21の界面が保持されることにより、血液分離部7に血液が進入するのを防止するためである。
【0040】
血液貯留部5の深さについては、所望量の血液21を保持できる体積を満たしていればよく、どのような深さでもよい。
ここで毛細管力とは、一般的に細管の内径寸法が2.5mm以下である場合に影響力が大きくなると言われており、壁面と液体のなす接触角と気液界面の間に働く表面張力の間のバランスを保とうとする力によって毛細管内部の液体が移動する力である。
【0041】
次に、血液21の遠心分離について説明する。
図4に示すように、回転中心2を軸に生体分析用デバイス1を矢印方向に第1の回転速度で回転させることによって遠心力を発生させる。その際、血液流路17と血液分離部7の接続部23の位置で保持されていた血液の界面に働く表面張力よりも強い遠心力を発生させることにより、注入された血液21は、血液分離部7に移送される。
【0042】
血液分離部7に移送された血液21は、血漿貯留部15を通って血液分離壁14の両端に形成された通気流路8あるは血漿採取毛細管10を通って血球貯留部9に移送される。
より具体的には、このときの生体分析用デバイス1の回転速度である第1の回転速度は、血液分離部7に移送された血液にかかる重力が1000G以上になるように設定し、血漿採取毛細管10において血漿成分27に働く遠心力よりも毛細管力のほうが弱い。本実施例では、第1の回転速度を5000rpmとした。
【0043】
血球貯留部9に移送された血液21は、最初に血球貯留部9を満たし、血漿採取毛細管10と通気流路8を満たしながら血漿貯留部15に血液21の界面を移動させる。移送された血液21は、血液分離部7に連結した血漿計量部12にも進入するが、血漿計量部12に形成されたサイフォン頂点25の回転中心2からの距離r1が、回転中の血液21の界面の回転中心2からの距離r2よりも高くなるように形成することにより、回転中の血液21は血漿計量部12や試薬反応部11には進入しない。
【0044】
さらに、第1の回転速度を保持した状態にすることで、図5に示すように、血液21中の血球成分26は遠心方向つまり血液分離部7の外周方向に移動し、血漿成分27は回転中心2に近い方向に追いやられる。更に詳しくは、血液21の成分は、主にタンパク質、コレステロールを含む血漿成分27と白血球や赤血球や血小板を含む血球成分26とに分けられ、血漿成分27より血球成分26の方が、比重が高く、血漿成分27に比べて1.2〜1.3倍の比重を持っている。そのため、比重の重い血球成分26は、遠心力によって生体分析用デバイス1の外周方向に移動する。
【0045】
さらに第1の回転速度を継続することで、図5に示すように血漿成分27が血漿貯留部15に、血球成分26が血球貯留部9に分離される。
このときの血球成分26と血漿成分27の界面は、ヘマトクリット値が最大の場合(ここでは、一般的な人血のヘマトクリット値の最大値としてHct=60%とした)でも血漿計量部12に進入しないように設計する必要がある。これは、血漿計量部12に血球成分26が進入している場合は、毛細管力による血漿計量の際に、血漿計量部12と血液分離部7の連結部で流動性が高くなり、計量すべき血漿成分27に血球成分26が混入してしまう可能性が高くなるためである。
【0046】
図6はヘマトクリット値(Hct)の異なる血液(Hct=38%,51%、60%)に対する血漿成分27の分離率と分離時間の関係を示す。回転数は、血液21に1500Gの遠心力が働く回転数とした。
【0047】
この結果によると、ヘマトクリット値の低い方が、血漿成分27の分離率が高く、ヘマトクリット値が高い場合は分離率を80%以上にするには60秒以上の遠心分離時間を要することが分かる。人血のヘマトクリット値を30〜60%と考えると、すべての血液で確実に遠心分離するためには、全血分離時間を60秒以上の場合、分離率は80%として血漿採取毛細管112と血液分離部7の設計を行う必要がある。
【0048】
この実施の形態では、ヘマトクリット値が60%の血液を遠心分離した際の回転中心2から血漿成分27と血球成分26の界面の距離r4と、血漿計量部12に連通したサイフォン流路12aと血液分離部7との連結部28の回転中心2からの距離r3との関係が、r3<r4になるように形成した。
【0049】
次に、血漿成分27の計量採取について説明する。
図7に示すように第2の回転速度に減速あるいは回転を止めて遠心力を弱めるあるいは遠心力が働かないようにすることでこれまで遠心力によって抑制されていた血漿計量部12の毛細管力が開放されることにより、遠心分離によって分離された血漿成分27のみが血漿計量部12に移送される。これは、流動性の高い血漿成分27の方が血漿計量部12に流入しやすく、逆に遠心分離によって分離された血球成分26は、血球重合することにより、粘性が高くなり流動性が非常に悪くなっているためである。このときの第2の回転速度は、血漿採取毛細管10で働く遠心力より毛細管力のほうが支配的になる回転速度である。本実施例では、第2の回転速度を600rpmとした。図8(a)(b)に図7の断面B−BBと断面C−CCの概略図を示す。図8(b)に示すように、血漿採取毛細管10の深さは、血漿計量部12の深さよりも深くなるように形成されている。
【0050】
また、血漿貯留部109の深さは、血漿採取毛細管10の深さよりも深くなるように形成されている。
さらに、血漿採取毛細管10と血漿計量部12の深さは、共に毛細管力が働く必要があるため、深さが2.5mm以下になるように形成されている。これは、毛細管力は、深さが浅くなる方が強いことを利用して、最初に、血漿貯留部15で分離された血漿成分27が血漿計量部12に移送され、その後、血漿採取毛細管10の血漿成分27が血漿計量部12に移送されることにより、血漿計量部12に血球成分26が混入することを防ぎ、さらには血液分離部7に残留する血漿成分27のロスを削減することが可能となる。
【0051】
血漿計量部12によって採取された血漿成分27は、血漿計量部12と空気孔13の連結部および血漿計量部12と試薬反応部11の連結部で停止して計量される。これは、図8(a)に示すように、空気孔13と試薬反応部11の深さは、血漿計量部12の深さよりも深く形成されていることから、計量された血漿成分27が、空気孔13の連結部と試薬反応部11の連結部で毛細管力が遮断されて停止するようになっているためである。
【0052】
次に、試薬反応について説明する。
図9に示すように、生体分析用デバイス1を回転させて遠心力を発生させることにより、血漿計量部12にて計量された血漿成分27が、試薬反応部11に移送される。その際に、試薬反応部11に配置された試薬24と血漿成分27が触れ合うことにより、反応が始まる。試薬24と血漿成分27の反応性が悪い場合は、図10に示すように生体分析用デバイス1を揺動させることにより、試薬24の反応性を促進させることができる。揺動は、生体分析用デバイス1の回転方向を繰り返し変更することで行われる。具体的には、図10に示すように、マイクロチャネル6が6時の方向にある状態で、時計回り29と反時計回り30の方向に20°ずつ交互に移動させることで実現できる。その後、反応液を光学的な方法で測定することで分析を行うことができる。
【0053】
以上のように、実施の形態の生体分析用デバイス1においては、このようなマイクロチャネル6を構成することで、少量の血液から血球を混入させることなく必要量血漿成分27を採取することが可能になる。また、検体となる血液の量を10μl(米粒大の量)としたことにより、検査すべき患者への負担軽減や、生体分析用デバイスの小型化が可能となる。
【0054】
上記の実施の形態では、血液分離壁14の血漿貯留部15に接する壁面14bを、血漿採取毛細管10に向かって回転中心2からの距離が長くなるように形成したが、回転中心2からの距離が一定の円弧面で形成することも出来る。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明にかかる生体分析用デバイスおよびそれを用いた遠心分離方法は、少量の血液から血球を混入させることなく必要量血漿成分のみを採取することができることから、診療所等で使用される迅速検査装置(POCT:Point of care testing)の検査デバイスとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態における生体分析用デバイスの一部切り欠きの拡大斜視図
【図2】同実施の形態における血液注入プロセスの概略図
【図3】同実施の形態における図2のA−AA断面図
【図4】同実施の形態における遠心移送プロセスの第1の概略図
【図5】同実施の形態における遠心移送プロセスの第2の概略図
【図6】同実施の形態における血液の分離率と血液分離時間の関係図
【図7】同実施の形態における毛細管移送プロセスの概略図
【図8】同実施の形態における図7のB−BB断面図とC−CC断面図
【図9】同実施の形態における反応プロセスの第1の概略図
【図10】同実施の形態における反応プロセスの第2の概略図
【図11】特許文献1の生体分析用デバイスの平面図
【図12】特許文献2の生体分析用デバイスの平面図
【図13】特許文献3の生体分析用デバイスの平面図
【符号の説明】
【0057】
1 生体分析用デバイス
2 回転中心
3 ベース基板
4 カバー基板
5 血液貯留部
6 マイクロチャネル
7 血液分離部
8 通気流路
9 血球貯留部
10 血漿採取毛細管
11 試薬反応部
12 血漿計量部
12a サイフォン流路
13 空気孔
14 血液分離壁
14a 血液分離壁14の血球貯留部9に接する壁面
14b 血液分離壁14の血漿貯留部15に接する壁面
15 血漿貯留部
16 供給流路
17 血液流路
21 血液
22 ピペット
23 接続部
24 試薬
25 サイフォン頂点
26 血球成分
27 血漿成分
29 時計回り
30 反時計回り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中心を持ち回転自在に構成された生体分析用デバイスであって、
試料液としての血液を採取する供給流路と、
前記供給流路から供給された前記血液を貯留する血液貯留部と、
前記回転中心に対して前記血液貯留部の外周側に配置され内部が血液分離壁により血漿貯留部と血球貯留部に分けられた血液分離部と、
前記血液貯留部と前記血液分離部を連結する血液流路と、
前記血液分離部にU字型形状のサイフォン流路を介して接続された血漿計量部と、
前記回転中心に対して前記血球貯留部より外周側に配置され前記血漿計量部に接続された試薬反応部と、
を備えた生体分析用デバイス。
【請求項2】
前記血液分離部を前記血液分離壁により前記回転中心に対して半径方向内側の前記血漿貯留部と半径方向外側の前記血球貯留部に分割し、
前記血液分離壁の一部に前記血漿貯留部と前記血球貯留部を連結するように通気流路が形成され、
前記血液分離壁の一部に前記血漿貯留部と前記血球貯留部を連結し端部が前記血漿貯留部と前記血球貯留部に突出しかつ前記サイフォン流路を介して前記血漿計量部に連通した血漿採取毛細管が形成された
請求項1記載の生体分析用デバイス。
【請求項3】
前記血液分離壁は、前記血球貯留部の容量が、前記血液貯留部に注入した血液量の65%〜70%になるように形成されている
請求項2記載の生体分析用デバイス。
【請求項4】
前記血液分離壁は、前記血球貯留部に接する壁面が回転中心からの距離が一定の円弧面で形成されている
請求項2記載の生体分析用デバイス。
【請求項5】
前記血液分離壁は、前記血漿貯留部に接する壁面の回転中心からの距離が一定あるいは前記血漿採取毛細管に向かって回転中心からの距離が長くなるように形成されている
請求項2記載の生体分析用デバイス。
【請求項6】
前記血液流路の深さは、前記血液分離部の深さよりも浅い
請求項1記載の生体分析用デバイス。
【請求項7】
前記血漿採取毛細管の深さは、前記血漿計量部の深さよりも深い
請求項2記載の生体分析用デバイス。
【請求項8】
前記血漿計量部の深さは、前記試薬反応部の深さよりも浅い
請求項1記載の生体分析用デバイス。
【請求項9】
前記血漿計量部に連通する前記サイフォン流路と前記血液分離部との連結部が、前記血液分離部の内部で遠心力によって分離された血球成分の界面の位置より、前記回転中心に対して内側に位置している
請求項1記載の生体分析用デバイス。
【請求項10】
請求項1に記載の生体分析用デバイスに分析すべき血液をセットし、前記生体分析用デバイスを回転して発生する遠心力と毛細管力により遠心分離するに際し、
第1の回転速度にて、前記生体分析用デバイスの血液貯留部の血液を血液分離部に移送し、かつ血球成分と血漿成分に分離し、
次に、第2の回転速度に減速或いは停止して、前記血漿貯留部から血漿成分のみを前記サイフォン流路に移送し、段階的に回転速度を減速し血漿成分のみを前記血漿計量部に採取する
血液分離方法。
【請求項11】
前記第1の回転速度は、前記血液分離部に移送された血液にかかる重力が1000G以上である
請求項10記載の血液分離方法。
【請求項12】
前記第1の回転速度は、前記血漿採取毛細管にて前記血漿成分に働く遠心力よりも毛細管力のほうが弱い
請求項10記載の血液分離方法。
【請求項13】
前記第2の回転速度は、前記血漿採取毛細管にて前記血漿成分に働く遠心力よりも毛細管力のほうが強い
請求項10記載の血液分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−150733(P2009−150733A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328093(P2007−328093)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】